生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_食品のゲル形成性を改善する方法
出願番号:2007274202
年次:2009
IPC分類:A23L 1/05,A23J 1/08,C07K 2/00,A23J 3/28


特許情報キャッシュ

何森 健 徳田 雅明 早川 茂 JP 4386937 特許公報(B2) 20091009 2007274202 20071022 食品のゲル形成性を改善する方法 合同会社希少糖生産技術研究所 506388060 須藤 阿佐子 100102314 須藤 晃伸 100123984 何森 健 徳田 雅明 早川 茂 20091216 A23L 1/05 20060101AFI20091126BHJP A23J 1/08 20060101ALI20091126BHJP C07K 2/00 20060101ALI20091126BHJP A23J 3/28 20060101ALN20091126BHJP JPA23L1/04A23J1/08C07K2/00A23J3/28 502 A23L 1/05 A23J 1/08 C07K 2/00 PubMed BIOSIS/WPI(DIALOG) JSTPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 「平成13年度 科学技術振興調整費 試験研究実施計画 継続課題」,文部 科学省,2001年,p.401-407 中村良編,「シリーズ<食品の化学> 卵の化学」,株式会社朝倉書店,1998 年,p.10-13,79-86 J. Agric. Food Chem. (1999) vol.47, no.5, p.1845-1850 J. Agric. Food Chem. (2002) vol.50, no.14, p.4113-4118 2 2003057740 20030304 2008043342 20080228 11 20071022 池上 文緒 本発明は、希少糖プシコースを用いたメイラード反応修飾卵白タンパク質を用いる食品のゲル形成性を改善する方法に関する。 タンパク質のリシン残基のアミノ基と還元糖との間の非酵素的相互作用はメイラード反応として知られ、食品科学の分野では極めて重要な特性である。その相互作用は複雑な反応ネットワークからなり、大きなタンパク質凝集体形成と食品の味、香り、色を与える低分子物質の形成とからなる。これらに関する研究はこれまでに多くなされ、糖付加タンパク質が熱安定性、乳化性、起泡性、ゲル形成性のような食品に対する機能特性を改善することが示されてきた。 卵白タンパク質は機能性食品素材として食品加工によく良く用いられている。卵白の主要な機能特性は加熱形成ゲルによる食品の粘性の改善である。 非特許文献1はガラクトマンナンで修飾した乾燥卵白から透明で強度の高いゲルを形成できることを報告した。すなわち、乾燥卵白の加熱ゲル特性に関するガラクトマンナン(GM)とのメイラード反応の効果が研究された。メイラード反応乾燥卵白はGMと卵白の比1:4において60℃、相対湿度65%において乾燥保温することにより調製した。アミノ基の修飾率と卵白タンパク質の重合度は保温時間の経過とともに増加した。乾燥卵白にGMが共有結合していることはSDS電気泳動により確認した。メイラード反応乾燥卵白のゲル強度と保水性はGMなしで保温した乾燥卵白よりも高く、保温3日後に最大に達した。メイラード反応乾燥卵白ゲルの透明度は保温時間経過につれて増加した。3日間メイラード反応乾燥卵白の低濃度溶液は90℃に加熱しても高い溶解度を維持したが、糖を付加しない乾燥卵白は加熱により溶解度を低下させた。メイラード反応による乾燥卵白のGM修飾は広い範囲でのpH、食塩濃度において堅い、透明な卵白ゲルを作成するのに有用な方法である。 非特許文献2はグルコースを含む乾燥卵白のメイラード反応生成物がゲル強度と保水力を向上することを示した。