タイトル: | 再公表特許(A1)_ペクチンの製造法並びにそれを用いたゲル化剤及びゲル状食品 |
出願番号: | 2007055182 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C08B 37/06,A23L 1/05,A23L 1/06,C12P 19/04 |
戸邉 順子 中村 彰宏 高橋 太郎 JP WO2007119366 20071025 JP2007055182 20070315 ペクチンの製造法並びにそれを用いたゲル化剤及びゲル状食品 不二製油株式会社 000236768 戸邉 順子 中村 彰宏 高橋 太郎 JP 2006074668 20060317 C08B 37/06 20060101AFI20090731BHJP A23L 1/05 20060101ALI20090731BHJP A23L 1/06 20060101ALI20090731BHJP C12P 19/04 20060101ALI20090731BHJP JPC08B37/06A23L1/04A23L1/06C12P19/04 Z AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MT,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20090827 2008510780 17 4B041 4B064 4C090 4B041LC10 4B041LD03 4B041LD04 4B041LH05 4B041LP05 4B064AF11 4B064CA21 4B064CB01 4B064CD24 4B064CE08 4B064CE20 4B064DA10 4C090AA04 4C090BA50 4C090BB32 4C090BB52 4C090BC10 4C090CA04 4C090CA18 4C090CA32 4C090CA43 4C090DA22 4C090DA27 本発明は、ペクチンの製造法、それを使用したゲル化剤、及びそれを使用したゲル状食品に関し、詳しくは、ジャガイモ澱粉粕から得られるペクチンの製造法、及び得られたペクチンを主たる成分とするゲル化剤、及びそのゲル化力を利用してなるジャム,ゼリー等のゲル状食品に関する。 ジャム,ゼリー等のゲル状食品の製造に際しては、従来よりゼラチン,寒天,高メトキシペクチン(HM-ペクチン),低メトキシペクチン(LM-ペクチン),カラギーナン,グアガム,キサンタンガム,ジェランガム,アルギン酸ナトリウムなどの高分子ゲル化剤が使用されてきた。 カラギーナンとアルギン酸ナトリウムは、強固なゲルを形成することから食品や医薬品のゲル化剤として利用されているが、出来たゲルが離水しやすい。また原料が天然の海藻である為に非常に高価であり溶液粘度も高い。一方、ジェランガムは、Pseudomonas elodeaが生産する多糖類であり、安定に供給される上、寒天やカラギーナン以上に強固なゲルを形成するが、価格が高い問題がある。 柑橘類やリンゴの搾汁粕からpH3以下の強酸性条件下で抽出されているペクチン、中でもLM-ペクチンは、ジャムやヨーグルト等のデザート類のゲル化剤として利用されているが、カラギーナン,アルギン酸ナトリウム、或いはジェランガムで得たゲルに比べて柔らかく、利用範囲が限られている。 根菜類、特に、イモ類には澱粉質と共にペクチン質が含まれることが古くから知られており、ペクチンの製造原料としての検討が種々なされてきた。また、ゲル化剤としての用途検討も行われてきた。特許文献1では、ヒマワリ茎やジャガイモ澱粉粕より、抽出を行っているが、ここに示された、pH3〜4.5,60〜80℃といった酸性pH条件、あるいはpH8〜12,5〜50℃といったアルカリ性pH条件では、ペクチン成分の抽出量は非常に低く、現実性に乏しい。また、キレート剤として添加されたヘキサメタリン酸塩は、精製時に完全に除去する事が難しく、残存したキレート剤はゲル化を抑制する。このために、ゲルを調製する実施例中で、ペクチンに対して4〜10%量と過剰のカルシウムが必要とされており、使用法が限定されてしまう。 また、近年、ジャガイモ澱粉を製造する際に副産するジャガイモ澱粉粕より、ペクチンを得る方法が見い出された(特許文献2)。これはジャガイモ澱粉粕をpH3.8からpH5.3の弱酸性下、キレート剤非存在下において熱水抽出する方法で、得られたペクチンは蛋白質の分散安定剤としての機能を有すものの、ゲルを形成する機能を有さない。WO 97/49298特開2001-354702 本発明は、ジャガイモ澱粉粕から有用成分を実用性の高い方法で抽出回収する事で、産業廃棄物として処分されている澱粉粕を有効利用する。