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タイトル:再公表特許(A1)_アントラキノン誘導体を有効成分として含有する抗精神病薬、認知異常の治療薬
出願番号:2007059768
年次:2009
IPC分類:A61K 31/122,A61P 25/18


特許情報キャッシュ

那波 宏之 水野 誠 JP WO2007132784 20071122 JP2007059768 20070511 アントラキノン誘導体を有効成分として含有する抗精神病薬、認知異常の治療薬 国立大学法人 新潟大学 304027279 杉村 憲司 100147485 冨田 和幸 100119530 野田 裕子 100135172 那波 宏之 水野 誠 JP 2006135614 20060515 A61K 31/122 20060101AFI20090828BHJP A61P 25/18 20060101ALI20090828BHJP JPA61K31/122A61P25/18 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MT,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20090924 2008515537 33 4C206 4C206AA01 4C206AA02 4C206CB29 4C206MA01 4C206MA04 4C206NA14 4C206ZA18 本発明は、アントラキノン誘導体を有効成分とする抗精神病薬、及び統合失調症を代表とする脳機能疾患の認知異常の治療薬に関する。 統合失調症は、かつて精神分裂病とよばれ、人口の0.7-1.0%の人に発症し、日本でも数十万人に及ぶ長期入院患者を生み出している極めて重大な慢性疾患である。本疾患の主な症状は、妄想、幻覚、幻聴といった陽性症状に加えて、知覚異常といった認知障害や、引きこもりや鬱症状といった陰性症状に至るまで、多用な精神的異常を伴うものである。現在のところ、その発症原因の解明はおろか、生物学的な病態の理解さえはっきりしていない。 統合失調症は青年期から壮年期にかけて知覚・思考・感情・行動面に特徴的な症状で発病し、多くは慢性に経過し、社会適応にさまざまな困難を生じる精神障害である。その精神症状については、陽性症状(幻覚、妄想、減弱思考、緊張症状、奇異な行動など)、陰性症状(感情の平板化、意欲低下、社会的引きこもりなど)、認知機能障害(作業記憶障害、言語障害、注意欠陥)などに分類され、各患者において多様な形態をとる。社会的には、本疾患の病態の特殊性から早期発見、治療、社会復帰活動、再発予防といった一貫した包括的治療体系の確立が望まれているが、多くの場合、根治治療はなかなか難しいのが現状とされている。現在では、統合失調症は精神病理学的に細分化されていて、統合失調症に類似した精神機能障害を示す精神病として、短期精神病性障害、統合失調症様障害、統合失調感情障害、共有精神病性障害、妄想性障害、統合失調型人格障害が含まれる。 これまでは、統合失調症の陽性症状を改善する治療薬として、神経伝達物質ドパミンと拮抗する薬物が有用だとされており、種々の治療薬が開発されてきている。古くより第一選択薬として用いられてきたハロペリドールやクロロプロマジンなどの定型抗精神病薬は、強力なドパミンD2受容体遮断作用により、統合失調症の陽性症状の改善効果をみる。しかし、これらの薬物は陰性症状や認知障害に対してはごく限られた効果しか発揮できない。更に多くの場合には年余にわたるこれらの薬物の長期投与が不可欠であり、パーキンソン症状、アカシジア、ジスキネジア等に代表される錐体外路症状とよばれる副作用が問題視されていた。 近年では、ドパミンとセロトニンの両者に拮抗して比較的上記錐体外路症状を起こしにくい統合失調症治療薬が開発され、非定型抗精神病薬と呼ばれるそれら一群の治療薬としてクロザピンやリスペリドンなどが挙げられる。非定型抗精神病薬は陰性症状の改善にも有効とされるが、クロザピンでは無顆粒球症などの重大な副作用の危険性も秘めていた。また、リスペリドンも高用量では定型抗精神病薬と同様の錐体外路症状などの副作用をきたしうる。 統合失調症の多様な病態改善を目指し、これらを含め、現在、フェノチアジン系化合物、チオキサンチン系化合物、ブチロフェノン系化合物、ベンザアミド系化合物が複数開発され、患者に適用されている。これらの多くの抗精神病薬も、根治治療に結びつく症例は限られていた。その意味でも、神経伝達物質であるドパミンやセロトニンとの拮抗を標的としない新規な統合失調症治療薬の開発が待ち望まれていた。 先行する研究によると統合失調症を含む精神病には上皮成長因子の受容体(ErbB1)の機能異常がなんだかの形で関連していることが示唆されている。その結果、上皮成長因子の受容体結合阻害剤、上皮成長因子の受容体のリン酸化酵素活性阻害剤、上皮成長因子の中和剤が抗精神病薬として有効であるとしてそれら物質の特許化が図られている。しかし、これらの阻害剤の多くは、抗癌治療の適用例における副作用報告からも指摘されるように、肺繊維症などの深刻な副作用問題を抱える場合がある。それゆえ、これらの上皮成長因子の作用阻害剤を精神疾患の治療へ実際に応用した例も見当たらない。なお本願明細書の最後に添付した文献リストの文献1から文献10を、従来技術の参考とされたい。発明の概要 そこで統合失調症の患者、若しくは認知障害を有する精神病及び類似の脳機能疾患の患者の社会復帰やQOLの向上を促すために、ドパミンやセロトニンなどの神経伝達物質と拮抗しない機構を介して作用し、且つ統合失調症や類似の精神疾患における認知機能を回復させるのに有効な新規な薬物の開発が望まれてきた。 