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タイトル:公開特許公報(A)_L−システインの精製方法
出願番号:2008028833
年次:2008
IPC分類:C12P 13/12,C12N 1/00


特許情報キャッシュ

アンドレアス ベーム JP 2008194043 公開特許公報(A) 20080828 2008028833 20080208 L−システインの精製方法 ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト 390008969 Wacker Chemie AG 矢野 敏雄 100061815 山崎 利臣 100094798 久野 琢也 100099483 杉本 博司 100110593 星 公弘 100128679 二宮 浩康 100135633 アインゼル・フェリックス=ラインハルト 100114890 ラインハルト・アインゼル 230100044 アンドレアス ベーム DE 102007007333.1 20070214 C12P 13/12 20060101AFI20080801BHJP C12N 1/00 20060101ALI20080801BHJP JPC12P13/12 BC12N1/00 K 9 OL 12 4B064 4B065 4B064AE14 4B064CE11 4B064DA16 4B065BD14 4B065BD22 4B065CA17 本発明は、L−システインを含有する発酵ブロスからL−システインを精製するための方法に関する。 L−システインは、水中への良好な可溶性と、多くの試薬に対して、例えば酸化剤に対して高いSH基の感受性に基づき、非常に困難にのみ、高い費用をかけて精製し、単離することができるアミノ酸である。それに対して、アミノ酸のL−シスチンは、その低い水溶性と、例えば酸化剤に対する比較的高い安定性に基づき、容易に、非常に高い純度で、複合物質混合物から、例えばタンパク質加水分解物又はL−シスチンを含有する発酵ブロスからも精製し、単離することができる。DE10040176号A1には、例えば細胞含有懸濁液あるいは発酵ブロスからL−シスチンを単離するための非常に簡単な方法が記載されている。 複合物質混合物から、例えばタンパク質加水分解物から(例えばヒトの毛髪もしくは動物起源(例えば羽毛もしくは剛毛)から)又は相応の発酵ブロスからL−システインを工業的に製造することは、従ってまず、難溶性のL−シスチンを精製された形で単離することによって行われる。係る複合物質混合物中に存在することがあるL−システインもしくは別のL−システイン誘導体は、その際、狙い通りに、かつできる限り完全に、例えば酸化によってL−シスチンに変換される。次いで、L−シスチンは、引き続いての還元(例えば電気分解による)によってL−システインに転化される。しかしながら、この方法には欠点がある。それというのも、L−システインを、二段階法において中間体のL−シスチンを介して費用をかけて製造せねばならないからである。 L−システイン、L−シスチン、L−セリン及び無機塩を含有する溶液からのL−システインの直接的な単離は、EP0250987号B1に記載されている。塩化水素の添加によって、まず、少なくとも20℃で、L−シスチン及び無機塩は結晶化され、濾別される。残りの、なおもL−システイン及びL−セリンを含有する溶液から、次いで、最高10℃で、L−システイン塩酸塩一水和物は、高い純度で結晶化され、単離される。しかしながら、L−システイン、L−シスチン、L−セリン及び無機塩を含有する溶液に制限が課され、複合物質混合物、例えばタンパク質加水分解物又は発酵ブロスからL−システインを高収率及び高純度で得ることは不可能である。 EP1645623号A1、EP1298200号B1、US20050221453号A1、EP1234874号A1及びEP1571223号A2において、L−システインを発酵ブロスから、イオン交換、結晶化及び他の公知法を組み合わせることによって単離することが記載されている。しかしながら、達成される収率と純度を文書化した具体的な様式についての記載はない。 EP1650296号A1においては、L−システインを発酵ブロスから、固体の遠心分離もしくは膜濾過による除去、引き続いてのアミノ酸のイオン交換、濃縮及び結晶化による単離と精製によって単離することが記載されている。ここでも、達成される収率と純度について具体的な様式の記載は存在しない。 複合物質混合物からの、例えばL−システインを含有する微生物の発酵ブロスからのL−システインの直接的かつ廉価な精製及び製造は、従って依然として未解決の課題である。