タイトル: | 再公表特許(A1)_架橋ゼラチンゲル多層構造体、生理活性因子用担体、生理活性因子放出用製剤、及びこれらの製造方法 |
出願番号: | 2007065323 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | A61K 47/42,A61K 9/00 |
石黒 智之 深野 兼司 田畑 泰彦 JP WO2008016163 20080207 JP2007065323 20070731 架橋ゼラチンゲル多層構造体、生理活性因子用担体、生理活性因子放出用製剤、及びこれらの製造方法 ニチバン株式会社 000004020 国立大学法人京都大学 504132272 西川 繁明 100093528 野田 直人 100146282 石黒 智之 深野 兼司 田畑 泰彦 JP 2006209855 20060801 A61K 47/42 20060101AFI20091127BHJP A61K 9/00 20060101ALI20091127BHJP JPA61K47/42A61K9/00 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MT,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20091224 2008527819 22 4C076 4C076AA09 4C076AA51 4C076AA71 4C076CC29 4C076EE42 4C076FF31 4C076FF68 4C076FF70 4C076GG06 本発明は、生理活性因子の担体として有用な架橋ゼラチンゲル多層構造体とその製造方法に関する。また、本発明は、架橋ゼラチンゲルに生理活性因子を担持させてなる生理活性因子放出用製剤とその製造方法に関する。本発明の生理活性因子放出用製剤は、生体内への埋め込みや注射器を用いた注入などによる投与により、生理活性因子を徐放させることができる。 生理活性因子として、例えば、血管新生誘導効果を持つ塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が知られている。このような生理活性因子の水溶液をヒトなどの生体内に投与すると、比較的短期間でその効果が低下する。生理活性因子の多くは、治療目的を達成する上で、比較的長期間にわたって効果を持続させることが望ましい。そのため、生体内に生理活性因子の水溶液を多量に投与するか、投与回数を増やす必要があった。 上記問題を解決するために、架橋ゼラチンゲルに生理活性因子を担持させた架橋ゼラチン製剤が提案されている。例えば、米国特許第6,831,058 B1明細書(以下、「文献1」という)には、アルカリ処理ゼラチンを架橋して得られた架橋ゼラチンゲルに、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を担持させた架橋ゼラチンゲル製剤が提案されている。 ゼラチンは、生体安全性が高い材料であり、しかも生体内で分解性を示す。ゼラチンは、ハイドロゲルを形成するが、架橋により架橋ゼラチンゲルを形成することができる。該架橋ゼラチンゲルは、水分を吸収した状態では、架橋ゼラチンハイドロゲルを形成する。架橋ゼラチンゲルは、ゼラチン同様に生体内での分解性を有しており、架橋密度(架橋度)の調整により、生体内での分解速度を制御することができる。 架橋ゼラチンゲルは、生理活性因子などの電荷を持つ薬剤を担持することができる。生理活性因子を担持した架橋ゼラチンゲルを生体内に投与すると、架橋ゼラチンゲルが生体内で分解するにつれて、生理活性因子が徐々に放出される。投与方法としては、架橋ゼラチンゲルの形状(例えば、シートやマイクロスフェア)に応じて、生体内への埋め込みや注射器を用いた注入などがある。 生理活性因子を担持した架橋ゼラチンゲル製剤は、生体内で生理活性因子を徐放することができるため、その水溶液状態での投与に比べて、少量の生理活性因子で大きな効果を発揮することができる。特に、生理活性因子を担持した架橋ゼラチンゲルを患部に埋め込み、生理活性因子を徐放させると、少量の生理活性因子により、局所的に、一定期間効果を持続させることができる。しかし、従来の架橋ゼラチンゲル及び該架橋ゼラチンゲルを担体として用いた製剤には、解決すべき諸問題が残されている。 問題点の一つは、ゼラチンの架橋方法にある。前記文献1には、ゼラチンの架橋方法として、架橋剤を用いる方法の他に、熱処理や紫外線照射による方法もあると記載されている。しかし、文献1の実施例では、ゼラチンをグルタルアルデヒドや1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などの架橋剤を用いて架橋する方法が採用されている。 ゼラチンを架橋剤により架橋する方法では、化学物質である架橋剤を用いて架橋反応を行い、さらに、架橋反応を終了させるために反応停止剤を加える必要がある。しかし、架橋剤として用いるグルタルアルデヒドなどの化合物は、有毒性物質であるため、架橋ゼラチンゲルに架橋剤が残留しないように、安全性の確保に十分注意する必要がある。 前記文献1には、架橋剤を用いて得られた架橋ゼラチンゲルを、蒸留水、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどの有機溶媒で洗浄する方法が記載されている。例えば、文献1の実施例1には、架橋剤を用いて得られた架橋ゼラチンを、蒸留水で37℃、12時間洗浄したことが示されている。架橋反応にも24時間という長時間を費やしている。したがって、架橋剤を用いて架橋ゼラチンゲルを製造する方法は、架橋反応や安全性の確保に多大の時間と労力を要し、製品コストの低減に限界がある。 ゼラチンに紫外線を照射して架橋する方法では、反応開始剤を用いて架橋反応を開始し、その後、反応停止剤を添加して反応開始剤を失活させる必要がある。ところが、反応開始剤は、有毒性物質であるため、得られた架橋ゼラチンゲルを十分に洗浄して反応開始剤を除去する必要がある。そのため、この方法も、煩雑な工程を必要とする。 熱処理によりゼラチンを架橋する方法は、架橋に長時間を要する上、架橋密度の制御が難しく、所望の架橋密度を持つ架橋ゼラチンゲルを得ることが困難である。そのため、熱処理により得られた架橋ゼラチンゲルに生理活性因子を担持させても、所望の徐放性を安定して発揮する製剤を得ることが難しい。 米国特許第5,618,312号明細書(以下、「文献2」という)には、創傷補填材や火傷保護材などの外科用手術に適用される生体用人工材料の分野において、生体由来の緻密層(生体・結合組織膜を構成する無細胞質層)にコラーゲンまたはゼラチンを含浸させた膜材に、物理的または化学的架橋反応を施した膜状の医療用材料が提案されている。文献2には、物理的架橋反応として、加熱、紫外線照射、電子線照射、放射線照射などの物理的エネルギーを利用する方法が記載されている。しかし、文献2の実施例には、加熱により架橋させた実験例が示されているだけである。また、文献2に記載の方法は、生体由来の緻密層にコラーゲンまたはゼラチンを含浸させた膜材の架橋法であって、架橋ゼラチンゲル自体の製造方法ではない。 電子線の照射によりゼラチンを架橋させる方法によれば、架橋剤や反応開始剤を必要としないため、生体安全性に優れた架橋ゼラチンゲルを製造することができる。電子線の照射による架橋法は、操作が比較的簡単であり、架橋処理時間も短い。 しかし、電子線の照射による架橋法は、被照射物への電子の透過深さに制限があるため、厚みの大きな被照射物への適用には必ずしも適していない。