タイトル: | 公開特許公報(A)_糖蜜又は廃糖蜜からの着色物質の精製方法及びこの方法により精製された着色物質 |
出願番号: | 2007236467 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C07G 99/00,C05F 5/00,C09K 17/32,C12N 9/99,A61K 8/66,A61Q 15/00,A61K 38/43,A61P 7/04,A61P 29/00,A61P 21/00,C09K 101/00 |
秦野 賢一 JP 2009007322 公開特許公報(A) 20090115 2007236467 20070912 糖蜜又は廃糖蜜からの着色物質の精製方法及びこの方法により精製された着色物質 国立大学法人群馬大学 504145364 須田 正義 100085372 秦野 賢一 JP 2006250060 20060914 JP 2007139942 20070528 C07G 99/00 20090101AFI20081212BHJP C05F 5/00 20060101ALI20081212BHJP C09K 17/32 20060101ALI20081212BHJP C12N 9/99 20060101ALI20081212BHJP A61K 8/66 20060101ALN20081212BHJP A61Q 15/00 20060101ALN20081212BHJP A61K 38/43 20060101ALN20081212BHJP A61P 7/04 20060101ALN20081212BHJP A61P 29/00 20060101ALN20081212BHJP A61P 21/00 20060101ALN20081212BHJP C09K 101/00 20060101ALN20081212BHJP JPC07G17/00C05F5/00C09K17/32 HC12N9/99A61K8/66A61Q15/00A61K37/48A61P7/04A61P29/00A61P21/00C09K101:00 5 1 OL 14 4C083 4C084 4H026 4H055 4H061 4C083AD471 4C083CC17 4C083EE18 4C084AA02 4C084BA03 4C084BA44 4C084DC02 4C084NA14 4C084ZA072 4C084ZA532 4C084ZA942 4C084ZB112 4H026AA17 4H055AA01 4H055AA02 4H055AA03 4H055AB01 4H055AB10 4H055AB20 4H055AB44 4H055AB99 4H055AC60 4H055AD32 4H055CA60 4H061AA01 4H061AA02 4H061CC42 4H061GG29 4H061GG56 4H061GG57 4H061LL22 本発明は、砂糖の製造過程で結晶化する糖を回収した後の糖蜜又は廃糖蜜から残存糖分と着色物質とに分離して、着色物質を精製する方法及びこの方法により精製された着色物質、この物質に含まれるタンパク質加水分解酵素阻害剤に関するものである。 ブラジルや欧米で既に導入されているバイオマス由来のエタノール等のバイオ燃料は、自動車などの輸送機関から発生する炭酸ガス、NOx、SOxの削減が期待されている。 しかし、一方では、これまで行われてきているバイオ燃料としてのエタノール製造では、サトウキビ等の糖分を発酵原料としているため、将来的には食糧としての供給と競合するという問題を生じさせる可能性がある。このため、バイオマスとしての糖原料については従来よりもより高度なアプローチでの技術的対応が求められている。 例えば、砂糖の製造過程で発生する、糖蜜から砂糖を回収した後に残った廃糖蜜は、全世界で年間約300万トン、日本では約5万トンが副産物として生じている。これらは産業廃棄物として、十分に有効活用されずに捨てられている現状がある。廃糖蜜は糖分以外の成分も含んだ粘状で黒褐色の液体である。