工業的規模で反応させることが可能な方法であって、それによりL−システインを、L−システインを含有する発酵ブロスから廉価に、直接的に、かつ例えば酸化によるL−シスチンへの誘導体化を行い引き続きL−システインに還元させることを伴うことなく、高純度及び/又は高収率で得られる方法は知られていない。 EP0885962号B1、EP0858510号B1及びEP1220940号B1において、L−システインの発酵的製造方法が記載されている。これらの方法は、L−システインを多量に含有する発酵ブロスを廉価に得ることを可能にする。 係るL−システインを含有する発酵ブロスは、極めて複合された物質混合物である。該発酵ブロスは、L−システインの他に、一般に、発酵条件下で、特に存在する酸素による酸化によってL−システインから容易に形成されるL−シスチンを含有する。更に、アルデヒドもしくはケトンが存在する場合に、例えばEP0885962号B1に記載されるように、L−システインのヘミチオケタール及び/又はチアゾリジン誘導体が存在することがある。少量においては、該発酵ブロスは、他のアミノ酸又はそれらの誘導体をも含有することがある。更に、前記発酵ブロスは、一般に、炭水化物、有機及び無機のカチオン及びアニオンの塩、例えばアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩並びに微量の重金属塩(例えばFe、Cu、Mn、Znなど)、色素及び他の不純物及び添加物、例えば発酵に際して使用される微生物の不所望な代謝産物を含有する。更に、該発酵ブロスは、例えばEP0885962号B1、EP0858510号B1及びEP1220940号B1に記載されるように、なおも、発酵で使用される原料及び内容物、例えば通常の炭素源、例えばグルコース、ラクトース、デンプンなど、窒素源、例えばアンモニア/アンモニウム又はタンパク質もしくはタンパク質加水分解物など、並びに硫黄源、例えば硫化物、亜硫酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩もしくは亜ジチオン酸塩などを含有することがある。L−システインは硫黄含有アミノ酸であるので、その発酵の間に、たいていは、L−システインの形成のために必要な硫黄を十分な量で提供するために、硫黄源、例えば硫化物、亜硫酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩又は亜ジチオン酸塩が投入される。更に、該発酵ブロス中に、発酵の間に投入される酸素によって、溶解された酸素も含まれている。この発酵ブロスのpH値は、通常は、例えばEP0885962号B1に記載されるように、pH7である。 発酵ブロス又はそれ以外の溶液における、L−システインの、例えばL−シスチンへの酸化は、SH基を酸化することが可能なあらゆる酸化剤によって実施することができる。L−システインの酸化の主生成物としてシスチンが形成される他に、その際には、より高度に酸化されたL−システイン及び/又はL−シスチンの化合物が生ずることがある。従って、L−システインの直接的な収率損失は、L−システインを含有する発酵ブロスもしくはL−システインを含有する溶液中に係る酸化剤が存在する場合に起こる。 SH基(及び従ってまたL−システイン)をpH<5のpH値で酸化することが可能な酸化剤は、例えば酸素並びに硫黄−酸素化合物である。これらの酸化剤は、L−システインを含有する発酵ブロスにおいて、一般に様々な量で含まれている。例えばチオ硫酸塩などの硫黄−酸素化合物は、この場合に、例えばEP0885962号B1に記載されるように、発酵の間に硫黄源として直接的に添加されるか、又は例えば硫化物、亜硫酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩もしくは亜ジチオン酸塩などのような他の添加される硫黄源から発酵の間に生ずることがある。ここで、例えば発酵の間に投入される酸素によって、硫化物もしくは硫化水素は、とりわけ容易にチオ硫酸塩へと酸化されうる。硫黄−酸素化合物の複雑な化学もしくはそれらの形成は、例えばHollemann−Wiberg著の無機化学の教科書(Lehrbuch der Anorganischen Chemie),第91〜100版、Walter de Gruyter、ベルリン−ニューヨーク、1985年、第485〜523頁に詳細に記載されている。 L−システインは、酸化剤としての酸素によって、有利には高いpH値において、特に容易に酸化される。L−システイン溶液は、酸素による酸化に対して、溶液のpH値を低下させることによって安定化させることができる。