タイトル: | 特許公報(B2)_アトピー性皮膚炎マーカーとその利用技術 |
出願番号: | 2007541036 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | G01N 33/68,G01N 33/53,C12Q 1/02,C12Q 1/68,C12N 15/09 |
宮田 智 宮崎 香 安田 知永 岩松 明彦 池澤 善郎 相原 道子 森山 佳谷乃 JP 5282228 特許公報(B2) 20130607 2007541036 20061019 アトピー性皮膚炎マーカーとその利用技術 株式会社ファンケル 593106918 公立大学法人横浜市立大学 505155528 公益財団法人木原記念横浜生命科学振興財団 592032197 長谷部 善太郎 100122954 児玉 喜博 100105061 佐藤 荘助 100150681 宮田 智 宮崎 香 安田 知永 岩松 明彦 池澤 善郎 相原 道子 森山 佳谷乃 JP 2005306498 20051021 20130904 G01N 33/68 20060101AFI20130815BHJP G01N 33/53 20060101ALI20130815BHJP C12Q 1/02 20060101ALN20130815BHJP C12Q 1/68 20060101ALN20130815BHJP C12N 15/09 20060101ALN20130815BHJP JPG01N33/68G01N33/53 DC12Q1/02C12Q1/68 AC12N15/00 A C12N15/ C12Q1/ CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 平成14年度 横浜市地域結集型共同研究事業研究成果報告会資料, 2002, p.41-45 Proteomics, 2004, vol.4, no.11, p.3446-3455 4 JP2006320836 20061019 WO2007046463 20070426 33 20091001 小暮 道明 本発明は、アトピー性皮膚炎マーカーとその利用技術に関する。 アトピー性皮膚炎は、遺伝的要因や環境要因など、多様な要因によって発症し、そのメカニズムは明確でない。現在アトピー性皮膚炎は専ら肉眼的所見で診断されており、臨床医による主観が入るため客観性に乏しい。特にアトピー性皮膚炎の中でも治療法を決定する皮疹の重症度を判断するのは難しい課題になっている。さらに、社会一般的にもアトピー性皮膚炎治療の大きな柱であるステロイド外用剤の忌避の風潮が強まりつつあるため、適切な治療および薬に対する適切な量というのも望まれている。病状の悪化、改善の指標また治療効果の表現としてアトピー性皮膚炎の重症度を分類できるようなアトピー性皮膚炎マーカーを探索するということは重要な課題である。 現在、アトピー性皮膚炎マーカーとしてはIgEが用いられている。しかし、IgEの抗体価の上昇を示す疾患はアトピー性皮膚炎以外にも気管支喘息、肝硬変などでも見られ、IgEの抗体値が高値であっても必ずしもアトピー性皮膚炎とは結びつかないことがある。最近の新たな知見ではSCCA1,がアトピー性皮膚炎患者の皮膚や血中で発現が高くなっていることから新たなバイオマーカーとしての可能性が示唆されている(非特許文献1)。さらに、NGF、Substance P、IL-16などもアトピー性皮膚炎患者の血清中マーカーとして有用であるとの報告がある(非特許文献2及び3)。また、アトピー性皮膚炎の炎症部と非炎症部の皮膚を用いてアトピー性皮膚炎のバイオマーカーを網羅的に調べる方法が行われている。例えばDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現の解析に基づいてアトピー性皮膚炎関連遺伝子を同定し、疾患マーカーとして特許申請がされている(特許文献1及び2)。別に、アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織から得た表皮角化細胞や繊維芽細胞を培養後に細胞からタンパク質を抽出し、二次元電気泳動により分離後、質量分析装置でアトピー性皮膚炎マーカーを同定した報告がある(非特許文献4及び5)。 しかし、これまでにアトピー性皮膚炎モデルマウスの皮膚組織中のタンパク質を用いてプロテオーム解析を行った例はない。また、ヒトでアトピー性皮膚炎に関して実施されたプロテオーム解析は、皮膚から細胞を採取して初代培養後にプロテオーム解析を行っており、ヒトのアトピー性皮膚炎の状態を直に反映しているとは言い難い。特開2005−110602号公報国際公開第WO01−065259号パンフレットClin. Exp. Allergy 2005; 35:1327−1333Br.J.Dermatol. 2002 Jul; 147(1):71−79Br.J.Dermatol. 2006 Jun;154(6):1112−1117Proteomics 2004,4,3446−3455Proteomics 2006,6,1362−1370 アトピー性皮膚炎の客観的なマーカーとして診断および治療に有用なものを提供することを目的とする。また、アトピー性皮膚炎マーカーを利用してアトピー性皮膚炎の予防または治療に有用な成分をスクリーニングする方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、アトピー性皮膚炎モデルマウス(NC/Ngaマウス) ハプテンを塗布し、人為的にアトピー性皮膚炎を引き起こした。同時に、アトピー性皮膚炎を抑制することが知られているラクトフェリン処理を行って炎症を抑制した。この時の皮膚組織を用いて、アトピー性皮膚炎の発症により変動するタンパク質を調べた。分析方法として、二次元電気泳動(2-DE)と質量分析(MS)を用いるプロテオーム解析を行い、同定されたタンパク質に対してはさらに免疫ブロッティングでその変化を確認した。 その結果、アトピー性皮膚炎の発症に伴って発現が増加するタンパク質としてはFABP-5、Apolipoprotein A1、Vimentin、Rho GDI等が同定された。一方、アトピー性皮膚炎の発症に伴って発現が減少するタンパク質としてはGalectin-1、 -3、-4、 -7、-8などのGalectin類、細胞骨格系タンパク質であるDesmin、Moesin、Ezrin、Radixin、さらにAnnexin II、Enolase 1、FABP-4、PARK7、HSP70、HSP90等が同定された。これらのタンパク質の多くはハプテン処理に加えラクトフェリン処理すると逆の変動を示し、アトピー性皮膚炎の発症の有無と発現の増減が良く相関することが明らかになった。 さらに、前述のようにして見出したアトピー性皮膚炎マーカーとヒトのアトピー性皮膚炎の炎症度との相関を調べるために、アトピー性皮膚炎発症者および健常者のボランティアから、非浸襲的に安全、簡便に角層採取ができる角層チェッカーを用いて角層を採取し、そこからタンパク質を抽出してアトピー性皮膚炎マーカーの発現をウェスタンブロッティングにより調べた。その結果、アトピー性皮膚炎の炎症度の増加に伴ってSerum albumin、Immunoglobulin G、Annexin II、Apolipoprotein A1、FABP-5、、、Enolase 1、Galectin−7の発現が増加することが明らかになった。一方、アトピー性皮膚炎の炎症度の増加に伴って発現が減少するタンパク質としてArginase I、Uracil-DNA glycosylaseが同定された。 本発明の要旨は以下の通りである。1.皮膚細胞及び/又は皮膚組織におけるGalectin-7、FABP−5、Annexin II、Apolipoprotein A1、Enolase 1、PARK7、squamous cell carcinoma antigen-2(SCCA2)から選択されるタンパク質の発現を測定し、該選択されたタンパク質がGalectin-7、FABP−5、Annexin II、Apolipoprotein A1、Enolase 1及びsquamous cell carcinoma antigen-2(SCCA2)の何れかの場合は該選択されたタンパク質の発現が対照と比較して増加しているときに、該選択されたタンパク質がPARK7の場合は該選択されたタンパク質の発現が対照と比較して減少しているときに、アトピー性皮膚炎の発症リスクが高いと判定する方法。2.皮膚細胞及び/又は皮膚組織が角層チェッカーによって採取された皮膚の角層である1.記載の方法。3.皮膚細胞及び/又は皮膚組織におけるGalectin-7、FABP−5、Annexin II、Apolipoprotein A1、Enolase 1、PARK7、squamous cell carcinoma antigen-2(SCCA2)から選択されるタンパク質の発現を測定することができる試薬を含み、その試薬がGalectin-7、FABP−5、Annexin II、Apolipoprotein A1、Enolase 1、PARK7、squamous cell carcinoma antigen-2(SCCA2)から選択されるタンパク質を特異的に認識できる抗体であるアトピー性皮膚炎を判定するためのキット。4.皮膚細胞及び/又は皮膚組織採取用の角層チェッカーを備えた3記載のキット。 本発明により、アトピー性皮膚炎における診断および重症度を測定する評価系が確立できる。この評価系を用いて、従来法に比べてより客観的にアトピー性皮膚炎の重症度および発症リスクを判定することができる。また、アトピー性皮膚炎の重症度および発症リスクを判定するためのキットおよびアトピー性皮膚炎の炎症を抑制する効果のある成分を同定する方法も提供される。4つの実験条件((1)ハプテン(−)/ラクトフェリン(−)、(2)ハプテン(−)/ラクトフェリン(+)、(3)ハプテン(+)/ラクトフェリン(−)、(4)ハプテン(+)/ラクトフェリン(+))で用いたマウスの皮膚の状態を示す。アトピー性皮膚炎モデルマウスの皮膚組織を用いた二次元電気泳動の結果を示す(ハプテン(−)/ラクトフェリン(−)及びハプテン(+)/ラクトフェリン(−)の実験条件)。アトピー性皮膚炎モデルマウスの皮膚組織を用いた二次元電気泳動の結果を示す(ハプテン(−)/ラクトフェリン(+)及びハプテン(+)/ラクトフェリン(+)の実験条件)。アトピー性皮膚炎モデルマウスの皮膚組織におけるガレクチンの発現変化を示す。