生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_TMAモデル及びそれを用いたスクリーニング方法
出願番号:2007229483
年次:2009
IPC分類:A01K 67/027,G01N 33/50,G01N 33/15


特許情報キャッシュ

伊藤 眞里 JP 2009060810 公開特許公報(A) 20090326 2007229483 20070904 TMAモデル及びそれを用いたスクリーニング方法 大日本住友製薬株式会社 000002912 高島 一 100080791 伊藤 眞里 A01K 67/027 20060101AFI20090227BHJP G01N 33/50 20060101ALI20090227BHJP G01N 33/15 20060101ALI20090227BHJP JPA01K67/027G01N33/50 ZG01N33/15 Z 8 OL 12 2G045 2G045AA40 本発明は、アトピー性皮膚炎のモデル動物及び該動物を利用したアトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法に関する。 アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis,AD)は、乳幼児期に始まることが多く、寛解、増悪をくり返しながら長期間続く、痒みのある湿疹を主病変とするアレルギー性の皮膚炎である。アトピー性皮膚炎の病態の特徴としては、以下のものを挙げることが出来る:(1)抗原誘発により2相の反応が生じること;(2)組織への細胞浸潤が明確であること;(3)血清中のIgE濃度が高いこと;(4)激しい掻痒を伴うこと;(5)繰り返しの抗原刺激により慢性炎症を生じること。 アトピー性皮膚炎発症の原因としては、体質的な原因と環境的な原因とが絡んでいると考えられているが、詳細は不明である。従って、アトピー性皮膚炎の治療薬の開発のためには、上記の臨床症状を良く反映する疾患モデルを開発し、このモデル動物の病態を改善する化合物をスクリーニングすることが必要となる。 ジニトロクロロベンゼン(DNCB)、ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)などのハプテンを繰り返し動物に塗布することにより皮膚炎を誘発するアトピー性皮膚炎の動物モデルが広く用いられている。しかし、このようなモデルの多くは、モデルの作成期間が長く、2相性の反応や、皮膚炎症部位への細胞浸潤が明確ではないという問題点を有する。 また、ノックアウトマウスや、自然発症モデル動物もいくつか開発されているが、100%発症しなかったり、症状の強弱のコントロールが不可能であったりするため、薬剤のスクリーニングには適していない。 一方、無水トリメリト酸(Trimellitic anhydride,TMA)は気管支喘息の原因抗原のひとつと考えられており、抗原としてTMAを使用した、いくつかの気管支喘息動物モデルが報告されている(非特許文献1〜4)。Sailstad DM et al., Toxicology, 2003 Dec 15; 194(1-2): 147-161Dearman RJ et al., Food Chem. Toxicol., 2002 Dec; 40(12): 1881-1892Vento KL et al., Cell. Immunol., 1996 Sep 15; 172(2): 246-253Andius P et al., Allergy, 1996 Aug; 51(8): 556-562 本発明の目的は、上述のアトピー性皮膚炎の病態、特に、(1)2相性の反応、(2)皮膚炎症部位への細胞浸潤、及び(3)血清IgE濃度の上昇の3つの特徴を明確に有し、且つ短期間で樹立可能な新たなアトピー性疾患モデルを提供することである。 本発明者は、気管支喘息の原因抗原と考えられているTMAを、皮膚を介して動物に感作することにより、上述のヒトアトピー性皮膚炎の病態を明確に反映した、アトピー性皮膚炎動物モデルを作成し得ることを見出した。 以上の知見に基づき、本発明が完成された。 即ち、本発明は以下に関する。[1]無水トリメリト酸により感作され、且つ血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上である非ヒト哺乳動物。[2]無水トリメリト酸の皮膚への塗布により皮膚炎を発症している、[1]記載の哺乳動物。[3]アトピー性皮膚炎モデル動物である、[2]記載の哺乳動物。