ここで、更に、L−システイン塩酸塩を、有利には塩酸中に溶かした水溶液は、例えばpH7以上のpH値を有するL−システインの水溶液よりも、酸素による酸化に対して実質的に安定であることは知られている。 それに対して、多くの硫黄−酸素化合物では、SH基に対する酸化力が強まり、従ってpH値が下がると、L−システインに対しても部分的に明らかに強まる。これらの酸化剤は、L−システインを含有する発酵ブロスにも、又はそこから精製されたL−システインを含有する溶液にも含まれていてよいが、例えば発酵の間に生ずるpH値では、L−システインは酸化されないか、又は非常に僅かな規模でしか酸化されず、それに対してpH値が下がると、特にpH<5のpH値の場合には、L−システインは部分的に非常に良好に酸化される。 SH基、従ってまたL−システインを酸化することができる硫黄−酸素化合物のための例は、たとえば二酸化硫黄又は三酸化硫黄である。また、亜硫酸塩溶液を酸性化させた場合にも、連続的に二酸化硫黄が遊離され、それは次いでSH基を酸化させることができる。硫黄源としてL−システインの発酵において有利に使用され、かつ発酵の間に生ずるようなpH>5、有利にはpH=7のpH値でL−システインを事実上酸化しないチオ硫酸塩も、pH値<5の場合にはL−システインを酸化させ、その際、pH値が下がると、酸化力もしくは酸化速度は高まる。 一連の他の硫黄−酸素化合物と、有利には酸性環境における、それらのSH基の酸化能力は、また、Hollemann−Wiberg著の無機化学の教科書,第91〜100版、Walter de Gruyter、ベルリン−ニューヨーク、1985年、第485〜523頁に記載されている。 更に、SH基の酸化を触媒できる一連の化合物が存在する。ここで、例えば重金属塩は、システインのシスチンへの酸化を効果的に触媒しうることは知られている。例えば鉄塩もしくは亜鉛塩などの重金属塩は、発酵において、しばしば必須の添加物であり、従ってまた相応の発酵ブロスにおいて、通常少量で含まれている。 L−システインを含有する溶液もしくは発酵ブロスが、pH<5のpH値でL−システインを、例えばL−シスチンに酸化させることができる酸化剤を含有するときは、係る溶液もしくは発酵ブロスがpH<5に酸性化された場合に、直接的な収率損失が引き起こされる。好ましい最終生成物であるL−システイン塩酸塩一水和物は、強酸性溶液から結晶化されるので、L−システインに対する酸化剤含有率に依存して、存在するL−システインの100%までの収率損失の可能性がある。DE10040176号A1EP0250987号B1EP1645623号A1EP1298200号B1US20050221453号A1EP1234874号A1EP1571223号A2EP1650296号A1EP0885962号B1EP0858510号B1EP1220940号B1Hollemann−Wiberg著の無機化学の教科書,第91〜100版,Walter de Gruyter,ベルリン−ニューヨーク,1985年,第485〜523頁 本発明の課題は、精製されたL−システインを含有する溶液を、L−システインを含有する発酵ブロスから製造するための、簡単で、廉価な工業的に実施できる方法を提供することである。前記溶液から、次いで必要に応じて、L−システイン、L−システイン塩酸塩もしくはL−システイン塩酸塩一水和物を、固体として、例えば結晶化によって得ることができる。 前記課題は、pH<5のpH値でL−システインを酸化させることができる酸化剤を含む、L−システインを含有する発酵ブロスを、pH5〜9のpH値でイオン交換体と接触させ、その際、pH<5、有利にはpH<2のpH値が該発酵ブロス中に生じ、そしてL−システインが前記イオン交換体に結合され、かつその結合されたL−システインを、溶出剤によってイオン交換体から取り出す方法によって解決される。 L−システインを含有する発酵ブロスは、既に記載したようにして得ることができる。前記の発酵ブロスは、有利には細胞と固体を分離除去した後に、イオン交換体によって精製される。イオン交換体としては、酸性もしくは塩基性のイオン交換体を使用することができる。L−システインは両性化合物なので、酸性のイオン交換体での結合及び精製も、塩基性のイオン交換体での結合及び精製もいずれも可能である。酸性のイオン交換体と塩基性のイオン交換体は、公知であり、かつ市販されている。種々の適した材料の選択は、ウールマンの工業化学事典(Ullmann’ Encyclopedia of Industrial Chemistry)、A14版、第451頁にまとめられている。イオン交換体は、活性なイオン交換性基として、例えばカルボン酸基(弱酸性のイオン交換体)、スルホン酸基及びホスホン酸基(強酸性のイオン交換体)、第四級アンモニウム基(強塩基性のイオン交換体)又はアミン基(弱塩基性のイオン交換体)を有する。