タイトル: | 特許公報(B2)_グレリンの生理学的機能のレギュレーター及びその利用 |
出願番号: | 2006514420 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | A61K 31/20,A61K 31/23,A61P 43/00,A61P 17/00,A61P 21/00 |
児島 将康 西 芳寛 寒川 賢治 阿部 圭一 泉 玲子 中村 淳一 JP 5144929 特許公報(B2) 20121130 2006514420 20050419 グレリンの生理学的機能のレギュレーター及びその利用 学校法人 久留米大学 599045903 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 松谷 道子 100106518 志賀 美苗 100127638 櫻井 陽子 100138911 齋藤 みの里 100087114 サントリーホールディングス株式会社 309007911 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 松谷 道子 100106518 志賀 美苗 100127638 櫻井 陽子 100138911 児島 将康 西 芳寛 寒川 賢治 阿部 圭一 泉 玲子 中村 淳一 JP 2004171245 20040609 20130213 A61K 31/20 20060101AFI20130124BHJP A61K 31/23 20060101ALI20130124BHJP A61P 43/00 20060101ALI20130124BHJP A61P 17/00 20060101ALI20130124BHJP A61P 21/00 20060101ALI20130124BHJP JPA61K31/20A61K31/23A61P43/00 111A61P43/00 105A61P17/00A61P21/00 A61K 31/20 A61K 31/23 A61P 17/00 A61P 21/00 A61P 43/00 CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 国際公開第98/039977(WO,A1) 特公昭49−028982(JP,B1) 特開2004−156046(JP,A) 特開2001−286268(JP,A) 特開2002−322490(JP,A) 特開昭60−172922(JP,A) 特開昭62−169725(JP,A) 特開平08−208453(JP,A) 国際公開第03/004667(WO,A1) J. Steroid Biochem. Mol. Biol.,1996年,Vol.59 No.2,pp.225-232 臨床スポーツ医学,2000年,Vol.17 No.7 ,pp.825-828 Biochem. Biophys. Res. Commun.,2001年,Vol.287,pp.142-146 Biochem. Biophys. Res. Commun.,2000年,Vol.279,pp.909-913 日本内分泌学会雑誌,2004年 4月,Vol.80 No.1,p.175 6 JP2005007465 20050419 WO2005120485 20051222 29 20080421 鈴木 理文 本発明は、グレリンの生理学的機能のレギュレーター、および医薬または食品等の分野におけるそれらの利用に関する。また、本発明は、修飾型グレリンの形成促進剤、およびそれらを含む食品に関する。 グレリン(Ghrelin)は、成長ホルモン分泌促進性の合成非天然物質である、成長ホルモン分泌促進物質(growth hormone secretagogue: GHS)と結合するレセプター(GHS-R)の内因性リガンド(ペプチドホルモン)であり、本発明者らのグループうちの児島、寒川らのが最初に発見した物質である[後出文献リストに掲載されている文献(以下、「文献」という)1およびWO01/007475]。当初、グレリンはラットの胃から精製されたが、脳、肺、腎臓、膵臓、小腸および大腸にも発現していることが分かっている(文献2〜7)。また、ラット以外の脊椎動物、例えばヒト、マウス、ブタ、ニワトリ、ウナギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、カエル、ニジマスまたはイヌからもグレリンが単離、あるいはcDNAから推定されている(特開2004-2378号公報)。