タイトル: | 公開特許公報(A)_テラヘルツ分光による文化財の検査方法 |
出願番号: | 2007051094 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | G01N 21/35 |
福永 香 寶迫 巌 小川 雄一 JP 2008215914 公開特許公報(A) 20080918 2007051094 20070301 テラヘルツ分光による文化財の検査方法 独立行政法人情報通信研究機構 301022471 新保 斉 100130111 福永 香 寶迫 巌 小川 雄一 G01N 21/35 20060101AFI20080822BHJP JPG01N21/35 Z 7 1 OL 11 2G059 2G059AA01 2G059BB20 2G059CC20 2G059DD20 2G059EE01 2G059EE02 2G059EE12 2G059FF02 2G059FF10 2G059GG03 2G059KK04 2G059MM09 2G059MM10 本発明は、文化財に含まれている物質の分析を行なう方法に関する。 文化財は、時間の経過と共に退色や変質し、顔料等が剥離したりする。そのため、文化財には補修作業が必要となる。補修作業を実施するためには、文化財の製作に使用された顔料等の物質を特定することが必要である。 なお、ここで、文化財とは、染料、顔料、展色剤、表面保護剤のうちの少なくとも1物質により表面に装飾が施された広義の芸術作品を指し、具体的には、絵画、陶器、織物、彫刻、楽器、古民具、骨董品、などの美術工芸品等が挙げられる。 文化財に用いられている物質、特に顔料を固定させるための展色剤や表面保護剤は、製作される時代によって変遷がある。そのため、それらの物質を同定することにより、オリジナルの製作時期や、途中の修復履歴等を明らかにでき、美術史等の研究に寄与する。また、その製作時期を判定することにより、真贋鑑定に有益な情報を提供できる。 また、洗浄、補填、補彩など、文化財の修復には、対象の材料をまず調査分析する必要がある。従来の分析方法には、次の手段がある。 クロマトグラフ等の破壊試験は、試料を燃焼させたり溶解させる必要がある。そのため、美術的価値を損なわない一部分であっても、現状維持できないので文化財には不向きである。 赤外線や紫外線カメラ、斜光を用いた撮影は、異なる種類の材料が使われた可能性があるか、筆致の異なる部分があるか、という文化財全体の概要を把握するために使われている。しかし、その物質の同定はできない。 X線や電子線を用いた様々な分析法は、石器、土器等の無機材料や、金属が分析対象であった。顔料を対象としても、それに含有される金属元素の同定に限られていた。そのため、考古学分野への応用は可能である。しかし、有機材料等を劣化させる恐れがあるので、例えば中世以降の絵画に用いられた染料、展色剤、表面保護剤等の有機物の同定はできない。 同様に、赤外分光法も、対象物表面の温度上昇等がある他、分子内部の原子間の構造に基づく吸収が全て現れるため、有機材料の同定には難がある。 ミリ波や更に低周波数の電磁波を用いた分析法では、物質固有の吸収が現れることは稀である。文化財に関しては、水分の比較的強い吸収を利用した紙製品の吸湿度の非破壊測定等の例がある程度である。 文化財に含まれている物質の分析を行なう従来の技術には、次の手段もある。特開2006−53070「色素の推定方法」特開2004−340750「文化財の変質評価方法、変質評価装置及び変質原因物質の特定方法」 特許文献1には、文化財等に塗布された顔料や染料等の色素の推定を行って、デジタルアーカイブに寄与させることが開示されている。 特許文献2には、文化財の表面をラマン分光法により分析して得られる表面状態情報から、周辺雰囲気ガス中の化学物質による変質に関する評価を行うことが開示されている。 しかしながら、いずれの従来技術にも、文化財に用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤を同定する手段は開示されていない。 他方、最近実用化が進んでいるテラヘルツ波を用いた分析法に関しては、次の従来技術がある。特開2005−265793「特定物質探知装置」「物品の検査方法とその装置」特開2004−61455「テラヘルツ電磁波による粉体物性測定装置および方法」 しかしながら、いずれの従来技術にも、テラヘルツ波を利用して、文化財に用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤を同定する手段は開示されていない。 