併せて、新規なゲル化剤を発明し、種々の食品に応用する事を目的とした。 本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、キレート剤存在下で、ジャガイモ澱粉粕より、90℃以上の温度で加熱することによりペクチンが効率よく可溶化する事を見いだした。更に、アミラーゼ処理を併用する事により高純度のジャガイモペクチンが得られることを見い出した。また、酸性下で解離しやすいキレート剤を使用することで、得たペクチン中に残存するキレート剤を鉱酸添加極性有機溶媒で容易に洗浄することが出来、更に高純度のペクチンを得ることが出来た。こうして得たペクチンが、従来のLM-ペクチンやジャガイモ由来ペクチン以上に強固でゲル物性に優れ、また加熱安定性に優れたゲルを形成することを見い出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。 すなわち、本発明は、(1)ジャガイモ澱粉粕より、キレート剤を用いて、抽出終了時のpHが5.5以上,11以下の条件で、90℃以上,125℃以下の温度で抽出することを特徴とする、ペクチンの製造法。(2)(1)において、抽出時にpH緩衝剤を加えることを特徴とする、ペクチンの製造法。(3)(1)乃至(2)の方法に於て、原料に由来する澱粉質を、アミラーゼ処理により分解することを特徴とする、ペクチンの製造法。(4)(1)乃至(3)の方法で得たペクチンを極性有機溶媒で沈澱させることで精製を行なう、ペクチンの製造法。(5)pH5以上で強いキレート能を有し、pH3以下でキレート能を失うキレート剤を用いて抽出を行ない、得られたペクチンを極性有機溶媒で沈澱させ、鉱酸添加極性有機溶媒で沈澱物のキレート剤除去を行なう、(4)に記載の、ペクチンの製造法。(6)(1)乃至(5)の方法で得たペクチンを有効成分とするゲル化剤。(7)(6)のゲル化剤を用いたゲル状食品。である。 本発明により、ジャガイモ澱粉粕よりジャガイモペクチンを、食品工業に有用なゲル化剤として効率良く得ることが出来る。 以下、本発明を説明する。本発明のジャガイモ澱粉粕は、各種のジャガイモより澱粉を製造する工程において、副産するジャガイモ澱粉粕が好適であるが、ジャガイモの細胞壁多糖類を含有する原料であればいずれでも利用が可能であり、クエン酸発酵等の発酵後の残さを用いることもできる。原料の形態は、繊維状のものや、圧縮成形したパルプ状のもの等のいずれのものでも使用することができる。これらの原料をキレート剤を含む水溶液に懸濁してペクチンを抽出する。 抽出する際の温度は、90℃以上であり、100℃を越えた加圧条件下で抽出しても構わない。また125℃以下が好ましい。90℃より低い温度で得たペクチンは、短時間での抽出効率が悪い上に、抽出溶液の粘度が非常に高くなるため、不溶物の固液分離が難しく製造時の作業性が悪化してしまう。また125℃を越える高温で長時間抽出した場合、ペクチンを構成するガラクツロン酸のグリコシド結合が脱離分解される為に、充分なゲル化力が得られない場合がある。抽出の時間は特に制限されるものでは無いが、60分から180分が適当であり、抽出温度が高い場合は、短時間の抽出が好ましい。 ペクチンを抽出する際の加熱抽出終了時の下限pHは、pH5.5以上が好ましい。また、抽出時の上限pHは11以下が好ましく、pH10以下がより好ましい。抽出終了時のpHがpH5.5よりも低い場合、ペクチンの抽出率が低くなることに加えて、ゲル化力を有するペクチンが充分に溶出しない。一方、抽出終了時のpHが高い場合、ゲル化力を有するペクチンは得られるものの、ペクチンを構成するガラクツロン酸のグリコシド結合が脱離分解される為に、充分なゲル化力が得られない。 キレート剤は、最終のペクチン中に残存しても構わないが、カルシウム等を介したイオン結合によるゲル化が抑制される可能性があり、抽出時に添加するキレート剤は極力少量にするか、或いは抽出後に過剰のキレート剤を除去する事が好ましい。キレート剤添加量は、ジャガイモ澱粉粕の固形分50gに対して、キレート剤5m mole以上が好ましく、10m mole以上が更に好ましい。また、上限は100m mole以下で構わないが、キレート剤を多量に添加する事になる為、50m mole以下が好ましい。原料の固形分量と使用キレート剤添加量は通常は比例の関係にあり、原料が濃厚になればキレート剤濃度も増す必要がある。 キレート剤はそれ自身でpH緩衝能を持つため、キレート剤添加量を減らした場合、抽出環境、例えば原料の種類や抽出濃度,温度,時間により、抽出液のpH変動が顕著となるが、このpH変動の抑制に対しては、キレート剤にpH緩衝剤を加えて抽出する方法が有効であり好ましい。