タイトル: | 特許公報(B2)_無機物質粉末成形体の製造方法、無機物質粉末焼結体及びその製造方法 |
出願番号: | 2008080304 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C04B 35/622,B28B 3/20,G01N 11/00 |
堀田 裕司 佐藤 克哉 佐藤 公泰 長岡 孝明 渡利 広司 JP 4831779 特許公報(B2) 20110930 2008080304 20080326 無機物質粉末成形体の製造方法、無機物質粉末焼結体及びその製造方法 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 渡邉 一平 100088616 堀田 裕司 佐藤 克哉 佐藤 公泰 長岡 孝明 渡利 広司 20111207 C04B 35/622 20060101AFI20111117BHJP B28B 3/20 20060101ALI20111117BHJP G01N 11/00 20060101ALI20111117BHJP JPC04B35/00 DB28B3/20 KG01N11/00 A C04B 35/622 B28B 3/20 G01N 11/00 特開平04−275967(JP,A) 特開平07−232965(JP,A) 特開2009−161365(JP,A) 7 2009234822 20091015 18 20100618 櫻木 伸一郎 本発明は、高密度の無機物質粉末成形体の製造方法、および、それにより得られた無機物質粉末成形体を焼成(焼結)して得られる、低収縮率の無機物質粉末焼結体及びその製造方法に関する。 セラミックス等の無機材料は、金属やプラスティック等と比較して機械・熱・電磁気特性に優れることから、構造材料、電気・電子材料等をはじめとする様々な用途で用いられている。セラミックス等の無機材料からなる製品・部材等を製造するには、原料粉末を所望とする形状に成形して得られた成形体を加熱して緻密化(焼結)するのが一般的である。 セラミックスや金属等の粉末(無機物質粉末)を成形する場合には、成形性を高めるべく、これらの粉末にバインダ等の高分子成形助剤を添加することが一般的に行われている。このため、無機物質粉末を成形して得られる無機物質粉末成形体には、無機物質粉末、溶媒、成形助剤(バインダ)等が含有されている。ここで、成形材料の流動性を良好にするとともに、得られる成形体の形状を保持する(保形性を高める)ためには、成形材料、即ち練土(坏土)の可塑性、流動性、及び保形性が良好であることが要求される。例えば、排ガス浄化用の触媒担体やディーゼルパティキュレートフィルター等のハニカム構造体の製造に使用されるハニカム形状の成形体を製造する場合には、ハニカム構造体の隔壁の薄肉化(25〜100μm)に伴い、押出成形時の練土の高流動性と、押出成形後の成形体の高保形性が要求される。 流動性の良好な練土を作製するには、溶媒、ポリカルボン酸系、マレイン酸系、ポリエチレングリコール系、又はアクリルエーテルコポリマー等の各種添加剤を、バインダ添加と同時に原料粉末に添加することが知られている(例えば、特許文献1参照)。練土は、ニーダ等の混練機を用いて作製されるが、添加剤の選択や添加量等に関しては経験的要素が強いため、得られる練土の流動性と保形性の制御は困難である。 近年、練土の流動性と成形体の保形性を向上させるための技術として、溶媒として水を用いることなく、ワックス、オレイン酸、エチレン/酢酸ビニル共重合体を原料粉末に添加して練土を作製する例が報告されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、有機成分が多い系であるため、成形後に加熱して脱脂する際に排出される二酸化炭素の量が多くなるといった側面がある。 また、練土の粒子充填構造を、一次粒子の凝集体である二次粒子で構成するとともに、寒天やコンニャク等の不溶性物質を20〜30vol%含有させることで、練土の流動性と成形体の保形性を向上させる試みがなされている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、二次粒子の如き凝集体が成形体内に存在すると密度ムラが生じ易くなり、凝集体に起因して形成される空孔によって成形体の強度が低下する場合がある。