タイトル: | 公開特許公報(A)_大気圧MALDI質量分析装置 |
出願番号: | 2007220620 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | H01J 49/10,G01N 27/62 |
出水 秀明 古橋 治 小河 潔 JP 2009054441 公開特許公報(A) 20090312 2007220620 20070828 大気圧MALDI質量分析装置 株式会社島津製作所 000001993 小林 良平 100095670 出水 秀明 古橋 治 小河 潔 H01J 49/10 20060101AFI20090213BHJP G01N 27/62 20060101ALI20090213BHJP JPH01J49/10G01N27/62 Z 7 1 OL 12 2G041 5C038 2G041CA01 2G041DA04 2G041DA18 2G041GA03 2G041GA18 2G041KA01 5C038GG13 5C038GH09 本発明は、大気圧雰囲気又は大気圧に近いガス圧雰囲気の下でマトリックス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI=Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)により試料をイオン化し、発生したイオンを差動排気系を通して高真空雰囲気中まで輸送して質量分析する大気圧MALDI質量分析装置に関する。 MALDIでは、分析目的のアナライト分子よりもレーザ光を吸収し易い性質を持つマトリックス分子を用い、レーザ光照射に対してマトリックス分子をアナライト分子と同時に試料表面から脱離させることにより、レーザ光吸収によるダメージを受けるアナライト分子の割合を減少させることができる。さらに、このイオン化法を大気圧雰囲気の下で行う大気圧MALDI(AP−MALDI)では、アナライトイオンがレーザ光を吸収することでその温度が上昇しても周囲に多量に存在する雰囲気ガス(空気)により速やかに冷却されるため、通常の、つまり真空雰囲気中でのMALDIよりもさらにソフトなイオン化が行えるという特徴がある。 図8は従来の大気圧MALDI質量分析装置の全体構成図である(例えば特許文献1など参照)。この大気圧MALDI質量分析装置では略大気圧雰囲気であるイオン化室1と、質量分析器である四重極質量フィルタ18及びイオン検出器19が設置された分析室17との間に、それぞれ隔壁で隔てられた第1中間真空室10と第2中間真空室14とを備える。イオン化室1と第1中間真空室10との間は細径の加熱キャピラリ8を介して連通しており、第1中間真空室10と第2中間真空室14との間はスキマー12の頂部に形成された極小径の通過孔(オリフィス)13を介して連通している。 イオン源であるイオン化室1の内部はほぼ大気圧雰囲気(約105[Pa])になっており、次段の第1中間真空室10の内部はロータリーポンプ20により約102[Pa]の低真空状態まで真空排気される。さらに、その次段の第2中間真空室14の内部はターボ分子ポンプ21により約10-1〜10-2[Pa]の中真空状態まで真空排気され、最終段の分析室17内は別のターボ分子ポンプ22により約10-3〜10-4[Pa]の高真空状態まで真空排気される。即ち、この装置では、イオン化室1から分析室17に向かって各室毎に真空度を段階的に高くした多段差動排気系の構成とすることによって、最終段の分析室17内を高真空状態に維持するようにしている。 イオン化室1内には、分析対象のアナライトにマトリックスが混合されて調製された試料3が塗布された金属製のサンプルプレート2が配置されている。レーザ光源4からパルス状に出射されたレーザ光7が反射鏡5、集光レンズ6を通して試料3に照射されると、試料3中のマトリックスは急速に加熱され、目的とするアナライトを伴って気化する。この際にアナライトはイオン化される。イオン化室1と第1中間真空室10との差圧により、加熱キャピラリ8を通してイオン化室1内の空気は第1中間真空室10に流れ込むから、上述のようにイオン化室1内で生成されたイオンもこの空気流に乗って加熱キャピラリ8中に引き込まれ、第1中間真空室10内に吐き出される。 第1中間真空室10内には第1イオンレンズ11が設けられており、第1イオンレンズ11により発生する電場は加熱キャピラリ8を介してのイオンの引き込みを助けるとともに、イオンをスキマー12のオリフィス13近傍に収束させる作用を有する。オリフィス13を通過して第2中間真空室14に導入されたイオンは、八本の円柱形状のロッド電極により構成されるオクタポール型の第2イオンレンズ15により収束され、隔壁16に穿設された開口を通して分析室17へと送られる。 