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タイトル:公開特許公報(A)_タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法及びそれを用いたタンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法
出願番号:2007310218
年次:2009
IPC分類:C07K 1/12,C12P 21/06,G01N 27/62


特許情報キャッシュ

島 圭介 山口 実 九山 浩樹 安藤 英治 西村 紀 綱澤 進 園村 和弘 JP 2009132649 公開特許公報(A) 20090618 2007310218 20071130 タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法及びそれを用いたタンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法 株式会社島津製作所 000001993 岡田 正広 100100561 島 圭介 山口 実 九山 浩樹 安藤 英治 西村 紀 綱澤 進 園村 和弘 C07K 1/12 20060101AFI20090522BHJP C12P 21/06 20060101ALI20090522BHJP G01N 27/62 20060101ALI20090522BHJP JPC07K1/12C12P21/06G01N27/62 V 8 6 OL 18 2G041 4B064 4H045 2G041CA01 2G041DA04 2G041DA05 2G041EA03 2G041FA12 2G041GA06 2G041GA09 2G041JA02 2G041JA04 2G041KA01 2G041LA07 4B064AG01 4B064CA21 4B064CB05 4B064DA13 4H045AA20 4H045BA09 4H045EA50 4H045FA16 4H045FA70 本発明は、タンパク質のアミノ酸配列決定分野に関する。より具体的には、本発明は、タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法及びそれを用いたタンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法に関する。 従来のタンパク質C末端部分の回収法としては、ジフェニルイソチオシアネート(DITC)グラスをタンパク質のリジルエンドペプチダーゼ消化ペプチドのεアミノ基にカップリングさせ、その後、トリフルオロ酢酸(TFA)にてカップリングしたペプチドを切断し、それにより、εアミノ基を持たないC末端ペプチド断片を特異的に回収する手法がある(特開平1−235600号公報)。 また、タンパク質の質量分析装置を用いたde novo配列解析法として、タンパク質のトリプシン消化によるペプチド混合物に対して、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(TMPP−Ac−Osu)を反応させて、N末端がTMPP誘導体化されたペプチドを得て、HPLCで分画後、MALDI−TOFMSを行う手法がある(Analytical Biochemistry 268, 305-317 (1999))。 一方、de novo配列解析法のためのタンパク質N末端フラグメントの回収法として、タンパク質のアミノ酸残基の側鎖アミノ基を保護した後、酵素消化し、タンパク質のN末端に由来する1種のN末端ペプチドフラグメントと、それ以外のペプチドフラグメントを得て、DITCレジンによりN末端ペプチドフラグメントとそれ以外のペプチドフラグメントを分離し、N末端ペプチドを回収する方法がある(特開2004−219412号公報)。特開平1−235600号公報特開2004−219412号公報「アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)」、1999年、第268巻、p.305−317 特開平1−235600号公報では、強酸のTFAを用いるため手動での回収に難があり、試薬キット化が難しく装置による自動化が必要であった。 一般的に、特定のアミノ酸のC末端側でタンパク質を切断する酵素(例えばトリプシンなど)で消化を行うと、消化ペプチドのC末端アミノ酸の種類をほぼ特定することが可能である。さらには、トリプシンやリジルエンドペプチダーゼで消化した場合、消化ペプチド(具体的にはN末端断片及び内部断片)のC末端側のアミノ酸が正電荷を有するため、質量分析測定に供した際の感度が高くなる。 しかし、特開平1−235600号公報に記載の方法においては、これらの酵素で消化を行った場合でもタンパク質のC末端アミノ酸の種類は特定できず、C末端側のアミノ酸が正電荷を有するとも限らない。従って、当該方法によって回収されるタンパク質のC末端ペプチドは、他の消化ペプチドと比べて検出感度が低く、また、C末端アミノ酸の特定も出来ない為、質量分析測定に供した際の配列決定が難しい。さらに、タンパク質のC末端ペプチドをプロテインシーケンサを用いて配列決定する場合でも、質量分析装置と比べて感度的な限界があった。 しかしながら、C末端ペプチドの回収を行わずに消化ペプチドを質量分析測定に供した場合は、どの消化ペプチドがC末端ペプチドであるか区別できない。従ってこのような場合は、タンパク質の内部配列は決定できてもC末端部分の配列を決定することはできなかった。 Analytical Biochemistry 268, 305-317 (1999)は、N末端がTMPP誘導体化されたタンパク質酵素消化物についてde novo配列解析が可能になったことを開示するのみである。すなわち、この文献によると、N末端がTMPP誘導体化されたタンパク質酵素消化物に含まれるペプチド断片のうちどれがタンパク質のC末端部分を含むペプチド断片であるかは区別できない。このため、タンパク質の内部配列は決定できてもC末端部分の配列を決定することはできない。 特開2004−219412号公報では、用いられるN末端標識試薬によって、側鎖アミノ基への修飾も起こる。このため、あらかじめ側鎖アミノ基を保護することが必須であった。 そこで本発明の目的は、C末端ペプチド断片を特異的に回収する方法、及び従来の方法では配列決定が困難であったC末端ペプチド断片の配列を質量分析装置で容易に決定する方法を提供することにある。特に本発明の目的は、C末端ペプチド断片のde novoシーケンスが可能な方法を提供することにある。 本発明者らは、鋭意検討の結果、リジルエンドペプチダーゼ消化物のTMPP修飾によって、上記本発明の目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。 本発明は、以下の発明を含む。(1) αアミノ基を有し且つεアミノ基を有しないC末端ペプチド断片(A)、及び、αアミノ基及びεアミノ基を有するその他のペプチド断片(B)を含む、解析すべきタンパク質の切断処理物を用意する工程と、 前記解析すべきタンパク質の切断処理物中の前記αアミノ基を選択的に修飾試薬によって修飾し、修飾アミノ基を有し且つεアミノ基を有しない修飾されたC末端ペプチド断片(A’)、及び、修飾アミノ基及びεアミノ基を有する修飾されたその他のペプチド断片(B’)を含む、修飾された切断処理物を得る工程と、 修飾されたその他のペプチド断片(B’)を、前記εアミノ基を介して支持体に保持させ、前記修飾された切断処理物から、前記修飾されたC末端ペプチド断片(A’)を分離する工程と、を含む、タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。(2) 前記修飾試薬は正電荷を有するものである、(1)に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記(2)の方法は、回収されたC末端ペプチドが質量分析に供される場合に有用である。すなわち、回収されるべきC末端ペプチドのN末端に正電荷を付与するため、質量分析、特にPSDやCIDなどのMS/MS分析で生じるフラグメントイオン種の中で、修飾基を有するイオン種の感度を上げることができる。その結果、観測されるフラグメントイオンの複雑さが減少しアミノ酸配列解析が容易となる。(3) 前記修飾試薬は、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸及びその誘導体からなる群から選ばれる、(1)又は(2)に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸の誘導体には、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸のエステル、活性エステル、酸ハロゲン化物、酸無水物、及び酸アジドが含まれる。(4) 前記修飾試薬は、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル及びトリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸スルホスクシンイミドエステルからなる群から選ばれる、(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 上記(3)及び(4)に記載の方法においては、解析すべきタンパク質の切断処理物のαアミノ基の選択的修飾を容易且つ効果的に行うことができる。