タイトル: | 特許公報(B2)_新規芳香族アシル基転移酵素遺伝子 |
出願番号: | 2007540866 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/15,C12N 1/19,C12N 1/21,C12N 5/10,C12N 9/10,A01H 5/00,C12P 19/44 |
野田 尚信 数馬 恒平 佐々木 健 古川 耕一郎 鈴木 正彦 JP 4853853 特許公報(B2) 20111104 2007540866 20051020 新規芳香族アシル基転移酵素遺伝子 地方独立行政法人青森県産業技術センター 309015019 野村 健一 100107870 野田 尚信 数馬 恒平 佐々木 健 古川 耕一郎 鈴木 正彦 20120111 C12N 15/09 20060101AFI20111215BHJP C12N 1/15 20060101ALI20111215BHJP C12N 1/19 20060101ALI20111215BHJP C12N 1/21 20060101ALI20111215BHJP C12N 5/10 20060101ALI20111215BHJP C12N 9/10 20060101ALI20111215BHJP A01H 5/00 20060101ALI20111215BHJP C12P 19/44 20060101ALI20111215BHJP JPC12N15/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/00 101C12N9/10A01H5/00 AC12N5/00 103C12P19/44 C12N 15/09 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus(JDreamII) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq UniProt/GeneSeq SwissProt/PIR/GeneSeq PubMed 国際公開第02/004653(WO,A1) 国際公開第02/004614(WO,A1) 特表2000−510343(JP,A) 数馬恒平ら,チョウマメ(Clitoria ternatea)花弁におけるテルナチン類生合成経路の初期段階,園芸学会雑誌,2002年10月13日,Vol.71, No.2,pp.200 MILKOWSKI,C. AND STRACK,D.,Serine carboxypeptidase-like acyltransferases.,Phytochemistry,2004年,Vol.65, No.5,pp.517-24 園芸学会雑誌別冊,2002,Vol.71,No.2,p.200 Phytochemistry.,2004,Vol. 65,No. 5,p.517-524 11 JP2005019291 20051020 WO2007046148 20070426 26 20080619 幸田 俊希 本発明は、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体として芳香族アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、及びUDP-グルコースをグルコシル基供与体とし、ヒドロキシケイ皮酸の1位水酸基へグルコシル基を転移させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、及びその利用方法に関するものである。 産業的にも植物の色は最も重要な形質の一つであり、花色の多様化や果実の発色の良さ、着色の安定化・均一化などに見られるように花卉類、果樹類、野菜類において大きな経済的要因となっている。植物色素の中で最も多く見られるものがアントシアニンと総称される化合物であり、蓄積している細胞や組織は淡青色から濃朱色まで様々な色を呈する。これまでに500種近くのアントシアニンが様々な植物種から報告されており、その色は主としてその化学構造に依存している。アントシアニジンはアントシアニンの骨格を成すアグリコンであるが、そのままでは植物体内に存在せず、必ず配糖化やアシル化などの修飾をされた形(アントシアニン)で存在する。アントシアニジンは配糖化されることにより無毒なアントシアニンになって安定化し、また、水溶性になるので細胞の液胞内に溶けるようになる。配糖化された多くのアントシアニンはさらに配糖化、アシル化、メチル化等の修飾を受ける。特にアシル化は液胞内でのアントシアニン分子の安定性を高める。また、芳香族アシル基によるアシル化は、アグリコンと芳香族アシル基の分子内会合によってアントシアニン分子の吸収極大を長波長側へシフトさせる。従って、芳香族アシル基によりアシル化されたアントシアニンが蓄積した植物組織は、紫色から青色系を呈している場合が多い。アントシアニンは液胞内で芳香族アシル基との分子内会合、アシルグルコース、フラボンやフラボノールなどの補助色素や金属イオンと分子間会合、金属イオンとの配位結合、ポリペプチドとの結合などによって複雑な色素高分子を形成して多様な色を呈する。それ故、アントシアニンのアシル化はアントシアニンによる花色の多様性を拡大する上で重要な化学反応の一つである。 直接、目で確認できる形質であるアントシアニンによる発色は多くの遺伝学、生化学、分子生物学的研究の対象となり、今日ではアントシアニンを含むフラボノイドを含めて、フラボノイド生合成系に関わる遺伝子がペチュニア(Petunia ×hybrida)、キンギョソウ(Antirrhinum majus)、アサガオ(Pharbitis nilまたはIpomoea nil)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)等の花卉類やリンゴ(Malus ×domestica)、ブドウ(Vitis vinifera)などの果実類、ナス(Solanum melongena)、シソ(Perilla frutescens)等の野菜類からクローニングされている。また、アントシアニンによる花色発現の仕組みが天然物化学及び生理学的解析によって解明されつつある。 リンドウ(Gentiana spp.)、トルコギキョウ(Eustoma grandiflorum)、アサガオ、ロベリア(Lobelia erinus)、バーベナ(Verbena ×hybrida)、シネラリア(Senecio cruentusまたはPericallis cruenta)等の植物種におけるアントシアニンの蓄積による発色は、基本的にアントシアニンのアグリコン(ペラルゴニジン、シアニジン、ペオニジン、デルフィニジン、ペチュニジン、マルビジン等)の違いに起因し、デルフィニジン系色素の蓄積が青色発現に有効であることが知られている。一方で、ペチュニア、デルフィニウム(Delphinium spp.)、チョウマメ(Clitoria ternatea)などの植物における花色発色の違いは、アントシアニジンへの糖及びアシル基の結合様式および結合数の違いに起因している。アシル基はアントシアニン・アグリコンに直接結合せず、多くの場合、アントシアニジンに結合しているグルコースなどの糖残基に結合する。エゾリンドウ(Gentiana triflora)のアントシアニンB環の3'位グルコシル基に結合している芳香族アシル基であるカフェオイル基、そしてチョウマメおよびデイアネラ(Dianella spp.)の3'位及び5'位のグルコシル基に結合している芳香族アシル基であるp-クマロイル基は、3位、5位、7位といった他のグルコシル基に結合している芳香族アシル基よりもより近い位置でアントシアニン・アグリコンと分子内会合していることが報告されている(Yoshida et al., (2000) Phytochemistry 54: 85-92、Terahara et al., (1996) Journal of Natural Products 59: 139-144、Bloor (2001) Phytochemistry 58: 923-927)。従って、アントシアニン3'位及び5'位のグルコシル基を芳香族アシル基により修飾することで紫や青系の色を植物体の細胞、組織、器官において発現させることができる事は合理的に推察されるが、その遺伝子は未だに取得されていない。 アントシアニンのアシル化にはアセチル基、マリル基、マロニル基、メチルマロニル基、スクシニル基といった脂肪族アシル基によるものと、p-クマロイル基、カフェオイル基、フェルロイル基、シナポイル基、p-ヒドロキシベンゾイル基、ガロイル基といった芳香族アシル基によるものが報告されている。 脂肪族アシル基によるアントシアニンの糖残基のアシル化をコードする遺伝子として、脂肪族アシルCoAチオエステルをアシル基供与体としてフラボノイドの3位糖残基にマロニル基を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がダリア(Dahlia variabilis)(Suzuki et al., (2002) Plant Physiology 13: 2142-2151、公開特許公報 特開2002-233381)、シネラリア(PCT/WO96/25500、Suzuki et al., (2003) Plant Biotechnology 20: 229-234)、キク(Dendranthema x morifolium)(Suzuki et al., (2004) Plant Science 166: 89-96)、バーベナとヒメオドリコソウ(Lamium purpureum)(Suzuki et al., (2004) Journal of Molecular Catalysis B: Enzymatic 28: 87-93)から報告されている。さらに、脂肪族アシルCoAチオエステルをアシル基供与体としてフラボノイドの5位糖残基にマロニル基を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がサルビア・スプレンデンス(Salvia splendens)(Suzuki et al., (2001) Journal of Biological Chemistry 276: 49013-49019、Suzuki et al., (2004) Plant Journal 38: 994-1003,PCT/WO01/92536)、サルビア・グアラニティカ(Salvia guaranitica)、ラベンダー(Lavendula angustifolia)、シソ(PCT/JP01/04677)から報告されている。 また、芳香族アシル基によるアントシアニンの糖残基のアシル化をコードする遺伝子として、芳香族アシルCoAチオエステルをアシル基供与体としてフラボノイドの3位糖残基に芳香族アシル基を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がシソ、ラベンダー(PCT/WO96/25500、Yonekura-Sakakibara et al., (2000) Plant Cell Physiology 41: 495-502)、ペチュニア(PCT/WO01/72984)から報告されている。さらに、芳香族アシルCoAチオエステルをアシル基供与体としてフラボノイドの5位糖残基に芳香族アシル基を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子がエゾリンドウ(PCT/WO96/25500、Fujiwara et al., (1998) Plant Journal 16: 421-431)、トルコギキョウ(野田ら(2001)育種学研究3(別1): 61、野田ら(2002)第20回日本植物細胞分子生物学会大会・シンポジウム要旨集: 145)から報告されている。 この様に、これまでに遺伝子クローンが報告されているアントシアニンの糖残基にアシル基を転移する活性を有するタンパク質は、アシル基供与体としてアシルCoAチオエステルを基質とする反応を触媒しているが、アシル基供与体としてはアシルCoAチオエステル以外にクロロゲン酸や1-O-アシル-β-D-グルコースが報告されている(Steffens(2000)Plant Cell 12: 1253-1255)。 クロロゲン酸をアシル基供与体としてアシル基を転移する活性を有するタンパク質としてはクロロゲン酸:グルカル酸カフェオイル基転移酵素(5-O-カフェオイルキナ酸:グルカル酸カフェオイル基転移酵素)の精製と生化学的解析がトマト(Lycopersicon esculentum)から報告されている(Strack and Gross(1990)Plant Physiology 92: 41-47)。 1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体としてアシル基を転移する活性を有するタンパク質には以下のような報告がある。1-O-シナピン酸エステル代謝に関わるコリン・シナポイル基転移酵素(1-O-シナポイル-β-D-グルコース:コリン 1-O-シナポイル基転移酵素)では、ハマダイコン(Raphanus sativus)およびシロガラシ(Sinapis alba)の種子からの部分精製と特性解析(Grawe and Strack (1986) Zeitschrift fur Naturforchung 43c: 28-33)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の変異体の解析と遺伝子のクローン化(Shirley et al., (2001) Plant Journal 28:83-94)及び組換えタンパク質を用いた生化学的解析(Shirley and Chapple (2003) Journal of Biological Chemistry 278: 19870-19877)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)からの遺伝子(SNG2)のクローン化(Milkowski et al., (2004) Plant Journal 38: 80-92)が報告されている。 