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タイトル:特許公報(B2)_パラジウム錯体及びその製造方法、触媒並びに反応方法
出願番号:2007533140
年次:2013
IPC分類:C07F 9/53,C07C 1/32,C07C 2/86,C07C 15/14,C07C 15/52,B01J 31/24,C07F 15/00,C07B 61/00


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會澤 宣一 JP 5135582 特許公報(B2) 20121122 2007533140 20060728 パラジウム錯体及びその製造方法、触媒並びに反応方法 国立大学法人富山大学 304020948 長谷川 芳樹 100088155 寺崎 史朗 100092657 沖田 英樹 100140578 會澤 宣一 JP 2005252432 20050831 20130206 C07F 9/53 20060101AFI20130117BHJP C07C 1/32 20060101ALI20130117BHJP C07C 2/86 20060101ALI20130117BHJP C07C 15/14 20060101ALI20130117BHJP C07C 15/52 20060101ALI20130117BHJP B01J 31/24 20060101ALI20130117BHJP C07F 15/00 20060101ALN20130117BHJP C07B 61/00 20060101ALN20130117BHJP JPC07F9/53C07C1/32C07C2/86C07C15/14C07C15/52B01J31/24 ZC07F15/00 CC07B61/00 300 C07F 9/53 B01J 31/24 C07C 1/32 C07C 2/86 C07C 15/14 C07C 15/52 C07B 61/00 C07F 15/00 CAplus(STN) REGISTRY(STN) 特開2002−088029(JP,A) 特開2000−271485(JP,A) 特開平08−328188(JP,A) Angewandte Chemie, International Edition,2004年,Vol.43, No.46,pp.6382-6385 Australian Journal of Chemistry,1991年,Vol.44, No.4,pp.525-535 Organometallics,2003年,22(7),pp. 1494-1502 5 JP2006315015 20060728 WO2007026490 20070308 17 20090715 井上 千弥子 本発明は、パラジウム錯体及びその製造方法、触媒並びに反応方法に関する。 従来、炭素―炭素カップリング反応等の化学反応の触媒として、ホスフィン化合物を配位子として有し、Pd(II)又はPd(0)を中心金属として有するパラジウム錯体が広く用いられている(例えば、特許文献1〜3)。特開2004−315457号公報特開2003−19436号公報特開2002−187894号公報 しかしながら、従来のパラジウム錯体は、酸素に触れると配位子であるホスフィン化合物中のホスフィノ基が酸化を受けて容易に分解してしまうために、パラジウム錯体自体の保存安定性が十分でなかった。また、パラジウム錯体を触媒として用いる化学反応を効率的に進行させるためには、N2又はAr雰囲気のような嫌気下で反応を行う必要があった。 そこで、本発明は、酸素の存在下であっても、十分な保存安定性を有するとともに高い触媒活性を維持可能なパラジウム錯体及びこれを含有する触媒を提供することを目的とする。また、本発明は、本発明のパラジウム錯体を得ることが可能なパラジウム錯体の製造方法、及び、この製造方法において好適に用いられるホスフィンカルコゲニド化合物の製造方法を提供することを目的とする。更には、本発明は、パラジウム錯体を触媒として用いながら、酸素の存在下であっても高い効率で反応を進行させることが可能な反応方法を提供することを目的とする。 本発明のパラジウム錯体は、Pd(0)と、下記一般式(10)で表されるホスフィンカルコゲニド基を有するホスフィンカルコゲニド化合物を含む配位子と、を有する。式(10)中、Xは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子を示す。 このパラジウム錯体は、式(10)で表されるような、リン原子にカルコゲン原子が結合したホスフィンカルコゲニド基をPd(0)(0価のパラジウム)に配位させたことにより、酸素の存在下であっても、十分な保存安定性を有するとともに高い触媒活性を維持可能なものとなった。