タイトル: | 公開特許公報(A)_MPO−ANCA親和性検出方法 |
出願番号: | 2007280969 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | G01N 33/573,G01N 33/543,G01N 33/53,G01N 33/577 |
吉田 雅治 山田 道之 大野 尚仁 佐々木 まり子 JP 2009109301 公開特許公報(A) 20090521 2007280969 20071029 MPO−ANCA親和性検出方法 吉田 雅治 507357357 西澤 利夫 100093230 吉田 雅治 山田 道之 大野 尚仁 佐々木 まり子 G01N 33/573 20060101AFI20090424BHJP G01N 33/543 20060101ALI20090424BHJP G01N 33/53 20060101ALI20090424BHJP G01N 33/577 20060101ALI20090424BHJP JPG01N33/573G01N33/543 511NG01N33/53 NG01N33/577 4 8 OL 17 本願発明は、ANCA関連血管炎に関係するMPO-ANCAのMPO抗原に対する親和性を検出する方法に関するものである。さらに詳しくは、ANCA関連血管炎の活動性を反映する高親和性MPO-ANCAと低親和性MPO-ANCAとを区別して検出する方法に関するものであり、重症の血管炎を呈する危険性のある患者と軽症の血管炎を示す患者とを事前に高精度で判定する方法に関するものである。 抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody : ANCA)は、近年見いだされた腎・肺を中心とする小型血管炎を示す症例で高率に見出されるIgG型のヒト好中球細胞質に対する自己抗体である(非特許文献1)。ANCAはcytoplasmic(細胞質)-ANCA(C-ANCA)とperinuclear(細胞核周辺)-ANCA(P-ANCA)に大別される。C-ANCAはproteinase 3(PR3)を標的とすることからPR3-ANCAと呼ばれることがあり、またP-ANCAはmyeloreroxidase(MPO)を標的とすることからMPO-ANCAとも命名されている。C-ANCAはWegener肉芽種で多く見出される。一方、P-ANCAは顕微鏡的多発血管炎や腎限局型血管炎で高率に見出され、ANCA関連血管炎と総称される(非特許文献2)。ANCA関連血管炎の疾患活動性と、ANCA力価は相関して変動するとされ、ANCAの検出は免疫抑制療法を施行する際の指標の一つとして有効と考えられてきた(非特許文献3、4)。 ANCAの検出法としては、間接免疫蛍光法(Indirect immuneofluorescence assay : IIF)と、酵素免疫法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay:ELISA)が知られている。 IIF法は、健常者の末梢血中の好中球をエタノール固定したものを基質として用い、これに患者血清を加えて、FITC標識抗ヒトIgG抗体を反応させ蛍光顕微鏡下にC-ANCAおよびP-ANCAを判定し、陽性所見を呈する最大希釈率をもって半定量的に測定するものである。特許文献1には、このIIF法によってP-ANCAを測定し、潰瘍性大腸炎、原発性硬化性胆管炎および1型自己免疫性肝炎を診断する技術が開示されている。 一方、ELISAは、マイクロプレート上に固相化されたANCA抗原(PR3またはMPO)に患者血清中のANCAを反応させ、次いで酵素標識抗体を反応させ酵素反応により検出する方法である。ANCA力価定量は添付の標準液により検量線を作成して算出する。現在数社のキットが市販され、各々臨床測定に応用可能であるが、標準値、健常者のカットオフ値などは各社ともにややその基準に違いがあり、国際単位なども存在しない。 また最近、抗甲状腺薬の投与を原因とするMPO-ANCA関連血管炎について阻害(競合抑制)ELISAを実施した報告がなされている(非特許文献5)。ただしこの報告は、固相化MPO抗原と患者血清中のMPO-ANCAとの結合性の程度を競合MPO抗原によってより確実に査定するもの(すなわち一般的な阻害ELISAの目的の範囲内)であり、MPO-ANCAの対MPO抗原親和性の相違や、さらにはそのような親和性と血管炎症状との関連性については何ら言及していない。