タイトル: | 公開特許公報(A)_凍結乾燥方法 |
出願番号: | 2007187732 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | A01N 1/02,C12N 9/00 |
山口 俊一郎 JP 2009023934 公開特許公報(A) 20090205 2007187732 20070719 凍結乾燥方法 三洋化成工業株式会社 000002288 山口 俊一郎 A01N 1/02 20060101AFI20090109BHJP C12N 9/00 20060101ALI20090109BHJP JPA01N1/02C12N9/00 5 OL 6 4B050 4H011 4B050CC07 4B050FF18C 4B050HH03 4B050KK06 4B050KK12 4B050LL01 4B050LL02 4B050LL03 4H011CB15 4H011CD02 4H011CD06 4H011CD11 本発明は、食品、医薬品および生化学の分野において用いられる凍結乾燥方法の改良、ならびに本発明の凍結乾燥方法を用いる凍結乾燥物の製造方法に関する。さらに詳しくは、凍結乾燥後に有用物質の力価が低下しにくい凍結乾燥方法に関する。 酵素やペプチドなどのタンパク質は、診断・検査薬、医薬品として広く利用されており、これらの製品においては、製造工程および保存期間中に生理活性(力価)が損なわれないことが重要である。 安定してタンパク質を取り出し精製するための一つの方法として凍結乾燥が一般的に行われているが、何も添加せずに凍結乾燥すると、タンパク質が変性、失活し、例えば酵素の場合、力価が著しく低下し、場合によっては5〜15%しか保持できないという問題点があった。 これに対し、糖類などを添加すると、力価の低下は少し抑制され、20〜35%まで向上するが、依然として保存期間中に生理活性が損なわれ、力価が10%程度しか保持されないという問題点がある(たとえば、特許文献1)。特開2005−270006号公報 そこで、凍結乾燥時に有用物質を変性することなく、かつ保存期間中に生理活性が低下しない凍結乾燥方法を提供することが課題である。 本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、酵素、組み換えタンパク質、抗体、ペプチド、アミノ酸、核酸、糖、抗生物質およびビタミン類からなる群より選ばれる有用物質の水溶液を凍結乾燥して有用物質を精製する過程において、アルギニンと有機酸(a)との塩(A)を存在させて、凍結乾燥させることを特徴とする凍結乾燥方法;その凍結乾燥方法によって精製されて得られた有用物質である。 本発明の凍結乾燥方法は、凍結乾燥時に有用物質を変性することなく、かつ保存期間中に生理活性が低下しないので食品、医薬品、および生化学の分野において有効に使用することができる。また、各種有用物質の製造コストを大幅に改善することができる。 本発明はタンパク質(酵素、組み換えタンパク質、抗体、ペプチドなど)、アミノ酸、核酸、糖、抗生物質、ビタミン類などの有用物質の水溶液を凍結乾燥して有用物質を精製する過程において、アルギニンと有機酸(a)との塩(A)を存在させて、凍結乾燥させることを特徴とする凍結乾燥方法である。 すなわち、酵素、ペプチドなどのタンパク質や抗生物質などを取り出し精製するための凍結乾燥において、そのまま凍結乾燥すると、これらがが変性、失活し易く、力価が著しく低下するという問題点があるが、本発明では、特定の化学構造を有する上記の化合物(A)を凍結乾燥時の保護剤として添加することにより解決することを見出した。 本発明の凍結乾燥方法において、上記の目的で使用する保護剤として作用させるために存在させるアルギニンと有機酸(a)との塩(A)は、 アルギニンを有機酸(a)で中和したものである。 本発明における有機酸(a)としてはオキシカルボン酸(乳酸、クエン酸など)、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸など)、有機リン酸(メチルリン酸など)、有機スルホン酸(メタンスルホン酸など)などが挙げられるが、得られた酵素、組み換えタンパク質、抗体、ペプチドなどが医薬品、食品分野で使用されることを考慮した場合の安全性の観点から、オキシカルボン酸が好ましい。 オキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸などが挙げられ、凍結乾燥時の活性保持の観点から、乳酸、クエン酸が好ましい。 なお、アルギニン以外の塩基性アミノ酸であるヒスチジン、リシンでも、凍結乾燥時の活性保持効果は認められるが、活性保持期間の観点から、アルギニンに比べて劣る。 本発明における化合物(A)の添加量は、目的とする酵素等の有用物質100部に対して1部〜1,000部が好ましく、活性の保持の観点から10部〜500部がさらに好ましい。 添加量が1部未満の場合、十分に活性を保持することができなくなり、1,000部より多い場合、実使用上効率的でないので適さない。 