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タイトル:公開特許公報(A)_飲料または麦汁中のトランス−2−ノネナールのSPME−GC/MSを用いた分析方法
出願番号:2007214561
年次:2009
IPC分類:G01N 30/88,G01N 30/06,G01N 30/72,G01N 30/04,G01N 27/62


特許情報キャッシュ

山 内 沙 織 上 原 綾 子 大 金 修 JP 2009047573 公開特許公報(A) 20090305 2007214561 20070821 飲料または麦汁中のトランス−2−ノネナールのSPME−GC/MSを用いた分析方法 麒麟麦酒株式会社 307027577 吉武 賢次 100075812 中村 行孝 100091487 紺野 昭男 100094640 横田 修孝 100107342 伊藤 武泰 100111730 山 内 沙 織 上 原 綾 子 大 金 修 G01N 30/88 20060101AFI20090206BHJP G01N 30/06 20060101ALI20090206BHJP G01N 30/72 20060101ALI20090206BHJP G01N 30/04 20060101ALI20090206BHJP G01N 27/62 20060101ALI20090206BHJP JPG01N30/88 AG01N30/88 CG01N30/06 ZG01N30/72 AG01N30/04 PG01N30/06 EG01N27/62 VG01N27/62 C 6 OL 14 2G041 2G041CA01 2G041EA06 2G041EA12 2G041FA08 2G041FA23 2G041HA01 2G041JA05 2G041LA08発明の背景発明の分野 本発明は、発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料のような飲料または麦汁中のカードボード臭(段ボール臭)の主要因物質であるトランス−2−ノネナールの固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフ質量分析(SPME(Solid Phase Micro Extraction)−GC/MS)を用いた高精度でかつ高感度な分析方法に関する。背景技術 ビールや麦芽を原料とする発泡酒などの麦芽発酵飲料、および麦芽以外の穀類を原料とするようなビール様飲料は、時間の経過、温度の上昇等により酸化等の化学反応が加速されて製品の劣化が進行することがある。劣化した製品では、飲料の本来の味覚や香り(すなわち風味)が損なわれ、品質の低下がもたらされる。この内、ビールの「カードボード臭」(段ボール臭ともいう)は、このような劣化臭の代表例であり、その主要因物質として、アルデヒド類、特に、トランス−2−ノネナール(trans-2-nonenal)(以下において「T2N」ということがある)が知られている。 麦芽発酵飲料、ビール様飲料、および麦汁中におけるトランス−2−ノネナールの量が多いと、好ましくない香味(特にカードボード臭)のする飲料および麦汁であることとなり、製品もしくは麦汁の鮮度が悪化していることを意味すると言える。このため、飲料および麦汁中のトランス−2−ノネナールを測定することは、製品管理の上からも重要である。 トランス−2−ノネナールの生成経路の一つとして、原料の脂質・脂肪酸に由来して麦汁調製過程でリポキシゲナーゼによる酵素的な酸化または非酵素的な酸化の両面を受けて、トランス−2−ノネナールの前駆体(ヒドロオキシド誘導体)が形成され、酸化的分解を経てトランス−2−ノネナールが生成される経路がある。製品ビールや発泡酒等でのトランス−2−ノネナールは、前記前駆体が、発酵・貯蔵過程でかなり除去されるものの最終的にはビールに移行して、その後の酸化で生成されるという説もあり、また、麦汁中で生成したトランス−2−ノネナールが、麦汁中のアミノ酸などの一級アミンとのシッフ塩基を形成して、その多くが発酵・貯蔵過程で除去されるものの、一部製品ビールまたは発泡酒等に移行し、温度やpHの条件によってトランス−2−ノネナールが遊離するとも考えられている(Lermusieau et al., J.Am.Soc.Brew.Chem.57, 1999, p29-33、およびWO2003/16457(特許文献1))。 固相マイクロ抽出ガスクログラフ(SPME−GC/MS)は、細いニードルに結合された固相(SPMEファイバー)に試料中の化学物質を吸着させ、吸着後、ニードルをGC/MSの注入口に挿入して化学物質を加熱脱着させることにより測定する方法であり、極めて少量の試料によって短時間での測定を可能とするものである。 