タイトル: | 公開特許公報(A)_セルロース異物の判別方法 |
出願番号: | 2007151659 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | G01N 21/27,G01N 21/35 |
三分一 和成 JP 2008304317 公開特許公報(A) 20081218 2007151659 20070607 セルロース異物の判別方法 三菱レイヨン株式会社 000006035 三分一 和成 G01N 21/27 20060101AFI20081121BHJP G01N 21/35 20060101ALI20081121BHJP JPG01N21/27 EG01N21/35 Z 3 1 OL 11 2G059 2G059AA05 2G059BB08 2G059BB15 2G059EE01 2G059EE02 2G059EE10 2G059EE12 2G059FF03 2G059HH01 2G059HH06 2G059MM04 本発明は、成形用原料樹脂や樹脂成形品の内部に混入または表面に付着したセルロース異物を判別するための判別方法に関する。 原料樹脂を溶融成形して得られる成形品は、容器類、筐体類、被覆部品類、導光体類など日用品から工業用に至るまでさまざまな用途に幅広く使用されている。 多くの場合、それらの成形品には、原料樹脂を製造する段階や樹脂を成形する段階で内部に混入または表面に付着した種々の異物が含まれている。 上記の異物の種類は、原料樹脂の製造や樹脂を成形する環境によって異なるが、例えば、生産ラインに構造部材として使用される各種金属材料や樹脂材料の破片類、作業者の衣類に由来する各種繊維類や生体組織(例えば、髪の毛や皮膚の一部)、生産活動に不可欠な製品の一部(例えば、紙製品類)などがある。 中でもセルロースは、木材、植物などの天然物質から、それらを加工した木製品、製紙類、紡織類、その他、賦形製品に至るまで、一般環境に最も多く存在する物質の一つであり、それゆえ、成形用原料樹脂や樹脂成形品の内部に混入または表面に付着しやすい。 それらセルロース異物の混入や付着の頻度の許容範囲は、樹脂成形品の用途によって大きく異なるが、例えば、ノートパソコンなどのディスプレイ画面に用いられる液晶表示装置用の導光体などでは、視認できるレベルのものは、一製品中に一つも許されないほどの厳しい品質管理が求められる場合がある。 そのため、それらのセルロース異物を低減するためには、成形用原料樹脂や樹脂成形品から検出されるセルロース異物と原料樹脂の製造工程や樹脂の成形工程の周辺環境に存在するセルロース物質とが、同一のものかどうか判別する方法が必要となってくる。ここで「セルロース物質」とは、セルロース製品あるいは該セルロース製品の少なくとも一部を含有する物質中のセルロースのことをいう。 成形用原料樹脂や樹脂成形品の内部に混入または表面に付着するセルロース異物は、数十μm以下の大きさしかないものも稀ではないため、それらを分析する手段が限定されることも少なくないが、有効なものとして顕微赤外吸収によるスペクトル分析がある。 原料樹脂の製造工程や樹脂の成形工程の周辺環境に存在するセルロースには、大きく別けると、木材、植物などの天然物質やそれらを原材料として加工した木製品、紙類、紡績類(以下、天然系セルロースと呼ぶ。)などや、パルプやコットンを溶媒に溶解して、紡糸させたり賦形させたもの(以下、再生系セルロースと呼ぶ。)などがある。 天然系セルロースと再生系セルロースとは、結晶構造が異なり、天然系セルロースはI型と呼ばれる結晶構造を持ち、再生系セルロースはII型と呼ばれる結晶構造を持つことが知られている。 また、マーセル化処理されたセルロースは、I型からII型に変化することや、アミン処理されたセルロースは、III型と呼ばれる結晶構造に変化することなども知られている。 さらに、上記のI型やII型などの異なる結晶構造を持つセルロース間で、またはこれらのセルロースと非晶構造を持つセルロースとの間では、赤外吸収スペクトルの特徴が異なることが知られている(非特許文献1)。 例えば、I型結晶では、セルロースのCH2結合の吸収ピークが波数1430cm−1付近に認められるのに対して、II型結晶や非晶構造では、当該ピークが波数1420cm−1付近に認められ、また、I型結晶では、COC結合の吸収ピークが波数1160cm−1以上に認められるのに対し、II型結晶や非晶構造では、当該ピークが波数1156cm−1付近に認められるなどの違いがある。 上記の結晶構造と非晶構造との違いは、CH2結合やCOC結合のピークの波数からだけでは判別しがたい場合もあるが、そのような時は、セルロースの結晶化度を比較することができる。 セルロースの結晶化度の比較には、例えば、波数1375cm−1付近のCH結合の吸収ピークと波数2900cm−1付近のCH結合の吸収ピークとの吸光度比を用いることができる(非特許文献2)。 