タイトル: | 公開特許公報(A)_トリアセチルセルロース成形体中の組成比分析方法及び定量分析方法 |
出願番号: | 2007110322 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | G01N 21/65,G01N 21/27 |
鍋谷 広美 JP 2008267952 公開特許公報(A) 20081106 2007110322 20070419 トリアセチルセルロース成形体中の組成比分析方法及び定量分析方法 凸版印刷株式会社 000003193 鍋谷 広美 G01N 21/65 20060101AFI20081010BHJP G01N 21/27 20060101ALI20081010BHJP JPG01N21/65G01N21/27 B 3 OL 13 2G043 2G059 2G043AA01 2G043BA14 2G043CA05 2G043DA01 2G043EA03 2G043GA07 2G043GB05 2G043HA01 2G043JA01 2G043KA01 2G043KA02 2G043KA09 2G043LA01 2G043MA16 2G043NA01 2G059AA01 2G059BB08 2G059CC12 2G059DD01 2G059EE03 2G059EE12 2G059GG01 2G059HH01 2G059HH02 2G059JJ01 2G059JJ11 2G059KK01 2G059MM01 本発明は、試料の分析方法に関するものであり、詳細には、トリアセチルセルロースの分析方法に関する。 トリアセチルセルロースフィルムは、高い透明性や低複屈折性といった光学的特性から、近年、偏光子保護フィルムや反射防止フィルム用支持体などの需要が拡大している素材である。その製造は溶液流延製膜法、溶融製膜法などの方法によって行われており、この過程で溶剤乾燥を早める、あるいは溶融時の粘度を下げるといった加工性向上、また製品の衝撃強度、耐折強度、難燃性の付与等のため、一般に4〜15wt%程度の可塑剤が添加されている。 トリアセチルセルロースフィルム用の可塑剤の要求特性としてはこのほか、耐水性付与、吸湿膨張低減の目的から疎水性であることが求められるが、セルロース誘導体であるトリアセチルセルロースは極性が強く、十分な相溶性を持ちながら前述の要求特性を同時に満たす可塑剤は非常に少ない。現在トリアセチルセルロースフィルム用に広く用いられているトリフェニルフォスフェート(TPP)は乾燥促進性、疎水性、難燃性に優れた可塑剤であるが、トリアセチルセルロースとの相溶性はあまり良好でなく、フィルム製造の際に内部で分散ムラが起こる、また添加量、製造方法、あるいは製造後の暴露環境によっては、フィルム表面に可塑剤が析出する、いわゆるブリードアウトが生じる等の問題を有している。 これらの問題を解決するために、使用する可塑剤、および製造方法には様々な改良が行われている(例えば特許文献1参照)。また、トリアセチルセルロースフィルムを材料として用いた製品を安定的に供給するためには、フィルム表面および内部の状態について、子細な評価を行うことも重要であり、フィルム等成形後製品の添加剤の測定を行う方法については、これまでに幾つかの方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。特開2006−265405号公報特開2003−344291号公報 しかし、前述のように改良を行ったものであっても、光学的な要求性能を維持しながら、完全に均一な状態に分散した、あるいはブリードアウトの生じないトリアセチルセルロースフィルムを作成することは難しく、光学的特性ほか他性能の向上を優先した場合は相溶性が必ずしも最重要とされない場合もある。したがって品質管理の上からは、使用するフィルムについて表面、内部の状態を子細に把握しておくことが必要である。 