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タイトル:特許公報(B2)_水素結合により結合した多層膜を含む積層体及びその製造方法、該積層体から得られる自立した薄膜の製造方法
出願番号:2006545147
年次:2011
IPC分類:B32B 7/06,B32B 27/00,A61J 3/07,C12N 5/00,C12N 11/00,A61K 9/52,G01N 1/28


特許情報キャッシュ

小野 昇子 ゲロ デッヒャー JP 4740874 特許公報(B2) 20110513 2006545147 20051111 水素結合により結合した多層膜を含む積層体及びその製造方法、該積層体から得られる自立した薄膜の製造方法 三井化学株式会社 000005887 セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク 598118019 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 島村 直己 100101904 小野 昇子 ゲロ デッヒャー JP 2004333876 20041118 20110803 B32B 7/06 20060101AFI20110714BHJP B32B 27/00 20060101ALI20110714BHJP A61J 3/07 20060101ALN20110714BHJP C12N 5/00 20060101ALN20110714BHJP C12N 11/00 20060101ALN20110714BHJP A61K 9/52 20060101ALN20110714BHJP G01N 1/28 20060101ALN20110714BHJP JPB32B7/06B32B27/00 CA61J3/07 DC12N5/00 201C12N11/00A61K9/52G01N1/28 J B32B 1/00-43/00 A61J 3/07 A61K 9/52 C12N 5/00 C12N 11/00 G01N 1/28 特表2003−528755(JP,A) 国際公開第02/085500(WO,A1) 特開2004−033136(JP,A) 特開2004−346209(JP,A) 特開平10−100306(JP,A) 特開2005−008508(JP,A) 特表2002−532850(JP,A) 11 JP2005021173 20051111 WO2006054668 20060526 16 20080703 岩田 行剛 本発明は、水素結合により結合した多層膜を含む積層体、該積層体から得られる自立した薄膜、ならびにそれらの製造方法及び用途、特に、酸アルカリや温度変化に敏感で壊れやすい物質を含む薄膜を、生物学的、電子的、磁気的、光学的な特性を失うことなく回収する技術に関する。 メディカルデバイス、電子材料、光学材料、センサーなど、さまざまな機能デバイスの開発において、その高機能化、多機能化、集積化のため、高度に制御された薄膜の開発が強く求められている。薄膜の製造方法には、真空蒸着法、分子線エピタキシー、溶液キャスト法、スピンコート法、ラングミュア・ブロジェット(Langmuir−Blodgett)法、交互吸着法(米国特許第5208111号明細書;Decherら,Science,277,1232,1997;Multilayer Thin Films:Sequential Assembly of Nanocomposite Materials;Decher,G.and Schlenoff,J.B.,eds.,Wiley−VCH:Weinheim,2003)などが知られている。一般に、上述した製法で得られた薄膜は、通常は支持体と共に使用されることが多い。支持体から切り離された膜単体、即ち自立膜の状態で使用できれば、更に実用範囲が広くなるものと期待され、支持体から薄膜を剥離する技術の確立が求められていた。 薄膜を得る一般的な方法としては、スピンコート法が用いられている。スピンコート法は、常温・常圧で行える簡便な手法であるが、膜厚のナノメートルレベルの制御性に欠けること、大面積化が困難なこと、薄膜の形態が平面状に限られること、剥離の際に形状を損なう恐れが多いこと、など制限がある。 一方、支持体表面を外部刺激応答材料で被覆し、その表面上に所望の薄膜を作製後、外部刺激により外部刺激応答材料の物性を変化させ所望の薄膜を剥離する方法がいくつか報告された。支持体表面を被覆する外部刺激応答材料に、i)温度応答性のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(国際公開第02/08387号パンフレット;欧州特許出願公開第1264877号明細書)、ii)有機溶剤に可溶なアセチル・セルロース(米国特許出願公開第2001/0046564号明細書;Kotovら,Nature Materials,2,413,2003)などが用いられている。i)では、市販の培養皿表面を、温度応答性のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を電子線を用い表面グラフトし、培養温度(37℃)では、その表面が疎水性になるため細胞が接着するのに対し、低温(32℃)では高度に親水化するため細胞が培養皿表面からその構造と機能を損なうことなく自発的に脱離する特徴を持つことが開示されている。この技術は、トリプシンなどの蛋白分解酵素を用いた既存の細胞回収方法では不可能であった、低損傷で細胞を回収することを可能にした画期的な方法である。ただし、温度変化に不安定な物質への応用や更なる積層化が困難であるという制限がある。ii)には、アセチル・セルロースで被覆した支持体上に、水溶性高分子と粘土鉱物から構成される交互積層膜を製膜し、その後アセトン溶液に浸漬するとアセチル・セルロースのみが溶出し交互積層膜を得ることができる方法が開示されている。 