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タイトル:公開特許公報(A)_間葉系幹細胞の分化能マーカーとしてのCD106の使用
出願番号:2007067259
年次:2008
IPC分類:C12N 5/10,C12N 15/09,C12N 5/06,C12Q 1/02,C12Q 1/68,G01N 33/53


特許情報キャッシュ

戸口田 淳也 青山 朋樹 吹上 謙一 JP 2008220334 公開特許公報(A) 20080925 2007067259 20070315 間葉系幹細胞の分化能マーカーとしてのCD106の使用 国立大学法人京都大学 504132272 高島 一 100080791 戸口田 淳也 青山 朋樹 吹上 謙一 C12N 5/10 20060101AFI20080829BHJP C12N 15/09 20060101ALI20080829BHJP C12N 5/06 20060101ALI20080829BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20080829BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20080829BHJP G01N 33/53 20060101ALI20080829BHJP JPC12N5/00 BC12N15/00 AC12N5/00 EC12Q1/02C12Q1/68 AG01N33/53 D 15 OL 23 4B024 4B063 4B065 4B024AA11 4B024BA80 4B024CA04 4B024CA20 4B024DA02 4B024EA02 4B024HA11 4B063QA01 4B063QA05 4B063QQ08 4B063QQ53 4B063QQ89 4B063QR13 4B063QR32 4B063QR62 4B063QS25 4B063QX01 4B065AA90X 4B065AA97X 4B065AB01 4B065BA02 4B065CA46 本発明は、間葉系幹細胞の分化能マーカーとしてのCD106の使用に関する。詳細には、本発明は、CD106発現を指標として用いる、骨分化能又は脂肪分化能を有する間葉系幹細胞の製造方法、間葉系幹細胞の骨分化能又は脂肪分化能の判定方法に関する。更に本発明は、CD106陰性間葉系幹細胞、及び該細胞を含む細胞バンクに関する。 間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell;以下MSC)は、骨、軟骨、脂肪などの多くの組織に分化可能で、且つ比較的調製が容易なことから、この細胞の再生医療への応用が進められ、すでに臨床試験も開始されている。しかし、間葉系幹細胞の分化能はロット間で大きくばらつくため、レシピエントに移入する前の段階において、その品質(分化能)を評価することが安全な再生医療のために重要である。しかし、現状では、分化能の評価のためには実際に間葉系幹細胞をインビトロで培養し、分化を誘導する必要があるため、時間的及び金銭的に高いコストが生じてしまう。血液幹細胞等では特定の分化マーカーを用いてその品質を評価する方法が開発されているが、間葉系幹細胞においてはそのようなマーカーは存在しない。これは、現在用いられているMSCは骨髄中に存在する雑多な細胞集団であり、特定方向への分化を既に開始した前駆細胞も含まれているためである。従って、現状では、血液幹細胞で得られているような、特定方向への分化と関連した特異的表面抗原マーカーの同定が困難である。 この問題点を克服するためには雑多な細胞集団を1個1個に分離し、個々の細胞における分化能とマーカーの発現とを比較することが必要である。しかし、平板培養ではMSCは増殖能に制限があり個々の細胞までクローニングし、分化能まで解析することは従来技術では不可能であった。 本発明者らは、MSCの増殖能の問題を解決するために、ポリコームグループタンパク質Bmi1とテロメア維持酵素TERT遺伝子をMSCに遺伝子導入することにより、MSCを不死化し、親株のMSCの多方向分化能力を保持するMSC細胞株を樹立することに成功している(非特許文献1)。しかし、個々の細胞の分化能は解析されていないままである。 一方、Pittengerらは、多方向分化能を有するヒトMSCのキャラクタリゼーションを報告している(非特許文献2)。この文献には、細胞表面抗原発現をフローサイトメトリー解析すると、単離培養されたヒトMSCは単一の形質の集団であって、CD106等の表面タンパク質が均一に陽性であったこと、系列特異的条件下での培養により、脂肪、軟骨及び骨分化がこの細胞に誘導されたこと、並びにこのヒトMSCから単離された単一細胞に由来するコロニー中に含まれる細胞の細胞表面抗原発現が、ヒトMSCのそれと同一であったことが記載されている。しかし、特定の細胞表面抗原が、特定の細胞分化方向と関連していることについては記載されていない。Biochemical and Biophysical Research Communications, vol.353, p.60-66, 2007Science, vol.284, p.143-147, 1999 本発明の第1の目的は、特定方向への分化能と関連したMSCの特異的細胞表面マーカーを同定することである。 本発明の第2の目的は、特異的マーカーを用いて、MSCの品質管理を行う方法を提供することである。 本発明の第3の目的は、特異的マーカー発現に基づき、特定分化方向の細胞を濃縮あるいは除去することで、目的に応じた分化能力を有する細胞をMSCから単離する方法を提供することである。 本発明者らは、Bmi1及びTERT遺伝子を導入することにより不死化されたMSC細胞集団から、限界希釈法を用いて100個のクローン細胞を樹立することに成功した。樹立されたクローンはそれぞれ分化能が異なっていたことから、MSCが雑多な細胞集団であることが再確認された。これらの100クローンをそれぞれ軟骨、骨、脂肪に分化誘導し、分化能力とさまざまな細胞表面抗原マーカーの発現とを比較した。その結果、骨分化可能なクローンではCD106の発現が乏しく、軟骨と脂肪分化可能なクローンではCD106発現が高いことが判明した。 次に、ヒトドナー由来の初代培養MSCにおいてCD106の発現レベルと分化能との関係を解析した。すると、不死化MSCにおける結果と一致して、CD106発現レベル(陽性率)が低値なMSCは骨分化能が高く、CD106発現レベルが高値なMSCは軟骨、脂肪への分化能が高いことが示された。 更に、磁性ビーズを用いたソーティング手法により初代培養MSCをCD106陽性細胞と陰性細胞とに分離した。各細胞の分化能を解析すると、CD106陰性細胞は骨分化能が高く、CD106陽性細胞は脂肪分化能が高いことが判明した。 