アトピー性皮膚炎モデルマウスの皮膚組織における細胞骨格系タンパク質及びHSPタンパク質の発現変化を示す。アトピー性皮膚炎モデルマウスの皮膚組織におけるタンパク質の発現変化を示す。アトピーを発症しているサンプルで発現が増加しているタンパク質について質量分析装置(MALDI TOF-MS)を用いて同定した結果を示す。アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織におけるタンパク質の発現変化を示す。アトピー性皮膚炎患者の重症度とタンパク質の発現量との相関を示す。Enolase 1、FABP-5、SCCA2、Apolipoprotein A1、Serum albuminの各5種マーカータンパク質の各サンプルにおける発現強度を定量化した結果を患者の重症度別にまとめたものを示す。健常者とアトピー性皮膚炎既往歴者における経皮水分蒸散量とマーカーの発現量との相関を示す。健常者とアトピー性皮膚炎既往歴者における角質細胞面積とマーカーの発現量との相関を示す。 以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。 本発明は、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における特定のタンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現を測定することを含む、アトピー性皮膚炎を判定する方法を提供する。特定のタンパク質はアトピー性皮膚炎の炎症に伴って発現が変化するものである。発現が変化する」態様としては、タンパク質及び/又はその遺伝子の発現の有無が変わること、発現量が増減することなどが挙げられる。 特定のタンパク質は、Apolipoprotein A1、FABP−4、FABP−5、Vimentin、Rho GDI、Annexin II、Enolase 1、Galectin-1、Galectin-3、Galectin-4、Galectin-7、Galectin-8、PARK7、Desmin、Moesin、Ezrin、Radixin、HSP70、HSP90、Serum albumin、Immunoglobulin G、Arginase IおよびUracil-DNA glycosylaseからなる群より選択することが好ましい。選択するタンパク質は1種でも複数種であってもよい。 上記23種の特定のタンパク質は次のようになる。 (1)Galectin-1、Galectin-3、Galectin-4、Galectin-7、Galectin-8からなるGalectin群より選択されるタンパク質、 (2)HSP70、HSP90からなるHSP群より選択されるタンパク質、 (3)Vimentin、Rho GDI、Desmin、Moesin、Ezrin、Radixinからなる細胞骨格系タンパク質群より選択されるタンパク質、 (4)FABP−4、FABP−5からなるFABP群より選択されるタンパク質、 (5)その他 Serum albumin、Immunoglobulin G、Annexin II、Apolipoprotein A1、Enolase 1、PARK7、Arginase I、Uracil DNA glycosylase。 Apolipoprotein A1は、分子質量30,778Daの分泌タンパク質である。組織からのコレステロールの流出を促進したり肝臓にコレステロールを逆輸送する働きをしている。カイロミクロンやplasma HDLに多く存在する分泌タンパク質で、皮膚組織においては乾癬(表皮の規則的な肥厚と不全角化を特徴とする)で発現しているということが知られている。遺伝子配列情(Apolipoprotein A1, Nucleic Acids Res. 11:2827-2837(1983), P02647)。アミノ酸配列情報(Apolipoprotein A1, Biochem. Biophys. Res. Commun. 80:623-630(1978), M27875)。 FABP-5 (Fatty acid binding protein-5)は、分子質量15,033Daの細胞内タンパク質である。主に表皮に存在するタンパク質で乾癬(表皮の規則的な肥厚と不全角化を特徴とする)の組織で発現が上昇することから同定された。脂肪酸(オレイン酸)や疎水性のリガンドと結合する細胞内タンパク質で、脂肪酸の取り込み、輸送、代謝、さらに細胞の増殖や分化などに関与する。増殖中の表皮角化細胞ではFABP-5の発現は少ないが、分化誘導により約2倍に増加する。乾癬で高発現しているS100A7(カルシウム依存性のシグナリングプロテイン)とも結合し、表皮角化細胞の分化段階では接着斑(focal adhesion)様構造に局在する。遺伝子配列情報(Fatty acid binding protin 5, J. Invest. Dermatol. 99:299-305(1992), BC070303)。アミノ酸配列情報(Fatty acid-binding protein, epidermal, Biochem. J. 302:363-371(1994), Q01469)。 Vimentinは、分子質量53,520Daの細胞骨格系タンパク質である。クラスIIIのタイプの中間径フィラメントを構成するタンパク質。多くの間葉系の細胞内に広範囲に網目状に分布し、外界からの機械的なストレスに対して細胞に強度を与える。リン酸化により構築構造が調節を受ける。プレクチン、シネミンといった結合タンパク質の存在も知られている。遺伝子配列情報(Vimentin, Nucleic Acids Res. 18:6692-6692(1990), M14144)。アミノ酸配列情報(Vimentin, Electrophoresis 18:588-598(1997), P08670)。 Rho GDI (Rho GDP-dissociation inhibitor 1)は、分子質量23,207Daの細胞内タンパク質である。表皮角化細胞の分化時に高発現する。Rhoタンパク質のGDP型からGTP型への変換を抑制的に調節する。このため、Rho GDIを細胞に強制発現することによりストレスファイバーや接着斑などが消失し、細胞内のアクチン骨格系が崩壊する。遺伝子配列情報(Rho GDP-dissociation Inhibitor 1,Exp. Cell Res. 209:165-174(1993), X69550)。アミノ酸配列情報(Rho GDP-dissociation inhibitor , P52565)。 Annexin IIは、分子質量38,473Daの細胞内タンパク質である。一部細胞外へ分泌されるという報告もある。カルシウムで制御される膜結合タンパク質でこのタンパク質には二つのカルシウムイオンが結合する。細胞膜近傍に局在している。二組あるannexin リピートのうち、一つはカルシウムが結合し、一つはリン脂質が結合する。このタンパク質は細胞膜にあるリン脂質に結合しているアクチンや細胞骨格系のタンパク質と架橋したり、t-PA (tissue plasminogen activator)を介してプラスミノーゲンを活性化したりする。遺伝子塩基配列情報(Annexin A2 ,Gene 95:243-251(1990), BC015834)。アミノ酸配列情報(Annexin A2, J.Biol. Chem. 266:5169-5176(1991), P07355)。 Enolase 1は、分子質量47,038Daの細胞内タンパク質である。2-phospho-D-glycerate=phosphoenolpyruvate+H2Oの酵素活性を持ち解糖系で働く。また一部は細胞増殖、アレルギーにも関与するという報告がある。白血球や神経では細胞表面においてプラスミノーゲンの活性化を制御しフィブリンを形成するのに関与している。二量体の安定な構造を持つにはマグネシウムが必要である。細胞質内に局在するが、ホモダイマーのみ細胞膜にも見られる。α-enolaseはほとんどの組織に発現し、β-enolaseは筋組織、γ-enolaseは神経組織のみに発現している。遺伝子配列情報(Alpha enolase, Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 83:6741-6745(1986), M14328)。アミノ酸配列情報(Alpha enolase, Enzyme Protein 48:37-44(1995), P06733)。 Galectin-1は、分子質量14,585Daの細胞内タンパク質である。細胞外に分泌されるものもある。心臓、胃、骨格筋、神経、胸腺、腎臓、胎盤などに存在する。β−ガラクトシドやCD45, CD3, CD4等に結合する。細胞の増殖促進効果、細胞死の誘導、また免疫応答に影響を与えることが知られている。また、ラミニン、インテグリンなどの細胞外マトリックスの構成成分や細胞受容体に特異的に結合し、細胞接着や移動に大きな影響を与えている。遺伝子配列情報(Galectin-1, J.Biol.Chem. 264:1310-1316(1989), BT006775)。アミノ酸配列情報(Galectin-1, J.Biochem.104:1-4(1988), P09382)。 Galectin-3は、分子質量35,678Daの細胞内タンパク質である。IgEに結合する、ガラクトース特異的なレクチン。主な発現は大腸の上皮や活性化マクロファージにおいて見られる。Galectin-3は表皮角化細胞によって産生され皮膚のランゲルハンス島の表面に存在し、IgEと結合して免疫系を調節しているという報告がある。遺伝子配列情報(Galectin-3, Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 87:7324-7328(1990), AB006780)。アミノ酸配列情報(Galectin-3, P17931)。 Galectin-4は、分子質量35,941Daの細胞内タンパク質である。Galectin-4は結腸癌細胞株であるT84から単離され、細胞と基質間の接着部位や細胞間での接着部位に存在する。遺伝子配列情報(Galectin-4, Eur. J. Biochem. 248:225-230(1997), AB006781)。アミノ酸配列情報(Galectin-4, P56470)。 Galectin-7は、分子質量14,944Daの細胞内タンパク質である。