生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_NMR測定方法
出願番号:2007254917
年次:2009
IPC分類:G01N 24/08,G01R 33/32


特許情報キャッシュ

櫻井智司 末松孝子 JP 2009085736 公開特許公報(A) 20090423 2007254917 20070928 NMR測定方法 日本電子株式会社 000004271 櫻井智司 末松孝子 G01N 24/08 20060101AFI20090327BHJP G01R 33/32 20060101ALI20090327BHJP JPG01N24/08 510DG01N24/02 520BG01N24/02 530M 4 5 OL 10 特許法第30条第1項適用申請有り 2007年9月11日〜13日 日本核磁気共鳴学会主催の「第46回NMR討論会」に文書をもって発表 本発明は、複数の成分を含む混合試料を分離することなく、各成分の自己拡散係数の差を利用してスペクトル分離を行なう手法として知られているDOSY(Diffusion Ordered SpectroscopY)を用いたNMR測定方法に関する。 DOSY法は、近年のNMR装置の精度向上および処理ソフトの改良により、広い分野で利用されるようになってきた。DOSY法は、1965年、スタッカーとターナーによって提唱されたNMR測定方法の1つである(非特許文献1)。 図1に典型的なDOSY法のパルスシーケンスを示す。これは今日、pfg Spin-Echo(pulse-field-gradient Spin-Echo)法と呼ばれているものである。 スピンエコー法は、試料に90°パルスを印加して磁化をXY平面(静磁場方向をZ軸とする)に倒した後、待ち時間τ後に180°パルスを印加して倒れた磁化をリフォーカスする方法である。すると、再び待ち時間τが経過したときにスピンエコーが出現する。このスピンエコーの後半部分(FID、自由誘導減衰)を観測し、フーリエ変換することによりNMR信号を得る。DOSY法では、このパルスシーケンスと同期させて、90°パルスの印加直後にパルス幅δ、パルス強度GのZ軸方向の磁場勾配パルス、さらに180°パルスを印加して待ち時間τが経過したときに再びパルス幅δ、パルス強度GのZ軸方向の磁場勾配パルスを印加する。 このような磁場勾配パルスを90°パルスの印加直後に印加することにより、試料のZ軸方向に沿って静磁場強度が異なる結果となり、それによって場所により倒れた磁化の位相が変化する。待ち時間Δ(=2τ)後、すなわち180°パルスで磁化を反転させてから待ち時間τ後に再び磁場勾配パルスを印加すると、180°パルスで磁化を反転させた後のことなので、最初の磁場勾配パルスを打ち消すような、逆の磁場勾配パルスを印加したのと同じ状態になり、磁化の位相変化が元に戻り、磁化がリフォーカスされる。 このとき、試料中で分子の自己拡散が起きていると、分子が待ち時間Δのあいだに場所を移動して、2度目の磁場勾配パルスを印加したときに、1度目の磁場勾配パルスによって与えられた磁場強度とは異なる磁場強度を受け取る結果となり、リフォーカスの位相がずれて、リフォーカス成分の減少という現象が現れる。 待ち時間Δのあいだにスピンエコー信号強度が落ちる落ち方を見て、落ち方の違いから拡散の情報が得られる。その得られる拡散係数の違いによりピーク分離を行なうのがDOSY法である。そこでは、スピンエコー信号強度の落ち方の激しい分子ほど、拡散係数が大きいという一般則が成り立っている。なぜなら、待ち時間Δのあいだに、分子がそれだけ元の場所から遠くに移動拡散して、リフォーカスの位相がずれてしまっていることを示しているからである。そこで、この待ち時間Δのことを拡散時間とも呼んでいる。 尚、図1ではパルス幅がきわめて誇張して太く描かれているが、実際には、パルス幅は待ち時間と比較すると極めて短く、ほとんど無視できる時間幅に過ぎない。すなわち、90°パルスと180°パルスのパルス幅は数十μsオーダー、磁場勾配パルスのパルス幅は数msオーダーであるのに対して、待ち時間τや拡散時間Δ(=2τ)は数百msのオーダーであるからである。 