また、乾燥時や焼成時の収縮が大きくなるために、成形体や焼結体にそりや割れが生じ易くなる場合もある。 ところで、セラミックス粉末からなる成形体は、例えば、セラミックス粉末、水等の分散媒、及び有機バインダ等を混合・混練して得た練土を、押出成形法等の方法により成形することで製造することができる(例えば、特許文献4参照)。なお、このような方法で得られた成形体(押出成形体)を乾燥及び焼成することにより、セラミックス焼結体を得ることができる。 押出成形法は、一般には、減圧空間中で練土を混練して内包される空気を除去した後、口金を通して押し出すことにより、所望の断面形状を有する押出成形体を得る方法である。この押出成形法は、棒状、中空状、薄板状、直方体(ブロック)状、管状、ハニカム状の成形体を大量生産するのに適した方法である。 しかしながら、押出成形を実施するに際しては、練土の流動性と成形体の保形性を確保すべく、セラミックス粉末等の無機物質粉末100質量部に対して、10〜20質量部といった多量の有機バインダを添加する必要がある。このように多量の有機バインダを用いると、(1)脱脂・焼成時に排出される二酸化炭素の量が多くなる、(2)有機バインダの燃焼時に生ずる熱応力に起因して得られる焼結体にクラック等の欠陥が生じ易くなる、(3)練土に含まれる無機物質粉末の凝集に起因する成形体の密度ムラにより、得られる焼結体にそりや割れが生じ易くなる、等の問題が生ずる場合があった。特開2007−137693号公報特開2002−265790号公報特開平11−92233号公報特許第3227039号公報 本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、肉厚が均一であるとともに反りや歪みが極めて小さい、高密度の無機物質粉末成形体を得る無機物質粉末成形体の製造方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、肉厚が均一であるとともに反りや歪みが極めて小さい、低収縮率の無機物質焼結体、及びその製造方法を提供することにある。 本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、その表面の一部が表面改質剤で被覆された無機物質粉末を含有するスラリーを用いて得られる練土を成形することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明によれば、以下に示す無機物質粉末成形体の製造方法、無機物質粉末焼結体、及び無機物質粉末焼結体の製造方法が提供される。 [1]無機物質粉末の表面を完全に被覆するために必要な表面改質剤の最小量を予め算出する予備工程と、前記無機物質粉末と、前記最小量未満の量の前記表面改質剤とを混ぜ合わせて、前記無機物質粉末の表面を被覆率15〜70%にて前記表面改質剤で被覆する第一の工程と、前記第一の工程に続いて、成形助剤および溶媒を添加してスラリーを得る第二の工程と、前記スラリーから液体成分の少なくとも一部を除去して練土を得る第三の工程と、前記練土を成形して無機物質粉末成形体を得る第四の工程と、を有する無機物質粉末成形体の製造方法。 [2]前記無機物質粉末、前記表面改質剤、前記成形助剤、及び前記溶媒を含有する混合物を遠心分離して得られる固相を燃焼させた場合に、前記成形助剤の消失に起因する質量減少率が、0.05〜0.4質量%である前記[1]に記載の無機物質粉末成形体の製造方法。 [3]前記練土に含まれる前記成形助剤の割合が、前記無機物質粉末100質量%に対して、0.1〜20質量%である前記[1]または[2]に記載の無機物質粉末成形体の製造方法。 [4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の無機物質粉末成形体の製造方法により得られた前記無機物質粉末成形体を焼成して得られる無機物質粉末焼結体。 [5]前記練土に含まれる前記無機物質粉末の割合が50体積%以上であるとともに、その収縮率が19%以下である前記[4]に記載の無機物質粉末焼結体。 [6]前記練土に含まれる前記無機物質粉末の割合が50体積%以上であるとともに、その相対密度が95%以上である前記[4]又は[5]に記載の無機物質粉末焼結体。 [7]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の無機物質粉末成形体の製造方法により得られた前記無機物質粉末成形体を焼成して無機物質粉末焼結体を得ることを含む無機物質粉末焼結体の製造方法。 