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タイトル:公開特許公報(A)_高分子化合物の分析方法
出願番号:2007277230
年次:2009
IPC分類:G01N 27/62,G01N 30/72,G01N 30/06,G01N 27/64,G01N 30/88


特許情報キャッシュ

川崎 英也 荒川 隆一 渡辺 健宏 岡林 真義 武田 佳紀 JP 2009103635 公開特許公報(A) 20090514 2007277230 20071025 高分子化合物の分析方法 学校法人 関西大学 399030060 藤本 昇 100074332 薬丸 誠一 100114421 中谷 寛昭 100114432 小山 雄一 100134452 川崎 英也 荒川 隆一 渡辺 健宏 岡林 真義 武田 佳紀 G01N 27/62 20060101AFI20090417BHJP G01N 30/72 20060101ALI20090417BHJP G01N 30/06 20060101ALI20090417BHJP G01N 27/64 20060101ALI20090417BHJP G01N 30/88 20060101ALI20090417BHJP JPG01N27/62 VG01N30/72 CG01N30/06 AG01N30/06 EG01N30/06 ZG01N27/62 GG01N27/62 XG01N27/64 BG01N30/88 P 3 1 OL 13 特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕第56回高分子学会年次大会 〔主催者〕社団法人 高分子学会 〔開催日〕平成19年5月29〜31日 〔刊行物名〕高分子学会年次大会予稿集 56巻1号(CD−ROM) 〔発行年月日〕平成19年5月10日 2G041 2G041CA01 2G041DA04 2G041DA05 2G041DA16 2G041DA20 2G041EA03 2G041EA04 2G041FA09 2G041GA03 2G041GA05 2G041GA08 2G041GA12 2G041HA01 2G041JA02 2G041JA08 本発明は、高分子化合物の分析方法に関する。 従来、高分子化合物の分子構造の同定を目的とする分析方法の1つとして、質量分析による分析方法が知られている。質量分析による分析方法としては、主に2つの方法が挙げられる。1つはマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析方法(以下、MALDI−MSともいう)に代表される、比較的分子量の小さい高分子化合物の質量分析による分析方法であり、もう1つは比較的分子量の大きい高分子化合物を熱によって低分子化してから質量分析を行う熱分解ガスクロマトグラフ質量分析方法(以下、Py−GC−MSともいう)である。 MALDI−MSでは、通常、分子量が5000程度以下の高分子化合物の分析が可能である。MALDI−MSでは、高分子化合物の詳細な分子構造の解析、同定ができるものの、分子量が5000程度を超える高分子化合物については、その分析原理上の制限により分析自体が困難であるという問題がある。 他方、Py−GC−MSでは、分子量が5000を超えるような比較的分子量の大きい高分子化合物であっても、通常、分析が可能である。例えば、特許文献1には、Py−GC−MSによって高分子化合物などの有機物を分析する方法が提案されている。 しかし、Py−GC−MSでは、高分子化合物を低分子化する手法として熱による分解を用いるため、熱分解以外に再結合、不均化といった副反応が起こりやすく、同定の難しい低分子化物が高分子化合物から生成し得る。また、熱分解により構成単位のモノマーにまで低分子化が進み得る。従って、Py−GC−MSでは、高分子化合物の分子構造の同定が比較的困難であるという問題がある。さらに、Py−GC−MSでは、熱で解重合を起こしやすいビニル系の高分子化合物の分析は比較的容易であるものの、重縮合により得られるポリエステル、ポリアミド、ポリイミドなどの高分子化合物に関しては、熱による分解が起こりにくく、分析が困難となり得る。熱分解が起こりにくい高分子化合物の分析方法としては、例えば、酸またはアルカリ触媒存在下で加水分解を行い、溶媒抽出などにより分別精製を行い、その後誘導体化するなどの前処理により低分子化を行ってから質量分析する等の方法が挙げられる。しかし、そのような高分子化合物の分析方法には、複雑な前処理が必要とされ、操作が煩雑になるという問題がある。 ところで、熱分解以外に高分子化合物を低分子化する方法としては、光酸化分解、オゾン分解、超音波分解等が知られている。しかし、光酸化分解、オゾン分解などの低分子化方法では、必要とされる装置が比較的高価となり、しかも、高分子化合物をその構成単位にまで分解してしまうおそれがある。