グレリンは細胞内カルシウムイオン濃度の上昇活性および強力な成長ホルモン分泌促進活性を有する(文献1、8〜10)ことに加えて、食欲の刺激、肥満の誘導(文献11〜14)、心機能の改善(文献15〜17)、胃酸分泌促進作用(文献18)等様々な活性を有する。このように、グレリンは広範な生理学的機能を有することから、その機能の調節はグレリンに関連する疾患に罹患した被検体のみならず、健常な被検体にとっても重要である。 これまでに同定されたグレリンは、アミノ酸残基が約30以下の一群のペプチドであり、3位アミノ酸がアシル基で置換されているという構造上の特徴を有する。例えばヒトグレリンはアミノ酸28個からなり、3位のセリン側鎖が脂肪酸(n−オクタン酸。炭素数(C)8)でアシル化されている。3位アミノ酸のアシル化は、グレリンの細胞内カルシウムイオン濃度の上昇、成長因子分泌促進活性等の生理学的な活性の発現に必須である(1)。なお、グレリン分子の3位アミノ酸は通常セリンである(これを以下、「Ser3」または「ser(3)」と表す)が、例のアミノ酸の例として、ウシガエルの場合のスレオニンが挙げられる(特開2004-2378号公報)。 グレリンの生物活性に必須の、3位アミノ酸の修飾に利用されるアシル基は主として中鎖〜長鎖脂肪酸残基である。ヒト、ブタ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ラット、マウス等のほ乳類、ニワトリ等の鳥類、ウナギ、ニジマス、テラビア、ナマズ等の魚類、カエル等の両生類のグレリンはn-オクタノイル基で修飾されている(文献1、文献19、および特開2004-2378号公報)が、別の型のアシル修飾を有するグレリンペプチドの小集団がある。そのようなアシル修飾の例としては、n-デカノイル(C10:0、二重結合がないもの)修飾(例、ウシガエル、(特開2004-2378号公報)、n-デセノイル(C10:1、不飽和結合が一つあるもの)修飾が挙げられる(文献20〜22)。また、n-ブタノイル(C4)(例、ウマ)、ヘキサノイル(C6)、ドデカノイル(C12)修飾も知られている(特開2004-2378号公報)。 グレリンのアシル修飾はペプチドホルモンの脂質修飾の最初の例であり、セリンのヒドロキシル基のアシル化は哺乳動物タンパク質の修飾としては報告されたことがない。生体内にはアシル化グレリン(以下、「修飾型グレリン」と称することもある)と非アシル化グレリン(以下、「非修飾型グレリン」と称することもある)が存在するが、グレリン3位アミノ酸残基へのアシル基転移を触媒する推定酵素は、おそらく新規のアシルトランスフェラーゼであり、グレリン産生の調節に重要と思われる。しかしながら、そのような酵素は未だ発見されていない。 グレリンの強力な生理活性に着目して、医療、畜産、食品等広範な分野で応用が試みられている。具体的には、摂食障害治療薬、成長ホルモン分泌促進薬等としての利用が提案されている[WO01/007475、特開2004-2378号公報、WO2002/060472]。これらの出願は、いずれも、合成したグレリン誘導体または類似体の使用を前提としている。しかし、非修飾型グレリンを用いる場合には、生体内でアシル化グレリンに変換される必要があり、また、修飾型グレリンを用いる場合には、アシル化グレリンの効率的な製造方法が確立されていないという問題がある。 従って、生理学的活性を医学、獣医学、畜産等の広範な分野での有効利用のためには、グレリンの生理学的活性を調節するための、確実で効率のよい方法の開発が待たれている。 例えば、生体内でグレリンの3位アミノ酸のアシル化を調節する物質はグレリンの生理学的機能(活性)の「レギュレーター」または「モジュレーター」)として機能し、グレリンの種々の生理学的活性の増強または抑制に有用であることが期待される。そのようなレギュレーターは、グレリンの生理学的活性に関連した種々の生理学的障害を治療または予防するための医薬組成物の製造に用いることができる。具体例として、成長ホルモンの欠損または減少、あるいは過剰に起因する疾患を治療するための医薬組成物が挙げられる。また、食欲不振、栄養不良状態にある動物や、対照的に過剰な食欲に関連する健康障害、肥満等の処置に関連する症状を呈する動物に用いることができる。または家畜の肥育・成育を促進し、脂身を低減するためにも有用である。 日常的に摂取しうる形態である機能性食品として、L- アルギニン等の成長ホルモン分泌促進作用を有するアミノ酸を配合したドリンク剤(モーメンタム社;商品名『PMフォーミュラ』)やサプリメント(フォアモアー社;商品名『HGHブースト』、ピュアサプリメント社『身長応援サプリメント』)等が市販されている。