本発明の無機物質粉末成形体の製造方法によれば、肉厚が均一であるとともに反りや歪みが極めて小さく、かつ、高密度の無機物質粉末成形体を製造することができる。 本発明の無機物質粉末焼結体は、肉厚が均一であるとともに反りや歪みが極めて小さく、かつ、低収縮率であるといった効果を奏するものである。 本発明の無機物質粉末焼結体の製造方法によれば、肉厚が均一であるとともに反りや歪みが極めて小さく、かつ、低収縮率の無機物質粉末焼結体を製造することができる。 以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。1.無機物質粉末成形体及びその製造方法: 本発明の無機物質粉末成形体は、無機物質粉末、表面改質剤、成形助剤、及び溶媒を含有するとともに、無機物質粉末の表面の一部が表面改質剤で被覆されているスラリーから、液体成分の少なくとも一部を除去して得られる練土を成形してなるものである。以下、その詳細について説明する。(無機物質粉末) 無機物質粉末は、無機物質からなる粉末であり、無機物質粉末成形体を構成する原料粉末となるものである。無機物質としては、各種酸化物や、炭化物、窒化物等の非酸化物等を挙げることができる。無機物質の具体例としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、チタン酸バリウム、二酸化チタン等を挙げることができる。無機物質粉末は、複数種類の無機物質粉末の混合粉末であってもよい。(表面改質剤) 表面改質剤は、無機物質粉末の表面(粒子表面)に吸着或いは化学的に反応する成分であり、無機物質粉末の表面の少なくとも一部を被覆(又は改質)可能なものである。表面改質剤の具体例としては、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アルコキシド系樹脂等を挙げることができる。(成形助剤) 成形助剤は、無機物質粉末を一定の形状に保持させるために機能する、いわゆるバインダであり、通常は高分子樹脂を用いることができる。成形助剤の具体例としては、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチル樹脂、酢酸ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。成形助剤の種類は特に限定されないが、同時に用いる表面改質剤との親和性が低い成形助剤を選択して用いることが好ましい。これにより、無機物質粉末の潤滑性を増加させることができる。 なお、表面改質剤と成形助剤との親和性については、以下のようにして判別することができる。 [1]無機物質粉末の表面(粒子表面)を完全に被覆するために必要な表面改質剤の量を求める。具体的には、成形助剤添加前スラリーを、遠心分離によって固相と液相に分離する。この際、粒子表面に吸着していない表面改質剤は液相へ、粒子表面に吸着している表面改質剤は固相へ、それぞれ分離される。遠心分離によって分離された固相(固相粉末)を熱分析装置に設置し、昇温させる。これにより、粒子表面に吸着している表面改質剤が消失し、消失に伴う質量減少量が測定される。測定された質量減少量は、表面改質剤が粒子表面を完全被覆するまでは、表面改質剤の添加量と比例関係にある。しかしながら、粒子表面が表面改質剤で完全に被覆されると、過剰に添加された表面改質剤は粒子表面に吸着されず、液相に分離される。即ち、熱分析により測定される質量減少量の最大値は、粒子表面を完全被覆するために必要な表面改質剤の量に相当する。 [2]上記[1]で求めた、粒子表面を完全被覆するために必要な量の表面改質剤を含む成形助剤添加前スラリーに、所定量の成形助剤を添加して試料を得る。得られた試料を、遠心分離により固相と液相に分離する。この際、粒子表面に吸着していない表面改質剤及び成形助剤は液相へ、粒子表面に吸着している表面改質剤及び成形助剤は固相へ、それぞれ分離される。遠心分離によって分離された固相粉末を熱分析装置に設置し、昇温させることによって、粒子表面に吸着している表面改質剤及び成形助剤が消失する。即ち、この際に測定される質量減少量は、粒子表面に吸着している表面改質剤と成形助剤の量に相当する。 [3]上記[1]で求めた、粒子表面を完全被覆するために必要な表面改質剤の量と、前記[2]で求めた質量減少量が同じである場合、成形助剤は粒子間で架橋しておらず、液相に分離されていることになる。即ち、表面改質剤が粒子表面を完全に被覆することで、成形助剤が粒子表面に架橋する箇所がなくなったと解釈することができ、表面改質剤と成形助剤の親和性が低い、と判別することができる。一方、上記[1]で求めた、粒子表面を完全被覆するために必要な表面改質剤の量に比して、前記[2]で求めた質量減少量が大きい場合には、表面改質剤の表面間で成形助剤が架橋しているものと推測することができ、表面改質剤と成形助剤の親和性が高い、と判別することができる。 本発明においては、上記の手法([1]〜[3])に準拠して、無機物質粉末、表面改質剤、成形助剤、及び溶媒を含有する混合物を遠心分離して得られる固相を燃焼させた場合に、成形助剤の消失に起因する質量減少率が、0.05〜0.4質量%であることが好ましく、0.08〜0.38質量%であることが更に好ましい。質量減少率が上記の数値範囲内であることは、表面改質剤と成形助剤の親和性が低いことを意味する。従って、上記数値範囲を満たす表面改質剤と成形助剤を使用すれば、無機物質粉末の潤滑性を更に増加させることができるために好ましい。 練土に含有される成形助剤の割合は、無機物質粉末100質量%に対して、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.2〜10質量%であることが更に好ましい。成形助剤の含有割合が上記範囲内であると、練土が良好な保形性を維持した状態で高い流動性をも発揮するため、結果として、反りや歪みが極めて小さく、高密度の成形体を製造することができる。また、このような高密度の成形体を焼成すれば、収縮率が小さく、反りや歪みが極めて小さく、肉厚が均一な無機物質粉末焼結体を製造することができる。 練土に含有される成形助剤の含有割合が、無機物質粉末100質量%に対して0.1質量%未満であると、練土の保形性の低下に伴って得られる成形体の成形性が低下する傾向にある。一方、20質量%超であると、成形体の密度が低下し易く、この成形体を焼成して得られる焼結体の密度が低下したり、収縮率が増大したりする傾向にある。また、焼成(燃焼)による成形助剤の除去に伴って発生する二酸化炭素の量が増大する傾向にある。(溶媒) 溶媒としては、通常、水系溶媒を使用する。溶媒の具体例としては、蒸留水等の水、エタノール等のアルコール、アセトン、トルエン、ヘキサン、ベンゼン等を挙げることができる。なお、これらの溶媒の二種以上を組み合わせて用いることもできる。但し、廃液が環境に及ぼす影響を考慮すると、水を使用することが特に好ましい。(スラリー) スラリーには、無機物質粉末、表面改質剤、成形助剤、及び溶媒が含有される液状(スラリー状)の原材料混合物である。このスラリーに含有される無機物質粉末の割合は、スラリー全体に対して、通常、1〜50体積%である。(練土) 練土は、溶媒を主体とする液体成分の少なくとも一部を、定法に従ってスラリーから除去するとともに、ニーダ等の混練機を用いて混練することで作製可能な、粘土状の成形原料である。練土に含有される無機物質粉末の割合は、練土全体に対して、通常、20〜65体積%である。(無機物質粉末成形体) 本実施形態の無機物質粉末成形体は、口金を用いた押出成形等の成形方法によって、所望とする形状に練土を成形し、必要に応じて、乾燥及び仮焼することで製造することができる。なお、仮焼する場合において、仮焼温度は、通常500〜1000℃程度であり、仮焼時間は、通常1〜4時間程度である。 無機物質粉末成形体を成形するのに用いた練土を作製するためのスラリーには、無機物資粉末と表面改質剤が含有されているので、無機物質粉末の表面の一部は表面改質剤で被覆されている。即ち、無機物質粉末の表面の一部を表面改質剤で被覆することによって、スラリーの製造段階において表面改質剤自体が分散剤として機能するため、無機物質粉末の分散性が向上するものと考えられる。従って、得られる練土に含まれる無機物質粉末が凝集体を形成し難くなり、高密度であるとともに、反りや歪みが極めて小さい無機物質粉末成形体を得ることができる。更には、このような無機物質粉末成形体を焼成することで、低収縮率であるとともに、反りや歪みが極めて小さく、肉厚の均一な無機物質粉末焼結体を製造することができる。 表面改質剤で被覆される無機物質粉末の表面は、一部であり全部ではない。