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タイトル:特許公報(B2)_多剤耐性ブドウ球菌のイムノクロマトグラフィー検出法および診断キット
出願番号:2007550216
年次:2013
IPC分類:G01N 33/569,G01N 33/573,G01N 33/543,G01N 33/531,C12Q 1/14,C12Q 1/25


特許情報キャッシュ

伊藤 裕美 JP 5361191 特許公報(B2) 20130913 2007550216 20061214 多剤耐性ブドウ球菌のイムノクロマトグラフィー検出法および診断キット デンカ生研株式会社 591125371 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 伊藤 裕美 JP 2005360984 20051214 20131204 G01N 33/569 20060101AFI20131114BHJP G01N 33/573 20060101ALI20131114BHJP G01N 33/543 20060101ALI20131114BHJP G01N 33/531 20060101ALI20131114BHJP C12Q 1/14 20060101ALN20131114BHJP C12Q 1/25 20060101ALN20131114BHJP JPG01N33/569 EG01N33/573 AG01N33/543 521G01N33/531 BC12Q1/14C12Q1/25 G01N 33/48−33/98 特開平10−078382(JP,A) 国際公開第2001/057531(WO,A1) 国際公開第2005/015217(WO,A1) 26 JP2006324905 20061214 WO2007069673 20070621 18 20091116 加々美 一恵 本発明は、イムノクロマトグラフィー検出法及び、これを応用したキットに関する。 ブドウ球菌属には40以上の菌種が含まれるが、臨床的には黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Coagulase-negative staphylococci)(以下CNSと略)に大別される。黄色ブドウ球菌は病原菌として、CNSは非病原性菌として扱われている。 感染症の治療には抗生物質が用いられるが、ブドウ球菌は薬剤耐性を持つ株が多く、臨床的見地から耐性の有無によって分類されている。 病原性菌として臨床的に重要である黄色ブドウ球菌のうち、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)(MRSA)はメチシリンなどのペニシリン剤を初めとするβラクタム剤に耐性を示す黄色ブドウ球菌であるが、同時にアミノ配糖体剤、マクロライド剤などの多くの薬剤に耐性を示すものが多く、そのため臨床上は多剤耐性黄色ブドウ球菌(Multi-drug resistant Staphylococcus aureus)として取り扱われる。一方メチシリンに感受性を示す黄色ブドウ球菌はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(Methcillin-sensitive Staphylococcus aureus)(以下MSSA)と呼ばれる。 黄色ブドウ球菌は、エンテロトキシン、毒素性ショック症候群毒素、溶血素、表皮剥奪毒素を始めとする種々の毒素を産生し(非特許文献1)、その感染によって腸炎、肺炎、皮膚炎、臓器不全等を発症せしめ、重篤な場合は死に至らせる場合もある。従って、患者から黄色ブドウ球菌が分離された場合、MRSAか否かを一刻も早く知り、MRSA感染症の場合にはMRSAに有効とされるバンコマイシン、硫酸アルベカシンなどの適切な薬剤を選択、投与することが必要である。 一方、黄色ブドウ球菌以外のブドウ球菌は常在細菌であり、通常は健常人に対し非病原性である。しかし、臓器移植患者の術後の感染症対策等として免疫抑制剤を使用している場合や、加齢に伴う体力減衰等の要因により免疫力が低下したいわゆる易感染性患者には日和見感染を起こすことがある。 黄色ブドウ球菌以外のブドウ球菌においてもメチシリン耐性や多剤耐性を獲得しているものがあり、それらはそれぞれ、メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Methicillin-resistant Coagulase-negative staphylococci)(以下MRCNS)または多剤耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Multi-drug resistant Coagulase-negative staphylococci)と、総称される。MRSAと同様にMRCNSは易感染者に感染した場合は治療に有効な薬剤が限定されることから、医学上問題になっている。これらMRSAとMRCNSは、両方を併せて多剤耐性ブドウ球菌と総称される。 MRSA、MRCNSの薬剤耐性の本質は、ブドウ球菌の細胞壁の構成成分であるムレインを架橋し細胞壁を合成する酵素である4種類のペニシリン結合蛋白(PBP1、PBP2、PBP3、PBP4)に新たな酵素としてPBP2’の発現によるものであることが知られている(非特許文献2)。ブドウ球菌が共通に保有するPBP1〜4は細胞壁合成酵素として基質アナログであるペニシリン系抗生物質により不活化され、菌は細胞壁合成が不能となることによりやがて死滅する。しかしMRSA、MRCNSはβラクタム系抗生物質に対し親和性の低い、即ち不活化されない新たな細胞壁合成酵素PBP2’を発現し、細胞壁合成の役割を代替することにより増殖し続けることが可能となると考えられている。MRSA,MRCNSは他の抗生物質に対する耐性機構も獲得して多くの抗生物質に耐性となる多剤耐性がほとんどである。それらは単にβラクタム系抗生物質に耐性をもつブドウ球菌としてではなく、多剤耐性のブドウ球菌として扱われる。 一般的なブドウ球菌の分離法・判定法は、鼻腔スワブ、咽頭スワブ、喀痰、血液、膿、糞便などを臨床検体とし、寒天培地や液体寒天培地を用いた分離培養を行う。寒天培地を用いて培養された場合は、発育したコロニーのうちブドウ球菌が疑われるコロニーをさらに純培養し、グラム染色による染色像の検鏡、コアグラーゼ産生能、マンニット分解能等の生化学的性状試験等によりブドウ球菌または黄色ブドウ球菌の同定を行う。液体培地で培養された場合は、コロニー単離のために培養液を寒天培地に接種して培養し、同様にブドウ球菌が疑われるコロニーについて純培養後、同定を行う。黄色ブドウ球菌またはブドウ球菌であると同定された菌は薬剤感受性試験等に供され、その試験結果からMRSAかMSSA、或いはMRCNSか否かの判定が行われる。薬剤感受性試験には、希釈法、ディスク感受性試験等の培養による試験方法が一般的に用いられている。これらの薬剤感受性試験は培養時間が16時間〜24時間必要であること(分離培養、純培養と合わせると臨床検体の分離から判定までに3日以上要する)、この薬剤感受性試験では接種菌濃度、培養温度、培地組成あるいは使用する薬剤などによって試験成績に差のあることが知られ、手技的にも熟練が必要である。 