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タイトル:再公表特許(A1)_亜硫酸高生産酵母の育種方法及び該酵母を用いた酒類の製造方法
出願番号:2007051536
年次:2009
IPC分類:C12N 1/19,C12G 1/00,C12C 11/02,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

善本 裕之 吉田 聡 港 紀子 曽我 朋義 JP WO2007086592 20070802 JP2007051536 20070124 亜硫酸高生産酵母の育種方法及び該酵母を用いた酒類の製造方法 キリンホールディングス株式会社 000253503 学校法人慶應義塾 899000079 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 松任谷 優子 100119183 善本 裕之 吉田 聡 港 紀子 曽我 朋義 JP 2006015278 20060124 C12N 1/19 20060101AFI20090529BHJP C12G 1/00 20060101ALI20090529BHJP C12C 11/02 20060101ALI20090529BHJP C12N 15/09 20060101ALI20090529BHJP JPC12N1/19C12G1/00C12C11/02C12N15/00 A AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,LY,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20090625 2007556049 46 4B024 4B065 4B024AA05 4B024CA04 4B024DA12 4B024EA04 4B024FA02 4B024GA11 4B024GA27 4B065AA72X 4B065AA72Y 4B065AB01 4B065BA02 4B065CA42 本発明は、酵母の代謝物及び遺伝子発現レベルの解析結果に基づき、醸造時の鮮度維持に重要な亜硫酸の生産を高め、且つ異臭の原因の一つである硫化水素の生産を増加させない酵母を育種する方法を提供する。さらに、この酵母を用いた品質の高い酒類の製造方法を提供する。 亜硫酸は、高い抗酸化作用を持つ化合物であり、食品や飲料、医薬品などの分野では、酸化防止剤として広く利用されている。ビール醸造においても、製品に含まれる亜硫酸濃度の上昇に依存して品質保持期間が長期化することが知られており、鮮度の維持に重要な役割を果たしている。つまり、ビールなどの製品中で亜硫酸含量を高めることができれば、香味が安定化した製品を提供することができる。 一方、硫化水素は、「腐った卵」様の臭いを有する物質であり、ビール醸造においては、製品のオフフレーバーの原因となるだけでなく、オフフレーバ−原因物質の前駆体となる場合がある。そのため、酵母の硫化水素生産能は低いほうが望ましいとされる。つまり、硫化水素の生成を抑えることができれば、ビールなどの製品中で、異臭の少ない、香味安定性に優れた製品を提供することができる。 従来法では、遺伝子組換えの技術を用いて、硫酸イオン還元経路(硫酸イオン→APS(adenylylsulfate)→PAPS(phosphoadenylylsulfate)→亜硫酸→硫化水素)のMET3遺伝子やMET14遺伝子の高発現による亜硫酸生産量増加(例えば非特許文献1参照)、及びMET10遺伝子破壊(例えば非特許文献2参照)又はMET2遺伝子破壊による亜硫酸生産量増加(例えば非特許文献3参照)の報告例がある。また、硫化水素については、特許第2005398号「酵母硫化水素生成抑制遺伝子及び当該遺伝子を導入した醸造用酵母」に、NHS5遺伝子の導入によって酵母の硫化水素生成能を低下させる方法が記載され(特許文献1)、特許第3514507号「硫化水素生成能が低減された酵母とこの酵母を用いたビール製造法」に、MET25(=MET17)遺伝子を構成的に発現させることによって酵母の硫化水素生成能を低下させる方法が記載されている(特許文献2)。さらに、特開2005−65572号「亜硫酸耐性を有する及び/又は硫化水素産生能の低下した酵母の造成方法」には、酵母にSSU1遺伝子の転写量及び/又は発現量を増大させることで、亜硫酸耐性を付与させ、硫化水素生産量を低下させる方法が記載されている(特許文献3)。しかしながら、これらの手法はいずれも1つの遺伝子の発現を増加若しくは減少させる方法であり、亜硫酸と硫化水素の生産量の微妙な調節はできていなかった。 非遺伝子工学的手法による硫化水素臭非生産酵母の育種としては、特開平8−214869号「硫化水素臭非生産酵母の育種方法」に、メチオニンアナログに対する耐性を付与させることにより硫化水素低生産酵母を選抜した報告がある(特許文献4)。醸造法に工夫をすることにより硫化水素生産を抑える方法として、麦汁組成の改変、発酵温度の制御、又は発酵時の通気の制御により硫化水素を抑える試みもなされてきたが、これらの方法では亜硫酸の低生産がおこるという問題があった。一方、亜硫酸生産を増加させる醸造法として、醸造時の麦汁の組成の改変、発酵温度の制御、又は発酵時の通気の制御により亜硫酸生産を増加させる試みもなされたが、これらの方法では、酵母の増殖の遅延による発酵不良、及び硫化水素の高生産がおきた。このように、従来法では、亜硫酸と硫化水素の生成において、一方が減少すると他方も減少するという連動の問題があった。 また、以上のように、従来法ではビール本来の味、香味が変化し、ビール製造上好ましくないことが起こってしまうために、実用化という点でも問題があった。 数多くの酵母菌株の中から、亜硫酸生産能の高い菌株や、硫化水素生産能の低い菌株を選抜することは一般的に行われてきたことである。しかしながら、菌株の選抜には、発酵試験が必要であり、それには多くの時間がかかるため、あまり効率のよい選抜法ではなかった。 近年、様々な生物種においてゲノム上の遺伝子あるいは遺伝子以外の領域のDNA断片を膜上、あるいはガラス上に固定化したDNAアレイ、DNAチップなどを用いて、網羅的な遺伝子解析が可能になってきた。例えばビール酵母については、GeneFilter(Research Genetics社)を用いた醸造発酵中の遺伝子発現解析が報告されている(非特許文献4)。 また、細胞内の代謝産物について、キャピラリー電気泳動−質量分析計(CE−MS)により網羅的且つ直接に定量することができるようなメタボローム解析を行うことが可能になってきた。キャピラリーに試料を注入し、その両端に高電圧を印加すると、全ての陽イオン性物質は陰極方向に、また陰イオン性物質は陽極方向に移動するが、この手法は、その移動速度の違いによって各物質を分離し、その後、キャピラリーの末端に接続した質量分析計により各物質をその固有の質量数で選択的に検出するものである。この方法により、例えば、枯草菌における炭素源の変化による細胞内代謝物質の変動(非特許文献5)、イネの葉における代謝産物の一昼夜にわたる濃度変動(非特許文献6)が調査されている。 突然変異による育種方法については、UV(紫外線)照射、EMS(ethyl methanesulfonate)、MNNG(N−methyl−N‘−nitro−N−nitrosoguanidine)などの人工的な変異処理法が知られており、例えばEMS処理については栄養要求性変異株が取られている(非特許文献7)。しかしながら、これらの変異原誘発による方法を用いて目的の形質の変異株を得ることができても、目的の遺伝子以外の部位にもランダムに変異が入り、目的の形質以外の形質も変化してしまい、その結果、例えば醸造に必要な発酵特性を失う可能性がある。一方で、微生物集団の中には非常に低頻度で自然発生的に突然変異が起こるが、それらの変異株を的確に選択分離することができれば人工的な変異処理をしなくてもよい。特許第2005398号公報特許第3514507号公報特開2005−65572号公報特開平8−214869号公報C.Korch et al,,Proc.Eur.Brew.Conv,Congress,,Lisbon,p.201−208,1991J.Hansen et al.,Nature Biotech.,Vol.14,p.1587−1591,1996J.Hansen and M.C.Kielland−Brandt,J.Biotech.,Vol.50,p.75−87,1996K.Olesen et al.,fems Yeast Res.,Vol.2,p.536−573,2002T.Soga et al.,Anal.Chem.,Vol.74,p.2233−2239,2002S.Sato et al.,Plant J.,Vol.40,p.151−163,2004G.Lindegren et al.,Can.J.Genet.Cytol.,Vol.7,p.491−499,1965 ビールや発泡酒、その他の雑酒、ワイン、焼酎、ウイスキーの醸造において、酵母はアルコール発酵を行うのみならず、様々な香気成分を生成する。酵母の菌株と麦汁成分、発酵制御法の組み合わせによって、ビールや発泡酒、その他の雑酒の香味に特徴を持たせるので、特徴的な酵母の菌株を選抜することは、適切な醸造管理を行う上で欠かせない技術である。しかしながら、目的とする香味を作るような酵母を選抜することは、膨大な菌株の発酵試験を行う必要が有り、時間も手間も非常にかかる上に、菌株ストックに所望の菌株があるとは限らない。 亜硫酸は、ビールや発泡酒、ワインの品質保持期間に影響を与える重要な物質であり、また硫化水素は、ビールや発泡酒、ワインにおいて、製品の香味上好ましくない特徴の原因となる香気成分である。また、硫化水素は他の硫黄系オフフレーバー原因物質の前駆体となる場合もあるため、その量を調節すれば、他のオフフレーバーの調節も可能となる。しかし、従来の醸造法においては一方を減少させれば他方も減少してしまうという、トレードオフの連動現象がみられるため、非遺伝子工学的手法によりこれを断ち切るのは困難であった。 