シナピン酸エステル代謝に関わるマリル酸シナポイル基転移酵素(1-O-シナポイル-β-D-グルコース:マリル酸 1-O-シナポイル基転移酵素)では、ハマダイコン細胞内での局在性(Sharma and Strack (1985) Planta 163: 563-568)、セイヨウアブラナ種子及び実生における酵素活性の測定(Strack et al., (1990) Planta 180: 217-219)、シロイヌナズナおよびニホンナタネ(Brassica rapa ssp. oleifera)実生や幼植物体における酵素活性の測定(Mock et al., (1992) Zeitschrift fur Naturforchung 47c: 680-682)、ハマダイコン胚軸からのタンパク質精製と生化学的解析(Grawe et al., (1992) Planta 187: 236-241)、シロイヌナズナの変異体の解析と遺伝子(SNG1)のクローン化(Lehfeldt et al., (2000) Plant Cell 12: 1295-1306、PCT/WO02/04614)、シロイヌナズナの葉組織の細胞局在性(Hause et al., (2002) Planta 215: 26-32)が報告されている。 脂肪酸代謝に関わるグルコースアシル基転移酵素(1-O-ブチリル-β-D-グルコース:1-O-ブチリル-β-D-グルコース 2-O-ブチリル基転移酵素)では、リコペルシコン・ペンネリ(Lycopercsicon pennellii)における酵素活性の測定(Ghangas and Steffens (1995) Archives of Biochemistry and Biophysics 316: 370-377、Ghangas (1999) Phytochemistry 52: 785-792)、精製と部分アミノ酸配列の決定(Li et al., (1999) Plant Physiology 121:453-460)、及び遺伝子のクローン化(Li and Steffens (2000) PNAS 97: 6902-6907、PCT/WO97/48811)が報告されている。 インドール酢酸代謝に関わる1-O-インドール-3-アセチル-β-D-グルコース:myo-イノシトール・インドール-3-アセチル基転移酵素では、トウモロコシ(Zea mays)のから酵素活性測定(Michalczuk and Bandurski(1980)Biochemical Biophysics Research Communication 93: 588-592)、タンパク質の精製と生化学的特性の解析及び部分アミノ酸配列の解析(Kowalczyk et al.,(2003)Physiologia Plantarum 119:165-174)が報告されている。 ベタレイン生合成に関わる1-O-ヒドロキシシンナモイル-β-D-グルコース類:ベタニジンジグルコシド O-ヒドロキシシンナモイル基転移酵素では、アカザ(Chenopodium rubrum)懸濁培養細胞またはランプランサス・ソキオルム(Lampranthus sociorum)花弁からの活性検出(Bokern and Strack(1988)Planta 174:101-105、Bokern et al., (1991) Planta 184: 261-270)、及びタンパク質の精製と生化学的特性の解析(Bokern et al., (1992) Botanica Acta 105: 146-151)が報告されている。 ガロタンニン生合成に関わるβ-グルコガリン(1-O-ガロイル-β-D-グルコース)依存性ガロイル基転移酵素では、アメリカハゼノキ(Rhus typhina)の葉(Niemetz and Gross(2001)Phytochemistry 58: 657-661、Frohlich et al., (2002) Planta 216: 168-172)及びヨーロッパナラ(Quercus robur)の葉(Gross et al.,(1986)Journal of Plant Physiology 126: 173-179)からタンパク質の精製と生化学特性の解析が報告されている。 このように、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とするアシル基転移反応を触媒する活性を有するタンパク質の精製、その生化学的特性の解明及び遺伝子のクローン化は報告されている。しかしながら、アントシアニンをはじめとするフラボノイドの糖残基にアシル基を転移する1-O-アシル-β-D-グルコース依存性アシル基転移酵素の活性の検出については、ニンジン(Daucus carota)の培養細胞(Glaessgen and Seitz (1992) Planta 186: 582-585)から1-O-シナポイル-β-D-グルコース:アントシアニジントリグルコシド・シナポイル基転移酵素が唯一報告されているが、活性を有するタンパク質が精製されたことも遺伝子がクローン化されたこともない。特開2002-233381号公報国際公開第O01/92536号パンフレット国際公開第01/72984号パンフレット国際公開第02/04614号パンフレット国際公開第97/48811号パンフレット 本発明は、アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、好ましくは、アシルCoAをアシル基供与体とせずに、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、アントシアニンを含むフラボノイドの糖残基一カ所または二カ所以上へ芳香族アシル基を転移させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を得ることを課題とした。本発明で得られた芳香族アシル基転移活性を有するタンパク質をコードする遺伝子あるいは同様の遺伝子を植物に導入して、発現させることにより、蓄積するフラボノイド化合物の種類を改変して、花色や果実などの植物体の発色を改変することが可能になる。また、本遺伝子を用いたRNAi法等による遺伝子発現制御と、これまでに報告のあるアントシアニンにおける既知の修飾酵素(糖転移酵素(配糖化酵素)、アシル基転移酵素、メチル基転移酵素)を遺伝子導入することで、本来存在し得なかったアントシアニンを様々な植物種で生合成させ、これまでにない色を呈する植物体を作出することができる。 本発明者は、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、アントシアニンの糖残基へ芳香族アシル基を転移させる反応を触媒する酵素活性をチョウマメの花弁から見出し、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体として精製し、部分アミノ酸配列を明らかにした。1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体として反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、セリンカルボキシペプチダーゼ(SCPase)をコードする遺伝子の塩基配列と相同性が高く、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体として反応を触媒するタンパク質はセリンカルボキシペプチダーゼ様アシル基転移酵素(SCPL-AT)と呼称される(Milkowski and Strack(2004)Phytochemistry 65: 517-524)。そこでSCPaseおよびSCPL-ATに共通して存在する推定アミノ酸配列及び塩基配列に基づき合成した縮重プライマーを用いたRT-PCRを行ってcDNA断片を増幅し、その塩基配列を決定した。得られた塩基配列情報を基に遺伝子のタンパク質コード全領域をcDNAライブラリのスクリーニング、Rapid Amplification of cDNA End(RACE)法及びReverse Transcriptase-Polymerase Chain Reaction(RT-PCR)法によってクローン化し、精製タンパク質の部分アミノ酸配列を全て有するcDNAとそのホモログをクローン化した。また同様にエゾリンドウ、ロベリアからもcDNAホモログをクローン化した。得られたクローンの機能解析はバキュロウイルス及び昆虫細胞の組換えタンパク質合成系を利用して得られたタンパク質を用い、その酵素活性を確認した。本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。 即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔19〕を提供するものである。〔1〕本発明の第一は、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である。〔2〕本発明の第二は、以下の(a)〜(d)のタンパク質をコードする〔1〕記載の遺伝子である。(a)配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、(b)配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列において一個又は複数個のアミノ酸が付加、欠失及び/又は他のアミノ酸により置換されているアミノ酸配列を有するタンパク質、(c)配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列に対して20%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有するタンパク質、(d)配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有するタンパク質。〔3〕本発明の第三は、配列番号1、3、5、7、9、若しくは11に記載の塩基配列で表される核酸、又は配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列をコードする核酸の一部又は全部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である。〔4〕本発明の第四は、UDP-グルコースをグルコシル基供与体とし、ヒドロキシケイ皮酸の1位水酸基へグルコシル基を転移させる活性を有する、チョウマメ及びロベリア由来のアシル基供与体を合成するタンパク質をコードする遺伝子である。〔5〕本発明の第五は、以下の(a)〜(d)のタンパク質をコードする〔4〕記載の遺伝子である。(a)配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、(b)配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列において一個又は複数個のアミノ酸が付加、欠失及び/又は他のアミノ酸により置換されているアミノ酸配列を有するタンパク質、(c)配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列に対して20%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有するタンパク質、(d)配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有するタンパク質。〔6〕本発明の第六は、配列番号13、15、若しくは17に記載の塩基配列で表される核酸、又は配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列をコードする核酸の一部又は全部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、UDP-グルコースをグルコシル基供与体とし、ヒドロキシケイ皮酸の1位水酸基へグルコシル基を転移させる活性を有する、チョウマメ及びロベリア由来のアシル基供与体を合成するタンパク質をコードする遺伝子である。〔7〕本発明の第七は、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の遺伝子を含んでいるベクターである。〔8〕本発明の第八は、〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の遺伝子を含んでいるベクターである。〔9〕本発明の第九は、〔7〕又は〔8〕に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞である。〔10〕本発明の第十は、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の遺伝子によってコードされるタンパク質である。〔11〕本発明の第十一は、〔9〕に記載の宿主細胞を培養し、又は生育させ、その後、該宿主細胞から1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させる活性を有するタンパク質、又はUDP-グルコースをグルコシル基供与体とし、ヒドロキシケイ皮酸の1位水酸基へグルコシル基を転移させる活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする前記タンパク質の製造方法である。〔12〕本発明の第十二は、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の遺伝子を用いたin vitro translation 法による該タンパク質の製造方法である。〔13〕本発明の第十三は、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の遺伝子、又は〔7〕若しくは〔8〕に記載のベクターが導入され、形質転換された植物である。〔14〕本発明の第十四は、〔13〕に記載の植物と同じ性質を有する該植物の子孫である。〔15〕本発明の第十五は、〔13〕に記載の植物又は〔14〕に記載の該植物の子孫の組織である。〔16〕本発明の第十六は、〔13〕に記載の植物又は〔14〕に記載の該植物の子孫の切り花である。