光酸化分解、オゾン分解などによって低分子化された低分子化物は、構成単位にまで分解された場合、揮発しやすくなり、捕捉することが困難となり得る。 このように、従来の高分子化合物の分析方法では、例えば、分子量5000程度を超えるような比較的分子量の大きい高分子化合物を低分子化することなく質量分析することは困難となり得る。一方、高分子化合物を低分子化してから質量分析を行う従来の分析方法では、加水分解や誘導体化といった前処理をする必要があり、分析方法が非常に煩雑になるという問題がある。また、例えば、熱分解などにより高分子化合物を低分子化してから質量分析を行う従来の分析方法では、操作が簡便である反面、熱によって分解のみならず副反応等が併発するため、高分子化合物の部分構造の特徴が損なわれた低分子化物が生じたり、熱によって高分子化合物がその構成単位にまで分解されたりし得る。従って、高分子化合物の分子構造の同定が困難になり得るという問題がある。 そこで、高分子化合物の部分構造の特徴を損なわない方法で比較的分子量の大きい高分子化合物を簡便に低分子化し、その低分子化物を質量分析することにより、高分子化合物の分子構造の同定ができる高分子化合物の分析方法が要望されている。特開2003−300013号公報 本発明は、上記問題点および要望に鑑み、高分子化合物の部分構造の特徴を損なうことなく簡便に低分子化でき、かつ、低分子化したその低分子化物の分析により、比較的分子量の大きい高分子化合物であってもその分子構造を同定できる高分子化合物の分析方法を提供することを課題とする。 上記課題を解決すべく、本発明に係る高分子化合物の分析方法は、高分子化合物を低分子化して質量分析する高分子化合物の分析方法であって、高分子化合物を溶解させた高分子化合物の溶液に超音波を照射する超音波照射工程を実施し、超音波を照射した前記溶液に含まれる低分子化物を質量分析する質量分析工程を実施することを特徴とする。 上記構成からなる高分子化合物の分析方法によれば、比較的分子量の大きい高分子化合物であっても、その分子構造の同定を目的とした分析が簡便に実施できる。また、高分子化合物の低分子化がその構成単位に至るまで進みにくく、高分子化合物の分子構造が部分的に保たれた低分子化物を質量分析に供することができるため、高分子化合物の分子構造に関する情報を得ることができる。 また、前記質量分析工程をマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析方法(MALDI−MS)により実施することが好ましい。前記質量分析工程をマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析方法(MALDI−MS)により実施することにより、広範囲の分子量を有する化合物に対してイオン化が可能で、分析の感度がより高いという利点がある。また、多価イオンが形成されないため、低分子化物の解析が比較的容易になり、分子量分布の変化も確認しやすくなるという利点もある。さらに、ソフトなイオン化であるため、低分子化物をイオン化する際に低分子化物の分解が起こりにくいという利点もある。 また、前記超音波照射工程を実施した後、前記質量分析工程を実施する前に、前記分解生成物をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分画する分画工程を実施し、かつ、前記質量分析工程をエレクトロスプレーイオン化質量分析方法(ESI−MS)により実施することが好ましい。上記構成により、超音波照射によって高分子化合物から生じた低分子化物を分子量に応じて分画でき、分画された低分子化物ごとに低分子化物を分析できるという利点がある。また、エレクトロスプレーイオン化が大気圧下でイオン化できる方法であるため、サイズ排除クロマトグラフィー装置とエレクトロスプレーイオン化質量分析装置とをオンラインでつなげることができ、分析操作がより簡便になるという利点がある。 本発明に係る高分子化合物の分析方法は、高分子化合物の部分構造の特徴を損なうことなく簡便に低分子化でき、かつ、低分子化したその低分子化物の分析により、比較的分子量の大きい高分子化合物であってもその分子構造を同定できるという効果を奏する。 以下、本発明に係る高分子化合物の分析方法の一実施態様について図面を参照しつつ説明する。 本実施態様の高分子化合物の分析方法は、図1に示したフローで実施でき、以下に述べる各工程を実施する。即ち、高分子化合物を溶解させた高分子化合物の溶液に超音波を照射する超音波照射工程と、超音波を照射した前記溶液に含まれる低分子化物を質量分析する質量分析工程とを実施する。 以下、各工程で実施する内容について詳細を説明する。 前記超音波照射工程では、分析対象とする高分子化合物を適当な溶媒に溶解させて高分子化合物の溶液とし、その高分子化合物の溶液に超音波を照射する。 