タイトル: | 公開特許公報(A)_免疫測定用検体前処理液、免疫測定用試薬キット及び免疫測定方法 |
出願番号: | 2007093544 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | G01N 33/531,G01N 33/553 |
大森 庸至 森平 奈津子 JP 2008249603 公開特許公報(A) 20081016 2007093544 20070330 免疫測定用検体前処理液、免疫測定用試薬キット及び免疫測定方法 シスメックス株式会社 390014960 野河 信太郎 100065248 大森 庸至 森平 奈津子 G01N 33/531 20060101AFI20080919BHJP G01N 33/553 20060101ALI20080919BHJP JPG01N33/531 BG01N33/553 11 OL 14 本発明は、免疫測定のための検体前処理液、免疫測定用試薬キット及び免疫測定方法に関する。 臨床検査などの分野では、体中に存在し得る測定対象物質に対する抗原又は抗体を用いて測定対象物質を検出し、測定する免疫測定法が知られている。免疫測定法では、通常、測定対象物質に対する抗原又は抗体と測定対象物質との抗原抗体反応により生じる濁度、散乱光、蛍光などの変化を測定する。 免疫測定法では、検体中のタンパク質や脂質などの測定対象物質以外の物質が、測定対象物質に対する抗原又は抗体、或いはその他の免疫測定に用いられる試薬中の成分、例えば抗原又は抗体が固定化される固相などと非特異的に相互作用することがある。このような非特異反応が生じると測定結果に影響を及ぼすことが知られており、例えば、測定対象物質を含んでいない陰性検体においても陽性のシグナル(例えば濁度、散乱光、傾向の変化)が検出されるなどの問題が生じうる。ゆえに、非特異的反応をできるだけ低く抑えることが、測定対象物質を実際に含む陽性検体を精度よく測定するために重要である。 免疫測定法において、非特異的反応を抑制する方法として様々なものが提案されている。例えば、特開平11−248706号(特許文献1)には、抗原又は抗体の固相への非特異的吸着を防止するために、シクロデキストリン又はその誘導体を用いることが記載されている。 特開2000−329764号(特許文献2)は、検体中に存在する補体などによる非特異的反応を抑制するために、多価フェノールを用いることを開示している。 特開2006−194746号(特許文献3)は、非特異的反応を抑制するために亜鉛イオンを用いることを開示し、また、脂質タンパク質による非特異的反応を抑制する物質として非イオン性界面活性剤を開示している。 特開2002−340899号(特許文献4)は、非特異的反応を抑制するために、コンドロイチン硫酸又はポリアクリル酸と、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトンなどとを用いることを開示している。 さらに、特開2006−265286号(特許文献5)は、抗原又は抗体を固定化する磁性粒子の表面を親水性官能基を有するポリマーで被覆することにより、非特異的反応を低減することを開示している。特開平11−248706号公報特開2000−329764号公報特開2006−194746号公報特開2002−340899号公報特開2006−265286号公報 本発明者らは、免疫測定において、二糖類を含む検体前処理液を用いることにより、非特異的反応に寄与し得る検体中の物質による影響を、効率的に抑制できることを見出した。 よって、本発明は、免疫測定における、検体中の物質に起因する非特異的反応を効果的に抑制できる免疫測定用検体前処理液、免疫測定用試薬キット及び免疫測定方法を提供することを目的とする。 本発明は、免疫測定のための検体前処理液であって、二糖類を含む免疫測定用検体前処理液である。 また、本発明は、上記の検体前処理液である第一試薬と、測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体を固定化するための固相を含む第二試薬とを含む免疫測定用試薬キットでもある。 さらに、本発明は、二糖類の存在下で、検体中の測定対象物質と、該測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体との間の抗原抗体反応を行う免疫測定方法でもある。 本発明の免疫測定用検体前処理液及び免疫測定用試薬キットを用いることにより、検体中の測定対象物質以外の物質による非特異的反応を抑制して免疫測定を行うことができる。したがって、検体中の測定対象物質を、良好な精度で測定することができる。 また、本発明の免疫測定方法は、検体中の測定対象物質以外の物質による非特異的反応を低減して免疫測定を行うことができる。 本明細書において、「免疫測定用検体前処理液」とは、固相を用いる免疫測定において、検体中の測定対象物質と固相とが接触する前に、検体と混合される試薬であることを意図する。