以上の状況をふまえ、本発明は、醸造用酵母において硫化水素生産を増加させずに亜硫酸を高生産させる育種法を提供することを目的とする。さらに、本発明はさまざまな比率の亜硫酸生産量と硫化水素生産量を有する酵母を育種し、目的に応じた多様な酵母の育種を可能にすることを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するため亜硫酸、硫化水素の生産量が共に低いパン酵母、及び亜硫酸、硫化水素の生産量が共に多い実用下面発酵酵母における含硫アミノ酸の生合成経路について、DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析、及びキャピラリー電気泳動−質量分析装置(CE−MS)、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたメタボローム解析を行った。その結果、実用下面発酵酵母ではパン酵母に比べて硫酸イオン還元経路の中間代謝産物である亜硫酸、硫化水素生産量が高くなっていること、またアスパラギン酸からホモシステインを合成する経路の中間代謝産物であるホモセリン、O−アセチルホモセリンの細胞内濃度が低くなっていることを見出した。 この知見に基づき、実用下面発酵酵母での硫化水素生産の律速は、ホモシステイン合成において硫化水素以外の基質であるO−アセチルホモセリンの細胞内量であるとの仮説を建てた。そして、パン酵母に20種類のアミノ酸をそれぞれ単独で添加したときの亜硫酸と硫化水素生産量を測定したところ、システインとスレオニンを添加したときにこれらの生産量が増大することを確認した。さらに、パン酵母にスレオニンを添加したときのDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析とCE−MS、GC、HPLCを用いたメタボローム解析により、スレオニンを添加すると細胞内のO−アセチルホモセリン量が低下し、且つ硫酸イオン還元経路において亜硫酸より上流に位置する中間代謝物を作る酵素遺伝子の発現が増大することを確認した。かくして、硫化水素生産の律速は、ホモシステイン合成において硫化水素以外の基質であるO−アセチルホモセリンの細胞内量であるとの上記仮説を検証した。 一方、実用下面発酵酵母において、YNL311C遺伝子の破壊などによって、硫酸イオン還元経路において亜硫酸より上流に位置する中間代謝物を作る酵素を増大させると、亜硫酸生産量及び硫化水素生産量がともに増加するが、亜硫酸生産量のほうがより影響を受け、硫化水素生産量に比べて相対的に亜硫酸生産量が増加する。また、HOM3遺伝子の過剰発現などによって、アスパラギン酸からホモシステインを合成する経路に位置する遺伝子発現を増大させると、亜硫酸生産量、及び硫化水素生産量がともに減少するが、硫化水素生産量のほうがより影響を受け、亜硫酸生産量に比べ相対的に硫化水素生産量が減少する。 すなわち、醸造用酵母において、硫酸イオン還元経路上の酵素を増大させることにより、亜硫酸生産量を増大させることができ、且つアスパラギン酸からホモシステインを合成する経路の酵素を増大させることにより、O−アセチルホモセリンの細胞内濃度を増大させ、硫化水素生産量を減少させることができる。つまり、これらを組み合わせれば、硫化水素生産量を増加させることなく亜硫酸生産量のみを増加させる代謝制御が可能となる。 ところで、最終産物によるフィードバック阻害が起こるような代謝経路については、そのフィードバック阻害を解除することにより、代謝流量を増大させることができる。そのようなフィードバック阻害の解除は、例えば、最終産物によって阻害される酵素における最終産物が酵素に結合できなくなるような変異、代謝経路上の酵素の遺伝子のプロモーター領域の変異、あるいは当該酵素の過剰発現により、実現することができる。 発明者らは、硫化水素及び亜硫酸代謝経路において、その最終産物である含硫アミノ酸のアナログ(例えばメチオニンであればエチオニン)に対する耐性株を取得すれば、当該含硫アミノ酸合成に関与するフィードバック阻害が解除され、硫酸イオン還元経路の代謝酵素が増強され、中間産物である亜硫酸、硫化水素含有量が共に増加した株が取得できると考えた。そして、まずエチオニン耐性株を取得し、エチオニン耐性株の中から硝酸鉛含有寒天培地で茶褐色を呈する硫化水素高生産株を取得した。次いで、得られた硫化水素高生産株の亜硫酸量を測定し、亜硫酸高生産、且つ硫化水素高生産となるエチオニン耐性株を取得した。 次いで、そのような亜硫酸高生産、且つ硫化水素高生産株について、スレオニンのアナログであるヒドロキシノルバリンに対する耐性株を取得することで、アスパラギン酸からホモシステインを合成する経路を増強すれば、培養液中の硫化水素含有量が減少し、最終的には亜硫酸高生産、且つ硫化水素低生産となると考えた。そして、ヒドロキシノルバリン含有培地中で増殖する変異株を取得し、これらの中から硝酸鉛含有寒天培地でコロニーが白色を呈する硫化水素低生産株を選択した。次いで、得られた硫化水素低生産株の亜硫酸生産量を測定し、高亜硫酸生産能を保持した株を選抜した。 こうして、2段階でそれぞれ異なるアミノ酸のアナログに対する耐性株を取得することにより、硫化水素生産量を増加させず、亜硫酸生産量のみ親株よりも増加させた酵母の育種法を考え、2種類の醸造用酵母において目的の変異株を単離することに成功した。 本発明は、上記の知見と成果に基づいてなされたものであり、酵母の硫化水素及び亜硫酸生成経路において、硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量を増大させ、且つO−アセチルホモセリンからホモシステインの合成経路の代謝流量を増大させることにより、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量が増加している酵母を育種する方法に関する。 第1の実施形態において、本発明の方法は、特定遺伝子の発現量やその遺伝子産物の活性を制御することにより酵母株を育種する方法を提供する。 すなわち、SUL1、SUL2、MET3、MET14、及びMET16から選ばれる1以上の遺伝子の発現量又は当該遺伝子産物の活性を増加させることにより、硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量を増大させ、且つHOM3、HOM2、HOM6、MET2、及びMET17から選ばれる1以上の遺伝子の発現量又は当該遺伝子産物の活性を増加、ならびに/あるいは、THR1及び/又はTHR4遺伝子の発現量又は当該遺伝子産物の活性を減少させることにより、O−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成量を増大させて目的の酵母株を取得する。例えば、MET14遺伝子産物の活性を増加させ、且つHOM3遺伝子の発現量を増加させることにより、所望の酵母株を取得することができる。 なお、遺伝子の発現量又は当該遺伝子産物の活性は、遺伝子プロモーターの変異、遺伝子量の増減、遺伝子産物の阻害及び/又は安定化因子の調節、発酵条件の変動、培地条件による遺伝子産物量の増減や比活性の制御、ならびにフィードバック阻害の制御等によりコントロールすることができる。 第2の実施形態において、本発明の方法は、下記の工程を含む:1)含硫アミノ酸アナログを含む鉛含有プレート上で茶褐色コロニーを形成する変異株を単離する、2)単離された変異株のうち、亜硫酸生産量が増加している変異株を選抜する、3)選抜された変異株をスレオニンアナログ含有培地で増殖させた後、鉛含有プレート上で白色コロニーを形成する変異株を単離する、4)単離された変異株のうち、親株に比較して亜硫酸生産量が増加している変異株を選抜する。 上記工程1)で用いられる含硫アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、セレノメチオニン又はS−エチルシステインが挙げられ、スレオニンアナログとしてはヒドロキシノルバリンが挙げられる。 本発明はまた、本発明の方法によって育種された、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量が増加している酵母株を提供する。本発明の酵母株の亜硫酸生産量は、親株に比較して風味を損なわない程度に増加していることが望ましい。 本発明の酵母株の一例としては、受付番号FERM BP−10486として、2006年1月19日付けで独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に国際寄託されている酵母株を挙げることができる。 本発明はまた、本発明の方法で育種された酵母株を用いた酒類の製造方法、及び該方法によって製造される酒類を提供する。上記方法で製造される酒類は、親株を用いて製造される酒類に比較して、硫化水素含量が増加することなく、亜硫酸含有量のみが増加する。よって、鮮度維持に優れ、品質の高い酒類となる。 本発明の方法によれば、硫化水素生産量を増加させることなく、亜硫酸生産量の高い酵母を育種することができる。さらに、本発明では2段階で酵母を育種することにより、さまざまな比率の亜硫酸生産量と硫化水素生産量を有する酵母を育種でき、目的に応じた多様な酵母の育種が可能となる。また、本発明の酵母を用いることで、醸造時の鮮度維持を高め、且つ異臭の原因を抑えることが可能となり、品質の高い酒類の製造が可能となる。 図1は、パン酵母細胞内の含硫アミノ酸代謝経路と各酵素をコードする遺伝子を示した図である。大枠の四角は酵母の細胞を表す。 図2は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011の細胞内アスパラギン酸の経時的な濃度変化を示すグラフである。OD600=30量の酵母菌体から抽出したサンプルを50μLの水に懸濁し、CE−MSによる分析を行い、濃度を測定した。 図3は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011の細胞内ホモセリンの経時的な濃度変化を示すグラフである。