前記の活性なイオン交換性基に対する対イオンとして、カチオン又はアニオンがイオン交換体に結合されていてよい。酸性のイオン交換体は、しばしば、プロトン化されたH+型で使用されるが、通常の他の対イオンは、例えばまた、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンである。塩基性の、特に強塩基性のイオン交換体は、しばしばOH-型で使用されるが、通常の他の対イオンは、例えばまた、塩化物イオン及び先行技術に記載される他のアニオンである。 酸性の及び強酸性のイオン交換体を使用することが好ましく、強酸性のイオン交換体を使用することが特に好ましい。そのためには、L−システインを含有する発酵ブロスを、強酸性のカチオン交換体と接触させる。これは、例えば発酵ブロスを、強酸性のカチオン交換体で充填されたカラムを介してポンプ圧入することによって行うことができる。この場合に、該カチオン交換体は、H+型で使用することが好ましい。しかしながら、原則的には、イオン交換体を別の対イオンと一緒に使用することも可能である。 適用される発酵ブロスのpH値は、その際、pH値5〜9、有利にはpH5〜7である。それというのも、さもなくば、酸化剤の量に依存して、L−システインの酸化による明らかな収率損失が起こりうるからである。 それに対して、L−システインを含有する溶液もしくは発酵ブロスであって、相応の酸化剤を非常に少量しか含有しないか又はそもそも含有しないものは、原則的に1〜14のその都度のpH値で適用することができる。強酸性のカチオン交換体を使用する場合には、その際、該溶液はそれどころか、好ましくは1〜5のpH値で適用される。それというのも、このpH値では、L−システインのイオン交換体への結合が特に効果的であり、かつ好ましくない酸化剤が存在しない場合には、L−システインの酸化も、その損失も起こらないからである。 L−システインを含有する溶液もしくは発酵ブロスを、カチオン交換体、有利には強酸性のH+型のカチオン交換体と接触させるときは、この過程で、L−システインは、ほぼ定量的にカチオン交換体に結合される。また、発酵ブロス中に含まれていることがある、他のアミノ酸、例えばL−シスチン及び/又は他のカチオンは、この場合に該樹脂に結合しうる。吸着条件(流速、負荷量、濃度、温度、樹脂など)の巧みな選択によって、これらの不純物の結合を、部分的に明らかに低減させることができる。多くの他の不純物、例えば中性化合物又はアニオンもしくはそれらに相応する酸などの不純物は、該樹脂に結合せずに、溶出液中に見られる。また、アニオン性の酸化剤もしくはそれらに相応する酸並びにまたこの酸化剤の分解生成物は、カチオン交換体に結合しない。従って、これらの不純物の効果的な分離は、このプロセス工程で達成することができる。 強酸性のカチオン交換体をH+型で使用するときは、イオン交換工程を通じて、直接的に、該樹脂中で、樹脂を流過する溶液の激しいpHシフトが引き起こされる。イオン交換工程に関与するL−システインを含有する溶液もしくは発酵ブロスのpH値並びにカチオン交換体を通る溶出液のpH値は、従って、通常は、pH<2であり、しばしばそれどころか、pH<1である(実施例を参照のこと)。 酸性のもしくは塩基性のイオン交換体に結合されるL−システインは、引き続き、通常の酸もしくは塩基もしくは塩類溶液によって樹脂から溶出される。酸としては、強酸を使用することが好ましく、塩酸を使用することが特に好ましい。塩基としては、アミンを使用することが好ましく、アンモニアを使用することが特に好ましい。特に適しているのは、水性塩酸、塩類水溶液、アミン、塩基もしくは強塩基である。 アンモニアで溶出させる場合に、L−システインで負荷されたイオン交換体を通して、種々の規定度の水性アンモニア、有利には0.1〜12Nのアンモニア、特に有利には1〜2Nのアンモニアがポンプ圧入される。得られたアンモニア精製されたL−システイン溶液は、引き続き、例えば随時、活性炭で脱色し、濃縮することができる。その濃縮された溶液から、次いで、L−システインは、例えば高純度及び高収率で結晶化させることができ、又は好適な沈殿剤を用いて沈殿させることができる。 塩酸で溶出させる場合に、L−システインで負荷されたイオン交換体を通して、種々の規定度の水性塩酸、有利には0.1〜12NのHCl、特に有利には1〜2NのHClがポンプ圧入される。 L−システインを含有する酸性の溶出液は、pH<5のpH値でL−システインを酸化させることができる酸化剤をもはや含有しない。従って、これらの溶液は、先行技術に記載されるように、例えば酸素によるL−システインの酸化に対しても安定である。