生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_植物疫病の防除剤、防除法及び植物疫病抵抗性植物
出願番号:2007110637
年次:2013
IPC分類:A01N 63/00,A01P 3/00,A01N 25/00,A01H 1/00,A01G 7/00,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

佐山 春樹 JP 5128169 特許公報(B2) 20121109 2007110637 20070419 植物疫病の防除剤、防除法及び植物疫病抵抗性植物 日本デルモンテ株式会社 000104559 稲葉 良幸 100079108 大貫 敏史 100109346 江口 昭彦 100117189 内藤 和彦 100134120 鈴木 英之 100125542 佐山 春樹 20130123 A01N 63/00 20060101AFI20121227BHJP A01P 3/00 20060101ALI20121227BHJP A01N 25/00 20060101ALI20121227BHJP A01H 1/00 20060101ALI20121227BHJP A01G 7/00 20060101ALI20121227BHJP C12N 15/09 20060101ALN20121227BHJP JPA01N63/00 FA01P3/00A01N25/00 102A01H1/00 ZA01G7/00 605ZC12N15/00 A A01N 63/00 A01G 7/00 A01H 1/00 CA/BIOSIS/WPIDS(STN) JSTPlus/JST7580(JDreamII) UniProt/GeneSeq/DDBJ 特開2006−320309(JP,A) 特開2007−082416(JP,A) 5 2008266195 20081106 11 20100331 坂崎 恵美子 本発明は、唐辛子、トマト等に生じる植物疫病菌であるフィトフトラカプシシレオニアン(Phytophthora capsici Leonian)等のフィトフトラ属に属する微生物に起因する植物疫病の防除剤、それを使用した植物疫病の防除法及び植物疫病抵抗性植物に関する。 植物疫病菌は、植物疫病の病原菌であり、フィトフトラ(Phytophthora)属の菌類の総称である。この植物疫病菌の分類学的位置は、藻菌綱(Phycomycetes)、卵菌亜綱(Oomycetes)、べと病菌目(Peronosporales)、ピチウム菌科(Pythiaceae)、病原菌属(Phytophthora)、疫病菌属(Phytophthora)である。その菌体は、通常、無隔菌糸体、分生子柄、分生胞子(遊走子のう)、卵胞子からなる。このなかで分生柄及び分生胞子が患部の外表部に現れて植物疫病の標兆となる。植物疫病菌の種類としては、例えば、トウガラシ疫病やトマト灰色疫病、ナス褐色腐敗病、キュウリ灰色疫病、スイカ褐色腐敗病及びカボチャ疫病を起こすフィトフトラカプシシレオニアン(Phytophthora capsici Leonian)やジャガイモやトマトの疫病を起こすフィトフトラインフェスタンス(Phytophthora infestans)、リンゴや枇杷その他の樹木類の疫病を起こすフィトフトラカクトラム(Phytophthora cactorum)、パイナップルの疫病を起こすフィトフトラシナモミ(Phytophthora cinnamomi)、ウリ類の疫病を起こすフィトフトラメロニス(Phytophthora melonis)、タバコの疫病を起こすフィトフトラバルニコチアナエ(Phytophthora var. nicotianae)、及び花卉類の疫病を起こすフィトフトラバルパラシチカ(Phytophthora var. parastica)等が挙げられる。 上記したように唐辛子、トマトの植物疫病をはじめとする植物疫病は、フィトフトラ属に属する微生物により起こされる病気である。代表的な植物疫病菌としてはフィトフトラカプシシレオニアンが挙げられ、主な宿主作物としては、ナス科植物(唐辛子、ナス、トマト等)、ウリ科植物(キュウリ、カボチャ、スイカ、マクワウリ、シロウリ等)が挙げられる。 この植物疫病菌は、圃場に残された作物の被害茎葉上や土中で越冬して、伝染源となることが知られている。そして、病斑上の分生胞子は、風雨によって飛散し、葉に達すると水滴の中で発芽して菌糸によって葉の気孔から進入することになる。この植物疫病菌の発生は気温が4〜26℃の条件でみられ、20℃以下の低温の場合には、分生胞子のほとんどが、「遊走子のう」となって多数の遊走子を生ずる。