現在、この廃糖蜜の一部は、家畜の飼料、ソースやタイヤの着色料に使用されているが付加価値が低い。 また、例えばビート廃糖蜜を、パン酵母の培養のための炭素源として使用することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、廃糖蜜にはパン酵母の培養に適当でない成分を含むものもあり、実際には、必ずしもパン酵母培養に好適な廃糖蜜を常に入手できるとは限らないため、製造する工場の側としては出来れば使用したくないが、やむを得ず使用しているのが実情であった。 また、廃糖蜜を希釈してpH変化により固形物を自然沈降させて上澄液を分離する廃糖蜜の処理法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。またこの特許文献2では、上記処理法で得られた上澄み液をアミノ酸の発酵原料として用いる発酵生産法が開示されている。しかし、上記処理法では、廃糖蜜の有色物質との分離が十分でなく、分離効率は実用上満足できるレベルではなかった。 更に、上記特許文献2に示されるような沈降分離の方法とは別に、廃糖蜜液からの糖の分離回収にイオン交換クロマトによる方法も検討されてきているが、陰イオン交換樹脂の場合には特に樹脂に着色物質が強力に吸着して樹脂の再生が困難であり、陽イオン交換樹脂の場合では着色物質の分離はできないという問題点がある。特開平10−136975号公報(発明の詳細な説明の段落[0002]〜[0003])特許第3041921号公報(特許請求の範囲の請求項1及び請求項3]) 上記廃糖蜜をエタノール製造に利用することができれば、砂糖原料との競合を避けることができる。しかしながら、廃糖蜜には、糖分以外の成分であるヒドロキシメチルフルフラール(HMF)などの発酵阻害物質が存在しているため、そのままでは廃糖蜜のエタノール製造への利用には都合が悪いと思われる。また発酵後の蒸留残渣はその着色度の高さからそのまま廃棄することができず、嫌気的バクテリア処理と好気的処理によって着色度を下げてから廃棄するなど非常にコストがかかっている。 そこで、本発明は、以上のとおりの背景から、従来の問題点を解消し、廃糖蜜を更に高度に有効利用すること、より具体的には、廃糖蜜から簡便に残存する糖分と着色物質とを分離し、効率良く着色物質を得ることを可能とし、更に廃糖蜜から着色物質を精製した後に残った糖分はエタノール製造に利用することができ、廃糖蜜の有効利用を図ることができる、新しい技術手段を提供することを課題としている。 請求項1に係る発明は、糖蜜又は廃糖蜜を水に希釈して糖蜜希釈液を調製する工程と、糖蜜希釈液に酸を加えてpH1〜3に調整する工程と、pH調整した糖蜜希釈液を疎水性クロマト樹脂と接触させて希釈液中の着色物質を樹脂に吸着させることにより糖蜜希釈液から着色物質を分離する工程と、着色物質を吸着した疎水性クロマト樹脂にアルカリ水溶液を接触させて樹脂から着色物質が溶離した液を得る工程とを含む糖蜜又は廃糖蜜からの着色物質の精製方法である。 請求項1に係る発明では、上記工程を経ることで、糖蜜又は廃糖蜜から簡便に残存する糖分と着色物質とを分離し、効率良く着色物質を得ることができる。 請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、糖蜜又は廃糖蜜が一番蜜、二番蜜、三番蜜、四番蜜、五番蜜及び六番蜜からなる群より選ばれた1種又は2種以上の糖蜜からの着色物質の精製方法である。 請求項2に係る発明では、上記種類の糖蜜であれば、着色物質の精製が可能である。このうち、着色物質の含有割合が高い五番蜜や六番蜜の使用が特に好ましい。 請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、疎水性クロマト樹脂がアンバーライト(登録商標)XAD7HP樹脂(以下、本明細書ではXAD樹脂と略す。)である着色物質の精製方法である。 