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タイトル:公開特許公報(A)_β位結合ポリアスパラギン酸の新規製造方法およびその方法によって製造されるβ位結合ポリアスパラギン酸
出願番号:2007175275
年次:2009
IPC分類:C08G 69/10,C12P 13/02,C12N 15/09,C08L 101/16


特許情報キャッシュ

平石 知裕 前田 瑞夫 JP 2009013256 公開特許公報(A) 20090122 2007175275 20070703 β位結合ポリアスパラギン酸の新規製造方法およびその方法によって製造されるβ位結合ポリアスパラギン酸 独立行政法人理化学研究所 503359821 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 平石 知裕 前田 瑞夫 C08G 69/10 20060101AFI20081219BHJP C12P 13/02 20060101ALI20081219BHJP C12N 15/09 20060101ALN20081219BHJP C08L 101/16 20060101ALN20081219BHJP JPC08G69/10C12P13/02C12P13/02C12N15/00 AC08L101/16 12 OL 14 4B024 4B064 4J001 4J200 4B024AA03 4B024BA11 4B024CA03 4B024CA07 4B024CA20 4B024DA06 4B024EA04 4B024GA11 4B024GA19 4B024HA03 4B064AE02 4B064CA21 4B064CB30 4B064CC03 4B064CC06 4B064CD12 4B064CE08 4B064CE16 4J001DA01 4J001DB01 4J001DC12 4J001EA36 4J001FA03 4J001FB01 4J001FC01 4J001GA20 4J001JA20 4J001JB31 4J200AA02 4J200BA06 4J200BA29 4J200DA22 4J200EA04 4J200EA17 本発明は、有機溶媒中にてポリアスパラギン酸加水分解酵素を用いて、アスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを基質として、高純度のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを合成する方法、および当該方法によって合成された高純度のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルに関する。 ポリアスパラギン酸(PAA)は、水溶性ポリマーであり、生分解性を有するとともに生体適合性や生体内吸収性などの有利な特徴を有することから、分散剤、界面活性剤、医薬など様々な産業分野で用いられている。 PAAは、熱重合やリン酸系触媒などを用いて、化学的に合成することが可能である。この方法では、PAAは、アスパラギン酸の重縮合によって得られるポリスクシンイミドを加水分解して、熱重合により合成される。 また、PAAを酵素的に合成する方法も見出されている。この方法では、放線菌由来のアルカリ性プロテアーゼを用いてアスパラギン酸エステルを処理することにより、PAAを合成している(特許文献1)。 これらの方法は、容易に且つ大量にPAAを提供することができるが、得られるポリマーは、D体、L体の混合物、また、α位結合、β位結合の混合物であり得る。例えば、熱重合により化学的に合成したPAA(tPAA)は、αアスパラギン酸単位とβアスパラギン酸単位がそれぞれ3:7の割合で含まれていること、(図1)、それらの単位がPAA中にランダムに存在すること、D体およびL体のアスパラギン酸単位が等モルで存在すること、および分岐単位および不規則な鎖末端基を有することが、NMRなどの分析によってわかっている。また、アルカリ性プロテアーゼを用いて合成したポリL−アスパラギン酸エステルは、α位結合が約90%、β位結合が約10%含まれることがわかっている。 PAAに含まれる構成単位が、PAA構造に作用し、その生分解性や生体適合性およびキレート能(非特許文献1)などの機能に影響を与え得ることを鑑みれば、合成されるPAAが均一な構成単位を含むことが好ましい。 しかしながら、従来の方法では、均一な構成単位からなるPAAのみを高純度で得ることはできなかった。特開2000−128898号公報Nakato T.ら、「Relationship between Structure and Properties of Poly(aspartic acid)s」, Macromolecules (1998), Vol. 31, pp.2107-2113 β位結合のみを有するPAAは、分解に対する耐性が高い等の利点があり、β位結合のみを有するPAAを高純度で得る方法の確立が望まれていた。 