一般的には細胞間どうし、細胞と細胞外マトリックス間で細胞の増殖を制御している。アポトーシス関連タンパク質でJNKの活性やシトクロームCの放出を制御している。細胞質、核、また細胞外にも分泌されている。ヒト表皮で最初にクローニングされたガレクチンサブファミリーのメンバーで、培養表皮角化細胞の研究からガレクチン7は角質化の程度に影響を受けず、総ての表皮細胞に発現する。遺伝子配列情報(Galectin-7, Dev.Biol.168:259-271(1995), L07769)。アミノ酸配列情報(Galectin-7, J. Biol. Chem. 270:5823-5829(1995) , P47929)。 Galectin-8は、分子質量35,539Daの細胞内タンパク質である。Galectin-8は肝臓、心臓、筋肉、腎臓、脳など幅広い組織に発現している。また、前立腺癌で特異的に発現しており、正常前立腺や良性肥大部には認められない。胚ではほとんど存在しないが、成体の各組織では非常に高い発現が見られる。遺伝子配列情報(Galectin-8, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:7252-7257(1996), X91790)。アミノ酸配列情報(Galectin-8, O00214)。 PARK7は分子質量19,891Daの細胞内タンパク質である。PARK7はパーキンソン病に関係したタンパク質として同定されたが、その後皮膚の創傷治癒過程での再上皮化(re-epithelialization)に関与することが明らかになった。またその立体構造からプロテアーゼとしても働いている可能性が示唆されている。遺伝子配列情報(Parkinson disease 7, Biochem. Biophys. Res. Commun. 231:509-513(1997), BC008188)。アミノ酸配列情報(DJ-1 protein,Q99497)。 Desminは分子質量53,405Daの細胞骨格系タンパク質である。細胞構造や強度の保持に働いているクラスIIIの中間径フィラメントの一種。繊維状ポリペプチドの重合体で平滑筋や横紋筋に存在している。遺伝子配列情報(Desmin, Gene 78:243-254(1989),U59167)。アミノ酸配列情報(Desmin, P17661)。 Ezrinは、分子質量69,268Daの細胞内タンパク質である。下記のMoesin、Radixinは同族の分子。主に細胞骨格系のタンパク質を細胞膜につなぐ働きをしている。細胞膜のmicrovilliと呼ばれる糸状突起の内側に局在する。腸上皮細胞のmicrovilliを構成している。チロシンキナーゼによってリン酸化される。遺伝子配列情報(Ezrin, J.Biol.Chem. 264:16727-16732(1989), X51521)。アミノ酸配列情報(Ezrin, Biochem.Biophys.Res.Commun. 224:666-674(1996), P15311)。 Radixinは、分子質量68,564Daの細胞内タンパク質である。主に細胞骨格系タンパク質と細胞膜とをつなぐ働きをしている。遺伝子配列情報(Radixin, Genomics 16:199-206(1993), L02320)。アミノ酸配列情報(Radixin, P35241)。 Moesinは、分子質量67,689Daの細胞内タンパク質である。主に細胞骨格系タンパク質と細胞膜とをつなぐ働きをしている。異常な分化をした表皮角化細胞において発現が低下するという報告がある。遺伝子配列情報(Moesin, Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 88:8297-8301(1991), M69066)。アミノ酸配列情報 (Moesin, Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 88:8297-8301(1991), P26038)。 FABP-4(Fatty acid-binding protein - 4)は分子質量14,588Daの細胞内タンパク質である。脂肪細胞に脂質を輸送する働きを持っている。主に細胞内の脂肪酸やレチノイン酸と結合している。脂肪細胞の分化段階に依存して発現が増加する。FABP-5と高い相同性を持っている。遺伝子配列情報(Fatty acid-binding protein, adipocyte, Biochemistry 28:8683-8690(1989), BT006809)。アミノ酸配列情報(Fatty acid-binding protein, adipocyte, P15090)。 HSP70 (Heat shock protein 70)は、分子質量70,052 Daの細胞内タンパク質である。通常、細胞内で分子シャペロンとして機能し、タンパク質のフォールディング、輸送、集合や分解などに関与している。また、ミトコンドリアやERでのHSP70の働きはタンパク質を正常に移転させることである。HSP90と協調して細胞内のシグナル伝達にも関与する。遺伝子塩基配列情報 (Heat shock 70kDa protein 1A, Immunogenetics 32:242-251(1990), BC002453)。アミノ酸配列情報(Heat shock 70 kDa protein 1, P08107)。 HSP90 (Heat shock protein 90)は、分子質量85,453Daの細胞内タンパク質である。細胞が高温にさらされると、HSP90は構造を変えて、他のタンパク質の不可逆的変性を防ぐ分子シャペロンとして働く。また、ある種の細胞ではシグナル伝達に関与するとの報告がある。遺伝子塩基配列情報(Heat shock protein 90, Nucleic Acids Res. 17:7108-7108(1989), X15183)。アミノ酸配列情報(Heat shock protein 90, J.Biol.Chem. 264:2431-2437(1989), P07900)。 Serum albuminは、血清に多量に含まれる分子質量69,367Daの分泌タンパク質である。Serum albuminの基本的機能は血液の膠質浸透圧の維持と種々の物質の担送である。遺伝子配列情報(Serum albumin, Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.79:71-75(1982).,V00494)。アミノ酸配列情報(Serum albumin, FEBS Lett. 58:134-137(1975)., P02768)。 IgG:Immunoglobulin Gは、分子質量42,632Daの分泌タンパク質である。ヒトの全免疫グロブリンの75%を占めている。IgGの生理活性としては補体の活性化、マクロファージへの取込みの増強、胎盤通過性などがある。一方、Immunoglobulin Gは免疫グロブリンIgGの大きいサブユニット(H鎖)で、遺伝子のクラススイッチによって発現される。血清中に多量に存在し、半減期も長い。軽鎖(L鎖)とともに多様な抗体分子を形成し、免疫反応において中心的な役割を果す。遺伝子配列情報(Immunoglobulin gamma , Nucleic Acids Res. 16:11824-11824(1988).,X14356)。アミノ酸配列情報(Immunoglobulin gamma, Protein Sci. 13:2819-2824(2004)., P12314)。 Arginase Iは、分子質量34,735Daの細胞内タンパク質である。L-アルギニンをL-オルニチンと尿素に加水分解する一方向反応酵素。肝臓に局在するが、腎臓、脳、乳腺、皮膚にもごくわずか認められる。欠損するとアルギニン血症をおこし、精神発育遅延、痙攣性四肢麻痺を来す。遺伝子配列情報(Arginase typeI, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84:412-415(1987).,AY074488)。アミノ酸配列情報(Arginase-1, P05089)。 Uracil-DNA glycosylaseは、分子質量34,645Daの細胞内タンパク質である。DNA中のシトシンが脱アミノ化するとウラシルとなり、アデニンと塩基対を形成して変異が誘起される。これを防ぐため、脱アミノ化で生じたデオキシウリジンのN-グリコシル結合を加水分解する酵素である。アイソフォームが2種類存在する。アイソフォームIは細胞内ではミトコンドリア、また組織分布としては筋肉に局在する。アイソフォームIIは増殖している組織細胞の核に多く発現が見られる。遺伝子配列情報(Uracil-DNA glycosylase, EMBO J. 8:3121-3125(1989).,X15653)。アミノ酸配列情報(Uracil-DNA glycosylase, EMBO J. 8:3121-3125(1989)., P13051)。 上記のタンパク質は、前駆体タンパク質であっても、成熟タンパク質であってもよく、また、切断型であっても、非切断型であってもよい。前駆体タンパク質としては、プロタンパク質、プレプロタンパク質などを挙げることができる。プロタンパク質、プレプロタンパク質などには、シグナルペプチドを持つものもある。 本発明の方法において、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における特定のタンパク質の発現を測定してもよいし、その遺伝子発現を測定してもよい。例えば、ノーザンブロット法、RT−PCR法、ウェスタンブロット法、免疫組織化学分析法、ELISA法、抗体チップ、cDNAマイクロアレイ、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET; Fluorescence resonance energy transfer)測定法などで測定することができる。 特定のタンパク質の発現をタンパク質レベルで測定するためには、測定の対象となるタンパク質を特異的に認識する抗体を用いるとよい。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれであってもよい。これらの抗体は公知の方法で製造することができるし、また、市販されているものもある。