しかし、生体内でグレリンの3位アミノ酸のアシル化を調節しうる機能性食品や、修飾型グレリンの形成を促進するものは、全く知られていない。 また、上記の成長ホルモン分泌促進作用を有するアミノ酸は、単品素材では相当量の摂取を行わないと成長ホルモンの分泌を促進しないという問題もある。各種のアミノ酸、ハーブ、ミネラル、ビタミンを特定の比率で配合することによって成長ホルモンの分泌を促す方法も提案されているが(特開2004-256513号公報)、その効果は十分でない。 さらに、機能性食品には通常、ビタミン、ミネラル、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、炭水化物等の成分の1種以上が強化されている。しかしながら、特定のタンパク質、脂質、炭水化物などを除いて多くの成分はその生理学的機能が未解明のまま用いられており、その評価も一定していない。 治療の間に用いる点滴または流動食は、通常、最小の栄養成分を含有しているにすぎず、積極的な身体機能の改善には必ずしも有効ではない。従って、身体機能の迅速で効果的な改善のために、より高い機能を有する点滴や流動食等の開発が望まれている。このように、グレリンの生理学的活性のモジュレーターは、上記の機能性食品、点滴、流動食、家畜の飼料など、様々な用途に極めて有用と考えられる。 本発明の目的は、グレリンの3位アミノ酸の生体内でのアシル化を調節する物質を提供し、該物質を用いてグレリンの生理学的機能を制御する方法を提供することである。 本発明の別の目的は、修飾型グレリンの濃度を上昇または減少させる方法を提供することである。 本発明のさらに別の目的は、グレリンの生理学的活性の調節を通して治療効果や健康増進効果を発揮する医薬組成物または食品を提供することである。 本発明の他の目的または効果は、明細書および図面から容易に理解されるであろう。 本発明者らは、種々の合成型アシル修飾グレリンペプチドに関して検討した結果、グレリンの生物学的活性の効力が、アシル分子を変更することにより改変されるとの知見を得ている(文献23)。今回、本発明者らは、摂取した(外来性の)脂肪酸が生体内でグレリンの3位アミノ酸(例、Ser(3))のアシル化に直接用いられるとの知見を得、外来性脂肪酸そのものが、グレリンの生理学的機能のコントロールに有用であることを見出した。特に、外来性脂肪酸として炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を摂取することにより、修飾型グレリン(活性型グレリン)の濃度を上昇させることができるという知見を得、本発明を完成するに至った。 従って、本発明は、1.炭素数が2〜35である脂肪酸またはその誘導体を含むグレリンの生理学的機能のレギュレーター、2.グレリンの生理学的機能が、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇作用、成長ホルモン分泌促進作用、摂食促進作用、脂肪蓄積に関連した調節作用、心機能改善作用または胃酸分泌刺激作用である、1記載のレギュレーター、3.上記1または2に記載のレギュレーターを含有する医薬組成物、4.上記1または2のレギュレーターを含有する機能性食品、5.炭素数6〜12の中鎖脂肪酸またはその誘導体の少なくとも1種を含む活性型グレリン形成促進剤、6.炭素数8〜10の中鎖脂肪酸またはその誘導体の少なくとも1種を含む、上記5に記載の活性型グレリン形成促進剤、7.上記5または6のいずれかに記載の活性型グレリン形成促進剤を含有する機能性食品、8.炭素数6〜12の中鎖脂肪酸またはその誘導体を含有し、筋力増強作用を有することを特徴とする組成物、9.炭素数6〜12の中鎖脂肪酸またはその誘導体を含有し、美肌作用を有することを特徴とする組成物、および10.グレリンの生理学的機能に関連する障害の予防または処置を必要とする被検体に、上記1に記載のレギュレーター、上記3に記載の医薬組成物または上記4に記載の機能性食品を有効な量で投与することを含む、グレリンの生理学的機能に関連する障害の予防または治療方法、などに関する。 本発明のレギュレーターは、内因性グレリンの3位アミノ酸のアシル化に影響を与え、修飾型グレリンの比率を増大または減少することにより、グレリンの生理学的活性に関連した種々の生理学的障害の治療または予防、特に、成長ホルモンの欠損または減少、あるいは過剰に起因する疾患の治療、食欲不振、栄養不良などの治療に有効である。