タイトル: | 特許公報(B2)_新規微生物及び当該微生物を用いたコーヒー生豆の処理方法 |
出願番号: | 2007509344 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C12N 1/14,A23F 5/02,A23F 5/04,A23F 5/24,C12N 15/09 |
四方 秀子 中島 俊治 米澤 岳志 JP 4871857 特許公報(B2) 20111125 2007509344 20060324 新規微生物及び当該微生物を用いたコーヒー生豆の処理方法 サントリーホールディングス株式会社 309007911 北村 修一郎 100107308 四方 秀子 中島 俊治 米澤 岳志 JP 2005086884 20050324 20120208 C12N 1/14 20060101AFI20120119BHJP A23F 5/02 20060101ALI20120119BHJP A23F 5/04 20060101ALI20120119BHJP A23F 5/24 20060101ALI20120119BHJP C12N 15/09 20060101ALN20120119BHJP JPC12N1/14 AA23F5/02A23F5/04A23F5/24C12N15/00 A C12N 1/00-5/10 A23F 5/00-50 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) Science Direct Wiley InterScience CiNii G-Search 食品関連文献情報(食ネット) FSTA(DIALOG) 特開平01−112950(JP,A) 特開昭51−007147(JP,A) Journal of Coffee Research, (1984) Vol. 14, No. 3, pp. 104-107. 7 IPOD FERM BP-10300 JP2006305965 20060324 WO2006101195 20060928 17 20090313 山本 匡子 本発明は、コーヒー生豆の存在下において、資化成分に微生物を接触させて発酵処理させる発酵工程を包含するコーヒー生豆の処理方法に関する。 現在、コーヒー飲料については、嗜好飲料としてその需要が増大するなかで、消費者のコーヒー香味に対する嗜好もまた多様化している。 そうした消費者のニーズに対応すべく、多様なコーヒー香味を創出する方法として、一般的に実施されている方法としては、焙煎度合の異なる種々のコーヒー焙煎豆(ライトロースト〜イタリアンロースト)を作り出す方法が挙げられるが、これまでにはさらに、微生物に発酵処理を実施させてコーヒー香味を付与する方法が開示されている(特許文献1参照)。 特許文献1に記載される方法では、微生物として麹菌(アスペルギルス(Aspergillus)属)を使用している。詳細には、粉砕したコーヒー生豆(資化成分)に麹菌を接種して発酵させたものを焙煎し、生成したコーヒー香味成分を抽出する。次いで、抽出した前記コーヒー香味成分をコーヒー抽出液、コーヒー焙煎豆、粉末コーヒー等のコーヒー製品に添加して、コーヒー香味を強化するというものである。特開平1−112950号公報 しかしながら、上述の特許文献1の麹菌を用いる方法においては、明細書中にも記載されるように、麹菌を用いて発酵処理する場合、発酵条件にある程度制限を加える必要があった。例えば、通常粒度のコーヒー生豆では発酵が進み難いので、発酵速度を増加させるために、コーヒー生豆を粉砕して細かくする(麹菌との接触面積を大きくする)必要があり、さらに、培養(発酵)液のpHを3.0〜6.5にして麹菌を培養しなければならない。 しかも、この従来方法においては、通常のコーヒー飲料の製造工程に加えて、生成されたコーヒー香味成分を抽出して、その抽出液を上述のコーヒー製品に添加するという新たな処理工程が必要となるので、時間と手間がかかると共に、麹菌を接種して発酵させるためのコーヒー生豆(粉砕したもの)を別途必要とするので原料コストも高くなるという問題が生じていた。なお、この従来の方法は、コーヒー香味を強化する方法であり、新たなコーヒー香味を創出する方法を開示するものではない。 本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、発酵条件を特に制限しなくとも発酵処理可能な新規微生物と、また、特に原料コストの増大をも招くことなく、尚且つ新たな処理工程を必要とせず、簡便な操作でコーヒー飲料に新たな品質の高い香味を付与することのできる前記新規微生物を用いたコーヒー生豆の処理方法とを提供するものである。(構成1) 本発明に係るコーヒー生豆の処理方法の第1特徴構成は、コーヒー生豆の存在下において、資化成分に微生物を接触させて発酵処理させる発酵工程を包含するコーヒー生豆の処理方法であって、前記発酵工程において使用される微生物が、ゲオトリクムキャンディダム(Geotrichum candidum)(IAM12700、GEO CA(アイテム番号200691)、GEO CB(アイテム番号200692)、GEO CD1(アイテム番号200693)、及びGEO CE(アイテム番号200835))、ゲオトリクムレクタングラタム(Geotrichum rectangulatum)(JCM1750)、ゲオトリクム クレバニ(Geotrichumklebahnii)(JCM2171)、及び国際寄託番号FERM BP−10300を有するゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichumsp.)の新菌株からなる群から選択される微生物である点にある。