近年、純培養、分離培養、或いは臨床検体から直接に薬剤耐性機構の本体であるPBP2’をコードするmecA遺伝子をPCR法によって検出し、被検菌株におけるmecA遺伝子の保有状況をもって抗生物質耐性の鑑別を行う方法が開発された。しかし、mecA遺伝子の保有は必ずしも抗生物質耐性の発現を示しているとは限らず、遺伝子を保有しているにも関わらず耐性を獲得していない株が存在する。 一方、PBP2’の産生が多剤耐性を発現する上で重要な役割を担っていることは前述の通りであり、ブドウ球菌からPBP2’を検出することはその株が耐性を獲得しているか否かを知る有用な手段となり得る。 MRSAをはじめとする多剤耐性ブドウ球菌属菌が特異的に産生するPBP2’を抗原抗体反応に基づく免疫学的手段によって検出しようとする方法としては、ウエスタンブロット法、放射免疫測定法、スライドラテックス凝集法が知られている(特許文献1参照)。しかし、これらのPBP2’の検出法には以下の問題点がある。ウエスタンブロット法は、方法そのものが煩雑であり迅速に多数検体を処理することは困難である。放射免疫測定法は、放射性同位体を使用すること、測定法の操作の中で抗原抗体複合体とそれ以外の非結合抗原あるいは抗体とを分離するBF分離の操作が必要であること、菌体からの抗原の抽出に使用された変性剤が反応系に存在することにより測定時間に数時間を要することなど日常の検査の点から実用的ではない。スライドラテックス凝集法は、夾雑菌による偽陽性(例えば、非特異反応による偽陽性)と感度の低さから純培養菌からの検出となるため、分離培養、純培養の最低2回の培養操作が不可欠となり判定までには検体採取から2日〜3日を要すること、純培養の培地代としてコストが高くなること、判定時間は3分と短いが判定時間を過ぎると凝集が進んでしまうために偽陽性が起きてしまう可能性があること、菌体からPBP2’を抽出する前処理においてPBP2’を含む上清と細胞壁由来の破片とを分離するために遠心操作を要するため手間がかかり且つ検査室の環境汚染が問題となること、ピペット操作により遠心後の上清を移し変えるなどの煩雑な操作を伴うこと、煮沸処理を伴うことなどの問題がある。従ってこれらの検査に代わる、多剤耐性ブドウ球菌属菌が特異的に産生するPBP2’を特異的に感度良く、迅速に検出できる検査方法が望まれている。特許第3638731号公報五十嵐英夫:TSST−1, 侵襲と免疫, 3, 3-10 (1994)Utsui,Y., and Yokota, T. : Role of an altered penicillin-binding protein in methicillin- and cephem-resistant Staphyloccus aureus., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 28, 397-403 (1985) そこで本発明は、イムノクロマトグラフィー式検査法により感度良く簡便・迅速に多剤耐性ブドウ球菌属菌が特異的に産生するPBP2’を検出し、多剤耐性ブドウ球菌の感染を判定することができるイムノクロマトグラフィー検出装置および該検出装置を用いた診断方法ならびに該検出装置を含む診断キットを提供することを目的とするものである。 本発明者らは、多剤耐性ブドウ球菌属菌から煩雑な操作を行うことなく簡便かつ迅速にPBP2’を抽出し測定する方法について鋭意検討を行った。本発明者らはPBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬およびPBP2’と標識試薬の複合体を特異的に結合捕捉し得る捕捉試薬を用いたイムノクロマトグラフィー検出装置により簡便に測定することに成功し、さらに、検体を測定に供する前にアルカリ溶液で処理し次いで中和処理してイムノクロマトグラフィー検出装置に供することにより、煩雑な遠心操作等の必要無しに、PBP2’を抽出し測定し得ることを見出した。さらに、本発明者らは両イオン性界面活性剤等の界面活性剤をイムノクロマトグラフィー式検出装置の捕捉試薬を固定化した捕捉試薬部位に供することにより、偽陽性が生じることなく測定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。[1] 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法であって、細胞壁合成酵素PBP2’を抗原抗体反応に基づくイムノクロマトグラフィー検出法を用いて検出することを特徴とする、細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[2] シート状の固相支持体上に細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液を供給する検体供給部位、PBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬を固相支持体上で展開可能に保持した標識試薬部位、PBP2’と標識試薬の複合体を特異的に結合捕捉し得る捕捉試薬を固定化した捕捉試薬部位が含まれるイムノクロマトグラフィー検出装置を用いることを特徴とする[1]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[3] PBP2’と標識試薬が固相支持体と分離した部位で予め接触し、検体供給部位に細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液及びPBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬を含む検体試薬混合溶液を検体供給部位に供給する、請求項1または2に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[4] 標識試薬が、不溶性担体に抗体が結合したものである、[2]または[3]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[5] 捕捉試薬部位に両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤および/または非イオン性界面活性剤を含む[2]〜[4]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[6] 捕捉試薬部位にスルホベタイン型の界面活性剤を含む[2]〜[5]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[7] 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液に該溶液を検体供給部位に供給する前にイオン化傾向の大きい陰イオンを添加する、[5]または[6]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[8] イオン化傾向の大きい陰イオンは塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群より選ばれた1種以上の陰イオンである[7]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[9] 