タイトル: | 特許公報(B2)_マンナンタンパク質を放出する酵母株およびマンナンタンパク質の製造法 |
出願番号: | 2006532650 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C12N 1/19,C12P 21/02,C12P 19/44,C08B 37/00,C12N 15/09,C12N 9/10,C12R 1/865 |
田中 美和 小谷 哲司 結城 敏文 大竹 康之 新間 陽一 横尾 岳彦 千葉 靖典 地神 芳文 JP 5007879 特許公報(B2) 20120608 2006532650 20050829 マンナンタンパク質を放出する酵母株およびマンナンタンパク質の製造法 アサヒグループホールディングス株式会社 000000055 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 熊倉 禎男 100082005 小川 信夫 100084009 箱田 篤 100084663 浅井 賢治 100093300 平山 孝二 100114007 滝澤 敏雄 100111501 田中 美和 小谷 哲司 結城 敏文 大竹 康之 新間 陽一 横尾 岳彦 千葉 靖典 地神 芳文 JP 2004250129 20040830 20120822 C12N 1/19 20060101AFI20120802BHJP C12P 21/02 20060101ALI20120802BHJP C12P 19/44 20060101ALI20120802BHJP C08B 37/00 20060101ALI20120802BHJP C12N 15/09 20060101ALN20120802BHJP C12N 9/10 20060101ALN20120802BHJP C12R 1/865 20060101ALN20120802BHJP JPC12N1/19C12P21/02 BC12P19/44C08B37/00 PC12N15/00 AC12N9/10C12N1/19C12R1:865 C12N 1/00-15/90 C12P 19/00-21/08 C12N 9/00-9/99 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) GenBank/GeneSeq BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 特開平09−266792(JP,A) Glycobiology,1998年,Vol.8, No.8,p.761-770 Biochem.J.,1998年,Vol.332,p.153-159 科学技術振興調整費による重点基礎研究成果集 平成9年度,1999年,p.84-85 2 IPOD FERM BP-10390 IPOD FERM BP-10391 JP2005015619 20050829 WO2006025295 20060309 15 20080704 水落 登希子 本発明は、酵母細胞壁構成成分、特にマンナンタンパク質、とりわけα-マンナンを含むマンナンタンパク質を培地中に放出する酵母株、並びにこの株を用いたマンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質の製造法に関する。また、本発明は、マンナン、特にα-マンナンの製造方法にも関する。(背景技術) 酵母の利用はその高い安全性から長い歴史があり、パンの製造、ビール等アルコール類の発酵のみならず、酵母自身もエキスとして、あるいは酵母細胞壁としてさまざまな用途に用いられてきた。細胞壁は不溶性グルカンを主体としており、主に食物繊維として利用されてきた。グルカンには免疫賦活等の機能があることも知られており、近年の健康食品ブームの中で、注目される食品素材のひとつとなっている。一方、細胞壁中にはマンナンタンパク質を主体とする水溶性多糖類も存在する。マンナンタンパク質は細胞壁に局在するタンパク質にN-グリコシド結合あるいはO-グリコシド結合とよばれる結合様式でマンナン鎖が結合した物質の総称である。酵母細胞壁由来の水溶性多糖類の機能性についても多くの研究がなされており、制癌作用(特公昭58−57153号)、抗腫瘍作用(特開昭58−109423号、特公昭64−3479号)、抗感染作用(特開昭58−109423号)、抗高血圧作用(特開昭63−101327号)、抗植物ウイルス作用(特公昭59−40126号)等が報告されている。また特にマンナン部分に着目した研究でも、インターフェロン誘導活性(Acta Virology, 1970;14:1-7)、マクロファージ遊走阻止活性(Jpn. J. of Microbiol., 1975;19:355-362)、TNFα産生の増強(Microbiol. Immunol., 2002;46(7):503-12)など多くの機能性が報告されている。 これらで報告されているマンナンの抽出方法は大別すると3つに分類することが出来る。(1)熱水(希アルカリを含む)抽出(特公昭64−3479号、特開昭58−109423号)(2)自己消化(特公昭58−57153号)(3)細胞壁溶解酵素による消化(特公昭59−40126号)、である。これら方法により得た粗抽出液は、マンナン−銅複合体を形成させ脱銅する、塩酸により除タンパク質する、アルコール沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、プロテアーゼ処理などを適宜組み合わせることにより機能性画分を回収していた。これらの方法における精製ステップは煩雑であり、また、培地1Lあたりの回収量は100mg程度であった。 またマンナンの生合成に関する種々の酵母株を用いて、マンナン構造を改変する技術が報告されている(特開平2-419,特開平6-277086,特開平6-296482,特開平9-135689,特開平9-266792)。マンナンの構造の違いによっても直鎖状マンナンの抗腫瘍活性(特開昭54-97692)、リン含有マンナンの腹水型腫瘍に対する抗腫瘍活性(特開昭58-121216)などの機能が報告されている。 