交互吸着法では、正の電解質ポリマー(カチオン)の水溶液と、負の電解質ポリマー(アニオン)の水溶液とを準備し、所望の支持体を、両溶液に交互に浸すことにより、支持体表面上に多層構造を有する交互積層膜が得られ、特殊な装置や環境制御が不要なうえ、支持体の材質や形態を問わず、大面積の薄膜を製造可能であるという利点を有している。更に、電荷を有する広範囲の物質群、例えば、タンパク質、粘土鉱物、半導体微粒子、ヘテロポリ酸、色素などに適用できる。更に、使用する材料によってさまざまな機能を付与しうる交互積層膜のみを支持体から外して取出すことができれば、支持体による制限を受けることなく付与した機能を利用することができる可能性を有している。しかしながら、薄膜を切り離す方法として、前記のii)の方法を用いると、有機溶剤に対して不安定な物質を含む薄膜の回収には不向きという制限がある。すなわち、従来技術では支持体から薄膜を切り離すプロセスで膜に損傷を与える可能性が高く、温度変化や有機溶剤に対して不安定な物質を含む自立した薄膜を低損傷で得ることは困難だった。 最近、中性pH(pH6以上)で溶出する、交互積層膜(ポリアクリル酸−ポリジアリルジメチルアンモニウム共重合体とポリスチレンスルホン酸間の静電相互作用を利用して構築される交互積層膜)を利用して、前記の問題を解決した技術が開示された(国際公開第02/085500号パンフレット;Schlenoffら,J.Am.Chem.Soc.,123,5368,2001)。ただし、溶出膜(ポリアクリル酸−ポリジアリルジメチルアンモニウム共重合体とポリスチレンスルホン酸間の静電相互作用を利用して構築される交互積層膜)の構成成分の生体適合性が低いため、生体材料分野での使用は不向きという課題が残される。 すなわち、支持体から薄膜を切り離すプロセスで膜構成成分に損傷を与えずに、しかも切り離した後に不要な物質が系内に残らない方法の開発が、メディカルデバイス、電子材料、光学材料、センサーなど、さまざまな機能デバイスの、高機能化、多機能化、集積化のため、必要とされていた。 一方、中性pHで溶出する材料として、水素結合を介して構築された交互積層膜が報告されている(Sukhishviliら,J.Am.Chem.Soc.,122,9550,2000;Sukhishviliら,Macromolecules,35,301,2002;Hammondら,Langmuir,15,1360,1999;Carusoら,Macromolecules,36,2845,2003)が、この水素結合のpH応答性を利用して、自立性薄膜を得た報告や、その製法に関する報告例はない。 本発明は、適用範囲の広い自立した薄膜、水素結合により結合した多層膜を含む積層体ならびにその製造方法及び用途を提供することを目的とする。 本発明者らは、前記課題を解決することを目的として、薄膜の積層中は溶出せず、水中に浸漬して初めて溶出する多層膜の開発を試みた。その結果、水素結合を介して構築される多層膜が低pH下で構築され、かつその膜が中性pH(通常pH4.0〜9.4、好ましくはpH6.0〜8.0、より好ましくはpH7.2〜7.5)の水に浸すだけで溶出することを見出した。更にi)このpH応答性を有する水素結合を介して構築される多層膜の表面上に、種々の薄膜を構築可能なこと、ii)水中に浸漬すると深部にある水素結合により結合した多層膜のみが溶出し、前記薄膜が水中に自然に剥離すること、iii)剥離した薄膜を水中から取り出し乾燥すると自立した薄膜が得られることを見出し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は以下の発明を包含する。(1)支持体上に水素結合により結合した多層膜が形成され、該多層膜上に更に薄膜が形成された積層体。(2)水素結合により結合した多層膜が、pH調整した水溶液に溶出し、薄膜が剥離するものである前記(1)に記載の積層体。(3)支持体上に形成された多層膜が、二種類以上の要素を含有するものである前記(1)又は(2)に記載の積層体。(4)支持体上に形成された多層膜が、生理的に許容されるポリマーを含有するものである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の積層体。(5)支持体上に形成された多層膜の厚さが0.0005〜10μmである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の積層体。(6)薄膜がその構造中に電解質ポリマーからなる交互積層膜を含むものである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の積層体。(7)薄膜がタンパク質、細胞、コロイド粒子、粘土鉱物、半導体微粒子及び色素分子から選ばれる少なくとも1種を含むものである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の積層体。(8)多層膜と薄膜の間に仕切り層を有する前記(1)〜(7)のいずれかに記載の積層体。(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の積層体の薄膜上に、更に多層構造を有する薄膜が形成された積層体。(10)前記(1)〜(9)のいずれかに記載の積層体から得られる自立した薄膜。(11)支持体を、積層する物質を含む二種類以上の溶液に交互に接触させることにより多層膜を形成させ、蒸着法、スピンコート法及び交互吸着法から選ばれる方法にて薄膜を形成することを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれかに記載の積層体の製造方法。(12)薄膜の形成を、積層する物質を含む二種類以上の溶液に交互に接触させることにより行う前記(11)に記載の製造方法。