(5) 前記解析すべきタンパク質の切断処理物は、解析すべきタンパク質をリジルエンドペプチダーゼによって消化することにより得られたものである、(1)〜(4)のいずれかに記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。(6) 前記解析すべきタンパク質の切断処理物、前記修飾された切断処理物、又は、分離された前記C末端ペプチド断片(A’)に含まれ得るアルギニン残基の側鎖を化学的に修飾する工程をさらに含む、(2)〜(5)のいずれかに記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記(6)に記載の方法は、回収されたC末端ペプチドが質量分析に供される場合に有用である。すなわち、アルギニン残基の側鎖の修飾は、回収されたC末端ペプチドが質量分析に供される場合に、当該質量分析を行う工程より前のいずれの段階で行っても良い。このことによって、アルギニン残基側鎖の電荷が修飾によって打ち消されるため、MS/MSによるフラグメンテーションを促進させ、配列解析を容易にすることができる。(7) 前記支持体は、p−フェニレンジイソチオシアネートが固定化されたものである、(1)〜(6)のいずれかに記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。(8) (1)〜(7)のいずれか1項に記載の方法によって、解析すべきタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する工程と、 回収されたC末端ペプチド断片を質量分析測定に供し、アミノ酸配列を決定する工程と、を含む、タンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法。 本発明によると、C末端ペプチド断片を特異的に回収する方法、及び従来の方法では配列決定が困難であったC末端ペプチド断片の配列を質量分析装置で容易に決定することができる。特に本発明によると、C末端ペプチド断片のde novoシーケンスが可能になる。[1.解析すべきタンパク質の切断処理物] 本発明においては、まず、解析すべきタンパク質の切断処理物を用意する。 本発明における切断処理物は、C末端ペプチド断片(A)として、αアミノ基を有し且つεアミノ基を有しないペプチド断片と、その他のペプチド断片(B)として、αアミノ基及びεアミノ基の両方を有するペプチド断片とを含む。ここで、その他のペプチド断片には、N末端ペプチド断片と内部ペプチド断片とが含まれる。 このようなタンパク質の切断処理物は、解析すべきタンパク質を、リジン残基のC末端側のペプチド結合を切断する方法によって調製する事ができる。そのような方法としては、当業者に公知のものが適宜用いられて良い。 具体例としては、リジルエンドペプチダーゼを用いた消化が挙げられる。リジルエンドペプチダーゼとしては、リジン残基のC末端側のペプチド結合を特異的に切断することができるものであれば特に限定されない。例えば、Lys-CやAPIなどが挙げられる。 また、リジルエンドペプチダーゼ以外の酵素を用いて、本発明の切断処理物を調製しても良い。例えば、トリプシンがリジン残基及びアルギニン残基のC末端側のペプチド結合を特異的に切断することから、アルギニン残基を化学的に修飾しておき、その後、トリプシン消化を行うことによって、本発明の切断処理物を調製することができる。 ここで、タンパク質の切断処理物を、リジルエンドペプチダーゼを用いて調製する場合、試料中に含まれるペプチド断片のアルギニン残基の側鎖を修飾することも好ましい。この場合、アルギニン残基の側鎖の修飾は、後述する質量分析工程を行う前のいずれの段階で行ってもよい。このような修飾を行うことによって、アルギニン残基の側鎖のプロトン付加の程度を減少させ、正電荷を帯びにくくする。このため、質量分析(PSD, CID)におけるフラグメントイオンの生成を促進する効果(後述)をより有効に得ることができる。 アルギニン残基側鎖の修飾方法としては、特に限定されることなく、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、2,3−ブタンジオンを用いた修飾方法(例えばAnal.Chim. Acta, 528, 165-173(2005)を参照して行うことができる);1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオンを用いた修飾方法(例えばInt.J.Mass Spectrom.Ion Proc., 169/170, 127-140(1997)を参照して行うことができる);シクロヘキサン−1,2−ジオン用いた修飾方法(例えばJ.Biol.Chem., 242, 1036(1967)を参照して行うことができる);アセチルアセトンを用いた修飾方法(例えばJ.Mass Spectrom., 32, 1337-1349(1997)を参照して行うことができる);マロンジアルデヒド用いた修飾方法(例えばJ.Mass Spectrom., 41, 623-632(2006)を参照して行うことができる)が挙げられる。 一方、アセチルアセトンを用いたアルギニン残基側鎖の修飾反応に際しては、反応温度を75〜85℃、例えば80℃程度とすることも好ましい。本発明においては、このような温度条件で反応を行うことによって、収量よく且つ短時間で目的物質を得ることが可能である。例えば、このような温度条件において、反応時間は2〜4時間、例えば3時間程度とすることができる。 式1に、LysC消化(Lys-C protease Digestion)によるLysC消化物の調製によって、解析すべきタンパク質から、C末端ペプチド断片(A)(C-terminal peptie fragment (A))と、その他のペプチド断片(B)(the other peptide fragments (B))とを得る例を示す。式1においては、a〜lは、リジン残基以外のアミノ酸残基を表し、Lys-NH2で示される部分はリジン残基を表す。[2.修飾工程] タンパク質の切断処理物は修飾工程に供される。修飾工程においては、C末端ペプチド断片(A)及びその他のペプチド断片(B)が有するαアミノ基が選択的に修飾される一方で、その他のペプチド断片(B)が有するεアミノ基は修飾を受けない。 本修飾工程において用いられる修飾試薬は、電荷(例えば正電荷)を有する修飾試薬であることが好ましい。 電荷を有する修飾試薬を用いることによって、ペプチド断片の末端に電荷を付与することができる。このような修飾ペプチド断片は、質量分析、特にPSDやCIDなどMS/MS分析に供された場合に、フラグメンテーションにより生じるフラグメントイオンの中で、修飾基を有するイオン種の感度を上げる(修飾試薬が正電荷を有する場合)、あるいは、下げる(修飾試薬が負電荷を有する場合)ことができる。結果、観測されるフラグメントイオンの複雑さが減少しアミノ酸配列解析が容易となる。すなわち、電荷を有する修飾試薬を用いることは、得られる修飾ペプチド断片の質量分析におけるアミノ酸配列解析を容易にさせる点で好ましい。 修飾試薬の例としては、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸、及びその誘導体が挙げられる。トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸の誘導体としては、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸のエステル、活性エステル、酸ハロゲン化物、酸無水物、及び酸アジドなどが挙げられる。トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸の活性エステルとしては、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(TMPP-Ac-OSu)、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸のスルホスクシンイミジルエステルなどが挙げられる。さらに具体的な修飾試薬の例としては、(スクシンイミジルオキシカルボニルメチル)トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウムブロミドが挙げられる。これらの修飾試薬によって、解析すべきタンパク質の切断処理物のαアミノ基の選択的修飾を容易且つ効果的に行うことができる。 上記以外にも、修飾試薬として、以下のものを使用してもよい。例えば、5−ブロモニコチン酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(BrNANHS)、4−スルホフェニルイソチオシアネート(SPITC)を用いることができる。これらの修飾試薬を用いたαアミノ基への選択的修飾法は、特に限定されることなく、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、Rapid Commun. Mass Spectrom. 12, 603-608 (1998) ,Proteomics 2004, 4, 1684-1694を参照してこの修飾を行うことができる。 また、修飾試薬として、テトラフルオロフェニル(TFP)エステル類、イソチオシアネート類、スルフォニルクロリド類、ジクロロトリアジン類、4−スルホ−2,3,5,6−テトラフルオロフェノール(STP)或いはスルホジクロロフェニル(SDP)のスクシンイミドエステルを修飾基にもつ蛍光色素を用いることもできる。このような蛍光色素の例としては、Alexa Fluor(R), BODIPY(R), フルオレセイン、テトラメチルローダミン、ローダミン、Texas Red(R)などが挙げられる。