これらの知見を生かすためにも、効率的なマンナンタンパク質製造法の開発が望まれていた。 マンナンを菌対外に分泌する酵母としては、Rhodotorula mucilaginosa YR-2株が知られている(日本栄養・食糧学会誌、55巻、33-39(2002)、特開2002-095492)。この酵母の分泌するマンナンはβ1,3-、β1,4-結合の繰り返しよりなるいわゆるβ-マンナンであり、細胞壁成分であるマンナンタンパク質に含まれるα-マンナンとは異なる。(発明の開示) 本発明の目的は、できる限り酵母が本来持つ状態に近いマンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質を放出する酵母株、および、そのようなマンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質を効率よく製造する方法を提供することである。 また本発明の別の目的は、本発明の酵母株および/または本発明の方法を用いて製造される、天然状態に近い、マンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質を提供することである。ここで、α-マンナンとは、α1,6-、α-1,2-またはα1,3-結合からなるD-マンノースの重合体である。 本発明のまた別の目的は、マンナン、特にα-マンナンを効率的に製造する方法を提供することである。 本発明の更なる目的は、本発明の方法を用いて製造される、天然状態に近いマンナン、特にα-マンナンを提供することである。 本発明において、特に断らない限り、マンナンタンパク質およびマンナンは、それぞれ酵母由来のマンナンタンパク質(酵母マンナンタンパク質)および酵母由来のマンナン(酵母マンナン)である。 本発明は、酵母細胞壁成分、特にマンナンタンパク質、とりわけα-マンナンを含むマンナンタンパク質を培地中に放出することを特徴とする酵母株である。より具体的には、本発明は、糖鎖合成系遺伝子に変異を持つことにより、α-マンナンを含むマンナンタンパク質を培地中に放出する酵母である。さらに具体的には、本発明は、その変異がマンナンタンパク質を細胞壁にとどまらせる機構にかかわるタンパク質をコードする遺伝子内にあることを特徴とする、マンナンタンパク質を培地中に放出する酵母株である。 特に本発明はα1,2-マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子内に変異を有する、α-マンナンを含むマンナンタンパク質を放出する酵母である。さらに具体的には、本発明はα1,2-マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子内に変異を有する、α-マンナンを含むマンナンタンパク質を放出する酵母株であって、前記α1,2-マンノシルトランスフェラーゼが配列番号17記載の配列のヌクレオチド番号234〜2081の配列(この領域によってGPI10タンパク質(Gpi10p)がコードされる)を有する核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る核酸によってコードされる、前記酵母株である。 特に本発明の酵母は、受託番号FERM BP-10390またはFERM BP-10391で特定される酵母である。 また本発明は、細胞壁成分を培地中に放出することを特徴とする酵母、特にマンナンタンパク質、とりわけα-マンナンを含むマンナンタンパク質を培地中に放出する酵母を液体培地で培養し、培地中に放出されたマンナンタンパク質、とりわけα-マンナンを含むマンナンタンパク質を回収することを含む、マンナンタンパク質、とりわけα-マンナンを含むマンナンタンパク質の製造方法である。 また、本発明は前記方法によって製造される、細胞壁に天然に存在するマンナンタンパク質に近い状態にある(天然状態に近い)単離マンナンタンパク質、特にα-マンナンを含む単離マンナンタンパク質でもある。 更に、本発明は、本発明によって得られるおよび/または本発明のマンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質から、タンパク質部分を除去することを含む、細胞壁に天然に存在するマンナンタンパク質に含まれる状態に近い(天然状態に近い)マンナン、特にα-マンナンの製造方法、および、前記方法によって得られるマンナン、特にα-マンナンである。(発明を実施するための最良の形態) 本発明において、細胞壁構成成分、特にマンナンタンパク質を培地中に放出する酵母が作製および使用される。このような酵母は、酵母を変異誘発処理し、マンナンタンパク質を細胞壁にとどまらせることが出来なくなった酵母株を選抜することによって得ることができる。変異処理する酵母は特に限定されないが、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、サッカロミセス・パラドキサス(Saccharomyces paradoxus)、サッカロミセス・ミカタエ(Saccharomyces mikatae)、サッカロミセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロミセス・クドリアヴゼヴィイ(Saccharomyces kudriavzevii)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、カンジダ・ウチリス(Candida utilis)、カンジダ・アリビカンス(Candida albicans)が好ましく、Saccharomyces cerevisiaeがより好ましい。変異誘発処理は一般的な方法、たとえばEMS等の変異原処理、UV照射、放射線照射によって行うことができる。これらの方法による酵母の変異誘発手順は当業者にはよく知られたものである(石川ら、微生物遺伝学実験法、共立出版;Kaiser. C.ら、1994 Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory)。 