pH緩衝剤としては、具体的には、炭酸,ホウ酸,酒石酸,リンゴ酸,アジピン酸等の酸、およびその塩が挙げられ、炭酸水素ナトリウムが特に好ましい。添加量はキレート剤の種類と抽出条件によって異なるため特に制限されるわけではないが、例えば固形分50gの抽出系において、クエン酸三ナトリウム10m moleをキレート剤としてペクチンを抽出する場合、抽出溶媒中の緩衝剤である炭酸水素ナトリウムは、10m mole以上が必要である。pH緩衝剤濃度も、キレート剤同様に原料濃度により増減することが望ましい。また、キレート剤添加後に、更にpHを調整することもできる。 混在する澱粉はペクチンのゲル物性と透明性に影響を与える場合がある。したがって、澱粉を除去することで、より高純度でゲル化能に優れるペクチンを得ることが出来る。澱粉の除去方法は特に限定されるものではないが、ペクチン抽出液の冷却或いは乳化剤の添加により澱粉を不溶化し分離除去することができる。特に、抽出の前後に、好ましくは抽出後に、更に好ましくは固液分離後に、アミラーゼで処理することにより澱粉を分解し、澱粉を含まない高純度のペクチンを得る方法が好ましい。アミラーゼとしては、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼが混入していない市販の酵素であれば何れでも使用できる。また、アミラーゼ処理時のpHは、使用する酵素の至適pH域であれば問題ないが、工程上のペクチンの増粘を抑制する為、抽出後のペクチン溶液そのままのpH域が好ましい。また、蛋白質が混在する場合、プロテアーゼで処理する事も出来る。プロテアーゼとしては、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼが混入していない市販の酵素であれば何れでも使用できる。これら酵素処理の後は、後述する手法により、低分子物質を除去することが好ましい。 本発明のジャガイモペクチンは、抽出後に遠心分離叉は濾過により不溶物を分離除去した後回収される。濾過はパーライト,珪藻土,セルロース等を助剤として使用できる。懸濁液から分離回収された抽出液はそのまま乾燥しても使用は可能だが、更に精製する事が好ましい。 精製には、イオン交換樹脂,活性炭,疎水樹脂での処理による共存する蛋白質や着色物質の分離除去や、エタノール,アセトン,イソプロパノール等の極性有機溶媒での沈澱処理による、疎水性物質或いは低分子物質の除去が挙げられる。但しキレート剤の一部は、これらの操作だけでは除去しきれない場合がある。 抽出時に用いたキレート剤が、ジャガイモペクチン中に残存すると、ゲル化能に悪影響を及ぼす場合があるため、ペクチン中のキレート剤を除去する事で、更にゲル化能を向上させる事ができる。キレート剤除去の方法は、電気透析やイオン交換樹脂による方法等があるが、先に述べた極性有機溶媒沈澱を酸性状態で行なう方法が好ましく、極性有機溶媒で沈澱させた後、沈殿物を鉱酸添加極性有機溶媒で洗浄を行なう方法が最も好ましい。酸性状態とはpHが概してウロン酸のpKa値以下の状態を指し、また洗浄に用いる鉱酸添加極性有機溶媒とは、先に述べた極性有機溶媒に塩酸,硫酸,硝酸,リン酸等の鉱酸を加え、ウロン酸のpKa値以下、好ましくはpH3以下、更に好ましくはpH2以下にした極性有機溶媒を指す。 本発明に用いるキレート剤としては、食品に利用出来るもののうちpH5以上のpH域において強いキレート能を有し、pH3以下で完全にキレート能を失う物質が、除去のし易さの点から好ましい。これら条件を満たすキレート剤としては、遊離リン酸及びその塩類、クエン酸,酒石酸等の有機酸及びその塩類等が好適であり、メタリン酸塩,フィチン酸等の酸性下でもキレート能を維持する物質に比べ優位である。また、リン酸一水素二ナトリウム,クエン酸三ナトリウムが、使用時のpH調整のし易さや除去の効率から、特に好ましい。 これらキレート剤除去を行なう事で、最終に得られるペクチンは残存キレート剤の少ない、ゲル化能の高いペクチンを得ることができる。得られたペクチンは、Ca,Mg等のアルカリ土類金属と反応させることで、ゲルを作る事ができる。この際にアルカリ土類金属を含む脱脂粉乳等の乳蛋白を用いると、通常の無機塩とは異なりゲル形成の反応が遅くなり、組織のムラが少ない均一なゲルを調製する事もできる。ジャガイモペクチンは、ゲル強度が強く、加熱による溶融や離水も起こしにくい上に、寒天様な食感のゲルを形成する。 本発明により抽出したジャガイモペクチンの分子量分布は、ゲル濾過HPLCで分析した場合、500万〜5千と見積もられる。構成糖として、ガラクツロン酸,ラムノース,ガラクトース,アラビノース,キシロース,フコースを含む。