本発明の凍結乾燥方法によれば、有用物質の凍結乾燥後の活性が、凍結乾燥前に比べて、通常40%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上保持できる。 ここでいう活性とは、酵素および抗体の場合は力価を表し、ペプチド、アミノ酸、核酸、糖、抗生物質およびビタミン類の場合は純度を表す。 従来の方法では、特に酵素の場合、一般に10%前後しか力価が保持できなかったのに対して、本発明の方法によれば、力価を高い保持率で製造できるので、製造コストを大幅に改善することができる。 本発明の凍結乾燥方法で得られた有用物質は、さらに凍結乾燥後25℃、1ヶ月間密閉した状態で保存した後においても、凍結乾燥前に比べて活性を30%以上保持される。 従来の方法で得られた有用物質として、特に酵素の場合に、保存期間中にさらに活性が低下してしまうのに対して、本方法は、活性を長期間高い保持率で保持することができるので、食品、医薬品および生化学の分野において有効に使用することができる。 本発明の凍結乾燥方法の一例を以下に説明するが、化合物(A)を凍結乾燥する直前に加えてもよいし、それより前の工程で加えていてもよい。<酵素の凍結乾燥による精製の場合>1.酵素水溶液に化合物(A)を加え、かきまぜる。2.これを液体窒素に浸漬し凍結する。3.凍結乾燥機で減圧条件下、−40℃で2晩乾燥させる。 本発明の凍結乾燥方法が適用できる有用物質としては特に限定されないが、酵素(P1)、組み換えタンパク質(P2)、抗体(P3)、ペプチド(P4)、アミノ酸(P5)、核酸(P6)、糖(P7)、抗生物質(P8)およびビタミン類(P9)などが挙げられる。 本発明が適用できる酵素(P1)としては、加水分解酵素、異性化酵素、酸化還元酵素、転移酵素、合成酵素および脱離酵素などが挙げられる。 加水分解酵素としては、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、グルコアミラーゼなどが挙げられる。 異性化酵素としては、グルコースイソメラーゼが挙げられる。 酸化還元酵素としては、ペルオキシダーゼなどが挙げられる。 転移酵素としては、アシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼなどが挙げられる。 合成酵素としては、脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ、クエン酸シンターゼなどが挙げられる。 脱離酵素としては、ペクチンリアーゼなどが挙げられる。 本発明が適用できる組み換えタンパク質(P2)としては、タンパク製剤、ワクチン等が挙げられる。 タンパク製剤としては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1〜12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン、カルシトニン等が挙げられる。 ワクチンとしては、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、C型肝炎ワクチン等が挙げられる。 本発明が適用できる抗体(P3)としては、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体が挙げられる。 本発明が適用できるペプチド(P4)としては、特にアミノ酸組成を限定するものではなく、ジペプチド、トリペプチドなどが挙げられる。 本発明が適用できるアミノ酸(P5)としては、例えばグルタミン酸、トリプトファン、アラニンなどが挙げられる。 本発明が適用できる核酸(P6)としてはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)が挙げられる。 本発明が適用できる抗生物質(P7)としてはストレプトマイシンおよびバンコマイシンなどが挙げられる。 本発明が適用できる糖類(P8)としては、ヒアルロン酸、アルブミン、セラミド、エリスリトール、トレハロース、リポ多糖およびシクロデキストリンなどが挙げられる。 本発明が適用できるビタミン類(P9)としては、ビタミンA類およびそれらの誘導体並びにその塩、ビタミンB6、ビタミンB12等のビタミンB類およびそれらの誘導体並びにその塩、ビタミンC類およびそれらの誘導体並びにその塩が挙げられる。 これらのうち、本発明の方法は、(P1)および(P2)に好適に適用され、特に(P1)の生産に適している。 本発明のもう1つの実施態様は、上記の凍結乾燥方法で得られた有用物質であり、具体的には、酵素、組み換えタンパク質、抗体、ペプチド、アミノ酸、核酸、抗生物質、糖類またはビタミン類で、かつ高い力価などのの保持率を有するこれらの有用物質である。 これらのうち好ましいのは(P1)および(P2)、特に(P1)である。 以下の実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。製造例1 (アルギニン・乳酸塩の合成) 200mLコルベンにアルギニン(和光純薬製)8.7g(0.05モル)を入れ、イオン交換水100gに溶解させた。