(13)前記(1)〜(9)のいずれかに記載の積層体をpH調整した水溶液中に浸漬することにより、多層膜を溶出させ、薄膜を支持体より剥離させることを特徴とする自立した薄膜の製造方法。(14)前記(1)〜(9)のいずれかに記載の積層体から得られる細胞培養用薄膜。(15)前記(1)〜(9)のいずれかに記載の積層体から得られる徐放性薬用カプセル。(16)前記(10)に記載の自立した薄膜から得られる分離膜。(17)前記(10)に記載の自立した薄膜から得られる触媒反応用デバイス。(18)前記(10)に記載の自立した薄膜から得られる透過型測定用試料薄片。(19)前記(10)に記載の自立した薄膜から得られるチューブ状自立した薄膜。 本発明の好ましい形態の一例を図1に示す。この形態は、pH応答性の水素結合を介して構築される多層膜の表面上に、酸アルカリや温度変化に敏感で壊れやすい物質を含む所望の薄膜を作製後、水中に浸すと(pHを変えると)水素結合により結合した多層膜だけが溶出することを利用して、不安定な物質を含む自立した薄膜を低損傷で作製するというものである。従来技術に対して、溶出材料が、中性のpH(例えば、pH4.0〜9.4(好ましくはpH6.0〜8.0、より好ましくはpH7.2〜7.5))で溶出するため、所望の薄膜中に含まれた不安定な物質の生物学的、電子的、磁気的、光学的な特性を失うことなく自立した薄膜を作製することが可能である。更に、溶出する支持体被覆材料を構成する物質としてすべて、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸など、生理的に許容されるポリマー、すなわち、生体適合性及び/又は生分解性を有するポリマーを選択すれば、生体材料分野にも好適である。 以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。 本発明に用いる支持体の材質としては、特に制限はなく、例えば、シリコンウェハー、石英、ガラスなどが好適に用いられる。またその形態は、その表面に直接又は間接的に、水素結合により結合した多層膜を形成しうるものであれば、特に制限はなく、具体的には、平面上、球面上、柱状表面上、柱状内壁上いずれの表面にも適用することができる。例えば、柱状内壁を支持体とし、水素結合により結合した多層膜(水素結合を介して構築されるpH応答性の交互積層膜)(以下「水素結合膜」という。)で内壁を被覆後、静電気的相互作用を介して構築される交互積層膜(薄膜)を積層し、水素結合膜を溶出させると、チューブ状の自立した薄膜(交互積層膜)が得られる。また、水素結合膜を構成する物質のうち少なくとも一つからなる粒子を支持体として、水素結合膜で被覆後、静電気的相互作用を介して構築される交互積層膜を積層し、水素結合膜を溶出させると、カプセル状の自立した交互積層膜を作製可能である。更に、薬理作用のある物質を含有させ水素結合膜表面に、静電気的相互作用を介して構築される交互積層膜を積層させた粒子は、pH変化に応じて薬理作用のある物質が徐放されるシステム(例えば、徐放性製剤)を構築可能である。 本発明における水素結合膜を構成する物質には、通常、水素結合を形成し得る、電気陰性度の高い酸素、窒素などの原子と水素からなる結合を有する物質の少なくとも一種と、電気陰性度の高い酸素、窒素などの原子を有する物質の少なくとも一種の、二種類以上の物質が含まれる。これらは、用途や使用環境などを勘案して任意に選択することができ、例えば、有機ポリマー、具体的には、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ乳酸、ポリアミノ酸(例えば、ポリグルタミン酸、ポリリジン)、ポリカプロラクトン、ポリウレタン等を使用できる。生体材料分野で使用する際は、生理的に許容されるポリマー、すなわち、生体適合性及び/又は生分解性を有するポリマーや、前記薬理作用のある物質又は前記薄膜に含まれるタンパク質、細胞等に悪影響を及ぼさないポリマー、具体的には、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ乳酸、ポリアミノ酸(例えば、ポリグルタミン酸、ポリリジン)などが好適に用いられる。前記水素結合を形成し得る、電気陰性度の高い酸素、窒素などの原子と水素からなる結合を有する物質と、前記電気陰性度の高い酸素、窒素などの原子を有する物質の組み合わせとしては、例えば、ポリアクリル酸とポリエチレングリコール、ポリメタクリル酸とポリエチレングリコール、ポリアクリル酸とポリビニルピロリドン、ポリメタクリル酸とポリビニルピロリドン等が挙げられる。これらのポリマーの分子量は、通常、1,000〜5,000,000g/mol、好ましくは、10,000〜1,000,000g/mol、より好ましくは、50,000〜250,000g/molである。 前記水素結合膜の厚さは特に限定されないが、積層体に形成される薄膜を後に自立膜として取り出そうとする場合、水素結合膜を挟んでいる支持体と薄膜が十分に(pH変化に応じて溶出し得ないような結合、例えば静電的相互作用など、が生じないほど)離れていることが望ましく、通常0.0005〜10μm、好ましくは0.005〜1.0μm、より好ましくは0.05〜0.5μmである。 本発明において、水素結合膜上に形成される薄膜としては、前記水素結合膜上に直接又は仕切り層を介して形成でき、pH4.0〜9.4の範囲内の少なくともいずれかpHの水又は水溶液中で安定であり、かつ自立膜として有用性を有するものであれば制限はなく、有機分子、有機ポリマー、無機分子、無機ポリマー、有機無機複合物、金属、金属酸化物等からなるものが例示できる。これらは一種以上の領域から構成されてもよいし、また複数種からなる多層構造を形成しても良い。またその一部または全領域が多層膜でもよい。その中でも交互積層膜が好ましい。