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タイトル:公開特許公報(A)_低濃度エタノール試料の同位体比分析方法
出願番号:2007323462
年次:2011
IPC分類:G01N 27/62,G01N 30/88,G01N 1/10


特許情報キャッシュ

服 部 良 太 伊 藤 勇 二 吉 田 尚 弘 山 田 桂 太 JP 2011043329 公開特許公報(A) 20110303 2007323462 20071214 低濃度エタノール試料の同位体比分析方法 キリンホールディングス株式会社 000253503 吉武 賢次 100075812 中村 行孝 100091487 紺野 昭男 100094640 横田 修孝 100107342 伊藤 武泰 100111730 服 部 良 太 伊 藤 勇 二 吉 田 尚 弘 山 田 桂 太 G01N 27/62 20060101AFI20110204BHJP G01N 30/88 20060101ALI20110204BHJP G01N 1/10 20060101ALI20110204BHJP JPG01N27/62 VG01N30/88 AG01N30/88 CG01N1/10 CG01N27/62 CG01N27/62 F 10 3 OL 13 2G041 2G052 2G041CA01 2G041EA06 2G041EA12 2G041FA05 2G041FA07 2G041FA22 2G041FA23 2G041FA25 2G041HA01 2G041JA02 2G041LA08 2G041MA05 2G052AA24 2G052AB11 2G052AD26 2G052ED03 2G052GA27 2G052JA07 2G052JA09発明の背景発明の分野 本発明は、低濃度エタノール試料の同位体比分析方法に関する。詳しくは、本発明は、ヘッドスペース固相マイクロ抽出(SPME)法を利用した、低濃度エタノール試料の迅速な同位体比分析方法に関する。さらに本発明は、被検体溶液中のエタノールの原料またはその由来を特定する方法に関する。背景技術 従来、試料中に含まれる炭素、水素、酸素、窒素等の安定同位体比の分析は、乾燥試料を石英管に封管・燃焼し、生成したガスを真空ラインを用いて精製し、必要に応じて各同位体比を測定する手法(封管燃焼法)が用いられていた。 現在では、元素分析計−同位体比質量分析計(EA−IRMS)や、熱分解/元素分析計/同位体比質量分析計(TC/EA−IRMS)を用いて、各ガスへの変換・精製・同位体比測定をオンラインで行う手法が一般的となっている。さらに、ガスクロマトグラフィーと同位体比質量分析計を接続した、ガスクロマトグラフ−燃焼−同位体比質量分析計(GC−C−IRMS)が開発され、試料中の特定成分の同位体比を効率的に測定することが可能となっている(例えば、J. R. Brooks et al., J. Agiric. Food. Chem., 50, 6413-6418(2002)(非特許文献1)および、M. Berg et al., Anal. Chem., 79, 2386-2393(2007)(非特許文献2))。 一方で、炭素の安定同位体比(δ13C)の測定により、C3植物、C4植物、およびCAM植物を区別し得ることが知られている。特開2003−194778号公報(特許文献1)には、炭素の安定同位体比(δ13C)の測定を利用して、食品の炭素安定同位体比を測定し、食品中の原料を特定する技術が提案されている。 エタノールは、食品、飲料、および燃料等の材料または含有成分として非常に重要な有機化合物である。食品および飲料中に含まれるエタノール同位体比を正確に測定することが可能となると、エタノールの原料情報を知ることができ、その結果、エタノールの偽和判別、エタノールまたはその原料の産地の推定、さらには、不純物として混入したエタノールの起源推定等が可能となると期待される。 エタノールの同位体比の分析法としては、ワイン等のアルコール飲料を蒸留し純粋なエタノールを単離した後、同位体比分析を行う方法が知られている(例えば、K. Ishida-Fujii et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 69 (11), 2193-2199(2005)(非特許文献3))。 例えば、特開2005−130755号公報(特許文献2)には、蒸留したエタノールの同位体比分析によって、その原料植物種及び栽培地を特定しようとする技術が開示されている。しかしながら、蒸留時の同位体比分別が起こるため、これを防ぐ目的で、高回収率で蒸留を行うことが求められ、このような蒸留操作は、煩雑で時間の掛かる手法となってしまう。