文献 B. W. Drost et al., Am. Soc. Brew. Chem. Journal, Vol.48, No.4, pp. 124-131 (1990)(非特許文献1)には、麦汁のリポキシゲナーゼ量およびノネナールポテンシャル量と、自然劣化した製品ビール中のトランス−2−ノネナール量とには、高い相関関係があり、これらの値はビール製品における製品劣化の可能性を予測するのに有用であることが開示されている。なおここでノネナールポテンシャルの量とは、麦汁等に含まれるトランス−2−ノネナールおよびその前駆体の総量であって、麦汁等に潜在的に含まれるトランス−2−ノネナール量を意味している。ここでは、ビール中のトランス−2−ノネナール量を、高速液体クロマトグラフ(HPLC)とガスクロマトグラフ(GC)とを用いて測定している。しかしながら、固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC/MS法)については開示されていない。 文献 N. Ochiai et al., Journal of Chromatography A, 986 (2003), pp.101-110(非特許文献2)には、加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析法により、ビール中の劣化臭気を生ずるカルボニル化合物(E−2−ノネナールを含む)の測定について開示されている。ここには、固相マイクロ抽出(SPME)を用いてE−2−ノネナールを測定したことも開示されている一方で、SPME法では、感度が従来の方法より悪く、検出限界が臭気の閾値濃度まで到達できなかったことが開示されている(同文献の102頁左欄)。 文献 L. Goebl and H.-U. Meisch, Monatsschrift fur Brauwissenschaft, October 2004, pp. 56-60(非特許文献3)には、固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフ(SPME/GC)によるビール中の老化関連物質の測定について開示されている。ここでいう老化関連物質とは、ビール中の20種のカルボニル化合物であり、この中の一つとしてトランス−2−ノネナールが挙げられている(表1の18)。ここでは、質量分析器(MS)ではなく、電子捕獲型検出器(ECD)が使用されており、測定対象もトランス−2−ノネナールに特定することなく、20種のカルボニル化合物を一斉に測定することを目指している。しかしながらここには、測定精度や感度との関係での内部標準物質の選択の重要性や、実際に使用した内部標準物質について特に開示されていない。 文献 D.R.Bright et. al., EBC Congress, 1993, pp. 413-420, "Beer flavor stability improvement and correlations to carbonyl profile" (非特許文献4)には、製品ビール中における、香味に関連する、カルボニル化合物(アルデヒド類、ケトン類、エステル類、アルコール類等)のプロフィールのガスクロマトグラフ(GC)を使用した測定について開示されている。カルボニル化合物のリストの中に、t−2−ノネナールが挙げられており、内部標準物質として3−メチルシクロヘキサノンを使用したことが開示されている。しかしながらここには、測定対象をトランス−2−ノネナールに特定することなく、多くのカルボニル化合物を一斉に測定することを目指している。また、測定精度や感度との関係での内部標準物質の選択の重要性について特に開示されていない。 特開2002−253196号公報(特許文献2)には、麦汁のノネナールポテンシャルを指標とする麦芽の評価方法および麦芽アルコール飲料中に生成するトランス−2−ノネナール量を推定し、これを指標とする麦芽アルコール飲料の香味安定性を予測する方法が開示されている。ここには、o−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)−ヒドロキシルアミン塩酸塩を用いて麦汁を誘導化した後、トランス−2−ノネナールを固相抽出した後GC/MSを用いて、ノネナールポテンシャルを測定することが開示されている(同実施例)。しかしながら、使用している固相抽出法は、液体クロマトグラフの技術を応用した固相抽出カートリッジ(Sep-Pak C18)を使用するものであって、充填剤を含むカードリッジに試料液を透過させる。