生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ポリヒドロキシ酪酸の分離精製方法
出願番号:2007086185
年次:2008
IPC分類:C12P 7/44


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谷本 太郎 JP 2008237182 公開特許公報(A) 20081009 2007086185 20070329 ポリヒドロキシ酪酸の分離精製方法 本田技研工業株式会社 000005326 磯野 道造 100064414 多田 悦夫 100111545 谷本 太郎 C12P 7/44 20060101AFI20080912BHJP JPC12P7/44 2 OL 6 4B064 4B064AD83 4B064CA02 4B064CC22 4B064CD02 4B064CD09 4B064CE02 4B064DA16 本発明は、微生物菌体からポリヒドロキシ酪酸を抽出して分離精製することが可能なポリヒドロキシ酪酸の分離精製方法に関する。 自然界に存在する微生物には、適切な栄養を与えるとその体内に冬眠物質として、ポリエステル樹脂の一種であるポリヒドロキシ酪酸(以下、PHBという)を蓄積するものがある。このPHBは、微生物の細胞にエネルギ貯蔵物質として生成、蓄積される完全生分解性及び生体適合性を有する熱可塑性ポリエステルからなり、産業界において工業的に利用することが希求されている。 この点に関し、特許文献1には、微生物菌体からPHBを分離生成する既知の一般的方法として、PHBが可溶である溶剤、例えば、クロロホルムを用い、ソックスレー抽出法によって菌体からPHBを抽出する方法が記載されている。特開平7−177894号公報(段落0003参照) しかしながら、PHBが可溶である溶媒として、クロロホルムを用いた抽出方法において、例えば、3gのPHBを回収するために溶出するには、クロロホルムが100ml程度必要となる。前記クロロホルムが100ml以下の場合は、かなり粘性が高い溶液となり、その取り扱いが困難となる。さらにクロロホルムに溶出したPHBを析出させるためには、その10倍からなる容量のメタノールやエタノール、アセトンといったPHB不溶性溶媒がさらに必要となる。このため、製造コストが高騰すると共に、有害性が指摘されている。 また、前記クロロホルム以外で化学薬品を使用したPHBの抽出方法としては、例えば、細菌細胞壁を分解するリゾチーム等の各種酵素を用いて不要なタンパク分を水に可溶化させ、PHBのみを得る方法や、テトラヒドロフラン等のその他の有機溶媒を用いて抽出する方法がある。 しかしながら、各種酵素を用いた前者の抽出方法では、酵素自体が大量生産されておらず高コストとなり、製造コストを低下させることが困難であり、また、有機溶媒を用いた後者の抽出方法では、有害性においてクロロホルムよりも低いものの、反応性を高めるため所定の温度まで加熱する工程が必要となり、煩雑であるという問題がある。さらに、このような化学薬品を使用することによって、周囲の環境に対して高負荷が付与されることが懸念される。 本発明は、前記の問題等に鑑みてなされたものであり、本発明の一般的な目的は、常温域でPHBを低コストで抽出すると共に、環境に対する負荷を低減させることが可能なポリヒドロキシ酪酸の分離精製方法を提供することにある。 また、本発明の他の目的は、PHB以外の不要分を確実に除去し、PHBのみをきわめて簡便な方法で、且つ従来と比較して高純度で抽出することが可能なポリヒドロキシ酪酸の分離精製方法を提供することにある。 本発明では、ポリヒドロキシ酪酸が蓄積された湿菌体を凍結手段によって凍結した後、前記ポリヒドロキシ酪酸が含有された凍結体を破砕手段によって物理的に破砕する。ポリヒドロキシ酪酸を含有する微生物菌体からポリヒドロキシ酪酸のみを抽出するためには、菌体内の細胞壁や核酸を取り除く必要があり、前記湿菌体の凍結体を破砕することにより、菌体内の細胞壁や核酸が破壊されて菌体内から前記細胞壁や核酸等を好適に取り除くことが可能となる。続いて、この破砕された破砕体(破砕片乃至破砕粉等)を溶媒に懸濁させて分離することにより、不純物が確実に除去されて、高純度を有するポリヒドロキシ酪酸を得ることができる。 この場合、前記凍結手段として、例えば、液体窒素、液体ヘリウム等の液化ガスが用いられるとよい。また、前記破砕手段として、例えば、ボールミルが挙げられるが、これに限定されるものではなく、その他の機械的装置を用いてもよい。