そこで、本発明は、非破壊の方法によって文化財を分析し、その製作に用いられた物質を同定する文化財の検査方法を提供することを課題とする。 上記課題を解決するために、本発明のテラヘルツ分光による文化財の検査方法は、次の構成を備える。すなわち、文化財に含まれている物質の分析を行なう方法であって、テラヘルツ波を十分透過すると共に吸収或いは反射スペクトルが既知である基礎材料に、文化財に用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤のうちの少なくとも1物質を塗布し硬化させて試料を作成し、その試料に対して波長の略連続的に異なるテラヘルツ波を照射して、透過或いは反射分光法により吸収或いは反射スペクトルを求め、基礎材料に塗布する物質を変えて各試料における吸収或いは反射スペクトルを求めることで、文化財に用いられうる様々な染料、顔料、展色剤、表面保護剤によるテラヘルツ波の吸収或いは反射スペクトルデータベースを得て、得られたデータベースを基に、分析対象の文化財にテラヘルツ波を照射しその吸収特性を解析することで、文化財に含まれている物質を同定することを特徴とする。 同様に、テラヘルツ波を十分透過すると共に吸収或いは反射スペクトルが既知である基礎媒質に、文化財に用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤のうちの少なくとも1物質を混合し硬化させて試料を作成し、その試料に対して波長の略連続的に異なるテラヘルツ波を照射して、透過或いは反射分光法により吸収或いは反射スペクトルを求め、基礎媒質に混合する物質を変えて各試料における吸収或いは反射スペクトルを求めることで、文化財に用いられうる様々な染料、顔料、展色剤、表面保護剤によるテラヘルツ波の吸収或いは反射スペクトルデータベースを得て、得られたデータベースを基に、分析対象の文化財にテラヘルツ波を照射しその吸収特性を解析することで、文化財に含まれている物質を同定してもよい。 ここで、分析対象の文化財の略全表面にテラヘルツ波を略連続的に照射して、その結果を、文化財の全体像を示す画像として出力して、全体の概観の把握に寄与させてもよい。 同様に、分析対象の文化財の略全表面に複数方向からテラヘルツ波を照射して、その結果を、文化財の全体像を示す画像として出力して、全体の概観の把握に寄与させてもよい。 また、テラヘルツ波を用い分析対象の文化財の表面から所定の深度に位置する物質を同定して、内部構造の検知に寄与させてもよい。 分析対象の文化財の異なる表面位置から異なる深度に位置する各物質を略連続的に同定して、その結果を、文化財の断面を示す画像として出力して、内部構造の把握に寄与させてもよい。 他方、分析対象の文化財にテラヘルツ波を照射しその吸収特性を解析するに当たり、主成分分析を用いて複数種類の物質のスペクトルを分離分析して、解析の利便に寄与させてもよい。 本発明によると、文化財に用いられうる様々な染料、顔料、展色剤、表面保護剤によるテラヘルツ波の吸収或いは反射スペクトルデータベースが得られ、それを基にして分析対象の文化財に含まれている物質を同定することができる。これにより、美術史研究や修復活動等に有益な情報が提供される。 以下に、図面を基に本発明の実施形態を説明する。 テラヘルツ波帯(概略 3-650 cm-1)の電磁波を用いた分光では、水素結合やファンデルワールス力などによる分子間相互作用に起因する吸収が現れるため、タンパク質や糖類など有機材料の非破壊分析に適している。従来は発生や検出が困難であったテラヘルツ波帯の分光器が近年開発されたため、その分光法を用いることによって、テラヘルツ波に対して特徴的な吸収がある染料、顔料、展色剤、表面保護剤などを特定することが可能となる。 分光技術は、各種物質がどの周波数帯のテラヘルツ波を吸収するかという吸収・反射スペクトルデータベースがなければ、物質の同定ができない。従来は、文化財に用いられている各種材料のテラヘルツ波帯におけるスペクトルデータは無かったため、それを取得するための手段を開発した。 すなわち、テラヘルツ波を十分透過すると共に吸収或いは反射スペクトルが既知であるポリエチレン等の基礎材料に、文化財に用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤のうちの少なくとも1物質を塗布し硬化させて試料を作成する。