本発明は、有機溶媒中にてPAA加水分解酵素を用いて、アスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを基質として、高純度のβ位結合PAA(β−PAA)またはその塩もしくはエステルを合成する方法およびその方法によって合成された高純度のβ−PAAまたはその塩もしくはエステルを提供する。 本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、本願発明者らが単離した、PAA中のβ位結合を認識する2種のPAA加水分解酵素(Pedobacter sp. KP−2に由来するPAA加水分解酵素−1およびSphingomonas sp. KT−1に由来するポリアスパラギン酸加水分解酵素−1)を用いてPAAの重合反応を行わせることによって、β−PAAを高純度で合成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。[1] 水を含有する有機溶媒中において、β-βペプチド結合間を認識するポリアスパラギン酸加水分解酵素を用いて、アスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを基質として重合させる、高純度のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを合成する方法。[2] β位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルのみが合成される、[1]の方法。[3] β-βペプチド結合間を認識するポリアスパラギン酸加水分解酵素が、Pedobacter sp. KP−2に由来するポリアスパラギン酸加水分解酵素−1である、[1]または[2]の方法。[4] β-βペプチド結合間を認識するポリアスパラギン酸加水分解酵素が、Sphingomonas sp. KT−1に由来するポリアスパラギン酸加水分解酵素−1である、[1]または[2]の方法。[5] 用いられる酵素が、両親媒性高分子物質で修飾されている、[1]〜[4]のいずれかの方法。[6] 両親媒性高分子物質がポリエチレングリコールである[5]の方法。[7] 有機溶媒が、アセトニトリル、トルエン、ベンゼン、およびTHFからなる群より選択される、[1]〜[6]のいずれかの方法。[8] 合成を、0.1〜10%の水を含有する有機溶媒中において行う、[1]〜[7]のいずれかの方法。[9] 重合を、4〜60℃の温度範囲内にて行う、[1]〜[8]のいずれかの方法。[10] [1]〜[9]のいずれかの方法によって製造される、高純度のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステル。[11] β位結合ポリアスパラギン酸のみを含む[10]のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステル。[12] ラセミ化を生じていない、[10]または[11]のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステル。 本発明の方法により、有機溶媒中においてPAA加水分解酵素を用いて実質的にβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルのみを合成することが可能である。本発明の方法においてラセミ化を生じず、得られるβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルは高い光学純度を有する。本発明の方法で得られるβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルは機能性に優れ、また生分解性を有しつつ分解に対する耐性も大きい。また、生体適合性にも優れ、医薬品、化粧品等の高分子材料として有用である。 β−PAAとは、アスパラギン酸のβ炭素に結合したβ位のカルボキシル基を用いてペプチド結合しているものをいう。すなわち、β−PAAは、βアスパラギン酸単位のみから構成されている(図2)。本願発明によると、このβ−PAAのみを合成することができる。 本発明では、PAA加水分解酵素を用いてPAAを合成することができる。PAA加水分解酵素はβアスパラギン酸単位間のカルボキシル基とアミノ基との間の重合反応をより選択的に触媒し得る加水分解酵素、すなわちβ-βペプチド結合間を認識する加水分解酵素であれば用いることができるが、好ましくは、Pedobacter sp. KP−2に由来するPAA加水分解酵素−1(図3A、配列番号1(登録番号AB290350)及び配列番号2)およびSphingomonas sp. KT−1に由来するPAA加水分解酵素−1(図3B、配列番号3(登録番号AB112710)および配列番号4)を用いる。