特許第3386815号Lancet 368:404-418, 2006 Bosh X, Guilabert A, Front J, Antineutropfil cytoplasmic antibodyiesInternal Medicine vol.41, no.1 47-49 2002 M.Yoshida Antineutrophil cytoplasmic antibody(ANCA) associated vasculitis: from molecular analysis to bedside内科 98:1109-1114 2006, 吉田雅治 ANCA関連血管炎に対する免疫抑制療法 積極的な立場からAllergology International 2007; 56:87-96 Ozaki S. ANCA-associated vasculitis: Diagnostic and Therapeutic StrategyClinical Endocrinology (2007) 66, 543-547 Ying Gao, Min Chen,Hua Yet, Xiao-hui Guot Follow-up avidity and titre of anti-myeloperoxidase antibodies in sera from patients with propylthiouracil-induced vasculitisQJM 1994; 87:671-678 R.A.Luqmani Birmingham Vasculitis Activity Score (BVAS) in systemic necroticzing vasculitis 我が国では、MPO-ANCA関連血管炎とPR3-ANCA関連血管炎の発病頻度はおよそ9:1の割合で、double negative ANCA血管炎はきわめて稀である。特に60歳以上の高齢者で発症することが多く、男女差はない(非特許文献2、3)。一方、ANCA力価と腎および肺を中心とする全身の血管炎症候との関係をみると、ANCA関連血管炎の未治療活動期にANCA力価が高値を示す例(「相関型」)は約50%であり、他の約半数の患者は、血管炎症候と無関係にANCA力価が変動する事が明らかになってきた。そのような症例の一つは、ANCA力価が低い状態のまま、血管炎の再発を繰り返す「くすぶり型」、もう一つはANCA力価が高い状態でありながら、ほとんど重症の血管炎に伴う臨床症状を呈さない「非相関型」である。さらに従来のANCA測定法ではANCAが検出されないが、血管炎がおこる「ANCA陰性血管炎型」も存在する(図1参照)。 ANCA力価と血管炎病態とが相関する患者(全体の約50%)の場合には、腎および肺を中心とする血管炎症状はBVASスコアが15点以上で重度であり(非特許文献6)、副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤による免疫抑制治療が効果的である。免疫抑制によるANCA力価の低減に伴ってBVASスコアを含めた疾患活動性が軽快する例が多いからである。 これに対して、他の患者、特にANCA力価が高いが、ほとんど重症の血管炎症状を呈さない「非相関型」の患者の場合には、免疫抑制治療は好ましくない。副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤を主体とする強力な非特異的免疫抑制治療は、患者の免疫機能を著しく低下させることによって、各種病原体に対する抵抗力を大きく低減させるからである。事実、ANCA血管炎における最も多い死因は感染症である(非特許文献2、3)。しかしながら、ANCA力価を指標として免疫抑制治療を実施している現状では、重症の血管炎症状を呈さない「非相関型」の患者にも、高ANCA力価を理由として過剰な免疫抑制療法が施される危険性がある。 本願発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、ANCA関連血管炎に対するより適切な治療法の選択を可能とする新しい方法を提供することを課題としている。 本願発明は、前記課題を解決する手段として、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎に関係するサンプル血清中ミエロペルオキシダーゼ(MPO)-ANCAのMPO抗原に対する親和性を検出する方法であって、(1) 担体上にMPO抗原の一定量を固相化し、(2) サンプル血清と、MPO抗原を段階的に希釈した溶液を担体に接触させ、(3) サンプル血清中MPO-ANCAと担体上MPO抗原との結合性を50%阻害する溶液中MPO濃度IC50を測定し、(4) IC50が担体固相化に使用のMPO抗原量の30%未満の場合はサンプル血清中のMPO-ANCAがMPO抗原に対して高親和性であると判定し、IC50が担体固相化に使用のMPO抗原量の30%以上の場合はサンプル血清中のMPO-ANCAがMPO抗原に対して低親和性であると判定する、ことを特徴とするMPO-ANCA親和性検出方法を提供する。 