分析室17内では、特定の質量(厳密には質量電荷比m/z)を有するイオンのみが四重極質量フィルタ18の長軸方向の空間を通り抜け、それ以外の質量を持つイオンは途中で発散する。即ち、質量に依るイオンの選別が行われる。そして、四重極質量フィルタ18を通り抜け得たイオンはイオン検出器19に到達し、イオン検出器19では到達したイオン量に応じたイオン強度信号を検出信号として出力する。通常、四重極質量フィルタ18には直流電圧に高周波電圧を重畳した電圧が印加されるが、その電圧値を変化させることで四重極質量フィルタ18を通過して来るイオンの質量を走査することができる。そこで、その電圧を走査することで質量を所定範囲で走査し、その際にイオン検出器19で得られる検出信号に対し所定のデータ処理を行うことで、所定の質量範囲のマススペクトルを作成することができる。特開2006−190526号公報 MALDIでは、試料がアブレージョン(剥削)されるのに必要なレーザ光強度よりも、アブレージョンと同時又はそれに引き続きイオン化が行われるのに必要とされるレーザ光強度のほうが大きい。特に大気圧MALDIでは、アブレージョンにより試料表面から放出されたクラスタの中からアナライトが脱離するよりも前に、クラスタが周囲の空気に触れて冷却される、という現象が起き易い。なお、ここで言う「クラスタ」とは、レーザ光の照射によって試料から放出される様々な分子の集合体の総称であり、例えば、マトリックス分子のみの1乃至複数の集合体、マトリックス分子の1乃至複数の塊に1乃至複数のアナライト分子が含まれた集合体、などを含む。多くの場合、アナライト分子を含むクラスタが試料から放出され、引き続いてアナライト分子がクラスタから脱離してその過程で電子の授受が行われてアナライトイオンとなる。 上記理由により、レーザ光強度が不十分であると、イオンの多くが単独のアナライトイオンではなくアナライトにマトリックスが付加した状態のままのクラスタイオンとなる傾向にある。その結果、本来の分析対象であるアナライトイオンの量が少なく、該イオンについての十分なスペクトル強度を得られないことがある。アナライトイオンの強度を大きくするには、試料に照射するレーザ光の強度を増加させればよいが、そうするとアブレージョンにより失われる(剥削される)試料の量が増加する。そのため、微量試料の分析は困難になる。また、試料に照射するレーザ光の強度を増加させるとアブレージョンの発生範囲も広がってしまうため、できるだけ狭い面積の質量分析を行いたいという要求の微小領域の分析には不利である。 本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、分析目的であるアナライトのレーザ光照射によるダメージを抑制しつつ、また試料の消費量をできるだけ抑えつつ、アナライトイオンの強度を高くすることで高感度、高精度の分析が行える大気圧MALDI質量分析装置を提供することにある。 上記課題を解決するために成された第1発明は、大気圧雰囲気の下でマトリックス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)により試料をイオン化するイオン化部と、高真空雰囲気の下でイオンを質量に応じて分離して検出する質量分析器を内装する分析室との間に、それぞれ小面積の開口部を介して連通する1乃至複数の中間真空室を配設した差動排気系の大気圧MALDI質量分析装置において、 前記イオン化部でレーザ光の照射により試料から放出された各種分子を含むクラスタの分解を促進するべく該クラスタにエネルギーを付与するクラスタ分解促進手段を備えることを特徴としている。 ここで言う「クラスタ」とは、試料に含まれる各種分子、つまり分析対象のアナライト分子、マトリックス分子、或いはそれらのイオンなどが複数集まった集合体のことである。 第1発明に係る大気圧MALDI質量分析装置の一態様として、前記クラスタ分解促進手段は、前記イオン化部から次の中間真空室へとイオンを送るイオン導入口と前記試料との間の空間にレーザ光を照射するレーザ照射手段である構成とすることができる。 上記構成では、レーザ照射手段は試料にレーザ光を照射するMAIDI用のレーザ照射手段とは別に設けられているが、例えば、前記クラスタ分解促進手段が、イオン化のために前記試料に照射するレーザ光を生成するレーザ生起手段にあってレーザ発振を行うためのレーザ共振器であり、前記イオン化部から次の中間真空室へとイオンを送るイオン導入口と前記試料との間の空間に前記レーザ共振器中の光路を配設するようにした構成とすることで、レーザ照射手段を兼用することも可能である。 また第1発明に係る大気圧MALDI質量分析装置の別の態様として、前記クラスタ分解促進手段は、超音波による振動エネルギーを前記クラスタに付与する超音波発生手段である構成としてもよい。 また第1発明に係る大気圧MALDI質量分析装置の別の態様として、前記クラスタ分解促進手段は、放電によるエネルギーを前記クラスタに付与する放電手段である構成としてもよい。 