これらの蛍光色素を用いたαアミノ基への選択的修飾法は、特に限定されることなく、当業者が適宜決定することができるものである。これらの蛍光色素を用いる場合、修飾反応時のpHを中性域に設定することにより、αアミノ基への修飾選択性が高まる。 さらに、修飾試薬として、イソシアネートをカップリングさせたレジンを用いることもできる。このレジンを用いたαアミノ基への選択的修飾方法は、特に限定されることなく、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、Anal. Chem. 2007, 79, 7910-7915を参照してこの修飾を行うことができる。 修飾試薬は、タンパク質1に対して5〜200、好ましくは5〜20の量(物質量基準)で用いることができる。 修飾反応は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールからなる群から選ばれる有機溶媒を含む水溶液又は緩衝溶液を溶媒とする反応系にて行うことができる。当該溶媒のpHは、6〜10、好ましくは7〜9、さらに好ましくは8〜8.5に調整することが好ましい。 修飾反応の条件としては、例えば、反応温度を室温〜60℃(室温としては、例えば20〜25℃)、反応時間を15分〜6時間とすることができる。 本工程の例として、TMPP-Ac-OSuによる修飾(TMPP modification)によって、C末端ペプチド断片(A)から修飾されたC末端ペプチド断片(A’)(C-terminal peptide fragment modified (A’))と、その他のペプチド断片(B)から修飾されたその他のペプチド断片(B’)(the other peptide fragments modified (B’))とを生じる例を式2に示す。式2において、TMPPで表される基は、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウムアセチル基を表す。[3.分離工程] 修飾されたC末端ペプチド断片(A’)と修飾されたその他のペプチド断片(B’)とを含む、修飾された切断処理物は、分離工程に供される。分離工程においては、修飾されたC末端ペプチド断片(A’)と、その他のペプチド断片(B’)とを分離する。 分離手段としては、εアミノ基を介して保持することができるものを特に限定することなく用いることができる。より具体的には、無置換アミノ基(すなわちフリーのアミノ基)と共有結合を形成することができる基を有する担体を用いることができる。 無置換アミノ基と共有結合を形成することができる基としては特に限定されないが、例えば、イソチオシアネート基、イミド基、イソ尿素基、アルデヒド基、シアノ基、アセチル基、サクシニル基、マレイル基、アセトアセチル基、ジニトロフェニル基、トリニトロベンゼンスルホン酸基などが挙げられる。本発明においては、イソチオシアネート基、特にp−フェニレンジイソチオシアネート(DITC)基であることが好ましい。 担体部としては特に限定されないが、例えば、レジンやガラスを用いることができる。より具体的には、シリカゲル、ポリスチレン、多孔質ガラスなどが挙げられる。 修飾された切断処理物において、無置換アミノ基を有するペプチド断片は、修飾されたその他のペプチド断片(B’)である。従って、本工程においては、修飾されたその他のペプチド断片(B’)を、εアミノ基を介して分離手段に保持することができる。より具体的には、修飾されたその他のペプチド断片(B’)を、分離手段と反応させて、εアミノ基を介して共有結合を形成することができる。このことによって、修飾された切断処理物のうち、修飾されたその他のペプチド断片(B’)のみを担体に保持し、修飾されたC末端ペプチド断片を溶出することができる。このように、解析すべきタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収することが可能になる。 本工程の例として、TMPP修飾された切断処理物を、p−フェニレンジイソチオシアネートレジン(DITC resin)を用いて分離(separation)する例を、式3に示す。式3が示すように、修飾されたその他のペプチド断片(B’)(the other peptide fragments modified (B’))がリジン残基のアミノ基を介してDITCレジンに共有結合し、修飾されたC末端ペプチド断片(A’)(C-terminal peptide fragment modified (A’))はDITCレジンに結合することなく溶出することができる。 なお、従来のC末端ペプチド回収法によると、それぞれのペプチド断片のN末端アミノ基がDITCレジンに結合する。C末端ペプチド断片を回収するためには、TFAのような強酸を用いて、C末端ペプチド断片とDITCレジンとを切断しなければならない。しかも、切断は、C末端ペプチド断片のN末端アミノ酸残基とそれに隣接するアミノ酸残基との間のペプチド結合において起こる。従って、C末端ペプチド断片のN末端アミノ酸残基はDITCレジンに結合した状態で残り、一方C末端ペプチド断片は、そのN末端アミノ酸残基を失った状態で遊離する。このため、回収されたC末端ペプチド断片についてアミノ酸配列解析を行っても、失われたN末端の特定を行うことができない。[4.質量分析工程] 回収されたC末端ペプチド断片は、修飾基を有する形で得られる。 上記修飾工程において、電荷を有する修飾試薬を用いた場合は、C末端ペプチド断片は、電荷を有する基が結合した形で得られる。この場合、電荷を有する基は、C末端ペプチド断片の質量分析における検出感度を向上させる効果を有する。 特に、上記修飾工程においてトリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸の活性エステルを修飾試薬として用いた場合は、回収されたC末端ペプチド断片は強い正電荷を有するTMPP基が結合していることになる。 このように、本発明は、C末端ペプチド断片が、回収された時点で既に、質量分析での検出感度が非常に良い状態のものが得られる点で、非常に優れた方法である。さらに、本発明は、TMPP基などにより電荷を得たC末端ペプチド断片を質量分析に供することによって、de novoシーケンスが可能となる点で、非常に優れた効果を有する方法である。 アミノ酸配列の同定には、ESI法を利用した質量分析装置によるMS/MS解析、MALDI−TOF型質量分析装置によるPSD解析、MALDI法を利用した質量分析装置によるMS/MS解析などを行うことができる。[実験例1:モデルペプチドによる検討1] 本実験例では、モデルペプチド4種の混合物を調製し、修飾試薬としてTMPP-Ac-OSuを用い、本発明の方法に供した。 具体的には、以下のモデルペプチドを用いた。 [1]WAGGDASGE(配列番号1) [2]MHRQETVDCLK-NH2(配列番号2) [3]TRDIYETDYYRK(配列番号3) [4]AAKIQASFRGHMARKK(配列番号4) なお、ペプチド[2]において、K-NH2で表される残基は、C末端カルボキシル基がアミド化されたリジン残基を表す。 上記モデルペプチド4種の混合物は、本発明におけるタンパク質切断処理物に相当する。より詳しくは、ペプチド[1]がC末端ペプチド断片に相当し、ペプチド断片[2]、[3]及び[4]は、C末端アミノ酸残基がリジン残基であるため、その他のペプチド断片に相当する。 上記モデルペプチドをそれぞれ等量(100pmol、全量400pmol)混合した。アセトニトリル−水(体積比1:9)混合溶液5μLに、モデルペプチド混合物を溶かし、50mmol NaHCO3水溶液(pH8.2)を10μL加えて、モデルペプチド混合物溶液を調製した。 TMPP-Ac-Osuは、アセトニトリル−水(体積比2:8)混合溶液を溶媒とする1mM溶液として調製した。 調製したモデルペプチド混合物溶液に、1mM TMPP-Ac-OSu溶液5μLを加えて、20分間、超音波水槽中で反応させた。得られた反応混合物のマススペクトルを図1に示す(横軸:質量/電荷、縦軸:イオン相対強度、以下同じ)。図1が示すように、それぞれのペプチドのTMPP修飾物(図中[1]、[2]、[3]及び[4]で示す。)が観測された。 50mmol NaHCO3水溶液(pH8.2)−アセトニトリル(体積比9:1)混合溶液を洗浄液とし、この洗浄液100μLを用いたDITC樹脂5mgの洗浄を2回行った。 上記得られた反応混合物を遠心濃縮し、乾燥させ、得られた乾燥残渣を50mmol NaHCO3水溶液(pH8.2)を12μLに溶解した。このうち1μL(それぞれのTMPP修飾ペプチドを8pmolずつ含む)を、上記洗浄したDITC樹脂5mgに加えて、60℃で2時間反応させた。 アセトニトリル−イソプロピルアルコール−0.1v/v%トリフルオロ酢酸水溶液(体積比1:1:2)の混合溶液を溶出溶媒とし、この溶出溶媒100μLを用いた溶出を2回行った。得られた溶出液を遠心濃縮した。乾燥残渣を0.1v/v%トリフルオロ酢酸水溶液5μLに溶解し、質量分析測定を行った。得られたマススペクトルを図2に示す。図2が示すように、C末端ペプチド断片に相当するペプチド[1]のTMPP修飾物のみが観測されている。従って、C末端ペプチド断片に相当するペプチド[1]の選択的な回収が成功したことが示された。[実施例1:タンパク質での検討] 本実施例では、解析すべきタンパク質をリゾチーム(lysozyme(chick, egg-white))とし、修飾試薬としてTMPP-Ac-OSuを用い、本発明の方法に供した。 