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タイトル:公開特許公報(A)_冬虫夏草の突然変異体及びその変異体の培養法
出願番号:2007201235
年次:2009
IPC分類:C12N 1/14,C12P 1/02,C12P 19/38,A61P 31/04,A61P 35/00,A61K 36/06,A61K 35/64,A61K 31/7076,C07H 19/167


特許情報キャッシュ

榊原 三樹男 増田 美奈 JP 2009034045 公開特許公報(A) 20090219 2007201235 20070801 冬虫夏草の突然変異体及びその変異体の培養法 国立大学法人福井大学 504145320 高島 一 100080791 榊原 三樹男 増田 美奈 C12N 1/14 20060101AFI20090123BHJP C12P 1/02 20060101ALI20090123BHJP C12P 19/38 20060101ALI20090123BHJP A61P 31/04 20060101ALI20090123BHJP A61P 35/00 20060101ALI20090123BHJP A61K 36/06 20060101ALN20090123BHJP A61K 35/64 20060101ALN20090123BHJP A61K 31/7076 20060101ALN20090123BHJP C07H 19/167 20060101ALN20090123BHJP JPC12N1/14 AC12P1/02 ZC12P19/38A61P31/04A61P35/00A61K35/70A61K35/64A61K31/7076C07H19/167 12 OL 11 4B064 4B065 4C057 4C086 4C087 4B064AF33 4B064CA05 4B064DA02 4B065AA57 4B065AC14 4B065BA16 4B065BB13 4B065CA18 4B065CA19 4B065CA44 4C057AA05 4C057BB02 4C057BB05 4C057DD01 4C057LL29 4C086AA04 4C086EA17 4C086MA01 4C086MA04 4C086ZB26 4C086ZB35 4C087AA03 4C087BB21 4C087BC04 4C087ZB26 4C087ZB35 本発明は冬虫夏草変異体の製造方法、それによって得られた変異体及びその有効利用法に関する。 冬虫夏草は、子嚢菌類に分類される菌類で、昆虫に寄生するキノコの総称である。寄生の形態は以下の通りである:(1)飛散した胞子が宿主である昆虫に取り付き、その体内に入り込む。(2)体内に入った胞子が、養分を吸収して菌糸をのばしながら成長し、菌糸の固まりである菌核を形成する。(3)成熟後、昆虫の体を突き破って、キノコ(子実体)を生じる。 中国においては、コウモリガの幼虫に寄生するCordyceps sinensis(学名)が、1700年代から、漢方薬として用いられてきた。近年では、Cordyceps sinensis以外の冬虫夏草についても抗菌、抗腫瘍、免疫増強、血糖降下、血管拡張作用など様々な薬理活性機能を有することが明らかにされてきており、その有効成分としてコルジセピン、エルゴステロールパーオキシド、ミリオシン、各種多糖及び糖タンパク質などの存在が報告されている。これらの有効成分のなかでも、ヌクレオシド(アデノシン)のアナログであるコルジセピンは、抗菌、抗腫瘍作用を示す物質として特に注目を集めている。このように、医薬品や保健食品への利用が期待されている冬虫夏草であるが、それらは極めて小さく、採集が困難であるため、天然に生育する冬虫夏草を採集収穫するだけでは、高まりつつある需要を十分に満たすことはできない。 そこで、近年、冬虫夏草の菌糸体や子実体を人工的に培養する方法、さらにはそこから有効成分を抽出する方法としていくつかの提案がなされている。例えば、培養する方法としては、水を用いて高温加熱下で抽出した蚕の蛹の組成成分の抽出液に、炭素源、アミノ酸類、ミネラル類、又はビタミン類の中から少なくとも一種を添加した培地で冬虫夏草の菌糸体と子実体を栽培する方法(特許文献1)、冬虫夏草の菌糸体を合成または天然の培地で培養するに際して、対象とする冬虫夏草の寄生した昆虫と同一種の昆虫の抽出エキスを培地に添加する方法(特許文献2)などが挙げられる。有効成分を抽出する方法としては、特許文献3〜5などが挙げられる。すなわち、特許文献3には、無菌飼育した蚕の蛹あるいは蜘蛛の体内に該冬虫夏草菌株の胞子懸濁液を接種して子実体を形成させ、得られた子実体からエタノールや水を用いて有効成分を抽出する方法が記載されている。また、特許文献4には、玄米などの穀類と昆虫組織体(寄生した昆虫と同一目、同一科の昆虫を使用)を主成分とし、アミノ酸類、ミネラル類、又はビタミン類の中から少なくとも一種の添加物を添加した固体培地に冬虫夏草菌を接種し、18〜26℃、湿度80%以上全暗で菌糸体を発育させた後、照度100Lux以上、1日6時間以上照射で子実体を栽培し、培養品をそのまま粉砕する、あるいは、必要に応じて有効成分を抽出する方法が記載されている。さらに、特許文献5には、350〜550nmの波長域にピークをもつ光を連続又は間欠的に照射して冬虫夏草菌糸体を培養し、得られた菌糸体から、有機溶媒や水等で有効成分を抽出する方法が記載されている。 他にも、最も重要な有効成分の1つであるコルジセピンの生産性を高めるため好適な培地・培養条件を検討した結果が、特許文献6及び7、非特許文献1〜3等に記載されている。すなわち、特許文献6には、冬虫夏草用の培地として、1〜6重量%のグルコース、スクロース、糖蜜、マルトースから選ばれた少なくとも1種、1〜7重量%のペプトン、イースト、モルト、ミルクから選ばれた少なくとも1種、0.1〜0.5重量%のアスパラギン、アスパラギン酸、グリシン、DNAから選ばれた少なくとも1種及び/又は微量のビオチン、ビタミン類を含有するものを用いて、コルジセピンの含有率を向上させる方法が記載されている。特許文献7には、冬虫夏草用培地にコルジセピンを産生する冬虫夏草菌を接種し、暗所、5〜28℃で20〜90日間培養する第一工程と、その培養後、照度100〜150000Luxの光照射下において、35℃以下の範囲で第一工程より温度を上げて培養し、コルジセピンの含有量を向上させる方法が記載されている。また、非特許文献1には、通気攪拌槽を用いた深部培養において、培養開始から溶存酸素濃度(DO)を飽和の60%に制御し、コルジセピンの比生産速度が低下する時点で30%にするという2段階のDO制御方式により、高い生産量と生産性を得る方法が記載され、非特許文献2には、炭素源として、42g/lグルコース、窒素源として、15.8g/lペプトンを含む培地を用いて、25℃、110rpm、20日間振盪フラスコによる培養を行い、高いコルジセピン生産性を得る方法が記載されている。