このような交互積層膜を構成する物質には、反対の電荷を有する二種類以上の物質であれば用いることができ、その種類は特に限定されるものではない。例えば、電解質ポリマー、タンパク質、コロイド粒子(金属コロイド、酸化物コロイド、ラテックスコロイド)、粘土鉱物、半導体微粒子、ヘテロポリ酸、色素などが用いられる。目的、用途、所望の特性(生物学的、電子的、磁気的、光学的な特性)、使用環境などを勘案して任意に選択することができる。電解質ポリマーとしては、電荷を有する官能基を主鎖又は側鎖にもつ高分子であり、ポリアニオン、ポリカチオンのいずれも適用できる。 ポリアニオンとしては一般に、スルホン酸、硫酸、カルボン酸など負電荷を帯びることができる官能基を有するもの、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、Poly(1−(4−(3−carboxy−4−hydroxyphenylazo)benzenesulfonamido)−1,2−ethanediyl)(PAZO)、Poly(anilinepropanesulfonic acid)(PAPSA)、Sulfonated polyaniline(SPAN)、Poly(thiophene−3−acetic acid)(PTAA)、Poly(2−acrylamido−2−methyl−1−propanesulfonic acid)(PAMPSA)、ポリチオフェンやポリアニリンなどの導電性高分子、発色団を有する高分子、液晶型ポリマー、DNAなどの生体高分子が用いられ、好ましくは、ポリスチレンスルホン酸(PSS)やポリアクリル酸(PAA)などが用いられる。 ポリカチオンとしては一般に、4級アンモニウム基、アミノ基などの正荷電を帯びることのできる官能基を有するもの、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジン、polystylenemethylenediethylmethylamine(PSMDEMA)、precursor of poly(phenylene vinylene)(Pre−PPV)、polymethylpyridylvinyl(PMPyV)、protonated poly(p−pyridyl vinylene)(R−PHPyV)、好ましくは、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)などを用いることができる。 ポリアニオンとポリカチオンとの組み合わせとしては、好ましくは、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)とポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)とポリアクリル酸(PAA)が挙げられる。 これらの有機高分子イオンは、いずれも水溶性あるいは水と有機溶媒との混合液に可溶なものである。また、電子材料や表示材料など、自立した交互積層膜に導電性を付与する場合は、導電性高分子、例えばポリ(フェニレンビニレン)(PPV)なども用いることが可能である。前記薄膜が高分子膜である場合、用いる高分子の分子量は通常1,000〜5,000,000g/mol、好ましくは、10,000〜1,000,000g/mol、より好ましくは、50,000〜250,000g/molである。バイオセンサーや酵素反応場を構築する際は、チトクロムC、リゾチーム、ヒストンF3、ミオグロビン、バクテリオロドプシン、アルブミン、グルコアミラーゼなどのタンパク質や、種々のデオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)、ペクチンなどの電荷を有する多糖類などの電荷を持つ生体高分子を用いることができる。自立した交互積層膜の機械強度向上などには、粘土鉱物など例えばモンモリロナイト、ヘクトライト、カオリン、ラポナイトなどが好適に用いられる。 前記薄膜としては、交互吸着法により形成された交互積層膜の他、蒸着法(例えば、真空蒸着法)、スピンコート法などにより形成された薄膜を用いることもできる。 本発明における自立した交互積層膜などの薄膜には、必要に応じて、酸アルカリ、温度変化又は有機溶剤に敏感で壊れやすい物質を含ませてもよい。「酸アルカリ、温度変化又は有機溶剤に敏感で壊れやすい物質」とは、元来その物質が有する生物学的、電子的、磁気的又は光学的な特性が、pH変化、温度変化又は有機溶剤により低下する物質を指し、例えば、タンパク質、細胞、触媒、金属などが挙げられる。例えば、pH4.0〜9.4(好ましくはpH6.0〜8.0、より好ましくはpH7.2〜7.5)で、又は35〜40℃で、その触媒作用が発現するが、その範囲外では発現しない、あるいは低下するタンパク質からなる酵素触媒が挙げられる。 前記薄膜の膜厚は、通常0.0005〜10μm、好ましくは0.005〜1.0μm、より好ましくは0.05〜0.5μmである。 本発明によれば、前記薄膜中に「酸アルカリ、温度変化又は有機溶剤に敏感で壊れやすい物質」を含ませた場合でも、元来その物質が発現しうる生物学的、電子的、磁気的又は光学的な特性が高く保持され、好ましくは80%以上維持された低損傷の状態で自立した薄膜を得ることができる。例えば、タンパク質が変性を起こさずに、集積され回収されることを指す。 本発明においては、水素結合膜と薄膜の間に仕切り層を設けることが好ましい。この仕切り層は、所望の薄膜の作製に使用する酸アルカリや温度変化に敏感で壊れやすい物質を含む溶液(中性pH、通常pH4.0〜9.4、好ましくはpH6.0〜8.0、より好ましくはpH7.2〜7.5)が、既に形成した、薄膜内を拡散し、水素結合膜が溶出することを防ぐ役割を果たす。仕切り層を構成する物質としては、前記薄膜を構成する物質と同様の物質を使用することが可能である。特に効率的に表面を被覆する、分岐ポリマーや層状化合物、例えば、分岐状ポリエチレンイミンやモンモリロナイトが好適に用いられる。