タイトル: | 公開特許公報(A)_トリコテセン生合成遺伝子破壊株を用いたデオキシニバレノール系トリコテセンのアセチル化方法 |
出願番号: | 2008087876 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C12P 17/16,C12N 1/15,C12N 15/09,G01N 33/53,C07D 493/10 |
東海 武史 安藤 直子 木村 真 JP 2009240177 公開特許公報(A) 20091022 2008087876 20080328 トリコテセン生合成遺伝子破壊株を用いたデオキシニバレノール系トリコテセンのアセチル化方法 独立行政法人理化学研究所 503359821 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 深見 伸子 100120905 東海 武史 安藤 直子 木村 真 C12P 17/16 20060101AFI20090925BHJP C12N 1/15 20060101ALI20090925BHJP C12N 15/09 20060101ALI20090925BHJP G01N 33/53 20060101ALI20090925BHJP C07D 493/10 20060101ALN20090925BHJP JPC12P17/16C12N1/15C12N15/00 AG01N33/53 SC07D493/10 C 9 OL 15 (出願人による申告)平成19年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B024 4B064 4B065 4C071 4B024AA05 4B024AA10 4B024BA11 4B024CA04 4B024DA11 4B024EA04 4B064AC14 4B064AC37 4B064AC40 4B064BH08 4B064CA19 4B064CB02 4B064CE08 4B064CE10 4B064DA10 4B064DA11 4B065AA65X 4B065AA65Y 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA02 4B065CA31 4B065CA46 4C071AA04 4C071AA08 4C071BB01 4C071CC12 4C071EE02 4C071FF17 4C071GG03 本発明は、デオキシニバレノール系トリコテセンの多様な側鎖を効率的にアセチル化し、最も抗体との反応性の高い1種のトリコテセン分子種に変換する方法に関する。 赤かび病菌(フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)などの植物病原性フザリウム属菌)は、コムギ、オオムギ、トウモロコシなどの重要穀類に感染して難防除病害である赤かび病を引き起こし、穀類の生産に大きな打撃を与える。また、赤かび病菌は穀粒中にトリコテセン系毒素を蓄積させるため、汚染された穀粒を摂取したヒトや家畜に下痢、嘔吐、炎症、ATA症(食中毒性無白血球症)等の中毒症状を起こす恐れがある。加えて、当該毒素は熱に安定であるため通常の調理過程では減毒されない。そのため食の安全性からも重大な問題となっている。 赤かび病菌により生産されるトリコテセン系毒素には、デオキシニバレノール(DON)、ニバレノール(NIV)、3-アセチルデオキシニバレノール(3-ADON)、15-アセチルデオキシニバレノール(15-ADON)、4-アセチルニバレノール(Fusarenon-X)など、側鎖の修飾基が異なる様々な誘導体が含まれるため、毒素の汚染を画一的に検査できるルーチンな方法がないのが現状である。 従来、トリコテセン系毒素の簡易定量には、HPLC、GC-MS、LC-MS 等の方法が用いられているが、いずれの方法も多検体を短時間で効率的にアッセイするのには適さない。一方、抗体を用いたELISAなどの免疫学的定量は、多検体を効率的に測定するのに適しているが、トリコテセン系毒素の側鎖構造が多様であるために抗体の反応性が分子種によって著しく異なり、定量の信頼性に問題が生じる。 トリコテセン系毒素の免疫学的定量のためには、多くの誘導体が存在するトリコテセン系毒素を包括的に定量できる抗体が要求される。これまでトリコテセン系毒素を包括的に、あるいは、DON系、NIV系、T-2系という3種に大別して定量することが可能な抗体が開発されている(非特許文献1、特許文献1)。これらの抗体はいずれもアセチル化トリコテセンに対する親和性が高い抗体で、具体的には、3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)、3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)と3,15-ジアセチルデオキシニバレノール(3,15-diADON)の両方、アセチルT‐2トキシンに対する抗体である。なかでも、3,4,15-トリアセチルニバレノールは、抗体に対する反応性が最も高い。 これらの抗体を用いてELISA法で定量する際には、前処理として試料中のトリコセテン系毒素を上記の特定のアセチル化体のトリコテセン分子種に変換する必要がある。通常、トリコテセン側鎖の水酸基のアセチル化は、試料に適当な溶媒を加えて溶解し、無氷酢酸およびピリジンなどの塩基を加えて化学反応させることによって行う。しかしながら、C-7 位にアセチル基を導入すると抗体の反応性が著しく低化するため、C-7 位以外の部位のみを選択的にアセチル化する必要がある。