タイトル: | 公開特許公報(A)_アラントインの分析方法 |
出願番号: | 2008097638 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | G01N 30/88,G01N 30/26 |
丸ノ内 隆弘 JP 2009250730 公開特許公報(A) 20091029 2008097638 20080404 アラントインの分析方法 大正製薬株式会社 000002819 丸ノ内 隆弘 G01N 30/88 20060101AFI20091002BHJP G01N 30/26 20060101ALI20091002BHJP JPG01N30/88 CG01N30/26 AG01N30/88 101K 4 OL 8 本発明は、高極性化合物であるアラントインの親水性相互作用クロマトグラフィーによる分析方法に関するものである。 従来、アラントインは逆相の高速液体クロマトグラフィー(以下、高速液体クロマトグラフィーを「HPLC」と記す。)を用いて分析されていた。しかし、アラントインは非常に極性の高い化合物であるため、化学結合型充填剤であるオクタデシルシリル(ODS)カラムには保持されない。そのため、この系でアミノ酸のような親水性成分と分離することが困難であった。 アラントインは、例えば市販の点眼剤に配合されているが、市販の点眼剤にはアミノ酸をはじめとして化学的性質が異なる多くの成分が配合されている。そのため、汎用の化学結合型充填剤と逆相HPLCを組み合わせた系を用いてアラントインと点眼剤中のその他の各成分を分離する高精度の分析は困難であった。 また、高極性化合物であるアラントインの分析法としては、アラントインの移動相中への溶解性から、移動相が有機溶媒のみからなる順相HPLC条件は好ましくない。 一方、逆相HPLC条件及び順相HPLC条件とは異なる分離モードである親水性相互作用クロマトグラフィー(Hydrophilic Interaction Chromatography、以下適宜、「HILIC」と記す。)は医薬品、化粧品などの有効成分として汎用されているアスパラギン酸などのアミノ酸類、ペプチド類といった高極性化合物の分析に用いられている。 HILICについての文献では、「HILICとは親水性固定相と大部分が有機溶媒である疎水的な移動相との組合せによるクロマトグラフィーである」と定義している。一般的に順相液体クロマトグラフィーでは非極性の溶媒のみを移動相に用いるが、HILICでは移動相に30%程度までの水を添加する。非特許文献1中では、固定相にはシリカゲルに2-hydroxyethyl asparamideを共有結合させた充填剤を用い、移動相にアセトニトリル比率70%以上の水溶液を用い、アミノ酸、糖、ペプチド、オリゴDNAを分離した例が開示されている(非特許文献1参照)。 ここに、アラントインは親水性相互作用クロマトグラフィーを用いることで分析はされていた(非特許文献2参照)。 そして、上述の他にもHILICでアラントインの分析を試みた事例はあるが(非特許文献3参照)、医薬品、化粧品分野で求められる精度の高い分析はできていなかった。 なお、逆相HPLCでは、塩基性ホウ酸塩によって移動相の液性を塩基性にして目的の化合物を分離することが知られている(特許文献1参照)が、HILICにおいては分離成分の保持は液性に依存しないため通常は移動相に塩基性ホウ酸塩を添加はしないし、ましてホウ酸を添加することは思いもよらなかった。 また、HILICにおいて紫外吸光度検出器(以下適宜、「UV検出器」と記す。)を用いた分析事例は知られている(非特許文献1及び4参照)。特開平11-189551号公報Andrew J.Alpert J.Chromatogr. 499 (1990) 177-196.Yusuke Iwasaki et.al. BUNSEKI KAGAKU 54 (2005) 135-142.Ph.Dallet、L. Labat、E.Kummer、J.P. Dubost J.Chromatogr.B 742 (2000) 447-452.Jifeng Zhang, Daniel I.C. Wang J.Chromatogr.B 712 (1998) 73-82. アラントインは医薬品、化粧品などの製剤中で用いられることが多いが、製剤中にはアラントイン以外の主成分及び種々の添加剤が含有されており、本発明者らはHILICを用いてアラントインを分析する場合は、報告例のある分析条件では、ピーク分離も不完全で精度の良い分析ができないという問題点を見出した。 よって本発明は、HILICを用いてアラントインを精度良く分析することを課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、意外にもHILICにおいて移動相にホウ酸を添加することで、高極性化合物であるアラントインを精度良く分析できることを見出し、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明は次のとおりである。(1)ホウ酸を含有する移動相を用いることを特徴とする親水性相互作用クロマトグラフィーによるアラントインの分析方法。(2)200nm〜220nmの波長の吸光度を指標としてアラントインを検出する(1)記載のアラントインの分析方法。(3)移動相中のホウ酸含有量が50mM〜200mMである(1)又は(2)記載のアラントインの分析方法。