タイトル: | 公開特許公報(A)_高加水分解活性セルラーゼおよびヘミセルラーゼの製造方法 |
出願番号: | 2007122694 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 1/14,C12N 9/42,C12N 9/24,C12P 19/14 |
ホウ シュウ 矢野 伸一 井上 宏之 澤山 茂樹 奥田 直之 佐藤 正則 黒田 真史 JP 2008271927 公開特許公報(A) 20081113 2007122694 20070507 高加水分解活性セルラーゼおよびヘミセルラーゼの製造方法 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 月島機械株式会社 000165273 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 ホウ シュウ 矢野 伸一 井上 宏之 澤山 茂樹 奥田 直之 佐藤 正則 黒田 真史 C12N 1/14 20060101AFI20081017BHJP C12N 9/42 20060101ALI20081017BHJP C12N 9/24 20060101ALI20081017BHJP C12P 19/14 20060101ALI20081017BHJP JPC12N1/14 AC12N9/42C12N9/24C12P19/14 AC12P19/14 Z 8 OL 13 (出願人による申告)平成18年度 環境省 委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願 4B050 4B064 4B065 4B050CC01 4B050DD03 4B050LL05 4B064AF01 4B064CA05 4B064CA21 4B064CB07 4B064DA16 4B065AA58X 4B065AC12 4B065AC14 4B065BA22 4B065BB26 4B065BC01 4B065BC31 4B065CA19 本発明は、極めてセルラーゼ生産能の高い新規のアクレモニウム属に属する微生物アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)CF−2612株またはその変異株、該株を用いたセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼの製造方法、ならびにバイオマス資源の分解または糖化方法に関する。 セルラーゼは、セルロースを、グルコース、セロビオースやセロオリゴトースに加水分解する酵素反応系を触媒する酵素群の総称であり、その作用様式により、FPアーゼ、CMCアーゼ、セロビアーゼなど種々の名称で呼ばれる酵素が存在する。セルラーゼはこれら酵素の相互作用により、セルロースを最終的にはグルコースにまで分解する。ヘミセルラーゼは、ヘミセルロースをキシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース等に加水分解する酵素反応系を触媒する酵素群の総称であり、その作用様式により、キシラナーゼ、アラビナナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、マンナナーゼ、ガラクタナーゼ、キシロシダーゼ、マンノシダーゼなど種々の名称で呼ばれる酵素が存在する。 従来、リグノセルロース系バイオマス資源の糖化に用いるセルラーゼおよびヘミセルラーゼの製造には、トリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)(非特許文献1を参照)、トリコデルマ・ビリデ(T. viride)(非特許文献2を参照)やアスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に属する微生物がセルラーゼ生産菌として用いられていたが、これらの菌株ではセルラーゼの生産性が十分に得られないという欠点があった。また、生産されたセルラーゼ自体のセルロース分解力も十分でないために、セルロースを完全にグルコースにまで分解することができず、中間産物であるセロビオースやセロオリゴ糖を多量に生成残存するといった問題があった。 かかる問題を解決するために、セルラーゼ生産能が高く、かつ生産するセルラーゼ自体の分解力が高い微生物を、広く自然界から検索する試みがなされてきた。その結果、土穣から分離したアクレモニウム・セルロリティカスに属する微生物が見出され、当該微生物が産生するセルラーゼは、セルロースをほとんど完全にグルコースにまで分解できる(特許文献1を参照)。