従来より免疫系サイトカインなどの免疫系異常が統合失調症の発症やその他の認知障害の病態に関与するという着想はあり、脳内炎症を抑えるプロスタグランジン合成阻害剤を治療薬に用いるという試みは存在する(文献12)。しかし、脳内のサイトカインや栄養因子などの正常の脳発達をつかさどる因子の過剰作用が、統合失調症の患者病態や類する認知障害に直接関わるという知見は本発明者らが独自に得たものであり(文献13)、その知見を統合失調症の診断やモデル動物の作製に利用してきた(文献11,14,15)。 実際に本発明者らの先行研究では、統合失調症患者の脳内では上皮成長因子の受容体(ErbB1)が上昇していることが判明している(文献16)。なかでも上皮成長因子の受容体がヒトでの認知機能で重要な機能をするといわれる脳部位、前頭前野や線条体での上昇が特に顕著である。これらの事実は、統合失調症患者の脳内では、上皮成長因子受容体の活性が亢進している可能性と共に、当該統合失調症の動物モデルにおいて、上皮成長因子受容体の直接的阻害剤はその認知異常を改善する能力があることを示唆している。今回本発明者らは、上皮成長因子受容体の下流シグナル阻害剤も、統合失調症に対する若しくは類似の認知異常等の脳機能障害を改善するであろうという独自の着想に至り、本発明を完成した。 上皮成長因子受容体であるErbB1遺伝子産物(別名;HER1もしくはEGFR)は、ErbB2(別名;HER2もしくはNEU)と呼ばれる非受容体型チロシンキナーゼ分子と会合し、それらのシグナルを多くの分子経路を用いて細胞内に伝達する。このErbB2はプロトオンコジーンであり、乳癌や肺癌における癌化の重要な分子であると位置づけられている。エモジン(emodin: 1,8-Dihydorxy-6-methylanthraquinone)、アロエエモジン(aloe-emodin: 1,8-Dihydorxy-3-methoxy-6-methylanthraquinone)、フィシオン(physcion:1,8-Dihydorxy-3-(hydroxymethyl)anthraquinone)、レイン (rhein:4,5-dihydroxy-9,10-dioxo-9,10-dihydroanthracene-2-carboxylic acid) 、クリソファノール(chrysophanol)、センノシドA(sennoside A; C42H38O20)、センノシドB(sennoside B; C42H38O20)などを代表とするアントラセン誘導体は、このErbB2の活性化(チロシンキナーゼ活性)を阻害するために、これらは腫瘍の成長や浸潤を防止する抗癌剤となる可能性があるとして注目されている(文献17、文献18)。 また神経系で上皮成長因子受容体の活性化とそれに引き続く細胞内シグナル伝達は、ドパミン神経の生存維持やドパミン合成の上昇をもたらす(文献19)。その意味において、本発明で提唱する「ErbB2の阻害活性を有するエモジン等のアントラキノン誘導体」は間接的に上皮成長因子受容体のシグナル伝達経路を遮断することでドパミン合成低下やその神経機能抑制をもたらしている可能性があり、従来からの定型抗精神病の薬理学概念に対しても矛盾しない。 上皮成長因子は、ErbB1遺伝子産物たる上皮成長因子受容体に結合する。おなじ上皮成長因子受容体に結合する内因性タンパク因子として、腫瘍成長因子(TGFアルファ)やヘパリン結合性上皮成長因子(HB-EGF)、アンフィレグィン(Amphiregulin)、ベタセルリン(Betacellurin)、エピレグリン(Epiregulin)の存在が証明されていて、本発明の「アントラキノン誘導体を有効成分として含有する抗精神病薬又は統合失調症様の認知異常の治療薬」の適用において、これら上皮成長因子に類似の内因性タンパク因子の作用も同時に1部、若しくは全部阻害されると推察される。 すなわち、本発明は、以下の特徴をもって統合失調症を代表とする認知機能障害の治療剤を提供するものである。(1)アントラキノン誘導体を有効成分として含有する抗精神病薬。(2)前記アントラキノン誘導体が、エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体である上記(1)記載の抗精神病薬。(3)前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体である上記(1)又は(2)記載の抗精神病薬。(4)下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を有効成分として含有する上記(1)記載の抗精神病薬。(5)下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を有効成分として含有する上記(1)記載の抗精神病薬。(6)アントラキノン誘導体を有効成分として含有する認知異常の治療薬。(7)前記アントラキノン誘導体が、エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体である上記(6)記載の認知異常の治療薬。(8)前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体である上記(6)又は(7)記載の認知異常の治療薬。(9)下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を有効成分として含有する上記(6)記載の認知異常の治療薬。(10)下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を有効成分として含有する上記(6)記載の認知異常の治療薬。(11)アントラキノン誘導体を含有する薬剤を用いて精神病を治療する方法。