例えば、EMSによって変異誘発を行う場合、マンナンタンパク質をほとんど放出しない酵母株、例えば野生型酵母株をYPD培地にて培養し、集菌した後4mlの2%グルコースを含む適切なバッファー、例えば0.2Mリン酸バッファー(pH8.0)に懸濁し、最終濃度1%〜5%,好ましくは約3%程度でエチルメタンスルホネート(EMS)を添加する。この懸濁液を更に30℃にて30分間〜90分間振とうし、変異処理する。EMSの濃度および処理時間は生存率が15%〜60%、好ましくは20〜30%程度になるように適宜変動させることができる。変異処理後6%チオ硫酸ナトリウム溶液にてEMSを中和し、菌体を適切な培地、例えばYPD培地に塗布する。 本発明の酵母は、マンナンタンパク質を細胞壁にとどまらせるのに必要な部位の合成酵素、たとえばグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーの生合成にかかわるα1,2-マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、例えばGPI10に変異を有し、マンナンタンパク質を細胞壁にとどまらせることが出来なくなった株であることが好ましい。GPI10によってコードされるGPIタンパク質(Gpi10p)は616アミノ酸からなり、複数の膜貫通領域を持つ膜タンパク質である。この遺伝子の欠損は一般に致死性であり、生存に必須の役割を担っていると考えられる。本発明の一態様において、本発明の酵母はGPI10に変異を有するが、生存に必須な機能を残しつつ、マンナンタンパク質を細胞壁中にとどまらせることができない酵母である。したがって、本発明の酵母は、α1,2-マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、例えば、GPI10を標的とした部位特異的、またはランダム変異導入法によっても得ることが出来る。そのような分子生物学的手法も当業者にはよく知られている。本発明の特に好ましい一態様において、本発明の酵母は、GPI10遺伝子内に、配列番号18記載のアミノ酸配列中の498番のプロリン残基がロイシン残基へ置換されるような変異を有する酵母である。 また、本発明の別の一態様において、本発明の酵母は配列番号17記載の配列のヌクレオチド番号234〜2081の配列(この領域によってGpi10pがコードされる)を有する核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る核酸によってコードされるα1,2-マンノシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質内およびそのタンパク質をコードする遺伝子内に変異を有する酵母である。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが実質的に形成されない条件を言う。例えば、ストリンジェントな条件とは高い相同性を有するDNA、例えば70%以上、好ましくは80%以上の相同性を有するDNA同士が優先的にハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士が有意にはハイブリダイズしない条件、あるいは50℃、2xSSC、0.1% SDS、好ましくは1xSSC、0.1% SDS、より好ましくは0.1xSSC、0.1% SDSに相当する温度および塩濃度でハイブリダイズする条件である。これらと同等な条件も当業者には容易に理解できるであろう(例えば、Sambrookら、 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版 (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994)参照。)。 また、アミノ酸配列については、配列番号18記載のアミノ酸配列と40%以上の相同性を示す配列を有するポリペプチドも本発明においてはα1,2-マンノシルトランスフェラーゼ候補として考慮することができ、このポリペプチドをコードする遺伝子をα1,2-マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子として考えることができる。核酸またはアミノ酸の相同性は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/GenbankOverview.html)やDDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html)にて利用可能なBLASTNまたはBLASTP、FASTA等を利用することによって計算することが出来る。 例えばSaccharomyces cerevisiaeのみならず、Saccharomyces paradoxus、Saccharomyces mikatae、Saccharomyces bayanus、Saccharomyces kudriavzevii、Kluyveromyces lactis、にも上述したプログラムを用いて高いホモロジーを有する遺伝子が見出されている。さらにNeurospora crassa:ncu00193.1, Schizosaccharomyces pombe_972h:SPCC16A11.06c、Candida albicans:ca4431がGpi10pに相同性を有するタンパク質として挙げられている。またSaccharomyces cerevisiaeにおいてもGpi10pと相同性を有するタンパク質として例えばSMP3、ALG9が見出されている。 例えば、Saccharomyces paradoxus gb:AABY01000142.1では88%、Saccharomyces mikatae gb:AABZ01000054.1では86%、Saccharomyces bayanus gb:AACG01000485.1では85%、Saccharomyces kudriavzevii gb:AACI01000185.1では84%、Kluyveromyces lactis gi:49643748では68%、Neurospora crassa ref-NW_04710.1では50%、Schizosaccharomyces pombe ref-NC_003421.1では41%、Candida albicans gb:AACQ01000012.1では49%のホモロジーを配列番号18記載のアミノ酸配列に対して有している。