メイラード反応修飾卵白タンパク質がそのゲル形成性や会合体形成性を通して食品コロイドの構造、テクスチャー、安定性をコントロールしている。すなわち、乾燥卵白の加工特性に対するメイラード反応の効果を調べた。メイラード反応乾燥卵白は糖添加乾燥卵白を55℃、0−12日間、相対湿度35%において保温することにより調製した。メイラード反応乾燥卵白は優れた加熱ゲル特性を示し、メイラード反応乾燥卵白からの加熱による硫化水素の生成は通常の卵白からのものより少なかった。メイラード反応乾燥卵白の遊離SH基(スルフヒドリル基)は増加したが、全SH基、二次構造含量は保温の時間が長くなるにつれて減少した。メイラード反応乾燥卵白ゲルの破断強度、破断歪み、保水力、硫化水素量はメイラード反応乾燥卵白中の遊離SH基量、全SH基量と有意の相関があった。SDS電気泳動においてメイラード反応乾燥卵白タンパク質は共有結合を伴った重合体を形成していることが認められた。以上の結果より、メイラード反応は卵白タンパク質を部分的に変性させ、重合体を形成させることにより、いくつかの条件下では乾燥卵白の加熱ゲル特性を改善した。 しかしながら、乾燥卵白タンパク質のメイラード反応物のこのようなゲル特性の大きな改善に対して原因となる機構については異なるタンパク質間の複雑な相互作用の故によく分かっていない。 希少糖は“自然界に希にしか存在しない単糖及びその誘導体”と定義されている。希少ケトヘキソースの一つであるD−プシコースは自然界に希にしか存在せず、その化学合成も難しいことから糖代替品としての研究がほとんどされてこなかった。J. Agric. Food Chem. 2002, 50, 4113-4118.J. Agric. Food Chem. 1999, 47, 1845-1850.Kawanabe et al., Caries Res. 26 p.358-362 (1992) 乾燥卵白タンパク質のメイラード反応物のこのようなゲル特性の大きな改善に対して原因となる機構については異なるタンパク質間の複雑な相互作用の故によく分かっていない。オボアルブミンは卵白タンパク質の主要タンパク質であり、卵白のゲル挙動に主として関与する。それ故に、メイラード反応糖付加オボアルブミンの物理化学的変化や構造変化をモニターすることは乾燥卵白のメイラード反応生成物の構造とゲル特性の間の関係を理解するのに役立つ。 一方、希少糖は、最近になって、D−タガトース−3−エピメラーゼを用いた改良法によりD−フルクトースからD−プシコースの大量生産が可能となった。D−プシコースはノンカロリーであり、食品産業において有用なノンカロリー甘味料として期待しうる。 D−プシコースをメイラード反応によりタンパク質に糖付加した複合体が通常用いられている糖を付加したものと同じであるかどうかについてはこれまで研究されていない。 本発明は、従来、熱安定性、乳化性、起泡性、ゲル形成性のような食品に対する機能特性を改善することが示されてきた糖付加タンパク質として、メイラード反応に希少糖プシコースを用いることにより、希少糖プシコースそのもの特定の機能特性を付与するとともに、従来知られている食品に対する機能特性を一層改善することができるタンパク質−糖複合体を提供すること、ならびにそれらを食品に使用することを目的とする。 そこで、本発明者らは、糖付加タンパク質の構造と機能の相関を理解するために、D−プシコースを付加したオボアルブミンの構造変化、物理化学的変化および加熱ゲル形成性について調べることにより、本発明を完成するに至った。 そこで、本発明は、グルコースまたはフルクトースを付加したものより破断強度の高いゲルである、希少糖プシコースを用いたメイラード反応により修飾された該プシコースに基づく機能特性の改善性を有する卵白タンパク質を食品に対するゲル形成性を改善するために用いることを特徴とする食品のゲル形成性を改善する方法を要旨とする。 