生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_薬液の滅菌方法、並びにプレフィルドシリンジ及びその製造方法
出願番号:2007114554
年次:2008
IPC分類:C08B 37/08,A61K 31/728,A61M 5/28,A61L 2/00,B01D 61/14,A61P 19/02,A61P 29/00,A61K 9/08


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義永 隆明 久保 順一 牟田 一則 立石 哲郎 JP 2008266524 公開特許公報(A) 20081106 2007114554 20070424 薬液の滅菌方法、並びにプレフィルドシリンジ及びその製造方法 久光製薬株式会社 000160522 長谷川 芳樹 100088155 寺崎 史朗 100092657 沖田 英樹 100140578 義永 隆明 久保 順一 牟田 一則 立石 哲郎 C08B 37/08 20060101AFI20081010BHJP A61K 31/728 20060101ALI20081010BHJP A61M 5/28 20060101ALI20081010BHJP A61L 2/00 20060101ALI20081010BHJP B01D 61/14 20060101ALI20081010BHJP A61P 19/02 20060101ALI20081010BHJP A61P 29/00 20060101ALI20081010BHJP A61K 9/08 20060101ALI20081010BHJP JPC08B37/08A61K31/728A61M5/28A61L2/00B01D61/14 500A61P19/02A61P29/00 101A61K9/08 4 OL 12 4C058 4C066 4C076 4C086 4C090 4D006 4C058AA22 4C058BB10 4C058CC02 4C066AA09 4C066BB01 4C066CC01 4C066DD08 4C066EE06 4C066LL20 4C066PP02 4C076AA12 4C076BB11 4C076CC09 4C076FF11 4C076GG43 4C076GG47 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA25 4C086MA01 4C086MA04 4C086MA17 4C086MA66 4C086NA01 4C086NA04 4C086ZA96 4C086ZB15 4C090AA09 4C090BA67 4C090BB02 4C090BB18 4C090BB21 4C090BB33 4C090BB36 4C090BB53 4C090BB98 4C090DA23 4D006GA07 4D006MC29 4D006MC63 4D006PA01 4D006PB20 4D006PB24 4D006PB55 4D006PC45 本発明は、プレフィルドシリンジ用の薬液の滅菌方法、並びにプレフィルドシリンジ及びその製造方法に関する。 従来、ヒアルロン酸溶液は、変形性関節症、慢性関節リウマチ等の各種関節疾患の治療に用いられている。ヒアルロン酸溶液は、例えば、関節液の潤滑作用、関節軟骨表面保護作用の低下に起因する運動障害や疼痛症状の発生を緩和するために、シリンジを用いた注射により疾患関節部に注入される。 注射による方法の場合、ヒアルロン酸溶液は、関節部に直接投与されるため、何らかの方法で滅菌されている必要がある。ヒアルロン酸溶液の滅菌は、一般に、高圧蒸気滅菌により行われている。また、ヒアルロン酸溶液の滅菌方法として、濾過による方法も検討されている(特許文献1)。 一方、ヒアルロン酸ナトリウムの精製方法として、水溶性有機溶剤を用いる方法が提案されている(特許文献2)。特開昭62−230801号公報特開平9−324001号公報 しかしながら、ヒアルロン酸を含む薬液を高圧蒸気滅菌により滅菌すると、ヒアルロン酸の分解により薬液の粘性が変化するという問題があった。特に、プレフィルドシリンジの注射剤として用いられる薬液の場合、疾患関節部に直接投与されることから、関節部における十分な潤滑作用が得られるような適切な粘性を維持することが重要であるが、従来の高圧蒸気滅菌方法の場合、ヒアルロン酸の分解を十分に抑制しつつ、十分な滅菌を行うことが困難であった。 また、濾過による従来の方法の場合も、粘性のある薬液を濾過するためにはある程度の加熱を要し、しかも濾過速度が小さいため、薬液が長時間加熱されることとなり、ヒアルロン酸の分解防止という点では満足できるものではなかった。 そこで、本発明は、ヒアルロン酸又はその塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な操作で滅菌する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、ヒアルロン酸又はその塩の分解物の含有量が十分に少なく、簡易な方法で製造することが可能なプレフィルドシリンジを提供することを目的とする。更に、本発明は、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な方法でプレフィルドシリンジを製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、濾過圧力を特定範囲に制御することと、濾過用のフィルターとして特定のものを用いることとの組合わせにより、意外にも比較的低温であっても非常に早い濾過速度が得られることを見出した。そして、係る知見に基づいて更なる検討の結果、本発明の完成に至った。 本発明は、ヒアルロン酸及び/又はその薬学的に許容される塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液の滅菌方法に関する。本発明に係る滅菌方法は、濾過温度40〜80℃、濾過圧力100〜500KPaの条件でメンブレンフィルターにより薬液を濾過するステップを備える。メンブレンフィルターは、親水性ポリエーテルスルホン及び親水性ポリビニリデンジフルオライドのうち少なくとも一方のポリマーから形成されたフィルターである。 上記本発明に係る滅菌方法によれば、大きな濾過速度が得られるため、ヒアルロン酸又はその塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ十分に滅菌することが可能である。また、薬液を単に濾過するだけでよく、簡易な操作で薬液を滅菌することが可能である。 上記ヒアルロン酸の質量平均分子量は、60万〜120万であることが好ましい。