このように、目的の部位のみを部分アセチル化するためには、無氷酢酸の濃度、反応時間、反応温度を厳密に一定に保つ必要があり、化学反応のコントロールが容易ではない。また、作業者が危険な有機溶媒に被爆する可能性も高い。一方、微生物を用いてトリコテセン側鎖の水酸基のアセチル化反応を行った例としては、デオキシニバレノール(DON)をフザリウム菌と培養することによってC-3位をアセチル化して3-アセチルデオキシニバレノール(3-ADON)に変換させた報告がある(非特許文献2、3)。しかしながら、側鎖の修飾基が異なる様々なDON系トリコテセン分子種を、上記のような抗体との反応性の高い1種のトリコテセン分子種に変換できた例はない。国際公開WO01/018196"A practical method for measuring deoxynivalenol, nivalenol, and T-2 + HT-2 toxin in foods by an enzyme-linked immunosorbent assay using monoclonal antibodies." Yoshizawa T, Kohno H, Ikeda K, Shinoda T, Yokohama H, Morita K, Kusada O, Kobayashi Y. Biosci Biotechnol Biochem. 2004 Oct;68(10):2076-85."Biological modification of trichothecene mycotoxins: acetylation and deacetylation of deoxynivalenols by Fusarium spp. " Yoshizawa T, Morokoka N., Appl Microbiol. 1975 Jan; 29(1):54-58."Comparative studies on microbial and chemical modifications of trichothecene mycotoxins. " Yoshizawa T, Morokoka N., Appl Microbiol. 1975 July;30(1):38-43. 従って、本発明の目的は、試料中のトリコセテン系毒素の抗体を用いた免疫学的定量を効率的かつ正確に行うために、側鎖の修飾基が異なる複数のトリコセン分子種を抗体との反応性の高い一種のトリコテセン分子種に変換する方法を提供することにある。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、トリコテセン生合成遺伝子であるTri5とTri8の両方を標的破壊したフザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)株を作製した結果、当該遺伝子破壊株は、デオキシニバレノール系トリコテセンであるデオキシニバレノール(DON)、3-アセチルデオキシニバレノール(3-ADON)、および15-アセチルデオキシニバレノール(15-ADON)のすべてについて、それらのC-4位を水酸化してニバレノール(NIV)系に変換し、さらにC-7位を除く全ての側鎖をアセチル化して1種のトリコテセン分子種3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)に変換することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下の発明を包含する。(1) デオキシニバレノール系トリコテセンまたはこれを含む試料を、トリコテセン生合成遺伝子Tri5とTri8が破壊されたフザリウム属に属する微生物の菌体またはその菌体処理物と接触させることを特徴とする、デオキシニバレノール系トリコテセンのアセチル化方法。(2) 前記デオキシニバレノール系トリコテセンが、デオキシニバレノール(DON)、3-アセチルデオキシニバレノール(3-ADON)、および15-アセチルデオキシニバレノール(15-ADON)から成る群から選択される少なくとも1種以上である、(1)に記載のアセチル化方法。(3) 前記トリコテセン生合成遺伝子が破壊されたフザリウム属に属する微生物の親株が、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)菌株である、(1)に記載のアセチル化方法。(4) 前記フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)菌株が、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)MAFF111233 株である、(3)に記載のアセチル化方法。(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の方法によって得られた3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)。(6) トリコテセン生合成遺伝子Tri5とTri8が破壊されたフザリウム属に属する微生物。(7)前記トリコテセン生合成遺伝子が破壊されたフザリウム属に属する微生物の親株が、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)菌株である、(6)に記載の微生物。(8) 前記フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)菌株が、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)MAFF111233 株である、(7)に記載の微生物。