さらに、この微生物の突然変異株であるアクレモニウム・セルロリティカスC1株(FERM P−18508)は、セルラーゼの高い生産能を有していることが見出されている(特許文献2を参照)。 近年、セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを用いてバイオマス資源を酵素分解、糖化することにより構成単位であるグルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースにし、更にこれを発酵して得られるエタノールや乳酸などを液体燃料もしくは化学原料として利用することが、注目、検討されており、その実用化技術開発が促進されている。そのため、バイオマス資源の実用化経済性のために、上記セルラーゼ生産菌よりもセルラーゼ生産能の高い菌株が求められている。特開昭59−166081特開2003−135052Biotechnol. Bioeng. , 23, 1837-1849 (1981)Appl. Biochem. Biotechnol. , 57-58, 349-360 (1996) 本発明の課題は、セルラーゼ生産能を高めることにより、セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼの製造、ならびにバイオマス資源の分解または糖化を、効率的に行うことを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、上記アクレモニウム・セルロリティカスC1株の突然変異株として得られたアクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株が、該C1株に比べ、セルラーゼ活性(特にFPアーゼ、セロビアーゼ、およびアビセラーゼの活性)が高く、かつ当該セルラーゼの高い生産能を有することを見いだし、本発明を完成させた。 本発明は以下の特徴を有する。 (1)アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P−18508)と比べて高いセルラーゼ生産能を有するアクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株(受託番号FERM P−21290)またはその変異株。 (2)セルラーゼ生産菌としてアクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株またはその変異株を培養し、その培養物からセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを採取することを特徴とする、セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼの製造方法。 (3)セルラーゼ生産菌としてアクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株またはその変異株を培養し、その培養液でバイオマス資源を糖化分解することを特徴とする、バイオマス資源の糖化方法。 (4)培地の炭素源として、粉末セルロース(アビセルを含む)、セロビオース、瀘紙、一般紙類、古紙類、木材、ふすま、麦わら、稲わら、もみがら、バガス、大豆粕、大豆おから、コーヒー粕、米ぬか、ラクトース、ラクトース水和物、乳清(ホエイ)、乳製品、加水分解残渣、およびこれらの混合物を用いる、(2)または(3)に記載の方法。 (5)培養方法が、液体培養または固体培養である(2)〜(4)のいずれかに記載の方法。 (6) セルラーゼが、FPアーゼ、CMCアーゼ、アビセラーゼ、セロビアーゼ、およびこれらの混合物を含む、(2)、(4)および(5)に記載の方法。 (7)ヘミセルラーゼが、キシラナーゼ、アラビナナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、マンナナーゼ、ガラクタナーゼ、キシロシダーゼ、マンノシダーゼ、およびこれらの混合物を含む、(2)、(4)および(5)に記載の方法。 (8)(2)、(4)および(5)に記載の方法により得られたセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを用いて、バイオマス資源を分解または糖化することを特徴とする、バイオマス資源の分解または糖化方法。 本発明は、セルラーゼ生産能の高い新規な、アクレモニウム属に属する微生物アクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株を用いることによって、セルラーゼ生産性を著しく向上させることができ、またそのように製造されたセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを利用することによって、バイオマス資源の分解または糖化を効率的に行うことができるという格別の作用効果を有する。 