このため、試料液を入れたバイアルのヘッドスペースにSPMEファイバーを挿入して固定化を行う、ヘッドスペース−固相マイクロ抽出法(HS−SPME)とは、本質的に異なる。またここでは、測定精度や感度との関係での内部標準物質の選択の重要性や、実際に使用した内部標準物質について特に開示されていない。 このため、トランス−2−ノネナールまたはノネナールポテンシャルを、高精度かつ高感度で分析可能な方法であって、比較的短時間で測定可能で、操作が簡便であり、さらに安全性に優れた方法が依然として望まれている。国際公開第WO2003/16457号特開2002−253196号公報B. W. Drost et al., Am. Soc. Brew. Chem. Journal, Vol.48, No.4, pp. 124-131 (1990)N. Ochiai et al., Journal of Chromatography A, 986 (2003), pp.101-110L. Goebl and H.-U. Meisch, Monatsschrift fur Brauwissenschaft, October 2004, pp. 56-60D. R. Bright et. al., EBC Congress, 1993, pp. 413-420, "Beer flavor stability improvement and correlations to carbonyl profile"発明の概要 本発明者らは今般、発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料のような飲料または麦汁中のトランス−2−ノネナールを、固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフ質量分析法、特にヘッドスペース−固相マイクロ抽出法による分析法によって分析することにより、迅速・簡便かつ、高精度および高感度で定量的に分析できることを見出した。このとき、使用する内部標準物質として、トランス−2−ノネナールの安定同位体、特に、トランス−2−ノネナールの特定の位置において水素が重水素で置換された重水素置換体を使用することによって、分析精度および感度を大幅に高めることに成功した。本発明はこれら知見に基づくものである。 よって本発明は、カードボード臭の主要因物質であるトランス−2−ノネナールを、従来よりもさらに低い濃度域において、充分な感度を示し、かつ高い精度で定量分析することができるトランス−2−ノネナールの分析方法の提供をその目的とする。 本発明による発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料または麦汁中のトランス−2−ノネナールの分析方法は、発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料または麦汁から得られた被検サンプルを、ヘッドスペース−固相マイクロ抽出(HS−SPME)ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)に付し、内部標準物質として、トランス−2−ノネナールの安定同位体を使用することを特徴とするものである。 本発明の好ましい態様によれば、トランス−2−ノネナールの安定同位体は、トランス−2−ノネナール中の水素原子の2以上が重水素で置換されてなるものである。より好ましくは、トランス−2−ノネナールの安定同位体は、トランス−2−ノネナール中の2位および3位の水素が重水素置換されたトランス−2−ノネナール重水素置換体である。 本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明の方法において、被検サンプルを、予め、約pH4に調整後100℃にて約2時間加熱しておくことによって、ノネナールポテンシャル(本明細書において「NP」ということがある)の量を測定する。 好ましくは、本発明による方法は、SPMEファイバーに固定された誘導試薬としてのPFBOA(o−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)−ヒドロキシアミン)と、被検サンプル中のトランス−2−ノネナールとを反応させてオキシム化し、得られた誘導体をGC/MSに付すことを含む。 