このような効果は、カルコゲン原子を有する式(10)の官能基自体がホスフィノ基よりも酸化を受け難いことに加えて、この官能基の電子受容性がPd(0)を電子的に安定化していることにより奏されるものであると本発明者は推察している。 本発明のパラジウム錯体の製造方法は、Pd(0)を有するパラジウム錯体と、上記一般式(10)で表されるホスフィンカルコゲニド基を有するホスフィンカルコゲニド化合物とが溶解している溶液中で、パラジウム錯体が有する配位子の少なくとも一部をホスフィンカルコゲニド化合物に配位子交換する工程を備えるものである。この製造方法によれば、酸素の存在下であっても、十分な保存安定性及び触媒活性を有するパラジウム錯体を効率的に得ることができる。 上記パラジウム錯体及びその製造方法において、上記ホスフィンカルコゲニド化合物は、2以上の上記ホスフィンカルコゲニド基を有することが好ましい。これにより、酸素の存在下での十分な保存安定性及び触媒活性という効果をより顕著なものとすることができる。同様の観点から、上記ホスフィンカルコゲニド化合物は、下記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物であることが好ましい。 式(1)、(2)、(3)及び(4)中、R1は1価の有機基を示し、R2は2価の有機基を示し、R3は水素原子又は1価の有機基を示し、Xは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子を示し、同一分子中の複数のR1、R2及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。 上記パラジウム錯体は、モル吸光係数が5000M−1cm−1を超える吸収を450〜700nmの波長域に有することが好ましい。 本発明のホスフィンカルコゲニド化合物の製造方法は、ホスフィンオキシド基中の酸素原子を、Pd(0)の存在下で硫黄原子又はセレン原子に交換して下記一般式(10’)で表されるホスフィンカルコゲニド基を生成させる工程を備える。式(10’)中、Xは硫黄原子又はセレン原子を示す。 この製造方法は、Pd(0)を触媒として存在させたことによって、式(10’)のホスフィンカルコゲニド基を有するホスフィンカルコゲニド化合物を、穏やかな条件で容易に生成させることができる。従来、このようなリン原子に結合したカルコゲン原子の転移反応に対してPd(0)が触媒として作用することは知られていなかったが、本発明者による検討の結果、Pd(0)を触媒として用いることにより、高温に加熱することなく、穏やかな反応条件で反応が進行することが明らかとなった。また、上記本発明のパラジウム錯体又はこれ以外のパラジウム錯体の分解等に伴って生じたホスフィンオキシド化合物を原料として用いることにより、配位子として有用なホスフィンカルコゲニド化合物を再生させることが可能であるという点でもこの製造方法は利点を有する。 本発明の触媒は、上記本発明のパラジウム錯体を含有する。この触媒は、酸素の存在下であっても、十分な保存安定性を有するとともに、高い触媒活性を維持可能である。 本発明の反応方法は、この触媒の存在下で化学反応を進行させるものである。この反応方法は、上記本発明の触媒を用いることにより、パラジウム錯体が触媒として作用する反応を、酸素の存在下であっても高い効率で進行させることを可能とした。この反応方法は、炭素−炭素カップリング反応に適用するために特に有用なものである。 本発明のパラジウム錯体及びこれを含有する触媒は、酸素の存在下であっても、十分な保存安定性を有するとともに高い触媒活性を維持可能である。 本発明のパラジウム錯体の製造方法によれば、酸素の存在下であっても、十分な保存安定性を有するとともに高い触媒活性を維持可能なパラジウム錯体が効率的に得られる。 本発明のホスフィンカルコゲニド化合物の製造方法によれば、パラジウム錯体の配位子として有用なホスフィンカルコゲニド化合物を、穏やかな条件下で容易に生成させることができる。また、上記本発明のパラジウム錯体又はこれ以外のパラジウム錯体の分解等に伴って生じたホスフィンオキシド化合物を原料として用いることにより、配位子として有用なホスフィンカルコゲニド化合物を再生させることが可能になる。 本発明の反応方法によれば、パラジウム錯体が触媒として作用する反応を、酸素の存在下であっても高い効率で進行させることが可能である。Suzukiカップリング反応における収率の経時変化を示すグラフである。Heck反応における収率の経時変化を示すグラフである。Heck反応における収率の経時変化を示すグラフである。