さらに、卵白タンパク質とD−プシコースのモル比を1:20とし、相対湿度65%、温度55℃において加えて4日間保温すると、卵白タンパク質を1%濃度に溶解し、この溶液の420nmにおける吸光度を分光光度計により測定した色が、保温日数の経過とともにグルコースまたはフルクトースを付加したもののそれより着色する性質を利用するものであり、その場合の本発明は、グルコースまたはフルクトースを付加したものより破断強度の高いゲルである、希少糖プシコースを用いたメイラード反応により修飾された該プシコースに基づく機能特性の改善性を有する卵白タンパク質を食品に対するゲル形成性を改善するために用いること、さらに、卵白タンパク質とD−プシコースのモル比を1:20とし、相対湿度65%、温度55℃において加えて4日間保温すると、卵白タンパク質を1%濃度に溶解し、この溶液の420nmにおける吸光度を分光光度計により測定した色が、保温日数の経過とともにグルコースまたはフルクトースを付加したもののそれより着色する性質を利用するものであることを特徴とする食品のゲル形成性を改善する方法を要旨とする。 メイラード反応により非酵素的に糖を付加した鶏オボアルブミンの構造変化と加熱ゲル形成性について調べた。オボアルブミンは希少糖ケトヘキソースであるD−プシコースおよび二種の対照糖(D−フルクトース、D−グルコース)と65%相対湿度、55℃において乾燥状態で保持した。糖付加過程における異なる還元糖による修飾を評価するためにメイラード反応の度合い、凝集過程、構造変化および加熱ゲル特性について調べた。 (1)タンパク質アミノ基とD−プシコースとの反応性は対照糖であるD−フルクトース、D−グルコースよりもかなり低かったが、D−プシコースにより生じた褐変産物と蛍光物質は対照糖よりもかなり高いものであった。 (2)さらに、オボアルブミンはD−プシコースによる共有結合を介した修飾により、多重会合体をより多く形成する傾向にあった。還元糖により修飾したオボアルブミンは非糖付加オボアルブミンと同じFT−IR特性を示したが、トリプトファンによる蛍光強度はかなり減少した。すなわち、糖付加はオボアルブミンの構造を大きく壊すことなく同じ二次構造を維持し、タンパク質の三次構造に関わるアミノ酸側鎖への影響において変化をもたらした。 (3)糖付加したオボアルブミンの加熱形成ゲルの破断強度においてD−プシコースは著しい効果を与えた。 以上の結果より、D−プシコースはオボアルブミンと強い架橋形成性を有し、D−プシコースを付加したオボアルブミンはそのゲル特性が著しく改善された。 従来、熱安定性、乳化性、起泡性、ゲル形成性のような食品に対する機能特性を改善することが示されてきた糖付加タンパク質として、新しい生理活性が見いだされているプシコースについて、メイラード反応に希少糖プシコースを用いることにより、希少糖プシコースそのもの特定の機能特性を付与するとともに、従来知られている食品に対する機能特性を一層改善することができるタンパク質−糖複合体を提供することができる。 すなわち、本発明らの属する香川医科大学、香川大学農学部では「単糖」に着目し、単糖に生理活性はないかという切り口で研究を進めている。本発明の背景としては、香川大学の農学部の方で希少糖の生産に関する網羅的な研究が長年積み重ねられてきて、近年になり一部の希少糖の大量生産技術が確立されたことが挙げられる。香川医科大学においても糖に生理活性を探求する研究が数年前から開始されていた。その両者がドッキングした形で、香川大学農学部で生産された希少糖(単糖)を用いて生理活性を探求する研究が、1999年から地域先導研究として開始され、さまざまな生理活性を有することが発見されてきている。 本発明で用いる希少糖プシコースについて説明する。希少糖とは、自然界に微量にしか存在しない単糖および糖アルコールと定義づけることができる。自然界に多量に存在する単糖は、D-グルコース、D-フラクトース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-リボース、D-キシロース、L-アラビノースの7種類あり、それ以外の単糖は全て希少糖である。また糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD−ソルビトールが比較的多いがそれ以外のものは量的には少ないので、これらも希少糖と考えられる。希少糖は、これまで入手自体が困難であったが、自然界に多量に存在する単糖から希少糖を生産する方法が開発されつつあり、その技術を利用して製造することができる D−プシコースは最近になって大量生産ができている希少糖のうちの一つである。本発明で用いられるD−プシコースは、ケトースに分類されるプシコースのD体であり六単糖(C6H12O6)である。このようなD−プシコースは、自然界から抽出されたもの、化学的またはバイオ的な合成法により合成されたもの等を含めて、どのような手段により入手してもよい。比較的容易には、例えば、エピメラーゼを用いた手法(例えば、特開平6−125776号公報参照)により調製されたものでもよい。得られたD−プシコース液は、必要により、例えば、除蛋白、脱色、脱塩などの方法で精製され、濃縮してシラップ状のD−プシコース製品を採取することができ、更に、カラムクロマトグラフィーで分画、精製することにより99%以上の高純度の標品も容易に得ることができる。このようなD−プシコースは単糖としてそのまま利用できるほか、必要に応じて各種の誘導体として用いることも期待される。 本発明で用いるタンパク質について説明する。メイラード反応は、タンパク質などのアミノ基と糖の配糖体形成能を有する水酸基との間に起こる反応と定義され、本発明は、糖としてプシコースを用いるものであり、プシコースの配糖体形成能を有する水酸基を有するタンパク質であれば何でもよい。好ましいタンパク質として、卵白タンパク質を例示することができる。オボアルブミンは卵白タンパク質の主要タンパク質であり、卵白のゲル挙動に主として関与する。本発明では、タンパク質としてオボアルブミンを用いて、メイラード反応糖付加オボアルブミンの物理化学的変化や構造変化をモニターすることとする。 メイラード反応について説明する。メイラード反応は、タンパク質のリシン残基のアミノ基と還元糖との間の非酵素的相互作用(反応)である。この糖アミノ縮合反応を第一段階として、ついで分解反応を生じ、種々の反応活性なカルボニル化合物やレダクタントを経て含窒素褐色物質が形成される。この反応は乳製品、菓子、果実、果汁、味噌、醤油、味醂などの食品に関係が深く、褐変化、カラメル香の発生、二酸化炭素の発生などを生じる。タンパク質とD−プシコースの反応条件は、タンパク質とD−プシコースの混合物を可溶化した後、凍結乾燥し、均一な粉末を調製する。乾燥粉末を低水分活性下、55℃で4日間保温し複合体形成する。タンパク質とD−プシコースの混合物は実施例ではモル比で1:20になるように調製したが、これに限定されるものではない。 希少糖プシコースを用いたメイラード反応修飾タンパク質について説明する。 メイラード反応により非酵素的に糖を付加した鶏オボアルブミンの構造変化と加熱ゲル形成性について調べた結果、オボアルブミンはD−プシコースによる共有結合を介した修飾により、多重会合体をより多く形成する傾向にあることがわかった。該糖付加はオボアルブミンの構造を大きく壊すことなく同じ二次構造を維持し、タンパク質の三次構造に関わるアミノ酸側鎖への影響において変化をもたらすことで、D−プシコースが付加したオボアルブミンは、その加熱形成ゲルの破断強度において著しい効果を与えた。 以上のとおりであり、加熱ゲル形成性について説明すると、オボアルブミンは希少糖ケトヘキソースであるD−プシコースとは強い架橋形成性を有することで、ゲル形成性が高められたタンパク質−糖複合体、特に透明度の高い、破断強度の高いゲルを形成する。 タンパク質と糖の混合して加熱すると、タンパク質のアミノ基と糖の還元末端カルボニル基でメイラード反応により共有結合が形成され、複合体が形成される。