これらの結果から、以下の事実が立証された:(1)CD106が、骨分化能と負の相関を示し、脂肪分化能と正の相関を示す、MSCの分化能選別マーカーとして有用であること;(2)MSCにおけるCD106発現レベルを定量することにより、ドナーから採取されたMSCの分化能を予測できること;(3)CD106発現の有無に基づき、特定の方向への分化能が高い(又は低い)MSCを濃縮・単離することができること。 以上の知見に基づき、本発明が完成された。 即ち、本発明は以下に関する。[1]CD106陰性間葉系幹細胞。[2]骨分化能を有する、[1]記載の細胞。[3]ヒト由来である、[1]記載の細胞。[4]間葉系幹細胞集団からCD106陰性細胞を単離することを含む、骨分化能を有する間葉系幹細胞の製造方法。[5]間葉系幹細胞集団からCD106陰性細胞を単離すること、及び該CD106陰性細胞から骨芽細胞を誘導することを含む、骨芽細胞の製造方法。[6]間葉系幹細胞集団からCD106陰性間葉系幹細胞を除去することを含む、脂肪分化能を有する間葉系幹細胞の製造方法。[7]間葉系幹細胞集団からCD106陰性間葉系幹細胞を除去すること、及び残存した間葉系幹細胞から脂肪細胞を誘導することを含む、脂肪細胞の製造方法。[8]CD106陰性間葉系幹細胞を含む細胞バンク。[9]更にCD106陽性間葉系幹細胞を含む、[8]記載の細胞バンク。[10]CD106陽性間葉系幹細胞を除去するための抗CD106抗体を含む、骨分化能を有する間葉系幹細胞を単離するためのキット。[11]CD106陽性間葉系幹細胞を単離するための抗CD106抗体を含む、脂肪分化能を有する間葉系幹細胞を単離するためのキット。[12]間葉系幹細胞におけるCD106発現レベルを測定すること、及びCD106の発現レベルと間葉系幹細胞の骨分化能との間の負の相関に基づき、間葉系幹細胞の骨分化能を判定することを含む、間葉系幹細胞の骨分化能の判定方法。[13]細胞表面上のCD106の発現レベル又はCD106 mRNAの発現レベルが測定される、[12]記載の方法。[14]間葉系幹細胞におけるCD106発現レベルを測定すること、及びCD106の発現レベルと間葉系幹細胞の脂肪分化能との間の正の相関に基づき、間葉系幹細胞の脂肪分化能を判定することを含む、間葉系幹細胞の脂肪分化能の判定方法。[15]細胞表面上のCD106の発現レベル又はCD106 mRNAの発現レベルが測定される、[14]記載の方法。 本発明により、MSCの分化能を容易に予測することが可能となり、移植用に採取されたMSCの品質管理が可能となる。 また、本発明により、特定の方向への分化能が高い(又は低い)MSCを容易に濃縮・単離することが可能となる。現在の細胞移植治療においては、採取されたMSCを雑多な細胞集団のまま患者に移植している。従って、この方法では、目的とする方向への分化能を有していない細胞や、分化誘導に反応しない細胞も患者に移植されるため、目的とする組織の再生効率が低下してしまう可能性がある。本発明の方法に従い単離精製されたCD106発現陰性MSCを用いることにより、効率の高い骨再生医療が可能となる。また、単離精製されたCD106発現陽性MSCを用いることにより、効率の高い軟骨、脂肪再生医療が可能となる。 更に、CD106発現陰性MSCは、歯科口腔外科や整形外科領域における硬組織再生のために分配される細胞バンクの設立に、CD106発現陽性MSCは、形成外科や皮膚科領域における軟部組織再生のために分配される細胞バンクの設立に、それぞれ利用できる。CD106陰性間葉系幹細胞及びその用途 間葉系幹細胞とは、未分化の状態で増殖し、骨芽細胞、軟骨芽細胞及び脂肪芽細胞の全て又はいくつかへの分化が可能な幹細胞又はその前駆細胞の集団を広義に意味する。特異的抗体を用いたフローサイトメトリー解析によると、間葉系幹細胞は、通常、CD13、CD29、CD44、CD105が陽性であり、CD34、CD45が陰性である。 生体においては、間葉系幹細胞は骨髄中に低頻度で存在する。間葉系幹細胞は、骨髄液から公知の方法で採取することが出来る。例えば、ヒト間葉系幹細胞は、パーコールグラディエント法により骨髄液から単離することができる(Hum. Cell, vol.10, p.45-50, 1997)。あるいは、上述の表面抗原発現パターンに従い、それぞれの抗原に対する特異的抗体を用いて、セルソーターや、磁性ビーズにより間葉系幹細胞を単離することもできる。骨髄液を繰り返して遠心分離し、赤血球と間葉系幹細胞を含む有核細胞層を得て、これを培養皿上で培養し、接着細胞を単離することによっても間葉系幹細胞を得ることが出来る。 生体から単離された間葉系幹細胞は、適切な培地中で接着培養することにより、その分化能を維持しながらインビトロで増幅することもできる。このようにインビトロで増幅された間葉系幹細胞も本発明の範囲内である。培地としては、例えばDMEM、EMEM、RPMI-1640、F-12、α-MEM、MSC growing medium (Bio Whittaker)等が用いられる。培養温度は通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは約37℃である。CO2濃度は通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%である。湿度は通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%である。 本発明の間葉系幹細胞は不死化されていてもよい。不死化とは、無限自律増殖能を獲得したことを意味する。間葉系細胞の不死化は、種々の不死化遺伝子の導入により行うことが出来る。例えば、Bmi1遺伝子及びTERT遺伝子を導入したり(BBRC, vol.353, p.60-66 (2007))、TERT遺伝子及びヒトパピローマウイルスのE6およびE7遺伝子を導入すること(BBRC, vol.295, p.354-361 (2002))により、間葉系幹細胞を不死化することが出来る。 本発明の間葉系幹細胞は、好ましくは不死化されていない。 本発明の間葉系幹細胞は、哺乳動物由来の細胞であれば特に限定されない。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくは霊長類であり、より好ましくはヒトである。 本発明の間葉系幹細胞はCD106の発現が陰性であることを特徴とする。CD106は、VCAM-1 (vascular cell adhesion molecule 1)とも呼ばれる分子量約110kDaの公知の膜タンパク質である。CD106は、インテグリンα4/β1(VLA-4)およびインテグリンα4/β7に結合する接着分子として機能することが知られている。 