さらに好ましくは、Pedobacter sp. KP−2に由来するPAA加水分解酵素−1を用いる。 Pedobacter sp. KP−2由来のPAA加水分解酵素−1およびSphingomonas sp. KT−1由来のPAA加水分解酵素−1は、本願発明者らにより初めて単離されたものである(Hiraishi Tら、Biomacromolecules. 2003, 4,80参照)。本願発明者らは、熱重合により得られたα,β-ポリ(D,L-アスパラギン酸)(tPAA)を分解する菌体として、Pedobacter sp. KP−2およびSphingomonas sp. KT−1を単離し、そしてそれぞれの菌株よりPAA加水分解酵素−1を精製した。本願発明者らによるこれまでの研究から、これらのPAA加水分解酵素−1は、PAA中のβアスパラギン酸単位間のアミド結合を認識して特異的に分解することがわかっている。図4(A)および(B)は、tPAAおよびPedobacter sp. KP−2由来のPAA加水分解酵素−1で処理したtPAAの13C NMRスペクトルをそれぞれ示す。酵素処理前は、アミド結合のカルボニル炭素の13C共鳴は、tPAA内の結合の種類に応じて、αアスパラギン酸単位間(α−α)、αアスパラギン酸単位とβアスパラギン酸単位間(α−βおよびβ−α)、およびβアスパラギン酸単位間(β−β)のアミド結合の3つのピークに分かれる(図4(A))。Pedobacter sp. KP−2由来のPAA加水分解酵素−1で処理すると、α−αおよびα−β+β−αのピーク面積は変化しないが、β−βアミド結合のピーク面積が減少する(図4(B))。また同時に、N末端のβアスパラギン酸単位のピークが新たに生じる((図4(B)矢印)。この結果より、Pedobacter sp. KP−2由来のPAA加水分解酵素−1は、β−βアミド結合を認識し分解していることがわかる。このように、Pedobacter sp. KP−2由来のPAA加水分解酵素−1およびSphingomonas sp. KT−1由来のPAA加水分解酵素−1は、ともに分子量20000以上のtPAAを分子量1000程度のオリゴマーにまで分解することがわかっている。また、Pedobacter sp. KP−2は、高分子量のtPAAを分解する能力を有し、一方Sphingomonas sp. KT−1は、5000以下のtPAAしか分解できないことがわかっている。 これらの酵素は、以下の実施例に具体的に記載するように、当該分野において公知である一般的な方法によって、組換え的に発現させ、精製して得る事が可能である。 精製したPAA加水分解酵素を、固定化して用いることもできる。固定化することによって、酵素が安定化され、連続反復使用が可能となる点において有効である。PAA加水分解酵素の固定化は、担体結合法、架橋法、包括法を用いて行うことができる。担体結合法では、PAA加水分解酵素を担体(例えば、セルロース、デキストラン、アガロースなどの多糖類の誘導体、ポリアクリルアミドゲル、ポリスチレン樹脂、多孔性ガラス、金属酸化物など)に、物理的吸着、イオン結合および共有結合等を用いて結合させることができる。架橋法では、2個またはそれ以上の官能基を持つ試薬を用いて、酵素同士を互いに架橋することによって固定化する。架橋試薬としては、Schiff塩基をつくるグルタルアルデヒド、ペプチド結合をするイソシアン酸誘導体、N,N’−エチレンマレイミド、ジアゾカップリングをするビスジアゾベンジン、あるいはアルキル化するN,N’−ポリメチレンビスヨードアセトアミドなどを用いることができる。包括法では、高分子ゲルの細かい格子の中にPAA加水分解酵素を取り込む格子型と、半透膜の高分子の皮膜によってPAA加水分解酵素を皮膜するマイクロカプセル型を用いる。格子型の方法では、合成高分子物質のポリアクリルアミドゲル、ポリビニルアルコール、光硬化性樹脂および天然高分子物質のデンプン、コンニャク粉、ゼラチン、アルギン酸、カラギーナンなどの高分子化合物を用いることができる。マイクロカプセル型の方法では、ヘキサメチレンジアミン、セバコイルクロリド、ポリスチレン、レシチンなどを用いることができる(福井三郎、千畑一郎、鈴木周一、「酵素工学」東京化学同人発行、1981年)。 本願発明では、有機溶媒中においてPAA加水分解酵素の加水分解反応の逆反応を用いて、基質を重合してPAAを合成する。 PAA加水分解酵素は、両親媒性の高分子物質を結合させて修飾する。酵素を両親媒性とすることにより酵素が有機溶媒中に溶解し易くなり、反応効率が高まる。酵素に結合させる両親媒性の高分子物質として、ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシ−ポリエチレングリコール、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール等が挙げられるが、この中でもPEGが好ましい。PEGは、限定されないが、分子量2000〜10000、好ましくは分子量約5000のものを用いる。