タイトル: | 特許公報(B2)_表皮細胞分化及び角化促進剤 |
出願番号: | 2007522377 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | A61K 35/20,A61K 35/74,A61P 17/00 |
馬場 秀彦 増山 明弘 吉村 千秋 JP 5160889 特許公報(B2) 20121221 2007522377 20060623 表皮細胞分化及び角化促進剤 カルピス株式会社 000104353 酒井 一 100081514 蔵合 正博 100082692 馬場 秀彦 増山 明弘 吉村 千秋 JP 2005184994 20050624 20130313 A61K 35/20 20060101AFI20130221BHJP A61K 35/74 20060101ALI20130221BHJP A61P 17/00 20060101ALI20130221BHJP JPA61K35/20A61K35/74 GA61P17/00 A61K 35/00 CAPLUS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2002−241289(JP,A) 特開2000−239175(JP,A) 特開2004−501199(JP,A) 特開平11−098978(JP,A) 特許第4680571(JP,B2) Foods & Food Ingredients Journal of Japan,2004年,Vol.209 , No.9,pp.780-792 2 FERM BP-6060 JP2006312578 20060623 WO2006137513 20061228 8 20090304 田村 直寛 本発明は、乾燥肌や荒れ肌、さらには乾癬や乾皮症等の不全角化を伴う各種皮膚疾患群において、表皮細胞の分化を促進することで、表皮の正常な角化を促し、種々の皮膚トラブルを正常化する効果が得られる、経口摂取用の表皮細胞分化及び角化促進剤に関する。 皮膚組織の最外層にある表皮は、外界に直接露出し、各種の物理的、化学的な刺激で容易に傷害を受ける領域である。その為、表皮最深部の基底層で誕生した表皮細胞が外部方向に移行していき、常に新しい細胞に入れ替わっている。これを表皮のターンオーバーと呼び、この過程において表皮細胞は、基底細胞、有棘細胞、顆粒細胞、さらには角質細胞と4段階の分化を経て、最終的には垢となって皮膚表面から脱落していく。通常、基底細胞が角質細胞になる角化までには約14日間、角質細胞が垢となり落屑するまでには約14日間、計4〜6週間かけ、表皮は絶えずターンオーバーを繰り返している。 健全な表皮の角質細胞は約15層に重層化し、角質層を形成している。この角質層は、優れたバリア機能を有し、体内の水分蒸散を防ぐと共に、外来抗原等の異物侵入や外的刺激が体内に伝わることを防ぐなど、生体防御に重要な役割を果たしている。一方、アトピー性皮膚炎や乾皮症、乾癬等の各種皮膚疾患においては、健全な角質層形成が妨げられており、この角質層の形成不全、すなわち不全角化が、皮膚のバリア機能低下をもたらし、水分の蒸散や外来異物の侵入、外的刺激の体内への伝達を容易にし、皮膚の乾燥や各種皮膚疾患の惹起あるいは悪化に結び付いていると考えられている。また、ターンオーバーが乱れ、角化が順調に行われなくなった皮膚では、角質層が厚くなり、皮膚表面のかさつきや、こわばりという肌荒れ状態を引き起こすことから、美容的観点からも表皮の角化異常が問題視されている。 このような皮膚疾患の改善や、健常な皮膚状態を維持するために、ある種の成分を用いることにより、皮膚のトラブルを正常化する方法が提案されている。例えば、特許文献1において、表皮角化促進作用を期待して、ケイ酸関連物質を化粧品等に配合することが提案されている。しかしながら、このような作用を示す成分の探索は、外用を目的とした化粧品や皮膚外用剤分野において行われているものの、飲食品分野で応用可能な有効成分についてはまだ見当たっていない。また、上記皮膚外用剤を飲食品類に利用することも考えられるが、実際に応用した場合に、どのような作用が得られるかについても不明のままである。