またSMP3、ALG9の配列番号18記載のアミノ酸配列に対するホモロジーはそれぞれ40%、43%である。 本配列番号17記載の配列のヌクレオチド番号234〜2081の配列(この領域によってGpi10pがコードされる)を有する核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸によってコードされるタンパク質、および、配列番号18記載の配列と40%以上の配列相同性を示すタンパク質がα1,2-マンノシルトランスフェラーゼ活性を有していることは、一般に入手可能なα1,2-マンノシルトランスフェラーゼ欠損酵母株(例えば、Euroscarf Y24509)にその核酸を適切なプロモーターおよびその他の発現に必要な配列と共に導入して、欠損株のα1,2-マンノシルトランスフェラーゼが相補されること(特に致死性の相補)により確認することが出来る。 なお、本明細書においては、α1,2-マンノシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質を総称してα1,2-マンノシルトランスフェラーゼともいう。 また、本発明の別の好ましい一態様において、本発明の酵母は、配列番号17記載の配列のヌクレオチド番号234〜2081の配列(この領域によってGpi10pがコードされる)を有する核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る核酸のヌクレオチド配列を有するα1,2-マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子内に、配列番号18記載の配列の498番プロリン残基に相当するプロリン残基がロイシン残基に置換される変異を有する酵母である。配列番号18記載の配列の498番プロリン残基に相当するプロリン残基は、アミノ酸配列のアラインメントを行うことによって明らかにすることができる。 このような候補酵母株のマンナン放出性に関しては、候補株を適切な培地、例えば、合成培地(Difco社 Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid and Ammonium sulfate 0.17%, Glucose 2%, アミノ酸0.13%)で約30℃にて例えば2〜4日培養し、上清を必要に応じて約2〜3倍量のエタノールを加えて沈殿させ(エタノール沈殿法)、SDS-PAGE(SDS-ポリアクリルアミド電気泳動)にかけ、PAS染色等により分析することが出来る。培地および培養温度は酵母の増殖を阻害しない、好ましくは酵母の増殖に適していればよい。次に、親株である野生型株よりも多くマンナンタンパク質を培地中に放出していることが確認できた株を本発明の酵母として選択し、利用することが出来る。 また、本発明の酵母を戻し交配する、または変異酵母株又は野生型酵母株と接合させること等により、更に他の性質を付加、除去することが出来る。例えば、本発明の酵母株の一つを接合の親に用いることにより、マンナンタンパク質の放出量、生育速度および栄養要求性が改善された、あるいは、更に他の特性が付与または改善された、または二倍体の、マンナンタンパク質放出酵母を作製することができる。酵母の掛け合わせの方法および条件は当業者にはよく知られたものである(Ausubelら、 Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994))。 実際に本発明者らはMTY9を出発材料として、マンナンタンパク質、特にα-マンナンタンパク質を放出する種々の派生株を作製している(図4)。 本発明の、および、本発明で使用し得る、マンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質を放出する酵母の典型的な例として、以下の受託番号で特定される酵母が挙げられる:S.cerevisiae MTY9 [MATa gpi10 ura3 trp1]受託番号FERM BP-10391、および、S.cerevisiae AB9 (ホモ二倍体株)[MATa/a gpi10/gpi10 ura3/URA3 leu2/LEU2]受託番号FERM BP-10390 AB9株はマンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質の放出量も多く、生育も良好であり、栄養要求性もないので、特に好ましい。MTY9、AB9はいずれもマンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質を放出する酵母を作製するための出発材料として使用することが出来る。 得られた酵母を液体培地、例えば合成培地(Difco社 Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid and Ammonium sulfate 0.17%, Glucose 2%, アミノ酸0.13%)で約30℃にて、好ましくは24時間以上、より好ましくは24時間〜96時間、更に好ましくは24時間〜72時間、好気条件にて生育させ、遠心分離および/又はフィルターろ過により酵母細胞を取り除いた培養上清を回収し、限外ろ過膜でろ過した残液又はエタノール/水溶液、例えば2:1(エタノール濃度66.7%(v/v))の沈殿物としてマンナンタンパク質を回収することができる。限外ろ過は、分子量約1万、好ましくは約5万を閾値として行うのが好ましい。培地および培養温度は酵母の増殖を阻害しなければよく、好ましくは酵母の増殖に適していればよい。 限外ろ過により回収したマンナンタンパク質は、適当量の水を加え希釈した後に乾燥工程を行っても良い。エタノール沈殿回収物について水で溶解した後、乾燥工程、たとえば凍結乾燥等を行っても良い。