タイトル: | 公開特許公報(A)_リポイルリジンの検出法 |
出願番号: | 2007078070 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | G01N 31/00,G01N 21/78 |
豊岡 利正 JP 2008241270 公開特許公報(A) 20081009 2007078070 20070326 リポイルリジンの検出法 静岡県 590002389 吉川 晃司 100098936 吉川 明子 100098888 豊岡 利正 G01N 31/00 20060101AFI20080912BHJP G01N 21/78 20060101ALI20080912BHJP JPG01N31/00 VG01N31/00 YG01N21/78 C 6 1 OL 8 2G042 2G054 2G042BD20 2G042FA05 2G054CA30 本発明は、リポイルリジンの新規な検出法に関するものである。更に詳しくは、生体内補酵素であるα−リポ酸は、体内では酵素中のリジン残基に酸アミド結合した形であるリポイルリジンの形で存在している。このリポイルリジンを遊離させた後、ジスルフィド結合を選択的に切断する還元剤の共存下にチオール基に選択的な蛍光化試薬を反応させて標識化し、蛍光検出器を備えた液体クロマトグラフィ等で高感度かつ選択的にリポイルリジンを測定する新規な検出法に関するものである。 α−リポ酸は、体内の殆どの細胞に存在する補酵素であり、その還元体と共にいろいろの有益な作用、例えば糖質代謝促進作用、ラジカル除去作用、抗酸化物質の再活性化作用、食中毒や金属中毒の解毒作用などを有するものである。α−リポ酸はこれまでは医療機関でのみ例えば抗糖尿病薬や代謝改善ビタミン薬などとして使用が認められていたが、2004年6月より栄養補助食品としての使用が許可され多機能性抗酸化物質として、健康食品業界や化粧品業界で現在最も注目されているものの一つである。 ところで、α−リポ酸は体内では、リジンのε−アミノ基に結合したリポイルリジンの形で存在していると言われているが、その存在量が極めて少なく、これを正確に測定するためには、高感度な測定法が不可欠である。これまでリポイルリジンを検出するには主に次の二つの方法が知られている。 例えば非特許文献1には酵素リサイクリング法による蛋白結合形リポ酸の定量法として、以下に示す蛍光法が記載されており、この方法によって多くの動物組織内のリポ酸含量の定量が行なわれている(図4参照)。(1)動物の組織をプロテアーゼで消化してリポ酸をリポイルリジンあるいはリポイルペプチドとして遊離させる。(2)測定試料にリポアミド脱水素酵素(lipoamide dehydrogenase)を加える。(3)この酵素が触媒するニコチンアミドアデニンジヌクレオタイド還元形(nicotinamide adenine dinucleotide reduced form)(NADH)依存的なリポイルリジンのジヒドロリポイルリジンへの還元をNADHの蛍光で測定する。(4)NADHの蛍光の減少速度を測定することで微量な組織内のリポ酸残基の量を決定する。 また、非特許文献2には植物および動物組織中のリポ酸の含量がリポイルリジンの形で決定されている。すなわち試料をプロテアーゼで加水分解した後、遊離したリポイルリジンをエタノールで抽出しこれを3回蒸留した水銀で被覆された二重の金電極を有する電気化学的検知器を備えた高感度液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて測定する方法(電気化学検出法)が記載されている。Matsugo S. New Food Industry, 47(No.5) 6-7 (2005)John K.,et al. Journal of Applied Nutrition, 49 (No.1&2) 3-11 (1997) しかしながら、上記の蛍光法はリポアミド脱水素酵素によるNADHの蛍光減少量を測定するものであって間接的にリポイルリジンを測定しており、リポイルリジンを直接測定する方法ではないため信頼性の低いものであった。 また電気化学検出法は酸化還元性物質であればすべて検出されるため選択性や再現性が低く更に操作性の点でも満足できるもではなく、そのうえ検出装置が高価であるなどの問題点があった。 本発明は、上記問題点を改善するために、簡単な操作で直接リポイルリジンを高感度で再現性よく正確に検出することができる新規且つ有用な検出法を提供することを目的とする。 本発明の方法は、リポイルリジンを還元剤の共存下に蛍光標識化試薬で標識化した後、蛍光検出器を備えた検出装置、例えば液体クロマトグラフィで検出する検出法である。 本発明の方法は、高感度でかつ選択的にリポイルリジンを検出する方法であり、公知の蛍光法や電気化学検出法に比べて優れている。 そして、殆どすべての試料に適用できると考えられる。 次に本発明の方法を更に詳細に説明する(図1参照)。 