さらに、非特許文献3には、窒素源として、45g/lの酵母エキスを用い、8日間の振盪培養の後、8日間の静置培養を行うことにより、効率的にコルジセピンを得る方法が記載されている。 しかしながら、従来の冬虫夏草の人工培養法は、培地に蛹粉、蛹の抽出液、及び/又は昆虫の抽出液を用いたり、昆虫の体内に菌を接種したり、温度、pH、光照射を細かく制御したりするなど、操作が煩雑で実用化を考慮した大量生産は困難である。また、コルジセピンを得ようとした場合、その収量は、非特許文献1で培地中に0.195g/l、非特許文献2で0.345g/l、非特許文献3で2.2g/l、特許文献6では菌体1gあたり0.02〜0.1g、特許文献7では菌体1gあたり0.05〜0.1gと、いずれも十分とはいえない。 微生物が産生する有用物質を工業的規模で得るための試みとしては、変異体の誘導がよく行われており、変異原として、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)、紫外線、放射線などが用いられている。 放射線に分類されるイオンビームは、近年、植物育種の分野で適用され始めた技術である。例えば、カーボンビーム照射をしたシロイヌナズナ種子のtt,gl遺伝子座を解析したところ、電子線照射と比較して突然変異率が17倍、逆位や欠失などの大きな構造変化の点突然変異に対する割合が電子線照射の3倍であった(非特許文献4)。変異原としてイオンビームを用いた突然変異の誘導は、植物育種の分野ではいくつかの成功例が報告されているが(非特許文献5)、微生物に適用した例は知られていない特開平10−42691号公報特開平10−117770号公報特開2002−272267号公報特開2003−116522号公報特開2004−344027号公報特開2004−242506号公報特開2004−267004号公報Biotechnol. Prog.20,1408−1413(2004)Process Biochemistry 40,1667−1672(2005)Biochem. Eng. J.33,193−201(2007)Genetics 157,379−387(2001)Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206,574−578(2003) 本発明が解決しようとする課題は、従来の冬虫夏草の人工培養法に対して、より簡便で大量生産に適する人工培養法を提供し、かつ有効成分を高収率で得ることのできる技術を提供することにある。 本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、冬虫夏草に高エネルギーイオンビームを照射し、突然変異を誘発することに成功した。また当該突然変異株のうち、アデニンあるいはグアニンのアナログに耐性を示す冬虫夏草菌株をスクリーニングすることによって、冬虫夏草に含まれる生理活性物質であるコルジセピンの高生産株を選別した。さらに、この菌を十分な炭素源と窒素源を含有する培地で培養することによって、培養液中に高濃度でコルジセピンを産生させる方法を見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の通りである:〔1〕冬虫夏草属菌糸体に高エネルギーイオンビームを照射し、該照射処理をした菌糸体から親株と菌学的性質の異なる菌株を選抜することを含む、冬虫夏草の突然変異株の製造方法。〔2〕冬虫夏草の生理活性物質高生産株を選抜することを含む、〔1〕の方法。〔3〕該生理活性物質がコルジセピンである、〔2〕の方法。〔4〕前記イオンビームの照射線量が200〜2000Gyの範囲である、〔1〕〜〔3〕のいずれかの方法。〔5〕 前記イオンビームを、照射後の菌糸体の成長速度が照射前の20〜60%に減少する線量で照射することを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかの方法。〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれかの方法によって製造される、冬虫夏草の突然変異株。〔7〕アデニン及び/又はグアニンのアナログ存在下で生存可能である、〔6〕の突然変異株。〔8〕アデニン及び/又はグアニンのアナログが、8−アザアデニン又は8−アザグアニンである、〔7〕の突然変異株。〔9〕コルジセピン高生産能を有する、受領番号がFERM AP−21315である、冬虫夏草(Cordyceps militaris)NBRC 9787の変異株。〔10〕受領番号がFERM AP−21315である冬虫夏草を好気的に培養する工程を含む、コルジセピンの生産方法。〔11〕該冬虫夏草を、酵母エキスを含む培地中で培養することを含む、〔10〕の方法。〔12〕全培地重量に対し、0.25〜14重量%の酵母エキスを含む培地中で培養することを含む、〔11〕の方法。 本発明の突然変異株の製造方法は、冬虫夏草の生理活性物質の高生産株を取得することを可能とする。また得られた突然変異株の利用によって、有用物質の大量生産が困難であった従来法の欠点を克服することができる。すなわち、得られた変異株を人工培養すれば、培養液(培地)中に、生理活性物質であるコルジセピンが高濃度で産出される。培地成分としては、従来法における蛹粉などの特殊な培地成分を必要とせず、一般的な炭素源と窒素源のみで培養が可能であるため、コルジセピンを工業規模で安価に、かつ簡便に生産することができるという利点を有する。 本発明は、冬虫夏草属菌糸体にイオンビームを照射し、該照射処理をした菌体から菌学的性質の異なる菌株を選抜することを含む、冬虫夏草の突然変異株の製造方法を提供する。 本発明に用いる冬虫夏草は、特に限定されず、野生株の冬虫夏草であっても、人工栽培されている冬虫夏草であってもよい。より好ましくは、冬虫夏草はコルジセピンを産生し、さらに好ましくは、産生したコルジセピンを菌体外に排出及び/又は菌体内に含有する。例えば、コルジセプス属のCordyceps militaris NBRC 9787、Cordyceps militaris NBRC 30377、Cordyceps militaris ATCC 26848、Cordyceps militaris ATCC 34164、Cordyceps militaris ATCC 34165等が適している。 冬虫夏草属菌糸体に照射するイオンビームとしては、突然変異を誘発できるものであれば特に限定されず、例えば、炭素イオンビーム、水素イオンビームのほか、窒素、ネオン、アルゴン、鉄、及びヘリウムイオンビームが挙げられるが、好ましくは炭素イオンビーム又は水素イオンビームである。イオンビームの照射線量は、用いるイオンビームの種類、冬虫夏草の菌株などに応じて決定すればよいが、200〜2000Gy、好ましくは400〜1500Gy、より好ましくは500〜1000Gy、最も好ましくは600〜900Gyである。200Gy以下ではイオンビーム照射の効果が現れず、2000Gy以上では冬虫夏草菌糸体が全て死滅してしまうため、いずれの場合も多様な変異株を得るという観点から好ましくない。