[4]無水トリメリト酸により感作され、血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上であり、且つ無水トリメリト酸の皮膚への塗布により皮膚炎を発症している非ヒト哺乳動物のアトピー性皮膚炎モデル動物としての使用。[5]無水トリメリト酸により感作され、且つ血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上である非ヒト哺乳動物の皮膚に無水トリメリト酸を塗布することにより該塗布部位に皮膚炎を誘導することを含む、アトピー性皮膚炎モデル動物の製造方法。[6]感作及び皮膚炎の誘導が同一の部位へ施される、[5]記載の方法。[7]該部位が耳である、[6]記載の方法。[8]以下の工程を含む、アトピー性皮膚炎を予防又は治療し得る物質のスクリーニング方法:(I)無水トリメリト酸により感作され、且つ血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上である非ヒト哺乳動物の皮膚に無水トリメリト酸を塗布することにより該塗布部位に皮膚炎を誘導すること;(II)前記塗布の前又は後に被検物質を該哺乳動物に投与すること;及び(III)該哺乳動物に生じた皮膚炎を抑制した被検物質を、アトピー性皮膚炎を予防又は治療し得る化合物として選択すること。 本発明により、(1)2相性の反応、(2)皮膚炎症部位への細胞浸潤、及び(3)血清IgE濃度の上昇の3つの特徴を明確に有する、優れたアトピー性皮膚炎動物モデルが提供される。該モデルは、作成に要する日数が短く、1日以内に薬効を評価することが可能であるので、薬物スクリーニングに要する時間的コストを節約することが出来る。また、一方の耳にのみ感作することにより、同一個体の左右の耳において、性質の異なる(即時相、遅発相、遅延型アレルギー相)アレルギー反応を同時に評価することが可能である。1.アトピー性皮膚炎モデル動物 本発明は、無水トリメリト酸により感作され、且つ血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上である非ヒト哺乳動物を提供する(本発明の哺乳動物I)。該哺乳動物はアトピー性皮膚炎モデル動物として、あるいは該動物の製造のために有用である。 哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物; ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜;イヌ、ネコ等のペット;サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくはげっ歯類であり、より好ましくはマウスである。 無水トリメリト酸は、気管支喘息の原因物質の一つと考えられている公知の化合物であり、市販されているものを入手可能である。 感作とは、生体に特定の抗原を投与して、該抗原に対する免疫学的な記憶を形成させ、同一の抗原による再刺激に対して強く免疫応答する状態にすることをいう。 無水トリメリト酸による非ヒト哺乳動物の感作は、無水トリメリト酸の非ヒト哺乳動物への投与により行われる。投与方法としては、投与対象である非ヒト哺乳動物の血清中総IgE濃度を4000ng/ml以上にまで上昇させることが可能な方法であれば何れの方法でも良く、皮膚への塗布、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射又は皮下注射などが用いられる。アトピー性皮膚炎は皮膚を介した繰り返しの抗原感作により誘発されると考えられるので、この原因をモデル動物にも適切に反映させる観点から、好ましくは、無水トリメリト酸は皮膚への塗布により哺乳動物に投与される。複数の投与方法を組み合わせて用いてもよい。 無水トリメリト酸を皮膚へ塗布する場合の塗布部位としては、腹部、背部、耳(一方又は両方の)等を挙げることができる。本発明の哺乳動物をアトピー性皮膚炎のモデル動物として使用する場合には、少なくとも1回は、例えば2〜5回は、一方又は両方の耳に、無水トリメリト酸が塗布される。アトピー性皮膚炎の病態の指標として耳の厚さが好ましく用いられるためである。塗布する部位は、全ての投与について同一であってもよいし、あるいは複数の塗布部位を用いてもよい。例えば、最初の2〜4回は腹部へ塗布され、引き続き2〜5回は耳へ塗布される。 無水トリメリト酸の投与量は、1回の投与あたり通常0.1mg〜25mg/匹程度、好ましくは1mg〜10mg/匹である。 無水トリメリト酸は、適切な溶媒に溶解又は懸濁された状態で非ヒト哺乳動物に投与される。該溶媒としては、オリーブオイル、アセトン、エタノール、水等が挙げられる。また、複数の溶媒を混合して用いてもよい。 