生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_油脂の品質安定性評価法
出願番号:2007222235
年次:2009
IPC分類:G01N 31/00,G01N 33/03,G01N 21/77,G01N 21/78


特許情報キャッシュ

古賀 邦正 今村 脩 犬飼 忠彦 JP 2009053139 公開特許公報(A) 20090312 2007222235 20070829 油脂の品質安定性評価法 学校法人東海大学 000125369 鈴木 俊一郎 100081994 牧村 浩次 100103218 八本 佳子 100115392 古賀 邦正 今村 脩 犬飼 忠彦 G01N 31/00 20060101AFI20090213BHJP G01N 33/03 20060101ALI20090213BHJP G01N 21/77 20060101ALI20090213BHJP G01N 21/78 20060101ALI20090213BHJP JPG01N31/00 YG01N33/03G01N21/77 BG01N21/78 Z 8 OL 15 2G042 2G054 2G042AA05 2G042CA08 2G042CB03 2G042DA03 2G042DA05 2G042FA13 2G042GA01 2G054AA02 2G054BB13 2G054CA30 2G054EA06 本発明は、油脂の品質安定性の新規な評価方法およびその方法のためのキットに関する。 近年、過酸化脂質による健康被害の問題が注目されるに伴い、油脂の品質劣化を防ぐための種々の研究がなされている。特に、過酸化脂質生成に対して抑制効果のある素材を油脂に添加する方法は広く注目されている。また、使用に供する油脂が、予めどの程度酸化されやすいかを把握することも重要である。 通常、油脂の酸化しやすさを評価する方法としては、油脂を加熱酸化処理する前後に、油脂の酸化度を測定して比較する方法が用いられる。また、添加した抗酸化剤の効果を評価するには、油脂の加熱酸化の際に、評価試料を添加した場合としない場合を比較する方法が用いられる。 油脂の酸化度の測定については、実験書(非特許文献1)に詳細に記述されている。それによれば、(1)ヨウ素滴定法(同書、P.16〜.18)、比色定量法(同書、P.18)によって過酸化物価(POV)を求める方法、(2)重量測定(同書、P.19)、Warburgの検圧装置(同書、P.19)、ガスクロマトグラフィー(同書、P.19〜.21)あるいは溶存酸素計(同書、P.21〜.22)によって酸素吸収量を求める方法、(3)カルボニル価(同書、P.22〜.24)、アルデヒド含量(同書、P.24〜.27)あるいは酸価(同書、P.27〜.28)の測定によって酸化分解物の定量、また、(4)その他の方法として、共役ジエン含量の測定(同書、P.28)、チオバルビツール酸法(同書、P.28)、食品からの油脂の抽出法(同書、P.28〜.29)がある。また、さらには、化学発光法(同書、P31-40)、蛍光測定(同書、P.41〜.48)、HPLC、GC,GC-MSなどを用いた脂質ヒドロペルオキシドの分析評価法がある。 一般的には、油脂の加熱酸化に対する安定性の評価には、97.8℃劣化時の過酸化物価(POV)が100に達するまでの時間(AOM試験)や、120℃劣化時に生成する揮発性分解物を水中に捕集し水の電気伝導度が急激に変化する時間(CDM試験)が用いられている。これらの評価には、簡便さを求めて専用機器などが開発されているにも拘わらず、酸化安定性の評価に非常に時間を要する。例えば、AOM試験の場合、大豆食用油脂の酸化に1日、ゴマ油脂の場合だと7〜10日も要する。また、CDM試験でも、ゴマ油脂の酸化に120℃加熱で17時間を要する。また、脂質の酸化に伴って初期の極微弱発光が生じることから、発光量変化によって評価する方法も報告されているが、その場合も120℃加熱で4時間を要する(非特許文献2)。また、抗酸化物の評価にOSI法(Oil Stability Index Method)が用いられる。この場合、強制的な通気環境下で90℃、30分間酸化する方法が一般的に用いられている(非特許文献3)。 油脂の加熱酸化に対する安定性や抗酸化物の評価には、AOM試験やCDM試験以外の油脂酸化度測定法によって、油脂の加熱酸化の前後について比較・評価し、油脂の安定性を評価する方法もある。酸化物の評価法は、前述のとおり、過酸化物価(POV)法、カルボニル(COV)法、チオバルビツール(TBA)法、蛍光測定法、化学発光法などがある。