タイトル: | 公開特許公報(A)_腸管バリア機能の機能回復剤及び腸管バリア透過性の亢進阻害剤 |
出願番号: | 2007050706 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 1/20,A61K 35/74,A61P 1/12,A23L 1/28,A23L 1/30 |
田辺 創一 宮内 栄治 指原 紀宏 木村 勝紀 JP 2008212006 公開特許公報(A) 20080918 2007050706 20070228 腸管バリア機能の機能回復剤及び腸管バリア透過性の亢進阻害剤 明治乳業株式会社 000006138 志村 尚司 100104307 田辺 創一 宮内 栄治 指原 紀宏 木村 勝紀 C12N 1/20 20060101AFI20080822BHJP A61K 35/74 20060101ALI20080822BHJP A61P 1/12 20060101ALI20080822BHJP A23L 1/28 20060101ALI20080822BHJP A23L 1/30 20060101ALI20080822BHJP JPC12N1/20 AA61K35/74 AA61K35/74 BA61P1/12A23L1/28 ZA23L1/30 Z 21 8 OL 26 4B018 4B065 4C087 4B018MD09 4B018MD86 4B018ME11 4B065AA30X 4B065AC20 4B065BA22 4B065CA41 4B065CA44 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC56 4C087CA09 4C087CA19 4C087MA01 4C087NA14 4C087ZA73 本発明は腸管バリア機能の機能回復剤及び腸管バリア透過性の亢進阻害剤に関する。すなわち、腸管バリアの透過性亢進または望まれない透過性の治療または予防のための医薬あるいは食品であって、腸管バリア機能に作用を及ぼす乳酸菌又は乳酸菌の菌体成分の使用に関する。 腸管は有害微生物や毒素、アレルゲン等から生体を守るバリア機能として働いている。この腸管バリア機能の破綻により、生体への異物の無秩序な侵入がおこり、炎症性腸疾患や食物アレルギーなどの疾患を引き起こす可能性がある。今のところ、腸管における物質の透過性変化としては、腸管の上皮細胞間に存在するタイトジャンクションやエンドサイトーシス等の細胞内トランスポートが関与していると考えられている。アミノ酸などの低分子物質は、タイトジャンクションの間を通り抜けて吸収されるが、場合として細菌やウイルス、タンパク質などの巨大分子もこのタイトジャンクションを通過して吸収され、感染症や食物アレルギーを引き起こすと考えられている。このような観点から、Caco-2細胞を用いた腸管透過モデルが提案されている(非特許文献1)。この腸管透過モデルを用いてアレルゲンの透過性に与える影響を調べた結果、これまでに種々の物質が腸管透過性を抑制することが見いだされ、抗食物アレルギー作用物質などとして提案されている。例えば、エダムチーズから得られるペプチド(非特許文献1)やホエイタンパク質(特許文献1や2)、カゼインの分解物(特許文献2や3)などの乳成分がこうした腸管透過性を抑制することが見いだされている。 ところで、炎症性腸疾患は、腸が炎症を起こし、下痢や激しい腹痛を繰り返す症状を呈し、症状の沈静と再発を長期間繰り返す疾患であるが、現時点では根本的な治療法はなく、日本においては特定疾患(難病)に指定されている。その詳細な原因については未だ解明されていない部分が多く、対症療法として抗炎症剤の投与が行われているにすぎない。この患者では腸管での炎症性サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−8、TNF−α、INF−γ)の上昇や粘膜局所でのT細胞の活性化、あるいは腸内フローラの異常(乳酸菌などの減少)が見られることから、炎症性腸疾患は腸管バリア機能の破綻と炎症性サイトカインの過剰発現が原因と考えられている(非特許文献2及び非特許文献3)。そこで、本発明者らは、乳酸菌の投与によって腸管バリア機能の改善を図ることができれば、炎症性腸疾患の根本的治療に寄与できるものと考え、乳酸菌の腸管保護効果に着目した。 これまでに、乳酸菌若しくは乳酸菌の産生物や分解物が腸管の透過性を改善若しくは向上させた報告として、例えば特許文献4に乳酸菌(ラクトバチルス菌)の腸細胞への付着がカルシウム等のミネラルの透過性を向上させた旨の報告が、また特許文献5に乳酸菌(Lactobacillus reuteri)の培養物、乳酸菌(L.reuteri)由来のグルタメートが腸管の透過性亢進の抑制を行う旨の報告があるにすぎない。特開平08−73375号公報特開平09−241177号公報特開2002−257814号公報特表2002−507997号公報特表2003−522136号公報小林ら、アレルゲン腸管透過抑制活性の評価系構築と活性成分、New Food Industry,2003, 45, 33-38清野宏・石川博通・名倉宏編、「粘膜免疫 腸は免疫の司令塔」、中山書店発行、pp.144およびpp.152(2001)Guamer F, Casellas F, Borruel N, AntolinM, Videla S, Vilaseca J, Malagelada JR、Role of microecology in chronicinflammatory bowel diseases.