前記高分子化合物は、分析の対象とされるものであり、溶媒に溶解するものであれば特に限定されず、その分子量も特に限定されない。前記高分子化合物としては、例えば、タンパク質、多糖類、核酸高分子などの天然高分子、熱可塑性樹脂などの合成高分子等が挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。 前記溶媒としては、分析対象とされる前記高分子化合物を溶解させ、その溶媒中で超音波照射によって高分子化合物が低分子化するものであれば、特に限定されない。なお、後述する質量分析の際のイオン化において、容易に揮発し得るという点で、沸点が150℃以下のものが好ましい。また、前記高分子化合物との化学的な反応性を実質的に有しない溶媒であることが好ましい。前記溶媒としては、例えば、水、アセトニトリル、トルエン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノールやエタノールなどの低級アルコール等を挙げることができる。 前記高分子化合物を前記溶媒に溶解した高分子化合物の溶液の濃度としては、特に限定されないが、通常、1〜5mg/mLが例示される。溶液に含まれる低分子化物をそのまま用いて、後述する質量分析工程を実施し、操作をより簡便にするという点においては、高分子化合物の溶液の濃度は1〜2mg/mLであることが好ましい。 前記超音波照射工程における好ましい超音波照射の条件として、照射時間10分〜8時間、超音波の周波数20〜500kHz、出力10〜100Wを挙げることができる。 照射時間が10分以上であることにより、少なくとも高分子化合物の一部を低分子化することができるという利点がある。また、比較的短時間の操作で前記超音波照射工程を実施できるという点において、照射時間は、8時間以下であることが好ましい。 超音波の周波数が20〜500kHzの範囲であることにより、キャビテーションが起こりやすく、高分子化合物の低分子化が進みやすいという利点がある。 超音波の出力が10W以上であることにより、高分子化合物がより短時間で低分子化され得るという利点がある。また、比較的低出力で前記超音波照射工程を実施できるという点において、超音波の出力は、100W以下であることが好ましい。 前記超音波照射工程における超音波照射時の温度としては、高分子化合物を溶解している溶媒の凝固点を超え、沸点未満であれば特に限定されないが、通常、0〜25℃が挙げられる。 前記超音波照射工程は、通常、市販の超音波発生装置を用いて実施することができる。 前記質量分析工程においては、通常、分析対象物質をイオン化し、イオン化された分析対象物質を質量/電荷比に基づいて分離し、分離された分析対象物質を検出し、検出された値を解析処理することにより質量分析を行う。このような一連の質量分析工程を実施するための装置は、通常、市販の質量分析装置に組み込まれており、そのような装置を用いることによって前記質量分析工程を行うことができる。 前記イオン化は、質量分析において一般的に知られている方法で行うことができる。例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、電解脱離イオン化法、プラズマディソープションイオン化法、高速粒子衝撃イオン化法等により行うことができる。なお、広範囲の分子量を有する化合物をソフトにイオン化できるという点で、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)で行うことが好ましく、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)で行うことがさらに好ましい。従って、前記質量分析工程は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI−MS)、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)で実施することが好ましく、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI−MS)で実施することがさらに好ましい。 前記マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)では、通常用いられるマトリックス、カチオン化剤等を用いることができる。 前記マトリックスとしては、シナピン酸(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸)、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)、フェルラ酸(trans−4−ヒドロキシ−3−メトキシケイ皮酸)、ゲンチシン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、HPA(3−ヒドロキシピコリン酸)、ジスラノール(1,8−ジヒドロキシ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−オン)などが挙げられる。 