イオンビームを発生させる高エネルギー加速器としては、ガンマ線などと比較して線エネルギー付与(LET=Linear Energy Transfer)が高く、低エネルギー加速器と比較して水中飛程距離が長いことを特徴とするシンクロトロン又はサイクロトロンが好ましい。 本発明の冬虫夏草及び冬虫夏草変異株は、自体公知の方法で培養できる。例えば、本発明の冬虫夏草及び冬虫夏草変異株の培地は、炭素源及び窒素源、並びに/又は他の添加物を含む培地で培養でき、液体培地であっても、固体培地であってもよい。炭素源としては、グルコース、スクロース、マルトース、ラクトース、糖蜜等が利用可能であり、窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、カザミノ酸、コーンスティープ、小麦胚芽等が利用可能であるが、酵母エキスが好ましい。また、グリシン、グルタミン、アスパラギン酸、システイン等のアミノ酸、アデニン、グアニン、アデノシン等の核酸関連物質のいずれか1つ、又は複数を添加してもよい。 成分の配合量としては、例えば炭素源は、水を含む培地全重量の1〜10重量%、好ましくは2〜8重量%であり、窒素源は培地全重量の0.25〜14重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。アミノ酸を添加する場合は、その配合量は培地全重量の0.5〜5重量%、好ましくは1〜3重量%であり、核酸関連物質を添加する場合は、その配合量は培地全重量の0.05〜0.6重量%、好ましくは0.1〜0.4重量%である。また、固体培地である場合には、培地全重量の1〜2重量%、好ましくは1.2〜1.8重量%の寒天を含み得る。 具体的には、例えばポテトデキストロース寒天プレート上、又はグルコース 20g/l、ペプトン 2.5g/l、及び酵母エキス 7.5g/l含有寒天培地のプレートで培養可能である。ほかに、グルコース 60g/l、酵母エキス 85g/lからなる液体培地中において、好気性条件下で培養することもできる。さらに、本発明の冬虫夏草はイオンビームで照射後の菌糸体膜の中心から白金耳にてポテトデキストロース寒天プレートの中心に接種し、菌糸体膜がプレート全体に広がるまで5〜35℃、好ましくは20〜30℃、にて培養することができる。 イオンビーム照射後、固体培地にて培養中の冬虫夏草菌糸体について、経時的に成長した冬虫夏草菌糸体膜の直径を測定し、成長速度(cm/day)を非照射のものと比較することで、突然変異株選抜の指標とすることができる。本発明における成長速度とは、培養開始後12日間の成長速度の平均値(cm/day)をいう。特に、照射後の菌糸体の成長速度がコントロール(非照射のもの)の20〜60%に低下しているものを選別するのが好ましい。このとき、成長速度がコントロールのものと比較して20%以下の変異株では生存率が低すぎ、60%以上の変異株ではコントロールのものとの差が少なく、多様な変異株を得るという観点から好ましくない。 冬虫夏草の変異株のうち、本発明にしたがって、好ましい菌株をさらに選抜する指標となる菌学的性質としては、例えば、薬剤耐性、環境ストレス耐性、生理活性物質の生産能、培養的性質、最適生育条件(pH、温度など)、形態学的性質、物質生産能等が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、本発明の冬虫夏草を選抜する際には、特に生理活性物質の高生産能を有する株が好ましく、より好ましくは、コルジセピン高生産株である。生理活性物質としては例えば、コルジセピンのほか、エルゴステロールパーオキシド、ミリオシン等が挙げられる。本発明でいう高生産能とは、親株に対して、生理活性物質を例えば1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは1.9倍以上、さらに好ましくは2.2倍以上生産する能力を有することをいう。 本発明はまた、上記の方法によって製造される冬虫夏草の変異株を提供する。変異株は、好ましくは生体内核酸物質、例えばアデニン及び/又はグアニンのアナログ存在下で生存可能である。アデニン及び/又はグアニンのアナログに耐性を示す変異体は、アデニン、グアニンに対するフィードバック阻害が解除されており、これらの物質を蓄積している可能性が高く、結果としてコルジセピンの生産増につながると推定される。アナログは特に限定されないが、好ましいアナログとしては、8−アザアデニン及び8−アザグアニンが挙げられる。最も好ましくは、本発明の冬虫夏草変異株は、産総研特許生物寄託センターに寄託申請された受領番号FERM AP−21315株である。 受領番号FERM AP−21315の冬虫夏草変異株は、茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託申請されている(受領日:2007年7月5日)。 以下、本発明の具体的な方法を、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。実施例1.冬虫夏草の突然変異株の製造 菌株としては、Cordyceps militaris NBRC 9787をポテトデキストロース寒天スラント上、5℃で保存していたものを用いた。イオンビーム照射用のプレートを作成するため、保存菌株から一白金耳掻き取り、直径3.5cmのポテトデキストロース寒天プレートの中心へ接種し、25℃で10日間培養した。 菌糸体膜のプレートに、若狭湾エネルギー研究センターの多目的シンクロトロン・タンデム加速器(日立製作所 特注品(型番なし))により発生する200MeVのプロトンビームを線量800Gyで照射した。プロトンビーム照射後の菌糸体膜の中心から一白金耳掻き取り、ポテトデキストロース寒天プレートの中心に接種した。経時的に、成長した菌糸体膜の直径を測定し、成長速度(cm/day)を非照射のものと比較し、成長速度が50%に低下したものを選択した。実施例2.8−アザグアニン耐性コルジセピン高生産株のスクリーニング2−1.8−アザグアニン耐性株のスクリーニング 実施例1において成長速度比較によって選択された菌糸体膜の1/4量を掻き取り、これを5mlの生理食塩水に懸濁し、二重ガーゼとナイロンメッシュで濾過した。濾液そのもの及び10倍希釈液をそれぞれ0.1mlずつ取り、200mg/lの8−アザグアニン含有寒天培地のプレートに塗布した。8−アザグアニンに耐性を示し、生育した28個のコロニーを選抜し、それぞれ新しいスラントに移植した。コルジセピン高生産株のスクリーニング 冬虫夏草によって生産されたコルジセピンは、Bacillus subtilisの生育を阻止するため、阻止円の大きさで変異体のコルジセピン生産能を評価し、コルジセピン高生産菌株を選抜した。 実施例2−1で得られた28種の8−アザグアニン耐性菌株のスラントからそれぞれ一白金耳掻き取り、グルコース20g/l、ペプトン2.5g/l、酵母エキス7.5g/l含有寒天培地のプレートの中心に接種し、25℃で30日間培養した。