請求項3に係る発明では、XAD樹脂は、市場に流通している疎水性クロマト樹脂の中でも入手が容易であり、かつ入手コストも安いため、着色物質の吸着に使用するのに好適である。 請求項4に係る発明は、請求項1ないし3いずれか1項に記載の方法により精製され、3400cm-1、1650cm-1及び1050cm-1にそれぞれ赤外吸収ピークを有する廃糖蜜からの着色物質である。 請求項4に係る発明では、上記IR吸収ピークは、フミン物質が有する赤外吸収ピークと一致するものであり、上記波長の吸収ピークを有すれば、フミン物質が有する特性と似ていると言える。 請求項5に係る発明は、請求項4記載の着色物質に含まれることを特徴とするタンパク質加水分解酵素阻害剤である。 本発明の糖蜜又は廃糖蜜からの着色物質の精製方法によれば、糖蜜又は廃糖蜜から簡便に残存する糖分と着色物質とを分離し、効率良く着色物質を得ることができる。 また、上記方法により精製された本発明の着色物質は、その特性から土壌改良剤、肥料、水質改良剤、凝集剤等としてだけでなく、パパイン阻害剤のようなタンパク質加水分解酵素阻害剤としても応用可能である。 次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。 本発明でいう、着色物質の精製方法の出発原料となる「糖蜜」は、主としてサトウキビやビートからの砂糖の製造過程で結晶化した糖を回収した後に残ったものである。また、「廃糖蜜」は、主としてサトウキビやビートからの砂糖の製造工程で発生する最終の糖蜜(サトウキビでは六番蜜、ビートでは三番蜜を一般に指す)から砂糖を回収した後に残ったものであって、従来では殆どが産業廃棄物として扱われていたものである。ここで、「廃糖蜜」は少なくともサトウキビからのものとして考慮される。本発明で使用される糖蜜又は廃糖蜜は、一番蜜、二番蜜、三番蜜、四番蜜、五番蜜及び六番蜜からなる群より選ばれた1種又は2種以上の糖蜜が挙げられる。上記種類の糖蜜であれば、残存する糖分と着色物質とを別々に分離回収することができ、着色物質の精製が可能である。このうち、着色物質の含有割合が高い五番蜜や六番蜜の使用が特に好ましい。 本発明の着色物質の精製方法では、先ず、前述した糖蜜又は廃糖蜜を水に希釈して糖蜜希釈液を調製する。ここで糖蜜希釈液を調製するのは、後に続く工程での取扱いを容易にするためである。糖蜜や廃糖蜜は、水による希釈が任意の割合で可能である。希釈率は、糖蜜や廃糖蜜の全重量に対し、7倍以上、更には8〜10倍の水希釈が一般的な条件として考慮される。希釈率が低いほど着色物質の精製コストが下がるため好ましいが、希釈率が低すぎる、例えば5倍以下の希釈率の場合では、粘性が高く、効率的な着色物質の精製が難しくなる。この希釈調整した糖蜜希釈液のpHはおおよそ5〜6程度である。 次いで、この糖蜜希釈液に酸を加えてpH1〜3に調整する。pH調整に使用する酸は、どのような種類の酸を使用してもよい。例えば、塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸や有機酸を使用することができる。糖蜜希釈液を上記pHに調整する理由は、着色物質のカルボキシル基などの酸性解離基の負電荷を無くすためである。 また、pH調整した糖蜜希釈液は、濁りを生じているため、疎水性クロマト樹脂との接触の前に、遠心分離処理してもよい。この遠心分離処理によって分離させた固形沈殿成分を除去することで、得られた上澄み液の透明度が高まり、本発明の着色物質の精製方法の各工程で溶離してくる液が、完全に透明になる。遠心分離条件としては10000〜20000rpmの超遠心分離処理が特に好ましい。 次に、pH調整した糖蜜希釈液を疎水性クロマト樹脂と接触させて希釈液中の帯電していない着色物質を樹脂に吸着させることにより糖蜜希釈液から着色物質を分離する。疎水性クロマト樹脂と糖蜜希釈液との接触方法は、疎水性クロマト樹脂をカラムに詰め、カラムの上方から糖蜜希釈液を一定の流量で通液させることにより行われる。