本明細書において、細胞の表現型をマーカー分子(抗原)発現の有無で表す場合、特に断りのない限り、当該マーカー分子に対する抗体による特異的結合の有無で細胞の表現型が表記される。マーカー分子の発現の有無による細胞の表現型の決定は、通常、当該マーカー分子に対する特異的抗体等を用いたフローサイトメトリー解析等により行われる。マーカー分子の発現が「陽性」とは、該マーカー分子が細胞表面上(或いは細胞内)に発現しており、当該マーカー分子に対する抗体による特異的結合が検出できることをいう。マーカー分子の発現が「陰性」とは、該マーカー分子が細胞表面上(或いは細胞内)に実質的に発現しておらず、当該マーカー分子に対する抗体による特異的結合が検出できないことをいう。 本明細書において、抗体には、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab発現ライブラリーによって作製された抗体断片、およびこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。結合性断片とは、前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv、sFv、dsFv、dAb等が挙げられる。 CD106陰性間葉系幹細胞は、間葉系幹細胞集団から、CD106陰性細胞を単離することにより得ることが出来る。例えば、CD106に対する特異的抗体を用いて、セルソーターや、磁性ビーズ、細胞吸着用カラム等により、該抗体の特異的結合の有無を指標に、CD106陰性間葉系幹細胞が単離される。 本発明のCD106陰性間葉系幹細胞は、好ましくは単離され且つ精製されている。「単離及び精製」とは、CD106陰性間葉系幹細胞以外の細胞の混入を除去する処理がなされていることを意味する。本発明のCD106陰性間葉系幹細胞の純度は、高ければ高いほど好ましい。該純度は、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上(例えば実質的に100%)である。 後述するように、CD106陰性間葉系幹細胞は高い骨分化能を有している一方で、脂肪分化能が低い。骨分化能とは、骨芽細胞、骨細胞又はそれらの前駆細胞に分化する能力をいう。脂肪分化能とは脂肪芽細胞、脂肪細胞又はそれらの前駆細胞に分化し得る能力をいう。従って、間葉系幹細胞集団からCD106陰性細胞を単離することにより、高い骨分化能を有する間葉系幹細胞を得ることが出来る。 本発明のCD106陰性間葉系幹細胞を用いれば、脂肪芽細胞や脂肪細胞へ分化するリスクを抑制しながら、高い効率で骨芽細胞を誘導することができる。即ち、間葉系幹細胞集団からCD106陰性細胞を単離し、該CD106陰性細胞から骨芽細胞を誘導することにより、高い効率で骨芽細胞を製造することが出来る。間葉系幹細胞から骨芽細胞を誘導する方法は公知である。例えば、デキサメタゾン、アスコルビン酸−2リン酸、及びβグリセロリン酸の存在下でCD106陰性間葉系幹細胞を培養することにより、骨芽細胞を製造することが出来る(J.Cell Biochem., vol.64, p.278 (1997)、J.Bone Miner. Res., vol.13, p.655 (1998))。骨芽細胞が誘導されたことは、細胞内アルカリフォスファターゼ活性や、培養物中の石灰化骨基質(カルシウム)量の上昇により確認することが出来る。 本発明のCD106陰性間葉系幹細胞や、それから誘導された骨芽細胞等を患者に移入することにより、生体内において骨を再生し得る。あるいは、スキャホールド中で、CD106陰性間葉系幹細胞から骨芽細胞を誘導し、骨芽細胞を含むスキャホールドを患者に移植することによっても、生体内で骨を再生し得る。 一方、CD106陽性間葉系幹細胞は高い脂肪分化能を有している一方で、骨分化能が低い。従って、間葉系幹細胞集団からCD106陰性間葉系幹細胞を除去することにより(CD106陽性細胞を単離することにより)、高い脂肪分化能を有する間葉系幹細胞を得ることが出来る。例えば、CD106に対する特異的抗体を用いて、セルソーターや、磁性ビーズ、細胞吸着用カラム等により、該抗体の特異的結合の有無を指標に、CD106陰性間葉系幹細胞が除去される。除去により残存した間葉系幹細胞を用いれば、骨芽細胞へ分化するリスクを抑制しながら、高い効率で脂肪細胞を誘導することが出来る。即ち、間葉系幹細胞集団からCD106陰性間葉系幹細胞を除去し(CD106陽性細胞を単離し)、残存した間葉系幹細胞(CD106陽性間葉系幹細胞)から脂肪細胞を誘導することにより、高い効率で脂肪芽細胞や脂肪細胞を製造することが出来る。間葉系幹細胞から脂肪芽細胞や脂肪細胞を誘導する方法は公知である。例えば、1−メチル−3−イソブチルキサンチン、デキサメタゾン、インスリン及びインドメタシンの存在下で間葉系幹細胞を培養することにより、脂肪細胞を製造することが出来る(米国特許第5,827,740号)。脂肪細胞が誘導されたことは、細胞内トリグリセリド量の上昇により確認することが出来る。本発明のCD106陰性間葉系幹細胞が除去された間葉系幹細胞(CD106陽性間葉系幹細胞)や、それから誘導された脂肪細胞を患者に移入することにより、生体内において脂肪組織を再生し得る。 また、本発明は上記CD106陰性間葉系幹細胞を含む細胞バンクを提供するものである。細胞バンクとは、複数の細胞ストックの集合体であって、そこに含まれる細胞ストックが研究者や医師等の依頼者の要請に応じて提供されるものをいう。 例えば、ドナーから提供された間葉系幹細胞からCD106陰性間葉系幹細胞を調製し、これを、適切な凍結保存液を用いてアンプル中に凍結し、細胞バンクの構成要素として保存する。CD106陰性間葉系幹細胞を調製する際に、同時にCD106陽性間葉系幹細胞も得ることができるので、本発明の細胞バンクはCD106陽性間葉系幹細胞を構成要素として含むことが出来る。CD106陰性間葉系幹細胞とCD106陽性間葉系幹細胞とは分離され、別々のアンプル中に保存される。CD106陰性間葉系幹細胞は骨分化能が高いので、必要に応じて細胞バンクからCD106陰性間葉系幹細胞を取り寄せ、細胞を融解し、骨再生の目的に使用することができる。また、CD106陽性間葉系幹細胞は脂肪分化能が高いので、必要に応じて細胞バンクからCD106陽性間葉系幹細胞を取り寄せ、細胞を融解し、脂肪組織再生の目的に使用することができる(図11)。 ドナーの骨髄液から間葉系幹細胞を単離し、培養し、そこから再生医療のために十分な数のCD106陰性又は陽性間葉系幹細胞を調製するためには長時間を要する。従って、緊急性が求められる医療現場においては、長時間にわたる細胞調製が不可能なことも予想される。そこで、あらかじめ十分な細胞数のCD106陰性又は陽性間葉系幹細胞を細胞バンク中に保存しておくことにより、緊急時においても早急に骨・脂肪再生のための処置を開始することが出来る。 