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液に該溶液を検体供給部位に供給する前にイオン化傾向の大きい陽イオンを添加する[5]〜[8]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[10] イオン化傾向の大きい陽イオンがカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンからなる群より選ばれた1種以上の陽イオンである[9]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[11] 検体をアルカリ処理および中和により前処理する工程を含む[1]〜[10]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[12] アルカリ処理が、アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液を用いて行われる[11]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[13] アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液のpHが11以上である、[12]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[14] アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の濃度が0.01N〜1.0Nである、[12]または[13]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[15] 緩衝液でアルカリ処理後の水溶液を中和する[11]〜[14]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[16] 検体供給部位がガラス系繊維からなる[1]〜[15]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[17] 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌が多剤耐性ブドウ球菌である[1]〜[16]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。[18] シート状の固相支持体上に細胞壁合成酵素PBP2'を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液を供給する検体供給部位、PBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬を固相支持体上で展開可能に保持した標識試薬部位、PBP2’と標識試薬の複合体を特異的に結合捕捉し得る捕捉試薬を固定化した捕捉試薬部位が含まれ、捕捉試薬部位に両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤および/または非イオン性界面活性剤が含まれる細胞壁合成酵素PBP2'を産生する菌検出用イムノクロマトグラフィー検出装置。[19] 捕捉試薬部位にスルホベタイン型の界面活性剤を含む[18]の細胞壁合成酵素PBP2'を産生する菌検出用イムノクロマトグラフィー検出装置。[20] 検体供給部位がガラス系繊維からなる[18]または[19]の細胞壁合成酵素PBP2'を産生する菌検出用イムノクロマトグラフィー検出装置。[21] 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌が多剤耐性ブドウ球菌である[18]〜[20]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2'を産生する菌検出用イムノクロマトグラフィー検出装置。[22] [18]〜[21]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用イムノクロマトグラフィー検出装置、ならびに細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液に添加するためのイオン化傾向の大きい陰イオンまたは陽イオン溶液を含む細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。[23] イオン化傾向の大きい陰イオンは塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群より選ばれた1種以上の陰イオンである[22]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。[24] イオン化傾向の大きい陽イオンがカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンからなる群より選ばれた1種以上の陽イオンである[22]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。[25] さらに、検体アルカリ処理用のアルカリ溶液および中和用の緩衝液を含む[22]〜[24]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。[26] アルカリ溶液が、アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液である[25]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。[27] アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液のpHが11以上である、[26]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。[28] アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の濃度が0.01N〜1.0Nである、[26]または[27]の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。[29] 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌が多剤耐性ブドウ球菌である[22]〜[28]のいずれかの細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。 本発明のイムノクロマトグラフィー検出装置を用いることにより、高感度にPBP2’を検出できるようになる為、分離培養後の1コロニーの菌量から試験可能となる。その結果、臨床検体から分離後わずか1回、1日の培養でMRSAか否かの判定、またはMRCNSか否かの判定が可能となり、検査に要する時間と純培養に用いていた培地のコストが大幅に削減できる。さらにMRSAによる菌血症、敗血症の検査で行われる血液(液体)培養で陽性培地から直接検出ができるようになるため、有効な治療の早期開始による治療期間の短縮化が可能となる。 また抗体固相化支持体上の検体供給部材にろ過効果を持たせることで遠心操作が不要となり、検査室の衛生面が維持される。 