、 Eur J Clin Nutr、56(Suppl 4)、S34-38(2002) 本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであって、本発明は破壊された腸管バリア機能の改善を図り、炎症性腸疾患等腸管バリアの機能に起因する疾病に有効な医薬や食品、あるいは腸管バリアの保護に有効な医薬や食品を提供することを目的とする。そこで、本発明者らは、上記Caco-2細胞を用いた正常な腸管透過モデルに、腸管透過性の亢進の因子であると言われているTNF−αを加えて、人為的に腸管バリア機能を破綻させうる状態を作り出し、この状態を改善しうる乳酸菌またはその有効成分を見出すことにより上記目的を達成しようとした。 上記目的を達成するため、乳酸菌又は乳酸菌由来の脂質成分(とりわけリポテイコ酸)を有効成分として、透過性亢進または望まれない透過性を回復若しくは回復を促進し、あるいは望まれない透過性の亢進を阻害若しくは予防するための医薬又は食品組成物を提供する。 本発明によると、炎症の亢進などによる腸管バリア機能の破綻の回復が促進、正常化し、炎症性腸疾患など腸管バリア機能破綻が原因と考えられる各種疾患の治療に寄与できる。また、腸管バリアの透過性亢進の防止により腸管バリア機能が正常な状態に維持され、腸管バリア機能の破綻に基づく疾病の予防に貢献する。 本発明者らは、ヒトより独自に分離した数多くの乳酸菌株から、腸管バリア機能の回復および腸管バリア透過性亢進の阻害に寄与する菌株を選抜したところ、高い活性を示す乳酸菌としてラクトバチルス・ラムノーサスOLL2838菌株(Lactobacillus rhamnosus OLL2838、受領番号:NITE AP-313、以降L. rhamnosus OLL2838ともいう)を見出した。さらに検討を重ねた結果、L. rhamnosus OLL2838の菌体の脂質成分であるリポテイコ酸がその活性成分の1つである事が示唆された。したがって、該乳酸菌、その菌体脂質成分、または菌体由来のリポテイコ酸を使用することで、腸管バリア機能破綻が原因と考えられる各種疾患の治療剤や、腸管バリア機能の破綻に基づく疾病の予防剤を提供することが可能となった。 本発明において乳酸菌とはブドウ糖を資化して対糖収率で50%以上の乳酸を生産する菌の総称で、生理学的性質としてグラム陽性菌の球菌または桿菌で、運動性なし、胞子形成能なし、カタラーゼ陰性などの特徴を有している。乳酸菌は植物の表皮、哺乳動物の腸管、海洋、土壌、発酵食品など様々な環境から分離され、漬け物や醤油などの発酵食品においては味やテクスチャーの形成に寄与するのみならず、乳酸やバクテリオシン等の抗菌性物質産生能を有していることから、古来より発酵乳等を介して世界各地で食されてきた。また、哺乳動物の腸管では宿主に種々の生理的影響を与えていることも周知の事実であり、極めて安全性の高い微生物と言える。乳酸菌は現在までに、Lactococcus属、Lactobacillus属、Leuconostoc属、Pediococcus属、Streptococcus属、Wissella属、Tetragenococcus属、Oenococcus属、Enterococcus属、Vagococcus属、Carnobacterium属の11属に分類されている。本発明においては、これらの乳酸菌を用いることができる。これらの中でも、好適な乳酸菌として、Lactobacillus属、とりわけLactobacillus rhamnosus種、さらに好ましくはL.rhamnosus OLL2838を挙げることができるが、これらの例に限定されない。 Lactobacillus rhamnosus OLL2838株は、本発明者らは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された。以下に、寄託を特定する内容を記載する。(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(2)連絡先:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 電話番号0438-20-5580(3)受領番号:NITE AP-313(4)識別のための表示:Lactobacillus rhamnosus OLL2838(5)受領日:平成19年2月14日 Lactobacillus rhamnosus OLL2838株(受領番号:NITE AP-313)は、グラム陽性桿菌であり、BL寒天培地(日水製薬)上で嫌気的に培養した際のコロニー形態は円形、白色、smooth型で円錐状に隆起する。生理学的特徴としては、ホモ乳酸発酵形式、15℃での発育性、ラムノース、リボース、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、シュクロース、セロビオース、ラクトース、トレハロース、メリチトース、マンニトール、ソルビトールに対する発酵性を有する。 本発明の腸管バリアの機能回復剤(食品組成物)及び腸管バリア透過性の亢進阻害剤(食品組成物)は上記の乳酸菌を種々の状態で含むことができる。例えば乳酸菌の菌体(生菌、死菌を問わず)のみならず、乳酸菌発酵物(乳酸菌飲料、酸乳、ヨーグルトなど)、乳酸菌に何らかの処理を施した処理物(破砕物、粉砕物)として用いられる。 乳酸菌はLactobacillus rhamnosus OLL2838株に限らず、菌株に応じた栄養要求性を満たす培養培地によって培養できる。このような培地として、例えばMRS培地が例示される。菌体としては、このような培地を用いて培養した乳酸菌培養液から取り出した菌体のみならず、培養終了後の乳酸菌培養液をそのまま、あるいは培地を濃縮した濃縮物として使用することもできる。