その試料に対して波長の略連続的に異なるテラヘルツ波を照射して、透過或いは反射分光法により吸収或いは反射スペクトルを求める。 基礎材料に塗布する物質を多数変えて、各試料における吸収或いは反射スペクトルを求めることで、文化財に用いられうる様々な染料、顔料、展色剤、表面保護剤によるテラヘルツ波の吸収或いは反射スペクトルデータベースを得る。 同様に、テラヘルツ波を十分透過すると共に吸収或いは反射スペクトルが既知であるポリエチレン等の基礎媒質や溶媒に、文化財に用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤のうちの少なくとも1物質を混合し硬化させて試料を作成してもよい。 得られたデータベースを基に、分析対象の文化財にテラヘルツ波を照射しその吸収特性を解析することで、文化財に含まれている物質が同定される。 テラヘルツ波は、安全な非電離・非熱作用の電磁波周波数帯域であるため、文化財のみならず分析作業者の安全性も確保される利点がある。 ここで、テラヘルツ波帯の光源と検出器で、分析対象の文化財の略全表面にテラヘルツ波を略連続的に照射してもよい。すると、文化財の全体のイメージングが可能となり、全体像を示す画像として出力し全体の概観の把握に寄与する。 同様に、テラヘルツ波帯の光源と検出器を複数使用しカメラとして用い、分析対象の文化財の略全表面に複数方向からテラヘルツ波を照射してもよい。すると、文化財の全体を一度で撮像可能となり、全体像を示す画像として出力し全体の概観の把握に寄与する。 テラヘルツ分光は、透過と反射の両方の分析が可能であり、対象物の厚みや、分析対象位置の深さに応じて使い分けることができる。 特に低周波のテラヘルツ波は適度な透過性を有するため、トモグラフィー技術と組み合わせて、深さ方向の情報を非破壊で得ることが可能となる。すなわち、分析対象の文化財の異なる表面位置から異なる深度に位置する各物質を略連続的に同定して、その結果を文化財の断面を示す画像として出力すれば、内部構造の把握が可能となる。同様に、出力を上げた高周波のテラヘルツ波を用いてもよい。 なお、トモグラフィーとしては、複数方向からの投影量の測定から計算によって断面像を得る投影切断定理に基づく従来公知のCT技術を適宜適用できる。 測定したスペクトルの解析には、主成分分析等のスペクトル解析技術を適用することで、複数の物質のスペクトルを分離分析することができる。 このスペクトル解析には、主成分分析の他、因子分析、クラスター分析、重回帰分析、判別分析、コンジョイント分析、共分散構造分析など、測定値が複数の値からなる多変量データを統計的に扱う従来公知の多変量解析を適宜適用できる。実験例: 文化財に用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤について、テラヘルツ波の吸収スペクトルを求めた。100種類以上の試料についてクリアなスペクトルデータが得られたが、以下ではその数例を示し、データベースに用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤を例示する。 図1及び2は、無機顔料及び有機顔料の分析例を示すグラフである。 それぞれ、5種類の無機顔料、4種類有機顔料を、テラヘルツ波の吸収のないポリエチレンパウダーに混合して測定した。図示の通り、特徴的な吸収が確認された。 一般に、染料とは、水等の溶媒に溶解させて布や紙などを染色するのに用いられる有色の物質を指す。それに対し、溶媒に溶解することなく、何らかの媒体に分散させて使用されるものは顔料と呼ばれる。 染料には、天然染料、合成染料、蛍光染料がある。 天然染料は、古代より、様々な動植物等から抽出した天然色素が用いられてきた。 植物由来の染料が種類としては最も多く、アカネ、アイ、ウコン、ベニバナ、ムラサキなどが古代から知られている。 動物由来のものとしては、ムラサキイガイから得られる古代紫や、エンジムシから得られるコチニールがある。 鉱物由来のものとしては、着色力をもつ可溶性の無機化合物であり、大島紬を染めるのに使用する泥や過マンガン酸カリウム、コバルト錯塩がある。黄土、赤土、弁柄が挙げられることがあるが、これらは溶媒に不溶であるから顔料に分類されることもある。 