イムノクロマトグラフィー検出装置の捕捉部位に界面活性剤を含ませることにより、抗原以外の菌破砕物の標識試薬および/または捕捉部位への結合、即ち偽陽性を防ぐこと、および感度向上の効果を持たす事が可能となる。そのため従来の操作では必須であった菌の前処理工程のうちの煮沸操作が不要となる。 本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2005-360984号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。標識試薬部位を含む本発明の検出装置の一例を示す図である。標識試薬部位を含まない本発明の検出装置の一例を示す図である。符号の説明1 検体供給部位2 標識試薬部位3 捕捉試薬(キャプチャー抗体)部位4 対照部位(コントロール)部位5 固相支持体(ニトロセルロース膜)6 吸収部位(アブソーベントパッド)7 トップラミネートまたはハウジング 以下、本発明について詳細に説明する。 本発明は、イムノクロマトグラフィー式検査法により感度良く簡便・迅速に多剤耐性ブドウ球菌類等の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌に特異的に存在するPBP2’を検出し、多剤耐性ブドウ球菌等の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌への感染を判定することができるイムノクロマトグラフィー検出装置および診断キットである。 本発明における検体とは、被疑患者からの尿、膿汁、髄液、分泌物や穿刺液などの検査材料を血液寒天培地、普通寒天培地、ハートインフュージョン寒天培地、ブレインハートインフュージョン寒天培地、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地、チョコレート寒天培地、卵黄加マンニット食塩寒天培地、MRSA選択培地等の増菌培地に塗抹し、好気的条件下35℃〜37℃、18時間以上培養された菌を懸濁した溶液の他、液体培養培地、血液培養培地等で同様に好気的条件下35℃〜37℃、18時間以上振とう培養された培養液を含む細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌、より具体的には多剤耐性ブドウ球菌を含むと推定される溶液を指す。また、これらの菌懸濁液の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される抽出液も含む。ここで、「細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌」には、多剤耐性ブドウ球菌が含まれ、「多剤耐性ブドウ球菌」には、多剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)および多剤耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)が含まれる。被疑患者からの尿、膿汁、髄液、分泌物や穿刺液などの検査材料を生理食塩水もしくはリン酸緩衝液等に直接懸濁した液も検体となりうるが、検出感度の面から上記方法で培養した菌を含む液を用いる事が望ましい。 本発明のイムノクロマトグラフィー検出装置は、試験片からなるイムノクロマトグラフィー試験片であり、例えば図1に示されるように配置されて構成される。シート状の固相支持体上に検体を供給する検体供給部位1、およびPBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬を固相支持体上で展開可能に保持した標識試薬部位2、PBP2’と標識試薬の複合体を特異的に結合捕捉し得る捕捉試薬を固定化した捕捉試薬部位3を含む。検体供給部位1に検体を供給すると、検体は標識試薬部位2、捕捉試薬部位3の順に通過するように構成されている。本発明ではさらに、検体とPBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬との混合物を検体供給部位1に供給してもよく、この場合固相支持体上の標識試薬部位2を省略することができる(図2)。検体とPBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬との混合物を検体供給部位1に供給する場合、検体に含まれるPBP2’と標識試薬は固相支持体と分離した部位で予め接触する。ここで、「被分析物質と標識試薬が固相支持体と分離した部位で予め接触する」とは、イムノクロマトグラフィー検出装置においては、標識試薬が固相支持体に含まれておらず、または固相支持体と接触しており液体が固相支持体と連絡し得る部位、例えば、検体添加部位等にも含まれていないことをいう。この場合、被分析物質と標識試薬は、固相支持体および固相支持体と接触している部位以外で予め接触する。 本発明のイムノクロマトグラフィー検出装置はさらに対照用試薬を含んでいてもよく、さらに吸収部を含んでいてもよい。対照用試薬は限定されないが、例えば標識試薬中の抗体が結合する物質を用いることができる。対照用試薬は、捕捉試薬部位の下流に固定化すればよく、図1においては対照部位4が該当する。吸収部は、捕捉部を通過した検体を吸収することにより、検体の流れを制御する液体吸収性を有する部位であり、検出装置の最下流に設ければよく、図1においては吸収部位6が該当する。吸収部は例えば紙製のものをアブソーベントパッドとして用いればよい。 本発明のイムノクロマトグラフィー検出装置において、検体供給部位は固相支持体の一端をそのまま使用しても良いが、固相支持体とは別の部材で構成することもできる。後者における検体供給部位は一旦検体あるいは検体と標識試薬の混合物を吸収し、次いで吸収した検体または混合物を固相支持体に供給するように、固相支持体と毛細流により溶液が展開移動可能となるように接触して配置される。固相支持体とは別の部材とは、例えばニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ガラス繊維、ポリオレフィン、セルロース、ポリスチレン等の天然、合成ポリマー、あるいはこれらの混合物からなる部材を挙げることができるが、特に限定されない。 本発明のイムノクロマトグラフィー検出装置において、標識試薬とはPBP2’に特異的に結合する抗体と適当な標識物質を結合させたコンジュゲートであり、標識物質として、金コロイド等の金属コロイド、セレニウムコロイド等の非金属コロイド、着色樹脂粒子等の不溶性の物質が挙げられる。本発明において、これらの標識物質を不溶性担体とよぶことがある。不溶性担体は、好ましくはマイナスチャージを有する不溶性担体である。一般的に標識試薬は固相支持体とは別の部材に含浸させて乾燥し、それを固相支持体と連続的に連結する位置に置く。または、標識試薬は固相支持体上に直接塗布し、乾燥しても構わない。検体が標識試薬を含む標識試薬部位に到達すると標識試薬は検体中に溶解され、固相支持体を展開し得る。すなわち、標識試薬は標識試薬部位に展開可能に保持されている。 本発明のイムノクロマトグラフィー検出装置において、捕捉試薬とはPBP2’に特異的に結合する抗体であり、捕捉試薬部位はPBP2’と標識試薬の複合体を特異的に結合捕捉することができ、標識試薬−PBP2’−捕捉試薬複合体が形成される。