TBA法で加熱酸化前後の油脂の酸化度を比較する場合、TBAが反応可能な油脂酸化物は限られており、いったん生成した油脂酸化物の酸化分解がさらに進行してしまうとTBAとは反応しなくなり、このために測定感度が低下してしまうという問題があった。その他の方法も、同様に、感度的に問題があるため、あるいは、油脂酸化が相当進んだステップの生成物を指標にして評価しているために、油脂を高温で長時間酸化させた後、評価する必要があった。油脂の加熱・酸化条件は、加熱温度100℃以上、加熱時間1時間以上が一般的であった。 また、簡便な抗酸化評価法として蛍光を測定する方法の報告もあるが、この場合も高価な蛍光分光高度計が必要であり、また、脂質過酸化反応をおこすのに80℃・1時間を要している(非特許文献4,5)。 このような条件で評価を行う場合、長期の時間を要することはもちろん、高温のため安全の面からも問題であり、簡便、迅速かつ安全な評価方法が求められている。五十嵐脩・島崎弘幸.生物化学実験法34 「過酸化脂質・フリーラジカル実験法」,pp.15-80,学会出版センター,(1997)2刷日本食品工学会誌、50(7),303-309(2003)Nakanishi, N.ら, J. Am. Oil. Chem. Soc. 78, 19-23 (2001)古田 収ら、「簡易迅速な抗酸化能試験法の開発とカラフル野菜への応用」、九州農業研究、58、31(1996)Furuta, O.ら, Fluorometric assay for screening antioxidative activity of vegetable., J. Food Sci., 62(3), 526-528(1997) このような背景を考えると、油脂の易酸化性または油脂に対する抗酸化物の活性を迅速かつ簡易に評価できれば、油脂の酸化抑制に関する技術開発がさらに進展することが期待される。そこで本発明者らは、油脂を加熱酸化する際、初期の油脂酸化物と反応する試薬を予め共存させておき、酸化物を加熱酸化中に順次反応試薬と反応させることによって安定にトラップすることができれば、迅速に油脂の酸化が評価可能であると考え、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下に記載した事項により特定される。 本発明による油脂の品質安定性の評価方法は、評価する油脂試料に、予め油脂酸化物と反応する反応試薬を添加して加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴としている。 前記反応試薬とともに油脂の加熱酸化促進剤を添加することが望ましい。 前記反応試薬が好ましくはチオバルビツール酸(TBA)試薬である。 前記の油脂の加熱酸化促進剤が好ましくはFeCl3である。 加熱温度は100℃未満であることが望ましい。 本発明のキットは、少なくとも、油脂酸化物と反応する反応試薬および油脂の加熱酸化促進剤を含み、 評価する油脂試料に、予め該反応試薬および加熱酸化促進剤を添加して加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴とする油脂の品質安定性の評価方法を実施するためのキットである。 少なくとも、油脂酸化物と反応する反応試薬であるチオバルビツール酸(TBA)試薬および油脂の加熱酸化促進剤を含み、 評価する油脂試料に、予め該反応試薬および加熱酸化促進剤を添加して、100℃未満で加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴とする油脂の品質安定性の評価方法を実施するためのキットが好ましい。その油脂の加熱酸化促進剤が好ましくはFeCl3である。 従来法による試験では、加熱酸化を所定時間行った後に油脂酸化物反応試薬を添加して生成酸化物との反応を行わせて油脂の酸化を測定するために反応時間が余分にかかっていた。 また、従来の方法では、多くの場合、加熱温度が100℃以上であり、その際には油浴であり、100℃以下の水槽での加熱に比べて溶媒コストが高く、しかも溶媒の廃棄、恒温槽の洗浄などの煩雑さが格段に増すという問題があった。また、終夜で100℃以上の加熱を行うのは大変危険であり、徹夜で監視するか、あるいは専門測定装置の導入をするかというのが一般的な考え方であった。 上記構成を有する本発明方法は、油脂の加熱酸化の進行と酸化物と反応試薬との反応を並行して起きるようにすることにより、全工程の簡略化と迅速化、しかも低温化を図ることができ、かつ、従来の公定法とほぼ同等の結果を得ることができる。 本発明方法である油脂の品質安定性の評価方法は、油脂の易酸化性または油脂に対する抗酸化物の活性を迅速かつ簡易に評価できる。 