尚、分子量は、プルランスタンダード(昭和電工製:スタンダードプルランP-82)より算出し、糖組成は、2N TFAで分解後、(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 64, 178-180(2000))及び(Biosci. Biotechnol. Biochem., 56, 1053-1057(1992))に記載の方法にて分析した。 ゲル化剤としてのジャガイモペクチンの使用量としては、標準的に最終のゲル状食品に対して0.05〜10重量%、好ましくは0.3〜1重量%程度で良いが、食品中のミネラル濃度や蛋白濃度の相違等に応じて変動し得るので、本使用は発明の範囲を制限するものではない。 本発明の実施に際して、ジャガイモペクチンは、HM-ペクチン,CMC-Na,PGA,水溶性大豆多糖類,ローカストビーンガム,タマリンド種子多糖類,ジェランガム,ネイティブジェランガム,キサンタンガム,グアーガム,タラガム,フェノグリークガム,アラビアガム,カラヤガム,カラギーナン,キトサン,微結晶セルロース,寒天等の他の安定剤及びゲル化剤を併用することができる。 また、本発明のゲル状食品は、必要に応じて乳化剤、及び甘味料を併用することができる。併用する乳化剤としては、公知の何れのものでも使用可能であり、具体的にはショ糖脂肪酸エステル,グリセリン脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,プロピレングリコール脂肪酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル、或いはレシチン等が挙げられる。また、甘味料も公知の物であれば何れでも良く、具体的には、砂糖,ブドウ糖,果糖,異性化糖,水飴,トレハロース,マルチトール,ソルビトール等の糖類や、アスパルテーム,ステビア,グリチルリチン,ソーマチン等から選ばれた一種叉は二種以上を用いる事ができる。 ゲル状食品としては、比較的強いゲルが要求される用途に好適で、ジャム,マーマレード,ゼリー,ムース,ババロア,プリン,人工イクラ等が挙げられる。 以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例示によって制限されるものではない。尚、例中の%は何れも重量基準を、収率は乾燥物重量としての回収率を意味する。(製造例A〜E)○ジャガイモペクチン(A)の調製例(キレート剤未使用) 乾燥ジャガイモ澱粉粕5部に95部の水を加え、pH4.5に調整後、120℃、60分間加熱抽出した。冷却後に遠心分離(10,000×g,30分)して不溶物を分離除去した。上澄液をpH5.0に調整し、澱粉に対して1%相当のアミラーゼ溶液(AMG300L:novozymes社)を添加して、60℃で3時間澱粉を分解し、沸騰湯浴中で10分間加熱して酵素を失活させた。最終濃度が50%になるようにエタノールを添加してペクチンを沈澱させ、この沈澱を3倍量の99%エタノールで洗浄してペクチンを精製した。原料に対するジャガイモペクチンの収率は20%であった。 ○ジャガイモペクチン(B)の調製例(キレート剤未使用・脱メトキシ処理) ジャガイモペクチン(A)の調製と同様にして得られた上澄液に、水酸化ナトリウムを用いてpH12に調整後、50℃で60分間の脱メトキシ処理を行った。その後、ジャガイモペクチン(A)の調製と同様にpH5.0にて澱粉を分解し、エタノールで洗浄してペクチンを精製した。原料に対するジャガイモペクチンの収率は18%であった。○ジャガイモペクチン(C)の調製例(キレート剤使用) 乾燥ジャガイモ澱粉粕5部に95部の53mM(Final 50mM)リン酸水素二ナトリウム水溶液を加え、120℃で60分間加熱抽出した。冷却後に遠心分離(10,000×g,30分)して不溶物を分離除去した。pH未調整の上澄液に、澱粉に対して1%相当のアミラーゼ溶液(BAN240L:novozymes社)を添加して、60℃で3時間澱粉を分解し、沸騰湯浴中で10分間加熱して酵素を失活させた。最終濃度が50%になるようにエタノールを添加してペクチンを沈殿させ、この沈殿を3倍量の1%塩酸を含む80%エタノールで洗浄してペクチンを精製した。3倍量の10%水酸化ナトリウムを含む80%エタノールでpH6に調整した後、99%エタノールで3回洗浄し、乾燥してジャガイモペクチン(C)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は25%であった。○ジャガイモペクチン(D)の調製例(キレート剤使用) ジャガイモペクチン(C)の調製において、リン酸水素二ナトリウムの代わりに、53mM(Final 50mM)クエン酸三ナトリウムを用いて抽出する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(D)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は24%であった。