乳酸菌は生菌又は死菌のうちいずれであってもよく、生菌体、湿潤菌体、乾燥菌(噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、ドラム乾燥などによって得られる)として用いられる。また、作用効果の観点から好ましくは生菌を用いるのが好ましいが、取り出した菌体に殺菌すなわち放射線殺菌処理、加熱処理等を施して死菌として用いてもよい。そして、生菌、死菌を問わず取り出した菌体や培養液、濃縮物を再び適当な媒体に懸濁させた懸濁液やとしても使用できる。媒体としては、培養用の培地、水、生理食塩水が例示される。 さらに、乳酸菌を用いて発酵させた発酵物として使用してもよい。発酵物としては、上記のように乳酸菌飲料、酸乳、発酵乳、ヨーグルトが例示される。また、本発明では、乳酸菌に何らかの処理を施した乳酸菌処理物として含ませてもよい。乳酸菌処理物としては、例えば、乳酸菌の菌体、乳酸菌含有物、発酵乳の濃縮物、ペースト化物、乾燥物など上記で述べた乳酸菌の菌体や菌体含有物を適当な装置を用いて破砕した破砕物、粉砕した粉砕物としたものが例示される。なお、ここにおける乳酸菌処理物とは菌体の特定構成部分を取り出した処理物ではなく、菌体の全体を使用したものを意味する。 本発明の腸管バリア機能の機能回復剤及び腸管バリア透過性の亢進阻害剤は、上記で述べたように乳酸菌を菌体(菌体処理物)として含むものだけでなく、菌体から脂質画分を抽出した菌体脂質成分として得たものを使用してもかまわない。本発明者らは、乳酸菌を構成する脂質成分に腸管バリア機能の機能回復、腸管バリア透過性の亢進阻害作用に着目したものであって、脂質成分のうちリポテイコ酸がその活性を示すことが示されたことに基づいたものである。 リポテイコ酸(Lipoteichoic acid:LTA)は自然界に広く分布し、グラム陽性細菌の細胞膜を構成することはよく知られている。一般に、リポテイコ酸はジアシルグリセロールを持つグリセロールリン酸ポリマーの構造をしているが、リポテイコ酸の構造はその由来(起源)によって異なる。本発明においては、前記乳酸菌由来のリポテイコ酸、特に乳酸菌の中でもL.rhamnosus OLL2838(受領番号:NITE AP-313)由来のリポテイコ酸、あるいはStaphylococcus aureus(以降、S. aureusともいう)由来のリポテイコ酸が好ましく用いられ、本発明の機能を発揮する限りにおいて、これら特定の乳酸菌やS. aureusのみに限られず、B. longum、L. delbrueckii subsp. bulgaricus、L. casei、L. gasseri等その他の乳酸菌由来のリポテイコ酸はもちろんのこと乳酸菌以外の細菌に由来するリポテイコ酸であってもよい。 リポテイコ酸は、化学的に純粋な化合物として用いることができるのはもちろんであるが、単一の化合物ではなく、脂質成分、特にその活性が示されたリポテイコ酸を含む限りにおいて、乳酸菌の粗抽出物として、さらには乳酸菌の破砕物、粉砕物を有効成分として用いることを妨げるものではない。 本発明において、腸管のバリア機能の回復とは、腸管における透過性が、何らかの原因により正常の範囲を超えて病的若しくは望ましくない程度に亢進した状態からの回復を意味し、正常な状態に戻すことのみならず、質的に正常な状態に近づける意味で用いられる。また、回復には、腸管における透過性が、何らかの原因により正常の範囲を超えて病的若しくは望ましくない程度に亢進した状態から回復するまでの回復期間を短くする回復の促進、言い換えるならば、通常の食品を摂取している場合に比べて、つまり自然治癒よりも早期に正常な状態に回復させることをも含む意味で用いられる。 また、本発明において、腸管バリアの透過性の亢進阻害とは、外因性あるいは内因性の原因により腸管におけるバリア機能が破壊され、腸管バリアの透過性が正常な状態から病的な状態になるのを予防若しくは抑制することを意味し、その透過性を正常な状態に維持することをも含む意味で用いられる。本発明でいう腸管バリアの透過性の亢進には、上皮細胞のみならず、腸管粘膜などの他の腸管バリアを構成する生体機構にも関連した腸管バリアの破壊・破綻・衰弱・低下が含まれる。 本発明において、回復剤及び阻害剤とは、本発明の有効成分である脂質成分、とりわけリポテイコ酸又はそれを含む乳酸菌の菌体(生菌、死菌)あるいは脂質成分、とりわけリポテイコ酸を含むように調製された乳酸菌の菌体成分を医薬として使用することを意味し、それ単独で使用する場合のみならず、それらの成分に適宜必要な賦形剤等を添加し、薬学的調製物、つまり医薬組成物として使用することをも含む趣旨である。医薬組成物の形態も特に限定されるものではなく、錠剤や顆粒剤、カプセル剤、注射剤や液剤、ドライシロップ剤、散剤、シロップ剤などの各種剤型が例示される。さらに、その作用に悪影響を与えない範囲で、抗炎症剤や抗鎮痛剤、ビタミンなど他の主薬、副薬、そして製剤上必要に応じて適当な賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの既知の補助剤を加えることができる。また、粉ミルクなど生物学的規格を有する医薬品に添加してもよい。 本発明において、食品組成物とは、本発明の有効成分である脂質成分、とりわけリポテイコ酸又はそれを含む乳酸菌の菌体(生菌、死菌)あるいは脂質成分、とりわけリポテイコ酸を含むように調製された乳酸菌の菌体成分を人工的に加えた加工食品を意味するものであって、本発明の乳酸菌を用いて得られた食品はもちろんのこと、通常の工程で得られた場合に比べて本発明の乳酸菌、脂質成分またはリポテイコ酸含量が同等若しくはそれ以上に高められた食品組成物を意味する。