(12)前記アントラキノン誘導体が、エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体である上記(11)記載の方法。(13)前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体である上記(11)又は上記(12)記載の方法。(14)下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を含有する医薬を用いる上記(11)記載の方法。(15)下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を含有する医薬を用いる上記(11)記載の方法。(16)アントラキノン誘導体を含有する薬剤を用いて認知行動異常を治療する方法。(17)前記アントラキノン誘導体が、エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体である上記(16)記載の方法。(18)前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体である上記(16)又は上記(17)記載の方法。(19)下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を含有する医薬を用いる上記(16)記載の方法。(20)下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を含有する医薬を用いる上記(16)記載の方法。 本発明により、抗精神病薬又は脳機能障害における認知異常の治療薬として、エモジン等のアントラキノン誘導体が提供された。本発明の治療薬により、統合失調症等の精神病患者における精神機能障害や認知機能障害を改善することができる。図1は、正常動物又はEGFを投与した統合失調症モデルラットに、レシチン又はレシチンで乳化されたエモジンを慢性投与した後のプレパルスインヒビションのテスト結果(%)を表したグラフである。図2は、正常動物又はEGFを投与した統合失調症モデルラットに、レシチン又はレシチンで乳化されたエモジンを慢性投与した後の120dBの爆音に対する驚愕反応強度を表したグラフである。図3は、MK-801を経口投与した統合失調症モデルラットにおいて、MK-801を単独で投与した場と、MK-801とエモジンを同時に投与した場合のプレパルスインヒビションの結果を表したグラフである。図4は、メタアンフェタミンを皮下投与した統合失調症モデルラットにおいて、エモジンを前投与した場合と、エモジンを前投与せずにメタアンフェタミンを皮下投与した場合の、運動量の合計(DIST;上パネル)と常道行動量(STER;下パネル)を表したグラフである。図5は、海馬障害統合失調症モデルラットに、エモジンを慢性投与した後のプレパルスインヒビションのテスト結果(%)を表したグラフである。 以下、本発明についてより詳細に説明する。(言葉の定義)本願明細書において、「アントラキノン誘導体を有効成分として含有する抗精神病薬又は統合失調症様の認知異常の治療薬」とは、生理条件下でヒトや動物の認知障害、脳機能異常、精神障害を治療しうる薬剤を総称することを意図するものである。また本願明細書において「抗精神病薬」とは統合失調症またはそれと類似した精神機能障害を治療するのに有効な薬剤を意味する。更に本願明細書において「認知異常」とは、注意力の障害や欠如やそれに派生する言語や会話における錯乱や理解障害、及び物事の認識や判断において特徴的な偏り、固執性等を示すことを意味する。この様な認知異常は統合失調症を始め、強迫神経症、自閉症、注意欠陥多動性障害、感情障害を含む脳機能疾患において一般的に見られる認知異常を意味する。 通常、エモジン(emodin)、アロエエモジン(aloe-emodin)、フィスシオン(physcion)、レイン (rhein)、クリソファノール(chrysophanol)、センノシド(sennoside)などの天然物アントラキノン、もしくはその誘導体に属するもの、若しくはそれらの類縁化合物のErbB2のチロシンキナーゼ酵素阻害剤などがそのような薬剤として使用できる。なお本発明で用いられるアントラキノン類は、前記の化学式1乃至化学式4で表されるものである。 なお化学式1及び化学式3において、式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す。ここで短鎖とは、炭素数1から6、好ましくは炭素数1から3を表す。更に該アルキロキシ基は好ましくはメトキシ基であり、該短鎖アルキル基は好ましくはメチル基であり、該短鎖ヒドロキシアルキル基は好ましくはヒドロキシメチル基である。なお本発明において好ましいアントラキノン誘導体として、クリソファノール(R1が水素原子、R2がメチル基)、エモジン(R1がヒドロキシル基、R2がメチル基)、フィスシオン(R1がメトキシ基、R2がメチル基)、アロエエモジン(R1が水素原子、R2がヒドロキシメチル基)、シトレオロセイン(R1がヒドロキシル基、R2がヒドロキシメチル基)、レイン(R1が水素原子、R2がカルボキシル基)等を例示することができる。 エモジンやフィスシオンなどの天然物アントラセン類誘導体には、様々な生理活性が提唱されている。例えば抗炎症作用、便秘改善作用、利尿作用、血圧降下作用、抗癌作用など実に多くの効能が提唱されている。必ずしも医学的には証明されていないが、抗酸化作用とともに炎症メデイエーターNfκBの阻害、各種チロシンキナーゼ、オンコジーン産物(ras, yes, src, fps, fes, abl, ros, fgr, neu, fms, mos, raf)の活性阻害についても提唱されている(文献20)。 