PEGで修飾した酵素をPEG化酵素ということがある。両親媒性の高分子物質を用いた酵素の修飾は、当該分野において一般的な方法で行うことができ、例えば酵素のN末端のα−アミノ基やリシンのε−アミノ基とアルデヒドのような反応性基を介して共有結合させればよい。1分子の酵素につき、複数分子の両親媒性の高分子物質で修飾されていてもよいが、1分子の酵素につき、1分子の両親媒性の高分子物質で修飾されていることが好ましい。また、酵素を修飾した後に、1分子の両親媒性の高分子物質で修飾されている酵素を精製して用いてもよい。また、酵素の両親媒性の高分子物質による修飾率は、約60%以上、好ましくは約70%以上である。酵素の修飾率は、例えばSDS-PAGEを行いバンド面積を測定することによって決定することができる。 用いる有機溶媒としては、アセトニトリル、トルエン、THF、ベンゼン、1,1,1‐トリクロロエタン、トリグリセリド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノールおよびメタノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、アセトニトリルを用いる。 反応系には、酵素を活性化するために水を加える。反応系に添加する水の量は、反応液全体の0.1〜10%(v/v)、好ましくは1〜10%(v/v)、さらに好ましくは4%(v/v))である。 反応系に添加する酵素の濃度は、好ましくは1.5〜6.1mg/mL、さらに好ましくは5.5mg/mLである。 反応温度は、4〜60℃の範囲で適宜選択されるが、好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは30〜50℃、特に好ましくは40℃である。また、反応時間は、5時間〜30日間、好ましくは24時間〜15日間、さらに好ましくは48時間である。 用いられる基質は、アスパラギン酸、その塩、またはエステルおよびそれらの混合物を含むものを用いることができる。アスパラギン酸はL体であっても、D体であってもよいが、L体が好ましい。好ましくはL−アスパラギン酸ジエチル塩酸塩を用いる。基質は、モノマー、ダイマーもしくはポリマーの形態、またはそれらの混合物であっても良い。反応系に含まれる基質の濃度は、好ましくは15〜61mg/mL、さらに好ましくは55mg/mLである。 添加する酵素と基質のモル比は、1:630〜1:2560、好ましくは1:2300である。 本発明の酵素を用いたPAAの合成は以下の工程で行えばよい。(1)PAA加水分解酵素をPEG等の両親媒性の高分子物質で修飾する。(2)修飾した酵素を水を含む有機溶媒に溶解する。この際、最初に修飾した酵素を少量の水に溶解し、そこに有機溶媒を添加してもよい。(3)有機溶媒に溶解させた酵素を基質と混合し、攪拌し反応させる。(4)反応後、酵素および不溶物を除去し、減圧乾燥により重合体を得る。 本発明方法によって合成される「高純度のβ位結合ポリアスパラギン酸」とは、実質的にβ−PAAのみが合成されることを意味する。つまり、合成されるPAAの95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または99.9%以上が、β−PAAであることを意味する。すなわち、合成されるPAA中のペプチド結合の中のβ結合が占める割合が、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または99.9%以上である。合成されるβ−PAA中のβ−PAAの比率が上記の場合、あるいはβ結合の占める割合が上記の場合、本発明においては、「高純度のβ位結合ポリアスパラギン酸」、「実質的にβ−PAAのみを含むβ位結合ポリアスパラギン酸」、「β−PAAのみを含むβ位結合ポリアスパラギン酸」等という。 本発明方法によって合成されるβ−PAAは、好ましくは7量体以上、好ましくは8量体以上、好ましくは9量体以上、好ましくは10量体以上、好ましくは11量体以上、好ましくは12量体以上、好ましくは13量体以上、好ましくは14量体以上、好ましくは15量体以上、好ましくは16量体以上、好ましくは17量体以上、好ましくは18量体以上、好ましくは19量体以上、好ましくは20量体以上である。また、本発明の方法により合成されるβ−PAAの分子量は、好ましくは1047以上、好ましくは1190以上、好ましくは1333以上、好ましくは1476以上、好ましくは1619以上、好ましくは1762以上、好ましくは1905以上、好ましくは2048以上、好ましくは2191以上、好ましくは2334以上、好ましくは2477以上、好ましくは2620以上、好ましくは2763以上、好ましくは2906以上である。条件によっては、さらに大きな分子量のもの、例えば、数万以上のものも合成できる。 さらに、本発明の方法により合成されるβ−PAAはラセミ化を生じず、光学純度が高い。 