この拡散に伴うエコー信号の強度変化と拡散係数との関係は、次のような理論式により関係づけられる。 I/I0 = exp{(−γδGD)2(Δ−δ/3)}ここで、I0は磁場勾配パルスを印加していない場合に観測される信号強度、Iは磁場勾配パルスを印加した場合に観測される信号強度、γは観測している核種の磁気回転比、δは磁場勾配パルスのパルス幅、Gは磁場勾配パルスのパルス強度、Dは試料分子の拡散係数、Δは拡散時間、δ/3はスタッカー・ターナーの補正項である。拡散係数Dは、この式に基づいて、信号強度IのI0に対する減少の度合いから求めることができる。 拡散係数Dは、分子種により異なるので、観測されたNMR信号を横軸にケミカルシフト、縦軸に拡散係数Dをとって2次元表示すると、図2のように分子種ごとにNMRスペクトルを分離させることができる。 pfg Spin-Echo法では、磁化の緩和がXY平面上で起きるため、信号の強度がT2緩和時間に依存する。そのため、T2緩和時間の短い(線幅の広い)高分子などでは、時間とともに信号が消えてしまうため、待ち時間Δを長く設定することができないという欠点がある。また、観測核と結合している核が存在している場合、結合核の核スピンによるJ変調が起きて、ピークの位相ずれが起きるという欠点もある。 これらの欠点を克服する目的で改良されたパルスシーケンスが、図3に示すような、今日、pfg Stimulated Spin-Echo(pulse-field-gradient Stimulated Spin-Echo)法と呼ばれているパルスシーケンスである(非特許文献2)。 この方法では、試料に90°パルスを印加して磁化をXY平面(静磁場方向をZ軸とする)に倒した後、待ち時間τ後に2番目の90°パルスを印加して磁化をZ軸方向に向ける。そして待ち時間T後に3番目の90°パルスを印加して磁化をリフォーカスすると、3番目の90°パルス印加から待ち時間τを経過したときにスピンエコーが出現する。このパルスシーケンスと同期させて、2番目の90°パルスの直前にパルス幅δ、パルス強度GのZ軸方向の磁場勾配パルス、さらに3番目の90°パルスを印加した直後にパルス幅δ、パルス強度GのZ軸方向の磁場勾配パルスを印加する。この方法では、最初の磁場勾配パルスと2番目の磁場勾配パルスとの間の待ち時間Δ(≒待ち時間T)が拡散時間ということになる。 この方法では、待ち時間Tの期間内に磁化の緩和がZ軸上で起きるため、信号の強度がT1緩和時間に依存する。そのため、T2緩和時間の短い高分子なども、T2緩和時間に比較して比較的長いT1緩和時間を用いて測定でき、待ち時間Δ(≒待ち時間T)を長く設定することができる。また、観測核と結合している核の核スピンによるJ変調が起きないので、ピークの位相ずれが起きないという利点がある。 さて、図3のパルスシーケンスに更なる改良を加え、今日最も広く使用されているDOSY法のパルスシーケンスが、図4に示すようなBPP-STE-LED(Bipolar-Pulse-Pairs Stimulated-Echo with Longitudinal Eddy current Delay)法である(非特許文献3)。 この方法では、試料に90°パルスを印加して磁化をXY平面(静磁場方向をZ軸とする)に倒した後、待ち時間τ後に2番目の90°パルスを印加して磁化をZ軸方向に向け、待ち時間T後に3番目の90°パルスを印加して磁化をリフォーカスする、という図3のパルスシーケンスの基本骨格を守りながら、1番目の90°パルスと2番目の90°パルスのちょうど中間位置に磁化を反転させる180°パルスを追加することによって、pfg Stimulated Spin-Echo法では2番目の90°パルスの直前に重畳印加していた磁場勾配パルスを、1番目の90°パルスの直後と2番目の90°パルスの直前との2箇所に分けて、それぞれ半分の時間幅で+と−の逆方向に重畳印加できるように構成している。 