ここに90%乳酸(和光純薬製)を5.0g(0.05モル)を少しずつ加え、60℃で1時間加熱攪拌して反応させた。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶してアルギニン・乳酸塩を得た。乾燥精製した後、用いた。製造例2 (アルギニン・クエン酸塩の合成) 乳酸をクエン酸1水和物3.5g(0.017モル)に変更する以外は製造例1と同様におこない、アルギニン・クエン酸塩を得た。実施例1 リゾチーム(市販品「リゾチーム」和光純薬製、力価20000units/mg)50mgをイオン水10gに溶解させ、アルギニン・乳酸塩34mgを加え、1分間軽くかき混ぜた。この溶液が入った容積20mLの密栓付きガラス瓶を液体窒素中に1分浸漬し凍結した。その後、凍結乾燥機(アルバック社製DF−01H)で減圧下(0.1torr)、−40℃で40時間かけて凍結乾燥した。乾燥後、五酸化リンが入ったデシケーターで3日間保存し、水分の調整をおこない、本発明の凍結乾燥リゾチーム(R−1)を得た。 この(R−1)を後述の方法で酵素活性(力価)を測定した。実施例2 アルギニン・乳酸塩の代わりに、アルギニン・クエン酸塩31mgを使用する以外は実施例1と同様に行い、凍結乾燥リゾチーム(R−2)を得た。比較例1 アルギニン・乳酸塩の代わりに、トレハロース(和光純薬製)50mgを使用する以外は実施例1と同様に行い、凍結乾燥リゾチーム(R’−1)を得た。比較例2 アルギニン・乳酸塩の代わりに、グルコース(和光純薬製)24mgを使用する以外は実施例1と同様に行い、凍結乾燥リゾチーム(R’−2)を得た。<酵素活性(力価)の測定> 実施例1、2および比較例1、2で得られた凍結乾燥リゾチーム(R−1)、(R−2)、と(R’−1)、(R’−2)のそれぞれ19.0、19.8、16.0、21.6mgを、それぞれ5gのイオン交換水に溶解させ、この水溶液10μLを0.4%枯草菌懸濁液(20%枯草菌懸濁液1mlにイオン交換水46.5mLおよび1モル/Lリン酸カリウム水溶液2.5mLを加えて前もって調製したもの)3mLに加えた。 加えた直後の450nmにおける吸光度(A0)を分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定し、さらに5分後にもう一度吸光度(A5)を測定し、これらの450nmにおける5分間の吸光度変化DA=A0−A5を読み取った。 また、実施例1、2および比較例1、2のリゾチーム濃度と同濃度の市販品「リゾチーム」で他に添加剤を加えないブランクの水溶液を調製し、これを用いて上記と同様に、450nmにおける5分間の吸光度変化(DAb)を読み取った。 各凍結乾燥後のリゾチームの「力価の保持率」は以下の式を用いて算出した。 力価の保持率(%)=(DA/DAb) ×100 また、実施例1、2および比較例1、2で得られた凍結乾燥リゾチーム(R−1)、(R−3)と(R’−1)、(R’−2)を25℃、密封状態で1ヶ月保存した後、再び上記測定を行い、450nmにおける5分間の吸光度変化(DA’)を測定した。 各凍結乾燥リゾチームの1ヶ月保存後の力価の保持率は以下の式を用いて算出した。 1ヶ月保存後の力価の保持率(%)=(DA’/DAb) ×100上記実施例および比較例の力価の保持率と1ヶ月保存後の力価の保持率を表1に示す。 表1から、従来の添加剤は、凍結乾燥後の力価の保持率が低く、さらに経時的に力価が減少することがわかる。一方、本発明の添加剤は、凍結乾燥後の力価の保持率が高く、経時的な力価の減少も抑えられている。 本発明の凍結乾燥方法は、タンパク質などの有用物質を凍結乾燥して精製する過程において使用できる。有用物質としては、タンパク質、アミノ酸、核酸、糖、抗生物質およびビタミン類が挙げられる。また、本発明の凍結乾燥方法は、凍結乾燥時に有用物質を変性することなく、かつ保存期間中に生理活性が低下しないので食品、医薬品、および生化学の分野において有効に使用することができる。 酵素、組み換えタンパク質、抗体、ペプチド、アミノ酸、核酸、糖、抗生物質およびビタミン類からなる群より選ばれる1種以上の有用物質の水溶液を凍結乾燥して該有用物質を精製する過程において、アルギニンと有機酸(a)との塩(A)を存在させて凍結乾燥させることを特徴とする凍結乾燥方法。 該アルギニンの有機酸塩(A)の有機酸(a)がオキシカルボン酸である請求項1記載の凍結乾燥方法。 該有機酸(a)が乳酸である請求項1または2記載の凍結乾燥方法。 凍結乾燥後の活性が、凍結乾燥前に比べて50%以上保持される請求項1〜3いずれか記載の凍結乾燥方法。請求項1〜4いずれか記載の方法で精製されたことを特徴とする、酵素、組み換えタンパク質、抗体、ペプチド、アミノ酸、核酸、糖、抗生物質、またはビタミン類。 【課題】 凍結乾燥時に有用物質を変性させることなく、かつ保存期間中に生理活性が低下しない凍結乾燥方法を提供する。【解決手段】 有用物質の水溶液を凍結乾燥して有用物質を精製する過程において、アルギニンと有機酸(a)との塩(A)を存在させて、凍結乾燥させることを特徴とする凍結乾燥方法。【選択図】なし