他方、生理活性因子の担体として用いられる架橋ゼラチンゲルには、生体内への埋め込み時における取り扱い性の観点から、ある程度の厚みを有することが求められている。電子線の照射により均一に架橋した架橋ゼラチンゲルを製造するには、電子をゼラチンの内部にまで透過させる必要があるが、厚みの大きなゼラチンの深部にまで電子を透過させることは困難である。 加速電圧は、電子の被照射物への透過深さに関係しており、加速電圧を高くするほど、電子の加速エネルギーが高くなる。それゆえ、被照射物の厚みが大きいほど、高い加速電圧の電子線照射装置が必要となる。架橋ゼラチンゲルを均一に架橋させるには、ゼラチンの深さ方向の相対線量が高くなるような加速電圧で照射する方法を採用しなければならない。そのためには、大規模な設備投資や大規模な収納キャパシティーを持つ施設の建設が必要となり、照射エネルギーコストも高くなる。 従来技術の問題点の第二は、実質的に均一な架橋密度を有する単層の架橋ゼラチンゲルを担体として用いているため、生理活性因子の徐放性を時間の経過にしたがって制御することができないことにある。生体内では、生理活性因子を担持した架橋ゼラチンゲル製剤の投与の初期には、高濃度の生理活性因子の放出があり、その後、一定濃度の生理活性因子の長期徐放があることが、効果的であることが判明している。しかし、実質的に均一な架橋密度を有する単層の架橋ゼラチンゲルは、生体内での分解速度が一定であるため、担持している生理活性因子の放出に時間的な濃度変化をもたせることができない。 本発明の課題は、生体に対する安全性に優れ、生理活性因子の担体として有用な架橋ゼラチンゲルとその製造方法を提供することにある。 また、本発明の課題は、電子線の照射により、生体に対する安全性に優れると共に、所望の厚みを持つ架橋ゼラチンゲルとその製造方法を提供することにある。 さらに、本発明の課題は、担持している生理活性因子の放出に時間的な濃度変化をもたせることができる架橋ゼラチンゲルとその製造方法を提供することにある。 本発明の他の課題は、上記の如き優れた諸特性を有する架橋ゼラチンゲルの生理活性因子用担体としての使用を提供することにある。より具体的に、本発明の他の課題は、上記の如き優れた諸特性を有する架橋ゼラチンゲルに生理活性因子を担持させた生理活性因子放出用製剤(架橋ゼラチンゲル製剤)とその製造方法を提供することにある。 本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、電子線の照射によるゼラチンの架橋と、架橋ゼラチンゲルを多層化する方法とを組み合わせる方法に想到した。架橋ゼラチンゲルを多層化して、架橋ゼラチン多層構造体を作製すると、個々の架橋ゼラチンゲル層を薄膜化することができるため、電子線の照射による架橋法を採用することができる。 電子線の照射によるゼラチンの架橋には、架橋剤や反応開始剤などの有毒性物質の使用が必要ではないため、生体に対する安全性に優れた架橋ゼラチンゲル層を形成することができる。薄膜化したゼラチン層への電子線の照射には、大型の電子線照射装置や過大な加速電圧は、必ずしも必要ではない。各架橋ゼラチンゲル層を多層化することにより、所望の厚みの多層構造体を得ることができる。架橋ゼラチンゲル層の多層化には、各架橋ゼラチンゲル層を順次積重ねて形成する方法を採用することができる。 他方、電子線の照射は、オゾン発生の抑制や反応性の観点から、一般に、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行われている。ところが、不活性ガス雰囲気下で電子線を照射して各架橋ゼラチンゲル層を形成すると、互いに隣接する各架橋ゼラチンゲル層間の接着性が悪く、一体化した多層構造体の製造が困難であることが判明した。 架橋ゼラチンゲル多層構造体は、ハイドロゲルの状態または凍結乾燥した状態で生理活性因子の水溶液を含浸させると、該水溶液の含浸により元の体積に比べて大きく膨潤する。このとき、各層の界面での接着性が悪いと、層間剥離を容易に引き起こし、その後の取り扱いや投与が困難になる。 層間接着性を高めるために、各層間に接着剤層を介在させると、化学物質である接着剤の安全性が問題となる。しかも、一般の接着剤は、生分解性を示さないため、生体内に残留する。 そこで、本発明者らは、さらに検討した結果、空気中などの酸素含有雰囲気下で電子線を照射する方法により、互いに隣接する各架橋ゼラチンゲル層間の接着性を十分に高めることができることを見出した。より具体的には、支持体上にゼラチン水溶液を塗工して塗工層を形成し、次いで、酸素含有雰囲気下で該塗工層に電子線を照射して第一架橋ゼラチンゲル層を形成する。該第一架橋ゼラチンゲル層の上にゼラチン水溶液を塗工して塗工層を形成し、次いで、酸素含有雰囲気下で該塗工層に電子線を照射して第二架橋ゼラチンゲル層を形成する。同様の方法を所望の回数で繰り返すことにより、所望の厚みを有し、各架橋ゼラチンゲル層間の接着性に優れた架橋ゼラチンゲル多層構造体の得られることが見出された。 架橋ゼラチンゲル多層構造体の製造に際し、各架橋ゼラチンゲル層に対する電子線の照射線量を変化させると、架橋密度が互いに異なる複数の架橋ゼラチンゲル層からなる多層構造体を作製することができる。 具体的に、一方または両方の表面部に配置された少なくとも1層の架橋ゼラチンゲル層の電子線の照射線量を、それ以外の他の部分に配置された少なくとも1層の架橋ゼラチンゲル層の電子線の照射線量よりも相対的に少なくなるように、照射線量を調整する方法がある。 より具体的に、例えば、架橋ゼラチンゲル多層構造体の両方の表面部(外側)に位置する少なくとも1層の架橋ゼラチンゲル層に対する照射線量を少なくし、芯部(内側)に位置する少なくとも1層の架橋ゼラチンゲル層に対する照射線量を多くすると、内側よりも外側に位置する架橋ゼラチンゲル層の方が生体内での分解速度が速いため、そこに担持されている生理活性因子が投与の初期に高濃度で放出され、その後、一定濃度の生理活性因子を徐放することができる架橋ゼラチンゲル多層構造体を得ることができる。 本発明で使用するゼラチンとしては、通常のゼラチンだけではなく、カチオン化ゼラチン誘導体やサクシニル化ゼラチン誘導体などのゼラチン誘導体を使用することができる。 本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。 かくして、本発明によれば、酸素含有雰囲気下でゼラチンまたはゼラチン誘導体が電子線の照射により架橋された架橋ゼラチンゲル層の複数層が互いに隣接して配置された層構成を有する架橋ゼラチンゲル多層構造体が提供される。 本発明によれば、上記架橋ゼラチンゲル多層構造体からなる生理活性因子用担体が提供される。本発明によれば、前記架橋ゼラチンゲル多層構造体に生理活性因子を担持させてなる生理活性因子放出用製剤が提供される。 また、本発明によれば、少なくとも下記工程1及び2: 支持体上にゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を塗工して塗工層を形成し、次いで、酸素含有雰囲気下で該塗工層に電子線を照射して第一架橋ゼラチンゲル層を形成する工程1;及び 該第一架橋ゼラチンゲル層の上にゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を塗工して塗工層を形成し、次いで、酸素含有雰囲気下で該塗工層に電子線を照射して第二架橋ゼラチンゲル層を形成する工程2;を含む架橋ゼラチンゲル多層構造体の製造方法が提供される。 