このようなエモジン様のErbB2に対するチロシンキナーゼインヒビターの代表例は、文献21の表1に記載された化学構造を有するアントラキノンであり、それらの化合物を文献21(国際公開WO1997/27848)の表1を参照して下記の表1に示す。もちろん、本発明はこれらのインヒビターの使用に限定されるものではなく、エモジンと同様の構造的及び/又は機能的特性を有する他の化合物も使用され得る。いくつかの好ましい実施態様において、エモジン類の抗精神病薬は、アントラキノンの誘導体、あるいは類縁体である。これに該当する抗精神病薬は、例えば、エモジン、エモジン8-0-D-グルコシド、クリソファン酸(chrysophanic acid)、グルコクリソファン酸(gluco-chrysophanic acid)、フィスシオン(physcion)、またはフィスシオン(physcion)-8-0-D-グルコシドであり得るし、または文献21の中の他の構造のいずれか(例えば、DK-III-8; DK-III-19; DK-III-47; DK-III-48; DK-III-13; DK-III-11; DK-II-1; DK-II-2; DK-IV-1; DK-V-47; DK-V-48; DK-III-52)でもあり得る。1つの好ましい実施態様において、代表的なアントラセン誘導体のErbB2チロシンキナーゼインヒビターは、エモジンである。 加えて同様に化学式2と化学式4で記載されるアロエエモジンとその誘導体についても同様の活性を示すことから、抗癌剤としての有効性が報告されている(文献18)。文献18によると化学式2及び化学式4で代表されるアントラキノン類は、その母核の3’位において正電荷、若しくは負電荷をカルボキシル基、アミノ基、アミノ糖のアセタール、若しくは無機酸に置換されたアロエエモジン誘導体であって、それらは優れた溶解性と抗腫瘍活性を示すとされる。従って本発明においても、より好ましい実施態様を与える物質として化学式2及び化学式4で示されるアロエエモジンとその誘導体を挙げることができる。 エモジン等のアントラキノン類は、ダイオウやアロエを代表とする多くの植物抽出物に含有されるので、上記の有効成分を含有する祖抽出物を、純粋なアントラキノン類化合物の代わりに抗精神病薬として、投与することができる。天然物に含まれるアントラキノン類は、アロインのように1位、もしくは8位がO-グリコシド結合で糖修飾されて植物に存在することも多く、この場合ヒト体内で代謝され、有効成分が体内で産生することがある。 本発明において、有効成分たるアントラキノン類を含有する植物自体、もしくはその溶媒抽出物の形態で用いることもできる。溶媒抽出物は抽出する際に一般的に用いられる抽出方法により得ることができる。抽出溶媒としては、植物からその成分を抽出する際に一般的に用いられているものであれば特に制限はなく、例えば、熱水又は水;エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等の低級アルコール;プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール;これらのアルコール類の含水物;n-ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒等を挙げることができる。特に、水、エタノール又は含水エタノールを用いれば、そのまま、製剤に使用することができるので好ましい。抽出方法は、例えば水の場合、植物全体又は根茎を粉砕し、これに10質量倍の水を加え、95℃で15〜30分間抽出し、静置することにより抽出する。その後、必要に応じて、溶媒抽出物を適宜濃縮、乾燥して用いてもよい。 本発明において、アントラキノン類は、通常、遊離体で用いられるが、特に遊離体である必要はなく、誘導体、すなわち、薬理学的に許容される塩、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミンやトリエタノールアミン等の有機アミン塩、リジンやアルギニン等の塩基性アミノ酸塩等の形態や、生体内で加水分解されて遊離体に変換される形態、例えばモノメチルエモジン等のエステルの形態、1-グルコシドや8-グルコシド等の配糖体の形態で用いることもできる。このように糖修飾されているアントラキノン類も、抗精神病薬としての機能を発揮しうる。 本発明の認知機能障害の治療薬若しくは抗精神病治療薬は、エモジン等のアントラキノン類をその有効成分として含有する。その作用部位は脳内であると考えられるため、脳血液関門を通過できる薬物については、本発明の治療薬を経口的に投与できる。経口的な投与が不可能な場合については、注射剤や座薬などの形態で投与することもできる。実際には、抗癌剤として動物実験や前臨床試験が実施されつつあるエモジンについては、0.1mg/kg体重から1000mg/kg体重、好ましくは1mg/kg体重から100mg/kg体重程度で経口投与されるが、その範囲に限定されるものではない。なお副作用によっては投与量を低減させる必要がる。なお投与量については、投与を受ける患者の年齢、体重、病状の重篤度、併発している疾患の有無などを考慮して決定されるが、かかる決定は治療者が通常行なうことができる技術の範囲内である。 この場合、通常用いられる投与形態、たとえば、錠剤、カプセル剤、舌下錠、シロップ剤、懸濁液等の剤形で経口的に投与できるが、それらに限定されるものではない。製剤担体としては、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、被覆剤、溶解補助剤、乳化剤、懸濁化剤、安定化剤、溶剤等を添加することができるが、それらに限定されるものではない。適切な担体を利用することにより、有効成分の脳内移行を高め薬効を上昇させることが期待できる。 本発明の治療薬を経口的に投与する代わりに、脳内に直接投与する事も可能である。