以下に本発明をさらに具体的に説明する。 セルラーゼは、上記のようにFPアーゼ、CMCアーゼ、アビセラーゼ、セロビアーゼなど、セルロースの分解に関与する酵素の総称であり、セルロースの分解活性を有していれば、本発明のセルラーゼに含まれる。セルロースは、グルコースがβ−1,4グルコシド結合により高度に重合したグルコースポリマーであり、全ての植物の細胞壁構成成分として存在する。 ヘミセルラーゼとは、へミセルロースを分解する酵素の総称である。また、へミセルロースとは、陸上植物細胞の細胞壁を構成する多糖類のうち、セルロースとペクチン以外のものをいう。 本発明において、「セルラーゼ生産菌」とは、セルラーゼを生産できる微生物ならびにセルラーゼおよびヘミセルラーゼを生産できる微生物を含み、天然源からの分離菌、その変異株、遺伝子組換え菌などを含む。本発明において、特に好ましいセルラーゼ生産菌は、アクレモニウム・セルロリティカスC1株の突然変異株として得られたアクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株またはその変異株である。なお、本発明のアクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株は、平成19年4月10日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM P−21290が付与されている。 セルラーゼ生産能とは、セルラーゼを生産する能力を指し、セルラーゼの総酵素活性が高いほどセルラーゼ生産能が高いことを意味する。 本発明において「バイオマス資源」は、植物や藻類が生産するセルロース系および/またはリグノセルロース系バイオマスを包含し、そのようなバイオマスには、例えば、木材、ふすま、麦わら、稲わら、もみがら、バガス、大豆粕、大豆おから、コーヒー粕、米ぬか、加水分解残渣などを含むが、それらに限定されない。加水分解残渣とは、バイオマス資源を、酸や酵素などを用いて加水分解処理したものをいう。 本発明において「培養」方法とは、液体培養および固体培養を含むが、選択した微生物を培養できるかぎり、これらの方法に限定されない。 本発明において、「バイオマス資源を分解または糖化すること」とは、バイオマス資源に含まれるセルロースおよび/またはヘミセルロースを分解し、オリゴ糖類、二糖類、単糖類およびそれらの混合物に変換することをいう。あるいは、言い換えれば、この用語は、セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼによって、多糖類のグリコシド結合を加水分解することをいう。(セルラーゼ生産菌変異株の作製) セルラーゼ生産菌変異株は、紫外線もしくは放射線による照射処理、化学物質(例えば、亜硝酸、塩基類縁化合物(5−ブロモウラシルおよび2−アミノプリンなど)、アルキル化剤(ニトロソグアニジンおよびエチルメタンサルホネートなど)、アクリジン色素類(アクリフラビンおよびプロフラビンなど)、発がん剤(4−ニトロキノリン−1−オキシド)、抗生物質(マイトマイシンCなど))による処理によって得ることができる。 または、遺伝子組換え的にセルラーゼ生産菌変異株を得ることも可能である。菌体を、乳鉢などを用いて液体窒素中で摩砕後、例えばフェノール/クロロホルム法、グアニジウム法又はフェノール/SDS法により全RNAを抽出する。必要に応じて、RNAをオリゴ(dT)セルロースカラムに通してpoly(A)+RNAを得るか、あるいは、poly(A)+RNAから既知の逆転写反応を経てcDNAを作製する。NCBI、GenBank等のデータバンクにアクセスすることによって入手可能であるセルラーゼの公知塩基配列を基にプライマーを設計し、上記RNAまたはcDNAを鋳型としてPCRを行い菌体のセルラーゼ遺伝子をクローニングする。これを高発現誘導可能なプロモーター(例えば、pyr4プロモーター、cbhlプロモーターなど)や分泌シグナルペプチドの下流に連結し、宿主微生物と適合性を有する適宜なベクターに組み入れ、遺伝子組換えベクターを作製する。当該ベクターは、ターミネーター領域、抗生物質耐性遺伝子等の選抜用の各種マーカー遺伝子等をさらに含む。あるいは、プライマーを設計する際に、その塩基配列に予め変異を加えておき、そのプライマーを用いて、上記同様PCRを行うことによって、変異を有するセルラーゼ遺伝子をクローニングすることができる。この変異を有するセルラーゼ遺伝子を用いて遺伝子組換えベクターを作製しても良い。