pH<5のpH値でL−システインを酸化させることができる酸化剤は、イオン交換体でのL−システインの吸着で分離もしくは無くすことができ、又は別の様式で、L−システインの酸による溶出によって分離もしくは無くすことができる。 L−システインの塩酸による溶出の場合に、L−システインの精製されたHCl溶液が得られる。この溶液は、随時、濃縮され、かつ例えば活性炭を用いて脱色することができる。場合により、HClの添加後に、工業的に特に重要な生成物であるL−システイン塩酸塩一水和物が結晶化される。 溶出液の分別及び/又は勾配の使用によって、当初適用された発酵ブロス中に存在するよりもかなり高い純度を有するL−システインを得ることができる。溶出条件の巧みな選択によって、例えばL−システイン(1NのHClでの溶出が好ましい)を、L−シスチン(2NのHClでの溶出が好ましい)から、そのカラムで互いに分離することができる(実施例7及び9も参照のこと)。この実施方法が特に好ましいのは、L−シスチンは、他の方法によって、例えばL−システイン塩酸塩一水和物の結晶化によっては、L−システイン塩酸塩一水和物から非常に困難にのみ分離できるにすぎないからである。 ここで、驚くべきことに、L−システインは、pH値<5でL−システインを酸化させることができる酸化剤を含有する溶液から、イオン交換体、有利にはカチオン交換体、特に有利にはH+型の強酸性のカチオン交換体に、重要な酸化なくして吸着させて再び溶出させることができることは、このプロセス工程でpH<5、有利にはpH<2のpH値がL−システインを含有する発酵ブロス中に生ずる場合にも示された。 このことが特に驚くべきことであるのは、pH値<5でL−システインを酸化させることができる酸化剤を含有する、L−システインを含有する発酵ブロスを、通常の酸で、例えば塩酸もしくは硫酸などの酸で、pH<5にまで、有利にはpH<2にまで酸性化させた場合に、期待通りに、L−システインからL−シスチンへの明らかな酸化が観察され、それにより直接的な収率損失に結びつくからである(実施例3及び5を参照のこと)。このことは、その方法の経済性に決定的な悪影響を及ぼす。 本発明による方法により得られるL−システインを含有する溶液は、蒸留によって濃縮できるか、又は活性炭によって脱色することができる。また、これらの溶液から、L−システインもしくはL−システイン塩酸塩一水和物を結晶化させることもでき、従って更なる精製効果を達成することができる。 本発明により得られるL−システインの溶液から、好ましくは、L−システイン塩酸塩一水和物が結晶化される。 これは、本発明により得られる溶液の濃縮によって行われる。これらの濃縮された溶液から、場合により塩酸の添加後に、かつ場合により−20℃にまで冷却した後に、有利にはL−システイン塩酸塩一水和物が結晶化される。L−システイン溶液がL−システインの他になおも金属塩及び/又はアンモニウム塩又は例えばL−シスチンを含有するときは、これらの化合物は、例えば分別結晶化によって分離することができる。これは、EP0250987号B1に記載される方法に従って、少なくとも20℃で塩酸を添加することによって、相応の金属塩化物及び/又はアンモニウム塩化物及びL−シスチンを結晶化及び濾別し、次いで得られたL−システインのHCl溶液から、−20℃にまで冷却することによって、L−システイン塩酸塩一水和物を結晶化させ、単離し、そして乾燥させることで行うことができる。 前記の方法によって、L−システインは、効果的に、良好な収率で、かつ経済的に、L−システインを含有する発酵ブロスから精製することができる。必要であるか又は所望される場合には、規定のプロセス条件下で、例えば場合により存在するL−システインの誘導体、例えばL−シスチン又はチアゾリジン誘導体を、L−システインに変換することができ、従って達成される収率を高めることができる。ここで、例えばシステインのチアゾリジン誘導体の強酸性のカチオン交換体での分離は公知であり、かつEP1059288号B1に記載されている。好適な還元剤を添加することによってL−シスチンをL−システインに開裂することも、同様に考慮できる。 前記の方法によって、不純アミノ酸の含有率を、L−システインに対して、5%未満、有利には1%未満に下げることができる。また更に、塩含有率を、L−システインに対して、10%未満、有利には1%未満に下げることもできる。更に、前記の方法によって、L−システインもしくはL−システイン塩酸塩又はL−システイン塩酸塩一水和物を、L−システインを含有する発酵ブロスから、>98%の純度で、かつ>99%の光学純度で製造することができる。 有利には、本発明による方法の実施前に、第一のプロセス工程において、微生物細胞及び/又は不溶性の成分を、L−システインを含有する発酵ブロスから分離することが行われる。