そして、この「遊走子のう」が活動する適温は、12〜13℃であるため、20℃以下の低温でも植物疫病が蔓延することになる。この遊走子は水の中を泳いで気孔に達するため、多湿条件では、遊走子の遊泳、発芽、侵入が容易になる。 植物疫病は、日本では、低温多湿となる梅雨時期又は秋雨時期に多発することが知られている。この植物疫病を防除する技術としては、抵抗性品種が存在しないことから、施設栽培では低温多湿をできる限り避けることが重要となり、その他に薬剤散布に頼らざるを得ないのが現状である。この植物疫病に対する効果的な薬剤は存在するが、いずれも人体に対する安全性が高いとは言えず、農産物における残留や環境影響が懸念され、薬剤を代替あるいは補完する微生物農薬を用いた病害制御技術の確立や普及が求められている。 従来、微生物農薬を用いた植物疫病の防除に関する研究としては、植物内生型相利共生細菌であるシュードモナス・フルオレッセンスFPT−9601菌株とシュードモナス属FPH9601菌株を含有する育苗培土に関する報告(特許文献1参照)及び、フィトフトラ属に属する微生物に対して拮抗作用を有するバチルス属細菌の菌体又は培養物を含む植物疫病の防除剤に関する報告(特許文献2参照)がわずかに知られているに過ぎない。 しかしながら、前者の共生細菌を使用する方法は、共生細菌の圃場への定着に時間がかかること、その処理が複雑で手間がかかる等の問題点があり、より簡便で且つ効果的な植物疫病に対する防除法が望まれている。 また、後者のバチルス属細菌を含む植物疫病の防除剤を使用する方法は、該細菌を植物の葉面や茎へ噴霧、散布し、該植物体の表面に定着させる方法であるため、操作が煩雑で、経験と勘を必要とする問題点を有する。 このように、微生物農薬を用いた植物疫病の防除に関する研究としては、あまり知られておらず、弱毒ウイルスを含む疫病防除剤については全く知られていない。 一方、弱毒ウイルスを予め植物(野菜、花卉、タバコ、豆類、果樹等)の幼苗に接種することにより、キュウリモザイクウイルスを防除する方法が知られている(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。 この方法は、植物には既に感染しているウイルス病と同じウイルス又は極めて近縁なウイルスには感染しにくいという現象(これを干渉作用という)を利用するもので、具体的には植物に容易に感染して、その体内で盛んに増殖しても植物そのものの生育にほとんど影響を及ぼさない程度の弱い病原性のウイルス(これを弱毒ウイルスという)を、無病の植物に予め感染させ、強毒ウイルスの感染や被害を防ぐこと(これを防除という)を可能としたものである。 しかし、この方法は、専ら弱毒ウイルスの干渉作用によって、同種の強毒キュウリモザイクウイルスがもたらす病害を防除するもので、植物疫病菌がもたらす病害すなわち植物疫病を防除するものではない。特許第2835598号公報特開2001−206811号公報特許第2975739号公報特許第3728381号公報 本発明は、微生物農薬を用いた新規な植物疫病の防除剤、すなわちフィトフトラ属に属する微生物に起因する植物疫病を、簡便な操作により、経験と勘を必要とせず、効果的に防除する植物疫病の防除剤を提供すること、また、それを用いた植物疫病の防除法及び植物疫病抵抗性植物を提供することを課題とする。 本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、キュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルス、及びサテライトRNAを含有するキュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルスが、フィトフトラ属に属する微生物に対して、拮抗作用を有することを見出し、更にこのサテライトRNAを分析したところ、配列番号1に記載のサテライトRNAを見出し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は、以下に示す植物疫病の防除剤、防除法及び植物疫病抵抗性植物である。 (1)フィトフトラ属に属する微生物に起因する植物疫病の防除剤であって、キュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルスを含むことを特徴とする植物疫病の防除剤。 (2)キュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルスが、サテライトRNAを含有するキュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルスである上記(1)の植物疫病の防除剤。 (3)サテライトRNAが、配列番号1記載のサテライトRNAである上記(2)の植物疫病の防除剤。 (4)微生物が、フィトフトラカプシシレオニアンである上記(1)〜(3)の植物疫病の防除剤。 (5)弱毒ウイルスの粒子が50〜500μg/mlの濃度で含まれる上記(1)〜(4)のいずれかの植物疫病の防除剤。 (6)上記(1)〜(5)のいずれかの植物疫病の防除剤を植物苗に接種する植物疫病の防除法。 (7)植物が唐辛子である上記(6)の植物疫病の防除法。 (8)上記(1)〜(5)のいずれかの植物疫病の防除剤を植物苗に接種して得られる植物疫病抵抗性植物。 本発明の植物疫病の防除法によれば、弱毒ウイルスの接種という簡便な操作により、植物疫病の防除剤を植物体の組織内に定着させ、一回の操作にて植物疫病を持続的に防除することが可能となる。また、本発明の植物疫病の防除剤は、施用する場合に、特別な経験と勘を必要としない利点を有する。また、本発明の防除剤は、唐辛子や、トマトの植物疫病に対する防除効果が優れており、高品質の唐辛子やトマトを収量よく収穫できる効果を奏する。 以下本発明を詳細に説明する。 (1)弱毒CMVの単離 本発明のキュウリモザイクウイルス(以下、CMVという)の弱毒ウイルス(以下、弱毒CMVということがある)は、以下のようにして単離する。 唐辛子圃場やトマト圃場等より、ウイルス症状を持つ約600枚の唐辛子葉又はトマト葉を採集し、これらの葉に10倍量のリン酸緩衝液(中性付近の0.1Mリン酸緩衝液)を加えて磨砕し、その液をトマト苗(例えば、日本デルモンテ社製、トマト苗TMK143)に接種する。 一週間後、各々のエライザー検定を行い、いくつかの系統についてCMVの感染を確認する。 これらの中から弱毒CMVを選抜すべく、トマトの感染葉をそれぞれトマト苗(TMK143)10株ずつに接種し、一週間後、TNA法(Total nucleic acid analysis:White,J.M.,and Kaper,J.M.1989,A simple method for detecton of viral satelite RNAs in small plant tissue samples,J.Virol.Methods,23,P83〜94参照)によって、リボ核酸(RNA)分析を行う。 そして、サテライトRNAを有するCMVを、前述の系統の中から取得する。そして、取得した系統についてトマト苗におけるウイルス症状調査を行い、ネクロシス、モザイクが発病した系統や感染力を有しない系統を取り除き、ウイルス症状が軽微でウイルス増殖量の多い弱毒CMVを選抜する。この選抜した弱毒CMVは遺伝的に均一ではなく、ウイルス症状が異なっている場合が多いので、トマト苗100株にこれら弱毒CMVを接種し、弱いウイルス症状が揃っている株だけを選抜する。さらにサテライトRNAの存在が継続されている株だけを取得して、ウイルス接種液の調製を行い、再度トマト苗に接種し、同じ選抜操作をしてウイルス接種液を調製する作業を5回繰り返し、トマトで継代接種を行う。そして、サテライトRNAを安定して含む弱毒CMV(例えばNDM05−2)を単離する。 (2)サテライトRNAの単離 サテライトRNAを含む弱毒CMVをトマト苗の子葉に接種、感染させ、1〜4週間程度ウイルスを増殖させる。 次いで、トマト本葉を採取し超低温(例えば、−80℃)にて凍結する。 そしてこの感染葉を粉砕し、2倍量の 0.1%チオグリコール酸を含む 0.5Mクエン酸緩衝液(pH6.5)と同量のクロロホルムを加え、ワーリングブレンダーで破砕する。 この破砕液を9,500Xg、10分間遠心分離処理し、上層(水層)の10%に当たる重量のポリエチレングリコールを加え溶解させた後、40分間静置する。この溶液を9,500Xg、20分間遠心分離処理し、得られた沈殿に2%トライトンX−100を含む0.05Mクエン酸緩衝液(pH7.0) を加え懸濁均一化する。この粗精製品を12,000Xgで遠心分離し得られた上清を240,000Xg、45分間遠心分離処理し、沈殿を回収し、これを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁する。これら溶液に最終濃度で1%になるように10%SDSを加え、さらに溶液と等量のフェノールを加えた後12,000Xg、15分間遠心分離処理する。この上層(水層)を回収し、常法に従ってエタノール沈殿を繰り返してRNAを単離、精製する。 