この遺伝子組み換えベクターを、公知の各種遺伝子導入法、例えばカルシウム処理法、遺伝子注入(トランスフェクション)法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法等を用いて宿主微生物へと導入し、変異株を得ることができる。宿主微生物としては、例えば、アクレモニウム属、トリコデルマ属、アスペルギルス属、ペニシリウム属に属するものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、上記遺伝子組換えに用いられる分子生物学的手法は、「分子生物学実験プロトコールI, II, III」丸善株式会社発行(1997)に記載される方法を参考にして行うことができる。 セルラーゼ生産菌変異株のスクリーニングは、以下の操作によって行うことができる。 色素結合セルロース(Cellulose Azure (Sigma))を用いる方法:色素結合セルロースはセルロースに青色色素Remazol Brilliant Blue Rを結合させたものであり、セルラーゼによって分解されると色素が培地中に遊離拡散するために酵素活性を検出することができる。0.5〜1%Cellulose Azure添加Czapeck-Dox寒天培地にセルラーゼ生産菌変異株を含む試料液を塗布し、適温にて5〜7日間培養を行う。コロニー周囲の基質が分解拡散し、ハローを形成したものを釣菌する。 酸処理セルロースを用いる方法:セルロース粉末50gに氷冷した60%H2SO4200mlを加え、氷上において粘性をもつ半透明のペースト状になるまで撹拌し、1時間放置する。これに氷冷アセトン2Lを注ぎ、セルロースを沈殿させ、生成した白沈をポリトロンホモジナイザーにて懸濁液状にする。グラスフィルター上において、白沈を回収し、さらに0.5 L氷冷アセトンで再懸濁、グラスフィルター濾過によって洗浄する。回収した白沈を蒸留水300 mLに懸濁しポリトロンホモジナイザーにて均一化し、蒸留水を加えて容量を500 mLとする。これに1N NaOHを加えpH 5〜6にpH調整した後、グラスフィルター上において75%アセトン3Lで洗浄し、つづいて99.5%エタノールおよびエーテルによって溶媒を置換し、風乾して酸処理セルロース粉末とする。1〜2%酸処理セルロース添加Czapeck-Dox寒天培地にセルラーゼ生産菌変異株を含む試料液を塗布し、適温にて5〜7日間培養を行う。コロニー周囲の酸処理セルロース粒子がセルラーゼによって分解され、透明ハローを形成したコロニーを釣菌する(柏木豊「発酵糸状菌の酵素」、微生物遺伝資源利用マニュアル(16)、独立行政法人農業生物資源研究所発行、2004年2月29日発行)。 上記方法に加え、さらに釣菌した菌株を培養し、その培養上清中に製造されたセルラーゼの酵素活性を下記(セルラーゼ活性の測定)の項に記載するような方法によって測定し、酵素活性の高いセルラーゼ生産菌変異株をスクリーニングすることができる。 (セルラーゼ生産菌の培養) セルラーゼ生産菌は、下記の実施例において具体的に記載されるように培養することが可能である。 培地は、炭素源として、粉末セルロース(アビセルを含む)、セロビオース、瀘紙、一般紙類、古紙類、木材、ふすま、麦わら、稲わら、もみがら、バガス、大豆粕、大豆おから、コーヒー粕、米ぬか、ラクトース、ラクトース水和物、乳清(ホエイ)、乳製品、加水分解残渣、およびこれらの混合物、窒素源として、硫安、硝安などの無機アンモニウム塩、尿素、アミノ酸、肉エキス、酵母エキス、ポリペプトン、およびタンパク質分解物などの有機窒素含有物、ならびに無機塩類として、硫酸マグネシウム、リン酸2水素カリウム、酒石酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸銅、塩化カルシウム、塩化鉄、塩化マンガン等を含むことができる。必要ならば有機微量栄養物を含有する培地を使用してもよい。培地は、寒天やゼラチンを加えて固化した固体培地、低濃度の寒天を加えた半流動培地、培地成分のみを入れた液体培地(ブイヨン、またはブロスともいう)を用いることができるが、液体培地が好ましい。 培養温度および培養時間は、セルラーゼ生産菌の種類によって異なるが、通常、28〜32℃、48時間〜10日ほど培養を行う。 培養に用いることができる発酵槽としては、通気撹拌型、気泡塔型、流動層型、充填層型などが挙げられる。 上記培養液から、遠心分離、濾過などの公知の方法によって菌体を除去し上清液を得る。この上清液は、このまま粗酵素液として使用することが可能である。 (セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼの精製) セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼは、上記上清液より、タンパク質精製に用いられる公知の方法、例えば、硫安塩析、有機溶媒(エタノール、メタノール、アセトン等)による沈殿分離、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、基質または抗体などを利用したアフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透ろ過等の濾過処理など、を1つまたは複数組み合わせて用いて精製することが可能である。 (セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼの固定化) 精製したセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを、固定化して用いることもできる。固定化することによって、安定化され、連続反復使用が可能となる点において有効である。セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼの固定化は、担体結合法、架橋法、包括法を用いて行うことができる。担体結合法では、セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを水不溶性の担体(例えば、ポリアクリルアミドゲル、ポリスチレン樹脂、多孔性ガラス、金属酸化物など)に、物理的吸着、イオン結合および共有結合を用いて結合させることができる。架橋法では、2個またはそれ以上の官能基を持つ試薬を用いて、酵素同士を互いに架橋することによって固定化する。架橋試薬としては、Schiff塩基をつくるグルタルアルデヒド、ペプチド結合をするイソシアン酸誘導体、N,N’-エチレンマレイミド、ジアゾカップリングをするビスジアゾベンジン、あるいはアルキル化するN,N’-ポリメチレンビスヨードアセトアミドなどを用いることができる。包括法では、高分子ゲルの細かい格子の中にセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを取り込む格子型と、半透膜の高分子の皮膜によってセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを皮膜するマイクロカプセル型を用いる。格子型の方法では、合成高分子物質のポリアクリルアミドゲル、ポリビニルアルコール、光硬化性樹脂などの高分子化合物を用いることができる。マイクロカプセル型の方法では、ヘキサメチレンジアミン、セバコイルクロリド、ポリスチレン、レシチンなどを用いることができる(福井三郎、千畑一郎、鈴木周一、「酵素工学」東京化学同人発行、1981年)。 (セルラーゼ活性の測定) セルラーゼ活性は、上記上清液または精製したセルラーゼに、濾紙、カルボキシメチルセルロース(CMC)、微結晶セルロース(Avicel)、サリシンおよびセロビオースなどの基質を加えて、一定時間酵素反応を行わせた後に、生じた還元糖をSomogy-Nelson法およびDNS法などにより発色させ所定の波長で比色定量して測定することが可能である。 Somogy-Nelson法においては、一定時間反応させた上記反応溶液にSomogy銅試薬(和光純薬)を加えて反応を停止する。その後およそ20分間煮沸し、煮沸終了後急速に水道水にて冷却する。冷却後、Nelson試薬を注入して還元銅沈殿を溶解し発色させ、およそ30分静置した後蒸留水を加え、吸光度を測定する。 DNS法を用いる場合は、1% CMC基質液に酵素液を加え、一定時間酵素反応を行わせたのち、煮沸などによって酵素反応を停止する。この反応液にジニトロサリチル酸を加えて、5分間煮沸し、冷却後吸光度を測定する(柏木豊、前出)。 (バイオマス資源の分解または糖化) バイオマス資源の分解または糖化のための手法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、用いられるバイオマス資源は、乾燥物でも、また湿潤物でもよいが、処理速度を高めるためにあらかじめ100〜1000μmのサイズに粗粉砕又は細断して用いるのが好ましい。この粗粉砕又は細断は、ボールミル、振動ミル、カッターミル、ハンマーミル、ウィレーミル、ジェットミルなどの機械を用いて行うことができる。その後、粗粉砕又は細断したバイオマス資源を水性媒体中に懸濁し、セルラーゼもしくはヘミセルラーゼ、またはその両方を含む培養上清または精製もしくは固定化したセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを加え、撹拌または振とうしながら加温して、バイオマス資源を分解または糖化することができる。