| タイトル: | 特許公報(B2)_自己乳化型製剤処方の設計方法 |
| 出願番号: | 2007528214 |
| 年次: | 2013 |
| IPC分類: | A61K 9/107 |
酒井 憲一 JP 5250258 特許公報(B2) 20130419 2007528214 20060419 自己乳化型製剤処方の設計方法 中外製薬株式会社 000003311 酒井 憲一 JP 2005122347 20050420 20130731 A61K 9/107 20060101AFI20130711BHJP JPA61K9/107 A61K 9/00−9/72 A61K 47/00−47/48 特表2004−520359(JP,A) 特開平07−126154(JP,A) 特開2003−300870(JP,A) 8 JP2006308678 20060419 WO2006112541 20061026 16 20090417 福井 悟【技術分野】 【0001】 本発明は、難水溶性薬物の自己乳化型製剤の処方を設計する方法に関し、詳しくは、自己乳化型製剤の最適処方を高速でスクリーニングすることを可能とする、自己乳化型製剤処方の設計方法に関する。【背景技術】 【0002】 医薬品の開発においては多数の候補化合物を薬理実験により評価検討し、薬効活性成分(以下「薬物」という)を選定する。これらの薬物の中には難水溶性であるものも少なくない。特に近年では、薬理作用に基づいたハイスループットスクリーニングやコンビナトリアルケミストリーによって有望な薬物を選択するが、これらは難水溶性である場合が多い(Lipinski, C. A., 2000, J. Pharmacol. Toxicol. Methods 44, 235-249:非特許文献1)。難水溶性化合物では吸収性の低下や個体差における吸収性のバラツキが見られる。従って、難水溶性化合物の経口剤の開発においてはその吸収性の向上や、バラツキの低減が重要な課題となる。 【0003】 これらの吸収性の課題を解決する製剤技術として、薬物、油、親水性界面活性剤、親油性界面活性剤、吸収促進剤、補助溶媒等から構成される自己乳化型ドラックデリバリーシステム(Self-Emulsifying Drug Delivery System、以下「SEDDS」という)が知られている。SEDDSは、上記構成要素を水が含まれない状態で均一に混合し、溶解または分散して調製した製剤である。SEDDSは、投与後は消化管内で水分に溶解、分散して微細なエマルジョンを形成することで、難水溶性薬物の吸収性を向上し、個体差による吸収性のバラツキを改善する。 【0004】 SEDDS処方の設計において、薬物、油、親水性界面活性剤、親油性界面活性剤、吸収促進剤、補助溶媒等の各構成要素の種類と比率により、エマルジョンの生成状態、安定性が非連続的に変化するため理論的に設計する手法は知られていない。このため、良好で安定したエマルジョンを形成する処方を見出すためには各構成要素の種類と比率をさまざまに変えた処方を多数作成し試行錯誤によりスクリーニングを行う必要があった。 【0005】 また、SEDDS処方の主要な構成成分である油、親水性界面活性剤、親油性界面活性剤は、一般に、常温で粘稠な液体、或いは、半固形又は固形である。このため、少量の検討用処方の調製は手作業で行わざるを得なかったが、その場合でも計量、混合操作は著しく困難であり、スループットに問題があった。また、医薬品の開発早期においては、処方検討に使用できる薬物量に限りがあるという問題があった。そのため、使用する各構成要素の種類を経験的に限定し、限られた処方数で評価していた。また、種類を絞らない場合は、検討する処方が飛躍的に多くなり、検討期間の長期化、人的労力や使用薬物量の増大などが問題となっている。 【0006】 従って、少ない薬物量で、迅速で且つ効率的なSEDDSの処方スクリーニングの実現が求められている。 【0007】 化学、生化学分野では少量で多種類の試料を自動化された調製分析測定システムで大量高速処理するハイスループットなLAS(Laboratory Automation System)技術が普及している。LASでは自動化されたピペットとマイクロプレートとで試料を取り扱うことにより、多検体を少量かつ迅速に処理することを可能にしている。この技術をSEDDSの処方スクリーニングに応用することにより、多数の処方を少量の化合物量で迅速にスクリーニングするハイスループットフォーミュレーションスクリーニング(High Throughput Formulation Screening、以下「HTFS」という)が可能であると考えられた。 【0008】 しかしながら、SEDDSの構成成分である油、親水性界面活性剤、親油性界面活性剤などは、一般に、常温で粘稠な液体、或いは、半固体状又は固体状であるためにピペットによる分注およびその後の混和が難しく、HTFS化することはできなかった。 【0009】 一方、難水溶性化合物を可溶化するために界面活性剤を用いた最適処方を調製評価する技術として、静注製剤用HTFSシステムが知られている(WO 01/09391:特許文献1;WO 02/43765:特許文献2)。SEDDSにおいては、エマルジョンの状態を正しく評価するためには、水に分散する前に処方内の添加物が均一に混合されていることが必須である。しかしながら、上述の技術では界面活性剤を水で希釈し、水溶液として混合しているため、仮に、この技術をSEDDSに応用する場合、界面活性剤が油に十分に吸着せず、エマルジョンが形成しにくくなり、処方本来の性能を正しく評価できないという問題があった。また、混合後、水を蒸発させる必要があり、水の乾燥速度が遅いために調製の迅速性が損なわれるという問題もあった。 【0010】 エマルジョンの物性を表す指標に粒径や、物理的安定性であるエマルジョンの分離等がある。粒子径を測定する方法として、動的光散乱法(以下「DLS」という)が知られている。しかしながら、DLSはスループットが低いため、コスト性や迅速性に問題があった。