(構成2) 本発明に係るコーヒー生豆の処理方法の第2特徴構成は、前記発酵工程が、コーヒー果実の存在下において微生物に発酵処理させる工程である点にある。(構成3) 本発明に係るコーヒー生豆の処理方法の第3特徴構成は、前記コーヒー果実に微生物を直接接触させて発酵処理させる点にある。(構成4) 本発明に係るコーヒー生豆の特徴構成は、前記コーヒー生豆の処理方法により得られる点にある。(構成5) 本発明に係るコーヒー焙煎豆の特徴構成は、前記コーヒー生豆を焙煎処理した点にある。(構成6) 本発明に係るコーヒー飲料の特徴構成は、前記コーヒー焙煎豆を原料として用いて得られる点にある。(構成7) 本発明に係る新菌株の特徴構成は、国際寄託番号FERM BP−10300を有するゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)である点にある。 本発明に係るコーヒー生豆の処理方法の第1特徴構成によれば、簡便な操作で容易にコーヒー生豆に新たな香味成分を付与することができる。 コーヒー生豆は、発芽に備えて吸水する性質があり、また、酵母等に代表されるある種の微生物は、有機化合物(資化成分)を分解(発酵)してアルコール類、有機酸類、エステル類等(以下、発酵成分と称する)を生成し得ることが知られている。 従って、コーヒー生豆の存在下において、資化成分に微生物を接触させて発酵処理を行うと、生成された発酵成分は、水分と共にコーヒー生豆に吸収され得る。このようにして得られたコーヒー生豆を焙煎することにより、焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味成分に加えて、発酵により生成された新たな香味成分(発酵成分)を含むコーヒー焙煎豆を得ることができ、そのコーヒー焙煎豆から抽出したコーヒー飲料には新たな香味が付与され得る。 さらに、本発明の特徴として、前記発酵工程において、ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物を使用する。この微生物は、従来技術における麹菌(アスペルギルス(Aspergillus)属)を使用する場合とは異なり、発酵させる際、コーヒー生豆を粉砕する必要はなく、通常粒度のコーヒー生豆を使用することができる。また、発酵(培養)条件(培養液のpHや温度等)についても特に制限はなく、通常の比較的簡素な発酵条件(例えば、コーヒー果実(コーヒー生豆と果肉(資化成分)が外皮で覆われている)と前記微生物とを水の入った発酵槽に添加して混合し、20℃〜30℃で発酵させるなど)にて発酵処理を実施することが可能である。従って、本発明によれば、簡便な操作で容易にコーヒー生豆に新たな香味成分を付与することができる。 ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物として、ゲオトリクムキャンディダム(Geotrichum candidum)(IAM12700、GEO CA(アイテム番号200691)、GEO CB(アイテム番号200692)、GEO CD1(アイテム番号200693)、又はGEO CE(アイテム番号200835))、ゲオトリクム レクタングラタム(Geotrichum rectangulatum)(JCM1750)、又はゲオトリクムクレバニ(Geotrichum klebahnii)(JCM2171)を使用して発酵処理させた場合、いずれの微生物を使用しても、新たな香味成分(発酵成分)をコーヒー生豆に付与することが可能であり、特に上記微生物を使用して得られたコーヒー生豆を原料として用いることにより、焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味とバランスのとれた(アルコール臭の抑えられた)華やかでリッチなエステリー香を有し、且つボディ感のある味わいを与えるコーヒー焙煎豆(又はコーヒー飲料)を得ることができる。 また、国際寄託番号FERM BP−10300を有する微生物は、本発明者らによってコーヒー果実から分離されたゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)の新菌株である。前記新菌株を前記ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物として使用することによって、コーヒー生豆に新たな香味成分(発酵成分)が付与されて、より華やかでリッチなエステリー香を有するコーヒー焙煎豆(又はコーヒー飲料)を得ることができる。 本発明に係るコーヒー生豆の処理方法の第2特徴構成において、コーヒー果実とは、コーヒーノキと呼ばれるアカネ科の植物の果実を指し、その構造を大まかにいうと、最も内側に存在するコーヒー生豆と、その周りにあるコーヒー果肉、そしてそのコーヒー果肉の周りを覆う外皮とから構成されるものである。 本発明においては、資化成分として、主としてコーヒー果実中に含まれるコーヒー果肉(糖分やその他の栄養分を含む部分)を使用するため、外来の資化成分を用意する必要がなく、原料コストが増大する虞もない。 さらに本発明は、コーヒー果実からコーヒー生豆を分離回収する精製工程中に実施することが可能であるため、従来技術と異なり、コーヒー香味成分を抽出し添加するといった新たな工程を設ける必要がなく、簡便にコーヒー生豆に新たな香味を付与することができる。 本発明に係るコーヒー生豆の処理方法の第3特徴構成においては、発酵工程において、コーヒー果実(資化成分)に微生物を直接接触させる方法(直接法)を用いることによって、すぐ近傍にコーヒー生豆が存在するので発酵により生成されたアルコール類やエステル類等の発酵成分が速やかにコーヒー生豆中に移行し得る。 