上記の知見によって得られる結晶構造や非晶構造の情報のみから、そのセルロース物質が何であるか(「何由来か」「何製品の一部か」など)を直ちに同定することは、必ずしも容易ではないが、そのものの可能性のある特定のセルロース物質の上述のような構造情報を比較することにより、両者の同一性を判別することは可能であると考えられる。 また、天然系セルロースには、セルロース以外の成分としてリグニンが含まれている場合があり、その含有量がセルロース物質(または製品)によって異なることも多い。 その違いは、例えば、IRスペクトルにおいて、リグニン分子が多数持つベンゼン環構造の特徴的な吸収のピークの大きさとして、波数1510cm−1付近に確認することができる。 上述の結晶構造や非晶構造の情報に基づく判別同様、リグニンの含有量のみから、そのセルロース物質が何であるかを直ちに同定することは、必ずしも容易ではないが、そのものの可能性のある特定のセルロース物質のリグニンの含有量を比較することにより、そして、さらには、上述のセルロースの結晶構造や非晶構造の情報と重ね合わせることにより、両者の同一性を判別することは可能であると考えられる。 公知の技術には、セルロース異物の判別方法として、赤外吸収スペクトルを用いたものがある。 例えば、特許文献1では、リサイクルプラスチックの表面に付着したセルロース異物の全反射赤外吸収スペクトルを測定し、波数1100〜1000cm−1の範囲にピークを有するかどうかで識別する方法が提案されている(特許文献1)。 しかしながら、上述のセルロースの結晶構造や非晶構造の違いや、リグニンなどのセルロース以外の成分の含有量の違いなどからセルロース異物を判別する方法は開示されていない。 本発明者は、上述の知見を用いて、顕微赤外吸収スペクトルにより、セルロースの結晶構造や非晶構造の違いやリグニンの含有量などから、セルロースの素性の違いを判別できる可能性に着目し、それらを成形用原料樹脂や樹脂成形品から検出されるセルロース異物と原料樹脂の製造工程や樹脂の成形工程の周辺環境に存在するセルロース物質との同一性の判別に利用した本発明の方法を見出した。J.Appl.Polym.Sci.,8,P1311(1964)J.Appl.Polym.Sci.,8,P1325(1964)特開2003−227793号公報 本発明の目的は、成形用原料樹脂や樹脂成形品の内部に混入または表面に付着したセルロース異物とその発生源の可能性のあるセルロース物質とを判別する方法を提供することにある。 本発明は、成形用原料樹脂あるいは樹脂成形品の内部に混入または表面に付着したセルロース異物、および成形用原料樹脂の製造工程あるいは樹脂成形品の成形工程の周辺環境に存在するセルロース物質の顕微赤外吸収スペクトルを透過測定または反射測定し、該スペクトルの波数1400〜1350cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの吸光度を波数3000〜2800cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの吸光度で割った値と、1460〜1400cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの波数と、1180〜1140cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの波数とを比較することによるセルロース異物およびセルロース物質の判別方法である。 また本発明は、前記スペクトルの1520〜1500cm−1の範囲に現れるリグニンの吸収のピークの波数を、または前記スペクトルの波数1520〜1500cm−1の範囲に現れるリグニンの吸収のピークの吸光度を波数3000〜2800cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの吸光度で割った値を比較することによるセルロース異物およびセルロース物質の判別方法である。 また、本発明は、前記樹脂成形品が液晶表示装置用の導光体である前記セルロース異物およびセルロース物質の判別方法である。 本発明によれば、成形用原料樹脂や樹脂成形品の内部に混入または表面に付着したセルロース異物とその発生源の可能性のあるセルロース物質とを判別できるため、液晶表示装置用の導光体のような高いクリーン度を求められる製品の品質を向上することができる。 以下、本発明について詳しく説明する。 本発明でいう樹脂成形品とは、成形用原料樹脂を射出成形や押出成形、あるいは溶融紡糸することなどによって得られる成形品を広く指し、前述の液晶表示装置に用いられる導光体も含まれる。 