前記カチオン化剤としては、ヨウ化ナトリウム(NaI)、トリフルオロ酢酸銀(CF3COOAg)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化リチウム(LiI)、酢酸アンモニウム(CH3COONH4)、酢酸(CH3COOH)、トリフルオロ酢酸(CF3COOH)などが挙げられる。 前記エレクトロスプレーイオン化法(ESI)では、通常用いられるカチオン化剤、例えば、ヨウ化ナトリウム(NaI)、トリフルオロ酢酸銀(CF3COOAg)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化リチウム(LiI)、酢酸アンモニウム(CH3COONH4)、酢酸(CH3COOH)、トリフルオロ酢酸(CF3COOH)等を用いることができる。 前記質量分析工程では、分析対象物質を質量/電荷比に基づいて分離する方法を、例えば、飛行時間型(TOF)、四重極型、イオントラップ型、セクター型、フーリエ変換型、およびこれらの複合型などの方法で行うことができる。なかでも、測定可能な質量範囲が広いという点で、飛行時間型(TOF)で行うことが好ましい。従って、前記質量分析工程は、エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析(ESI−TOFMS)で実施することが好ましく、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOFMS)で実施することがより好ましい。 次に、本発明の他の実施態様について、図2を参照しながら説明する。 他の実施態様の高分子化合物の分析方法は、図2に示すフローで実施でき、以下に述べる各工程を実施する。即ち、高分子化合物を溶解させた高分子化合物の溶液に超音波を照射する超音波照射工程と、超音波を照射した前記溶液に含まれる低分子化物をサイズ排除クロマトグラフィーで分画する分画工程と、分画された低分子化物を質量分析する質量分析工程とを実施する。 他の実施態様の前記超音波照射工程および前記質量分析工程は、既述した一実施態様の超音波照射工程および質量分析工程と同様にして実施することができる。 他の実施態様の前記質量分析工程においては、前記分画工程で分画された低分子化物が質量分析工程を実施するための質量分析装置へオンラインで移送でき、一連の高分子化合物の分析方法が簡便に行えるという点で、分析対象物質をイオンとするためのイオン化は、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)が好ましい。従って、前記質量分析工程をエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)によって実施することが好ましい。また、エレクトロスプレーイオン化イオントラップ型質量分析(ESI−ITMS)によって実施することが、詳細に解析できるという点で、より好ましい。 なお、より詳しく構造解析するために、前記質量分析工程においては、エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI−MS/MS)を採用することもできる。この方法によれば、1つ目の検出器でとらえたイオンを壊して、2つ目の検出器で測定することでより詳細な分子構造に関する情報を得ることができる。 他の実施態様の前記分画工程は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)やゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)などのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって実施することができる。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に限らず、他の液体クロマトグラフィー(LC)によっても実施することができるが、比較的分子量の大きい化合物でも分析できるという点でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって実施することが好ましい。 他の実施態様の前記分画工程は、市販のサイズ排除クロマトグラフィー装置を用いることにより実施できる。なお、前記分画工程で用いるサイズ排除クロマトグラフィー装置と、前記質量分析工程で用いる質量分析装置とはオンラインでつなぐことにより、一連の分析方法をさらに簡便なものとすることができる。 