この食品組成物には、既存の食品、例えば、牛乳やヨーグルト、チーズ、発酵乳、豆腐、おかゆ、くず湯、お茶や果汁などからなる清涼飲料水、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳、授乳婦用粉乳等の食品(粉ミルクなど生物学的規格を有するものを含む)、栄養食品など、各種食用素材を原料にして製造された食品が例示され、これらの食品の製造時に上記有効成分を添加したもののみならず、経腸栄養剤等のように、各種タンパク質(全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエー粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質やレシチン、大豆タンパクなど植物性タンパク質など)、各種糖質(グルコースやフラクトース等の単糖類、ショ糖などの二糖類、キシリトールやグリセリンなどの多価アルコール、デキストリン、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などの多糖類など)、各種脂質(ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂や、大豆油、ヤシ油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂など)、各種ビタミン(ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸など)や各種ミネラル(カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなど)、有機酸(リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸など)などの各種栄養素を任意の割合で混合し、そのまま、あるいはさらにそれらの混合物にゲル化剤を加え、嚥下しやすい程度に粘度を調製した食品組成物も例示される。また、本発明の食品組成物には、いわゆる特定保健用食品、すなわち、腸管のバリア機能の保護、腸管透過性の亢進抑制作用、腸管透過性の亢進回復作用等、本発明の作用に基づく効能を標榜可能とする食品や健康表示(健康への効用をしめす表現)を具体的に表示することが公に許可された食品、栄養機能食品が含まれるのは言うまでもない。 本発明において、乳酸菌の菌体として用いる場合、年齢や性別、体重、症状あるいは使用目的によって異なるため、特に限定されるものではないが、あえて挙げるならば、成人のヒトにおける1回摂取量として、生菌であれば1×104〜1×1015個、好ましくは1×107〜1×1013個で用いることができる。死菌であれば、1×104〜1016個、好ましくは1×107〜1×1014個で用いることができる。また、菌体濃度はその使用態様、つまり菌体そのものとして用いるか懸濁液として用いるかなどによって異なり、特に限定されるものではないが、あえて挙げると、0.001〜100%(w/w)、好ましくは0.01〜100%(w/w)、さらに好ましくは0.1〜100%(w/w)である。また、乳酸菌発酵物や処理物などとして用いる場合には、菌体に換算して上記範囲として使用するのが好ましい。 また、乳酸菌の脂質成分、とりわけリポテイコ酸の摂取量は、年齢や性別、体重、症状あるいは使用目的によって異なるため、特に限定されるものではないが、あえて挙げるならば、成人のヒトにおける1回摂取量として、0.1〜100mg/kgを摂取することができ、好ましくは0.1〜10mg/kgを摂取することができる。また、脂質成分の濃度、とりわけリポテイコ酸の濃度はその使用態様、つまり脂質成分として用いるか化合物のリポテイコ酸として用いるかなどによって異なり、特に限定されるものではないが、あえて挙げると、0.001〜100%(w/w)、好ましくは0.01〜100%(w/w)、さらに好ましくは0.1〜100%(w/w)である。 これら菌体や脂質成分等の摂取量は、年齢や性別、体重、症状あるいは使用目的(治療なのか、亢進予防なのか)によっても適宜増減され、医薬組成物又は食品組成物の種類や摂取量等によっても適宜調整されうる。また、その摂取経路は経口が最も好適であるが、経口に限らず、経管投与、経腸投与なども例示される。投与の対象もヒトに限られず、ヒトと同様な腸管透過作用機序を有する限り、イヌやサル、ウシやウマなどの哺乳動物などの各種動物に対しても適用されうる。 本発明の腸管バリア機能の機能回復剤や機能回復用の食品組成物は、何らかの原因により腸管バリアの機能が低下し、腸管透過性が亢進している者にその治療・改善のために用いられる。摂取時は、医薬であれば食前や食後、食間であり、食品組成物であれば食事の一品目として、あるいはその素材として食事の際に、また、おやつ、サプリメント、栄養補助食品等として食事の間に摂取されるのが好ましいが、この限りではない。 また、腸管バリア透過性の亢進抑制剤や亢進抑制用の食品組成物は、腸管バリアの機能の低下が予測される場合などに、腸管透過性が正常な状態に保たれている者が、腸管バリア機能を維持し、あるいはその低下を防ぐために用いられる。摂取時は、医薬であれば食前や食後、食間であり、食品組成物であれば食事の一品目として、あるいはその素材として食事の際に、また、おやつ、サプリメント、栄養補助食品等として食事の間に摂取されるのが好ましいが、この限りではない。 以下、実施例(実験1〜3)に基づいて本発明についてさらに詳述する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものでないのは言うまでもない。 〔実験1:腸管透過に作用を及ぼす菌株の選抜〕 1)被検菌株の調製 (被検菌株) 試験に供したのは、明治乳業株式会社保有の4菌種4菌株の乳酸菌L. rhamnosus OLL2838(図2、3においてNo.34株で示される。)