上記の液晶表示装置は、例えば、ノートパソコンなどのディスプレイ画面に用いられるものが挙げられ、それらに構成が限定されるわけではないが、反射シート、当該導光体、プリズムシート、拡散シート、液晶パネルなどからなるユニットである。 本発明でいう成形用原料樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンなど汎用の単独重合体やそれらの単量体成分を含む共重合体、あるいはそれらのブレンド体などを指し、上記の導光体用の成形用原料樹脂として用いられるポリメチルメタクリレートまたはその単量体との共重合体も含まれる。 本発明におけるセルロース異物とは、上記の成形用原料樹脂を製造する段階で内部に混入または表面に付着したり、樹脂成形品を製造する段階で樹脂成形品の内部に混入または表面に付着するセルロース系の異物をいう。 上記のセルロース異物の大きさは様々であり、特に限定はされないが、概ね長径1mm以下のサイズである。 上記のセルロース異物は、D−グルコースがβ−1,4グルコキシド結合した高分子を指し、自然界に存在する植物やそれらを加工した木製品や紙類、あるいは、コットンやパルプを溶剤に溶かし、繊維状やフィルム状に賦形したものなどが広く含まれる。 以下、それらセルロース異物とその発生源の可能性のあるセルロース物質との同一性を判別するための本発明の方法を詳しく説明する。まず最初に、対象となる成形用原料樹脂や樹脂成形品の内部や表面からセルロース異物を取り出す。 成形用樹脂原料や樹脂成形品の表面に付着したセルロース異物は、付着した状態のまま、顕微赤外吸収スペクトル(以下、「IRスペクトル」という。)の透過測定または反射測定に供してもよいが、セルロース単独のIRスペクトルを得るためには、それらを取り出して測定することが好ましい。 前記のセルロース異物を取り出す方法は、特に限定されないが、検査対象となる成形用樹脂原料や樹脂成形品を光学顕微鏡で確認しながら針やピンセットを用いて、手作業で採取してもよいし、市販のマニュピレータ付き顕微鏡を利用してもよい。 成形用原料樹脂や樹脂成形品の内部からセルロース異物を取り出す方法としては、当該樹脂を溶解し、セルロースを溶解しない溶剤中に当該樹脂を浸漬し、セルロース異物を取り出す方法が挙げられる。 前記溶剤は、セルロースを変質させるものでなければ特に限定されないが、例えば、クロロホルムやアセトンなどを用いることができる。 セルロース異物が樹脂中にあり、当該樹脂が架橋性のものであり、適当な溶剤がない場合は、ミクロトーム装置を用いて、セルロース異物が樹脂表面に露出するまで削り出し、樹脂のマトリックス中にセルロース異物が存在するような薄片状に採取する方法を用いてもよい。 次に、上記方法で取り出したセルロース異物およびその発生源の可能性のあるセルロース物質をIRスペクトルの測定装置にかけ、波数4000〜600cm−1の範囲のIRスペクトルを測定する。 前記IRスペクトルは、ノイズをより小さく抑えたり、別途スペクトルの補正を必要としないなどの理由から、透過測定によるものが好ましいが、それが困難である場合は、反射測定によるものであってもよい。 上記の測定に用いるIRスペクトルの測定装置は、市販の製品を広く利用できるため特に限定はされない。 IRスペクトルの波数1400〜1350cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(以下、「1375cm−1付近のピーク」という。)の吸光度を波数3000〜2800cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(以下、「2900cm−1付近のピーク」という。)の吸光度で割った値と、波数1460〜1400cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(以下、「1425cm−1付近のピーク」という。)の波数と、波数1180〜1140cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(以下、「1160cm−1付近のピーク」という。)の波数とを比較することにより、前記セルロース異物およびセルロース物質との同一性を判別する。すなわちセルロース異物およびセルロース物質の前記IRスペクトルを比較対照することによって、セルロースの結晶構造(I型やII型など)や非晶構造、あるいは結晶化度の差異の程度を把握し、前記セルロースの同一性を判別することができる。 なお、上記の吸光度比は、2900cm−1付近のピークの吸光度を1375cm−1付近のピークの吸光度で割った値で比較してもよい。その場合は、当該値がより小さいほど、セルロースの結晶化度がより高いことを示唆する。 