糖蜜希釈液をカラムに通液して、カラム中の疎水性クロマト樹脂と接触させることで、希釈液中の着色物質が樹脂に吸着され、樹脂に吸着されない糖分等はカラムから排出され、回収される。この工程により糖蜜希釈液中の着色物質が疎水性クロマト樹脂に高効率で吸着する。カラムに通液した後に素通り画分として回収された糖溶液は、製糖工場の結晶化工程に再度循環させるか、エタノール発酵の原料として利用してもよい。 使用される疎水性クロマト樹脂は、従来の技術で使用されていたイオン交換樹脂とは異なった特性を示し、官能基を持たないMR構造(Macro Reticular structure,巨大網目構造)を持つものとして特徴を有している。疎水性クロマト樹脂としては、XAD樹脂、ODS(OctaDecylSilyl)、RESOURCE RPC等が挙げられるが、これらの種類に限定されるものではない。なお、XAD樹脂は、スチレン又はアクリルとジビニルベンゼンの共重合体であって、MR構造のイオン交換樹脂に類似した白色の不透明球状粒子である。イオン交換樹脂と異なり官能基をもたないので化学的に極めて安定している。また、ODSは、シリカゲル担体にオクタデシルシリル基を化学結合した充填剤であり、この充填剤がカラムに詰められてODSカラムを形成する。RESOURCE RPCは、ポリスチレン/ジビニルベンゼン製ビーズがカラムに詰められたものである。このうち、XAD樹脂が、市場に流通している疎水性クロマト樹脂の中でも入手が容易であり、かつ入手コストも安いため、着色物質の吸着に使用するのに好適である。 なお、使用する疎水性クロマト樹脂は粒状であることが好ましく、その中間径は一般的には0.35〜0.90mmの範囲にあることが好ましい。 着色物質を吸着させる接触処理においては、例えば、疎水性クロマト樹脂にXAD樹脂を使用する場合、一般的には次のような条件が好適に採用される。なお、一般にクロマト樹脂の使用方法として、カラムへの送液温度を上げる、またはカラム自体を加温するなど行って分離能を上げることがよく試みられるが、本発明の方法では加温しなくても十分な分解能を得ることができる。 糖蜜希釈液の供給速度:約8cm3/cm2・min 糖蜜希釈液の液温:10〜28℃ 糖蜜希釈液のpH:1〜3 次に、着色物質を吸着した疎水性クロマト樹脂にアルカリ水溶液を接触させて樹脂から着色物質が溶離した液を得る。疎水性クロマト樹脂とアルカリ水溶液との接触は、前工程での糖蜜希釈液の通液を終え、水洗した後、カラムにアルカリ水溶液を一定の流量で通液することにより行われる。この工程では疎水性クロマト樹脂から着色物質が完全に脱離するので、カラム再生が非常に容易である。疎水性クロマト樹脂からの着色物質の溶離にアルカリ水溶液を用いるのは、疎水性相互作用で吸着していた着色物質をアルカリ条件にして酸性解離基に負電荷を持たせ樹脂との相互作用力を失わせるためである。使用するアルカリ水溶液としては、NaOHやKOH、Ca(OH)2等が挙げられる。アルカリ水溶液は、例えば、0.01〜0.1Mの濃度で用いることが好適である。水溶液濃度が下限値未満では、上記の理由により着色物質が溶離されないという不具合を生じる。また、溶離する際のアルカリ水溶液の液温は、室温(10〜28℃)が好ましい。 以上述べたように、上記工程を経ることで、糖蜜又は廃糖蜜から簡便に残存糖分と着色物質とに分離して、効率良く着色物質を得ることができる。 なお、得られた着色物質が溶離した液について、着色物質を精製する場合には、例えば、着色物質が溶離した液をpH3以下の酸性に調整し、疎水性クロマト樹脂に通液して着色物質を吸着させ、アルカリ水溶液での溶離のプロセスを行うことにより達成される。 また、得られた着色物質が溶離した液を凍結乾燥してもよい。着色物質が溶離した液を凍結乾燥して着色物質を粉末状態とすることで、運搬や保管などをする際の取扱いが容易になる。着色物質が溶離した液を凍結乾燥した粉末は、雲母のような形状でキラキラと金属光沢を示す。 上記精製方法により得られる本発明の着色物質は、その強力なイオン交換能、長波長域から短波長側にむかって単調に上昇する吸収曲線、そして赤外(IR)吸収スペクトルから、フミン物質にその特性が酷似していることが明らかとなった。