タイトル: | 公開特許公報(A)_ハトムギを原料とする醸造酒及びその製造方法 |
出願番号: | 2008072226 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C12G 3/02 |
大庭 理一郎 JP 2009225685 公開特許公報(A) 20091008 2008072226 20080319 ハトムギを原料とする醸造酒及びその製造方法 財団法人くまもとテクノ産業財団 801000050 特許業務法人特許事務所サイクス 110000109 大庭 理一郎 C12G 3/02 20060101AFI20090911BHJP JPC12G3/02 3 OL 8 4B015 4B015AG02 4B015AG17 本発明は、ハトムギを原料とした醸造酒及びその製造方法に関する。 ハトムギは、古くから、利尿、排膿、消炎、鎮痛、滋養にきく漢方薬として知られている。ハトムギはまた、浮腫、皮膚の荒れ、イボ、皮膚の異物を取り去り、肌を美しくする、また身体の疼痛、リュウマチ、神経痛を和らげ、人体の抵抗力を高め、強肝作用を有し、抗癌効果があり、整腸作用があり、強精作用を持つとされている。 ハトムギを原料とした飲食物としてはハトムギ茶が広く知られている。しかし、ハトムギ茶を除いては、ハトムギを原料とする飲食物はあまり知られていない。その中でも、 ハトムギを発酵原料として用いたアルコール飲料としては、ハトムギ焼酎(特許文献1)及びハトムギ発泡酒(特許文献2)が知られている。 特許文献1に記載のハトムギ焼酎は、ハトムギを含む複数の原料を発酵させ、次いで蒸留することにより製造されたアルコール飲料である。該ハトムギ焼酎は、発酵した酒を蒸留したものであるため、上記原料であるハトムギ中の効能を持つ成分が焼酎側に移行せず、焼酎滓側に残存している可能性が高い。 特許文献2に記載のハトムギ発泡酒は、ハトムギを原料として発酵させているが、アルコール含有量が4%程度である。 ハトムギを含む醸造酒としては、ハトムギの殻を取り除き、ハトムギの実を醸造酒等に加えたよく苡仁酒が知られている。特開平2004−105053特開平11−169161 しかし、ハトムギを原料として発酵して得られた醸造酒についてはこれまでに知られていない。このことについて、本発明者らは、ハトムギを原料として常法に従って醸造酒を製造する場合、ハトムギの独特のえぐい性質により醸造酒の風味が劣るために、これまでにハトムギを原料とする醸造酒が製造されなかったと考えた。 そこで、本発明においては、ハトムギを発酵原料とする、醸造酒として適したアルコール度数を有し、香気成分を多量に含み、かつ口当たりが良い醸造酒及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とした。 本発明者らは鋭意研究した結果、ハトムギ粉末を水に加えて加熱・ペースト化し、所定の温度で白麹と酒用酵母を組み合わせて発酵することにより、醸造酒として適したアルコール度数を有し、香気成分を多量に含み、かつ口当たりが良い醸造酒を経済的に効率よく製造することができた。さらに、上記醸造酒は、本来ハトムギが有する生体機能性物質を損なうことなく有効に利用した醸造酒である。本発明は、これらの知見に基づいて完成された発明である。 すなわち本発明によれば、ハトムギを原料として発酵して得られる醸造酒であって、エタノール含有量が15.0質量%以上、イソアミルアルコール含有量が100体積百万分率(ppm)以上、及びアセトアルデヒド含有量が500ppm以下である、前記醸造酒が提供される。 さらに本発明の別の態様として、ハトムギを水に加えて加熱することによりハトムギペーストを得る工程、及び前記ハトムギペーストを冷却し、次いで白麹及び酒用酵母を加えて28℃以下の温度で発酵させる工程を含む、ハトムギを原料とする醸造酒の製造方法が提供される。 好ましくは、前記酒用酵母が協会7号酒用酵母である。 本発明の醸造酒は、香気成分を含んでおり、味が良い。また、活性酸素除去効果がある。さらに、本発明の醸造酒は原料のハトムギの薬効成分はそのまま残存しているので、ハトムギが本来有している人体の抵抗力を高め、強肝作用を有し、抗癌効果、整腸作用があり、活性酸素除去効果があり、抗インフルエンザウイルス活性、ヒト免疫不全ウイルス活性のあることが期待できる。本発明の醸造酒は以上のような効果を有するため、健康飲料として非常に有用である。 本発明の醸造酒は、そのまま、アルコール飲料として食することもできるし、ケーキ等に混合して使用され得る。