これにより、関節腔内に投与した際の潤滑作用が特に優れるものとなるように薬液の粘性を調製することが、より容易になる。 本発明に係るプレフィルドシリンジは、上記本発明に係る滅菌方法により滅菌された薬液が注射剤として装填されたプレフィルドシリンジである。 上記本発明に係るプレフィルドシリンジは、ヒアルロン酸又はその塩の分解物の含有量が十分に少なく、また、簡易な方法で製造することが可能である。 本発明に係るプレフィルドシリンジの製造方法は、ヒアルロン酸溶液及び/又はその薬学的に許容される塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を上記本発明に係る滅菌方法により滅菌するステップと、滅菌された薬液を未装填のプレフィルドシリンジに装填するステップとを備える。 上記本発明に係る製造方法によれば、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な方法でプレフィルドシリンジを製造することが可能である。 本発明の滅菌方法によれば、ヒアルロン酸又はその塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な操作で十分に滅菌することが可能である。本発明の場合、濾過速度が大きいため、ヒアルロン酸の分解が生じ難い。したがって、薬液が注射剤として適切な粘性を維持することが可能であり、また、ヒアルロン酸そのものの特性の変化も抑制される。その結果、優れた潤滑効果を有するプレフィルドシリンジが得られる。 本発明のプレフィルドシリンジは、ヒアルロン酸又はその塩の分解物の含有量が十分に低減され、簡易な方法で製造することが可能である。 本発明の製造方法によれば、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な方法でプレフィルドシリンジを製造することが可能である。 以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。 本実施形態に係る滅菌方法では、ヒアルロン酸及び/又はその薬学的に許容される塩(以下場合により「ヒアルロン酸等」という)を含むプレフィルドシリンジ用の薬液が濾過により滅菌される。該薬液は、典型的には、ヒアルロン酸等を含む水溶液である。 ヒアルロン酸は、微生物、動物等由来のいかなるものも用いることができる。ヒアルロン酸は、例えば、硝子体、へその緒、関節液若しくは鶏冠からの単離、又は、ストレプトコッカス・ピオゲネス及びストレプトコッカス・エキ等の微生物による生産により得られる。これらの中でも、鶏冠から単離されたヒアルロン酸が特に好ましい。 ヒアルロン酸の薬学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、並びに、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。これらの中でも、ナトリウム塩が特に好ましい。 ヒアルロン酸等の質量平均分子量は、60万〜120万であることが好ましい。これにより、ヒアルロン酸等の濃度を適切な範囲に維持しつつ、薬液の粘性を注射液として望ましい範囲に容易に調製することが可能になる。なお、上記質量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー法により測定されるものである。 関節腔内への投与による潤滑作用の観点から、薬液は、70〜100mPa・sの粘度を有することが好ましい。なお、この粘度は、室温(25℃)における試料をB型粘度計(デジタル粘度計(型式RVDV−III:BROOKFIELD社製)で測定したものである。同様の観点から、薬液におけるヒアルロン酸等の濃度は、薬液全質量を基準として0.5〜2質量%であることが好ましい。該濃度は、最も好ましくは1質量%である。 薬液は、ヒアルロン酸等に加えて、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩酸及び注射用蒸留水等の他の成分を含有する場合が多い。薬液は無色澄明であることが好ましい。また、薬液のpHは、通常、6.8〜7.8の範囲内となるように調整されることが好ましい。 濾過温度(濾過に供される薬液の温度)は、40〜80℃に保持される。濾過温度が80℃以下であれば、ヒアルロン酸等の分解は十分に抑制される。濾過温度が30℃未満であると濾過速度は遅くなったり、メンブレンフィルターの目詰まりが生じ易くなったりする傾向がある。 上記範囲の温度で、濾過圧力(薬液に加えられる圧力)を100〜500KPa(好ましくは300〜350kPa)として、薬液がメンブレンフィルターにより濾過される。濾過圧力が100kPa未満であると濾過速度が遅くなり、濾過の効率が低下する。濾過圧力が500kPaを超えると、十分な滅菌効果が得られ難くなる。 濾過に用いられるメンブレンフィルターとしては、親水性ポリエーテルスルホン(PES)及び親水性ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)のうち少なくとも一方のポリマーから形成されたものが用いられる。これら特定のポリマーから形成された多孔体をフィルターとして用いることにより、粘性を有する薬液が目詰まりすることなく、高い濾過速度を得ることが可能となる。濾過速度及び滅菌効果の観点から、親水性ポリエーテルスルホンのフィルターが特に好ましい。 高い滅菌効果を得るため、メンブレンフィルターのポアサイズは、0.1〜0.3μmであることが好ましい。 図1は、プレフィルドシリンジの一実施形態を示す斜視図である。図1に示すプレフィルドシリンジ10は、2種の注射液が装填されたダブルシリンジタイプのプレフィルドシリンジである。 プレフィルドシリンジ10は、バレル11と、バレル11の一端を封止するエンドストッパ12Aを有するプランジャー12と、バレル11の上記一端と他端との間に介在し、バレル11内を前室と後室に分離するミドルストッパ15と、前室内に封入された第1薬液Aと、後室内に封入された第2薬液Bとを備えている。エンドストッパ12A及びミドルストッパ15は、バレル11の内周面上を摺動する。第1薬液Aはリドカイン溶液である。第2薬液Bは、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含むヒアルロン酸溶液、すなわち、上述の滅菌方法により滅菌された薬液である。 第1薬液Aとして用いられるリドカイン溶液は、リドカインの他、塩化ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム、注射用蒸留水等の組成物からなる水溶液である。このリドカイン水溶液の粘度は0.5mPa・s〜5mPa・sである。 