また、1番目の90°パルスの約τ/2後に180°パルスで磁化を反転させて、磁場勾配パルスを逆勾配で2分割したテクニックをそのまま用い、3番目の90°パルスの約τ/2後にも180°パルスを印加して磁化を反転させることにより、pfg Stimulated Spin-Echo法では3番目の90°パルスの直後に印加していた磁場勾配パルスを、3番目の90°パルスの直後とそこから時間τだけ離れた時間帯の2箇所に分けて、それぞれ半分の時間幅で+と−の逆方向に重畳印加させるようにした。 これらのテクニックは、時間τだけ離れた互いに逆勾配の磁場勾配パルスを連続的に印加させることによって、磁場勾配パルスの漏れ磁場によって生じるプローブのシールド上の渦電流を打ち消させることを意図したものである。 尚、このパルスシーケンスでは、最後の磁場勾配パルスを印加した直後に4番目の90°パルスを印加するとともに、更に待ち時間Te後(数十ms後)に5番目の90°パルスを印加することによって、渦電流の残り電流が待ち時間Teの間に消えて、観測されるスピンエコーに悪影響を及ぼさないような工夫を行なっている。すなわち、4番目の90°パルスと5番目の90°パルスは、最後の磁場勾配パルスによる渦電流の残り電流が消えるのを待つために用意されたパルス対である。 渦電流の残り電流があると、FID(自由誘導減衰)上に余分な成分が乗り、信号のスソが乱れるので、このテクニックの追加により、磁場勾配パルスによって生じたプローブのシールド上の渦電流によるNMR信号への悪影響を効果的に打ち消すことができるようになった。 尚、最後の磁場勾配パルスによる渦電流の残り電流が消えるのを待つために用意された4番目の90°パルスと5番目の90°パルスから成るパルス対を持たないパルスシーケンスは、BPP-STE(Bipolar-Pulse-Pairs Stimulated-Echo)法と呼ばれ、BPP-STE-LED(Bipolar-Pulse-Pairs Stimulated-Echo with Longitudinal Eddy current Delay)法と同様に広く使用されている。E. O. Stejskal, J. E. Tanner, Journal of Chemical Physics, vol.42, No.1, p.288 (1965)J. E. Tanner, Journal of Chemical Physics, vol.52, No.5, p.2523 (1970)D. Wu, A. Chen, C. S. Johnson, Jr., Journal of Magnetic Resonance, Series A, vol.115, p.260 (1995) DOSY法は、近年の装置の精度向上および処理ソフトの改良を受けて、広い分野で利用されるようになった。ポリマー材料中における添加剤などの解析もそのうちの一例である。ところが、ポリマー由来のピークはブロードであり、かつ複数ピークとなるため、多くの場合、添加剤由来のピークと重なってしまう。 NMRによる拡散測定では、信号強度の減衰は、拡散係数の大きい低分子由来のピークほど顕著となる。高分子であるポリマー由来のピークと重なっている低分子ピークでは、信号強度の減衰がそれほど顕著でないポリマーピークの重なりのために、見かけ上、信号強度の減衰量に大きな影響を受ける。このため、DOSYによる解析の間違いを起こしやすいという問題があった。 本発明の目的は、高分子由来のピークを低減させることで、より正確なDOSY測定を行なえるようなNMR測定方法を提供することにある。 この目的を達成するため、本発明にかかるNMR測定方法は、最初に磁化を静磁場方向と直交する平面に倒す90°パルスを印加し、所定待ち時間後、該磁化をリフォーカスするリフォーカスパルスを印加する高周波パルスシーケンスと、最初に静磁場方向の勾配を持った勾配磁場パルスを試料に印加し、所定待ち時間後、最初に印加された勾配磁場の効果を打ち消す勾配磁場パルスを印加する磁場勾配パルスシーケンスと、の2つのパルスシーケンスの組み合わせから成り、最初の磁場勾配パルスは最初の90°パルスの印加後に印加され、最初に印加された勾配磁場の効果を打ち消す勾配磁場パルスは前記リフォーカスパルスの印加後に印加されるNMR測定用パルスシーケンスを用いたNMR測定方法において、最初の90°パルスと、最初の磁場勾配パルスとの間に、T2緩和時間に依存して磁化が減衰する時間を設けることでT2緩和時間の短い磁化を減衰させるT2フィルターを挿入したことを特徴としている。 