即ち、表面改質剤で無機粒子粉末の表面を部分的に被覆することで、成形助剤と(部分的に被覆された)無機物質粉末との親和性を制御するものと推測される。このため、無機物質粉末の被覆部分は、成形助剤が潤滑して練土の流動性の向上に寄与するものと考えられる。一方、無機物質粉末の被覆されていない部分(露出部分)は、成形助剤が隣接する無機物質粉末どうしを橋架けし、練土が良好な保形性を維持するのに寄与するものと考えられる。 表面改質剤による無機物質粉末表面の被覆率は、無機物質粉末の表面積に対する割合で、5〜90%であることが好ましく、10〜80%であることが更に好ましく、15〜70%であることが特に好ましい。被覆率が上記数値範囲内であると、練土が良好な保形性を維持した状態で高い流動性をも発揮するため、結果として、反りや歪みが極めて小さく、高密度の成形体を製造することができる。また、このような高密度の成形体を焼成すれば、収縮率が小さく、反りや歪みが極めて小さく、肉厚が均一な無機物質粉末焼結体を製造することができる。 なお、被覆率が5%未満であると、練土の流動性が乏しくなるため、得られる無機物質粉末成形体の密度が低くなる傾向にあるとともに、反り等が発生し易くなる場合がある。一方、被覆率が90%超であると、練土の保形性が乏しくなるため、成形が困難になる場合がある。 スラリーを調製する前段階として、先ず、無機物質粉末、表面改質剤、及び溶媒を混合して、その表面の一部を表面改質剤で被覆された無機物質粉末を含有する成形助剤添加前スラリーを調製し、次いで、調製した成形助剤添加前スラリーに対して成形助剤を添加してスラリーを得ることが好ましい。このように、成形助剤を添加する前に、予め無機物質粉末を表面改質剤に接触させ、無機物質粉末の表面の一部を表面改質剤で被覆しておくことで、練土が更に良好な保形性を維持した状態でより高い流動性をも発揮することとなる。また、得られる練土に含まれる無機物質粉末が凝集体を更に形成し難くなり、より高密度であるとともに、反りや歪みが極めて小さい無機物質粉末成形体を製造することが可能となる。なお、スラリーから液体成分を減ずる方法については特に制限はないが、例えば、真空減圧、空気中での蒸発、フィルタープレス等の方法を挙げることができる。 本実施形態の無機物質粉末成形体を製造するために用いる練土は、保形性を維持した状態で高い流動性を有するものであるため、成形時に無機物質粉末が流動し易く、安定した状態で無機物質粉末が配列され易い。このため、本実施形態の無機物質粉末成形体は、練土に含まれる無機物質粉末の割合が50体積%以上である場合に、その相対密度が、通常54%以上、好ましくは55%以上である。2.無機物質粉末焼結体及びその製造方法: 本発明の無機物質粉末焼結体は、前述の無機物質粉末成形体を焼成して得られるものである。このため、本発明の無機物質粉末焼結体は、収縮率が小さく、反りや歪みが極めて小さく、肉厚が均一なものである。 本実施形態の無機物質粉末焼結体を製造するために用いる無機物質粉末成形体は、上述のように、保形性を維持した状態で高い流動性を有する練土を使用して作製されたものである。このため、無機物質粉末成形体は、成形時に無機物質粉末が流動し易く、安定した状態で無機物質粉末が配列されている。従って、本実施形態の無機物質粉末焼結体は、その焼結時に生じる収縮は粒成長(シンタリング)に伴うものが大部分であるので、極めて低収縮率となる。このため、本実施形態の無機物質粉末成形体は、練土に含まれる無機物質粉末の割合が50体積%以上である場合に、その収縮率が、通常20%以下、好ましくは19%以下である。 また、無機物質粉末表面を表面改質剤で部分的に被覆しても、得られる無機物質粉末焼結体の相対密度にはあまり影響がない。これは、本実施形態の無機物質粉末焼結体を製造するために用いる無機物質粉末成形体が、保形性を維持した状態で高い流動性を有する練土を使用して作製されたものであるためであると推測される。従って、本実施形態の無機物質粉末焼結体は、その相対密度が十分に高いものである。具体的には、練土に含まれる無機物質粉末の割合が50体積%以上である場合に、その相対密度が、通常95%以上、好ましくは97%以上である。 なお、本実施形態の無機物質粉末焼結体を製造するに際して、その焼成温度は、通常1400〜1600℃程度である。また、焼成時間は、通常1〜5時間程度である。 