パラジウム錯体の31P NMRスペクトルである。 以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。 本発明のパラジウム錯体は、Pd(0)を中心金属として有し、上記一般式(10)で表されるホスフィンカルコゲニド基を有するホスフィンカルコゲニド化合物を配位子として有する金属錯体である。このパラジウム錯体は、例えば、下記一般式(I)のように表される。 [Pd(0)(L1)n(L2)m] ・・・(I) 式(I)中、L1は上記一般式(10)で表されるホスフィンカルコゲニド基を有するホスフィンカルコゲニド化合物からなる配位子を示し、L2はこのホスフィンカルコゲニド化合物以外の配位子を示し、nは1以上の整数を示し、mは0以上の整数を示す。式(I)は、Pd(0)及び各配位子の組成を示す式であり、Pd(0)原子1個に対して、L1がn個、L2がm個の割合で配位していることを示す。なお、パラジウム錯体が溶液中に存在しているときには、一般に、L1及びL2に加えて溶媒分子が更にPd(0)に対して配位(溶媒和)している場合があるが、式(I)はそのような状態も含めて表すものである。また、式(I)のパラジウム錯体は、L1及びL2の一部が溶媒分子と互いに連続的に入れ替わっている状態で溶液中に存在していることも有り得る。 式(I)におけるnは、Pd(0)に配位しているホスフィンカルコゲニド基の数が1〜5の範囲内となるような整数であることが好ましく、保存安定性の更なる改良の点からは、Pd(0)に配位しているホスフィンカルコゲニド基の数が3又は4となるような整数であることがより好ましい。例えば、L1中のホスフィンカルコゲニド基が2個であるとき、式(I)におけるnは1又は2であることが好ましく、L1中のホスフィンカルコゲニド基が3個又は4個であるとき、nは1であることが好ましい。なお、nが2以上であるとき、複数のL1は互いに同一でも異なっていてもよい。 L1は、式(10)のホスフィンカルコゲニド基を2以上有することが好ましく、3以上有することがより好ましい。L1がホスフィンカルコゲニド基を2以上有する場合、互いに共有結合を介して連結している2以上のホスフィンカルコゲニド基がPd(0)に同時に配位することが可能となり、パラジウム錯体の保存安定性が更に顕著に改善される。 式(10)のホスフィンカルコゲニド基において、Xは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子を示す。Xは硫黄原子又はセレン原子であることがより好ましく、硫黄原子であることが更に好ましい。 L1は、上記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物であることが好ましい。これらの化合物はホスフィンカルコゲニド基を2以上有しており、パラジウム錯体の保存安定性が更に顕著に改善される。これらの中でも、特に、式(1)又は(2)で表される化合物が好ましい。これらの式中、R1は1価の有機基を示し、R2は2価の有機基を示し、R3は水素原子又は1価の有機基を示し、Xは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子を示し、同一分子中の複数のR1、R2及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。 R1は、ホスフィン原子に結合可能な1価の有機基であれば特に制限はないが、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基である。R1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基や、フェニル基等のアリール基が挙げられる。 R2は、置換基を有していてもよい脂肪族基(アルキレン基、ポリオキシアルキレン基等)又は芳香族基(アリーレン基等)であることが好ましく、特に、置換基を有していてもよいアルキレン基であることが好ましい。R2が置換基を有していてもよいアルキレン基である場合、アルキレン基は炭素数が1〜4であることが好ましい。R2の好適な具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、イソブチレン基が挙げられる。 R3は、水素原子又は1価の有機基であれば特に制限はない。R3が1価の有機基である場合、R3は、例えば置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基である。R3の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基や、フェニル基等のアリール基が挙げられる。 