(9) (1)〜(4)のいずれかに記載の方法によって得られた3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)を、3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)に対する特異的抗体を用いて検出し、試料中のデオキシニバレノール系トリコテセンを定量する方法。 本発明の方法によれば、デオキシニバレノール系トリコテセンの側鎖を水酸化及びアセチル化して最も抗体との反応性が高い1種のトリコテセン分子種3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)に変換することができる。従って、これまで確立されている3,4,15-triANIVに対する抗体を用いて、様々な側鎖構造を有するデオキシニバレノール系トリコテセンの総量を正確に測定することができる。その結果、穀類などを対象として多検体のカビ毒汚染検査を短時間に効率よく行うことができる。また、本発明の方法は、デオキシニバレノール系トリコテセン側鎖の修飾基のアセチル化を生体触媒により行うので、反応の特異性が高く、ピリジンや無水酢酸を用いる従来の化学反応による方法に比べて作業上安全である。 本発明のデオキシニバレノール系トリコテセンのアセチル化方法は、デオキシニバレノール系トリコテセンを、トリコテセン生合成遺伝子が破壊されたフザリウム属に属する微生物の菌体またはその菌体処理物と接触させることを特徴とする。 本発明において、デオキシニバレノール系トリコテセン(以下、「DON系トリコテセン」ともいう)とは、デオキシニバレノール(DON)、3-アセチルデオキシニバレノール(3-ADON)、15-アセチルデオキシニバレノール(15-ADON)、3,15-ジアセチルデオキシニバレノール(3,15-diADON)をいい、一般にDON系ドリコテンセンに分類される、3,7,15-トリアセチルデオキシニバレノール(3,7,15-triADON)は含まない。1.トリコテセン生合成遺伝子破壊株 本発明のアセチル化方法に用いる遺伝子破壊株は、トリコテセン生合成遺伝子Tri5とTri8が破壊されたフザリウム属に属する微生物菌株である。 上記遺伝子破壊株を作製するための親株としては、図1に示すトリコテセン生合成経路を有するフザリウム属菌株であればいずれも使用可能である。DON系トリコテセンの生産菌では、3,15-ジアセチルデオキシニバレノール(3,15-diADON)から C-3 位もしくは C-15 位のアセチル基がはずれ、図1中段の3-アセチルデオキシニバレノール(3-ADON)、15-アセチルデオキシニバレノール(15-ADON)、デオキシニバレノール(DON)のいずれかを最終産物として生産する。一方、NIV系トリコテセンの生産菌では、さらに C-4 位が水酸化され、図1右側の段の4,15-ジアセチルニバレノール(4,15-diANIV)、4-アセチルニバレノール(4-ANIV)、ニバレノール(NIV)のいずれかを最終産物として生産する。 親株として用いるフザリウム属に属する微生物には、例えば、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)、フザリウム・スポロトリキオイデス(Fusarium sporotrichioides)、フザリウム・カルモラム(Fusarium culomorum)、フザリウム・ポアエ(Fusarium poae)などが挙げられるが、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)が好ましい。フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)菌株としては、限定されないが、例えばフザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)MAFF111233 株、MAFF111230株、MAFF111231株、NBRC4474株などが挙げられ、これらの変異株であってもよい。ここで変異株とは、自然変異もしくは人為的変異によって得られた株をいい、例えばMAFF111233 株とのゲノム配列の%同一性が、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上であるような株をいう。 本発明においては、上記親株の染色体DNA上におけるトリコテセン生合成遺伝子を破壊する。破壊する遺伝子は、図1に示すトリコテセン生合成経路の最初のファルネシルピロリン酸(FPP)の環化反応に関与するTri5遺伝子と、3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)の3位の脱アセチル化に関与するTri8遺伝子の2種である。得られた遺伝子破壊株は、DON系ドリコテンセンであるデオキシニバレノール(DON)、および3-アセチルデオキシニバレノール(3-ADON)、15-アセチルデオキシニバレノール(15-ADON)の側鎖をアセチル化し、3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)の1種に変換することができる。上記のTri5遺伝子とTri8遺伝子は、少なくとも構造遺伝子を含み、さらにその5'非翻訳領域、3'非翻訳領域および/または転写調節領域(例えばエンハンサーまたはプロモーター)を含んでいてもよい。本発明の目的のためには、構造遺伝子を破壊することが好ましいが、非翻訳領域または転写調節領域の破壊であっても、転写が抑制もしくは阻止され、その発現が起こらなければ、構造遺伝子以外の領域のみの破壊も可能である。