ウェスタンブロット法で測定する場合には、抗体は、125I標識プロテインA、ペルオキシダーゼ結合IgGなどを用いて二次的に検出される。免疫組織化学分析法で測定する場合には、抗体は、蛍光色素、フェリチン、酵素などで標識するとよい。 特定のタンパク質の遺伝子発現をRNAレベルで測定するためには、測定の対象となるタンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを用いるとよい(ノーザンブロット法で測定する場合)。あるいはまた、測定の対象となるタンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマー及び前記mRNAを鋳型として合成されるcDNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマーからなる1対の核酸プライマーを用いてもよい(PCR法で測定する場合)。核酸プローブ及び核酸プライマーは、測定の対象となるタンパク質の遺伝子情報に基づいて設計することができる。核酸プローブは、通常、約15〜1500塩基のものが適当である。核酸プローブは、放射性元素、蛍光色素、酵素などで標識するとよい。核酸プライマーは、通常、約15〜30塩基のものが適当である。 本発明において、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における特定のタンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現の有無を検出してもよいし、発現量を測定してもよい。タンパク質及び/又はそのmRNAの発現の有無は所定の位置におけるスポットやバンドの出現の有無により確認できる。タンパク質及び/又はそのmRNAの発現量はスポットやバンドの染色強度により測定できる。あるいはまた、タンパク質及び/又はそのmRNAを定量してもよい。複数の遺伝子発現や複数のタンパク発現を同時に検出するためには、DNAアレイ(プローブを基板に固定)(NATURE REVIEWS, DRUG DISCOVERY, VOLUME 1, DECEMBER 2002, 951-960)、プロテインチップ(抗体を基板に固定)(NATURE REVIEWS, DRUG DISCOVERY, VOLUME1, SEPTEMBER 2002, 683-695)、ルミネックス(NATURE REVIEWS, DRUG DISCOVERY, VOLUME 1, JUNE 2002, 447-456)等の検出法を用いることが好ましい。 皮膚細胞及び皮膚組織は判定の対象となる被験体に由来するものであるとよく、被験体の生物種としては、ヒト、ブタ、サル、チンパンジー、イヌ、ウシ、ウサギ、ラット、マウスなどの哺乳動物を挙げることができる。 本発明の方法により、アトピー性皮膚炎を判定するためには、皮膚生検試料、あるいはそこから得られる培養皮膚細胞、培養皮膚組織、などを用いることができる。皮膚生検試料としては、後述の実施例に記載のように、皮膚の角層をテープ(角層チェッカー)により採取したものを用いてもよい。 皮膚細胞としては、表皮角化細胞、皮膚線維芽細胞、ランゲルハンス細胞、メラニン細胞、肥満細胞、内皮細胞、皮脂細胞、毛乳頭細胞、毛母基細胞などを挙げることができる。皮膚細胞は公知の方法により皮膚から採取することができる(分子生物学研究のための新細胞培養実験法,p57−71,羊土社,1999)。 皮膚組織としては、皮膚の角層、表皮、真皮などを挙げることができる。皮膚組織は公知の方法により皮膚から採取することができる(Acta.Derm.Venereol.,85,389−393,2005)。 皮膚生検試料は、細胞であっても、組織であってもよい。皮膚生検試料としては、後述の実施例に記載のように、皮膚の角層を角層チェッカーなどのテープにより採取したものを用いるとよい。角層チェッカーは角層の不全角化度や細胞面積を測定し、肌荒れの程度や角層のターンオーバー速度を評価するための角層サンプルを採取する際に従来から使用されている(化粧品の有用性・評価技術の進歩と将来展望,日本化粧品技術者会,薬事日報社,p95−96)。カウンセリング店舗や自宅で簡単に安全に角層サンプルを採取でき、非浸襲で角層からタンパク質を得る方法として非常に有用である。 本発明の一つの例として、アトピー性皮膚炎は、以下のような基準で判定することができる。 実施例1(図8)に示すEnolase 1、FABP−5、SCCA2、Apolipoprotein A1、AlbuminおよびAnnexinIIなどの各種の抗体を用いた分析例のように、アトピー性皮膚炎を発症しているボランティアから皮膚検体を入手し、数種のマーカータンパク質の発現量、あるいはその遺伝子の発現量を測定し、病気の症状と発現量の関係を明らかにする。アトピー性皮膚炎発症者の発症部位(分析検体)と非発症部位(発症者対照検体)、およびアトピー性皮膚炎非発症者の相同部位(非発症者対照検体)における発現量の比較から、分析検体のアトピー性皮膚炎の症状の度合いや発症原因の判定をする。このようにして、マーカータンパク質の分析結果を、多様な症状を呈するアトピー性皮膚炎の診断や治療に役立てることができる。 本発明は、アトピー性皮膚炎を判定するためのキットも提供する。本発明のキットは、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における特定のタンパク質であって、アトピー性皮膚炎の炎症に伴って発現が変化する前記特定のタンパク質の発現を測定することができる試薬を含む。 一つの例として、本発明のキットは、アトピー性皮膚炎の炎症に伴って発現が変化する特定のタンパク質を特異的に認識できる抗体を試薬として含む。 特定のタンパク質は、Apolipoprotein A1、FABP−4、FABP−5、Vimentin、Rho GDI、Annexin II、Enolase 1、Galectin-1、Galectin-3、Galectin-4、Galectin-7、Galectin-8、PARK7、Desmin、Moesin、Ezrin、Radixin、HSP70、HSP90、Serum albumin、Immunoglobulin G、Arginase IおよびUracil DNA glycosylaseからなる群より選択することが好ましい。 キットには、さらに、皮膚組織を採取するためのテープ、テープ上のタンパク質を免疫化学的に検出するための試薬一式、取扱説明書などが含まれてもよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、アトピー性皮膚炎の判定基準なども記載しておくとよい。 別の一例として、本発明のキットは、アトピー性皮膚炎の炎症に伴って発現が変化する特定のタンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを試薬として含む。 特定のタンパク質は、Apolipoprotein A1、FABP−4、FABP−5、Vimentin、Rho GDI、Annexin II、Enolase 1、Galectin-1、Galectin-3、Galectin-4、Galectin-7、Galectin-8、PARK7、Desmin、Moesin、Ezrin、Radixin、HSP70、HSP90、Serum albumin、Immunoglobulin G、Arginase IおよびUracil DNA glycosylaseからなる群より選択することが好ましい。 キットには、さらに、皮膚組織を採取するためのテープ、テープ上の皮膚組織からRNAを抽出するための試薬類、RNAをノーザンブロット法で分析するための試薬類、取扱説明書などが含まれてもよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、アトピー性皮膚炎の判定基準なども記載しておくとよい。 さらに別の一例として、本発明のキットは、アトピー性皮膚炎の炎症に伴って発現が変化する特定のタンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマー及び前記mRNAを鋳型として合成されるcDNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマーからなる1対の核酸プライマーを試薬として含む。 特定のタンパク質は、Apolipoprotein A1、FABP−4、FABP−5、Vimentin、Rho GDI、Annexin II、Enolase 1、Galectin-1、Galectin-3、Galectin-4、Galectin-7、Galectin-8、PARK7、Desmin、Moesin、Ezrin、Radixin、HSP70、HSP90、Serum albumin、Immunoglobulin G、Arginase IおよびUracil DNA glycosylaseからなる群より選択することが好ましい。 キットには、さらに、皮膚組織を採取するためのテープ、テープ上の皮膚組織からRNAを抽出するための試薬類、RNAをRT-PCR法で分析するための試薬類、取扱説明書などが含まれるとよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、アトピー性皮膚炎の判定基準なども記載しておくとよい。 本発明は、アトピー性皮膚炎の治療及び/又は予防に効果のある物質を同定する方法も提供する。この方法は、以下の工程:(a)被験物質と皮膚細胞及び/又は皮膚組織を接触させる工程、(b)工程(a)で被験物質と接触させた皮膚細胞及び/又は皮膚組織を所定時間培養する工程、(c)工程(b)で培養した皮膚細胞及び/又は皮膚組織における特定のタンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現を測定する工程であって、前記特定のタンパク質はアトピー性皮膚炎の炎症に伴って発現が変化するものである前記工程、及び(d)工程(c)で測定した特定のタンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現を対照の皮膚細胞及び/又は皮膚組織における特定のタンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現と比較することにより、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における特定のタンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現に対する被験物質の効果を評価する工程を含む。 