これは、例えば遠心分離、濾過、デカンテーション、膜濾過又は当業者に広く知られる細胞/固体を発酵ブロスから分離するための他の方法によって行われる。この分離は、場合により、濾過助剤、例えばCelite(登録商標)、活性炭もしくは珪藻土を添加して行われる。前記のプロセス工程において、有利には、細胞以外に、他の不溶性成分、例えば溶液から沈殿されるシスチン又は微生物の発酵時に生じうる他の難溶性成分の沈殿物は、同様に発酵ブロスから分離される。更に、前記のプロセス工程において、例えば巨大分子、例えばタンパク質などの巨大分子を分離することができ、もしくは場合により使用される濾過助剤もしくは活性炭などに吸着され、従って分離することができる。前記の前処理によって得られるL−システイン含有溶液も、本発明の範囲においては、発酵ブロスの概念に含まれる。 以下の実施例は、本発明をさらに説明するために役立つ。 実施例1: L−システインのO2含有溶液(pH1)の安定性 L−システイン(c=18g/l)を酸素含有水中に溶かした溶液100mlを、20%HClの滴加によりpH=1へと酸性化させる。室温で5分間撹拌した後に、その溶液は、L−システイン含有率18g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率<0.1g/lを有する。その溶液は、24時間より長い時間にわたって、L−システイン含有率に関して安定である。 実施例2: L−システインのO2含有酸性溶液(pH5)の安定性 L−システイン(c=18g/l)を酸素含有水中に溶かした溶液100mlを、20%HClの滴加によりpH=5へと酸性化させる。室温で5分間撹拌した後に、その溶液は、L−システイン含有率18g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率<0.1g/lを有する。室温で24時間撹拌した後に、その溶液は、L−システイン含有率17.6g/lを有し、かつL−シスチン含有率0.4g/lを有する。 実施例3: L−システインのチオ硫酸塩含有酸性溶液(pH1)の安定性 L−システイン(c=18g/l)及びチオ硫酸アンモニウム(c=2.5g/lのチオ硫酸塩)を水中に溶かした溶液100mlを、20%HClの滴加によりpH=1へと酸性化させる。室温で5分間撹拌した後に、その混濁した溶液は、L−システイン含有率12g/lを有し、チオ硫酸塩含有率<0.2g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率6g/lを有する。室温で24時間撹拌した後に、L−システイン含有率は、<5g/lにまで低下する。 実施例4: L−システインのチオ硫酸塩含有酸性溶液(pH5)の安定性 L−システイン(c=18g/l)及びチオ硫酸アンモニウム(c=2.5g/lのチオ硫酸塩)を水中に溶かした溶液100mlを、20%HClの滴加によりpH=5へと酸性化させる。室温で5分間撹拌した後に、その溶液は、L−システイン含有率17.5g/lを有し、チオ硫酸塩含有率2.4g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率<0.5g/lを有する。室温で24時間撹拌した後に、L−システイン含有率は、16.0g/lにまで低下する。 実施例5: L−システインのチオ硫酸塩含有酸性発酵ブロス(pH1)の安定性 pH=7のpH値を有し、L−システイン含有率18g/lを有し、チオ硫酸塩含有率2.5g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率1.1g/lを有する微生物を含有する発酵ブロス100mlを、20%塩酸の滴加により、pH=1にまで酸性化させ、そしてバイオマス及び固形分を分離するために、20分間遠心分離する(8000rpm/分)。得られた澄明な溶液は、L−システイン含有率12g/lを有し、チオ硫酸塩含有率<0.2g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率7g/lを有する。 実施例6: L−システインのチオ硫酸塩含有酸性発酵ブロス(pH5)の安定性 pH=7のpH値を有し、L−システイン含有率18g/lを有し、チオ硫酸塩含有率2.5g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率1.1g/lを有する微生物を含有する発酵ブロス100mlを、20%塩酸の滴加により、pH=5にまで酸性化させ、そしてバイオマス及び固形分を分離するために、20分間遠心分離する(8000rpm/分)。