本発明に係るコーヒー生豆の特徴構成によれば、コーヒー生豆は、ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物の発酵により生成された新たな香味成分(発酵成分)を含む。 本発明に係るコーヒー焙煎豆の特徴構成によれば、コーヒー焙煎豆は、焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味成分に加えて、ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物の発酵により生成された新たな香味成分(発酵成分)を含む。 本発明に係るコーヒー飲料の特徴構成によれば、コーヒー飲料は、従来のコーヒー香味成分に加えて、ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物の発酵により生成された新たな香味成分(発酵成分)に由来する品質の高い香り(焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味とバランスのとれた(アルコール臭の抑えられた)華やかでリッチなエステリー香)が付与されたボディ感のある味わい深いコーヒー飲料となる。 本発明に係る新菌株の特徴構成の通り、国際寄託番号FERMBP−10300を有する微生物は、本発明者らによってコーヒー果実から分離されたゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)の新菌株である。本発明の新菌株は、コーヒー生豆の存在下において、適当な資化成分と接触させて発酵させることにより、新たな香味成分(発酵成分)をコーヒー生豆に付与することができる。 以下に本発明の実施の形態について説明する。〔実施形態〕 (微生物) 本発明において使用され得る微生物は、ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物であり、好ましくはゲオトリクム キャンディダム(Geotrichum candidum)、ゲオトリクム レクタングラタム(Geotrichum rectangulatum)、又はゲオトリクム クレバニ(Geotrichum klebahnii)であり、より好ましくは、国際寄託番号FERM BP−10300を有するゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)の新菌株(SAM2421)若しくはその変異体、又はそれらの形質転換体である。 本発明のゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物を単離し得る単離源としては、土壌、植物、空中、繊維、木材、ハウスダスト、飼料、河川、サイレージ、食品、果実、穀類、肥料、工場排水、堆肥、排泄物、消化管などが挙げられるが、好ましくは、果実(コーヒー果実)である。 単離方法としては、例えば、コーヒー果実を滅菌水中で攪拌し、その上澄み液を、適当な抗生物質を含有する寒天培地に塗末して培養し、発生したコロニーを単離する等の方法が挙げられるが、適当な菌体保存施設等から直接購入することも可能である。 尚、本発明でいう変異体とは、自然突然変異によるもの、もしくは人為的に突然変異を誘発(放射線や突然変異物質による処理等)させることにより得られたものを含み、DNAの塩基配列が野生株(国際寄託番号FERM BP−10300を有するゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)の新菌株(SAM2421))と比べて変化したものをいう。 (1)自然突然変異(spontaneous mutation) 微生物が通常の環境下で正常に生育しているときに発生する突然変異を、自然突然変異という。自然突然変異の主な原因は、DNA複製時の誤りと、内在性の突然変異原物質(ヌクレオチドアナログ)であると考えられている(真木, 「自然突然変異と修復機構」, 細胞工学 Vol.13 No.8, pp.663−672, 1994)。 (2)人為的な突然変異 2−1.放射線や突然変異原物質(mutagen)による処理 紫外線やX線などの放射線処理、あるいはアルキル化剤のような人工的な突然変異原物質処理によって、DNAに損傷が生じる。その損傷は、DNA複製の過程で突然変異に固定される。 2−2.PCR(polymerase chain reaction )法の利用 PCR法は、試験管内でDNAを増幅するため、細胞内の突然変異抑制機構の一部が欠けており、高頻度に突然変異の誘発が可能である。また、遺伝子シャフリング法(Stemmer,”Rapid evolution of a protein in vitro by DNA shuffling”, Nature Vol.370, pp.389−391, Aug. 1994 )と組み合わせることで、有害突然変異の蓄積を避け、複数の有益突然変異を遺伝子に蓄積することができる。 2−3.ミューテーター(mutator)の利用 ほとんどすべての生物では、突然変異抑制機構によって、自然突然変異の発生率が非常に低いレベルに保たれている。この突然変異抑制機構には、10種類以上の遺伝子が関与した複数の段階が存在する。これらの遺伝子の1つあるいは複数が破壊された個体は、高い頻度で突然変異を発生するので、ミューテーターと呼ばれている。また、これらの遺伝子は、ミューテーター遺伝子と呼ばれている(真木,「自然突然変異と修復機構」,細胞工学 Vol.13 No.8, pp.663−672, 1994; Horst et. al.,”Escherichia coli mutator genes”, Trends in Microbiology Vol.7 No.1, pp.29−36, Jan. 1999)。 