ここでいうフミン物質は、一般的には「腐植物質」と呼ばれるものであって、植物などが土壌中の微生物によって複雑に分解、重合されて生成する最終生成物である。このフミン物質は高温高圧などの物理的作用を与えることで、石炭や石油になるといわれている。フミン物質はどのような反応機構を経ることで生成されるか未だ解明されていないため、その構造及び特性が類似している本発明の着色物質を研究、解析することによって、フミン物質の誕生過程の解明が期待される。フミン物質の代表的なものとしてはフミン酸やフルボ酸などが存在する。 本発明の着色物質は、3400cm-1、1650cm-1及び1050cm-1にそれぞれ赤外吸収ピークを有する。3400cm-1の吸収ピークは、水素結合に関与しているO−H振動に、1650cm-1の吸収ピークは、C=Oと共役している芳香族C=C振動に、1050cm-1の吸収ピークは、アルコール又はエステルのC−OH振動にそれぞれ帰属されている。上記赤外吸収ピークは、フミン物質が有する赤外吸収ピークと一致するものであり、本発明の着色物質とフミン物質の特性が類似することを裏付けるデータの一つとなる。 また本発明の着色物質は、パパインの阻害活性を有する。パパイン(papain, EC.3.4.22.2)とは、タンパク質加水分解酵素(プロテアーゼ)の中のシステインプロテアーゼに分類される酵素であって、植物由来のプロテアーゼとしては最も研究が進んでいるものの一つである。なお、本発明の着色物質は、アスパラギン酸プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼに対して阻害活性を有しておらず、システインプロテアーゼに分類される酵素のみの阻害活性を有する点で、特異的な性質を示す。 パパインは、パパイアから見つかったことからこの名前が付けられたが、その触媒残基はシステインとヒスチジンで、システイン残基のチオール基の硫黄原子がペプチド結合のカルボニル炭素に求核攻撃を行うことからタンパク質やペプチドの加水分解が始まる。そして、基質特異的に、塩基性アミノ酸、グリシン及びロイシンと続くアミノ酸とのペプチド結合を切断する。 阻害剤としては、ロイペプチンなどのペプチド系阻害剤や、システイン残基(チオール基)修飾試薬(水銀化合物など)が知られているが、本発明の着色物質を使用することで、新しいタイプの阻害剤が提供されることになる。 以上述べたように、本発明の着色物質は、パパイン阻害剤のようなタンパク質加水分解酵素阻害剤として応用することが可能であり、抗ウイルス剤、抗害虫剤等として、医薬、農薬等への応用が期待される。 また、本発明の着色物質は、フミン酸やフルボ酸等のフミン物質と類似した特性を有するので、フミン酸やフルボ酸等と同様に、土壌改良剤、肥料、水質改良剤、凝集剤等として広範囲への応用が期待できる。 次に本発明の実施例を詳しく説明する。 <実施例1> 関西精糖株式会社から提供されたサトウキビの廃糖蜜(六番蜜)25mlを水に希釈して7倍希釈液を調製した。この希釈液に塩酸を加えてpH3に調整した。pH調整した希釈液を遠心分離(20000rpm、10分間)し上澄みを回収した。 次に、疎水性クロマト樹脂としてXAD樹脂を用意し、XAD樹脂をカラムに充填した。また、pHが3に調整されたイオン交換水、0.05MのNaOHをそれぞれ用意した。XAD樹脂が充填されたカラムの上方から上澄み液(175ml)を通じ、続いて、イオン交換水(135ml)を通じ、次に、NaOH(135ml)を通じた後、更にイオン交換水(270ml)を通じた。カラムへの通液操作は、膨潤XAD樹脂を150ml(ゲル高26cm)、流速を8cm3/cm2・min、1フラクションの容量を5.5mlとした。なお、このカラム通液操作は全て室温で行った。 <評価1> 実施例1のカラムを通液した液について、色度に関しては波長280nmの吸収により、糖濃度に関してはフェノール・硫酸法によって定量して評価した。