3層以上の多層構造体を製造するには、前記工程2と同様の工程を所望の回数で更に繰り返して、第二架橋ゼラチンゲル層の上に所望の層数の架橋ゼラチンゲル層を順次形成する方法を採用する。 さらに、本発明によれば、前記架橋ゼラチンゲル多層構造体に生理活性因子を担持させる生理活性因子放出用製剤の製造方法が提供される。 図1は、マウス皮下に埋設した架橋ゼラチンゲルの生体内残存率を示すグラフである。 図2は、生理活性因子(bFGF)を担持した架橋ゼラチンゲルのマウス皮下埋設7日後の血管新生量を示すグラフである。 ゼラチンは、主として牛骨、牛皮、及び豚皮を原料として生産されている。これらの原料の中でゼラチンに転化される親物質は、コラーゲンと呼ばれるタンパク質である。コラーゲンは、難溶性の物質であるが、これを酸やアルカリで前処理した後、加熱すると、3本鎖螺旋の分子構造が壊れて、ランダムな3本の分子に分かれる。このようにして熱変性し、可溶化されたコラーゲンをゼラチンと呼ぶ。 コラーゲン原料から高品質のゼラチンを抽出するために、塩酸や硫酸などの無機酸または石灰(アルカリ)を用いて、原料の前処理を行う。原料の前処理条件により、前者を酸処理ゼラチン、後者をアルカリ処理ゼラチンと称する。 ゼラチンは、両性電解質である。両性電解質は、溶液のpHによって荷電状態が大きく変化するが、特定のpHでは、分子内の正と負の荷電がつり合い、全体として荷電がゼロとなる。このpHを等電点という。 ゼラチンのアミノ酸組成は、側鎖に極性基を持つアミノ酸の割合が約35%であり、その極性基による内訳は、水酸基を持つアミノ酸の割合が15%、酸性基を持つアミノ酸の割合が12%、及び塩基性基を持つアミノ酸の割合が8%であると報告されている。 原料のコラーゲン中では、酸性基を持つグルタミン酸やアスパラギン酸は、その約3分の1がアミド化されている。しかし、ゼラチンの製造工程で、酸アミドは加水分解されてカルボキシル基に変化する。アルカリ処理ゼラチンは、石灰漬工程で100%近くが脱アミド化されているため、等電点が5程度と低くなっている。酸処理ゼラチンは、脱アミド化率が低いので、等電点が8〜9程度となっている。 本発明で使用することができるゼラチンは、放射線の照射により架橋することができ、生理活性因子を担持することができるものであれば、特に制限はなく、一般に入手できる市販品でよい。例えば、新田ゼラチン社製の等電点4.9または5.0のアルカリ処理ゼラチンや等電点9.0の酸処理ゼラチンが代表的なものである。ゼラチンは、それぞれ単独で使用することができるが、溶解性、分子量、等電点、原料などが異なるものを2種以上混合して用いてもよい。 生理活性因子(「生理活性物質」ともいう)は、電荷がカチオンである塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF−β1)、骨形成因子(BMP−2)などと、電荷がアニオンであるプラスミドDNA(前記増殖因子をコードするプラスミドDNA)などに分類される。生理活性因子がカチオン系の場合、ゼラチンとしてアニオン系ゼラチンを選択することが好ましい。生理活性因子がアニオン系の場合、ゼラチンとしてカチオン系ゼラチンを選択することが好ましい。 担持する生理活性因子の種類に応じて、ゼラチン側鎖を変性または修飾したゼラチン誘導体を使用することができる。具体的には、等電点9.0の酸処理ゼラチンに、エチレンジアミン、スペルミジンまたはスペルミンをカルボジイミドでグラフト重合したカチオン化ゼラチン誘導体;ゼラチンの側鎖に琥珀酸を導入したサクシニル化ゼラチン誘導体が挙げられる。 本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、支持体上にゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を塗工して塗工層を形成し、次いで、酸素含有雰囲気下で該塗工層に電子線を照射して第一架橋ゼラチンゲル層を形成する工程1;及び該第一架橋ゼラチンゲル層の上にゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を塗工して塗工層を形成し、次いで、酸素含有雰囲気下で該塗工層に電子線を照射して第二架橋ゼラチンゲル層を形成する工程2;を含む製造方法により製造することができる。 前記工程2の後、該工程2と同様の工程を所望の回数で更に繰り返して、第二架橋ゼラチンゲル層の上に所望の層数の架橋ゼラチンゲル層を順次形成すれば、所望の層数と合計厚みとを有する架橋ゼラチンゲル多層構造体を製造することができる。 支持体の種類や塗工方法には、制限はなく、また、連続的な塗工法やバッチ式の塗工法などを採用することができる。架橋ゼラチンゲル多層構造体をバッチ式で製造する場合には、ゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を、ガラス、金属、各種プラスチック材料などから形成された鋳型(容器)内に流延して、塗工層(流延層)を形成する方法が好ましい。該水溶液の流延量を調節することにより、塗工層の膜厚を正確に制御することができる。該塗工層に電子線を照射して架橋させた後、得られた第一架橋ゼラチンゲル層の上に、次の水溶液を流延して塗工層を形成し、該塗工層に電子線を照射すれば、第二架橋ゼラチンゲル層を形成することができる。この方法を順次繰り返すことにより、所望の層数の架橋ゼラチンゲル多層構造体を得ることができる。 鋳型の材質または表面の材質は、ゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を流延したときに、「ハジキ」を生じないものであることが望ましい。鋳型を構成するプラスチック材料としては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。 ゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液の濃度は、一般に、1〜90重量%の範囲である。多層構造体を構成する各架橋ゼラチンゲル層を形成するのに用いるゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液の濃度は、通常1〜90重量%、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは5〜50重量%である。ただし、ゼラチン水溶液の濃度は、ゼラチン種によって好ましい範囲が相違している。例えば、平均分子量が100,000以上の高分子量ゼラチンの場合は、溶液粘度が高いため、水溶液の固形分濃度(ゼラチン濃度)は、5〜30重量%が好ましい。ゼラチン誘導体は、溶液粘度が低いため、水溶液の固形分濃度(ゼラチン誘導体濃度)は、10〜80重量%が好ましい。 ゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液の固形分濃度が薄すぎると、十分な架橋密度を持つ架橋ゼラチンゲル層を形成することが困難であり、各層の界面での接着性も低下する。ゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液の固形分濃度が濃すぎると、塗工(流延)時に均一な厚みを持つ塗工層(膜)を形成することが困難になり、しかも電子線照射による架橋反応効率が低下し、層間剥離も生じ易くなる。 ゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液の塗工層は、実質的に水分を除去することなくハイドロゲルの状態で架橋させるため、該塗工層の厚みは、得られる架橋ゼラチンゲル層の厚みとほぼ一致する。 各塗工層の厚みは、ゼラチンまたはゼラチン誘導体の種類や固形分濃度にもよるが、均一な膜厚の形成が可能な領域としては、通常5〜2500μmが適当である。多層化操作のし易さや、電子線の照射による架橋性などの観点からは、各塗工層の厚みは、好ましくは10〜2000μm、より好ましくは30〜1500μm、特に好ましくは50〜1000μmである。 各塗工層の厚みは、多くの場合、70〜500μm程度とすることにより、多層化操作がし易く、しかも強度に優れた架橋ゼラチンゲル多層構造体が得られ易い。各塗工層の厚みは、電子線照射による架橋後にも実質的に保持されており、生成する各架橋ゼラチンゲル層の厚みと実質的に一致する。 各塗工層の厚みが薄すぎると、必要な厚みの架橋ゼラチンゲル多層構造体を得るのに手間が掛かりすぎる。各塗工層の厚みが厚すぎると、電子線の照射による均一な架橋が困難となったり、層間接着性が低下したり、加速電圧を過度に大きくする必要が生じたりする。 本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体の合計膜厚は、特に限定されず、製剤の剤形や投与方法などに応じて適宜設定することができる。本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体からなる製剤をインプラント(生体内への埋め込み)用として適用するには、取り扱い性や徐放期間などの観点から、架橋ゼラチンゲル多層構造体の合計厚みを、好ましくは300〜10000μm、より好ましくは500〜5000μm、特に好ましくは700〜2000μmとすることが望ましい。 架橋ゼラチンゲル多層構造体の合計厚みが薄すぎると、強度が不足して、生体内への埋め込み時の取り扱い性が悪くなり、また、必要な徐放期間を得ることが困難になる。架橋ゼラチンゲル多層構造体の合計厚みが厚すぎると、多層化に要する手間が掛かりすぎたり、照射エネルギーが増大したりするため、製造コストが高くなる。 架橋ゼラチンゲル多層構造体を構成する各架橋ゼラチンゲル層の層数は、該多層構造体の合計厚みと各架橋ゼラチンゲル層の厚みとによって任意に設定することができるが、少なくとも2層とすることが必要である。層構成を2層以上とすることにより、単層の架橋ゼラチンゲルに比べて、電子線の照射による架橋効率を高めたり、所望の厚みの多層構造体にしたり、生理活性因子の放出速度を制御したりすることができる。層数の上限は、通常100層程度であり、多くの場合50層または30層程度であるが、これらに限定されない。 電子線の照射には、汎用の電子線照射装置を用いることができる。架橋ゼラチンゲル層の製造には、電子線照射装置の特性による制約を受けることになる。例えば、加速電圧が200kVの電子線照射装置を用いて、ゼラチンまたはゼラチン誘導体の塗工層に電子線を照射したとき、表面の吸収線量を100%とすると、200μmの深部では、約45%まで相対線量が減衰する。加速電圧が800kVの電子線照射装置では、2500μm深部での相対線量が約28%まで減衰する。加速電圧と相対線量の減衰との関係は、比例関係ではない。深部での相対線量が減衰すると、そこでの電子線照射による架橋効果も低下する。均一な架橋を行うには、高い相対線量が得られるような加速電圧で照射するか、被照射物の厚みを調整することが望ましい。 各塗工層に対する電子線の照射線量は、5〜20000kGyの範囲から選択することが好ましい。電子線の照射線量の最適値は、加速電圧と被照射物の特性などに依存して大きく異なる。例えば、加速電圧200kVでは、照射線量10〜20000kGyで良好な架橋ゼラチンゲル層を形成することができる。加速電圧800kVでは、照射線量5〜5000kGyで良好な架橋ゼラチンゲル層を形成することができる。 照射線量は、架橋ゼラチンゲル層の架橋密度に関係する。照射線量が大きいほど、架橋密度が大きくなる。照射線量は、加速電圧や塗工層の厚みにもよるが、加速電圧が200〜800kVで、塗工層の厚みが70〜500μm程度である場合には、好ましくは15〜3000kGy、より好ましくは20〜2000kGyである。ただし、各塗工層の厚みが厚い場合には、加速電圧を上げたり、照射線量を増大させたりすることができる。ゼラチンの側鎖に電気的あるいは立体的障害を持つ官能基を付加したゼラチン誘導体では、架橋効率が劣るため、比較的大きな照射線量を選択することが好ましい。 電子線の照射は、オゾンの発生を避けたり、反応効率を上げたりするために、一般に、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行われている。本発明者らの研究の結果、ゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液の塗工層(ハイドロゲル)に電子線を照射するときの雰囲気は、不活性ガス雰囲気ではなく、酸素を含有する雰囲気であることが、層間接着性を高める上で重要であることが判明した。 酸素含有雰囲気中の酸素含有量は、通常1体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは5〜30体積%である。他の成分としては、窒素などの不活性ガスが挙げられる。多くの場合、酸素含有量が約21体積%の空気(大気)中で電子線照射を行うことにより、所期の目的を達成することができる。窒素ガスなどの不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いてもよい。 電子線照射を酸素含有雰囲気下で行うと、照射雰囲気中の酸素分子が塗工層の表面部分にあるゼラチンまたはゼラチン誘導体の分子に結合して表面エネルギーが増大し、これによって、得られた架橋ゼラチンゲル層の上に新たに設けられる架橋ゼラチンゲル層との界面での接着性が向上すると推定される。必要とする厚みに達するまで、下層の架橋ゼラチンゲル層の表面エネルギーを増大させた状態で、その上に新たな架橋ゼラチンゲル層を形成することにより、架橋ゼラチンゲル層の多層化を行う。 架橋ゼラチンゲル層の表面エネルギーを増大させるために、電子線の照射による架橋の後、架橋ゼラチンゲル層内部の架橋度を変化させないように、加速電圧を調整しながら追加の照射を行って、表面部位のみを処理することができる。すなわち、高い加速電圧で電子線の照射による架橋処理を行った後、それより低い加速電圧で追加の照射処理を行うことができる。例えば、架橋反応に200kV以上の加速電圧を用いた場合、表面処理には100kVの加速電圧にするなど、深部に電子流が到達しない条件で電子線照射を行ってもよい。すなわち、塗工層の深部にまで電子流が到達する加速電圧で電子線を照射して架橋ゼラチンゲル層を形成した後、該架橋ゼラチンゲル層の表面部位のみに電子流が到達する加速電圧で電子線を照射する工程を追加する。しかる後、該架橋ゼラチンゲル層の上に塗工層を形成する。 架橋ゼラチンゲル多層構造体を構成する各架橋ゼラチンゲル層は、架橋密度の異なる架橋ゼラチンゲルとすることができる。例えば、多層構造体の少なくとも一方の表面部は、分解性の速い層すなわち架橋密度の低い架橋ゼラチンゲル層の少なくとも1層により構成し、他の層(例えば、芯層)には、分解の遅い層すなわち架橋密度の高い架橋ゼラチンゲル層の少なくとも1層を設けることにより、架橋ゼラチンゲル多層構造体に担持させた生理活性因子の初期における高濃度の徐放と長期間にわたる安定的な徐放を両立することが可能となる。