さらに好ましくは、本発明の方法は、SPMEファイバーへのPFBOAの固定を、PFBOA溶液の入ったバイアルのヘッドスペースで行い、SPMEファイバーに固定されたPFBOAとトランス−2−ノネナールとオキシム化を被検サンプルの入ったバイアルのヘッドスペースで行い、かつ、固定化およびオキシム化は30〜70℃の温度下にて実施される。 本発明の方法によれば、発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料(製造工程の半製品を含む)または麦汁中に含まれ得るトランス−2−ノネナールを、高精度かつ高感度で迅速・簡便に定量的に分析することができる。本発明の方法によれば、従来の方法、例えば、HPLCを利用する方法や、固相マイクロ抽出ガスクログラフ(SPME−GC/MS)を用いる方法であって内部標準物質が本発明とは異なるシクロヘキサノン等を使用する方法に比べて、検出限界0.005ppb(=μg/L)レベルまで大幅に下げることができ、測定のばらつきを示すCV値も半分から数分の一のレベルにまで下げることができ、測定精度を大幅に高めることが出来る。本発明による方法は、HPLC法などに比べて、迅速かつ効率的に分析を行うことができ、操作やメンテナンスの煩雑さを低減できる。さらに従来のHPLC法のように毒性のある溶媒(例えばアセトニトリルやダンシルヒドラジンなど)を使用する必要もないため、本発明の方法によれば、安全性も向上させることができる。このため、本発明の方法は、緻密な工程管理、品質管理に貢献できるものであり、さらにカードボード臭のような劣化臭を発生し難い製品の開発、工程条件の確立等に貢献し得るものである。発明の具体的説明 本発明による方法は、前記したように、発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料または麦汁中のトランス−2−ノネナールの分析方法であって、発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料または麦汁から得られた被検サンプルを、ヘッドスペース−固相マイクロ抽出ガスクロマトグラフ質量分析法に付し、内部標準物質として、トランス−2−ノネナールの安定同位体を使用することを特徴とする。 本発明において、「発酵麦芽飲料」とは、麦芽を用いて得られた加ホップ麦汁を主成分とする原料を、発酵させることによって得られる飲料をいい、例えば、ビール、発泡酒等が挙げられる。 また、「ビール様飲料」には、前記した「発酵麦芽飲料」以外の飲料であって、発酵麦芽飲料と同等に、トランス−2−ノネナールによる劣化臭を発生し得る飲料、すなわちトランス−2−ノネナールもしくはその前駆体を含有し得る飲料であれば、いずれのものも包含される。「ビール様飲料」としては、例えば、ビールと同等もしくは類似した風味を有する、穀物を原料とする発酵飲料などが挙げられ、具体例として、大豆やエンドウ豆のような豆類由来成分とホップとを原料として発酵させることによって得られる飲料(いわゆる、酒税法上「その他雑酒2」に分類されるアルコール飲料を包含する)などが挙げられる。 またここでいう「飲料」には、製品としての飲料が含まれることは当然として、該飲料を製造する過程における半製品の状態のものや、飲料の評価の際等に使用されるトランス−2−ノネナールを含むコントロール溶液等も包含される。 本発明において、「麦汁」とは、当業者に麦汁として理解されうるもの、例えば、ビール等の発酵麦芽飲料の製造工程において得られる麦汁であれば特に制限はない。一般的に、ビール等の発酵麦芽飲料の製造工程は、麦芽を調製する製麦工程、麦芽を糖化槽で糖化後ろ過してろ過麦汁を得、さらにホップを添加し煮沸して最終的な仕上がり麦汁を得る仕込み工程を含む。具体的には、麦汁は、これら工程で得られる麦汁(全濾過麦汁)またはそれからさらに調製された麦汁を包含する。 本発明において、「ノネナールポテンシャル」量とは、飲料や麦汁のような被検サンプルに含まれるトランス−2−ノネナールおよびその前駆体の総量をいい、被検サンプル中に現実的および潜在的に含まれるトランス−2−ノネナールの総量を意味する指標である。またノネナールポテンシャルは、潜在的な劣化臭を知るための指標になり得るものである。ノネナールポテンシャル量の算出にあたっては、例えば、文献 B. W. Drost et al., Am. Soc. Brew. Chem. Journal, Vol.48, No.4, pp. 124-131 (1990)(非特許文献1)のノネナールポテンシャルの項目を参照してもよいが、本発明においては、pH4.0に調整した酢酸緩衝液に、一定量(緩衝液の1/5量)の被検サンプルを加えて、これを100℃で2時間加熱(煮沸)し、生成したトランス−2−ノネナールの量を測定することにより、その被検サンプルのノネナールポテンシャル量を得ることができる。 