また、粒子径を反映するパラメータとして濁度計により濁度を評価する方法も知られているが、スループットが低いため、コスト性や迅速性に問題があった(非特許文献2:Nazzal, S., et al., 2002, Int. J. Pharm. 235, 247-265)。エマルジョンの分離においては、外観を目視で観察する必要がある(非特許文献3:Kawakami., K., et al., 2002, J. Controlled Release 81, 65-74)が、観察者間での判定のバラツキがあることに加え、そのスループットは低く、コスト性や迅速性に問題があった。 【0011】 上記状況に鑑みて、粘稠性液状、半固形状又は固形状の成分を含有するSEDDS処方を、低コストで迅速に調製し評価するHTFSシステムの開発が望まれていた。【特許文献1】WO 01/09391【特許文献2】WO 02/43765【非特許文献1】Lipinski, C. A., 2000, J. Pharmacol. Toxicol. Methods 44, 235-249【非特許文献2】Nazzal, S., et al., 2002, Int. J. Pharm. 235, 247-265【非特許文献3】Kawakami., K., et al., 2002, J. Controlled Release 81, 65-74【発明の開示】 【0012】 本発明者は、上記課題を達成するため鋭意検討を進め、多数のSEDDS処方の評価検討において、少量の試料の分注、混合、測定を連続して高速で行うことができるシステムを開発した。すなわち、本発明は、以下に示す自己乳化型製剤処方の設計方法を提供する。(1)難水溶性薬物の自己乳化型製剤の処方を設計する方法において(a)難水溶性薬物および常温で粘稠性液状、或いは、半固形状又は固形状である該製剤の構成成分を希釈溶媒で溶解して該構成成分を含有する希釈溶液をそれぞれ調製する工程;及び(b)該製剤の構成成分で常温において分注装置で分注可能な構成成分を使用する場合は、希釈溶媒で溶解することなく、或いは、溶解して当該分注可能な構成成分を含有する希釈溶液を調製し、それらの構成成分の種類及び混合量がそれぞれ異なって添加されるように複数の試験容器に分注して複数の被験混合物を調製する工程を含む方法。(2)さらに、(c)得られた複数の被験混合物から前記希釈溶媒を除去する工程;(d)得られた複数の被験混合物に水又は試験液を添加する工程;及び、(e)このようにして得られた複数の被験混合物から形成されるエマルジョンの性状を評価する工程を含む、上記(1)に記載の方法。(3)前記希釈溶媒が、アルコール類である、上記(1)又は(2)に記載の方法。(4)前記希釈溶媒が、炭素数2〜5のアルコールである、上記(3)に記載の方法。(5)前記希釈溶媒が、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール又はこれらの混合物である、上記(4)に記載の方法。(6)前記被験混合物から形成されるエマルジョンの性状評価工程(e)が、そのエマルジョンの粒子径を濁度測定によって評価する工程を含む、上記(2)〜(5)のいずれかに記載の方法。(7)前記被験混合物から形成されるエマルジョンの性状評価工程(e)が、そのエマルジョンの分離安定性を保存処理前後における濁度の変化を測定することによって評価する工程を含む、上記(2)〜(6)のいずれかに記載の方法。(8)前記被験混合物から形成されるエマルジョンの性状評価工程(e)が、そのエマルジョンの分離安定性を遠心分離処理前後における濁度の変化を測定することによって評価する工程を含む、上記(2)〜(7)のいずれかに記載の方法。(9)前記被験混合物から形成されるエマルジョンの性状評価工程による評価結果に基づいて、最適な自己乳化型製剤の処方を決定する工程を含む、上記(2)〜(8)のいずれかに記載の方法。 【0013】 さらに、本発明は、下記エマルジョンの評価方法をも提供する。(10)エマルジョンの粒子径を濁度測定によって評価する工程を含む、エマルジョンの性状を評価する方法。(11)エマルジョンの分離安定性を保存処理前後における濁度の変化を測定することによって評価する工程を含む、エマルジョンの性状を評価する方法。(12)エマルジョンの分離安定性を遠心分離処理前後における濁度の変化を測定することによって評価する工程を含む、エマルジョンの性状を評価する方法。 【0014】 SEDDSの処方設計においては、エマルジョンの生成状態、安定性が非連続的に変化するため多数の処方を作成、評価するといった試行錯誤によるスクリーニングが求められるが、本発明によれば、このような処方設計を、LAS(Laboratory Automation System)の簡便性や迅速性を活用したHTFS(High Throughput Formulation Screening)が可能となる。したがって、本発明の好適な態様によれば、少量の薬物使用量で、低コスト且つ迅速に、多処方の製剤を調製し、評価する方法を提供することができる。また、本発明のエマルジョン評価方法によれば、従来の評価方法より、迅速かつ的確に評価することができるという利点がある。【図面の簡単な説明】 【0015】 図1は、得られた試料の濁度の測定結果を示す。 図2は、得られた試料における、遠心分離後の濁度変化の測定結果を示す。 図3は、得られた試料における、25℃、48時間保存後の濁度変化を示す。【発明を実施するための最良の形態】 【0016】 まず、本発明は、難水溶性薬物の自己乳化型製剤の処方を設計する方法において、(a)難水溶性薬物および常温で粘稠性液状、或いは、半固形状又は固形状である該製剤の構成成分を希釈溶媒で溶解して該構成成分を含有する希釈溶液をそれぞれ調製する工程;及び(b)該製剤の構成成分で常温において分注装置で分注可能な構成成分を使用する場合は、希釈溶媒で溶解することなく、或いは、溶解して当該分注可能な構成成分を含有する希釈溶液を調製し、それらの構成成分の種類及び混合量がそれぞれ異なって添加されるように複数の試験容器に分注して複数の被験混合物を調製する工程を含む方法を提供する。