被験物質は、いかなる物質であってもよく、タンパク質、ペプチド、ビタミン、ホルモン、多糖、オリゴ糖、単糖、低分子化合物、核酸(DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド等)、脂質、上記以外の天然化合物、合成化合物、植物抽出物、植物抽出物の分画物、それらの混合物などを挙げることができる。 皮膚細胞及び皮膚組織については、前述の通りである。 被験物質と皮膚細胞及び/又は皮膚組織との接触は、いかなる方法によってもよい。例えば、被験物質を皮膚細胞及び/又は皮膚組織の培養液に添加する方法、被験物質を塗布又は固定した培養容器又は培養シート上で皮膚細胞及び/又は皮膚組織を培養する方法などを挙げることができる。また、ヒト又はヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタなど)などの生体を用いて、被験物質を直接皮膚に塗布する方法、被験物質を経口投与する方法でもよい。 皮膚細胞及び/又は皮膚組織の培養時間は、特に限定されない。皮膚細胞及び/又は皮膚組織における特定のタンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現に対する被験物質の効果の有無が確認できる程度の時間であればよい。 例えば、皮膚細胞としてヒト正常表皮角化細胞を用いた場合には、12〜48時間が適当であり、12〜24時間が好ましい。ここで、「皮膚細胞及び/又は皮膚組織を培養する」とは、皮膚細胞及び/又は皮膚組織を生育・増殖させることを言う。これには、単離した皮膚細胞及び/又は皮膚組織を生育・増殖させることの他、皮膚細胞や皮膚組織を有する生体自体を生存させること、飼育すること、養うことなども含まれる。 比較の対照となる皮膚細胞及び/又は皮膚組織は、被験物質を接触させる前の皮膚細胞及び/又は皮膚組織であってもよい。被験物質を接触させないこと以外は同様の処理を行った皮膚細胞及び/又は皮膚組織であってもよい。 特定のタンパク質は、Apolipoprotein A1、FABP−4、FABP−5、Vimentin、Rho GDI、Annexin II、Enolase 1、Galectin-1、Galectin-3、Galectin-4、Galectin-7、Galectin-8、PARK7、Desmin、Moesin、Ezrin、Radixin、HSP70、HSP90、Serum albumin、Immunoglobulin G、Arginase IおよびUracil DNA glycosylaseからなる群より選択されることが好ましい。 本発明の一つの例として、被験物質を接触させた皮膚細胞及び/又は皮膚組織において、Apolipoprotein A1、FABP−5、Vimentin、Rho GDI、Annexin II、Enolase 1、Serum albuminまたはImmunoglobulin Gのいずれかの発現量が対照と比較して減少しており、被験物質がこれらのいずれかのタンパク質の発現を減少させる効果があると評価できた場合には、この被験物質は、アトピー性皮膚炎の治療及び/又は予防に効果がある物質と同定することができる。 また、本発明の別の例として、被験物質を接触させた皮膚細胞及び/又は皮膚組織において、FABP−4、Galectin-1、Galectin-3、Galectin-4、Galectin-7、Galectin-8、PARK7、Desmin、Moesin、Ezrin、Radixin、HSP70、HSP90、Arginase IまたはUracil DNA glycosylaseの発現量が対照と比較して増加しており、被験物質がこれらのいずれかのタンパク質の発現を増加させる効果があると評価できた場合には、この被験物質は、アトピー性皮膚炎の治療及び/又は予防に効果がある物質と同定することができる。 以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。〔実施例1〕材料と実験方法1. アトピー性皮膚炎モデルマウス(NC/Ngaマウス)のハプテン処理 アトピー性皮膚炎モデルマウス(NC/Ngaマウス)は6週齢の雄を入手し(NC/Nga slc,三協ラボサービス株式会社)、コンベンショナルな条件下において飼育した。NC/Ngaマウスはいくつかの系統があり、本研究で使用した系統はコンベンショナル環境下で飼育するだけではアトピー性皮膚炎は発症せず、DNFB(Dinitorofluorobenzene)のような免疫誘導剤を処理することで初めてアトピー性皮膚炎を発症する系統である。そこで、0.1%のDNFB溶液(ハプテン)を週1回ずつの計4週間、両耳および左右背部皮膚に塗布した。 また同時にアトピー性皮膚炎の炎症を緩和させるラクトフェリンを1μg/mlで飲料水に溶解し投与した。 マウスの実験条件として、(1)ハプテン(−)/ラクトフェリン(−)、(2)ハプテン(−)/ラクトフェリン(+)、(3)ハプテン(+)/ラクトフェリン(−)、(4)ハプテン(+)/ラクトフェリン(+)を各3匹ずつ用いた。2. アトピー性皮膚炎モデルマウスの皮膚組織からのタンパク質の抽出 ハプテン/ラクトフェリンで4週間処理したマウスの皮膚組織を切り出し、組織片をナイフで細かく切り刻み、あらかじめ風袋重量を測定しておいた遠心管に移し、組織重量を測定する。組織重量×0.85mg Urea、組織重量×0.1μl 1.5% SDS、組織重量×0.1μl 8.5% Triton X-100、組織重量×0.05μl 2-MEのバッファーを加えてHG30 homogenizer (HITACHI社)でホモジナイズする。15,000rpm (15,000xg)、10℃ で30分間遠心し、上清を回収後、さらにその上清を50,000rpm (100,000xg)、10℃で1時間遠心し、その上清をサンプルとした。タンパク量はドット・ブロット法により定量した。3. アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織からのタンパク質の抽出 アトピー性皮膚炎患者の炎症を起こしている部位(主に腕)と炎症部位から近くの炎症を起こしていない部位に角層チェッカー(アサヒバイオメッド社)を貼り、角質層を取ってきた。またコントロールとしてアトピー性皮膚炎を発症していないヒトからもサンプルを回収した。角層チェッカーは一つの部位に対して同じ箇所で3枚を用いて回収した。1枚のシール当たり50μlの1×sample buffer (83mM Tris-HCl (pH6.8)、2.7% SDS、28% glycerin) でスクレイパーを用いてシールからサンプルを掻き取った。15000 rpm (15,000xg)、4℃、10分で遠心後上清を回収し、DC protein assay (BIO-RAD社)を用いてタンパク定量を行った。4. 二次元ゲル電気泳動 (2-DE) 4−1 1次元目等電点電気泳動 60μg分のタンパク質をゲル膨潤液(5M urea、2M thiourea、 0.5% ampholytes (pH 3.5〜10)(Amersham Biosciences社)、 0.0025% Orange G、2.5mM TBP、1% Triton X-100) と全量が340μlになるように混合した後、Immobiline Dry-Strip gel (18cm、pH3-10 、NL)(Amersham Biosciences社)に20℃で一晩膨潤させた。アナテック社の装置を用いて、1次元目は20℃で500V-2時間、700V-1時間、1000V-1時間、1500V-1時間、2000V-1時間、3000V-1時間、3500V-10時間のプログラムで等電点電気泳動を行った。泳動後、ゲルをSDS平衡化バッファー(5.8M urea、0.06M thiourea、 0.5% dithiothereitol (DTT) (w/v)、25% glycerol、0.0025% BPB)で室温で1時間平衡化した。 4−2 2次元目SDS-PAGE 二次元目はTris-Tricine系のバッファー(陰極バッファー:0.05M Tris、0.05M tricine、0.05% SDS、陽極バッファー:1M Tris-HCl (pH8.8))を用いて18cm×18cm、7.5%アクリルアミドゲルにおいてSDS-PAGEを行った。 4−3 電気泳動ブロット法 SDS-PAGE終了後のゲルをセミドライタイプ転写装置(日本エイドー社)を用いて、PVDF膜 (ProBlott Membranes (Applied Biosystemus社)) 20cm×20cmに150mAの定電流で2時間転写した。転写バッファーは陽極1液:0.3M Tris-HCl (pH10.4)、20% methanol、陽極2液:25mM Tris-HCl (pH10.4)、20% methanol、陰極液:25mM Tris-HCl (pH10.4)、20% methanol、40mM 6-amino hexanoic acid (和光純薬工業)を用いた。転写後はTTBSバッファー(20mM Tris-HCl (pH7.5) (BIO-RAD社)、500mM NaCl、0.3% Tween-20 (BIO-RAD社)で20分間、3回洗浄した後MQWで2分間、3回洗浄した。次に膜をシーリングして50mlの金コロイド溶液(Colloidal Gold Total Protein Stain (BIO-RAD社))で満たし、1〜2時間振盪させてタンパク質を染色した。膜を染色後、金コロイド溶液を除き、純水で1分間、5回洗浄した後、乾燥させた。5. タンパク質の同定 5−1 PVDF膜上タンパク質の還元S-アルキル化とプロテアーゼ消化 PVDF膜に転写されたタンパク質のスポット部分を切り取り、チューブに入れて還元用バッファー(8M guanidine-HCl (pH8.5)、0.5M Trisbase、0.3% EDTA-2Na (w/v)、5% アセトニトリルを100〜300μl加えた。還元用バッファーに溶解したDTT (dithiothreitol) 1mg相当分を加えてチューブ内を窒素ガスに置換して室温、1時間静置してタンパク質の還元を行った。反応終了前に1M NaClに溶解したモノヨード酢酸3mg相当分を加えて遮光状態で15〜20分間撹拌を続けてS-カルボキシメチル化を行った。