より具体的には、L1としては、下記一般式(1a)、(2a)、(3a)又は(4a)で表される化合物が好ましい。 一方、配位子としてのL2は、Pd(0)に配位する化合物であれば特に制限はない。L2の好適な具体例としては、ジベンジリデンアセトン、シクロオクタジエン等が挙げられる。 L1が式(1a)のホスフィンカルコゲニド化合物であり、L2がジベンジリデンアセトンである場合、パラジウム錯体は、例えば、下記一般式(II)のように表される。ただし、特に溶液中では、パラジウム錯体は溶媒分子等との配位子交換を繰り返していると考えられ、必ずしも常に式(II)のような構造で存在しているわけではない。 本発明のPd(0)を中心金属として有するパラジウム錯体(Pd(0)錯体)は、典型的には、モル吸光係数が5000M−1cm−1を超える吸収を450〜700nmの波長域に有する。一方、Pd(II)を中心金属として有するパラジウム錯体(Pd(II))錯体は、一般に上記波長域におけるモル吸光係数は小さい。この点でPd(0)錯体はPd(II)錯体と客観的に区別され得る。 以上のようなホスフィンカルコゲニド基を有するパラジウム錯体は、単独で又は複数種を組み合わせて、化学反応用の触媒として好適に用いることができる。この触媒の存在下で行う反応方法は、酸素の存在下であっても高い反応効率で行うことができる。通常のパラジウム錯体が触媒として作用する化学反応であれば、特に制限なく本発明の触媒を適用できる。具体的には、本発明の触媒は、Suzukiカップリング反応、Heck反応等の炭素−炭素カップリング反応の触媒として特に有用なものである。この触媒を用いた反応方法は、本発明のパラジウム錯体を用いる他は、通常の条件で行うことができる。 ホスフィンカルコゲニド化合物を配位子として有するパラジウム錯体は、例えば、Pd(0)を中心金属原子として有するパラジウム錯体と、一般式(10)で表されるホスフィンカルコゲニド基を有するホスフィンカルコゲニド化合物とが溶解している溶液中で、パラジウム錯体が有する配位子の少なくとも一部をホスフィンカルコゲニド化合物に配位子交換する工程を備える製造方法によって、好適に得ることができる。 この製造方法において出発原料として用いるパラジウム錯体は、ホスフィンカルコゲニド化合物と容易に配位子交換される配位子を有するものであることが好ましい。具体的には、ジベンジリデンアセトン、トリフェニルホスフィン等を配位子として有するパラジウム錯体を配位子交換の出発原料として用いることが好ましい。 配位子交換は、配位子として特定のホスフィンカルコゲニド化合物を用いる他は、通常の金属錯体の配位子交換反応と同様の方法で行うことができる。例えば、パラジウム錯体及びホスフィンカルコゲニド化合物を所定の比率でクロロホルム等の溶媒に溶解し、室温で又は必要に応じて加熱して、反応を進行させることができる。反応後、ジエチルエーテル等の貧溶媒を加えて生成物を沈殿させる等の通常の方法で単離することができる。あるいは、溶液の状態でパラジウム錯体を保存し、そのまま触媒として使用することもできる。 パラジウム錯体の合成のために用いるホスフィンカルコゲニド化合物は、例えば、ホスフィノ基を有するホスフィン化合物に硫黄を反応させる方法により、容易に合成することができる。この反応は、下記反応式(S1)のように表される。 あるいは、ホスフィンカルコゲニド化合物は、ホスフィンオキシド基中の酸素原子を、Pd(0)の存在下で硫黄原子又はセレン原子に交換して式(10’)で表されるホスフィンカルコゲニド基を生成させる工程を備える製造方法により得ることもできる。この反応は、下記反応式(S2)のように表される。式(S2)において、X’は硫黄原子又はセレン原子を示す。 一般にホスフィノ基は保存中や製造プロセス中に酸化されてホスフィンオキシド基となり易いが、式(S2)の反応によれば、そのようなホスフィンオキシド基を有する化合物を再利用して容易にホスフィンカルコゲニド基を生成させることができるため、原料の効率的な使用が可能になり、製造コストの低減に寄与し得る。 式(S2)の反応において、Pd(0)は、好ましくはパラジウム錯体の状態で用いられる。この場合、パラジウム錯体を所定の溶媒に溶解した溶液中で反応が行われる。パラジウム錯体としては、上記本発明のパラジウム錯体の他、従来公知のものを含めて特に制限されることなく用いられる。具体的には、[Pd(0)(PPh3)4]、[Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)](但し、dibenzylはジベンジリデンアセトンを示す。以下同様。)等を用いることができる。 