リドカイン溶液は、主成分としてリドカインを含む溶液であれば、その薬効を損なわない程度に他の成分を含有していてもよく、塩酸リドカイン等のリドカインの塩酸塩の溶液であるものなども含むものである。なお、リドカインは、ナトリウムイオンの透過を阻害して、活動電位を不活性化することにより、神経伝達を遮断する薬理作用があるものとして知られている。リドカイン溶液は、リドカイン及び/又はその薬学的に許容できる塩を局所麻酔剤として含有している。リドカイン溶液のpHは、5.0〜7.0に調整されているのが好ましい。なお、本発明において、ヒアルロン酸溶液と組合わせる他の薬液はリドカイン溶液に限定されるものではなく、所望の目的等に応じて適宜変更が可能である。 プランジャー12は、ピストン本体部18を含み、このピストン本体部18の先端部にエンドストッパ12Aが螺合等により取付けられている。一般に、使い捨てタイプのシリンジは、バレルとピストンについてはポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)等により形成されているが、本実施形態のシリンジ10では、バレル11及びピストン本体部18は、特に、耐熱性があり、且つ汚染性がないCOP樹脂(環状オレフィン系樹脂)により形成されている。 COP樹脂は、次の二つに大別される。 第1のタイプのCOP樹脂は、(a)環状オレフィンと(b)非環状オレフィンの共重合体である。 第2のタイプのCOP樹脂は、環状オレフィン開環メタセシス重合体((a)環状オレフィンを開環メタセシス重合したもの)又は環状オレフィン開環メタセシス重合体水素化物((a)環状オレフィンを開環メタセシス重合した後、重合体を水素化したもの)である。 (a)環状オレフィンとしては、ノルボルネン環を有する多環状オレフィン類(ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類等)、単環状オレフィン類、環状ジオレフィン類が挙げられる。 (b)非環状オレフィンとしては、ビニル基を有する化合物(α−オレフィン等)、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が挙げられる。 本実施形態におけるCOP樹脂としては、上記のうち環状オレフィン開環メタセシス重合体水素化物が最も好ましい。 エンドストッパ12Aは、気密性を維持するために、ゴム、熱可塑性エラストマー等の弾性体により形成されることが多い。 ゴムとしては特に制限されるところはないが、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプレン−イソブチレンゴム類、ニトリルゴム等の合成ゴムや天然ゴムを主原料とし、それに充填剤、架橋剤等を配合したものが挙げられる。 熱可塑性エラストマーとしては、溶液重合型スチレンブタジエンゴム、(SBSブロックコポリマー)、ポリエステル又はポリエーテルウレタンゴム、ポリエーテル芳香族ポリエステルブロックの共重合体(ポリエステルゴム)、ポリオレフィンブロック共重合体、高トランス−14−ポリイソプレン、ポリエチレンブチルグラフト共重合体、シンジオタクチックポリブタジエン等も用いることができる。 上記のほか、比較的軟質なプラスチック、例えばコポリマータイプのポリプロピレン、低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のようなコポリマータイプでポリプロピレンとほぼ同程度の耐熱性(好ましくは130〜140℃程度)を有するプラスチックも用いることができる。 ダブルシリンジタイプのプレフィルドシリンジ10は、バレル11と、このバレル11内に摺動自在に挿入されるエンドストッパ12Aを有するプランジャー12のエンドストッパ12Aと先端の間に、前室および後室を区画形成するようにミドルストッパ15が挿入されている。 ミドルストッパ15は、例えば短円柱状のゴム弾性体などで構成されており、その前部の外周には、弾性変形可能なリング状のリップ部15Aがバレル11の内周面に摺接するように形成されている。なお、ミドルストッパ15の後端部の外周には、バレル11の内周面に摺接することでリップ部15Aと共働してミドルストッパ15の軸線の傾きを防止する複数のガイド突起15Bが形成されている。 ミドルストッパ15は、気密性を維持するために、ゴム、熱可塑性エラストマー等の弾性体により形成されることが多い。ゴムとしては特に制限されるところはないが、例えばイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプレン−イソブチレンゴム類、ニトリルゴム等の合成ゴムや天然ゴムを主原料とし、それに充填剤、架橋剤等を配合したものが挙げられる。 バレル11の前端部の内面には、針装着部11A内の注射口11Bの周囲からバレル11の内周面に向かって等角度間隔で放射状に延びる3対のバイパス用突条11Cが形成されている。 図2は、図1に示したプレフィルドシリンジの使用時の縦断面図である。 プレフィルドシリンジ10の未使用状態では、バレル11の先端部に形成された小径の針装着部11Aに密封用のトップキャップ13(図1参照)が被着されているが、トップキャップ13が取り外されたプレフィルドシリンジ10の使用時には、トップキャップ13の代わりに注射針14が針装着部11Aに装着される。なお、臨床現場では22G〜23G(内径0.48mm〜0.40mm)の寸法の注射針14がよく用いられる。 また、バレル11の内周面、エンドストッパ12Aの表面、ミドルストッパ15の表面は、それぞれシリコーンゲル層で被覆することができる。シリコーンゲル層20を形成するためのシリコーンは、ケイ素原子に結合した有機基の種類により、(a)ストレートシリコーンと(b)変性シリコーンとに大別できる。 (a)ストレートシリコーンとは、メチル基、水素原子を置換基として結合したものをいう。 (b)変性シリコーンとは、ストレートシリコーンから二次的に誘導された構成部分を持つものをいい、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の不飽和基を少なくとも1(好ましくは2)有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。 本実施形態においては、これらシリコーンに限定されることなく、ストレートシリコーンあるいは変性シリコーンどちらでも可能である。例えば、ガンマ線による硬化の知られたストレートシリコーンであるダウ・コーニング360(ダウコーニング社製)や、紫外線硬化性の変性シリコーンゲルとして市販されているスリーボンド3167、3168(スリーボンド社製)などを使用することができる。