仕切り層の厚さは、通常5ナノメートル以上、好ましくは10ナノメートル以上、より好ましくは50ナノメートル以上、10マイクロメートル以下である。 本発明の積層体は、支持体、水素結合膜(pHに応じて溶解する部分)及び薄膜(pHに応じて溶解しない部分)を含むことを特徴とし、好ましくは、支持体/水素結合膜/仕切り層/薄膜からなる。支持体/水素結合膜/(仕切り層/)薄膜の順序は限定されるが、得られた積層体表面に再度、水素結合膜/(仕切り層/)薄膜を構築することが可能であり、水素結合膜/(仕切り層/)薄膜の繰り返し回数は限定されるものではない。また、このような構造も本発明において好ましい態様である。その他支持体/水素結合膜/(仕切り層/)薄膜からなる構造の上に、更なる薄膜を形成することが可能であることは、前述のとおりである。本発明において例えば、支持体−(水素結合膜1/(仕切り層1/)薄膜1)−(水素結合膜2/(仕切り層2/)薄膜2)からなる積層体を、水素結合膜1と水素結合膜2では溶出し始めるpHが異なるように構築し、徐々にpHを変化させると、二種類の薄膜1,2を、異なるpHで段階的に放出することが可能である。一方、有機ポリマーから構成される薄膜内部では、ポリマー鎖は互いに絡み合っている。このため、水素結合膜を十分薄く設計すると、水素結合膜を挟んでいる二種類の、静電気的相互作用を介して構築される交互積層膜(薄膜)は互いに絡み合った状態になり、水素結合膜の溶出後でも相互作用し、下層から剥離しない状態にすることができる。例えば、支持体−(水素結合膜1/(仕切り層1/)薄膜1)−(水素結合膜2/(仕切り層2/)薄膜2)のうち、水素結合膜1と水素結合膜2を十分薄く設計すると、支持体−(仕切り層1/薄膜1)−(仕切り層2/薄膜2)で表される積層体が得られる。このような積層体は、薄膜1及び薄膜2を、一時的に隔離した後に改めて接触させたい場合に有用である。例えば、国際公開第02/08387号パンフレット及び欧州特許出願公開第1264877号明細書に記載されているような三次元細胞培養法では、複数種の細胞シートをそれぞれ作製後、得られたシートを適宜重層する工程を経る。これに対して上述の方法では、複数種の細胞を一つの薄膜中でそれぞれ水素結合膜で隔離して培養後、隔離に使用した水素結合膜を溶出させることで、所望の細胞積層膜を得ることができる。 本発明の積層体の製造方法における、支持体上への水素結合膜、仕切り膜、薄膜の構築方法は、特に制限されない。好ましくはいずれの層も二種類以上の溶液を基板表面に交互に接触させることにより形成することができる。例えば、Decherら,Science,277,1232,1997に記載されているディッピング法、Schlenoffら、Langmuir,16(26),9968,2000に記載されているスプレー法、Leeら、Langmuir,19(18),7592,2003もしくはJ.Polymer Science,part B,polymer physics,42,3654,2004に記載されているスピンコート法などを用いることができる。例えば、水溶性有機ポリマーの交互積層膜をスプレー法で構築する場合、水溶液の濃度は重量濃度で、通常、0.01〜40%、好ましくは、0.1〜10%であり、積層表面への水溶液の接触時間は、通常、1〜60秒、好ましくは、3〜30秒であり、積層表面からスプレー口までの距離は、通常、3〜15センチメートル、好ましくは、5〜8センチメートルである。各有機ポリマー溶液噴霧後、ポリマー分子を含まない溶液で洗浄し、過剰に吸着したポリマーを洗い落とす。ポリマー溶液、洗浄の過程を繰り返すことによって、交互積層膜を構築する。各溶液のpHは、水素結合膜及び仕切り膜の構築には、水素結合膜が溶出しないpHを利用し、所望の薄膜(静電気的相互作用を介して構築される交互積層膜)には、含まれる物質に最適なpHを用いることができる。 前記積層体を利用して、自立した薄膜を低損傷で得る方法においては、前記積層体を水溶液に浸漬すると、水素結合膜が溶出し、静電気的相互作用を介して構築される薄膜が水溶液中に放出される。浸漬から薄膜の放出にかかる時間は、通常5秒〜24時間、好ましくは5分〜24時間、より好ましくは5分から60分である。浸漬する水溶液のpHは、水素結合膜の水素結合が解離するpH以上に調節する。例えば、ポリアクリル酸とポリエチレンオキシドからなる水素結合膜はpH3.6以上、ポリメタクリル酸とポリエチレンオキシドからなる水素結合膜はpH4.6以上で、解離し始める。徐放する水素結合膜を構成する物質がすべて、生体適合性、生分解性の場合、生理的安全性の面で有利であり、生体材料などの分野で好適に用いられる。更に、水素結合膜や薄膜の積層回数をそれぞれ変えることにより、水素結合膜の溶解速度、すなわち自立した薄膜の徐放速度をコントロールできる。また水素結合膜に用いるポリマーの種類の選択により、溶解するpHをコントロールできる。 水素結合膜を溶出させる溶液としては、pHをコントロールした水溶液のほか、水素結合膜を溶出させるものであれば特に制限されない。例えば、urea(尿素)なども用いることができる。 前記積層体から得られる自立した薄膜は、産業的に使用可能なサイズ、具体的には、数センチメートルサイズの薄膜として得ることができる。また、膜厚は、50ナノメートルから数マイクロメートルの範囲で、誤差範囲約10%以内(一般には、蒸着法、交互吸着法の場合、それぞれ誤差2〜3%以内、又は5%以内、スピンコートの場合は、約10%)で製造できる。 本発明の積層体は、細胞培養用薄膜、徐放性薬用カプセルなどの製造に用いることができる。例えば、細胞培養用薄膜の製造に用いる場合には、本積層体の水素結合膜の最外表面上で、常法に従い細胞培養を行った後、積層体全体を水に浸すだけで、細胞を培養した薄膜だけが、自発的に脱離する。ただし培養する細胞によって、培地を始めとする培養条件を至適化する必要がある。