○ジャガイモペクチン(E)の調製例(pH緩衝剤使用) ジャガイモペクチン(C)の調製において、リン酸水素二ナトリウムの代わりに、53mM(Final 50mM)炭酸水素ナトリウムを用いて抽出する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(E)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は17%であった。 ジャガイモペクチン(A)〜(E)及び市販のLM-ペクチン(GENU pectin type LM-104AS-J:三晶(株)製;以下LM-P)の分析結果を以下の表1に纏めた。なお、全糖の測定はフェノール硫酸法により、ウロン酸の測定はBlumenkrantz法により、エステル化度(DE)の測定は滴定法により測定し、ウロン酸に対するモル%で示した。表1:抽出条件の異なるジャガイモペクチンの分析値 キレート剤を用いて抽出したジャガイモペクチン(C),(D)は、キレート剤を添加しないでで抽出したジャガイモペクチン(A)および(E)より高い収率を示した。また、平均分子量も高い数値を示し、高分子ペクチンが多く含まれていることが示唆された。ウロン酸含量は抽出条件に関わらず同様の50%程度であるが、キレート剤抽出をしたジャガイモペクチン(C),(D)は、DEが20%以下で脱メトキシ処理をしたジャガイモペクチン(B)と同程度、LM-Pよりも低い数値を示した。(試験例1) 下記の方法でゲルを調製し、ゲル強度をインストロン(インストロン・ジャパン(株))にて測定した。また、比較対象としてLM-Pを用いてゲルを調製した。脱脂粉乳12部に水88部を加えて分散させた後、90〜95℃で15分間撹拌しながら殺菌を行い、脱粉水を得た。ジャガイモペクチン(A)〜(E)及びLM-Pをそれぞれ2部ずつ98部の熱水に添加し、80℃で20分間撹拌溶解させた。脱粉水とペクチン溶液を80℃以上に加熱した状態で等量混合し、厚さ1.75cmになるように容器に分注して室温で1時間、冷蔵室で12時間静置保存してゲル強度を測定した。尚、ゲル強度は、インストロンを用い、球形プランジャー(φ5mm)、クロスヘッド速度60mm/分,室温23℃にて測定した。10サンプルの破断荷重と破断変位の測定値の積をゲル強度として評価した。 以下の表2に評価した結果を示した。表2:抽出条件の異なるジャガイモペクチンのゲル物性 表2に示すように、キレート剤抽出したジャガイモペクチン(C),(D)はLM-P以上の破断強度を示し、強固なゲルを形成した。一方、弱酸性抽出したジャガイモペクチン(A)およびそれを脱メトキシ処理した低エステル化度のジャガイモペクチン(B)はゲルを形成しなかった。キレート剤を添加しない、pH緩衝剤のみで抽出したジャガイモペクチン(E)は、ゲルを形成したものの、ゲル強度はLM-P並みの弱いものであった。(製造例F〜J)抽出温度の異なるジャガイモペクチンの調製○ジャガイモペクチン(F)の調製例 ジャガイモペクチン(C)の調製において、抽出時の温度を130℃にする以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(F)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は23%であった。○ジャガイモペクチン(G)の調製例 ジャガイモペクチン(C)の調製において、抽出時の温度を100℃に、抽出時間を180分間にする以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(G)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は21%であった。○ジャガイモペクチン(H)の調製例 ジャガイモペクチン(C)の調製において、抽出時の温度を80℃に、抽出時間を180分間にする以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(H)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は13%であった。○ジャガイモペクチン(I)の調製例 ジャガイモペクチン(C)の調製において、抽出時の温度を70℃に、抽出時間を180分間にする以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(I)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は11%であった。