30日間の培養後、プレート上に広がった8−アザグアニン耐性菌の菌糸体膜の中心を、直径8mmの円筒形カッターでくり抜き、それをBacillus subtilis培養液(8−アザグアニン耐性菌プレート培養の29日目に、Bacillus subtilis NBRC 3134を(NH4)2SO4 2g/l、K2HPO4 14g/l、KH2PO4 6g/l、クエン酸三ナトリウム・2H2O 1g/l、MgSO4・7H2O 0.25g/l、グルコース 5g/l、カザミノ酸 5g/lからなる培地中、30℃、150rpmで24時間振盪培養したもの)を適切な濃度(OD 660nm=0.0005)となるように生理食塩水で希釈し、希釈液0.1mlを(NH4)2SO4 2g/l、K2HPO4 14g/l、KH2PO4 6g/l、クエン酸三ナトリウム・2H2O 1g/l、MgSO4・7H2O 0.25g/l、グルコース 5g/l、カザミノ酸 5g/l、寒天 15g/lからなるプレートに塗布したものの中心に置き、30℃で24時間培養した。 Bacillus subtilisに対する阻止円の大きさで変異体のコルジセピン生産能を評価し、最も有望なコルジセピン高生産菌株としてG81−3を選抜した。この突然変異体は、産総研特許生物寄託センターに寄託申請した(受領番号FERM AP−21315)。本変異体の形態的、生理学的特徴としては、親株と比較して色調が黄色っぽい(親株は白色)、菌糸体膜の隆起が激しい、暗条件での生育が速い点等が挙げられる。実施例3.コルジセピンの定量 Cordyceps militarisの突然変異体G81−3と野生株NBRC 9787をそれぞれポテトデキストロース寒天スラント上で活性化させ、次いでポテトデキストロース寒天プレート上にて、25℃で13日間前培養を行い、種菌を作成した。 下記に示す本培養の各培地100mlを静置培養用の容器(容量500ml)に入れ、次に、上記前培養で直径3.5〜4.5cmに成長した菌糸体を滅菌済み円筒形カッター(1cm)でくり抜き、本培養培地上に浮かべ、静置培養を行った。 培養液を経時的にサンプリングし、孔径0.45μmのフィルターで濾過し、濾液のコルジセピン濃度、グルコース濃度、pHを測定した。コルジセピン濃度はHPLCを用いて測定した。グルコースが完全に消費された時点で本培養を終了し、培地と菌体に分けて回収した。菌体は十分水洗し、100℃で24時間乾燥し乾燥菌体重量を測定した。本実施例においては、培養期間は20から30日であった。尚、予備実験において、培養終了時の菌体内コルジセピン量は菌体外のコルジセピン量の2%程度であることが確認されているため、菌体内のコルジセピンは定量しなかった。 HPLCの条件は、カラムとしてTSK−GEL ODS−80Ts(4.6mm ID×15.0cmL)、移動相として0.1%リン酸/メタノール=98/2(v/v)を用い、流速1.0ml/min、カラム温度40℃、検出波長260nmで行った。上記の測定は、一種類の培地につき、少なくとも2回の実験を行い、その平均値をその培地における値とした。 本培養の培地は、表1に示すような濃度のグルコースと酵母エキス、さらに、微量元素として0.028g クエン酸三ナトリウム・2H2O、0.02g NH4NO3、0.05g KH2PO4、0.002g MgSO4・7H2O、0.001g CaCl2・2H2O、4.6×10−5g クエン酸、5.0×10−5g ZnSO4・7H2O、1.0×10−5g Fe(NH4)2SO4・6H2O、2.5×10−6g CuSO4・5H2O、5.0×10−7g MnSO4・4〜5H2O、5.0×10−7g H3BO3、5.0×10−7g Na2MoO4・2H2Oを含有する溶液100mlを用いた。それぞれの培地で培養を行い、終了時の培地中のコルジセピン濃度(g/l)と乾燥菌体1gあたりのコルジセピン生産量(g/g)を測定し、結果を表1に示した。また、表中、試験例5及び試験例6について培養の経時変化を図1に示した。 表1より、G81−3(すなわち受領番号FERM AP−21315である冬虫夏草変異株)の培養によって、培地中に得られるコルジセピン量は、野生株の場合の1.7倍以上、菌体1gあたりのコルジセピン収量は野生株の1.9倍以上であった。 また図1より、G81−3と野生株は、培養に要する時間がほぼ等しいにもかかわらず、最大コルジセピン生産量がG81−3で野生株の2.2倍となっていることが示された。 以上より、受領番号FERM AP−21315である冬虫夏草変異株は野生株と比較して優れたコルジセピン生産能を有することが明らかとなった。また生産速度(g/l・day)という観点からも変異株の有用性が示された。 本実施例で示されたように、イオンビーム照射によって冬虫夏草の変異株の製造が可能であることが示された。さらに本発明方法によって製造された受領番号FERM AP−21315である変異株用いることで、従来と比較して簡便かつ高収率で有効成分のコルジセピンを得られることが示された。試験例5及び6における、培地中のコルジセピン濃度の経時変化を比較したグラフである。白い記号は試験例5、黒い記号は試験例6の結果を示す。試験例5及び6における、培地中の残存グルコース濃度の経時変化を比較したグラフである。白い記号は試験例5、黒い記号は試験例6の結果を示す。符号の説明 図1 白丸 試験例5の結果 図1 黒丸 試験例6の結果 図2 白三角 試験例5の結果 図2 黒三角 試験例6の結果 冬虫夏草属菌糸体に高エネルギーイオンビームを照射し、該照射処理をした菌糸体から親株と菌学的性質の異なる菌株を選抜することを含む、冬虫夏草の突然変異株の製造方法。 冬虫夏草の生理活性物質高生産株を選抜することを含む、請求項1記載の方法。 該生理活性物質がコルジセピンである、請求項2記載の方法。 前記イオンビームの照射線量が200〜2000Gyの範囲である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 前記イオンビームを、照射後の菌糸体の成長速度が照射前の20〜60%に減少する線量で照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって製造される、冬虫夏草の突然変異株。 アデニン及び/又はグアニンのアナログ存在下で生存可能である、請求項6記載の突然変異株。 アデニン及び/又はグアニンのアナログが、8−アザアデニン又は8−アザグアニンである、請求項7記載の突然変異株。 コルジセピン高生産能を有する、受領番号がFERM AP−21315である、冬虫夏草(Cordyceps militaris)NBRC 9787の変異株。 受領番号がFERM AP−21315である冬虫夏草を好気的に培養する工程を含む、コルジセピンの生産方法。 該冬虫夏草を、酵母エキスを含む培地中で培養することを含む、請求項10記載の方法。 全培地重量に対し、0.25〜14重量%の酵母エキスを含む培地中で培養することを含む、請求項11記載の方法。 【課題】冬虫夏草の変異株の製造方法、及びそれを利用してコルジセピンを高生産する方法の提供。【解決手段】冬虫夏草の菌糸体に高エネルギーのイオンビームを照射し、当該照射処理を行った菌糸体の中から親株と菌学的性質、特に生理活性物質の生産能の異なる変異株を選抜する。さらにその中から、有効成分コルジセピンを高効率で生産する変異株を選抜し、得られた高生産株を、最適条件下で培養することで、コルジセピンの高生産を可能とする方法。【選択図】なし