さらに本発明方法は、油脂の過酸化を抑制する物質の探索と評価法、あるいは油脂の過酸化を促進する物質の探索と評価法としても適している。とくに、過酸化脂質が健康に及ぼす影響が明らかになるにつれ、効果的な天然の抗酸化物質への需要は益々高まっており、それを効率的に探索できる本発明の意義はきわめて高い。 そうした評価方法を行うための本発明のキットを使用することによって、簡便・迅速・安全に油脂に対する酸化促進効果を評価できる。[発明の詳細な説明]・油脂品質安定性評価法 本発明方法である油脂の品質安定性の評価方法は、評価する油脂試料に、予め油脂酸化物と反応する反応試薬を添加して加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴としている。 上記の「反応物」は、油脂酸化物とこれと反応する反応試薬(油脂酸化物反応試薬)とが反応して生成した物質である。 「油脂の品質安定性」は、油脂が酸化されやすく、酸化によりその品質が劣化することが多いことから油脂の易酸化性が主となる。 「油脂の品質安定性の評価方法」とは、油脂の品質に関わる油脂酸化を、油脂の易酸化性から調べ、油脂の品質安定性の観点より評価する方法のことをいう。易酸化性は、油脂の加熱酸化に伴って生じる酸化物量を測定し、その多少に基づいて評価される。 油脂の易酸化性を調べるために評価する油脂試料を加熱酸化する際、初期の油脂酸化物と反応する試薬を予め共存させておき、酸化物を加熱酸化の間に順次、反応試薬と反応させる。かかる反応によって安定に酸化物をトラップすることができれば、迅速に油脂の酸化を評価することができる。従来法の試験では、加熱酸化を所定時間行った後に油脂酸化物反応試薬を添加して油脂の酸化を測定していた。油脂の酸化様式は、脂肪酸の種類および条件にも影響され、複雑なプロセスと多数の酸化生成物を生じる。このため油脂の酸化が相当進んだ段階の生成物を指標にして評価するよりも、酸化初期の酸化物を対象とする方が、感度、精度の点からも望ましい。また加熱酸化時間の短縮という利点もある。 油脂酸化物反応試薬の添加量、反応pH(酸性条件)、反応物の測定法などは、特に限定されるものではないが、油脂の酸化反応の進展と、生じるその酸化生成物と油脂酸化物反応試薬との間の反応が良好に進行する条件とすることが望ましい。そうした条件の設定には、従来の方法に使用されている条件などを参考にしてもよい。 共存させる、油脂酸化物と反応する反応試薬(油脂酸化物反応試薬)として、特に限定されず種々の「油脂酸化物反応試薬」を用いることができる。例えば、ヨウ化ナトリウム、フェニルヒドラジン、チオバルビツール酸、蛍光物質生成アミノ酸などが挙げられる。蛍光物質生成アミノ酸として、リジン(ε-アミノ基)、チロシンはじめ各種アミノ酸が例示される。他にも過酸化脂質と反応して蛍光物質をつくるものとして、一級アミノ基を持つホスファチジルエタノールアミン、核酸塩基なども含まれる。なかでも、脂質試験法の「チオバルビツール酸価」として知られているチオバルビツール酸(TBA)が、本発明の反応試薬に特に適している。その理由は、(i)油脂の初期酸化物と反応すること、(ii)その結果、赤色反応物を生成するので比色定量ができ、測定が簡便であること、(iii)副反応が少なく、また反応生成物が比較的安定であること、(iv)感度が非常に高く、微量な酸化の評価にも適することなどである。 本発明の方法における加熱酸化の温度は、共存させる油脂酸化物反応試薬によって異なるが、一般には、25〜200℃の範囲、好ましくは、40〜150℃、より好ましくは100℃未満である。TBA試薬共存下の場合には100℃未満でよく、特に55〜65℃が好ましい。200℃より高いと、高温のために過酸化物量が増加し、反応生成物もしくは反応試薬が不安定になるか、副反応が生じる可能性がある。逆に25℃より低い温度では、反応時間の短縮にならない。従来の油脂酸化試験における油脂の加熱酸化条件は、加熱温度100℃以上とされているが、本発明方法においては100℃未満の加熱温度でも可能であり、加熱酸化促進剤を添加することが望ましい。このような比較的低温の加熱下でも、従来技術における100℃以上の加熱酸化と同様の効果が効率的に得られる。加熱時間は、15〜360分間、好ましくは30〜240分間である。 TBA試薬共存下の油脂品質安定性評価法にあっては、加熱時間を長めにとるか、加熱酸化促進剤を添加することにより、55〜65℃、特に60℃前後の温度でも適切に実施できる(実施例1、表2参照)。加熱時間は、通常15〜240分間、好ましくは30〜180分間である。 「評価する油脂試料」としては、油脂の種類を問わないが、液状の油、固体の脂肪などが挙げられる。