因みに、麦汁の糖度を11°P(プラトー)に調整した全濾過麦汁中のNP量は、ビールの種類によっても異なるが通常7〜10ppb程度である。 本発明におけるヘッドスペース−固相マイクロ抽出(HS−SPME)法は、慣用のHS−SPME用の装置・器具であればいずれのものにおいても実施することができる。したがって、本発明においては、市販のHS−SPME用の装置・器具を適宜使用することができる。また本発明におけるガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)も、慣用のGC/MS装置であればいずれのものにおいても実施することができる。したがって、本発明においては、市販のGC/MS装置を適宜使用することができる。 本発明におけるヘッドスペース−固相マイクロ抽出法の概略を示せば下記の通りである。まず、細いニードルに結合された固相(ファイバー)を有するSPMEファイバーを用意し、これを誘導試薬の溶液を採取したバイアル(例えば、ヘッドスペースを設けることができるSPME用バイアル)(例えば、5〜20ml容量)のセプタムに貫通させ、ヘッドスペースの空間に、ファイバーを露出させて、例えば30〜70℃(好ましくは40〜60℃、より好ましくは約50℃)の条件で10〜20分程度(例えば、約10分)おき、誘導試料をSPMEファイバーに固定化する。 ここで、SPMEファイバーとしては、ジビニルベンゼン誘導体(DVB)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、カルボキセン、カルボワックス等またはそれらの組合せをシリカファイバーにコーティングしたものが好ましく使用される。より好ましくは、SPMEファイバーは、DVB、カルボキセンおよびPDMSを使用するタイプのものである。SPMEファイバーは、市販品を使用でき、例えば、SUPELCO社等より入手可能である。 前記誘導試薬としては、トランス−2−ノネナールと結合して、T2Nとの間でオキシム化等により誘導体を形成して、アルデヒド基やケトン基を誘導抽出することができ、かつ、得られた誘導体をGC/MSでの測定に利用できるのであれば、いずれのものでも良いが、本発明では、PFBOA(o−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)−ヒドロキシアミン)が誘導試薬として好適に使用できる。 次に、誘導試薬を固定したSPMEファイバーを、被検サンプルの溶液を採取したバイアル(例えば、ヘッドスペースを設けることができるSPME用バイアル)(例えば、5〜20ml容量)のセプタムに貫通させ、ヘッドスペースの空間に、ファイバーを露出させて、例えば30〜70℃(好ましくは40〜60℃、より好ましくは約50℃)の条件で40〜70分程度(例えば、約40分)おき、固定されている誘導試薬と、トランス−2−ノネナールとの間でオキシム化反応を進行させ、誘導体を形成させる。この反応は下式として表すことができる。このようにして、目的物質の誘導抽出を行う。 得られた誘導体を、得られた誘導体(誘導体が固定されたニードル)をGC/MSに付し、トランス−2−ノネナールまたはノネナールポテンシャルを測定する。 ここで、使用する被検サンプルは、分析を希望する飲料や麦汁をそのまま使用してもよいが、必要に応じて、飲料の場合には製品を模した5%エタノール溶液等を用いて希釈しても良い。また分析によってノネナールポテンシャルの測定を希望する場合には、予め、被検サンプルを約pH4に調整後、必要に応じて希釈して、100℃にて約2時間加熱しておくことが望ましい。 よって、前記したように、本発明の好ましくは、本発明による方法は、SPMEファイバーに固定された誘導試薬としてのPFBOA(o−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)−ヒドロキシアミン)と、被検サンプル中のトランス−2−ノネナールとを反応させてオキシム化し、得られた誘導体をGC/MSに付すことを含む。さらに好ましくは、本発明の方法は、SPMEファイバーへのPFBOAの固定を、PFBOA溶液の入ったバイアルのヘッドスペースで行い、SPMEファイバーに固定されたPFBOAとトランス−2−ノネナールとオキシム化を被検サンプルの入ったバイアルのヘッドスペースで行い、かつ、固定化およびオキシム化は30〜70℃の温度下にて実施される。 また前記したように、本発明の方法においては、内部標準物質として、トランス−2−ノネナールの安定同位体体を使用する。