終了後PVDF膜を取り出し純水で5分間撹拌洗浄し、その後2%アセトニトリル中で同様に撹拌した。PVDF膜を取り出しLys-C消化用バッファー(70%アセトニトリル/ 20mM Tris-HCl (pH9.0))を入れたチューブに移し2〜3回すすいだ後完全に浸る程度にLys-C消化用バッファーを加えて1時間消化した。 5−2 質量分析とペプチドマスフィンガープリンティング プロテアーゼ消化した溶液を7倍希釈してアセトニトリル濃度を10%にした。前処理としてZipTipc18ピペットチップ(MILLIPORE社)の充填剤部分を活性化するために50%アセトニトリル/ 0.1%TFA (trifluoro-acetic acid)で数回、2%アセトニトリル/ 0.1% TFA (trifluoro-acetic acid)で数回吸引、排出を繰り返した。次に活性化したZipTipc18ピペットチップでプロテアーゼ消化液を数回吸引、排出して断片化ペプチドを充填部分に吸着させた。さらに2%アセトニトリル/ 0.1% TFA (trifluoro-acetic acid)を数回吸引、排出して塩類を除いた。50%アセトニトリル/ 0.1%TFA (trifluoro-acetic acid)に溶解した飽和マトリックス溶液0.5〜1μlを吸引して10秒間程置いた後、質量分析計の付属のターゲットプローブに滴下した。サンプルを乾固させ、質量分析計(MALDI-TOF MS)で測定した。得られた質量値をもとにデータベース (MS-Fit, Mascot Search)に登録されているタンパク質の同定を行った。6. ウェスタンブロット法 ウェスタンブロット用のサンプルを用いてLaemmliのTris-Glycin系によりSDS-PAGEを行った。SDS-PAGEの後、ゲルを1cm2あたり0.8mAの定電流でPVDF膜(MILIPORE社)に転写後、5% スキムミルク/ PBS(−)を用いて4℃で終夜でブロッキングした。膜を0.1% Tween 20/ PBS(−)で3回洗浄した後、1次抗体を室温1時間で反応させた。次に2次抗体としてBiotinylated anti-goat IgG (Vector Laboratories社) (1:1000 dilution)で1時間振盪した場合にはAlkaline phosphatase-conjugated avidin D (Vector Laboratories社) (1:1000 dilution)を1時間反応させ0.6mg/ml 5-bromo-4-chloro-3-indolylphosphate、1.2mg/ml nitrobluetetrazolium、0.1M Tris-HCl (pH9.5)、5mM MgCl2にて発色させた。また、2次抗体にHRP labeled anti-mouse IgG (Amersham Bioscience社) (1:1000 dilution), HRP labeled anti-rabbit IgG (Amersham Bioscience社) (1:1000 dilution), HRP labeled anti-rat IgG (Amersham Bioscience社) (1:1000 dilution), HRP labeled anti-goat IgG (Santa Cruz社) (1:1000 dilution)を使用した場合にはEnhanced chemiluminescence (ECL) (Amersham Bioscience社)キットを用いて蛍光発色により検出した。使用した1次抗体の種類と希釈度は次の通りである:mouse anti-HSP70 monoclonal antibody(Santa Cruz Biotechnology社)(1:1000 dilution)、rabbit anti-annexin II polyclonal antibody (Santa Cruz Biotechnology社)(1:1000 dilution)、mouse anti-HSP90 monoclonal antibody (Santa Cruz Biotechnology社)(1:1000 dilution)、rat anti-GRP94 monoclonal antibody (Stressgeen社) (1:1000 dilution)、mouse anti-galectin-1 monoclonal antibody (R&D Systems社) (1:1000 dilution)、rat anti-galectin-3 monoclonal antibody (R&D Systems社) (1:1000 dilution)、mouse anti-galectin-4 monoclonal antibody (R&D Systems社) (1:1000 dilution)、mouse anti-galectin-7 monoclonal antibody (R&D Systems社) (1:1000 dilution)、mouse anti-galectin-8 monoclonal antibody (R&D Systems社) (1:1000 dilution)、goat anti-galectin-9 polyclonal antibody (Santa Cruz Biotechnology社)(1:1000 dilution)、rabbit anti-desmin polyclonal antibody (Santa Cruz Biotechnology社)(1:1000 dilution)、goat anti-vimentin polyclonal antibody (Santa Cruz Biotechnology社)(1:1000 dilution)、rabbit anti-enolase-1 polyclonal antibody (Santa Cruz Biotechnology社)(1:1000 dilution)、rabbit anti-ezrin/radixin/moesin polyclonal antibody (Chemicon社) (1:1000 dilution)、goat anti-FABP-4 polyclonal antibody (G-T research社) (1:1000 dilution)、mouse anti-apolipoprotein A1 monoclonal antibody (ICN biomedicals社) (1:1000 dilution)、goat anti-apolipoprotein A1 (Abcom社) (1:1000 dilution)、goat anti-PARK7 polyclonal antibody (Abcom社) (1:1000 dilution)、mouse anti-Rho GDI monoclonal antibody (Santa Cruz Biotechnology社)(1:1000 dilution)、goat anti-FABP-5 polyclonal antibody (R&D Systems社) (1:1000 dilution)、mouse anti-SCCA2 monoclonal antibody (Santa Cruz Biotechnology社)(1:1000 dilution)、rabbit anti-FABP-5 polyclonal antibody (BioVendor 社) (1:5000 dilution)、rabbit anti-human albumin polyclonal antibody (Inter-Cell社) (1:1000 dilution)。7.角質細胞面積の減少度の測定角層チェッカーを患部に押し当てて角層細胞を剥離した。角層細胞を採取した角層チェッカーを1%ブリリアントグリーン、0.5%ゲンチアナバイオレット水溶液で染色後、デジタルマイクロスコープ(VHX−100,KEYENCE Co,Ltd.,Japan)を用いて観察した(橿渕らの方法を改変,JSCCJ,23,1,1989)。得られた画像の角質細胞面積を専門判定員の目視評価により5段階(スコア1:小さい,スコア2:やや小さい,スコア3:ふつう,スコア4:やや大きい,スコア5:大きい)にスコアリングした。8.経皮水分蒸散量の測定 市販のTewameter(TEWAMETER TM210、Courage + Khazaka electronic GmbH社製)を用いて測定した。その測定原理は皮膚表面から空気中へ水分がFickの法則によって拡散すると仮定し、皮膚上数mmの2点の蒸気圧を求め表皮から蒸散する水分量を算出する。9.ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)によるマーカータンパク質の測定 96−well ELISA用プレートにリン酸緩衝溶液(PBS)で0.2μl/μlに希釈した角層タンパク質溶液を50μl/wellで添加し、4℃で18時間吸着させた。角層タンパク質溶液を除去後、ブロッキング溶液{1%の牛血清アルブミン(BSA)を含むPBS}に浸し、37℃で1時間ブロッキングした。洗浄液{0.05%のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(和光純薬)を含むPBS}にて洗浄後、1次抗体溶液{洗浄液で5mg/mlに調製した各種抗体}を50μl/ウェルずつ添加し、37℃で2時間反応させた。洗浄後、2次抗体溶液{洗浄液で1mg/mlに調製したHRP(Horseradish peroxidase)化抗マウスイムノグロブリンG(VECTOR LABORATORIES)または洗浄液で1mg/mlに調製したHRP(Horseradish peroxidase)化抗ラビットイムノグロブリンG(VECTOR LABORATORIES)}を50μl/ウェルずつ添加し、37℃で1時間反応させた。洗浄後、Enhanced chemiluminescence (ECL) (Amersham Bioscience社)キットを用いて化学発光反応を行い、化学発光検出器(SpectraMax Lmax II 384,Molecular devices)により検出、数値化した。実験結果1.アトピー性皮膚炎モデルマウスのハプテン処理 本研究で使用したアトピー性皮膚炎モデルマウス(NC/Ngaマウス)は、コンベンショナルな環境下でハプテン処理して飼育すると、ハプテン処理4週間後に肉眼的に確認出来るアトピー性皮膚炎に酷似した皮膚炎を発症した。