〔17〕本発明の第十七は、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の遺伝子、又は〔7〕に記載のベクターを植物又は植物細胞に導入し、該遺伝子を発現させることによる、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させる方法である。〔18〕本発明の第十八は、〔1〕〜〔6〕のいずれか記載の遺伝子、又は〔7〕若しくは〔8〕に記載に記載のベクターを植物又は植物細胞に導入し、該遺伝子を発現させることにより、植物体の花色を調節する方法である。〔19〕本発明の第十九は、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の遺伝子を持つ植物において、該遺伝子の発現を抑制することにより、植物体の花色を調節する方法である。 以下、本発明を詳細に説明する。(1)遺伝子(1−1)第一の遺伝子 本発明の第一の遺伝子は、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させる活性を有するタンパク質をコードするものである。 本発明の第一の遺伝子としては、例えば、以下の(A)〜(D)の遺伝子を例示できる。(A)配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列を有し、上記アシル基転移酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子 ここで「配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列を有する」とは、配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列のみからなるタンパク質だけでなく、このようなタンパク質のN末端又はC末端側に複数のアミノ酸が付加したタンパク質をも含む趣旨である。付加するアミノ酸の個数は、上記アシル基転移活性を失わせない範囲であれば特に限定されないが、通常は400個以内であり、好ましくは50個以内である。(B)配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列において一個又は複数個のアミノ酸が付加、欠失及び/又は他のアミノ酸により置換されているアミノ酸配列を有し、かつ上記アシル基転移酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子 このような付加、欠失、置換されているアミノ酸配列を有するタンパク質は、天然のものでもよく、また、人工的なものであってもよい。付加、欠失、置換するアミノ酸の個数は上記アシル基転移酵素活性を失わせない範囲であれば特に限定されないが、通常は20個以内であり、好ましくは5個以内である。(C)配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列に対して一定以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、かつ上記アシル基転移酵素活性を有する遺伝子 ここで「一定以上の相同性」とは、通常は20%以上の相同性、好ましくは50%以上の相同性、より好ましくは60%以上の相同性、最も好ましくは70%以上の相同性を意味する。(D)配列番号1、3、5、7、9、若しくは11に記載の塩基配列で表される核酸、又は配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列をコードする核酸の一部又は全部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、かつ上記アシル基転移酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子 ここで「核酸の一部」とは、例えば、コンセンサス配列領域の6個以上のアミノ酸配列をコードする部分などを意味する。「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいい、例えば、温度が50℃、塩濃度が5×SSC(又はこれと同等の塩濃度)といった条件である。なお、適切なハイブリダイゼーション温度は、核酸の塩基配列やその核酸の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとした場合には50℃以下の温度が好ましい。 この様なハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子としては、天然の遺伝子、例えば、植物由来の遺伝子、特にチョウマメ、ロベリア、リンドウ由来の遺伝子が挙げられる。また、ハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子はcDNAであってもよく、ゲノムDNAであっても良い。 上記遺伝子のうち、天然に存在するものは、後述する実施例に示すように、cDNAライブラリーのスクリーニング等により得ることができる。また、天然には存在しない遺伝子も部位特異的変異誘発法やPCR法などを利用することにより得ることができる。(1−2)第二の遺伝子 本発明の第二の遺伝子は、UDP-グルコースをグルコシル基供与体とし、ヒドロキシケイ皮酸の1位水酸基へグルコシル基を転移させる活性を有する、チョウマメ及びロベリア由来のアシル基供与体を合成するタンパク質をコードする遺伝子である。 本発明の第二の遺伝子としては、例えば、以下の(E)〜(H)の遺伝子を例示できる。(E)配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列を有し、上記グルコシル基転移活性を有するタンパク質をコードする遺伝子 ここで「配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列を有する」とは、配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列のみからなるタンパク質だけでなく、このようなタンパク質のN末端又はC末端側に複数のアミノ酸が付加したタンパク質をも含む趣旨である。付加するアミノ酸の個数は、上記グルコシル基転移活性を失わせない範囲であれば特に限定されないが、通常は400個以内であり、好ましくは50個以内である。(F)配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列において一個又は複数個のアミノ酸が付加、欠失及び/又は他のアミノ酸により置換されているアミノ酸配列を有し、かつ上記グルコシル基転移活性を有するタンパク質をコードする遺伝子 このような付加、欠失、置換されているアミノ酸配列を有するタンパク質は、天然のものでもよく、また、人工的なものであってもよい。付加、欠失、置換するアミノ酸の個数は上記グルコシル基転移活性を失わせない範囲であれば特に限定されないが、通常は20個以内であり、好ましくは5個以内である。(G)配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列に対して一定以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、かつ上記グルコシル基転移活性を有する遺伝子 ここで「一定以上の相同性」とは、通常は20%以上の相同性、好ましくは50%以上の相同性、より好ましくは60%以上の相同性、最も好ましくは70%以上の相同性を意味する。(H)配列番号13、15、若しくは17に記載の塩基配列で表される核酸、又は配列番号14、16、若しくは18に記載のアミノ酸配列をコードする核酸の一部又は全部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、かつ上記グルコシル基転移活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。ここで「核酸の一部」とは、例えば、コンセンサス配列領域の6個以上のアミノ酸配列をコードする部分などを意味する。「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいい、例えば、温度が50℃、塩濃度が5×SSC(又はこれと同等の塩濃度)といった条件である。なお、適切なハイブリダイゼーション温度は、核酸の塩基配列やその核酸の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとした場合には50℃以下の温度が好ましい。 この様なハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子としては、天然の遺伝子、例えば、植物由来の遺伝子、特にチョウマメ、ロベリア、リンドウ由来の遺伝子が挙げられる。また、ハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子はcDNAであってもよく、ゲノムDNAであっても良い。 上記遺伝子のうち、天然に存在するものは、後述する実施例に示すように、cDNAライブラリーのスクリーニング等により得ることができる。また、天然には存在しない遺伝子も部位特異的変異誘発法やPCR法などを利用することにより得ることができる。(2)ベクター 本発明のベクターは、既知の発現ベクターに(1)の遺伝子を挿入することにより作製できる。 ここで使用する既知の発現ベクターは、適当なプロモーター、ターミネーター、複製起点等を含有するものであれば特に限定されない。プロモーターは、例えば、細菌中で発現させるのであれば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等が使用でき、酵母中で発現させるのであれば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が使用でき、糸状菌中で発現させるのであれば、アミラーゼプロモーター、trpCプロモーター等が使用でき、動物細胞中で発現させるのであれば、SV40アーリープロモーター、SV40レートプロモーター、ポリヘドリンプロモーター等が使用できる。(3)形質転換された宿主細胞 本発明における形質転換された宿主細胞とは、(2)のベクターにより形質転換された宿主細胞である。 宿主細胞は、原核生物、真核生物のいずれでもよい。原核生物としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)等を用いることができる。真核生物としては、酵母、糸状菌などの他、動物及び植物の培養細胞を使用することができる。酵母としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パトリス(Pichia patoris)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等を例示でき、糸状菌としては、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等を例示でき、動物細胞としては、マウス(Mus musculus)、チャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)等の齧歯類、サル、ヒト(Homo sapiens)等の霊長類、アメリカツメガエル等の両生類、カイコガ(Bombyx mori)、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)、ショウジョウバエ(Drosophila melonogaster)等の昆虫を例示できる。 (2)のベクターにより形質転換する方法は特に限定されず、常法に従って行うことができる。(4)タンパク質 上記(1)の遺伝子によってコードされるタンパク質も本発明に含まれる。このタンパク質は、例えば、後述する(5)の方法によって製造することができる。(5)タンパク質の製造方法 本発明のタンパク質の製造方法は、(3)の宿主細胞を培養し、又は生育させ、その後、該宿主細胞から1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させる活性を有するタンパク質、又はUDP-グルコースをグルコシル基供与体とし、ヒドロキシケイ皮酸の1位水酸基へグルコシル基を転移させる活性を有する、チョウマメ及びロベリア由来のアシル基供与体を合成するタンパク質を採取すること、もしくはin vitro translation 法などによるタンパク質の製造を特徴とするものである。宿主細胞の培養又は生育は、その宿主細胞の種類に応じた方法に従って行うことができる。タンパク質の採取は常法に従って行うことができ、例えば、培養細胞や培地等から濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等により回収、精製することにより、目的のタンパク質を得ることができる。(6)植物 本発明の植物は、上記(1)の遺伝子又は(2)のベクターが導入され形質転換されたものである。 遺伝子等の導入対象とする植物は特に限定されず、例えば、バラ、キク、シネラリア、キンギョソウ、シクラメン、ラン、トルコギキョウ、フリージア、ガーベラ、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、ペチュニア、チューリップ、ロベリア、トレニア、イネ、オオムギ、コムギ、ナタネ、ポテト、トマト、ポプラ、バナナ、ユーカリ、サツマイモ、ダイズ、アルファルファ、ルーピン、トウモロコシ、カリフラワー、ロベリア、リンゴ、ブドウ、モモ、カキ、スモモ、柑橘類、などを挙げることができる。(7)植物の子孫 上記(6)の植物の子孫も本発明に含まれる。(8)植物等の組織 上記(6)の植物又は(7)の植物の子孫の細胞、組織、器官も本発明に含まれる。(9)植物等の切り花 上記(6)の植物又は(7)の植物の子孫の切り花も本発明に含まれる。(10)芳香族アシル基の転移方法 上記(1−1)の遺伝子又は(2)のベクター(第一の遺伝子を含むもの)を植物又は植物細胞に導入し、該遺伝子を発現させることによる、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させる方法も本発明に含まれる。