合成されたβ−PAAは、反応液より、タンパク質精製に用いられる公知の方法、例えば、硫安塩析、有機溶媒(エタノール、メタノール、アセトン等)による沈殿分離、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、基質または抗体などを利用したアフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透ろ過等の濾過処理など、を1つまたは複数組み合わせて用いて精製することが可能である。 また、合成されたβ-PAAは、NMRやMALDI TOF-MSなどの質量分析により、重合度等を測定することができる。 本発明は、本発明の合成法により得られたβ-PAAをも包含する。 得られたβ-PAAは、例えば医薬品、化粧品等の材料として好適に用いることができる。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例1 Pedobacter sp. KP−2由来PAA加水分解酵素−1の調製(1)Pedobacter sp. KP−2由来PAA加水分解酵素−1の精製 河川水より採取したPedobacter sp. KP−2を、0.15% (w/v)のtPAAを含有する無機培地(6 L)中にて、25℃にて24時間培養した。培養後、菌体を遠心分離(5000×g、4℃、15分間)して回収し、10 mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて洗浄した。菌体を10 mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、懸濁液を氷上にて、30分間、20 kHzでソニケーションした。破砕した菌体を遠心分離し(150000×g、4℃、1時間)、上清を回収した。その後の全ての精製工程は、0〜4℃にて行った。得られた上清を、10 mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて予め平衡化したSP Sepharose HP カラム(25 mL, GE Health Bio−Science Corp.)にアプライした。カラムを3体積倍量の10 mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて洗浄した。続いて、酵素を90 mLの0〜500 mM NaClの直線勾配を用いて、3 mL/分で溶出し、画分を2分間ごとに回収した。回収した画分を10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に対して透析し、10 mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて予め平衡化したMono S カラム(1 mL, GE Health Bio−Science Corp.)にアプライし、カラムを3体積倍量の10 mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて洗浄した。続いて、酵素を20 mLの0〜500 mM NaClの直線勾配を用いて、1 mL/分で溶出し、画分を2分間ごとに回収した。(2)Pedobacter sp. KP−2由来PAA加水分解酵素−1の遺伝子クローニング Pedobacter sp. KP−2由来PAA加水分解酵素−1のN末端アミノ酸の配列決定を行うために、当該酵素を、当該分野で公知の方法に従ってSDS−PAGEで分離後、Immobilon−Pトランスファーメンブレンへとトランスファーし、Applied Biosystems 473A protein sequencerに供した。 その結果、Pedobacter sp. KP−2由来の成熟PAA加水分解酵素−1のN末端アミノ酸の配列は、XEGVGEFIYQDYKPLDNKPI(Xは未確定のアミノ酸残基を意味する、配列番号5)であると判明した。決定した配列の内側の配列(EGVGEFIYQDYKP)(配列番号6)の下流領域を増幅するために、LA PCR in vitroクローニングに用いる以下の縮重プライマーを設計した: プライマーS1 (5’−GARGGIGTIGGIGARTTYATHTA−3’)(配列番号7) プライマーS2 (5’−TTIATITAYCARGAYYAYAARCC−3’)(配列番号8)。 LA PCR in vitroクローニングは、製造者の指示にしたがってキット(TAKARA BIO INC.)を用いて行った。KP−2株のゲノムDNAをEcoRIを用いて完全に消化した。このDNA断片をカセットオリゴヌクレオチドにライゲーションし、PCRテンプレートとして用いた。LA PCR後、得られたPCR産物をpGEM−T Easy(Promega)にライゲーションし、CEQ2000XL DNA sequencer(Beckman Coulter Inc.)