以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。(実施例1) 平均粒径570nmのアルミナ粉末、蒸留水、及びポリアクリル酸アンモニウム塩(PAA)を混合して、成形助剤添加前スラリーを得た。なお、成形助剤添加前スラリーのアルミナ濃度は、成形助剤添加前スラリー全体に対して15体積%であった。また、成形助剤添加前スラリーのPAA含有割合は、アルミナ粉末に対して0.12質量%であった。得られた成形助剤添加前スラリーに、メチルセルロース水溶液を添加及び混合してスラリーを得た。なお、スラリーのメチルセルロース含有割合は、アルミナ粉末に対して2質量%であった。また、スラリーのアルミナ濃度は、スラリー全体に対して10体積%であった。 得られたスラリーから液体成分の一部を除去するとともに、真空土練機を使用して外径φ10mm、壁厚2mmの円筒型に成形して一次成形体である練土を得た。得られた練土のアルミナ濃度は、49.1〜54.3体積%であった。この練土を室温で24時間乾燥した後、電気炉に入れ、昇温速度100℃/時間で800℃まで昇温させた後、800℃で2時間仮焼し、次いで、冷却速度100℃/時間で室温まで冷却して成形体を得た。 得られた成形体を再度電気炉に入れ、昇温速度100℃/時間で1550℃まで昇温させた後、1550℃で2時間焼成し、次いで、冷却速度100℃/時間で室温まで冷却して焼結体を得た。(比較例1) 成形助剤添加前スラリーの調製に際し、PAAを添加しなかったこと以外は、前述の実施例1と同様の方法により成形体及び焼結体を得た。(比較例2) 成形助剤添加前スラリーの調製に際し、成形助剤添加前スラリーのPAA含有割合を、アルミナ粉末に対して0.4質量%としたこと以外は、前述の実施例1と同様の方法により練土を作製した。作製した練度を、実施例1と同様に真空土練機を使用して成形しようと試みたが、外径φ10mm、壁厚2mmの円筒型口金から練土を押し出すことができず、成形体及び焼結体を得ることはできなかった。[被覆率の測定]: 遠心分離により成形助剤添加前スラリーを固相と液相に分離した。なお、アルミナ粉末の表面に吸着していないPAAは液相へ、アルミナ粉末の表面に吸着しているPAAは固相へ、それぞれ分離される。分離した固相(粉末)を熱分析装置に設置して昇温し、アルミナ粉末の表面に吸着しているPAAを消失させて、PAAの消失に伴う質量減少量(PAAの吸着割合)から被覆率を測定・算出した。測定・算出した被覆率を表1に示す。また、図1は、PAAの吸着割合を示すグラフである。 図1に示すように、比較例2ではPAAの含有割合が0.4質量%であったにもかかわらず、熱分析装置で測定したPAAの吸着割合は0.2質量%であった。即ち、PAAの含有割合が、アルミナ粉末に対して0.2質量%以上であれば、アルミナ粉末の表面は全てPAAによって被覆されて被覆率が100%になるものと推測される。一方、実施例1では、熱分析装置で測定したPAAの吸着割合は0.12質量%であった。以上のことから、実施例1、比較例1、及び比較例2では、PAAによるアルミナ粉末の表面の被覆率は、表1に示すようにそれぞれ60%、0%、及び100%であると算出することができる。[メチルセルロース(成形助剤)の吸着割合の測定]: 実施例1、比較例1、及び比較例2で得たスラリーを、遠心分離により固相と液相に分離した。なお、アルミナ粉末の表面に吸着していないPAA及びメチルセルロースは液相へ、アルミナ粉末の表面に吸着しているPAA及びメチルセルロースは固相へ、それぞれ分離される。分離した固相(粉末)を熱分析装置に設置して昇温し、アルミナ粉末の表面に吸着しているPAA及びメチルセルロースを消失させて、PAA及びメチルセルロースの消失に伴う質量減少量を測定した。メチルセルロースが隣接するアルミナ粉末どうしの間で架橋している割合(吸着割合)は、PAA及びメチルセルロースの消失に伴う質量減少量から、被覆率測定の際に得られたPAAの消失に伴う質量減少量を減ずることにより求めることができる。結果を表1及び図2に示す。 表1及び図2に示すように、成形助剤であるメチルセルロースがアルミナ粉末に吸着している割合(架橋率)は、比較例1では0.43質量%であるのに対し、実施例1では0.21質量%であった。この原因としては、実施例1ではPAAがアルミナ粉末の表面を部分的に被覆したことで、メチルセルロースがアルミナ粉末の表面へ吸着する部分が減少したためであると推測することができる。