架橋密度は、直接測定することは困難であるが、照射線量によって評価することができる。照射線量が高くなるほど、架橋密度が大きくなる。 好ましい具体例として、両方の表面部に配置された少なくとも1層の架橋ゼラチンゲル層の電子線の照射線量の方が、芯部に配置された少なくとも1層の架橋ゼラチンゲル層の電子線の照射線量よりも相対的に少なくなるように、照射線量を調整する方法が挙げられる。 多層構造体の一方の最外層として、生分解性ポリマー層が配置されている場合には、該生分解性ポリマー層とは反対側の表面部に配置された少なくとも1層の架橋ゼラチンゲル層の電子線の照射線量の方が、他の部分に配置された少なくとも1層の架橋ゼラチンゲル層の電子線の照射線量よりも相対的に少なくなるように、照射線量を調整する方法もある。 本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体には、所望により、いずれか一方の最外層または中間層として、生分解性ポリマー層を配置することができる。例えば、鋳型内に予め生分解性ポリマーのフィルムまたはシートを載置しておき、その上に、順次架橋ゼラチンゲル層を形成すれば、一方の最外層に生分解性ポリマー層が配置された架橋ゼラチンゲル多層構造体を得ることができる。鋳型内に、生分解性ポリマーの溶液を流延して、生分解性ポリマー層を形成してもよい。 一方の最外層に生分解性ポリマー層が配置された架橋ゼラチンゲル多層構造体を担体として用いた製剤は、含浸させた生理活性因子を所望の方向にのみ徐放させることができる。また、このような層構成を有する製剤は、生理活性因子の徐放による組織再生修復や炎症部の治療治癒の機能と、生体組織間の癒着防止の機能とを持たせることができる。 中間層に生分解性ポリマー層を配置した架橋ゼラチンゲル多層構造体は、強度に優れるため、取り扱い性に優れている。そのため、該架橋ゼラチンゲル多層構造体を担体とする製剤は、生体内の可動部へ埋め込む際に、架橋ゼラチンゲル多層構造体の崩壊や層間剥離が抑制され、安定した生理活性因子の放出を維持することができる。 生分解性ポリマーから形成された繊維状の芯材に、架橋ゼラチンゲル層を順次被覆して形成した糸状形態の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、生理活性因子を含浸させれば、炎症治癒効果を持つ縫合糸として使用することができる。 生分解性ポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸(ポリラクチド)、ポリグリコール酸(ポリグリコリド)、ポリラクトン、これらのポリマーを構成する各モノマー同士の共重合体などの脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリラクトンとしては、ポリカプロラクトンが代表的なものである。 生分解性ポリマーは、生体に対する適合性を有しており、しかも生体内で分解・吸収されるため、架橋ゼラチンゲル多層構造体と複合化するのに適した材料である。生分解性ポリマー層と架橋ゼラチンゲル層との層間接着性を高めるために、生分解性ポリマー層にコロナ放電処理や電子線照射処理を行ってもよい。 生分解性ポリマー層の厚みは、通常5〜2500μm、好ましくは8〜2000μm、より好ましくは10〜1000μmであるが、これらの範囲に限定されない。生分解性ポリマー層の形状は、フィルム、シート、網状、粒子状、繊維状など任意である。 架橋ゼラチンゲル多層構造体の形状は、特に限定されず、例えば、円柱状、角柱状、シート状、ディスク状、球状、粒子状などの任意の形状とすることができる。生理活性因子を担持した架橋ゼラチンゲル多層構造体は、通常、手術により生体内に埋め込む方式で用いられるが、粒子状のものは、注射による投与も可能である。 架橋ゼラチンゲル多層構造体の具体的な製造例を説明する。先ず、ゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を、通常15〜50℃、好ましくは20〜45℃、より好ましくは25〜43℃の温度に調温する。該水溶液の温度が低すぎると、塗工(流延)が困難になり、高すぎると、水分の揮発が大きくなり、所望の濃度を維持することが困難になる。次に、ゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を、所定形状の鋳型内に、所望の厚みになる容量で流延する。 電子線の照射は、例えば、NHVコーポレーション製電子線照射装置「CURETRON EBC−200−20−15」を用いた加速電圧上限200kVでの照射や、NHVコーポレーション製電子線照射装置「EPS−800」を用いた加速電圧上限800kVでの照射を挙げることができるが、これらの装置や加速電圧に限定されない。 電子線の照射に際し、塗工層に、電子流(mA)と照射域の被照射体移動速度(m/min)から規定される所望の照射線量(kGy)を照射して、ゼラチンまたはゼラチン誘導体を架橋させる。このようにして作製した架橋ゼラチンゲル層の上に、上記同様にゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を流延し、次いで、電子線を照射して架橋させる。このような操作を繰り返し行うことにより、所望の層数と合計厚みを持つ架橋ゼラチンゲル多層構造体を得ることができる。 前述したとおり、各架橋ゼラチンゲル層の上に新たな塗工層を形成する前に、低加速電圧(例えば、100kV)で、下層となる架橋ゼラチンゲル層の表面近傍のみに、表面エネルギー増大のための電子線照射の工程を実施することが好ましい。電子線照射を、酸素を含む雰囲気下で行うことにより、隣接する各架橋ゼラチンゲル層の層間を強力に接着させることができ、その結果、架橋ゼラチンゲル多層構造体を薬液で膨潤させたときに、層間剥離が起きないようにすることができる。 架橋ゼラチンゲルに担待させる生理活性因子は、生体内へ埋設または投与して徐放する目的の範囲内で、自由に選択することができる。生理活性因子の代表例として、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor;bFGF)を挙げることができる。bFGFは、線維芽細胞ばかりでなく、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、角膜内皮細胞、骨芽細胞、軟骨細胞などの多種類の細胞に対する細胞増殖を刺激することが明らかとなっている物質である。 その他、生理活性因子として、例えば、トランスフォーミング増殖因子(TGF−β1)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF−BB)、角化細胞増殖因子(KGF)、骨形成因子(BMP−2)、血管内皮増殖因子(VEGF)、これらをコードするプラスミドDNAなどが含まれる。 生理活性因子として、抗癌剤(アドリアマイシン)、臓器保護や降圧用にアンジオテンシンII受容体拮抗剤〔テルミサルタン:ミカルディス(ベーリンガーインゲルハイム)、カンデサルタン(武田薬品工業)、バルサルタン(ノバルティスファーマ)〕やエリスロポエチン(タンパク製剤、造血ホルモン)等も挙げられる。 これらの生理活性因子は、必要に応じて、1種類または2種類以上を選択することができる。生理活性因子は、通常、架橋ゼラチンゲル多層構造体中に含浸させることにより、該架橋ゼラチンゲル多層構造体に担持させる。 