ここで最適には、ダウ・コーニング360(ダウコーニング社製)を用いるのが好ましい。 このシリンジでは、バレル11の内周面および/またはストッパ(エンドストッパ12A、ミドルストッパ15)の表面にシリコーンゲル層20が設けられているため、バレル11とストッパとの摺動性を確保することができる。また、バレル11の樹脂からシリコーンが経時的に分離・剥離するおそれを低減することができ、バレル11内で液体をより安定的に収容することが可能となる。 エンドストッパ12Aを有するプランジャー12を注射針14の方向に押すと、第2薬液Bがミドルストッパ15を押圧し、押されたミドルストッパ15が第1薬液Aを押圧し、注射口11B及び注射針14を介して、第1薬液Aが外部に流出する。第1薬液Aが流出し終わると、凸条11Cがミドルストッパ15の外周面を変形させてバイパス通路を形成し、エンドストッパ12Aを有するプランジャー12を更に注射針14の方向に押すと、エンドストッパ12Aが第2薬液Bを押圧し、第2薬液Bがバイパス通路、注射口11B及び注射針14を介して、外部に流出する。 本発明に係るプレフィルドシリンジは、上記実施形態のようなダブルシリンジタイプに限られるものではなく、例えば、ヒアルロン酸溶液が単独で装填されるタイプであってもよいし、3種以上の注射液が装填されるタイプであってもよい。 上記実施形態に係るプレフィルドシリンジ10は、例えば、ヒアルロン酸溶液及び/又はその薬学的に許容される塩を含む第2薬液Bを上述の滅菌方法により滅菌するステップと、第1薬液A及び第2薬液Bを未装填のプレフィルドシリンジ10に装填して、第1の薬液A及び第2の薬液Bが装填されたプレフィルドシリンジを得るステップと、第1の薬液A及び第2の薬液Bが装填されたプレフィルドシリンジの外面を滅菌するステップとを備える製造方法により製造される。 係る方法の場合、第2の薬液Bは、上述の実施形態に係る滅菌方法により既に十分に滅菌されているため、薬液の装填後は、バレル11等の外面のみを滅菌すればよい。したがって、高圧蒸気滅菌に代えて、ガス滅菌や過酸化水素滅菌等を選択することが可能となる。これにより、高圧蒸気滅菌を行なった場合に比べて、ヒアルロン酸等の分解物が非常に少ないプレフィルドシリンジを得ることが可能となる。また、第1薬液Aとして、耐熱性の低い薬剤を含む薬液を用いる場合にも有利である。 以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。(検討1) 混合機(CLEAMIX CLM−0.8S、エムテクニック社製)を用いて、1質量%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液(ヒアルロン酸の質量平均分子量:102万)を薬液として調製した。薬液の粘度は80mPa・s(25℃)であった。次いで、親水性ポリエーテルスルホン膜であるポアサイズ0.2μm、直径47mmの円形のメンブレンフィルター(スーポアEKV(商品名)、日本ポール社製)上に薬液を供給し、濾過温度(薬液温度)を表1に示す各温度に保持しながら、300kPaで60分間、加圧濾過した。そして、60分間に濾過された薬液の量(濾過量)を計測した。 表1に示されるように、濾過温度25℃では濾過を行うこと自体ができなかった。これに対して、濾過温度を40℃以上とすることにより、十分効率的な濾過が可能であることが確認された。(検討2) 下記の各メンブレンフィルターを用い、上記「検討1」と同様の薬液を濾過する試験を行った。いずれのメンブレンフィルターも、ポアサイズ0.2μm、直径47mmの円形のフィルターである。メンブレンフィルター:・親水性PES膜(スーポアEKV FTKEKV(商品名)、日本ポール社製)・親水性PVDF膜(フロロダインII−DFLP FTKDFL(商品名)、日本ポール社製)・ナイロン66膜(ウルチポアN66 FTKNR(商品名)、日本ポール社製) 濾過は以下の手順で行った。1)各フィルターをディスクホルダーに設置し、水でプレウェットした。2)薬液を60℃に加熱し、250kPaに加圧しながらメンブレンフィルター上に送液し、経時的に濾過量を計測した。 親水性PES膜、および親水性PVDF膜は高い濾過効率を示した。一方、ナイロン66膜は濾過効率が低く、濾過量は親水性PES膜の68%、親水性PVDF膜の75%に留まった。(検討3) メンブレンフィルターを用いた濾過による滅菌方法、又は、オートクレーブを用いた滅菌方法でヒアルロン酸を含む薬液の滅菌処理を行った。滅菌後の薬液に含まれる、ヒアルロン酸の分解物(類縁物質)の量(滅菌前のヒアルロン酸の量を基準とする割合、%)を測定した。分解物量の測定は、分解により低分子量化したヒアルロン酸の量をゲル濾過クロマトグラフィー法により定量する方法により行った。(検討4) 「検討1」と同様の薬液を50℃、60℃又は70℃に加熱し、そのときの薬液中の類縁物質量の経時変化を計測した。測定結果を表4及び図4に示す。 表4及び図4に示されるように、80℃以下の加熱であれば、ヒアルロン酸の分解が比較的長時間にわたって十分に抑制されることが確認された。特に、60℃以下においてヒアルロン酸の分解が著しく抑制された。プレフィルドシリンジの一実施形態を示す斜視図である。図1のプレフィルドシリンジの使用時の縦断面図である。類縁物質量と加熱時間との関係を示すグラフである。符号の説明 10…プレフィルドシリンジ、11…バレル、11A…針装着部、11B…注射口、11C…凸条、12A…エンドストッパ、12…プランジャー、13…トップキャップ、14…注射針、15…ミドルストッパ、15A…リップ部、15B…ガイド突起、18…ピストン本体部、20…シリコーンゲル層、A…第1薬液、B…第2薬液。 ヒアルロン酸及び/又はその薬学的に許容される塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液の滅菌方法であって、 濾過温度40〜80℃、濾過圧力100〜500KPaの条件でメンブレンフィルターにより前記薬液を濾過するステップを備え、 前記メンブレンフィルターが、親水性ポリエーテルスルホン及び親水性ポリビニリデンジフルオライドのうち少なくとも一方のポリマーから形成されたフィルターである、滅菌方法。 前記ヒアルロン酸の質量平均分子量が60万〜120万である、請求項1記載の滅菌方法。 請求項1又は2記載の滅菌方法により滅菌された薬液が注射剤として装填されたプレフィルドシリンジ。 ヒアルロン酸及び/又はその薬学的に許容される塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を請求項1又は2記載の滅菌方法により滅菌するステップと、 滅菌された前記薬液を未装填のプレフィルドシリンジに装填するステップと、を備える、プレフィルドシリンジの製造方法。 【課題】ヒアルロン酸又はその塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な操作で十分に滅菌する方法を提供すること。【解決手段】ヒアルロン酸溶液及び/又はその薬学的に許容される塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液の滅菌方法であって、濾過温度40〜80℃、濾過圧力100〜500KPaの条件でメンブレンフィルターにより薬液を濾過するステップを備え、メンブレンフィルターが、親水性ポリエーテルスルホン及び親水性ポリビニリデンジフルオライドのうち少なくとも一方のポリマーから形成されたフィルターである、滅菌方法。【選択図】なし