合成染料は、19世紀より、アニリンを二クロム酸カリウムで酸化した紫色のモーヴや、アカネ色素アリザリン、アイ色素インディゴの合成などから始まり、現代では染色剤の主流となっている。 蛍光染料は、色素が蛍光物質である染料であり、近代より、蛍光による増白効果を意図して工業的に使用されている。 顔料は、その成分によって無機顔料と有機顔料の2種類に大別される。 無機顔料には、有史以前から使われていた天然鉱物顔料と、化学的に合成された合成無機顔料がある。陶磁器の着色に使われるセラミック顔料も無機顔料に含まれる。 天然鉱物顔料は、古来より油脂類を燃やした際の煤を使用した黒色以外は自然の岩や鉱物などをそのまま粉砕したものが主体であった。 黒色の煤は、現代ではカーボンブラックと呼ばれ、多様な用途に使用されている。書道で使う墨は、かつては油煙(ランプブラック)を使ったが、現代では天然ガスや石油を不完全燃焼させて作ったファーネスブラックが使用されている。 絵具では、植物を燃やして作った植物性黒(ピーチブラック、ヴァインブラック)や動物の骨を燃やしてつくった動物性黒(ボーンブラック)も使われている。ラピスラズリを使ったウルトラマリンや孔雀石を使った緑青などは、高級な絵画や装飾物に使用された。赤色は、弁柄(酸化鉄)や辰砂(硫化水銀)が使われた。現在工業的に使用されているものは、アンバーやシェンナ等の天然土由来の褐色顔料や、炭酸カルシウム(白または無色)、カオリン(粘土:無色)などが多い。 これらの天然鉱物顔料のうち無色顔料は、淡い色を作るときに使われる他、レーキ顔料の素材としても使われる。特殊な例として白色雲母を粉砕して使うパール顔料(真珠様光沢を出す)がある。 合成無機顔料は、18世紀より、紺青(プルシアンブルー、ミロリーブルー)をはじめとして多くの種類がある。無機顔料は一般的に有機顔料に比べると着色力、透明性、鮮明さに欠けるが、耐光性が良く塗料などに多用される。 代表的な合成無機顔料としては、白色を呈する亜鉛華、鉛白、リトポン、二酸化チタン、赤色を呈する鉛丹、弁柄、黄色を呈する黄鉛(クロムイエロー)、亜鉛黄(ジンククロメート、ジンクイエロー)、カドミウムイエロー、ニッケルチタンイエロー、ストロンチウムクロメート、青色を呈する群青(ウルトラマリン)、紺青(プルシアンブルー)、コバルトブルー、合成ウルトラマリン、黒色を呈するカーボンブラック、緑色を呈するヴィリジアン、オキサイド・オブ・クロミウム、体質を呈する沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸石灰粉、沈降性炭酸カルシウム、石膏、クレー(China Clay)、シリカ粉、珪藻土、タルク、アルミナホワイト、塩基性炭酸マグネシウム、砥の粉などがある。 セラミック顔料は、釉薬の着色の目的で発見及び開発されてきた顔料をセラミック顔料である。高い耐熱性、耐候性、耐薬品性をもつという点で、他の無機顔料とは著しく異なった特性を備えている。他の無機顔料の素材は、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硫化物、アルミニウム粉末、炭素など多種多様であるが、セラミック顔料は酸化物、複合酸化物、ケイ酸塩が用いられる。 代表的なセラミック顔料としては、灰色を呈するジルコングレー、黄色を呈するプラセオジムイエロー、クロムチタンイエロー、緑色を呈するクロムグリーン、ピーコック、ビクトリアグリーン、青色を呈する紺青、ターコイズブルー、桃色を呈するクロムスズピンク、サーモンピンクなどがある。 その他に、金属の錆びを防ぐために使われる防錆顔料として、鉛丹、シアナミド鉛、亜酸化鉛、塩基性硫酸鉛、鉛酸カルシウム、ジンククロメート、ストロンチュームクロメート、亜鉛華などがある。 また、装飾効果や保護効果をもたせるために加える金属粉顔料として、亜鉛末、アルミニウム粉、パール雲母粉、真鍮粉、鱗片状酸化鉄粉などがある。 有機顔料は、有機化合物を主成分とする顔料である。かつては藍玉やコチニールレーキ、インジゴレーキのように植物や動物等から採取した染料を種々の方法で固形化させたものが主流であったが、現代では工業的に使われているのは全て石油化学系の合成顔料である。 有機顔料はその化学構造によって大きくアゾ系顔料と多環式系顔料に類別されることが多いが、色相によって不溶性色素とレーキ顔料に類別されることもある。有機顔料は不飽和二重結合をもち、共鳴エネルギーを光から吸収して安定すると共に、その特定吸収波長域に応じて呈色している。 