この方法において、反応液のpHおよび温度は、セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼが失活しない範囲内であればよく、一般的に、常圧で反応を行う場合、温度は5〜95℃、pHは1〜11の範囲でよい。例えば、50gの粉砕した稲わらに、0.25〜1Lの酢酸緩衝液(0.05M、pH 4.8)および0.01〜0.2Lのセルラーゼ(例えば、10〜20U/ml)を含む培養上清または精製したセルラーゼを添加して、45〜60℃で攪拌または振とうしながら、バイオマス資源の分解または糖化を行う。また、この酵素反応は、バッチ式で行っても、連続式で行ってもよい。 次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。アクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株(以下、CF−2612株と記載)(1)CF−2612株の取得方法 親株として、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P−18508;以下、C1株と記載)を30℃で24時間好気的に培養した後、紫外線(UV)照射を行い、その後30℃でインキュベートした。生育したコロニーから、活性がより高い変異菌株をスクリーニングした後、以上の方法を用いて二回目の突然変異を行い、さらに活性がより高い変異菌株をスクリーニングした後、NTG処理を用いて、三回目の突然変異を行い、変異株CF−2612株を得た。このCF−2612株は、以下の形態的性質を有する。(2)CF−2612株の培養的・形態的性質 3種類の選択寒天培地を用いて、CF−2612株とC1株をそれぞれ7〜14日間培養し、その形態を観察した。結果を以下に示す。<炭素源選択寒天培地Aで培養した場合>〔選択培地A〕グルコース 50 g/L硫酸アンモニウム 5 g/L尿素 2 g/L硫酸マグネシウム 1.2 g/Lリン酸2水素カリウム 24 g/L酒石酸カリウム 4.7 g/L硫酸亜鉛 10 mg/L硫酸マンガン 10 mg/L硫酸銅 9 mg/LTween80 1 g/L寒天 20 g/LpH 4.0 選択培地Aを用いて培養した場合における、目視での菌体の観測では、C1株はやや赤みを帯びた茶褐色でゆるく盛り上がり羊毛状を呈していたが、CF−2612株のコロニーはザクロサッ果様のひだが多く、高山型に生育していた。径はコロニーによって異なるが、C1株は18〜20mmであったのに対して、CF−2612株は10〜13mmであった。<選択寒天培地Bで培養した場合>〔選択培地B〕選択培地Aの炭素源からグルコースを除き、代わりにセルロースパウダー 25g/Lカルボキシメチルセルロース(CMC) 25g/Lを添加した培地。 選択培地Bを用いて培養した場合における、目視での菌体の観測では、C1株が表面に放射線状のシワまたはゆるく盛り上がり羊毛状を呈していたのに対し、CF−2612株では白い羊毛状の菌糸が見られず、平滑で不規則なシワを呈していた。径はコロニーによって異なるが、C1株は15〜18mmであったのに対して、CF−2612株は、10〜13mmであった。<ポテトデキストロース寒天培地で培養した場合>〔ポテトデキストロース寒天培地〕じゃがいも浸出物 4g/Lブドウ糖 20g/L寒天 15g/LpH 5.6±0.2 ポテトデキストロース寒天培地を用いて培養した場合における、目視での菌体の観測では、C1株のコロニーは直径18〜20mmであり、中心部に孔のあるドーナツ状であり盛り上がりが大きく、また培地下部への浸潤も大きく、赤褐色集落上に白色の菌糸束を形成したのに対し、CF−2612株では孔は見られず、コロニーの直径は10〜13mmであり、シワが深く白い丘を呈していた。CF−2612株とC1株との酵素活性の比較 CF−2612株とC1株との酵素活性を比較した。常法により殺菌した以下の組成を有するセルラーゼ生産菌培養培地にそれぞれの菌体を接種して30℃で7日間好気的に培養した。この培養液を遠心分離して得た上澄液について、製造されたセルラーゼの酵素活性を以下の方法に基づき測定した。〔培地の組成〕:セルロースパウダー 50 g/L硫酸アンモニウム 5 g/L尿素 4 g/L硫酸マグネシウム 1.2 g/Lリン酸2水素カリウム 24 g/L酒石酸カリウム 4.7 g/L硫酸亜鉛 10 mg/L硫酸マンガン 10 mg/L硫酸銅 10 mg/LTween 80 1 g/LpH 4.0 上記酵素活性の測定法は、以下のとおりである。 [酵素活性測定法] FPアーゼ:濾紙(ワットマンNo.1、1×6cm)を基質とし、これに適宜希釈した培養上澄液0.5mLとクエン酸緩衝液(pH4.8、0.05M)1.0mLを加え、50℃で1.0時間酵素反応を行った後、ジニトロサリチル酸試薬3.0mLを加え、100℃で5分間加熱し発色させる。