OD600=30量の酵母菌体から抽出したサンプルを50μLの水に懸濁し、CE−MSによる分析を行い、濃度を測定した。 図4は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011の細胞内O−アセチルホモセリンの経時的な濃度変化を示すグラフである。OD600=30量の酵母菌体から抽出したサンプルを50μLの水に懸濁し、CE−MSによる分析を行い、濃度を測定した。 図5は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011の培地中の総亜硫酸の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図6は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011の培地中の硫化水素の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図7は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011の細胞内ホモシステインの経時的な濃度変化を示すグラフである。OD600=30量の酵母菌体から抽出したサンプルを50μLの水に懸濁し、CE−MSによる分析を行い、濃度を測定した。 図8は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011の細胞内メチオニンの経時的な濃度変化を示すグラフである。OD600=30量の酵母菌体から抽出したサンプルを50μLの水に懸濁し、CE−MSによる分析を行い、濃度を測定した。 図9は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011の細胞内スレオニンの経時的な濃度変化を示すグラフである。OD600=30量の酵母菌体から抽出したサンプルを50μLの水に懸濁し、CE−MSによる分析を行い、濃度を測定した。 図10は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011の細胞内S−アデノシルホモシステインの経時的な濃度変化を示すグラフである。OD600=30量の酵母菌体から抽出したサンプルを50μLの水に懸濁し、CE−MSによる分析を行い、濃度を測定した。 図11は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011の細胞内S−アデノシルメチオニンの経時的な濃度変化を示すグラフである。OD600=30量の酵母菌体から抽出したサンプルを50μLの水に懸濁し、CE−MSによる分析を行い、濃度を測定した。 図12は、パン酵母S288Cと実用下面発酵酵母KBY011のメチオニン合成に関与する遺伝子の発現量の経時的な変化を示すグラフである。パン酵母については、0時間目のS288Cの遺伝子発現量をコントロールにして、6、24、48時間後のS288Cの各遺伝子の発現量を相対的な比率で示した。下面発酵酵母については、0時間目のKBY011の遺伝子発現量をコントロールにして、6、24、48時間後のKBY011の各遺伝子の発現量を相対的な比率で示した。 図13は、パン酵母S288Cにおけるスレオニンの添加時、及び非添加時の細胞内ホモセリンの経時的な濃度変化を示すグラフである。OD600=30量の酵母菌体から抽出したサンプルを50μLの水に懸濁し、CE−MSによる分析を行い、濃度を測定した。 図14は、パン酵母S288Cにおけるスレオニンの添加時、及び非添加時の細胞内O−アセチルホモセリンの経時的な濃度変化を示すグラフである。OD600=30量の酵母菌体から抽出したサンプルを50μLの水に懸濁し、CE−MSによる分析を行い、濃度を測定した。 図15は、パン酵母S288Cにおけるスレオニンの添加時、及び非添加時の経時的な培地中の遊離亜硫酸の濃度変化を示すグラフである。 図16は、パン酵母S288Cにおけるスレオニンの添加時、及び非添加時の培地中の硫化水素の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図17は、パン酵母DBY7286とそのynl311c破壊株におけるScMet14、及びLgMet14タンパク質の安定性を示した図である。 図18は、パン酵母SYT001株とynl311c破壊株の培地中の遊離亜硫酸の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図19は、実用下面発酵酵母KBY011、及びその減数体であるB43の培地中の遊離亜硫酸の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図20は、実用下面発酵酵母KBY011、及びその減数体であるB43の培地中の硫化水素の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図21は、B43においてLg型Sc型各一つずつの該遺伝子を破壊した株の培地中の遊離亜硫酸の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図22は、B43においてLg型Sc型各一つずつの該遺伝子を破壊した株の培地中の硫化水素の経日的な濃度変化を示すグラフである。 図23は、B43においてLg型Sc型各一つずつの該遺伝子を破壊した株の鉛含有培地での硫化水素生産量を測定した図である。寒天培地は20℃で4日間培養した。 図24は、B43においてLg型の該遺伝子を過剰発現した株の培地中の遊離亜硫酸の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図25は、B43においてLg型の該遺伝子を過剰発現した株の培地中の硫化水素の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図26は、B43においてLg型の該遺伝子を過剰発現した株の鉛含有培地での硫化水素生産量を測定した図である。寒天培地は20℃で4日間培養した。 図27は、醸造用酵母VTT−A69025、及びVTT−A69025より単離したエチオニン耐性の亜硫酸高生産、且つ硫化水素高生産株、及びYMO73の鉛含有培地での硫化水素生産量を測定した図である。寒天培地は20℃で4日間培養した。 図28は、醸造用酵母VTT−A69025、及びYMO73の培地中の遊離亜硫酸の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図29は、醸造用酵母VTT−A69025、及びYMO73の培地中の硫化水素の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図30は、実用下面発酵酵母KBY011、及びKBY011より単離したエチオニン耐性の亜硫酸高生産、且つ硫化水素高生産株、及びYMO106の鉛含有培地での硫化水素生産量を測定した図である。寒天培地は20℃で4日間培養した。 図31は、実用下面発酵酵母KBY011、及びYMO106の培地中の遊離亜硫酸の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図32は、実用下面発酵酵母KBY011、及びYMO106の培地中の硫化水素の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図33は、B43株でYNL311Cを破壊した株の作製法と、各遺伝子の破壊を確認するために行ったPCRの結果を示す。 図34は、B43株、及びYMO3113株の培地中の遊離亜硫酸の経時的な濃度変化を示すグラフである。 図35は、B43株、B43株でYNL311Cを破壊した株、及びB43株でYNL311Cを破壊した株にScHOM3遺伝子を過剰発現させたYMO3113株の鉛含有培地での硫化水素生産量を測定した図である。寒天培地は20℃で4日間培養した。 本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2006−15278号の明細書に記載された内容を包含する。 本発明の要旨は、酵母の硫化水素及び亜硫酸代謝経路において、硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量を増大させ、且つO−アセチルホモセリンからホモシステインの合成経路の代謝流量を増大させることにより、硫化水素生産量を増加させることなく、亜硫酸生産量のみ親株よりも増加した酵母を育種することにある。 一般に、特定の合成経路の代謝流量を改変するためには、その代謝経路に関与する遺伝子上の突然変異株を単離する方法と、その代謝経路に関与する遺伝子の過剰発現あるいは破壊という遺伝子操作による方法がある。以下、遺伝子操作により目的とする酵母を取得する方法と、突然変異株を単離することにより目的とする酵母を育種する方法について、それぞれ詳述する。1.遺伝子操作による酵母の育種方法 本発明の第1の実施形態では、特定遺伝子の発現を制御あるいは指標として、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量のみ増加した酵母を取得する。 上記方法は、以下の2段階からなる:SUL1、SUL2、MET3、MET14、MET16遺伝子の発現量又は当該遺伝子産物の活性を増加させることにより、硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量が増大した酵母株を取得し(第1段階)、HOM3、HOM2、HOM6、MET2、及びMET17遺伝子の発現量又は当該遺伝子産物の活性を増加、ならびに/あるいは、THR1、THR4遺伝子の発現量又は当該遺伝子産物の活性を減少させることにより、O−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成量が増大した酵母株を取得する(第2段階)。 SUL1、SUL2、MET3、MET14、MET16遺伝子は、硫酸イオンから亜硫酸を生成する経路に関与する酵素をコードする遺伝子である。