(11)花色の調節方法 本発明の花色の調節方法は、上記(1)の遺伝子又は(2)のベクターを植物又は植物細胞に導入し、該遺伝子を発現させることにより、あるいは、上記(1)の遺伝子を持つ植物において、該遺伝子の発現を抑制することにより、植物体の花や果実の色を調節するものである。遺伝子導入の対象とする植物は特に限定されず、例えば、上記(6)で例示した植物を使用できる。また、(1)の遺伝子の抑制対象とする植物は(1)の遺伝子を持つ植物であれば特に限定されない。 (1)の遺伝子の導入及び発現は常法に従って行うことができる。また、(1)の遺伝子の発現抑制も常法(例えば、アンチセンス法やコサプレッション法やRNAi法)に従って行うことができる。 本発明により得られた遺伝子の発現産物を用いることにより、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させることができる。これにより、花や果実などフラボノイドの蓄積により発色している植物組織の改変を行うことが可能になる。 以下実施例に従って、本発明をさらに詳細に説明する。この出願の発明は以下の例によって限定されるものではない。分析化学的手法、分子生物学的手法及び生化学的手法はとくに限らない限り、特開2005-95005号公報に記載されている方法に従った。〔実施例1〕 酵素反応の基質及び標準化合物の調製(1)植物材料の調製 チョウマメ‘ダブルブルー’(Clitoria ternatea cv. Double blue)(サカタのタネ)を常法により無菌播種して発根させたのちにガラス温室にて育苗、生育させた。エゾリンドウ‘八甲田’(Gentiana triflora cv. Hakkoda)は青森県下にて栽培されていた植物体を切り花として採取し花弁のみを調整した。ロベリア‘リビエラ・ミッドナイト・ブルー’(Lobelia erinus cv. Riviera Midnight Blue)、‘アクア・ホワイト’(L. erinus cv. Aqua White)、‘アクア・ラベンダー’(L. erinus cv. Aqua Lavender)、‘アクア・ブルー’(L. erinus cv. Aqua Blue)(タキイ種苗)はガラス温室にて播種後ポリポットにて開花まで生育させた。開花花弁及び花蕾花弁は採取後、液体窒素にて瞬間的に凍結し、-80℃で保存した。(2)化合物の単離 1-O-ヒドロキシシンナモイル-β-D-グルコース類(Milkowski et al., (2000) FEBS Letters 486: 183-184、Bokern and Strack(1988)Planta 174:101-105、Bokern et al., (1991) Planta 184: 261-270、Bokern et al., (1992) Botanica Acta 105: 146-151)の標品、すなわち、1-O-p-クマロイル-β-D-グルコース, 1-O-カフェオイル-β-D-グルコース, 1-O-フェルロイル-β-D-グルコース、及び1-O-シナポイル-β-D-グルコースはDr. Alfred Baumert及びProf. Dieter Strack (Leibniz IPB, Halle, Germany)より分与された化合物を用いた。1-O-p-クマロイル-β-D-グルコースはチョウマメの花弁より、1-O-カフェオイル-β-D-グルコース, 1-O-フェルロイル-β-D-グルコースはロベリアの花弁より精製し単離した(数馬ら(2005)日本農芸化学会2005年大会講演要旨集:3)。デルフィニジン3-(6-マロニル)グルコシド3',5'-ジグルコシド(テルナチンC5、Terahara et al., (1998) Journal of Natural Products 61: 1361-1367)、デルフィニジン3, 3', 5'-トリグルコシド(プレテルナチンC5、Terahara et al., (1990) Phytochemistry 29: 3686-3687)、及びデルフィニジン3-(6-マロニル)グルコシド-3'-グルコシド(Kazuma et al., (2005) Chemistry & Biodiversity 1: 1762-1770)はチョウマメの花弁より精製し単離した。〔実施例2〕 標準的な酵素活性測定 100mMリン酸緩衝液(pH 6.5)、0.4mMアントシアニン 4μl、0.5mM 1-O-アシル-β-D-グルコース 4μl及び酵素液8μlを含む反応液20μlを30℃で反応させた。1M塩酸水溶液4μlを加えて反応を停止させ、0.05M TFAを含む5%アセトニトリル24μlを加えた後、Millex-LHフィルター(ミリポア)によるろ過を行い、10μlをHPLCに注入して分析した。 アントシアニン・アシル基転移酵素反応産物のHPLC分析は、Develosil ODS-UG-5 (3.0 i.d.×250 mm, 野村化学)カラムを用い、カラム温度35℃で行った。初期溶媒である0.05M トリフルオロ酢酸(TFA)含有5%アセトニトリル(MeCN)水溶液に対して0.05M TFA含有40%MeCNを14から86%の直線濃度勾配(20分)で添加して、流速0.5 mL/分で溶出してPDAを用いて検出するとともに、LC-MS/MSにて分子量の確認を行った。〔実施例3〕 酵素活性測定に用いる基質の検討 1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をフラボノイドの糖残基へ転移させる酵素活性を検出するために、1-O-アシル-β-D-グルコース及びアントシアニンの種類を検討した。チョウマメ花弁から抽出したタンパク質の35-70%の硫安沈殿画分を酵素溶液に、アシル基受容体にプレテルナチンC5、アシル基供与体に様々な1-O-アシル-β-D-グルコースを用いて酵素活性を測定した。その結果、試験に用いた全ての1-O-アシル-β-D-グルコースでアシル基転移酵素活性が検出でき、1-O-シナポイル-β-D-グルコース、1-O-フェルロイル-β-D-グルコース、1-O-p-クマロイル-β-D-グルコース、1-O-カフェオイル-β-D-グルコースの順で比活性が高いことが明らかになった。また、アシルドナーに1-O-p-クマロイル-β-D-グルコース、アクセプターに様々なアントシアニンを用いて酵素活性を測定した。その結果、試験に用いた全てのアントシアニン(プレテルナチンC5、テルナチンC5、デルフィニジン3-(6-マロニル)グルコシド-3'-グルコシド)においてアシル基転移酵素活性が検出できた。〔実施例4〕 アントシアニンの3'位グルコシル基に芳香族アシル基を転移する酵素活性を有するタンパク質3'ATの精製 チョウマメの花弁から、酵素活性測定の基質としてプレテルナチンC5および1-O-p-クマロイル-β-D-グルコースを用いて3'位グルコシル基の6位へp-クマロイル基を転移する活性を有するタンパク質であるアシル基転移酵素(3'AT)の精製を1,2-ジ-O-アシル-β-D-グルコースを生合成するグルコースアシル基転移酵素の精製方法(Li et al., (1999) Plant Physiology 121: 453-460、Li and Steffens (2000) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 97: 6902-6907、PCT/WO97/48811)を参考にして行った。タンパク質の精製工程は0-4℃で行い、タンパク質抽出、硫安分画、TSK gel DEAE-TOYOPEARL 650M(東ソー)を用いたイオン交換クロマトグラフィー、コンカナバリンA(ConA)-アガロース(ホーネン)を用いたクロマトグラフィー、Mono P HR 5/20(アマシャムバイオサイエンス)を用いたクロマトグラフィー 及びMono Q HR 5/5(アマシャムバイオサイエンス)を用いたイオン交換クロマトグラフィーを順次行うことによって達成された。TSK gel DEAE-TOYOPEARL 650M、Mono P及びMono QによるカラムクロマトグラフィーにはFPLC(ファルマシア)を用いた。ConAアガロースによるカラムクロマトグラフィーはオープンカラムを用いた。(1)粗酵素液の調製 チョウマメの凍結花蕾510.5gを液体窒素存在下で乳鉢及び乳棒で磨砕した。さらに、約1000mlの緩衝液A(100mMトリス塩酸(pH7.5)、5mM ジチオスレイトール(DTT)、10μM p-アミジノフェニルフッ化メタンスルフォニル塩酸塩(pAPMSF))、ポリビニルポリピロリドン(PVPP)5g及び適量の海砂を加えて磨砕した。抽出懸濁液を7,000rpmで15分間遠心した後、上清を四重のガーゼで濾過した。上清の濾液に800gのDowex 1×2(100-200mesh、室町化学)を添加して15分間静置した後に、ナイロンメッシュを用いて濾過し、1240mlの粗酵素液を得た。(2)硫安分画 粗酵素液を35%飽和硫安で30分間塩析を行った後、不溶物を7,000 rpmで20分間遠心することにより除去した。70%飽和硫安で再び一晩塩析を行った後、7,000 rpmで20分間遠心することによりタンパク質の沈殿を得た。沈殿を緩衝液B(20mMトリス塩酸(pH 7.5)、1mM DTT、10μM pAPMSF)に再溶解した後、緩衝液Bで平衡化したSephadex G-25 Fine(70 mm×40 mm i.d.;アマシャムバイオサイエンス)カラムを用いて脱塩した。タンパク質画分(1598.4mg/144mL)を回収して以下のクロマトグラフィーに供した。(3)DEAE陰イオン交換FPLC TSK gel DEAE-TOYOPEARL 650M 30mlをカラム(XK16/20, 180 mm×16 mm i.d.)に充填し緩衝液Bで平衡化した。カラムへ酵素溶液をアプライして流速 8 ml/分で塩化ナトリウム濃度を45分間に0 mMから200 mMへ変化させる直線勾配によりタンパク質を分画した。各画分のアシル基転移酵素活性を測定した後、活性のある画分840mlを集め、90%飽和硫安で一晩塩析を行った。7,000rpmで20分間遠心することにより得られたタンパク質の沈殿を40mlの緩衝液Bで再溶解した。溶解したタンパク質溶液を5mlずつ分注して以後の精製に用いるまで-80℃にて保存した。(4)ConAアガロースカラムクロマトグラフィー 凍結保存していたDEAE活性画分5mlを溶解した後、緩衝液C(50mM HEPES-NaOH(pH7.5)、10%グリセロール、0.2M KCl)で平衡化したゲル濾過カラムPD-10(アマシャムバイオサイエンス)を用いて脱塩した。脱塩したタンパク質溶液7mlを限外遠心濾過により0.5mlまで濃縮した。カラムに充填して緩衝液Cで平衡化したConAアガロース(4ml)にタンパク質濃縮液(0.5ml)をアプライした。タンパク質溶液のアプライ後、4ベット量の緩衝液C(16ml)にて洗浄した後に、Con-Aアガロースに吸着したタンパク質を3ベット量の緩衝液D(50mM HEPES-NaOH(pH 7.5)、10%グリセロール、0.2M KCl、1M α-D-メチルグルコシド)(12ml)で溶出した。溶出液を透析用チューブSnakeSkin Dialysis Tubing MWCO 10,000(PIERCE Biotechnology)に注入した後、緩衝液E(25mM ピペラジン-HCl(pH 5.5))(3,000ml)にて一晩透析した。PD-10を用いてさらに脱塩した後に、Amicon Ultra(分画分子量10,000、ミリポア)を用いた遠心濃縮を行って0.5mlのタンパク質溶液(0.5mg/ml)とした。(5)Mono P FPLC ConA活性画分(0.5ml)を緩衝液Eで平衡化したMono Pカラムに流速0.8ml/分でアプライした。タンパク質のアプライ後に緩衝液E(6ml)でカラムを洗浄した。1:10(v/v)に希釈したPolybuffer 74-HCl(pH4.0)(32ml)で溶出した。0.08mlの0.5M HEPES-NaOH(pH 7.5)と0.08mlのグリセロールを予め入れておいた試験管に0.8mlずつ分画した。活性のある画分を集め(8.8ml)遠心濃縮を行って1.5mlのタンパク質溶液とした。(6)Mono Q強陰イオン交換FPLC Mono P活性画分(1.5ml)を緩衝液F(10mM Tris-HCl(pH 7.5)、1mM DTT、10μM pAPMSF)で平衡化したMono Q HR5/5カラムに流速1.0ml/分でアプライした。A液として緩衝液F(10mM Tris-HCl(pH 7.5)、1mM DTT、10μM pAPMSF)を、B液として緩衝液G(10mM Tris-HCl(pH 7.5)、1mM DTT、10μM pAPMSF、1M NaCl)を用い、60分でB液0%から25%の直線濃度勾配を行い1mlずつ分画した。活性画分を回収し(6ml)、遠心濃縮を行って0.1mlのタンパク質溶液(0.9μg/ml)とした。 3'AT活性の比活性を求めた結果1492.6pkat/mgであり、DEAE活性画分の比活性0.252pkat/mgと比較すると5923倍に精製された。また、活性画分をSDS-PAGEで分画した後に銀染色を行った結果、明瞭な30.8kDaと薄い24.1kDaの二本のバンドのみが検出された。セリンカルボキシペプチダーゼ様アシル基転移酵素(SCPL-AT)は34kDaと24kDaのポリペプチドからなるヘテロテトラマー(Li et al., (1999) Plant Physiology 121: 453-460)、または30kDaと17kDaのポリペプチドからなるヘテロダイマー(Shirley and Chapple(2003)Journal of Biological Chemistry 278: 19870-19877)として働くタンパク質であることが報告されている。従って、SDS-PAGEによる分析結果は、チョウマメ花弁から精製した3'ATタンパク質が十分均一に精製されたことを示していた。SCPL-ATはセリンカルボキシペプチダーゼ(SCPase)と同様に、糖鎖によって修飾されていることが報告されており、ConA樹脂に3'ATタンパク質が結合することからも糖鎖修飾をうけている可能性が高い。また、銀染色は糖鎖修飾をうけたポリペプチドへの染色力が弱いことから、24.1kDaのサブユニットは糖鎖により修飾されている可能性が示された。