、L. delbrueckii subsp. bulgaricus MEP190901(図2、3においてNo.3株で示される。)、L. casei MEP190902(図2、3においてNo.9株で示される。)、L. gasseri MEP190903(図2、3においてNo.10株で示される。)である。これらの乳酸菌を、MRS培地で18時間培養後、PBSで3回洗浄し、以下に示すCaco-2細胞培養用の培地から抗生物質を除いた培地を添加して2×105cells/mLの被検菌株懸濁液を調製し、以下の腸管透過作用試験に用いた。 2)Caco-2細胞を用いた腸管透過に対する作用試験 (Caco-2細胞を用いた腸管透過モデルの作成) Caco-2細胞(ATCC HTB-37、American Type Culture Collection(ATCC))は40〜60継代のものを用いた。細胞培養用の培地として、10%牛胎子血清(以下「FCS」ともいう、ICN Biochemicals, Inc.)、1%非必須アミノ酸(Gibco Life Technologies)、100IU/mlペニシリン(Gibco Life Technologies)、100μg/mlストレプトマイシン(Gibco Life Technologies)及び50μg/mlゲンタマイシン(Gibco Life Technologies)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(以下「DMEM」とも言う、Gibco Life Technologies)を用いた。まずCaco-2細胞を、75cm2の組織培養フラスコで約70〜80%コンフルエンスになるまで培養した。次いで、12穴トランズウェル(Transwell)細胞培養チャンバー(直径12mm、孔径0.4μm、透過性膜を有する)にCaco-2細胞を2×105cells/cm2の濃度で接種し、5%CO2雰囲気下、37℃にて14日間培養してCaco-2単層細胞を得た。このようにして得たCaco-2単層細胞のapical(管腔)側には微細柔突起が多く小腸のbrush borderやtight junctionの特徴に類似している。また、前記培養期間でトランスポーターやペプチダーゼなどの代謝酵素も発現することから小腸膜モデルとして使用することができる(Hidalgo IJ, Raub TJ, Borchardt RT、Characterization of the human colon carcinoma cell line (Caco-2) as a model system for intestinal epithelial permeability、Gastroenterology、96(3)、pp.736-749(1989))。 (腸管透過モデルの検証) 上記の方法にて作成したCaco-2単層細胞において、充分にタイトジャンクションが形成されているかどうかを検証するために、Caco-2単層細胞の経上皮電気抵抗(TER)を測定した。Ag/AgCl電極を用いた抵抗値測定システム(Millicell-ERS、Millipore)を用い、経上皮電気抵抗が約300Ω・cm2以上のものをアッセイに用いた。各ウェルはクラスタープレート上に設置し、外側培養液(基底側、1.5ml)と内側培養液(管腔側、0.5ml)を満たした(図1参照)。Caco-2単層細胞は24時間毎に新鮮な培地に交換して培養した。 (Caco-2細胞への被検菌の添加およびTNF−αによる刺激) 次に、調製したCaco-2単層細胞の各ウェルの内側培養液に2×105cells/mLの濃度の被検菌株懸濁液を500μL添加し、1時間後にSonらの方法(Son DO, Satsu H, Shimizu M.、Histidine inhibits oxidative stress- and TNF-alpha-induced interleukin-8 secretion in intestinal epithelial cells.、 FEBS Lett.、579(21)、 4671-4677(2005))に従ってCaco-2細胞の刺激を行った。すなわち、外側培養液に、最終濃度が100ng/mLになるようにTNF−αを添加して、さらに48時間培養を行った。その後に下記の腸管バリア保護効果の評価を行った。このとき、被検菌株懸濁液を添加せずTNF−αのみを添加したウェル、および被検菌株懸濁液もTNF−αも添加しないウェル(以降、コントロールともいう)も設けた。 (腸管バリア保護効果の評価) 各乳酸菌の腸管バリア保護効果の比較は、経上皮電気抵抗(TER)値(Ω・cm2)およびIL-8産生(pg/ml)を指標に行なった。TER値は、Ag/AgCl電極を用いた抵抗値測定システム(Millicell-ERS、Millipore)を用いて、TNF−αを添加後0、24、48時間の値を測定した。さらに、各ウェルのTER値をコントロールのTER値で除してTER相対値(Relative TER)を算出した。各IL-8産生量は、培養後に採取した外側培養液をELISA法に供して、TNF−α添加後48時間の値を測定した。 3)結果 TER相対値の測定結果を図2、IL-8の測定結果を図3に示す。なお、測定データは平均±標準誤差(SE)(n=3)を示す(以下の測定結果において同じ)。Caco-2単層細胞培養系へのTNF−α添加により、TER相対値が減少し、培養液中のIL-8濃度が上昇した。被検菌株懸濁液を添加したものにおいては、供試株の多くに、TER相対値の減少抑制およびIL-8産生抑制能を認めた。