遺伝子破壊の方法については、後述する。 上記のTri5遺伝子は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するトリコジエンシンターゼをコードする遺伝子であり、配列番号1に示す塩基配列を有する。また、上記のTri8遺伝子は、配列番号4に示すアミノ酸配列を有するトリコテセンC-3 エステラーゼをコードする遺伝子であり、配列番号3に示す塩基配列を有する。Tri5遺伝子、Tri8遺伝子の配列情報は、国際塩基配列データベースにおいて既に報告されており公知である。 本発明に用いる上記Tri5遺伝子は配列番号1の塩基配列、上記Tri8遺伝子は配列番号3の塩基配列に基づいて設計したプライマーをそれぞれ用いて、cDNAライブラリーまたはゲノムDNAライブラリー等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。またTri5遺伝子とTri8遺伝子は、上記ライブラリー等由来の核酸を鋳型とし、当該Tri5遺伝子とTri8遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいはTri5遺伝子とTri8遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。 本発明に使用するTri5遺伝子とTri8遺伝子は、上記活性を保持する限り、それぞれ配列番号2または4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。 ここで、欠失、置換、および/または付加されてもよいアミノ酸の数としては、好ましくは、1個から数個である。「数個」の数は特には限定されないが、例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下程度を意味する。また、ここにいう「変異」は、主には公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。 また、本発明に使用するTri5遺伝子とTri8遺伝子は、それぞれ配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ上記の酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。上記80%以上の相同性は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性をいう。タンパク質のホモロジー検索は、例えば、日本DNAデータバンク(DNA Databank of JAPAN(DDBJ)等を対象に、FASTAやBLASTなどのプログラムを用いて行うことができる。 本発明に使用するTri5遺伝子とTri8遺伝子は、それぞれ配列番号1または3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記の酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。 ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸、すなわち配列番号1または3に示す塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の相同性を有する塩基配列からなる核酸の相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い塩基配列からなる核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。 当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、こうしたホモログ遺伝子を容易に取得することができる。また、上記の塩基配列の相同性は、同様に、FASTA検索やBLAST検索により決定することができる。 上記アミノ酸の変異(欠失、置換、および/または付加)の導入は、Kunkel法若しくはGapped duplex法等の当該技術分野で公知の手法、またはこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(タカラバイオ社製)若しくはMutant-G(タカラバイオ社製)、タカラバイオ社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットなどが利用できる。 Tri5遺伝子およびTri8遺伝子の破壊は、それらの遺伝子の機能を破壊することができる程度の破壊であればよく、遺伝子配列全体の破壊でなくてもよい。例えば、遺伝子のコーディング領域、触媒活性領域、5'非翻訳領域、3'非翻訳領域、または転写調節配列の一部または全部の破壊を挙げることができる。このうち、効率よく上記遺伝子の機能を破壊する観点から、触媒活性部位の領域の破壊が好ましい。 遺伝子の破壊は、標的遺伝子の配列において、例えば該標的遺伝子配列の一部の欠失、異種DNAによる置換、および/または異種DNAの挿入によって行う。遺伝子を破壊するための方法は、標的遺伝子の配列が明らかであるので、この分野で通常行われている方法であれば、当業者によって適宜選択され、容易に用いることができる。例えば、相同組換えによる領域指定の破壊、トランスポゾンを用いたランダムな遺伝子破壊などを挙げることができる。 相同組み換えによる遺伝子破壊は、後記実施例に示すように、標的遺伝子の内部に異種DNAとして抗生物質耐性遺伝子を挿入することによって行うことができる。