本研究では、アトピー性皮膚炎に効果があることが示されているラクトフェリン(だ液や、血液にも含まれている鉄イオンと結合する分子量8万のタンパク質)を飲み水に混ぜて飲ませた。ハプテンおよびラクトフェリンを処理して飼育した結果、ハプテン塗布処理したマウスでは背部にヒトのアトピー性皮膚炎に酷似した炎症が見られたが、ハプテン塗布処理し、さらにラクトフェリンを混ぜた水を飲ませたマウスではハプテン塗布処理のみよりも炎症が抑制された (図1)。ハプテン処理によるアトピーの発症に伴い発現が変化したタンパク質が、ラクトフェリン処理によるアトピー症状の緩和により、無処理と同レベルにまで戻っていれば、そのタンパク質が有望なマーカーになると考えられる。2.アトピー性皮膚炎モデルマウスの皮膚組織を用いた二次元電気泳動による解析 アトピー性皮膚炎に関与するタンパク質を同定するためにハプテン塗布処理または未処理、ラクトフェリン処理または未処理のマウスの皮膚を二次元電気泳動し、変化するタンパク質について解析した。 無処理(コントロール)のマウス、ハプテン塗布したマウス、コントロールにラクトフェリンを飲ませたマウス、およびハプテン塗布しさらにラクトフェリンを飲ませたマウスの皮膚(ハプテン塗布では炎症のあった部分)を取り出し、重量にあわせてサンプルバッファーを加え、ポリトロン型ホモジナイザーで破砕した後、15000rpm (15,000xg)、30分遠心後上清を回収した。その上清を100,000xg、1時間で超遠心し、上清をサンプルとして用いた。二次元電気泳動は一次元目をpH3-10のストリップゲル、二次元目を7.5%アクリルアミドゲルを使用し行った。金コロイド染色を用いて、変化するタンパク質を検出し、変化の見られたタンパク質について質量分析機装置(MALDI-TOF MS)を用いて分子の同定を行った(図2(a)(b))。その結果、分析したタンパク質49個中、同定されたタンパク質は43個であった。同定されたタンパク質のうちハプテン処理したマウス(アトピー性皮膚炎の炎症を起こしているマウス)で発現が増加しているものとしてはFABP-5、Apolipoprotein A1、Vimentin等が同定されたが、未知のタンパク質も4種あった。一方、ハプテン処理したマウスで発現が減少しているものとしてはGalectin-3、Desmin、PARK7等が同定された。また、同定されたタンパク質の多くはkeratin 5, keratin 16, Desmin, Vimentin, Moesinなどの骨格系タンパク質であった。3.アトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた変化するタンパク質の抗体での確認 上記で示したアトピー性皮膚炎発症によって変化するタンパク質の発現を確認するために種々の抗体を用いてウェスタンブロッティングによる解析を行った。まず、二次元電気泳動の結果から同定されたタンパク質の中にGalectin-3が含まれていたことからガレクチンファミリーに注目し確認を行った。ガレクチンは糖タンパク質の一種で、通常のシグナル配列をもたないが、免疫反応などの刺激を受けて、あるいは刺激なしに細胞外に放出される。各ガレクチン分子は異なる組織分布を示し、免疫調節、細胞・基質間接着、細胞間接着、創傷治癒、など異なる生理現象への関与が報告されている(J.Biol.Chem. 264:1310-1316(1989), J.Biochem.104:1-4(1988), Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 87:7324-7328(1990), Eur. J. Biochem. 248:225-230(1997), Dev.Biol.168:259-271(1995), J. Biol. Chem. 270:5823-5829(1995), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:7252-7257(1996) 参照)。 そこで、Galectin-3以外にもGalectinファミリーに含まれるGalectin-1、 -3、-4、-7、-8、-9の抗体を用いてアトピー性皮膚炎のモデルマウスの皮膚での発現量の変化を調べた(図3) 。その結果、Galectin-1、 -3、-4、 -7、-8については、ハプテンを処理したマウスは処理してないマウス(対照マウス)に比べて発現量が減少していた。一方、Galectin-1、-4、-7、-8については、ハプテンを処理したマウスでもラクトフェリンを飲ませたマウスではその発現量がハプテンを処理していないマウス(対照マウス)に近いレベルまで回復していることがわかった。Galectin-9はハプテン処理による変化はみられなかったことからアトピー性皮膚炎との関連性は低いと考えられる。 細胞骨格系タンパク質であるDesmin、Moesin/Ezrin/Radixin、Vimentinについても同様に分析した(図4)。ハプテン処理したマウスは処理していない対照マウスに比べてDesminの発現量は減少するが、Moesin/Ezrin/Radixin(50KDa切断型)、およびVimentinの量が増加した。特にMoesin/Ezrin/Radixinではハプテン処理により低分子量の切断型が著しく増加したが、ラクトフェリン投与による減少はなかった。なお、Moesin/Ezrin/Radixinは同一ファミリーに属するタンパク質で、二次元電気泳動による分析ではMoesinが同定された。今回使用した抗体はこれら3種を認識するものであるため、炎症によりMoesinあるいは他のタンパク質が単独あるいは複数で高発現したものと考えられる。 熱ショックタンパク質であるHSP70、HSP90、GRP94に関しては、ハプテン処理したマウスでは処理していないもの(対照マウス)に比べてHSP70、HSP90の発現量が減少したが、GRP94の発現はハプテン処理、無処理に関わらず変化しなかった (図4)。 さらにFABP-4 (fatty acid binding protein-4)、FABP-5 (fatty acid binding protein-5)、Enolase 1、 PARK7 (DJ-1)、 Annexin II、Apolipoprotein A1、Rho GDIについてウェスタンブロティングによる分析を行った(図5)。その結果、Annexin II、Enolase 1、FABP-4、PARK7についてはハプテンを処理したマウスは処理してないマウス(対照マウス)に比べて発現量が減少した。さらに、FABP-4以外ではハプテン処理したマウスでもラクトフェリンを飲ませたマウスではその発現量がハプテンを処理していないマウス(対照マウス)に近いレベルまで回復した。一方、Rho GDI、FABP-5、Apolipoprotein A1については、ハプテン処理したマウスでは処理していないマウス(対照マウス)に比べて発現が増加した(図5)。Rho GDIは細胞間の接着を弱めることが知られており、このタンパク質のアトピー発症による増加はアトピー性皮膚炎における皮膚の脱離に関与する可能性がある。4.アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織を用いたSDS-PAGEによる解析 上記の結果からアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いたアトピー性皮膚炎マーカーの候補が絞り込めた。しかし、これらのタンパク質がヒトにおけるアトピー性皮膚炎のマーカーと成り得るのかを調べる必要がある。そこで実際にアトピー性皮膚炎発症者の炎症部位(図6、A.P.)と非炎症部位(Control)、アトピー性皮膚炎を発症していないボランティアの相同部位(Control)から角質チェッカーと呼ばれるシール状のものを用いてサンプルを採取した。ヒトの皮膚の同じ箇所からシール3枚分のサンプルを回収し、そこから1×SDS サンプル バッファーを用いて皮膚組織を溶解させた。その後、アトピー発症者(2人)と非発症者(3人)のサンプルを用いてSDS-PAGEし、アトピーを発症しているサンプルで発現が増加しているタンパク質について質量分析装置(MALDI TOF-MS)を用いて同定した。その結果、Annexin II、squamous cell carcinoma antigen-1(SCCA1)、squamous cell carcinoma antigen-2(SCCA2)、fatty acid binding protein-5(FABP-5)、Serum albuminおよびImmunoglobulin Gの発現がアトピー発症とともに増加することが判明した(図6)。一方、Arginase IおよびUracil-DNA glycosylaseの発現がアトピー発症者では減少していることが明らかとなった(図6)。5.アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織を用いた種々の抗体による解析 アトピー性皮膚炎モデルマウスを用いたウェスタンブロッティングによる解析では17種類のタンパク質で変化が見られた。これらのタンパク質がヒトのアトピー性皮膚炎での炎症時にも同様な変化が見られるかを調べた(図7)。また、同時にアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織を用いたSDS-PAGE解析によって変化が見られたタンパク質についても検討した。 Annexin IIについては、アトピー性皮膚炎発症者の発症部位(図7、A.P.)では非発症部位(Control)に比べ発現が増加しており、さらにアトピー非発症者のバンドと比べて分子量がやや小さかった。この理由は明らかでないが、この分子的差異がアトピー性皮膚炎発症者と非発症者の体質の違いに関係する可能性が考えられる。 Enolase 1、squamous cell carcinoma antigen 2(SCCA2)については、アトピー性皮膚炎発症者の1人において発症部位で増加していた。 PARK7に関しては、アトピー性皮膚炎発症者によって発現の増減が一定ではないが、アトピー非発症者に比べてアトピー性皮膚炎発症者では全般的に減少する傾向が見られた。 