また、比較例2では、メチルセルロースがアルミナ粉末に吸着されていない(アルミナ粉末どうしを架橋していない)ことが明らかである。これは、PAAによる被覆率が100%であるため、メチルセルロースがアルミナ粉末の表面に吸着する部分がなくなったためであると推測することができる。なお、以上の結果から、PAAとメチルセルロースとの親和性は低いことが分かる。[無機物質粉末成形体の外観]: 図3は、実施例1及び比較例1で製造した成形体を側面からみた状態を示す写真である。また、図4は、実施例1及び比較例1で製造した成形体を斜め上から見た状態を示す写真である。図3及び図4に示すように、実施例1で製造した成形体の形状はまっすぐであり、反りや歪み等の不良が認められないのに対し、比較例1で製造した成形体には反り及び歪みが認められることが明らかである。[無機物質粉末成形体の相対密度]: アルキメデス法によって測定した。より具体的には、製造した成形体を、その乾燥質量(Wg)を測定した後、水中に浸した。30分間真空下で減圧して成形体に含まれている空気を除去し、成形体の水中質量(Wi)、及び湿潤質量(Wd)を測定した。測定した乾燥質量(Wg)、水中質量(Wi)、及び湿潤質量(Wd)、並びに測定時の水温における水の密度(Dw)から、下記式(1)により成形体の密度を算出した。また、下記式(2)で表すように、算出した密度を真密度で除することにより相対密度を算出した。結果を表2及び図5に示す。 密度(g/cm3)=Wg×Dw/(Wd−Wi) (1) 相対密度(%)=(密度/真密度)×100 (2) 表2及び図5に示すに示すように、実施例1では、練土のアルミナ濃度が50体積%以上である場合に、得られる成形体の相対密度が55%以上であった。また、アルミナ濃度が53.3体積%の練土を用いた場合には、成形体の相対密度は56.9%にも達した。一方、比較例1では、練土のアルミナ濃度が53.3体積%の場合であっても、得られる成形体の相対密度は53.7%にとどまった。これは、比較例1で用いた練土の流動性が乏しく、成形時にアルミナ粉末が凝集体の状態で挙動したことにより、アルミナ粉末が安定な状態で配列されなかったためであると推測される。[無機物質粉末焼結体の外観]: 図6は、実施例1及び比較例1で製造した焼結体を側面からみた状態を示す写真である。図6に示すように、実施例1で製造した焼結体の形状はまっすぐであり、反りや歪み等の不良が認められないのに対し、比較例1で製造した焼結体には反り及び歪みが認められることが明らかである。 図7A〜図7Cは、実施例1で製造した焼結体の切断面を示す写真であり、図8A〜図8Cは、比較例1で製造した焼結体の切断面を示す写真である。なお、図中の「水分量」は、練土に含まれていた水分の含有割合である。図7A〜図7Cに示すように、実施例1で製造した焼結体の肉厚(壁厚)は、用いた練土の水分量がいずれの場合であっても均一であった。これに対して、図8A〜図8Cに示すように、比較例1で製造した焼結体の肉厚(壁厚)は、用いた練土の水分量に依存せず、いずれも不均一であった。これは、練土の流動性が乏しく、成形時にアルミナ粉末が凝集体の状態で挙動したことにより、アルミナ粉末が安定な状態で配列されなかったためであると推測される。[無機物質粉末焼結体の相対密度]: アルキメデス法によって測定した。より具体的には、製造した焼結体を、その乾燥質量(Wg)を測定した後、水中に浸した。30分間真空下で減圧して焼結体に含まれている空気を除去し、焼結体の水中質量(Wi)、及び湿潤質量(Wd)を測定した。測定した乾燥質量(Wg)、水中質量(Wi)、及び湿潤質量(Wd)、並びに測定時の水温における水の密度(Dw)から、下記式(3)により焼結体の密度を算出した。また、下記式(4)で表すように、算出した密度を真密度で除することにより相対密度を算出した。結果を表2及び図9に示す。 密度(g/cm3)=Wg×Dw/(Wd−Wi) (3) 相対密度(%)=(密度/真密度)×100 (4) 表2及び図9に示すように、実施例1では、練土のアルミナ濃度が50体積%以上である場合に、得られる焼結体の相対密度が95%以上であった。これは、メチルセルロースとの親和性が低いPAAでその表面を被覆することでアルミナ粉末の流動性が向上したことに伴って、練土が保形性を維持した状態で高い流動性を発揮したため、成形時にアルミナ粉末が流動し易く、アルミナ粉末が安定な状態で配列されたためであると推測される。