また、本発明でいう形質転換体とは、他種の生物の持つ外来遺伝子を本発明の新菌株(国際寄託番号FERM BP−10300を有するゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)の新菌株)若しくはその変異体に人工的に導入して発現させたものを意味する。製法としては、例えば、外来遺伝子を適当な発現ベクター内に組み込み、その発現ベクターを、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法など公知の方法で導入する。 本発明において、ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物の種類や発酵条件を選択することによって、様々な香味を添加することも可能である。従って、望ましい香味を添加することができる微生物株を適宜選択して用いることができる。 本発明における微生物の使用量は、香味の添加の効果が得られれば特に限定されないが、培養時間やコストを考え、適宜設定できる。例えば、コーヒー生豆100g当たり湿重量で1〜100mg程度が適当である。 (コーヒー果実) 本発明におけるコーヒー果実とはコーヒーノキの果実を意味し、その構造を概していえば、コーヒー生豆(種子)、果肉(糖分やその他の栄養分を含む部分)及び外皮からなるものである。より詳細には、最も内側にコーヒー生豆が存在し、その周りが順に、銀皮(シルバースキン)、内果皮(パーチメント)、果肉、外皮で覆われている。品種としては、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種などが適用可能であり、また、産地についても、ブラジル産、エチオピア産、ベトナム産、グアテマラ産などが適用可能であるが、特に限定されるものではない。尚、本実施形態で使用し得るコーヒー果実には、未乾燥及び乾燥状態のものがあり、コーヒー生豆を1とした場合の重量比は、それぞれ1粒あたり、「コーヒー果実(未乾燥):乾燥コーヒー果実:コーヒー生豆=6:4:1」である。 (資化成分) 本発明における発酵工程にて使用される資化成分としては、例えば、果肉、果汁、糖類、培地などが挙げられるが、好ましくはコーヒー果肉である。但し、本発明でいうコーヒー果肉とは、便宜的に、コーヒー果実(未乾燥又は乾燥状態を問わない)において、そのコーヒー生豆と外皮以外の全ての部分を意味する。 コーヒー果肉は、精製工程を経ていないコーヒー果実の状態のものを使用しても良く、あるいは、精製工程にてコーヒー生豆と分離されたときに得られる果肉の状態で使用することも可能である。また、コーヒー果肉は、未乾燥のものであってもよいし、乾燥させたものであってもよい。なお、コーヒー果肉に限らず、必要に応じて、ぶどう果肉、サクランボ果肉、桃果肉などの他の果肉を使用することも可能であり、コーヒー果肉を含めたこれらの果肉を単独か、あるいは任意に組み合わせて使用しても良い。 上述した果肉以外の資化成分としては、果汁(例えば、ぶどう、桃、リンゴ等)、糖類(例えば、サトウキビや甘藷等の植物からとれる単糖、二糖、多糖等)、穀物類(例えば、麦芽を糖化させた麦汁など)、培地等が挙げられるが、微生物が資化可能な成分であれば特に限定されず、果肉を含めたこれらの資化成分を単独か、あるいは任意に組み合わせて使用しても良い。 (コーヒー果肉の露出方法) コーヒー果実をそのまま用いて、中のコーヒー果肉を資化成分として使用する場合には、発酵速度を増加させるために、コーヒー果実表面の少なくとも一部にコーヒー果肉を露出させる方法を用いても良い。 コーヒー果肉を露出させる方法としては、収穫したコーヒー果実に鋭利な刃物等で傷を付けても良いし、脱穀装置等を用いて外皮に切れ目が入るようにコーヒー果実に圧力をかけるようにしても良いが、このとき中のコーヒー生豆にまで傷をつけないようにする。また、皮むき機等を使用して、コーヒー果実の外皮のみを剥いて果肉を露出するようにしても良い。なお、コーヒー果実を収穫する際、偶然に傷がついてその果肉の少なくとも一部が露出してしまったものについては、特に上述の果肉の露出操作を行う必要はない。また、精製工程にてコーヒー生豆と分離されたときに得られるコーヒー果肉を使用する場合にも、特に上述の果肉の露出操作を行う必要はなく、別途コーヒー生豆を加えて発酵を行う。 (発酵工程) 1.微生物と資化成分との接触方法 本発明において、発酵工程において微生物と資化成分とを接触させる方法には、例えば以下の方法が挙げられる。 (a)直接法 直接法は、コーヒー生豆の存在下において微生物を資化成分に直接接触させる方法である。例えば、コーヒー果肉を少なくとも一部露出させたコーヒー果実(又は、精製工程にてコーヒー生豆と分離されたときに得られるコーヒー果肉とコーヒー生豆との混合物)に、微生物を噴霧あるいは散布して直接接触させて発酵させる。特に、一部果肉を露出させたコーヒー果実を用いて発酵させる場合、資化される糖分等が果肉中に高濃度で局在するので効率良く発酵が進むと共に、すぐ近傍にコーヒー生豆が存在するので発酵により生成されたアルコール類やエステル類等の発酵成分が速やかにコーヒー生豆中に移行し得る。なお、乾燥させたコーヒー果実(もしくはコーヒー果肉)を使用する場合は、適度に水分を含ませた状態で発酵させても良い。ゲオトリクム属に属する微生物については、直接法を好適に用いることができる。 (b)間接法 間接法は、発酵液を備える発酵槽を用意して、発酵液中にコーヒー生豆、資化成分、及び微生物を加えて、発酵液中に溶出し得る資化成分に微生物を接触させる方法である。