無水トリメリト酸は、直接非ヒト哺乳動物に投与してもよく、また、適当な担体に結合又は吸着させた複合体として投与してもよい。該担体(キャリアー)と無水トリメリト酸(ハプテン)との混合比は、担体に結合あるいは吸着させた無水トリメリト酸に対してIgEが効率よく誘導できれば、どのようなものをどのような比率で結合あるいは吸着させてもよい。担体としては、ウシ、ウサギ、ヒトなどの哺乳動物の血清アルブミン;ウシ、ウサギなどの哺乳動物のチログロブリン;ウシ、ウサギ、ヒト、ヒツジなどの哺乳動物のヘモグロビン;キーホールリンペットヘモシアニン;ポリアミノ酸類、ポリスチレン類、ポリアクリル類、ポリビニル類、ポリプロピレン類などの重合物又は共重合物などの各種ラテックスなどを用いることができる。 効率よく血清中IgE濃度を上昇させるため、適切なアジュバントと共に無水トリメリト酸を投与してもよい。アジュバントとしては、水酸化アルミニウム等を挙げることが出来る。 感作は通常1〜14日毎に1回ずつ、計4〜10回程度行われる。効率よく、短期間で血清中IgE濃度を上昇させるため、最初の2〜4回の投与は4〜7日毎に行い、引き続き1〜2日毎に2〜5回投与を行うことが好ましい。 一実施態様において、最初の2〜4回(例、2回)の無水トリメリト酸の投与は4〜7日(例、5日)毎に腹部の皮膚への塗布により行われ、引き続き1〜2日(例、1日)毎に2〜5回(例、3回)、一方の耳へ無水トリメリト酸が塗布される。 本発明の哺乳動物Iは、血清中の総IgE濃度が4000ng/ml以上(例えば4200ng/ml以上)であることを特徴とする。4000ng/ml以上の血清中総IgE濃度を有することにより、無水トリメリト酸を皮膚へ塗布すると、ヒトのアトピー性皮膚炎と類似した病態の皮膚炎を発症する。特に、2相性の反応のうちの即時相を明確に発現するために、血清中の総IgE濃度が4000ng/ml以上であることが重要である。このような血清中のIgE濃度の上昇は、無水トリメリト酸による感作により誘導されたものである。例えば、4〜7日毎に2〜4回哺乳動物の腹部へ無水トリメリト酸を塗布し、引き続き1〜2日毎に2〜5回耳へ無水トリメリト酸を塗布すると、経時的に血清中総IgE濃度が上昇し、最終塗布から3日以上(例えば3〜14日、好ましくは4〜7日)経過すると、総IgE濃度が4000ng/ml以上になる。なお、本明細書中、総IgE濃度は、IgEに特異的に結合する抗体を用いたELISA法により測定された値により記載する。 本発明の哺乳動物Iの皮膚へ更に無水トリメリト酸を塗布することにより、塗布した部位に皮膚炎を発症した哺乳動物を製造することが出来る。本発明は、このような皮膚炎を発症した哺乳動物をも提供する(本発明の哺乳動物II)。本発明の哺乳動物IIはアトピー性皮膚炎のモデル動物として有用である。 本発明の哺乳動物IIの皮膚炎の主な病態としては、血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上であることに加えて以下を挙げることが出来る:(1)皮膚の肥厚(浮腫);及び(2)無水トリメリト酸を塗布した部位への肥満細胞、好中球及び好酸球の浸潤。 皮膚の肥厚は、耳の厚み等を計測することにより評価することが出来る。肥満細胞等の浸潤は、組織切片を顕微鏡により観察することにより評価することが出来る。 無水トリメリト酸による感作を皮膚への塗布により行い、その塗布部位と同一部位に無水トリメリト酸を塗布することにより皮膚炎を誘導した場合(例えば、感作のための塗布と皮膚炎誘導のための塗布を同側の耳に施す場合)には、ヒトアトピー性皮膚炎の病態と共通する明確な2相性の反応(皮膚の肥厚、浮腫等)を生じるので、より好適なアトピー性皮膚炎モデル動物が提供され得る。この2相性の反応は、無水トリメリト酸の塗布の約1〜2時間後をピークとする即時相、及び塗布の約8時間後をピークとする遅発相からなる。即時相の反応は、肥満細胞を介した反応であり、抗ヒスタミン剤により抑制され得る。遅発相の反応は、アトピー性皮膚炎の皮疹に近似して著しい細胞浸潤をともない、免疫抑制剤により抑制され得る。 無水トリメリト酸による感作を皮膚への塗布により行い、その塗布部位と異なる部位に無水トリメリト酸を塗布することにより皮膚炎を誘導した場合(例えば、感作を一方の耳に行い、皮膚炎の誘導を他方の耳に行う場合)には、1相性の反応(皮膚の肥厚、浮腫等)を生じる。この1相性の反応は、無水トリメリト酸の塗布の約24時間後をピークとする遅延型アレルギー相からなる。 好ましい実施態様において、無水トリメリト酸による感作が一方の耳への塗布により行われ、皮膚炎の誘導が両方の耳への無水トリメリト酸の塗布により行われる。こうすることにより、性質の異なる上述の2相性及び1相性の反応を同時に評価することが出来る。