式(S2)の反応は、例えば、ホスフィンオキシド基を有するホスフィンオキシド化合物とパラジウム錯体を溶解した溶液中に、ホスフィンオキシド基に対して過剰量の硫黄等を加えることにより、進行させることができる。通常は室温で十分に反応が進行するが、必要に応じて反応液を加熱してもよい。酸化により分解しやすいパラジウム錯体を用いる場合や反応の効率を高めたい場合には、嫌気下で反応を行うことが好ましい。なお、式(S2)において、ホスフィンオキシド基を、ホスフィンスルフィド基又はホスフィンセレニド基に代えた場合、Pd(0)の存在下で更に容易にカルコゲン原子の交換反応が進行する。 このようなカルコゲン原子の交換反応は、Pd(0)を有するパラジウム錯体(Pd(0)錯体)の再生及びその再利用のために利用することができる。ホスフィンスルフィド基を有する配位子をPd(0)錯体に用いると、Pd(0)錯体を長期に使用したときに、配位子中のホスフィンスルフィド基の一部が酸化されてホスフィンオキシド基が徐々に生成する場合がある。しかし、生成したホスフィンオキシド基は、Pd(0)の触媒作用によりホスフィンスルフィド基として再生することが可能である。このようなホスフィンカルコゲニド基のカルコゲン原子交換反応は、本発明者が見出したPd(0)による新しい触媒反応である。ホスフィノ基を有する配位子を用いた従来のPd(0)錯体の場合、ホスフィノ基の酸化に伴う分解反応後は、触媒としての再生は容易ではなかった。これに対してホスフィンカルコゲニド基を有する配位子を用いたPd(0)錯体は再生が容易であり、この点でも工業的な有用性が高い。 式(S2)の反応に関連して、下記反応式(S3)で表される反応をPd(0)の存在下で行う反応方法により、ホスフィノ基を有するホスフィン化合物が生成することを本発明者らは見出した。式(a−x)、(b)、(a)及び(b−x)中、Xは式(10)のXと同義であり、R10及びR20は1価の有機基(好ましくは置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基)を示し、同一分子中の複数のR10及びR20はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。 従来、このようなカルコゲン原子の転移反応は、200℃以上の高温条件であれば進行し得ることは知られていた。これに対して、この反応方法によれば、式(S3)の反応を、高温に加熱しなくとも速やかに進行させることが可能である。更には、この反応を、例えば式(S2)の反応を適用した下記反応式(S2−a)の反応と組み合わせることにより、副生物、不純物等として生成した式(a−o)のホスフィンオキシド化合物から、式(a−x’)のホスフィンカルコゲニド化合物を経て、工業的に有用な式(a)のホスフィン化合物を再生することも可能である。なお、式(a−x)は、Xが硫黄原子又はセレン原子であるときに式(a−x’)と同一となる。 以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。1.パラジウム錯体の合成(1)トリス[(2−ジフェニルホスフィノ)エチル]ホスフィン四硫化物の合成 下記式(20)で表されるトリス[(2−ジフェニルホスフィノ)エチル]ホスフィン(Aldrich社製)0.5399g(0.805mmol)と硫黄0.1009g(3.15mmol)をクロロホルム(10cm3)に溶解し、室温で1時間反応を進行させた。次いで、反応液中の不溶物を濾過により除去し、濾液にジエチルエーテル(20cm3)を徐々に加え、冷凍庫で1日放置した。そして、析出した白色結晶を濾別して、下記式(1a−1)で表されるトリス[(2−ジフェニルホスフィノ)エチル]ホスフィン四硫化物(以下「pp3S4」という。)を得た(収量0.5924g、収率92%)。31P{1H}NMR (CHCl3):δ (relative to D3PO4in D2O) 44.1 (d, 3P, terminal), 54.5 (q, 1P, center); JP-P= 56 Hz.。(2)パラジウム錯体:[Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)]の合成 上記で得たpp3S40.1582g(0.198 mmol)と、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)([Pd(0)(dibenzyl)2]、関東化学社製)0.1038g(0.181mmol)とをクロロホルム(5cm3)に溶解し、室温で1時間反応を進行させた。