○ジャガイモペクチン(J)の調製例 ジャガイモペクチン(C)の調製において、抽出時の温度を50℃に、抽出時間を180分間にする以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(J)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は3%であった。(試験例2) 試験例1と同じ方法でゲルを調製し、ゲル強度をインストロンにて測定した。また、比較対照としてLM-Pを用いてゲルを調製した。 以下の表3に分析値と試験例2の結果を示した。表3:抽出温度の異なるジャガイモペクチンの収率とゲル強度 表3に示すように、80℃以下の温度で抽出したジャガイモペクチンは、15%以下の低い収率であった。50℃で抽出したジャガイモペクチンは、平均分子量が低く、ウロン酸含量も低い数値を示した。また、70℃以上120℃以下の温度で抽出したジャガイモペクチンはLM-P以上の破断強度を示し、強固なゲルを形成した。強固なゲルを形成して充分な収率が得られる条件としては90℃以上125℃以下の加熱抽出が必要であった。(製造例K〜N)抽出pHの異なるジャガイモペクチンの調製○ジャガイモペクチン(K)の調製例 ジャガイモペクチン(C)の調製において、53mM(Final 50mM)リン酸水素二ナトリウム水溶液を用いて、塩酸でpH3.5に調整し、100℃で180分間加熱抽出後、30%水酸化ナトリウムでpH6に中和する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(K)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は6%であった。○ジャガイモペクチン(L)の調製例 ジャガイモペクチン(C)の調製において、53mM(Final 50mM)リン酸水素二ナトリウム水溶液を用いて、塩酸でpH5.0に調整し、100℃で180分間抽出する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(L)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は10%であった。○ジャガイモペクチン(M)の調製例 ジャガイモペクチン(C)の調製において、53mM(Final 50mM)リン酸水素二ナトリウム水溶液を用いて、30%水酸化ナトリウムでpH10に調整し、100℃で180分間抽出後、塩酸でpH6に中和する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(M)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は24%であった。○ジャガイモペクチン(N)の調製例 ジャガイモペクチン(C)の調製において、53mM(Final 50mM)リン酸水素二ナトリウム水溶液を用いて、30%水酸化ナトリウムでpH12に調整し、100℃で180分間抽出後、塩酸でpH6に中和する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(N)を得た。原料に対するジャガイモペクチンの収率は17%であった。(試験例3) 試験例1と同じ方法でゲルを調製し、ゲル強度をインストロンにて測定した。また、比較対照としてを用いてゲルを調製した。 以下の表4に分析値と試験例3の結果を示した。表4:抽出pHの異なるジャガイモペクチンの収率とゲル強度 表4に示すように、抽出終了時のpHが5以下のジャガイモペクチンは、収率が低く、ゲル強度も弱い数値を示した。また、pH12付近で抽出したジャガイモペクチン(N)は、収率は17%とやや低い上に、ゲル強度が弱かった。強固なゲルを形成して充分な収率が得られる条件としてはpHが5.5以上pH11以下での抽出が必要であった。(製造例O〜S)キレート剤とpH緩衝剤との併用による抽出○ジャガイモペクチン(O)の調製例 ジャガイモペクチン(D)の調製において、11mM(final 10mM)クエン酸三ナトリウムを用いて抽出する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(O)を得た。抽出終了時のpHは5.2であった。また、原料に対するジャガイモペクチンの収率は17%であった。 ○ジャガイモペクチン(P)の調製例 ジャガイモペクチン(D)の調製において、11mM(final 10mM)炭酸水素ナトリウムを含む11mM(final 10mM)クエン酸三ナトリウム水溶液95部を用いて抽出する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(P)を得た。