通常回収のために添加するタンパク質分解酵素トリプシンなどを添加しなくてもよい。したがって、細胞がその構造と機能を損なうことなく薄膜シートとして回収できる。また、徐放性薬用カプセルの製造に用いる場合には、徐放する物質を、例えばポリアクリル酸とポリエチレングリコールのどちらか一つの溶液に混合させておき、徐放する物質とポリアクリル酸とポリエチレングリコールからなる水素結合膜を構築後(pH2.00)、最終層がポリアクリル酸である水素結合膜表面上に、ポリアリルアミン塩酸塩とポリスルホン酸塩からなる高分子電解質積層膜を密度制御の上作製、カプセル化し(pH2.00)、pH7.00に調整した水溶液中に浸漬すると、水素結合膜が溶出し、それに伴い徐放する物質が染み出し、徐放性カプセルとして利用できる。 本発明の自立した薄膜は、分離膜、触媒反応用デバイス、透過型測定用試料薄片などの製造に用いることができる。この場合、用いる高分子の種類や導入する物質の種類を選択することにより、分離膜や触媒反応器として用いることができる。例えば、正や負の電解質ポリマーを選択すると、煙やマイナスイオンなどの荷電粒子をクーロン力により吸着する。そのほか、特定のガスを吸着する物質を、積層膜構成要素として選択すれば、吸着しない物質のみ透過し、分離膜として用いることができる。積層膜構成要素としてタンパク質を選択した場合は、タンパク質を積層膜内に分散固定できるため酵素触媒反応器として利用できる。特に得られた自立した薄膜は支持体を必要としないので、分離前の混合物と分離後の生成物、あるいは反応物と生成物に制限がない。また従来、交互吸着法で得られた薄膜は、支持体からはがすことが不可能であったため、透過型の分析ができなかったが、本発明によって交互積層膜の透過型電子顕微鏡、分光法(紫外可視、赤外など)分析が可能になった。 図1は、本発明の好ましい形態の一例を示す。 図2は、水素結合膜の膜厚変化と、その成長挙動のポリアクリル酸分子量依存性を示す。図2中の符号の意味は以下のとおりである。 ○ ポリアクリル酸分子量250,000g/mol □ ポリアクリル酸分子量100,000g/mol ◇ ポリアクリル酸分子量30,000g/mol × ポリアクリル酸分子量2,000g/mol 図3は、実施例5における水溶液中での水素結合膜の溶出を示す。 図4は、水素結合膜の膜厚変化と、その成長挙動のポリアクリル酸分子量依存性を示す。図4中の符号の意味は以下のとおりである。 ● ポリアクリル酸分子量250,000g/mol □ ポリアクリル酸分子量100,000g/mol ◆ ポリアクリル酸分子量30,000g/mol 図5は、実施例12〜16における水溶液中での水素結合膜の溶出を示す。図5中の符号の意味は以下のとおりである。 ◆ 実施例12(ポリアクリル酸水溶液とポリエチレングリコール水溶液への接触回数 3回) □ 実施例13(ポリアクリル酸水溶液とポリエチレングリコール水溶液への接触回数 5回) ■ 実施例14(ポリアクリル酸水溶液とポリエチレングリコール水溶液への接触回数 7回) ○ 実施例15(ポリアクリル酸水溶液とポリエチレングリコール水溶液への接触回数 9回) ● 実施例16(ポリアクリル酸水溶液とポリエチレングリコール水溶液への接触回数 11回) 図6は、水素結合膜表面へ静電的相互作用による交互積層膜の構築したときの膜厚変化を示す。 図7は、自然剥離した薄膜(水中)の写真である。 図8は、自然剥離し乾燥させた自立性薄膜の写真(大気中)である。 図9は、溶けずに残った静電的相互作用を介して構築された交互積層膜の原子間力顕微鏡による膜厚測定を説明するための図である。 図10は、水素結合膜/静電相互作用膜の成長(剥離しない場合)を示す。 図11は、実施例21における水溶液中での水素結合膜の溶出を示す。 本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2004−333876の明細書及び/又は図面に記載された内容を包含する。 以下、本発明を実施例により詳細に報告する。実施例に示す「水」には、超純水(Milli−Q,Millipore GmbH)を使用した。pH調整には塩酸を用いた。実施例に示す膜厚の測定は、エリプソメトリー(PLASMOS SD2300)で、波長632.8ナノメートル(ヘリウム−ネオンレーザー)、入射角45°の条件で行った。積層後もしくは溶出後、窒素ガスブローにより乾燥させたものを被試験体とし、大気中で、毎回同じスポットを5回測定し、その平均値を膜厚とした。 実施例1〜4 ポリアクリル酸/ポリエチレングリコールからなる水素結合膜の製造 水及びアセトンで洗浄し窒素ガスブローで乾燥させた、幅24ミリメートル、長さ76ミリメートルのシリコンウェハー表面に、水溶性のポリアクリル酸水溶液(分子量:2,000g/mol(実施例1),30,000g/mol(実施例2),100,000g/mol(実施例3),250,000g/mol(実施例4),濃度:100mg/100mL,pH=2)と水溶性のポリエチレングリコール水溶液(分子量:18,000g/mol,濃度:100mg/100mL,pH=2)をスプレー法(溶液の接触時間30秒、スプレー距離10センチメートル、各ポリマー溶液の噴霧後にpH2に調整した水溶液で洗浄20秒)により交互に接触させ、水素結合膜を作製した。図2は、得られた水素結合膜の膜厚変化と、その成長挙動のポリアクリル酸分子量依存性を示したグラフである。この場合、ポリアクリル酸の分子量が30,000〜250,000g/molの範囲で、積層ごとに膜厚が指数関数的に増加することが示されている。また、分子量が大きいほど、膜厚の増加分が大きい傾向も示されている。実施例5 水素結合膜の溶出 実施例4の方法で得た水素結合膜をpH7.4の水溶液に浸漬後、逐次取り出し膜厚の変化を測定した。結果を図3に示す。