次いで、反応液にジエチルエーテル(10cm3)を徐々に加え、析出した黒褐色の沈殿物を濾別し、風乾して、パラジウム錯体([Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)])を得た。濾液を冷却して更に析出した沈殿物(パラジウム錯体)も濾別し、先に得た沈殿物と併せた(収量0.1431g、収率44%)。元素分析:実測値:C, 44.64; H,3.80; N, 0.00%.([Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)]・5CHCl3・(CH3CH2)2Oの計算値:C, 45.11; H, 3.95; N, 0.00%.)31P{1H}NMR (CHCl3):δ(relative to D3PO4in D2O) 44.2 (d, 3P, terminal), 54.6 (q, 1P, center); JP-P= 56 Hz. 以下、合成した[Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)]を実施例のパラジウム錯体、市販のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)([Pd(0)(PPh3)4])を比較例1のパラジウム錯体、上記式(20)の多座ホスフィン配位子(以下「pp3」という。)を有するPd(II)錯体([PdCl(pp3)]Cl)を比較例2のパラジウム錯体として、その保存安定性及び触媒活性を評価した。2.保存安定性 実施例及び比較例1それぞれのパラジウム錯体約10mgを約1cm3のクロロホルムに溶解し、大気下、室温で放置した。数時間後、比較例1においてはパラジウム黒が沈殿して溶液が無色になった。これは、下記式の酸化反応によりパラジウム錯体が分解したことを示すと考えられる。 Pd(Ph3)4 + 2O2 → 4O=PPh3 + Pd↓ これに対して、実施例のパラジウム錯体の場合、2日放置後もパラジウム黒の沈殿は認められなかった。また、放置後の溶液の31P NMRスペクトルは初期の状態からほとんど変化は認められず、配位子の酸化が進行していないことが確認された。 溶媒をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に代えて同様の実験を行ったところ、比較例1の場合、1日放置後、全てのトリフェニルホスフィンホスフィン(PPh3)がトリフェニルホスフィンオキシド(O=PPh3)に酸化されていることが、31P NMRスペクトルより確認された。これに対して、実施例の場合には、5日放置後も溶液の31P NMRスペクトルは初期の状態からほとんど変化は認められず、配位子の酸化が進行していないことが確認された。 以上より、本発明によるパラジウム錯体は、酸素が存在する大気下においても、十分な保存安定性を有することが確認された。3.触媒活性(1)ヨードベンゼン及びフェニルボロン酸を塩基存在下で反応させてビフェニルを生成させるSuzukiカップリング反応における、実施例及び比較例1のパラジウム錯体の触媒活性を、以下のようにして評価した。 ヨードベンゼン5.6972g(27.37mmol)、フェニルボロン酸4.1284g(32.84mmol)、ジブトキシエチルエーテル2.1960g(9.41mmol)及び実施例のパラジウム錯体0.0199g(0.0110mmol)を、N2を吹き込みながら脱気したDMFに溶解した反応液に、炭酸カリウム3.5239g(25.50mmol)を加え、N2雰囲気下、125℃に加熱して反応を行った。同様の操作で、比較例1のパラジウム錯体を用いて反応を行った。 反応の進行は、反応液の1H NMRスペクトルを随時測定し、得られたスペクトルにおけるシグナル強度の変化に基づいて、生成物(ビフェニル)の収率の経時変化を求めることによって確認した。具体的には、反応液中のジブトキシエチルエーテルを標準物質として、これに由来するシグナルの強度に対するビフェニル由来のシグナル強度の比率から、全てのヨードベンゼンからビフェニルが生成した場合を100%としたときの収率(%)を算出した。同様に、反応液の調製から反応までの全ての過程を空気中(大気下)で行った場合についても、パラジウム錯体の触媒活性を評価した。 図1は、Suzukiカップリング反応における収率の経時変化を示すグラフである。図1に示すグラフにおいて、縦軸はビフェニルの収率(%)、横軸は反応時間(分)である。図1に示すように、比較例1のパラジウム錯体の場合、N2雰囲気下で反応を行ったときには高い収率となるまで反応が進行したものの、大気下においては30%程度の低い収率までしか反応が進行しなかった。これは、ホスフィンの酸化によるパラジウム錯体の分解が進んで触媒が失活したために、触媒反応が途中で停止したことによると考えられる。