一般的に捕捉試薬は固相支持体に直接塗布し乾燥させる方法で作成されるが、これに限定されず、固相支持体とは別の部材に含浸させて乾燥したものを固相支持体上におく方法で作成しても構わない。また、捕捉試薬の固相支持体への固定化は、吸着による方法に限らず、アミノ基、カルイボキシル基等の官能基を利用して化学的に結合させる方法等、公知の方法で行えばよい。 捕捉試薬として用いる抗体と標識試薬として用いる抗体は同じでもよいが、PBP2’中に該物質と結合する部位が一つしか存在しない場合は、標識試薬−PBP2’−捕捉試薬複合体が形成されない。従って、この場合捕捉試薬と標識試薬はそれぞれPBP2’の異なる部位に結合する必要がある。 固相支持体は毛管現象により試料検体が吸収され流動し得るものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、支持体はニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ガラス繊維、ポリオレフィン、セルロース、ポリスチレン等の天然、合成ポリマー、あるいはこれらの混合物からなる群から選択される。固相支持体は好ましくは短冊状のストリップの形状を有する。 多剤耐性ブドウ球菌属菌が特異的に産生する細胞壁合成酵素PBP2’は細胞壁の内側にある細胞膜上に存在する。多剤耐性ブドウ球菌の細胞壁を壊す、もしくは融解するための前処理を行うことで、捕捉試薬および標識試薬はよりPBP2’を認識しやすくなる。多剤耐性ブドウ球菌の細胞壁を壊す、もしくは融解するための抽出試薬として、細胞壁溶菌酵素や、特定の陽イオン性界面活性剤・両イオン性界面活性剤等の殺菌作用を持つ特定の界面活性剤が知られているが、これらの試薬は高価であること、イムノクロマトグラフィー検出法における抗原抗体反応を強く阻害してしまうこと、等の理由により用いる事が困難である。そこで本発明のイムノクロマトグラフィー検出法によるPBP2’の抽出試薬には希アルカリ液を用いることが望ましい。具体的には0.01N〜1.0N濃度のアルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液が挙げられる。上記希アルカリ液のpHは11以上が望ましい。 上記のように希アルカリ液で菌液を前処理した場合、前処理後のpH11以上のままでは抗原−抗体反応が阻害されてしまう。そこでアルカリ条件の溶液を中和することが必要となる。中和液としては特に限定されないが、イムノクロマトグラフィー検出法による反応系の至適pHであるpH6〜pH8に緩衝能を示すリン酸緩衝液、トリス緩衝液、またはMES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPSなどのグッド緩衝液が挙げられる。本発明における菌の前処理とは、細胞壁合成酵素PBP2'を産生する菌、より具体的には多剤耐性ブドウ球菌を含むと思われる菌液をアルカリ条件にさらすことで抗原であるPBP2’を抽出する工程、およびアルカリ条件を中和する工程を言う。前処理は、菌を含む検体液にアルカリ溶液を添加することでアルカリ処理し、その後中和液を添加すればよい。もしくは白金耳や綿棒で採取した菌を直接アルカリ溶液に懸濁し、その後中和液を添加しても良い。添加量は限定されないが、中和後の検体液のpHがpH6〜9付近になるように添加すればよい。また、中和液はあらかじめ検体供給部に含浸させ、乾燥させておいてもよい。 本発明においては、菌液を前処理後中和した液に、塩、界面活性剤、蛋白質、高分子ポリマー、酸性化合物、塩基性化合物等の添加剤を加え、充分に混合した後にイムノクロマトグラフィー検出装置の検体供給部に検体を供給することが可能である。これら添加剤により抗原抗体反応の感度上昇や偽陽性(例えば、非特異反応による偽陽性)軽減が期待できる。さらに、上記の希アルカリ液や中和液にあらかじめ上記の添加剤を混合しておくことで、操作数をひとつ減らすことができる。 多剤耐性ブドウ球菌を検出しようとする場合、多剤耐性ではないブドウ球菌(MSSA、MSCNS)あるいはブドウ球菌以外の菌由来の物質が標識試薬および捕捉試薬である抗体と結合することにより偽陽性を示す場合がある。そのためラテックス凝集法によるPBP2’検出試薬では菌液をアルカリ試薬存在下で煮沸処理することによりIgGと結合性を示す黄色ブドウ球菌の細胞壁に存在するプロテインA等の偽陽性の原因物質を不活化し、且つ遠心操作により菌破砕後の残骸を取り除き、遠心後の上清を試験に用いる必要があった。本発明によるイムノクロマトグラフィー検出法では、煮沸処理により偽陽性の原因物質を不活化せずとも、イムノクロマトグラフィー検出装置中の捕捉試薬部位に界面活性剤を含ませることで偽陽性原因物質と捕捉抗体の結合を阻害することが可能となる。界面活性剤は両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が好ましく、いずれか1種以上が含まれていればよい。界面活性剤による偽陽性の原因物質と捕捉抗体の結合を阻害することは抗体の偽陽性の原因物質結合部位を界面活性剤がマスクすることによると考えられる。従って界面活性剤の分子量が大きく、および/または環状構造を多く持つほど効果が大きいと考えられる。例えば、分子量646、六員環1つの非イオン性界面活性剤(商品名:Tx100、ナカライテスク社製)、分子量364、六員環なしの両イオン性界面活性剤(商品名:SB3-14、カルバイオケム社製)、分子量615、六員環3つ五員環1つの両イオン性界面活性剤(商品名:CHAPS、同仁化学社製)、分子量878、六員環3つ五員環1つの非イオン性界面活性剤(商品名:BIGCHAP、同仁化学社製)を用いた場合、界面活性剤未添加と比較すると、どの条件においても多剤耐性ではない黄色ブドウ球菌由来の偽陽性抑制効果は得られたが、Tx100およびSB3-14よりもCHAPSおよびBIGCHAPの効果が大きい結果となった。従って、界面活性剤の分子量は300以上が好ましく、600以上がより好ましく、六員環等の環状構造を多く含むことが好ましいと考えられる。偽陽性を抑える目的では不溶性担体と同じチャージを保持する界面活性剤を用いることが望ましく、不溶性担体がマイナスチャージであるラテックスや金コロイドである場合は界面活性剤もマイナスチャージであることが好ましい。 特に偽陽性が懸念されるのは、黄色ブドウ球菌の細胞膜に存在するプロテインAである。プロテインAは免疫グロブリンGのFc部分に強い結合性をもつ。標識試薬と捕捉試薬にはPBP2’を特異的に認識する抗体を使用する。抗体は免疫グロブリンG、免疫グロブリンMなど特に種類は問わないが、免疫グロブリンGを使用する場合、Fc部分を除去した状態で使用し捕捉試薬部分では上記界面活性剤と組み合わせることで、プロテインAによる偽陽性を回避できる。Fc部分の除去は、ペプシンやパパインなどの既知の分解酵素を使用することで容易に行うことができる。 グループGの連鎖球菌の細胞壁中に含まれるプロテインGも免疫グロブリンGのFc部分と特異的に結合する。そのため検体液にグループGの連鎖球菌が含まれている場合、プロテインAと同様に標識試薬、あるいは捕獲試薬と非特異反応を起こすことが予想され、この偽陽性の回避にも上記方法を同様に用いることができる。 捕捉試薬部分に添加する界面活性剤のうち、特にイオン性界面活性剤は捕捉試薬部分を通過する溶液内の陰イオンまたは陽イオン濃度によってその性質が変化する。