次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。(実施例1) 平均分子量が6000のポリエチレングリコール(PEG)を試料とした。これをアセトニトリル/水=1/1(v/v)混合溶媒に溶解させて1.8mg/mL濃度とし、この溶液を1.5mLとり、超音波発生装置「UR−20P」(TOMY SEIKO製)を用いて15℃に保って照射し、超音波照射工程を実施した。超音波周波数は28kHz、超音波出力は20Wとした。 次の質量分析工程の実施には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI−TOFMS)[AXIMA−CFR(SHIMADZU製 Kratos)]を用いた。超音波を照射した上記の溶液をMALDI−TOFMS装置に導入し、MALDI−MSスペクトルを得た。なお、MALDI−MSスペクトルはリフレクトロン正イオンモード測定で得た。試料調製にはマトリックスとしてCHCA(濃度10mg/mL)を、カチオン化剤としてNaI(濃度1.5mg/mL)を、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)/水=1/1(v/v)を用いた。 図3は実施例1においてPEG(M.W.=6000)に超音波を0,2,4,8時間照射したときのMALDI−MSスペクトルを表す。 照射時間が0時間では、m/z 6000に繰り返し間隔が44uであるPEGのイオン群が検出された。 照射時間が2時間になると、PEGの低分子化が起こりm/z 6000のイオン群の他に、m/z 500〜3000の範囲に超音波照射による低分子化物のイオン群(44u間隔)が観測された。 照射時間が4時間になると、m/z 3000〜5000にも超音波照射による低分子化物が観測されるようになった。これは超音波照射による低分子化物同士の再結合によるものと考えられる。 照射時間が8時間になると、m/z 6000のピークは減少した。超音波照射8時間後には、超音波分解生成物の分子量は1000程度に収束する傾向となった。超音波照射によるPEGの低分子化物の分子構造は、MALDI−MSスペクトルを詳細に解析することによって決定した。 図4は、実施例1においてPEG(M.W.=6000)に超音波を8時間照射した後のMALDI−MSスペクトルの拡大図を表す。このスペクトルから5種類のNa付加イオン(A,A’,B,B’,C)を確認した。 これら5種類のイオンの分子構造の詳細を以下に示す。 イオンAn(nはPEGの繰り返し単位数)は、末端がOH基およびH基の[HO-CH2CH2-(OCH2CH2)n-OH + Na]+ である。 イオンA’nは[CH2=CH-(OCH2CH2)-OH + Na]+ で、末端がビニル基とOH基であるか、または環状構造である。 イオンBnは末端がエチル基とOH基の[H-CH2CH2-(OCH2CH2)n-OH + Na]+ である。 イオンBn’は[CHOCH2-(OCH2CH2)n-OH + Na]+ であり、末端がアルデヒド基とOH基である。 イオンCnは[H-CH2CH2-(OCH2CH2)n-H + Na]+ で末端がエチル基とH基である。 低分子化物の末端構造から超音波切断プロセスが予想できる。それぞれのピークの生成過程は、図5に示すように、まず超音波により炭素−酸素結合で切断が起きてX・(ラジカル末端,〜CH2CH2・)とY・(〜CH2CH2O・)が生成する(I)。X・が溶媒もしくはポリマーの水素ラジカルを引き抜きAになる(II)。また、Xラジカルが溶媒のヒドロキシラジカルになるか、もしくは他のポリマーに水素ラジカルを引き抜かれるとA’になる(III)。一方、Yの末端ラジカルが溶媒またはポリマーの水素ラジカルを引き抜くとBに(IV)、水素ラジカルを引き抜かれるとB’になる(V)。 さらに(IV)のプロセスで生成したBが超音波によって炭素−酸素間で切断が起きてZが生成し、それが水素ラジカルを引き抜くと生成することになる(VI)。ここで注目すべきことは他の生成物は1段階で生成するが、Cは2回切断が起きなければできないことである。 以上のように、超音波照射による低分子化物の末端構造ならびに分子構造を解析し、同定することができる。この解析から、PEGの超音波照射による低分子化過程は炭素−酸素結合の切断が開始反応であることが明らかである。 また、PEGの構成単位であるオキシエチレン基が残存した状態でPEGが低分子化されており、超音波照射によってもPEGの基本分子構造が保たれていることが認識できる。本実施例では、高分子化合物の基本分子構造が残存するか否かを確認するために既知の高分子化合物であるPEGを試料として用いたが、この結果より、未知の高分子化合物であっても、簡便に分子構造の解析、同定ができると考えられる。