さらに、前記溶媒としては、例えば、蒸留水等が挙げられるが、有機溶媒以外であれば、前記蒸留水に限定されない。有機溶媒を用いるとその回収工程及び廃棄工程等が必要となり、精製工程が煩雑となるからである。 また、本発明では、前記凍結手段によって凍結する前に、ポリヒドロキシ酪酸を含有する微生物菌体が培養された液を遠心分離することによって、前記ポリヒドロキシ酪酸が蓄積された湿菌体が得られる。所定の微生物菌体が培養された液を遠心分離装置等によって遠心分離してその上澄み液を除去することにより、ポリヒドロキシ酪酸が蓄積された湿菌体を容易に得ることができる。 さらに、本発明では、ポリヒドロキシ酪酸が蓄積された湿菌体を所定温度で凍結し且つ物理的に破砕した際、例えば、微生物菌体の細胞壁、細胞質や核酸に対して物理的な衝撃力が付与され、前記細胞壁、細胞質や核酸等が菌体外へ容易に分離し易くなり、前記細胞壁、細胞質や核酸等を効率的且つバランス良く菌体外へ取り除くことができる。換言すると、湿菌体を所定温度で凍結体とすることにより、前記衝撃力が凍結体の略全体にわたって付与され、前記細胞壁、細胞質や核酸等の菌体外への分離が好適に促進されるからである。 このように、本発明では、ポリヒドロキシ酪酸が蓄積された湿菌体に対して凍結破砕処理を施すことにより、微生物菌体の細胞壁、細胞質や核酸を簡便に取り除くことができ、さらに、遠心分離によって前記取り除かれた細胞壁、細胞質や核酸を確実に除去することにより、常温域において、工業的に低コストで且つ周囲の環境に高負荷を付与することがなく、低環境負荷の状態でポリヒドロキシ酪酸そのものを簡便な方法によって抽出することができる。 常温域において、ポリヒドロキシ酪酸のみを低コストで抽出すると共に、既存の各種有機薬品を使用した場合の回収工程や廃棄工程が不要となり、環境に対する負荷を低減させることができる。また、ポリヒドロキシ酪酸以外の不要分を確実に除去し、ポリヒドロキシ酪酸のみをきわめて簡便な方法で、且つ高純度で抽出することができる。 本発明で使用される微生物菌体としては、ポリヒドロキシ酪酸生産能を有する微生物菌体であれば特に制限されない。実用上は、例えば、アルカリゲネス属(Alcaligenes)に含まれるアルカリゲネスユートロファ菌、アルカリゲネスラタス菌、その他には、シノリゾビウムフレディ菌、バシルスメガテリウム菌等が挙げられる。また、凍結手段として、例えば、液体窒素、液体ヘリウム等の液化ガスが用いられるとよい。 さらに、前記破砕手段として、例えば、ボールミルが挙げられるが、これに限定されるものではなく、例えば、低温雰囲気下において各種ホモジナイザー等を用いてもよい。さらにまた、前記溶媒としては、例えば、蒸留水等が挙げられるが、有機溶媒以外であれば、前記蒸留水に限定されない。またさらに、湿菌体の凍結温度は、−20℃よりも低ければよい。 次に、本発明の効果を確認するために、各種工程に基づいて以下の実験を行ったので、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実験例に限定されるものではない。 1.菌の培養工程 ポリヒドロキシ酪酸(以下、PHBという)を含有する微生物の菌として、実験では、アルカリゲネス属(Alcaligenes)に含まれる菌の一つである、アルカリゲネスユートロファ菌を用いた。このアルカリゲネスユートロファ菌をNB培地(1Lあたり8gの濃度)で、先ず5ml、続いて100mlの順序で、それぞれ24時間、30℃の条件で旋回振とう培養法(旋回速度、120rpm)によって前培養を行い、100ml×3セットの前培養の液を得た。 続いて、前記100ml×3セットからなる前培養の液を図示しない培養装置(ファーメンター)に投入し、前記培養装置によって本培養を行なった。なお、前記本培養における液体培地の調整は、以下の通りである。 すなわち、図1及び図2に示される成分から構成されたMSM(Mineral Salts Media)培養液を約1.7L分だけ用意し、前記前培養の液(100ml×3セット)と合わせて2.0Lとなるように作成した。 本培養の条件としては、48時間培養で32℃に保温した。攪拌速度は、200〜350rpmの範囲内において、溶存酸素が液中に十分にいきわたるように適宜設定した。本培養は、半回分培養(流加培養)を基本とし、主栄養源の炭素源は、液中濃度5%程度を維持するように40%Na−Gluconate水溶液を用い、窒素源は、液中濃度が0.05%程度を維持するように20%NH4Cl水溶液を用いた。なお、pHは、7.0を保持するように、酸、塩基、それぞれ4N塩酸、4NNaOH水溶液を用いた。 2.