また「評価する油脂試料」は、油脂そのもののほかに、油脂酸化を測定、評価する対象となる油脂含有組成物、例えば食品、飼料(例えば各種ペットフード、観賞魚もしくは養殖魚の餌)、医薬品、医薬部外品、化粧品なども該当する。 食品としては、食用油(菜種油、シソ油、大豆油、硬化大豆油、キャノーラ油、硬化キャノーラ油、オリーブ油、高オレイン酸紅花油、高オレイン酸ヒマワリ油、月見草油、コーン油、綿実油、ゴマ油、サフラワー油などの植物油)、動物脂(魚油、乳脂、ラードなど)のほか、各種の油脂含有食品、特に油脂含有加工食品に含有される脂質も該当する。油脂含有加工食品には、バター、マーガリン、スプレッド、コーヒークリーム、ホイップクリームの他に、揚げ玉などのフライ食品、煎餅・おかきなどの米菓、バターピーナッツなどの豆類、スナックフーズ類、LL麺類などのように製品をかけ油またはどぶづけといった油脂で何らかの処理を施した食品が含まれる。食品からの脂質の抽出は、Folchらの方法などの常法に従う。 なお、含まれる油脂が多様で劣化機構も複雑な油脂含有食品中の脂質は、いずれの酸価評価手法でも単独で劣化を的確に評価できない。油脂酸化物反応試薬としてTBAを使用する場合には、夾雑物の影響や、油脂の種類による変動を受けるために食用油を含む油脂全般(食品から抽出された油脂も含む)が最も好ましい評価の対象となる。 油脂試料と油脂酸化物反応試薬とを共存させて加熱する場合、加熱酸化を促進するために、油脂の「加熱酸化促進剤」を添加してもよい。これにより酸化反応生成物の形成が早まるため、加熱酸化に要する時間を短縮すること、および/または加熱温度を低くすることが可能となる。加熱酸化促進剤として、有機ヒドロキシペルオキシド(t-BuOOH)、Fe+2、Fe+3(FeCl3)、NaClなどが好ましい。 そうした加熱酸化促進剤の使用量は、通常、0.005〜0.5質量%、好ましくは0.05〜0.2質量%である。油脂の酸化を測定するのにこのように加熱酸化促進剤を添加するのは、短時間で迅速に油脂酸化を行い生成した酸化物をトラップして評価するためである。 評価対象の油脂の溶解剤、希釈剤もしくは分散剤は、好ましくは水、低級アルコールおよびこれらの混合物(含水アルコール)であり、より好ましくは水、エタノールおよびこれらの混合物(含水エタノール)である。なお、含水アルコール、特に含水エタノールを使用する場合の、当該溶液中のアルコール(エタノール)の含有割合としては制限されないが、好ましくは10〜90容量%、好ましくは10〜60容量%、より好ましくは20〜40容量%の範囲を例示することができる。 油脂の品質安定性の評価は、上記の方式による方法で油脂酸化物との反応で生じた反応物を測定し、その生成量から油脂の品質安定性を評価する。この場合、品質安定性は、油脂が酸化されやすいか、されにくいか(すなわち易酸化性)を、例えば脂質酸化度(TBARS)を尺度として表わすことが簡便である。比較のために基準となる油脂を設定して同一条件で測定してそれらの結果を対比させるが、あるいは標準となる条件下で測定して得られた結果、または油脂を加熱酸化処理前および処理後での結果を比較することによって評価してもよい。・キット 本発明のキットは、少なくとも、油脂酸化物と反応する反応試薬および油脂の加熱酸化促進剤を含み、評価する油脂試料に、予め該反応試薬を添加して加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴とする油脂の品質安定性の評価方法を実施するためのキットである。その好ましい加熱酸化促進剤はFeCl3である。 本発明のキットは、上記の評価方法を実施するためのキットである。具体的には、油脂酸化物と反応する反応試薬および油脂の加熱酸化促進剤を必須のキット構成要素とし、さらに検体を溶解するための溶解液、反応試薬、検出試薬を必要に応じて含めてもよい。本発明の方法を実施するために必要とされる各種器材または資材、試薬を含めることもできる。これらの試薬の中には、試料溶解液、希釈液、緩衝液、洗浄液、反応停止剤、(生成物)抽出液なども含まれる。例えば反応系に油脂を分散させて、油脂酸化物反応試薬(TBA試薬など)と良好に混ざるように、SDSなどの界面活性剤を含めてもよい。 さらにキット要素として、検量線作成用の標準物質、説明書さらに多数検体の同時処理ができるマイクロタイタープレートなどの必要な器材一式などを含んでもよい。 本発明のキットの好ましい態様は、次の構成を有する。 少なくとも、油脂酸化物と反応する反応試薬であるチオバルビツール酸(TBA)試薬および油脂の加熱酸化促進剤を含み、 評価する油脂試料に、予め該反応試薬および加熱酸化促進剤を添加して、100℃未満で加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴とする油脂の品質安定性の評価方法を実施するためのキットである。 