セルロース異物との同一性の判別に用いる、発生源の可能性のあるセルロース物質は、必ずしも、結晶構造や非晶構造が均一とは限らないため、当該比較物質の異なる箇所を任意に複数回サンプリングし、1425cm−1付近のピークの波数や1160cm−1付近のピークの波数、あるいは、1375cm−1付近のピークの吸光度を2900cm−1付近のピークの吸光度で割った値を得ることが好ましい。 上記のサンプリングおよび測定の回数は、特に限定されないが、検査の精度と効率化の両立を考慮すると、5〜10回が好ましい。 本発明の方法では、セルロース異物の判別の精度向上のため、前記の判別方法に加えて、IRスペクトルによるセルロース異物に含まれるセルロース以外の成分の検出量から、素性の違いを判別し、発生源を特定することも可能である。 前記の判別に用いる成分は、それに限定されるわけではないが、IRスペクトルにおいて、セルロース成分の吸収のピークとは重ならない波数1520〜1500cm−1の範囲における最も強い吸収のピーク(以下、「1510cm−1付近のピーク」という。)を利用できる点から、リグニンが好ましい。 リグニンは、木質を構成する主要成分の一つであり、天然の木材などには20〜30質量%含まれているが、パルプを原料とした天然系セルロースには、それらが残存したものも多く、逆にコットンを原料とした天然系セルロースや再生系セルロースには、ほとんど含まれていない。 従って、検査対象のセルロース異物とその発生源の可能性のあるセルロース物質のリグニンの含有量を、IRスペクトルを用いて比較し、同一性を判別することが可能である。すなわち、前記スペクトルの1510cm−1付近のピークの波数をセルロース異物の判別に用いることができる。 なお、上記のように、1510cm−1付近のピークの大きさを目視で比較することによっても判別は可能であるが、精度をより高くするためには、当該ピークの大きさを他の吸収のピークに対する吸光度比として比較すれば、判別の精度が上がり好ましい。 1510cm−1付近のピークと吸光度比をなす他の吸収のピークは、セルロース構造に帰属するものが好ましいが、結晶構造や非晶構造の変化にピークの大きさがあまり依存しないものであれば、特に限定はされない。 例えば前記スペクトルの1510cm−1付近のピークの吸光度を2900cm−1付近のピークの吸光度で割った値をセルロース異物の判別に用いることができる。 上記の吸光度比は、2900cm−1付近のピークの吸光度を1510cm−1付近のピークの吸光度で割った値で比較してもよい。その場合は、当該値が小さいほどリグニンの含有量が大きいことを示唆する。 セルロース異物との同一性の判別に用いるセルロース物質は、必ずしも、リグニンの含有量が均一とは限らないため、上記の吸光度比は、当該物質を任意に複数回サンプリングし測定することが好ましい。 なお、対象とする波数の範囲内に複数のピークが混在することは、判別精度の低下を招く可能性もあるため、好ましくない。 前記のようにして得られたIRスペクトルを用いて、対象となるセルロース異物とその発生源の可能性のあるセルロース物質とを比較し、同一性を判別する方法について、具体例を示しながら説明する。 IRスペクトルはフーリエ変換赤外分光光度計(日本分光製、FTIR420)を用いて測定した。 図1は、前記方法によって、樹脂成形品(ポリメチルメタクリレート系導光体)からクロロホルムによって溶かし出したセルロース異物(異物X)と当該成形品が製造された射出成形機の周辺環境に存在した比較用のセルロース物質2種類(比較物質a;当該成形品の原料樹脂が入っていた紙袋の部材の一部、と比較物質b;当該成形品が製造された射出成形機の周辺環境で作業員が着用していた保護手袋の一部)を透過測定した、波数3000〜1140cm−1の範囲におけるIRスペクトルである。 また、図1のIRスペクトルの中の波数1460〜1400cm−1の範囲を拡大したIRスペクトルを図2に示し、波数1180〜1140cm−1の範囲を拡大したIRスペクトルを図3に示す。 前述の通り、セルロースの結晶構造(I型やII型など)や非晶構造、あるいは結晶化度の違いは、IRスペクトルによって、判別することができる。 異物Xと比較物質a,bそれぞれのIRスペクトルの波数1460〜1400cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピーク(以下、「1425cm−1付近のピーク」という。)は、セルロースのCH2結合によるものである(図1)。 また、1160cm−1付近のピークは、セルロースのCOC結合によるものである。 まず、異物Xでは、波数1427cm−1付近に上記のCH2結合の吸収のピークが認められ、波数1159cm−1付近に上記のCOC結合の吸収のピークが認められるのに対し、比較物質bは、波数1429cm−1付近に上記のCH2結合の吸収のピークが認められ、波数1161cm−1付近に上記のCOC結合の吸収のピークが認められ、両者のCH2結合とCOC結合のピークの波数には、若干の違いがあることを示している。