特許第3227378号 本発明の課題は、経口摂取により皮膚の正常な角化促進作用が得られる表皮細胞分化及び角化促進剤を提供することにある。 本発明によれば、不全角化の改善を要する対象者に経口摂取する剤であって、 ラクトバチルス・ヘルベティカスを含む菌体により乳を発酵させて得た発酵乳ホエーを有効成分として含む、経口摂取用の表皮細胞分化及び角化促進剤が提供される。 本発明の表皮細胞分化及び角化促進剤は、既に経口摂取によりその安全性が確認されている、発酵乳ホエーを有効成分とするので、安全に経口的に優れた表皮角化促進作用を得ることができ、継続的摂取等により季節や気候変化によって生じる不全角化の抑制、または、乾皮症や乾癬といった不全角化を特徴とする各種皮膚疾患の諸症状の改善効果等が期待できる。実施例1で行った分化マーカーのタンパク発現解析結果を示す顕微鏡写真の写しである。実施例1で行ったmRNAレベルでのKeratin10の発現促進効果を示すグラフである。実施例1で行ったmRNAレベルでのInvolucrinの発現促進効果を示すグラフである。実施例1で行った分化マーカー(Keratin10)の発現量の経時変化を示すグラフである。実施例1で行った分化マーカー(Involucrin)の発現量の経時変化を示すグラフである。実施例1で行った細胞傷害性試験の結果を示すグラフである。 以下、本発明を更に詳細に説明する。 本発明の表皮細胞分化及び角化促進剤は、乳酸菌としてラクトバチルス・ヘルベティカスを含む菌体により乳を発酵させて得た発酵乳ホエーを有効成分として含む。 前記乳酸菌としては、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属等に属する乳酸菌が挙げられるが、ラクトバチルス属が好ましい。具体的には、例えば、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)等が挙げられ、特に、ラクトバチルス・ヘルベティカスを使用する。 前記ラクトバチルス・ヘルベティカスの菌株としては、菌体外プロテイナーゼ活性の高いものが好ましい。例えば、Twiningらの方法(Twining, S. Anal. Biochem. 143 3410(1984))をもとにしたYamamotoらの方法(Yamamoto, N.ら J.Biochem. (1993) 114, 740)に準じて測定したU/OD590の値が400以上を示す菌株が好ましい。また、下記の菌学的性質を有するラクトバチルス・ヘルベティカス菌株を用いることができる。 菌学的性質1.形態学的性質:1)細胞の形状;桿菌、2)運動性;なし、3)胞子の有無;なし、4)グラム染色性;陽性。2.生理学的性質:1)カタラーゼ;陰性、2)インドール生成;陰性、3)硝酸塩の還元;陰性、4)酸素に対する態度;通性嫌気性菌、5)グルコースによりホモ乳酸発酵によりDL(−)乳酸を生成し、ガスの産生はない。6)各種炭水化物の分解性:グルコース;+、ラクトース;+、マンノース;+、フラクトース;+、ガラクトース;+、シュークロース;−、マルトース;−、キシロース;−、ラムノース;−、セルビオース;−、トレハロース;−、メルビオース;−、ラフィノース;−、スタキオース;−、マンニトール;−、ソルビトール;−、エスクリン;−、サリシン;−。 前記好ましいラクトバチルス・ヘルベティカスとしては、例えば、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター 日本国茨城県つくば市東1−1−1中央第6 寄託番号:FERM BP−6060、寄託日1997.8.15)(以下、CM4株と称す)が挙げられる。このCM4株は、特許手続上の微生物寄託の国際的承認に関するブタペスト条約に上記寄託番号で登録されており、この株は既に特許されている。 前記発酵乳ホエーは、前記乳酸菌を含む発酵乳スターターを乳に添加し、発酵温度等の発酵条件を適宜選択して発酵させることにより得ることができる。 