上記のようにして得られた架橋ゼラチンゲル多層構造体は、減圧乾燥または凍結乾燥(フリーズドライ)することができる。架橋ゼラチンハイドロゲルの状態でも薬液(生理活性因子の溶液)を含浸させることが可能であるが、凍結乾燥体や乾燥体にすることにより、薬液を迅速に含浸させることが可能となる。 凍結乾燥の一例として、架橋ゼラチンゲル多層構造体を液体窒素中で30分以上または−90℃から−80℃の超低温フリーザ中で1時間以上保持する条件で凍結させた後、角型ドライチャンバー(東京理化器械製DRC−1000)中に−40℃で保存し、次いで、凍結乾燥機(東京理化器械製EDU−2100)で1Pa以下になるまで減圧し、−10℃で1〜3日間乾燥させ、取りだし時に結露しないように30℃に調温の工程を取って凍結乾燥体とする方法が挙げられる。本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、凍結乾燥体とすることにより、薬液の含浸性とともに保存安定性が向上する。 本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、酸素含有雰囲気下でゼラチンまたはゼラチン誘導体が電子線の照射により架橋された架橋ゼラチンゲル層の複数層が互いに隣接して配置された層構成を有している。ただし、少なくとも一方の最外層または中間層として、生分解性ポリマー層が配置されていてもよい。 本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、層間接着性に優れている。実施例で詳細に説明するように、本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、厚み方向の裁断面に各層の断面が露出するように縦5mm×横5mmの大きさに裁断した試料を25℃の生理食塩水に24時間浸漬した後、テストチューブミキサーを用いて2500rpmの回転数で10秒間振とう攪拌したとき、層間剥離が発生しない。 本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、製造時には、ハイドロゲル(架橋ハイドロゲル)として得られるが、凍結乾燥により凍結乾燥体とすることができる。凍結乾燥以外の乾燥方法により乾燥することもできる。 本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、電子線の照射線量が互いに異なる複数の架橋ゼラチンゲル層を含ませることができる。照射線量によって、架橋ゼラチンゲル層の架橋密度が変化する。その結果、該架橋ゼラチンゲル多層構造体に担持させた生理活性因子の徐放性に、時間による濃度勾配を付与することができる。 架橋ゼラチンゲル多層構造体は、生理活性因子用担体として好適である。本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体に生理活性因子を担持させると、生理活性因子放出用製剤を得ることができる。生理活性因子は、一般に、水溶液として、架橋ゼラチンゲル多層構造体に含浸させる。生理活性因子の含有量は、それぞれの種類や目的、所望の放出量や徐放期間等に応じて適宜設定することができる。 発明の効果 本発明によれば、生体に対する安全性に優れ、生理活性因子の担体として有用な架橋ゼラチンゲル多層構造体を提供することができる。 本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、電子線の照射による架橋法を採用し、かつ、多層化しているため、生体に対する安全性に優れる上、所望の厚みを持たせることができる。電子線の照射による架橋法を採用しているため、架橋ゼラチンゲル多層構造体は、透明性に優れている。 電子線の照射線量を変動させて各架橋ゼラチンゲル層の架橋密度を変えることにより、生体内での分解速度を任意に調整できる架橋ゼラチンゲル多層構造体を得ることができる。 このような架橋ゼラチンゲル多層構造体に生理活性因子を担持させれば、生理活性因子の放出に時間的な濃度変化をもたせることができる生理活性因子放出用製剤が得られる。 本発明の生理活性因子放出用製剤は、生体内への埋設後、生理活性因子の徐放期間を3日〜5週間程度とし、徐放量の増減を制御することも可能である。合計厚みや照射線量などを調整することにより、さらに長期間にわたって生理活性因子を徐放することができる製剤の作製も可能である。本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、生理活性因子水溶液の含浸時に層間剥離が起こり難いため、取り扱い性に優れている。 一方の最外層に生分解性ポリマー層を配置した架橋ゼラチンゲル多層構造体を担体として使用すると、例えば、生理活性因子の放出による生体内での炎症治癒と生体組織に対する癒着防止が同時に可能な製剤を得ることができる。架橋ゼラチンゲル多層構造体の中間層として生分解性ポリマー層を配置すれば、強度の高い架橋ゼラチンゲル多層構造体を得ることができる。 以下、実施例、比較例、及び試験例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。 実施例1 鋳型(ポリスチレン製容器;直径86mm×深さ12mm)内底面上に、牛骨由来I型コラーゲンのアルカリ処理ゼラチン(新田ゼラチン社製;等電点5.0)水溶液(濃度10重量%)を流延して、厚み100μmの均一な塗工層を形成した。次いで、該塗工層中の水分を実質的に乾燥させることなく、該塗工層の上から、電子線照射システム「キュアトロンEBC200−20−15」(NHVコーポレーション社製)を用いて、空気雰囲気下、電子線を加速電圧200kVで照射線量が60kGyとなるように照射した。このようにして第一架橋ゼラチンゲル層を形成した。 この第一架橋ゼラチンゲル層上に、前記アルカリ処理ゼラチン水溶液を流延して、厚み100μmの均一な塗工層を形成し、次いで、該塗工層に前記と同条件で電子線を照射した。このようにして、第一架橋ゼラチンゲル層の上に第二架橋ゼラチンゲル層を設けた。この操作を更に8回繰り返して(合計10回)、合計厚みが1000μmの架橋ゼラチンゲル多層構造体を作製した。この架橋ゼラチンゲル多層構造体を鋳型から取り出した。該架橋ゼラチンゲル多層構造体は、ハイドロゲルであった。操作条件と結果を表1に示す。 実施例2 実施例1で作製した架橋ゼラチンゲル多層構造体を−85℃の超低温フリーザ(三洋電機バイオメディカ社製「MDF−U481ATR」)で24時間凍結した後、角型ドライチャンバー(東京理化器械製DRC−1000)中に−40℃で保存した。次いで、凍結した架橋ゼラチンゲル多層構造体を凍結乾燥機(東京理化器械製EDU−2100)で1Pa以下になるまで減圧し、−10℃で3日間乾燥させ、取り出し時に結露しないように30℃に調温の工程を取って凍結乾燥体とした。操作条件と結果を表1に示す。 実施例3 鋳型内に、牛骨由来I型コラーゲンのアルカリ処理ゼラチン(新田ゼラチン社製、等電点5.0)水溶液(濃度10重量%)を流延して、厚み200μmの均一な塗工層を形成した。次いで、該塗工層の水分を実質的に乾燥させることなく、該塗工層の上から、電子線照射システム「キュアトロンEBC200−20−15」(NHVコーポレーション社製)を用いて、空気雰囲気下、電子線を加速電圧200kVの条件で60kGyとなるように照射した。このようにして、第一架橋ゼラチンゲル層を形成した。該第一ゼラチンゲル層の上に、前記アルカリ処理ゼラチン水溶液を流延して、厚み200μmの均一な塗工層を形成し、次いで、該塗工層に、前記と同じ条件で電子線を照射した。