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特許公報(B2)_冬虫夏草の突然変異体及びその変異体の培養法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_冬虫夏草の突然変異体及びその変異体の培養法
出願番号:2007201235
年次:2013
IPC分類:C12N 1/14,C12P 1/02,C12P 19/38,A61P 31/04,A61P 35/00,A01N 65/00


特許情報キャッシュ

榊原 三樹男 増田 美奈 櫻井 明彦 畑下 昌範 JP 5343264 特許公報(B2) 20130823 2007201235 20070801 冬虫夏草の突然変異体及びその変異体の培養法 国立大学法人福井大学 504145320 公益財団法人若狭湾エネルギー研究センター 397022885 高島 一 100080791 土井 京子 100125070 鎌田 光宜 100136629 田村 弥栄子 100121212 山本 健二 100122688 村田 美由紀 100117743 榊原 三樹男 増田 美奈 櫻井 明彦 畑下 昌範 20131113 C12N 1/14 20060101AFI20131024BHJP C12P 1/02 20060101ALI20131024BHJP C12P 19/38 20060101ALI20131024BHJP A61P 31/04 20060101ALN20131024BHJP A61P 35/00 20060101ALN20131024BHJP A01N 65/00 20090101ALN20131024BHJP JPC12N1/14 FC12P1/02 ZC12P19/38A61P31/04A61P35/00A01N65/00 H C12N 1/00−7/08 C12P 1/00−1/06 C12P 19/00−19/64 A61P 31/00−31/22 A01N 65/00 A61P 35/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN) 特開2007−000064(JP,A) 特開2003−116522(JP,A) Enz.Microbial Technol.,2007年 4月 3日,Vol.40,p.1199-1205 J.Microbiol.Biotechnol.,2007年 6月,Vol.17, No.6,p.1041-1044 JAEA-Review,2007年 2月,2006-042,p.91 群馬県林業試験場業務報告,2006年,p.56-57 群馬県林業試験場業務報告,2007年 7月 1日,p.44-45 Agric.Biol.Chem.,1986年,Vol.50,p.1339-1340 Mutat.Res.,1990年,Vol.230,p.187-195 J.Microw.Power,1982年,Vol.17, No.4,p.345-351 4 IPOD FERM P-21315 2009034045 20090219 10 20100728 水落 登希子 本発明は冬虫夏草変異体の製造方法、それによって得られた変異体及びその有効利用法に関する。 冬虫夏草は、子嚢菌類に分類される菌類で、昆虫に寄生するキノコの総称である。寄生の形態は以下の通りである:(1)飛散した胞子が宿主である昆虫に取り付き、その体内に入り込む。(2)体内に入った胞子が、養分を吸収して菌糸をのばしながら成長し、菌糸の固まりである菌核を形成する。(3)成熟後、昆虫の体を突き破って、キノコ(子実体)を生じる。 中国においては、コウモリガの幼虫に寄生するCordyceps sinensis(学名)が、1700年代から、漢方薬として用いられてきた。近年では、Cordyceps sinensis以外の冬虫夏草についても抗菌、抗腫瘍、免疫増強、血糖降下、血管拡張作用など様々な薬理活性機能を有することが明らかにされてきており、その有効成分としてコルジセピン、エルゴステロールパーオキシド、ミリオシン、各種多糖及び糖タンパク質などの存在が報告されている。これらの有効成分のなかでも、ヌクレオシド(アデノシン)のアナログであるコルジセピンは、抗菌、抗腫瘍作用を示す物質として特に注目を集めている。このように、医薬品や保健食品への利用が期待されている冬虫夏草であるが、それらは極めて小さく、採集が困難であるため、天然に生育する冬虫夏草を採集収穫するだけでは、高まりつつある需要を十分に満たすことはできない。 そこで、近年、冬虫夏草の菌糸体や子実体を人工的に培養する方法、さらにはそこから有効成分を抽出する方法としていくつかの提案がなされている。例えば、培養する方法としては、水を用いて高温加熱下で抽出した蚕の蛹の組成成分の抽出液に、炭素源、アミノ酸類、ミネラル類、又はビタミン類の中から少なくとも一種を添加した培地で冬虫夏草の菌糸体と子実体を栽培する方法(特許文献1)、冬虫夏草の菌糸体を合成または天然の培地で培養するに際して、対象とする冬虫夏草の寄生した昆虫と同一種の昆虫の抽出エキスを培地に添加する方法(特許文献2)などが挙げられる。有効成分を抽出する方法としては、特許文献3〜5などが挙げられる。すなわち、特許文献3には、無菌飼育した蚕の蛹あるいは蜘蛛の体内に該冬虫夏草菌株の胞子懸濁液を接種して子実体を形成させ、得られた子実体からエタノールや水を用いて有効成分を抽出する方法が記載されている。また、特許文献4には、玄米などの穀類と昆虫組織体(寄生した昆虫と同一目、同一科の昆虫を使用)を主成分とし、アミノ酸類、ミネラル類、又はビタミン類の中から少なくとも一種の添加物を添加した固体培地に冬虫夏草菌を接種し、18〜26℃、湿度80%以上全暗で菌糸体を発育させた後、照度100Lux以上、1日6時間以上照射で子実体を栽培し、培養品をそのまま粉砕する、あるいは、必要に応じて有効成分を抽出する方法が記載されている。さらに、特許文献5には、350〜550nmの波長域にピークをもつ光を連続又は間欠的に照射して冬虫夏草菌糸体を培養し、得られた菌糸体から、有機溶媒や水等で有効成分を抽出する方法が記載されている。 他にも、最も重要な有効成分の1つであるコルジセピンの生産性を高めるため好適な培地・培養条件を検討した結果が、特許文献6及び7、非特許文献1〜3等に記載されている。すなわち、特許文献6には、冬虫夏草用の培地として、1〜6重量%のグルコース、スクロース、糖蜜、マルトースから選ばれた少なくとも1種、1〜7重量%のペプトン、イースト、モルト、ミルクから選ばれた少なくとも1種、0.1〜0.5重量%のアスパラギン、アスパラギン酸、グリシン、DNAから選ばれた少なくとも1種及び/又は微量のビオチン、ビタミン類を含有するものを用いて、コルジセピンの含有率を向上させる方法が記載されている。