血液などの体液や酵素、タンパク質、臓器、植物などの試料をプロナーゼ、サブチリシン、トリプシン、キモトリプシン、ペプシンなどの酵素で分解し遊離したリポイルリジンを水、メタノール、エタノールなど、あるいはこれらの混合溶媒で抽出後減圧下で溶媒を留去する。 次いで適切な中性〜塩基性のpH、すなわちpH6〜12ぐらいで適当な溶媒、例えば水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンなど、またはこれらの混合溶媒中で還元剤、例えばトリス−2−カルボキシエチルホスフィンやトリブチルホスフィンなどの還元剤の共存下で適切な温度すなわち0℃〜溶媒の還流温度で適切な反応時間、すなわち反応溶媒、pH、反応温度により異なるが1分〜24時間かけて、チオール特異的な蛍光標識化試薬でリポイルリジンを標識化後、液体クロマトグラフィやキャピラリー電気泳動装置などの分離装置で蛍光標識化リポイルリジンを他の夾雑物質と分離した後、蛍光検出器やレーザー蛍光検出器を用いて検出する。 特に蛍光検出器を備えた液体クロマトグラフィが好ましく使用される。また検出には質量分析計も使用できる。なお蛍光標識化反応の終点は、試料の経時変化を液体クロマトグラフィなどで検出して蛍光誘導体化生成物のピーク面積の変化を測定し、ピークの最大値を示す時間を反応終了時間とすることができる。 試料の消化酵素としては試料をリポイルリジンに加水分解できるものであればどのような消化酵素でも使用できるが、タンパク質をアミノ酸まで完全に分解できるプロナーゼE(pronase E)やサブチリシン(subtilisin)あるいはそれらの混合物がより好都合である。 本発明で使用される還元剤は、ジスルフィド結合を二つのチオールに還元できるものであれば使用できるが、還元効率がよく、過剰の還元剤の妨害を避けるために還元剤の構造中にSを含まないものが望ましい。このような条件を勘案すると、トリス−2−カルボキシエチルホスフィン(TCEP)やトリブチルホスフィンがより適切であり、中でも還元収率のよいトリス−2−カルボキシエチルホスフィンが最も望ましい。 次に蛍光標識化試薬としては、チオール基と反応するものであれば全て使用可能であるが、他の官能基例えばアミノ基などとは反応せずチオールに特異的な試薬で、試薬自身には蛍光が無く反応によって生成した誘導体が強い蛍光を発するものが望ましい。また、生成した誘導体は単一で、安定であり、長波長域に蛍光を発するものが望ましい。その理由は生体由来の夾雑物、例えばトリプトファンなどは短波長域に蛍光を有するため、これらの夾雑物による妨害を避けるためである。また生体試料を対象とする場合には、蛍光標識化試薬は水溶性であることが望ましい。 以上の条件を勘案すると蛍光標識化試薬はベンゾオキサジアゾール類、バイマン(bimane)類、マレイミド(maleimide)類などが選択される。 ベンゾキサジアゾール類としては7−フルオロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール−4−スルフォネート(7-fluoro-2,1,3-benzoxadiazole-4-sulfonate)(SBD-F)、4−(アミノスルフォニル)−7−フルオロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール[4-(aminosulfonyl)-7-fluoro-2,1,3-benzoxadiazole](ABD-F)、4−(N,N−ジメチルアミノスルフォニール)−7−フルオロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール[4-(N,N-dimethylaminosulfonyl)-7-fluoro-2,1,3-benzoxadiazole](DBD-F)(化1参照)などが挙げられる。 またバイマン類としてはモノブロモバイマン(monobromobimane)、モノブロモトリメチルアミノバイマン(monobromotrimethylaminobimane)(化2参照)などが挙げられる。 またマレイミド類としてはN−[4−(6−ジメチルアミノ−2−ベンゾフラニル)−1−フェニル]マレイミド{N-[4-(6-dimethylamino-2-benzofuranyl)-1-phenyl]maleimide}(DBPM)、N−(9−アクリジニール)マレイミド[N-(9-acridinyl)maleimide](NAM)、N−(7−ジメチールアミノ−4−メチルクマリニール)マレイミド[N-(7- dimethylamino-4-methylcoumarinyl)maleimide](DACM)(化3参照)などが挙げられる。 本発明ではこれらの中でSBD-Fが最も好ましい蛍光標識化試薬である。 SBD-Fは水溶性であり、生体試料などの検出に適しているうえ、非蛍光性であり未反応の試薬の影響を受けにくいという利点を有し、さらに、一度チオール基と結合すると蛍光体となり長波長域に強い蛍光を発するからである。(試料の調製) 豚の心臓から得られた酵素のピルヴェートデヒドロゲナーゼ(Pyruvate dehydrogenase)4.7mg(プロテイン量として)を秤り取り、蒸留水1Lで2時間ずつ5回透析を行なった後、一晩透析した。