更に、本発明はCD106を特異的に認識する抗体(抗CD106抗体)を含む、骨分化能を有する間葉系幹細胞を単離するためのキット(あるいは試薬)を提供する。該抗体は、CD106陽性間葉系幹細胞を除去するためのものであり得る。該抗体は、CD106陽性間葉系幹細胞の除去を容易にするため、適切なマーカー(蛍光物質、酵素、ビオチン等)により標識されていてもよい。また、該抗体は、CD106陽性間葉系幹細胞の除去を容易にするため、適切な担体(磁性ビーズ、細胞吸着用カラム等)上に抱合されていてもよい。あるいは、該キットは、抗CD106抗体に加えて、該抗体に特異的に結合する物質(プロテインA等)、あるいは該抗体上のマーカーに特異的に結合する物質(蛍光物質を特異的に認識する抗体、酵素に対応する基質、ストレプトアビジン等)が抱合された適切な担体を含んでいてもよい。該担体は、抗CD106抗体が結合したCD106陽性間葉系幹細胞を除去するのに適したものであり得る。即ち、該担体に結合した細胞を回収し、培養することが意図されていなくてもよい。また、該キットは、抗CD106抗体に加えて、該抗体が結合した細胞を除去するための補体を含んでいてもよい。 即ち、該キットの構成要素として、例えば以下のいずれかを挙げることが出来る:(a) CD106陽性間葉系幹細胞を除去するための抗CD106抗体;(b) 抗CD106抗体が抱合された、CD106陽性間葉系幹細胞を除去するための担体;(c) (1) 抗CD106抗体、及び(2)該抗体に特異的に結合する物質、あるいは該抗体上のマーカーに特異的に結合する物質が抱合された、抗CD106抗体が結合したCD106陽性間葉系幹細胞を除去するための担体;あるいは(d)抗CD106抗体及び補体。 該キットは、更に、該抗体を用いて、上記の本発明の方法により、間葉系幹細胞集団からCD106陽性間葉系幹細胞を除去し、CD106陰性間葉系幹細胞を単離することにより、骨分化能を有する間葉系幹細胞を製造することができることを記載した記載物や、細胞を洗浄するための緩衝液等を含むことが出来る。該キットを用いれば、上記本発明の方法により、間葉系幹細胞集団からCD106陽性間葉系幹細胞を除去し、CD106陰性間葉系幹細胞を単離することにより、骨分化能を有する間葉系幹細胞を容易に製造することが出来る。 また、本発明はCD106を特異的に認識する抗体(抗CD106抗体)を含む、脂肪分化能を有する間葉系幹細胞を単離するためのキット(あるいは試薬)を提供する。該抗体は、CD106陽性間葉系幹細胞を単離するためのものであり得る。該抗体は、CD106陽性間葉系幹細胞の単離を容易にするため、適切なマーカー(蛍光物質、酵素、ビオチン等)により標識されていてもよい。また、該抗体は、CD106陽性間葉系幹細胞の単離を容易にするため、適切な担体(磁性ビーズ、細胞吸着用カラム等)上に抱合されていてもよい。あるいは、該キットは、抗CD106抗体に加えて、該抗体に特異的に結合する物質(プロテインA等)、あるいは該抗体上のマーカーに特異的に結合する物質(蛍光物質を特異的に認識する抗体、酵素に対応する基質、ストレプトアビジン等)が抱合された適切な担体を含んでいてもよい。該担体は、抗CD106抗体が結合したCD106陽性間葉系幹細胞を単離するのに適したものであり得る。即ち、該担体に結合した細胞を回収し、培養することが意図されている。 即ち、該キットの構成要素として、例えば以下のいずれかを挙げることが出来る:(a) CD106陽性間葉系幹細胞を単離するための抗CD106抗体;(b) 抗CD106抗体が抱合された、CD106陽性間葉系幹細胞を単離するための担体;あるいは(c) (1) 抗CD106抗体、及び(2)該抗体に特異的に結合する物質、あるいは該抗体上のマーカーに特異的に結合する物質が抱合された、抗CD106抗体が結合したCD106陽性間葉系幹細胞を単離するための担体。 該キットは、更に、該抗体を用いて、上記の本発明の方法により、間葉系幹細胞集団からCD106陰性間葉系幹細胞を除去し、CD106陽性間葉系幹細胞を単離することにより、脂肪分化能を有する間葉系幹細胞を製造することができることを記載した記載物や、細胞を洗浄するための緩衝液等を含むことが出来る。該キットを用いれば、上記本発明の方法により、間葉系幹細胞集団からCD106陰性間葉系幹細胞を除去し、CD106陽性間葉系幹細胞を単離することにより、脂肪分化能を有する間葉系幹細胞を容易に製造することが出来る。間葉系幹細胞の分化能の判定方法 本発明は、CD106発現レベルを指標として用いる間葉系幹細胞の分化能の判定方法を提供する。 実施例において示されるように、間葉系幹細胞のCD106発現レベルは、骨分化能と負の相関を示し、CD106発現レベルが高いほど、骨分化能が低くなる。従って、第一の態様において、本発明は、間葉系幹細胞におけるCD106発現レベルを測定すること、及びCD106の発現レベルと間葉系幹細胞の骨分化能との間の負の相関に基づき、間葉系幹細胞の骨分化能を判定することを含む、間葉系幹細胞の骨分化能の判定方法を提供する。 まず、測定対象である間葉系幹細胞におけるCD106の発現レベルが測定される。CD106の発現レベルとしては、例えば、細胞表面上のCD106発現レベル、CD106 mRNAの発現レベル等が測定される。細胞表面上のCD106発現レベルは、自体公知の方法、例えば蛍光標識されたCD106に対する特異的抗体等を用いたフローサイトメトリー解析により測定することが出来る。この場合、CD106発現レベルは、通常、CD106陽性細胞数の割合や蛍光強度として表される。CD106 mRNAの発現レベルは、自体公知の方法、例えば、RT-PCR、ノザンブロッティング等により測定することが出来る。また、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により細胞内に含まれるCD106タンパク質量を測定してもよい。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ウェスタンブロッティング法などが使用できる。 次に測定されたCD106発現レベルを用いて、間葉系幹細胞の骨分化能が判定される。当該判定は、CD106の発現レベルと間葉系幹細胞の骨分化能との間の負の相関に基づき行われる。 例えば、一定レベルの骨分化能を有することが判明している間葉系幹細胞(ポジティブコントロール)及び、骨分化能を有していないことが判明している間葉系幹細胞(ネガティブコントロール)を調製し、測定対象である間葉系幹細胞のCD106発現レベルが、ポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較される。あるいは、間葉系幹細胞のCD106発現レベルと骨分化能との相関図をあらかじめ作成しておき、測定対象である間葉系幹細胞のCD106発現レベルをその相関図と比較してもよい。