また第1発明に係る大気圧MALDI質量分析装置の別の態様として、前記クラスタ分解促進手段は、電子励起状態にあるガス流の衝突によるエネルギーを前記クラスタに付与する励起ガス供給手段である構成としてもよい。 また上記課題を解決するために成された第2発明は、大気圧雰囲気の下でマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)により目的試料をイオン化するイオン化部と、高真空雰囲気の下でイオンを質量に応じて分離して検出する質量分析器を内装する分析室との間に、それぞれ小面積の開口部を介して連通する1乃至複数の中間真空室を配設した差動排気系の大気圧MALDI質量分析装置において、 前記イオン化部でレーザ光の照射により試料から放出された各種分子を含むクラスタに対しガス流を吹き付けるガス供給手段を備えることを特徴としている。 第1発明に係る大気圧MALDI質量分析装置では、レーザ光が試料に照射されることによって該試料から放出されたクラスタに対し、レーザ光、放電、振動、励起ガス流などのいずれかの方法でエネルギーを付与することによりクラスタの分解を促進させる。クラスタがアナライト分子を含んでいる場合、クラスタが分離すると、アナライト分子が単離して電子の授受によりイオン化が促進される。また、クラスタがマトリックス付加クラスタイオンである場合には、クラスタの分解によりアナライトイオンが単離する。 このように第1発明に係る大気圧MALDI質量分析装置によれば、イオン化部において従来よりもアナライトイオンの生成量自体が増加するので、質量分析に供されるアナライトイオンの量も多くなる。また、反対に、ノイズとなり得るクラスタイオン(アナライトイオンの質量に1乃至複数のマトリックス分子の質量が加算された質量を持つイオン)の量は減少する。その結果、マススペクトルにおいてアナライトイオンの強度が高く、ノノイズ成分は低くなるので、高感度、高精度の分析を行うことができる。 また、試料に直接的に照射するレーザ光の強度はそれほど高くする必要がないので、アナライト分子が受けるダメージを少なくすることができる。また、1回のパルス状のレーザ光の照射に応じてアブレージョンされる試料の量が少なくて済むので、ごく微量の試料についてもレーザ光照射を繰り返すことで分析精度や再現性を向上させることができる。また、レーザ光強度が低いと試料上でアブレージョンされる範囲も狭くなるので、特に微小面積の領域の質量分析に好適である。 一方、第2発明に係る大気圧MALDI質量分析装置では、試料から放出されたクラスタに対しガス供給手段によりガス流が吹き付けるため、大きなサイズのクラスタはガス流の影響を強く受けて、イオン化部から次の中間真空室へとイオンを送るイオン導入口の入口へと到達しにくい。これに対し、サイズの小さなアナライトイオンはガス流の影響を受けにくく、イオン導入口の入口へと到達し易い。そのため、イオン化部でのアナライトイオンの生成効率は従来と同じであったとしても、ノイズ成分となり得るクラスタイオンをイオン化部で排除することにより、質量分析に供されアナライトイオンの割合は相対的に多くなる。その結果、マススペクトルにおいてアナライトイオンに対応したスペクトルの相対強度は高くなり、高感度、高精度の分析を行うことができる。 [第1実施例] 本発明の第1実施例である大気圧MALDI質量分析装置について、図1、図2を参照しつつ説明する。図1は本実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図であり、図8と同じ構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。また図2は本実施例の大気圧MALDI質量分析装置におけるイオン化の状態を説明するための模式図である。 第1実施例の大気圧MALDI質量分析装置では、特徴的な構成として、略大気圧雰囲気であるイオン化室1内にあって、試料3と加熱キャピラリ(本発明におけるイオン導入口に相当)8の入口との間の空間中にレーザ光を照射するために、レーザ光源4等を含むレーザ照射部とは別に、レーザ光33を出射するレーザ光源30と、該レーザ光33を反射する反射鏡31と、該反射鏡31で反射されたレーザ光33を集光する集光レンズ32と、から成る第2のレーザ照射部が設けられている。レーザ光源30ではレーザ光源4とともに、制御部34により、そのレーザ光の照射のタイミングやレーザ光強度などが制御される。 第1実施例の大気圧MALDI質量分析装置の特徴的な動作を説明する。制御部34からの指令に応じてレーザ光源4からパルス状に出射されたレーザ光7が反射鏡5、集光レンズ6を通して試料3に照射されると(図2(a)参照)、試料3はレーザ光7のエネルギーを吸収して急速に温度が上昇し、アブレージョンされて様々なクラスタが放出される(図2(b)参照)。