タイトル: | 公開特許公報(A)_小麦粉製品観察方法 |
出願番号: | 2007324212 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | G01N 33/03 |
芦田 祐子 JP 2008122401 公開特許公報(A) 20080529 2007324212 20071217 小麦粉製品観察方法 不二製油株式会社 000236768 芦田 祐子 G01N 33/03 20060101AFI20080502BHJP JPG01N33/03 4 3116400 20050728 OL 6 本発明は、グルテン骨格,油滴,澱粉粒の観察の為の方法に関する。 小麦粉に油脂を添加した製品は、スポンジ,ドーナツ,ビスケット,クッキー,パイ,パンなど多岐に及んでおり、日常生活に欠かせない物である。しかし、その物性は、小麦粉の品種,油脂の組成や添加量,各種の添加物,生地の加工方法,周囲の温度環境等、多くの影響を受ける事も知られている。 小麦粉製品の物性は、生地強度変化をエキソテンソングラグやアミログラフを用いて、焼成時の膨らみを体積(比容積)として、焼成物の破断強度をレオナーを用いて測定する事が一般に行なわれている。これら物理的な物性の測定は、小麦粉製品の特性を良く把握できる一方、その原因に関する情報までを得る事はできていない。 一方、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて、食品の微細構造からその物性を考察する検討が行われている。[非特許文献1]には、バターロールの脂質,蛋白質をそれぞれ染色し、グルテン骨格と物性との関係を述べている。しかし、脂質,蛋白質はそれぞれ別試料として染色・観察されている事から、両者の直接的な関係が判らず、グルテン骨格の変化の理由までは示されていない。 また、[非特許文献2]には、税関でのチーズ種判別の為に、チーズ中の蛋白質と脂質を二重染色する方法が開示されている。しかし、専用の設備が必要なチオニン・シッフ試薬を用いる上に、グルテン等の蛋白質骨格については、何等示されていない。 他に、小麦粉製品に対して二重染色を行ない、微細構造を検討した報告は存在しない。家政学雑誌 Vol. 31, No.9, 648-652,1980ミルクサイエンス 51(1): 33-37,2002 本発明の目的は、小麦粉製品の性質を判定する為に、グルテン骨格,油滴,澱粉粒の状態を容易に観察する方法を提供する事である。 本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、小麦粉と油脂から成る食品素材に対し、脂質と蛋白質をそれぞれ別色に染色する二重染色を行なう事で、グルテン骨格,油滴,澱粉粒の状態を光学顕微鏡により明確に捉える事ができるとの知見を見出し、本発明を完成させた。 即ち、本発明は(1)脂質と蛋白質をそれぞれ異なる染色液で別色に染色する二重染色を行なう事で、小麦粉と油脂から成る食品あるいは食品素材の、グルテン骨格,油滴,澱粉粒の状態を同時に観察する方法。(2)脂質に対する染色液がオイルレッドOである、(1)に記載の観察方法。(3)蛋白質に対する染色液がヘマトキシリンである、(1)に記載の観察方法。である。(4)小麦粉と油脂から成る食品あるいは食品素材の、グルテン骨格,油滴,澱粉粒の状態を同時に観察する為の、脂質に対する染色液と、蛋白質に対する染色液から成る、染色液キット。 本発明を用いると、小麦粉と油脂から成る食品素材のグルテン骨格,油滴,澱粉粒の存在状態が容易に観察でき、その構造から小麦粉製品の物性を想定する事ができる様になり、小麦粉製品の細かな調製条件の設定を検討する事が可能になる。 以下、本発明を具体的に説明する。(染色液) 本発明で用いる染色液は、二重染色の為の脂質系染色液と蛋白質系染色液から成る。脂質系染色液にはスダンブラック,スダンIII,ナイルブルー,オイルレッドO等、いずれを用いることもできるが、後洗浄が水で済む簡便さから、オイルレッドOが好ましい。 蛋白質系の染色液は、ヘマトキシリン,エオジン,ポンソー2R,クマシーブルー等、いずれを用いることもできるが、後洗浄が水で済み、更にオイルレッドO(赤色)と対比する際の色調からも、青色に染色するヘマトキシリンを用いる事が好ましい。 これら両染色液を用いる処理は、ドラフト等の特殊な設備を必要としないため、簡便な設備のみで試料の観察が可能である。また、この2液のみを用いた染色キットとして完成する事もできる。更に、オイルレッドOとヘマトキシリンを用いた場合、後洗浄は水のみで済むため、より簡便に観察する事が可能となる。 これら染色液をキットとして用いる場合、染色液容器は特にその形状は問わず、瓶,アンプル,不定形の容器等、何れの容器を用いることができる。以上の様な、脂質に対する染色液と、蛋白質に対する染色液の2液を用いて、食品素材のグルテン骨格,油滴,澱粉粒の状態を同時に観察することができる。(対象物) ここで対象とする小麦粉に油脂を添加した製品とは、スポンジ,ドーナツ,ビスケット,クッキー,パイ,パンなどの、種々の小麦粉製品を用いることができる。使用する小麦粉は、通常の強力粉,中力粉,薄力粉,デュラム小麦粉など、その種類は問わない。添加する油脂としては、各種の動植物油、これらを水素添加やエステル交換,溶剤分別により改質した油脂、或いはこれら油脂の混合物であり、形態も液油やショートニング,マーガリン,水中油型乳化物等、特に問わない。(試料の調製) 小麦粉に油脂と水、更には糖質や各種の添加物を加え、これを練って生地を作成する。