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。 そして、CD106発現レベルの比較結果より、測定対象のCD106発現レベルが相対的に低い場合には、骨分化能が相対的に高い(あるいは、測定対象のCD106発現レベルが相対的に高い場合には、骨分化能が相対的に低い)と判定することができる。 また、CD106発現レベルのカットオフ値をあらかじめ設定しておき、測定されたCD106発現レベルとこのカットオフ値とを比較することによって行うこともできる。例えば、測定されたCD106発現レベルが前記カットオフ値以下である場合には、骨分化能が相対的に高いと判定し、前記カットオフ値より上である場合には、骨分化能が相対的に低いと判定することができる。カットオフ値は、例えば、CD106発現レベルと骨分化能との相関曲線に基づき、所望の骨分化能を与えるCD106発現レベルとすることが出来る。 また、実施例において示されるように、間葉系幹細胞のCD106発現レベルは、脂肪分化能と正の相関を示し、CD106発現レベルが高いほど、脂肪分化能が高くなる。従って、第二の態様において、本発明は、間葉系幹細胞におけるCD106発現レベルを測定すること、及びCD106の発現レベルと間葉系幹細胞の脂肪分化能との間の正の相関に基づき、間葉系幹細胞の脂肪分化能を判定することを含む、間葉系幹細胞の脂肪分化能の判定方法を提供する。 まず、第一の態様において述べた様に、間葉系幹細胞におけるCD106の発現レベルが測定される。 次に測定されたCD106発現レベルを用いて、間葉系幹細胞の脂肪分化能が判定される。当該判定は、CD106の発現レベルと間葉系幹細胞の脂肪分化能との間の正の相関に基づき行われる。 例えば、一定レベルの脂肪分化能を有することが判明している間葉系幹細胞(ポジティブコントロール)及び、脂肪分化能を有していないことが判明している間葉系幹細胞(ネガティブコントロール)を調製し、測定対象である間葉系幹細胞のCD106発現レベルが、ポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較される。あるいは、間葉系幹細胞のCD106発現レベルと脂肪分化能との相関図をあらかじめ作成しておき、測定対象である間葉系幹細胞のCD106発現レベルをその相関図と比較してもよい。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。 そして、CD106発現レベルの比較結果より、測定対象のCD106発現レベルが相対的に高い場合には、脂肪分化能が相対的に高い(あるいは、測定対象のCD106発現レベルが相対的に低い場合には、脂肪分化能が相対的に低い)と判定することができる。 また、CD106発現レベルのカットオフ値をあらかじめ設定しておき、測定されたCD106発現レベルとこのカットオフ値とを比較することによって行うこともできる。例えば、測定されたCD106発現レベルが前記カットオフ値以下である場合には、脂肪分化能が相対的に低いと判定し、前記カットオフ値より上である場合には、脂肪分化能が相対的に高いと判定することができる。カットオフ値は、例えば、CD106発現レベルと脂肪分化能との相関曲線に基づき、所望の脂肪分化能を与えるCD106発現レベルとすることが出来る。 現在、再生医療のために、間葉系幹細胞をレシピエントに移入する前の段階において、その細胞の分化能を評価するためには、実際にその細胞をインビトロで長期間分化誘導する必要があった。しかし、本発明の判定方法を用いれば、短時間で簡便にその分化能を評価することが可能となるため、間葉系幹細胞の品質管理が容易となる。 以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。(実施例1:不死化間葉系幹細胞クローンの樹立と分化能の確認)不死化間葉系幹細胞クローンの樹立 BBRC, vol.353, p.60-66 (2007)及びJ Gene Med, vol.6, p.833-845(2004)に記載された方法に従い、BIOWHITTAKER社より購入したヒトMSC(Mesenchymal stem cells)に、レトロウイルスを用いてBmi1遺伝子及びヒトTERT遺伝子を導入し、薬剤選抜(G418 100μg/ml、またはhygromycin B 50μg/ml)をすることにより、不死化した親MSC株を取得した。限界希釈法によるクローニングを行い、親細胞株から100個のMSCクローンを樹立した(図1)。脂肪・骨・軟骨分化能の確認 樹立されたそれぞれのクローン(huBM01Bmi1hT clone)について、軟骨(軟骨芽細胞)、骨(骨芽細胞)、脂肪(脂肪芽細胞)の3方向への分化能を、常法(Science, vol.284, p.143-147 (1999)、及びBBRC, vol.295, p.354-361 (2002))に従い評価した。 詳細には、脂肪分化は、間葉系幹細胞を1〜3週間、1−メチル−3−イソブチルキサンチン(0.5mM)、デキサメタゾン(1μM)、インスリン(10μg/ml)及びインドメタシン(0.2mM)で処理することにより誘導した(米国特許第5,827,740号)。軟骨分化は、間葉系幹細胞を緩やかに遠心し、ペレットとなった微小塊を形成させ、この塊をTGF-β3(10ng/ml)を含む無血清培地中で1〜3週間培養することにより誘導した(J.Bone Joint Surg. Am., vol.80A, p.1745 (1998), Tissue Eng., vol.4, p.472 (1998))。骨分化は、間葉系幹細胞を1〜3週間、デキサメタゾン(100nM)、βグリセロリン酸(10mM)及びアスコルビン酸(50μM)を含む培地(10%(v/v) FBS含有)中で培養することにより誘導した(J.Cell Biochem., vol.64, p.278 (1997)、J.Bone Miner. Res., vol.13, p.655 (1998))。 それぞれの系列への分化を確認するために、分化特異的な染色を行った。具体的には、脂肪誘導は、Oil Red O染色により、骨誘導は、ALP染色及びAlizarin Red染色により、軟骨誘導は、Alcian Blue染色により、それぞれ確認した(BBRC, vol.353, p.60-66 (2007)及びBBRC, vol.295, p.354-361 (2002))。 その結果、各クローンは、軟骨/骨/脂肪分化能の点でそれぞれ異なる特性を有していた。100個のクローンのうちの、83個が、脂肪、骨、及び軟骨からなる群から選択される少なくともいずれかに分化する能力を有することが示された(表1)。 表1において、Aは脂肪分化能を、Oは骨分化能を、Cは軟骨分化能を示す。