本発明の好ましい態様は、さらに、(c)得られた複数の被験混合物から前記希釈溶媒を除去する工程;(d)得られた複数の被験混合物に水又は試験液を添加する工程;及び、(e)このようにして得られた複数の被験混合物から形成されるエマルジョンの性状を評価する工程を含む。 【0017】 本明細書中、「自己乳化型製剤」とは、難水溶性薬物、油、親水性界面活性剤、親油性界面活性剤、吸収促進剤、補助溶媒等から構成される自己乳化型ドラックデリバリーシステム(Self-Emulsifying Drug Delivery System、SEDDS)のことをいう(Gursoy,N.R.,et al.,2004,Biomedicine & Pharmacotherapy 58,173-182等参照)。本発明の方法は、上記(a)〜(e)の一連の工程を自動化することが可能なので、従来法に比較して高速かつ的確に、自己乳化型製剤の処方を最適化できるという利点を有する。 【0018】 以下、本発明の各工程を説明する。1.希釈溶液調製工程(a) 希釈溶液調製工程(a)においては、常温で粘稠性液状、或いは、半固形状又は固形状である構成成分を希釈溶媒で溶解して該構成成分を含有する希釈溶液を調製する。ここでいう、「常温で粘稠性液状、或いは、半固形状又は固形状である構成成分」とは、自己乳化型製剤に添加される構成成分であって、希釈溶媒による希釈なしにはピペットなどの分注装置(器具)によって分注できないような物質をいう。また、「常温において分注装置で分注可能な構成成分」とは、自己乳化型製剤に添加される構成成分であって、希釈溶媒で特に希釈しなくとも分注装置で分注できるような物質をいう。 【0019】 自己乳化型製剤に添加される構成成分としては、例えば、難水溶性薬物(活性成分)、油、親油性界面活性剤、親水性界面活性剤、吸収促進剤、補助溶媒等が挙げられる。本発明においては、SEDDSの主要構成成分である、活性成分、油、親油性界面活性剤及び親水性界面活性剤のいずれか一以上が、常温で粘稠性液状、或いは、半固形状又は固形状である場合に、そのような成分を低級アルコール等の希釈溶媒で希釈することにより、分注操作を可能にし、ひいては自動化を可能としているのである。したがって、希釈溶媒によって希釈する成分は、上記成分の一つに限定されることはなく、二以上であっても、全ての構成成分であってもよい。また、本明細書中、「希釈」とは、使用する分注装置(器具)などによって分注できる程度に溶解し、あるいは、粘度を低下させることをいう。したがって、ピペットなどによって分注可能であれば、それらの構成成分が完全に希釈溶媒中に溶解している必要はない。希釈溶液を調製する際に、必要に応じて、希釈する成分及び/又は希釈溶媒を加熱することもできる。 【0020】 本発明において用いられる「希釈溶媒」は、粘稠性液状、半固形状又は固形状である成分(SEDDS成分)を、分注可能な程度に可溶化できるものであれば特に限定されない。そのような希釈溶媒としては、例えば、アルコール類(エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール)、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム及びこれらの混合物などが挙げられる。好ましい希釈溶媒は、油と界面活性剤の混和を妨げずに、水を溶媒として用いたときに見られるエマルジョン形成不良という問題を起こさないような溶媒である。 【0021】 このような性状を考慮すると、希釈溶媒としては、水よりも極性が小さい低級アルコールが好ましい。ここで、「低級アルコール」とは、直鎖または分岐鎖の炭素数2〜5のアルコールをいい、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノールなどが例示される。これらの低級アルコール中で、より好ましい溶媒はメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール及びこれらの混合物である。これらはSEDDSで用いる添加剤の溶解性に優れているばかりでなく、低沸点であり、調製後の溶媒除去に優れている。また、希釈溶媒は必要に応じて乾燥除去するが、低級アルコールは、水に比較して、容易かつ迅速に乾燥除去できるという利点もある。 【0022】 なお、本発明においては、通常、低級アルコール等の希釈溶媒は蒸発除去するが、わずかに残留する場合がある。従って、スクリーニングの結果、低級アルコールが残留した処方を選択してしまう可能性がある。しかしながら、仮に残留した希釈溶媒が必要な要素であると判断された場合であっても、エタノールが希釈溶媒として用いられていれば、実際の製剤中に安全性の高い添加剤として容易に組み込むことができるため、開発上、大きな問題になる可能性は低い。従って、希釈溶媒として、C2−C5の低級アルコールの中で、特に、エタノールを用いることが好ましい。 【0023】 なお、上記希釈溶媒の添加量は、対象となる構成成分をピペットなどで分注可能な程度に希釈できる限り特に制限されることはない。希釈溶媒は、例えば、対象構成成分が5〜80w/w%、より具体的には25〜60w/w%の濃度となるように添加される。 【0024】2.油及び界面活性剤の混合工程(b) 次いで、工程(b)においては、前記希釈溶液に含まれる構成成分と、その構成成分以外の成分を、それらの成分の種類及び混合量がそれぞれ異なって添加されるように複数の試験容器に分注して複数の被験混合物を調製する。 前述の通り、SEDDSの処方には、通常、油(O)、親水性界面活性剤(S)、親油性界面活性剤(CoS)、必要に応じて、任意に吸収促進剤、補助溶媒などが添加される。 