一方、フィルム等成形後製品における添加剤の定量的な評価は、表面については赤外分光分析による反射法、全反射法(ATR法)および顕微ATR法、内部については断面切削といった前処理ののち、赤外分光分析による顕微透過法、顕微ATR法、あるいはラマン分光などの方法で目的箇所の測定を行い、別途、定量する添加剤について濃度既知な標準試料を作成して、それによって得た検量線と目的箇所の測定結果を比較するのが一般に行われている方法である。 しかし、これは標準試料の作成といった煩雑な作業が必要なうえ、精度の良い標準試料、具体的には目的とする添加剤が均一に分散し、測定箇所における濃度ムラのない試料の作成が必ずしも容易でないトリアセチルセルロースのような対象物質においては、適当な方法とは言い難く、検量線試料作成を行わなければ、wt%のような具体的な値を求める評価は困難である。さらに赤外分光は測定に赤外光を用いるその原理から、可能な測定範囲の下限は10μm程度であり、特にフィルム内部の状態を子細に把握するという目的を達成するために十分な結果を得ることは難しい。 表面付近のみに限れば、目的とする添加剤を何らかの担体に転写する、あるいは溶媒を用いて抽出するといった前処理ののち、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量分析、液体クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー/質量分析といった方法での定量評価は可能であるが、この方法ではフイルム内部の状態を把握することは出来ず、さらに、ごく局所的な評価を行うことも困難である。 本発明は斯かる背景技術に鑑みてなされたもので、トリアセチルセルロースの分析において、ラマンスペクトルに現れる添加剤、主に芳香族系可塑剤について、高感度に、深さ方向の成分組成や濃度分布の把握を可能にすることを課題とする。 本発明において上記課題を解決するために、まず請求項1の発明では、トリアセチルセルロースと添加剤からなる成形体の断面を切り出し、切り出した断面について、前記成形体表面から内部への深さ方向にごく狭い間隔で測定点を設け、全測定点におけるラマンスペクトルを測定し、測定した全ラマンスペクトルを平均化し、この平均化したラマンスペクトルより成形体中のトリアセチルセルロースと添加剤との成分組成比を算出することを特徴とするトリアセチルセルロース成形体中の組成比分析方法としたものである。 また請求項2の発明では、前記添加剤が芳香族系可塑剤であることを特徴とする請求項1に記載のトリアセチルセルロース成形体中の組成比分析方法としたものである。 また請求項3の発明では、請求項1または2に記載の組成比分析方法により求められた平均化した組成比と、各測定点のラマンスペクトルより算出した組成比とを比較することにより、成形体の各測定点における添加剤の簡易定量を行うことを特徴とするトリアセチルセルロース成形体中の定量分析方法としたものである。 本発明は、トリアセチルセルロースの分析において、ラマンスペクトルに現れる添加剤、主に芳香族系可塑剤について、高感度に、深さ方向の成分組成や濃度分布の把握が可能となるという効果がある。 本発明の分析方法は、トリアセチルセルロースフィルムを対象とする。 本発明の分析方法は、トリアセチルセルロース用に使われている添加剤のラマンスペクトルが、多くの場合トリアセチルセルロース本体のそれと異なっており、かつ芳香族リン酸エステル系可塑剤など、構造中に芳香環を有する化合物については特にラマン分光法における感度が高いことに着目し、これを利用したもので、トリアセチルセルロースの分析において、対象試料の断面を切り出して、1μm前後という高い分解能を有するラマン分光法をスペクトルの測定に用いることで、そのスペクトルに現れる添加剤、主に芳香族系可塑剤について、その深さ方向の任意の箇所における濃度を把握する。 そして本発明の分析方法は、切り出した対象試料の断面についてラマンスペクトルを測定する際、深さ方向にごく狭い間隔でマッピング測定を行うことによって、深さ方向における子細な組成状態を把握する。 また本発明の分析方法は、マッピングを行って得られた全測定点におけるスペクトルデータから導かれる値の平均を、フィルム全体の成分組成を近似するものとして求め、この値を簡易定量の基準とする。 