フェノール・硫酸法は、サンプル溶液150μlに5%フェノール液150μl、濃硫酸750μlの順で加え、10分放置後直ちに26℃の水溶液中で15分間保温した後に、485nmの吸光度を測定した。標準試料としてスクロースを用いて検量線を作成した。 図1(a)にカラムを通液した液のA280と糖濃度の関係を、図1(b)にカラムを通液した液のA280とpHの関係を示す。なお、図1(a)中の実線は波長280nmの吸収を、破線は糖濃度を示す。図1(b)中の実線は波長280nmの吸収を、破線はpHを示す。 図1(a)から明らかなように、フラクションNo.10〜60程度で糖濃度に関してピークが形成され、フラクションNo.90〜110程度でA280のメインピークが形成された。また、図1(b)から明らかなように、フラクションNo.1〜80程度まではpH3程度を推移し、フラクションNo.80を越えたあたりからpHが上昇し、フラクションNo.110前後でpH13にまで達した。この結果から、pH上昇とA280のメインピークとが一致しており、アルカリによって着色物質が樹脂から溶離されていることが確認された。なお、結果は示さないが、廃糖蜜中の全糖成分の約90%を占めるスクロースを用いて同様の実験を行った結果、スクロースがXAD樹脂に全く吸着されずに素通りして溶離してきた。このことから、A280のメインピークの部分には糖は含まれていないことが判り、糖とその他の着色物質が完全に分離できたことが確認できた。 なお、図1(a)及び図1(b)から、既にその結果は推定されるが、カラムに通液するアルカリ水溶液をKOHに変更した場合についても同様の評価を行った。その結果、図示しないが、アルカリ水溶液にNaOHを使用した場合と同一のクロマトグラムを示した。この結果から、アルカリ水溶液としてKOHを使用する場合についても、問題なく本発明の方法により着色物質を精製できることが確認された。 また、上記関西精糖株式会社から提供されたサトウキビの廃糖蜜の他に、新東日本精糖株式会社から提供されたサトウキビの廃糖蜜(六番蜜)、関門精糖株式会社から提供されたサトウキビの廃糖蜜(六番蜜)をそれぞれ用いて上記と同様の方法を行い、評価したが、どれも殆ど同じクロマトグラムを示した。 <評価2> 次に、溶離した吸着画分(着色物質)として、実施例1のカラムを通液した液のうち、フラクションNo.94〜102を回収した。この回収したサンプルを凍結乾燥し、その一部を用いて赤外吸収スペクトルを測定した。赤外吸収スペクトル測定では、先ず、凍結乾燥したサンプル2mgとKBr200mgをメノウ乳鉢と乳棒を用いて十分に粉砕し、粉砕物を錠剤成型機で円板状に成型することにより、サンプルの錠剤を作製した。次に、JASCO A−702型分光計(日本分光社製)を用いて、サンプルの錠剤における赤外吸収スペクトルを測定した。 その結果を図2に示す。なお、図2の「Fumic acid」とある赤外吸収スペクトルは、和光純薬株式会社より市販されているフミン酸のスペクトルを、図2の「Molasses」とある赤外吸収スペクトルは、今回測定したフラクションNo.94〜102のスペクトルを示す。 図2から明らかなように、着色物質の赤外吸収スペクトルは、3400cm-1、1650cm-1及び1050cm-1にそれぞれ吸収ピークを示した。3400cm-1の吸収ピークは、水素結合に関与しているO−H振動を、1650cm-1の吸収ピークは、C=Oと共役している芳香族C=C振動を、1050cm-1の吸収ピークは、アルコール又はエステルのC−OH振動をそれぞれ表している。これらはフミン酸に特徴的な吸収ピークであることが報告されている。この結果から、得られた赤外吸収ピークは、フミン物質のそれらと類似した位置に現れることが確認された。 <評価3> 以前の予備的な研究から廃糖蜜から精製される着色物質には、パパイン阻害活性が存在することが判っていたが、この着色物質がパパイン以外のプロテアーゼ阻害活性を有しているか否かを確認した。