これに対して、実施例のパラジウム錯体の場合には、大気下で反応液調製および反応を行ったときにも、N2雰囲気下と同等の高い収率となるまで速やかに反応が進行した。すなわち、本発明によれば、酸素の存在下であっても十分に高い触媒活性を示すパラジウム錯体が提供されることが確認された。(2)Heck反応に用いたときの触媒能持続性の評価 ヨードベンゼンとスチレンからパラジウム触媒存在下でスチルベンを得るHeck反応を繰り返し行い、そのときの実施例及び比較例1のパラジウム錯体の触媒活性の持続性を比較した。実験の詳細を以下に示す。 ヨードベンゼン5.76g(27.65mmol)、スチレン3.14g(30.14mmol)、ビス(2−ブトキシエチル)エーテル2.19g(9.84mmol)、及び実施例のパラジウム錯体0.032g(0.018mmol)を、DMF8mLとトリブチルアミン13.9gの混合溶液に溶解して反応液を準備した。この反応溶液を125℃に加熱して、Heck反応を進行させた。反応の進行に伴ってヨードベンゼンが消費された後、新たに同量のヨードベンゼン及びスチレンを反応溶液に加えて、反応を繰り返した。反応は合計で3回繰り返して行った。同様の操作で、比較例1のパラジウム錯体を用いて反応を行った。 収率の経時変化を、Suzukiカップリング反応の場合と同様に、1H NMRのシグナル強度の経時変化に基づいて観測した。具体的には、生成物であるtrans−スチルベンのシグナル強度のビス(2−ブトキシエチル)エーテルに由来するシグナル強度に対する相対比に基づいてtrans−スチルベンの収量を求め、この収量の理論収量100%に対する比率から収率を算出した。添加したヨードベンゼン全てがtrans−スチルベンを生成したと仮定したときの収量を理論収量とした。2回目以降の反応の場合には、ヨードベンゼン及びスチレンを添加後に新しく生成したtrans−スチルベンの収量と、新しく添加したヨードベンゼンの量から計算した理論収量とから計算した。 図2は、Heck反応における収率の経時変化を示すグラフである。図2のグラフには、実施例又は比較例1のパラジウム錯体を触媒として用いた場合について示した。比較例1([Pd(0)(PPh3)4])の場合、繰り返し触媒反応を行うと触媒活性の低下が認められた。これに対して、実施例([Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)])の場合、反応を繰り返して行ったときにも触媒活性の低下は認められず、高い活性が維持された。これは、[Pd(0)(PPh3)4]の場合は基質と反応中または反応終了後に分解反応が進行するのに対して、[Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)]は125℃の反応条件下においても安定に溶存しているためと考えられる。この結果より、[Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)]は断続的に繰り返し行う触媒反応において明らかに有利であることが示される。この点からも本発明の工業的利用価値が高いと言うことができる。(3)同型のホスフィン多座配位子を有するPd(II)錯体との触媒活性の比較 熱力学的に安定なホスフィンPd(II)錯体も、しばしば炭素―炭素カップリング反応に用いられる。そこで、実施例のPd(0)錯体([Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)])のHeck反応に対する触媒活性を、pp3S4と同じ炭素骨格を有する多座ホスフィン配位子pp3(式(20))を有する比較例2のPd(II)錯体([PdCl(pp3)]Cl)と比較する実験を行った。反応条件は前述のHeck反応と同様とし、同様の方法で収率の経時変化を測定した。ただし、Pd(II)錯体を用いた場合は、Pd(0)触媒活性種の生成を促すためにN2雰囲気下で反応を行った。 図3は、Heck反応における収率の経時変化を示すグラフである。図3に示されるように、実施例は比較例2に比べて、明らかに触媒活性の向上が認められた。一般に、Pd(II)錯体においては前還元過程を経由してPd(0)触媒活性種が生成すると考えられている。これに対して、実施例の[Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)]の場合、全てのPd(0)錯体が触媒として作用できるため、触媒活性種の濃度が高い。この触媒活性種濃度の違いが、高い触媒活性の一因であると考えられる。4.