なお、本明細書において、「接触」とは混合することを含む。 該免疫測定用検体前処理液は、二糖類を含有することにより、検体中の測定対象物質以外の成分、特にタンパク質以外の成分(脂質など)に起因する非特異的反応を抑制できる。 本明細書において、「非特異的反応」とは、検体中に存在する測定対象物質以外の物質(例えばタンパク質、リポタンパク質、脂質など)が、反応系に存在する抗原又は抗体、固相、反応容器などと相互作用する反応のことをいう。本実施形態の検体前処理液は、特にタンパク質以外の成分(例えば、脂質、リポタンパク質など)による非特異的反応を効果的に抑制できる。 上記の検体前処理液は、二糖類を含有する適切な緩衝液であることが好ましい。該緩衝液は、免疫測定に通常用いられる緩衝液を用いることができ、例えばPIPES(1,4−ピペラジンジエタンスルホン酸)、TEA(トリエタノールアミン)、HEPES(2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸)などを含む。 上記の二糖類は、従来公知の二糖類であれば特に限定されず、シュークロース、ラクトース、マルトース、イソマルトースなどが挙げられ、これらの構造異性体も含む。なかでも、シュークロースが好ましい。 これらの二糖類は、市販のものを用いることができる。 上記の検体前処理液中の二糖類の濃度は、免疫測定で使用される試薬が含有する他の成分の種類、測定対象物質の種類などに応じて適宜選択できる。例えば、二糖類は、検体前処理液中に0.1〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%含まれていることができる。また、上記の二糖類は、検体と混合された際に0.05〜2.0重量%、より好ましくは0.1〜1.5重量%となるような濃度で検体前処理液に含有されていてよい。 検体前処理液は、免疫測定を良好に行うことができるpHであればよく、pH6〜10であることが好ましく、pH7〜9であることがより好ましい。 上記の検体前処理液は、カリクサレン類、界面活性剤、シクロデキストリン又はその誘導体、及びサポニンからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。これら物質の少なくとも1つと二糖類とを含む検体前処理液を使用することにより、免疫測定において、タンパク質以外の成分(脂質など)による非特異反応をより効果的に抑制することができる。 上記のカリクサレン類は、フェノールを基本骨格とし、フェノールの4〜8分子をメチレン基で環状に重合させて得られる環状オリゴマーである。カリクサレン類としては、例えばカリクス(4)アレン(Calix(4)arene)、カリクス(6)アレン、カリクス(8)アレン、硫酸カリクス(4)アレン、硫酸カリクス(6)アレン、硫酸カリクス(8)アレン、酢酸カリクス(4)アレン、酢酸カリクス(6)アレン、酢酸カリクス(8)アレン、カルボキシカリクス(4)アレン、カルボキシカリクス(6)アレン、カルボキシカリクス(8)アレン、カリクス(4)アレンアミン、カリクス(6)アレンアミン、カリクス(8)アレンアミンなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いてもよい。 上記のカリクサレン類は、市販で入手可能である。 上記の検体前処理液中のカリクサレン類の濃度は、0.05〜50mM程度、より好ましくは0.1〜20mM程度の濃度となるような濃度であることが好ましい。 上記の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤がより好ましい。ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリプロピレンラウリルエーテル、オクチルフェニルエーテル、ノニルフェニルエーテルなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いてもよい。 上記の界面活性剤は、市販で入手可能である。 上記の検体前処理液中の界面活性剤の濃度は、0.01〜5.0重量%程度、より好ましくは0.05〜1.0重量%となるような濃度であることが好ましい。 上記のシクロデキストリンは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、これらのポリマー及び誘導体を含み得る。