更に醸造酒は酢酸菌を加えて食用酢にして使用することも可能である。 本発明の製造方法によれば、上記した醸造酒を製造することができる。 本発明につき以下に詳しく説明する。 本発明の醸造酒は、ハトムギを原料として発酵して得られる醸造酒であって、エタノール含有量が15.0質量%以上、イソアミルアルコール含有量が100体積百万分率(ppm)以上、及びアセトアルデヒド含有量が500ppm以下である、前記醸造酒である。 本発明では、原料として、ハトムギを使用する。本発明におけるハトムギとは、イネ科の1年草の実で、楕円形の淡い褐色をしている。このハトムギは漢方名を「ヨクイニン」と言い、殻をむいた子実の形がハトの形に似ている。 本明細書にいう「含有量」とは、本発明の醸造酒に含まれる量を意味し、例えば、醸造酒あたりの質量%や体積百万分率(ppm)などの濃度で表すことができる。エタノール含有量、イソアミルアルコール含有量及びアセトアルデヒド含有量は実施例に記載の方法により測定することができる。 本発明の醸造酒は、エタノール含有量が15.0質量%以上、イソアミルアルコール含有量が100体積百万分率(ppm)以上、及びアセトアルデヒド含有量が500ppm以下である。本発明の醸造酒は、上記組成であるために、まろやかで、風味が良く、味も日本酒と大差ない。したがって、実施例中の比較例で示した通り、エタノール含有量が15.0質量%未満、イソアミルアルコール含有量が100ppm未満、及び/又はアセトアルデヒド含有量が500ppm以上である醸造酒は、まろやかさや風味に欠け、日本酒に適さない。 本発明の醸造酒は、好ましくは糖含有量が20mg/ml以上あり、機能的にDPPHが500μMTrolox eq.以上あることが好ましい。 本発明の製造方法は、ハトムギを水に加えて加熱することによりハトムギペーストを得る工程、及び前記ハトムギペーストを冷却し、次いで白麹及び酒用酵母を加えて28℃以下の温度で発酵させる工程を含む、ハトムギを原料とする醸造酒の製造方法である。 本発明の製造方法では、ハトムギを糖化するための糖化剤として、白麹を用いる。白麹はアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・カワチイ(Aspergillus Kawachii)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)等を含む白麹を用いることが好ましい。これらの微生物はいずれも市販されており、入手が容易である。 本発明の製造方法で用いる酒用酵母とは、清酒等の発酵に使用される酒用酵母であって、例えば財団法人日本醸造協会により頒布されている酒用酵母である協会7号、協会9号等を挙げることができる。これらのうちでは、協会7号として市販されている酒用酵母を用いることが得られる醸造酒の味が香気に富んだになるため好ましい。これらの微生物はいずれも市販されており、入手が容易である。 本発明のハトムギを原料とする香気成分を含有する醸造酒の製造方法においては、まず、ハトムギに水を加えた後に加熱し、ペースト状にする。ハトムギをペースト状にするには、好ましくは、ハトムギをまず粉砕し、粉末状にする。粉砕する方法としては、公知の各種の方法を採用することができる。小試的には、ハトムギを石うすで粉砕する方法、ミキサーで粉砕する方法等の方法を挙げることができる。大量に処理する方法としては、ハトムギをそのまま、あるいは凍結させた状態でせん断ミル、ハンマーミル等で、せん断力、あるいは衝撃力で粉砕する装置を用いてハトムギの粉末状物を作製することができる。 本発明の製造方法における好ましい態様においては、ハトムギの粉末状物に水を添加した後、好ましくは100℃以上、特に好ましくは120℃程度の温度に加熱して、ハトムギのデンプンをα化するとともにペースト状にする。 ハトムギペーストを製造するための加熱装置としては、通常の釜、加熱容器でもよいが、できれば、120℃程度の加熱が可能な耐圧加熱容器であることが好ましい。 ハトムギと水との配合比(重量)は、好ましくは、1:2〜2:1、特に好ましくは、1:1.5〜1.5:1の範囲である。 本発明の製造方法におけるハトムギペーストを冷却し、次いで白麹及び酒用酵母を加えて28℃以下の温度で発酵させる工程においては、ハトムギを水に加えて加熱することによりハトムギペーストを得る工程で得られたハトムギのペーストに糖化剤としての白麹とアルコール発酵のための酵母を添加する。添加する方法は特別の装置を必要とせず、公知の混合装置、例えば翼付撹拌機反応容器、あるいはスターラー撹拌機を備えた反応容器、ミキサー等を用いることができる。