〔実施例5〕 アントシアニン3'位及び5'位グルコシル基を逐次的にアシル化する活性を有する3'5'ATタンパク質の部分精製 3'ATタンパク質を精製する過程においてプレテルナチンC5のB環3'位及び5'位のグルコシル基を逐次的にアシル化する3'5'AT活性が検出された。硫安分画、DEAE陰イオン交換FPLC、ConAクロマトグラフィー、Mono P FPLC後の3'AT活性画分には3'5'AT活性も検出されたが、Mono Q FPLC後の3'AT画分には3'5'AT活性は検出されなかった。そこで酵素活性測定の基質としてプレテルナチンC5および1-O-フェルロイル-β-D-グルコースを用いて、3'位グルコシル基の6位へフェルロイル基を転移する活性を有するタンパク質であるアシル基転移酵素(3'AT)及び3'位及び5'位グルコシル基の両方の6位へフェルロイル基を転移する活性を有するタンパク質である3'5'ATの3'ATからの分画と部分精製を行った。(1)粗酵素液の調整と硫安分画 〔実施例3〕の(1)粗酵素液の調製および(2)硫安分画に準じた方法によってチョウマメ花弁101.4gから269.15mgの3'AT及び3'5'AT活性を有するタンパク質を含む画分(50ml)を得た。(2)DEAE陰イオン交換FPLC 緩衝液Bで平衡化したTSK gel DEAE-TOYOPEARL 650Mカラムへ酵素溶液をアプライし、流速 1 ml/分で塩化ナトリウム濃度を360分間に0mMから200mMへ変化させる直線勾配によりタンパク質を分画した。回収した3'AT活性画分(54ml)及び3'5'AT活性画分(42ml)を、90%飽和硫安で一晩塩析を行い、7,000 rpmで20分間遠心することにより得られたタンパク質の沈殿を〔実施例3〕(3)に準じた方法で再溶解した後に、〔実施例3〕(4)に準じた脱塩及び濃縮を行った。(3)ConAアガロースカラムクロマトグラフィー カラムに充填して緩衝液Cで平衡化したConAアガロース(5ml)に3'AT及び3'5'AT各タンパク質濃縮液をアプライした。〔実施例3〕(4)に準じたクロマトグラフィー、透析及び脱塩を行った。(4)Mono P FPLC ConA活性画分を〔実施例3〕(5)に従ってクロマトグラフィー、脱塩及び濃縮を行った。3'AT活性画分の3'AT比活性は45.9pkat/mgであり、硫安分画後の比活性0.46pkat/mgの100倍にまで精製された。3'AT活性画分には3'5'AT活性も検出され、その比活性は3.6pkat/mgであった。一方、3'5'AT活性画分の3'5'AT比活性は9.6pkat/mgであり、硫安分画後の比活性0.13pkat/mgの74倍にまで精製された。3'5'AT活性画分には3'AT活性も検出され、その比活性は4.1pkat/mgであった。 従って、チョウマメ花弁にはアントシアニンB環3’位グルコースをアシル化する活性をもつ3'ATと、3'位グルコース及び5'位グルコースを逐次的にアシル化する活性をもつタンパク質3'5'ATの存在が認められた。〔実施例6〕 アントシアニン3'ATタンパク質のアミノ酸配列の決定 〔実施例4〕により精製した3'ATタンパク質約65ngをSDS-PAGEにて分画後、PAGE Blue83(CBB R-250、第一化学)にて染色した。染色された30.8kDa及び24.1kDaのバンドをそれぞれ切り抜き、各試料名をCTDCPQ-30及びCTDCPQ-24とした。トリプシンを含むトリス緩衝液(pH8.0)を加えて35℃、20時間の処理を行った。その後、溶液の全量を逆相HPLCに供して、断片ペプチドを分離した。対象としてバンドのないゲル部分を切り出し、同様に処理をした。断片ペプチドのHPLC分離条件は以下の通りである。カラムはSymmetry C18 3.5μm(1.0×150mm、ウォーターズ)を用いた。流速は50μl/分で溶媒Aに0.1%TFAを含む2%アセトニトリル、溶媒Bに0.09%TFAを含む90%アセトニトリルを用い、はじめの6分間は溶媒B濃度を0%とし、その後5分で溶媒B濃度を10%に、その後75分で溶媒Bを50%に、その後の5分で溶媒Bを100%に濃度勾配をかけた後、5分間溶媒B100%とした。210nm及び280nmで検出を行い、50μlごとに分取を行った。 CTDCPQ-30のフラクションNo.35、No.44+45、及びCTDCPQ-24のフラクションNo.18+19をアミノ酸配列分析に供した。Procise 494 cLC Protein Sequencing Systemを用いて各断片ペプチドのN末端アミノ酸配列を分析した。決定したアミノ酸配列を以下に示す。CTDCPQ-30-T35:(R/K)WLIDHPK(配列番号19及び20)CTDCPQ-30-T44+45:(R/K)ISFAHILER(配列番号21及び22)CTDCPQ-24-T18+19:(R/K)RPLYEXNTM(配列番号23及び24)〔実施例7〕 SCPL-AT cDNA断片増幅用プライマーの設計 1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体として反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、セリンカルボキシペプチダーゼ(SCPase)をコードする遺伝子の塩基配列と相同性が高く、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体として反応を触媒するタンパク質はSCPL-ATと呼称される(Milkowski and Strack(2004)Phytochemistry 65: 517-524)。そこでSCPaseおよびSCPL-ATに高度に保存されている領域とその塩基配列に基づき縮重プライマーを合成した。高度に保存されている領域の特定とプライマーの設計にはCLUSTAL Wプログラムを用いたマルチプルアライメント、Block Maker(http://blocks.fhcrc.org/blocks/)及びCODEHOP(http://blocks.fhcrc.org/codehop.html)を用いた。マルチプルアライメントに用いた配列は、NCBI/EMBL/DDBJアクセション番号AF242849、AF275313、AF248647、AY033947、AY383718、X80836(REGION: 12728..14326)及びUniProt/Swiss-Protアクセション番号P07519、P08819、P37890のアミノ酸配列である。合成したCODEHOPプライマー及び縮重プライマーを以下に示す。cdhp Fd:GGACCCCGTGATGATCTGGYTIAMIGG(配列番号25)cdhp Rv:CCGCAGAAGCAGGAGCAICCIGGICC(配列番号26)blockA Fd:AMIGGWGGICCTGGITGYWSIWS(配列番号27)blockB Fd:GAIWSICCIGYIGGIWSIGG(配列番号28)blockC Fd:RTIGSIGGIGAIWSITAYDSIGG(配列番号29)blockE Rv:RTCRTGRTCICCISWRWA(配列番号30)blockF Rv:GGYTTRTAYTCIGGIRCIGTRTGICC(配列番号31)〔実施例8〕 チョウマメSCPL-AT cDNAのクローン化(1)RNAの調製 チョウマメ花弁を花蕾の長さ5mmごとにステージ分けをした。すなわち花蕾長5-10mmをステージ1、10-15mmをステージ2、15-20mmをステージ3、20-25mmをステージ4、25-30mmをステージ5、30-35mmをステージ6、35-40mmをステージ7、40-45mmをステージ8、45-50mmをステージ9、開花ステージをステージ10とした。各ステージの花弁数百ミリグラムからTRIzol(インビトロゲン)を用いて全RNAを調製した。この全RNA(50μg)からOligotex-dT30 super(タカラバイオ)を用いて製造者の推奨する方法にてpoly(A)+RNAを各ステージごとに精製して15μlのpoly(A)+RNA溶液とした。(2)縮重RT-PCRを用いたcDNA断片の増幅とクローン化 精製したpoly(A)+RNA溶液15μlを鋳型にして1st strand cDNA synthesis kit(アマシャムバイオサイエンス)を用いて製造者の推奨する方法に従って一本鎖cDNAを合成した。合成した全ステージのcDNAを等量ずつ混合してPCR反応の鋳型とした。PCR反応には[実施例7]に示したCODEHOPプライマー、縮重プライマー及びNotI-d(T)18プライマー(アマシャムバイオサイエンス)を用いた。 まず、chhp Fd及びblockA Fdプライマーとリバースプライマー3種類を組み合わせてPCR反応を行った。一本鎖cDNA溶液2μlを鋳型にし、フォワード及びリバースプライマーを各2μl、ExTaqポリメラーゼ(タカラバイオ) 2ユニットを用いて、製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。プライマーセットは1:cdhp FdとNotI-d(T)18、2:blockA FdとNotI-d(T)18、3:cdhp FdとblockE Rv、4:cdhp FdとblockF Rv、5:blockA FdとblockE Rv、6:blockA FdとblockF Rvとし、CODEHOPプライマー及び縮重プライマーは50μMに、NotI-d(T)18プライマーは10μMに濃度を調整した。PCR反応は、95℃で3分反応させた後、95℃・30秒、55℃・45秒、72℃・80秒の反応を40サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。得られた反応産物をアガロースゲル電気泳動し、プライマーセット3から6の反応で得られた予想されるサイズのゲル断片を回収した。 プライマーセット1及び2の組み合わせでPCRを行って得られた産物1μlを鋳型にし、ネステッドPCRを行った。フォワード及びリバースプライマーの組み合わせは1:blockA FdとblockF Rv、2:cdhp FdとblockF Rv、3:cdhp FdとNotI-R21(5'-TGGAAGAATTCGCGGCCGCAG-3':配列番号32)とし、PCR産物 1μlを鋳型とし、フォワード及びリバースプライマーを各1μl、ExTaqポリメラーゼ(タカラバイオ) 1ユニットを用いて、製造者の推奨する方法により計25μlでPCRを行った。cdhp FdとNotI-d(T)18をプライマーセットに用いたPCR反応産物を鋳型に、プライマーの組み合わせ1の反応で得られた予想されるサイズのPCR産物をゲル断片から回収した。 次に、blockB Fd、blockC Fdプライマーとリバースプライマー3種類を組み合わせてPCR反応を行った。一本鎖cDNA 2μlを鋳型とし、フォワード及びリバースプライマーを各2μl、LA Taqポリメラーゼ(タカラバイオ) 2ユニットを用いて計50μlでPCR反応を行った。プライマーセットは1:blockB FdとNotI-d(T)18、2:blockC FdとNotI-d(T)18、3:blockB FdとblockE Rv、4:blockC FdとblockE Rv、5:blockB FdとblockF Rv、6:blockC FdとblockF Rvとし、CODEHOPプライマー及び縮重プライマーは50μMに、NotI-d(T)18プライマーは10μMに濃度を調整して使用した。反応は、95℃で3分反応させた後、95℃・30秒、50℃・45秒、72℃・80秒の反応を40サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。得られた反応産物をアガロースゲル電気泳動し、プライマーセット4,5及び6の反応で得られた予想されるサイズのPCR産物をゲル断片から回収した。 プライマーセット1、2及び3の組み合わせでPCRを行って得られた産物1μlを鋳型にそれぞれネステッドPCRを行った。プライマーセットは1:blockB FdとblockE Rv、2:blockC FdとblockE Rv、3:blockB FdとblockF Rv、4:blockC FdとblockF Rv、とし、それぞれ100pmoleのフォワード及びリバースプライマー、LATaqポリメラーゼ 1ユニットを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。PCR反応産物をアガロースゲル電気泳動して、予想されるサイズのPCR産物をゲル断片から回収した。精製したPCR産物をpGEM-T Easyベクター(プロメガ)にサブクローニングして塩基配列を決定した。得られたクローンがコードする遺伝子産物の推定にはBLASTサーチ(http://blast.genome.jp/)を用いた。また、CLUSTAL Xを用いたマルチプルアライメントを行った後にTreeViewプログラムを用いて分子系統樹を作成してcDNAの機能推定を行った。 目的とするSCPaseまたはSCPL-ATと相同なクローンが得られたプライマーの組み合わせは、1st PCRにてcdhp FdとblockE Rv、blockA FdとblockE Rvを用いた場合、1st PCRにてcdhp FdとNotI-d(T)18を用いたPCR反応産物を鋳型にネステッドPCRにてblockA FdとblockF Rvを用いた場合、blockC FdとNotI-d(T)18を用いた場合、また、blockB Fd、blockC FdとblockE Rv、blockF Rvを組み合わせて用いた場合であった。SCPaseまたはSCPL-ATをコードしていると考えられるcDNA断片のクローンは29クローンで、マルチプルアライメントと分子系統樹による解析により4種類のSCPLクローンの存在が確認された。各チョウマメSCPLクローンをCtSCPL1,2,3,4とした。その中でもSCPL-ATと相同性が高く、分子系統樹を作成した際に既知のSCPL-ATと同じクレードに位置したのはCtSCPL1及びCtSCPL4 cDNAの断片クローンであった。(3)CtSCPL1及びCtSCPL4 cDNAのRACE チョウマメ花弁から全RNAを改変CTAB法(Chang et al.,(1993)Plant Molecular Biology Reporter、向井・山本、植物細胞工学シリーズ7 pp. 57-62)により調製した。