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特許公報(B2)_薬液の滅菌方法、並びにプレフィルドシリンジ及びその製造方法

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タイトル:特許公報(B2)_薬液の滅菌方法、並びにプレフィルドシリンジ及びその製造方法
出願番号:2007114554
年次:2013
IPC分類:C08B 37/08,A61K 31/728,A61M 5/28,A61L 2/00,B01D 61/14,A61P 19/02,A61P 29/00,A61K 9/08


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義永 隆明 久保 順一 牟田 一則 立石 哲郎 JP 5118385 特許公報(B2) 20121026 2007114554 20070424 薬液の滅菌方法、並びにプレフィルドシリンジ及びその製造方法 久光製薬株式会社 000160522 長谷川 芳樹 100088155 寺崎 史朗 100092657 沖田 英樹 100140578 義永 隆明 久保 順一 牟田 一則 立石 哲郎 20130116 C08B 37/08 20060101AFI20121220BHJP A61K 31/728 20060101ALI20121220BHJP A61M 5/28 20060101ALI20121220BHJP A61L 2/00 20060101ALI20121220BHJP B01D 61/14 20060101ALI20121220BHJP A61P 19/02 20060101ALI20121220BHJP A61P 29/00 20060101ALI20121220BHJP A61K 9/08 20060101ALI20121220BHJP JPC08B37/08A61K31/728A61M5/28A61L2/00B01D61/14 500A61P19/02A61P29/00 101A61K9/08 C08B37/08 特開昭62−230801(JP,A) 特開平06−199656(JP,A) 特開平09−324001(JP,A) 3 2008266524 20081106 11 20100203 伊藤 幸司 本発明は、プレフィルドシリンジ用の薬液の滅菌方法、並びにプレフィルドシリンジ及びその製造方法に関する。 従来、ヒアルロン酸溶液は、変形性関節症、慢性関節リウマチ等の各種関節疾患の治療に用いられている。ヒアルロン酸溶液は、例えば、関節液の潤滑作用、関節軟骨表面保護作用の低下に起因する運動障害や疼痛症状の発生を緩和するために、シリンジを用いた注射により疾患関節部に注入される。 注射による方法の場合、ヒアルロン酸溶液は、関節部に直接投与されるため、何らかの方法で滅菌されている必要がある。ヒアルロン酸溶液の滅菌は、一般に、高圧蒸気滅菌により行われている。また、ヒアルロン酸溶液の滅菌方法として、濾過による方法も検討されている(特許文献1)。 一方、ヒアルロン酸ナトリウムの精製方法として、水溶性有機溶剤を用いる方法が提案されている(特許文献2)。特開昭62−230801号公報特開平9−324001号公報 しかしながら、ヒアルロン酸を含む薬液を高圧蒸気滅菌により滅菌すると、ヒアルロン酸の分解により薬液の粘性が変化するという問題があった。特に、プレフィルドシリンジの注射剤として用いられる薬液の場合、疾患関節部に直接投与されることから、関節部における十分な潤滑作用が得られるような適切な粘性を維持することが重要であるが、従来の高圧蒸気滅菌方法の場合、ヒアルロン酸の分解を十分に抑制しつつ、十分な滅菌を行うことが困難であった。 また、濾過による従来の方法の場合も、粘性のある薬液を濾過するためにはある程度の加熱を要し、しかも濾過速度が小さいため、薬液が長時間加熱されることとなり、ヒアルロン酸の分解防止という点では満足できるものではなかった。 そこで、本発明は、ヒアルロン酸又はその塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な操作で滅菌する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、ヒアルロン酸又はその塩の分解物の含有量が十分に少なく、簡易な方法で製造することが可能なプレフィルドシリンジを提供することを目的とする。更に、本発明は、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な方法でプレフィルドシリンジを製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、濾過圧力を特定範囲に制御することと、濾過用のフィルターとして特定のものを用いることとの組合わせにより、意外にも比較的低温であっても非常に早い濾過速度が得られることを見出した。そして、係る知見に基づいて更なる検討の結果、本発明の完成に至った。 本発明は、ヒアルロン酸及び/又はその薬学的に許容される塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液の滅菌方法に関する。本発明に係る滅菌方法は、濾過温度40〜80℃、濾過圧力100〜500KPaの条件でメンブレンフィルターにより薬液を濾過するステップを備える。メンブレンフィルターは、親水性ポリエーテルスルホン及び親水性ポリビニリデンジフルオライドのうち少なくとも一方のポリマーから形成されたフィルターである。 上記本発明に係る滅菌方法によれば、大きな濾過速度が得られるため、ヒアルロン酸又はその塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ十分に滅菌することが可能である。また、薬液を単に濾過するだけでよく、簡易な操作で薬液を滅菌することが可能である。 