菌体の破砕工程 前記工程で本培養が完了した後の液を50mlだけ採取し、この液に対し回転速度15000rpmで3分間だけ遠心分離作用を付与して上澄み液と分離させた後、PHBが蓄積された湿菌体(1)を得た。なお、遠心分離作用によって分離した上澄み液を除去することにより、下方側に蓄積された湿菌体を容易に得ることができた。続いて、培養が完了した前記湿菌体(1)を液体窒素により液体窒素温度下にて凍結した後、前記凍結体に対して、ボールミルによって凍結粉砕を行った。なお、実験では、湿菌体を液体窒素温度下で凍結しているが、この凍結温度は、例えば、−20℃よりも低ければよい。 具体的には、遠心分離した後の湿菌体(1)を、ボールミルに付属する専用チューブに少量だけ採取し、専用のクラッシャーをセットし、液体窒素に1分間だけ浸漬した。このようにして凍結された凍結体をボールミルにセットし、上下方向に沿って振動させることにより前記凍結体を破砕して破砕片乃至破砕粉とした。 さらに、PHBが含有される前記破砕片乃至破砕粉を、数回、蒸留水によって懸濁させ、遠心分離することにより洗浄を行った。そして、破砕及び洗浄が完了した本実施例に係る菌体(2)と、前述したように本培養が完了したままの状態であって凍結破砕処理が施されていない比較例に係る湿菌体(1)とを約60℃のオーブンに入れてそれぞれ加熱し乾燥させた後、ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography,GC)の測定用サンプルをそれぞれ得た。 3.純度の測定工程 前記工程で得られた2つの測定用サンプル、すなわち、凍結破砕処理が施されておらず、本培養が完了したままの状態が保持された比較例に係る湿菌体(1)の乾燥サンプルと、凍結破砕処理及び洗浄処理が施された本実施例に係る菌体(2)の乾燥サンプルとを、GCの手法によって、含有するPHBの純度をそれぞれ測定した。なお、前記GCの手法については、Brauegg,G.,et al.,Eur.J.Appl.Microbiol.,6,29(1978)を参考にして行った。なお、測定条件は、図3にされる通りである。 この結果、図4に示すように、凍結破砕処理が施されておらず、本培養が完了したままの状態で保持された比較例に係る湿菌体(1)では、GCによる測定でPHBの純度が59%であるのに対し、凍結破砕処理及び洗浄処理が施された本実施例に係る菌体(2)では、GCによる測定でPHBの純度が85%となり、高純度化を達成することができた。 以上から、実験では、本実施例に係る菌体(2)が、既存の各種有機薬品を使用することがなく環境に対する負荷を低減させることができると共に、ポリヒドロキシ酪酸のみをきわめて簡便な方法で、且つ高純度で抽出することができる、という本発明の効果を奏することが確認できた。液体培地の調整に用いられる、MSM培養液の成分構成を示す図である。前記MSM培養液に含まれるTESの成分構成を示す図である。ガスクロマトグラフィーによるサンプルの測定条件を示す図である。前記ガスクロマトグラフィーによる測定結果であって、本実施例と比較例との純度を比較した図である。 ポリヒドロキシ酪酸を含有する微生物菌体から前記ポリヒドロキシ酪酸を分離精製する方法であって、 前記ポリヒドロキシ酪酸が蓄積された湿菌体を凍結手段によって凍結する工程と、 前記ポリヒドロキシ酪酸が含有された凍結体を破砕手段によって物理的に破砕する工程と、 前記破砕された破砕体を溶媒に懸濁させて分離することにより、ポリヒドロキシ酪酸を得る工程と、 を有するポリヒドロキシ酪酸の分離精製方法。 請求項1記載のポリヒドロキシ酪酸の分離精製方法において、 前記凍結手段によって凍結する工程の前に、ポリヒドロキシ酪酸を含有する微生物菌体が培養された液を遠心分離することによって、前記ポリヒドロキシ酪酸が蓄積された湿菌体が得られる工程を有することを特徴とするポリヒドロキシ酪酸の分離精製方法。 【課題】常温域でPHBを低コストで抽出すると共に、環境に対する負荷を低減させることにある。【解決手段】ポリヒドロキシ酪酸を含有する微生物菌体の培養液を作成し、前記培養液から前記ポリヒドロキシ酪酸が蓄積された湿菌体を得た後、前記湿菌体を凍結手段によって凍結し、前記ポリヒドロキシ酪酸が含有された凍結体を破砕手段によって物理的に破砕する。続いて、この破砕された破砕体(破砕片乃至破砕粉等)を溶媒に懸濁させて分離することにより、不純物が確実に除去されてポリヒドロキシ酪酸が得られる。【選択図】なし


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