上記のシクロデキストリンの誘導体としては、2,6−ジ−O−メチル−α−シクロデキストリン、2,3,6−トリ−O−メチル−α−シクロデキストリン、2,6−ジ−O−メチル−β−シクロデキストリン、2,3,6−トリ−O−メチル−β−シクロデキストリン、2,6−ジ−O−メチル−γ−シクロデキストリン、2,3,6−トリ−O−メチル−γ−シクロデキストリンなどのアルキル化シクロデキストリン;2−ヒドロキシエチル−α−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン、3−ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン、2,3−ジヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン、2−ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、2,3−ジヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシエチル−γ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、3−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、2,3−ジヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンなどのヒドロキシアルキル化シクロデキストリン;6−O−α−D−グルコシル−α−シクロデキストリン、6−O−α−D−マルトシル−α−シクロデキストリン、6−O−α−D−グルコシル−β−シクロデキストリン、6−O−α−D−マルトシル−β−シクロデキストリン、6−O−α−D−グルコシル−γ−シクロデキストリン、6−O−α−D−マルトシル−γ−シクロデキストリンなどの糖修飾シクロデキストリン;O−カルボキシメチル−α−シクロデキストリン、O−カルボキシメチル−β−シクロデキストリン、O−カルボキシメチル−γ−シクロデキストリンなどのカルボキシアルキル化シクロデキストリンが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。 中でも、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンが好ましい。 上記のシクロデキストリン又はその誘導体は、市販で入手可能である。 上記の検体前処理液中のシクロデキストリン又はその誘導体の濃度は、0.01〜10重量%程度、より好ましくは0.05〜5.0重量%となるような濃度であることが好ましい。 上記のサポニンは、ステロイド又はトリテルペンの配糖体であり、糖部分としてD−グルコース、L−アラビノース、L−ラムノース、D−キシロースなどを有する物質を含む。サポニンの由来としては特に限定されないが、大豆、茶の実などが挙げられる。 上記のサポニンは、市販で入手可能である。 上記の検体前処理液中のサポニンの濃度は、0.01〜10重量%程度、より好ましくは0.05〜5.0重量%となるような濃度であることが好ましい。 上記の二糖類を含む検体前処理液は、検体中のタンパク質以外の成分(脂質など)に起因する非特異的反応を抑制できる。その作用メカニズムは明らかではないが、検体前処理液中の二糖類が脂質に結合して、脂質の構造(性能や性質)が変化することによる考えられる。さらに、二糖類と他の成分(カリクサレン類、界面活性剤、シクロデキストリン又はその誘導体、サポニンからなる群より選択される少なくとも1つ)とを組み合わせることにより、この非特異的反応の抑制効果をより向上できる。その作用メカニズムは明らかではないが、二糖類と同様に他の成分(カリクサレン類、界面活性剤、シクロデキストリン又はその誘導体、サポニン)も脂質に結合して、脂質の構造(性能や性質)が変化することによる考えられる。 上記の検体前処理液は、固相を用いた免疫測定に適用することが好ましい。 固相を用いた免疫測定では、検体中の測定対象物質を、該測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体を介して固相上に結合させる。これにより、固相上に、測定対象物質と抗原又は抗体とを含む複合体が形成される。そして、固相上に形成された複合体を標識し、その標識を検出することによって測定対象物質が測定される。 このような固相免疫測定に、上記の検体前処理液を適用する場合、検体と固相とを混合する前に、上記の検体前処理液と検体とを混合することが好ましい。上記の検体前処理液は、具体的には、次のように使用できる。 例えば、上記の検体前処理液と検体とを混合し、得られた混合液を固相と混合することができる。このとき、測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体は、固相上に固定化されていてもよいし、検体前処理液に含有されていてもよい。抗原又は抗体が固相上に固定化されている場合、二糖類の存在下で、上記混合液中の測定対象物質が固相上の抗原又は抗体に結合する。また、抗原又は抗体が検体前処理液に含有されている場合、二糖類の存在下で、上記混合液中の測定対象物質と抗原又は抗体との複合体が固相に結合する。 上記の検体前処理液は、測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体を含んでいてもよい。 上記の抗原及び抗体は、測定対象物質を認識できるものであれば特に限定されない。