また、蒸留によってエタノールの多少の減失が生ずるため、同位体比分析を行う前に蒸留操作を行う方法は、低濃度試料の分析には不向きである。 また、例えば、文献 K. Yamada et al., Rapid commun. Mass Spectrom., 21, 1431-1437(2007)(非特許文献4)には、固相マイクロ抽出(SPME)ファイバーを試料液中に浸して試料中のエタノールを抽出し、ガスクロマトグラフ−燃焼−同位体比質量分析計(GC−C−IRMS)によりエタノールの同位体比を分析する手法が報告されている。この方法は、SPMEファイバーを試料溶液中に直接浸すため、ファイバーへのエタノールの吸着を迅速に(約20分)行うことができ、その結果、迅速な分析が可能である。しかしながら、SPMEファイバーを試料溶液中に直接浸すことは一方で、水やその夾雑成分の妨害を受け易いと考えられ、抽出効率の低下も懸念される。またこの文献においては測定しようとする対象も、飲食品中のエタノールではない。飲食品による試料は、粘性が高い場合もある上、通常、夾雑成分が多く、測定の際、夾雑成分はしばしばエタノールとピークが重なり、正確な同位体分析をすることは容易ではないと考えられる。 文献 B. O. Aguilar-Cisneros et al., J. Agiric. Food. Chem., 50, 7520-7523(2002)(非特許文献5)には、テキーラに含まれるエタノールの炭素および酸素同位体を、ヘッドスペース(HS)−SPME−HRGC−IRMS法により測定したことが報告されている。しかしながら、ここでは、試料のエタノール濃度が30%以上でなければ正確な同位体比が得られないと明確に記載されており、試料としてのテキーラからのエタノールの抽出に12時間もの長時間を要している。このためルーチンによる測定法に応用するのは難しいと考えられる。さらにこの文献では同位体分別による影響による問題やその影響をどのように排除するかについて、何ら記載もなく、当然ながら検討もされていない。 このように、K. Yamada et al.の文献(非特許文献4)に記載の方法によれば、エタノール同位体比分析において、迅速な測定は可能であるが、分析可能濃度としては未だ向上の余地を残しており、また飲食品中のエタノール同位体比分析に対しては不向きであることが予測された。一方、B. O. Aguilar-Cisneros et al.の文献(非特許文献5)によれば、比較的高い濃度のエタノール溶液であれば、そのエタノール同位体比分析を正確に行うことが可能であるが、抽出に長時間を要するため、迅速な分析は困難であった。すなわち、従来の方法では、エタノール低濃度試料の同位体比を、迅速に、かつ正確に高感度に分析することは依然として困難であり、そのような方法の開発が依然として求められていたと言える。特開2003−194778号公報特開2005−130755号公報J. R. Brooks et al., J. Agiric. Food. Chem., 50, 6413-6418(2002)M. Berg et al., Anal. Chem., 79, 2386-2393(2007)K. Ishida-Fujii et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 69 (11), 2193-2199(2005)K. Yamada et al., Rapid commun. Mass Spectrom., 21, 1431-1437(2007)B. O. Aguilar-Cisneros et al., J. Agiric. Food. Chem., 50, 7520-7523(2002)発明の概要 本発明者等は今般、被検体溶液に含まれるエタノールの同位体比を分析する方法として、目的揮発成分であるエタノールの抽出を、ヘッドスペース−固相マイクロ抽出(HS−SPME)法で行い、得られたサンプルを、ガスクロマトグラフ−燃焼−同位体比質量分析計(GC−C−IRMS)に付して、同位体比を質量比で求める方法を検討したところ、同位体分別に伴い生じる影響を較正することによって、驚くべきことに、高い分析精度を維持しつつ、ヘッドスペースSPMEによる前処理時間を大幅に短縮することに成功した。すなわち、低濃度エタノール試料の同位体比分析方法において、迅速な分析と、正確な分析を両立させることに成功した。また測定の際に、同位体分別が、液相−気相間、および気相−ファイバー間で起こっていることが判明したが、この同位体分別に伴い生じる影響を、同位体既知サンプルより得られた基準値を用いて較正することによって、容易に排除でき、正確な同位体比の値を得ることに成功した。