上記ヒアルロン酸の質量平均分子量は、60万〜120万であることが好ましい。これにより、関節腔内に投与した際の潤滑作用が特に優れるものとなるように薬液の粘性を調製することが、より容易になる。 本発明に係るプレフィルドシリンジは、上記本発明に係る滅菌方法により滅菌された薬液が注射剤として装填されたプレフィルドシリンジである。 上記本発明に係るプレフィルドシリンジは、ヒアルロン酸又はその塩の分解物の含有量が十分に少なく、また、簡易な方法で製造することが可能である。 本発明に係るプレフィルドシリンジの製造方法は、ヒアルロン酸溶液及び/又はその薬学的に許容される塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を上記本発明に係る滅菌方法により滅菌するステップと、滅菌された薬液を未装填のプレフィルドシリンジに装填するステップとを備える。 上記本発明に係る製造方法によれば、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な方法でプレフィルドシリンジを製造することが可能である。 本発明の滅菌方法によれば、ヒアルロン酸又はその塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な操作で十分に滅菌することが可能である。本発明の場合、濾過速度が大きいため、ヒアルロン酸の分解が生じ難い。したがって、薬液が注射剤として適切な粘性を維持することが可能であり、また、ヒアルロン酸そのものの特性の変化も抑制される。その結果、優れた潤滑効果を有するプレフィルドシリンジが得られる。 本発明のプレフィルドシリンジは、ヒアルロン酸又はその塩の分解物の含有量が十分に低減され、簡易な方法で製造することが可能である。 本発明の製造方法によれば、ヒアルロン酸又はその塩の分解を抑制しつつ、簡易な方法でプレフィルドシリンジを製造することが可能である。 以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。 本実施形態に係る滅菌方法では、ヒアルロン酸及び/又はその薬学的に許容される塩(以下場合により「ヒアルロン酸等」という)を含むプレフィルドシリンジ用の薬液が濾過により滅菌される。該薬液は、典型的には、ヒアルロン酸等を含む水溶液である。 ヒアルロン酸は、微生物、動物等由来のいかなるものも用いることができる。ヒアルロン酸は、例えば、硝子体、へその緒、関節液若しくは鶏冠からの単離、又は、ストレプトコッカス・ピオゲネス及びストレプトコッカス・エキ等の微生物による生産により得られる。これらの中でも、鶏冠から単離されたヒアルロン酸が特に好ましい。 ヒアルロン酸の薬学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、並びに、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。これらの中でも、ナトリウム塩が特に好ましい。 ヒアルロン酸等の質量平均分子量は、60万〜120万であることが好ましい。これにより、ヒアルロン酸等の濃度を適切な範囲に維持しつつ、薬液の粘性を注射液として望ましい範囲に容易に調製することが可能になる。なお、上記質量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー法により測定されるものである。 関節腔内への投与による潤滑作用の観点から、薬液は、70〜100mPa・sの粘度を有することが好ましい。なお、この粘度は、室温(25℃)における試料をB型粘度計(デジタル粘度計(型式RVDV−III:BROOKFIELD社製)で測定したものである。同様の観点から、薬液におけるヒアルロン酸等の濃度は、薬液全質量を基準として0.5〜2質量%であることが好ましい。該濃度は、最も好ましくは1質量%である。 薬液は、ヒアルロン酸等に加えて、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩酸及び注射用蒸留水等の他の成分を含有する場合が多い。薬液は無色澄明であることが好ましい。また、薬液のpHは、通常、6.8〜7.8の範囲内となるように調整されることが好ましい。 濾過温度(濾過に供される薬液の温度)は、40〜80℃に保持される。濾過温度が80℃以下であれば、ヒアルロン酸等の分解は十分に抑制される。濾過温度が30℃未満であると濾過速度は遅くなったり、メンブレンフィルターの目詰まりが生じ易くなったりする傾向がある。 上記範囲の温度で、濾過圧力(薬液に加えられる圧力)を100〜500KPa(好ましくは300〜350kPa)として、薬液がメンブレンフィルターにより濾過される。濾過圧力が100kPa未満であると濾過速度が遅くなり、濾過の効率が低下する。濾過圧力が500kPaを超えると、十分な滅菌効果が得られ難くなる。 濾過に用いられるメンブレンフィルターとしては、親水性ポリエーテルスルホン(PES)及び親水性ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)のうち少なくとも一方のポリマーから形成されたものが用いられる。これら特定のポリマーから形成された多孔体をフィルターとして用いることにより、粘性を有する薬液が目詰まりすることなく、高い濾過速度を得ることが可能となる。濾過速度及び滅菌効果の観点から、親水性ポリエーテルスルホンのフィルターが特に好ましい。 高い滅菌効果を得るため、メンブレンフィルターのポアサイズは、0.1〜0.3μmであることが好ましい。 図1は、プレフィルドシリンジの一実施形態を示す斜視図である。図1に示すプレフィルドシリンジ10は、2種の注射液が装填されたダブルシリンジタイプのプレフィルドシリンジである。 プレフィルドシリンジ10は、バレル11と、バレル11の一端を封止するエンドストッパ12Aを有するプランジャー12と、バレル11の上記一端と他端との間に介在し、バレル11内を前室と後室に分離するミドルストッパ15と、前室内に封入された第1薬液Aと、後室内に封入された第2薬液Bとを備えている。エンドストッパ12A及びミドルストッパ15は、バレル11の内周面上を摺動する。第1薬液Aはリドカイン溶液である。第2薬液Bは、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含むヒアルロン酸溶液、すなわち、上述の滅菌方法により滅菌された薬液である。 第1薬液Aとして用いられるリドカイン溶液は、リドカインの他、塩化ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム、注射用蒸留水等の組成物からなる水溶液である。このリドカイン水溶液の粘度は0.5mPa・s〜5mPa・sである。 