例えば、微生物と、コーヒー果肉を少なくとも一部露出させたコーヒー果実(又は、精製工程にてコーヒー生豆と分離されたときに得られるコーヒー果肉とコーヒー生豆との混合物)とを発酵液中に添加して発酵させる。 2.発酵条件 微生物の発酵条件については、発酵が実施され得る条件であれば特に限定されず、必要に応じて発酵に適した条件(例えば、使用する微生物の種類やその菌量(初期菌数)、資化成分の種類や量(濃度)、温度、湿度、pH、酸素又は二酸化炭素濃度、発酵時間等)を適宜設定することができる。また他にも例えば、上記の資化成分以外にも、必要に応じてpH調整剤などの添加剤や窒素源や炭素源を補うための市販の栄養培地などを補助的に添加することもできる。 特に本発明における発酵工程においては、他の微生物(雑菌)の繁殖防止のため、その温度、pH、二酸化炭素濃度等といった条件を制御して発酵させてもよい。例えば、15〜30℃といった他の雑菌の繁殖を抑え得るような低温環境下にて発酵を行わせたり、必要に応じてpH調整剤等(クエン酸、リンゴ酸、乳酸等)を添加し、他の雑菌の繁殖を抑え得るようなpH条件下で発酵を行わせたり、あるいは二酸化炭素濃度(又は酸素濃度)を上げて他の雑菌の繁殖を抑え得る、より嫌気的(又は好気的)な条件下で発酵を実施しても良い。 また、本発明における発酵工程においては、上記の発酵条件(例えば、使用する微生物の種類やその菌量(初期菌数)、資化成分の種類や量(濃度)、温度、湿度、pH、酸素又は二酸化炭素濃度、発酵時間等)を自動及び/又は手動で制御可能な恒温槽、タンクまたは貯蔵庫にて発酵工程を行うこともできる。 尚、発酵工程に要する時間は限定されず、添加される香味の質・強さによって、あるいは、微生物や資化成分によって、適宜、選択すればよい。また、資化成分の枯渇を目安に、発酵工程を終了してもよい。 発酵工程を終了させる際には、加熱滅菌する、水洗する、天日干しする、資化成分とコーヒー生豆を分離する、あるいは、焙煎するといった方法を組み合わせることができる。例えば、乾燥機を用いる場合、50〜60℃で1〜3日程度乾燥させることにより、発酵を終了させることができる。 3.発酵工程の一例 ここでは、コーヒー果実を用いて発酵を行う例を説明する。 まず、上記微生物の前培養を行い、その懸濁液を調製する。詳細には、微生物を適当な液体培地にて通気培養し、培養後その培養液を遠心分離して上澄み液を除去し、得られたペレット(微生物の塊)を滅菌水に懸濁する。 上記懸濁液を用いて、例えば、コーヒー生豆の精製工程中に発酵工程を行うことができる。 コーヒー果実からコーヒー生豆を得るための精製工程には、非水洗式と水洗式の二種類が知られている。 非水洗式とは、コーヒー果実を収穫後、そのまま乾燥させたものを脱穀して外皮、果肉、内果皮、銀皮等を除去し、コーヒー生豆を得る方法である。 水洗式とは、コーヒー果実を収穫後、水槽に沈めて不純物を除去し、果肉除去機で外皮及び果肉を除去してから、水中に沈めて粘着物を溶かして除去し、さらに、水洗した後に乾燥させたものを脱穀して内果皮、銀皮を除去してコーヒー生豆を得る方法である。 非水洗式の精製工程は操作が容易であるが、主に気候が乾燥している地域で適用される。一方、水洗式の精製工程は、主に多雨の地域で適用される。 まず、非水洗式の精製工程では、例えば、コーヒー果実を収穫し、ナイフ等を用いてその表面に傷をつけてコーヒー果肉を一部露出させ、上記直接法により微生物の懸濁液を散布し、微生物を直接接触させて発酵させた後乾燥させる。 また、水洗式の精製工程では、例えば、コーヒー果実を収穫し、ナイフ等を用いてその表面に傷をつけてコーヒー果肉を一部露出させ、水槽に沈めて不純物を除去するときに、上記の間接法により微生物(懸濁液)を一緒に水槽(発酵槽)に添加して発酵させる。傷を付けて果肉を露出してあるので水槽中に果肉中の糖分など(資化成分)が溶出し易くなっており、微生物による発酵が促進される。またあるいは、収穫したコーヒー果実を水槽に沈める前か、もしくは、水槽に沈めて不純物を除去した後のコーヒー果実を水槽から出してそのコーヒー果肉を除去する前に、上述の直接法又は間接法によって発酵を実施するようにしても良い。 なお、本発明はまた、コーヒー果実の収穫前に、木に生っている状態で果肉を露出させて上記直接法により発酵させてもよい。 発酵工程を終了したコーヒー果実は、その後、水等で微生物を洗い流して分離してからか、あるいは微生物を付着させたままで、通常の精製工程に沿って果肉が除去され、脱穀されてコーヒー生豆が分離される(1粒のコーヒー果実からコーヒー生豆は1粒或いは2粒採取される)。 このようにして分離されたコーヒー生豆は、通常の方法で焙煎処理することが可能であり、焙煎度合の異なる種々のコーヒー焙煎豆(ライトロースト〜イタリアンロースト)を得ることができる。 得られたコーヒー焙煎豆は、粉砕して加水し、濾材により濾過抽出することによってレギュラーコーヒーとして飲用に供することができるほか、工業用原料としてインスタントコーヒー、コーヒーエキス、缶コーヒーなどに使用することが可能である。 以下、本発明について、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 (SAM2421株の単離、同定) 本発明に好適に用いることができるSAM2421株は、以下の方法で単離した。 微生物の単離源の一つとして、コーヒー果実を試験した。コーヒー果実(沖縄県産)5粒と、滅菌水5mlとを試験管に入れて、ボルテックスミキサーで攪拌した。上澄み液をそのままと、1000倍希釈したものの2種類の濃度で、クロラムフェニコール100ppmを添加したYM寒天培地に100μl塗末した。23℃で4日間培養して、その結果、5種のコロニーを単離した。これらの5種類の菌株をYM培地、或いは赤葡萄濃縮液(マスト)を用いて27℃で3日間通気培養した。