2.スクリーニング方法 本発明は、上述のアトピー性皮膚炎のモデル動物を用いる、アトピー性皮膚炎を予防又は治療し得る物質のスクリーニング方法を提供する。該モデル動物は、ヒトのアトピー性皮膚炎の病態と近似しており、また比較的短期間に皮膚炎を発症させることができ、更には薬効評価も短時間で得られることから、アトピー性皮膚炎の予防・治療薬の候補物質を効率よく探索することが出来る。 具体的には、本発明のスクリーニング方法は以下の工程を含む:(I)無水トリメリト酸により感作され、且つ血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上である非ヒト哺乳動物の皮膚に無水トリメリト酸を塗布することにより該塗布部位に皮膚炎を誘導すること;(II)前記塗布の前又は後に被検物質を該哺乳動物に投与すること;及び(III)該哺乳動物に生じた皮膚炎を抑制した被検物質を、アトピー性皮膚炎を予防又は治療し得る化合物として選択すること。 工程(I)は、上述の「1.アトピー性皮膚炎のモデル動物」の項で記載した方法と同様に実施することが出来る。 工程(II)に供される被検物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、ランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。 工程(III)においては、被検物質を投与された哺乳動物における皮膚炎の程度が、被検物質を投与されていない対照哺乳動物における皮膚炎の程度と比較される。皮膚炎の程度は、皮膚の厚み(例、耳の厚み)、浸潤細胞数、血清中総IgE濃度等を指標に評価することが出来る。皮膚炎の程度の比較は、好ましくは、統計学的有意差の有無に基づいて行われる。被検物質を投与されていない対照哺乳動物における皮膚炎の程度は、被検物質を投与された哺乳動物における皮膚炎の程度の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。 比較の結果、哺乳動物における皮膚炎の程度を改善した物質を、アトピー性皮膚炎を予防又は治療し得る物質として選択することが出来る。 好ましい態様として、工程(I)において、無水トリメリト酸による感作が一方の耳への塗布により行われ、皮膚炎の誘導が両方の耳への無水トリメリト酸の塗布により行われる。これにより感作した耳においては、即時相及び遅発相の反応に対する被検物質の効果を、非感作の耳においては、遅延型アレルギー相に対する被検物質の効果を同一個体で同時に評価することが可能となる。 以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。(実施例1:アトピー性皮膚炎動物モデルの作成)方法 BALB/cAnNcrlCrljマウス(雄、5週齢)を日本チャールズリバーより購入し、前日にシックインジェクター(一枚刃;シック・ジャパン社)を用いて剃毛したマウスの腹部に、10重量%TMA(アセトン:オリーブ油=4:1)溶液100μLを塗布して感作した(day0)。5日後に再び10重量%TMA溶液を腹部に100μLを塗布することにより追加感作を行った(day5)。さらにその5日後から3日間連続して、10重量%TMA溶液を25μL右耳に塗布し(ブースト:day10−12)、最終塗布操作日より5日後(day17)に10重量%TMA溶液を25μLずつ両耳に塗布することにより、皮膚炎を誘発した(チャレンジ)。炎症の程度は、皮膚炎誘発後の耳の厚みを、PEACOCK Dial thickness gauge G(尾崎製作所)を用いて測定した。また、血清中の総IgE濃度を経時的に測定した。 血清中の総IgE濃度の測定は以下のように行った。一次抗体のRat IgE2a κ(コスモバイオ社)(5μg/ml)を100μl/wellで96ウェルプレートに一晩コートした。翌日一次抗体液を除き、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル社)液を100μl/wellで加え、室温でブロッキング処理を行った。洗浄操作を行った後、血清サンプル及び0〜200ng/mlのIgE標準液(mAb mouse anti−DNP IgE:ヤマサ醤油)を100μl/wellで加え、1時間、室温で反応させた。洗浄操作を行った後、二次抗体(Rat anti−mouse IgE HRP conjugated:Southern Biotechonology Associates)を100μl/wellで加え、1時間、室温で反応させた。