を用いて、ヌクレオチドの配列決定を行い、GENETYXプログラム(Software Development Co.)を用いて、得られたPCR産物が、部分配列であり、停止コドンを含まないことを確認した。 全長PAA加水分解酵素−1遺伝子を得るために、上記プライマーとは異なる2対のプライマーを用いて再びLA PCR in vitroクローニングを行った。これらのプライマーは、PAA加水分解酵素−1の部分配列に基づいて設計した。部分配列の下流用の以下のプライマー:S3 (5’−AATAAGCCCATAAAAGTAAGATATTATAATCC−3’)(配列番号9)S4 (5’−GGGAAAAATGACGCCCAAGTATTGTTCATTATGC−3’)(配列番号10)および部分配列の上流用の以下のプライマー:S5 (5’−GCATAATGAACAATACTTGGGCGTCATTTTTCCC−3’)(配列番号11)S6 (5’−GATTATAATATCTTACTTTTATGGGCTTATTG−3’)(配列番号12)を作製した。得られたPCR産物をpGEM−T Easyにライゲーションし、ヌクレオチド配列を決定し、BLASTなどのデータベースによって分析し、目的とするPAA加水分解酵素−1遺伝子であることを確認した。(3)Pedobacter sp. KP−2由来PAA加水分解酵素−1発現プラスミドの構築 PAA加水分解酵素−1遺伝子を、以下の合成ヌクレオチドプライマー:S7 (5’−CAACCCACATATGGACGAGGGCGTAGGCGAG−3’)(配列番号13)S8 (5’−GAGGGATCCGATTTATTTATCTTCGAACAGC−3’)(配列番号14)および、Pedobacter sp. KP−2に由来のテンプレートDNAを用いて、増幅した。Nde IおよびBamH I制限酵素部位を、それぞれS7プライマーおよびS8プライマーに付加した。PCR産物を、Nde IおよびBamH Iで消化し、同じくNde IおよびBamH Iで予め処理したpET−15b(+)に導入した。得られたプラスミド(以下、pPAA1KP2)をE. coli BL21(DE3)細胞に、当該分野で公知の方法によって導入し、100μg/mLのアンピシリンを含有するLBプレートに撒いた。(4)Pedobacter sp. KP−2由来の組み換えPAA加水分解酵素−1の発現および精製 pPAA1KP2を有する組み換えE. coli BL21(DE3)細胞を、アンピシリン(100μg/mL)を添加した1.75 mLのLB培地で37℃にて一晩培養した。そのうち200μlを100μg/mLのアンピシリンを含有する新たなLB培地20 mLに移し、37℃にて一晩培養した。このうち10 mLを100μg/mLのアンピシリンを含有する新たなLB培地1 Lに移し、37℃にて培養した。細胞密度が、O.D.=0.5〜1.0に達したら、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)(最終濃度0.05 mMにて)を培地に加えた。20℃にて20時間培養した後、菌体を遠心分離(5000×g、4℃、10分間)して回収した。集めた菌体を10 mMの緩衝液A (50 mM NaH2PO4, 300 mM NaClおよび10 mM イミダゾール)(pH 8.0)に懸濁し、フレンチプレスを用いて破砕した(14000 psiにて4回)。懸濁液を遠心分離し(18800×g、4℃、30分間)、上清を0.45μm酢酸セルロースフィルターを用いて濾過した。 以下の工程は0〜4℃にて行った。得られた可溶性画分を、予め緩衝液A で平衡化したNi−NTA Superflow カラム(10 mL, QIAGEN)にアプライした。カラムを10体積倍量の緩衝液Aで洗浄した。酵素を、4〜60%濃度の緩衝液B(50 mM NaH2PO4, 300 mM NaClおよび250 mMイミダゾール)(pH 8.0)を用いて段階的に溶出し、5 mLの画分を回収した。酵素の画分を濃縮し、0.1 M NaClを含有する10 mM リン酸緩衝液(pH 7.0)で平衡化したSuperdex 200 pgカラム(120 mL, GE Health Bio−Sciences Corp.)にアプライした。溶出した酵素の画分を回収し、濃縮し、10 mM リン酸緩衝液(pH 7.0)に対して透析した。実施例2 活性化PEGによるPedobacter sp. KP−2由来の組み換えPAA加水分解酵素−1の修飾 精製後のタンパク質を20 mMホウ酸塩緩衝液(pH 9.0) で透析 (Slide−A−Lyzer Dialysis, 10000 MWCO, PIERCE) した後、濃度測定を行ない活性化PEG (mPEG−SMB−5000; MW 5763 Da、Nektar) で修飾した。 活性化PEG、タンパク質ともに終濃度が 6 × 10−4 M となるように 20 mM ホウ酸塩緩衝液で 2.5mL に調製した。