そのため使用する界面活性剤の種類や濃度、性質によって溶液内の陰イオンまたは陽イオンの至適濃度を求める必要がある。陰イオンとしては、例えば、イオン化傾向の大きい塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等が挙げられる。また、陽イオンとしてはイオン化傾向の大きいカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン等があげられる。この際、複数の陰イオンまたは複数の陽イオンを用いてもよい。 本発明の方法である、スルホベタイン領域を含んだ界面活性剤を捕捉試薬部位に添加することで、感度上昇効果が得られる。ラテックス凝集法によるPBP2’検出試薬では感度良くPBP2’を検出できないがために、菌液のアルカリ試薬存在下での煮沸処理により細胞壁を破壊し、完全にPBP2’を抽出する必要があった。今回の発明におけるスルホベタイン領域を含んだ界面活性剤の添加により感度上昇することで、煮沸処理を行わない不完全なPBP2’の溶出状態でも感度良く検出することが可能となった。また、アルカリ試薬存在下での煮沸処理を行うことによってPBP2’の分解、または構造変化による抗体認識部位の変性等による感度低下が起こるが、煮沸処理を行わないことにより感度が維持される利点もある。 スルホベタイン領域を含む界面活性剤としては、CHAPS、CHAPSO、Myristylsulfobetaine (SB3-14)、Dodecyl dimethyl ammonio butane sulfonate(DDABS)などが挙げられる。 上記の偽陽性の原因物質と捕捉抗体の結合を阻害する界面活性剤および感度を上昇させる為の界面活性剤は、捕捉試薬部位に捕捉試薬を固相する際に、捕捉試薬に界面活性剤をあらかじめ添加しておく。偽陽性原因物質と捕捉抗体の結合を阻害する界面活性剤と、感度を上昇させる効果のあるスルホベタイン型の界面活性剤は、一方のみを使用しても良いし併用してもよい。また、偽陽性原因物質と捕捉抗体の結合を阻害する界面活性剤がスルホベタイン型であってもよく、この場合は感度を上昇させる効果が期待できる。 さらに、本発明の方法は、好ましくは分子量300以上、より好ましくは600以上で、スルホベタイン領域を含んだ界面活性剤を捕捉試薬部位に添加することで、偽陽性の原因物質と捕捉抗体の結合を阻害する効果とおよび感度を上昇させる効果を両方あわせ持つことができる。具体例としては、CHAPS、SB3-14が好ましく、特にCHAPSが好ましい。複数の界面活性剤を捕捉試薬部位に添加してもよい。 また、上記のように陰イオンまたは陽イオンを添加する場合には、陰イオンまたは陽イオンを多剤耐性ブドウ球菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される検体溶液に添加すればよい。 さらに、本発明の方法は、捕捉試薬部位に偽陽性の原因物質が到達することを避けることにより偽陽性原因物質の影響を防止する方法も包含する。例えば、本発明の装置の捕捉試薬部位の上流部で偽陽性原因物質を除去すればよい。偽陽性原因物質を除去する方法として、イムノクロマトグラフィー検出装置上の検体供給部位をガラス系繊維にすることが望ましい。細菌由来の偽陽性原因物質がガラス系繊維に吸着し、偽陽性原因物質が捕捉試薬上を通過することを阻害し、結果として偽陽性を抑えることに繋がる。 本発明の方法は、細胞壁合成酵素PBP2’を抗原として、これに対する抗体を用いた抗原抗体反応に基づく検出法である。従って、検体中に細胞壁合成酵素PBP2’が存在すれば本発明の方法で検出可能である。一般に、細胞壁合成酵素PBP2’は多剤耐性ブドウ球菌によって特異的に産生され、菌体内に特異的に存在すると考えられている。 多剤耐性ブドウ球菌以外の菌でPBP2’を産生する菌の存在は現在知られていない。本明細書では、「細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌」と記述する代わりに一つの具体例として「多剤耐性ブドウ球菌」を用いて説明している箇所があるが、これら記述は「多剤耐性ブドウ球菌」に限定する意図ではない。それらは本発明の方法が実施可能な範囲内において「細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌」と読み替え可能である。つまり、多剤耐性ブドウ球菌以外であってPBP2’を産生する菌も本発明の方法で検出可能である。更に、細胞壁合成酵素PBP2’を菌体内に含む菌も本発明の方法で検出可能である。また、一般に、細胞壁合成酵素PBP2’は多剤耐性ブドウ球菌の細胞壁の内側にある細胞膜上に特異的に存在すると考えられている。本発明の方法は、菌の細胞壁を壊す、もしくは融解するための前処理のためのPBP2'の抽出試薬を含む。従って、細胞壁合成酵素PBP2’を細胞壁の内側に含む菌は本発明の方法で効果的に検出可能である。 以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。実施例1 イムノクロマトグラフィー検出法によるMRSAのPBP2’の検出(図1)(1)抗体感作ラテックス粒子の調製および乾燥化 抗PBP2’モノクローナル抗体を常法によりペプシンで処理しF(ab’)2を得た。これを0.4μmのラテックス粒子に感作し、ポリスチレン不織布に噴霧した。次いで減圧装置内で1時間減圧乾燥し、乾燥ラテックス抗体パッドとした。使用時には4mm間隔で裁断し、標識部位2として用いた。(2)イムノクロマトグラフィー検出装置の製作 ラテックス感作に用いた抗PBP2’モノクローナル抗体とは認識部位を異にする第二の抗PBP2’モノクローナル抗体を常法によりペプシンで処理しF(ab’)2を得た。これを0.075%CHAPSを含むクエン酸緩衝液(pH6)で希釈し、ニトロセルロースメンブレン(固相支持体5)に塗布し、充分に乾燥した(捕捉試薬部位3)。対照用試薬としてAnti-Mouse IgGsを同様にニトロセルロースメンブレンに塗布し、充分に乾燥した(対照部位4)。 疎水性シート7上に捕捉試薬部位3および対照部位4を含む固相支持体5を配置し、標識試薬部位2、検体供給部位1としてガラス系繊維、吸収部位6として濾紙、を用いて任意の場所に配置した。(3)検体の前処理 黄色ブドウ球菌14株を血液寒天培地上で35℃一晩培養し、0.2N NaOHに1白金耳量を直接懸濁した。同様にコロニー1個を釣菌後0.2N NaOH 100μLに懸濁した。その後、非イオン性界面活性剤および牛血清アルブミン、ウサギIgGを含む0.6M Tris塩酸塩緩衝液50μLで中和した。(4)アッセイ 検体前処理済みの液が入った1.5mLチューブにイムノクロマトグラフィー検出装置を投入し、10分後に捕捉試薬3における呈色を肉眼で評価し、呈色のあるものを陽性、呈色の見られないものを陰性とした。(5)薬剤感受性試験 (3)と同方法で培養した菌株を滅菌した0.9%塩化ナトリウム溶液に浮遊し、578nmの吸光度が0.3となるように調製した液を、6μg/mLオキサシリン、4%塩化ナトリウムを含むミューラーヒントン寒天培地に接種し、35℃で24時間培養後、発育したものをMRSA、発育しないものをMSSAとした。(6)結果 結果を表1に示した。 