リゾチームの凍結乾燥サンプル100μgを8M尿素及び50mmolNaHCO3を含む水溶液に溶解し、TCEP水溶液(5.7mgを水100μLに溶解して調製)1μLを加え、37℃で30分反応させ、次いでヨードアセトアミド水溶液(9.3mgを水100μLに溶解して調製)1μLを加え、室温で45分反応させてアルキル化した。その後、Lys-C溶液(5μgを50mmolNaHCO3水溶液200μLに溶解して調製)200μLを加えて、37℃で一晩反応させて消化を行った。消化物のマススペクトルを図3に示す。図3が示すように、4つのペプチド断片(図中、(20-31)、(135-147)、(116-134)及び(32-51)で示す)が強く観測されている。このうち、ペプチド断片(135-147)がC末端ペプチド断片(C-terminal peptide)である。 次に、得られた消化物溶液のうち、2μL(リゾチームに換算して56pmolに相当する)をとり、1mmol TMPP-Ac-OSu水溶液10μLを加えて、20分間超音波水槽中で反応させた。生成物のマススペクトルを図4に示す。図4が示すように、図3で観測された4種のペプチド断片がほぼ全てTMPP修飾されたことが確認された。 TMPP修飾で得られた生成物2μL(リゾチームに換算して56pmolに相当する)を、洗浄したDITC樹脂(実験例1と同様にして調製したもの)5mgに加えて、60℃で2時間反応させた。反応終了後、抽出溶媒(実験例1と同様にして調製したもの)を用いて抽出した。抽出物を濃縮乾燥した後、乾燥残渣を0.1v/v%トリフルオロ酢酸水溶液10μLに溶解し、質量分析測定を行った。得られたマススペクトルを図5に示す。図5が示すように、C末端ペプチド断片(135-147)が確実に単離されたことが確認された。 単離されたペプチド断片の配列解析をMS/MS(CID)によって行った。図6に、アミノ酸配列結果を示す。本実施例で単離されたペプチド断片は、Mascotのイオンサーチに供した場合においても第1位でヒットした。[実験例2:モデルペプチドによる検討2] アルギニン残基側鎖の修飾によるフラグメンテーションの改善効果を示すため、修飾試薬としてTMPP-Ac-OSuを用い、以下のペプチド2種をそれぞれ本発明の方法に供した。 具体的には、以下のモデルペプチドを用いた。 [5]RVYIHPF(配列番号5) [6]DAEFRHDSGYE(配列番号6) 上記モデルペプチド[5]及び[6]は、本発明においては、リジルエンドペプチダーゼを用いて調製したタンパク質切断処理物に含まれるC末端ペプチド断片に相当する。 上記モデルペプチドを100 mM NaHCO3(pH 8.2)水溶液-アセトニトリル(体積比1:9)混合溶液に溶かして20 pmol/μLに調製した。 TMPP-Ac-Osuは、アセトニトリル−水(体積比2:8)混合溶液を溶媒とする10mM溶液として調製した。 調製したモデルペプチド混合物溶液45μLに、10mM TMPP-AC-Osu溶液5μLを加えて、30分間超音波水槽中で反応させた。 アルギニン残基の側鎖の修飾を行うため、TMPP修飾後の反応液に、4μLの100 mM Na2CO3 と6μLのアセチルアセトンとを加えて、80℃で3時間反応させた。 ペプチド[5]のTMPP修飾後のCIDスペクトルを図7に、TMPP修飾及びアルギニン残基の修飾後のCIDスペクトルを図8に示す(横軸:質量/電荷、縦軸:イオン相対強度、以下において同じ)。図7では、フラグメントイオンが検出されておらず、配列を同定することができなかった。一方、図8では、全てのフラグメントイオンが検出され、配列を同定することができた。 また、ペプチド[6]のTMPP修飾後のCIDスペクトルを図9に、TMPP修飾及びアルギニン残基の修飾後のCIDスペクトルを図10に示す。図9では、アルギニン残基を含むフラグメントイオンのピークが非常に弱く、C末端側の配列を同定することができなかった。一方、図10では、全てのフラグメントイオンが検出され、配列を同定することができた。すなわち、アルギニン残基の側鎖の修飾をさらに行うことによって、フラグメンテーションの改善効果が認められた。 上記実施例1に示すように、アルギニン残基含有ペプチドが測定試料中に含まれていても、特にアルギニン残基側鎖の修飾を行わなくとも配列の同定が可能である。一方で、本実験例2の図7及び図9に示すように、試料によっては、配列の同定ができない場合もある。このような場合には、図8及び図10に示すように、アルギニン残基の側鎖の修飾をさらに行うことによって、配列の同定が可能になる。 さらに、本実験例2でのアルギニン残基側鎖の修飾のための反応は、従来より行われてきた反応条件(すなわち室温で十数時間)と異なる条件下(すなわち80℃で3時間)で行われた。従来より行われてきた反応条件では、原料が残ることが確認されたが、本実験例で行われた反応条件では、反応時間が大幅に短縮されしかも副反応なども観測されなかった。すなわち収率の改善及び反応効率の大幅な改善も達成できた。実験例1において、モデルペプチド4種の混合物をTMPP修飾して得られた生成物のMSスペクトルである。実験例1において、モデルペプチド4種の混合物をTMPP修飾して得られた生成物をDITC樹脂にて分離を行うことによって単離されたペプチドのMSスペクトルである。実施例1において、リゾチームをLys-C消化して得られた消化物のMSスペクトルである。実施例1において、リゾチームのLys-C消化物をTMPP修飾して得られた生成物のMSスペクトルである。実施例1において、リゾチームのLys-C消化物をTMPP修飾して得られた生成物をDITC樹脂にて分離を行うことによって単離されたC末端ペプチド断片のMSスペクトルである。実施例1において、単離されたC末端ペプチド断片をMS/MS(CID)によってアミノ酸配列を行った結果である。実験例2において、モデルペプチドをTMPP修飾して得られた生成物のCIDスペクトルである。実験例2において、モデルペプチドをTMPP修飾及びアルギニン残基修飾して得られた生成物のCIDスペクトルである。実験例2において、モデルペプチドをTMPP修飾して得られた生成物のCIDスペクトルである。実験例2において、モデルペプチドをTMPP修飾及びアルギニン残基修飾して得られた生成物のCIDスペクトルである。 配列番号1〜6は、合成ペプチドである。 αアミノ基を有し且つεアミノ基を有しないC末端ペプチド断片(A)、及び、αアミノ基及びεアミノ基を有するその他のペプチド断片(B)を含む、解析すべきタンパク質の切断処理物を用意する工程と、 前記解析すべきタンパク質の切断処理物中の前記αアミノ基を選択的に修飾試薬によって修飾し、修飾アミノ基を有し且つεアミノ基を有しない修飾されたC末端ペプチド断片(A’)、及び、修飾アミノ基及びεアミノ基を有する修飾されたその他のペプチド断片(B’)を含む、修飾された切断処理物を得る工程と、 修飾されたその他のペプチド断片(B’)を、前記εアミノ基を介して支持体に保持させ、前記修飾された切断処理物から、前記修飾されたC末端ペプチド断片(A’)を分離する工程と、を含む、タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記修飾試薬は正電荷を有するものである、請求項1に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記修飾試薬は、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸及びその誘導体からなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記修飾試薬は、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル及びトリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸スルホスクシンイミドエステルからなる群から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記解析すべきタンパク質の切断処理物は、解析すべきタンパク質をリジルエンドペプチダーゼによって消化することにより得られたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記解析すべきタンパク質の切断処理物、前記修飾された切断処理物、又は、分離された前記C末端ペプチド断片(A’)に含まれ得るアルギニン残基の側鎖を化学的に修飾する工程をさらに含む、請求項2〜5のいずれか1項に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記支持体は、p−フェニレンジイソチオシアネートが固定化されたものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法によって、解析すべきタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する工程と、 回収されたC末端ペプチド断片を質量分析測定に供し、アミノ酸配列を決定する工程と、を含む、タンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法。 【課題】C末端ペプチド断片を特異的に回収する方法、及び従来の方法では配列決定が困難であったC末端ペプチド断片の配列を質量分析装置で容易に決定する方法、特にC末端ペプチド断片のde novoシーケンスが可能な方法を提供する。【解決手段】αアミノ基を有しεアミノ基を有しないC末端ペプチド断片(A)、及び、αアミノ基及びεアミノ基を有するその他のペプチド断片(B)を含む、タンパク質の切断処理物中の、αアミノ基を選択的に修飾し、修飾されたC末端ペプチド断片(A’)、及び、修飾されたその他のペプチド断片(B’)を得て、ペプチド断片(B’)を支持体に保持させ、C末端ペプチド断片(A’)を分離する、タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。当該方法を用いタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収し、回収されたC末端ペプチド断片を質量分析測定にてアミノ酸配列決定する、タンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法。【選択図】図6配列表