さらに、このような方法を適用することによって、環境試料や、飲食品、特に低アルコール飲料等のエタノール低濃度試料についても、高精度かつ高感度でエタノールの同位体比を分析することが可能となった。本発明はかかる知見に基づくものである。 よって本発明は、飲食品等中の低濃度エタノール試料中のエタノール同位体比を、高精度かつ高感度で、迅速かつ正確に、容易に分析可能な方法の提供をその目的とする。 本発明による被検体溶液に含まれるエタノール中の安定同位体比の迅速分析方法は、被検体溶液を、密閉容器中にヘッドスペースとして気相部分を残して密閉し、該気相部分に固相マイクロ抽出(SPME)ファイバーを挿入して、被検体溶液中のエタノールを吸着時間約1時間以内として吸着させることによってサンプルを得、該サンプルをガスクロマトグラフ−燃焼−同位体比質量分析計(GC−C−IRMS)に付して、エタノールの同位体比を質量比として得、これを、同位体既知サンプルより得られた基準値と対比することを特徴とするものである。 本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明の分析方法は、エタノールの同位体比と、基準値とを対比し、気相−液相間および気相-ファイバー間で生じる同位体分別の影響を較正することをさらに含んでなる。 本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明の分析方法において、分析するエタノール同位体比は、炭素同位体比である。より好ましくは、該炭素同位体比を、二酸化炭素の質量比に基づいて測定する。 本発明の別の一つの好ましい態様によれば、本発明の分析方法においては、密閉容器にSPMEファイバーを挿入して、被検体溶液から気相に移動させたエタノールを吸着させることによってサンプルを得る操作を、オートサンプラーを用いて行う。 本発明の一つのより好ましい態様によれば、本発明の分析方法において、被検体溶液は、飲食品またはそれを溶液化したものである。さらに好ましくは、該飲食品は、アルコール飲料であり、さらにより好ましくは、該アルコール飲料は発酵麦芽飲料またはビール様飲料である。 本発明の別の態様によれば、本発明による分析方法により、被検体溶液に含まれるエタノールの同位体比を得、 これを、材料の植物種、植物品種、もしくはその産地が既知のサンプル、または既存製品からのサンプルから得られたエタノールの同位体比の値と比較することを含んでなる、被検体溶液中のエタノールの原料またはその由来を特定する方法が提供される。 本発明によれば、飲食品等のエタノール低濃度試料中のエタノール同位体比を、高感度で、迅速かつ正確に、容易に分析することが可能となる。本発明の方法を利用することで、エタノールの原料情報を知ることができ、その結果、エタノールの偽和判別、エタノールまたはその原料の産地の推定、さらには、不純物として混入したエタノールの起源推定等が可能となる。このため、本発明は、製品の安全性の向上や、製品の品質管理、さらにはトレーサビリティーの検証等に貢献し得るものである。発明の具体的説明 本発明による分析方法は、前記したように、被検体溶液に含まれるエタノールの同位体比の迅速分析方法であって、被検体溶液を、密閉容器中にヘッドスペースとして気相部分を残して密閉し、該気相部分に固相マイクロ抽出(SPME)ファイバーを挿入して、被検体溶液中のエタノールを吸着時間約1時間以内として吸着させることによってサンプルを得、該サンプルをガスクロマトグラフ−燃焼−同位体比質量分析計(GC−C−IRMS)に付して、エタノールの同位体比を質量比として得、これを、同位体既知サンプルより得られた基準値と対比することを特徴とするものである。 本発明において、「同位体比」における「同位体」とは、エタノール中に含まれる元素の同位体、すなわち、炭素、水素、酸素の同位体(13C、17O、18O、重水素原子(D)、三重水素原子(T)等)をいい、好ましくは炭素の安定同位体、より好ましくは13Cをいう。 また本発明において「同位体比」とは、安定同位体比(δ)として求められるものを意味し、具体的には、標準試料に対する千分偏差(‰)として、下式(1)により求めることが出来る。 δ=[(R(試料)/R(標準試料))−1]×1000 (‰) ・・・・ (1) [ここで、Rは被検試料と標準試料の同位比を意味する。標準試料としては国際的な比較を可能にするため、通常、国際標準試料を使用する。具体的には、測定する同位体が、炭素である場合にはPDB(米国サウスカロライナ州Pee Dee Belemnite(CaCO3)を使用し、酸素である場合にはSMOW(標準平均海水(Standard Mean Ocean Water))を使用することができる。