pH7.4では約30分以内でほぼ溶出が終了することが示されている。実施例6〜8 ポリアクリル酸/ポリエチレングリコールからなる水素結合膜の製造 水及びアセトンで洗浄し窒素ガスブローで乾燥させた、幅24ミリメートル、長さ76ミリメートルのシリコンウェハー表面に、まず、水溶性のポリエチレンイミン水溶液(分子量:25,000g/mol、pHコントロールなし)を、スプレー法(溶液の接触時間30秒、スプレー距離10センチメートル、ポリエチレンイミン水溶液の噴霧後に中性pHの水で洗浄20秒)により接触させ、一層目を作製した。その表面上に、水溶性のポリアクリル酸水溶液(30,000g/mol(実施例6),100,000g/mol(実施例7),250,000g/mol(実施例8),濃度:100mg/100mL,pH=2)と水溶性のポリエチレングリコール水溶液(分子量:15,000g/mol,濃度:100mg/100mL,pH=2)をスプレー法(溶液の接触時間30秒、スプレー距離10センチメートル、各ポリマー溶液の噴霧後にpH2に調整した水溶液で洗浄20秒)により交互に接触させ、水素結合膜を作製した。図4は、得られた水素結合膜の膜厚変化と、その成長挙動のポリアクリル酸分子量依存性を示したグラフである。この場合、ポリアクリル酸の分子量が30,000〜250,000g/molの範囲で、積層ごとに膜厚が増加することが示されている。また、分子量が大きいほど、膜厚の増加分が大きい傾向も示されている。実施例9〜11 ポリアクリル酸/ポリエチレングリコールからなる水素結合膜の製造 水及びアセトンで洗浄し窒素ガスブローで乾燥させた、幅24ミリメートル、長さ76ミリメートルのシリコンウェハー表面に、水溶性のポリアクリル酸水溶液(30,000g/mol(実施例9),100,000g/mol(実施例10),250,000g/mol(実施例11),濃度:100mg/100mL,pH=2)と水溶性のポリエチレングリコール水溶液(分子量:15,000g/mol,濃度:100mg/100mL,pH=2)をスプレー法(溶液の接触時間30秒、スプレー距離10センチメートル、各ポリマー溶液の噴霧後にpH2に調整した水溶液で洗浄20秒)により交互に接触させ、水素結合膜を作製した。得られた水素結合膜の膜厚変化と、その成長挙動は、ほぼ図4と同様の結果が得られた。実施例12〜16 水素結合膜の溶出 水及びアセトンで洗浄し窒素ガスブローで乾燥させた、幅24ミリメートル、長さ76ミリメートルのシリコンウェハー表面に、まず、水溶性のポリエチレンイミン水溶液(分子量:25,000g/mol、pHコントロールなし)を、スプレー法(溶液の接触時間30秒、スプレー距離10センチメートル、ポリエチレンイミン水溶液の噴霧後に中性pHの水で洗浄20秒)により接触させ、一層目を作製した。その表面上に、水溶性のポリアクリル酸水溶液(250,000g/mol,濃度:100mg/100mL,pH=2)と水溶性のポリエチレングリコール水溶液(分子量:15,000g/mol,濃度:100mg/100mL,pH=2)をスプレー法(溶液の接触時間30秒、スプレー距離10センチメートル、各ポリマー溶液の噴霧後にpH2に調整した水溶液で洗浄20秒)により、それぞれ3回(実施例12)、5回(実施例13)、7回(実施例14)、9回(実施例15)、11回(実施例16)、交互に接触させ、水素結合膜を作製した。実施例12〜16の方法で得た水素結合膜をpH約7.0の水溶液に浸漬後、逐次取り出し膜厚の変化を測定した。結果を図5に示す。pH7.0では約30分から数時間以内でほぼ溶出が終了することが示されている。実施例17 水素結合膜表面への静電的相互作用による交互積層膜の構築 実施例8の方法で得た水素結合膜の表面上に、静電的相互作用による交互積層膜を構築した。図6に、その膜厚変化を示す。この場合、水素結合膜はポリアクリル酸で終了し、膜表面に負電荷を露出させ、静電的相互作用による交互積層膜の積層は、ポリカチオンであるポリアリルアミンから始めた。静電的相互作用による交互積層膜の構築は、水溶性のポリアリルアミン塩酸塩水溶液(分子量:70,000g/mol,濃度:27.4mg/100mL,pH=2)と水溶性のポリスチレンスルホン酸水溶液(分子量:70,000g/mol,濃度:61.4mg/100mL,pH=2)を、スプレー法(溶液の接触時間30秒、スプレー距離10センチメートル、各ポリマー溶液の噴霧後にpH2に調整した水溶液で洗浄20秒)により交互に接触させることにより行った。両ポリマー水溶液中には、膜厚を制御することを目的として、塩化ナトリウム(2.92g/100mL)を含有させた。図6では、ポリアクリル酸とポリエチレングリコールの交互積層(9.5ペア)膜上に、ポリアリルアミン塩酸塩とポリスチレンスルホン酸の交互積層(72ペア)膜を構築した。ポリアリルアミン塩酸塩とポリスチレンスルホン酸交互積層膜の直線状の成長が示された。実施例18 自立した交互積層膜の製造 実施例17で得た積層体をpH約7.0付近の水溶液に浸すと、下層部の水素結合が弱まり(図1)、水素結合膜部分のみが水溶液中で溶解し、静電的相互作用を介して構築された交互積層膜が水溶液中に自然に剥離した(図7)。剥離してきた図7の膜を乾燥させ、交互積層膜を回収した。得られた交互積層膜の膜厚は、図6から200ナノメートル以下と見積もられ、透明かつ大気中で自立性を有した(図8)。また、図7に示した自然剥離した膜は、透過型電子顕微鏡用のグリッド上に取り出すことができ、TEM解析も可能である。実施例19、20 溶けずに残った静電的相互作用を介して構築された交互積層膜の膜厚測定 実施例17に記述した方法を用いて、ポリアクリル酸とポリエチレングリコールの交互積層(9.5ペア)膜上に、ポリアリルアミン塩酸塩とポリスチレンスルホン酸の交互積層膜(20ペア(実施例19)、80ペア(実施例20))を構築した。