内部標準物質の使用濃度は、例えば、10ppb相当の濃度である。このような値であると、分析結果のSN比に大きな影響を及ぼさない。 ここで、「トランス−2−ノネナールの安定同位体」とは、トランス−2−ノネナールを構成する元素の原子の少なくともいずれか一つが、その元素の安定同位体元素で置換されてなるものをいう。このような安定同位体元素としては、例えば、重水素原子(D)、三重水素原子(T)、C13、S34が挙げられる。好ましくは、トランス−2−ノネナールの安定同位体は、トランス−2−ノネナール中の水素原子の2以上が水素元素の同位体(D体、重水素)に置換されてなるものであり、より好ましくは、トランス−2−ノネナール中の2つの水素原子が、重水素(D体)により置換されてなるもの(T2N−d2)であり、最も好ましくは、トランス−2−ノネナール中の2位および3位の水素が重水素置換されたトランス−2−ノネナール重水素置換体(下式(I)のT2N−d2)である。 本発明において、このようなトランス−2−ノネナールの安定同位体は、慣用の方法によって、T2N上の原子を置換することにより調製することができる。あるいは、T2Nを合成する過程の中間体において、その中の原子を置換することによって調製することができる。例えば、式(I)のT2N−d2は、下記のようなスキームに従って製造することができる。 本発明によるトランス−2−ノネナールの分析方法は、前記したように、従来よりもさらに低い濃度域において充分な感度と、高い精度でトランス−2−ノネナールを、定量的に分析することができるものである。ここで、分析の「精度」とは、繰返し分析した際の分析値の“ばらつき”の程度を意味し、高精度とは、そのばらつきが少ない場合を意味する。本発明においては、この精度を下記のように定義されるC.V.値で評価することができる。 C.V.値(%)= [繰返し測定したときの分析値の標準偏差]/[分析値の平均値] X 100 本発明によれば、C.V.値は、5.0%以下となるものであり、好ましくは3.0%以下となる(例えば、後述する実施例では1.4〜2.2%であった)。このため本発明による方法は高い精度を有するものと言える。この値は、従来の方法の場合(HPLC法では例えば4.4%)に比べて1/2程度の値であることから、分析の効率を高める上で本発明の方法は有利であると言える。 またここで、分析の「感度」が高いとは、トランス−2−ノネナールの検出限界の下限値がより小さい値であることを意味する。検出限界値は、検出限度をS/N=3を与える濃度とした場合の分析対象物質の濃度値と定義される。ここで、S/Nとはトランス−2−ノネナールのシグナルピークの高さとノイズの高さとの比で表わされる。本発明によれば、トランス−2−ノネナールの検出限界値、すなわちトランス−2−ノネナールの検出可能な濃度範囲は、好ましくは0.005ppb以上である。このような検出限界の下限値は、従来の方法の場合(HPLC法では0.05ppb)に比べて1/10の値であることから、飲料や麦汁中に、従来の場合よりも微量に含まれるトランス−2−ノネナールを分析できるので、本発明の方法は優れた分析性能を有していると言える。 本発明の方法によれば、上記したトランス−2−ノネナールに加えて、ストレッカーアルデヒド類全般、例えば、プロパナール、ブタナール、2−メチルブタナール、3−メチルブタナール、メチオナール、フェニルアセタアルデヒド等の分析(定量的分析)を行うことも可能である。 なお本明細書において、「約」を用いた値の表現は、その値を設定することによる目的を達成する上で、当業者であれば許容することができる値の変動を含む意味である。 本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実験方法: 本実施例において、ビールのサンプルとしては、冷蔵の市販製品ビール(キリンビール株式会社製)を使用し、麦汁のサンプルとしては、冷蔵の市販製品ビール(キリンビール株式会社製)用の麦汁を使用した。 使用した装置および器具は下記の通りであった: ・SPMEファイバー: SUPELCO社製、Stable Flex DVB/Carboxen/PDMSファイバー(57328-U); ・インレットライナー: SUPELCO社製、SPME用インレットライナー; ・20ml容ガラスバイアル: GERSTEL社製; ・GC/MS: Agilent社製、5973型。実施例1: 内部標準物質の検討 被検サンプルとして、前記のビールおよび麦汁を使用し、誘導試薬としてのPFBOAを使用し、SPMEにおける、固定化およびオキシム化反応の条件としては、それぞれ10分間−50℃、および40分間−50℃であった。