また、前記T2フィルターは、前記倒された磁化に対して、磁化の倒れている方向から高周波磁界を照射するスピンロックパルスであることを特徴としている。 また、前記T2フィルターは、連続した複数のリフォーカスパルスから成る高周波パルスシーケンスであることを特徴としている。 また、前記NMR測定用パルスシーケンスは、pfg Spin-Echo法、pfg Stimulated Spin-Echo法、または、pfg Stimulated Spin-Echo法を基にしたBPP-STE法やBPP-STE-LED法のいずれかに用いられるパルスシーケンスであることを特徴としている。 本発明のNMR測定方法によれば、最初に磁化を静磁場方向と直交する平面に倒す90°パルスを印加し、所定待ち時間後、該磁化をリフォーカスするリフォーカスパルスを印加する高周波パルスシーケンスと、最初に静磁場方向の勾配を持った勾配磁場パルスを試料に印加し、所定待ち時間後、最初に印加された勾配磁場の効果を打ち消す勾配磁場パルスを印加する磁場勾配パルスシーケンスと、の2つのパルスシーケンスの組み合わせから成り、最初の磁場勾配パルスは最初の90°パルスの印加後に印加され、最初に印加された勾配磁場の効果を打ち消す勾配磁場パルスは前記リフォーカスパルスの印加後に印加されるNMR測定用パルスシーケンスを用いたNMR測定方法において、最初の90°パルスと、最初の磁場勾配パルスとの間に、T2緩和時間に依存して磁化が減衰する時間を設けることでT2緩和時間の短い磁化を減衰させるT2フィルターを挿入したので、高分子由来のピークを低減させることで、より正確なDOSY測定を行なえるようなNMR測定方法を提供することが可能になった。 以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。 図5は、本発明にかかる新しいパルスシーケンスの一実施例である。この実施例では、BPP-STE-LED法のパルスシーケンスとほぼ同様に、1番目の90°パルスと2番目の90°パルスの間に磁化を反転させる180°パルスを追加することによって、2番目の90°パルスの直前に重畳印加していた磁場勾配パルスを、1番目の90°パルスの直後に印加されるT2フィルター(後述)の直後と2番目の90°パルスの直前との2箇所に分けて、それぞれ半分の時間幅で+と−の逆方向に重畳印加できるように構成している。 従来のBPP-STE-LED法との違いは、最初の90°パルスと最初の磁場勾配パルスとの間に、T2フィルターと呼ばれる長いパルス(後述)が挿入されている点である。 また、最初の90°パルスの後に180°パルスで磁化を反転させて、磁場勾配パルスを逆勾配で2分割したテクニックをそのまま用い、3番目の90°パルスの約τ/2後にも180°パルスを印加して磁化を反転させることにより、3番目の90°パルスの直後に印加していた磁場勾配パルスを、3番目の90°パルスの直後とそこから時間τだけ離れた時間帯の2つに分けて、それぞれ半分の時間幅で+と−の逆方向に重畳印加させるようにしている。 これらのテクニックは、時間τだけ離れた逆勾配の磁場勾配パルスを連続的に印加させることによって、磁場勾配パルスの漏れ磁場によって生じるプローブのシールド上の渦電流を打ち消させることを意図したものである。 また、このパルスシーケンスでは、最後の磁場勾配パルスを印加した直後に4番目の90°パルスを印加するとともに、更に待ち時間Te後(数十ms後)に5番目の90°パルスを印加することによって、渦電流の残り電流が待ち時間Teの間に消えて、観測されるスピンエコーに悪影響を及ぼさないような工夫を行なっている。すなわち、4番目の90°パルスと5番目の90°パルスは、最後の磁場勾配パルスによる渦電流の残り電流が消えるのを待つために用意されたパルス対である。 