抽出終了時のpHは5.8であった。また、原料に対するジャガイモペクチンの収率は21%であった。○ジャガイモペクチン(Q)の調製例 ジャガイモペクチン(D)の調製において、32mM(final 30mM)炭酸水素ナトリウムを含む11mM(final 10mM)クエン酸三ナトリウム水溶液95部を用いて抽出する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(Q)を得た。抽出終了時のpHは6.5であった。また、原料に対するジャガイモペクチンの収率は22%であった。○ジャガイモペクチン(R)の調製例 ジャガイモペクチン(D)の調製において、5.3mM(final 5mM)クエン酸三ナトリウム水溶液95部を用いて抽出する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(R)を得た。抽出終了時のpHは5.1であった。また、原料に対するジャガイモペクチンの収率は11%であった。○ジャガイモペクチン(S)の調製例 ジャガイモペクチン(D)の調製において、42mM(final 40mM)炭酸水素ナトリウムを含む5.3mM(final 5mM)クエン酸三ナトリウム水溶液95部を用いて抽出する以外は全く同様にしてジャガイモペクチン(S)を得た。抽出終了時のpHは7.1であった。また、原料に対するジャガイモペクチンの収率は22%であった。(試験例4) 試験例1と同じ方法でゲルを調製し、ゲル強度をインストロンにて測定した。また、比較対照としてLM-Pを用いてゲルを調製した。以下の表5に評価した結果を示した。表5:pH緩衝剤の併用によるジャガイモペクチンの収率とゲル物性 表5に示すように、キレート剤単独で抽出したジャガイモペクチンは、添加量を減らすと収率が低くなり、ゲル強度も低い数値を示した。一方、キレート剤にpH緩衝剤を併用する事により、抽出終了時のpHは5.5以上を保持し、ゲル強度が100gf・mm以上の強固なゲルを形成するジャガイモペクチンを得ることが出来た。キレート剤単独での抽出は、多量のキレート剤を必要とする為、抽出後の過剰なキレート剤の除去処理を行わなければならない。一方、pH緩衝剤を併用する事で、キレート剤の系中濃度を下げることが出来るので、精製工程を簡略化できる可能性があり、工業生産上メリットがある。(実施例1)ジャガイモペクチンを用いて調製した耐熱性ジャム 以下の配合と方法にてジャムを調製した。ゲル化剤としてジャガイモペクチン(C)と(D)、比較対照としてLM-Pを用いた。 表6−Aの原料を混合し、砂糖を溶解するため90℃まで加熱した。表6−B原料について、ミキサーで80℃に調整したお湯にペクチンを添加し完全に溶解し、先に調製したAに加えた。混合液の温度を80℃に調整し、クエン酸溶液を加え充分に混合した。これを60℃まで冷やして充填する容器に流し込み、冷やし固めた。 表6:ジャム配合 比較対照のLM-Pで調製したジャムは、80℃で10分加熱することで容易に溶液になり、加熱耐性が無かった。一方、ジャガイモペクチン(C)および(D)で調製したジャムは、同条件で加熱しても溶解及び離水を起こすことがなく、耐熱性の高いジャムになっていた。 廃棄物であるジャガイモ澱粉粕を有効に利用し、強いゲル化力を持つジャガイモペクチンを、効率良く得ることが出来た。これにより強固で加熱安定性に優れたゲル状食品を調製する事が可能となる。ジャガイモ澱粉粕より、キレート剤を用いて、抽出終了時のpHが5.5以上,11以下の条件で、90℃以上,125℃以下の温度で抽出することを特徴とする、ペクチンの製造法。請求項1において、抽出時にpH緩衝剤を加えることを特徴とする、ペクチンの製造法。請求項1乃至2の方法に於て、原料に由来する澱粉質を、アミラーゼ処理により分解することを特徴とする、ペクチンの製造法。請求項1乃至3の方法で得たペクチンを極性有機溶媒で沈澱させることで精製を行なう、ペクチンの製造法。pH5以上で強いキレート能を有し、pH3以下でキレート能を失うキレート剤を用いて抽出を行ない、得られたペクチンを極性有機溶媒で沈澱させ、鉱酸添加極性有機溶媒で沈澱物のキレート剤除去を行なう、請求項4に記載の、ペクチンの製造法。請求項1乃至5の方法で得たペクチンを有効成分とするゲル化剤。請求項6のゲル化剤を用いたゲル状食品。 ジャガイモ澱粉粕を原料とし、優れたゲル化力を有するペクチンを効率良く抽出すること、また、当該ペクチンをゲル化剤として利用したゲル状食品を得ることを課題とする。ジャガイモ澱粉粕より、キレート剤を用い、pH緩衝剤を加え、抽出終了時のpHが5.5以上,11以下の条件で、90℃以上,125℃以下の温度で抽出することで、従来のLM-P以上にゲル物性に優れたペクチンを得る。