この方法で感染葉100gより、約100μgのRNAを得る。 上記の方法で得られたRNAを水にそれぞれ溶解し、10〜40%ショ糖密度勾配により超遠心分離(175,000Xg、16時間)して得られたサテライトRNAのバンドを採取し、常法に従ってエタノール沈殿を繰り返して、サテライトRNAを単離精製する。 また精製が不十分な場合は6M尿素を含む9%ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った後、臭化エチジウムの溶液で染色し、サテライトRNAのバンドの部分をカミソリなどで切り取る。 サテライトRNAのバンドを含むゲル断片を透析チューブに入れEDTAを含むトリス−酢酸緩衝液中で電気泳動による溶出を行ってサテライトRNAを回収した後、常法に従ってエタノール沈殿を繰り返してサテライトRNAを単離精製する。 この電気泳動によるサテライトRNAの単離精製の詳細はT.Maniatisらの方法[Molecular Cloning(1982)]に従って行う。 (3)サテライトRNAのクローニングとシークエンス 単離精製したサテライトRNAからマイナス鎖cDNAを合成するために、サテライトRNA(約3μg)と3’末端塩基配列に相補的なDNAプライマー(8塩基、1μM)を95℃で熱処理した後、徐冷してアニーリングする。このマイナス鎖cDNA合成反応はOmniscript Reverse Transcriptase(QIAGEN社製)を用いて、37℃、60分の条件で行う。 次に、得られたcDNAをPCR法によって増幅させる。すなわち、プラス鎖サテライトRNAの5’末端に相同的なDNAプライマーと3’末端塩基配列に相補的なDNAプライマーを用い、94℃1分間、37℃1分間、72℃2分間の反応を45回繰り返すことによってPCR反応を行う[PCR反応液;10mM Tris−HCl、1.5mM MgCl2、50mM KCl、200μM dNTP、2.5units DNA polymerase(Takara社製)]。 このcDNAを1.5%アガロースゲル電気泳動によって分離させた後、ゲルより切り出し、DNA回収キットGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit (Amersham社製)を用いて精製する。得られたcDNAをTAクローニング用ベクターpGEM T Easy (Promega社製)にクローニングする。このプラスミドを制限酵素EcoR1で切断することによって、サテライトRNA由来のcDNAを確認する。 このサテライトRNAの塩基配列をTheromo Sequenase Cycle Sequencing Kit(Amersham社製)とDNAシーケンサDSQ−1000L(島津製作所社製)を用いて決定する。このようにして、例えば、340塩基からなる塩基配列(配列番号1に示す)を有する、弱毒CMVに由来するサテライトRNAを得る。 (4)植物疫病の防除剤の調製(弱毒CMVの接種源作製) 弱毒CMVが感染したトマト葉1gに、緩衝液(中性付近の0.1Mリン酸緩衝液)を加えて、10mlに調整した磨砕液をトマト100株の子葉又は本葉に接種し、1〜2週間程度、弱毒CMVを増殖させた後、トマト感染葉150gを採取し、超低音(例えば、−80℃)で凍結する。 この感染葉を粉砕した後、0.1%チオグリコール酸を含む0.5Mクエン酸緩衝液(pH6.5)300mlと同量のクロロホルムを加え、ワーリングブレンダーで磨砕して、弱毒CMV粒子を含む磨砕液を得る。 この磨砕液を2,000Xg、10分間遠心し、上層(水層)120mlを回収して、これに10重量%の粉末ポリエチレングリコール12gを加えて溶解させた後、40分静置して、析出させ、沈殿し易くする。 この溶液を9,500Xg、20分間遠心分離処理し、得られた沈殿(弱毒CMV粒子)を回収して、これに2%トライトンX−100を含む0.05Mクエン酸緩衝液(pH7.0)を洗浄のため加えて溶解する。 これを12,000Xgで遠心分離処理し、弱毒CMV粒子を含む上澄を分取して、240,000Xg、45分間遠心分離処理し、得られた沈殿を10mMリン酸緩衝液に懸濁して、弱毒ウイルスのCMV粒子を約10mg抽出し、接種源を得る。 (5)植物疫病の防除剤の植物への施用(弱毒CMVの植物への接種) 本発明の弱毒CMVを唐辛子に接種する方法は、純化した弱毒CMVのNDM05−2の粒子を50〜500μg/mlになるようにリン酸緩衝液に懸濁し、公知の方法により接種すればよく、例えば、噴霧ローラー法(特許第2908594号参照)やブラシ法(特許第3759560号参照)で行うことが好ましい。 