また、Apolipoprotein A1に関しては、アトピー性皮膚炎非発症者、およびアトピー性皮膚炎発症者の非発症部位では発現が全く見られないが、アトピー性皮膚炎発症部位でのみ発現が増加することが明らかになった。 以上の結果を表1にまとめる。6.患者の皮膚組織を用いた種々の抗体による解析 アトピー性皮膚炎モデルマウスおよび少数のアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で検出されたアトピー性皮膚炎マーカー候補の実用性を確認するために、皮膚科医の診療を受けたアトピー性皮膚炎患者ボランティア17名(男性7名、女性10名)と、非発症者ボランティア15名(男性10名、女性5名)の皮膚サンプルを用いて、アトピー性皮膚炎の重症度との相関性を調べた。アトピー性皮膚炎患者の重症度(日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2004改訂版)による分類では重症度1が1名、2が7名、3が6名、4が3名であった。アトピー性皮膚炎ボランティア17名に関してはアトピー性皮膚炎の重症度と相関があることが既に知られている血中での好酸球、IgE、LDHなどのデータもとった。皮膚サンプルは角質チェッカーで採取し、6種のタンパク質の発現をウエスタンプロッティング法で分析した(図8(a)(b))。 Enolase 1に関しては、アトピー性皮膚炎非発症者皮膚では検出できなかったのに対し、アトピー性皮膚炎患者皮膚では広く発現が見られた。患者の中で非炎症部よりも炎症部での発現が多かった患者は17人中12人であった。逆に減少している患者は2人であった。 Fatty acid binding protein-5 (FABP-5)は、非発症者皮膚では1人を除きほとんど検出できなかったのに対し、アトピー性皮膚炎患者の炎症部では重症度に応じて強い発現が見られた。非炎症部よりも炎症部での発現が多かった患者は17人中13人であった。 Squamous cell carcinoma antigen 2 (SCCA2)は、非発症者1人で弱い発現を認めたが、明らかにアトピー性皮膚炎患者皮膚では発現が増加していた。非炎症部よりも炎症部での発現が多かった患者は17人中9人であった。逆に減少している患者は1人であった。FABP-5に比べて発現の偏りが見られた。 Apolipoprotein A1(apolipoprotein A1)に関しては、非発症者皮膚では1人で弱い発現を認め、アトピー性皮膚炎患者では特定の患者で強く検出される傾向があった。非炎症部よりも炎症部での発現が多かった患者は17人中9人であり、減少している患者は1人であった。 Serum albuminは、アトピー性皮膚炎患者全員で比較的強く検出され、全体的に炎症部と非炎症部の差が小さかった。非発症者では1名をのぞき、発現は弱かった。 Annexin II(Annexin II)については、発現が弱いものの、アトピー性皮膚炎患者皮膚では広く検出され、非発症者ではほとんど検出されなかった。非炎症部よりも炎症部での発現が多かった患者は17人中6人であり、減少している患者も6人であった。 発現強度が低かったAnnexin IIを除き、Enolase 1、FABP-5、SCCA2、apolipoprotein A1、Serum albuminの各5種マーカータンパク質の各サンプルにおける発現強度を定量化した。その結果を患者の重症度別にまとめたものを図9(a)(b)に示す。 FABP-5、Serum albumin、Enolase 1は、患者皮膚の重症度と高い相関性を示したことから、患者の重症度判定に利用できる。Serum albuminは非炎症部でも検出されることから、アトピー性皮膚炎発症に関係する患者の体質を反映すると思われる。Apolipoprotein A1とSCCA2は発現の偏りが見られ、またAnnexin IIは非炎症部での発現が高いことが特徴的である。これらのマーカーの発現もまた患者の特質を反映している可能性がある。 以上の結果を表2にまとめる。7.アトピー性皮膚炎既往歴者でのマーカーの有用性検証 アトピー性皮膚炎で通院経験のある人は約634万人であり、アトピー性皮膚炎の症状を呈するアレルギー肌の人は約1200万人であると推定されている。また、アトピー性皮膚炎には薬剤治療に加えて保湿剤によるスキンケアが有用であることが示されており(田上八朗,Fragrance Journal,p13−19,2003年6月)、医薬品部外品や化粧品でスキンケアを行う人が多く存在する。そのようなことから、本研究で見出したマーカーの利用として、皮膚科医でのアトピー性皮膚炎診断に加えて、カウンセリングの場での肌診断や自宅での肌診断への応用が考えられる。そこで、過去にアトピー性皮膚炎を発症し、皮膚科医での治療を受けた経験のあるアトピー性皮膚炎既往歴者を対象に、アトピー性皮膚炎マーカー候補の実用性を確認した。 アトピー性皮膚炎の特徴的な変化として、角質バリア機能低下による経皮水分蒸散量(TEWL)の亢進、角化不全による角質細胞面積の減少や有核細胞の角質中での存在が明らかになっている(Tagami H.et al.,J.Invest.Dermatol.Symp.Proc.,6,1,87〜94,2001)。そこで、TEWLの亢進度および角質細胞面積の減少度をアトピー性皮膚炎の炎症度の指標として、候補マーカーの有用性を検証した。 健常者11名、アトピー性皮膚炎既往歴者10名のボランティアを対象として評価した。健常者およびアトピー性皮膚炎既往歴者の正常部として上腕内側部を用い、アトピー性皮膚炎既往歴者の炎症部として炎症が起きている部位(肘の内側部7名、首1名、手の指間部1名、膝の裏側部1名)を用いて、TEWLの亢進度および角質細胞面積の減少度と6種の候補マーカー(FABP−5、Galectin-7、Enolase1、SCCA2、Apolipoprotein A1、Annexin II)の発現度との相関を調べた。角質細胞面積の減少度は剥離角層染色法により、TEWLの亢進度はTewameterにより測定した。候補マーカー6種の発現度は、健常者およびアトピー性皮膚炎既往歴者の正常部として上腕内側部を用い、アトピー性皮膚炎既往歴者の炎症部として炎症が起きている部位を用いて、角層チェッカーにより角層を採取し、そこからタンパク質を抽出してELISA法により測定した。 TEWLの亢進度と6種の候補マーカー(FABP−5、Galectin-7、Enolase1、SCCA2、Apolipoprotein A1、Annexin II)の発現度との相関を調べた結果を図10に示す。図10のグラフのX軸に示したTEWLは健常者とアトピー性皮膚炎既往歴者の正常部でほぼ同等であったが、アトピー性皮膚炎既往歴者の炎症部で亢進していた。図10(a)〜(c)のグラフのY軸に示したFABP−5、Galectin-7、Enolase1の3種のマーカーの発現は、健常者およびアトピー性皮膚炎既往歴者の正常部に比べてアトピー性皮膚炎既往歴者の炎症部で、TEWLの亢進と相関して亢進が見られた。一方、図10(d)〜(f)のグラフのY軸に示したSCCA2、Apolipoprotein A1、Annexin IIの3種のマーカーの発現度は、健常者<アトピー性皮膚炎既往歴者の正常部<アトピー性皮膚炎既往歴者の炎症部であり、アトピー性皮膚炎発症の危険度の診断に有用であると考えられた。 角質細胞面積の減少度と6種の候補マーカー(FABP−5、Galectin-7、Enolase1、SCCA2、Apolipoprotein A1、Annexin II)の発現度との相関を調べた結果を図11に示す。図11のグラフのX軸に示した角質細胞面積は健常者とアトピー性皮膚炎既往歴者の正常部でほぼ同等であったが、アトピー性皮膚炎既往歴者の炎症部で減少していた。図11(a)〜(c)のグラフのY軸に示したFABP−5、Galectin-7、Enolase1の3種のマーカーの発現量は、角質細胞面積の減少と相関して健常者およびアトピー性皮膚炎既往歴者の正常部に比べてアトピー性皮膚炎既往歴者の炎症部で亢進が見られた。一方、図11(d)〜(f)のグラフのY軸に示したSCCA2、Apolipoprotein A1、Annexin IIの3種のマーカーの発現度は、健常者<アトピー性皮膚炎既往歴者の正常部<アトピー性皮膚炎既往歴者の炎症部であり、アトピー性皮膚炎発症の危険度の診断に有用であると考えられた。 アトピー性皮膚炎の炎症度およびアトピー性皮膚炎発症の危険度に伴って発現が増加するタンパク質及び減少するタンパク質を見出した。これらのタンパク質の発現変動を検定することにより、アトピー性皮膚炎の原因や症状と関係するより正確な診断や発症の危険度の判定が可能となる。また、これらのマーカーをアトピー性皮膚炎の治療薬の開発や敏感肌用の化粧品および健康食品への開発等に利用出来る。 皮膚細胞及び/又は皮膚組織におけるGalectin-7、FABP−5、Annexin II、Apolipoprotein A1、Enolase 1、PARK7、squamous cell carcinoma antigen-2(SCCA2)から選択されるタンパク質の発現を測定し、該選択されたタンパク質がGalectin-7、FABP−5、Annexin II、Apolipoprotein A1、Enolase 1及びsquamous cell carcinoma antigen-2(SCCA2)の何れかの場合は該選択されたタンパク質の発現が対照と比較して増加しているときに、該選択されたタンパク質がPARK7の場合は該選択されたタンパク質の発現が対照と比較して減少しているときに、アトピー性皮膚炎の発症リスクが高いと判定する方法。 皮膚細胞及び/又は皮膚組織が角層チェッカーによって採取された皮膚の角層である請求項1記載の方法。 皮膚細胞及び/又は皮膚組織におけるGalectin-7、FABP−5、Annexin II、Apolipoprotein A1、Enolase 1、PARK7、squamous cell carcinoma antigen-2(SCCA2)から選択されるタンパク質の発現を測定することができる試薬を含み、その試薬がGalectin-7、FABP−5、Annexin II、Apolipoprotein A1、Enolase 1、PARK7、squamous cell carcinoma antigen-2(SCCA2)から選択されるタンパク質を特異的に認識できる抗体であるアトピー性皮膚炎を判定するためのキット。 皮膚細胞及び/又は皮膚組織採取用の角層チェッカーを備えた請求項3記載のキット。