メイラード反応生成物を多く含む食品としては、色、香り、食感などば,食品の特有の風味として重要な機能特性である。さらに、メイラード反応生成物は熱安定性、ゲル形成性、乳化性、抗菌活性、抗酸化作用、活性酸素消去作用などの様々機能特性を有していることも明らかにされている。 D−プシコースはノンカロリーであり、食品産業において有用なノンカロリー甘味料としてはもちろんであるが、D−プシコースをメイラード反応によりタンパク質に糖付加した複合体が食品に対してどのような機能特性の改善性を有するかについても、期待しうる。これまでの多くの研究によって、糖付加タンパク質が熱安定性、乳化性、起泡性、ゲル形成性のような食品に対する機能特性を改善することが示されており、メイラード反応は食品科学の分野では極めて重要な特性である。タンパク質のリシン残基のアミノ基と還元糖との間の非酵素的相互作用は複雑な反応ネットワークからなり、大きなタンパク質凝集体形成と食品の味、香り、色を与える低分子物質の形成とからなり、希少糖プシコースを用いたメイラード反応による凝集体形成、低分子物質の形成のいずれの観点からも食品に対する機能特性改善に寄与することは明らかである。D−プシコースが付加したオボアルブミンの加熱形成ゲルが破断強度において著しい効果を与えた結果は、食品に対するゲル形成性を改善する性質を有することが、低分子物質の形成は食品の味、香り、色を与える性質を有することが、それぞれ期待されるのである。 本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。 [実験方法] 1.タンパク質と還元糖の反応条件 タンパク質の糖付加はD−プシコースと二つの対照糖を用いて行った。オボアルブミンを5%濃度になるように20mM炭酸緩衝液(pH9)に溶かし、オボアルブミン重量に対して8%(タンパク質と糖のモル比1:20)になるように糖を加え、凍結乾燥し、均一な粉末を調製した。この時、オボアルブミン1分子中のリシンは20分子であり、糖とリシンのモル比は1:1となる。乾燥粉末を飽和ヨウ化カリを用いて低水分活性下(相対湿度65%、)、55℃で4日間保温した。糖付加したオボアルブミンを純水に溶かし、遊離の糖を除くために1晩透析を行い、凍結乾燥した。 2.溶解度測定 糖付加試料は1%タンパク質濃度になるように純水に溶かし、5000xg、10分間遠心分離を行い、上清のタンパク質濃度をローリー法により測定した。溶解度は非糖付加オボアルブミンに対する糖付加オボアルブミンの上清中のタンパク質量の百分率でもって表した。 3.ゲル電気泳動 12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて還元下(2−メルカプトエタノール添加)と非還元下でSDS−電気泳動を行った。 また、SDSを含まないNative電気泳動は10%ゲル濃度で行った。 4.糖付加度の測定 糖付加オボアルブミン1%溶液の褐色度は420nmにおける吸光度により測定した。蛍光スペクトルは10mMリン酸緩衝液(pH7)に1mg/mlになるように溶かした試料を用いて、励起波長350nm、放射波長415nmにより測定した。同様に蛍光スペクトルを励起波長280nm、放射波長300nm〜400nmの範囲で測定した。 糖付加試料中の遊離アミノ基量はTNBS法を用いて340nmにおける吸光度により測定した。 5.遊離SH基の測定 遊離SH基はDTNB法を用いて412nmの吸光度により測定した。モル吸光係数13,600M-1cm-1を用いてSH基量を計算した。 6.表面疎水性の測定 糖付加オボアルブミンを10mMリン酸緩衝液に溶解し、濃度0.1〜0.5mg/mlとした。ANSを0.04mMとなるように加え、励起波長390nm、放射波長470nmにおいて蛍光強度を求めた。濃度に対する蛍光強度の傾きから表面疎水性を計算した。 