具体的には、標的遺伝子とその周辺のゲノム領域をPCR法によって増幅した断片を、抗生物質耐性遺伝子を含む適当なプラスミドに制限酵素認識部位を利用して挿入することによって相同組換え用プラスミドを構築し、この相同組換え用プラスミドを前記フザリウム属に属する微生物の菌体内に導入する。導入されたDNAは標的遺伝子の両隣接配列を介した相同組換えによって微生物染色体上へ組み込まれ、その結果、染色体上の標的遺伝子を抗生物質耐性遺伝子により破壊することができる。抗生物質耐性遺伝子とその両端に連結された標的遺伝子を含む断片の大きさとしては、約1,000bp、好ましくは約 2,000bp程度である。 抗生物質耐性遺伝子は、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などを用いることができる。また、抗生物質耐性遺伝子は、相同組み換えを受ける前の野生型の菌株が感受性を示す薬剤の耐性遺伝子を選択することが必要である。そうすることにより相同組み換えを起こした菌株と起こさない菌株とを、抗生物質の存在下での生育の有無により判別することができる。プラスミドとしては、pGT系、pBluescript KS(+)、pUC系、pCT系などを用いることができる。菌体内へのプラスミドの導入は、PEG法、エレクトロポレーション法などの慣用技術によって実施できる。 次に、上記の相同組換え用プラスミドを導入した菌株を培養して抗生物質耐性菌株を選択し、そのなかで標的遺伝子内部に抗生物質耐性遺伝子が挿入された遺伝子破壊株を得る。挿入の確認は、抗生物質耐性遺伝子及び標的遺伝子の各プローブを用いるサザンハイブリダイゼーションによって行うことができる。2.アセチル化方法 1.で得られたトリコテセン生合成遺伝子が破壊されたフザリウム属に属する微生物は、DON系トリコテセンまたはこれを含む試料に接触させることによって、DON系トリコテセンの側鎖をアセチル化し、3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)を生産することができる。 DON系トリコテセンを含む試料には、たとえば、農作物、農作物の加工品など、DON系トリコテセンを含有している可能性を有する物質のすべてが包含される。農作物としては、フザリウム属菌によるカビ毒汚染が懸念されるものであれば特に限定はされないが、例えば、穀類(特に、コムギ、オオムギなどの麦類、トウモロコシ)、果実類、豆類、イモ類が挙げられる。農作物は、該作物が田畑などの圃場に植生するものであっても、市場に存在するものであってもよく、その存在場所は問わない。農作物の加工品としては、上記農作物を原料として加工された飲食品であれば限定はされない。また、家畜のための飼料、飼料を摂取するブタ、ウシ、鶏などの家畜の肉、乳、卵、またはそれらの加工品もDON系トリコテセンを含有する試料に包含される。 上記微生物とDON系トリコテセンまたはこれを含む試料の接触は、具体的には、上記微生物を、DON系トリコテセンまたはこれを含む試料を添加した培地にて培養することによって行う。ここで、前記のDON系トリコテセンを含む試料のほとんどは固形物であるため、試料をそのまま、または細分化して有機溶媒にて抽出し、液体試料とすることが好ましい。細分化は、機械的手段や超音波によって破砕する方法で行えばよい。有機溶媒としては、好ましくは水溶性の有機溶媒、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、アセトニトリルなどが挙げられる。最終的にフザリウム属の微生物に接触させる際の有機溶媒の含量としては、全抽出溶液量の5%以下程度が好ましい。 培養は、フザリウム属に属する公知の微生物と同様な方法により行うことができ、例えば、液体培地による振盪培養法または通気攪拌培養法等が用いられる。培地としては、資化可能な炭素源、窒素源、無機塩類及び必要な栄養源を適当に含有する培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。好ましくは、トリコテセンを生産する培地成分が良い。炭素源としては、該微生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩、またはペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、コーンスチープリカー等の含窒素化合物が用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。 培養温度は、本微生物の生育温度の範囲、好ましくは最適生育温度の範囲に設定すればよく、例えば18〜25℃の範囲が挙げられる。培養時間は、通常、24〜48時間程度が好ましく、培地のpHは、本微生物が成育するpH域ならばいずれでもよいが、通常は、5〜7の範囲が好ましい。培地のpHの調整は、無機酸または有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。 微生物の形態は、特に限定されず、菌体、菌体処理物のいずれであってもよい。菌体処理物としては、例えば、超音波破砕機やフレンチプレスまたホモジナイザー等を用いた菌体破砕物、リゾチーム等の溶解酵素を用いた溶解物、培養物(菌体、培養上清)から抽出した酵素などをいう。 微生物の菌体または菌体処理物は固定化して用いることもできる。固定化法としては、従来公知の担体結合法、架橋化法、包括法などの方法が挙げられる。担体結合法では、担体に菌体または菌体処理物を固定化させるが、固定化は物理的吸着、イオン結合、共有結合のいずれであってもよい。