この全RNA250μgからOligotex-dT30 superを用い、製造者の推奨する方法にてpoly(A)+RNAを精製した。精製したpoly(A)+RNAのうち約480ngからGene Racer Ready cDNA(GRR cDNA)をGeneRacer kit(インビトロゲン)を用いて製造者の推奨する方法に従って合成した。 合成したGRR cDNAを1:3に希釈したcDNA溶液を鋳型にGeneRacer 5'プライマー (5'-CGACTGGAGCACGAGGACACTGA-3':配列番号33、インビトロゲン)とCtSCPL1 cDNA断片の内部配列に特異的なCtSCPL1-R1プライマー(5'-TACTGGAATGGGAATACCAGAGTAAG-3':配列番号34)またはCtSCPL1-R2プライマー(5'-GGCATGGTGAACTAATGTCCAGTCAC-3':配列番号35)を用いPCRを行った。また、GeneRacer 5'プライマー とCtSCPL4 cDNA断片の内部配列に特異的なCtSCPL4-R1プライマー(5'-GTGTCGACCCAGTCACAGTTTG-3':配列番号36)またはCtSCPL4-R2プライマー(5'-CTGATATAACCTCATTGTATGACTCC-3':配列番号37)を用いPCRを行った。GRR cDNAを鋳型にし、GeneRacer 5'プライマー(30pmole)とCtSCPL1-R1(20pmole)またはGeneRacer 5'プライマー(30pmole)とCtSCPL1-R2をプライマー(20pmole)とし、LA Taqポリメラーゼを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。94℃で3分反応させた後、94℃・30秒、65℃・45秒、72℃・80秒の反応を30サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。さらに、1st PCR産物を鋳型にGeneRacer 5'ネステッドプライマーとCtSCPL1-R1、CtSCPL1-R2,CtSCPL4-R1またはCtSCPL4-R2を組み合わせてネステッドPCRを行った。1st PCR産物を鋳型にし、LA Taqポリメラーゼ(タカラバイオ)を用いて製造者の推奨する方法により計50μlで1st PCRと同様にPCR反応を行った。1st PCRとネステッドPCR産物を0.8%アガロース電気泳動にて分画した後に増幅産物のバンドを切り出してPCR産物を回収した。ゲルから精製したPCR産物をpGEM-T EasyベクターにTAクローニングした。得られた幾つかのクローンを解析して、CtSCPL1及びCtSCPL4 cDNAの5'末端の塩基配列を決定した。合成したGRR cDNAを1:3に希釈したcDNA溶液を鋳型にし、リバースプライマーにGeneRacer 3'プライマー(5'-GCTGTCAACGATACGCTACGTAACG-3':配列番号38、インビトロゲン)、またはGene Racer 3'ネステッドプライマー(インビトロゲン、5'-CGCTACGTAACGGCATGACAGTG-3':配列番号39)、フォワードプライマーにCtSCPL1 cDNA断片の内部配列に特異的なCtSCPL1-F1プライマー(5'-TCATAAGGGAAGTATTGGTGAATGGC-3':配列番号40)またはCtSCPL1-F2プライマー(5'-GTTTACCTTTCACGTCGGACATTCC-3':配列番号41)を用いてPCRを行った。また、フォワードプライマーにCtSCPL4 cDNA断片の内部配列に特異的なCtSCPL4-F1プライマー(5'-AGTGCACTACACATTCGTAAGG-3':配列番号42)またはCtSCPL4-F2プライマー(5'-GTAAATGGCGTCGATGTACCC-3':配列番号43)を用いPCRを行った。PCR、クローニング及びシークエンシングは5'RACEと同様に行い、CtSCPL1及びCtSCPL4 cDNAにおける3'末端の塩基配列を決定した。(4)CtSCPL1 cDNAのタンパク質コード全領域のクローニング RACEにより得られた5'及び3'末端の塩基配列から予想されるタンパク質の開始コドンを含むpE-CtSCPL1-F(5'-GACGACGACAAGATGACCATAGTAGAGTTCCTTCCTG-3':配列番号44)をフォワードプライマーとして、終始コドンを含むpE-CtSCPL1-R(5'-GAGGAGAAGCCCGGTTATTATAGAATGGATGCCAAGTTGG-3':配列番号45)をリバースプライマとして合成した。一本鎖cDNAを鋳型にpE-CtSCPL1-FとpE-CtSCPL1-Rそれぞれ20pmoleをプライマーとし、LA Taqポリメラーゼを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。PCR反応は、95℃で3分反応させた後、95℃・30秒、55℃・45秒、72℃・80秒の反応を30サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。PCR産物をアガロース電気泳動にて分画した後に増幅産物のバンドを切り出し、精製したPCR産物をpET30 Ek/LICベクター(ノバゲン)にサブクローニングした。得られた幾つかのpET-CtSCPL1クローンを解析して、CtSCPL1のタンパク質コード全領域の塩基配列を決定した。その結果、〔実施例6〕で得られたアントシアニン3'ATタンパク質の内部アミノ酸配列の全てを含むことが確認された。また、CTDCPQ-24-T18+19:(R/K)RPLYEXNTM(配列番号23及び24)で検出されなかった6サイクル目のアミノ酸XはcDNAの推定アミノ酸配列ではNであり、糖鎖修飾をうけていると考えられた。CtSCPL1のORFは1464bpであり、487アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードし、3カ所の糖鎖修飾サイトとN末端には分泌シグナルが存在していた。CtSCPL1の塩基配列を配列番号:1に示し、この塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号:2に示す。(5)cDNAライブラリのスクリーニング チョウマメ花弁cDNAライブラリの約10万個のクローンをCtSCPL1、2、3及び4のcDNA断片クローン、シロイヌナズナSNG1及びSNG2遺伝子cDNAをプローブに用いて最終洗浄条件(55℃、0.1×SSC、0.1%SDS)で各プローブごとにスクリーニングし最終的に14個の陽性クローンを得た。13個はCtSCPL1であり、残りの1クローンはCtSCPL3であった。CtSCPL1の陽性クローンの中で最長のクローンであるCtSCPLA1-8は1740bpで、5'-RACEにより得られたクローンと比較すると開始メチオニンより上流(配列番号46:ATTAAAAAAAAAATATG)を欠いていた。CtSCPLA1-8を始めとする13個の陽性クローンのオープンリーディングフレームにおける塩基配列はRACEにより得られたクローンおよびpET-CtSCPL1クローンと同一であった。〔実施例9〕バキュロウイルス-昆虫細胞におけるCtSCPL1組換えタンパク質の発現(1)CtSCPL1組換えバキュロウイルスの作製 バキュロウイルス-昆虫細胞における組換えタンパク質の発現にはBaculoDirect Baculovirus Expression Systems(BaculoDirect C-Term Expression Kit、インビトロゲン)を用いた。〔実施例8〕によって得られたクローンの塩基配列から予想されるタンパク質コード領域をフォワードプライマー(CtSCPL1-DTOPO-Fd:5'-CACCATGGCAGCCTTCAGTTCAACTCATA-3':配列番号47)及びリバースプライマー(CtSCPL1-Rv-C-Tag:5'-TAGAATGGATGCCAAGTTGGTGTATG-3':配列番号48)を用いたPCRにより増幅した。一本鎖cDNA 1μlを鋳型とし、フォワードプライマー及びリバースプライマーを各20pmole、Pyrobest Taqポリメラーゼ(タカラバイオ)2ユニットを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。94℃で3分反応させた後、94℃・30秒、65℃・45秒、72℃・80秒の反応を30サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。得られたPCR産物をpENTR-D-TOPOベクター(インビトロゲン)へ製造者の推奨する方法に従ってサブクローニングした。得られた幾つかのpENTR-CtSCPL1クローンを解析して塩基配列を確認した。LRクロナーゼ(インビトロゲン)を用いてpETNR-CtSCPL1からBaculoDirect C-Term Linear DNAへCtSCPL1を組換えた。LR反応産物をSpodoptera frugiperda卵巣細胞由来の Sf9細胞にCellfectinを用いてトランスフェクションした。Ganciclovirを用いた非組換えウイルスの除去、組換えウイルスの増殖、ウイルスの力価測定を製造者の推奨する方法により行い、2-3×107pfu/mlの組換えCtSCPL1ウイルスを作製した。(2)組換えCtSCPL1タンパク質の発現と酵素活性の確認 直径35mmの6穴プレートで完全グレース培地またはSf900II-SFM無血清培地(ギブコ)を用いて単層培養した3×106cellsのSf9細胞に対して、多重感染度(MOI、multiplicity of infection)5-10で組換えウイルスを感染させた。28℃で5日間培養した後に培養液及びSf9細胞を回収した。培養液は遠心濃縮を行い、Sf9細胞は緩衝液に懸濁した後に超音波破砕し、遠心上清を培養液同様に遠心濃縮した。濃縮したタンパク質溶液を用いて酵素反応を行い、反応産物をHPLC及びLC-MSにて分析した。 プレテルナチンC5またはデルフィニジン3-(6-マロニル)グルコシド-3'-グルコシドと1-O-フェルロイル-β-D-グルコースを基質に用いて反応させた結果、プレテルナチンC5にフェルロイル基一つが結合した分子量をもつ反応産物が得られ、3'AT活性を確認できた。さらに、テルナチンC5と1-O-p-クマロイル-β-D-グルコースを基質に用いて反応させた場合においても3'AT活性が認められた。従って、CtSCPL1 cDNAは1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体として、アントシアニンのB環グルコシル基にアシル基を転移する酵素活性をもつタンパク質をコードしていることが確認された。また、培地の違いによって活性に差異は認められず、組換えウイルスを感染していないSf9細胞抽出溶液及び培養液においては活性は認められなかった。さらに、Sf9細胞抽出溶液及び培養液の両方に酵素活性が認められたことから、本酵素は分泌タンパク質であることが示された。〔実施例10〕CtSCPL4組換えバキュロウイルスの作製 〔実施例8〕によって得られたクローンの塩基配列から予想されるタンパク質コード領域(オープンリーディングフレーム)をフォワードプライマー(CtSCPL4-DTOPO-Fd:5'-CACCATGGCGAGGTTTAGTTCAAGTCTTG-3':配列番号49)及びリバースプライマー(CtSCPL4-Rv-Stop:5'-TTACAAAGGCCTTTTAGATATCCATCTCC-3'配列番号50)を用いたPCRにより増幅した。PCR反応は〔実施例9〕に従って行い、得られたPCR産物をpENTR-D-TOPOベクターへ製造者の推奨する方法に従ってサブクローニングした。得られた幾つかのpENTR-CtSCPL4クローンを解析してCtSCPL4の全塩基配列を確認した。CtSCPL4のORFにおける塩基配列を配列番号:3に示し、この塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号:4に示す。CtSCPL4のORFは1410bpであり、469アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードし、3カ所の糖鎖修飾サイトとN末端には分泌シグナルが存在していた。CtSCPL4はCtSCPL1とアミノ酸レベルで79.1%の相同性を有しており、また分子系統解析においてSCPL-ATクレードの中でも最も近くに位置していることから、CtSCPL1と同様に1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体として、特にアントシアニンのB環グルコシル基にアシル基を転移する酵素活性をもつタンパク質をコードしているといえる。pENTR-CtSCPL4からBaculoDirect Baculovirus Expression Systemsを用いて、BaculoDirect Secreted Linear DNAへCtSCPL4を組換え、製造者の推奨する方法に従って組換えCtSCPL4ウイルスを作製した。〔実施例11〕 リンドウSCPL-AT cDNAのクローン化(1)縮重RT-PCRを用いたcDNA断片の増幅とクローン化 リンドウ花弁を花蕾の長さ2.5mm以下及び2.5-3.5mmのステージ分けをした。各ステージの花弁1.5グラムからTRIzol(インビトロゲン)を用いて全RNAを調製した。この全RNAのうちの5μgを鋳型として1st strand cDNA synthesis kit(アマシャムバイオサイエンス)を用いて製造者の推奨する方法に従って一本鎖cDNAを合成した。合成した全ステージのcDNAを等量ずつ混合してPCR反応の鋳型とした。PCR反応には〔実施例6〕に示したCODEHOPプライマー、縮重プライマー及びNotI-d(T)18プライマーを用いた。一本鎖cDNA 2μlを鋳型とし、フォワード及びリバースプライマーを各2μl、LATaqポリメラーゼ 1ユニットを用いて計50μlでPCR反応を行った。