(実施例2) 平均分子量2000のPEGを試料として用いて超音波を8時間照射した点以外は、実施例1と同様にして超音波照射工程と質量分析工程とを実施した。(実施例3) 平均分子量20000のPEGを試料として用いて超音波を8時間照射した点以外は、実施例1と同様にして超音波照射工程と質量分析工程とを実施した。(実施例4) 平均分子量2000000のPEGを試料として用いて超音波を8時間照射した点以外は、実施例1と同様にして超音波照射工程と質量分析工程とを実施した。 図6に実施例1〜4で得た各MALDI−MSスペクトルを示す。平均分子量の異なるPEGで比較すると、各ピーク強度は異なるが、超音波照射によって生じた低分子化物の分子構造は同じであることが認識できる。また、低分子化なしでは質量分析をすることが通常不可能である、比較的分子量の大きい実施例3,4の場合のような高分子化合物であっても、高分子化合物の分子構造の解析、同定が可能であることが認識できる。(実施例5) 重合度n=29のポリメチルメタクリレート(以下、PMMAともいう)を試料とし、これをアセトニトリル/水=1/1(v/v)混合溶媒に溶解させて0.7mg/mL濃度とし、この溶液1.5mLに超音波照射を行い、超音波照射工程を実施した。超音波発生装置は「UR−20P」(TOMY SEIKO製)を用い、超音波照射条件は、周波数28kHz、出力20W、温度15℃とした。 質量分析工程においては、飛行時間型質量分析計AXIMA−CFRplus(SHIMADZU製 Kratos)を用いて、MALDI−MSスペクトルをリニア正イオンモードで得た。マトリックスには2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)(濃度10mg/mL)、カチオン化剤にはヨウ化ナトリウム(NaI)(濃度1.5mg/mL)、溶媒にはアセトニトリル/水=1/1(v/v)混合溶媒を用いた。 図7は実施例5においてPMMA溶液に超音波を照射した後のMALDI−MSスペクトルの時間変化を表す。 超音波照射前には、末端にt−C4H9基をもつPMMA(m/z 2982)のNa+付加分子のみを検出した。 超音波照射20秒後には、PMMAの低分子化が起こり、両末端基が水素分子であるPMMAのピーク群がm/z 1300付近に検出された。PMMAの切断はβ位で優先的に起こっていることが明らかである。また、末端がt−C4H9基であるPMMAの低分子化物が検出されていないことから、超音波照射によるPMMAの低分子化が、末端のt−C4H9基から起こっていることが示唆される。 超音波照射8時間後には、m/z 1000付近にピーク群がシフトし、その分子量分布は明確な正規分布に従うことが認識できる。また、その分子量分布は、超音波時間を長くすると狭くなることも認識できる。これは、超音波照射により高分子化合物の低分子化のみならず、高分子化合物の分子量分布を変えることができることを示すものである。 低分子化物の末端構造から超音波切断プロセスが予想できる。それぞれのピークの生成過程は、図8に示すように、まず超音波により高分子鎖の中央付近で炭素−炭素結合の切断が(I)で示したβ位の場所で起き、その結果、末端がX・(・CH2)とY・(C・)とのポリマーラジカルが生成する。続いてラジカルが生成後、水素原子を引き抜く反応が起きる(II)。 また、PMMAの構成単位であるメタクリル酸メチル構造が残存した状態でPMMAが低分子化されており、超音波照射によってもPMMAの基本分子構造が保たれていることが認識できる。本実施例では、高分子化合物の基本分子構造が残存するか否かを確認するために既知の高分子化合物であるPMMAを試料として用いたが、この結果より、未知の高分子化合物であっても、簡便に分子構造の解析、同定ができると考えられる。 なお、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析方法(Py−GC−MS)においては、PMMAが熱分解反応により構成単位レベルまで分解し得るが、本実施例ではPMMAの低分子化物の分子量が1000程度より低くならない。しかも、本実施例ではPMMA分子の部分構造の特徴に関する情報を得ることができる。(実施例6) 平均分子量が6000のポリエチレングリコール(PEG)を試料とした。これを溶媒としての水に溶解させて1mg/mL濃度とし、この溶液を1.5mLとり、超音波発生装置「UR−20P」(TOMY SEIKO製)を用いて15℃に保って照射し、超音波照射工程を実施した。超音波周波数は28kHz、超音波出力は20Wとした。 次の質量分析工程の実施には、ゲル浸透クロマトグラフィーエレクトロスプレーイオン化イオントラップ型質量分析(GPC−ESI−MS)を採用した。