この検出方法においては、前記の担体固相化に使用のMPO抗原量が1μg/mlであり、溶液中MPO抗原濃度が0〜50μg/mlであることを態様の一つとしている。 またこの検出方法においては、前記担体上のMPO抗原が、抗MPOモノクローナル抗体を介して担体に固相化されていること、さらには、この抗MPOモノクローナル抗体が、MPOの異なるエピトープを認識する2以上の異なるモノクローナル抗体であることをそれぞれ別の態様としている。 本願発明によれば、阻害ELISA法によってMPO抗原に対する高親和性MPO-ANCAと低親和性MPO-ANCAとを明確に区別することが可能となる。そして、高親和性MPO-ANCAは重症の血管炎に関連し、低親和性MPO-ANCAは軽症の血管炎に関連する。従って、本願発明によって得られたMPO-ANCAの対MPO親和性に基づいて、重症の血管炎を呈する危険性のある患者(すなわち、免疫抑制治療の対象患者)と、軽症の血管炎に止まる患者(すなわち、免疫抑制療法以外の治療法に選択の余地がある患者)とを簡便かつ正確に判定することが可能となる。 実施例を示して、本願発明の実施形態を詳しく説明する。ただし、本願発明の実施は以下の例に限定されるものではない。1.対象 自験MPO-ANCA関連血管炎17例(男性9例、女性8例、平均年齢71歳)を対象として、厚労省難治性血管炎に関する調査研究班のMPO-ANCA関連血管炎に対する重症度分類により、1群[最重症(肺出血)、重症(RPGN):11例]と2群[軽症(CRF、神経、筋、関節症状他):6例](非特許文献3、4)に分類した。2.方法 ヒトMPO抗原をwell当たり1μg/mlを50μl用いて個相化したマイクロプレートに、予備テストにより抗体量を同じに規定するだけの希釈を施した患者血清と、MPO抗原0〜50μg/ml/wellを段階的に希釈した溶液50μlを同時に添加する事により阻害(競合抑制)ELISAテストを行った。MPO-ANCAの親和性を、抗体活性を50%阻害するMPO濃度としてIC50で表示した。MPO-ANCA力価および親和性の差の変動と血管炎の臨床経過についても解析した。高純度MPOはSuzuki Yamada Akashi and Fujikuraらの方法(Archives of Biochemistry and Biophysics vol.245, issue 1,1986 167-173 Similarity of kinetics of three types of myeloperoxidase from human leukocytes and four types from HL-60 cells)で作成した。 詳しくは、以下のとおりに行った。(1)MPOの固相化 高純度MPO(Human MPO)をPBS(pH6.8〜7)にて1μg/mlに希釈した。96well Plate(BD Falconエンハンス:353279)へ50μl/well添加し、一夜反応させた。次いで、Blocking剤として1%スキムミルク(雪印スキムミルク250g顆粒)/PBST(Tween 0.05% PBS)を200μl/well添加し、37℃で1時間反応させた。(2)血清の調製 1%スキムミルク/PBSTを用いて患者血清を1000倍に希釈し血清溶液を調製した。また、1%スキムミルク/PBSTを用いて段階的に希釈したMPO溶液(0〜50μg/ml)と患者血清(x100〜×4000)を混合し、混合溶液を調製した。(3)阻害ELISA(図2参照) 前記(2)で調製した血清溶液と混合溶液をそれぞれPlateに50μl/well添加し、37℃で1時間反応させた。3回PBSTで洗浄後、二次抗体(Anti-Human IgG Alkaline Phosphatase Conjugate: SIGMA A1543)を2000倍希釈し、50μl/ml添加し、37℃で1時間反応させた。3回PBSTで洗浄後、ALPの発色試薬(PhosphataseSubstrate Kit: PIERCE37620)を100μl/well添加し、37℃で30分間反応させた。次いで、吸光度計(BI0-RAD Model680 Microplate Reader)で吸光度(OD 405nm)を測定した。