(図2、図3) すなわち、異物Xと比較物質bには、結晶構造または非晶構造に違いがあることを示唆している。 上記の場合、比較物質bが、ほぼI型結晶からなると推定されるのに対し、異物Xは、比較物質bと比較して、I型結晶構造に対する非晶構造の比率が若干高くなっているか、または、I型結晶の一部がII型結晶に変化していると推測できる。 一方、比較物質aは、波数1427cm−1付近に上記のCH2結合の吸収のピークが認められ、波数1159cm−1付近に上記のCOC結合の吸収のピークが認められることから、異物Xの特徴に類似していることがわかる。(図2、図3) さらに、異物Xと比較物質aおよびbの1375cm−1付近のピーク(図1に示すCH結合の吸収ピーク)の吸光度を2900cm−1付近のピーク(図1に示すCH結合の吸収のピーク)の吸光度で割った値(以下、「1375/2900吸光度比」という。)を表1に示す。 前記吸光度比の値は、異物Xと比較物質aがほぼ同等であるのに対し、比較物質bのそれは若干高くなっている。 1375cm−1付近のピークは、セルロースの結晶化度が高くなるとより強く発現するため、異物Xの1375/2900吸光度比の値が、比較物質bのそれより若干低い値であるのは、比較物質bに比較して、異物Xは、I型結晶と非晶構造との比率をみると、より非晶構造の領域が大きくなっている(結晶化度が低い)ことを示唆している。ここで、2900cm−1付近のピークの吸光度は、波数3000〜2800cm−1の範囲にベースラインを採り、1375cm−1付近のピークの吸光度は、波数1400〜1300cm−1の範囲にベースラインを採ったものである。 上記の波数3000〜2800cm−1の範囲のベースラインは、チャート上における波数3000cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と波数2800cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを直線で結んだものであり、波数1400〜1300cm−1の範囲のベースラインは、チャート上における波数1400cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と波数1300cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを直線で結んだものである。 すなわち、上記のIRスペクトルの特徴の相違から、異物Xと比較物質bは、異なるセルロース物質の可能性があると判別できるため、比較物質bが異物Xの発生源ではないと推測することができる。 一方、比較物質aの1375/2900吸光度比の値は、異物Xのそれと同等であることから、他に比較するべきセルロース物質が存在しなければ、両者は同じセルロース物質であると判別できる。 以上の結果より、比較物質aが異物Xの発生源であると特定できたため、当該物質を射出成形機の周辺環境から排除する等の対策を講じることができる。 次にセルロース異物とその発生源の可能性のあるセルロース物質のリグニンの含有量をIRスペクトルを用いて比較し、同一性を判別する方法を前述の図1の例を用いて具体的に説明する。 図1の異物Xでは、波数1510cm−1付近にリグニン分子が多数持つベンゼン環構造の吸収のピークが、わずかながら認められ、リグニンをわずかに含んでいると考えられるのに対し、比較物質bには、それらが全く認められず、リグニンをほとんど含有していないと考えられる。 すなわち、両者は異なるセルロース物質の可能性があると判別でき、さらには、比較物質bが異物Xの発生源ではないと推測できる。 一方、比較物質aは、1510cm−1付近のピークの大きさが異物Xとほぼ同等であり、リグニンの含有量がほぼ同等であると考えられることから、他に比較するべきセルロース物質が存在しなければ、両者は同じセルロース物質であると判別できる 前記結果からも、比較物質aが異物Xの発生源であると判別できたため、当該物質を射出成形機の周辺環境から排除できる。 表2に図1の異物Xと比較物質a,bそれぞれの1510cm−1付近のピークの吸光度を2900cm−1付近のピークの吸光度で割った値(以下、「1510/2900吸光度比」という。)を示す。 前記1510/2900吸光度比は、大きいほどリグニンの含有量が多く、異物Xと比較物質aの該吸光度比は、ほぼ同等であることから、両者のリグニンの含有量がほぼ同等であると判断され、前記の1510cm−1付近のピークの大きさを目視で判別した結果が検証された。なお、比較物質bは、波数1510cm−1付近のピークが認められないため当該値は0となる。 