(4)移動相が、アセトニトリル、水及びホウ酸を含有し、アセトニトリルと水の配合比が7:3〜4:1であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載のアラントインの分析方法。 本発明により、医薬品、化粧品などに配合されているアラントインとHILICにおいて非極性溶媒に30%程度までの水を添加しただけの移動相組成では分離が達成されなかった他の成分との分離が達成され、精度良くかつ効率的に分析することが可能となった。 HILICにおけるHPLC分析時の流速、温度、ピーク位置特定などの分析条件の設定は、一般的なHPLCにおける分析条件設定手法に準じて分析条件の設定をすることができる。なお、分析方法とは、定性的分析、定量的分析を含む意味に用いる。 HILICに特徴的な分析条件について以下に述べる。 HILICに用いるカラムとはシリカゲル、グリセロール基、ポリオール基、アミノ基、アミド基、アスパラギン誘導体などの極性基を有する固定相を充填したカラムであれば良く、HILIC用の市販カラムを用いることができる。 本発明のHILICにおける移動相とは極性溶媒と有機溶媒を混合した移動相でホウ酸を含有しているものである。ホウ酸を添加することでピークの分離が改善され、アラントインの良好な分析が達成されるからである。 本発明の移動相は、水系の極性溶媒を含む移動相でホウ酸を含有しているものが好ましく、ホウ酸を含有するアセトニトリル−水の系が特に好ましい。 本発明に用いる移動相において、アセトニトリルと水の配合比は7:3〜4:1であることが好ましい。配合比がこの範囲で保持時間の再現性が良好だからである。 移動相中のホウ酸濃度は50mM〜200mMが好ましい。この濃度範囲で保持時間の再現性が良好だからである。 分析対象であるアラントインとは、C4H6N4O3、分子量158.12、プリン体の代謝産物である。刺激性がなく粘膜保護作用などを有し点眼剤、化粧品などの有効成分として用いられる。アラントインはとくに分子内の電気的な偏りの大きい化合物であり高極性化合物に属する。 アラントインのピークの検出には、分析機器としては医薬品、化粧品などのHPLCによる分析で汎用されている紫外吸光度検出器(UV検出器)を用いることができる。アラントインの分析では、UV検出器の検出波長は200nm〜220nmである。 本発明によって、医薬品、化粧品などに含まれるアラントインでも精度良く、効率的に分析できる。分析に供されるサンプルが、医薬品、化粧品などに含まれる有効成分、例えばビタミン類、生薬、ミネラル、アミノ酸及びその塩類などの成分を含んでいる場合にこそ、本発明を用いる意義は大きい。同様に、分析サンプルは当該組成物の調製に通常用いられる甘味剤、矯味剤、pH調整剤、保存剤、抗酸化剤などを含んでいても良い。 以下に、実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。[装置] フォトダイオードアレイ検出器(PDA検出器、Waters2996、Waters製)(検出波長:210nm)を接続した一体型HPLC装置(Waters 2695、Waters製)を用いた。 カラムは、Atlantis HILIC シリカ (150 mm × 2.1 mm I.D.、3 μm、Waters製)を用いて分析した。 カラムに流量0.2mL/minで移動相を2時間程度通液することによってカラムを平衡化した後に分析を行った。 カラム温度は30℃、試料注入量は2μLとした。 すべてのデータは、Empower Software (Version 5.00.00.00、Waters製)にて解析を行った。[試薬及び試液] 標準物質アラントイン(99.3%)は川研ファインケミカル(Tokyo、Japan)より購入した。 移動相用のホウ酸は、特級の市販品を使用した。 移動相用の液体クロマトグラフ用アセトニトリルは、液体クロマトグラフ用の市販品を使用した。 分析に供した市販製剤Aの主薬成分は、メチル硫酸ネオスチグミン、0.002%:アミノエチルスルホン酸(タウリン)、0.5%:L−アスパラギン酸マグネシウム・カリウム、0.5%:塩酸ピリドキシン(VB6)、0.1%:グリチルリチン酸二カリウム、0.05%:マレイン酸クロルフェニラミン、0.02%:コンドロイチン硫酸ナトリウム、0.1%:アラントイン、0.1%である。 同様に、市販製剤Bの主薬成分は、メチル硫酸ネオスチグミン、0.002%:アラントイン、0.1%:アミノエチルスルホン酸(タウリン)、0.5%:L−アスパラギン酸カリウム、0.5%:塩酸ピリドキシン(VB6)、0.1%:酢酸d−α−トコフェロール(天然型ビタミンE)、0.05%である。[標準溶液] アラントインを105℃で4時間乾燥し、その約20mgを精密に量り、液体クロマトグラフ用アセトニトリル/水混液(7:3)に溶かし、正確に20mLとする。この液2mLを正確に加え、液体クロマトグラフ用アセトニトリル/水混液(7:3)を加えて正確に20mLとし、標準溶液とした。[試料溶液] 市販の製剤中のアラントイン2mg対応量を正確に量り、液体クロマトグラフ用アセトニトリル/水混液(7:3)を加え正確に20mLとし、試料溶液とする。[比較例1] 移動相に加える添加剤としてホウ酸のかわりに塩化アンモニウムを用いた場合の検討を行った。 