また、1種又は2種以上の抗原又は抗体を用いることもできる。 該抗体は、抗体のフラグメント及びその誘導体も含む。具体例としては、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、F(ab)2フラグメント、及びsFvフラグメントなどが挙げられる。抗体のクラスはIgG、IgMなどを含み得るが、これらに限定されない。 上記の抗原及び抗体は、天然から単離してもよいし、遺伝子組み換え法、化学合成法などの従来公知の方法により合成したものであってもよい。 例えば、測定対象物質として抗HTLV−1抗体を測定する場合、用い得る抗原としては、特開2004−115412号に記載されるものなどを用いることができる。 上記の抗原又は抗体の量は、用いる抗原又は抗体の種類、測定対象物質の種類などにより適宜選択することができる。 上記の二糖類を含有する第一試薬を含む免疫測定用試薬キットも、本発明の一つである。該免疫測定用試薬キットは、該第一試薬の他に、測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体を固定化するための固相を含む第二試薬を含むことが好ましい。 上記の第一試薬は、上記の検体前処理液であることが好ましい。 上記の第二試薬に含有される上記の抗原又は抗体を固定化するための固相としては、通常の免疫測定法において用いられる固相であれば特に限定されない。該固相の材料としては、例えば、ラテックス、ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、スチレン−メタクリレート共重合体、ポリグリシジルメタクリレート、アクロレイン−エチレングリコールジメタクリレート共重合体、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、シリコーンなどのポリマー材料;アガロース;ゼラチン;赤血球;シリカゲル、ガラス、不活性アルミナ、磁性体などの無機材料などが挙げられる。これらの1種又は2種以上を組み合わせてもよい。 また、固相の形状としては、免疫測定に用いられる通常の固相の形状であれば特に限定されず、マイクロタイタープレート、試験管、ビーズ、粒子、ナノ粒子などが挙げられる。粒子としては、磁性粒子、ポリスチレンラテックスのような疎水性粒子、粒子表面にアミノ基、カルボキシル基などの親水基を有する共重合ラテックス粒子、赤血球、ゼラチン粒子などが挙げられる。 より好ましくは、上記の固相は磁性粒子である。磁性粒子は、磁性を有する材料を基材として含む粒子である。このような磁性粒子は当該技術において公知であり、基材として例えばFe2O3及び/又はFe3O4、コバルト、ニッケル、フェライト、マグネタイトなどを用いたものが知られている。磁性粒子の表面へのタンパク質などの結合を目的として、基材の表面をポリマーなどで被覆したものなどがより好ましい。 上記の第二試薬は、該固相が磁性粒子である場合、該磁性粒子を懸濁した液体の形態であることが好ましい。該磁性粒子を懸濁する媒体としては、免疫測定に通常用いられる緩衝液が好ましく、例えばPIPES(1,4−ピペラジンジエタンスルホン酸)、TEA(トリエタノールアミン)、PBS(リン酸緩衝液)などを含む。 第二試薬中の固相の量は、特に限定されず、用いる抗原又は抗体の種類、測定対象物質の種類などにより適宜選択できる。 上記の第一試薬及び第二試薬は、どちらか一方又は両方が、測定対象を認識可能な抗原又は抗体を含有することができる。このような抗原又は抗体については、上記の検体前処理液について述べたことと同様である。 上記の第二試薬に抗原又は抗体が含有される場合、該抗原又は抗体は、上記の抗原又は抗体は上記の固相に固定化されていることが好ましい。 上記の測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体を固相に固定化する方法は、公知である。該固定化は、例えば物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、これらの組み合わせなどにより行うことができる。 例えば、固相が磁性粒子である場合、BSAを介して抗原又は抗体を固相に固定化することができる。具体的には、抗原又は抗体とBSAとを結合させ、これを固相に物理的吸着により結合させることにより、BSAを介して抗原又は抗体を固相に結合させることができる。 上記のBSAの代わりに、免疫学的に不活性なその他の高分子材料を用いて、上記の抗原又は抗体を固相に結合させることができる。免疫学的に不活性な高分子材料としては、BSA以外に、卵白アルブミン、ヘモシアニン、カゼイン、ポリビニルアルコール、デキストランなどが挙げられる。 上記のBSAや免疫学的に不活性なその他の高分子材料と、抗原又は抗体との結合は、従来公知の手段によるものであってよい。例えば、カルボジイミド法、過ヨウ素酸法、マレイミド法、グルタルアルデヒド法などの架橋法が挙げられる。 