内部標準物質としては、下記のものをそれぞれ10ppbの濃度で使用した。 内部標準物質: (1) シクロヘキサノン (2) トランス2−シス6−ノナジエナール (3) シス4−ヘプタナール (4) トランス−2−ノネナール−d2(A) (5) トランス−2−ノネナール−d2(B) ここでT2N−d2(B)が、前記した式(I)のT2N−d2に相当する。またこれら物質は、市販品を使用することが出来る。 これらの条件で、本発明による方法を実施し、内部標準物質毎の測定値のばらつき(C.V.値)および検出限界を求めた。 測定の結果、各内部標準物質について下記のような傾向が見られた: (1) シクロヘキサノン: 日間変動・ファイバーLot間差が大きい。 (2) トランス2−シス6−ノナジエナール: 目的とするイオンピークがT2Nと被る。 (3) シス4−ヘプタナール: ビール中に多量に含まれているヘプタナールとリテンションタイムが被る。 (4) トランス−2−ノネナール−d2(A): 目的としたd2置換イオンが含まれておらず、きれいなピークは見られない。 (5) トランス−2−ノネナール−d2(B): d2置換イオンがきれいにピークに現れた。 下記で式で示したとおり、T2Nは、誘導試薬PFBOAとオキシム化反応すると、分子量335の分子となる。これがMSに入ると解離し、一番大きなピークとして現れるのが181のイオンであった。しかしながら、このイオンは他の物質にも多く含まれるもので、ノイズが大きく、定性を行うイオンには相応しくない。次いで大きいピークとして出るのが250のイオンであった。これは、元のT2N分子の二重結合直後、3位と4位の炭素の間で切れた分子が検出されたものである。T2Nの分析には通常250のイオンが用いられる。 T2N−d2(A)は、4位と5位の水素が重水素に置換されたものが50%、5位と6位の水素が重水素に置換されたものが50%という組成のものである。このT2N−d2がオキシム化反応すると、分子量337の分子となる。これが、MSの中で解離すると、まずT2N同様に181が現れ、次いで分子量250の分子が現れた。しかしながら、これは目的とするT2Nと同じイオン数になる為、検出が行うことはできなかった。 T2N−d2(B)は、2位と3位の水素が重水素に置換されたT2N−d2である。これがオキシム化反応すると、分子量337の分子となる。これがMSの中で解離すると、まず181の分子、次いで検出される分子の中に重水素が2つ含まれる形となり、ピークとしても、はっきりと252のイオンが確認できた。 また、内部標準物質として、シクロヘキサノンを使用した場合と、T2N-d2(B)を使用した場合の繰り返し精度(C.V.値(n=10))および検出限界(検出限界はS/N=3として求めた)を算出した。結果は下記表のとおりであった。表1 内部標準物質 シクロヘキサノン T2N-d2(B) ビール(C.V.値) 6.9 % 1.4 % 麦汁 (C.V.値) 3.6 % 2.2 % 検出限界 0.005 ppb 以上の結果から、前記(5)のT2N-d2(B)を内部標準物質とするのが最も望ましいと考えられた。実施例2: PFBOA固定時間とオキシム化反応時間の検討 PFBOA固定時間とオキシム化反応時間とを下記のように変更した以外は、実施例1と同様にしてSPME−GC/MS法を実施し(n=3)、被検サンプル中のトランス−2−ノネナールを測定した。GC/MSでの測定後、各場合のSN比を算出した。 結果は下記表のとおりであった。表2 PFBOA固定時間 オキシム化反応時間 SN比 (i) 10 分 40 分 355.7 (ii) 10 分 70 分 367.9 (iii) 20 分 40 分 386.0 (iv) 20 分 70 分 474.8 実施例3: PFBOA固定とオキシム化反応の反応温度の検討 PFBOA固定とオキシム化反応とにおける反応温度を下記温度のように変更した以外は、実施例1と同様にしてSPME−GC/MS法を実施し(n=3)、被検サンプル中のトランス−2−ノネナールを測定した。GC/MSでの測定後、各場合のSN比を算出した。 結果は下記表のとおりであった。表3 反応温度(℃) SN比 (a) 30 94.7 (b) 40 158.4 (c) 50 692.2 (d) 60 787.6 (e) 70 378.4 実施例4: 内部標準物質の濃度の検討 内部標準物質の濃度を下記のように変更した以外は、実施例1と同様にしてSPME−GC/MS法を実施し(n=4)、被検サンプル中のトランス−2−ノネナールを測定した。