白麹と酵母の混合・撹拌には機械を用いずに手動で行ってもよい。 ハトムギペーストと白麹とが合計で100質量部ある場合、ハトムギペーストが通常95〜60質量部、好ましくは90〜70質量部であり、白麹が通常5〜40質量部、好ましくは10〜30質量部の範囲である。 本発明の製造方法の製造方法においては、ハトムギペーストに、白麹と酵母を同時に配合してもよいし、逐次配合してもよい。好ましくは、ハトムギペーストに最初に白麹を配合し、次いでハトムギと白麹との混合物に、酒用酵母を混合する。 ハトムギペーストと酵母とが合計で100質量部ある場合、ハトムギペーストが通常99.5〜90質量部、好ましくは99〜95質量部であり、酵母が通常0.5〜10質量部、好ましくは1.0〜5質量部の範囲である。 酵母は、好ましくは、水に懸濁分散させた状態でハトムギペーストに添加する方がハトムギペースト中に均一に分散しやすいため、好ましい。 上記の製造方法においては、アルコール発酵時の温度を29℃以上の高温にしないことが好ましい。すなわち、ハトムギペースト、白麹、酒用酵母及び好ましくは水との混合物を28℃以下、好ましくは10〜28℃、特に好ましくは15℃〜27℃、なおさらに好ましくは23〜27℃の温度範囲で放置し発酵させる。糖化およびアルコール発酵に要する時間は、通常3〜7日間、好ましくは4〜6日間である。 発酵が終了したのち、発酵残渣をろ過等の方法で除去することにより、本発明の醸造酒を得ることができる。 次ぎに実施例を挙げて本発明につき更に詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれらの実施例になんら制約されない。なお、本発明における醸造酒の成分の含有量、およびその性能は以下の方法で測定した値である。 (エタノール含有量:質量%) 醸造酒を、卓上遠心分離機(KUBOTA,KN−70)にて遠心(3000rpm、5分間)し、得られた醸造酒の上清に対して内部標準物質として1.0質量%に調製したエタノールを4:1の割合で混合する。得られた混合液をマイクロシリンジに2.0μl分取し、島津製作所GC14ガスクロマトグラフィーを用いて内部標準法による直接注入法にて分析した。ガスクロマトグラフィー条件を以下に示す。 カラム : PED−HT5% キャリアーガス : 窒素 カラム温度 :55℃―5分、以後5℃/分の速度で150℃まで昇温 インジェクション温度: 170℃ 検出温度 : 170℃ 検出端 : FID (還元糖量含有量:mg/ml) ソモギ・ネルソン法を用いて測定した。試験管にサンプル0.5mlとソモギ銅試薬(シグマ アルドリッチ ジャパン(株))1mlを入れて撹拌混合し、ビー玉で栓をした後、沸騰浴中にて10分間湯煎した。湯煎後、5分間流水にて冷却し、ネルソン呈色試薬(シグマ アルドリッチ ジャパン(株))1mlを加え撹拌混合し、室温で30分間静置した。静置後、脱イオン水5mlを加え、分光光度計にて520nmにおける吸収値を測定した。なお、標準物質としてはグルコースを用いた。 (イソアミルアルコール含有量及びアセトアルデヒド含有量:ppm) 醸造酒を卓上遠心分離機(KUBOTA,KN−70)にて遠心(3000rpm、5分間)し、得られた醸造酒の上清に対して内部標準物質として0.2質量%に調製したn−アミルアルコールを4:1の割合で混合する。得られた混合液をマイクロシリンジに5.0μl分取し、島津製作所GC14ガスクロマトグラフィーを用いて内部標準法による直接注入法にて分析した。香気成分、およびアセトアルデヒドの同定は、市販試薬のリテンションタイムとの比較にて行った。ガスクロマトグラフィー条件を以下に示す。 カラム : WAX−TC キャリアーガス : 窒素 カラム温度 :55℃―5分、以後5℃/分の速度で200℃まで昇温 インジェクション温度: 230℃ 検出温度 : 230℃ 検出端 : FID (ラジカル消去活性:μMTrolox eq.) ラジカル消去能はDPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)のラジカルに対する消去能を測定することで評価することができる。 DPPHは安定なラジカルであるが、ラジカル消去物質によって、非ラジカル体に変化する。そこで、DPPHが溶液で存在するときの波長520nmでの吸収の減少度を分光光度計で測定することにより、ラジカル消去活性を評価した。(味の官能試験) 官能試験は成人男女10名で行った。一応飲める味を3、清酒と同様の最高の味を5、まずくて飲めないのを1として、各サンプルの評価を行った。