また、例えば、固相が磁性粒子である場合、架橋物質として例えばビオチン及びアビジン類を用いて、上記の抗原又は抗体を固相に固定化することもできる。 本発明は、二糖類の存在下で、検体中の測定対象物質と、該測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体との間の抗原抗体反応を行う工程を含む免疫測定方法も提供する。 上記の抗原抗体反応は、検体中の測定対象物質と、該測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体とを接触させることにより行われる。該接触とは、検体と該抗原又は抗体とを混合することを含む。 上記の免疫測定方法は、少なくとも上記の抗原抗体反応において二糖類が存在する工程を含むことを意図する。例えば、免疫測定方法において、抗原抗体反応により形成された測定対象物質とそれに対する抗原又は抗体との複合体を標識する工程や複合体の標識を測定する工程には、二糖類が存在していてもよいし、存在しなくてもよい。 上記の測定対象物質としては、通常、免疫測定によりその存在を検出できるか又はその量を定量できる物質であれば、特に限定されず、タンパク質、糖類などを含む。このような測定対象物質は、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)及びそれに対する抗体、ヒトT細胞向性ウイルス1型(HTLV−1)及びそれに対する抗体、C型肝炎ウイルス(HCV)及びそれに対する抗体、B型肝炎ウイルス(HBV)及びそれに対する抗体、癌胎児性抗原(CEA)、C反応性タンパク質(CRP)、α1−アンチトリプシン、α1−ミクログロブリン、β2−ミクログロブリン、ハプトグロブリン、トランスフェリン、セルロプラスミン、フェリチン、アルブミン、ヘモグロビンA1、ヘモグロビンA1C、ミオグロビン、ミオシン、デュパン−2、α−フェトプロテイン(AFP)、組織ポリペプチド抗原(TPA)、アポリポタンパクA1、アポリポタンパクE、リウマチ因子、抗ストレプトリジンO(ASO)、アンチトロンビンIII(AT−III)などを含む。 上記のような測定対象物質を含む検体は、血液、血漿、血清、尿など、及びこのような検体を前処理することにより得られる試料を含む。上記の前処理としては、例えば遠心分離やろ過などによる不溶物の除去などが挙げられる。 上記の免疫測定方法は、固相を用いた免疫測定に適用することが好ましい。具体的には、測定対象物質を含む検体と二糖類とを混合する工程と、得られた混合液と固相とを混合する工程とを含む免疫測定方法が挙げられる。なお、この方法において、測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体は、固相上に固定化されていてもよいし、固定化されていなくてもよい。 抗原又は抗体が固相上に固定化されている場合、上記の混合液を固相と混合した際に、二糖類の存在下で抗原抗体反応が生じ、測定対象物質が固相上の抗原又は抗体に結合する。これによって、固相上に測定対象物質と抗原又は抗体との複合体が形成される。 一方、抗原又は抗体が固相上に固定化されていない場合、該抗原又は抗体は、上記の検体と二糖類とを混合する工程において二糖類と共に検体と混合されてもよい。この場合、検体と二糖類と抗原又は抗体とを混合した際に、二糖類の存在下で抗原抗体反応が生じ、測定対象物質が抗原又は抗体に結合する。こうして得られた混合液中には、測定対象物質と抗原又は抗体との複合体が含まれる。そして、混合液を固相と混合した際に、固相上に測定対象物質と抗原又は抗体との複合体が形成される。 上記の免疫測定方法において、上記の測定対象物質と抗原又は抗体との間の抗原抗体反応は、二糖類の存在下であって、該抗原抗体反応が可能になる条件の下で行われる。このような条件は、測定対象物質とそれに対する抗原又は抗体との組み合わせに応じて適宜選択可能であり、また、当業者に知られている。例えば、測定対象物質が抗HTLV−1抗体であり、該抗体と該抗体に対する抗原とを反応させる条件は、25〜40℃の温度、6〜9のpHなどであることが好ましい。 上記の抗原抗体反応は、上記の条件下で、1〜10分間行うことにより、測定対象物質と該測定対象物質に対する抗原又は抗体との充分な結合を得ることができる。 上記の抗原抗体反応は、カリクサレン類、界面活性剤、シクロデキストリン又はその誘導体、及びサポニンからなる群より選択される少なくとも1つがさらに存在する条件下で行われることがより好ましい。これら物質の少なくとも1つと二糖類とを組み合わせて使用することにより、免疫測定において、検体中のタンパク質以外の成分(脂質など)による非特異反応をより効果的に抑制することができる。 上記の各物質については、上述したことと同様である。 また、測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体についても、上述したことと同様である。 