なお、PDBおよびSMOWについては必要により、国際原子力機関(IAEA)が作成した代替の標準試料を使用しても良い。] 「被検体溶液」とは、測定することが望まれる飲食品自体、またはそれを必要に応じて溶液化した溶液をいう。ここで、飲食品としては、エタノールを含むか、そこから抽出することができるものであれば、特に制限はないが、清涼飲料(例えば、茶飲料やジュース類)、アルコール飲料、果汁および果実等が含まれる。清涼飲料や、果汁等は、アルコール飲料ではないため、基本的にはエタノールを含まないが、不純物混入や、発酵等により、極僅かなエタノールが混入したり、生成したりする場合がある。本発明によれば、このような極微量なエタノールの同位体比も正確に分析することができる。 また溶液化とは、例えば飲食品が液体でない場合には、それを粉砕して水に懸濁させそこからろ過等により抽出して溶液を得るなどの処理を言う。また被検体溶液は、飲食品自体またはそれを溶液化したものの濃度や粘度が測定に適さない場合には、必要に応じてさらに、水や飽和食塩水等の測定に影響を及ぼさない液体を加えてさらに希釈等をしてもよい。例えば、飲食品がビール等のアルコール飲料である場合には、エタノール濃度が0.08mMとなるように飽和食塩水で希釈することができる。 本発明の好ましい態様によれば、「飲食品」はアルコール飲料である。アルコール飲料としては、例えば、発酵麦芽飲料、ビール様飲料、日本酒、チューハイ、焼酎、ワイン、ウイスキー等が挙げられる。より好ましくは、アルコール飲料は、発酵麦芽飲料またはビール様飲料である。 ここで、「発酵麦芽飲料」とは、麦芽を用いて得られた加ホップ麦汁を主成分とする原料を、発酵させることによって得られる飲料をいい、例えば、ビール、発泡酒等が挙げられる。また、「ビール様飲料」には、「発酵麦芽飲料」以外の飲料であって、発酵麦芽飲料と同等な風味または類似した風味を持たせたアルコール飲料であって、穀物を原料とする発酵飲料などが挙げられる。具体例として、大豆やエンドウ豆のような豆類由来成分とホップとを原料として発酵させることによって得られる飲料(いわゆる、酒税法上「その他雑酒2」に分類されるアルコール飲料を包含する)などが挙げられる。 またここでいう「飲食品」には、製品としての飲食品が含まれることは当然として、該飲食品を製造する過程における半製品の状態のものや、飲食品の評価の際等に調製されたコントロール溶液等も包含される。 前記したように、本発明によれば、エタノール低濃度試料中のエタノール同位体比を高高感度で、迅速かつ正確に分析することができる。ここで、「低濃度」とは、例えば、試料溶液中のエタノール濃度が1mM以下、好ましくは0.01〜1mM、より好ましくは0.01〜0.1mM、さらに好ましくは約0.08mMの場合を言う。本発明はこのような低濃度のエタノール試料における同位体比分析に、好ましく使用できるものである。 また「迅速」に分析できるとは、ヘッドスペース固相マイクロ吸着法におけるヘッドスペース部におけるエタノールのファイバーへの吸着時間が、例えば、約1時間以内、好ましくは45〜60分、より好ましくは約50分である。吸着時間は例えば40〜110分程度に設定しても良いが、迅速化と高感度化とを両立させる観点からは、約50分となるのが最も好ましいと言える。このように吸着時間を確保することで、低濃度エタノール試料の同位体比を正確に分析することができる。さらに、本発明の方法は、この迅速性と処理の簡便性のため、オートサンプラーを使用した測定法により測定を行うことが可能である。 本発明においては、被検体溶液からのエタノールの抽出は、ヘッドスペース−固相マイクロ抽出(HS−SPME)法に従い実施する。ここで、HS−SPME法は、慣用のHS−SPME用の装置・器具であればいずれのものにおいても実施することができる。したがって、本発明においては、市販のHS−SPME用の装置・器具を適宜選択し、使用することができる。また本発明におけるガスクロマトグラフ−燃焼−同位体比質量分析法(GC−C−IRMS法)も、慣用のガスクロマトグラフ−燃焼−同位体比質量分析装置(GC−C−IRMS装置)であればいずれのものにおいても実施することができる。したがって、本発明においては、市販のGC−C−IRMS装置を適宜使用することができる。 本発明におけるヘッドスペース−固相マイクロ抽出法の概略を示せば下記の通りである。 まず、被検体溶液を入れることができる密封可能なバイアル(例えば、ヘッドスペースに気相部分を設けることができるSPME用バイアル)(例えば、5〜20ml容量)を用意し、ここに被検体溶液を入れ、必要に応じて気相部分が被検体溶液のエタノールで飽和状態となるようにしておく。 