Xはいずれの組織にも分化しなかったことを示す。(実施例2:不死化MSCクローンにおけるMSC関連細胞表面マーカーの発現と分化能との相関)RT-PCRによる検討 上記樹立された不死化MSC100クローンにおいて、下記のMSC関連マーカーのmRNA発現を測定し、分化能と比較した。 RNeasy mini kit(Qiagen社)を用いて、各クローンからトータルRNAを抽出した。cDNA合成反応は、常法に従い実施した。すなわち、Oligo dTとdNTPを混合し、65℃で5分おき、氷上にて冷やした後に、逆転写酵素(Superscript III)を加え、混合物を50℃で60分、70℃で15分反応させた。PCR反応においては、上記で合成したcDNAを鋳型として用いた。PCRの条件は以下の通りである:変性(95℃、5分)→〔変性(95℃、1分)→アニーリング(58℃、1分)→伸長(72℃、1分)〕×30サイクル→伸長(72℃、7分)。遺伝子産物をアガロース電気泳動し、可視化した。 RT-PCRで解析した各遺伝子の正式名称、GenBank アクセッション番号、PCR産物の長さ、及び用いたプライマー配列を以下に列挙する。CD10 membrane metallo-endopeptidase NM000902 334 bp forward : aaacttttcc tgggacctgg ca(配列番号1) reverse : attcttgcgg cagtgaaagg ct(配列番号2)CD13 alanyl aminopeptidase NM001150 394 bp forward : cactggtcaa tgaggctgac aa(配列番号3) reverse : acccacttga tgttggcttt cgtc(配列番号4)CD29 integrin, beta 1 NM002211 331 bp forward : acgtgtgaga tgtgtcagac ct(配列番号5) reverse : cagcaaccac accagctaca at(配列番号6)CD44 hyaluronate receptor NM000610 201 bp forward : accaagacac attccacccc agt(配列番号7) reverse : ctgttgactg caatgcaaac tgc(配列番号8)CD49d integrin, alpha 4 NM000885 320 bp forward : aagcacagca gagtgactgt ag(配列番号9) reverse : tgctgctcta atgcacacac tc(配列番号10)CD90 Thy-1 NM006288 272 bp forward : atcagcatcg ctctcctgct aa(配列番号11) reverse : gtgaaggcgg ataagtagag ga(配列番号12)CD105 endoglin NM000118 262 bp forward : tcagcttcct cctccacttc ta(配列番号13) reverse : gtgtgcgagt agatgtacca ga(配列番号14)CD106 vascular cell adhesion molecule 1 NM001078 501 bp forward : agggctttcc tgctccgaaa at(配列番号15) reverse : aatagagcac gagaagctca gg(配列番号16)CD140a platelet-derived growth factor receptor, alpha peptide NM006206 272 bp forward : aacgaggaag acaagctgaa gg(配列番号17) reverse : tccaccaggt ctgaagagtc ta(配列番号18)CD166 activated leukocyte cell adhesion molecule NM001627 390 bp forward : gcaggaggtt gaaggactaa ag(配列番号19) reverse : gcctggtcat tcaccttttc tc(配列番号20)CD14 CD14 antigen NM000591 228 bp forward : gaagctaaag cacttccaga gc(配列番号21) reverse : cacctctact gcagacacac act(配列番号22)CD34 CD34 antigen NM001773 270 bp forward : gagtttaaga aggacagggg ag(配列番号23) reverse : ggtcttttgg gaatagctct gg(配列番号24)CD45 protein tyrosine phosphate, receptor type C NM002838 317 bp forward : ggatggatct cagcaaacgg gaat(配列番号25) reverse : cctttgcttc agggagcttt tc(配列番号26)BACT beta actin NM001101 218 bp forward : aagagaggca tcctcaccct(配列番号27) reverse : tacatggctg gggtgttgaa(配列番号28) その結果、MSC関連マーカーとして報告されているCD10, CD13, CD29, CD44, CD49d, CD90, CD105, CD140a及びCD166の発現が、測定したほとんどのクローンにおいて認められた(図1)。一方、CD106の発現は一部のクローンにおいてのみ観察された(図2)。また、CD106を発現しているクローンのほとんどが骨分化能を有していなかったのに対して、CD106陰性のクローンの多くは骨分化能を有していた(図2)。 以上の結果から、CD106の発現が、MSCの骨分化能と逆相関することが示唆された。定量的RT-PCRを用いた検討 各MSCクローンにおけるCD106 mRNAレベルを定量的RT-PCRにより測定し、骨分化能との相関を解析した。 即ち、SYBR Green Mastermix(Applied Biosystems社)を用い、7300 real time PCR system(Applied Biosystems社)により、CD106 mRNAレベル及びBACT mRNAレベルを測定した。PCRプライマーとしては、前出のものを用いた。反応条件は以下の通りである:〔(95℃、15秒)→(58℃、20秒)→(72℃、1分)〕×40サイクル。各サンプルについて、CD106定量値をBACT定量値で除した値を算出し、サンプル間で比較した。 その結果、骨分化能のないクローンにおいては、CD106の発現が高く、骨分化能を有するクローンにおいては、CD106の発現がほとんど認められなかった(図3)。