ここで用いられる油(脂質)としては、特に限定されないが、例えば、脂肪酸エステル、具体的には、モノカプリル酸プロピレングリコール(NIKKOL Sefsol-218、日光ケミカルズ株式会社、以下「Sefsol-218」という)、ジカプリル酸プロピレングリコール(NIKKOL Sefsol-228、日光ケミカルズ株式会社、以下「Sefsol-228」という)、トリアセチン、オリブ油、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマシ油、ヤシ油、ユーカリ油などの油脂;Miglyol 812;トリカプリリン、トリラウリンなどのトリグリセリド;テトラグリセリンポリリシノレート、ヘキサグリセリンポリリシノレート、縮合ポリリシノレート、テトラグリセリン混合脂肪酸エステルなどのポリグリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。これら油の中で、例えば、「Sefsol-218」「Sefsol-228」やMiglyol 812、或いは、トリカプリリン、トリラウリンなどのトリグリセリドは、特に希釈溶媒で希釈することなく分注可能な物質として挙げることができる。 【0025】 ここで用いられる親水性界面活性剤(HLB値(hydrophile-lipophile balance)が9.0以上)としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ラウレス2;BL-2、ラウレス4.2;BL-4.2、ラウレス9;BL-9)、モノヤシ油脂肪酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(NIKKOL TL-10、日光ケミカルズ株式会社、以下「Polysorbate 20」という)、Polysorbate 40、Polysorbate 80、Labrasol、コハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000(Vitamin E TPGS NF、EASTMAN Chemical 社、以下「TPGS NF」という)、ラウロイルポリオキシエチレングリセリン(Gelucire 44/14、Gattefosse社)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40 (HCO-40)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO-60)、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどを例示することができる。 【0026】 ここで用いられる親油性界面活性剤(HLB値が0〜9.0未満)としては、特に限定されないが、例えば、モノオレイン酸ソルビタン(NIKKOL SO-10V、日光ケミカルズ株式会社、以下「SO-10」という)、モノカプリル酸プロピレングリコール(CAPRYOL 90、Gattefosse社、以下「Capryol 90」という)、モノラウリン酸プロピレングリコール(LAUROGLYCOL 90、Gattefosse社、以下「Lauroglycol 90」という)、ラウリン酸プロピレングリコール(LAUROGLYCOL FCC、Gattefosse社、以下「Lauroglycol FCC」という)、ポリオキシエチレン(3)ヒマシ油(NIKKOL CO-3、日光ケミカルズ株式会社、以下「CO-3」という)、ポリオキシエチレン(10)ヒマシ油(NIKKOL CO-10、日光ケミカルズ株式会社、以下「CO-10」という)、ペンタオレイン酸デカグリセリル(NIKKOL Decaglyn 5-OV、日光ケミカルズ株式会社、以下「Decaglyn 5-O」という)、モノオレイン酸ジグリセリル(NIKKOL DGMO-CV、日光ケミカルズ株式会社、以下「DGMO-C」という)、ジオレイン酸ヘキサグリセリル(PLUROL OLEIQUE 497、Gattefosse社、以下「Plurol oleique 497」という)、オレイン酸ポリオキシエチレングリセリン(6)(LABRAFIL M 1944 CS、Gattefosse社、以下「Labrafil 1944」という)、リノレン酸ポリオキシエチレングリセリン(6)(LABRAFIL M 2125 CS、Gattefosse社、以下「Labrafil 2125」という)等を例示することができる。 【0027】 SEDDS処方を調製する場合は、上記構成成分以外に、例えば、サリチル酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレントリアミン5酢酸、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N,N-ジメチルアセトアミド等の補助溶媒などを配合することができる。補助溶媒として、例えば、プロピレングリコールやポリエチレングリコールなどを使用するときは、希釈溶媒で希釈するのが好ましい。 【0028】 本発明で用いることができる他の油、界面活性剤、添加剤は、公知の文献、参考書などを参照することができる(第十三改正日本薬局方; 日本薬局方外医薬品規格1997; 医薬品添加物規格1998; 食品添加物公定書第七版; 化粧品原料基準新訂版; 化粧品種別配合成分規格; 医薬部外品原料規格; United States Pharmacopeia 24; British Pharmacopeia 2000; European Pharmacopeia 2000; National Formulary 19等参照)。 【0029】 上記SEDDS処方の構成成分のうち、分注のために希釈溶媒によって希釈が必要な成分については、上記工程(a)の方法に基づいて希釈溶液を調製し、分注装置(器具)によって複数の試験容器に分注する。SEDDS処方の他の構成成分で希釈せずに分注可能なものはそのまま、あるいは必要に応じて希釈溶媒で希釈してから、分注装置(器具)によって複数の試験容器に分注する。各成分の分注の順番は、SEDDS処方の調製が可能であれば、特に限定されないが、通常は、(1)活性成分、(2)油、(3)親水性界面活性剤、(4)親油性界面活性剤、の順で各試験容器に分注する。