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特許公報(B2)_タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法及びそれを用いたタンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法及びそれを用いたタンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法
出願番号:2007310218
年次:2013
IPC分類:C07K 1/12,C12P 21/06,G01N 27/62


特許情報キャッシュ

島 圭介 山口 実 九山 浩樹 安藤 英治 西村 紀 綱澤 進 園村 和弘 JP 5239319 特許公報(B2) 20130412 2007310218 20071130 タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法及びそれを用いたタンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法 株式会社島津製作所 000001993 岡田 正広 100100561 島 圭介 山口 実 九山 浩樹 安藤 英治 西村 紀 綱澤 進 園村 和弘 20130717 C07K 1/12 20060101AFI20130627BHJP C12P 21/06 20060101ALI20130627BHJP G01N 27/62 20060101ALI20130627BHJP JPC07K1/12C12P21/06G01N27/62 V C07K 1/00−19/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) PubMed 特開平09−224698(JP,A) 特開平01−235600(JP,A) 特開2004−219412(JP,A) Anal. Biochem.,1999年 3月15日,Vol.268, No.2,pp.305-317 8 2009132649 20090618 17 20101007 小金井 悟 本発明は、タンパク質のアミノ酸配列決定分野に関する。より具体的には、本発明は、タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法及びそれを用いたタンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法に関する。 従来のタンパク質C末端部分の回収法としては、ジフェニルイソチオシアネート(DITC)グラスをタンパク質のリジルエンドペプチダーゼ消化ペプチドのεアミノ基にカップリングさせ、その後、トリフルオロ酢酸(TFA)にてカップリングしたペプチドを切断し、それにより、εアミノ基を持たないC末端ペプチド断片を特異的に回収する手法がある(特開平1−235600号公報)。 また、タンパク質の質量分析装置を用いたde novo配列解析法として、タンパク質のトリプシン消化によるペプチド混合物に対して、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(TMPP−Ac−Osu)を反応させて、N末端がTMPP誘導体化されたペプチドを得て、HPLCで分画後、MALDI−TOFMSを行う手法がある(Analytical Biochemistry 268, 305-317 (1999))。 一方、de novo配列解析法のためのタンパク質N末端フラグメントの回収法として、タンパク質のアミノ酸残基の側鎖アミノ基を保護した後、酵素消化し、タンパク質のN末端に由来する1種のN末端ペプチドフラグメントと、それ以外のペプチドフラグメントを得て、DITCレジンによりN末端ペプチドフラグメントとそれ以外のペプチドフラグメントを分離し、N末端ペプチドを回収する方法がある(特開2004−219412号公報)。特開平1−235600号公報特開2004−219412号公報「アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)」、1999年、第268巻、p.305−317 特開平1−235600号公報では、強酸のTFAを用いるため手動での回収に難があり、試薬キット化が難しく装置による自動化が必要であった。 一般的に、特定のアミノ酸のC末端側でタンパク質を切断する酵素(例えばトリプシンなど)で消化を行うと、消化ペプチドのC末端アミノ酸の種類をほぼ特定することが可能である。さらには、トリプシンやリジルエンドペプチダーゼで消化した場合、消化ペプチド(具体的にはN末端断片及び内部断片)のC末端側のアミノ酸が正電荷を有するため、質量分析測定に供した際の感度が高くなる。 しかし、特開平1−235600号公報に記載の方法においては、これらの酵素で消化を行った場合でもタンパク質のC末端アミノ酸の種類は特定できず、C末端側のアミノ酸が正電荷を有するとも限らない。従って、当該方法によって回収されるタンパク質のC末端ペプチドは、他の消化ペプチドと比べて検出感度が低く、また、C末端アミノ酸の特定も出来ない為、質量分析測定に供した際の配列決定が難しい。さらに、タンパク質のC末端ペプチドをプロテインシーケンサを用いて配列決定する場合でも、質量分析装置と比べて感度的な限界があった。 しかしながら、C末端ペプチドの回収を行わずに消化ペプチドを質量分析測定に供した場合は、どの消化ペプチドがC末端ペプチドであるか区別できない。従ってこのような場合は、タンパク質の内部配列は決定できてもC末端部分の配列を決定することはできなかった。 Analytical Biochemistry 268, 305-317 (1999)は、N末端がTMPP誘導体化されたタンパク質酵素消化物についてde novo配列解析が可能になったことを開示するのみである。すなわち、この文献によると、N末端がTMPP誘導体化されたタンパク質酵素消化物に含まれるペプチド断片のうちどれがタンパク質のC末端部分を含むペプチド断片であるかは区別できない。このため、タンパク質の内部配列は決定できてもC末端部分の配列を決定することはできない。 特開2004−219412号公報では、用いられるN末端標識試薬によって、側鎖アミノ基への修飾も起こる。このため、あらかじめ側鎖アミノ基を保護することが必須であった。 そこで本発明の目的は、C末端ペプチド断片を特異的に回収する方法、及び従来の方法では配列決定が困難であったC末端ペプチド断片の配列を質量分析装置で容易に決定する方法を提供することにある。特に本発明の目的は、C末端ペプチド断片のde novoシーケンスが可能な方法を提供することにある。 本発明者らは、鋭意検討の結果、リジルエンドペプチダーゼ消化物のTMPP修飾によって、上記本発明の目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。 本発明は、以下の発明を含む。(1) αアミノ基を有し且つεアミノ基を有しないC末端ペプチド断片(A)、及び、αアミノ基及びεアミノ基を有するその他のペプチド断片(B)を含む、解析すべきタンパク質の切断処理物を用意する工程と、 前記解析すべきタンパク質の切断処理物中の前記αアミノ基を選択的に修飾試薬によって修飾し、修飾アミノ基を有し且つεアミノ基を有しない修飾されたC末端ペプチド断片(A’)、及び、修飾アミノ基及びεアミノ基を有する修飾されたその他のペプチド断片(B’)を含む、修飾された切断処理物を得る工程と、 修飾されたその他のペプチド断片(B’)を、前記εアミノ基を介して支持体に保持させ、前記修飾された切断処理物から、前記修飾されたC末端ペプチド断片(A’)を分離する工程と、を含む、タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。(2) 前記修飾試薬は正電荷を有するものである、(1)に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記(2)の方法は、回収されたC末端ペプチドが質量分析に供される場合に有用である。すなわち、回収されるべきC末端ペプチドのN末端に正電荷を付与するため、質量分析、特にPSDやCIDなどのMS/MS分析で生じるフラグメントイオン種の中で、修飾基を有するイオン種の感度を上げることができる。その結果、観測されるフラグメントイオンの複雑さが減少しアミノ酸配列解析が容易となる。(3) 前記修飾試薬は、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸である、(1)又は(2)に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。