遠心分離(3000rpm、10min)して上澄み液を除去した後、上記5種類の各菌株のペレットを水に懸濁して、5種類の懸濁液を得た。 三角フラスコ(5000ml容)を5つ用意し、各三角フラスコに、コーヒー果実1000gと、上記各懸濁液の希釈液1000mL(上記5種類の各懸濁液1mlを水で希釈して1000mLとしたもの)を加えて混合した。発酵は室温を23℃に保った恒温室で静置して72時間行った。 発酵液に特徴ある香味を呈した段階で、発酵後の各コーヒー果実を発酵液から取り出し、水切りしたのち、55℃の乾燥器で48時間乾燥させた後、果肉および外皮を取り除き、5種類のコーヒー生豆を得た。得られた各コーヒー生豆のうち100gを家庭用全自動珈琲豆焙煎機(CRPA−100 トータス株式会社)で深煎りボタン操作により焙煎した。焙煎時間は約25分程度であった。 得られた5種類の焙煎豆およびそれを用いた抽出液を官能評価した結果、その中の1種について特に好ましい香りを有していた。 そこで、特に好ましい香味を与えた菌株について、18SrDNA遺伝子の部分塩基配列(ITS4領域及びITS5領域)について、遺伝子データベースであるNational Center for Biotechnology Information(NCBI http://www.ncbi.nlm.nih.gov)上でBLASTホモロジー検索を行った結果、データベース上に登録されているガラクトマイセス ゲオトリクム(Galactomyces geotrichum)(子のう菌類)との相同性は97%であり、ゲオトリクム キャンディダム(Geotrichum candidum)との相同性は96%であった。尚、シークエンスしたITS4領域及びITS5領域の塩基配列は、以下の配列表において、それぞれ配列番号1及び配列番号2に示した。 また、この菌株の性状について観察した結果を以下に示す。 (1)集落:白色、裏面は無色、色素産性なし。 (2)臭い:強い発酵臭、甘ずっぱい臭気。 (3)菌糸:有隔壁、無色、菌糸が発育するにつれて分節した分生子となる。尚、子のうは確認できなかった。 ガラクトマイセス(Galactomyces)は、完全世代の名前であり、子のう菌類に分類される。今回分離された上記菌株について、スライドガラス上で菌糸を発育させ、子のうの観察を試みたが、観察されなかったため、ゲオトリクム(Geotrichum)属に属する菌株であると判断された。 以上より、分離された上記菌株は不完全菌類に分類されるゲオトリクム(Geotrichum)属微生物であると同定し、ゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)SAM2421と命名し、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに国際寄託した(寄託番号:FERM BP−10300)。 実施例1で得られたSAM2421の属するゲオトリクム(Geotrichum)属の各種菌株(不完全菌類)を用いて、発酵工程がコーヒー生豆に与える影響について検討した。実験に用いた菌株は以下の4種類である。 (1)ゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)新規分離株(SAM2421)。 (2)東京大学分子生物学研究所から購入した前記新菌株と同属のゲオトリクム キャンディダム(Geotrichum candidum)(IAM12700)。 (3)ゲオトリクム キャンディダム(Geotrichum candidum)と近縁種であるゲオトリクム レクタングラタム(Geotrichum rectangulatum)(JCM1750)。 (4)理化学研究所微生物系統保存施設から購入したゲオトリクム クレバニ(Geotrichum klebahnii)(JCM2171)。 また対照として、(5)セティーカンパニーより購入したワイン酵母ラルビン(Lalvin)(L2323)、及び(6)ゲオトリクム(Geotrichum)属と同じ不完全菌に分類される、焼酎用の麦麹アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)を用いた。 これら6種類の菌株をYM培地、或いは赤葡萄濃縮液(マスト)を用いて27℃で3日間通気培養した。遠心分離(3000rpm、10min)して上澄み液を除去した後、上記6種類の各菌株のペレットを水に懸濁して、6種類の懸濁液を得た。 三角フラスコ(5000ml容)を6つ用意し、各三角フラスコに、コーヒー果実1000gと、上記各懸濁液の希釈液1000mL(上記6種類の各懸濁液1mlを水で希釈して1000mLとしたもの)を加えて混合した。発酵は室温を23℃に保った恒温室で静置して、72時間行った。 発酵が進むにつれて、果実の懸濁液の表面に菌糸状に生育し始め、フィルムの形成が見られた。同時に発酵液に特徴ある香味を呈した。 発酵後のコーヒー果実を発酵液から取り出し、水切りしたのち、55℃の乾燥器で48時間乾燥させた後、果皮を取り除き、6種類のコーヒー生豆を取得した。得られた各コーヒー生豆のうち100gを家庭用全自動珈琲豆焙煎機(CRPA−100 トータス株式会社)で深煎りボタン操作により焙煎した。焙煎時間は約25分程度であった。 次いで、コーヒー官能専門のパネラー5名によって、上記6種類の焙煎豆の官能評価を行った。各焙煎豆30gを粉砕せずにそのままの形状で専用の官能グラスに入れ、ガラスの蓋をした。官能時に蓋をずらし、醸造香、エステリー香、焙煎香、アルコール臭の4種類を評価した。ワイン酵母で発酵させた焙煎豆を対照区として、それより大きい数字が強い、小さい数字が弱いことを示すこととして、1点から5点までを0.1点刻みで評価した。