担体としては多糖(アセチルセルロース、アガロース)、無機物質(多孔質ガラス、金属酸化物)、合成高分子(ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、不飽和ポリエステル、不飽和エポキシド)等が用いられる。架橋化法では、グルタルアルデヒド等の二官能性試薬を用いて菌体または菌体処理物同士を架橋、結合させることによって固定化する。また、包括法では、多糖(アルギン酸、カラギーナン)、ポリアクリルアミド、コラーゲン、ポリウレタン等の高分子ゲルの格子や半透膜カプセルに菌体または菌体処理物を包み込むことによって固定化する。 微生物は、上記の培地成分を含む固体培地で保存菌を培養、増殖したのち、同様の成分の液体培地中で前培養し、さらに菌数を増やし、次いで、同様の液体培地中でアセチル化のために使用される。菌量は、特に限定されないが、培地あたり約3〜10%(w/v)である。 培養の方式としては、回分式または連続式培養のいずれも使用できる。回分式培養の場合は、培養槽の中に、DON系トリコテセンを含む滅菌培地、上記微生物菌体またはその固定化菌体を仕込み、振盪培養、攪拌培養、通気攪拌培養、深部通気攪拌培養などの培養方法で行う。また、連続式培養の場合は、膜型、流動層型、充填層型、横型などの種々のバイオリアクターを用いることができる。具体的には、例えば中空糸膜などの半透膜で仕切られた培養槽の一方の区画に本微生物菌体またはその固定化菌体を仕込み、他方の区画にDON系トリコテセンを含む滅菌培地を連続的に流し、DON系トリコテセンを半透膜を介して本微生物菌体と接触させる方法、あるいは、上記微生物菌体の固定化菌体をカラムなどの連続式培養槽内に充填もしくは流動し、DON系トリコテセンを含む滅菌培地を連続的に槽内に流し、固定化菌体とDON系トリコテセンとを接触させる方法などが使用できる。 上記接触によって培養物中に生成された目的産物である3,4,15-triANIVは、抗体を用いてELISA法で定量するために、培養物(培養ろ液および菌体)から抽出し、精製する。 抽出には、例えばシクロヘキサン、ヘキサン、酢酸エチルなどを用いることができる。得られた抽出液を減圧濃縮乾固すれば、目的産物のの粗標品が得られる。この粗標品を更に精製するためには、上記の抽出法に、ゲル濾過、遠心分離、イオン交換または吸着クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどを必要に応じて組み合わせて必要回数行えばよい。得られた3,4,15-triANIVは、1H NMR及び13C NMRスペクトル分析、及び、MSスペクトル分析等によって同定することができる。 上記で得られた3,4,15-triANIVは、3,4,15-triANIVに対する特異的抗体を用いて検出することによって、試料中のデオキシニバレノール系トリコテセンを定量することができる。ここで、3,4,15-triANIVに対する特異的抗体としては、国際公開WO01/018196号公報に記載される、モノクローナル抗体KMT-205、KTM-240(協和メディックス社製)が好適に用いられる。 以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。(実施例1)Tri8の新たな機能解明 Tri8遺伝子はC-3位の脱アセチル化酵素をコードすることが知られている。Tri8遺伝子の周辺領域を以下のようにしてインバース PCR 法(iPCR 法)により増幅した。まず、4,15-ジアセチルニバレノール(4,15-diANIV)生産菌であるF. graminearum MAFF111233 株のゲノムDNAを鋳型として#9:5’-GGCTCGAGATGGGGTCAATTTGATGGCT-3’(配列番号5)と#10:5’-GGTCTCGAGAGATCCCTGATGGATATTC-3’(配列番号6)の組み合わせでPCRを行い、得られたPCR産物をXhoIで消化し、自己連結した。次に、この連結断片を鋳型として、#11:5’-GCCTGCAGATTTCTCTTCTTCACCTCTC-3’(配列番号7)と#12:5’-TGGATCCAGACACTTGGGTTGTCGTCTC-3’(配列番号8)の組み合わせでPCRを行い、得られたPCR産物をPst IとBam HIで消化した。この消化断片を、セレクションマーカーであるハイグロマイシン耐性遺伝子(hph)を含むベクター pCB1003 のPst I/Bam HIサイトに連結し、Tri8 を破壊するベクター(pHF-ΔTri8)を作製した(図2A)。 上記ベクターを F. graminearum MAFF111233 株に導入し、導入株について #7:5’-GCAACAATGAGTGACTGACGAAG-3’(配列番号9)と#8:5’-CTGGGACACGAGACGAAGAATTG-3’ (配列番号10)の組み合わせでPCRスクリーニングを行った。その後、野生株と導入株の染色体DNA5μgを制限酵素Bgl II, Cla Iで消化し、ハイグロマイシン耐性遺伝子のプローブ[#19:5’-ATGAAAAAGCCTGAACTC-3’(配列番号11)と#20:5’- CTCTATTCCTTTGCCCTCGGACGAG-3’(配列番号12)の組み合わせで増幅する領域の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド]を用いてサザン解析を行ったところ、1コピーの導入を確認できた。