有効成分である発酵乳ホエーは、得られる発酵乳から遠心分離、ろ過等の常法の分離操作によりホエーを分離することにより得られるが、使用に際しては、分離せずに発酵乳の状態で、また分離したホエーを適宜、分画、濃縮、精製等して用いることができる他、該ホエーやその濃縮物を凍結乾燥、噴霧乾燥等により粉末として用いることもできる。 前記乳酸菌は、あらかじめ前培養しておいた十分に活性の高いスターターとして用いることが好ましい。初発菌数は、好ましくは105〜109個/ml程度である。 有効成分である発酵乳ホエーを、風味を良好にし、嗜好性を良好とするために、前記乳酸菌に酵母を併用することもできる。酵母の菌種は特に限定されないが、例えば、サッカロマイセス・セレビシェ等のサッカロマイセス属酵母が好ましく挙げられる。酵母の含有割合は、その目的に応じて適宜選択することができる。 原料の乳としては、例えば、牛乳、馬乳、羊乳、山羊乳等の動物乳、及び豆乳等の植物乳、これらの加工乳である脱脂乳、還元乳、粉乳、コンデンスミルク等が挙げられ、牛乳、豆乳、これらの加工乳が好ましく、牛乳又はその加工乳が特に好ましい。 乳の固形分濃度は特に限定されないが、例えば、脱脂乳を用いる場合の無脂乳固形分濃度は、通常3〜15重量%程度であり、生産性的には6〜15重量%が好ましい。 前記発酵は、通常静置若しくは撹拌培養により、例えば、発酵温度25〜45℃、好ましくは30〜45℃、発酵時間3〜72時間、好ましくは12〜36時間で、乳酸酸度が1.5以上になった時点で発酵を停止する方法により行なうことができる。 本発明の表皮細胞分化及び角化促進剤は、前記有効成分である発酵乳ホエーの他に、他の表皮細胞分化及び角化促進作用を有する公知の成分を含んでいても良く、更に、その形態に応じては、賦形剤等の各種添加剤が含まれていても良い。 本発明の表皮細胞分化及び角化促進剤は、必須の有効成分が前記発酵乳ホエーであるので、その経口摂取量は、投与期間やその継続性等に応じて所望の効果が得られるよう適宜選択できるが、通常、前記発酵乳ホエー量で、1日あたり1〜1000ml/ヒト程度であり、好ましくは10〜200ml/ヒト程度である。 本発明の表皮細胞分化及び角化促進剤の投与は、皮膚の不全角化による症状が生じた後であっても、また、そのような症状を予防する時期に継続して毎日、若しくは断続的に摂取することができる。 以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 実施例1 固形率9重量%脱脂粉乳からなる乳培地にCM4株スターター(菌数5×108個/mL)を3%接種して、37℃で24時間、静置状態で発酵させ発酵乳を得た。この発酵乳を12000G、20分間遠心分離し、沈殿を除去し、発酵乳ホエーを調製した。得られた発酵乳ホエーを用いて以下の試験を行った。<分化促進作用評価試験及び細胞傷害性試験>1)方法(a)培養表皮細胞および培地 ヒト正常表皮細胞及び培地(Humedia-KG2)は、市販品(クラボウ社製)を用いた。(b)細胞培養 ヒト正常表皮細胞の細胞数を上記培地にて5.652×104cells/mLに調整し、60mmディッシュに5mLずつ播種し、95%空気(V/V)−5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で24時間静置培養した。その後、終濃度0.03、0.1、0.3、1%の発酵乳ホエー及び対照として精製水を添加した上記培地に交換して、24時間静置培養した。また、タイムコース解析用としては、終濃度1%の試料含有培地と交換後、0、1、2、4、6、8日間静置培養した。(c)抗体染色による分化マーカー発現解析 上記(b)において調製した1%の発酵乳ホエーの存在下、若しくは不存在下において24時間培養後、4%パラフォルムアルデヒド含有PBSにて細胞の固定を行った。10%ウサギ血清含有PBSでブロッキング後、マウス抗サイトケラチン10抗体(Dako社製)又はマウス抗インボルクリン抗体(YLEM社製)を室温で一時間反応させた。PBS洗浄後、ペルオキシダーゼ標識ウサギ抗マウス免疫グロブリン抗体(Dako社製)を室温で30分間反応させた。更にPBS洗浄を行った後、DAB Substrate-Chromogen System(Dako社製)を用いて発色反応を行った。結果を図1に示す。 