本研究では各クラスの代表的なプロテアーゼである、ペプシン(アスパラギン酸)、パパイン(システイン)、キモトリプシン(セリン)、サーモライシン(金属)について阻害活性を測定した。パパインを除く各プロテアーゼの阻害活性測定方法は、下記にその概略を示す。 キモトリプシンの阻害活性測定では、緩衝溶液に20mM酢酸ナトリウム(pH4.5)を用い、基質にp-nitrophenyl benzyloxycarbonyl-L-phenylalaninateを用いた。サーモライシンの阻害活性測定では、緩衝溶液に50mM酢酸ナトリウム(10mM塩化カルシウム、pH5.0)を用い、基質にN-[3-(2-furyl)acrytoyl]-Gly-L-Leu amideを用いた。更にペプシンの阻害活性測定では、基質に2.5%ヘモグロビン(0.1M酢酸ナトリウム、pH3.8)を用い、反応停止剤に5%トリクロロ酢酸を用いた。 阻害活性測定方法は、測定セルに酵素溶液とサンプル溶液を加え、最後に基質溶液を加えることによって反応を開始させた。活性測定は全て24℃で行った。阻害率(%)の計算方法に関しては、パパインとキモトリプシンが317nm、サーモライシンが345nm、ペプシンが280nmの吸光度の経時変化を解析して求めた。 結果として、解析サンプルはパパイン以外のプロテアーゼへの阻害活性を示さなかった。このことから、本発明の廃糖蜜からの着色物質は、特定の酵素を阻害する特異的な構造を持っていると考えられる。 <評価4> 着色物質のパパイン阻害活性を更に精製することを目的として、ゲル濾過クロマトグラフィーを行った。樹脂としてセファデックス G−50を用い、カラム体積は525ml(ゲル高90cm)、流速を2cm3/cm2・min、1フラクションの容量を5.5mlとした。なお、このカラム通液操作は全て室温で行った。送液は、緩衝液ではなくpHが9.5に調整されたイオン交換水を用いた。 パパインの阻害活性測定では、100mMリン酸ナトリウム緩衝溶液(2mM EDTA、1mM DTT、pH6.3)を用い、基質にN-CBZ-L-lysine-p-nitrophenylesterを用いた。 阻害活性測定方法は、測定セルに緩衝液(652μl)、酵素溶液(16μl)、サンプル(16μl)及び基質(16μl)をこの順に加えることによって反応を開始させた。阻害率(%)の計算方法に関しては、酵素によって切断遊離されたp-nitrophenolの吸光度(340nm)の経時変化を傾きXとし、コントロールから得られた傾きYから、計算式(Y−X)÷Y×100によって求めた。 図3にA280とパパイン阻害活性の関係を示す。なお、図3での実線は波長280nmの吸収を、破線は阻害活性を示す。図3から、フラクションNo.20〜90程度にかけて阻害活性が確認された。このパパインに対して強い阻害が見られたフラクションNo.30〜50を回収し、凍結乾燥して解析用サンプルとした。 次に、着色物質の溶液中の分子量を測定するため、実施例1で行ったXAD樹脂に吸着した着色物質(X)、この評価4で行ったゲル濾過クロマトグラフィーでの阻害活性画分(G1)、そして、この評価4で行った活性が非常に弱い着色物質(フラクション62〜78:G2)を、それぞれ350mg/mlの濃度に調整し、DynaPro(Wyatt Technology Corp.)により、動的光散乱測定を行った。なお、動的光散乱測定は、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(2mM EDTA、1mM DTT、pH4.5)中で行った。 結果として、これらは単分散サンプルではなかったが、Xの分子量は約9250、G1の分子量は約15580、そしてG2の分子量は約3220と見積もられた。同じ着色物質でもパパイン阻害活性を有するG1の分子量が、阻害活性が弱いG2の分子量に比べて約5倍も大きいという、非常に興味深い結果が得られた。 次に、サンプルG1とサンプルG2のパパインに対する阻害様式と阻害定数を決定するため、基質の濃度と阻害剤の濃度を変数として各条件の反応速度を測定した。