したがって、これらの遺伝子が高発現あるいは該遺伝子がコードする酵素の活性が増加すれば、亜硫酸及び硫化水素合成経路の代謝流量の増大が期待できる(図1参照)。 HOM3、HOM2、HOM6、MET2、及びMET17遺伝子は、アスパラギン酸からホモシステインを生成する経路に関与する酵素をコードし、その発現あるいは酵素活性の増加により、O−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成量の増大が期待できる(図1参照)。一方、THR1及びTHR4遺伝子は、ホモセリンからスレオニンを生成する経路に関与する酵素をコードし、その発現あるいは酵素活性の減少により、O−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成量の増大が期待できる(図1参照)。 なお、遺伝子の発現量又は当該遺伝子産物の活性は、遺伝子プロモーターの変異、遺伝子量の増減、遺伝子産物の阻害及び/又は安定化因子の調節、発酵条件の変動、培地条件による遺伝子産物量の増減や比活性の制御、ならびにフィードバック阻害の制御等によりコントロールすることができる。 発明者らは、HOM3、HOM2、HOM6、MET2、及びMET17遺伝子が破壊された酵母株は硫化水素高生産株となることを確認した。また、醸造用酵母において、MET14の分解に関与する因子であるYNL311C遺伝子を破壊するとMET14遺伝子産物が安定化され、その結果硫酸イオン還元経路上の酵素が増大し、亜硫酸高生産、且つ硫化水素高生産となった。次いで、このYNL311C遺伝子を破壊した株においてHOM3遺伝子を過剰発現させたところ、アスパラギン酸からホモシステインを合成する経路の酵素が同時に増大され、硫化水素生産量が親株と変わらず、亜硫酸生産量が増加した酵母を取得できることを確認した。 かくして、遺伝子操作によって、硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量が増大し、且つ、O−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成量が増大した酵母株を育種することにより、目的とする酵母株を取得できる。 なお、上記した遺伝子−SUL1、SUL2、MET3、MET14、及びMET16、ならびにHOM3、HOM2、HOM6、MET2、MET17、THR1及びTHR4遺伝子の正式名称とGenBank Accession Numberを以下に記載する。 これらの遺伝子は、それぞれ酵母における硫酸イオンから硫化水素の合成経路、O−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成量を予測するマーカーとして、硫化水素低生産、且つ亜硫酸高生産である酵母のスクリーニングに利用できる。2.突然変異株の単離による酵母の育種方法 本発明の第2の実施形態では、突然変異株を単離することにより、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量のみ増加した酵母を取得する。 上記育種方法は、以下の2段階4工程からなる:(1)硫化水素高生産能を有する含硫アミノ酸アナログ耐性株の取得し、(2)このうち亜硫酸高生産株を選抜し(第1段階)、(3)ホモシステイン合成経路が増強され、その結果硫化水素代謝量が高いスレオニンアナログ耐性株を取得し、(4)このうち亜硫酸高生産株を選抜する(第2段階)。 第1段階では、硫化水素及び亜硫酸代謝経路において、その最終産物である含硫アミノ酸のアナログに対する耐性株を取得することにより、当該含硫アミノ酸合成に関与するフィードバック阻害が解除され、中間産物である亜硫酸、硫化水素含有量が共に増加した株を取得する。 含硫アミノ酸アナログ耐性を有し、且つ硫化水素高生産株は、具体的には以下の方法で取得できる。即ち、酵母を適当な液体培地で培養し、遠心分離等により酵母菌体を得、含硫アミノ酸アナログ、グルコース、無機窒素源、ビタミン類、無機塩類、硝酸鉛及び寒天を含む培地(以後、含硫アミノ酸アナログ含有鉛最少培地という)で当該酵母を培養し、得られる茶褐色のコロニーを硝酸鉛、グルコース、酵母エキス、ペプトン、硫酸アンモニウム及び寒天を含む培地(以後、硝酸鉛含有培地という)でシングルコロニー分離を行い、茶褐色のコロニーを分離、選抜する。この分離作業は好ましくは3回以上行うのが良い。得られた硝酸鉛含有培地で再現性良く茶褐色コロニーを形成する株を培養し、良好な増殖を示し、且つ適当な液体培地で、嫌気攪拌培養を行い、親株より硫化水素、亜硫酸が共に増加した株を高亜硫酸・高硫化水素生産含硫アミノ酸アナログ耐性株として選抜すればよい。 ここで、「含硫アミノ酸」とは、メチオニンあるいはシステイン等酵母生体内に含まれる硫黄含有アミノ酸を示す。「含硫アミノ酸アナログ」とは、特に限定的ではないがエチオニン、セレノメチオニン、S−エチルシステイン等の酵母生体内に通常は存在しない、含硫アミノ酸の構造類似体を言う。 含硫アミノ酸アナログ含有培地における含硫アミノ酸アナログの使用濃度は、酵母の含硫アミノ酸アナログに対する耐性が、目的とする酵母株により異なるので限定的ではないが、エチオニンがDL−エチオニンである場合、2.5mg/ml以上、好適には5〜20mg/mlが推奨される。エチオニン含有鉛培地におけるエチオニン以外の他の培地成分はアミノ酸を含まない合成培地であれば特に限定されないが、市販の合成培地、例えばBacto Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate (Difco)0.17%に硫酸アンモニウム0.5%、グルコース2%、硝酸鉛0.1%、及び寒天2%を添加したものが好適に利用できる。含硫アミノ酸アナログ含有鉛最少培地における酵母の培養条件は、酵母が生育できる条件であれば良く、特に限定されないが、通常は20℃、10日間程度の好気状態が推奨される。 硫化水素生産量は、例えば、硝酸鉛を含有した寒天培地を使用することにより目視で確認することができる。即ち、被検体酵母株が硫化水素を生成すると、培地中の硝酸鉛と反応し硫化鉛がコロニーの回りに生成され、コロニーの色が茶褐色となるので、コロニーがより茶褐色のものを選抜すれば、硫化水素高生産株が得られ、コロニーが薄茶色から白色のものを選抜すれば、硫化水素低生産株が得られる(G.J.Cost and J.D.Boeke,Yeast,Vol.12,p939−941,1996)。 なお、酵母菌体を得るための培地は酵母が増殖でき、菌体を収得できれば特に限定されない。好適にはYPD10(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース10%)が用いられる。培養温度は酵母が増殖できれば限定されないが、通常は18〜25℃、好適には20℃が推奨される。液体培地での培養方法も特に限定されず、静置培養あるいは振とう培養何れでも良い。液体培地に生育した菌体の集菌方法も特に限定されないが、通常は3000rpm程度の遠心分離により行われる。このとき、得られる菌体を滅菌水で1回以上洗浄することが望ましい。 第2段階では、得られた亜硫酸高生産、且つ硫化水素高生産株について、スレオニンアナログに対する耐性株を取得することで、アスパラギン酸からホモシステインを合成する経路が増強され(すなわち、硫化水素代謝の律速が外れ)、硫化水素低生産株を取得する。 スレオニンアナログ含有最少培地で増殖し、且つ硫化水素低生産株は、具体的には以下の方法で取得できる。即ち、酵母を適当な液体培地で培養し、遠心分離等により酵母菌体を得、スレオニンアナログ、グルコース、無機窒素源、ビタミン類、及び無機塩類を含む培地(以後、スレオニンアナログ含有最少培地という)で当該酵母を培養する。 ここで、「スレオニンアナログ」とは、特に限定するものではないがヒドロキシノルバリン等の酵母生体内に通常は存在しない、スレオニンの構造類似体を言う。 次に、取得されたスレオニンアナログ耐性酵母の中から、硫化水素生産が特に抑圧された株を、硝酸鉛含有寒天培地を使用して選抜する。前述したように、被検酵母株が硫化水素を生成すると、培地中の硝酸鉛と反応し硫化鉛がコロニーの回りに形成され、コロニーが茶褐色になるので、コロニーが白色であるものを選択することにより、目的の硫化水素低生産酵母が選抜できる。硝酸鉛含有培地としては、酵母エキス0.5%、ペプトン0.3%、グルコース4%、硫酸アンモニウム0.02%、硝酸鉛0.1%、及び寒天2%(以後硝酸鉛含有寒天培地という)が使用できる。硝酸鉛含有寒天培地での酵母の培養条件は、酵母が良好に生育すればよく、特に限定されないが、通常は18〜25℃で4〜8日間培養すればよい。好適には好気状態で20℃、5日間の培養が推奨される。 得られた白色のコロニーを形成する酵母株は、さらに硝酸鉛含有培地で3回以上培養し、良好な増殖を示すものを選択することが好ましい。そして、適当な液体培地で、嫌気攪拌培養を行い、親株と比べて硫化水素生産量が増加しておらず、且つ亜硫酸生産量が増加した株を目的の酵母株として選抜する。 かくして、含硫アミノ酸アナログを含む鉛含有プレート上で茶褐色コロニーを形成する変異株を単離し、このうち亜硫酸生産量の多い株を選抜し(第1段階)、次いで、スレオニンアナログ含有最少培地で増殖させた後、鉛含有プレート上で白色コロニーを形成する変異株を単離し、得られた硫化水素低生産株の亜硫酸生産量を測定して、高亜硫酸生産能を保持した株を選抜する(第2段階)ことにより、目的の酵母株を育種することができる。3.酒類の醸造 本発明の方法で得られる酵母株は、従来の酵母に比べて、醸造時の鮮度維持に重要な亜硫酸の生産量が高く、且つ異臭の原因の一つである硫化水素の生産量が高くない。そのため、本発明の酵母株を用いて醸造される酒類は、風味がよく品質に優れる。即ち、本発明は、本発明の酵母株を用いた酒類の製造方法と、該方法によって製造される酒類も提供する。 本発明の酵母を用いて醸造される「酒類」としては、ビール、発泡酒、その他の雑酒、ワインを挙げることができる。