上記の免疫測定方法を、固相を用いた免疫測定に適用する場合、上記の検体と二糖類とを混合する工程と、上記の混合液と固相とを混合する工程に加えて、固相上の複合体を標識物質により標識する工程と、複合体の標識を検出して得られた結果に基づいて測定対象物質を測定する工程を含むことが好ましい。 上記の標識物質は、通常の免疫測定法において用い得る標識物質であれば特に限定されず、酵素、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。酵素としては、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、ルシフェリンなどが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。 上記の標識を検出する方法は、通常の免疫測定法において用いられる方法であれば特に限定されない。標識物質の検出は、例えば、該標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることにより発生する光、色などを適切な装置を用いて測定することにより行うことができる。該装置としては、分光光度計、ルミノメータなどが挙げられる。 上記の基質は、上記の酵素に対する当該技術において公知の基質を用いることができる。上記の酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、当該技術において公知の発光基質、発色基質などを用いることができ、例えばCDP−star(登録商標)(4−クロロ−3−(メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2'−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質;p−ニトロフェニルホスフェート、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸(BCIP)、4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)、ヨードニトロテトラゾリウム(INT)などの発色基質が挙げられる。 上記の免疫測定方法により、検体中の測定対象物質以外の物質、特にタンパク質以外の物質に起因する非特異的反応を抑制することができる。 以下の実施例では、抗ヒトT細胞向性ウイルス1型(HTLV−1)抗体を検出するための免疫測定を例として、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。 抗HTLV−1抗体を検出するための免疫測定に用いた試薬の調製方法は、次のとおりである。(1)抗HTLV−1抗体を認識可能な抗原の調製 抗HTLV−1抗体を認識するための抗原(以下、HTLV−1抗原ともいう)として、特開2004−115412号に記載されるp19抗原及びgp46抗原を用いた。これらの抗原の配列は、以下のとおりである。p19抗原:NH2-KKDSDPQIPPPYVEPTAPQVL-COOH(配列番号1)gp46抗原:NH2-KKNTEPSQLPPTAPPLLPHSNLDHILEPSI-COOH(配列番号2) これらの抗原は、化学合成法により作製した。(2)HTLV−1抗原とBSAとのコンジュゲートの作製 市販のウシ血清アルブミン(BSA、分子量66,000)を、0.5%(w/v)の濃度で10mM PBS、pH7.0に溶解し、BSA溶液を調製した。p19抗原を0.1%(w/v)の濃度で10mM PBS、pH5.0に溶解し、p19抗原溶液を調製した。このBSA溶液1容量に対して、p19抗原溶液7容量を添加し、さらに10mM PBS、pH7.0を加えて全体を9容量となるように調製した。ここに、グルタルアルデヒドを1%となるように加え、30℃にて30分間インキュベートした。反応を、20%グリシン水溶液を1容量加えて停止した。 このようにして、p19抗原−BSAコンジュゲートを作製した。 さらに、同様の方法でgp46抗原−BSAコンジュゲートを作製した。(3)HTLV−1抗原が固定化された磁性粒子の作製 市販の磁性粒子(平均粒径2μm)を、約10mg/mLとなるように20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)に懸濁して磁性粒子懸濁液を調製した。上記(2)で調製したp19抗原−BSAコンジュゲートを、1mg/mLとなるように20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)に溶解して、p19抗原コンジュゲート溶液をそれぞれ調製した。磁性粒子懸濁液10mLとp19抗原コンジュゲート溶液0.1mLを混合し、4℃で1時間インキュベートすることにより、磁性粒子にp19抗原を固定化した。次に、p19抗原が固定化された磁性粒子とブロッキング溶液(1%BSA、20mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5)を混合し、37℃で2時間インキュベートすることによりブロッキング処理を行った。