図1において、aは発酵乳ホエーを添加していないKeratin10の発現観察結果、bは終濃度1%で発酵乳ホエーを添加した際のKeratin10の発現観察結果、cは発酵乳ホエーを添加していないInvolucrinの発現観察結果、dは終濃度1%で発酵乳ホエーを添加した際のInvolucrinの発現観察結果を示す。(d) Real-time RT-PCRによる分化マーカー発現解析 上記(b)において諸濃度の発酵乳ホエーの存在下、若しくは不存在下で24時間培養後、及びタイムコース分析用の培養後、培養上清を吸引除去し、Hepes緩衝液で2回洗浄した後、RNeasy Mini Kit (QIAGEN社製)を用いて細胞から全RNAを抽出した。抽出した全RNA1ngについて、Smart Cycler II System(Cepheid社製)にて、One Step SYBR RT-PCR Kit(商品名、TaKaRa社製)及び表1に示すプライマーを用い、プロトコルに従いReal-time RT-PCRを実施し、ケラチン10(Keratin10)mRNA、インボルクリン(Involucrin)mRNA及びグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPD)mRNAの発現量を定量化した。発現量は、どの細胞においても同量発現すると考えられるGAPDmRNA発現量で割ることにより規格化し、さらに、その値を、上記(b)において培地中の発酵乳ホエー濃度を0%としたもの(対照)を1とした相対値で表した。結果を図2〜5に示す。但し、図4及び図5において、黒丸が発酵乳ホエー添加による結果、白丸は発酵乳ホエー非添加による結果を示す。(e)細胞傷害性評価試験 上記(b)と同様に、ヒト正常表皮細胞を試料存在下で48時間培養後、アラマーブルー試薬(ナカライテスク社製)を用いて、プロトコルに従い細胞傷害性評価を行った。結果を図6に示す。 図1より、発酵乳ホエー非添加では認められないKeratin10及びInvolucrinの発現が、発酵乳ホエーの添加で促進されることが判った。 図2及び3より、発酵乳ホエーの添加量依存的にKeratin10及びInvolucrinの発現が増大することが判った。 図4及び5より、発酵乳ホエーは、表皮細胞における分化マーカーであるKeratin10及びInvolucrinの発現を促進することが判った。 図6より、発酵乳ホエーの添加による細胞毒性は認められなかった。 実施例2 実施例1で調製した発酵乳ホエーを飲用し易くするために、該発酵乳ホエー90質量部、香料0.25質量部、アスパルテーム0.05質量部及び水9.70質量部を混合し、発酵乳ホエー含有飲料を調製した。得られた飲料を用いて以下に示す評価を行った。<経口摂取による角層細胞面積の評価> セロハンテープ(ニチバン社製)を用いたテープストリッピング法により、顔面左頬の最外層の角層細胞を剥離し、スライドグラスへ転写、定着させた。これを、各々ブリリアントグリーン・ゲンチアナバイオレット(BG)にて染色し、染色画像をコンピュータに取り込んだ。BG染色画像の画像解析により、角層細胞面積を測定した。 評価試験は、24〜43歳の平均年齢29.4歳である男性パネル16名で行った。まず、試料を飲用する前に実施し、各パネルの平均値を求めた。次いで、発酵乳ホエー含有飲料を、一日あたり150g、9週間毎日飲用してもらい、9週間目に再度同様に評価試験を行い、各パネルの平均値を求めた。結果を表2に示す。 表2より、発酵乳ホエー含有飲料摂取群の細胞面積が、飲用9週間で27増加しており、発酵乳ホエー含有飲料を長期飲用することにより、皮膚表皮の角質化を促進させることが示唆された。 不全角化の改善を要する対象者に経口摂取する剤であって、 ラクトバチルス・ヘルベティカスを含む菌体により乳を発酵させて得た発酵乳ホエーを有効成分として含む、経口摂取用の表皮細胞分化及び角化促進剤。 ラクトバチルス・ヘルベティカスが、ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター寄託番号:FERM BP−6060)である請求項1記載の表皮細胞分化及び角化促進剤。