質量分析装置としては、「LCQ」(Finnigan MAT製)を用い、GPC装置のGPCカラムとしては、「OligoPore300x7.5mm」(Polymer Laboratories製)を用いた。超音波を照射した上記の溶液を、テトラヒドロフラン(THF)に溶かして0.5mg/mL(THF:水=1:1v/v)に調製し、上記のGPC−ESI−MS装置に導入し、ESI−MSスペクトルを得た。なお、試料導入量は10μLで、ESI−MSスペクトルは正イオンモード測定で得た。GPCの移動相にはTHFを250μL/minで用い、GPCではポストカラムとしてメタノールを50μL/minの流速で用いた。即ち、移動相とポストカラムは5:1の体積割合で合流し、質量分析計に送られる。なお、カチオン化剤としてメタノール中に360μMとなるように溶かしたNaIを用いた。 図9(a),(b)は実施例6においてPEG(平均分子量6000)に超音波をそれぞれ(a)0時間(照射なし)、(b)8時間照射したときのトータルイオンクロマトグラム(TIC)を表す。超音波照射時間が0時間では、保持時間17〜20分にPEGのイオン群を表すイオンクロマトグラムが現れた。超音波照射時間が8時間になると、PEGの低分子化が起こり、保持時間17〜20分の他に、保持時間20〜30分の範囲に超音波照射による低分子化のイオン群を表すイオンクロマトグラムが現れた。 図10は図9(b)の保持時間22〜23分のESI−MSスペクトルを表す。ここでは、PEGが2価のイオンとして検出された。検出されたPEGの分子量は2200程度であった。従って、GPC−ESI−MSでもMALDI−MSの場合と同様に、PEGに超音波照射すると低分子化物が生成し、しかも、その低分子化物はPEGの構成単位にまでは低分子化されていないことが確認された。 本発明の高分子化合物の分析方法は、比較的分子量の大きい高分子化合物の部分構造の特徴を損なうことなく、簡便に高分子化合物の低分子化を行うことができ、その低分子化された物質の分子構造に関する情報を得ることができる。従って、比較的分子量の大きい高分子化合物の分子構造の同定を目的とする簡便な分析方法として用いられることが、有機・高分子材料分野、環境分野、医薬分野等で期待できる。一実施態様の高分子化合物の分析方法のフローを表す模式図。他の実施態様の高分子化合物の分析方法のフローを表す模式図。実施例1における平均分子量6000のPEGを試料とした場合のMALDI−MSスペクトルを表す図。実施例1における平均分子量6000のPEGを試料とした場合のMALDI−MSスペクトルの拡大図。PEGの低分子化物の分子構造ならびに予想される超音波切断プロセスを表す図。実施例1〜4における、平均分子量の異なるPEGを試料とした場合の各MALDI−MSスペクトルを表す図。実施例5におけるPMMAを試料とした場合のMALDI−MSスペクトルを表す図。PMMAの低分子化物の分子構造ならびに予想される超音波切断プロセスを表す図。実施例6における平均分子量6000のPEGを試料とした場合の、GPCによるトータルイオンクロマトグラムを表す図。実施例6における平均分子量6000のPEGを試料とした場合のESI−MSスペクトルを表す図。 高分子化合物を低分子化して質量分析する高分子化合物の分析方法であって、高分子化合物を溶解させた高分子化合物の溶液に超音波を照射する超音波照射工程を実施し、超音波を照射した前記溶液に含まれる低分子化物を質量分析する質量分析工程を実施することを特徴とする高分子化合物の分析方法。 前記質量分析工程をマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析方法(MALDI−MS)により実施する請求項1記載の高分子化合物の分析方法。 前記超音波照射工程を実施した後、前記質量分析工程を実施する前に、前記分解生成物をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分画する分画工程を実施し、かつ、前記質量分析工程をエレクトロスプレーイオン化質量分析方法(ESI−MS)により実施する請求項1記載の高分子化合物の分析方法。 【課題】 高分子化合物の部分構造の特徴を損なうことなく簡便に低分子化でき、かつ、低分子化したその低分子化物の分析により、比較的分子量の大きい高分子化合物であってもその分子構造を同定できる高分子化合物の分析方法を提供することを課題としている。 【解決手段】 高分子化合物を低分子化して質量分析する高分子化合物の分析方法であって、高分子化合物を溶解させた高分子化合物の溶液に超音波を照射する超音波照射工程を実施し、超音波を照射した前記溶液に含まれる低分子化物を質量分析する質量分析工程を実施する高分子化合物の分析方法を提供する。【選択図】 図1


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