そして、Dixonプロットを作成してパパインに対する阻害定数を求めた。このときの条件は、50mM酢酸ナトリウム(2mM EDTA、1mM DTT、pH4.5)を緩衝液として用いた。他は上記パパイン阻害活性測定条件と同様である。 結果として、図4に示したDixonプロットより、サンプルG1とサンプルG2ともに4種類の阻害剤濃度の直線がY軸より左側の領域で交差しているので、混合的にパパインを阻害(混合阻害)することが判った。また、Dixonプロットにより、G1サンプルの阻害定数は5.01×10-5M、G2サンプルのそれは1.08×10-3Mと見積もられた。一般的な阻害剤の阻害定数の範囲は10-7〜10-4であることが知られており、本発明の着色物質G2は、阻害剤としては非常に弱い部類に属することが判った。 最後に総括として、フェノール・硫酸法により関西精糖株式会社提供の廃糖蜜では平均793g/lの糖が含まれていることが判った。25mlの廃糖蜜より平均20.9g(XADカラム処理の素通り糖画分での値)の糖を回収できることが明らかとなり、回収率でいうとほぼ100%という高い値が得られた。一方で着色物質Xは、廃糖蜜25mlから平均で1.56g回収することができた。カラム中の未溶離の着色物質は考慮していないが、それでもクロマトグラムの面積積分計算からX画分の面積は全体の約80%であることが判り、つまり素通り糖画分の色素除去率は80%以上ということが判った。 本発明の着色物質は、前述した用途だけに限らず、健康飲料水や化粧品、サプリメント、調味料、脱臭剤などの用途や、止血剤、解熱剤、炎症防止剤、筋肉更正剤といった医薬品への用途や、染料、陶器、電池、泥水などといった新素材開発材料への用途にも適用できる。図1(a)は、評価1における、カラムを通液した液のA280と糖濃度の関係を示す図である。図1(b)は、評価1における、カラムを通液した液のA280とpHの関係を示す図である。図2は、評価2における着色物質及びフミン物質の赤外吸収スペクトル図である。図3は、評価4におけるゲル濾過クロマトグラフィー後の着色物質のA280とパパイン阻害活性の関係を示す図である。図4は、評価4におけるG1サンプル及びG2サンプルのパパインに対する阻害様式と阻害定数の関係を示す図である。 糖蜜又は廃糖蜜を水に希釈して糖蜜希釈液を調製する工程と、 前記糖蜜希釈液に酸を加えてpH1〜3に調整する工程と、 前記pH調整した糖蜜希釈液を疎水性クロマト樹脂と接触させて希釈液中の着色物質を前記樹脂に吸着させることにより前記糖蜜希釈液から前記着色物質を分離する工程と、 前記着色物質を吸着した疎水性クロマト樹脂にアルカリ水溶液を接触させて前記樹脂から前記着色物質が溶離した液を得る工程と を含む糖蜜又は廃糖蜜からの着色物質の精製方法。 糖蜜又は廃糖蜜が一番蜜、二番蜜、三番蜜、四番蜜、五番蜜及び六番蜜からなる群より選ばれた1種又は2種以上の糖蜜である請求項1記載の着色物質の精製方法。 疎水性クロマト樹脂がアンバーライト(登録商標)XAD7HP樹脂である請求項1又は2記載の着色物質の精製方法。 請求項1ないし3いずれか1項に記載の方法により精製され、3400cm-1、1650cm-1及び1050cm-1にそれぞれ赤外吸収ピークを有する糖蜜又は廃糖蜜からの着色物質。 請求項4記載の着色物質に含まれることを特徴とするタンパク質加水分解酵素阻害剤。 【課題】糖蜜又は廃糖蜜から簡便に残存する糖分と着色物質とを分離し、効率良く着色物質を得ることができる。【解決手段】本発明の糖蜜又は廃糖蜜からの着色物質の精製方法は、糖蜜又は廃糖蜜を水に希釈して糖蜜希釈液を調製する工程と、糖蜜希釈液に酸を加えてpH1〜3に調整する工程と、pH調整した糖蜜希釈液を疎水性クロマト樹脂と接触させて希釈液中の着色物質を樹脂に吸着させることにより糖蜜希釈液から着色物質を分離する工程と、着色物質を吸着した疎水性クロマト樹脂にアルカリ水溶液を接触させて樹脂から着色物質が溶離した液を得る工程とを含む。【選択図】図1