(4) 前記修飾試薬は、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル及びトリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸スルホスクシンイミドエステルからなる群から選ばれる、(1)又は(2)に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 上記(3)及び(4)に記載の方法においては、解析すべきタンパク質の切断処理物のαアミノ基の選択的修飾を容易且つ効果的に行うことができる。(5) 前記解析すべきタンパク質の切断処理物は、解析すべきタンパク質をリジルエンドペプチダーゼによって消化することにより得られたものである、(1)〜(4)のいずれかに記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。(6) 前記解析すべきタンパク質の切断処理物、前記修飾された切断処理物、又は、分離された前記C末端ペプチド断片(A’)に含まれ得るアルギニン残基の側鎖を化学的に修飾する工程をさらに含む、(1)〜(5)のいずれかに記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記(6)に記載の方法は、回収されたC末端ペプチドが質量分析に供される場合に有用である。すなわち、アルギニン残基の側鎖の修飾は、回収されたC末端ペプチドが質量分析に供される場合に、当該質量分析を行う工程より前のいずれの段階で行っても良い。このことによって、アルギニン残基側鎖の電荷が修飾によって打ち消されるため、MS/MSによるフラグメンテーションを促進させ、配列解析を容易にすることができる。(7) 前記支持体は、p−フェニレンジイソチオシアネートが固定化されたものである、(1)〜(6)のいずれかに記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。(8) (1)〜(7)のいずれか1項に記載の方法によって、解析すべきタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する工程と、 回収されたC末端ペプチド断片を質量分析測定に供し、アミノ酸配列を決定する工程と、を含む、タンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法。 本発明によると、C末端ペプチド断片を特異的に回収する方法、及び従来の方法では配列決定が困難であったC末端ペプチド断片の配列を質量分析装置で容易に決定することができる。特に本発明によると、C末端ペプチド断片のde novoシーケンスが可能になる。[1.解析すべきタンパク質の切断処理物] 本発明においては、まず、解析すべきタンパク質の切断処理物を用意する。 本発明における切断処理物は、C末端ペプチド断片(A)として、αアミノ基を有し且つεアミノ基を有しないペプチド断片と、その他のペプチド断片(B)として、αアミノ基及びεアミノ基の両方を有するペプチド断片とを含む。ここで、その他のペプチド断片には、N末端ペプチド断片と内部ペプチド断片とが含まれる。 このようなタンパク質の切断処理物は、解析すべきタンパク質を、リジン残基のC末端側のペプチド結合を切断する方法によって調製する事ができる。そのような方法としては、当業者に公知のものが適宜用いられて良い。 具体例としては、リジルエンドペプチダーゼを用いた消化が挙げられる。リジルエンドペプチダーゼとしては、リジン残基のC末端側のペプチド結合を特異的に切断することができるものであれば特に限定されない。例えば、Lys-CやAPIなどが挙げられる。 また、リジルエンドペプチダーゼ以外の酵素を用いて、本発明の切断処理物を調製しても良い。例えば、トリプシンがリジン残基及びアルギニン残基のC末端側のペプチド結合を特異的に切断することから、アルギニン残基を化学的に修飾しておき、その後、トリプシン消化を行うことによって、本発明の切断処理物を調製することができる。 ここで、タンパク質の切断処理物を、リジルエンドペプチダーゼを用いて調製する場合、試料中に含まれるペプチド断片のアルギニン残基の側鎖を修飾することも好ましい。この場合、アルギニン残基の側鎖の修飾は、後述する質量分析工程を行う前のいずれの段階で行ってもよい。このような修飾を行うことによって、アルギニン残基の側鎖のプロトン付加の程度を減少させ、正電荷を帯びにくくする。このため、質量分析(PSD, CID)におけるフラグメントイオンの生成を促進する効果(後述)をより有効に得ることができる。 アルギニン残基側鎖の修飾方法としては、特に限定されることなく、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、2,3−ブタンジオンを用いた修飾方法(例えばAnal.Chim. Acta, 528, 165-173(2005)を参照して行うことができる);1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオンを用いた修飾方法(例えばInt.J.Mass Spectrom.Ion Proc., 169/170, 127-140(1997)を参照して行うことができる);シクロヘキサン−1,2−ジオン用いた修飾方法(例えばJ.Biol.Chem., 242, 1036(1967)を参照して行うことができる);アセチルアセトンを用いた修飾方法(例えばJ.Mass Spectrom., 32, 1337-1349(1997)を参照して行うことができる);マロンジアルデヒド用いた修飾方法(例えばJ.Mass Spectrom., 41, 623-632(2006)を参照して行うことができる)が挙げられる。 一方、アセチルアセトンを用いたアルギニン残基側鎖の修飾反応に際しては、反応温度を75〜85℃、例えば80℃程度とすることも好ましい。本発明においては、このような温度条件で反応を行うことによって、収量よく且つ短時間で目的物質を得ることが可能である。例えば、このような温度条件において、反応時間は2〜4時間、例えば3時間程度とすることができる。 式1に、LysC消化(Lys-C protease Digestion)によるLysC消化物の調製によって、解析すべきタンパク質から、C末端ペプチド断片(A)(C-terminal peptie fragment (A))と、その他のペプチド断片(B)(the other peptide fragments (B))とを得る例を示す。式1においては、a〜lは、リジン残基以外のアミノ酸残基を表し、Lys-NH2で示される部分はリジン残基を表す。[2.修飾工程] タンパク質の切断処理物は修飾工程に供される。修飾工程においては、C末端ペプチド断片(A)及びその他のペプチド断片(B)が有するαアミノ基が選択的に修飾される一方で、その他のペプチド断片(B)が有するεアミノ基は修飾を受けない。 本修飾工程において用いられる修飾試薬は、電荷(例えば正電荷)を有する修飾試薬であることが好ましい。 電荷を有する修飾試薬を用いることによって、ペプチド断片の末端に電荷を付与することができる。このような修飾ペプチド断片は、質量分析、特にPSDやCIDなどMS/MS分析に供された場合に、フラグメンテーションにより生じるフラグメントイオンの中で、修飾基を有するイオン種の感度を上げる(修飾試薬が正電荷を有する場合)、あるいは、下げる(修飾試薬が負電荷を有する場合)ことができる。結果、観測されるフラグメントイオンの複雑さが減少しアミノ酸配列解析が容易となる。すなわち、電荷を有する修飾試薬を用いることは、得られる修飾ペプチド断片の質量分析におけるアミノ酸配列解析を容易にさせる点で好ましい。 修飾試薬の例としては、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸、及びその誘導体が挙げられる。トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸の誘導体としては、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸のエステル、活性エステル、酸ハロゲン化物、酸無水物、及び酸アジドなどが挙げられる。トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸の活性エステルとしては、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(TMPP-Ac-OSu)、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸のスルホスクシンイミジルエステルなどが挙げられる。さらに具体的な修飾試薬の例としては、(スクシンイミジルオキシカルボニルメチル)トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウムブロミドが挙げられる。これらの修飾試薬によって、解析すべきタンパク質の切断処理物のαアミノ基の選択的修飾を容易且つ効果的に行うことができる。 上記以外にも、修飾試薬として、以下のものを使用してもよい。例えば、5−ブロモニコチン酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(BrNANHS)、4−スルホフェニルイソチオシアネート(SPITC)を用いることができる。これらの修飾試薬を用いたαアミノ基への選択的修飾法は、特に限定されることなく、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、Rapid Commun. Mass Spectrom. 12, 603-608 (1998) ,Proteomics 2004, 4, 1684-1694を参照してこの修飾を行うことができる。 