表1から、両者の陽性一致率:100%(4/4)、陰性一致率:100%(10/10)、従って全体の一致率:100%(14/14)であることが判る。この結果から本発明の優位さが確認できた。実施例2 補足試薬部位への界面活性剤添加の効果(1) 抗体感作ラテックス粒子の調製および乾燥化 実施例1で調製したものを使用した。(2) イムノクロマトグラフィー検出装置の製作 実施例1と同様に作成した。この際、捕捉試薬部位へ0.05%のCHAPS、Tx100、SB3-14、BIGCHAP、DTAC(Dodecyl Trimethyl Ammonium Chloride)を添加したものと添加しなかったものを作成し、これを用いた。(3) 検体の前処理 薬剤感受性試験で感受性、つまりMSSAと判定された菌株1株及び、薬剤感受性試験で耐性、つまりMRSAと判定された菌株1株を用いて、実施例1と同様の方法で培養し、MSSAについては2白金耳量および3白金耳量、MRSAについては1白金耳量を釣菌後、前処理した。(4) アッセイ MSSA1株は希釈せずに実施例1と同様に試験した。MRSA1株はさらに0.2N NaOHと非イオン性界面活性剤および牛血清アルブミン、ウサギIgGを含む0.6MTris塩酸塩を2:1で混合した溶液で2段階希釈し、1024倍希釈以上の希釈倍率150μLについて実施例1と同様に試験した。(5) 結果 捕捉試薬部位に界面活性剤を添加したものと未添加のものを比較した。MSSAを用いた結果を表2に示した。陰性判定を−、偽陽性の強弱を+の数で表した。MRSAを用いた結果を表3に示した。陰性判定を−、陽性判定を+で表した。 界面活性剤未添加および陽イオン界面活性剤であるDTAC添加ではMSSA 2白金耳量で偽陽性を示した。また比較的分子量の小さいTx100添加またはSB3-14添加では、未添加またはDTAC添加ほどではないが3白金耳量で偽陽性を示した。一方比較的分子量の大きいCHAPS添加またはBIGCHAP添加においては2白金耳量、3白金耳量で陰性を示した。 表2から非イオン性界面活性剤であるTx100、BIGCHAPまたは両イオン性界面活性剤であるCHAPSもしくはSB3-14を捕捉試薬部位へ添加することにより、MSSA由来の偽陽性を抑制することが判る。なお、環状構造を多く含み分子量の大きいCHAPSまたはBIGCHAPでは偽陽性の抑制効果がより大きいことが判る。この結果から、捕捉試薬部位へ界面活性剤を添加することの優位さを確認できた。 捕捉試薬部位にCHAPSまたはSB3-14を添加することにより感度が上昇した。DTACを添加したものでは偽陽性と思われた。 表3からスルホベタイン型界面活性剤であるSB3-14またはCHAPSを捕捉試薬部位へ添加することにより、界面活性剤未添加および、スルホベタイン型ではない界面活性剤であるTx100またはBIGCHAPを添加したものと比較して、感度を上昇させる効果があることが判る。この結果からスルホベタイン型界面活性剤を捕捉試薬部位へ添加することの優位さを確認できた。 実施例2の結果より、特にCHAPSが偽陽性の抑制する高い効果および感度を上昇させる高い効果の両方をあわせ持ち、特に有用であることがわかる。実施例3 イムノクロマトグラフィー検出法によるMRCNSのPBP2’の検出(1)抗体感作ラテックス粒子の調製および乾燥化 実施例1で調製したものを使用した。(2)イムノクロマトグラフィー検出装置の作成 実施例1と同様に作成したものを使用した。(3)検体の前処理 グラム染色でブドウ球菌の性状を示し、カタラーゼ試験で陽性、コアグラーゼ試験で陰性と判定されたブドウ球菌のうち、薬剤感受性試験でメチシリン感受性、つまりMSCNSと判定された菌株2株及び、薬剤感受性試験でメチシリン耐性、つまりMRCNSと判定された菌株1株を用いて、実施例1と同様の方法で培養し、1白金耳量釣菌後、前処理した。(4)アッセイ 実施例1と同様に実施した。(5)薬剤感受性試験 実施例1と同様の方法で行った。(6)結果 結果を表4に示した。薬剤感受性試験で感受性をS、耐性をR、本発明で陽性判定を+、陰性判定を−で表した。 薬剤感受性試験で感受性、つまりMSCNSと判定された菌2株に対しては陰性を、薬剤感受性試験で耐性、つまりMRCNSと判定された菌1株に対しては陽性を示した。 本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法であって、細胞壁合成酵素PBP2’を抗原抗体反応に基づくイムノクロマトグラフィー検出法を用いて検出を行い、 シート状の固相支持体上に細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液を供給する検体供給部位、PBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬を固相支持体上で展開可能に保持した標識試薬部位、PBP2’と標識試薬の複合体を特異的に結合捕捉し得る捕捉試薬を固定化した捕捉試薬部位が含まれるイムノクロマトグラフィー検出装置を用い、 捕捉試薬部位にスルホベタイン型の界面活性剤を含む、ことを特徴とする、細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法であって、細胞壁合成酵素PBP2’を抗原抗体反応に基づくイムノクロマトグラフィー検出法を用いて検出を行い、 PBP2’と標識試薬が固相支持体と分離した部位で予め接触し、検体供給部位に細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液及びPBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬を含む検体試薬混合溶液を検体供給部位に供給し、 PBP2’と標識試薬の複合体を特異的に結合捕捉し得る捕捉試薬を固定化した捕捉試薬部位が含まれるイムノクロマトグラフィー検出装置を用い、 捕捉試薬部位にスルホベタイン型の界面活性剤を含む、ことを特徴とする、細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法であって、細胞壁合成酵素PBP2’を抗原抗体反応に基づくイムノクロマトグラフィー検出法を用いて検出を行い、 シート状の固相支持体上に細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液を供給する検体供給部位、PBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬を固相支持体上で展開可能に保持した標識試薬部位、PBP2’と標識試薬の複合体を特異的に結合捕捉し得る捕捉試薬を固定化した捕捉試薬部位が含まれるイムノクロマトグラフィー検出装置を用い、 捕捉試薬部位にスルホベタイン型の界面活性剤を含み、 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液に該溶液を検体供給部位に供給する前にイオン化傾向の大きい陰イオンを添加することを特徴とする、細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法であって、細胞壁合成酵素PBP2’を抗原抗体反応に基づくイムノクロマトグラフィー検出法を用いて検出を行い、 