患者サンプルのOD値から健常者OD値、固相化なしwellのOD値を差し引いた値を最終OD値とした。(4)IC50の測定 予備テストから患者血清中の抗体力価を決定した。力価の実測OD値が1.00前後になるよう血清を適度に希釈してから、阻害ELISAを行った。 また阻害(%)は、添加MPOの最高濃度である50μg/mlを加えた時のOD値(100%抑制)をMPOゼロのOD値から差し引き、算出した。阻害カーブから50%阻害を示すMPO濃度をIC50とした。2.結果 図3は、阻害ELISAによって高親和性MPO-ANCAと判定された患者の阻害カーブである。IC50は約0.1μg/mlであり(図7)、この濃度は固相化MPO抗原量(1μg/ml)の10%に相当する。この患者は、図4に臨床経過を示したように急速進行性腎炎(RPGN)を示す重症型血管炎を呈する患者である。 一方、図5は低親和性を判定された患者の阻害カーブである。IC50は約0.8μg/mlであり、固相化に使用のMPO抗原量の80%に相当する(図7)。図6に臨床経過を示したとおり、この患者は軽症血管炎患者に該当する。 図8は、検査した17例全員の阻害カーブである。高親和性患者11例と低親和性患者6例に分かれた。 表1は、高親和性患者11例と低親和性患者6例の全臨床病型、臨床データ、重症度、MPO-ANCA力価、IC50値をそれぞれ示す。この表1から明らかなとおり、最重症および重症の血管炎を呈する11例の全身の血管炎進行性はBVASスコア(16.5±5.7)で全て高親和性(IC50値:平均0.15±0.06)であり、軽症血管炎患者6例のBVASスコアは(8.7±5.4)で全て低親和性(IC50値:平均0.61±0.12)であった。 以上の結果から、阻害ELISAによるIC50値の測定によって、MPO-ANCA関連血管炎の重症度の事前判定が簡便かつ確実に可能であることが確認された。MPO-ANCA関連血管炎症候群の臨床経過と、ANCA力価の変動とを示す。MPO-ANCA阻害ELISAテストの模式図。MPO-ANCA阻害ELISAテストによって高親和性を示した患者(力価1280)の阻害カーブ。図3の患者の臨床経過。MPO-ANCA阻害ELISAテストによって低親和性を示した患者(力価800)の阻害カーブ。図5の患者の臨床経過。図3と図5の比較図。実線が図3に、波線が図5に対応する。全患者のMPO-ANCA阻害ELISAテストにおける阻害カーブ。実線は高親和性、波線は低親和性を示す。 抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎に関係するサンプル血清中ミエロペルオキシダーゼ(MPO)-ANCAのMPO抗原に対する親和性を検出する方法であって、(1) 担体上にMPO抗原の一定量を固相化し、(2) サンプル血清と、MPO抗原を段階的に希釈した溶液を担体に接触させ、(3) サンプル血清中MPO-ANCAと担体上MPO抗原との結合性を50%阻害する溶液中MPO濃度IC50を測定し、(4) IC50が担体固相化に使用のMPO抗原量の30%未満の場合はサンプル血清中のMPO-ANCAがMPO抗原に対して高親和性であると判定し、IC50が担体固相化に使用のMPO抗原量の30%以上の場合はサンプル血清中のMPO-ANCAがMPO抗原に対して低親和性であると判定する、ことを特徴とするMPO-ANCA親和性検出方法。 担体固相化に使用のMPO抗原量が1μg/mlであり、溶液中MPO抗原濃度が0〜50μg/mlである請求項1の方法。 担体上のMPO抗原が、抗MPOモノクローナル抗体を介して担体に固相化されている請求項1の方法。 抗MPOモノクローナル抗体が、MPOの異なるエピトープを認識する2以上の異なるモノクローナル抗体である請求項3の方法。 【課題】ANCA関連血管炎の活動性を反映する高親和性MPO-ANCAと低親和性MPO-ANCAとを区別して検出する方法を提供する。【解決手段】ANCA関連血管炎に関係するサンプル血清中MPO-ANCAのMPO抗原に対する親和性を検出する方法であって、(1)担体上にMPO抗原の一定量を固相化し、(2)サンプル血清と、MPO抗原を段階的に希釈した溶液を担体に接触させ、(3)サンプル血清中MPO-ANCAと担体上MPO抗原との結合性を50%阻害する溶液中MPO濃度IC50を測定し、(4)IC50が担体固相化に使用のMPO抗原量の30%未満の場合はサンプル血清中のMPO-ANCAがMPO抗原に対して高親和性であると判定し、IC50が担体固相化に使用のMPO抗原量の30%以上の場合はサンプル血清中のMPO-ANCAがMPO抗原に対して低親和性であると判定する。【選択図】図8