脳内への直接投与では、その作用が脳内に限局されるため、これまでの抗癌治療でみられたような全身性の副作用は回避できるとともに、脳血液関門の通過能を考慮せずに投薬、治療が実施できる。脳内への直接投与には、ミニポンプを用いた脳室内投与や脳脊髄液中への注射等が用いられる。たとえば、人の脳重を換算しての場合には、1日あたり1mg以上の投与が望ましい。 以下、本発明の有用性を説明するために、実施例を示す。本発明の範囲は下記の実施例により限定されるものではない。 認知異常を評価する方法として、驚愕反応におけるプレパルスインヒビション、ラテントインヒビション、ソウシャルインタラクション、探索運動量などの行動学的測定が知られている。驚愕反応におけるプレパルスインヒビションとは、ヒトと動物で共通に評価が可能な驚愕反応を指標とする知覚−運動反応能力のテストである。このテストでは、統合失調症の病態の中心を成すと考えられている注意力と脳内情報処理力の異常性が、科学的に、客観的に評価できる特徴を有する。 プレパルスインヒビションのテスト自身は、120デシベル程度の大きな音でびっくり驚愕反応をおこす前、30−150ミリ秒に、それ自身はびっくり驚愕反応を起こし得ない弱い音刺激(プレバルス)をあらかじめ聴かせておくと、本来の大きな音で誘発されるびっくり驚愕反応が減少する量を測定する。このプレパルスによる減少分をプレパルスインヒビションと呼び、これは、統合失調症患者と統合失調症のモデル動物でプレパルスインヒビションが異常な減少を示すことが知られている。この認知指標は、多数の知覚情報の中より有効な情報を選別し、思考する知覚ゲーティング能と呼ばれる高次脳機能を反映するものと考えられている。ヒトでのプレパルスインヒビションの異常は、主に統合失調症患者やそれに類する精神病の患者に観察され、他には、強迫性神経障害、注意欠陥多動性障害、ハンチントン病、自閉症などの脳機能疾患の患者でも観察されることがある(文献22)。実施例1<上皮成長因子 (Epidermal Growth Factor:EGF) のラット乳仔投与で生じた驚愕反応異常に対するエモジン等のアントラキノン類を有効成分とする抗精神病薬投与による改善効果> 動物は,SDラット(日本SLC)生後2日齢より使用した。試薬は,組替え上皮成長因子(EGF:ヒゲタ醤油)、コントロールとしてチトクローム-C(Sigma)を生理食塩水に溶解させた。生後2日目より1日おきに計10回(生後11目まで),頚部にラット体重1g当たり0.75マイクログラム皮下投与した。生後3週より小動物驚愕反応測定装置(San Diego Instruments)にて驚愕反応強度およびプレパルスインヒビション(PPI)を測定した(図1)。すなわち,驚愕反応を誘発する感覚刺激としては,音刺激(120dB)を用い、プレパルス刺激として環境騒音(バックグラウンドノイズ)レベルより5、10、15デシベル高い音圧の刺激(75、80、85dB)を与え,その100ミリセコンド後に,音圧が120デシベルのパルス刺激を与えた。120 dB単独の時の驚愕反応とプレパルスを組み合わせた時の反応比をプレパルスインヒビション(PPI)とした。 なお図1において、正常動物は乳仔期にチトクロームcを皮下投与されたコントロールラットであり、EGFモデルは乳仔期に上皮成長因子を皮下投与された統合失調症モデルラットである。なお、レシチンは生理食塩水に溶解された乳化剤として投与し、エモジンはレシチンにより乳化されたエモジンの10mg/mlの縣濁液として投与した。 測定した8週齢について、上皮成長因子投与群(図1:左から2番目の窓)はANOVA検定でチトクローム-C投与群の正常ラット(図1:左から1番目の窓)に比べプレパルスインヒビションの有意な低下(*p<0.05)を示した。またエモジンを投与したところ、上皮成長因子投与群(図1:左から2番目の窓)において認められたプレパルスインヒビションの低下は回復し(図1:左から左から4番目の窓)、正常ラット(図1:左から1番目の窓)と同レベルとなった。この結果は、プレパルスインヒビションにより測定されたモデル動物の反応異常が、エモジンの投与により改善されたことを示している。実施例2 上皮成長因子、もしくはチロクロームcの乳幼児投与が施されたSDラット(日本SLC)生後56−66日齢より使用して驚愕反応を検討した。試薬は,エモジン(emodin, Sigma社)を1%レシチン(和光試薬)とともに、生理食塩水で10mg/mlの濃度の縣濁液を作製し、毎日1回、ラット用の胃ゾンデを用いて、エモジン縣濁液0.5mlの胃内強制投与を7回実施した。対照群として、同量のエモジンを含まないレシチンだけの縣濁液を同様に投与した。ラットに投与を開始して8日後に小動物驚愕反応測定装置(San Diego Instruments)にて驚愕反応強度を測定した(図2)。 なお図2において、正常動物は乳仔期にチトクロームcを皮下投与されたコントロールラットであり、EGFモデルは乳仔期に上皮成長因子を皮下投与された統合失調症モデルラットである。なお、レシチンは生理食塩水に溶解された乳化剤として投与し、エモジンはレシチンにより乳化されたエモジンの10mg/mlの縣濁液として投与した。 cytochrome Cを乳児期投与された正常群(図2:左から3番目の窓)へエモジンを投与した群と、レシチンのみを投与した正常群(図2:左から1番目の窓)の間では、驚愕反応強度に有意な差は見られなかった。しかし、EGFを乳児期投与された統合失調症モデルラットにレシチンのみを投与した群(図2:左から2番目の窓)では高い音驚愕反応が示された。一方統合失調症モデルラットにエモジンを投与した群(図2:左から4番目の窓)では、音驚愕反応が有意に抑制されていた。