上述のようにクラスタには、アナライト分子を含むマトリックス分子の集合体であるクラスタ102やアナライト分子を含まないマトリックス分子のみの集合体であるクラスタ103などが含まれる。もちろん、クラスタ以外に、単独のアナライトイオン、或いはマトリックス分子なども試料3から放出される。 真空雰囲気中であれば、レーザ光7の照射で受けた熱エネルギーにより、試料3から飛び出したクラスタからアナライトが脱離してアナライトイオンが生成されるが、大気圧MALDIでは、クラスタは周囲の空気により冷却されるので、そのままではアナライトが脱離しにくい。これに対し本実施例の大気圧MALDI質量分析装置では、制御部34の制御の下にレーザ光源30から出射されたレーザ光33が、反射鏡31、集光レンズ32を通して、上記のように試料3から放出されたクラスタに照射される(図2(c)参照)。アナライトを含むクラスタ102はレーザ光33によるエネルギーを吸収し、それによって分解が促進され、それに伴ってアナライトイオンが発生する。そうして発生したアナライトイオンは、イオン化室1と第1中間真空室10との差圧により生じる空気流に乗って加熱キャピラリ8に吸い込まれ、第1中間真空室10内に輸送される。 上述のように本実施例の大気圧MALDI質量分析装置によれば、試料3から飛び出したクラスタへのレーザ光33の照射によりアナライトイオンの発生が促進されるため、質量分析に供するアナライトイオンの絶対量を増やし、マススペクトルにおけるアナライトイオンの強度を上げることができる。また、クラスタの分解が進むことでクラスタイオンの割合は減少するので、相対的にもアナライトイオンの強度は上がることになる。また、試料3から離れた位置でクラスタに照射するレーザ光33の作用によりアナライトイオンの生成効率を上げることができるので、試料3に照射するレーザ光7の強度を抑えることもできる。そのため、試料3のアブレージョンを抑えることができ、微量試料の分析でも多数回の繰り返し分析を行うことができる。また、レーザ光7の強度が低いと試料3上のアブレージョンの範囲も狭くなるので、特に微小領域の質量分析に好適である。 なお、一般にアナライト分子とマトリックス分子とでは吸収し易いレーザ波長が相違するから、クラスタに照射するレーザ光33の波長としてマトリックス分子が吸収し易い波長を選ぶことにより、アナライト分子へのエネルギー付与を抑えて効果的にクラスタの分解を促進することができる。 [第2実施例] 次に本発明の第2実施例である大気圧MALDI質量分析装置について、図3を参照しつつ説明する。図3は第2実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図であり、図1、図8と同じ構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。 この第2実施例による大気圧MALDI質量分析装置では、上記第1実施例と同様にクラスタにレーザ光を当ててクラスタの分解を促すが、そのためのレーザ照射部を別に設けるのではなく、MALDI用のレーザ光源4を利用してクラスタの分解も促進している。即ち、レーザ光源4は、発光部40と対向配置された反射鏡41、42から成るレーザ共振器とを含むが、試料3から放出されたクラスタが到達する位置、つまりは試料3の表面近傍にレーザ共振器が配置されている。発光部40から出射された光はレーザ共振器で往復反射されるが、その際に一部はクラスタに当たって該クラスタにエネルギーを与える。それにより、クラスタの分解が促進されてアナライトイオンが発生する。 [第3実施例] 次に本発明の第3実施例である大気圧MALDI質量分析装置について、図4を参照しつつ説明する。図4は第3実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図であり、図1、図8と同じ構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。 この第3実施例による大気圧MALDI質量分析装置では、上記第1、第2実施例におけるレーザ光に代えて、励起ガスをクラスタに吹き付けることで該クラスタにエネルギーを付与して分解を促進させる。ここで言う励起ガスとは、ペニングイオン化などに利用されるものであり、電子励起状態にあるヘリウム、アルゴン、ネオンなどの不活性ガスが用いられる。 即ち、制御部52の制御の下に、励起ガス供給部50は例えばコロナ放電などにより電子励起状態(準安定励起状態)にあるヘリウムガスを生成する。この励起ガスはガス供給管51を通して搬送され、イオン化室1内において試料3から放出されたクラスタが多く存在する領域に吐き出される。このため、クラスタは励起ガスとの衝突によりエネルギーを付与され、分解が促進される。