PCR反応は、95℃で3分反応させた後、95℃・30秒、48℃・45秒、72℃・80秒の反応を35サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。1stPCR産物を鋳型に行ったネステッドPCRの結果得られた反応産物をアガロースゲル電気泳動し、各プライマーの組み合わせにより増幅すると予想されるサイズのゲル断片を回収した。精製したPCR産物をpGEM-T Easyベクターにサブクローニングして塩基配列を決定した。 目的とするSCPaseまたはSCPL-ATと相同なクローンが得られたプライマーの組み合わせは、1st PCRにてblockA FdとblockF Rv及びblockC FdとblockF Rvを用いた場合、1st PCRにてblockA FdとNotI-d(T)18を用いて得られたPCR反応産物を鋳型にネステッドPCRにてblockC FdとblockF Rvを用いた場合、1st PCRにてblockC FdとNotI-d(T)18を用いて得られたPCR反応産物を鋳型にネステッドPCRにてblockC FdとblockE Rv及びblockC FdとblockF Rvを用いた場合であった。SCPaseまたはSCPL-ATをコードしていると考えられるcDNA断片のクローンは17クローンで、マルチプルアライメントと分子系統樹による解析により4種類のSCPLクローンの存在が確認された。各リンドウSCPLクローンをGentrSCPL1,2,3,4とした。その中でもSCPL-ATと相同性が高く、分子系統樹を作成した際に既知のSCPL-ATと同じクレードに位置したのはGentrSCPL1及びGentrSCPL2 cDNAの断片クローンであった。(2)GentrSCPL1及びGentrSCPL2 cDNAのRACE 〔実施例11〕(1)で調整したステージ別の全RNA(合計550μg)からそれぞれOligotex-dT30 superを用い、製造者の推奨する方法にてpoly(A)+RNAを精製した。精製したpoly(A)+RNAのうち約210ngからGRR cDNAをGeneRacer kitを用いて製造者の推奨する方法に従って合成した。合成したGRR cDNAを1:3に希釈したcDNA溶液を鋳型にGeneRacer 5'プライマーとGentrSCPL1 cDNA断片の内部配列に特異的なリバースプライマー(GentrSCPL1-R1プライマー:5'-GCATAAACCGTTGCTTTGATCCGCC-3':配列番号51、GentrSCPL1-R2プライマー:5'-CATCAATGAAGCCATCAGCCACAGG-3':配列番号52)を用いPCRを行った。また、GeneRacer 5'プライマー とCtSCPL2 cDNA断片の内部配列に特異的なリバースプライマー(GentrSCPL2-R1プライマー:5'-TTAAGCACGTCAGGAATCCGGAGG-3':配列番号53、GentrSCPL2-R2プライマー:5'-TGAACGTCGAATGCCGTGAAACACC-3':配列番号54)を用いPCRを行った。GRR cDNAを鋳型にし、GeneRacer 5'プライマー(30pmole)、リバースプライマー(20pmole)、LA Taqポリメラーゼを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。94℃で3分反応させた後、94℃・30秒、65℃・45秒、72℃・80秒の反応を30サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。さらに、1st PCR産物を鋳型にGeneRacer 5'ネステッドプライマーとリバースプライマーを組み合わせてネステッドPCRを行った。1st PCRとネステッドPCR産物をアガロース電気泳動にて分画し、増幅産物のバンドを切り出してPCR産物を回収した。ゲルから精製したPCR産物をTAクローニングし、得られた幾つかのクローンを解析して、GentrSCPL1及びGentrSCPL2 cDNAの5'末端の塩基配列を決定した。 合成したGRR cDNAを1:3に希釈したcDNA溶液を鋳型にし、リバースプライマーにGeneRacer 3'プライマーまたはGene Racer 3'ネステッドプライマー、フォワードプライマーにGentrSCPL1 cDNA断片の内部配列に特異的なGentrSCPL1-F1プライマー(5'-TGGCATACAGTGGCGACCATGATC-3':配列番号55)またはGentrSCPL1-F2プライマー(5'-CTGATGAGTGGCGTCCATGGAAAG-3':配列番号56)を用いてPCRを行った。また、フォワードプライマーにGentrSCPL2 cDNA断片の内部配列に特異的なGentrSCPL2-F1プライマー(5'-CGTTGTAACCGTTCGTTGCCATTCG-3':配列番号57)またはGentrSCPL2-F2プライマー(5'-CGATGGTGCCATTCATGGCTACTC-3':配列番号58)を用いPCRを行った。PCR、クローニング及びシークエンシングは5'RACEと同様に行い、GentrSCPL1及びGentrSCPL2 cDNAにおける3'末端の塩基配列を決定した。(3)GentrSCPL1及びGentrSCPL2 cDNAのタンパク質コード全領域のクローニング RACEにより得られた5'及び3'末端の塩基配列から、予想されるタンパク質の開始コドンを含むフォワードプライマー(Gentr1-DTOPO-F:5'-CACCATGGCGGTGCCGGCGGTGCC-3':配列番号59、Gentr2-DTOPO-F:5'-CACCATGGCGGATACAAACGGCACAGCC-3':配列番号60)、及び終始コドンを含むリバースプライマー(Gentr1-Rv-CTag:5'-CAATGGAGAATCCGAGAAAAACCG-3':配列番号61、Gentr1-Rv-Stop:5'-TTACAATGGAGAATCCGAGAAAAACCG-3':配列番号62、Gentr2-Rv-CTag:5'-CAACGGTTTATGAGTTATCCACC-3':配列番号63、Gentr2-Rv-Stop:5'-CTACAACGGTTTATGAGTTATCCAC-3':配列番号64)を合成した。一本鎖cDNA 1μlを鋳型とし、フォワードプライマー及びリバースプライマーを各20pmole、Pyrobest Taqポリメラーゼ 2ユニットを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。94℃で3分反応させた後、94℃・30秒、65℃・45秒、72℃・80秒の反応を30サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。得られたPCR産物をpENTR-D-TOPOベクターへ製造者の推奨する方法に従ってサブクローニングした。得られた幾つかのpENTR-GentrSCPL1及びpENTR-GentrSCPL2クローンを解析して塩基配列を確認した。GentrSCPL2には二種類のORFが確認され、それぞれをGentrSCPL2-1及びGentrSCPL2-2とした。GentrSCPL1、GentrSCPL2-1及びGentrSCPL2-2のORFにおける塩基配列を配列番号:5、7、9に示し、この塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号:6、8、10に示す。GentrSCPL1、GentrSCPL2-1及びGentrSCPL2-2のORFはそれぞれ1446bp、1485bp及び1455bpであり、481、494及び484アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードしていた。GentrSCPL1、GentrSCPL2-1、GentrSCPL2-2のN末端には分泌シグナル配列が存在し、活性型タンパク質のコード領域にはそれぞれ2、3、3、カ所の糖鎖修飾サイトが存在していた。GentrSCPL2-2はGentrSCPL2-1の226から235番目のアミノ酸領域が欠損しているクローンであった。GentrSCPL2-1及びGentrSCPL2-2はCtSCPL1とアミノ酸レベルで41%の相同性を有しており、また分子系統解析においてもSCPL-ATクレードにおいてCtSCPL4の次に近くに位置していることから、CtSCPL1と同様に1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体として、特にアントシアニンのB環グルコシル基にアシル基を転移する酵素活性をもつタンパク質をコードしているといえる。また、GentrSCPL1もSCPL-ATクレードに位置しており、GentrSCPL2とアミノ酸レベルで32%の相同性を有しており、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とするアシル基転移酵素をコードしているといえる。pENTR-GentrSCPL1及びpENTR-GentrSCPL2-1からBaculoDirect Baculovirus Expression Systemsを用いて、BaculoDirect C-Tag Linear DNA及びBaculoDirect Secreted Linear DNAへGentrSCPL1及びGentrSCPL2-1を組換えた後に製造者の推奨する方法に従い、組換えGentrSCPL1ウイルス及び組換えGentrSCPL2-1ウイルスを作製した。〔実施例12〕 ロベリアSCPL-AT cDNAのクローン化(1)縮重RT-PCRを用いたcDNA断片の増幅とクローン化 ロベリア(Lobelia erinus cv. Riviera Midnight Blue)の花弁からQuickPrep Micro mRNA Purification Kit(アマシャムバイオサイエンス)を用いて製造者の推奨する方法に従ってpoly(A)+RNAを調製した。このpoly(A)+RNAを鋳型として1st strand cDNA synthesis kitを用いて製造者の推奨する方法に従って一本鎖cDNAを合成した。PCR反応には〔実施例6〕に示したCODEHOPプライマー、縮重プライマー及びNotI-d(T)18プライマーを用いた。一本鎖cDNA 2μlを鋳型とし、フォワード及びリバースプライマーを各2μl、ExTaqポリメラーゼ 1ユニットを用いて計50μlでPCR反応を行った。PCR反応は、95℃で3分反応させた後、95℃・30秒、50℃・45秒、72℃・90秒の反応を30サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。1stPCR産物を鋳型に行ったネステッドPCRの結果得られた反応産物をアガロースゲル電気泳動し、各プライマーの組み合わせにより増幅すると予想されるサイズのゲル断片を回収した。精製したPCR産物をpGEM-T Easyベクターにサブクローニングして塩基配列を決定した。 目的とするSCPaseまたはSCPL-ATと相同なクローンが得られたプライマーの組み合わせは、1st PCRにてblockA FdとblockF Rv、blockC FdとblockF Rv及びblockC FdとNotI-d(T)18を用いた場合、ネステッドPCRにてblockA FdとblockF Rv、blockB FdとblockE Rv、blockC FdとblockE Rv及びblockC FdとblockF Rvを用いた場合であった。SCPaseまたはSCPL-ATをコードしていると考えられるcDNA断片のクローンは21クローンで、その中に既知のSCPL-ATと同じクレードに位置する1種類のSCPL-ATクローンLeSCPL1の存在が確認された。(2)LeSCPL1 cDNAのRACE ロベリア花弁5g(開花花弁2g及び花蕾花弁3g)から全RNAを改変CTAB法により調製した。この全RNAからOligotex-dT30 superを用い、製造者の推奨する方法にてpoly(A)+RNAを精製した。精製したpoly(A)+RNAのうち約480ngからGRR cDNAをGeneRacer kitを用いて製造者の推奨する方法に従って合成した。 合成したGRR cDNAを1:3に希釈したcDNA溶液を鋳型にGeneRacer 5'プライマーとLeSCPL1 cDNA断片の内部配列に特異的なリバースプライマー(LeSCPL1-R1:5'-AATGGGTTGCCTAGCACGTATCCC-3':配列番号65、LeSCPL1-R2プライマー:5'-GATTCGTGTTTGGCATCTGTCCAGC-3':配列番号66)を用いPCRを行った。GRR cDNAを鋳型にし、GeneRacer 5'プライマー(30pmole)とリバースプライマー(20pmole)とし、LA Taqポリメラーゼを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。94℃で3分反応させた後、94℃・30秒、65℃・45秒、72℃・80秒の反応を30サイクル行い、最後に72℃で7分間処理した。さらに、1st PCR産物を鋳型にGeneRacer 5'ネステッドプライマーとリバースプライマーを組み合わせてネステッドPCRを行った。1st PCRとネステッドPCR産物をアガロース電気泳動にて分画し、増幅産物のバンドを切り出してPCR産物を回収した。ゲルから精製したPCR産物をTAクローニングし、得られた幾つかのクローンを解析して、LeSCPL1の5'末端の塩基配列を決定した。 合成したGRR cDNAを1:3に希釈したcDNA溶液を鋳型にし、リバースプライマーにGeneRacer 3'プライマーまたはGene Racer 3' ネステッドプライマー、フォワードプライマーにLeSCPL1 cDNA断片の内部配列に特異的なLeSCPL1-F1プライマー(5'-AACGAGCCAGTTGTCCAACAAGCC-3':配列番号67)またはLeSCPL1-F2プライマー(5'-CTCCACGTACGAAAGGGAACACTAAC-3':配列番号68)を用いてPCRを行った。PCR、クローニング及びシークエンシングは5'RACEと同様に行い、LeSCPL1 cDNAにおける3'末端の塩基配列を決定した。