分注装置(器具)としては、ピペット、LASのピペット等が挙げられる。ここで用いられる試験容器としては、試験管、複数の被験物質を収容することができるプレート(例えば、96ウェルプレート、384ウェルプレート)などが挙げられる。本発明においては、好ましくは、市販のLASを用いることが可能で、例えば、GENESIS Workstation 200(TECAN社製)、MultiPROBE II plus(Perkin Elmer社製)等を用いることができる。このようなLASを用いることにより、少量の試料で、同時に多処方の分注を自動的に行うことが可能となる。なお、各成分が同種の希釈溶媒(例えば、低級アルコール)で希釈されている場合は、それら分注された複数の成分をより容易に混和することができる。また、LASによれば、低容量の分注が可能なため、それに伴い、使用する薬物量も少量で抑えることができる。 上記各構成成分は、適当な異なる比率となるように調整して各試験容器に分注する。そのような比率として、例えば、S:CoS=10:0〜6:4、(S+CoS):O=10:0〜6:4などの範囲などを選定することができる。これらの成分を添加した後は、適当な手段で適当な時間撹拌する(例えば、500〜2000rpmで20秒〜1分)。なお、本発明によれば、上記のようにして調製される各構成成分を含有する希釈溶液などを含む、SEDDS処方用スクリーニングキットを提供することもできる。 【0030】3.希釈溶媒を除去する工程(c) 本発明の方法においては、通常、工程(a)で加えられた希釈溶媒は除去される。このような希釈溶媒の除去は、特に限定されないが、通常は、減圧下で乾燥することによって行われる。希釈溶媒としてエタノールを使用する場合は、例えば、室温〜40℃で、減圧下、4〜10時間(例えば1晩)程度乾燥することによって除去が可能である。このようにして、希釈溶媒を各試験容器に収容された各被験混合物から除去することによって、複数のエマルジョン製剤の候補処方を調製することができる。このようにして得られたエマルジョン製剤の候補処方は、次工程において、自己乳化型製剤として適当な処方であるか評価されることになる。 【0031】4.水を添加する工程(d) 自己乳化型製剤は、上述したように、上記構成要素が、水を含まない状態で均一に混合、溶解または分散された製剤であり、投与後は消化管内で水、胃液、これらの混合物などに溶解、分散して微細なエマルジョンを形成するように設計されている。したがって、上記のようにして調製されたエマルジョン製剤の候補処方が適当なものであるか評価するために、まず、水又は試験液を添加してエマルジョンを形成する。ここで、「試験液」は、SEDDSの自己乳化し得る液体のことを意味し、例えば、人工胃液(例えば、第14改正日本薬局法記載の試験液第一液(JP1)、第二液(JP2)等)、人工胃液を水で希釈した液などが用いられる。水又は試験液の添加量は、各成分の種類・量に応じて適宜変更されるが、例えば、各試験容器に、被験混合物に対し、5〜20倍量の水又は試験液を添加する。水又は試験液を添加後、通常、エマルジョンを形成するために撹拌する。撹拌は、これに限定されないが、例えば、500〜2000rpmで20秒〜1分程度実施する。 【0032】5.得られたエマルジョン製剤処方の評価工程(e) 次いで、本発明においては、上記のようにして形成されたエマルジョンの性状を評価する。エマルジョンの物性を表す指標に粒径や、物理的安定性であるエマルジョンの分離等があるので、通常は、これらの性状を評価する。そのような性状を評価する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、粒子径を測定する方法として、動的光散乱法(以下「DLS」という)を用いることができる。また、粒子径を反映するパラメータとして濁度計により濁度を評価する方法も用いることができる。 しかしながら、本発明者は、SEDDSにより形成されるエマルジョンの粒子径を、マイクロプレート用吸光度計を用いた濁度の測定により迅速に評価できることを見出した。また、本発明者は、SEDDSの分離安定性を、濁度の変化により評価できることを見出した。 したがって、本発明の好ましい態様においては、エマルジョンの評価方法として、(e-1)濁度測定によって、そのエマルジョンの粒子径を評価する方法;(e-2)保存処理前後における濁度の変化を測定することにより、そのエマルジョンの分離安定性を評価する方法;及び/又は(e-3)遠心分離処理前後における濁度の変化を測定することにより、そのエマルジョンの分離安定性を評価する方法を用いることができる。 【0033】 本発明のさらなる好ましい態様によれば、(e−1)〜(e−3)の二以上の評価方法を組合わせて評価を実施し、その結果に基づいて、最適な製剤処方を決定する。 【0034】 以下、(e−1)〜(e−3)の評価方法を説明する。e−1:濁度測定による粒子径の評価方法 一般的に、SEDDS水溶液の外観は、エマルジョンの粒子径に基づいて変化することが知られており、その外観の状態は、大きく3つの状態に分類できる。すなわち、(1)約150nm以下のエマルジョンが形成されることによる、外観が澄明な状態(マイクロエマルジョン、以下「ME」という;200μl/ウェルで濁度が0.3未満)、(2)エマルジョンがMEよりも大きくなることにより、あるいは、その大きくなったエマルジョンとMEが混在して形成されることにより、外観が透明ではあるが白みを帯びる状態(ホワイティッシュマイクロエマルジョン、以下「WME」という;200μl/ウェルで濁度が0.3〜1)、(3)1μmオーダーのエマルジョンが形成されることによる、外観が不透明な白濁した状態(マクロエマルジョン、以下「MacE」という;200μl/ウェルで濁度が1を超える)となる。上述のように、エマルジョンは粒子径によって、外観が大きく変化するため、濁度を測定することにより、容易に粒子径を評価することができる。また、マイクロプレート用吸光度計(例えば、SpectraMax 190、Molecular Devices株式会社)を用いることにより、低容量の試料で測定できるので、低コスト且つ迅速な評価が可能となる。