また、Tri8のプローブ[#15:5’- ATGGCTCTCGATCGTCTGTTGTTTCT-3’(配列番号13)と#16:5’-TTACCAGGCAGATGTCCAGAAG-3’(配列番号14)の組み合わせで増幅する領域の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド]を用いてサザン解析を行ったところ、Tri8が完全に欠損している破壊株はシグナルが消えることから、これを指標としてTri8の標的部位の導入を確認した(ΔTri8:図2B)。 得られたTri8遺伝子破壊株であるFGD8 株(ΔTri8)とF. graminearum MAFF111233 株(WT)のトリコテセン生産プロファイルを図3に示す。MAFF111233 株は4-アセチルニバレノール(4-ANIV)と4,15-ジアセチルニバレノール(4,15-diANIV)を生産することができるが、FGD8株は3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)しか生産することができなかった。このことより、Tri8はC-3位の脱アセチル化に加え、C-15 位の脱アセチル化の両方を行うことができる酵素をコードすることが明らかとなった。(実施例2)DON系トリコテセンを3,4,15-triANIV に変換する生体触媒の作製 (1) Tri5遺伝子破壊株の作製 Tri5遺伝子の周辺領域を以下のようにしてインバース PCR 法(iPCR 法)により増幅した。まず、F. graminearum MAFF111233 株のゲノムDNAを鋳型として#3:5’- ATCGCTAGCCGAGATGCGGATAGTAACG-3’(配列番号15)と#4:5’- TGTGGCTAGCACCCGCAAATCATACTTC-3’(配列番号16)の組み合わせでPCRを行い、得られたPCR産物をNhe Iで消化し、自己連結した。次に、この連結断片を鋳型として#5:5’- TATCACTAGTTGGCAAGCATCTCGACCC-3’(配列番号17)と#6:5’- ATGCGGCCGCGGTGAACTATTTTGATG-3’(配列番号18)の組み合わせでPCRを行い、得られたPCR産物をSpe IとNot Iで消化した。この消化断片を、セレクションマーカーであるネオマイシン耐性遺伝子(neo)を含むベクター pBF-srf-Neo のSpe I/Not Iサイトに連結し、Tri5 を破壊するベクター(pNF-ΔTri5)を作製した(図4A)。 上記ベクターをF. graminearum MAFF111233 株に導入し、導入株について、#1:5’- CCTTTTGCTGTCAAGACTGGTG-3’(配列番号19)と#2:5’- AGTGGGAAATGGTTACAGGCTC-3’(配列番号20)の組み合わせでPCRスクリーニングを行った。その後、野生株と導入株の染色体DNA5μgを制限酵素Bam HI, Xba Iで消化し、ネオマイシン耐性遺伝子のプローブ[#17:5’- ATGGGATCGGCCATTGAACAAGATGG-3’(配列番号21)と#18:5’- GTCAGAAGAACTCGTCAAGAAGGCGAT-3’(配列番号22)の組み合わせで増幅する領域の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド]を用いてサザン解析を行ったところ、1コピーの導入を確認できた。また、野生株と導入株の染色体DNA 5μgを制限酵素Bam HI, Nde Iで消化し、Tri5のプローブ[#13:5’-ATGGAGAACTTTCCCACCGAG-3’(配列番号23)と#14:5’- TCACTCCACTAGCTCAATCGAAC-3’(配列番号24)の組み合わせで増幅する領域の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド]を用いてサザン解析を行い、野生株のシグナルと比較することによりTri5の標的部位の導入を確認した(FGD5 株:図4B)。(2) Tri5/Tri8遺伝子破壊株の作製 次に、実施例1と同様にしてTri8 を破壊するベクター(pHF-ΔTri8)を作製し(図2A)、本ベクターを上記のFGD5 株に導入した。導入株について、実施例1と同様にして、FgTri8 遺伝子スクリーニング用プライマー(前記#7と#8の組み合わせ)でPCRスクリーニングを行った。その後、野生株と導入株の染色体DNA5μgを制限酵素Bgl II, Cla Iで消化し、ハイグロマイシン耐性遺伝子のプローブ(前記#19(配列番号11)と#20(配列番号20)の組み合わせで増幅する領域の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド)を用いてサザン解析した結果、1コピーの導入を確認できた。また、Tri8のプローブ(前記#15(配列番号13)と#16(配列番号14)の組み合わせで増幅する領域の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド)を用いてサザン解析を行ったところ、Tri8が完全に欠損している破壊株はシグナルが消えることから、これを指標としてTri8の標的部位の導入を確認した(FGD5/FGD8 株:図4B)。(実施例3)FGD5/FGD8株による3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)の製造 DON系トリコテセンが、FGD5/FGD8 株によって3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)に変換するかどうかを検証した。