(3)LeSCPL1 cDNAのタンパク質コード全領域のクローニング RACEにより得られた5'及び3'末端の塩基配列から予想されるタンパク質の開始コドンを含むフォワードプライマー(LeSCPL-DTOPO-F:5'-CACCATGGCGTTTGGTATGCCATTTTCG-3':配列番号69)及び終始コドンを含むリバースプライマー(LeSCPL-Rv-CTag:5'-CAATAAACTACGAGTAAGCCACCTTC-3':配列番号70、LeSCPL-Rv-Stop:5'-TCACAATAAACTACGAGTAAGCCAC-3':配列番号71)を合成した。一本鎖cDNA 1μlを鋳型とし、フォワードプライマー及びリバースプライマーを各20pmole、Pyrobest Taqポリメラーゼ(タカラバイオ)2ユニットを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。得られたPCR産物をpENTR-D-TOPOベクターへ製造者の推奨する方法に従ってサブクローニングした。得られた幾つかのpENTR-LeSCPL1クローンを解析して塩基配列を確認した。LeSCPL1のORFにおける塩基配列を配列番号:11に示し、この塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号:12に示す。LeSCPL1のORFは1446bpであり、481アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードし、3カ所の糖鎖修飾サイトが存在していた。LeSCPL1はCtSCPL1とアミノ酸レベルで26%の相同性を有しており、また分子系統解析においてもSCPL-ATクレードに位置しており1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とするアシル基転移酵素をコードしているといえる。pENTR-LeSCPL1からBaculoDirect Baculovirus Expression Systemsを用いて、BaculoDirect C-Tag Linear DNA及びBaculoDirect Secreted Linear DNAへLeSCPL1を組換えた後に製造者の推奨する方法に従い、組換えLeSCPL1ウイルスを作製した。〔実施例13〕 1-O-アシル-β-D-グルコース合成酵素(UDP-グルコース:ヒドロキシケイ皮酸1-O-グルコシル基転移酵素)cDNAのクローン化(1)チョウマメ1-O-アシル-β-D-グルコース合成酵素cDNAの単離 植物二次代謝産物配糖化酵素群に高度に保存されている領域PSPG-box(Huges and Huges (1994) DNA Seq., 5: 41-49)のアミノ酸配列を基に以下の縮重プライマーGT-SPF(5'-WCICAYTGYGGITGGAAYTC-3':配列番号72)を合成した。一本鎖cDNAを鋳型にし、GtSPFプライマー100pmole及びNotI-d(T)18プライマー14pmole、ExTaqポリメラーゼ 1ユニットを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。PCR反応は94℃で5分反応させた後、94℃・30秒、42℃・30秒、72℃・60秒の反応を38サイクル行い、最後に72℃で10分間処理した。得られたPCR産物をpGEM-T easyベクターへ製造者の推奨する方法に従ってサブクローニングした。得られた幾つかのクローンを解析して塩基配列を確認し、セイヨウアブラナやシロイヌナズナから報告のあるUDP-グルコース:ヒドロキシケイ皮酸1-O-グルコシル基転移酵素(NCBI/EMBL/DDBJアクセッション番号AF287143、PIRアクセション番号D71419、E71419、F71419)と高い相同性を示すcDNA断片クローンGTC600-11を得た。このcDNA断片をプローブに用いてチョウマメ花弁cDNAライブラリの25万個のクローンを洗浄条件(2×SSC、1% SDS、60℃)でスクリーニングし、最終的にpBluescript SK-にサブクローニングされたインサートのサイズが1.5kbp以上のクローンを7個得た。それらのORFがコードする推定アミノ酸配列は同一であり、開始コドンを含む最長のクローンをCtGT11-4と名付けた。なおライブラリのスクリーニングは公知の方法(例えば特開2005-95005号公報)によった。CtGT11-4遺伝子は1788bpで473アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードしていた。塩基配列を配列番号13に示し、これらの塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号14に示す。(2)CtGT11-4遺伝子産物の1-O-アシル-β-D-グルコース合成酵素活性の確認 CGT11-4遺伝子の発現にはpET30Ek/LIC Systemを用いて行った。まず、CtGT11-4のORF cDNAを増幅するためのプライマーである、pEGTC11-4F(5'-GACGACGACAAGATGGGGTCTGAAGCTTCGTTTC-3'(配列番号73)及びpEtGTC11-4R(5'-GAGGAGAAGCCCGGTCTAAGGGTTACCACGGTTTC-3'(配列番号74)を用いてPCR反応を行った。〔実施例12〕(1)で得たプラスミドを鋳型とし、pEGTC11-4F及びpEtGTC11-4Rそれぞれ40pmole、ExTaqポリメラーゼ 1ユニットを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。得られたPCR産物をpET30Ek/LICベクターへ製造者の推奨する方法に従ってサブクローニングした。得られた幾つかのクローンを解析して塩基配列を確認した後に、大腸菌BL21-CodonPlus(DE3)-RP(ストラタジーン)に形質転換した。 形質転換した大腸菌はカナマイシン50μg/ml及びクロラムフェニコール34μg/mlを含むLB培地3mlで37℃で一晩振盪培養した。この培養液500μlをLB培地50mlに植菌し、600nmにおける吸光度が0.4に達するまで振盪培養した後、イソプロピル-β-D-チオガラクトシド(IPTG)を終濃度0.4mMになるように添加し、25℃で16時間振盪培養した後、冷却遠心(8000rpm, 4℃, 20分間)して菌体を回収した。菌体からNi-NTAミニカラム(キアゲン)を用い、製造者の推奨する方法に従って組換えCtGT11-4タンパク質を部分精製した後、限外濾過膜を用いた遠心濃縮を行った後に酵素活性の測定に用いた。 酵素活性の測定には、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)、30pmole UDP-グルコース、30pmole ヒドロキシケイ皮酸、15μl組換えタンパク質溶液を含む反応液30μlを30℃で反応(10分間、20分間、30分間)した後、1M塩酸水溶液6μlを添加することにより反応を停止した。ヒドロキシケイ皮酸にはp-クマル酸、カフェ酸、フェルラ酸、シナピン酸を用いた。酵素反応産物の分析はDevelosil C30-UG-5(1.5 i.d×250mm)を用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(資生堂NanoSpaceシステム)により行った。溶媒は毎分0.125mlの流速を保ち、5% MeCN水溶液をA液とし、0.05M TFAを含む40% MeCN水溶液をB液として、分離開始から0分、20分におけるB液濃度がそれぞれ14%、86%になるように直線勾配をかけて溶出し、PDA検出器にて検出を行って得られたデータを解析し、1-O-アシル-β-D-グルコースを定量した。 組換えCtGT11-4タンパク質による反応産物には1-O-ヒドロキシシンナモイル-β-D-グルコース類(1-O-p-クマロイル-β-D-グルコース:Rt 8.1分, 1-O-カフェオイル-β-D-グルコース:Rt 5.7分, 1-O-フェルロイル-β-D-グルコース:Rt 9.3分、及び1-O-シナポイル-β-D-グルコース:Rt 9.8分)が検出された。又、反応時間が増すにつれて反応産物である1-O-ヒドロキシシンナモイル-β-D-グルコース類の量が直線的に増加した。このことからCtGT11-4遺伝子は、UDP-グルコース:ヒドロキシケイ皮酸1-O-グルコシル基転移活性を有する酵素をコードしていることが確認され、1-O-アシル-β-D-グルコース合成酵素遺伝子であることが明らかになった。(3)ロベリア1-O-アシル-β-D-グルコース合成酵素cDNAの単離 〔実施例12〕(1)の方法に従って、ロベリア花弁由来一本鎖cDNAを鋳型にディジェネレートRT-PCRを行い、既知の遺伝子と相同性の高いcDNA断片をクローン化した。ロベリア(Lobelia erinus cv. Riviera Midnight Blue)花弁由来のcDNAライブラリを作製し、得られたcDNA断片クローンLeGT13をプローブに用いて約50万クローンをスクリーニングし、最終的に陽性クローンを28個得た。それらのORFがコードする推定アミノ酸配列は2つに分類することができ、それぞれの最長クローンをLeGT13-20およびLeGT13-30とした。LeGT13-20及びLeGT13-30は、それぞれ1574bpおよび1700bpで、どちらも開始コドンを有しておりORFは1461bpで486アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードしていた。アミノ酸レベルで95%の相同性を示したことから、同一の酵素をコードする対立遺伝子であると考えられた。LeGT13-20及びLeGT13-30の塩基配列を配列番号15および17に示し、これらの塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号16および18に示す。(4)LeGT13-20およびLeGT13-30遺伝子産物の1-O-アシル-β-D-グルコース合成酵素活性の確認 LeGT13-20およびLeGT13-30遺伝子の発現にはpET30Ek/LIC System(Novagen)を用いて行った。LeGT13-20のORF cDNAを増幅するためのプライマーである、pELeGT13A-F(5'-GACGACGACAAGATGGGCTCACTGCAGGGTACTACTACCGTC-3'(配列番号75)及びpELeGT13A-R(5'-GAGGAGAAGCCCGGTTAGTGCCCAACAACATCTTTTC-3'(配列番号76)を用いてPCR反応を行った。また、LeGT13-30のORF cDNAを増幅するためのプライマーである、pELeGT13B-F(5'-GACGACGACAAGATGGGCTCACTGCAGGGTACTACTACCGTT-3'(配列番号77)及びpELeGT13B-R(5'-GAGGAGAAGCCCGGTTAGTGCCCAATAACACCTTTTT-3'(配列番号78)を用いてPCR反応を行った。〔実施例12〕(3)で得たプラスミドを鋳型とし、フォワードプライマーにpELeGT13A-FまたはpELeGT13B-Fを20pmole、リバースプライマーにpELeGT13A-RまたはpELeGT13B-Rを20pmole、ExTaqポリメラーゼ 1ユニットを用いて製造者の推奨する方法により計50μlでPCR反応を行った。得られたPCR産物をpET30Ek/LICベクターへ製造者の推奨する方法に従ってサブクローニングした。得られた幾つかのクローンを解析して塩基配列を確認した後に、大腸菌BL21-CodonPlus(DE3)-RPに形質転換した。形質転換した大腸菌における導入遺伝子の発現、組換えタンパク質の部分精製、酵素反応と反応産物の分析を〔実施例12〕(2)に従って行ったところ、用いた4種類全てのヒドロキシケイ皮酸に対するグルコシル基転移酵素活性が確認された。このことからLeGT13-20遺伝子及びLeGT13-30遺伝子は、UDP-グルコース:ヒドロキシケイ皮酸1-O-グルコシル基転移活性を有する酵素をコードしていることが確認され、1-O-アシル-β-D-グルコース合成酵素遺伝子であることが明らかになった。 1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をアントシアニンの3’位の糖残基へ転移させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子、(a)配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、(b)配列番号2、4、6、8、10、若しくは12に記載のアミノ酸配列において、20個以内のアミノ酸が付加、欠失及び/又は他のアミノ酸により置換されているアミノ酸配列を有するタンパク質。 請求項1に記載の遺伝子を含んでいるベクター。 請求項2に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞。 請求項1に記載の遺伝子によってコードされるタンパク質。 請求項3に記載の宿主細胞を培養し、又は生育させ、その後、該宿主細胞から1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をアントシアニンの3’位の糖残基へ転移させる活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする前記タンパク質の製造方法。 請求項1に記載の遺伝子を用いたin vitro translation 法による該タンパク質の製造方法。 請求項1に記載の遺伝子、又は請求項2に記載のベクターが導入され、形質転換された植物。 請求項7に記載の植物と同じ性質を有する該植物の子孫。 請求項7に記載の植物又は請求項8に記載の該植物の子孫の組織。 請求項7に記載の植物又は請求項8に記載の該植物の子孫の切り花。 請求項1に記載の遺伝子、又は請求項2に記載のベクターを植物又は植物細胞に導入し、該遺伝子を発現させることによる、1-O-アシル-β-D-グルコースをアシル基供与体とし、芳香族アシル基をアントシアニンの3’位の糖残基へ転移させる方法。配列表