従って、このような本発明の粒子径評価法によれば、少量の薬物使用量で、低コスト且つ迅速に、多処方のSEDDSの粒子径を評価することができる。e−2及びe−3:濁度の変化による分離安定性の評価方法 本発明の濁度の変化による分離安定性の評価方法においては、エマルジョンの保存処理前後における濁度の変化、あるいは、エマルジョンの遠心分離処理前後における濁度の変化を測定することにより、そのエマルジョンの分離安定性を評価する。例えば、上記のようにして調製されたエマルジョンを、1℃以上40℃以下の条件で6時間以上72時間以下で保存し、その前後の濁度の変化を評価することで、SEDDSの分離の有無を評価することが可能となる。 【0035】 また、より厳しい条件かつ短時間で評価するために調製されたエマルジョンの遠心分離処理を行うこともできる。この場合は、例えば、1500〜2000rpmの条件で遠心分離を行いその前後で濁度の変化を測定する。この場合は、経時的なエマルジョン内の粒子同士の凝集により粒子径が増大するが、遠心分離処理により、径が増大した粒子を分離させ、これを濁度により的確、迅速に評価できる。また、分離した状態として、(1)クリーム層と透明層に分離するケース、(2)透明層と透明層に分離するケースがあるが、このような分離も濁度により評価することができる。また、場合によっては薬物の析出や、処方成分同士の配合変化に伴う不溶物の発生も検出することができる。上述のように、濁度は低容量の試料で、低コスト且つ迅速に評価できるという利点がある。 【0036】 以上の工程(a)〜(e)を組合わせた本発明の方法によれば、エマルジョンの生成状態、安定性が非連続的に変化するため多数の処方を作成、評価する試行錯誤によりスクリーニングする必要があるSEDDSの処方設計において、LASを用いて、その簡便性、迅速性を著しく向上させるHTFSを完成させ、少量の薬物使用量で、低コスト且つ迅速に、多処方の分離安定性を評価することができる。【実施例】 【0037】 以下、本発明の実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。比較例1:希釈溶媒を用いなかった場合の試料調製SEDDS処方を調製するための界面活性剤として、ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油(NIKKOL HCO-40(医薬用)、日光ケミカルズ株式会社、以下「HCO-40」という)を、油として、中鎖脂肪酸グリセリド(ODO-C、日清オイリオグループ株式会社、以下「MCT」という)を使用した。処方は表1に記載した。 【0038】【表1】 【0039】 HCO-40は、加熱融解しても、粘稠であるため、ピペットによる分注ができなかった。そこで、加熱融解した後、300μLに相当する重量を測りとった。そこにMCT 150μLを分注した後、撹拌した。HCO-40が粘稠であるため、均一に混和することが困難であった。そこで、スパーテルで混和した。最後に2400μLの水を加え、試料1とした。比較例2:希釈溶媒に水を用いた場合の試料調製 HCO-40を加熱融解した後、水に50 w/w%となるように溶解した。しかし、この溶液はゲル化し、極度に粘稠な状態になったため、分注することは出来なかった。 そこで、ピペットにより分注できたと仮定して、バイアルに直接HCO-40 300μLに相当する重量を測りとった。そこに、水を300μL分注した後、攪拌した。続いて、MCT150μLを分注したが、HCO-40水溶液はゲル化していたため、均一に攪拌することは困難であった。そこで、スパーテルで強制的に撹拌し、その後、真空乾燥機にて12時間乾燥させ、そこに2400μLの水を加え、試料2とした。 【0041】実施例1:希釈溶媒にエタノールを用いた場合の試料調製 HCO-40を加熱融解した後、エタノールに50 w/w%となるように溶解した。これを600μL(HCO-40として300μL)と、MCT150μLとをピペットを用いてバイアル瓶に分注した。均一化のため撹拌した。その後、真空乾燥機にて12時間乾燥させ、そこに2400μLの水を加え、試料3とした。 【0042】(試験例1)希釈溶媒が及ぼす試料調製の煩雑性への影響評価 比較例1で記載したように、希釈溶媒を用いない場合は、HCO-40のピペットによる分注ができなかった。また、希釈溶媒に水を用いた比較例2の場合でも、HCO-40のピペットによる分注は困難であった。また、比較例1、2では、HCO-40とMCTとを均一に混和することが難しかった。しかしながら、実施例1で記載したように、希釈溶媒にエタノールを用いた場合は、HCO-40のピペットによる分注が可能であり、容易且つ迅速に分注できた。また、MCTとも容易に且つ迅速に混和していた。 【0043】(試験例2)エマルジョンに及ぼす希釈溶媒の影響評価比較例1、比較例2、実施例1の試料1〜3の外観を目視で観測した。また、同3試料をマイクロプレートに200μLに分注し、吸光度計(SpectraMax 190、Molecular Devices株式会社)にて650 nmでの濁度を測定した。希釈溶媒を用いていない試料1をコントロールとした。結果を表2Aに示した。 【0044】 【表2A】 【0045】 表中、ME(マイクロエマルジョン)は、約150nm以下のエマルジョンが形成されることによる外観が澄明な状態を示す。WME(ホワイティッシュマイクロエマルジョン)は、エマルジョンがMEよりも大きくなることにより、あるいは、その大きくなったエマルジョンとMEが混在して形成されることにより、外観が透明ではあるが白みを帯びる状態を示す。また、MacE(マクロエマルジョン)は、1μmオーダーのエマルジョンが形成されることによる、外観が不透明な白濁した状態を示す。 【0046】 希釈溶媒に水を用いた試料2の外観は、希釈溶媒を用いていない試料1(透明、ME)に比べると、透明ではあるものの白色化しており、WMEとなっていた。