4 ℃で24 時間攪拌した後、MilliQ水に対して透析 (Slide−A−Lyzer Dialysis, 10000 MWCO, PIERCE)を行い、未反応 PEGを取り除いた。PEG 修飾率の結果を図5に示す(図5)。PEG 修飾率は ATTO Densito graph 4.1を用いて SDS−PAGEのバンド面積を測定した。この結果より、全体の70 %のPAA加水分解酵素−1 がPEG によって修飾されていることがわかった。次に、PEG修飾による酵素活性への影響を調べるために、PEG修飾酵素と未修飾酵素の活性試験を行った。活性試験は、濁度測定法により行った。基質であるtPAAを終濃度0.15% (w/v)となるように10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)に仕込み、酵素溶液と30℃で反応させた。反応後、塩化ナトリウムを終濃度50 mM、エタノールを終濃度50% (v/v)となるように順次添加し、撹拌した。撹拌後、エタノールの添加により生じるPAAの白濁溶液の濁度を測定した。濁度測定は、波長595 nmにおける吸光度を吸光度計(Microplate Reader Model 550、BioRad)を用いて行った。活性試験の結果を図6に示す(図6)。PEG−PAA加水分解酵素-1は、未修飾のPAA加水分解酵素−1と同等の活性を保持していることが分かった。実施例3 β−PAAの合成および精製(1) 基質の脱塩酸塩操作 500 mgのL−アスパラギン酸ジエチル塩を100 mLのMilliQ 水に溶解し NaOHを用いて中和した後、酢酸エチルで抽出した。溶媒を蒸発させた後、減圧乾燥を一晩行い、黄色の油状物として、227 mgのL−アスパラギン酸ジエチルが得られた。これを基質として用いた。(2) β−PAAの合成と精製 55mgの基質を40μLのMilliQ水を含む1mLのアセトニトリル混合溶液に加えた後、5.5 mgのPEG−PAA加水分解酵素-1を加え均一になるようよく混合した。この反応溶液を窒素雰囲気下、40℃で48時間攪拌した。反応後、無水硫酸ナトリウム(1.5 g)を加え脱水し、不溶物をろ過にて除去した。次いで、得られたろ液を5 mL CHCl3 / TFA (100 : 3, v / v) と混合し、不溶性酵素を 0.1 μmフィルターでろ過した後に溶媒を除去し、次いで減圧乾燥を一晩行い淡黄色の液状物質として35.5 mgの生成物を得た。実施例4 MALDI−TOF MSによる生成物の分析 実施例3で得られた生成物をMALDI−TOF MS に供した。MALDI TOF−MS (JNM−AL 400 (日本電子)) 測定の際のマトリクスは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)をアセトニトリル:1 % TFA (トリフルオロ酢酸, 99 %,ALDRICH) (1:2, v/v) 混合溶液に 10 mg / mL になるように溶解したものを用いた。測定条件は Reflector mode, Positive で積算回数は 150 回で行なった。キャリブレーションは DHBを用いて行なった。 図7にMS スペクトルの結果を示す。モノマーは300〜800 近辺に複雑なピークが見られるが、生成物では低分子量の複雑なピークが減少し、高分子側に多数のピークが現れた。生成物で見られるピークトップの値から、合成されたポリマーの分子量は m/z = 143n + 46 + 23 と表された。以上、 MS スペクトルの結果から、11量体をピークに16量体を超えるポリマーが得られた。実施例5 NMRによる生成物の分析 1H−NMR測定には、溶媒として0.05 v/v % TMS含有99.9 % ジメチルスルホキシド−d6(Wako)を用いた。積算回数は 96 回行なった。 図8に1H−NMRの結果を示す。上から、PEG−PAA分解酵素-1で合成したPAA、Biopraseで合成したPAAおよびアスパラギン酸ジエチル(モノマー)のスペクトルを示してある。αユニットおよびβユニットに含まれるメチン水素に由来するピークは、それぞれ4.56ppmおよび4.30ppmに観測される。プロテアーゼ(Bioprase)を用いて合成したPAAでは、4.56 ppm付近にαユニットに由来するピークと4.30 ppm付近にβユニットに由来するピークが観測され、そのピーク面積比は10:7.5であった。一方、本発明のPEG修飾したPAA加水分解酵素−1を用いて合成したPAAでは、βユニットに由来するピークのみが確認された。 この結果より、本願発明に係る方法を用いることによって、β−PAAのみを合成できることが明らかとなった。 本発明は、有機溶媒中にてPAA加水分解酵素を用いて、アスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを基質として、高純度のβ−PAAまたはその塩もしくはエステルを合成することを可能とするため、再現性のある均一なPAAを比較的低温にて大量に製造できる。