特許文献7には、冬虫夏草用培地にコルジセピンを産生する冬虫夏草菌を接種し、暗所、5〜28℃で20〜90日間培養する第一工程と、その培養後、照度100〜150000Luxの光照射下において、35℃以下の範囲で第一工程より温度を上げて培養し、コルジセピンの含有量を向上させる方法が記載されている。また、非特許文献1には、通気攪拌槽を用いた深部培養において、培養開始から溶存酸素濃度(DO)を飽和の60%に制御し、コルジセピンの比生産速度が低下する時点で30%にするという2段階のDO制御方式により、高い生産量と生産性を得る方法が記載され、非特許文献2には、炭素源として、42g/lグルコース、窒素源として、15.8g/lペプトンを含む培地を用いて、25℃、110rpm、20日間振盪フラスコによる培養を行い、高いコルジセピン生産性を得る方法が記載されている。さらに、非特許文献3には、窒素源として、45g/lの酵母エキスを用い、8日間の振盪培養の後、8日間の静置培養を行うことにより、効率的にコルジセピンを得る方法が記載されている。 しかしながら、従来の冬虫夏草の人工培養法は、培地に蛹粉、蛹の抽出液、及び/又は昆虫の抽出液を用いたり、昆虫の体内に菌を接種したり、温度、pH、光照射を細かく制御したりするなど、操作が煩雑で実用化を考慮した大量生産は困難である。また、コルジセピンを得ようとした場合、その収量は、非特許文献1で培地中に0.195g/l、非特許文献2で0.345g/l、非特許文献3で2.2g/l、特許文献6では菌体1gあたり0.02〜0.1g、特許文献7では菌体1gあたり0.05〜0.1gと、いずれも十分とはいえない。 微生物が産生する有用物質を工業的規模で得るための試みとしては、変異体の誘導がよく行われており、変異原として、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)、紫外線、放射線などが用いられている。 放射線に分類されるイオンビームは、近年、植物育種の分野で適用され始めた技術である。例えば、カーボンビーム照射をしたシロイヌナズナ種子のtt,gl遺伝子座を解析したところ、電子線照射と比較して突然変異率が17倍、逆位や欠失などの大きな構造変化の点突然変異に対する割合が電子線照射の3倍であった(非特許文献4)。変異原としてイオンビームを用いた突然変異の誘導は、植物育種の分野ではいくつかの成功例が報告されているが(非特許文献5)、微生物に適用した例は知られていない特開平10−42691号公報特開平10−117770号公報特開2002−272267号公報特開2003−116522号公報特開2004−344027号公報特開2004−242506号公報特開2004−267004号公報Biotechnol. Prog.20,1408−1413(2004)Process Biochemistry 40,1667−1672(2005)Biochem. Eng. J.33,193−201(2007)Genetics 157,379−387(2001)Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206,574−578(2003) 本発明が解決しようとする課題は、従来の冬虫夏草の人工培養法に対して、より簡便で大量生産に適する人工培養法を提供し、かつ有効成分を高収率で得ることのできる技術を提供することにある。 本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、冬虫夏草に高エネルギーイオンビームを照射し、突然変異を誘発することに成功した。また当該突然変異株のうち、アデニンあるいはグアニンのアナログに耐性を示す冬虫夏草菌株をスクリーニングすることによって、冬虫夏草に含まれる生理活性物質であるコルジセピンの高生産株を選別した。さらに、この菌を十分な炭素源と窒素源を含有する培地で培養することによって、培養液中に高濃度でコルジセピンを産生させる方法を見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の通りである:〔1〕冬虫夏草属菌糸体に高エネルギーイオンビームを照射し、該照射処理をした菌糸体から親株と菌学的性質の異なる菌株を選抜することを含む、冬虫夏草の突然変異株の製造方法。〔2〕冬虫夏草の生理活性物質高生産株を選抜することを含む、〔1〕の方法。〔3〕該生理活性物質がコルジセピンである、〔2〕の方法。〔4〕前記イオンビームの照射線量が200〜2000Gyの範囲である、〔1〕〜〔3〕のいずれかの方法。〔5〕 前記イオンビームを、照射後の菌糸体の成長速度が照射前の20〜60%に減少する線量で照射することを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかの方法。〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれかの方法によって製造される、冬虫夏草の突然変異株。〔7〕アデニン及び/又はグアニンのアナログ存在下で生存可能である、〔6〕の突然変異株。〔8〕アデニン及び/又はグアニンのアナログが、8−アザアデニン又は8−アザグアニンである、〔7〕の突然変異株。〔9〕コルジセピン高生産能を有する、受領番号がFERM AP−21315である、冬虫夏草(Cordyceps militaris)NBRC 9787の変異株。〔10〕受領番号がFERM AP−21315である冬虫夏草を好気的に培養する工程を含む、コルジセピンの生産方法。〔11〕該冬虫夏草を、酵母エキスを含む培地中で培養することを含む、〔10〕の方法。〔12〕全培地重量に対し、0.25〜14重量%の酵母エキスを含む培地中で培養することを含む、〔11〕の方法。 本発明の突然変異株の製造方法は、冬虫夏草の生理活性物質の高生産株を取得することを可能とする。また得られた突然変異株の利用によって、有用物質の大量生産が困難であった従来法の欠点を克服することができる。すなわち、得られた変異株を人工培養すれば、培養液(培地)中に、生理活性物質であるコルジセピンが高濃度で産出される。培地成分としては、従来法における蛹粉などの特殊な培地成分を必要とせず、一般的な炭素源と窒素源のみで培養が可能であるため、コルジセピンを工業規模で安価に、かつ簡便に生産することができるという利点を有する。 本発明は、冬虫夏草属菌糸体にイオンビームを照射し、該照射処理をした菌体から菌学的性質の異なる菌株を選抜することを含む、冬虫夏草の突然変異株の製造方法を提供する。 本発明に用いる冬虫夏草は、特に限定されず、野生株の冬虫夏草であっても、人工栽培されている冬虫夏草であってもよい。より好ましくは、冬虫夏草はコルジセピンを産生し、さらに好ましくは、産生したコルジセピンを菌体外に排出及び/又は菌体内に含有する。