透析したサンプルは凍結乾燥した。0.1Mのトリス−塩酸バッファー(Tris-HCl buffer pH 7.6)の0.5mLに凍結乾燥品2.0mgとプロナーゼE(pronaseE)0.5mg、サブチリシン(subtilisin)0.5mgを加えて37℃で24時間インキュベーションした。酵素分解反応終了後、3000rpmで10分間遠心し、上清を凍結乾燥してこれを試料とした。(試料の蛍光標識化) 試料は、pH9.3の0.1Mホウ砂(borax)溶液(2mM EDTA2Naを含む)に5μg/μLの割合で溶解した。還元剤のTCEP{Tris(2-carboxyethyl)phosphine Hydrochloride}はpH10.0の0.1M ホウ砂(borax)溶液(2mM EDTA2Naを含む)に溶解し150mMの溶液とした。蛍光標識化試薬のSBD-Fは水に溶解し50mMの水溶液とした。これらの溶液を混合して試料溶液とした。別にリポイルリジン溶液80μLにTCEP溶液10μL 、SBD-F水溶液10μLを加えこれを標準溶液とした。試料溶液および標準溶液を、50℃で30分間反応させた。反応終了後直ちに氷冷して反応を停止させ、次いで試料溶液および標準溶液をそれぞれ移動層の初期条件の溶液で二倍に希釈して蛍光検出器を備えたHPLCに各々20μL注入し、HPLCによるリポイルリジンの検出を行なった。(蛍光検出器を備えたHPLCによるリポイルリジンの検出) HPLCによる検出条件は次のとおりである。カラム : ULTRON VX-ODS (4.6mmID×150mm)ガードカラム: Inertsil ODS-3 (5μm)カラム温度 : 40℃流量 : 1.0mL/min移動層 : 0.1Mリン酸を含む水溶液−0.1Mリン酸を含むアセトニトリル溶液(80:20) 直線溶媒傾斜法により20分後(75:20)蛍光検出 : 励起波長390nm、蛍光波長520 nm(検出結果) このようにリポイルリジンを還元し、SBD-Fで蛍光誘導体化した生成物は、クロマトグラム上で保持時間14分付近にピークとして検出される(図2および図3参照、図の縦軸は蛍光の強度を表し、横軸は保持時間を表す。)。このピークの検出限界(シグナル/ノイズ比、S/N=3)は109.8fmol、定量限界(S/N=10)は365.9fmolであり、従来報告されているものより20倍以上高感度で検出することが可能であった。 本発明の方法は、高感度でかつ選択的にリポイルリジンを検出する方法であって、これまでに全く知られておらず、公知の蛍光法や電気化学検出法に比べても優れた方法であり殆どすべての試料に適用できると考えられ、応用面が広く、抗酸化研究やストレスの解析研究に極めて有用である。本発明のリポイルリジンの検出法の概略を示したものである。実施例の標準品のリポイルリジンをSBD-Fで蛍光誘導体化した生成物のクロマトグラムを示したものである。実施例の試料をSBD-Fで蛍光誘導体化した生成物のクロマトグラムを示したものである。従来の蛍光法を用いたリポイルリジンの測定法の概略を示したものである。 リポイルリジンのジスルフィド結合を選択的に切断する還元剤の共存下にチオール基に選択的な蛍光標識化試薬で標識化し、蛍光検出器を備えた検出装置で検出することを特徴とするリポイルリジンの検出法。 還元剤としてトリス−2−カルボキシエチルホスフィンまたはトリブチルホスフィンを使用することを特徴とする請求項1記載の検出法。 還元剤としてトリス−2−カルボキシエチルホスフィンを使用することを特徴とする請求項1記載の検出法。 蛍光標識化試薬としてベンゾオキサジアゾール類、バイマン類またはマレイミド類を使用することを特徴とする請求項1記載の検出法。 ベンゾオキサジアゾール類として7−フルオロ−2、1、3−ベンゾオキサジアゾール−4−スルフォネート、4−(アミノスルフォニル)−7−フルオロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール、または4−(N,N-ジメチルアミノスルフォニル)−7−フルオロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾールを使用することを特徴とする請求項4記載の検出法。 ベンゾオキサジアゾール類として7−フルオロ−2、1、3−ベンゾオキサジアゾール−4−スルフォネートを使用することを特徴とする請求項4記載の検出法。 【課題】リポイルリジンを高感度でかつ選択的に検出する新規な方法の提供。【解決手段】試料を酵素で消化し、リポイルリジンを遊離させ、次いでジスルフィド結合を選択的に切断する還元剤の共存下にチオール基に選択的な蛍光標識化試薬で標識化し、蛍光検出器を備えた液体クロマトグラフィで高感度でかつ選択的にリポイルリジンを検出する方法である。好ましくは、還元剤としてトリス-2-カルボキシエチルホスフィンまたはトリブチルホスフィンを使用する。好ましくは、蛍光標識化試薬としてベンゾオキサジアゾール類、バイマン類またはマレイミド類を使用する。【選択図】 図1