5名の評価点の平均値で表した(表1)。 ワイン酵母を用いた対照区では、醸造香が強く、やや強いアルコール臭が感じられたが、ゲオトリクム(Geotrichum)属の各菌株を用いた場合は、醸造香やアルコール臭のような異臭は感じられず、フレッシュな果実を連想させるような軽いエステリー香が付与されていることがわかった。近縁のアスペルギルス(Aspergillus)を用いた場合には、香りの強度はある程度得られたものの、華やかさに欠ける香りであり、コーヒーとしてのバランスの良い風味は得られなかった。 (焙煎豆の香気成分の評価) ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて香気成分を分析した。上記実施例2にて得られた6種類の各焙煎豆を粉砕せずにそのままの形状でGC用サンプルチューブに5gずつ入れ、ヘッドスペースの気体を測定した。実験サンプルの他に分析値を比較するためにブラジル産サントス豆(焙煎豆)(No.2)(以下の表にて、ブラジル産と称する)を用いた。装置は「Agilent 7694 HeadspaceSampler」「Agilent6890 GC System」を用いた。試料導入は60℃、15分保持、スプリット10:1、使用カラムはCP7673wax(長さ25mm×内径0.25mm、膜厚1.2μm)とした。温度条件は40℃5分保持、10℃/分で220℃まで昇温し、220℃で20分間保持した。検出器としてMSD、FIDを用いた。 発酵処理工程に特徴のあるエステルとアルコールの分析結果を以下の表2に示す。酢酸メチル、酢酸エチル、エタノールは、ブラジル産サントス豆(焙煎豆)にも検出されるが、ワイン酵母、及びゲオトリクム(Geotrichum)属の各種菌株を用いて発酵させたサンプルで顕著に多く検出された。ワイン酵母のサンプルでは、上記3つの成分量が突出していることからもわかるように、アルコール臭が強かったり、醸造香が多くなり、バランスを崩していることがわかった。 一方、ゲオトリクム(Geotrichum)属の各種菌株を用いて発酵させたサンプルでは、ワイン酵母に顕著に検出された、醸造香に関係すると考えられるピークが減少し、バランスの良い成分組成となっていることがわかった。近縁のアスペルギルス(Aspergillus)を用いた場合は酢酸メチルが強すぎることが、香りのバランスの悪いことの一因であると考えられた。 (コーヒー抽出液の官能評価) 上記実施例2にて得られた6種類の各焙煎豆を用いてコーヒー抽出液を調製した。上記各焙煎豆を細挽きにし、粉砕豆12gに対して熱湯を100g加えて攪拌した。カップテストの定法に従って、浮き上がったコーヒーを取り除き、上澄み液の官能評価を行った。コーヒー専門パネラー5名により実施した。評価項目は、香り(醸造香、エステリー香、アルコール臭)及び味(苦味、ボディ感)の5種類とした。評価結果を以下の表3に示す。対照区としては、ワイン酵母の発酵液を用いた。対照区の評価を3として、それより大きい数字が強い、小さい数字を弱いことを示すこととして、1点から5点までを0.1点刻みで評価した。評価点の平均値で表した。 (コーヒー抽出液の香気成分) 上記実施例4にて得られた各抽出液10mlをGC用サンプルチューブに入れてGC分析を行った。ほかの測定条件は前述の実施例3の方法に準じた。結果を以下の表4に示す。 上記実施例3の焙煎豆の場合と同様に、ワイン酵母を用いた発酵では、エステル類やエタノールの揮発量が多すぎて、バランスを崩し、アルコール臭の原因となっていると考えられた。しかしながら、ゲオトリクム(Geotrichum)を用いた水準では、いずれもその量が押さえられており、バランスが改善されていた。この程度の量であれば、標記以外の香気成分の邪魔することなく、華やかでリッチなコーヒーらしいアロマを持った優秀な豆が創製できたと考えられる。 以上より、SAM2421の属するゲオトリクム(Geotrichum)属の各種細菌を用いて、コーヒー生豆の発酵処理を行うことで、好適な香りを付与できることがわかった。 市販のゲオトリクム属の菌株を用いて試験した。 菌株として、クリスチャンハンセン(Chrstian Hansen)社がチーズ製造におけるスターターとして販売しているゲオトリクム キャンディダム(Geotrichum candidum)に属する、GEO CA(アイテム番号200691)、GEO CB(アイテム番号200692)、GEO CD1(アイテム番号200693)、および、GEO CE(アイテム番号200835)の4株を用いた。尚、対照区として、ワイン酵母(L2323)を用いた。 これら5種類の株をそれぞれ0.1g量り取り、水に縣濁し、さらに水を加えて希釈して1000mlとした。三角フラスコ(5000ml容)に、前記各希釈液1000mLと、コーヒー果実1000gとを加えて発酵させた。発酵は室温を23℃に保った恒温室で静置し72時間行った。発酵が進むにつれ、果実の懸濁液表面に菌糸状に生育し始め、フィルムの形成が見られた。同時に発酵液に特徴ある香味を呈した。 発酵後のコーヒー果実を発酵液から取り出し、水きりした後、55℃の乾燥機で48時間乾燥させた後、果皮を取り除き、5種類のコーヒー生豆を取得した。得られた各コーヒー生豆のうち100gを家庭用全自動珈琲焙煎機(CRPA−100 トータス株式会社)で深煎りボタン操作により焙煎した。焙煎時間は25分程度であった。次いで、実施例2に方法に準じて、官能評価を行った(表5)。 ワイン酵母を用いた対照区では、醸造香が強く、やや強いアルコール臭が感じられたが、ゲオトリクム(Geotrichum)属の各菌株を用いた場合は、醸造香やアルコール臭のような異臭は感じられず、フレッシュな果実を連想させるような軽いエステリー香が付与されていることがわかった。 