ところが、希釈溶媒にエタノールを用いた試料3は、試料1と同様に、透明且つMEであった。また、試料2の濁度(0.23)は、試料1(0.04)と大きく異なっており、粒子径が大きくなっていることが示唆されたが、試料3(0.02)では、試料1とほぼ同等の濁度であった。従って、エマルジョンの本来の物性を正しく反映できる希釈溶媒は、水よりもエタノールの方が好ましいことがわかった。 【0047】比較例3 試料2と同様に、希釈溶媒として水を用い、乾燥処理は行わない試料を以下のように調製した。すなわち、HCO-40を加熱融解した後、バイアルに直接HCO-40 300μLに相当する重量を測りとった。そこに、水を300μL分注した後、攪拌した。続いて、MCT150μLを分注し、スパーテルにて混和させ、そこに2400μLの水を加え、試料4とした。 【0048】実施例2 試料3と同様に、希釈溶媒としてエタノールを用い、乾燥処理は行わない試料を、以下のように調製した。HCO-40を加熱融解した後、エタノールに50 w/w%となるように溶解した。これを600 μL(HCO-40として300μL)と、MCT150μLとをピペットを用いてバイアル瓶に分注した。均一化のため撹拌した。そこに2400μLの水を加え、試料5とした。 【0049】(試験例3)残留溶媒が及ぼすエマルジョンへの影響評価残留溶媒の影響を顕著化するために、乾燥処理を行ない試料4と5を調製した。比較例1、比較例3、実施例2の試料1、4、5の外観を目視で観測した。また、同3試料をマイクロプレートに200μLに分注し、吸光度計(SpectraMax 190、Molecular Devices株式会社)にて650 nmでの濁度を測定した。希釈溶媒を用いていない試料1をコントロールとした。結果を表2Bに示した。 【0050】 【表2B】 【0051】 水を用いた場合の試料4は、外観が白濁化し、MacEを形成し、濁度も2.32と、試料1とは大きく異なるエマルジョンを形成していた。一方、エタノールを用いた場合の試料5は、試料1と同様に、外観は透明で、MEを形成し、濁度も0.02と、ほぼ試料1と同様であった。従って、エマルジョンの本来の物性を正しく反映できる希釈溶媒は、水よりもエタノールの方が好ましいことがわかった。 【0052】実施例3:分注精度 エタノールで50w/w%に希釈した界面活性剤を用い、LAS(GENESIS Workstation 200、TECAN社)における分注精度を評価した。分注体積の設定値を200μLとした。 界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル(NIKKOL BL-2、日光ケミカルズ株式会社、以下「BL-2」という); ポリオキシエチレン(4.2)ラウリルエーテル(NIKKOL BL-4.2、日光ケミカルズ株式会社、以下「BL-4.2」という); ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル(NIKKOL BL-9EX、日光ケミカルズ株式会社、以下「BL-9」という); モノパルミチン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(NIKKOL TP-10V、日光ケミカルズ株式会社、以下「Polysorbate 40」という); モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(NIKKOL TO-10MV、日光ケミカルズ株式会社、以下「Polysorbate 80」という); カプリル酸・カプリン酸ポリオキシエチレン(8)グリセリン(LABRASOL、Gattefosse社、以下「Labrasol」という); HCO-40を用いた。 分注された界面活性剤溶液の重量と密度から、分注した体積を算出し、その結果を表3に示した。 【0053】 【表3】 【0054】 表3から明らかなように、いずれの溶液においても、RSD(相対標準偏差)が0.03以下を示しており、精度よく分注できることがわかった。従って、エタノールを希釈溶媒として用いることにより、種々の界面活性剤を、ピペットで分注できるようになった。 【0055】実施例4:HTFSの実施 下記に示す油と界面活性剤を、LAS(GENESIS Workstation 200、TECAN社)を用いて、96ウェルプレートに分注した。界面活性剤は50v/v%のエタノール溶液として用いた。親水性界面活性剤(以下「S」という)と、親油性界面活性剤(以下「CoS」という)とを、S:CoS=10:0、9:1、8:2、7:3、6:4の割合で混和した。混和された界面活性剤に、油(以下「O」という)を、(S+CoS):O=10:0、9:1、8:2、7:3、6:4の割合で混和した(HCO-60は、5:5、4:6、3:7、2:8、1:9まで調製した)。油と界面活性剤は、SEDDSとして合計50 μLになるように分注した。モデル化合物として、ニルバジピン(金剛薬品株式会社、以下「Nil」という)を用いた。 【0056】 薬物は、粉末として直接分注することができないため、5 mg/mLのエタノール溶液に調製し、Nilが1mLのSEDDS中に、4 mg/mLとなるように添加した。薬物、油、親水性界面活性剤、親油性界面活性剤の混和物を、均一化するため、攪拌した。その後、一晩(12時間以上)真空乾燥し、希釈溶媒のエタノールを蒸発させた。乾燥後の混合物に蒸留水450μLを加え、攪拌したものを試料とした。(使用した油) 油として、モノカプリル酸プロピレングリコール(NIKKOL Sefsol-218、日光ケミカルズ株式会社、以下「Sefsol-218」という)を用いた。