これらの方法は、少量の弱毒CMV液で、迅速、簡便、かつ高い感染率で接種することができる特徴を有する。 (6)植物疫病抵抗性植物の作製 このようにして、唐辛子の苗に弱毒CMVを接種すると、容易に弱毒CMVが全身に感染した唐辛子の苗が得られる。 したがって、この唐辛子苗を適当な大きさに切断した後、挿し木、接ぎ木などの栄養繁殖手段を採用して、通常の育苗管理をすると、容易に弱毒CMVが全身に感染した、植物疫病抵抗性唐辛子苗が得られる。 また、この弱毒CMVを接種した唐辛子苗を適当な大きさに切断した後、これを穂木として、弱毒CMVの接種していない他の台木に接ぎ木したり、また逆に弱毒CMVを接種した他の植物を台木にしたりして、弱毒CMVを接種していない唐辛子を接木して、通常の育苗管理をしても、容易に弱毒CMVが全身に感染した、疫病抵抗性の唐辛子苗が得られる。 また、弱毒CMV接種唐辛子苗からその一部(例えば側芽)を採り、消毒した後、植物ホルモンを適宜の濃度で含有する寒天培地に挿し芽し、外界と隔離された室内で、至適な温度、照度条件下で育成し、幼苗(例えば本葉の十分展開した幼苗)を得、この葉片を適当な大きさに切断したあと、植物ホルモンを適宜の濃度で含有する寒天培地に2〜4回移植し、通常の植物体の組織培養法と同様に操作して、葉片から直接誘導させた不定芽から個体の再生を行い、弱毒CMVを保有する唐辛子苗を大量に得ることができる。 また、この弱毒CMV接種唐辛子苗から一部を採り、植物ホルモンを適宜の濃度で含有する寒天培地に2〜4回移植し、カルスから誘導させた不定芽から個体の再生を行い、所望の、弱毒CMVを保有する植物疫病抵抗性唐辛子苗を大量に得ることができる。 以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。 (1)弱毒CMVの単離 トマト圃場より、ウイルス症状を持つ約600枚のトマト葉を採集し、これらの葉に10倍量のリン酸緩衝液(中性付近の0.1Mリン酸緩衝液)を加えて磨砕し、その液をトマト苗TMK143(日本デルモンテ社製)に接種した。 一週間後、各々のエライザー検定を行い、いくつかの系統(412系統)についてキュウリモザイクウイルス(CMV)の感染を確認した。 これらの中から弱毒CMVを選抜すべく、412系統のトマトの感染葉をそれぞれトマト苗(TMK143)10株ずつに接種し、一週間後、リボ核酸(RNA)分析をTNA法(Total nucleic acid analysis:White,J.M.,and Kaper,J.M.1989,A simple method for detecton of viral satelite RNAs in small plant tissue samples,J.Virol.Methods,23,P83〜94参照)により行った。 そして、サテライトRNAを有するCMVを、前述の系統の中から取得した。そして、これらの系統について該トマト苗におけるウイルス症状調査を行い、ネクロシス、モザイクが発病した系統や感染力を有しない系統を取り除き、ウイルス症状が軽微でウイルス増殖量の多い弱毒CMVを選抜した。この選抜した弱毒CMVは遺伝的に均一ではなく、ウイルス症状が異なっているので、該トマト苗100株にこれら弱毒CMVを接種し、弱いウイルス症状が揃っている株だけを選抜した。さらにサテライトRNAの存在が継続されている株だけを取得して、弱毒CMV接種液の調製を行い、再度トマト苗に接種し、同じ選抜操作をして弱毒CMV接種液の調製する作業を5回繰り返し、トマトで継代接種を行った。そして、サテライトRNAを安定して含む弱毒CMV(NDM05−2)を単離した。 (2)サテライトRNAの単離 サテライトRNAを含む弱毒CMV(NDM05−2)をトマト苗(TMK143)の子葉に接種、感染させ、1〜4週間程度弱毒CMVを増殖させた。 次いで、トマト本葉を採取し−80℃にて凍結した。 この感染葉を粉砕し、2倍量の 0.1%チオグリコール酸を含む 0.5Mクエン酸緩衝液(pH6.5)と同量のクロロホルムを加え、ワーリングブレンダーで破砕した。 この破砕液を9,500Xg、10分間遠心分離処理し、上層(水層)の10%に当たる重量のポリエチレングリコールを加え溶解させた後、40分間静置した。 この溶液を9,500Xg、20分間遠心分離処理し、得られた沈殿に2%トライトンX−100を含む0.05Mクエン酸緩衝液(pH7.0) を加え懸濁均一化した。 この粗精製品を12,000Xgで遠心分離し得られた上清を240,000Xg、45分間遠心分離処理し、沈殿を回収し、これを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。 