とりわけ、TER値の減少抑制およびIL-8産生抑制能にすぐれる菌株はL.rhamnosus OLL2838(No.34株)であった。 〔実験2:腸管透過に作用を及ぼす菌株の加熱処理物の活性試験〕 1)被検菌株の加熱処理 (被検菌株) 試験に供したのは、実験1で高いTER相対値減少抑制作用が見出されたL.rhamnosus OLL2838(No.34株)である。実施例1に準じてL.rhamnosus OLL2838菌体を調製する(生菌)とともに、L.rhamnosus OLL2838を100℃、10分の条件で加熱処理し(死菌)、それぞれ2×105cells/mLの加熱菌株懸濁液を調製して、以下の腸管透過抑制試験に用いた。また、L.rhamnosus OLL2838の培養上清(菌体外代謝物)についても同様に試験を行った。 2)Caco-2細胞を用いた腸管透過に対する作用試験 試験方法は実施例1に準じて行い、2×105cells/mLの生菌懸濁液500μL、調製した2×105cells/mLの死菌懸濁液500μL、及び生菌を培養した時の培養上清を0.22μmのフィルターでろ過したもの500μLを試験に用いて評価した。生菌、死菌とも実施例1に記載のCaco-2細胞培養用の培地から抗生物質を除いた培地に懸濁した。 3)結果 結果を図4および図5に示す。この実験においては、L.rhamnosus OLL2838のTER相対値の回復が見られ、その回復作用若しくはTER相対値の減少抑制作用は加熱処理(死菌)によって減弱した。本菌の培養上清単独(代謝物)ではTER相対値の減少抑制若しくはその回復に対してほとんど効果がなかった。一方、IL-8産生抑制能は、加熱処理(死菌)によって減弱したが、本菌の培養上清単独(代謝物)では維持されることがわかった。TER相対値の回復とIL-8産生抑制の双方を満たすものとして、活性成分は主に菌体に存在すると示唆された。 〔実験3:腸管透過に対する作用を有する菌株の各種菌体処理物の活性試験〕 1)被検菌株の各種菌体処理物の調製 (被検菌株) 試験に供したのは、実験1で高いTER相対値減少抑制作用が見出されたL.rhamnosus OLL2838である。この菌体を下記に記載の各種処理方法にて処理し、PBSで2回、DMEMで1回洗浄し、実施例1記載のCaco-2細胞培養用培地から抗生物質を除いた培地を添加して2×105cells/mLの菌体処理物懸濁液を調製し、以下の腸管透過抑制試験に用いた。 (菌体の酵素処理) リパーゼ処理:脂質の分解を目的とする。酵素はブタ由来のもの(TypeII(Crude)、EC 3.1.1.3、30-90units/mg protein、SIGMA社)を使用した。最終濃度0.5mg/mL溶液で37℃、2時間処理した。 アクチナーゼ処理:タンパク質の分解を目的とする。酵素はStreptomyces griseus由来のもの(科研製薬)を使用した。最終濃度2mg/mL溶液で37℃、2時間処理した。 2)Caco-2細胞を用いた腸管透過に対する作用試験 試験方法は実験1に準じて行い、調製した2×105cells/mLの菌体処理物懸濁液500μLを試験に用いて評価した。 3)結果 結果を図6および図7に示す。実験2でみられたL.rhamnosus OLL2838のTER相対値の回復促進作用およびIL-8産生抑制能は、リパーゼ処理によって低下した。一方、アクチナーゼ処理したL.rhamnosus OLL2838菌体では変化が認められなかった。これにより、腸管透過に対する作用を有する活性成分は脂質成分であることが示唆された。 〔実験4:リポテイコ酸の活性試験〕 グラム陽性菌の細胞壁はタイコ酸、タイクロン酸に富む。タイコ酸は細胞膜の糖脂質と結合したリポテイコ酸(LTA)と細胞壁ペプチドグリカンに結合した壁タイコ酸があり、様々な生体反応に関わることから、細菌にとって生理的に重要な成分あることが知られている。実験3より、L.rhamnosus OLL2838菌体の腸管透過に対する作用の活性成分は脂質成分であることが示唆されたため、活性成分の一つとして、乳酸菌の細胞壁成分であるリポテイコ酸に着目し、その腸管透過に対する作用およびタイトジャンクションのバリア機能を担う酵素であるMLCK(ミオシン軽鎖キナーゼ)タンパク質の発現変化を評価した。 1)リポテイコ酸の調製 リポテイコ酸はStaphylococcus aureus由来のもの(SIGMA社)を試験に供した。 2)Caco-2細胞を用いた腸管透過抑制試験 試験方法は実験1に準じて行い、リポテイコ酸0.1、1、10、100ng/mLの500μLを試験に用いて評価した。また、TNF−αを添加しないウェルにリポテイコ酸0.1、100ng/mLの500μLを添加したウェルも設けた。 3)タイトジャンクションに係るMLCK酵素の発現変化のwestern解析 Caco-2細胞を用いた腸管透過抑制試験に加えて、その際に、タイトジャンクションのバリア機能を担う酵素であるMLCKのタンパク質発現がリポテイコ酸添加によって受ける変化についてwestern解析を行った。MLCK(ミオシン軽鎖キナーゼ)は、腸管透過における細胞間経路のタイトジャンクションを調節する酵素として知られている。 試験方法は実験1に準じて行い、リポテイコ酸100ng/mLを試験に用いて評価した。48時間後のCaco-2細胞をPBSで3回洗浄し、RIPA buffer(25mM Tris-HCl pH 7.4, 150mM NaCl, 1% NP-40, 1% sodium deoxycholate, 1% SDS)を添加して細胞蛋白を抽出した。さらに遠心(50,000rpm、30min)して上清回収し、上清を検液としてウエスタンブロッティングに供してタンパク質発現を解析した(各サンプルともn=3)。タンパクの検出はECL(化学発光)法を用いる。