ビールとは麦芽から調整した糖液にホップで苦味をつけ、酵母で発酵、熟成させた、比較的低アルコール性の、清澄な発泡性飲料である。発泡酒は、麦芽を原料の一部とした酒類で発泡性を有する雑酒を意味する。その他の雑酒は、麦芽以外の原料を用いて酵母で発酵、熟成させた酒類である。ワインはブドウの実を原料としアルコール発酵させてつくる飲料である。 酒類の製造方法は、例えばビールの場合であれば、原料である麦芽を大麦からつくる製麦工程、麦芽から麦汁をつくる仕込み工程、酵母によるアルコール発酵と熟成が進行する発酵工程、できたビールを濾過し容器詰めするパッケージング工程からなる。酒類の製法についての詳細は、発酵ハンドブック(共立出版社、栃倉辰六郎、山田秀明、別府輝彦、左右田健次監修)を参照されたい。 酒類中の硫化水素は、例えば以下の方法で定量できる。即ち、得られる醸造酒をサンプリングし、バイアル中で硫化水素を気化させ、バイアルのヘッドスペースにある硫化水素をガスクロマトグラフィーにより化学発光硫黄検出器(SCD)を用いて定量する(A.K.Vickers,J.Ellis and C.George,Gulf Coast Conference,Poster #75)。本発明における硫化水素生産量の比較は、用いた親株により異なるが、試験開始後1日目もしくは2日目の生産量で比較する。 また、酒類中の亜硫酸は、例えば以下の方法で定量できる。即ち、得られる醸造酒をサンプリングし、フィルターを通して菌をろ過した後、ホルムアルデヒドと反応させ、安定なヒドロキシメタンスルホン酸に導き、HPLCに注入し、ポストカラムにより蛍光検出し定量する(島津製作所アプリケーションニュース、No.L258)。本発明における亜硫酸生産量の比較は、用いた親株により異なるが、2日目もしくは3日目の生産量で比較する。 ビール用麦汁を原料として含硫アミノ酸アナログ耐性株、含硫アミノ酸アナログ耐性、且つスレオニンアナログ耐性株、及びそれらの親株を用い、ビールを醸造し、ビール中の硫化水素濃度を比較した。その結果、醸造酵母であるKBY011で醸造したビール中には14.7ppmの遊離亜硫酸(50時間後)が検出されたが、上記方法で取得したエチオニン耐性、且つヒドロキシノルバリン耐性で選抜された変異株の遊離亜硫酸量は39.2ppm(50時間後)であった。また、硫化水素生産量については親株と変異株の間で有意な差が見られなかった。 以下、実施例を示し本発明の効果をさらに具体的に説明するが、本発明はこれ等により何ら限定されるものではない。1.仮説を建てるまでの知見 亜硫酸及び硫化水素生産能が高い下面発酵酵母とそれらの生産能が低いパン酵母について、同じ条件にて発酵試験を行い、各サンプルの遺伝子発現レベルと代謝産物レベルを解析し、発現制御を受けているところはどこか、代謝のボトルネックがどこにあるかを読み取り、亜硫酸、及び硫化水素の生成経路における律速段階を明らかにすることを目的として以下の実験を行った。 寒天2%を添加したYPD寒天培地に増殖した実用下面発酵酵母S.pastorianus KBY011株(キリンビール株式会社所有菌株ストックより入手)あるいはパン酵母S.cerevisiae S288C株(キリンビール株式会社所有菌株ストックより入手、H.Takagi et.al.,J.Bacteriol.Vol.182,p4249−4256,2000)のシングルコロニーを、それぞれ5mLのYPD液体培地に接種し、20℃にて1日間培養した。その培養液をそれぞれYPD10(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース10%)500mlに植菌し、20℃で3日間好気攪拌培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、滅菌水に懸濁した。酵母添加量を0.5%(w/v)で、Bacto Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate (Difco)0.4%、硫酸アンモニウム0.2%、グルコース10%液体培地(以後、SD最少培地という)に植菌し、20℃で3日間嫌気攪拌培養し酒母とした。酒母量を0.5%(w/v)として、1000mL容瓶にてSD最少液体培地1000mLを20℃にて嫌気攪拌培養し、発酵した。培養を開始後、0、6、12、22、46、70、94、118、142、166時間後の計10ポイントでサンプリングを行い、細胞濃度(OD)、培養液密度測定による糖消費量、亜硫酸生産量、及び硫化水素生産量を測定し、同じサンプルをCE−MSによるメタボローム分析、HPLCによるアミノ酸分析、及びDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析に供した。結果を図2から図11に示す。 下面発酵酵母とパン酵母で、各代謝物を比較したところ、ピークの時刻が異なる代謝物と、同じ時刻にピークを示すが、濃度が異なる代謝物の二つに分かれることがわかった。前者には、硫化水素、ホモシステイン、S−アデノシルメチオニン等が含まれていた。また、後者については、下面発酵酵母におけるホモセリンやO−アセチルホモセリン等の濃度が、パン酵母のそれらと比較して低いことが明らかとなった。これらの結果から、下面発酵酵母における亜硫酸と硫化水素生産能の高さは、ホモシステイン生成基質であるO−アセチルホモセリンと硫化水素の中で、O−アセチルホモセリン濃度が低いために、硫化水素が使用されずに蓄積するためと考えられた。 また、下面発酵酵母とパン酵母について遺伝子発現レベルを比較すると、硫黄系物質代謝経路上ではMET16、MET10、HOM3、MET2の遺伝子に発現パターンに違いが観察された。結果を図12に示す。 これらの結果から、下面発酵酵母とパン酵母における代謝物のボトルネックは、ホモセリンからO−アセチルホモセリンの経路にあり、遺伝子発現調節の違いは、MET16、MET10、HOM3、MET2遺伝子でみられることが確認された。かくして、下面発酵酵母とパン酵母における、代謝のボトルネックと遺伝子発現調節の相違をCE−MSによるメタボローム解析とDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析によって確認した。 以上の知見に基づき、下面発酵酵母とパン酵母における代謝物のボトルネックはO−アセチルホモセリンであり、硫化水素生成の律速はO−アセチルホモセリンにあるとの仮説を建てた。 また、MET14の過剰発現で見られるように、亜硫酸生産量を増加させるには亜硫酸までの代謝経路の遺伝子を増加させればよいことが知られており、亜硫酸生成の調節には、硫酸イオンから亜硫酸までの代謝流量が重要であることが考えられる(U.E.B.Donalies and U.Stahl,Yeast,Vol.19,p475−484,2002)。2.仮説の検証 O−アセチルホモセリンが硫化水素生産の律速であるかどうかを証明するために、パン酵母へのスレオニンの添加・非添加の発酵試験を行い、そのサンプルを遺伝子発現レベルと代謝産物レベルで解析した。具体的には以下の実験を行った。 寒天2%を添加したYPD寒天培地に増殖したパン酵母S.cerevisiae S288Cのシングルコロニーを、5mLのYPD液体培地に接種し、20℃にて1日間培養した。その培養液をYPD10(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース10%)4000mlに植菌し、20℃で3日間好気攪拌培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、滅菌水に懸濁した。酵母添加量を0.5%(w/v)で、Bacto Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate (Difco)0.4%、硫酸アンモニウム0.2%、グルコース10%液体培地(以後、SD培地という)に植菌し、20℃で3日間嫌気攪拌培養し酒母とした。酒母量を0.5%(w/v)として、5000mL容瓶にてSD最少液体培地4500mLを20℃にて嫌気攪拌培養し、発酵した。培養を開始後、0、6、24、48時間後の計4ポイントでサンプリングを行い、細胞濃度(OD)、培養液密度測定による糖消費量、亜硫酸生産量、及び硫化水素生産量を測定し、同じサンプルをCE−MSによるメタボローム分析、HPLCによるアミノ酸分析、及びDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析に供した。結果を図13から16、及び表2に示す。 表2はスレオニンを添加した実験で、0時間(スレオニン添加前)の酵母をコントロールとして、6、24、48時間後に発現量が2倍以上上昇した遺伝子数と遺伝子名、及び6回の発現量比較データの平均値と標準偏差を示す。メチオニントランスポーターをコードする遺伝子MUP1、及びスレオニンを加水分解する酵素をコードするCHA1遺伝子は、スレオニン添加後48時間目まで常に発現が誘導されていた。一方、メチオニン合成に関与する遺伝子群(MET5,MET14,MET17,MET3,MET32)は、スレオニン添加後24時間目では発現が誘導されていたが、6、48時間目では誘導されていなかった。硫化水素生産のパターンを見ると24時間目で最も高く、メチオニン合成系遺伝子の発現誘導と硫化水素生成量が一致しており、両者で相関が見られた。また、O−アセチルホモセリン量は6時間目で最も高く、硫化水素生産よりも若干早い時間にピークが現れていた。この結果は下面発酵酵母とパン酵母の比較の実験結果と一致していた。以上の結果から、スレオニンを添加すると細胞内のO−アセチルホモセリン量が減少し、硫化水素生産量が増加したことが示され、仮説と合致した結果が得られた。 パン酵母は約6000の遺伝子を持っており、これらの遺伝子については、網羅的な遺伝子破壊株が作製されている。そして、これらの酵母全遺伝子破壊株のセットは既にOPEN BIOSYSTEMS社より市販されている。