冷却後、蒸留水2.5mLにこれを200μl加え、540nmの波長で比色定量する。1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1ユニット(U)とした。 CMCアーゼ:クエン酸緩衝液(pH4.8、0.05M)に溶解した2%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩溶液に対し、等量の適当に希釈した酵素溶液を加え、50℃で30分間酵素反応を行った後、ジニトロサリチル酸試薬3.0mLを加え、100℃で5分間加熱し発色させる。冷却後、蒸留水2.5mlにこれを200μl加え、540nmの波長で比色定量する。1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1ユニットとした。 アビセラーゼ:1mlの酢酸緩衝液(pH4.8、0.1M)に10mgのアビセルを添加し、等量の適当に希釈した酵素溶液を加え、50℃で2時間酵素反応を行った後、ジニトロサリチル酸試薬3.0mlを加え、100℃で5分間加熱し発色させる。冷却後、蒸留水2.5mLにこれを200μl加え、540nmの波長で比色定量する。1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1ユニットとした。 セロビアーゼ活性:クエン酸緩衝液(pH4.8、0.05M)に15mM溶解したセロビオース溶液1mLに対し、等量の適当に希釈した酵素溶液を加え、50℃で30分間酵素反応を行った後、100℃で5分間加熱し酵素反応を停止させ、液中のグルコース量をグルコース測定キットで測定した。1分間に2μmolのグルコースあるいは1μmolのセロビロースに相当する還元糖を生成する酵素量を1ユニットとした。 これらの測定結果を表1に示す。 表1より、CF−2612株の培養液の上澄液のセルラーゼ酵素活性について、C1株に比べ、総酵素活性が高いこと、また、特にFPアーゼ、セロビアーゼおよびアビセラーゼの活性が有意に高いことがわかる。また、このことは、CF−2612株がC1株に比べ、これら酵素についての高い生産能を有することを示す。CF−2612株とC1株との糖化作用の比較 CF−2612株およびC1株の上記培養液を用いて、その糖化作用を比較した。〔反応液の組成〕:蒸留水 0.7 ml 0.5M 酢酸緩衝液(pH4.8) 0.1 ml稲わらまたはユーカリ木粉(ボールミルを用いて四時間粉砕したもの) 50mg 上記反応液にCF−2612株とC1株の培養液 0.2 mlをそれぞれ加え、45℃にて反応させた。 反応液に稲わらを用いた実験結果を、図1に示す。稲わらを用いた糖化実験より、CF-2612株の培養液は、C1株の培養液よりもグルコースの産生量が高く、糖化速度(糖化率)が大きいことが示された。さらに、CF-2612株の培養液を用いて糖化を行った場合、アラビノースが産生されるのに対して、C1株培養液を用いて糖化を行った場合、糖化液中にアラビノースが含まれていないことがわかった。この結果から、CF-2612株の培養液中には、アラビナナーゼおよび/またはアラビノフラノシダーゼが含まれるが、C1株の培養液中にはアラビナナーゼおよびアラビノフラノシダーゼが含まれないことが示唆された。 反応液にユーカリ木粉を用いた実験結果を、図2に示す。ユーカリ木粉を用いた実験結果より、CF-2612株の培養液は、C1株の培養液よりもグルコースの産生量が高く、糖化速度(糖化率)が大きいことが示された。 これらの実験結果は、CF−2612株がC1株に比べ、高い糖化作用を有することを示し、また、CF−2612株はC1株と異なり、アラビナナーゼおよび/またはアラビノフラノシダーゼ生産能を有することを示す。CF-2612株のスケールアップ培養 以下の組成を有するセルラーゼ生産菌培養培地を常法により殺菌して用いた。CF-2612株の前培養液(50 mL)を、30℃にて3日間、好気的に振動培養により行った。新たなセルラーゼ生産菌生産培地(0.95 L)に前培養液(50 mL)を接種して、30℃にてジャーファーメーターを用いて、5日間好気的に培養した。その後、40 g/Lのセルロースパウダーと2 g/Lの尿素を添加してさらに2日間培養した。この培養液を遠心分離して得た上澄液について、上記と同様にFPアーゼの活性を調べたところ、製造されたFPアーゼの酵素活性は26.1U/mlに達した。