エタノール沈殿法で得られた乾燥マンナンタンパク質は白色の水溶性が高い粉末であり、約10%程度のタンパク質を含む。本発明の酵母、および本発明の方法に依れば、培養条件に依存して典型的な合成培地を使用した場合24時間〜72時間の培養で培地中にマンノース換算で少なくとも150mg/l〜900mg/l、好ましくは200mg/l〜880mg/lのマンナンタンパク質を得ることができる。より具体的には培養条件に依存して、マンノース換算で、24時間の培養により少なくとも150mg/l〜300mg/l、72時間の培養により少なくとも150mg/l〜900mg/l、好ましくは200mg/l〜880mg/lのマンナンタンパク質を得ることができる。 本発明の酵母は、その性質上増殖に伴って、すなわち、細胞壁合成が進むに従って、培地中にマンナンタンパク質を放出するため、培養条件を検討することにより更に培養上清中のマンナンタンパク質の濃度および総量を増加させることも可能である。 このような方法により得られたマンナンタンパク質は化学的および/又は物理的処理が一切加えられていない、細胞壁に天然に存在するマンナンタンパク質に近い状態にあり、食品や飲料といった食品産業への利用が可能である。 更に、本発明により、または、本発明の酵母が放出するマンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質からタンパク質部分を除去することにより、天然状態に近い単離マンナンを得ることが出来る。あるいは、種々の構造を有するマンナンタンパク質からタンパク質部分を除去することにより、更に有用な単離マンナンを得ることもできる。 マンナンタンパク質からのタンパク質部分の除去は当業者に知られたどのような方法でも良いが、マンナン部分の構造を著しく改変しない方法を用いるのが特に好ましい。マンナンタンパク質からのタンパク質部分の除去は、例えば糖鎖切り出し酵素、例えばエンドグリコシダーゼによる部分分解、酸処理、またはアルカリ処理によって行うことが出来る。(実施例)実施例1.マンナンタンパク質を放出する酵母の作製1)変異誘発 野生型酵母株YNN27をYPD培地にて培養し、集菌した後4mlの2%グルコースを含む0.2Mリン酸バッファー(pH8.0)に懸濁し、3%となるようにエチルメタンスルホネート(EMS)に懸濁した。30℃で70分間振とうし、変異処理した。変異処理後6%チオ硫酸ナトリウム溶液にてEMSを中和し、菌体をYPD培地に塗布した。生育してきた酵母129株を候補株とした。2)スクリーニング 候補酵母株を単離後、それぞれを10 mlの合成培地(Difco社 Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid 0.67%, Glucose 2%, アミノ酸0.13%)中で、3晩30℃で振とう培養した。培養液は6000rpm 5分間遠心分離した後、培養上清を0.45 μmのディスクフィルターによるろ過で完全に酵母を除去した。ろ過済みの培養上清に20mlのエタノールを加え、-30℃で一晩放置した。翌日7000rpm 15分間遠心分離を行い、上澄み液を捨てた。沈殿は一度66.7%エタノールにて洗浄した後、100μlの水に懸濁した。これを培養液由来エタノール沈殿試料(以下、「試料A」と記載する。)とした。 得られた各試料を、それぞれ等量の2x SDS-PAGEサンプルバッファー(15%グリセロール, 0.125 mM Tris/Cl pH6.8, 5 mM Na2EDTA, 2% SDS, 0.1% BPB, 1% 2-メルカプトエタノール)と混合し、100℃湯浴中にて3分間煮沸した後試験に使用した。 得られたサンプルは、SIGMA社Glycoprotein Detection Kit(Cat# GLYCO-PRO)添付のプロトコールに従って分析した。 サンプルバッファーと混合済みの試料A 10μlをTEFCO社プレキャストSDS-PAGEゲル4-12%グラジエントゲル(Cat.No.01 032)によりゲル1枚あたり18 mAで約2時間電気泳動を行った。電気泳動終了後、アクリルアミドゲルをアッセンブリからはずし、50%メタノール中で1時間振とうし固定を行った。メタノール水を捨て、新たに水を加え、20分間振とうした。この操作を再度繰り返した後、酸化液に置換し、1時間振とうした。再び水で2回各20分間振とうし洗浄した後、発色液に置換し、1時間振盪し、発色を行った。結果は目視により判定した。 その結果、試験した129種の酵母株のうち、明らかにマンナンタンパク質を放出する株が3株得られた。また、野生型株でも僅かにマンナンタンパク質が培地中に放出されることが観察された。得られたマンナンタンパク質放出酵母株のうちの1株、MTY9株を用いて更に種々の派生株を作製した。3)マンナンの定量 マンナンタンパク質中のマンナンの定量は以下のようにDIONEXイオンクロマトグラフィーによって行った。 2)に記載した培養液由来エタノール沈殿試料(試料A)を調製した。また、培養物をろ過して得られた培養上清(試料B)についても分析を行った。 試料A 50-60 μlに対し、2mlの2Nトリフルオロ酢酸(Riedel-de-Haen 61030)を加え、凍結、減圧させた後、加水分解管で100℃ 16時間分解を行った。試料B 2mlに対し12N TFAを400μl加え、凍結、減圧させた後、加水分解管で100℃ 16時間分解を行った。 分解終了後室温まで冷却し、15mlディスポーザブル遠心管に移し、遠心エバポレーターで乾燥させた。乾燥後5mlの水に溶解し、Waters社Sep-pakプラスC18(WAT020515: 5 mlのメタノール及び5mlの水で平衡化したもの)及び0.45mmのサンプルフィルターを通し、イオンクロマトグラフィー用試料とした。 グルコース及びマンノース各20,40,60ppmの単糖標準液を定量用の標準として用い、この検量線に入らなかった場合は適宜希釈して分析を行った。 装置はダイオネクス社のイオンクロマトグラフィー装置GP-50を用い、検出器にはアンペロメトリー検出器ED-40を使用した。