また、修飾試薬として、テトラフルオロフェニル(TFP)エステル類、イソチオシアネート類、スルフォニルクロリド類、ジクロロトリアジン類、4−スルホ−2,3,5,6−テトラフルオロフェノール(STP)或いはスルホジクロロフェニル(SDP)のスクシンイミドエステルを修飾基にもつ蛍光色素を用いることもできる。このような蛍光色素の例としては、Alexa Fluor(R), BODIPY(R), フルオレセイン、テトラメチルローダミン、ローダミン、Texas Red(R)などが挙げられる。これらの蛍光色素を用いたαアミノ基への選択的修飾法は、特に限定されることなく、当業者が適宜決定することができるものである。これらの蛍光色素を用いる場合、修飾反応時のpHを中性域に設定することにより、αアミノ基への修飾選択性が高まる。 さらに、修飾試薬として、イソシアネートをカップリングさせたレジンを用いることもできる。このレジンを用いたαアミノ基への選択的修飾方法は、特に限定されることなく、当業者が適宜決定することができるものである。例えば、Anal. Chem. 2007, 79, 7910-7915を参照してこの修飾を行うことができる。 修飾試薬は、タンパク質1に対して5〜200、好ましくは5〜20の量(物質量基準)で用いることができる。 修飾反応は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールからなる群から選ばれる有機溶媒を含む水溶液又は緩衝溶液を溶媒とする反応系にて行うことができる。当該溶媒のpHは、6〜10、好ましくは7〜9、さらに好ましくは8〜8.5に調整することが好ましい。 修飾反応の条件としては、例えば、反応温度を室温〜60℃(室温としては、例えば20〜25℃)、反応時間を15分〜6時間とすることができる。 本工程の例として、TMPP-Ac-OSuによる修飾(TMPP modification)によって、C末端ペプチド断片(A)から修飾されたC末端ペプチド断片(A’)(C-terminal peptide fragment modified (A’))と、その他のペプチド断片(B)から修飾されたその他のペプチド断片(B’)(the other peptide fragments modified (B’))とを生じる例を式2に示す。式2において、TMPPで表される基は、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウムアセチル基を表す。[3.分離工程] 修飾されたC末端ペプチド断片(A’)と修飾されたその他のペプチド断片(B’)とを含む、修飾された切断処理物は、分離工程に供される。分離工程においては、修飾されたC末端ペプチド断片(A’)と、その他のペプチド断片(B’)とを分離する。 分離手段としては、εアミノ基を介して保持することができるものを特に限定することなく用いることができる。より具体的には、無置換アミノ基(すなわちフリーのアミノ基)と共有結合を形成することができる基を有する担体を用いることができる。 無置換アミノ基と共有結合を形成することができる基としては特に限定されないが、例えば、イソチオシアネート基、イミド基、イソ尿素基、アルデヒド基、シアノ基、アセチル基、サクシニル基、マレイル基、アセトアセチル基、ジニトロフェニル基、トリニトロベンゼンスルホン酸基などが挙げられる。本発明においては、イソチオシアネート基、特にp−フェニレンジイソチオシアネート(DITC)基であることが好ましい。 担体部としては特に限定されないが、例えば、レジンやガラスを用いることができる。より具体的には、シリカゲル、ポリスチレン、多孔質ガラスなどが挙げられる。 修飾された切断処理物において、無置換アミノ基を有するペプチド断片は、修飾されたその他のペプチド断片(B’)である。従って、本工程においては、修飾されたその他のペプチド断片(B’)を、εアミノ基を介して分離手段に保持することができる。より具体的には、修飾されたその他のペプチド断片(B’)を、分離手段と反応させて、εアミノ基を介して共有結合を形成することができる。このことによって、修飾された切断処理物のうち、修飾されたその他のペプチド断片(B’)のみを担体に保持し、修飾されたC末端ペプチド断片を溶出することができる。このように、解析すべきタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収することが可能になる。 本工程の例として、TMPP修飾された切断処理物を、p−フェニレンジイソチオシアネートレジン(DITC resin)を用いて分離(separation)する例を、式3に示す。式3が示すように、修飾されたその他のペプチド断片(B’)(the other peptide fragments modified (B’))がリジン残基のアミノ基を介してDITCレジンに共有結合し、修飾されたC末端ペプチド断片(A’)(C-terminal peptide fragment modified (A’))はDITCレジンに結合することなく溶出することができる。 なお、従来のC末端ペプチド回収法によると、それぞれのペプチド断片のN末端アミノ基がDITCレジンに結合する。C末端ペプチド断片を回収するためには、TFAのような強酸を用いて、C末端ペプチド断片とDITCレジンとを切断しなければならない。しかも、切断は、C末端ペプチド断片のN末端アミノ酸残基とそれに隣接するアミノ酸残基との間のペプチド結合において起こる。従って、C末端ペプチド断片のN末端アミノ酸残基はDITCレジンに結合した状態で残り、一方C末端ペプチド断片は、そのN末端アミノ酸残基を失った状態で遊離する。このため、回収されたC末端ペプチド断片についてアミノ酸配列解析を行っても、失われたN末端の特定を行うことができない。[4.質量分析工程] 回収されたC末端ペプチド断片は、修飾基を有する形で得られる。 上記修飾工程において、電荷を有する修飾試薬を用いた場合は、C末端ペプチド断片は、電荷を有する基が結合した形で得られる。この場合、電荷を有する基は、C末端ペプチド断片の質量分析における検出感度を向上させる効果を有する。 特に、上記修飾工程においてトリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸の活性エステルを修飾試薬として用いた場合は、回収されたC末端ペプチド断片は強い正電荷を有するTMPP基が結合していることになる。 このように、本発明は、C末端ペプチド断片が、回収された時点で既に、質量分析での検出感度が非常に良い状態のものが得られる点で、非常に優れた方法である。さらに、本発明は、TMPP基などにより電荷を得たC末端ペプチド断片を質量分析に供することによって、de novoシーケンスが可能となる点で、非常に優れた効果を有する方法である。 アミノ酸配列の同定には、ESI法を利用した質量分析装置によるMS/MS解析、MALDI−TOF型質量分析装置によるPSD解析、MALDI法を利用した質量分析装置によるMS/MS解析などを行うことができる。[実験例1:モデルペプチドによる検討1] 本実験例では、モデルペプチド4種の混合物を調製し、修飾試薬としてTMPP-Ac-OSuを用い、本発明の方法に供した。 具体的には、以下のモデルペプチドを用いた。 [1]WAGGDASGE(配列番号1) [2]MHRQETVDCLK-NH2(配列番号2) [3]TRDIYETDYYRK(配列番号3) [4]AAKIQASFRGHMARKK(配列番号4) なお、ペプチド[2]において、K-NH2で表される残基は、C末端カルボキシル基がアミド化されたリジン残基を表す。 上記モデルペプチド4種の混合物は、本発明におけるタンパク質切断処理物に相当する。より詳しくは、ペプチド[1]がC末端ペプチド断片に相当し、ペプチド断片[2]、[3]及び[4]は、C末端アミノ酸残基がリジン残基であるため、その他のペプチド断片に相当する。 上記モデルペプチドをそれぞれ等量(100pmol、全量400pmol)混合した。アセトニトリル−水(体積比1:9)混合溶液5μLに、モデルペプチド混合物を溶かし、50mmol NaHCO3水溶液(pH8.2)を10μL加えて、モデルペプチド混合物溶液を調製した。 TMPP-Ac-Osuは、アセトニトリル−水(体積比2:8)混合溶液を溶媒とする1mM溶液として調製した。 調製したモデルペプチド混合物溶液に、1mM TMPP-Ac-OSu溶液5μLを加えて、20分間、超音波水槽中で反応させた。得られた反応混合物のマススペクトルを図1に示す(横軸:質量/電荷、縦軸:イオン相対強度、以下同じ)。図1が示すように、それぞれのペプチドのTMPP修飾物(図中[1]、[2]、[3]及び[4]で示す。)が観測された。 50mmol NaHCO3水溶液(pH8.2)−アセトニトリル(体積比9:1)混合溶液を洗浄液とし、この洗浄液100μLを用いたDITC樹脂5mgの洗浄を2回行った。 上記得られた反応混合物を遠心濃縮し、乾燥させ、得られた乾燥残渣を50mmol NaHCO3水溶液(pH8.2)を12μLに溶解した。このうち1μL(それぞれのTMPP修飾ペプチドを8pmolずつ含む)を、上記洗浄したDITC樹脂5mgに加えて、60℃で2時間反応させた。 アセトニトリル−イソプロピルアルコール−0.1v/v%トリフルオロ酢酸水溶液(体積比1:1:2)の混合溶液を溶出溶媒とし、この溶出溶媒100μLを用いた溶出を2回行った。得られた溶出液を遠心濃縮した。乾燥残渣を0.1v/v%トリフルオロ酢酸水溶液5μLに溶解し、質量分析測定を行った。得られたマススペクトルを図2に示す。図2が示すように、C末端ペプチド断片に相当するペプチド[1]のTMPP修飾物のみが観測されている。