PBP2’と標識試薬が固相支持体と分離した部位で予め接触し、検体供給部位に細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液及びPBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬を含む検体試薬混合溶液を検体供給部位に供給し、 PBP2’と標識試薬の複合体を特異的に結合捕捉し得る捕捉試薬を固定化した捕捉試薬部位が含まれるイムノクロマトグラフィー検出装置を用い、 捕捉試薬部位にスルホベタイン型の界面活性剤を含み、 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液に該溶液を検体供給部位に供給する前にイオン化傾向の大きい陰イオンを添加することを特徴とする、細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 標識試薬が、不溶性担体に抗体が結合したものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 イオン化傾向の大きい陰イオンは塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群より選ばれた1種以上の陰イオンである請求項3〜5のいずれか1項に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液に該溶液を検体供給部位に供給する前にイオン化傾向の大きい陽イオンを添加する請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 イオン化傾向の大きい陽イオンがカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンからなる群より選ばれた1種以上の陽イオンである請求項7記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 検体をアルカリ処理および中和により前処理する工程を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 アルカリ処理が、アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液を用いて行われる請求項9記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液のpHが11以上である、請求項10記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の濃度が0.01N〜1.0Nである、請求項10または11に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 緩衝液でアルカリ処理後の水溶液を中和する請求項9〜12のいずれか1項に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 検体供給部位がガラス系繊維からなる請求項1〜13のいずれか1項記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌が多剤耐性ブドウ球菌である請求項1〜14のいずれか1項に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。 シート状の固相支持体上に細胞壁合成酵素PBP2'を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液を供給する検体供給部位、PBP2’に特異的に結合する抗体を標識した標識試薬を固相支持体上で展開可能に保持した標識試薬部位、PBP2’と標識試薬の複合体を特異的に結合捕捉し得る捕捉試薬を固定化した捕捉試薬部位が含まれ、捕捉試薬部位にスルホベタイン型の界面活性剤が含まれる細胞壁合成酵素PBP2'を産生する菌検出用イムノクロマトグラフィー検出装置。 検体供給部位がガラス系繊維からなる請求項16に記載の細胞壁合成酵素PBP2'を産生する菌検出用イムノクロマトグラフィー検出装置。 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌が多剤耐性ブドウ球菌である請求項16または17に記載の細胞壁合成酵素PBP2'を産生する菌検出用イムノクロマトグラフィー検出装置。 請求項16〜18のいずれか1項に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用イムノクロマトグラフィー検出装置、ならびに細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌を含むと推定される検体溶液または検体の前処理により細胞壁から遊離したPBP2’を含むと推定される溶液に添加するためのイオン化傾向の大きい陰イオンまたは陽イオン溶液を含む細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。 イオン化傾向の大きい陰イオンは塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群より選ばれた1種以上の陰イオンである請求項19記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。 イオン化傾向の大きい陽イオンがカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンからなる群より選ばれた1種以上の陽イオンである請求項19記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。 さらに、検体アルカリ処理用のアルカリ溶液および中和用の緩衝液を含む請求項19〜21のいずれか1項に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。 アルカリ溶液が、アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液である請求項22記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。 アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の水溶液のpHが11以上である、請求項23記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。 アルカリ金属の水酸化物若しくは炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくは炭酸塩の濃度が0.01N〜1.0Nである、請求項23または24に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。 細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌が多剤耐性ブドウ球菌である請求項19〜25のいずれか1項に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌検出用キット。


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