これに伴い、クラスタに含まれるアナライトが単離してイオン化される。 [第4実施例] 次に本発明の第4実施例である大気圧MALDI質量分析装置について、図5を参照しつつ説明する。図5は第4実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図であり、図1、図8と同じ構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。 この第4実施例による大気圧MALDI質量分析装置では、上記第1、第2実施例におけるレーザ光や第3実施例における励起ガスに代えて、超音波振動をクラスタに加えることで該クラスタにエネルギーを付与して分解を促進させる。 即ち、試料3と加熱キャピラリ8の入口との間の空間には圧電素子(又はそのほかの超音波振動子)61が配設され、制御部62の制御の下に、レーザ光7が試料3に照射されるのに同期して圧電素子駆動部60から圧電素子61に駆動電圧が印加される。これにより、レーザ光7の照射に応じて試料3から放出されたクラスタに振動によるエネルギーが付与され、クラスタの分解が促進される。これに伴い、クラスタに含まれるアナライトが単離してイオン化される。 [第5実施例] 次に本発明の第5実施例である大気圧MALDI質量分析装置について、図6を参照しつつ説明する。図6は第5実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図であり、図1、図8と同じ構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。 この第5実施例による大気圧MALDI質量分析装置では、上記第1、第2実施例におけるレーザ光、第3実施例における励起ガス、第4実施例における超音波振動に代えて、放電によるエネルギーをクラスタに付与して分解を促進させる。 即ち、試料3と加熱キャピラリ8の入口との間の空間には針状電極71が配設され、制御部72の制御の下に、レーザ光7が試料3に照射されるのに同期して放電電源部70から針状電極71にパルス状の高電圧が印加される。これにより、針状電極71からコロナ放電が発生し、レーザ光7の照射に応じて試料3から放出されたクラスタにこの放電によるエネルギーが付与され、クラスタの分解が促進される。これに伴い、クラスタに含まれるアナライトが単離してイオン化される。 [第6実施例] 次に本発明の第6実施例である大気圧MALDI質量分析装置について、図7を参照しつつ説明する。図7は第6実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図であり、図1、図8と同じ構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。 上記第1乃至第5実施例による大気圧MALDI質量分析装置では、試料3から放出されたクラスタに何らかのエネルギーを付与してクラスタの分解を促進させることでアナライトイオンの生成を促すようにしていたが、この第6実施例による大気圧MALDI質量分析装置では、レーザ光7の照射に応じて発生したアナライトイオンには影響を与えずに大きな塊である中性クラスタやマトリックス付加クラスタイオンが加熱キャピラリ8に飛び込むことをできるだけ阻止するようにすることで、アナライトイオンの強度を相対的に高めるようにしている。 即ち、制御部82の制御の下に、高圧ガス供給部80は例えばヘリウム、アルゴン、ネオンなどの不活性ガスを、ガス供給管81を通してイオン化室1内において試料3から放出されたクラスタが多く存在する領域に噴出させる。一般的に、大きなサイズのクラスタほど周囲のガス流の影響を受け易い。従って、小さなサイズのアナライトイオンはガス流の影響をあまり受けずに加熱キャピラリ8の入口付近に到達し、イオン化室1から第1中間真空室10に流れる空気流に乗って加熱キャピラリ8に吸い込まれ、第1中間真空室10に輸送される。一方、マトリックス付加クラスタイオンなどの大きなサイズのクラスタはガス供給管81から噴出するガス流によって進行方向が曲げられ、加熱キャピラリ8に吸い込まれずに外部に排出される。このようにして、質量分析に供するアナライトイオンの相対量を増やすことで、マススペクトルにおけるノイズ成分を減らすことができる。 なお、上記各実施例はいずれも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、修正、追加を行っても本願請求の範囲に包含されることは明らかである。本発明の第1実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図。第1実施例の大気圧MALDI質量分析装置におけるイオン化の状態を説明するための模式図。