そして本発明の分析方法は、任意の測定点でのラマンスペクトルにおいて、目的とする添加剤について指標とするピークを定め、その同一測定点のスペクトルデータにおけるトリアセチルセルロースの指標ピーク、具体的にはラマンスペクトルの1735cm-1付近に現れるアセチル基由来のピーク、1380cm-1付近に現れるメチル基由来のピークなどで規格化した値を、簡易定量の基準と比較することによって、その測定点における添加剤の簡易定量を行う。 本発明の分析方法が対象とするトリアセチルセルロースフィルムは特に限定されるものではなく、メーカー、製法、グレード等はいずれでもよい。また対象試料も、測定装置における試料設置部分のレーザーの光軸上に目的箇所を保持することが可能であるならば、大きさ、形状、材質、設置方法などは自由である。さらに定量を行う添加剤も、指標とすることが可能なピーク、具体的には規格化に用いるトリアセチルセルロースのピークや他の妨害ピークと重ならない、ある程度の強度を有するピークを持つものであれば可塑剤に限らず、紫外線吸収剤、劣化防止剤および酸化防止剤など任意としてよい。 本発明の分析方法に用いるラマン分光分析装置は特に限定されるものではなく、顕微レーザーラマン分光法による測定が可能で、試料を設置する試料室のほか、分光器および集光光学系、検出器、データ処理装置などから構成される一般的なものであれば、いずれでもよい。またレーザー光源や分光器、検出器の種類、測定条件も、測定に支障をきたさない限り、任意に選んでよい。 以下に本発明の分析方法を用いた測定の実施例を示す。 トリアセチルセルロースは厚さ約80μmのフィルムを用い、この断面を切り出したサンプルを試料台に固定し、その断面部にレーザーを照射して、ラマンスペクトルを測定した。 測定には、サーモエレクトロン製の顕微レーザーラマン分光装置「Almega」を用いた。また光源として、ここでは532nm励起Nd:YVO4レーザー(最大出力約150mW)を用い、×100の対物レンズで測定試料の表面に集光させて測定した。露光時間は各々2.0秒、露光回数は16回、出力レベルは100%、マッピング間隔は2.0μmとした。 得られたトリアセチルセルロースフィルム断面の全測定点のラマンスペクトルを平均化したものが図1である。スペクトルはいずれも横軸がラマンシフト(入射光とラマン散乱光の振動数差)を波数(cm-1)表示したもの、縦軸が散乱光の積算強度となっている。 図2は添加剤を含まない純粋なトリアセチルセルロースのラマンスペクトルである。規格化に用いるトリアセチルセルロースのピークは1735cm-1付近に現れるアセチル基由来のものとしたが、必要に応じて1380cm-1付近のメチル基由来など、他のピークを用いてもよい。 図3は測定の目的とする芳香族リン酸エステル系可塑剤のラマンスペクトルである。指標ピークにはトリアセチルセルロースの規格化用ピークや他の妨害ピークと重ならず、ある程度の強度を持つものであることなどを考慮し、ここでは1600cm-1付近に現れているピークを用いた。 マッピングを行った全測定点について、得られた各ラマンスペクトルにおける可塑剤の指標ピークを規格化し、深さ方向にその値を示したものが図4である。この規格化は、図1のように、全測定点におけるラマンスペクトルを平均化し、平均化したラマンスペクトルにおける1600cm-1/1735cm-1のピーク強度比(トリアセチルセルロースのピークの高さと添加剤のピークの高さの比)を算出し、この強度比の値を1としたとき、各測定点でラマンスペクトルにおける1600cm-1/1735cm-1のピーク強度比の相対値を求めることで得られる。この方法によって、フィルム中の可塑剤の濃度分布が詳細に把握され、フイルム内部において組成が一様でない様子が確認出来た。 またマッピングを行った全測定点における、規格化した可塑剤指標ピークの平均として、図1のように、全測定点におけるラマンスペクトルを平均化し、平均化したラマンスペクトルにおける1600cm-1/1735cm-1のピーク強度比を求めたところ、0.75という値が得られた。