リドカイン溶液は、主成分としてリドカインを含む溶液であれば、その薬効を損なわない程度に他の成分を含有していてもよく、塩酸リドカイン等のリドカインの塩酸塩の溶液であるものなども含むものである。なお、リドカインは、ナトリウムイオンの透過を阻害して、活動電位を不活性化することにより、神経伝達を遮断する薬理作用があるものとして知られている。リドカイン溶液は、リドカイン及び/又はその薬学的に許容できる塩を局所麻酔剤として含有している。リドカイン溶液のpHは、5.0〜7.0に調整されているのが好ましい。なお、本発明において、ヒアルロン酸溶液と組合わせる他の薬液はリドカイン溶液に限定されるものではなく、所望の目的等に応じて適宜変更が可能である。 プランジャー12は、ピストン本体部18を含み、このピストン本体部18の先端部にエンドストッパ12Aが螺合等により取付けられている。一般に、使い捨てタイプのシリンジは、バレルとピストンについてはポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)等により形成されているが、本実施形態のシリンジ10では、バレル11及びピストン本体部18は、特に、耐熱性があり、且つ汚染性がないCOP樹脂(環状オレフィン系樹脂)により形成されている。 COP樹脂は、次の二つに大別される。 第1のタイプのCOP樹脂は、(a)環状オレフィンと(b)非環状オレフィンの共重合体である。 第2のタイプのCOP樹脂は、環状オレフィン開環メタセシス重合体((a)環状オレフィンを開環メタセシス重合したもの)又は環状オレフィン開環メタセシス重合体水素化物((a)環状オレフィンを開環メタセシス重合した後、重合体を水素化したもの)である。 (a)環状オレフィンとしては、ノルボルネン環を有する多環状オレフィン類(ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類等)、単環状オレフィン類、環状ジオレフィン類が挙げられる。 (b)非環状オレフィンとしては、ビニル基を有する化合物(α−オレフィン等)、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が挙げられる。 本実施形態におけるCOP樹脂としては、上記のうち環状オレフィン開環メタセシス重合体水素化物が最も好ましい。 エンドストッパ12Aは、気密性を維持するために、ゴム、熱可塑性エラストマー等の弾性体により形成されることが多い。 ゴムとしては特に制限されるところはないが、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプレン−イソブチレンゴム類、ニトリルゴム等の合成ゴムや天然ゴムを主原料とし、それに充填剤、架橋剤等を配合したものが挙げられる。 熱可塑性エラストマーとしては、溶液重合型スチレンブタジエンゴム、(SBSブロックコポリマー)、ポリエステル又はポリエーテルウレタンゴム、ポリエーテル芳香族ポリエステルブロックの共重合体(ポリエステルゴム)、ポリオレフィンブロック共重合体、高トランス−14−ポリイソプレン、ポリエチレンブチルグラフト共重合体、シンジオタクチックポリブタジエン等も用いることができる。 上記のほか、比較的軟質なプラスチック、例えばコポリマータイプのポリプロピレン、低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のようなコポリマータイプでポリプロピレンとほぼ同程度の耐熱性(好ましくは130〜140℃程度)を有するプラスチックも用いることができる。 ダブルシリンジタイプのプレフィルドシリンジ10は、バレル11と、このバレル11内に摺動自在に挿入されるエンドストッパ12Aを有するプランジャー12のエンドストッパ12Aと先端の間に、前室および後室を区画形成するようにミドルストッパ15が挿入されている。 ミドルストッパ15は、例えば短円柱状のゴム弾性体などで構成されており、その前部の外周には、弾性変形可能なリング状のリップ部15Aがバレル11の内周面に摺接するように形成されている。なお、ミドルストッパ15の後端部の外周には、バレル11の内周面に摺接することでリップ部15Aと共働してミドルストッパ15の軸線の傾きを防止する複数のガイド突起15Bが形成されている。 ミドルストッパ15は、気密性を維持するために、ゴム、熱可塑性エラストマー等の弾性体により形成されることが多い。ゴムとしては特に制限されるところはないが、例えばイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプレン−イソブチレンゴム類、ニトリルゴム等の合成ゴムや天然ゴムを主原料とし、それに充填剤、架橋剤等を配合したものが挙げられる。 バレル11の前端部の内面には、針装着部11A内の注射口11Bの周囲からバレル11の内周面に向かって等角度間隔で放射状に延びる3対のバイパス用突条11Cが形成されている。 図2は、図1に示したプレフィルドシリンジの使用時の縦断面図である。 プレフィルドシリンジ10の未使用状態では、バレル11の先端部に形成された小径の針装着部11Aに密封用のトップキャップ13(図1参照)が被着されているが、トップキャップ13が取り外されたプレフィルドシリンジ10の使用時には、トップキャップ13の代わりに注射針14が針装着部11Aに装着される。なお、臨床現場では22G〜23G(内径0.48mm〜0.40mm)の寸法の注射針14がよく用いられる。 また、バレル11の内周面、エンドストッパ12Aの表面、ミドルストッパ15の表面は、それぞれシリコーンゲル層で被覆することができる。シリコーンゲル層20を形成するためのシリコーンは、ケイ素原子に結合した有機基の種類により、(a)ストレートシリコーンと(b)変性シリコーンとに大別できる。 (a)ストレートシリコーンとは、メチル基、水素原子を置換基として結合したものをいう。 (b)変性シリコーンとは、ストレートシリコーンから二次的に誘導された構成部分を持つものをいい、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の不飽和基を少なくとも1(好ましくは2)有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。 本実施形態においては、これらシリコーンに限定されることなく、ストレートシリコーンあるいは変性シリコーンどちらでも可能である。例えば、ガンマ線による硬化の知られたストレートシリコーンであるダウ・コーニング360(ダウコーニング社製)や、紫外線硬化性の変性シリコーンゲルとして市販されているスリーボンド3167、3168(スリーボンド社製)などを使用することができる。