この結果も、エモジンの投与によりモデルラットの驚愕反応異常も同時に改善されたことを示すものである。 cytochrome Cを乳児期投与されたコントロール群とEGFを乳児期投与された統合失調症モデルラットにおいて、エモジンの投与前後でもプレパルスインヒビションがどのように変化するか測定してみた。エモジンを8日間に渡って経口投与した後では、EGFを乳児期投与された統合失調症モデルラット群においてのみ、エモジンを投与する前に比べて著しいプレパルスインヒビションの上昇と改善がみられた。そしてそのレベルは、cytochrome Cを乳児期投与されたコントロール群とも区別の付かないレベルにまで改善していた(図は非表示)。実施例3<NMDA受容体拮抗薬を用いた統合失調症モデルにおけるエモジンの抗精神病薬活性> 動物は、雄SDラット(2ヶ月月齢、300グラム体重)を使用した。NMDA型グルタミン酸受容体(以下NMDA受容体と通称)の阻害剤は精神刺激活性を有し、その投与はヒトにおいて幻覚、妄想などの統合失調症の陽性症状、ならびに陰鬱症状といった統合失調症の陰性症状を誘起するため、統合失調症の病態を再現すると考えられている(文献23)。そのNMDA受容体の阻害剤のひとつであるMK-801の投与した動物も、同様にプレパルスインヒビション(PPI)を含む多くの統合失調症にまつわる行動指標に異常を呈するため、MK-801を投与した動物は統合失調症の動物モデルとして頻繁に利用されている(文献24)。 成熟ラットのエモジンでの事前処置が、MK-801誘発性の統合失調症様の病態に与える影響について検討をした。あらかじめエモジン(emodin, Sigma社)を1%レシチン(和光試薬)とともに生理食塩水に懸濁し、10mg/mlの濃度の縣濁液を作製し、毎日1回、ラット用の胃ゾンデを用いて、エモジン縣濁液0.5mlの胃内強制投与を5日間実施した。対照群として、同量のエモジンを含まないレシチンだけの縣濁液を同様に投与した。6日目にこれらラットにMK-801(商品名Dizocilpine、化合物名MK-80、トクリス社)(0.1mg/kg体重)を皮下投与し、その1時間後に、実施例1の段落番号[0034]に記載した方法で驚愕反応装置を用いてPPIを測定した(図3)。 図3において、白抜きカラムは対照群であり、エモジンを含まない同量のレシチンだけの縣濁液を事前に経口投与したラットの結果を示す。黒抜きカラムはエモジンを含むレシチン縣濁液を事前に経口投与したラットの結果を示す。両群ともにMK-801を皮下投与して1時間後に、75dB、80dB、85dBのプレパルス音に対するPPIを測定した。Y軸はPPIレベルを、エラーバーの長さは標準偏差値(SD)を、それぞれ示す。 図3に見られるように、エモジンで前処置を行うこと(図3黒抜きカラム)により、PPIの有意な改善(すなわち、PPIレベルの上昇)が見られた(*P<0.05)。通常は成熟したラットのPPIレベルは50以上あるが、MK-801の投与だけを受けたラット(エモジンの代わりにレシチンのみ慢性経口注入:白抜きカラム)では、どのプレパルス強度においても全てPPIは30以下になっていた。このMK-801により低下したPPIレベルは、エモジンを事前に慢性経口投与(黒抜きカラム)をすることにより有意に上昇・改善されている。このことは、この精神刺激薬MK-801で誘発されるPPIを反映する知覚フィルター機能の障害をエモジンは改善できることを示す。実施例4<覚せい剤を用いた統合失調症ラットモデルにおけるエモジンの抗精神病薬活性> 動物は、雄SDラット(2ヶ月月齢、約300グラム体重)を使用した。メタアンフェタミンは覚せい剤として知られており、その投与はヒトにおいて幻覚、妄想などの陽性症状を誘起するため、統合失調症の病態モデルとなると考えられている(文献25)。メタアンフェタミン投与した動物も、ヒトと同様に運動量の上昇や常道行動(繰り返し行動)を示し、統合失調症の陽性症状と関連している多くの行動指標において異常を呈する(文献26)。 ここではエモジンの事前処置が、その後のメタアンフェタミン誘発性の運動量変化と常道行動にどのような影響を与えるか検討した。あらかじめエモジン(emodin, Sigma社)を1%レシチン(和光試薬)とともに、生理食塩水に懸濁し、10mg/mlの濃度の縣濁液を作製し、ラット用の胃ゾンデを用いて、エモジン縣濁液0.5mlの胃内強制投与を毎日5回繰り返した。コントロール対照群としてラットには、エモジンを含まない同量のレシチンのみの縣濁液を同様に投与した。ラットに投与を開始して6日後にラットの運動量測定を行った。新規探索行動が反映されることを排除するため、運動量測定装置に60分間入れて動物を環境に慣れさせた。運動量が十分低下したことを確認してから、ラットにメタアンフェタミン(大日本製薬)(1.0mg/kg体重)を腹腔内投与し、その後の水平運動量と常道行動性を自動運動量測定装置(MED ACCOSIATES社)にて測定した(図4)。 図4において黒ひし形の点はコントロール対照群であり、エモジンを含まないレシチンだけの縣濁液を経口投与したラットの結果を示す。白抜き四角の点はエモジンを含むレシチン縣濁液を経口投与したラットの結果を示す。両群ともに運動量の合計(DIST;上パネル)と常道行動量(STER;下パネル)を、メタアンフェタミンを皮下投与する前後1時間について測定した結果を5分ごとに示す。図4においてY軸は水平運動量(上パネル)又は常道行動回数(下パネル)を、X軸はメタアンフェタミン投与時点からの時間(分)を、それぞれ示す。図4においてアスタリスクは有意差(*P<0.05)を、エラーバーの長さは標準偏差値(SD)を、それぞれ示す。 図4より、エモジンを事前に慢性経口注入してきたラット(白抜き四角)では、メタアンフェタミン誘発性の運動量上昇が、レシチンだけの縣濁液を経口投与したコントロールラット(黒ひし形の点)と比較して約半分に減少している(上パネル)。