次に、細いニードルに結合された固相(ファイバー)を有するSPMEファイバーを用意し、これを被検体溶液を採取したバイアルのセプタムに貫通させ(または挿入し)、ヘッドスペースの気相の空間に、ファイバーを露出させて、例えば30〜200℃(好ましくは30〜60℃、より好ましくは約30℃)の条件で1〜100分程度(例えば、約5分)おき、被検体溶液中のエタノールをSPMEファイバーに吸着させる。このようにして、目的エタノールの抽出を行う。 ここで、SPMEファイバーとしては、ジビニルベンゼン誘導体(DVB)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、カルボキセン、カルボワックス等またはそれらの組合せをシリカファイバーにコーティングしたものが好ましく使用される。より好ましくは、SPMEファイバーは、カルボキセンおよびPDMSを使用するタイプのものである。SPMEファイバーは、市販品を使用でき、例えば、SUPELCO社等より入手可能である。 次いで、SPMEファイバーをバイアルより引き抜き、測定用のサンプルを得る。このとき、本発明の好ましい態様によれば、このサンプルを得るまでの処理を、オートサンプラーにより自動化することができる。 次いで、得られたサンプル(エタノールを吸着したSPMEファイバーのニードル)をガスクロマトグラフィ(GC)注入口に投入し、ここで加熱脱着して抽出成分をGCに導入する。抽出成分はGCカラムで分離された後、GCオーブン内でカラムと直結した燃焼炉に導入される。導入された各成分は燃焼炉にてCO2ガス、H2Oガス等に酸化分解された後、同位体比質量分析計(IRMS)に導入される。この内、導入された二酸化炭素は、質量分析計においてm/z 44,45,46で分析し、その出力値から13C/12Cを計算して、さらに前記した式(1)に基づいて、炭素安定同位体比δ13Cを算出することができる。 なお必要であれば、他の水素、酸素の同位体についても同様にして同位体比を算出すること可能である。 得られた同位体比は、別途、同位体既知のサンプルを用いて、同様に測定を行って得ておいた基準値と対比する。このとき、基準値を利用することで、測定の過程において、気相−液相間および気相-ファイバー間で生じる同位体分別の影響を較正することが可能である。これによって、より正確な測定値を得ることが可能となる。 本発明の別の態様によれば、前記したように、本発明の方法により、被検体溶液に含まれるエタノールの同位体比を得、 これを、材料の植物種、植物品種、もしくはその産地が既知のサンプル、または既存製品からのサンプルから得られたエタノールの同位体比の値と比較することを含んでなる、被検体溶液中のエタノールの原料またはその由来を特定する方法が提供される。このように本発明により製品中のエタノールの同位体比を正確かつ高精度に得ることができるため、予め材料の植物種、植物品種、もしくはその産地等が既知のサンプルや製品のサンプルからエタノール同位体の値を得ておき、これを測定を希望する検体のサンプルと比較することで、その検体の偽和判別、その検体中のエタノールまたはその原料の産地の推定、さらには、検体に不純物として混入したエタノールの起源推定や、トレーサビリティーの検証等が可能となる。 なお本明細書において、「約」や「程度」を用いた値の表現は、その値を設定することによる目的を達成する上で、当業者であれば許容することができる値の変動を含む意味である。 本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実験方法 エタノール試料: 本実施例において、エタノール試料として、同位体比既知の16種類のエタノール試薬を使用した。使用したエタノール試薬は、K. Yamada et al., Rapid commun. Mass Spectrom., 21, 1431-1437(2007)(非特許文献4)の表1に記載のものである。その内の1検体を、HS−SPME法における条件設定の検討用に使用した。 被検体試料(飲料製品): 製品中のエタノール同位体比を分析する被検体試料として、下記の飲料製品を用意した: ビール(1)(オートモルトタイプ アルコール4.5%); ビール(2)(市販ビール); 発泡酒(アルコール5.5%); チューハイ(レモン アルコール7%); ノンアルコール飲料(ビールテイスト飲料 アルコール約0.5%); 焼酎(市販の芋焼酎); 焼酎(市販の麦焼酎); ワイン(市販の白ワイン); ワイン(市販のロゼワイン); オレンジジュース(濃縮還元 100%);および トマトジュース(100%ストレート)。 