移動相中の塩化アンモニウム濃度は、100、200、300mMとした。それぞれの場合に対してpHは5.0であった。 上述の計3条件に対して、移動相中のアセトニトリル濃度を70、75、80%としてアラントインの保持時間への影響などを確認した。 製剤Aでは他の成分がほぼ同じ保持時間に溶出し、ピークがほぼ完全に重なることが確認できた。今回調製した移動相のいずれにおいてもこの妨害を回避出来なかったことから、塩化アンモニウムを移動相に添加した場合は、HILICによる当該製剤中のアラントイン分析は困難であることが確認された。 代表的なクロマトグラムとして、移動相に液体クロマトグラフ用アセトニトリル/200mM塩化アンモニウム溶液混液 (4:1)を用いた際のクロマトグラムを図1に示す。[実施例1] 移動相としてアセトニトリルと水の混合液を用い、ホウ酸を添加した場合の分離条件の検討を行った。 移動相中のホウ酸濃度は、0、50、100、200、300mMとしたが、この濃度範囲でのpHは5.0であった。上述の計5条件に対して、移動相中のアセトニトリル濃度を60、65、70、75、80%としてアラントインの保持時間への影響などを確認した。 結果を表1及び図2に示す。 ホウ酸を使用した場合には、塩濃度の変化に関してもアラントインの保持に与える影響が少ないことが確認できた。配合他成分については塩濃度の影響を受けたため、溶出位置がそれぞれ移動し、表1に示すようにホウ酸濃度50mM−アセトニトリル75%、80%、ホウ酸濃度100mM−アセトニトリル75%、80%、ホウ酸濃度200mM−アセトニトリル70%で特異性が確保された。 中でも塩濃度が50mM、有機溶媒含量が80%のとき、最も良好な分離を示した。このときのアラントイン標準、サンプル製剤A、サンプル製剤B、サンプル製剤B(アラントイン抜き)のクロマトグラムを図3に示す。とくに、サンプル製剤Bではアラントイン溶出位置に妨害となるピークが検出されないことが確認できた。[分析法バリデーション] 本発明のHILICにおいて、移動相にホウ酸を添加することで、極性の非常に高い化合物であるアラントインを精度良く分析する方法について、分析方法が確立されていることを検証するため分析法バリデーション(分析法の検証)を実施した。 分析法バリデーションは、「第15改正 日本薬局方 参考情報 分析法バリデーション」、「平成7年7月20日 薬審755」、「平成9年10月28日 医薬審338」に基づいて試験内容を設定しており、以下に示した項目を検証することで分析方法として確立したものであることが検証できる。 まず、アラントイン標準溶液の直線性を濃度50〜150%の範囲で確認したところ、相関係数0.999以上の良好な直線が得られた(表2)。 更に、製剤Aのアラントイン抜き試料に、定量濃度の80、100、120%になるように各々アラントイン標準溶液を添加し(n=3)、回収率及び精度を確認した。その結果、回収率は98.7〜99.3%と良好な値が得られた。また、精度に関しても、RSD0.2〜0.7%であり良好な結果であるといえる(表2)。 本発明により、医薬品、ドリンク剤、飲料、点眼剤、軟膏剤、化粧品(化粧水、ローション、メイク落し)などの数々の有効成分及び添加剤を含んでいる製剤に配合されるアラントインを分析する場合の分離精度がとくに向上し、アラントインを精度良く分析できるようになったため、医薬品、化粧品などに含まれるアラントインの規格試験、品質試験などの効率化が期待される。塩化アンモニウムを含有した移動相によるHILICの分析クロマトグラムであり、縦軸にピーク強度、横軸に保持時間を示す。 左のクロマトグラムはアラントイン標準であり、アラントインは3.2分に溶出する 右のクロマトグラムはサンプル製剤Aであり、アラントインのピークは分離できていないホウ酸を含有した移動相条件の検討、縦軸にアラントインの保持時間、横軸に移動相組成を示す。ホウ酸を含有した移動相によるHILICの分析クロマトグラムであり、縦軸にピーク強度、横軸に保持時間を示す。 左端のクロマトグラムはアラントイン標準であり、アラントインのピークのみ確認できる 中央左のクロマトグラムはサンプル製剤Aであり、アラントインのピーク(3分に溶出)が分離されている 中央右のクロマトグラムはサンプル製剤Bであり、アラントインのピーク(3分に溶出)が分離されている 右端のクロマトグラムはサンプル製剤Bのアラントイン抜きであり、アラントインのピークは溶出位置に確認できない ホウ酸を含有する移動相を用いることを特徴とする親水性相互作用クロマトグラフィーによるアラントインの分析方法。 200nm〜220nmの波長の吸光度を指標としてアラントインを検出する請求項1記載のアラントインの分析方法。 移動相中のホウ酸含有量が50mM〜200mMである請求項1又は2記載のアラントインの分析方法。 移動相中に、アセトニトリル、水及びホウ酸を含有し、アセトニトリルと水の配合比が7:3〜4:1であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のアラントインの分析方法。 【課題】アラントインを、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)を用いて分析する方法を提供する。【解決手段】ホウ酸を含有する移動相を用いることを特徴とする親水性相互作用クロマトグラフィーによるアラントインの分析方法。【選択図】なし