例えば、コルジセプス属のCordyceps militaris NBRC 9787、Cordyceps militaris NBRC 30377、Cordyceps militaris ATCC 26848、Cordyceps militaris ATCC 34164、Cordyceps militaris ATCC 34165等が適している。 冬虫夏草属菌糸体に照射するイオンビームとしては、突然変異を誘発できるものであれば特に限定されず、例えば、炭素イオンビーム、水素イオンビームのほか、窒素、ネオン、アルゴン、鉄、及びヘリウムイオンビームが挙げられるが、好ましくは炭素イオンビーム又は水素イオンビームである。イオンビームの照射線量は、用いるイオンビームの種類、冬虫夏草の菌株などに応じて決定すればよいが、200〜2000Gy、好ましくは400〜1500Gy、より好ましくは500〜1000Gy、最も好ましくは600〜900Gyである。200Gy以下ではイオンビーム照射の効果が現れず、2000Gy以上では冬虫夏草菌糸体が全て死滅してしまうため、いずれの場合も多様な変異株を得るという観点から好ましくない。イオンビームを発生させる高エネルギー加速器としては、ガンマ線などと比較して線エネルギー付与(LET=Linear Energy Transfer)が高く、低エネルギー加速器と比較して水中飛程距離が長いことを特徴とするシンクロトロン又はサイクロトロンが好ましい。 本発明の冬虫夏草及び冬虫夏草変異株は、自体公知の方法で培養できる。例えば、本発明の冬虫夏草及び冬虫夏草変異株の培地は、炭素源及び窒素源、並びに/又は他の添加物を含む培地で培養でき、液体培地であっても、固体培地であってもよい。炭素源としては、グルコース、スクロース、マルトース、ラクトース、糖蜜等が利用可能であり、窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、カザミノ酸、コーンスティープ、小麦胚芽等が利用可能であるが、酵母エキスが好ましい。また、グリシン、グルタミン、アスパラギン酸、システイン等のアミノ酸、アデニン、グアニン、アデノシン等の核酸関連物質のいずれか1つ、又は複数を添加してもよい。 成分の配合量としては、例えば炭素源は、水を含む培地全重量の1〜10重量%、好ましくは2〜8重量%であり、窒素源は培地全重量の0.25〜14重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。アミノ酸を添加する場合は、その配合量は培地全重量の0.5〜5重量%、好ましくは1〜3重量%であり、核酸関連物質を添加する場合は、その配合量は培地全重量の0.05〜0.6重量%、好ましくは0.1〜0.4重量%である。また、固体培地である場合には、培地全重量の1〜2重量%、好ましくは1.2〜1.8重量%の寒天を含み得る。 具体的には、例えばポテトデキストロース寒天プレート上、又はグルコース 20g/l、ペプトン 2.5g/l、及び酵母エキス 7.5g/l含有寒天培地のプレートで培養可能である。ほかに、グルコース 60g/l、酵母エキス 85g/lからなる液体培地中において、好気性条件下で培養することもできる。さらに、本発明の冬虫夏草はイオンビームで照射後の菌糸体膜の中心から白金耳にてポテトデキストロース寒天プレートの中心に接種し、菌糸体膜がプレート全体に広がるまで5〜35℃、好ましくは20〜30℃、にて培養することができる。 イオンビーム照射後、固体培地にて培養中の冬虫夏草菌糸体について、経時的に成長した冬虫夏草菌糸体膜の直径を測定し、成長速度(cm/day)を非照射のものと比較することで、突然変異株選抜の指標とすることができる。本発明における成長速度とは、培養開始後12日間の成長速度の平均値(cm/day)をいう。特に、照射後の菌糸体の成長速度がコントロール(非照射のもの)の20〜60%に低下しているものを選別するのが好ましい。このとき、成長速度がコントロールのものと比較して20%以下の変異株では生存率が低すぎ、60%以上の変異株ではコントロールのものとの差が少なく、多様な変異株を得るという観点から好ましくない。 冬虫夏草の変異株のうち、本発明にしたがって、好ましい菌株をさらに選抜する指標となる菌学的性質としては、例えば、薬剤耐性、環境ストレス耐性、生理活性物質の生産能、培養的性質、最適生育条件(pH、温度など)、形態学的性質、物質生産能等が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、本発明の冬虫夏草を選抜する際には、特に生理活性物質の高生産能を有する株が好ましく、より好ましくは、コルジセピン高生産株である。生理活性物質としては例えば、コルジセピンのほか、エルゴステロールパーオキシド、ミリオシン等が挙げられる。本発明でいう高生産能とは、親株に対して、生理活性物質を例えば1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは1.9倍以上、さらに好ましくは2.2倍以上生産する能力を有することをいう。 本発明はまた、上記の方法によって製造される冬虫夏草の変異株を提供する。変異株は、好ましくは生体内核酸物質、例えばアデニン及び/又はグアニンのアナログ存在下で生存可能である。アデニン及び/又はグアニンのアナログに耐性を示す変異体は、アデニン、グアニンに対するフィードバック阻害が解除されており、これらの物質を蓄積している可能性が高く、結果としてコルジセピンの生産増につながると推定される。アナログは特に限定されないが、好ましいアナログとしては、8−アザアデニン及び8−アザグアニンが挙げられる。最も好ましくは、本発明の冬虫夏草変異株は、産総研特許生物寄託センターに寄託申請された受領番号FERM AP−21315株である。 受領番号FERM AP−21315の冬虫夏草変異株は、茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託申請されている(受領日:2007年7月5日)。 以下、本発明の具体的な方法を、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。実施例1.冬虫夏草の突然変異株の製造 菌株としては、Cordyceps militaris NBRC 9787をポテトデキストロース寒天スラント上、5℃で保存していたものを用いた。イオンビーム照射用のプレートを作成するため、保存菌株から一白金耳掻き取り、直径3.5cmのポテトデキストロース寒天プレートの中心へ接種し、25℃で10日間培養した。 菌糸体膜のプレートに、若狭湾エネルギー研究センターの多目的シンクロトロン・タンデム加速器(日立製作所 特注品(型番なし))により発生する200MeVのプロトンビームを線量800Gyで照射した。プロトンビーム照射後の菌糸体膜の中心から一白金耳掻き取り、ポテトデキストロース寒天プレートの中心に接種した。経時的に、成長した菌糸体膜の直径を測定し、成長速度(cm/day)を非照射のものと比較し、成長速度が50%に低下したものを選択した。