BY4742を親株とした非必須遺伝子の破壊株のセットを用いて、鉛含有寒天培地で茶褐色のコロニーを形成する硫化水素高生産変異株を単離するため、約5000株の網羅的なスクリーニングしたところhom3、hom2、hom6、met2、met17、ynl311c破壊株が同定された。HOM3、HOM2、HOM6、MET2、MET17の各遺伝子は、O−アセチルホモセリン代謝、もしくは合成に関わる遺伝子であり、O−アセチルホモセリン合成が硫化水素生産と密接な関係にあることが示された。 YNL311C遺伝子はMET14遺伝子と相互作用をすることが酵母ツーハイブリッドシステムによる網羅的解析で報告されている(P.Uetz et.al.,Nature,Vol.403,p623−627,2000)。Ynl311cは哺乳類のFボックスタンパク質であるSKP2と相同性が有り、細胞内タンパク質のユビキチン化に関与していることが示唆されている。今回、Ynl311cがMet14タンパク質の安定化に関係しており、ynl311c破壊株ではMet14タンパク質が安定となっていることを見出した。 つまり、5’末端にc−Mycエピトープを付加したScMET14、及びLgMET14遺伝子をpYES2.0のガラクトース誘導性プロモーターの下流に連結したプラスミドを構築し、ウラシル要求性のパン酵母DBY7286(H.Yoshimoto et.al.,J.Biol.Chem.,Vol.277,p31079−31088,2002)にそれぞれ導入した。形質転換体をYeast Nitorogen Base w/o Amino Acids 0.67%、ガラクトース10%液体培地(以後、ガラクトース含有最少培地という)20ml中で1日間30℃で好気攪拌培養後、培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、滅菌水に懸濁した。再度、培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、Yeast Nitorogen Base w/o Amino Acids 0.67%、グルコース10%液体培地(以後、グルコース含有最少培地という)に懸濁した。その後、12.5時間後まで30℃で好気攪拌培養し、サンプリングを行った。各サンプリング時間の培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、SDS−PAGE用のサンプリングバッファーに懸濁し、等量をSDS−PAGEに供し、PVDF膜にトランスファーした後、抗c−Myc抗体(Sigma社、モノクローナル抗体)を用いたウェスタンブロッティングにより、ScMet14、及びLgMet14タンパク質の安定性を確かめた。結果を図17に示す。この結果から、ynl311c破壊株はMET14遺伝子過剰発現と同じ効果を示すことが確認された。 そこで、野生型パン酵母SYT001株(ウラシル要求性ura3変異をもつDBY7286を、野生型パン酵母URA3遺伝子断片で形質転換することによりURA3+となった株)とそのYNL311C遺伝子を破壊した株(SYT001のYNL311C遺伝子をG418耐性マーカー遺伝子を挿入することにより破壊した株)において、酵母エキス0.5%、ペプトン0.3%、グルコース10%、硫酸アンモニウム0.02%の培地において、嫌気攪拌培養を行い、亜硫酸生産量をHPLCを用いて測定した。結果を図18に示す。その結果、ynl311c破壊株では硫化水素以外に亜硫酸も高生産になっていることが確認された。つまり、パン酵母の遺伝子破壊株のスクリーニングで単離されたynl311c破壊株の解析結果は、「硫化水素生成の律速段階はO−アセチルホモセリンである」という仮説に反することなく、「亜硫酸生成の調節には、硫酸イオンから亜硫酸までの代謝流量が重要である」という事実を支持するものであった。3.変異株育種法までの知見 下面発酵酵母は、Sc型、Lg型遺伝子をそれぞれ約2セット持った4倍体に近い異質倍数性を示すため、下面発酵酵母で遺伝子の完全破壊を行うには4つの遺伝子を破壊する必要があり、完全破壊株の作製は困難である。そこで、下面発酵酵母を減数分裂させて、親株と性質が類似した減数体を選抜することで、以降の遺伝子破壊株を作製するための元株を取得した。そして、KBY011からKBY011と似た亜硫酸・硫化水素生産量を示す減数体としてB43を選抜した。結果を図19、20に示す。 次に、B43を用いて、hom3、thr1、met17、ynl311c破壊株を作製した。破壊株の作製に当たり、それぞれHOM3、THR1、MET17、YML311C遺伝子のLg型遺伝子であるLgHOM3、LgTHR1、LgMET17、LgYML311C遺伝子の全長のクローニングを行った。これらの遺伝子のクローニングは、クローンの両末端の塩基配列が決定されたKBY011由来のゲノムDNAが挿入されたコスミドの中から、Sc型の各遺伝子の配列を元にした相同性検索を行い、各遺伝子の全長が入ったコスミドクローンを同定した。次いで、そのコスミドクローン中の該塩基配列を決定し、その配列情報を元にプライマーを設計し、PCRにより各遺伝子の全長を単離した。これら各遺伝子のコード領域の塩基配列を各々配列番号1〜4に示す。破壊株の作製において、Sc型遺伝子の破壊はG418耐性マーカーを該遺伝子のコード領域に挿入することにより行い、また、Lg型遺伝子の破壊はブラストサイジンS耐性マーカーを該遺伝子のコード領域に挿入することにより行った。これらの株の亜硫酸、硫化水素生産量をYPD10培地を用いた嫌気攪拌培養により測定した。また、硫化水素生産量については鉛含有培地においてもその生産量を測定した。その結果を図21から23に示す。hom3、met17、ynl311c破壊株については、親株B43と比べて亜硫酸、硫化水素生産量ともに増加した。但し、ynl311c破壊株の硫化水素生産量は他の2つの破壊株と比べると微増にとどまった。 B43を用いてLgHOM3、LgTHR1、LgMET17遺伝子の過剰発現株を作製した。過剰発現用のプラスミドの作製に当たり、pYES2.0(Invitrogen社)のガラクトース誘導性プロモーターをパン酵母由来のPGKプロモーターにG418耐性を賦与するマーカー遺伝子を連結したものに置き換え、さらにpYES2.0のNheI切断部位に酵母由来のGAPプロモーター、PGKターミネーターの発現カセットを挿入し、目的の遺伝子を酵母で過剰発現させるためのプラスミド(pYES2−PGK−G418)を作製した。このpYES2−PGK−G418の発現カセット部位に、LgHOM3、LgTHR1、LgMET17遺伝子の全長をそれぞれ挿入することにより、各遺伝子の過剰発現用のプラスミドを作製した。 このプラスミドを用いて作製したLgHOM3、LgTHR1、LgMET17遺伝子の各過剰発現株の亜硫酸、硫化水素生産量を300μg/mlG418含有YPD10培地を用いた嫌気攪拌培養により測定した。また、硫化水素生産量については400μg/mlG418鉛含有培地においてもその生産量を測定した。その結果を図24から図26に示す。LgHOM3とLgMET17遺伝子の過剰発現株では硫化水素生産量が激減し、亜硫酸生産量も低下した。LgTHR1遺伝子の過剰発現株では硫化水素生産量が増加し、亜硫酸生産量も若干増加した。 以上の遺伝子破壊株と過剰発現株の結果から、硫黄系物質代謝制御に関して、アスバラギン酸からホモシステインへの生合成系の遺伝子の過剰発現では硫化水素生産量に与える影響が大きく、硫酸イオンから硫化水素への還元に関与する遺伝子の過剰発現は亜硫酸生産量に与える影響が大きいことがわかった。 以上の知見に基づき、酵母の硫化水素及び亜硫酸代謝経路において、硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量を増大させ、且つO−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成経路の代謝流量を増大させることにより、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量が増加している酵母を育種することができると考え、仮説の実証を含めて、以下の実施例1〜3に示す試験を行った。実施例1 実用下面発酵酵母VTT−A69025株(キリンビール株式会社酵母ストックより入手)より、以下の方法によりDL−エチオニン耐性株を取得した。即ち、寒天2%を添加したYPD寒天培地に増殖したVTT−A69025のシングルコロニーを、5mLのYPD液体培地に接種し、20℃にて3日間培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、これに滅菌水10mLを添加後良く攪拌し、再度遠心分離し菌体画分を得る操作を繰り返し、菌体を洗浄した。 得られた洗浄菌体ペレットを5mLの滅菌水に懸濁し、その150μLをDL−エチオニン10mg/mL、Bacto Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate (Difco)0.17%、硫酸アンモニウム0.5%、グルコース2%、硝酸鉛0.1%、及び寒天2%を添加した寒天培地へ塗布した。小型シャーレ1枚の寒天培地に2x106cellsの酵母を塗布したところ、20℃、10日間の培養にて平均200個のエチオニン耐性のコロニーが得られた。合計で約5.8x1010cellsの酵母を塗布し、654個のエチオニン耐性、且つ茶褐色のコロニーが得られた。得られたコロニーを酵母エキス0.5%、ペプトン0.3%、グルコース4%、硫酸アンモニウム0.02%、硝酸鉛0.1%、及び寒天2%の硝酸鉛含有寒天培地、及びDL−エチオニン10mg/mL、Bacto Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate (Difco)0.17%、硫酸アンモニウム0.5%、グルコース2%、及び寒天2%を添加したエチオニン含有寒天培地へそれぞれ塗布し、DL−エチオニン耐性株であり、且つ硫化水素高生産株として162株を得た。シングルコロニー分離した後、これを硝酸鉛含有寒天培地、及びエチオニン含有寒天培地にそれぞれ塗布し、DL−エチオニン耐性株であり、且つ硫化水素高生産株である43株を選抜した。