GC/MSでの測定後、各場合のSN比を算出した。検討を行った濃度3点でSN比にあまり差が無いことがわかった。 結果は下記表のとおりであった。表4 内部標準濃度 SN比 7.6(1/2倍)ppb 5.2 15.2ppb 4.2 30.4(2倍)ppb 6.4 実施例5: HPLC法との精度の比較 HPLC法については下記の条件にて、ビール中のトランス−2−ノネナールを測定した。具体的には、被検サンプル中のT2Nを抽出カラムに吸着、分離させ、誘導試薬ダンシルヒドラジンと反応させた後、UV計で測定を行った。NPは、酢酸を用いてpHを4.0程度に調整し、100℃で2時間加熱した後、同様の操作を行った。 HPLC法: HPLC装置: HP Agilent 1100シリーズ(Agilent社製) バッファー/キャリアガス: メタノール、酢酸、アセトニトリル、水 抽出カラム: Sep-Pak C18 (Waters社製) 誘導試薬: ダンシルヒドラジン プレカラム: Shim-pack SPC-RP3(Shimadzu社製) 本カラム: Ymc-Pak Pro C18 AM302(YMC社製) 本カラム: Ymc-Pak Pro C18 AM303(YMC社製) SPME−GC/MS法(本発明)については、実施例1に従って測定を行った。 両方の方法ついて、測定精度(C.V.値)を求め、さらに、検出限界を算出した。 結果は下記表のとおりであった。表5 精度 検出限界 HPLC法 4.4% 0.05 ppb 本発明 1.4〜2.2% 0.005 ppb 発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料または麦汁中のトランス−2−ノネナールの分析方法であって、 発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料または麦汁から得られた被検サンプルを、ヘッドスペース−固相マイクロ抽出(HS−SPME)ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)に付し、内部標準物質として、トランス−2−ノネナールの安定同位体を使用することを特徴とする、方法。 トランス−2−ノネナールの安定同位体が、トランス−2−ノネナール中の水素原子の2以上が重水素で置換されてなるものである、請求項1に記載の方法。 トランス−2−ノネナールの安定同位体が、トランス−2−ノネナール中の2位および3位の水素が重水素置換されたトランス−2−ノネナール重水素置換体である、請求項1に記載の方法。 被検サンプルを、予め、約pH4に調整後100℃にて約2時間加熱しておくことによって、ノネナールポテンシャル(NP)量を測定する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。 SPMEファイバーに固定された誘導試薬としてのPFBOA(o−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)−ヒドロキシアミン)と、被検サンプル中のトランス−2−ノネナールとを反応させてオキシム化し、得られた誘導体をGC/MSに付すことを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。 SPMEファイバーへのPFBOAの固定を、PFBOA溶液の入ったバイアルのヘッドスペースで行い、SPMEファイバーに固定されたPFBOAとトランス−2−ノネナールとオキシム化を被検サンプルの入ったバイアルのヘッドスペースで行い、かつ固定化およびオキシム化を30〜70℃の温度下にて実施する、請求項5に記載の方法。 【課題】カードボード臭の主要因物質であるトランス−2−ノネナールを、従来よりもさらに低い濃度域において、充分な感度を示し、かつ高い精度で定量分析することができるトランス−2−ノネナールの分析方法の提供【解決手段】本発明による発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料または麦汁中のトランス−2−ノネナールの分析方法は、発酵麦芽飲料もしくはビール様飲料または麦汁から得られた被検サンプルを、ヘッドスペース−固相マイクロ抽出(HS−SPME)ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)に付し、内部標準物質として、トランス−2−ノネナールの安定同位体を使用することを特徴とする。【選択図】なし


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