この場合、好ましい加熱酸化促進剤がFeCl3である。加熱酸化温度として、100℃未満、特に60℃前後の温度の下、しかも短時間で実施できるため、キット化の制約が極めて少なく、また高温を使用しないため安全かつ簡便である。 さらに評価試験を迅速、簡便に行うことができるように、比色定量に代えてTBAテスター試験紙を使用する形態もあり、この場合、TBAテスター試験紙、呈色判定表、判定基準の基準物質(例えばテトラエトキシプロパン)などもキット要素となる。・評価方法の態様 食品の品質保持方法の確立、貯蔵条件の設定において、脂質の酸化変敗が問題となることが多い。このような局面において、通常、油脂の酸化しやすさを評価する目的には、油脂を加熱酸化処理する前後に、油脂の酸化度を測定して比較する方式が採用される。従って、使用に供する、または含有される油脂が、予めどの程度酸化されやすいかを把握する評価のために、評価する油脂試料に、油脂酸化物と反応する反応試薬を予め添加して加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴とする油脂の品質安定性の評価方法という本発明方法を利用することができる。 また、過酸化脂質生成に対して抑制効果のある素材を油脂に添加する場合、添加した公知の抗酸化剤の効果を評価する目的には、油脂の加熱酸化の際に、評価する抗酸化剤を添加した場合としない場合を比較する方式が採用される。公知の抗酸化剤からの選択、好適な抗酸化剤の使用条件の設定、使用態様の選択に関わる試験においても本発明方法を利用することができる。すなわち、添加する抗酸化剤による抗酸化効果を調べるために、本発明方法においてその抗酸化剤もさらに共存させて油脂の品質安定性の評価を行うものである。 そうした抗酸化剤としては、食品添加物として用いられるものを広く例示することができる。例えば、制限はされないが、エリソルビン酸及びその塩などのエリソルビン酸類;亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムまたはピロ亜硫酸カリウムなどの亜硫酸塩類;α−トコフェロールなどのトコフェロール類;ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)など;エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウムなどのエチレンジアミン四酢酸類;没食子酸や没食子酸プロピルなどの没食子酸類;フラボノール類(ルチン、イソクエルシトリン等)などを挙げることができる。 あるいは、本発明方法の別の態様として、未知の抗酸化剤または酸化促進物質の探索方法とその作用の評価方法がある。抗酸化作用(または酸化促進作用)を有すると予想される候補物質の抗酸化能力(または酸化促進能力)を測定し、既存の抗酸化剤(または酸化促進物質)と比較する試験である。すなわち、本発明の別の態様として次の方法がある。 油脂および抗酸化能力(または酸化促進能力)を評価する試料に、その油脂酸化物と反応する反応試薬を予め添加して加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、該反応物量を測定することを特徴とする抗酸化能力(または酸化促進能力)の評価方法である。比較のため、同様の測定を既存の抗酸化剤(または酸化促進物質)について並行して行う。 油脂および抗酸化能力(または酸化促進能力)を評価する試料物質に、その油脂酸化物と反応する反応試薬を予め添加して加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、該反応物量を測定して、その抗酸化能力(または酸化促進能力)を評価することによって選別することを特徴とする、抗酸化剤(または酸化促進物質)のスクリーニング方法である。比較のため、同様の測定を既存の抗酸化剤(または酸化促進物質)について並行して行う。 なお、これらの評価方法、スクリーニング方法において、加熱酸化の方法、条件などは、上記の油脂の品質安定性の評価方法と同様にして実施してもよい。加熱酸化を受ける油脂は適宜選択することができ、例えば入手容易な大豆油が使用される。また上記キットを、これらの方法を実施するために変更を適宜、加えて利用することができる。 酸化を受けた脂質は、通常、環化反応物や分解反応物、重合反応物などの多種多様な生成物へと変化する。脂質の酸化度は、一般にこれら生成物中の特定化合物についての消長を評価するものであり、いずれの評価方法も脂質劣化の全体を把握したものではない。