これら溶液に最終濃度で1%になるように10%SDSを加え、さらに溶液と等量のフェノールを加えた後12,000Xg、15分間遠心分離処理した。 この上層(水層)を回収し、常法に従ってエタノール沈殿を繰り返してRNAを単離、精製した。 この方法で感染葉100gより、約100μgのRNAを得た。 上記の方法で得られたRNAを水にそれぞれ溶解し、10〜40%ショ糖密度勾配により超遠心分離(175,000Xg、16時間)して得られたサテライトRNAのバンドを採取し、常法に従ってエタノール沈殿を繰り返して、サテライトRNAを単離精製した。 次いで6M尿素を含む9%ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った後、臭化エチジウムの溶液で染色し、サテライトRNAのバンドの部分をカミソリで切り取った。 サテライトRNAのバンドを含むゲル断片を透析チューブに入れ、EDTAを含むトリス−酢酸緩衝液中で電気泳動による溶出を行ってサテライトRNAを回収した後、常法に従ってエタノール沈殿を繰り返してサテライトRNAを単離精製した。 この電気泳動によるサテライトRNAの溶出の詳細はT.Maniatisらの方法[Molecular Cloning(1982)]に従って行った。 (3)サテライトRNAのクローニングとシークエンス 単離精製したサテライトRNAからマイナス鎖cDNAを合成するために、サテライトRNA(約3μg)と3’末端塩基配列に相補的なDNAプライマー(8塩基、1μM)を95℃で熱処理した後、徐冷してアニーリングした。 このマイナス鎖cDNA合成反応はOmniscript Reverse Transcriptase(QIAGEN社製)を用いて、37℃、60分の条件で行った。 次に、得られたcDNAをPCR法によって増幅させた。 すなわち、プラス鎖サテライトRNAの5’末端に相同的なDNAプライマーと3’末端塩基配列に相補的なDNAプライマーを用い、94℃1分間、37℃1分間、72℃2分間の反応を45回繰り返すことによってPCR反応を行った[PCR反応液;10mM Tris−HCl、1.5mM MgCl2、50mM KCl、200μM dNTP、2.5units DNA polymerase(Takara社製)]。 このcDNAを1.5%アガロースゲル電気泳動によって分離させた後、ゲルより切り出し、DNA回収キットGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit (Amersham社製)を用いて精製した。 得られたcDNAをT−Aクローニング用ベクターpGEM T Easy (Promega社製)を用いてクローニングした。 このプラスミドを制限酵素EcoR1で切断することによって、NDM05−2のサテライトRNA由来のcDNAを確認した。 このサテライトRNAの塩基配列をTheromo Sequenase Cycle Sequencing Kit(Amersham社製)とDNAシーケンサDSQ−1000L(島津製作所社製)を用いて決定した。 このようにして、340塩基から成る塩基配列(配列番号1に示す)を有する、NDM05−2に由来するサテライトRNAを得た。 (4)植物疫病の防除剤の調製(弱毒CMVの接種源作製) 弱毒CMVが感染したトマト葉1gに、緩衝液(中性付近の0.1Mリン酸緩衝液)を加えて、10mlに調整後磨砕した磨砕液をトマト100株の子葉及び本葉に接種し、1〜2週間程度、弱毒CMVを増殖させた後、トマト感染葉150gを採取し、−80℃で凍結した。 この感染葉を粉砕した後、0.1%チオグリコール酸を含む0.5Mクエン酸緩衝液(pH6.5)300mlと同量のクロロホルムを加え、ワーリングブレンダーで磨砕して、弱毒CMV粒子を含む磨砕液を得た。 この磨砕液を2,000Xg、10分間遠心し、上層(水層)120mlを回収して、これに10重量%の粉末ポリエチレングリコール12gを加えて溶解させた後、40分静置して、析出させ、沈殿し易くした。 この溶液を9,500Xg、20分間遠心分離処理し、得られた沈殿(弱毒CMV粒子)を回収して、これに2%トライトンX−100を含む0.05Mクエン酸緩衝液(pH7.0)を洗浄のため加えて溶解した。 これを12,000Xgで遠心分離処理し、弱毒CMV粒子を含む上澄を分取して、240,000Xg、45分間遠心分離処理し、得られた沈殿を10mMリン酸緩衝液に懸濁して、弱毒CMV粒子を約10mg抽出し、接種源を得た。 (5)植物疫病の防除剤の植物への施用(弱毒CMVの植物への接種) 本発明の弱毒CMVを唐辛子に接種する方法は、NDM05−2由来の純化した弱毒CMV粒子を400μg/mlになるようにリン酸緩衝液に懸濁し、公知の方法により接種した。すなわち、ブラシ法(特許第3759560号参照)で行った。 (6)植物疫病抵抗性植物の作製 このようにして、唐辛子の苗に弱毒CMVを接種し、弱毒CMVが全身に感染した唐辛子の苗を得た。 (7)圃場における植物疫病に対する防除効果試験 韓国唐辛子品種のチャナトイル(天下統一、セミニス・コリア社製、韓国ソウル市)の種子約250粒を培養土に温室内で播種し、本葉1〜2枚期の当該唐辛子品種の幼苗に、調製した弱毒CMV・NDM05−2(本発明区1)を400μg/mlの接種濃度で100株に接種し、接種10日後に苗の全核酸分析を行い、2本鎖サテライトRNAのバンドの有無を電気泳動法で確認した。全核酸(RNA)分析は、TNA法(Total nucleic acid analysis:White,J.M.,and Kaper,J.M.1989,A simple method for detecton of viral satelite RNAs in small plant tissue samples,J.Virol.Methods,23,P83〜94参照)により行った。 その後、温室で45日間育苗し圃場に定植した。 比較のため、同様に育苗し、無接種のものも定植した。 圃場試験は乱塊法の3反復試験区で行った。 その結果を表1と表2に示す。 さらに、当該植物疫病被害株の病患部である根と茎葉をそれぞれ採取し、水道水で表面部を洗い、滅菌水を入れたペトリ皿に入れた。 その中に健全な唐辛子苗を入れて、3〜5日後に当該健全苗に、被害株と同様な症状が現れるのを確認した後、該健全株の病患部をV-8ジュース培地上に置いた。 V-8ジュース培地は、トマト、ニンジン、セロリ、ビート、パセリ、レタス、ミズガラシ、ホウレンソウの8種類の野菜の混合ジュースに香辛料と食塩を添加混合し、得られた飲料用のジュース200mlに、CaCO33g、寒天20g、水800mlを添加溶解し、pH7.2に調整した。 その結果、当該培地状にフィトフトラカプシシレオニアン(Phytophthora capsici Leonian)(植物疫病菌)を確認し(植物の疫病 理論と実際、P47〜P55、誠文堂新光社、1971年、参照)、該植物疫病被害株の全株から植物疫病菌の感染を確認した。 表1は、NDM05−2の弱毒CMV接種唐辛子と無接種唐辛子における植物疫病発生株の比較を示す。 表2は、NDM05−2の弱毒CMV接種唐辛子と無接種唐辛子における植物疫病発生指数の比較を示す。 表1の結果から、いずれの反復処理区においても、本発明のNDM05−2の弱毒CMV処理区は、無接種区と比較して植物疫病の発生株数が少なく、発生株数の頻度は無接種区の約1/3であることが判る。 すなわち、配列番号1記載のサテライトRNAを含有する弱毒CMVを予め植物苗に接種すると、フィトフトラ(Phytophthora)属に属する微生物による植物疫病を効率良く防除できることが判る。 表2の結果から、植物疫病の発生指数は、本発明のNDM05−2の弱毒CMV接種区は、無接種区と比較して、いずれの反復処理区でも低い値を示し、無接種区の約1/4であることが判る。 すなわち、配列番号1記載のサテライトRNAを含有する弱毒CMVを予め植物苗に接種すると、フィトフトラ(Phytophthora)属に属する微生物による植物疫病を効果的に防除できることが判る。 フィトフトラ属に属する微生物に起因する植物疫病の防除剤であって、キュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルスを含むことを特徴とし、 キュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルスが、配列番号1記載のサテライトRNAを含有するキュウリモザイクウイルスの弱毒ウイルスである、植物疫病の防除剤。 微生物が、フィトフトラカプシシレオニアンである請求項1に記載の植物疫病の防除剤。 弱毒ウイルスの粒子が50〜500μg/mlの濃度で含まれる請求項1または2に記載の植物疫病の防除剤。 請求項1〜3のいずれか一項に記載の植物疫病の防除剤を植物苗に接種することを特徴とする植物疫病の防除法。 植物が唐辛子である請求項4に記載の植物疫病の防除法。配列表


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る