カルコゲン原子の転移反応 DMF中で[Pd(0)(PPh3)4]が酸化されてトリフェニルホスフィンオキシドが生成した溶液にpp3S4を加えて、pp3S4を配位子とするパラジウム錯体を生成させた。この溶液にホスフィンオキシド基に対して過剰量の硫黄を加え、これを室温、嫌気下でトリフェニルホスフィンオキシドと反応させた。 31P NMRスペクトルから、反応後の溶液中にトリフェニルホスフィンスルフィドが生成していることが確認された。すなわち、下記反応式(S2−b)のように、ホスフィンオキシド基中の酸素原子が、Pd(0)存在下では室温で硫黄原子に置換されることが新たに明らかとなった。 更に、別途合成したトリ(トリル)ホスフィンスルフィド(S=P(tol)3)と[Pd(0)(PPh3)4]とをDMFに溶解し、室温、嫌気下で反応させた。31P NMRスペクトルから、反応後の溶液中にトリフェニルホスフィンスルフィドが生成していることが確認された。このことから、下記反応式(S3−a)のように、ホスフィン上での硫黄原子の転移反応が室温で進行していることが確認された。5.パラジウム錯体の再生反応 [Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)]のpp3S4の一部が部分的に酸化された部分酸化パラジウム錯体を準備した。部分酸化パラジウム錯体中のpp3S4においては、ホスフィンスルフィド基の一部が酸化によりホスフィンオキシド基に変換され、例えば下記化学式(1a−2)で表される構造に変化していると考えられる。 この部分酸化パラジウム錯体0.040g(0.035mmol)のDMF溶液1mLに、硫黄を大過剰(2.2g,70mmol)添加して5時間還流した。図4の(a)は硫黄添加前、(b)は硫黄添加して5時間還流後の31P NMRスペクトルである。図4中、a1及びa2はホスフィンスルフィド基のリン原子に由来するシグナルであり、b1及びb2はホスフィンオキシド基のリン原子に由来するシグナルである。図4の(a)においてはシグナルb1,b2が認められたのに対して、硫黄との反応後、(b)に示されるようにこれらシグナルは消失した。すなわち、部分酸化パラジウム錯体中のホスフィンオキシド基の実質的に全てが、ホスフィンスルフィド基として再生したことが確認された。この溶液を冷却し、析出した硫黄を濾去すれば、純度の高い[Pd(0)(pp3S4)(dibenzyl)]が回収される。これを触媒として再利用することが可能である。 Pd(0)と、 下記一般式(10)で表されるホスフィンカルコゲニド基を有するホスフィンカルコゲニド化合物を含む配位子と、を有するパラジウム錯体であって、 前記ホスフィンカルコゲニド化合物が、下記一般式(1)、(2)又は(3)で表される化合物である、パラジウム錯体。[式中、Xは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子を示す。][式(1)、(2)及び(3)中、R1は1価の有機基を示し、R2は2価の有機基を示し、R3は水素原子又は1価の有機基を示し、Xは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子を示し、同一分子中の複数のR1、R2及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。] Pd(0)を有するパラジウム錯体と、下記一般式(10)で表されるホスフィンカルコゲニド基を有するホスフィンカルコゲニド化合物とが溶解している溶液中で、前記パラジウム錯体が有する配位子の少なくとも一部を前記ホスフィンカルコゲニド化合物に配位子交換する工程を備えるパラジウム錯体の製造方法であって、 前記ホスフィンカルコゲニド化合物が、下記一般式(1)、(2)又は(3)で表される化合物である、製造方法。[式中、Xは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子を示す。][式(1)、(2)及び(3)中、R1は1価の有機基を示し、R2は2価の有機基を示し、R3は水素原子又は1価の有機基を示し、Xは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子を示し、同一分子中の複数のR1、R2及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。] 請求項2記載の製造方法により得られるパラジウム錯体。 請求項1又は3に記載のパラジウム錯体を含有する、炭素−炭素カップリング反応のための触媒。 請求項4記載の触媒の存在下で炭素−炭素カップリング反応を進行させる、反応方法。


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