TBA法は酸性条件下で試料をTBAと加熱することで、試料から遊離するTBA反応性物質(TBARS)とTBAとの反応で生じる赤色色素を定量することにより脂質過酸化度を測定するものである。該色素抽出用の混液を加えて撹拌後、遠心分離(例えば3,000rpm×10分)を行い、上層の吸光度を532nmで測定して、過酸化脂質量を求める。 TBA法に使用されるTBAは油脂の初期酸化物と反応することから、油脂の易酸化性を評価するのに好適である。また酸化反応生成物の特定物質と反応することから、油脂中の過酸化脂質を高感度に測定するのに適した方法であると言える。 本発明者らは、高温下での大豆油の酸化における初期酸化物とチオバルビツール酸との赤色反応生成物の挙動を評価している。赤色反応物は、大豆油とTBA試薬との共存下、100℃、15分間保持することによって明確に生成され、以降、保持時間の延長に従って、経時的に増加した。大豆油のみ、あるいはTBA試薬のみを同条件下に保持しても赤色反応物の生成は見られない(下記実施例2)。赤色反応物の測定は、従来から用いられている、水性溶媒・有機溶媒混液(例、酢酸/クロロホルム、水/ブタノール・ピリジン混液など)を添加することによって赤色色素を抽出し、これを比色測定することによる。 また、抗酸化物質であるBHT((butylated hydroxytoluene))やトコフェロールを大豆油に添加して同条件下に保持すると赤色反応物の生成が抑制され、酸化促進物質であるFeCl3を添加すると赤色反応物の生成が促進される。このことから本発明の方法は、油脂の過酸化を抑制する物質の探索もしくは評価の方法、油脂の過酸化を促進する物質の探索もしくは評価の方法としても適していることを確認した(下記実施例参照)。また、若干、生成時間は遅れるが、60℃に保持する条件下でも短時間で赤色反応物の生成が認められる。また保持時間に従って生成量が増加することから、本発明は低温でも油脂の加熱酸化が評価可能な方法であることも確認されている。[実施例] 以下に実施例を記して、さらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限られるものではない。・油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下評価法で、大豆油の加熱(100℃または60℃)酸化に生成する赤色反応物生成の経時変化 予めTBA試薬と共存させて大豆油を加熱酸化した際、自働酸化によってできる油脂酸化物とTBA試薬との反応によって生成する赤色反応物の生成経時変化を、吸光度(532nm)測定によって求めた。 すなわち、大豆油0.1mlに60% エタノール0.1mlを加え、よく混合した。続いて0.2M酢酸塩酸バッファー(pH3.7)1.5mlとTBA溶液(蒸留水100ml中にTBA0.5gとSDS0.3g)1.5mlを加えてよく混合し、60℃にて、0・60・120・180・240分間加熱したのち、冷却した。冷却後、氷酢酸1mlとクロロホルム2mlを加えてよく混合し、15分間・5000rpmで遠心を行い、上澄液の532nmでの吸収を測定した。 結果を表1に示す。 表1.大豆油の自動酸化の際、油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下評価法で生成する赤色反応物の経時変化(加熱温度60℃) 油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下評価法で大豆油を加熱酸化する際に、酸化促進剤としてFeCl3(0.27%, 0.1ml)を添加するとさらに赤色反応物の生成が早まり、また、100℃でも、60℃でも赤色反応物が、短時間に生成し、増加することが示された(表2)。以上の結果から、油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下法を用いれば、加熱温度60℃でも短時間に油脂の酸化を評価することができることがわかった。 表2.100℃または60℃で大豆油を加熱酸化した際、油脂酸化物反応試薬 (TBA試薬)共存下評価法で生成する赤色反応物の経時変化・TBA加熱または大豆油脂加熱に伴う赤色生成反応の有無 以下、3種類の混合液の加熱実験をそれぞれ行い、赤色反応物の生成をみた。1.大豆油とTBAの共存混合液:大豆油0.1ml とTBA溶液1.5ml、0.2M酢酸塩酸バッファー(pH3.7)1.5ml、FeCl3溶液0.1mlを加え、よく混合したもの。2.大豆油溶液:大豆油0.1ml 、60%エタノール水溶液1.5ml, 0.2M酢酸塩酸バッファー(pH3.7)1.5ml、FeCl3溶液0.1mlを加え、よく混合したもの。