7.FT−IR分光分析 糖付加オボアルブミンを5%濃度においてFT−IRによりタンパク質二次構造変化について調べた。CaF2ガラス窓を用いて透過型により1600〜1700cm-1の範囲で測定を行った。 8.ゲル破断強度測定 糖付加オボアルブミンは86mM食塩溶液に8%になるように溶かし、pHを8に調整した。溶液中の空気を除去した後、溶液をガラス容器に充填し、80℃、30分間加熱した。直径3mmプランジャーを用いて1mm/secの速度でゲル表面を圧縮し、ゲルが破断するまでの応力/歪み曲線より破断応力と破断歪みを計算した。 《結果》 1.溶解度 種々の還元糖をもちいて糖付加したオボアルブミンの溶解度を図1に示した。 2日以内の保温ではいずれの試料も溶解度はほぼ100%であった。3日以上の保温では溶解度が徐々に減少し、D−プシコースとともに4日間保温したオボアルブミンでは21%の溶解度の低下が見られた。D−プシコース付加オボアルブミンでは高度な重合が起こり、溶解度の低下が見られたと思われる。そこで、溶解度のほとんど低下しない2日間の保温日数を選んで今後の実験に用いた。 2.糖付加度 糖付加オボアルブミンの着色度の展開を図2に示した。 糖を含まないオボアルブミンは保温日数が経過しても着色しないが、糖付加オボアルブミンでは保温日数の経過とともに着色した。実験に用いた3つの還元糖のうちD−プシコースがもっとも着色した。 3.蛍光物質の生成 糖付加オボアルブミンの蛍光測定結果を表1に示した。糖を含まないオボアルブミンでは蛍光物質は出現しなかったが、糖付加により蛍光物質の出現が見られた。3つの還元糖のうちではD−グルコースが最も低く、D−プシコースが最も高い値であった。 4.リシンの反応性 還元糖を含むオボアルブミンを保温することによる遊離アミノ基の変化を図3に示した。糖を含まないオボアルブミンでは遊離アミノ基量は減少しないが、糖を含むオボアルブミンでは保温日数が経過するとともに遊離アミノ基量が減少した。特に、保温1日目において大きな減少を示した。3つの糖のうちD−グルコース付加オボアルブミンでの減少が最も大きく、D−プシコース付加オボアルブミンでのが少なかった。オボアルブミンは21遊離アミノ基を有し、D−グルコース、D−フルクトース、D−プシコースを付加したオボアルブミンでは保温中にそれぞれ9残基、6残基、5残基の遊離アミノ基が減少したと計算された(表1)。 5.SH基の酸化 ニワトリオボアルブミンは分子内に4個の遊離SH基を有し、オボアルブミンを保温すると酸化により若干の低下が見られる。糖を加えて保温するとその低下がさらに大きくなり、D−グルコース、D−フルクトース、D−プシコースの順に低下が大きくなった(表1)。SH基の低下はSS結合形成による重合体生成につながると考えられる。 6.重合体形成 SDS電気泳動により糖付加修飾したオボアルブミンの重合体を形成することが確認された(図4A、B)。特にD−プシコースを付加したオボアルブミンでは他の糖を付加したものより単量体が少なく、重合体が多く形成した。この結果から、プシコース−オボアルブミンの複合体は凝集体を形成しやすいことを考えられる。 7.構造変化 FT−IRによる糖付加オボアルブミンの二次構造を調べたところ、いずれの糖を付加してもα−へリックス量とβ−シート量は糖を付加していないものとほぼ同じであり(表1)、糖付加によりオボアルブミンの二次構造には影響しないと考えられた。 表面疎水性は糖付加によりほとんど増加は見られず(表1)、糖付加による3次構造への影響はほとんど見られなかった。糖を付加しないオボアルブミンにおいてはトリプトファン蛍光強度はほとんど変化しないが、糖付加によりトリプトファン蛍光強度が大きく低下した(図5)。特に、D−プシコース付加オボアルブミンにおいてはその減少が著しく、トリプトファン残基付近の疎水的領域における構造に変化が見られた。二次構造、三次構造に大きな変化は見られないことから考えると、糖付加による変化は局部的なものであると考えられる。 