実施例2で作製したFGD5/FGD8 株をトリコテセン誘導培地(RF 培地: 5% rice flour, 3% sucrose, 1% yeast extract)で4日間前培養した菌体を回収し、滅菌蒸留水で洗浄した。菌体を20 mlの各DON 系トリコテセン(2.5μg/ml)を含むRF 培地に移し、48時間、20℃で回転培養を行った。培養液 5 ml を等量の酢酸エチルで2回抽出して窒素ガス下で濃縮を行った。各サンプルを薄層クロマトグラフィー(TLC, F254, Merck)で酢酸エチル/トルエン = 3:1の条件下で展開後、冷風により乾燥した。展開したTLCプレートに四塩化炭素/クロロホルム=3:2に溶解した1%ニトロベンジルピリジン溶液(NBP)を吹きかけ、150℃の TLC ホットプレートで焼いた。最後に四塩化炭素/クロロホルム=3:2に溶解した10%テトラエチレンペンタミン溶液(TEPA)を吹きかけ検出した(図5)。 その結果、DON系トリコテセン(DON, 3-ADON, 15-ADON)の全てにおいて 3,4,15-triANIV に変換されることが認められた。従って、FGD5/FGD8 株が本発明の目的であったDON系トリコテセンの混合液から3,4,15-triANIV に変換する生体触媒として有用であることが示された。 本発明の方法は、穀類などの農作物に含まれるデオキシニバレノール系トリコテセンの抗体を用いた免疫学的定量の前処理として行うことができ、赤かび病菌による農作物のカビ毒汚染検出において多検体を短時間に効率的に処理することが可能にするので、食品・飼料分野において有用である。図1は、トリコテセン系毒素の生合成経路を示す。図2Aは、Tri8遺伝子破壊ベクターの作製を示す。図2Bは、Tri8遺伝子破壊株(FGD8株, ΔTri8)および野生株(WT)のサザン解析結果を示す。Tri8破壊株(ΔTri8)とF. graminearum MAFF111233 株(WT)の生産するトリコテセンの解析結果を示す。図4Aは、Tri5遺伝子破壊ベクターの作製を示す。図4Bは、Tri5遺伝子破壊株(FGD5株)、Tri5/Tri8遺伝子破壊株(FGD5/FGD8株)、および野生株(WT)のサザン解析結果を示す。Tri5/Tri8遺伝子破壊株(FGD5/FGD8株)による DON 系トリコテセン(DON, 3-ADON, 15-ADON)の 3,4,15-triANIV への変換を薄層クロマトグラフィーによって確認した結果を示す。 デオキシニバレノール系トリコテセンまたはこれを含む試料を、トリコテセン生合成遺伝子Tri5とTri8が破壊されたフザリウム属に属する微生物の菌体またはその菌体処理物と接触させることを特徴とする、デオキシニバレノール系トリコテセンのアセチル化方法。 前記デオキシニバレノール系トリコテセンが、デオキシニバレノール(DON)、3-アセチルデオキシニバレノール(3-ADON)、および15-アセチルデオキシニバレノール(15-ADON)から成る群から選択される少なくとも1種以上である、請求項1に記載のアセチル化方法。 前記トリコテセン生合成遺伝子が破壊されたフザリウム属に属する微生物の親株が、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)菌株である、請求項1に記載のアセチル化方法。 前記フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)菌株が、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)MAFF111233 株である、請求項3に記載のアセチル化方法。 請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって得られた3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)。 トリコテセン生合成遺伝子Tri5とTri8が破壊されたフザリウム属に属する微生物。 前記トリコテセン生合成遺伝子が破壊されたフザリウム属に属する微生物の親株が、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)菌株である、請求項6に記載の微生物。 前記フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)菌株が、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)MAFF111233 株である、請求項7に記載の微生物。 請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって得られた3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)を、3,4,15-トリアセチルニバレノール(3,4,15-triANIV)に対する特異的抗体を用いて検出し、試料中のデオキシニバレノール系トリコテセンを定量する方法。 【課題】試料中のトリコセテン系毒素の抗体を用いた免疫学的定量を効率的かつ正確に行うために、側鎖の修飾基が異なる複数のトリコセン分子種を抗体との反応性の高い一種のトリコテセン分子種に変換する方法を提供すること。【解決手段】デオキシニバレノール系トリコテセンまたはこれを含む試料を、トリコテセン生合成遺伝子Tri5とTri8が破壊されたフザリウム属に属する微生物の菌体またはその菌体処理物と接触させることを特徴とする、デオキシニバレノール系トリコテセンのアセチル化方法。【選択図】なし配列表