3.TBA溶液:TBA溶液1.5ml、0.2M酢酸塩酸バッファー(pH3.7)1.5ml、60%エタノール水溶液0.1ml、FeCl3溶液0.1mlを加え、よく混合したもの。 それぞれの混合液を60℃、30分間加熱したのち、氷浴中で冷却した。冷却後、氷酢酸1mlとクロロホルム2mlを加えてよく混合し、15分間・5000rpmで遠心を行い、上澄液の532nmでの吸収を測定した。 結果を表3に示した。この結果から、赤色反応物は、脂質の加熱酸化物とTBA試薬との反応によるものであることを確認した。 表3.TBA加熱、または大豆油の加熱に伴う赤色生成物反応の有無・油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下法で、大豆油の加熱酸化に及ぼす酸 化促進剤(FeCl3)の影響を評価した結果 油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下で、大豆油脂を加熱酸化した際の酸化促進剤(FeCl3)の影響を評価した。すなわち、試験管に大豆油0.1mlを取り、これに60% エタノール0.1mlを加え、よく混合した。続いて0.2M酢酸塩酸バッファー(pH3.7)1.5mlとTBA溶液1.5mlを加え、FeCl3溶液(蒸留水100ml中にFeCl3 270mg)0.1mlを加えた試験管(FeCl3 (+))と加えていない試験管(FeCl3 (-))を作り、よく混合した。60℃にて,0, 15, 30, 60分間加熱したのち、氷浴中で冷却した。冷却後、氷酢酸1mlとクロロホルム2mlを加えてよく混合し、15分間, 5000rpmで遠心を行い、上澄液の532nmでの吸収を測定した。 結果を表4に示す。油脂酸化による赤色反応物の生成が、酸化促進剤(FeCl3)の添加(表中、FeCl3 (+)で表わす)によって促進されている。この結果より、本発明の方法が簡便・迅速・安全に油脂に対する酸化促進効果を評価できることが示された。 表4.TBA試薬共存下で大豆油を加熱酸化した際の 赤色反応物生成に及ぼすFeCl3の影響・油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下法で、大豆油の加熱酸化に及ぼす抗酸化剤(トコフェロール)の影響を評価した結果 油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下で、大豆油脂を加熱酸化した際の抗酸化剤(トコフェロール)の影響を評価した。すなわち、大豆油0.1mlに種々の濃度のトコフェロール溶液(溶媒:エタノール)を加え、よく混合した。続いて0.2M酢酸塩酸バッファー(pH3.7)1.5mlとTBA溶液1.5ml、FeCl3溶液0.1mlを加え、よく混合し、100℃にて15分間加熱したのち、氷浴中で冷却した。冷却後、氷酢酸1mlとクロロホルム2mlを加えてよく混合し、15分間・5000rpmで遠心を行った。上澄液の532nmの吸収を測定した。 結果を表5に示す。油脂酸化による赤色反応物の生成が、トコフェロール添加によって抑制されており、その効果はトコフェロール添加量に従って強くなっている。この結果より、本発明の方法が簡便・迅速・安全に油脂に対する抗酸化効果を評価できることが示された。表5.TBA試薬共存下で大豆油を加熱酸化した際の赤色反応物生成に及ぼすトコフェロールの影響・油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下法で、大豆油の加熱酸化に及ぼす抗酸化剤(BHT)の影響を評価した結果 油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下で、大豆油脂を加熱酸化した際の抗酸化剤(BHT)の影響を評価した。すなわち、大豆油0.1mlに種々の濃度のBHT溶液(溶媒:99.5% エタノール溶液)を加え、よく混合した。続いて0.2M酢酸塩酸バッファー(pH3.7)1.5ml、TBA溶液1.5ml、FeCl3溶液0.1mlを加え、よく混合し、100℃、15分間加熱したのち、氷浴中で冷却した。冷却後、氷酢酸1mlとクロロホルム2mlを加えてよく混合し、15分間、5000rpmで遠心を行い、上澄液の532nmの吸収を測定した。 結果を表6に示す。油脂酸化による赤色反応物の生成が、BHT添加によって抑制されており、その効果はBHT添加量の増加に従って強くなっている。この結果より、本発明の方法が簡便・迅速・安全に油脂に対する抗酸化効果を評価できることが示された。