渦電流の残り電流があると、FID(自由誘導減衰)上に余分な成分が乗り、信号のスソが乱れるので、このテクニックの追加により、磁場勾配パルスによって生じたプローブのシールド上の渦電流によるNMR信号への悪影響を効果的に打ち消すことができる。 さて、この実施例の最大の特徴は、前述の通り、最初の90°パルスと最初の磁場勾配パルスとの間に、T2緩和時間に依存して磁化が減衰する時間を設けることでT2緩和時間の短い磁化を減衰させるT2フィルターを挿入したことである。 T2フィルターには、図6に示すように、スピンロックタイプとエコータイプの2種類がある。スピンロックタイプのT2フィルターは、90°パルスによってXY平面(静磁場方向をZ軸とする)に倒された磁化に対して、倒れている方向から高周波磁界を照射して、倒れた磁化がバラケない状態に保ったまま、T2緩和(横緩和による磁化の減衰)だけを引き起こさせるものである。スピンロックのパルス長は、0.1s以上の秒単位の長さを持っている。これにより、T2緩和時間の短い信号を優先的に減衰させて消すことができる。 一方、エコータイプのT2フィルターは、180°パルスを数十μs間隔(短い時間間隔であるほど良い)で数百回ないし数千回繰り返し照射して、磁化のリフォーカスを繰り返すことにより、倒れた磁化がバラケない状態に保ったまま、T2緩和(横緩和による磁化の減衰)を優先的に引き起こさせるものである。この方法によっても、T2緩和時間の短い信号を優先的に減衰させて消すことができる。ただし、この方法は、J変調の影響を受ける場合があるので、スピンロックパルスの場合ほど好ましくはない。 ここで、分子量の大きい分子(かさ高い分子)に由来するNMR信号がT2緩和時間の短い信号(線幅の広いピーク)に相当するので、T2フィルターを通せば、分子量の大きい分子(かさ高い分子)に由来するNMR信号のみを減衰消去させることができ、かさの小さな分子に由来するT2緩和時間の長いNMR信号(線幅の狭いピーク)のみを選び取ることができる。 本実施例のパルスシーケンスを用いて、実際にDOSY測定を行なった結果を図7および図8に示す。モデルケースとして、分子量50000のポリスチレン10mgとカンファー5mgを重クロロホルムに溶解混合し、1H-NMR測定を行なった。試料管には外径3mmの試料管を用い、測定の主なパラメータは、以下の条件であった。 <測定条件>装置:JNM−ECX400P拡散時間Δ:100ms磁場勾配パルス幅δ:1.2ms磁場勾配強度G:0.1〜32G/cm(16ステップ)測定温度:30℃スピンロック時間:300ms(T2フィルター付きの場合) 図7の上段は、1H-NMRスペクトルの全体像で、横軸はケミカルシフト、縦軸は信号強度(任意単位)である。中央の拡大図は、1.1ppmから1.6ppmの範囲を拡大表示したもので、ブロードなポリスチレン由来の信号の上に、シャープなカンファー由来の信号が重畳している様子を示している。 図7の中段は、磁場勾配強度Gをしだいに強くして行ったときに観測される、分子の拡散に由来する信号強度の減衰の様子を示している。拡散による減衰の起こりやすいカンファーのシャープな信号が、拡散による減衰の起こりにくいポリスチレンのブロードな信号の上に載っている様子を示している。 図7の下段は、スピンロックによるT2フィルターを併用したときの、分子の拡散に由来する信号強度の減衰の様子を示している。T2緩和時間の短い(線幅の広い)ポリスチレンに由来するブロードな信号は選択的に減衰消失し、カンファーに由来するシャープな信号のみが残存している様子を示している。 T2フィルターを併用しないときと、T2フィルターを併用したときの、DOSYスペクトルを示したものが図8である。 図8の左側は、T2フィルターを併用しないとき、すなわち従来のBPP-STE-LED法によるDOSYスペクトルで、横軸はケミカルシフト、縦軸は拡散係数Dである。従来のBPP-STE-LED法では、ケミカルシフトが1.3〜1.5ppm付近、および1.9〜2.0ppm付近に、拡散係数Dが0.8×10-9m2/s程度の化学種とおぼしきエラーピークが現れて、カンファー由来の信号が、見かけ上、2成分存在しているかのように表示されている。 