こうして得られた磁性粒子を、以降はp19抗原固定化磁性粒子と省略する。 さらに、同様の方法により、gp46抗原−BSAコンジュゲートを用いてgp46抗原が固定化された磁性粒子を調製した。こうして得られた磁性粒子を、以降はgp46抗原固定化磁性粒子と省略する。 まず、シュークロースを含む4種類の検体前処理液(実施例1〜4)について、非特異的反応を抑制する効果を調べた。 非特異反応を抑制するための検体前処理液として、以下の表1に示す実施例1〜4の試薬を作製して用いた。これらの試薬は、超純水中で調製した。なお、用いた試薬はすべて市販で入手したものであり、PIPES:同仁化学社製、シュークロース:キシダ化学社製、NaCl:マナック社製、硫酸カリクス(8)アレン:スガイ化学社製、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン(HP−γ−CD):日本食品加工社製、ノニオンK−230(非イオン性界面活性剤):日本油脂社製、サポニン:ナカライテスク社製であった。 なお、0.1M PIPES(pH7.3)を比較例として使用した。 また、以下の試薬を用いた。(4)HTLV−1抗原固定化磁性粒子懸濁液 20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5) 2mg/mL p19抗原固定化磁性粒子 3mg/mL gp46抗原固定化磁性粒子(5)抗IgG抗体溶液 20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5) 0.1U/mL アルカリホスファターゼ標識マウス抗ヒトIgG抗体(ALKALINE PHOSPHATASE−MOUSE、Zymed Laboratories)(6)基質溶液 CDP−star(登録商標)with Sapphire II(商標)(Applied Biosystems) 検体10μLと実施例1〜4のいずれか又は比較例1の検体前処理液120μLを混合して、42℃にて約2分間インキュベートした。続いて、この混合液に、HTLV−1抗原固定化磁性粒子懸濁液30μLを添加して45℃にて約1分間インキュベートした。この磁性粒子を洗浄液(0.1%Tween20、20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5))で洗浄した後、抗IgG抗体溶液100μLを加え、室温にて5分間インキュベートした。磁性粒子を上記の洗浄液で洗浄した後に、基質溶液100μLを加え、LUMI−COUNTER 700((株)マイクロテック・ニチオン)を用いて発光強度を測定した。 検体としては、4種類のHTLV−1陰性血清(陰性血清1〜4)及び1種類のHTLV−1陽性血清(陽性血清1)を用いた。 結果を、以下の表2に示す。表2に示すパーセンテージは、比較例1の平均発光強度を100%としたときの平均発光強度のパーセンテージである。 4種の陰性検体の平均発光強度の平均値と、陽性検体1の平均発光強度の値をグラフにして、図1に示す。 これらの結果から、シュークロースを含有する検体前処理液を用いることにより、陰性検体での非特異的シグナルを抑制しながら、かつ陽性検体の陽性シグナルは比較的低減せずに免疫測定を行うことができることがわかる。 また、非特異的反応を抑制する効果は、シュークロースとともにカリクサレン類、界面活性剤、シクロデキストリン又はその誘導体及びサポニンからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含む検体前処理液を用いることにより、より向上することがわかる。 次に、シュークロースを含む検体前処理液により抑制する非特異的反応が、検体中のタンパク質成分に起因するものであるか、タンパク質以外の成分(脂質など)に起因するものであるかを調べた。シュークロースを含む検体前処理液として、上記の実施例3の試薬を用いた。(A)実施例3の検体前処理液を用いた測定 検体10μLと実施例3の検体前処理液120μLを混合して、42℃にて約2分間インキュベートした。続いて、この混合液に、HTLV−1抗原固定化磁性粒子懸濁液30μLを添加して45℃にて約1分間インキュベートした。この磁性粒子を洗浄液(0.1%Tween20、20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5))で洗浄した後、抗IgG抗体溶液100μLを加え、室温にて5分間インキュベートした。磁性粒子を上記の洗浄液で洗浄した後に、基質溶液100μLを加え、LUMI−COUNTER 700((株)マイクロテック・ニチオン)を用いて発光強度を測定した。 検体としては、4種類のHTLV−1陰性血清(上記の陰性血清1、3及び4、上記とは異なる陰性検体5)及び1種類のHTLV−1陽性血清(陽性血清2)を用いた。