表6.TBA試薬共存下で大豆油を加熱酸化した際の赤色反応物生成に及ぼすBHTの影響 油脂の自動酸化を評価する方法として、本発明の「油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下評価法」と従来の同じ条件で油脂を加熱酸化させて加熱前後の油脂の酸過度をTBA法で測定する方法を比較した。 実験方法を以下に記す。1.本発明:油脂酸化物反応試薬(TBA試薬)共存下評価法 大豆油0.1mlに60% エタノール0.1mlを加え、よく混合した。続いて0.2M酢酸塩酸バッファー(pH3.7)1.5mlとTBA溶液1.5mlを加え、よく混合した。60℃にて、0・60・120・180・240分間加熱したのち、冷却した。冷却後、氷酢酸1mlとクロロホルム2mlを加えてよく混合し、15分間・5000rpmで遠心を行い、上澄液の532nmでの吸収を測定した。2.従来法:油脂酸化前後の酸化度をTBA法にて測定 大豆油0.1mlを、よく撹拌した後、60℃にて0、1,2,3,4時間保持した。その後、BHT溶液(99.5% エタノール100ml中にBHT220mg)0.1mlを加え、よく混合した。続いて0.2M酢酸塩酸バッファー(pH3.7)1.5mlとTBA溶液1.5ml、FeCl3溶液0.1mlを加え、よく混合した。混合液を100℃、15分間加熱したのち、氷浴中で冷却する。冷却後、氷酢酸1mlとクロロホルム2mlを加えてよく混合し、15分間・5000rpmで遠心を行い、上澄液の532nmでの吸収を測定した。 結果を表7に示す。本発明法では、反応試薬が油脂酸化物を順次トラップして反応生成物(赤色)を効率よく生成するために、徐々に532nmの吸光度が増加し、自動酸化でも60℃、4時間の加熱処理で明確に油脂の酸化が捉えられるのに対し、従来法では、まったく捉えることができないことが明らかになった。 表7.大豆油の自動酸化の測定:従来法と本発明方法の比較(加熱温度60℃) 上記の実施例中で用いる使用材料、それらの濃度、使用量、処理時間、処理温度等の数値的条件、処理方法等はこの発明の範囲内の好適例にすぎない。 本発明による方法は、食用油、油脂含有食品などにおける油脂の品質安定性の評価方法として利用される。さらに本発明の方法は、油脂の過酸化を抑制する物質の探索と評価法、あるいは促進する物質の探索と評価法としても利用できる。また、本発明のキットは、本発明方法の実施に使用されるキットである。 評価する油脂試料に、油脂酸化物と反応する反応試薬を予め添加して加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴とする、油脂の品質安定性の評価方法。 前記反応試薬とともに油脂の加熱酸化促進剤を添加する、請求項1に記載の方法。 前記反応試薬がチオバルビツール酸(TBA)試薬である、請求項1または2に記載の方法。 前記の油脂の加熱酸化促進剤がFeCl3である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。 加熱温度が100℃未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。 少なくとも、油脂酸化物と反応する反応試薬および油脂の加熱酸化促進剤を含み、 評価する油脂試料に、予め該反応試薬および加熱酸化促進剤を添加して加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴とする、油脂の品質安定性の評価方法を実施するためのキット。 少なくとも、油脂酸化物と反応する反応試薬であるチオバルビツール酸(TBA)試薬および油脂の加熱酸化促進剤を含み、 評価する油脂試料に、予め該反応試薬および加熱酸化促進剤を添加して、100℃未満で加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴とする、油脂の品質安定性の評価方法を実施するためのキット。 前記の油脂の加熱酸化促進剤がFeCl3である、請求項6または7に記載のキット。 【課題】油脂の品質安定性に関する迅速な評価方法およびその方法のためのキットを提供すること。【解決手段】評価する油脂試料に、予め油脂酸化物と反応する反応試薬を添加して加熱酸化を行い、油脂の加熱酸化に伴って反応物を生成せしめ、これを測定することを特徴とする油脂の品質安定性の評価方法である。その評価方法を実施するためのキットは、少なくとも、油脂酸化物と反応する反応試薬であるチオバルビツール酸(TBA)試薬および油脂の加熱酸化促進剤を含むことを特徴とする。その加熱酸化促進剤はFeCl3であることが望ましい。【選択図】なし


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