また、メタアンフェタミン誘発性の繰り返し運動(常道行動)の回数も、エモジンを事前に経口慢性注入することにより約半分に減少している(下パネル)。この結果は、覚せい剤であるメタアンフェタミンで誘発される統合失調症の陽性症状を、エモジンが改善することを示す。実施例5<新生仔海馬障害統合失調症モデルを用いたエモジンの抗精神病薬活性評価> 統合失調症には、脳発達障害仮説と呼ばれる仮説が有る(文献27)。これは脳の発達期に脳の障害(虚血、変性、細胞死、炎症)がおきると脳の機能発達が異常を来たし、それが統合失調症を発症させるというものである。Lipska博士らは、動物の新生仔期に海馬を神経毒で変性させてやると、その動物は成長後に、統合失調症で言われている認知行動障害の多くを呈することを報告している(文献28)。その後の研究において、この海馬障害モデルは、作業記憶、ドパミン感受性、PPI、ラテント学習、覚せい剤感受性などの指標において、統合失調症の患者の病態を極めて良く反映している動物モデルとして利用され、抗精神病薬の評価によく用いられている。(文献29)。 エモジンの慢性投与がこの海馬障害統合失調症モデルのPPIの異常性に対して、どのような影響を与えるか検討した。新生仔時期SDラット(日本SLC)(生後7-9日齢;15-20グラム体重)にイボテン酸(Sigma社;1-2マイクログラム)もしくは生理食塩水(コントロール)を両側の海馬に投与し、海馬神経細胞を変性させる。その後通常の飼育条件でラットを成長させ、生後2ヶ月齢で統合失調症モデルとして使用した(文献28)。まずエモジン投与前に実施例1の段落番号[0034]に記載した方法において、驚愕反応測定装置を用いて、海馬障害ラットと生理食塩水を投与したコントロールラットのPPIを測定した。これら両群のラットにエモジン(emodin, Sigma社;10mg/mlのレシチン縣濁液)を0.5mlの胃内強制投与し、それを7回(1日1回)繰り返した。最終投与の24時間後、再度、両群ラットのPPIを測定した。 図5において、上のパネルが新生仔期に生理食塩水を海馬に注入したコントロールラットのPPI、下のパネルは海馬障害モデルラットのPPIを表す。左側パネルが、両群のエモジン投与前のPPIレベル、右側パネルがエモジン経口投与後のPPIレベルを示す。ここでも75dB(白抜きカラム),80dB(灰色のカラム)、85dB(黒抜きカラム)のプレパルス音に対するPPIを測定した。図5においてアスタリスクは有意差を(*P<0.05)、エラーバーの長さは標準偏差値(SD)を、それぞれ示す。 新生仔期にイボテン酸を海馬に投与された統合失調症の海馬障害モデルラット(左下)は、成長後において、コントロールラット(左上)に比べてPPIが有意に低下していた。一方その海馬障害モデルラットにエモジンを慢性経口投与してやると(右下)、海馬障害モデルラットのPPIは有意に上昇・改善し、コントロールラット(左上)のPPIレベルと同じ水準となった。なお、生理食塩水を新生仔期に海馬投与したコントロールラットへエモジンを同様に投与しても(右上)、そのPPIに影響を与えなかった。このことは、幼若時期に海馬の障害で誘発されるPPIの知覚フィルター機能異常をエモジンは改善できることを示す。(産業上の利用可能性) 本発明により、抗精神病薬又は脳機能疾患の認知異常の治療薬として、エモジン等のアントラキノン誘導体が提供された。本発明の知見を利用して、統合失調症等の精神病患者における精神機能障害や認知機能障害を改善するのに有用な治療薬を製造することができる。更に本発明の知見を利用して、新規の抗精神病薬を開発することもできると思われる。(文献リスト)(文献1)Snyder et al.: Scientific American, p.68-77, (1992.5)(文献2)Haley, J et al.: Neuron 8, 211-216 (1992)(文献3)Schuman, E.M. and Madison, D.V.: Ann. 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Clin Neurosci. 1995;3(2):98-104. アントラキノン誘導体を有効成分として含有する抗精神病薬。前記アントラキノン誘導体が、エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体である請求項1記載の抗精神病薬。前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体である請求項1又は請求項2記載の抗精神病薬。 下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を有効成分として含有する請求項1記載の抗精神病薬。 下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を有効成分として含有する請求項1記載の抗精神病薬。アントラキノン誘導体を有効成分として含有する認知異常の治療薬。 前記アントラキノン誘導体が、エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体である請求項6記載の認知異常の治療薬。 前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体である請求項6又は請求項7記載の認知異常の治療薬。 下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を有効成分として含有する請求項6記載の認知異常の治療薬。 