使用した装置および器具: ・SPMEファイバー: SUPELCO社製carboxen/polydimethilsiloxane(Carboxen/PDMS)コーティングの85μmファイバー; ・使用したHS−SPME−GC−C−IRMS(ヘッドスペース固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ−燃焼−同位体比質量分析計)システムの装置構成: − SPMEオートサンプラー: Gestel社製SPMEオートサンプラー; − 同位体比質量分析装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製同位体比質量分析装置(GC燃焼インターフェース: ThermoQuest GC Combustion III、同位体比質量分析計: ThermoQuest DeltaplusXP); − ガスクロマトグラフィ: Agilent社製ガスクロマトグラフィ(model 6890); − GCカラム: SUPELCO社製キャピラリーカラム(Nukol,30m×0.32mm i.d.,1.0μm film); − 燃焼炉: サーモサイエンティフィック社製セラミック製燃焼炉(320mm×0.5mm、酸化剤:酸化銅、酸化ニッケル、触媒:プラチナ線); ・SPMEバイアル: 20ml容ガラスバイアル(Gestel社製)。実験手順(HS−SPME−GC−C−IRMSによる測定手順) 被検体溶液の調整: 上記で用意した被検体試料をそれぞれ、エタノール濃度が0.08mMとなるように、飽和食塩水で希釈し、被検体溶液とした。 なお、オレンジジュースおよびトマトジュースについても、極微量にエタノールが含まれていることから、他の試料と同様に、エタノール濃度が0.08mMとなるように、飽和食塩水で希釈した。 測定手順: 試料用のSPMEバイアル(20ml容)に、被検体溶液を気相部分としてのヘッドスペースが残るように入れて(投入量:10ml)密封し、エタノールが気相/液相平衡状態に達するまで、バイアルを30℃に加熱した(バイアル加熱時間1分、および、脱離時間5分)。バイアル中の気相部分に、SPMEファイバー入れ、揮発成分をSPMEファイバーに吸着させることにより抽出した。抽出時間は、後述の実施例1で示したように検討した上で設定した。 次いで、SPMEファイバーをバイアルより引き抜き、これをガスクロマトグラフ(GC)注入口に投入し、ここで加熱脱着して抽出成分をGCに導入した。抽出成分はGCカラムで分離された後、GCオーブン内でカラムと直結した燃焼炉に導入される。導入された各成分は燃焼炉にてCO2等に酸化分解された後、同位体比質量分析計(IRMS)に導入される。導入された二酸化炭素は、質量分析計においてm/z 44,45,46で分析され、その出力値より13C/12Cを計算し、さらに前記した式(1)に基づいて、炭素安定同位体比δ13Cを算出した。 クロマトグラフ条件: 前記測定において設定したGC条件は、下記の通りであった: ・注入モード: スプリットレス、5分; ・注入口温度: 200℃; ・昇温プログラム: 35℃(5分)→15℃/分→120℃(10分)→50℃/分→190℃(5分); ・流速: 1.5 ml/分。実施例1: HS−SPMEにおける抽出時間の検討 上述した測定手順で、試料の測定を行った。このとき、HS−SPME法における抽出時間を、それぞれ1、5、10、15、20、30、35、40、50、60、80、および、100分間にそれぞれ設定し、測定を行い、最適な抽出時間を検討した。 結果は、図1に示されるとおりであった。 結果のように、50分間で抽出量が飽和状態となることが確認できた。このため、以後の測定では、抽出時間を50分間に設定した。 なお、文献 K. Yamada et al., Rapid commun. Mass Spectrom., 21, 1431-1437(2007)(非特許文献4)に記載の方法に従って同様に測定した場合、0.08mMのエタノール試料についてのエタノール抽出量は0.5nmol(収率0.06%)であったのに対し、本発明による場合には、図に示されているように、抽出量約4.8nmol(収率0.6%)であった。このため、本発明による方法は、従来法に比べて約10倍の測定感度を有していた。実施例2: 同位体分別の影響とその補正(較正) 図1に示されるように、SPMEファイバーへの吸着量が飽和量に達しているにも関わらず、エタノールの同位体比の実際の測定値と、真値とが一致しないことが判明した。このことから、上述した条件下におけるHS−SPME法において、同位体分別が起こっていると考えられ、真値(Real Value)と測定値の差は、同位体分別に基づくものであると考えられた。 そこで、同条件で炭素同位体比既知のエタノール15検体を用いて、それぞれ上記方法に従って分析を行った。 結果は図2に示される通りであった。 結果から、エタノール15検体の試料全てにおいて、真値と測定値とが不一致であったものの、真値と測定値の差は一定であった。