以上の通りであり、表1に、2日間保温後の糖付加オボアルブミンの二次構造、表面疎水性(S0)、蛍光強度、アミノ基の減少およびSH基含量を示す。 表中、 a)α−へリックスとβ−シートに対する標準偏差は0.6%以下、コントロールと糖付加オボアルブミンの間には有意差は無い(p>0.05)。 b)S0はタンパク質濃度に対する蛍光強度の初期傾きから算出。標準偏差は0.01以下。 c)SH基の標準偏差はすべて1.36μmol/g protein以下。 d)The アミノ基の減少は生オボアルブミン1分子中の数(21分子)と比べたときの減少数。 e)蛍光強度は励起波長350nm,放射波長415 nmにおいて生オボアルブミンと比べたときの値。結果は任意の蛍光単位として表示。 8.ゲル特性 オボアルブミンはゲル形成性に優れていることが知られており、糖付加によりゲル破断応力、破断歪みともに増加し(図6)、さらに一層ゲル形成性が高められるという効果が認められた。特に、プシコースを付加したオボアルブミンのゲル破断応力、破断歪みがともに他の糖を付加したものより高く、弾力性のある壊れにくいゲル特性を有している。また、D−プシコース付加オボアルブミンゲルは透明度が高いものであった。このことにより、D−プシコースのメイラード反応を利用したタンパク質―糖複合体は、ゲル形成性に優れており、新規な機能を有する素材であることを示した。 希少糖プシコースそのもの特定の機能特性を付与するとともに、従来知られている糖付加タンパク質の食品に対する機能特性を一層改善することができるタンパク質−糖複合体を提供すること、ならびにそれらを食品に使用することができる。種々の還元糖を付加したオボアルブミンの溶解度を示す図面である。保温時間0時間の試料の溶解度を100%として計算。上清のタンパク質量をLowry法により定量。オボアルブミンと還元糖のモル比を1:20とし、相対湿度65%、温度55℃において4日間まで保温。溶解度測定は3回繰り返し、標準偏差はすべて1.6%以下。還元糖と4日間まで保温したオボアルブミンの着色度の変化を示す図面である。非酵素的褐変の程度はタンパク質濃度1%において420nmにて測定した。還元糖と4日間まで保温したオボアルブミンの遊離アミノ基量の変化を示す図面である。還元糖と2日間保温したオボアルブミンの電気泳動パターンである。 A:SDS−PAGE+ME;B:SDS−PAGE−ME;C:Native−PAGE(10%) S,分子量マーカー;N,ネイティブ;1,糖無添加;2,D−グルコース;3,D−フルクトース;4,D−プシコース。糖付加オボアルブミンのトリプトファン蛍光スペクトルである。 励起波長は280nm。1:ネイティブ;2:糖無添加;3:D−グルコース;4:D−フルクトース;5:D−プシコース。いずれも2日間保温したオボアルブミン糖付加オボアルブミンの加熱形成ゲルの破断応力(A)及び破断歪み(B)を示す図面である。ゲルは8%タンパク質溶液(86mMNaCl、pH8)を80℃、30分間加熱することにより作成。すべての試料は8複製40回繰り返し測定を行った。垂直バーは標準偏差を表示。 グルコースまたはフルクトースを付加したものより破断強度の高いゲルである、希少糖プシコースを用いたメイラード反応により修飾された該プシコースに基づく機能特性の改善性を有する卵白タンパク質を食品に対するゲル形成性を改善するために用いることを特徴とする食品のゲル形成性を改善する方法。 さらに、卵白タンパク質とD−プシコースのモル比を1:20とし、相対湿度65%、温度55℃において加えて4日間保温すると、卵白タンパク質を1%濃度に溶解し、この溶液の420nmにおける吸光度を分光光度計により測定した色が、保温日数の経過とともにグルコースまたはフルクトースを付加したもののそれより着色する性質を利用する、請求項1の食品のゲル形成性を改善する方法。


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