移動相はA液をMilliQ水、D液を200 mM水酸化ナトリウム溶液とし、A:Dを分析開始から30分まで95:5とし、30分から45分まで0:100、45分から70分までを95:5とした。標準液を用いた検量線より定量値を求め、各試料中の含量を算出した。 グルコース及びマンノースのピークはそれぞれ18分、20分に出現し、この濃度範囲での直線性は相関係数0.999程度と概ね良好であった。 マンナンタンパク質放出酵母株MTY9由来の試料Aを分析したところ、主な構成単糖はマンノースであり、マンノース対グルコースは90:10程度であった。同様にこの株の試料Bを分析したところ、マンノース対グルコースは35:65程度であった。 培地中のマンノース濃度は13.4mg/lであり、これは野生株の培養上清中の濃度の約4倍であった。4)種々の派生株の作製 変異原処理により直接得られたMTY9と野生型株AH22と掛け合わせることで、マンナンタンパク質放出性の改善、および、マンナンタンパク質放出に関係する変異以外の変異を外すことを試みた。定法に従い掛け合わせた2倍体株を減数分裂させ、顕微鏡下でミクロマニピュレーターにより子嚢胞子を分離し、それぞれの子嚢胞子に由来する酵母株のマンナンタンパク質放出性を調べた。 こうして得られたMT26-14Cを元に、YNN27あるいはAH22を掛け合わせ、最終的にMT39-6A及びMT41-10Dを得た。これらの株は1倍体であり、栄養要求性を持っていたが、生育、マンナンタンパク質放出は良好であった。さらにこれらを掛け合わせることで、栄養要求性のない2倍体株AB9株を作製した。AB9株は栄養要求性がなく、生育も良好でマンナンタンパク質を安定的に放出することの出来る工業用に特に適した株である。 これらの酵母株の由来を図4に模式的に示した。これらの酵母株のうち、MTY9およびホモ二倍体株であるAB9は、独立行政法人産業技術研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1-1-1 中央第6、郵便番号 305-8566)に寄託されており、それぞれ受託番号は次のとおりである: AB9は2004年7月13日付けで独立行政法人産業技術研究所 特許生物寄託センターに原寄託され、受託番号FERM P-20116が付与されており、2005年8月3日付けで国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-10390が付与された。MTY9は、2004年7月13日付けで独立行政法人産業技術研究所 特許生物寄託センターに原寄託され、受託番号FERM P-20117が付与されており、2005年8月3日付けで国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-10391が付与された。実施例2.変異遺伝子および変異部位の特定1)変異遺伝子の特定 マンナン放出酵母MTY9にYCp50由来酵母染色体ライブラリーATCC37415を導入し、マンナン放出性を失った株をスクリーニングした。酵母染色体ライブラリーの酵母細胞への導入は定法(Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994))に従って行った。 酵母染色体断片を含むプラスミド依存的にマンナン放出性を失った株から、Q-BIOgene社RPM Yeast Plasmid Isolation Kit(2069-400)を用いてプラスミドを回収し、挿入断片を含む領域のDNA配列を決定した。ヌクレオチド配列の解析はApplied Biosystems社のPrism3100Avantを用い、同社のBig Dye Terminator Kit ver.3.0(4390242)を用いて行った。 用いたプライマーの配列はCCCAGTCCTGCTCGCTTCGCT(フォワードプライマー)(配列番号1)および、GTCGGCGATATAGGCGCCAGC(リバースプライマー)(配列番号2)である。ヌクレオチド配列についてサッカロミセス・ゲノムデータベース(Saccharomyces Genome Database) (http://genome-www.stanford.edu/Saccharomyces/)のBlastnプログラムを用いて相同性検索を行った結果、7番染色体のDNA断片であることが明らかになった。図1にプラスミド依存的にマンナン放出性を失った株から回収されたプラスミドYCp50-Chr.VIIの構造を示した。 この断片に含まれるタンパク質コード領域(ORF)はYGL141とYGL142の二つのみであった。制限酵素を用いてこの領域の断片を作製し、どちらのORFが変異を相補するか確認したところ、相補性を示すORFはYGL142すなわちGPI10遺伝子であることが明らかになった(図2)。 GPI10はGPIアンカーの生合成に関与しており、MTY9株およびその派生株においてマンナンタンパク質はGPIアンカーが十分に生合成されないために細胞壁にとどまることができず、培地中に放出されていくものと考えられた。2)変異部位の特定 マンナンタンパク質放出株MT37-2B(MTY9を戻し交配して作製した株)と野生型株からそれぞれGPI10遺伝子を回収し、変異個所の特定を行った。 遺伝子の回収はApplied Biosystems社のAmpliTaq Goldを用いたPCRで行った。第一回目のPCR反応では変異誘発した酵母株、野生型株の染色体DNAを鋳型とし、F1及びR1のプライマーセットでGPI10 ORFの上流1000ベース及び下流300ベースを含む断片(3141bp)を増幅し、500 bp間隔で設定したF1,F2,F3,F4,F5,F6,F7,R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7を用いて全長のヌクレオチド配列を決定した。