また、CD106発現レベルが、骨分化能の程度と逆相関することが示された(図4)。フローサイトメトリー解析による検討 各クローンにおけるCD106の細胞表面発現をフローサイトメトリーにより解析し、骨分化能との相関を調べた。 各抗体添付文書に従い、抗原抗体反応を行った。具体的には、1x105個の細胞に対して、2 μlの抗体を加え、試験管内で30分間4℃にて反応させた。反応前後において、0.01% BSA/1 mM EDTA/PBS(-)溶液により細胞を洗浄した。測定にはFACS Calibur (BD)を使用し、ソフトウェアCELL QUESTにて解析を行った。PE抱合抗ヒトCD106抗体 (BD Pharmingen)を使用した。蛍光色素が抱合されていない抗体を用いる場合は、抗体を細胞と反応させた後、細胞を洗浄した上で、抗マウスIgG1, PE抱合抗体(BD Pharmingen)と反応させ、解析に用いた。 その結果、骨分化能を有していないクローンの細胞表面においてCD106の発現が確認され、骨分化能を有するクローンの細胞表面においてはCD106の発現が認められなかった(図5)。 以上の結果より、CD106の細胞表面表現も、CD106 mRNA表現と同様に、MSCの骨分化能と逆相関することが示唆された。(実施例3:初代培養ヒトMSCにおけるCD106の発現と分化能の相関)ヒト間葉系幹細胞の初代培養 本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受けて行った。京都大学医学部付属病院整形外科にて骨移植を目的に手術を受ける患者を対象に、事前にインフォームドコンセントを得た上で、本研究に使用する目的での骨髄液採取の承諾を得た。7人の患者の骨盤より骨髄液をそれぞれ10ml採取した。10mlの骨髄液に対してノボヘパリン1000単位を添加した。ここに等容量の培地を添加し、混合した後、1000回転/分で5分間遠心した。遠心分離後、間葉系幹細胞の含まれる分画である上層を採取し、別の遠心管へ移した。同様の操作を2回繰り返し、赤血球と間葉系幹細胞の含まれる有核細胞層を分離した。間葉系幹細胞の含まれる有核細胞層を培養皿に播種し、培養を開始した。培養液には、10% FBS(Hyclone)を含むDMEM(SIGMA)を培地として使用した。フローサイトメトリー解析 実施例2と同様に、PE抱合抗ヒトCD106抗体を用いたフローサイトメトリー解析により、各ドナー由来の初代培養ヒトMSCの細胞表面上のCD106発現を測定し、CD106陽性細胞の割合を算出した。骨分化能の定量的評価 初代培養ヒトMSCを用いて実施例1と同様の方法により骨分化を誘導した。誘導後の培養細胞の骨分化の程度を以下の2つの方法により評価した。(カルシウム量の測定) 培養皿に10%ホルマリンを加え、12時間室温で置き、測定用サンプルを得た。測定には、カルシウム-Cテストワコー(和光純薬)を使用した。サンプル25μlと緩衝液250μlを混合し、室温で5分置き、吸光度計SpectraMax M2RF(Molecular Devices)で吸光度を測定した。カルシウム量を標準サンプルの検量線に基づき算出した。(ALP(Alkaline Phosphatase)活性の定量) 培養細胞より常法によりタンパク質を抽出し、これを測定用サンプルとした。Phosphate Substrate Kit(BioRad)を用いて、ALP活性を測定した。キットに添付のReaction Buffer 400μlとサンプル 10μlを混合し、37℃でインキュベートした。10分、15分及び20分後に、標準サンプルと共に、サンプルの吸光度を吸光度計SpectraMax M2RFにより測定した。ALP活性を標準サンプルの検量線に基づき算出した。 その結果、初代培養ヒトMSCのCD106陽性細胞の割合は、骨分化誘導後の細胞中のALP活性及びカルシウム量と負の相関を示した(図6)。この結果から、不死化MSCと同様に、初代培養MSCにおいても、CD106の発現レベルが骨分化能と逆相関することが立証された。脂肪分化能の定量的評価 初代培養ヒトMSCを用いて実施例1と同様の方法により脂肪分化を誘導した。誘導後の培養細胞の脂肪分化の程度を以下の方法により評価した。中性脂肪量の測定 1%テジット溶液で細胞を溶解し、これを測定用サンプルとした。Serum triglyceride determination kit (SIGMA)を使用し、中性脂肪量を測定した。測定用サンプル又はキット添付の標準サンプル10μlとキット添付の反応液 1 mlを混合し、室温で5分反応させた。反応混合液の吸光度を吸光度計SpectraMax M2RFを用いて測定した。中性脂肪量を標準サンプルの検量線に基づき算出した。サンプル中のタンパク質量を、BCA protein assay reagent (PIERSE)を使用し、添付のプロトコールに従い測定した。各サンプルの中性脂肪量をタンパク質量で除し、単位タンパク質量あたりの中性脂肪量を算出し、この値を解析に使用した。 その結果、初代培養ヒトMSCのCD106陽性細胞の割合は、脂肪分化誘導後の細胞中の中性脂肪量と正の相関を示した(図7)。この結果から、MSCのCD106の発現レベルが脂肪分化能と正に相関することが立証された。(実施例4:ソートされたCD106陽性又は陰性初代培養ヒトMSCの分化能の評価) 実施例3と同様に、ドナー患者の骨髄細胞よりMSCを採取し、プレート上で接着培養した。 ソーティング操作のためにMACS (Magnet-Activated Cell Sorting, Myltenyi Biotec)を使用した。添付プロトコールに従い、2 x 106個の細胞を前出のPE抱合抗ヒトCD106 抗体 20μlと30分反応させ、洗浄し、抗PEマイクロビーズと(Myltenyi Biotec)と10分反応させた。添付プロトコールに従い、抗体およびビーズを反応させた細胞2 x 106個をカラムに通し、CD106陽性細胞及びCD106陰性細胞を選別した。Positive sorting(陽性細胞の選別)にはMS column (Myltenyi Biotec)を、Negative sorting(陰性細胞の選別)にはLD column (Myltenyi Biotec)を使用した(図8)。 実施例3と同様の条件で、ソートされた細胞の骨分化及び脂肪分化を誘導し、CD106陽性細胞及びCD106陰性細胞の分化能を評価した。骨分化能の程度は、Alizarin Red染色における染色強度を指標に判定した。コントロールとして、ソート前のヒトMSC(親細胞)を用いた。 その結果、CD106陽性MSCはほとんど骨分化能を示さなかったが、CD106陰性MSCは、極めて高い骨分化能を有していることが示された(図9)。 