得られた澄明な溶液は、L−システイン含有率17.3g/lを有し、チオ硫酸塩含有率2.3g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率1.1g/lを有する。 実施例7: 本発明の方法による、チオ硫酸塩含有発酵ブロスの精製 pH=7のpH値を有し、L−システイン含有率18g/lを有し、チオ硫酸塩含有率2.5g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率1.1g/lを有する微生物を含有する発酵ブロス1000mlを、20%塩酸の滴加により、pH=5にまで酸性化させ、そしてバイオマス及び固形分を分離するために、20分間遠心分離する(8000rpm/分)。得られた澄明な溶液を、カチオン交換体カラム(200mlのAmberlite IR 120H、強酸性、H+型)にポンプ圧入する。この場合に、L−システインとL−シスチンは、ほぼ定量的にその樹脂に結合されて、プロトンと交換される。また、場合により、他のアミノ酸並びにその溶液中に存在するカチオンをその樹脂に結合させる。前記の交換過程の間に、樹脂を流過した溶液において、低いpH値への大きなpHシフトが生ずる。溶出液のpH値は、pH=0〜1の範囲にある。更に、該溶出液は、樹脂に結合しない一連の不純物(例えば、中性化合物、アニオンもしくはその相応する酸など)を含有するが、アミノ酸を含有しないか、もしくは少量しか含有しない。強酸性環境によって、チオ硫酸塩は完全に分解され、そして溶出液中ではもはや検出されない。酸性環境におけるチオ硫酸塩のその分解に基づき、混濁した溶出液は、とりわけコロイド状の硫黄を含有することがある。 イオン交換体カラムを400mlの水で洗浄した後に、その樹脂に結合されたL−システインを、1000mlの1NのHClで溶出させる。その生成物フラクションは、適用された発酵ブロス中に存在するL−システインの90%より多くを含有し、非常に少量のL−シスチン(0.3g;L−システインに対して2%未満)しか含有しない。2NのHClによって、該イオン交換体カラムに残留する結合されたL−シスチンを溶出させることができる(2g未満)。 実施例8: 比較例: チオ硫酸塩含有発酵ブロスの精製/pH=1での吸着 pH=7のpH値を有し、L−システイン含有率18g/lを有し、チオ硫酸塩含有率2.5g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率1.1g/lを有する微生物を含有する発酵ブロス1000mlを、20%塩酸の滴加により、pH=1にまで酸性化させ、そしてバイオマス及び固形分を分離するために、20分間遠心分離する(8000rpm/分)。得られた溶液を、カチオン交換体カラム(200mlのAmberlite IR 120H、強酸性、H+型)にポンプ圧入する。この場合に、L−システインとL−シスチンは、ほぼ定量的にその樹脂に結合されて、プロトンと交換される。また、場合により、他のアミノ酸並びにその溶液中に存在するカチオンをその樹脂に結合させる。前記の交換過程の間に、樹脂を流過した溶液において、低いpH値への更なるpHシフトが生ずる。溶出液のpH値は、pH=0〜1の範囲にある。更に、該溶出液は、樹脂に結合しない一連の不純物(例えば、中性化合物、アニオンもしくはその相応する酸など)を含有するが、アミノ酸を含有しないか、もしくは少量しか含有しない。チオ硫酸塩は、溶出液中ではもはや検出できなかった。酸性環境におけるチオ硫酸塩のその分解に基づき、混濁した溶出液は、とりわけコロイド状の硫黄を含有することがある。イオン交換体カラムを400mlの水で洗浄した後に、その樹脂に結合されたL−システインを、1000mlの1NのHClで溶出させる。その生成物フラクションは、発酵ブロス中に存在するL−システインの60%未満を含有する。 実施例9: 比較例: チオ硫酸塩が少ない/含まない発酵ブロスの精製 pH=7のpH値を有し、L−システイン含有率18g/lを有し、チオ硫酸塩含有率<0.1g/l、有利には0g/lを有し、かつ溶解されたL−シスチンの含有率1.1g/lを有する微生物を含有する発酵ブロス1000mlを、20%塩酸の滴加により、pH=1〜5、有利にはpH=3にまで酸性化させ、そしてバイオマス及び固形分を分離するために、20分間遠心分離する(8000rpm/分)。得られた澄明な溶液(システイン含有率:17.8g/l)を、カチオン交換体カラム(200mlのAmberlite IR 120H、強酸性、H+型)にポンプ圧入する。この場合に、L−システイン、L−シスチン、場合により他のアミノ酸並びに溶液中に存在するカチオンは、ほぼ定量的にその樹脂に結合されて、プロトンと交換される。前記の交換過程の間に、樹脂を流過した溶液において、低いpH値への大きなpHシフトが生ずる。