実施例2.8−アザグアニン耐性コルジセピン高生産株のスクリーニング2−1.8−アザグアニン耐性株のスクリーニング 実施例1において成長速度比較によって選択された菌糸体膜の1/4量を掻き取り、これを5mlの生理食塩水に懸濁し、二重ガーゼとナイロンメッシュで濾過した。濾液そのもの及び10倍希釈液をそれぞれ0.1mlずつ取り、200mg/lの8−アザグアニン含有寒天培地のプレートに塗布した。8−アザグアニンに耐性を示し、生育した28個のコロニーを選抜し、それぞれ新しいスラントに移植した。コルジセピン高生産株のスクリーニング 冬虫夏草によって生産されたコルジセピンは、Bacillus subtilisの生育を阻止するため、阻止円の大きさで変異体のコルジセピン生産能を評価し、コルジセピン高生産菌株を選抜した。 実施例2−1で得られた28種の8−アザグアニン耐性菌株のスラントからそれぞれ一白金耳掻き取り、グルコース20g/l、ペプトン2.5g/l、酵母エキス7.5g/l含有寒天培地のプレートの中心に接種し、25℃で30日間培養した。30日間の培養後、プレート上に広がった8−アザグアニン耐性菌の菌糸体膜の中心を、直径8mmの円筒形カッターでくり抜き、それをBacillus subtilis培養液(8−アザグアニン耐性菌プレート培養の29日目に、Bacillus subtilis NBRC 3134を(NH4)2SO4 2g/l、K2HPO4 14g/l、KH2PO4 6g/l、クエン酸三ナトリウム・2H2O 1g/l、MgSO4・7H2O 0.25g/l、グルコース 5g/l、カザミノ酸 5g/lからなる培地中、30℃、150rpmで24時間振盪培養したもの)を適切な濃度(OD 660nm=0.0005)となるように生理食塩水で希釈し、希釈液0.1mlを(NH4)2SO4 2g/l、K2HPO4 14g/l、KH2PO4 6g/l、クエン酸三ナトリウム・2H2O 1g/l、MgSO4・7H2O 0.25g/l、グルコース 5g/l、カザミノ酸 5g/l、寒天 15g/lからなるプレートに塗布したものの中心に置き、30℃で24時間培養した。 Bacillus subtilisに対する阻止円の大きさで変異体のコルジセピン生産能を評価し、最も有望なコルジセピン高生産菌株としてG81−3を選抜した。この突然変異体は、産総研特許生物寄託センターに寄託申請した(受領番号FERM AP−21315)。本変異体の形態的、生理学的特徴としては、親株と比較して色調が黄色っぽい(親株は白色)、菌糸体膜の隆起が激しい、暗条件での生育が速い点等が挙げられる。実施例3.コルジセピンの定量 Cordyceps militarisの突然変異体G81−3と野生株NBRC 9787をそれぞれポテトデキストロース寒天スラント上で活性化させ、次いでポテトデキストロース寒天プレート上にて、25℃で13日間前培養を行い、種菌を作成した。 下記に示す本培養の各培地100mlを静置培養用の容器(容量500ml)に入れ、次に、上記前培養で直径3.5〜4.5cmに成長した菌糸体を滅菌済み円筒形カッター(1cm)でくり抜き、本培養培地上に浮かべ、静置培養を行った。 培養液を経時的にサンプリングし、孔径0.45μmのフィルターで濾過し、濾液のコルジセピン濃度、グルコース濃度、pHを測定した。コルジセピン濃度はHPLCを用いて測定した。グルコースが完全に消費された時点で本培養を終了し、培地と菌体に分けて回収した。菌体は十分水洗し、100℃で24時間乾燥し乾燥菌体重量を測定した。本実施例においては、培養期間は20から30日であった。尚、予備実験において、培養終了時の菌体内コルジセピン量は菌体外のコルジセピン量の2%程度であることが確認されているため、菌体内のコルジセピンは定量しなかった。 HPLCの条件は、カラムとしてTSK−GEL ODS−80Ts(4.6mm ID×15.0cmL)、移動相として0.1%リン酸/メタノール=98/2(v/v)を用い、流速1.0ml/min、カラム温度40℃、検出波長260nmで行った。上記の測定は、一種類の培地につき、少なくとも2回の実験を行い、その平均値をその培地における値とした。 本培養の培地は、表1に示すような濃度のグルコースと酵母エキス、さらに、微量元素として0.028g クエン酸三ナトリウム・2H2O、0.02g NH4NO3、0.05g KH2PO4、0.002g MgSO4・7H2O、0.001g CaCl2・2H2O、4.6×10−5g クエン酸、5.0×10−5g ZnSO4・7H2O、1.0×10−5g Fe(NH4)2SO4・6H2O、2.5×10−6g CuSO4・5H2O、5.0×10−7g MnSO4・4〜5H2O、5.0×10−7g H3BO3、5.0×10−7g Na2MoO4・2H2Oを含有する溶液100mlを用いた。それぞれの培地で培養を行い、終了時の培地中のコルジセピン濃度(g/l)と乾燥菌体1gあたりのコルジセピン生産量(g/g)を測定し、結果を表1に示した。また、表中、試験例5及び試験例6について培養の経時変化を図1に示した。 表1より、G81−3(すなわち受領番号FERM AP−21315である冬虫夏草変異株)の培養によって、培地中に得られるコルジセピン量は、野生株の場合の1.7倍以上、菌体1gあたりのコルジセピン収量は野生株の1.9倍以上であった。 また図1より、G81−3と野生株は、培養に要する時間がほぼ等しいにもかかわらず、最大コルジセピン生産量がG81−3で野生株の2.2倍となっていることが示された。 以上より、受領番号FERM AP−21315である冬虫夏草変異株は野生株と比較して優れたコルジセピン生産能を有することが明らかとなった。また生産速度(g/l・day)という観点からも変異株の有用性が示された。 本実施例で示されたように、イオンビーム照射によって冬虫夏草の変異株の製造が可能であることが示された。さらに本発明方法によって製造された受領番号FERM AP−21315である変異株用いることで、従来と比較して簡便かつ高収率で有効成分のコルジセピンを得られることが示された。試験例5及び6における、培地中のコルジセピン濃度の経時変化を比較したグラフである。白い記号は試験例5、黒い記号は試験例6の結果を示す。試験例5及び6における、培地中の残存グルコース濃度の経時変化を比較したグラフである。白い記号は試験例5、黒い記号は試験例6の結果を示す。符号の説明 図1 白丸 試験例5の結果 図1 黒丸 試験例6の結果 図2 白三角 試験例5の結果 図2 黒三角 試験例6の結果 コルジセピン高生産能を有する、受領番号がFERM AP−21315である、冬虫夏草(Cordyceps militaris)NBRC 9787の変異株。 受領番号がFERM AP−21315である冬虫夏草を好気的に培養する工程を含む、コルジセピンの生産方法。 該冬虫夏草を、酵母エキスを含む培地中で培養することを含む、請求項2記載の方法。 全培地重量に対し、0.25〜14重量%の酵母エキスを含む培地中で培養することを含む、請求項3記載の方法。


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