このようにして、第二架橋ゼラチンゲル層を形成した。この操作を更に3回繰り返して(合計5回)合計厚み1000μmの架橋ゼラチンゲル多層構造体を作製した。操作条件と結果を表1に示す。 実施例4 実施例1において、電子線の照射線量を60kGyから20kGyに変更したこと以外は、実施例1と同じ操作を行って、合計厚み1000μmの架橋ゼラチンゲル多層構造体を作製した。操作条件と結果を表1に示す。 実施例5 実施例1において、アルカリ処理ゼラチンに代えて、豚皮由来I型コラーゲンの酸処理ゼラチン(新田ゼラチン社製;等電点9.0)を用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を行って、合計厚み1000μmの架橋ゼラチンゲル多層構造体を作製した。操作条件と結果を表1に示す。 実施例6 鋳型内に、カチオン化ゼラチン誘導体(エチレンジアミンをカルボジイミドで等電点9.0の酸処理ゼラチンにグラフトした材料;ニチバン株式会社製)水溶液(濃度20重量%)を流延して、厚み100μmの均一な塗工層を形成した。該塗工層の水分を実質的に乾燥させることなく、該塗工層の上から、電子線照射システム「キュアトロンEBC200−20−15」(NHVコーポレーション社製)を用いて、空気雰囲気下、電子線を加速電圧200kVの条件で300kGyとなるように照射した。このようにして、第一架橋ゼラチンゲル層を形成した。この第一架橋ゼラチンゲル層の上に、前記と同じ水溶液を流延して、厚み100μmの均一な塗工層を形成し、次いで、前記と同じ条件で電子線を照射した。このようにして、第二架橋ゼラチンゲル層を形成した。この操作を更に8回繰り返して(合計10回)、合計厚み1000μmの架橋ゼラチンゲル多層構造体を作製した。操作条件と結果を表1に示す。 実施例7 実施例1においては、全10層の架橋ゼラチンゲル層を形成する際の電子線の照射線量を60kGyとしたが、これを以下の照射線量に変更した。実施例1において、第一から第三架橋ゼラチンゲル層の照射線量を20kGyとし、第四から第七架橋ゼラチンゲル層の照射線量を60kGyとし、第八〜第十架橋ゼラチンゲル層の照射線量を20kGyとしたこと以外は、実施例1と同じ操作により合計厚み1000μmの架橋ゼラチンゲル多層構造体を作製した。操作条件と結果を表1に示す。 比較例1 鋳型内に、牛骨由来I型コラーゲンのアルカリ処理ゼラチン(新田ゼラチン社製;等電点5.0)水溶液(濃度10重量%)を流延して、厚み1000μmの均一な塗工層を形成した。次いで、該塗工層の水分を実質的に乾燥させることなく、該塗工層の上から、電子線照射システム「キュアトロンEBC200−20−15」(NHVコーポレーション社製)を用いて、空気雰囲気下、電子線を加速電圧800kVで照射線量が20kGyとなるように照射した。このようにして、単層の架橋ゼラチンゲルを形成した。操作条件と結果を表1に示す。 比較例2 鋳型内に、牛骨由来I型コラーゲンのアルカリ処理ゼラチン(新田ゼラチン社製、等電点5.0)水溶液(濃度5重量%)を流延して、厚み200μmの均一な塗工層を形成した。次いで、該塗工層の水分を実質的に乾燥させることなく、該塗工層の上から、電子線照射システム「キュアトロンEBC200−20−15」(NHVコーポレーション社製)を用いて、窒素ガス雰囲気下、電子線を加速電圧200kVの条件で20kGyとなるように照射した。このようにして、第一架橋ゼラチンゲル層を形成した。 該第一ゼラチンゲル層の上に、前記アルカリ処理ゼラチン水溶液を流延して、厚み200μmの均一な塗工層を形成し、次いで、該塗工層に、前記と同じ条件で電子線を照射した。このようにして、第二架橋ゼラチンゲル層を形成した。この操作を更に3回繰り返して(合計5回)合計厚み1000μmの架橋ゼラチンゲル多層構造体を作製した。操作条件と結果を表1に示す。 試験例1層間接着性試験: 実施例1〜7及び比較例2で作製した各架橋ゼラチンゲル多層構造体を、厚み方向の裁断面に各層の断面が露出するように縦5mm×横5mmの大きさに裁断して試料を作製した。この試料を、容積15mlの円筒状容器内で、3mlの生理食塩水中に25℃で24時間浸漬して、生理食塩水を吸収させた。その後、テストチューブミキサー(SIBATA社製「TTM−1」)を用いて、2500rpmの回転数で10秒間振とう攪拌した。 窒素ガス雰囲気下で電子線照射を行って作製した比較例2の試料は、層間剥離して数枚の小片になった。これに対して、空気雰囲気下で電子線照射を行って作製した実施例1〜7の各試料は、すべて層間剥離することなく、多層構造体としての一体化構造を保持していた。結果を表1に示す。 試験例2動物実験−生体内分解性の確認試験: 実施例7で調製した架橋ゼラチンゲル多層構造体から裁断した試料(縦5mm×横5mm×厚み1000μm)をマウス皮下(背中の皮下)に埋め込んだ。同様に、比較例1で調製した単層の架橋ゼラチンゲルを裁断した試料(5mm×5mm×1000μm)をマウス皮下に埋め込んだ。これらの試料について、生体内での分解性プロファイルを確認した。すなわち、埋設から1日後、3日後、7日後、10日後、及び14日後に埋設した試料を摘出し、その重量を埋設前の試料の重量と比較して残存率を算出した。結果を図1に示す。 分解性プロファイルにおいて、単層の架橋ゼラチンゲルの場合には、一次曲線的な分解性を示したのに対して、架橋ゼラチンゲル多層構造体の場合には、埋設直後に多く分解した。分解速度は、担持している生理活性物質の放出量とパラレルであると推測される。実施例7で作製した架橋ゼラチンゲル多層構造体は、電子線の照射線量が互いに異なる複数の架橋ゼラチンゲル層を含むものであり、埋設の初期には、照射線量が少なく(架橋密度が小さく)分解速度の高い架橋ゼラチンゲル層から高濃度の生理活性因子が放出される。該架橋ゼラチンゲル多層構図体は、単層の架橋ゼラチンゲルと同期間の日数で、生理活性因子の徐放が可能であることを確認した。 試験例3動物実験−薬理効果の確認試験: 実施例7で調製した架橋ゼラチンゲル多層構造体から裁断した試料(縦5mm×横5mm×厚み1000μm)に、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)100μgを含有する水溶液を含浸させた。このようにして得られた製剤をマウス皮下に埋め込んだ。同様に、比較例1で調製した単層の架橋ゼラチンゲルを裁断した試料(5mm×5mm×1000μm)にbFGF含有水溶液を含浸させて製剤を作製し、次いで、該製剤をマウス皮下に埋め込んだ。対照のために、bFGF水溶液を含浸しなかった架橋ゼラチンゲル多層構造体試料(実施例7)をマウス皮下に埋め込んだ。同様に対照のため、bFGF水溶液(bFGF=100μg)をマウスの皮下に注射器で投与した。 埋設から7日後の血管新生量を、単位組織当りのヘモグロビン量として測定した。結果を図2に示す。実施例7で作製した架橋ゼラチンゲル多層構造体は、電子線の照射線量が互いに異なる複数の架橋ゼラチンゲル層を含むものであり、埋設の初期には、照射線量が少なく(架橋密度が小さく)分解速度の高い架橋ゼラチンゲル層から高濃度の生理活性因子が放出されるが、長期にわたる徐放性にも優れている。図2に示す結果から、該架橋ゼラチンゲル多層構造体を担体として用いたbFGF放出用製剤は、血管新生に優れた効果を示すことが分かる。 