従って、C末端ペプチド断片に相当するペプチド[1]の選択的な回収が成功したことが示された。[実施例1:タンパク質での検討] 本実施例では、解析すべきタンパク質をリゾチーム(lysozyme(chick, egg-white))とし、修飾試薬としてTMPP-Ac-OSuを用い、本発明の方法に供した。 リゾチームの凍結乾燥サンプル100μgを8M尿素及び50mmolNaHCO3を含む水溶液に溶解し、TCEP水溶液(5.7mgを水100μLに溶解して調製)1μLを加え、37℃で30分反応させ、次いでヨードアセトアミド水溶液(9.3mgを水100μLに溶解して調製)1μLを加え、室温で45分反応させてアルキル化した。その後、Lys-C溶液(5μgを50mmolNaHCO3水溶液200μLに溶解して調製)200μLを加えて、37℃で一晩反応させて消化を行った。消化物のマススペクトルを図3に示す。図3が示すように、4つのペプチド断片(図中、(20-31)、(135-147)、(116-134)及び(32-51)で示す)が強く観測されている。このうち、ペプチド断片(135-147)がC末端ペプチド断片(C-terminal peptide)である。 次に、得られた消化物溶液のうち、2μL(リゾチームに換算して56pmolに相当する)をとり、1mmol TMPP-Ac-OSu水溶液10μLを加えて、20分間超音波水槽中で反応させた。生成物のマススペクトルを図4に示す。図4が示すように、図3で観測された4種のペプチド断片がほぼ全てTMPP修飾されたことが確認された。 TMPP修飾で得られた生成物2μL(リゾチームに換算して56pmolに相当する)を、洗浄したDITC樹脂(実験例1と同様にして調製したもの)5mgに加えて、60℃で2時間反応させた。反応終了後、抽出溶媒(実験例1と同様にして調製したもの)を用いて抽出した。抽出物を濃縮乾燥した後、乾燥残渣を0.1v/v%トリフルオロ酢酸水溶液10μLに溶解し、質量分析測定を行った。得られたマススペクトルを図5に示す。図5が示すように、C末端ペプチド断片(135-147)が確実に単離されたことが確認された。 単離されたペプチド断片の配列解析をMS/MS(CID)によって行った。図6に、アミノ酸配列結果を示す。本実施例で単離されたペプチド断片は、Mascotのイオンサーチに供した場合においても第1位でヒットした。[実験例2:モデルペプチドによる検討2] アルギニン残基側鎖の修飾によるフラグメンテーションの改善効果を示すため、修飾試薬としてTMPP-Ac-OSuを用い、以下のペプチド2種をそれぞれ本発明の方法に供した。 具体的には、以下のモデルペプチドを用いた。 [5]RVYIHPF(配列番号5) [6]DAEFRHDSGYE(配列番号6) 上記モデルペプチド[5]及び[6]は、本発明においては、リジルエンドペプチダーゼを用いて調製したタンパク質切断処理物に含まれるC末端ペプチド断片に相当する。 上記モデルペプチドを100 mM NaHCO3(pH 8.2)水溶液-アセトニトリル(体積比1:9)混合溶液に溶かして20 pmol/μLに調製した。 TMPP-Ac-Osuは、アセトニトリル−水(体積比2:8)混合溶液を溶媒とする10mM溶液として調製した。 調製したモデルペプチド混合物溶液45μLに、10mM TMPP-AC-Osu溶液5μLを加えて、30分間超音波水槽中で反応させた。 アルギニン残基の側鎖の修飾を行うため、TMPP修飾後の反応液に、4μLの100 mM Na2CO3 と6μLのアセチルアセトンとを加えて、80℃で3時間反応させた。 ペプチド[5]のTMPP修飾後のCIDスペクトルを図7に、TMPP修飾及びアルギニン残基の修飾後のCIDスペクトルを図8に示す(横軸:質量/電荷、縦軸:イオン相対強度、以下において同じ)。図7では、フラグメントイオンが検出されておらず、配列を同定することができなかった。一方、図8では、全てのフラグメントイオンが検出され、配列を同定することができた。 また、ペプチド[6]のTMPP修飾後のCIDスペクトルを図9に、TMPP修飾及びアルギニン残基の修飾後のCIDスペクトルを図10に示す。図9では、アルギニン残基を含むフラグメントイオンのピークが非常に弱く、C末端側の配列を同定することができなかった。一方、図10では、全てのフラグメントイオンが検出され、配列を同定することができた。すなわち、アルギニン残基の側鎖の修飾をさらに行うことによって、フラグメンテーションの改善効果が認められた。 上記実施例1に示すように、アルギニン残基含有ペプチドが測定試料中に含まれていても、特にアルギニン残基側鎖の修飾を行わなくとも配列の同定が可能である。一方で、本実験例2の図7及び図9に示すように、試料によっては、配列の同定ができない場合もある。このような場合には、図8及び図10に示すように、アルギニン残基の側鎖の修飾をさらに行うことによって、配列の同定が可能になる。 さらに、本実験例2でのアルギニン残基側鎖の修飾のための反応は、従来より行われてきた反応条件(すなわち室温で十数時間)と異なる条件下(すなわち80℃で3時間)で行われた。従来より行われてきた反応条件では、原料が残ることが確認されたが、本実験例で行われた反応条件では、反応時間が大幅に短縮されしかも副反応なども観測されなかった。すなわち収率の改善及び反応効率の大幅な改善も達成できた。実験例1において、モデルペプチド4種の混合物をTMPP修飾して得られた生成物のMSスペクトルである。実験例1において、モデルペプチド4種の混合物をTMPP修飾して得られた生成物をDITC樹脂にて分離を行うことによって単離されたペプチドのMSスペクトルである。実施例1において、リゾチームをLys-C消化して得られた消化物のMSスペクトルである。実施例1において、リゾチームのLys-C消化物をTMPP修飾して得られた生成物のMSスペクトルである。実施例1において、リゾチームのLys-C消化物をTMPP修飾して得られた生成物をDITC樹脂にて分離を行うことによって単離されたC末端ペプチド断片のMSスペクトルである。実施例1において、単離されたC末端ペプチド断片をMS/MS(CID)によってアミノ酸配列を行った結果である。実験例2において、モデルペプチドをTMPP修飾して得られた生成物のCIDスペクトルである。実験例2において、モデルペプチドをTMPP修飾及びアルギニン残基修飾して得られた生成物のCIDスペクトルである。実験例2において、モデルペプチドをTMPP修飾して得られた生成物のCIDスペクトルである。実験例2において、モデルペプチドをTMPP修飾及びアルギニン残基修飾して得られた生成物のCIDスペクトルである。 配列番号1〜6は、合成ペプチドである。 αアミノ基を有し且つεアミノ基を有しないC末端ペプチド断片(A)、及び、αアミノ基及びεアミノ基を有するその他のペプチド断片(B)を含む、解析すべきタンパク質の切断処理物を用意する工程と、 前記解析すべきタンパク質の切断処理物中の前記αアミノ基を選択的に修飾試薬によって修飾し、修飾アミノ基を有し且つεアミノ基を有しない修飾されたC末端ペプチド断片(A’)、及び、修飾アミノ基及びεアミノ基を有する修飾されたその他のペプチド断片(B’)を含む、修飾された切断処理物を得る工程と、 修飾されたその他のペプチド断片(B’)を、前記εアミノ基を介して支持体に保持させ、前記修飾された切断処理物から、前記修飾されたC末端ペプチド断片(A’)を分離する工程と、を含む、タンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記修飾試薬は正電荷を有するものである、請求項1に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記修飾試薬は、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸である、請求項1又は2に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記修飾試薬は、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル及びトリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスホニウム酢酸スルホスクシンイミドエステルからなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記解析すべきタンパク質の切断処理物は、解析すべきタンパク質をリジルエンドペプチダーゼによって消化することにより得られたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記解析すべきタンパク質の切断処理物、前記修飾された切断処理物、又は、分離された前記C末端ペプチド断片(A’)に含まれ得るアルギニン残基の側鎖を化学的に修飾する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 前記支持体は、p−フェニレンジイソチオシアネートが固定化されたものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する方法。 請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法によって、解析すべきタンパク質のC末端ペプチドを選択的に回収する工程と、 回収されたC末端ペプチド断片を質量分析測定に供し、アミノ酸配列を決定する工程と、を含む、タンパク質のC末端ペプチドのアミノ酸配列決定法。配列表


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