因みに、表2の例では、2900cm−1付近のピークの吸光度は、波数3000〜2800cm−1の範囲にベースラインを採り、1510cm−1付近のピークの吸光度は、波数1520〜1500cm−1の範囲にベースラインを採った。 上記の波数3000〜2800cm−1の範囲のベースラインは、チャート上における波数3000cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と波数2800cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを結んだ直線とし、波数1520〜1500cm−1の範囲のベースラインは、チャート上における波数1520cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点と波数1500cm−1の位置を示す縦軸の罫線とスペクトルが交差する点とを結んだ直線とした。 本発明は、成形用原料樹脂や樹脂成形品の内部に混入または表面に付着したセルロース異物とその発生源の可能性のあるセルロース物質とを判別する検査方法として広く有効である。本発明を説明するためのセルロース異物とセルロース比較物質の波数3000〜1140cm−1の範囲におけるIRスペクトルを比較した例である。本発明を説明するためのセルロース異物とセルロース比較物質の波数1460〜1400cm−1の範囲におけるIRスペクトルを比較した例である。本発明を説明するためのセルロース異物とセルロース比較物質の波数1180〜1140cm−1の範囲におけるIRスペクトルを比較した例である。符号の説明 1 異物X 2 比較物質a 3 比較物質b 4 波数2900cm−1付近のピーク(CH結合の吸収) 5 波数1510cm−1付近のピーク(リグニンの吸収) 6 波数1425cm−1付近のピーク(CH2結合の吸収) 7 波数1375cm−1付近のピーク(CH結合の吸収) 8 波数1160cm−1付近のピーク(COC結合の吸収) 9 波数1427cm−1 10 波数1429cm−1 11 波数1159cm−1 12 波数1161cm−1 成形用原料樹脂あるいは樹脂成形品の内部に混入または表面に付着したセルロース異物、および成形用原料樹脂の製造工程あるいは樹脂成形品の成形工程の周辺環境に存在するセルロース物質の顕微赤外吸収スペクトルを透過測定または反射測定し、該スペクトルの波数1400〜1350cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの吸光度を波数3000〜2800cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの吸光度で割った値と、1460〜1400cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの波数と、1180〜1140cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの波数とを比較することによるセルロース異物およびセルロース物質の判別方法。 前記スペクトルの1520〜1500cm−1の範囲に現れるリグニンの吸収のピークの波数を、または前記スペクトルの波数1520〜1500cm−1の範囲に現れるリグニンの吸収のピークの吸光度を波数3000〜2800cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの吸光度で割った値を比較することによるセルロース異物およびセルロース物質の判別方法。 前記樹脂成形品が液晶表示装置用の導光体である請求項1または2に記載のセルロース異物およびセルロース物質の判別方法。 【課題】成形用原料樹脂や樹脂成形品の内部に混入または表面に付着したセルロース異物を判別するための方法を提供する。【解決手段】 成形用原料樹脂あるいは樹脂成形品の内部に混入または表面に付着したセルロース異物、および成形用原料樹脂の製造工程あるいは樹脂成形品の成形工程の周辺環境に存在するセルロース物質の顕微赤外吸収スペクトルを透過測定または反射測定し、該スペクトルの波数1400〜1350cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの吸光度を波数3000〜2800cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの吸光度で割った値と、1460〜1400cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの波数と、1180〜1140cm−1の範囲に現れる最も吸収の強いピークの波数とを比較することによるセルロース異物およびセルロース物質の判別方法。【選択図】図1