各プライマーの配列は下記のとおり:F1: GGAGCAATATGATTGTTGAAGTTTGG (配列番号3)F2: AATAGATTAATTTGCCCC (配列番号4)F3: ATGGCTCACGAGGTTCAT (配列番号5)F4: ACTTGATAAGAGAAACGA (配列番号6)F5: TTTCTTTCAAAGCTTACC (配列番号7)F6: CATTTACTTGGAGACCCA (配列番号8)F7: TCTGTACTAGGCTGAGTA (配列番号9)R1: TTGTTCTGCTCTACGAACTTTTCA (配列番号10)R2: GGCTGTATGTTTTACCTG (配列番号11)R3: ACAGATTCAACAAGATAG (配列番号12)R4: TCAAAAGAGTTGATGAAC (配列番号13)R5: CAATGTGCCGGCTCCAAT (配列番号14)R6: AGATAAGCTCAAAGAAGA (配列番号15)R7: TACTTGCCGAAAGAAACC (配列番号16) 親株のYNN27はデータベース上のGPI10遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号17のヌクレオチド番号234〜2081の配列(この領域によってGpi10pがコードされる))と100%一致し、変異誘発した酵母株でのみ違うヌクレオチド配列は2箇所見つかった。一箇所はORF上流78ベースにある1塩基置換で、もう一箇所はORF中の変異であった。 そこで、これらのうちどちらの変異がマンナンタンパク質放出に関与するのかを確認するため、回収した遺伝子をサブクローニングし、プラスミドシャフリングを行った。遺伝子の回収はTOYOBOのKOD+を用い、添付のプロトコールどおり反応を行った。ヌクレオチド配列を確認し、他の変異が入っていないことを確認し、サブクローニングによりシャフリング用のプラスミドを作製した。 これらプラスミドを定法に従い本発明の酵母株(MT37-2B)に再導入し、PAS染色でマンナンタンパク質放出性を検討した。結果ORF上流にのみ変異を持つプラスミドではマンナンタンパク質放出性が野生型株並に抑えられたのに対し、ORF中の変異を持つプラスミドではマンナンタンパク質が放出されており、このORF中の変異がマンナン放出に関与していることが明らかとなった。 Gpi10pはアミノ酸配列から複数回膜貫通する膜タンパク質と考えられているが、MTY9株の変異はC末端ドメインに存在するプロリンがロイシンに置換する変異であることが明らかになった(図3)。なお、野生型Gpi10pのアミノ酸配列を配列番号18に示した。配列番号18記載のアミノ酸配列は配列番号17記載のヌクレオチド番号234〜2081によってコードされる配列である。実施例3.本発明の酵母株からのマンナンタンパク質の回収I マンナン放出酵母株MTY9を1 Lの合成培地(Difco社 Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid and Ammonium sulfate 0.17%, Glucose 2%, アミノ酸0.13%)中で30℃にて10日間三角フラスコにて回転培養し、経時的にサンプリングを行い実施例1に示したSDS-PAGE法でマンナンタンパク質の放出を調べた。培養開始後40時間ごろ細胞の増殖が対数増殖期から定常期に入ったが、マンナンタンパク質量は細胞の増殖に伴い増加することが明らかになった。実施例1に記載した方法を用いて定量したところ、培養終了後にマンノース換算で培養上清1Lあたり約150 mg程度のマンナンタンパク質が回収されることが示された。実施例4.本発明の酵母株からのマンナンタンパク質の回収II マンナンタンパク質放出株AB9を2Lの合成培地(Difco社 Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid and Ammonium sulfate 0.17%, Glucose 2%, アミノ酸0.13%)でジャー培養(30℃, pH5.5, 通気量1 vvm, 攪拌200rpm、72時間)し、培養液から実施例3と同様にしてマンナンタンパク質を定量した。これにより培養上清1Lあたりマンノース換算で約230 mgのマンナンタンパク質が回収されることが示された。実施例5.本発明の酵母株からのマンナンタンパク質の回収III マンナンタンパク質放出株AB9を2Lの合成培地(Difco社 Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid and Ammonium sulfate 0.51%,Glucose 6%,アミノ酸0.4%)でジャー培養(30℃, pH5.5, 通気量1 vvm, 攪拌200rpm、72時間)し、培養液から実施例3と同様にしてマンナンタンパク質を定量した。これにより培養上清1Lあたりマンノース換算で約880mgのマンナンタンパク質が回収されることが示された。実施例6.放出されたマンナンタンパク質の分析1)マンナンタンパク質からのマンナンの切り出し 回収したマンナンタンパク質からの糖鎖切出し酵素によるマンナンの切り出しの可能性を調べるため、回収したマンナンタンパク質をEndoglycosidase H(EndoH)で処理し、電気泳動後、PAS染色を行った。 実施例1に記載した方法によってMTY9の培養液からエタノール沈殿試料を調製した。New England Biolabs社のEndoH(P0702S)を用い、同社の推奨するプロトコールに従ってこのエタノール沈殿試料の酵素処理を行った。すなわち36μLのA液に4μLの10x変性バッファー(5% SDS, 10% β-ME)を加え、100℃で10分間煮沸した。試料に5μlの10x G5バッファー(0.5M クエン酸ナトリウム pH5.5)を加えて攪拌した後、25μLと20μLに分けた。25μLは陰性対象としてそのまま37℃にて1時間保温した。残りの20μLには5μL(2500 unit)のEndoHを加え、37℃にて1時間保温した。保温後、等量の2x SDS-PAGEサンプルバッファーを添加し、実施例1と同様な方法に従って電気泳動およびPAS染色した。 その結果、PAS染色で染まるマンナンタンパク質の移動度はEndoH処理で大きく変化し、マンナンの切り出しによりタンパク質の質量が小さくなったことが確認された。