なお、比較例1でも、練土のアルミナ濃度が50体積%以上である場合に、得られる焼結体の相対密度が95%以上であった。これは、練土の流動性が乏しかった反面、焼結によってアルミナ粉末がシンタリングに伴って焼き固められたためであると推測される。以上の結果から、アルミナ粉末の表面をPAAで部分的に被覆した場合であっても、十分に高密度の焼結体を製造可能であることが判明した。[無機物質粉末焼結体の収縮率]: 焼結体の外径(mm)、及び押出成形の際に使用した口金の直径φ(10mm)から、下記式(5)に従って算出した。結果を表2及び図10に示す。 収縮率(%)={(口金の直径(mm)−焼結体の外形(mm))/口金の直径(mm)}×100 (5) 表2及び図9に示すように、実施例1では、練土のアルミナ濃度が50体積%以上である場合に、得られる焼結体の収縮率が19%以下であった。これは、練土の保形性及び流動性が良好であったために、アルミナ粉末が安定な状態で配列されて密度ムラが低くなり、焼結時に生じる収縮がシンタリング(粒成長)に伴うものが大部分であったためと推測される。一方、比較例1では、練土のアルミナ濃度が50体積%以上である場合には、収縮率は20%以上になることが明らかである。これは、比較例1で用いた練土の流動性が乏しく、成形時にアルミナ粉末が凝集体の状態で挙動したことにより、シンタリングの際に凝集体の空孔を埋めるような収縮も起きたためであると推測される。 本発明の無機物質粉末焼結体は、肉厚が均一であるとともに反りや歪みが極めて小さく、かつ、低収縮率なものであり、薄肉部材やハニカム構造体等として好適である。PAAの吸着割合を示すグラフである。メチルセルロースの吸着割合を示すグラフである。実施例1及び比較例1で製造した成形体を側面からみた状態を示す写真である。実施例1及び比較例1で製造した成形体を斜め上から見た状態を示す写真である。練土のアルミナ濃度に対して、成形体の相対密度をプロットしたグラフである。実施例1及び比較例1で製造した成形体を側面からみた状態を示す写真である。実施例1で製造した焼結体の切断面を示す写真である。実施例1で製造した焼結体の切断面を示す写真である。実施例1で製造した焼結体の切断面を示す写真である。比較例1で製造した焼結体の切断面を示す写真である。比較例1で製造した焼結体の切断面を示す写真である。比較例1で製造した焼結体の切断面を示す写真である。練土のアルミナ濃度に対して、焼結体の相対密度をプロットしたグラフである。練土のアルミナ濃度に対して、焼結体の収縮率をプロットしたグラフである。 無機物質粉末の表面を完全に被覆するために必要な表面改質剤の最小量を予め算出する予備工程と、 前記無機物質粉末と、前記最小量未満の量の前記表面改質剤とを混ぜ合わせて、前記無機物質粉末の表面を被覆率15〜70%にて前記表面改質剤で被覆する第一の工程と、 前記第一の工程に続いて、成形助剤および溶媒を添加してスラリーを得る第二の工程と、 前記スラリーから液体成分の少なくとも一部を除去して練土を得る第三の工程と、 前記練土を成形して無機物質粉末成形体を得る第四の工程と、を有する無機物質粉末成形体の製造方法。 前記無機物質粉末、前記表面改質剤、前記成形助剤、及び前記溶媒を含有する混合物を遠心分離して得られる固相を燃焼させた場合に、 前記成形助剤の消失に起因する質量減少率が、0.05〜0.4質量%である請求項1に記載の無機物質粉末成形体の製造方法。 前記練土に含まれる前記成形助剤の割合が、前記無機物質粉末100質量%に対して、0.1〜20質量%である請求項1または2に記載の無機物質粉末成形体の製造方法。 請求項1〜3のいずれか一項に記載の無機物質粉末成形体の製造方法により得られた前記無機物質粉末成形体を焼成して得られる無機物質粉末焼結体。 前記練土に含まれる前記無機物質粉末の割合が50体積%以上であるとともに、その収縮率が19%以下である請求項4に記載の無機物質粉末焼結体。 前記練土に含まれる前記無機物質粉末の割合が50体積%以上であるとともに、その相対密度が95%以上である請求項4又は5に記載の無機物質粉末焼結体。 請求項1〜3のいずれか一項に記載の無機物質粉末成形体の製造方法により得られた前記無機物質粉末成形体を焼成して無機物質粉末焼結体を得ることを含む無機物質粉末焼結体の製造方法。