本発明の第2実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図。本発明の第3実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図。本発明の第4実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図。本発明の第5実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図。本発明の第6実施例による大気圧MALDI質量分析装置の要部の構成図。従来の大気圧MALDI質量分析装置の全体構成図。符号の説明1…イオン化室2…サンプルプレート3…試料4、30…レーザ光源5、31…反射鏡6、32…集光レンズ7、33…レーザ光8…加熱キャピラリ10…第1中間真空室11…第1イオンレンズ12…スキマー13…オリフィス14…第2中間真空室15…第2イオンレンズ16…隔壁17…分析室18…四重極質量フィルタ19…イオン検出器20…ロータリーポンプ21、22…ターボ分子ポンプ34、52、62、72、82…制御部50…励起ガス供給部51…ガス供給管60…圧電素子駆動部61…圧電素子70…放電電源部71…針状電極80…高圧ガス供給部81…ガス供給管 大気圧雰囲気の下でマトリックス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)により試料をイオン化するイオン化部と、高真空雰囲気の下でイオンを質量に応じて分離して検出する質量分析器を内装する分析室との間に、それぞれ小面積の開口部を介して連通する1乃至複数の中間真空室を配設した差動排気系の大気圧MALDI質量分析装置において、 前記イオン化部でレーザ光の照射により試料から放出された各種分子を含むクラスタの分解を促進するべく該クラスタにエネルギーを付与するクラスタ分解促進手段を備えることを特徴とする大気圧MALDI質量分析装置。 請求項1に記載の大気圧MALDI質量分析装置において、前記クラスタ分解促進手段は、前記イオン化部から次の中間真空室へとイオンを送るイオン導入口と前記試料との間の空間にレーザ光を照射するレーザ照射手段であることを特徴とする大気圧MALDI質量分析装置。 請求項1に記載の大気圧MALDI質量分析装置において、前記クラスタ分解促進手段は、イオン化のために前記試料に照射するレーザ光を生成するレーザ生起手段にあってレーザ発振を行うためのレーザ共振器であり、前記イオン化部から次の中間真空室へとイオンを送るイオン導入口と前記試料との間の空間に前記レーザ共振器中の光路を配設するようにしたことを特徴とする大気圧MALDI質量分析装置。 請求項1に記載の大気圧MALDI質量分析装置において、前記クラスタ分解促進手段は、超音波による振動エネルギーを前記クラスタに付与する超音波発生手段であることを特徴とする大気圧MALDI質量分析装置。 請求項1に記載の大気圧MALDI質量分析装置において、前記クラスタ分解促進手段は、放電によるエネルギーを前記クラスタに付与する放電手段であることを特徴とする大気圧MALDI質量分析装置。 請求項1に記載の大気圧MALDI質量分析装置において、前記クラスタ分解促進手段は、電子励起状態にあるガス流の衝突によるエネルギーを前記クラスタに付与する励起ガス供給手段であることを特徴とする大気圧MALDI質量分析装置。 大気圧雰囲気の下でマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)により目的試料をイオン化するイオン化部と、高真空雰囲気の下でイオンを質量に応じて分離して検出する質量分析器を内装する分析室との間に、それぞれ小面積の開口部を介して連通する1乃至複数の中間真空室を配設した差動排気系の大気圧MALDI質量分析装置において、 前記イオン化部でレーザ光の照射により試料から放出された各種分子を含むクラスタに対しガス流を吹き付けるガス供給手段を備えることを特徴とする大気圧MALDI質量分析装置。 【課題】レーザ光照射による試料のアブレージョンを抑制しつつアナライトイオンの生成効率を高め、高感度、高精度の質量分析を行う。【解決手段】大気圧雰囲気であるイオン化室1内において、レーザ光7の照射によって試料3から放出された各種のクラスタ(マトリックスのみ、或いはアナライトを含むマトリックスの集合体)が存在する領域に向けて、別のレーザ光30から発し、反射鏡31、集光レンズ32を経たレーザ光33を照射する。大気圧雰囲気下では試料3から放出されたクラスタは周囲の空気に触れて冷却されるが、レーザ光30の照射によりエネルギーを付与されてクラスタの分解が促進され、それに伴って単離したアナライトのイオン化も促進される。そのため、アナライトイオンの絶対的な生成量を増やすことができる。【選択図】図1