洗浄操作を行った後、基質液(1:1 ABTS/H2O2 mix:Kirkegaard&Perry Laboratories)を100μl/wellで加え、15分間、室温で反応させ、続いて2重量%シュウ酸溶液を100μl/wellで加え反応を停止させた。波長405nmの吸光度を測定し、標準液から算出される血中のIgE濃度を計算した。結果 血清中の総IgE濃度は、インタクト及びブースト前にはほとんど検出されなかったが、day0及び5の2回の感作によりチャレンジ前までに約1000(ng/ml)にまで上昇した(図1)。Day10−12の連続感作によってもこの濃度はほとんど不変であったが、驚くべきことにday13からday17にかけて、血清中の総IgE濃度は4000(ng/ml)を超えるレベルにまで上昇した(図1)。 Day10において、TMA溶液を右耳に塗布すると、約24時間後にピークを有する遅延性の肥厚反応のみが誘発された(図2)。 Day17において、TMA溶液を耳に塗布すると、右耳は、約1〜2時間後にピークを有する即時性の肥厚反応と、約8時間後にピークを有する遅延性の肥厚反応とからなる明確な2相性の変化を示した。一方、左耳は、約24時間後にピークを有する遅延性の肥厚反応のみを示した。このような左右の耳における肥厚反応の違いは、使用した動物の雌雄に関わらず認められた(図3)。 Day17の右耳の組織像を図4に示す。TMA溶液の、塗布前においては若干の水腫および炎症性細胞の浸潤を示すのみであったが、TMA塗布の8時間後においては、著しい浮腫、糜爛、並びに肥満細胞、好中球及び好酸球の浸潤が認められた。 Day10と17の間の時期における肥厚反応を検討すると、day13においては、血清中総IgE濃度が2000(ng/ml)を超えていたが、TMA溶液の右耳への塗布によっても2相性の肥厚反応は認められなかった。 Day14及び15においては、血清中総IgE濃度が3000(ng/ml)を超えていた。TMA溶液の右耳への塗布によって2相性の肥厚反応は認められたものの、day17でチャレンジしたときと比較して即時性の肥厚反応が微弱であった。 以上の結果から、TMAにより感作を行い、血清中の総IgE濃度が4000(ng/ml)を超えた段階で、更にTMAを皮膚に塗布することにより、明瞭な2相性の肥厚反応及び顕著な細胞浸潤を呈するアトピー性皮膚炎様の皮膚炎を誘発し得ることが明らかとなった。(実施例2:アトピー性皮膚炎動物モデルによる薬効評価)方法 実施例1において作成したアトピー性皮膚炎動物モデルに対する種々の薬剤の薬効を評価した。薬効評価はday17におけるTMAの塗布から1及び8時間後の右耳の厚みを指標として行った。肥厚反応の程度は、それぞれの時間における耳の厚みの測定値と、TMA塗布前の値との差として表し、溶媒対照群のそれと比較して抑制率を算出した。 薬剤はTMA誘発30分前及び4時間後の2回投与した。薬剤は原則としてDMSOに溶解させた後、0.5重量%メチルセルロース溶液にて希釈して、所望の濃度に調製した。いずれの溶液もDMSOの最終濃度が2.5重量%となるように調製した。薬剤は0.5ml/匹ずつ経口投与した。結果 プレドニゾロン 及びサイクロスポリンAは、遅発相のみを有意に抑制し、即時相はほとんど抑制しなかった。一方、感作時から投与したレフルノミド(抗リウマチ剤、IgE産生阻害剤)、エピナスチン(抗ヒスタミン剤)、セチリジン(抗ヒスタミン剤)及びケトチフェン(抗ヒスタミン剤)は、即時相のみを有意に抑制し、遅発相はほとんど抑制しなかった。N,L−Arg(NOS阻害剤)は、即時相及び遅発相の両方を有意に抑制した。また、トラニラスト(抗アレルギー剤)、Y−24180(抗PAF剤)、LY−223982(抗LTB4剤)及びオキサトミド(抗ヒスタミン剤)は、即時相はわずかに抑制したが、遅発相はほとんど抑制しなかった(表1)。 以上の結果より、本発明のモデルを用いることにより、アトピー皮膚炎の治療薬をスクリーニングし得ること、並びに 即時相及び遅発相への薬剤の効果をそれぞれ見極め得ることが示された。(比較例1:DNFBリピートモデルの作成)方法 剃毛したマウスの腹部に0.2又は0.5重量%の濃度のDNFBを塗布して、感作を行った後、マウスの右耳に1週間に1回の頻度で0.2又は0.5重量%の濃度のDNFBを塗布することにより感作マウスを作成した。試験開始から42日後に、同様にDNFBを塗布した後の耳の厚みの経時変化を観察した。また、血清中の総IgE濃度を測定した。結果 DNFBを塗布してから8時間後に、DNFBの塗布量に関わらず、右及び左耳が顕著に肥厚した(図5)。右耳においては、即時性の反応が明確には認められなかった。血清中の総IgE濃度は、DNFBの塗布量に関わらず、4000(ng/ml)を下回っており、実施例1のTMAモデルと比較して低かった(図6)。