アゾ系顔料は、芳香族アミンとカップリング成分の反応によって水中で合成される。色相は黄色からオレンジ、赤、赤紫に発色し、その着色力は一般に無機顔料に比べて強い。アゾ系顔料は分子内分極による水素結合をもち、その力で結晶の結びつく力を強化し耐侯性等の堅牢度が向上している。 構造によって、アゾ発色基を一つ分子構造中に有するモノアゾ顔料、アゾ発色基を二つ構造中に有し中心を軸にシンメトリックなジスアゾ顔料、縮合反応により中心部に配向構造をもちアゾ発色基を二つもつ縮合アゾ顔料に類別される。 多環式系顔料は、キノン構造をもつ染料を不溶化して顔料にした歴史があり、アゾ系顔料に比べて堅牢度が高い顔料が多い。 代表的な多環式系顔料としては、黄色を呈するキノフタロン、イソインドリン、イソインドリノン、オレンジ色を呈するジケトピロロピロール、キナクリドン、ペリノン、アンタンスロン、赤色を呈するキナクリドン、ペリレン、ジケトピロロピロール、紫色を呈するジオキサジン、青色を呈するフタロシアニンブルー、インダンスレンブルー、緑色を呈するフタロシアニングリーンなどがある。 図3は、展色剤の分析例を示すグラフである。 3種類の展色剤を、テラヘルツ波の吸収のないポリエチレンパウダーに混合して測定した。図示の通り、特徴的な吸収が確認された。 図4は、比較実験として、赤外分光による展色剤の分析例を示すグラフである。 3種類の展色剤を、テラヘルツ波の吸収のないポリエチレンパウダーに混合して測定した。赤外分光による場合は、図示の通り、同様の吸収特性を示すため同定できないことが確認された。 絵具に含まれる成分のうち、顔料以外の成分は、一般に媒剤と呼ばれる。媒剤が乾燥し固化することによって顔料の粒子が互いに接着され、支持体表面の素地に定着する。展色剤もほぼ同義であるが、媒剤のうち蒸発せずに残る成分を特に指して使われることもある。展色剤を化学変化をともなわずに溶解し、塗った後に蒸発してしまう成分を溶剤という。 絵具に使われる媒剤としては、固化の様態によって次のように類別される。 溶剤が蒸発することによって固まる物理的な乾燥によるものには、日本画の膠、水彩のアラビアゴム、油彩に使われるマスチックやダマール等の樹脂などがある。溶剤が蒸発した際に化学変化を起こして溶解しなくなる物理化学的な乾燥によるものには、テンペラの乳濁液、アクリル絵具のアクリル樹脂などがある。化学変化のみによって固まる化学的な乾燥によるものには、油彩画の乾性油、アルキド樹脂などがある。熱によって融解した状態で塗られ、冷えて固まる熱可塑性によるものには、エンカウスティック(蝋画)に用いられる蝋などがある。 接着剤は、ゼラチンを利用する方法が古くから行われていた。ゼラチンは、動物の皮膚や骨、腱などの結合組織の主成分であるコラーゲンに熱を加えて抽出され、タンパク質を主成分とする。 ゼラチンは特に木材に対して極めて強力な接着力を示す一方、蒸気をあてると結合が緩み剥離することから、調整や修理の必要なバイオリンなどの楽器の接着剤として用いられていた。日本画の画材や工芸品などの接着剤として使用する精製度の低いものは膠と呼ばれる。 カゼインも、絵画の目止めや媒材、接着剤として古くから用いられていた。 カゼインテンペラは、乳化作用をもち、乾燥後は耐水性になる。温度に左右されにくく、液状ではアルカリ性であるが、乾くと中性に近くなる。膠テンペラに比べ、若干脆いが色彩は鮮やかである。 絵画における代表的なテンペラ技法は、卵テンペラである。絵具が乾けばすぐに塗り重ねていくことができ、数日間乾燥すると水に溶けなくなる。板にボローニャ石膏で下塗りをしているものが古典的なテンペラ画技法であるが、近代になって油彩の仕上げに卵を混入させたものもテンペラ画と呼ばれるようになった。 ワニス或いはニスも、木材等の材料の表面を保護するために古くから用いられていた。 成分による類別では、亜麻仁油、桐油、胡桃油などの乾性油、コハク、コーパル、ロジンなどの天然樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタンなどの合成樹脂、テレビン油、ストッダード溶剤などの溶剤がある。 天然のワニスは、溶剤に溶かした樹液や樹脂からなるものが大部分である。使用する溶剤により、アルコールを用いた酒精ワニス、テレビン油ワニス、油ワニスに類別される。 バイオリン等の楽器用のワニスには、胡桃油や亜麻仁油とコハク、コーパルやロジンの組み合わせが最もよく用いられた。