これをフィルム全体における組成を近似するものとし、これを基に、フィルム全体に対する可塑剤添加量が15wt%であった場合、各測定点について濃度を概算したものが図5である。これにより、可塑剤濃度の最も高い部分が表面から深さ40μmで、その値は約19wt%であるなど、任意の測定点における簡易定量が可能であることが確認出来た。 さらに、同一メーカーの別ロット品について、同様の条件で、マッピングを行った全測定点について、得られた各ラマンスペクトルにおける可塑剤の指標ピークを規格化し、深さ方向にその値を示したものが図6であり、フィルム中の可塑剤の濃度分布を求めた結果が図7である。これによって、フィルム中の可塑剤濃度分布が製品ごとに異なっていること、特にこのフィルムは、図4,5に示したものより両表面付近の可塑剤濃度が相対的に高く、ブリードアウトの傾向があることが確認出来た。 本発明は、トリアセチルセルロースの分析に際し、その添加剤、主に芳香族系可塑剤について、断面切削以上の煩雑な前処理を行う必要なしに、その表面だけでなく、フィルム内部に対しても、子細な組成、濃度分布の把握を行うことが可能となり、品質管理レベルの向上および測定における操作の簡便化、効率化を通じ、製品製造時のコスト低下、品質向上に寄与することが出来る。光源として532nm励起Nd:YVO4レーザーを用いてマッピング測定を行った、トリアセチルセルロースフィルム製品のラマンスペクトル(全測定点平均)。光源として532nm励起Nd:YVO4レーザーを用いて測定した、トリアセチルセルロースのみのラマンスペクトル。光源として532nm励起Nd:YVO4レーザーを用いて測定した、可塑剤(芳香族リン酸エステル系化合物)のラマンスペクトル。マッピング測定を行ったトリアセチルセルロースフィルム製品における、平均化したラマンスペクトルにおける1600cm-1/1735cm-1のピーク強度比に対する相対値の断面深さ方向の分布。図4の結果から、フィルム全体に対する可塑剤添加量を15wt%として概算した添加剤濃度分布。図4に示したものと別ロット品のトリアセチルセルロースフィルム製品におけるマッピング測定結果から得られた、平均化したラマンスペクトルにおける1600cm-1/1735cm-1のピーク強度比に対する相対値の断面深さ方向の分布。図6の結果から、フィルム全体に対する可塑剤添加量を15wt%として概算した添加剤濃度分布。 トリアセチルセルロースと添加剤からなる成形体の断面を切り出し、切り出した断面について、前記成形体表面から内部への深さ方向にごく狭い間隔で測定点を設け、全測定点におけるラマンスペクトルを測定し、測定した全ラマンスペクトルを平均化し、この平均化したラマンスペクトルより成形体中のトリアセチルセルロースと添加剤との成分組成比を算出することを特徴とするトリアセチルセルロース成形体中の組成比分析方法。 前記添加剤が芳香族系可塑剤であることを特徴とする請求項1に記載のトリアセチルセルロース成形体中の組成比分析方法。 請求項1または2に記載の組成比分析方法により求められた平均化した組成比と、各測定点のラマンスペクトルより算出した組成比とを比較することにより、成形体の各測定点における添加剤の簡易定量を行うことを特徴とするトリアセチルセルロース成形体中の定量分析方法。 【課題】トリアセチルセルロースの分析において、ラマンスペクトルに現れる添加剤、主に芳香族系可塑剤について、高感度に、深さ方向の成分組成や濃度分布の把握を可能にする。【解決手段】トリアセチルセルロースと添加剤からなる成形体の断面を切り出し、切り出した断面について、前記成形体表面から内部への深さ方向にごく狭い間隔で測定点を設け、全測定点におけるラマンスペクトルを測定し、測定した全ラマンスペクトルを平均化し、この平均化したラマンスペクトルより成形体中のトリアセチルセルロースと添加剤との成分組成比を算出することを特徴とするトリアセチルセルロース成形体中の組成比分析方法。【選択図】なし