(比較例2:TMA以外のハプテンを用いたモデルの比較) BALB/C雄性マウスの腹部を悌毛し、それぞれ、以下に示す濃度のハプテン溶液を塗布して感作した。その5日後に同様の操作を繰り返し、さらにその5日後から3日間、右耳介に以下に示す濃度のハプテン溶液を塗布して、繰り返し局所感作を行った。最終局所感作の5日後に採血を行い、血清中の総IgE値を先に示したのと同様の方法にて測定した。ハプテンによって濃度がそれぞれ異なっているのは、皮膚炎を誘発するのに最適な濃度を選択したことによる。 腹部の感作: TMA:10重量%溶液(アセトン:オリーブ油=4:1)、100μL オキサゾロン:1.0重量%(アセトン:オリーブ油=4:1)、100μL DNFB:0.5重量%溶液(アセトン:オリーブ油=4:1)、100μL 塩化ピクリル:7重量%溶液(エタノール)100μL 右耳介の局所感作: TMA:10重量%溶液(アセトン:オリーブ油=4:1)、25μL オキサゾロン:0.3重量%(アセトン:オリーブ油=4:1)、25μL DNFB:0.2重量%溶液(アセトン:オリーブ油=4:1)、25μL 塩化ピクリル:1重量%溶液(エタノール)25μL 結果を表2に示す。血清中の総IgE濃度は、TMA以外のハプテンを用いた場合にはいずれも4000(ng/ml)を下回っていた。 本発明により、(1)2相性の反応、(2)皮膚炎症部位への細胞浸潤、及び(3)血清IgE濃度の上昇の3つの特徴を明確に有する、優れたアトピー性皮膚炎動物モデルが提供される。該モデルは、作成に要する日数が短く、1日以内に薬効を評価することが可能であるので、薬物スクリーニングに要する時間的コストを節約することが出来る。また、一方の耳にのみ感作することにより、同一個体の左右の耳において、性質の異なる(即時相、遅発相、遅延型アレルギー相)アレルギー反応を同時に評価することが可能である。TMA感作による血清中総IgE濃度の上昇を示す。Day10におけるTMAチャレンジ後の右耳の腫れの経時的変化を示す。Day17におけるTMAチャレンジ後の耳の腫れの経時的変化を示す。白丸は右耳を、黒丸は左耳を示す。右耳の組織像を示す。DNFBチャレンジ後の耳の腫れの経時的変化を示す。白丸は右耳を、黒丸は左耳を示す。DNFB又はTMAチャレンジ後の血清中総IgE濃度を示す。 無水トリメリト酸により感作され、且つ血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上である非ヒト哺乳動物。 無水トリメリト酸の皮膚への塗布により皮膚炎を発症している、請求項1記載の哺乳動物。 アトピー性皮膚炎モデル動物である、請求項2記載の哺乳動物。 無水トリメリト酸により感作され、血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上であり、且つ無水トリメリト酸の皮膚への塗布により皮膚炎を発症している非ヒト哺乳動物のアトピー性皮膚炎モデル動物としての使用。 無水トリメリト酸により感作され、且つ血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上である非ヒト哺乳動物の皮膚に無水トリメリト酸を塗布することにより該塗布部位に皮膚炎を誘導することを含む、アトピー性皮膚炎モデル動物の製造方法。 感作及び皮膚炎の誘導が同一の部位へ施される、請求項5記載の方法。 該部位が耳である、請求項6記載の方法。 以下の工程を含む、アトピー性皮膚炎を予防又は治療し得る物質のスクリーニング方法:(I)無水トリメリト酸により感作され、且つ血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上である非ヒト哺乳動物の皮膚に無水トリメリト酸を塗布することにより該塗布部位に皮膚炎を誘導すること;(II)前記塗布の前又は後に被検物質を該哺乳動物に投与すること;及び(III)該哺乳動物に生じた皮膚炎を抑制した被検物質を、アトピー性皮膚炎を予防又は治療し得る化合物として選択すること。 【課題】アトピー性皮膚炎の病態、特に、(1)2相性の反応、(2)皮膚炎症部位への細胞浸潤、及び(3)血清IgE濃度の上昇の3つの特徴を明確に有し、且つ短期間で樹立可能な新たなアトピー性疾患モデルを提供すること。【解決手段】無水トリメリト酸により感作され、血清中総IgE濃度が4000ng/ml以上であり、且つ無水トリメリト酸の皮膚への塗布により皮膚炎を発症している非ヒト哺乳動物のアトピー性皮膚炎モデル動物としての使用。【選択図】なし


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