tPAA(α,β−ポリ(D,L−アスパラギン酸))の構造を示す図である。β位結合ポリアスパラギン酸(β−PAA)の構造を示す図である。Pedobacter sp. KP−2由来PAA加水分解酵素−1のヌクレオチド配列(配列番号1)およびアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。Sphingomonas sp. KT−1由来PAA加水分解酵素−1のヌクレオチド配列(配列番号3)およびアミノ酸配列(配列番号4)を示す図である。(A)tPAAの13C NMRスペクトルを示す図である。(B)Pedobacter sp. KP−2由来のPAA加水分解酵素−1で処理したtPAAの13C NMRスペクトルを示す図である。PEG修飾の結果を示す図である。(A)は、PEG修飾PAA分解酵素-1のSDS−PAGEを示す。左から、マーカー、5 mg/mL 未修飾PAA分解酵素-1、5 mg/mL PEG修飾PAA分解酵素-1、1 mg/mL 未修飾PAA分解酵素-1、1 mg/mL PEG修飾PAA分解酵素-1、0.5 mg/mL 未修飾PAA分解酵素-1、0.5 mg/mL PEG修飾PAA分解酵素-1を示す。(B)は、1 mg/mL 未修飾PAA分解酵素-1および1 mg/mL PEG−PAA分解酵素-1のPEG修飾率を示す。未修飾PAA分解酵素-1およびPEG修飾PAA分解酵素-1の活性試験の結果を示す図である。本発明方法により得られた合成産物のMSスペクトルを示す図である。(A)PEG修飾PAA分解酵素-1を用いて合成したPAA;(B)プロテアーゼ(Bioprase)を用いて合成したPAA;(C)モノマーの1H-NMRスペクトルを示す図である。 水を含有する有機溶媒中において、β-βペプチド結合間を認識するポリアスパラギン酸加水分解酵素を用いて、アスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを基質として重合させる、高純度のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを合成する方法。 β位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルのみが合成される、請求項1記載の方法。 β-βペプチド結合間を認識するポリアスパラギン酸加水分解酵素が、Pedobacter sp. KP−2に由来するポリアスパラギン酸加水分解酵素−1である、請求項1または2に記載の方法。 β-βペプチド結合間を認識するポリアスパラギン酸加水分解酵素が、Sphingomonas sp. KT−1に由来するポリアスパラギン酸加水分解酵素−1である、請求項1または2に記載の方法。 用いられる酵素が、両親媒性高分子物質で修飾されている、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。 両親媒性高分子物質がポリエチレングリコールである請求項5記載の方法。 有機溶媒が、アセトニトリル、トルエン、ベンゼン、およびTHFからなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。 合成を、0.1〜10%の水を含有する有機溶媒中において行う、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。 重合を、4〜60℃の温度範囲内にて行う、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。 請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法によって製造される、高純度のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステル。 β位結合ポリアスパラギン酸のみを含む請求項10記載のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステル。 ラセミ化を生じていない、請求項10または11に記載のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステル。 【課題】β位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを、高純度で製造するための方法の提供。【解決手段】有機溶媒中にてポリアスパラギン酸加水分解酵素を用いて、アスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを基質として、高純度のβ位結合ポリアスパラギン酸またはその塩もしくはエステルを合成する方法。【選択図】なし配列表


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