これらの株は再現性良くDL−エチオニン含有寒天培地で生育し、硝酸鉛含有寒天培地で硫化水素高生産性を示す茶褐色コロニーを形成した。 得られたDL−エチオニン耐性、且つ硫化水素高生産株43株の中から10株について、YPD10液体培地を用いて、硫化水素生産量、及び亜硫酸生産量を測定し、親株の亜硫酸生産量と比較した。培養方法は以下の通りである。即ち、寒天培地より親株を含む酵母株を、YPD10液体培地に植菌し、20℃で3日間好気攪拌培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、滅菌水に懸濁した。酵母添加量を0.5%(w/v)で、再度YPD10液体培地に植菌し、20℃で3日間嫌気攪拌培養し酒母とした。酒母量を0.5%(w/v)として、250mL容瓶にてYPD10液体培地200mLを20℃にて嫌気攪拌培養し、発酵した。培養3日後の培地中の亜硫酸生産量をHPLCを用いて測定した。調査した菌株の中で、特に亜硫酸生産量が多かった株を3株(YMO12、YMO222、及びYMO433株)を選び、再度同様の嫌気攪拌培養を行った。その際、亜硫酸生産量以外に、発酵の経過を調査するために細胞濃度(OD)と培養液密度測定による糖消費量を測定した。また、硫化水素生産量をGCを用いて測定した。 以上の結果、YMO12、YMO222、及びYMO433株がエチオニン耐性を示すと共に、亜硫酸高生産、且つ硫化水素高生産能を持つことが確認された。 次に、YMO222株より、以下の方法にしたがって、硫化水素低生産となるようなDL−ヒドロキシノルバリン耐性株を取得した。 寒天2%を添加したYPD寒天培地に増殖したYMO222のシングルコロニーを、5mLのYPD液体培地に接種し、20℃にて3日間培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、これに滅菌水10mLを添加後良く攪拌し、再度遠心分離し菌体画分を得る操作を繰り返し、菌体を洗浄した。 得られた洗浄菌体ペレットを5mLの滅菌水に懸濁し、その100μLを5mLのDL−ヒドロキシノルバリン100mg/mL、Bacto Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate (Difco)0.17%、硫酸アンモニウム0.5%、及びグルコース2%を添加した培地へ加え、25℃で5日間好気培養を行い、培養液を10000倍に希釈後、その100μLを酵母エキス0.5%、ペプトン0.3%、グルコース4%、硫酸アンモニウム0.02%、硝酸鉛0.1%、及び寒天2%の硝酸鉛含有寒天培地に塗布した。小型シャーレ1枚の寒天培地に1.5x103cellsの酵母を塗布したところ、20℃、7日間の培養にて平均1〜2個の薄茶色のコロニーが得られた。合計で約1.4x105cellsの酵母を塗布し、172個の薄茶色のコロニーが得られた。得られたコロニーを再度、硝酸鉛含有寒天培地へ塗布し、取得株が薄茶色コロニーを形成することを確認した。シングルコロニー分離した後に硝酸鉛含有寒天培地に塗布し、硫化水素低生産株として41株を選抜した。これらの株は再現性良く硝酸鉛含有培地で硫化水素低生産性を示す薄茶色コロニーを形成した。 得られたDL−エチオニン耐性、DL−ヒドロキシノルバリン耐性、且つ硫化水素低生産株の中から13株を選び、YPD10液体培地を用いて、亜硫酸生産量を測定し、親株による亜硫酸生産量と比較した。培養方法は以下の通りである。即ち、寒天培地より親株を含む酵母株を、YPD10液体培地に植菌し、20℃で3日間好気攪拌培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、滅菌水に懸濁した。酵母添加量を0.5%(w/v)で、再度YPD10液体培地に植菌し、20℃で4日間嫌気攪拌培養し酒母とした。酒母量を0.5%(w/v)として、250mL容瓶にてYPD10液体培地200mLを20℃にて嫌気攪拌培養し、発酵した。培養3日後の培地中の亜硫酸量をHPLCを用いて測定した。 調査した菌株の中で、特に亜硫酸生産量が多かったYMO73株について、親株のVTT−A69025株と共に、YPD10液体培地を用いて再度同様の嫌気攪拌培養を行い、亜硫酸生産量と硫化水素生産量を比較した。培養方法は以下の通りである。即ち、寒天培地より親株を含む酵母株を、YPD10液体培地に植菌し、20℃で3日間好気攪拌培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、滅菌水に懸濁した。酵母添加量を0.5%で、YPD10液体培地500mLに植菌し、20℃で4日間嫌気攪拌培養し酒母とした。引き続き再度酒母量を0.5%として、500mL容瓶にてYPD10液体培地500mLを20℃にて嫌気攪拌培養し、発酵した。また、その際、亜硫酸生産量以外に、発酵の経過を調査するために細胞数の変化の比較と、細胞培養液の密度の変化を測定し糖切れの比較をした。培養3日間の培地中の亜硫酸量をHPLCを用いて測定した。また、硫化水素生産量をGCを用いて測定した。以上の実験は3回行い、その中の1例の結果を図27から図29に示す。 以上の結果、エチオニン耐性を示すと共に、ヒドロキシノルバリン耐性となる変異株であるYMO73株は硫化水素生産能が低下しているとともに、亜硫酸生産能が増加していることが示された。このYMO73株は、受付番号FERM BP−10486として、2006年1月19日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に国際寄託されている。実施例2 実用下面発酵酵母KBY011株より、以下の方法によりDL−エチオニン耐性株を取得した。即ち、寒天2%を添加したYPD寒天培地に増殖したKBY011のシングルコロニーを、5mLのYPD液体培地に接種し、20℃にて3日間培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、これに滅菌水10mLを添加後良く攪拌し、再度遠心分離し菌体画分を得る操作を繰り返し、菌体を洗浄した。 得られた洗浄菌体ペレットを5mLの滅菌水に懸濁し、その200μLをDL−エチオニン10mg/mL、Bacto Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate (Difco)、硫酸アンモニウム0.5%、グルコース2%、硝酸鉛0.1%、及び寒天2%を添加した寒天培地へ塗布した。小型シャーレ1枚の寒天培地に2x106cellsの酵母を塗布し、20℃、14日間の培養にて平均200個のエチオニン耐性のコロニーが得られた。合計で約1.4x108cellsの酵母を塗布し、14個のエチオニン耐性、且つ茶褐色のコロニーが得られた。得られたコロニーを酵母エキス0.5%、ペプトン0.3%、グルコース4%、硫酸アンモニウム0.02%、硝酸鉛0.1%、及び寒天2%の硝酸鉛含有寒天培地、及びDL−エチオニン10mg/mL、Bacto Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate (Difco)、0.17%、硫酸アンモニウム0.5%、グルコース2%、及び寒天2%を添加した寒天培地にそれぞれ塗布し、取得株がDL−エチオニン耐性株であり、且つ硫化水素高生産株であることを確認した。次に、14株をシングルコロニー分離した後、硝酸鉛含有寒天培地、及びエチオニン含有培地にそれぞれ塗布し、硫化水素高生産、且つDL−エチオニン耐性を示す13株を選抜した。これらの13株は再現性良くDL−エチオニン含有培地で生育し、硝酸鉛含有培地で硫化水素高生産性を示す茶褐色コロニーを形成した。 得られたDL−エチオニン耐性、且つ硫化水素高生産株13株中の3株について、YPD10液体培地を用いて、亜硫酸生産量、及び硫化水素生産量を測定し、親株による亜硫酸生産量と比較した。培養方法は以下の通りである。即ち、寒天培地より親株を含む酵母株を、YPD10液体培地に植菌し、20℃で3日間好気攪拌培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、滅菌水に懸濁した。酵母添加量を0.5%(w/v)で、再度YPD10液体培地に植菌し、20℃で3日間嫌気攪拌培養し酒母とした。酒母量を0.5%(w/v)として、250mL容瓶にてYPD10液体培地200mLを20℃にて嫌気攪拌培養し、発酵した。培養3日後の培地中の亜硫酸量をHPLCを用いて測定した。また、硫化水素生産量をGCを用いて測定した。以上の結果、上記3株はエチオニン耐性を示すと共に、亜硫酸高生産、且つ硫化水素高生産能を持つことが示された。 次に、上記3株のうちYMO2株より、硫化水素低生産となるような株を取得するために、以下の方法によりDL−ヒドロキシノルバリン耐性株を取得した。即ち、寒天2%を添加したYPD寒天培地に増殖したYMO2株のシングルコロニーを、5mLのYPD液体培地に接種し、20℃にて3日間培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、これに滅菌水10mLを添加後良く攪拌し、再度遠心分離し菌体画分を得る操作を繰り返し、菌体を洗浄した。 得られた洗浄菌体ペレットを5mLの滅菌水に懸濁し、その100μLを20mLのDL−ヒドロキシノルバリン10mg/mL、Bacto Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate (Difco)0.17%、硫酸アンモニウム0.5%、及びグルコース2%を添加した培地へ加え、20℃で3日間好気培養を行い、培養液200μLを酵母エキス0.5%、ペプトン0.3%、グルコース4%、硫酸アンモニウム0.02%、硝酸鉛0.1%、及び寒天2%の硝酸鉛含有寒天培地に塗布した。小型シャーレ1枚の寒天培地において、20℃、7日間の培養にて、合計で1.0x108cellsの酵母を塗布し、10個の薄茶色のコロニーが得られた。得られたコロニーを再度、硝酸鉛含有寒天培地へ塗布し、取得株が薄茶色コロニーを形成することを確認した。 