こうして得られたバンドの強度を測定した。各バンド強度の値をコントロールのバンド強度で除してRelative intensity levelとした。 4)結果 (腸管透過に対する作用試験) ウェルにTNF−αを添加した場合の試験結果を図8および図9に示す。TER相対値の減少抑制作用又は回復促進作用(図8)およびIL-8産生抑制(図9)は、リポテイコ酸に対する濃度依存性が認められ、とりわけ100ng/mlの添加時に最も高い効果を示した。また、ウェルにTNF−αを添加しなかった場合との比較試験結果を図10および図11に示す。TER相対値の減少抑制作用(図10)やIL-8産生抑制作用(図11)に対して、TNF−αで刺激しないCaco-2細胞においては、リポテイコ酸の影響は観察されなかった。このことから、TNF−α刺激により上昇した腸管上皮の腸管透過に対する作用は、L.rhamnosus OLL2838の菌体成分のうち、特にリポテイコ酸が関与すること、およびリポテイコ酸は正常な腸管上皮の腸管透過には影響を与えないことが示された。 (タイトジャンクションに係るMLCKのタンパク質発現変化のwestern解析) Caco-2細胞の単層細胞モデルにTNF−αを添加した場合、MLCKタンパク質発現は増加したが、リポテイコ酸との共存培養によりMLCKタンパク質発現の増加は抑制された(図12)。MLCKは、カルシウム−カルモジュリン(Ca-CaM)の存在下、ミオシン軽鎖をリン酸化し、それによってアクチンフィラメントを収縮させる働きを有する。試験で用いたCaco-2細胞において、MLCKが活性化するとタイトジャンクションは開口する。つまり、TNF−αの添加によって増大したMLCKのタンパク質発現はタイコジャンクションが開口し、腸管透過が亢進されていることを意味する。これらの結果から、乳酸菌由来のリポテイコ酸は、MLCKを介してTER相対値を上昇させるという一つの可能性が示唆された。 以上の実験によれば、本発明の乳酸菌は腸管バリア機能を保護する作用を有し、TNF−αなどに起因する炎症性の腸管透過性の亢進を回復若しくは回復を促進し、また、TNF−αなどに起因する腸管透過性の亢進を阻害していることが理解された。すなわち、乳酸菌または乳酸菌の菌体成分、特に脂質成分、例えばリポテイコ酸を、腸管透過性が過剰に亢進している患者等に摂取させることにより腸管透過性を正常な機能に回復させることが期待できる。また、正常な腸管透過性の状態で、こうしたリポテイコ酸や乳酸菌の菌体成分を摂取しておくことにより、TNF−αなどに起因する腸管透過性の異常な亢進を防止することができる。腸管透過モデルの概略構成図である。各種乳酸菌が腸管透過に及ぼす作用を示す図であって、TER値を指標とした図である。(a)はTER相対値の時間経過を示すグラフ、(b)は48時間経過後のTER相対値を示すグラフである。各種乳酸菌が腸管透過に及ぼす作用を示す図であって、IL-8の生産量を指標とした図である。熱処理された乳酸菌の生菌、死菌および菌代謝物が腸管透過に及ぼす作用を示す図であって、TER値を指標とした図である。(a)はTER相対値の時間経過を示すグラフ、(b)は48時間経過後のTER相対値を示すグラフである。熱処理された乳酸菌の生菌、死菌および菌代謝物が腸管透過に及ぼす作用を示す図であって、IL-8の生産量を指標とした図である。酵素処理された乳酸菌が腸管透過に及ぼす作用を示す図であって、TER値を指標とした図である。(a)はTER相対値の時間経過を示すグラフ、(b)は48時間経過後のTER相対値を示すグラフである。酵素処理された乳酸菌が腸管透過に及ぼす作用を示す図であって、IL-8の生産量を指標とした図である。TNF−α存在下においてLTAが腸管透過に及ぼす作用を示す図であって、TER値を指標とした図である。(a)はTER相対値の時間経過を示すグラフ、(b)は48時間経過後のTER相対値を示すグラフである。TNF−α存在下においてLTAが腸管透過に及ぼす作用を示す図であって、IL-8の生産量を指標とした図である。TNF−α非存在下においてLTAが腸管透過に及ぼす作用を示す図であって、TER値を指標とした図である。(a)はTER相対値の時間経過を示すグラフ、(b)は48時間経過後のTER相対値を示すグラフである。TNF−α非存在下においてLTAが腸管透過に及ぼす作用を示す図であって、IL-8の生産量を指標とした図である。MLCKタンパク質の発現を示す図であって、(a)はその発現を示すウエスタンブロットの結果の一例を示す図、(b)はその発現量の比較を示す図である。図(a)中の矢印は、MLCKタンパク質のバンドを示す。 ラクトバチルス・ラムノーサスOLL2838(Lactobacillus rhamnosus OLL2838)。 腸管バリア機能の低下した機能を回復若しくは腸管バリア機能の低下を防止可能な乳酸菌。 腸管バリア透過性の亢進を阻害可能な乳酸菌。 ラクトバチルス・ラムノーサスOLL2838(Lactobacillus rhamnosus OLL2838)である請求項2又は3に記載の乳酸菌。 請求項1又は2に記載の乳酸菌を有効成分とする腸管バリア機能の機能回復剤又は機能回復用の食品組成物。 請求項1又は3に記載の乳酸菌を有効成分とする腸管バリア透過性の亢進阻害剤又は亢進阻害用の食品組成物。 腸管の透過性亢進または望まれない透過性の治療または予防のための栄養学的または薬学的調製物の製造のための請求項1〜3のいずれか1項に記載の乳酸菌の使用。 リポテイコ酸(Lipoteichoic acid)を有効成分とする腸管バリア機能の機能回復剤又は機能回復用の食品組成物。 前記リポテイコ酸は乳酸菌由来又はStaphylococcus aureus由来である請求項8に記載の腸管バリア機能の機能回復剤又は機能回復用の食品組成物。 