溶出液のpH値は、pH=0〜1の範囲にある。更に、該溶出液は、樹脂に結合しない一連の不純物(例えば、中性化合物、アニオンもしくはその相応する酸など)を含有するが、アミノ酸を含有しないか、もしくは少量しか含有しない。使用される発酵ブロス中に存在するチオ硫酸塩量が非常に低いもしくは存在しない(0.1g/l未満)ことに基づき、その澄明な溶出液は、コロイド状の硫黄を含有しない。 イオン交換体カラムを400mlの水で洗浄した後に、その樹脂に結合されたL−システインを、1000mlの1NのHClで溶出させる。選択的に、L−システインは、水性アンモニアによっても溶出させることができる。その生成物フラクションは、適用された発酵ブロス中に存在するL−システインの90%より多くを含有し、非常に少量のL−シスチン(0.3g;L−システインに対して2%未満)しか含有しない。2NのHClによって、該イオン交換体カラムに残留する結合されたL−シスチンを溶出させることができる(2g/l未満)。 実施例10: 実施例7及び9からのHCl溶出液の、L−システイン塩酸塩一水和物についての精製 実施例7又は9からの精製されたL−システインを含有する溶液(1NのHClでの溶出液)(L−システイン含有率=17g/l)500mlを、25mlに濃縮する。濃塩酸の添加後か、又はHClガスの導通によって、場合により20〜60℃において、無機のアルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの塩化物並びに塩化アンモニウムが結晶化される。濾過後に、L−システインを含有する母液を−10℃に冷却し、そしてL−システイン塩酸塩一水和物を結晶化させる。使用されるL−システインを含有する溶液の純度に応じて、L−システイン塩酸塩一水和物は、80%より高い収率で、かつ90%より高い純度で、前記の溶液から結晶形で得ることができる。結晶化条件の好適な制御と、分別結晶及び/又は再結晶化によって、98%より高い純度までを達成することができる。 pH<5のpH値でL−システインを酸化させることができる酸化剤を含む、L−システインを含有する発酵ブロスの精製方法において、L−システインを含有する発酵ブロスを、pH5〜9のpH値でイオン交換体と接触させ、その際、pH<5、有利にはpH<2のpH値が該発酵ブロス中に生じ、そしてL−システインが前記イオン交換体に結合され、かつその結合されたL−システインを、溶出剤によってイオン交換体から取り出すことを特徴とする方法。 請求項1に記載の方法において、イオン交換体として、酸性のイオン交換体又は塩基性のイオン交換体を使用することを特徴とする方法。 請求項1又は2に記載の方法において、イオン交換体として、酸性のイオン交換体又は強酸性のイオン交換体を使用することを特徴とする方法。 請求項3に記載の方法において、イオン交換体として、H+型の強酸性のイオン交換体を使用することを特徴とする方法。 請求項4に記載の方法において、溶出剤として、水性塩酸、塩類水溶液、アミン、塩基又は強塩基を使用することを特徴とする方法。 請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法において、溶出剤として、まずL−システインの溶出のために1NのHClを使用し、そして引き続きL−シスチンの溶出のために2NのHClを使用することを特徴とする方法。 請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法において、得られる溶液をまず濃縮し、そして引き続きその濃縮された溶液から、L−システイン塩酸塩一水和物を晶出させることを特徴とする方法。 請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、酸化剤が、硫黄−酸素化合物であることを特徴とする方法。 請求項8に記載の方法において、硫黄化合物がチオ硫酸塩であることを特徴とする方法。 【課題】精製されたL−システインを含有する溶液を、L−システインを含有する発酵ブロスから製造するための、簡単で、廉価な工業的に実施できる方法を提供する。【解決手段】pH<5のpH値でL−システインを酸化させることができる酸化剤を含む、L−システインを含有する発酵ブロスを、pH5〜9のpH値でイオン交換体と接触させ、その際、pH<5、有利にはpH<2のpH値が該発酵ブロス中に生じ、そしてL−システインが前記イオン交換体に結合され、かつその結合されたL−システインを、溶出剤によってイオン交換体から取り出す。【選択図】なし


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