積層膜の一部をpH約7.0付近の水溶液に浸すと、浸っていない部分は膜に固定されたまま、浸った部分だけが水溶液中に浮いた(図9D)。水素結合膜の溶出が十分に終わるように、3時間放置後、積層膜全体を大気中に引き上げた。溶けずに残った静電的相互作用を介して構築された交互積層膜の端(図9A)を、原子間力顕微鏡により観察し、交互積層膜の高さと基板の高さの差(静電的相互作用を介して構築された交互積層膜の膜厚)を測定した(図9B、C)。その結果、ポリアリルアミン塩酸塩とポリスチレンスルホン酸の交互積層膜、20ペアでは、55ナノメートル、80ペアでは200ナノメートルだった。また、折りたたまれた薄膜末端の場合、薄膜二枚分の個所では前記膜厚の二倍(20ペアでは110ナノメートル、80ペアでは400ナノメートル)と、倍数の段差が観測された。実施例21 自立した交互積層膜が得られない場合 実施例17と同様に、水素結合膜の表面上に、静電的相互作用による交互積層膜を構築した。本例では、ポリアクリル酸とポリエチレングリコールの交互積層膜を薄く設計した(5.5ペア)(図10)。この場合、この積層体をpH5〜8付近の水溶液に浸すと、下層部の水素結合が弱まり(図1)、水素結合膜部分のみが水溶液中で溶解し、全体の膜厚が減少したが(図11)、静電的相互作用を介して構築された交互積層膜は水溶液中に剥離しなかった。これは、水素結合膜が薄すぎ、静電相互作用膜と支持体の間に静電相互作用が働いているためと考えられる。つまり、水素結合膜の積層回数によって、剥離の有無を設計可能であることを示している。実施例22 タンパク質導入例 支持体を、上述の方法によりポリアクリル酸、ポリエチレングリコールからなる水素結合膜で被覆した(pH2.00)。最外層がポリアクリル酸(ポリアニオン)である水素結合膜表面上に、ポリアリルアミン塩酸塩(ポリカチオン)とポリスルホン酸塩(ポリアニオン)からなる高分子電解質積層膜を作製した(pH2.00)。目的のタンパク質と反対電荷を有するポリマーを最外層として固定した。ミオグロビン(ポリカチオン)の固定には、高分子電解質積層膜の最外層がポリスルホン酸塩になるように作製しその表面に、水溶液に溶解させたペルオキシダーゼ(1mg/1ml)を接触させて固定化した(pH4.00)。この積層体をpH7.00に調整した水溶液中に浸漬したところ、水素結合膜が溶出し、自然にタンパク質を含む高分子積層膜が放出されたことが目視で確認された。実施例23 自立したチューブ状薄膜 チューブ状物質の疎水性内壁表面(例えばガラスチューブ)を支持体として、ポリアクリル酸とポリエチレングリコールからなる水素結合膜によりこのチューブ内壁表面を被覆した(pH2.00)。チューブ内壁表面への高分子溶液の接触方法は、チューブを高分子溶液に浸漬した。実施例1〜4と同様、高分子溶液接触後、余剰に吸着した高分子を除去するためpH2.00の水溶液で流す工程を経た。最終層がポリアクリル酸である水素結合膜表面上に、ポリアリルアミン塩酸塩とポリスルホン酸塩からなる高分子電解質積層膜を、水素結合膜と同様の方法で作製した。ガラスチューブ状物質の内壁を、pH7.00に調整した水溶液中に浸漬した。放置しておくと、チューブ状の自立した薄膜が水溶液中に放出されたことが目視で確認された。本結果は、水溶液中に浸漬した際に、水分子が高分子電解質積層膜を透過し水素結合膜まで到達したことにより水素結合膜が溶出し、水素結合膜の崩壊と同時に、ポリアリルアミン塩酸塩とポリスルホン酸塩からなる高分子電解質積層膜が自動的に放出されたことを示している。 本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。 本発明によれば、適用範囲の広い自立した薄膜を得ることができる。特に、酸アルカリ、温度変化又は有機溶剤に敏感で壊れやすい物質を含む薄膜についても、生物学的、電子的、磁気的、光学的な特性を失うことなく薄膜を得ることができる。低損傷で得られることから、従来薄膜の機械強度を上げるために追加せざるを得なかった無機物質を使用しなくてもよいなど、自立膜として得られる物質の可能性が拡がり、細胞培養シート、徐放性薬用カプセルなどの医用工学、医学、生物学の分野や、自立型分離膜などの化学工学分野などに広く適用できる。 支持体上に水素結合により結合した多層膜が形成され、該多層膜上に更に薄膜が形成された積層体であって、水素結合により結合した多層膜が、pH調整した水溶液に溶出し、薄膜が剥離するものである前記積層体。 支持体上に形成された多層膜が、二種類以上の要素を含有するものである請求項1記載の積層体。 支持体上に形成された多層膜が、生理的に許容されるポリマーを含有するものである請求項1記載の積層体。 支持体上に形成された多層膜の厚さが0.0005〜10μmである請求項1記載の積層体。 薄膜がその構造中に電解質ポリマーからなる交互積層膜を含むものである請求項1記載の積層体。 薄膜がタンパク質、細胞、コロイド粒子、粘土鉱物、半導体微粒子及び色素分子から選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項1記載の積層体。 多層膜と薄膜の間に仕切り層を有する請求項1記載の積層体。 請求項1記載の積層体の薄膜上に、更に多層構造を有する薄膜が形成された積層体。 支持体を、積層する物質を含む二種類以上の溶液に交互に接触させることにより多層膜を形成させ、蒸着法、スピンコート法及び交互吸着法から選ばれる方法にて薄膜を形成することを特徴とする請求項1記載の積層体の製造方法。 薄膜の形成を、積層する物質を含む二種類以上の溶液に交互に接触させることにより行う請求項9記載の製造方法。 請求項1記載の積層体をpH調整した水溶液中に浸漬することにより、多層膜を溶出させ、薄膜を支持体より剥離させることを特徴とする自立した薄膜の製造方法。


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