生地は寝かせ或いは発酵させた後に成形し、焼成を行なう。焼成前の生地も、焼成品も、本発明は適用する事ができる。(前処理) これら試料についての観察は、透過型の光学顕微鏡,実体顕微鏡,高解像度のスキャナ等を用いることができるが、透過型の光学顕微鏡が最も好ましい。光学顕微鏡で観察する為には、試料をそのまま押しつぶしたり、あるいは試料切片を作成する必要がある。試料切片は、試料をそのまま、あるいは樹脂等で包埋し、さらに/または凍結法により作成する。手作業で切片とすることも可能であるが、ミクロトーム等を使用すれば、薄い切片を作成でき好ましい。包埋材としてはパラフィン,CMC,O.C.T.Compound(Tissue-Tek),Tissue Freezing Medium(Jung)等があり、また切片の試料厚は0.5μm〜20μmが好ましく、1〜10μmが更に好ましい。これより薄いと強度的に観察が困難であり、厚いと視認性が悪化する。(染色) 前処理を行った試料は、上記染色液を用いて染色を行なう。試料を染色液に規定時間浸し、水洗を行ない、次の染色液に規定時間浸す。浸す順番は特に問われない。時間が短いと染色が十分に行なわれない。また、両染色液を調製後乃至使用直前に混合し、2種の染色を同時に行なう事も可能であるが、2液を個別に用いて二段階の染色を行なった方が、より明確な顕鏡像を得る事ができる。(観察) 染色が終わった試料を観察する。小麦粉製品に対して上記染色液を用いて、脂質,蛋白質の二重染色を行なうと、脂質である油滴と、蛋白質であるグルテン骨格が明確に観察され、その間を埋める澱粉粒も確認が可能であり、小麦粉製品の物性に関する知見を得る事が出来る。 具体的には、小麦粉製品のグルテン骨格を観察することで、油滴等によるグルテン骨格の切断若しくは萎縮の状態が観察できる。そこで、この現象を回避するように小麦粉製品の配合や処理を検討する事で、より品質の高い小麦粉製品の調製が可能となる。 以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。(ヘマトキシリン染色液の調製) ヘマトキシリン5g、ヨウ素酸ナトリウム0.5g、硫酸アルミニウム35g、エチレングリコール250mlに水750mlを加え溶解させ、ヘマトキシリン液を調製した。(オイルレッドO染色液の調製)オイルレッドO 0.5gをイソプロピルアルコール100mlに加え、飽和溶液とする。この飽和溶液に等量の蒸留水を加え、混合後に放置し、10分後に濾過した濾液をオイルレッドO染色液とした。(試料の調製) 以下の配合でパンを調製した。即ち、パン用小麦粉100部にショートニング10部,食塩1.2部,上白糖13部,イースト5部,水63部を加え、パン生地を調製した。35℃で1時間発酵させ、続けて上火/下火を220/190℃で12分間焼成してパンを作成した(調製例1)。また、調製例1のショートニングを20部、水を58部とし、同様にパンを調製した(調製例2)。焼成後の体積を比較すると、調製例1に対して油脂配合の多い調製例2は76%しかなく、膨化の少ない硬い組織であった。(実施例1) 上記のパンを1.5cm角に切断し、コンパウンド(5%CMC)で包埋後にミクロトームで5μmの凍結切片を作成した。凍結切片にオイルレッドO染色液を滴下し、2分染色した。蒸留水で2回洗浄し、続けてヘマトキシリン染色液で2分間染色した。蒸留水で洗い、5分間放置後、更に蒸留水で洗い、25%グリセリンで封入した。(比較例1) 実施例1と同様に調製染色を行った。但し、凍結切片は1試料2枚とし、1枚はオイルレッドO染色液のみで、他方はヘマトキシリン染色液のみで染色を行った。(観察) 以上の様に調製したプレパラートを光学顕微鏡にて、対物レンズ10倍〜40倍で観察した所、実施例1で調製した試料は、油脂は赤色の油滴として、グルテン蛋白質は青色のネットワークとして、澱粉粒は輪郭が強調されて確認する事ができた。油脂量を変えた比較では、油脂を20%と過剰量加えた調製例2は、油脂が10%と少ない調製例1に対し、油滴の存在によりグルテンの骨格が委縮していた。過剰の油脂がある事でグルテンの構造が脆くなり、焼成時にガスが抜け、膨らみが少ない硬い組織となった事が解った。 対して、比較例1で調製した試料は、油滴、グルテン骨格それぞれが染色されていたが、両成分の関係を直接比較するには、更なる設備と煩雑な操作が必要であり、この状態では、グルテン骨格の構造差についての考察までは行えなかった。 小麦粉製品中のグルテン骨格の状態を容易に把握する事で、小麦粉製品の製造に於て、その品質の保持や向上を行なう事が出来る。2液を含んだ染色キットの図。脂質と蛋白質をそれぞれ異なる染色液で別色に染色する二重染色を行なう事で、小麦粉と油脂から成る食品あるいは食品素材の、グルテン骨格,油滴,澱粉粒の状態を同時に観察する方法。脂質に対する染色液がオイルレッドOである、請求項1に記載の観察方法。蛋白質に対する染色液がヘマトキシリンである、請求項1に記載の観察方法。小麦粉と油脂から成る食品あるいは食品素材の、グルテン骨格,油滴,澱粉粒の状態を同時に観察する為の、脂質に対する染色液と、蛋白質に対する染色液から成る、染色液キット。 【課題】小麦粉製品の性質を判定する為に、グルテン骨格,油滴,澱粉粒の状態を容易に観察する。 【解決手段】脂質と蛋白質をそれぞれ異なる染色液で別色に染色する二重染色を行なう事で、小麦粉製品中のグルテン骨格,油滴,澱粉粒の状態を光学顕微鏡により明確に捉える事ができる。またこの観察のための、脂質に対する染色液と、蛋白質に対する染色液から成る、染色液キットを提供する事もできる。【選択図】なし