10名の評価結果の平均値が4以上を◎、3以上4未満を○、3未満を×として表示した。(香の官能試験) 官能試験は成人男女10名で行った。匂いで一応の匂いを3、清酒と同様の最高の匂いを5、鼻につんとくる等まずい匂いを1として、各サンプルの評価を行った。10名の評価結果の平均値が4以上を◎、3以上4未満を○、3未満を×として表示した。(実施例1)下記材料を用いたハトムギ:タイ産ハトムギ(Cix lacryma-jobi var.frumentacea)、(株)ファインより入手白麹(Aspergillus kawachii):研究室で製麹各種酵母:日本醸造協会から入手 粉末にしたハトムギ40gに脱イオン水50mlを加え、オートクレーブ(121℃―10分間)にかけた。ハトムギペーストを放冷後、乾燥白麹20gを加え3x107セル/mlに調製した協会7号酒用酵母50mlを加え、更に使用する水の量が100mlになるよう調整した。次いで発酵管を取り付け25℃で、5日間発酵を行った。固形分をろ過して除去した後、得られた醸造酒の品質評価を行った。結果を表1に示す。なお、香気、味において、◎は、日本酒と同等の優れた味、香気がある、○は、良質な味、香気がある、×は、不快な味、香気があることを表す。 実施例1において、使用した酵母を協会7号酒用酵母から、焼酎2号酵母に変える以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。 実施例1において、使用した酵母を協会7号酒用酵母から、ワイン4号酵母に変える以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。ワイン酵母では、味、香気ともまずい醸造酒しか得られなかった。 (比較例2) 実施例1において、発酵温度を25℃から30℃に変える以外は実施例1と同様に行った、結果を表2に示す。発酵温度が30℃では、得られた醸造酒は、アセトアルデヒドが多く、香気が劣っていた。 (比較例3) 参考例1において、発酵温度を25℃から30℃に変える以外は参考例1と同様に行った、結果を表2に示す。 (比較例4) 比較例1において、発酵温度を25℃から30℃に変える以外は比較例1と同様に行った、結果を表2に示す。 (比較例5) 実施例1において、白麹を黄麹に変える以外は実施例1と同様に行った、結果を表3に示す。黄麹を用いると、糖化が進まず、エタノール濃度の低い醸造酒しか得られなかった。 参考例1において、白麹を黄麹に変える以外は参考例1と同様に行った、結果を表3に示す。 (比較例7) 比較例1において、白麹を黄麹に変える以外は比較例1と同様に行った、結果を表3に示す。 (比較例8) ハトムギを加熱処理しない以外は、比較例2と同様に行った。結果を表4に示す。加熱処理しないハトムギから得られた醸造酒は、味、香気とも不十分であり、かつDPPHラジカル消去活性能が低い結果となった。 (比較例9) ハトムギを加熱処理しない以外は、比較例3と同様に行った。結果を表4に示す。 (比較例10) ハトムギを加熱処理しない以外は、比較例4と同様に行った。結果を表4に示す。 (比較例11) 比較例8において、白麹をグリコミラーゼ製剤AN−II(新日本工業(株)製、Aspergillus niger起源)に変える以外は比較例8と同様に行った。結果を表5に示す。グリコミラーゼ製剤では糖化が進まず、かつ味、香気とも劣った醸造酒しか得られなかった。 (比較例12) 比較例2において、白麹をグリコミラーゼ製剤AN−IIに変える以外は比較例2と同様に行った。結果を表5に示す。 ハトムギを原料として発酵して得られる醸造酒であって、エタノール含有量が15.0質量%以上、イソアミルアルコール含有量が100体積百万分率(ppm)以上、及びアセトアルデヒド含有量が500ppm以下である、前記醸造酒。 ハトムギを水に加えて加熱することによりハトムギペーストを得る工程、及び前記ハトムギペーストを冷却し、次いで白麹及び酒用酵母を加えて28℃以下の温度で発酵させる工程を含む、ハトムギを原料とする醸造酒の製造方法。 前記酒用酵母が協会7号酒用酵母である、請求項2に記載の製造方法。 【課題】ハトムギを発酵原料とし、従来の方法より口当たりがよく香気成分の含有量の高い醸造酒を工業的に製造する方法を提供すること。【解決手段】ハトムギを水に加えて加熱することによりハトムギペーストを得る工程、及び前記ハトムギペーストを冷却し、次いで白麹及び酒用酵母を加えて28℃以下の温度で発酵させる工程を含む、ハトムギを原料とする醸造酒の製造方法。【選択図】なし