(B)参考例1の試薬(タンパク質変性用試薬)を用いた測定 上記の(A)の手順において、実施例3の検体前処理液の代わりにタンパク質変性用試薬(参考例1)を用いた以外は(A)と同様にして測定を行った。タンパク質変性用試薬の組成は以下の通りである。タンパク質変性用試薬の組成 0.1M トリエタノールアミン(TEA)緩衝液(pH7.6) 6M グアニジン塩酸塩(和光純薬社製)(C)上記の(A)の手順において、実施例3の検体前処理液の代わりに0.1M TEA緩衝液(pH7.6)(比較例2)を用いた以外は(A)と同様にして測定を行った。 結果を、以下の表3に示す。表3に示すパーセンテージは、比較例2で得られた平均発光強度を100%としたときの平均発光強度のパーセンテージである。 参考例1の試薬には、タンパク質を変性するグアニジン塩酸塩が含まれている。ゆえに、参考例1の試薬を用いて陰性検体を測定することにより、検体中のタンパク質成分に起因する非特異反応を抑制することができる。 表3の結果から、陰性検体1及び5では、参考例1の試薬を用いた場合に顕著な発光強度の低下が見られず、実施例3の検体前処理液を用いた場合に顕著な発光強度の低下が見られた。これより、陰性検体1及び5の非特異反応は、主としてタンパク質以外の成分に起因することがわかった。そして、実施例3の検体前処理液を用いることにより、タンパク質以外の成分に起因する非特異反応を抑制できることがわかった。 なお、陰性検体4では、参考例1の試薬を用いた場合に顕著な発光強度の低下が見られ、実施例3の検体前処理液を用いた場合に顕著な発光強度の低下が見られなかった。これより、陰性検体4の非特異反応は、主としてタンパク質成分に起因することがわかった。 また、陰性検体3では、参考例1の試薬を用いた場合にも、実施例3の検体前処理液を用いた場合にも顕著な発光強度の低下が見られた。これにより、陰性検体3の非特異反応の原因は、タンパク質成分とタンパク質以外の成分の両方であることがわかった。 以上のことから、シュークロースを含む検体前処理液により抑制する非特異的反応は、主として検体中のタンパク質以外の成分(脂質など)に起因するものであることがわかった。シュークロースを含有する検体前処理液を用いて、抗HTLV−1抗体陰性検体及び抗HTLV−1抗体陽性検体の免疫測定を行った場合の、シュークロースを含有しない試薬を用いた場合に比べた平均発光強度のパーセンテージを示すグラフである。 固相を用いる免疫測定のための検体前処理液であって、二糖類を含むことを特徴とする免疫測定用検体前処理液。 カリクサレン類、界面活性剤、シクロデキストリン又はその誘導体、及びサポニンからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含む請求項1に記載の免疫測定用検体前処理液。 前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である請求項2に記載の免疫測定用検体前処理液。 前記二糖類が、シュークロースである請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫測定用検体前処理液。 前記固相が、磁性粒子である請求項1〜4に記載の免疫測定用検体前処理液。 二糖類を含む第一試薬と、測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体を固定化するための固相を含む第二試薬とを含むことを特徴とする免疫測定用試薬キット。 前記第一試薬又は前記第二試薬が、測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体をさらに含む請求項6に記載の免疫測定用試薬キット。 二糖類の存在下で、検体中の測定対象物質と、該測定対象物質を認識可能な抗原又は抗体との間の抗原抗体反応を行うことを特徴とする免疫測定方法。 前記測定対象物質と前記抗原又は抗体との間の抗原抗体反応の前に、前記測定対象物質及び前記抗原又は抗体のいずれか一方と前記二糖類とを接触させる請求項8に記載の免疫測定方法。 前記抗原又は抗体が、前記固相に固定化されている請求項8又は9に記載の免疫測定方法。 前記測定対象物質を含む検体と前記二糖類とを混合する工程、 前記混合工程で得られた混合液と前記固相とを混合して、前記測定対象物質と前記抗原又は抗体とを含む複合体を固相上に形成させる工程、 前記固相上の複合体を標識物質により標識する工程、及び 前記複合体の標識を検出して得られた結果に基づいて測定対象物質を測定する工程、を含む請求項10に記載の免疫測定方法。 【課題】免疫測定における非特異的反応のうち、特に検体中のタンパク質以外の成分(脂質など)に起因する非特異的反応を効果的に抑制できる免疫測定用検体前処理液、免疫測定用試薬キット及び免疫測定方法を提供することを目的とする。【解決手段】二糖類を含む免疫測定用検体前処理液、該検体前処理液を含む免疫測定用試薬キット、及び二糖類の存在下で行う免疫測定方法により、上記の課題を解決する。【選択図】なし配列表