(使用した親水性界面活性剤) 親水性界面活性剤として、BL-2、BL-4.2、BL-9、モノヤシ油脂肪酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(NIKKOL TL-10、日光ケミカルズ株式会社、以下「Polysorbate 20」という)、Polysorbate 40、Polysorbate 80、Labrasol、コハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000(Vitamin E TPGS NF、EASTMAN Chemical 社、以下「TPGS NF」という)、ラウロイルポリオキシエチレングリセリン(Gelucire 44/14、Gattefosse社)、HCO-40、HCO-60を用いた。(使用した親油性界面活性剤) 親油性界面活性剤として、モノオレイン酸ソルビタン(NIKKOL SO-10V、日光ケミカルズ株式会社、以下「SO-10」という)、モノカプリル酸プロピレングリコール(CAPRYOL 90、Gattefosse社、以下「Capryol 90」という)、モノラウリン酸プロピレングリコール(LAUROGLYCOL 90、Gattefosse社、以下「Lauroglycol 90」という)、ラウリン酸プロピレングリコール(LAUROGLYCOL FCC、Gattefosse社、以下「Lauroglycol FCC」という)、ポリオキシエチレン(3)ヒマシ油(NIKKOL CO-3、日光ケミカルズ株式会社、以下「CO-3」という)、ポリオキシエチレン(10)ヒマシ油(NIKKOL CO-10、日光ケミカルズ株式会社、以下「CO-10」という)、ペンタオレイン酸デカグリセリル(NIKKOL Decaglyn 5-OV、日光ケミカルズ株式会社、以下「Decaglyn 5-O」という)、モノオレイン酸ジグリセリル(NIKKOL DGMO-CV、日光ケミカルズ株式会社、以下「DGMO-C」という)、ジオレイン酸ヘキサグリセリル(PLUROL OLEIQUE 497、Gattefosse社、以下「Plurol oleique 497」という)、オレイン酸ポリオキシエチレングリセリン(6)(LABRAFIL M 1944 CS、Gattefosse社、以下「Labrafil 1944」という)、リノレン酸ポリオキシエチレングリセリン(6)(LABRAFIL M 2125 CS、Gattefosse社、以下「Labrafil 2125」という)を用いた。(SEDDSの濁度の測定) 試料をマイクロプレートに200μL分注し、粒子径によるタイプ判別のため、吸光度計(SpectraMax 190、Molecular Devices株式会社)にて650 nmでの濁度を測定した。その結果を図1に示した。濁度が低い処方は、エマルジョンの粒子径が小さいことを意味している。濁度が0.3以下の処方がMEである。(遠心分離後の濁度変化の測定)次いで、上記のプレートを、遠心分離機(LC-120、トミー精工株式会社)を用い500gで10分間、遠心分離を行い、その前後で濁度(650 nm)の変化を求めた。結果を図2に示した。濁度の変化は、SEDDSの油相と水相への分離、薬物の析出などの物理的な変化により生じる。物理的安定性が良好なものとして、濁度の変化が-0.1〜0.1の処方を選択した。(25℃、48時間保存後の濁度変化)上記と同様に、試料200μLを分注した96ウェルプレートを、25℃にて48時間保存し、その前後で濁度(650 nm)の変化を測定した。結果を図3に示した。物理的安定性が良好なものとして、濁度の変化が-0.1〜0.1の処方を選択した。以上のHTFSの結果から、MEで、遠心分離において物理的安定性が良好で、更に、25℃においても物理的安定性が良好な処方として、以下の表4に示す処方を設計することができた。 【0057】 【表4】【産業上の利用可能性】 【0058】 本発明によれば、難溶性の活性成分などを含有するSEDDS処方を、低コストで迅速に調製し評価するHTFSシステムを提供することができる。したがって、本発明によれば、最適なSEDDS処方を迅速に開発することができるという利点を有する。難水溶性薬物の自己乳化型製剤の処方を設計する方法において(a)難水溶性薬物および常温で粘稠性液状、或いは、半固形状又は固形状である該製剤の構成成分をアルコール類で溶解して該構成成分を含有する希釈溶液をそれぞれ調製する工程;及び(b)該製剤の構成成分で常温において分注装置で分注可能な構成成分を使用する場合は、アルコール類で溶解することなく、或いは、溶解して当該分注可能な構成成分を含有する希釈溶液を調製し、それらの構成成分の種類及び混合量がそれぞれ異なって添加されるように複数の試験容器に分注して複数の被験混合物を調製する工程;(c)得られた複数の被験混合物から前記アルコール類を除去する工程;(d)得られた複数の被験混合物に水又は試験液を添加する工程;及び、(e)このようにして得られた複数の被験混合物から形成されるエマルジョンの性状をマイクロプレート用吸光度計により評価する工程を含む方法。 前記構成成分を自動化されたピペットでマイクロプレートに分注することを特徴とする、請求項1に記載の方法。前記アルコール類が、炭素数2〜5のアルコールである、前記請求項1又は2に記載の方法。前記アルコール類が、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール又はこれらの混合物である、前記請求項3に記載の方法。前記被験混合物から形成されるエマルジョンの性状評価工程(e)が、そのエマルジョンの粒子径を濁度測定によって評価する工程を含む、前記請求項1〜4のいずれかに記載の方法。前記被験混合物から形成されるエマルジョンの性状評価工程(e)が、そのエマルジョンの分離安定性を保存処理前後における濁度の変化を測定することによって評価する工程を含む、前記請求項1〜5のいずれかに記載の方法。前記被験混合物から形成されるエマルジョンの性状評価工程(e)が、そのエマルジョンの分離安定性を遠心分離処理前後における濁度の変化を測定することによって評価する工程を含む、前記請求項1〜6のいずれかに記載の方法。前記被験混合物から形成されるエマルジョンの性状評価工程による評価結果に基づいて、最適な自己乳化型製剤の処方を決定する工程を含む、前記請求項1〜7のいずれかに記載の方法。