得られたDL−ヒドロキシノルバリン耐性、且つ硫化水素低生産株10株について、YPD10液体培地を用いて、亜硫酸生産量を測定し、親株による亜硫酸生産量と比較した。培養方法は以下の通りである。即ち、寒天培地より親株を含む酵母株を、YPD10液体培地に植菌し、20℃で3日間好気攪拌培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、滅菌水に懸濁した。酵母添加量を0.5%で、再度YPD10液体培地に植菌し、20℃で3日間嫌気攪拌培養し酒母とした。酒母量を0.5%として、250mL容瓶にてYPD10液体培地200mLを20℃にて嫌気攪拌培養し、発酵した。培養3日後の培地中の亜硫酸量をHPLCを用いて測定した。 調査した菌株の中で、特に亜硫酸生産量が多かったYMO106株について、親株と共にビール用麦汁を用いて同様の嫌気攪拌培養を行い、亜硫酸と硫化水素生産量を比較した。培養方法は以下の通りである。即ち、寒天培地より親株を含む酵母株を、YPD10液体培地に植菌し、20℃で3日間好気攪拌培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、滅菌水に懸濁した。酵母添加量を0.5%(w/v)で、ビール用麦汁500mLに植菌し、20℃で3日間嫌気攪拌培養し酒母とした。引き続き再度酒母量を0.5%(w/v)として、1000mL容瓶にて麦汁900mLを20℃にて嫌気攪拌培養し、発酵した。その際、亜硫酸生産量以外に、発酵の経過を調査するために細胞数の変化の比較と、細胞培養液の密度の変化を測定し糖切れの比較をした。培養3日間の培地中の亜硫酸量をHPLCを用いて測定した。また、硫化水素生産量をGCを用いて測定した。得られた結果を図30から図32に示す。図31、32に示されるよう、醸造用酵母であるKBY011で醸造したビール中には14.7ppmの遊離亜硫酸(50時間後)が検出されたが、エチオニン耐性、且つヒドロキシノルバリン耐性で選抜された変異株YMO106で醸造したビール中の遊離亜硫酸量は39.2ppm(50時間後)であった。また、硫化水素生産量については親株と変異株との間で有意な差が見られなかった。 以上の結果、エチオニン耐性を示すと共に、ヒドロキシノルバリン耐性として単離したYMO106株は、硫化水素生産量が若干低下し、且つ亜硫酸高生産が増加していることが確認された。実施例3 次いで、酵母の硫化水素及び亜硫酸代謝経路において、硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量を増大させ、且つO−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成経路の代謝流量を増大させることにより、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量が増加している酵母を育種することを考え、遺伝子組換え体を用いた実験を行った。そして、実用下面発酵酵母KBY011株より胞子形成、減数分裂をさせ、単離した減数体B43において、以下の方法により遺伝子組み換え体を取得した。硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量を増大させるためにMet14タンパク質を安定化させるYNL311C遺伝子の破壊を、O−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成経路の代謝流量を増大させるためにHOM3遺伝子の過剰発現を順次行った。 定法に従い、電気穿孔法による形質転換で、LgYNL311C、ScYNL311C遺伝子を順次破壊し、B43に本来存在しているYNL311C遺伝子の完全破壊株を作製した。この遺伝子が完全に破壊されていることはPCRにより確認した。結果を図33に示す。オーレオバシジンA耐性マーカーを持つプラスミドpAUR101に、プロモーターとしてパン酵母のGPD由来のものを使用し、ターミネーターとしてパン酵母のPGK由来のものを使用した発現カセットにScHOM3遺伝子全長を挿入することによりScHOM3過剰発現用プラスミドpAUR−ScHOM3を作製した。pAUR−ScHOM3を用いて、YNL311C遺伝子を完全に破壊したB43株を形質転換し、YMO3113株を得た。 YMO3113株について、YPD10液体培地を用いて、亜硫酸生産量を測定し、親株による亜硫酸生産量と比較した。培養方法は以下の通りである。即ち、寒天培地より親株を含む酵母株を、YPD10液体培地に植菌し、20℃で3日間好気攪拌培養した。培養液を遠心分離(3000rpmx5分)し、菌体画分を得、滅菌水に懸濁した。酵母添加量を0.5%で、再度YPD10液体培地に植菌し、20℃で4日間嫌気攪拌培養し酒母とした。酒母量を0.5%として、250mL容瓶にてYPD10液体培地200mLを20℃にて嫌気攪拌培養し、発酵した。その際、亜硫酸生産量以外に、発酵の経過を調査するために細胞数の変化の比較と、細胞培養液の密度の変化を測定し糖消費量の比較をした。そして、培養4日間の培地中の亜硫酸量をHPLCを用いて測定した。得られた結果を図34に示す。また、硫化水素生成量については、酵母エキス0.5%、ペプトン0.3%、グルコース4%、硫酸アンモニウム0.02%、硝酸鉛0.1%、及び寒天2%の硝酸鉛含有寒天培地で20℃、4日間培養し、そのコロニーの色を目視することにより行った。得られた結果を図35に示す。 以上の結果、YMO3113株は、硫化水素生産量は親株と変わらず、且つ亜硫酸高生産能を持つことが確認された。 本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。 本発明によれば、硫化水素生産量を増加させることなく、亜硫酸生産量の高い酵母を育種することができる。これにより、醸造時の鮮度維持に必要な亜硫酸量を高め、且つ異臭の原因である硫化水素を抑えることが可能となり、品質の高い酒類等の製造が可能となる。したがって、本発明は酒類をはじめとする食品、医薬、その他の製造に有用である。配列番号1−KBY011株由来のLgHOM3遺伝子のコード領域配列番号2−KBY011株由来のLgTHR1遺伝子のコード領域配列番号3−KBY011株由来のLgMET17遺伝子のコード領域配列番号4−KBY011株由来のLgYNL311C遺伝子のコード領域[配列表]酵母の硫化水素及び亜硫酸代謝経路において、硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量を増大させ、且つO−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成経路の代謝流量を増大させることにより、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量が増加している酵母を育種する方法。SUL1、SUL2、MET3、MET14、及びMET16から選ばれる1以上の遺伝子の発現量又は該遺伝子産物の活性を増加させることにより、硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量を増大させ、且つHOM3、HOM2、HOM6、MET2、及びMET17から選ばれる1以上の遺伝子の発現量又は当該遺伝子産物の活性を増加、ならびに/あるいは、THR1及び/又はTHR4遺伝子の発現量又は当該遺伝子産物の活性を減少させることにより、O−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成量を増大させる、請求項1に記載の方法。MET14遺伝子産物の活性を増加させ、且つHOM3遺伝子の発現量を増加させることを特徴とする、請求項2に記載の方法。請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法で育種された、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量が増加している酵母株。請求項4に記載の酵母株を用いることを特徴とする、酒類の製造方法。請求項5に記載の方法で製造される酒類。下記の工程を含む、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量が増加している酵母を育種する方法:1)含硫アミノ酸アナログを含む鉛含有プレート上で茶褐色コロニーを形成する変異株を単離する、2)単離された変異株のうち、亜硫酸生産量が増加している変異株を選抜する、3)選抜された変異株をスレオニンアナログ含有培地で増殖させた後、鉛含有プレート上で白色コロニーを形成する変異株を単離する、4)単離された変異株のうち、親株に比較して亜硫酸生産量が増加している変異株を選抜する。含硫アミノ酸アナログが、エチオニン、セレノメチオニン又はS−エチルシステインであり、スレオニンアナログがヒドロキシノルバリンである、請求項7に記載の方法。請求項7又は8に記載の方法で育種された、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量が増加している酵母株。受付番号FERM BP−10486で特定される酵母株。請求項9又は10記載の酵母株を用いることを特徴とする、酒類の製造方法。請求項11に記載の方法で製造される酒類。 本発明は、酵母の代謝物及び遺伝子発現レベルの解析結果に基づき、醸造時の鮮度維持に重要な亜硫酸の生産を高め、且つ異臭の原因の一つである硫化水素の生産を増加させない酵母を育種する方法、および該酵母を用いた品質の高い酒類の製造方法に関する。すなわち、酵母の硫化水素及び亜硫酸生成経路において、硫酸イオンから硫化水素の合成経路の代謝流量を増大させ、且つO−アセチルホモセリンからホモシステインへの合成量を増大させることにより、親株に比較して硫化水素生産量が増加することなく、亜硫酸生産量が増加している酵母を育種する方法、並びに該酵母を用いた酒類の製造方法に関する。


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