更に、上記各焙煎豆を用いてコーヒー抽出液を調製した。各焙煎豆を細引きにし、粉砕豆12gに対して熱湯を100g加えて攪拌した。得られたコーヒー抽出液について、実施例4の方法に準じて官能評価を行った(表6)。 上記焙煎豆の場合と同様に、ワイン酵母を用いた対照区では、醸造香が強く、やや強いアルコール臭が感じられたが、ゲオトリクム(Geotrichum)属の各菌株を用いた場合は、醸造香やアルコール臭のような異臭は感じられず、フレッシュな果実を連想させるような軽いエステリー香が付与されていることがわかった。また、味については、対照区に比較して、いずれもボディー感が付与されていた。 以上より、市販のゲオトリクム(Geotrichum)属の各種細菌を用いることでも、コーヒー生豆の発酵処理を行うことで、好適な香りを付与できることがわかった。 実施例1で得られたSAM2421株を用いて、直接法による発酵を行った。SAM2421株を赤葡萄濃縮液(マスト)を用いて27℃で3日間通気培養した。遠心分離(3000rpm、10min)して上澄み液を除去した後、ペレットを水に縣濁したものを調製した。5000ml容のフラスコにコーヒー果実1000gを入れ、懸濁液20mlをふりかけ、よく攪拌した。アルミホイルで蓋をして、室温(23℃〜30℃)で3日間発酵させた。発酵が進むにつれて若干の果汁が底部にたまった。果実の表面には、SAM2421株が白く毛羽立って増殖している様子が観察され、容器内はフルーティな発酵香気で満たされていた。 発酵終了後、水切りした後、55℃の乾熱器で48時間乾燥させた後、果皮を取り除き、コーヒー生豆を取得した。得られたコーヒー生豆のうち100gを家庭用全自動珈琲焙煎機(CRPA−100 トータス株式会社)で深煎りボタン操作により焙煎した。焙煎時間は25分程度であった。 次いで、コーヒー官能専門パネラー5名によって、焙煎豆の官能評価を行った。焙煎豆30gを粉砕せずにそのままの形状で専用の官能グラスにいれ、ガラスの蓋をした。官能時に蓋をずらし、醸造香、エステリー香、焙煎香、アルコール臭の4種類を評価した。対照区として、SAM2421株を用いて間接法で発酵させた焙煎豆(実施例2にて得られた焙煎豆)を用いた。それより大きい数字が強い、小さい数字が弱いことを示すことにして、1点から5点までを0.1点刻みで評価した。5名の評価点の平均値であらわした。結果を表7示す。 更に、上記焙煎豆を用いてコーヒー抽出液を調製した。焙煎豆を細引きにし、粉砕豆12gに対して熱湯を100g加えて攪拌した。カップテストの定法に従って、浮き上がったコーヒーを取り除き、上澄み液の官能評価を行った。コーヒー専門パネラー5名により実施した。評価項目は、香り(醸造香、エステリー香)、味(苦味、ボディ感)の4種類とした。対照区として、SAM2421株を用いて間接法で発酵させた焙煎豆から得られたコーヒー抽出液(実施例4で得られたコーヒー抽出液)を用いた。それより大きい数字が強い、小さい数字が弱いことを示すこととして、1点から5点までを0.1点刻みで評価した。評価点の平均値で示した。結果を表8示す。 表7および表8の結果にから、実施例2や実施例4にて良好な結果を示した対照区に比較しても、直接法によって、更に華やかでリッチなコーヒーらしいアロマを持った優秀な豆が創製できることが分かった。 また、得られた焙煎豆について、実施例3の方法に準じて、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。その結果、間接法による対照区に比較して、直接法による焙煎豆のトータルピークエリアは1.6倍であった。上述の焙煎豆やコーヒー抽出液の官能評価結果と合わせて考えると、直接法を用いることによって、バランスを崩すことなく、良好な品質の高い香味を効率よく付与できることが確認された。 本発明は、精製や焙煎といったコーヒー果実の加工処理業を始めとして、本発明によって処理されたコーヒー生豆の焙煎豆から種々の製品(レギュラーコーヒー、インスタントコーヒー、缶コーヒー、コーヒーアロマ等)を製造する、コーヒー飲料類の製造業においても非常に有用であり、このような産業のさらなる発展に寄与し得るものである。 コーヒー生豆の存在下において、資化成分に微生物を接触させて発酵処理させる発酵工程を包含するコーヒー生豆の処理方法であって、 前記発酵工程において使用される微生物が、ゲオトリクム キャンディダム(Geotrichum candidum)(IAM12700、GEO CA(アイテム番号200691)、GEO CB(アイテム番号200692)、GEO CD1(アイテム番号200693)、及びGEO CE(アイテム番号200835))、ゲオトリクム レクタングラタム(Geotrichum rectangulatum)(JCM1750)、ゲオトリクムクレバニ(Geotrichum klebahnii)(JCM2171)、及び国際寄託番号FERM BP−10300を有するゲオトリクムスピーシーズ(Geotrichum sp.)の新菌株からなる群から選択される微生物であるコーヒー生豆の処理方法。 前記発酵工程が、コーヒー果実の存在下において微生物に発酵処理させる工程である請求項1に記載のコーヒー生豆の処理方法。 前記コーヒー果実に微生物を直接接触させて発酵処理させる請求項2に記載のコーヒー生豆の処理方法。 請求項1〜3のいずれか1項に記載される処理方法により得られたコーヒー生豆。 請求項4に記載されるコーヒー生豆を焙煎処理したコーヒー焙煎豆。 請求項5に記載されるコーヒー焙煎豆を原料として用いて得られたコーヒー飲料。 国際寄託番号FERM BP−10300を有するゲオトリクムスピーシーズ(Geotrichum sp.)の新菌株。配列表