また、CD106陽性MSCの脂肪分化能は、親MSCのそれとほとんど同程度であったが、CD106陰性MSCの脂肪分化能はCD106陽性MSCや親MSCと比較して有意に低かった(図10)。 この結果から、CD106の発現レベルに基づき、所望の分化能を有するヒトMSCを単離できることが立証された。(参考例:初代培養ヒトMSCのフローサイトメトリー解析) 実施例2と同様に、以下の抗体を用いたフローサイトメトリー解析により、初代培養ヒトMSCにおけるMSCマーカーの発現パターンを解析した。抗ヒトCD13抗体(Nichirei)抗ヒトCD29抗体, PE抱合(BD Pharmingen)抗ヒトCD44抗体(Santa Cruz)抗ヒトCD105抗体(Ancell)抗ヒトCD34抗体, FITC抱合(BD Pharmingen)抗ヒトCD45抗体(BD Pharmingen) 初代培養ヒトMSCは、CD13、CD29、CD44及びCD105が陽性であり、CD34及びCD45が陰性であった(図11)。 本発明を用いれば、MSCの分化能を容易に予測することが可能となり、移植用に採取されたMSCの品質管理が可能となる。 また、本発明を用いれば、特定の方向への分化能が高い(又は低い)MSCを容易に濃縮・単離することが可能となる。現在の細胞移植治療においては、採取されたMSCを雑多な細胞集団のまま患者に移植している。従って、この方法では、目的とする方向への分化能を有していない細胞や、分化誘導に反応しない細胞も患者に移植されるため、目的とする組織の再生効率が低下してしまう可能性がある。本発明の方法に従い単離精製されたCD106発現陰性MSCを用いることにより、効率の高い骨再生医療が可能となる。また、単離精製されたCD106発現陽性MSCを用いることにより、効率の高い軟骨、脂肪再生医療が可能となる。 更に、CD106発現陰性MSCは、歯科口腔外科や整形外科領域における硬組織再生のために分配される細胞バンクの設立に、CD106発現陽性MSCは、形成外科や皮膚科領域における軟部組織再生のために分配される細胞バンクの設立に、それぞれ利用できる。不死化間葉系幹細胞クローンの樹立と分化能の解析の工程を模式的に示す。各MSCクローンにおけるMSCマーカー遺伝子発現のRT-PCR解析、及び各クローンの分化能を示す。定量的RT-PCRにより測定された各クローンにおけるCD106発現レベル、及び各クローンの分化能を示す。不死化MSCクローンの骨分化能とCD106発現レベルとの相関を示すグラフである。(+++)は骨分化能が高いクローン(3クローン)を、(++)は骨分化能が中程度のクローン(12クローン)を、(+)は弱い骨分化能を有するクローン(14クローン)を、(-)は骨分化能を有していないクローン(71クローン)を示す。縦軸は、CD106 mRNA発現量の平均値を、親細胞での発現量を1としたときの相対値として示す。骨分化能(-)MSCクローン及び骨分化能(+)MSCクローンにおけるCD106の細胞表面発現を示す。塗りつぶされたカラムは、PE抱合抗CD106抗体を、実線はアイソタイプコントロールをそれぞれ示す。初代培養ヒトMSCのCD106発現レベルと骨分化能との相関を示す。左側のグラフは骨分化誘導後のALP活性(picomol/min/タンパク量(μg))を示す。右側のパネルは骨分化誘導後の培養物中のカルシウム量(μg/cm2 (dish 1cm2あたりのCa産生量(μg)))を示す。横軸はCD106陽性細胞の割合を示す。初代培養ヒトMSCのCD106発現レベルと脂肪分化能との相関を示す。縦軸は脂肪分化誘導後の細胞中の中性脂肪量(μg/μgタンパク質)を、横軸はCD106陽性細胞の割合をそれぞれ示す。MACSによる、初代培養ヒトMSCからのCD106陽性MSC及びCD106陰性MSCのソーティングを示す。骨分化誘導後の初代培養MSCのAlizarin Red染色像を示す。左下:親MSC、右上:ソートされたCD106陰性MSC、右下:ソートされたCD106陽性MSC。倍率:×100。ソートされたCD106陰性MSC、CD106陽性MSC、及び親MSCの脂肪分化能を示す。縦軸は脂肪分化誘導後の細胞中の中性脂肪量(μg/μgタンパク質)を示す。初代培養ヒトMSCのMSCマーカー発現パターンを示す。細胞バンクの構築の一例を示す。 CD106陰性間葉系幹細胞。 骨分化能を有する、請求項1記載の細胞。 ヒト由来である、請求項1記載の細胞。 間葉系幹細胞集団からCD106陰性細胞を単離することを含む、骨分化能を有する間葉系幹細胞の製造方法。 間葉系幹細胞集団からCD106陰性細胞を単離すること、及び該CD106陰性細胞から骨芽細胞を誘導することを含む、骨芽細胞の製造方法。 間葉系幹細胞集団からCD106陰性間葉系幹細胞を除去することを含む、脂肪分化能を有する間葉系幹細胞の製造方法。 間葉系幹細胞集団からCD106陰性間葉系幹細胞を除去すること、及び残存した間葉系幹細胞から脂肪細胞を誘導することを含む、脂肪細胞の製造方法。 CD106陰性間葉系幹細胞を含む細胞バンク。 更にCD106陽性間葉系幹細胞を含む、請求項8記載の細胞バンク。 CD106陽性間葉系幹細胞を除去するための抗CD106抗体を含む、骨分化能を有する間葉系幹細胞を単離するためのキット。 CD106陽性間葉系幹細胞を単離するための抗CD106抗体を含む、脂肪分化能を有する間葉系幹細胞を単離するためのキット。 間葉系幹細胞におけるCD106発現レベルを測定すること、及びCD106の発現レベルと間葉系幹細胞の骨分化能との間の負の相関に基づき、間葉系幹細胞の骨分化能を判定することを含む、間葉系幹細胞の骨分化能の判定方法。 細胞表面上のCD106の発現レベル又はCD106 mRNAの発現レベルが測定される、請求項12記載の方法。 間葉系幹細胞におけるCD106発現レベルを測定すること、及びCD106の発現レベルと間葉系幹細胞の脂肪分化能との間の正の相関に基づき、間葉系幹細胞の脂肪分化能を判定することを含む、間葉系幹細胞の脂肪分化能の判定方法。 細胞表面上のCD106の発現レベル又はCD106 mRNAの発現レベルが測定される、請求項14記載の方法。 【課題】特異的マーカーを用いて、間葉系幹細胞の品質管理を行う方法を提供すること。特異的マーカー発現に基づき、目的に応じた分化能力を有する細胞を間葉系幹細胞から単離する方法を提供すること【解決手段】本発明は、間葉系幹細胞におけるCD106発現レベルを測定すること、及びCD106の発現レベルと間葉系幹細胞の骨分化能との間の負の相関に基づき、間葉系幹細胞の骨分化能を判定することを含む、間葉系幹細胞の骨分化能の判定方法を提供する。また、本発明は、間葉系幹細胞集団からCD106陰性細胞を単離することを含む、骨分化能を有する間葉系幹細胞の製造方法を提供する。【選択図】なし配列表


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