〔培地の組成〕:セルロースパウダー 60 g/L(前培養 40 g/L)硫酸アンモニウム 5 g/L尿素 4 g/L(前培養 2g/L)硫酸マグネシウム 1.2 g/Lリン酸2水素カリウム 24 g/L酒石酸カリウム 4.7 g/L硫酸亜鉛 10 mg/L硫酸マンガン 10 mg/L硫酸銅 10 mg/LTween 80 1 g/LpH 4.0 本発明において開発されたアクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株は、セルラーゼの生産能が高いために、セルラーゼを効率的に製造でき、そのようにして製造されたセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを用いることによって、バイオマス資源の分解、糖化も、安価、効率的に行いうる点で有用である。図1は、CF-2612株またはC1株の培養液を用いた稲わらの糖化実験の結果を示す。黒塗りの記号:CF-2612株の培養液(17.7 FPU/ml); 白抜きの記号:C1株の培養液(11.9 FPU/ml); ▽:コントロール(培養液の代わりに同量の蒸留水を添加した); □:グルコース; ◇:キシロース; △:アラビノース; ○:マンノース図2は、CF-2612株またはC1株の培養液を用いたユーカリ木粉の糖化実験の結果を示す。黒塗りの記号:CF-2612株の培養液(17.7 FPU/ml); 白抜きの記号:C1株の培養液( 11.9 FPU/ml); ■:コントロール(培養液の代わりに同量の蒸留水を添加した); ○:グルコース; △:キシロース アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P−18508)と比べて高いセルラーゼ生産能を有するアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)CF−2612株(受託番号FERM P−21290)またはその変異株。 セルラーゼ生産菌としてアクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株またはその変異株を培養し、その培養物からセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを採取することを特徴とする、セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼの製造方法。 セルラーゼ生産菌としてアクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株またはその変異株を培養し、その培養液でバイオマス資源を糖化分解することを特徴とする、バイオマス資源の糖化方法。 培地の炭素源として、粉末セルロース、アビセル、セロビオース、瀘紙、一般紙類、古紙類、木材、ふすま、麦わら、稲わら、もみがら、バガス、大豆粕、大豆おから、コーヒー粕、米ぬか、ラクトース、ラクトース水和物、乳清、乳製品、加水分解残渣、およびこれらの混合物を用いる、請求項2または3に記載の方法。 培養方法が、液体培養または固体培養である請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。 セルラーゼが、FPアーゼ、CMCアーゼ、アビセラーゼ、セロビアーゼ、およびこれらの混合物を含む、請求項2、4および5に記載の方法。 ヘミセルラーゼが、キシラナーゼ、アラビナナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、マンナナーゼ、ガラクタナーゼ、キシロシダーゼ、マンノシダーゼ、およびこれらの混合物を含む、請求項2、4および5に記載の方法。 請求項2、4および5に記載の方法により得られたセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを用いてバイオマス資源を分解または糖化することを特徴とする、バイオマス資源の分解または糖化方法。 【課題】新規セルラーゼ生産菌およびそれを用いたセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼの製造方法、およびバイオマス資源の分解または糖化方法を提供する。【解決手段】極めてセルラーゼ生産能の高い新規アクレモニウム・セルロリティカスCF−2612株またはその変異株、それを培養しセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを製造する方法、およびそのセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼを用いて、バイオマス資源を分解または糖化することを特徴とする、バイオマス資源の分解または糖化方法。【選択図】なし