前記乳酸菌はLactobacillus rhamnosus OLL2838である請求項9に記載の腸管バリア機能の機能回復剤又は機能回復用の食品組成物。 乳酸菌の菌体由来の脂質成分を有効成分とする腸管バリア機能の機能回復剤又は機能回復用の食品組成物。 前記乳酸菌はLactobacillus rhamnosus OLL2838である請求項11に記載の腸管バリア機能の機能回復剤又は機能回復用の食品組成物。 リポテイコ酸を有効成分とする腸管バリア透過性の亢進阻害剤又は亢進阻害用の食品組成物。 前記リポテイコ酸は乳酸菌由来又はStaphylococcus aureus由来である請求項13に記載の腸管バリア透過性の亢進阻害剤又は亢進阻害用の食品組成物。 乳酸菌の菌体由来の脂質成分を有効成分とする腸管バリア透過性の亢進阻害剤又は亢進阻害用の食品組成物。 前記乳酸菌はLactobacillus rhamnosus OLL2838である請求項15に記載の腸管バリア透過性の亢進阻害剤又は亢進阻害用の食品組成物。 腸管の透過性亢進または望まれない透過性の治療または予防のための栄養学的または薬学的調製物の製造のための乳酸菌の菌体由来の脂質成分の使用。 前記乳酸菌はLactobacillus rhamnosus OLL2838である請求項17に記載の乳酸菌の菌体由来の脂質成分の使用。 腸管の透過性亢進または望まれない透過性の治療または予防のための栄養学的または薬学的調製物の製造のためのリポテイコ酸の使用。 前記リポテイコ酸は乳酸菌由来又はStaphylococcus aureus由来である請求項19に記載のリポテイコ酸の使用。 前記乳酸菌はLactobacillus rhamnosus OLL2838である請求項20に記載のリポテイコ酸の使用。 【課題】破壊された腸管バリア機能の回復を図る医薬や食品、あるいは腸管バリアの保護に有効な医薬や食品、さらには炎症性腸疾患等腸管バリアの機能に起因する疾病に有効な薬剤を提供する。【解決手段】乳酸菌、又は乳酸菌由来の脂質成分(とりわけリポテイコ酸)あるいはS. aureus由来のリポテイコ酸を有効成分として、透過性亢進または望まれない透過性を回復若しくは回復を促進し、あるいは望まれない透過性亢進を阻害若しくは予防のための医薬又は食品組成物を提供する。【選択図】 図820070329A1633000083 本発明者らは、ヒトより独自に分離した数多くの乳酸菌株から、腸管バリア機能の回復および腸管バリア透過性亢進の阻害に寄与する菌株を選抜したところ、高い活性を示す乳酸菌としてラクトバチルス・ラムノーサスOLL2838菌株(Lactobacillus rhamnosus OLL2838、受託番号:NITE P-313、以降L. rhamnosus OLL2838ともいう)を見出した。さらに検討を重ねた結果、L. rhamnosus OLL2838の菌体の脂質成分であるリポテイコ酸がその活性成分の1つである事が示唆された。したがって、該乳酸菌、その菌体脂質成分、または菌体由来のリポテイコ酸を使用することで、腸管バリア機能破綻が原因と考えられる各種疾患の治療剤や、腸管バリア機能の破綻に基づく疾病の予防剤を提供することが可能となった。A1633000103 Lactobacillus rhamnosus OLL2838株は、本発明者らは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された。以下に、寄託を特定する内容を記載する。(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(2)連絡先:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 電話番号0438-20-5580(3)受託番号:NITE P-313(4)識別のための表示:Lactobacillus rhamnosus OLL2838(5)寄託日:平成19年2月14日A1633000113 Lactobacillus rhamnosus OLL2838株(受託番号:NITE P-313)は、グラム陽性桿菌であり、BL寒天培地(日水製薬)上で嫌気的に培養した際のコロニー形態は円形、白色、smooth型で円錐状に隆起する。生理学的特徴としては、ホモ乳酸発酵形式、15℃での発育性、ラムノース、リボース、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、シュクロース、セロビオース、ラクトース、トレハロース、メリチトース、マンニトール、ソルビトールに対する発酵性を有する。A1633000163 リポテイコ酸(Lipoteichoic acid:LTA)は自然界に広く分布し、グラム陽性細菌の細胞膜を構成することはよく知られている。一般に、リポテイコ酸はジアシルグリセロールを持つグリセロールリン酸ポリマーの構造をしているが、リポテイコ酸の構造はその由来(起源)によって異なる。本発明においては、前記乳酸菌由来のリポテイコ酸、特に乳酸菌の中でもL.rhamnosus OLL2838(受託番号:NITE P-313)由来のリポテイコ酸、あるいはStaphylococcus aureus(以降、S. aureusともいう)由来のリポテイコ酸が好ましく用いられ、本発明の機能を発揮する限りにおいて、これら特定の乳酸菌やS. aureusのみに限られず、B. longum、L. delbrueckii subsp. bulgaricus、L. casei、L. gasseri等その他の乳酸菌由来のリポテイコ酸はもちろんのこと乳酸菌以外の細菌に由来するリポテイコ酸であってもよい。