図8の右側は、T2フィルターを併用したとき、すなわち本発明の方法によるDOSYスペクトルで、横軸はケミカルシフト、縦軸は拡散係数Dである。本発明の方法では、ケミカルシフトが1.3〜1.5ppm付近、および1.9〜2.0ppm付近に現れていた、拡散係数Dが0.8×10-9m2/s程度の化学種とおぼしきエラーピークが消えて、カンファー由来の信号が、まさしく1成分だけ存在しているように表示されている。 このように、一連のピークはすべて1種類の分子、すなわちカンファー分子に由来するピークであるにも関わらず、従来の方法によるDOSYスペクトルでは、ブロードなピークの上に乗っているために、下駄を履く形になり、正しい拡散係数が得られなかったのに対して、本発明の方法によるDOSYスペクトルでは、ブロードなピークの上に乗っていた信号も含めて、すべての信号がシャープなピークとして正しく評価された。 尚、本実施例では、BPP-STE-LED法の最初の90°パルスと最初の磁場勾配パルスとの間にT2フィルターを挿入して測定を行なったが、pfg Spin-Echo法やpfg Stimulated Spin-Echo法やBPP-STE法の最初の90°パルスと最初の磁場勾配パルスとの間にT2フィルターを挿入して測定を行なっても良い。 また、本実施例では、1H-NMRスペクトルでの応用例についてのみ述べたが、13C-NMRスペクトルや15N-NMRスペクトルや31P-NMRスペクトルなど、1H核以外の核スピンを持ったあらゆる核種のNMRスペクトルに対して適用できることは言うまでもない。 DOSY測定に広く利用できる。従来のDOSY法の一例を示す図である。従来のDOSYスペクトルの一例を示す図である。従来のDOSY法の一例を示す図である。従来のDOSY法の一例を示す図である。本発明にかかるDOSY法の一実施例を示す図である。T2フィルターのバリエーションを示す図である。本発明にかかるDOSYスペクトルの測定例を示す図である。本発明にかかるDOSYスペクトルの測定例を示す図である。最初に磁化を静磁場方向と直交する平面に倒す90°パルスを印加し、所定待ち時間後、該磁化をリフォーカスするリフォーカスパルスを印加する高周波パルスシーケンスと、最初に静磁場方向の勾配を持った勾配磁場パルスを試料に印加し、所定待ち時間後、最初に印加された勾配磁場の効果を打ち消す勾配磁場パルスを印加する磁場勾配パルスシーケンスと、の2つのパルスシーケンスの組み合わせから成り、最初の磁場勾配パルスは最初の90°パルスの印加後に印加され、最初に印加された勾配磁場の効果を打ち消す勾配磁場パルスは前記リフォーカスパルスの印加後に印加されるNMR測定用パルスシーケンスを用いたNMR測定方法において、最初の90°パルスと、最初の磁場勾配パルスとの間に、T2緩和時間に依存して磁化が減衰する時間を設けることでT2緩和時間の短い磁化を減衰させるT2フィルターを挿入したことを特徴とするNMR測定方法。前記T2フィルターは、前記倒された磁化に対して、磁化の倒れている方向から高周波磁界を照射するスピンロックパルスであることを特徴とする請求項1記載のNMR測定方法。前記T2フィルターは、連続した複数のリフォーカスパルスから成る高周波パルスシーケンスであることを特徴とする請求項1記載のNMR測定方法。前記NMR測定用パルスシーケンスは、pfg Spin-Echo法、pfg Stimulated Spin-Echo法、または、pfg Stimulated Spin-Echo法を基にしたBPP-STE法やBPP-STE-LED法のいずれかに用いられるパルスシーケンスであることを特徴とする請求項1記載のNMR測定方法。 【課題】高分子由来のピークを低減させることで、より正確なDOSY測定を行なえるようなNMR測定方法を提供する。【解決手段】DOSY法のパルスシーケンスにおいて、最初の90°パルスと、最初の磁場勾配パルスとの間に、T2緩和時間に依存して磁化が減衰する時間を設けることでT2緩和時間の短い磁化を減衰させるT2フィルターを挿入した。【選択図】図5


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