下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を有効成分として含有する請求項6記載の認知異常の治療薬。 アントラキノン誘導体を含有する薬剤を用いて精神病を治療する方法。 前記アントラキノン誘導体が、エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体である請求項11記載の方法。 前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体である請求項11又は請求項12記載の方法。 下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を含有する医薬を用いる請求項11記載の方法。 下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を含有する医薬を用いる請求項11記載の方法。 アントラキノン誘導体を含有する薬剤を用いて認知行動異常を治療する方法。 前記アントラキノン誘導体が、エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体である請求項16記載の方法。 前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体である請求項16又は請求項17記載の方法。 下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を含有する医薬を用いる請求項16記載の方法。 下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を含有する医薬を用いる請求項16記載の方法。 本発明は、統合失調症等の精神病患者における精神機能障害や認知機能障害を改善するのに有用な新規の薬物を提供することを目的とする。前記課題を解決するために、エモジン等のアントラキノン誘導体を抗精神病薬又は統合失調症に類する認知異常の治療薬として用いる。20071107A16333全文3 エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体であるアントラキノン誘導体を有効成分として含有する抗精神病薬。 (削除) 前記アイトラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体であり、経口投与で有効である請求項1記載の抗精神病薬。 下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を有効成分として含有する請求項1記載の抗精神病薬。 下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を有効成分として含有する請求項1記載の抗精神病薬。 エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体であるアントラキノン誘導体を有効成分として含有する統合失調症様の認知異常の治療薬。 (削除) 前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体であり、経口投与で有効である請求項6記載の統合失調症様の認知異常の治療薬。 下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を有効成分として含有する請求項6記載の統合失調症様の認知異常の治療薬。 下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を有効成分として含有する請求項6記載の統合失調症様の認知異常の治療薬。 エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体であるアントラキノン誘導体を含有する薬剤を用いて精神病を治療する方法。 (削除) 前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体を経口投与する請求項11記載の方法。 下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を含有する医薬を用いる請求項11記載の方法。 下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を含有する医薬を用いる請求項11記載の方法。 エモジン、アロエエモジン、フィスシオン、レイン、及びクリソファノールからなる群から選択された化合物、又はその誘導体であるアントラキノン誘導体を含有する薬剤を用いて統合失調症様の認知異常を治療する方法。 (削除) 前記アントラキノン誘導体がエモジン又はその誘導体を経口投与する請求項16記載の方法。 下記の化学式:(式中、R1は水素原子、ヒドロキシル基又はアルキロキシ基である置換基を表し;R2は短鎖アルキル基、短鎖ヒドロキシアルキル基又は短鎖カルボキシアルキル基である置換基を表す)で表されるアントラキノン又はその誘導体を含有する医薬を用いる請求項16記載の方法。 下記の化学式:(式中、Rは、その脂肪族鎖上において親水性基で置換された、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭素数2から6の鎖状脂肪族ポリカルボン酸;その芳香族環上において炭素数1から3の親水性残基で置換されたアリールポリカルボン酸、アミノ酸、又はアミノ糖のアセタール;及び無機酸から選択された置換基を表す)で表されるアントラキノン類又はその誘導体を含有する医薬を用いる請求項16記載の方法。


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