ここで最適には、ダウ・コーニング360(ダウコーニング社製)を用いるのが好ましい。 このシリンジでは、バレル11の内周面および/またはストッパ(エンドストッパ12A、ミドルストッパ15)の表面にシリコーンゲル層20が設けられているため、バレル11とストッパとの摺動性を確保することができる。また、バレル11の樹脂からシリコーンが経時的に分離・剥離するおそれを低減することができ、バレル11内で液体をより安定的に収容することが可能となる。 エンドストッパ12Aを有するプランジャー12を注射針14の方向に押すと、第2薬液Bがミドルストッパ15を押圧し、押されたミドルストッパ15が第1薬液Aを押圧し、注射口11B及び注射針14を介して、第1薬液Aが外部に流出する。第1薬液Aが流出し終わると、凸条11Cがミドルストッパ15の外周面を変形させてバイパス通路を形成し、エンドストッパ12Aを有するプランジャー12を更に注射針14の方向に押すと、エンドストッパ12Aが第2薬液Bを押圧し、第2薬液Bがバイパス通路、注射口11B及び注射針14を介して、外部に流出する。 本発明に係るプレフィルドシリンジは、上記実施形態のようなダブルシリンジタイプに限られるものではなく、例えば、ヒアルロン酸溶液が単独で装填されるタイプであってもよいし、3種以上の注射液が装填されるタイプであってもよい。 上記実施形態に係るプレフィルドシリンジ10は、例えば、ヒアルロン酸溶液及び/又はその薬学的に許容される塩を含む第2薬液Bを上述の滅菌方法により滅菌するステップと、第1薬液A及び第2薬液Bを未装填のプレフィルドシリンジ10に装填して、第1の薬液A及び第2の薬液Bが装填されたプレフィルドシリンジを得るステップと、第1の薬液A及び第2の薬液Bが装填されたプレフィルドシリンジの外面を滅菌するステップとを備える製造方法により製造される。 係る方法の場合、第2の薬液Bは、上述の実施形態に係る滅菌方法により既に十分に滅菌されているため、薬液の装填後は、バレル11等の外面のみを滅菌すればよい。したがって、高圧蒸気滅菌に代えて、ガス滅菌や過酸化水素滅菌等を選択することが可能となる。これにより、高圧蒸気滅菌を行なった場合に比べて、ヒアルロン酸等の分解物が非常に少ないプレフィルドシリンジを得ることが可能となる。また、第1薬液Aとして、耐熱性の低い薬剤を含む薬液を用いる場合にも有利である。 以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。(検討1) 混合機(CLEAMIX CLM−0.8S、エムテクニック社製)を用いて、1質量%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液(ヒアルロン酸の質量平均分子量:102万)を薬液として調製した。薬液の粘度は80mPa・s(25℃)であった。次いで、親水性ポリエーテルスルホン膜であるポアサイズ0.2μm、直径47mmの円形のメンブレンフィルター(スーポアEKV(商品名)、日本ポール社製)上に薬液を供給し、濾過温度(薬液温度)を表1に示す各温度に保持しながら、300kPaで60分間、加圧濾過した。そして、60分間に濾過された薬液の量(濾過量)を計測した。 表1に示されるように、濾過温度25℃では濾過を行うこと自体ができなかった。これに対して、濾過温度を40℃以上とすることにより、十分効率的な濾過が可能であることが確認された。(検討2) 下記の各メンブレンフィルターを用い、上記「検討1」と同様の薬液を濾過する試験を行った。いずれのメンブレンフィルターも、ポアサイズ0.2μm、直径47mmの円形のフィルターである。メンブレンフィルター:・親水性PES膜(スーポアEKV FTKEKV(商品名)、日本ポール社製)・親水性PVDF膜(フロロダインII−DFLP FTKDFL(商品名)、日本ポール社製)・ナイロン66膜(ウルチポアN66 FTKNR(商品名)、日本ポール社製) 濾過は以下の手順で行った。1)各フィルターをディスクホルダーに設置し、水でプレウェットした。2)薬液を60℃に加熱し、250kPaに加圧しながらメンブレンフィルター上に送液し、経時的に濾過量を計測した。 親水性PES膜、および親水性PVDF膜は高い濾過効率を示した。一方、ナイロン66膜は濾過効率が低く、濾過量は親水性PES膜の68%、親水性PVDF膜の75%に留まった。(検討3) メンブレンフィルターを用いた濾過による滅菌方法、又は、オートクレーブを用いた滅菌方法でヒアルロン酸を含む薬液の滅菌処理を行った。滅菌後の薬液に含まれる、ヒアルロン酸の分解物(類縁物質)の量(滅菌前のヒアルロン酸の量を基準とする割合、%)を測定した。分解物量の測定は、分解により低分子量化したヒアルロン酸の量をゲル濾過クロマトグラフィー法により定量する方法により行った。(検討4) 「検討1」と同様の薬液を50℃、60℃又は70℃に加熱し、そのときの薬液中の類縁物質量の経時変化を計測した。測定結果を表4及び図4に示す。 表4及び図4に示されるように、80℃以下の加熱であれば、ヒアルロン酸の分解が比較的長時間にわたって十分に抑制されることが確認された。特に、60℃以下においてヒアルロン酸の分解が著しく抑制された。プレフィルドシリンジの一実施形態を示す斜視図である。図1のプレフィルドシリンジの使用時の縦断面図である。類縁物質量と加熱時間との関係を示すグラフである。符号の説明 10…プレフィルドシリンジ、11…バレル、11A…針装着部、11B…注射口、11C…凸条、12A…エンドストッパ、12…プランジャー、13…トップキャップ、14…注射針、15…ミドルストッパ、15A…リップ部、15B…ガイド突起、18…ピストン本体部、20…シリコーンゲル層、A…第1薬液、B…第2薬液。 ヒアルロン酸及び/又はその薬学的に許容される塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液の滅菌方法であって、 濾過温度40〜80℃、濾過圧力100〜500KPaの条件でメンブレンフィルターにより前記薬液を濾過するステップを備え、 前記メンブレンフィルターが、親水性ポリエーテルスルホン及び親水性ポリビニリデンジフルオライドのうち少なくとも一方のポリマーから形成されたフィルターである、滅菌方法。 前記ヒアルロン酸の質量平均分子量が60万〜120万である、請求項1記載の滅菌方法。 ヒアルロン酸及び/又はその薬学的に許容される塩を含むプレフィルドシリンジ用の薬液を請求項1又は2記載の滅菌方法により滅菌するステップと、 滅菌された前記薬液を未装填のプレフィルドシリンジに装填するステップと、を備える、プレフィルドシリンジの製造方法。


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