よって、この差をもって同位体分別の補正を行うことができ、正しい同位体比を得ることが可能であることが分かった。 したがって、ワーキングスタンダードとして同位体比既知検体の測定を共に行い、それに基づいて同位体分別の影響を補正(較正)することによって、正確な同位体比の値を得ることができると考えられた。実施例3: 飲料製品の分析 飲料製品中のエタノール同位体比を分析した。 被検体試料は、上記したビール、発泡酒、ノンアルコール飲料、チューハイ、焼酎、ワイン、オレンジジュース、およびトマトジュースを用いた。上述の実験手順に従って、被検体溶液をそれぞれ調整し、これをHS−SPME−GC−C−IRMSに付して、それらに含まれるエタノールの同位体比を分析した。 結果は、下記表1に示される通りであった。また、得られた代表的なクロマトグラムは、図3に示される通りであった。 結果から明らかなように、エタノールはリテンションタイム570秒付近に検出され、測定精度も非常に良好であった。このため、本発明による方法は、実試料においても、他の夾雑成分の妨害を受けることなく、エタノール同位体比を測定可能であることが示された。 以上から、本発明による方法は、エタノール同位体比分析において有効な手法であると言え、アルコール飲料のみならず、清涼飲料や食品中の微量なエタノールに対しても適用でき、広範な適用が可能であることがわかった。図は、実施例1における抽出時間の検討結果を示す。図は、実施例2における測定結果を示す。図は、実施例3における代表的なクロマトグラムを示す。 被検体溶液に含まれるエタノールの同位体比の迅速分析方法であって、 被検体溶液を、密閉容器中にヘッドスペースとして気相部分を残して密閉し、該気相部分に固相マイクロ抽出(SPME)ファイバーを挿入して、被検体溶液中のエタノールを吸着時間約1時間以内として吸着させることによってサンプルを得、該サンプルをガスクロマトグラフ−燃焼−同位体比質量分析計(GC−C−IRMS)に付して、エタノールの同位体比を質量比として得、これを、同位体既知サンプルより得られた基準値と対比することを特徴とする、方法。 エタノールの同位体比と、基準値とを対比し、気相−液相間および気相-ファイバー間で生じる同位体分別の影響を較正することをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。 分析するエタノール同位体比が、炭素安定同位体比である、請求項1または2に記載の方法。 炭素同位体比を、二酸化炭素の質量比に基づいて測定する、請求項3に記載の方法。 密閉容器にSPMEファイバーを挿入して、被検体溶液から気相に移動させたエタノールを吸着させることによってサンプルを得る操作を、オートサンプラーを用いて行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。 被検体溶液が、飲食品またはそれを溶液化したものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。 飲食品がアルコール飲料である、請求項6に記載の方法。 アルコール飲料が発酵麦芽飲料またはビール様飲料である、請求項7に記載の方法。 被検体溶液に含まれるエタノールの濃度が、1mM以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。 請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法により、被検体溶液に含まれるエタノールの同位体比を得、 これを、材料の植物種、植物品種、もしくはその産地が既知のサンプル、または既存製品からのサンプルから得られたエタノールの同位体比の値と比較することを含んでなる、被検体溶液中のエタノールの原料またはその由来を特定する方法。 【課題】低アルコール飲料等のエタノール低濃度試料中のエタノール同位体比を、高精度かつ高感度で、迅速かつ容易に分析可能な方法を提供する。【解決手段】被検体溶液に含まれるエタノールの同位体比の迅速分析方法は、被検体溶液を、密閉容器中にヘッドスペースとして気相部分を残して密閉し、該気相部分に固相マイクロ抽出(SPME)ファイバーを挿入して、被検体溶液中のエタノールを吸着時間約1時間以内として吸着させることによってサンプルを得、該サンプルをガスクロマトグラフ−燃焼−同位体比質量分析計(GC−C−IRMS)に付して、エタノールの同位体比を質量比として得、これを、同位体既知サンプルより得られた基準値と対比することを特徴とするものである。【選択図】図3


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