試験例4生理活性物質の徐放可能期間の確認試験:(1)実施例3において、電子線の照射線量を60kGyから20kGyに変えたこと以外は、実施例3と同様にして、各架橋ゼラチンゲル層の厚みが200μmで、5層からなる合計厚み1000μmの架橋ゼラチンゲル多層構造体を作製した。ゼラチン水溶液としては、実施例3と同じく、牛骨由来I型コラーゲンのアルカリ処理ゼラチン(新田ゼラチン社製、等電点5.0)水溶液(濃度10重量%)を用いた。この架橋ゼラチンゲル多層構造体から裁断した試料(縦5mm×横5mm×厚み1000μm)は、マウス皮下に埋設後、3日間で消失した。したがって、この架橋ゼラチンゲル多層構造体は、3日間の生理活性因子の徐放が可能である。(2)鋳型内に、牛骨由来I型コラーゲンのアルカリ処理ゼラチン(新田ゼラチン社製、等電点5.0)水溶液(濃度10重量%)を流延して、厚み500μmの均一な塗工層を形成した。次いで、該塗工層の水分を実質的に乾燥させることなく、該塗工層の上から、電子線照射システム「キュアトロンEBC200−20−15」(NHVコーポレーション社製)を用いて、空気雰囲気下、電子線を加速電圧800kVで照射線量が50kGyとなるように照射した。このようにして、第一架橋ゼラチンゲル層を形成した。 この第一架橋ゼラチンゲル層上に、前記アルカリ処理ゼラチン水溶液を流延して、厚み500μmの均一な塗工層を形成し、次いで、該塗工層に前記と同条件で電子線を照射した。このようにして、第一架橋ゼラチンゲル層の上に第二架橋ゼラチンゲル層を設けた合計厚みが1000μmの2層構成の架橋ゼラチンゲル多層構造体を作製した。 この架橋ゼラチンゲル多層構造体から裁断した試料(縦5mm×横5mm×厚み1000μm)は、マウス皮下に埋設後、21日目で46.9%が残存していることが確認された。したがって、該架橋ゼラチンゲル多層構造体は、生体内で完全に分解されるのは約44日間であると推定され、5週間(35日間)の分解性を有する架橋ゼラチンゲル多層構造体の調製が可能であることを確認した。(3)以上の実験結果から、本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、3日から5週間までの期間内で、生理活性因子の徐放期間を調整することが可能であることが分かった。 本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体は、生体に対する安全性に優れており、生理活性因子の担体として利用することができる。 本発明の架橋ゼラチンゲル多層構造体に生理活性因子を担持させれば、生理活性因子の放出に時間的な濃度変化をもたせることができる生理活性因子放出用製剤として利用することができる。 本発明の生理活性因子放出用製剤は、生体内への埋め込みや注射器を用いた注入などによる投与により、生理活性因子を徐放させることができる。 酸素含有雰囲気下でゼラチンまたはゼラチン誘導体が電子線の照射により架橋された架橋ゼラチンゲル層の複数層が互いに隣接して配置された層構成を有する架橋ゼラチンゲル多層構造体。 厚み方向の裁断面に各層の断面が露出するように縦5mm×横5mmの大きさに裁断した試料を25℃の生理食塩水に24時間浸漬した後、テストチューブミキサーを用いて2500rpmの回転数で10秒間振とう攪拌したとき、層間剥離が発生しない請求項1記載の架橋ゼラチンゲル多層構造体。 ハイドロゲルまたは凍結乾燥体である請求項1記載の架橋ゼラチンゲル多層構造体。 電子線の照射線量が相対的に異なる複数の架橋ゼラチンゲル層を含む請求項1記載の架橋ゼラチンゲル多層構造体。 一方または両方の表面部に配置された少なくとも1層の架橋ゼラチンゲル層の電子線の照射線量の方が、それ以外の他の部分に配置された少なくとも1層の架橋ゼラチンゲル層の電子線の照射線量よりも相対的に少ない請求項4記載の架橋ゼラチンゲル多層構造体。 各架橋ゼラチンゲル層の厚みが5〜2500μmであり、かつ、合計厚みが300〜10000μmである請求項1記載の架橋ゼラチンゲル多層構造体。 いずれか一方の最外層または中間層として、生分解性ポリマー層が付加的に配置されている請求項1記載の架橋ゼラチンゲル多層構造体。 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の架橋ゼラチンゲル多層構造体からなる生理活性因子用担体。 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の架橋ゼラチンゲル多層構造体により、生理活性因子を担持させてなる生理活性因子放出用製剤。 該生理活性因子が、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF−β1)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF−BB)、角化細胞増殖因子(KGF)、骨形成因子(BMP−2)、血管内皮増殖因子(VEGF)、これらの増殖因子をコードするプラスミドDNA、抗癌剤、アンジオテンシンII受容体拮抗剤、及びタンパク製剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の生理活性因子である請求項9記載の生理活性因子放出用製剤。 少なくとも下記工程1及び2: 支持体上にゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を塗工して塗工層を形成し、次いで、酸素含有雰囲気下で該塗工層に電子線を照射して第一架橋ゼラチンゲル層を形成する工程1;及び 該第一架橋ゼラチンゲル層の上にゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液を塗工して塗工層を形成し、次いで、酸素含有雰囲気下で該塗工層に電子線を照射して第二架橋ゼラチンゲル層を形成する工程2;を含む架橋ゼラチンゲル多層構造体の製造方法。 前記工程2の後、該工程2と同様の工程を所望の回数で繰り返して、第二架橋ゼラチンゲル層の上に所望の層数の架橋ゼラチンゲル層を順次形成する工程を更に含む請求項11記載の製造方法。 該支持体が鋳型であり、かつ、前記各工程でのゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液の塗工による塗工層の形成が、該鋳型内での該水溶液の流延によるものである請求項11記載の製造方法。 前記ゼラチンまたはゼラチン誘導体水溶液の固形分濃度が1〜90重量%である請求項11記載の製造方法。 各架橋ゼラチンゲル層の厚みが5〜2500μmであり、かつ、合計厚みが300〜10000μmである請求項11記載の製造方法。 各塗工層に対する電子線の照射線量が5〜20000kGyである請求項11記載の製造方法。 各塗工層に対する電子線の照射線量を変動させて、電子線の照射線量が相対的に異なる複数の架橋ゼラチンゲル層を形成する請求項11記載の製造方法。 いずれか一方の最外層または中間層として、生分解性ポリマー層を配置する付加的な工程を含む請求項11記載の製造方法。 該架橋ゼラチンゲル多層構造体を凍結乾燥させる工程を更に配置する請求項11記載の製造方法。 請求項11乃至19のいずれか1項に記載の製造方法により得られた架橋ゼラチンゲル多層構造体に、生理活性因子を担持させる生理活性因子放出用製剤の製造方法。 酸素含有雰囲気下でゼラチンまたはゼラチン誘導体が電子線の照射により架橋された架橋ゼラチンゲル層の複数層が互いに隣接して配置された層構成を有する架橋ゼラチンゲル多層構造体、該架橋ゼラチンゲル多層構造体に生理活性因子を含有させてなる生理活性因子放出用製剤、及びこれらの製造方法。