2)マンナンタンパク質のタンパク質含量およびアミノ酸組成 マンナン放出酵母株MT36-4D(MATa ura3、図4参照)を6Lの合成培地(Difco社 Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid and Ammonium sulfate 0.17%, Glucose 2%, アミノ酸0.13%)で培養した培養上清からエタノール沈殿によって回収したマンナンタンパク質水溶液を、凍結乾燥機にて乾燥して試料を調製した(1.05 g)。 試料に0.5 mlの12 N塩酸を加え110℃にて22時間加水分解を行い、アミノ酸分析計(日本電子データムJLC-500/V)にてアミノ酸組成の分析を行った。結果を表1に示す。エタノール沈殿にて回収されたマンナンタンパク質中のタンパク質含量は約10%程度であった。構成アミノ酸ではセリンやスレオニンが比較的多いことが示された。表1.アミノ酸組成実施例7.マンナンタンパク質の回収条件の最適化1)限外ろ過におけるカットオフ分子量 マンナン放出株MT36-4Dを6Lの合成培地(Difco社 Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid and Ammonium sulfate 0.17%, Glucose 2%, アミノ酸0.13%)で三角フラスコにて実施例3に記載したように培養し、培養物から酵母菌体をろ過により除去した培養上清を試料とした。2 mlの試料をMillipore社製限外ろ過カラムCentricon(YM50,YM10,YM-3)に装荷し、指定条件(YM-50:5000 x g 15分,YM-10:5000 x g 1時間,YM-3:7500 x g 2時間)にて遠心分離することにより限外ろ過を行った。ろ液及び残留液を別々に回収し、それぞれを2mlにメスアップし、12N TFAを400μl加え、凍結、減圧したのち、加水分解管中で100℃、16時間加水分解を行った。加水分解後遠心エバポレーターにより乾燥し、分析試料として調製後、イオンクロマトグラフィーにより分析した。試験結果を表2に示す。マンノースは90%以上が分子量1万以上の画分に存在し、グルコースは広い分子量の範囲で存在していた。大部分のマンナンタンパク質は分子量5万以上の画分に回収されたが、効率的にマンナンタンパク質を回収するためには分子量1万以上を分取するように限外ろ過を行うのが適切であることが示された。表2.マンノース画分の分子量分布2)エタノール沈殿におけるエタノール濃度 マンナン放出株MT36-4D(図4)を6Lの合成培地(Difco社 Yeast Nitrogen Base w/o Amino acid and Ammonium sulfate 0.17%, Glucose 2%, アミノ酸0.13%)で三角フラスコを用いて実施例3に記載したように培養し、培養物から酵母菌体をろ過により除去した培養上清10mlに100%エタノール(和光純薬)をそれぞれ最終濃度33%,50%,60%,66.7%,80%(体積濃度)となるように加え、-30℃で一晩放置した。翌日7000rpmにて15分間遠心分離を行い、上澄み液を捨て、沈殿を一度66.7%エタノールにて洗浄した後、100μlの水に懸濁し、それぞれについてSDS-PAGE及びPAS染色を行った。 その結果、マンノースの収率はエタノール濃度60%以上で良好であり、特にエタノール濃度66.7%または80%の場合に効率よく回収できることが示された。 本発明により、マンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質を培地中に放出する酵母及びその製造方法、また本方法によって製造された天然状態に近い単離マンナンタンパク質が提供される。すなわち、本発明により、1)マンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質を培地中に放出する酵母、2)従来はマンナンタンパク質を物理的あるいは化学的処理により回収してきたのに対し、前述の酵母を培養した培地中からマンナンタンパク質を回収することを特徴とする、マンナンタンパク質の効率的な製造方法が提供される。 特に、本発明の酵母は連続培養可能であるので、本発明によりマンナンタンパク質、特にα-マンナンを含むマンナンタンパク質を連続的に提供することもできる。本発明の、マンナンタンパク質を培地中に放出する酵母は有用な酵母株を育種するためにも利用できる。例えば、本発明の酵母を戻し交配する、または変異酵母株又は野生型酵母株と接合させること等により、更に他の性質を付加、除去された新たな酵母株を作製するための親株として利用することもできる。 さらに、本発明の酵母を培養することによって得られる天然状態に近いマンナンタンパク質からタンパク質部分を除去することにより、天然状態に近い単離マンナンを提供することができる。(参考文献)1.特開2002-095492号公報2.日本栄養・食糧学会誌、55巻、33-39(2002)図1はプラスミドYCp50-Chr.VIIの概略図である。図2は、マンナンタンパク質放出に関与する変異領域を決定するためのプラスミドシャフリングに使用した染色体領域および、マンナン放出性に関するレスキュー結果を示す。図3はGpi10pの疎水性領域分布を示す。図4は、MTY9株から派生する種々のマンナンタンパク質放出酵母株の系統図である。配列番号1〜16:PCRプライマー 糖鎖合成系遺伝子に変異を持つことによりα-マンナンを含むマンナンタンパク質を培地中に放出するサッカロミセス・セレビシアエである酵母であって、前記糖鎖合成系遺伝子がα1,2-マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子であり、前記α1,2-マンノシルトランスフェラーゼが配列番号18記載のアミノ酸配列を有し、前記変異が前記配列の498番プロリン残基がロイシン残基に置換された変異である、前記酵母。 サッカロミセス・セレビシアエAB9株(FERM BP-10390)またはMTY9株(FERM BP-10391)である、請求項1記載の酵母。配列表