帆柱など、防水性と耐候性を要する物品にはスパーワニスが用いられた。 本発明によると、文化財の製作に使用された顔料等の物質を非破壊で特定することができるので、美術史研究や修復活動等を有効に行える。また、人体に安全な電磁波を利用するため、文化財のみならず分析作業者の安全性も確保されるので、産業上利用価値が高い。無機顔料の分析例を示す吸収スペクトル有機顔料の分析例を示す吸収スペクトル展色剤の分析例を示す吸収スペクトル比較例として、赤外分光による展色剤の分析例を示す吸収スペクトル 文化財に含まれている物質の分析を行なう方法であって、 テラヘルツ波を十分透過すると共に吸収或いは反射スペクトルが既知である基礎材料に、文化財に用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤のうちの少なくとも1物質を塗布し硬化させて試料を作成し、 その試料に対して波長の略連続的に異なるテラヘルツ波を照射して、透過或いは反射分光法により吸収或いは反射スペクトルを求め、 基礎材料に塗布する物質を変えて各試料における吸収或いは反射スペクトルを求めることで、文化財に用いられうる様々な染料、顔料、展色剤、表面保護剤によるテラヘルツ波の吸収或いは反射スペクトルデータベースを得て、 得られたデータベースを基に、分析対象の文化財にテラヘルツ波を照射しその吸収特性を解析することで、文化財に含まれている物質を同定する ことを特徴とするテラヘルツ分光による文化財の検査方法。 文化財に含まれている物質の分析を行なう方法であって、 テラヘルツ波を十分透過すると共に吸収或いは反射スペクトルが既知である基礎媒質に、文化財に用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤のうちの少なくとも1物質を混合し硬化させて試料を作成し、 その試料に対して波長の略連続的に異なるテラヘルツ波を照射して、透過或いは反射分光法により吸収或いは反射スペクトルを求め、 基礎媒質に混合する物質を変えて各試料における吸収或いは反射スペクトルを求めることで、文化財に用いられうる様々な染料、顔料、展色剤、表面保護剤によるテラヘルツ波の吸収或いは反射スペクトルデータベースを得て、 得られたデータベースを基に、分析対象の文化財にテラヘルツ波を照射しその吸収特性を解析することで、文化財に含まれている物質を同定する ことを特徴とするテラヘルツ分光による文化財の検査方法。 分析対象の文化財の略全表面にテラヘルツ波を略連続的に照射して、 その結果を、文化財の全体像を示す画像として出力する 請求項1または2に記載のテラヘルツ分光による文化財の検査方法。 分析対象の文化財の略全表面に複数方向からテラヘルツ波を照射して、 その結果を、文化財の全体像を示す画像として出力する 請求項1または2に記載のテラヘルツ分光による文化財の検査方法。 テラヘルツ波を用い分析対象の文化財の表面から所定の深度に位置する物質を同定する 請求項1ないし4に記載のテラヘルツ分光による文化財の検査方法。 分析対象の文化財の異なる表面位置から異なる深度に位置する各物質を略連続的に同定して、 その結果を、文化財の断面を示す画像として出力する 請求項5に記載のテラヘルツ分光による文化財の検査方法。 分析対象の文化財にテラヘルツ波を照射しその吸収特性を解析するに当たり、主成分分析を用いて複数種類の物質のスペクトルを分離分析する 請求項1ないし6に記載のテラヘルツ分光による文化財の検査方法。 【課題】 非破壊の方法によって文化財を分析し、その製作に用いられた物質を同定する文化財の検査方法を提供すること。【解決手段】 文化財に含まれている物質の分析を行なう方法であって、テラヘルツ波を十分透過すると共に吸収或いは反射スペクトルが既知である基礎材料に、文化財に用いられうる染料、顔料、展色剤、表面保護剤のうちの少なくとも1物質を塗布し硬化させて試料を作成し、その試料に対して波長の略連続的に異なるテラヘルツ波を照射して、透過或いは反射分光法により吸収或いは反射スペクトルを求め、基礎材料に塗布する物質を変えて各試料における吸収或いは反射スペクトルを求めることで、文化財に用いられうる様々な染料、顔料、展色剤、表面保護剤によるテラヘルツ波の吸収或いは反射スペクトルデータベースを得て、得られたデータベースを基に、分析対象の文化財にテラヘルツ波を照射しその吸収特性を解析することで、文化財に含まれている物質を同定する。【選択図】 図1