また、本発明のレギュレーターは、例えば家畜の成育を改善するためにも有用である。さらにはペプチドホルモン、グレリンのアシル修飾の機構の解明、特に推定のグレリンser O-アシルトランスフェラーゼの特徴付けにも貢献しうる。 修飾型グレリンのうち、生理学的活性を有する修飾型グレリン(「活性型グレリン」とも呼称)の比率を増大させる活性型グレリン形成促進剤は、例えば、グレリンの細胞内カルシウムイオン濃度上昇作用や成長ホルモン分泌促進作用等を増強させることができ、その結果、筋肉・骨格の増強、脂肪の減少、皮膚の若返り、疲労回復などの生理効果を発揮しうる。このような本発明の活性型グレリン形成促進剤は、安全で副作用がないことから、食品の形態で用いることができ、その結果、日常的な摂取が可能となり、効率的に上記の生理効果を発揮する。n-ヘキサン酸(C6)、n-オクタン酸(C8)、n-ラウリン酸(C12)またはn-パルミチン酸(C16)と水を与えたマウスおよび標準的な餌と水を与えた正常コントロールマウス(コントロール)の胃におけるグレリン濃度を示す。AはグレリンN-RIA (n=8)により測定したアシル修飾型グレリン濃度を表す。N-RIAはアシル修飾型グレリンに非常に特異的であり、アシル化グレリンの主な形態はn-オクタノイルグレリンなので、N-RIAにより測定したアシル修飾型グレリン濃度は主にn-オクタノイルグレリン集団を反映している。BはグレリンC-RIA (n=8)により測定した総グレリン濃度を表す。総グレリン濃度は、アシル型および脱アシル型の両グレリンを含む。Cはアシル修飾型グレリン/総グレリンの比を表す。データは、胃抽出物におけるグレリン濃度の平均値±S.D.を表す(湿重量1mgから)。統計学的有意差はアスタリスクで示した。*, p<0.01; **, p<0.001 対コントロール。トリヘキサン酸グリセリル(C6)、トリオクタン酸グリセリル(C8)、トリデカン酸グリセリル(C10)またはトリパルミチン酸グリセリル(C16)と混合した餌を与えたマウスの胃と標準的な実験用飼料(コントロール)を与えたマウスの胃におけるグレリン濃度(n=8)を示す。AはグレリンN-RIAにより測定したアシル修飾型グレリン濃度を表す。BはグレリンC-RIAにより測定した総グレリン濃度を表す。データは胃抽出物におけるグレリン濃度の平均値±S.D.を表す(湿重量1mg)(n=5)。Cはアシル修飾型グレリン/総グレリン濃度の比を表す。データは計算した比の平均値±S.D.を表す(n=5)。統計学的有意差はアスタリスクにより示した。*, p<0.05; **, p<0.01 対コントロール。トリヘキサン酸グリセリル(C6:0-MCT)、トリオクタン酸グリセリル(C8:0-MCT)、トリデカン酸グリセリル(C10:0-MCT)を含有する飼料または標準実験用飼料(コントロール)を与えたマウスの胃から得たグレリンペプチドの分子形態を示す。マウス胃由来のペプチド抽出物をHPLCにより分画し、C-RIAによりグレリン免疫反応性について測定した。アッセイチューブは胃組織0.2mgからのペプチド抽出物を等量ずつ含有していた。黒棒グラフはグレリン C-RIAにより測定した免疫反応性グレリン (ir-グレリン)濃度を表す。矢印は脱アシル型グレリン(I)およびn-オクタノイルグレリン(II)の溶出位置を表す。合成グレリンの保持時間に基づき、ピークa、d、hおよびkは脱アシル型グレリンのピークに対応し、ピークb、f、iおよびlはn-オクタノイルグレリンのピークに対応し、ピークc、g、jおよびmはn-デセノイル(C10:1)グレリンのピークに対応し、ピークnはn-デカノイル (C10:0)グレリンのピークに対応していた。トリオクタン酸グリセリンを与えたマウスの胃のグレリン濃度の時間依存性の変化を示す。AはグレリンN-RIAにより測定したアシル修飾型グレリン含量を表す。BはグレリンC-RIAにより測定した総グレリン含量を表す。絶食12時間後、トリオクタン酸グリセリル(5%w/w)含有飼料をマウスに与えた。矢印で示す時点(0時間)で開始する。胃サンプルを、記載した時点で標準実験用飼料を与えたコントロールマウス(黒丸)およびトリオクタン酸グリセリルを与えたマウス(白丸)から単離した。各点は平均値±S.D.で示している(n=8)。統計学的有意差はアスタリスクで示した。*、p<0.05; **、p<0.01および***、p<0.001対コントロール。トリオクタン酸グリセリル含有飼料の摂取後の胃グレリンmRNA発現を試験するノザンブロット分析を示す。各レーンは全RNAを2μg含む。下方のパネルは28Sおよび18SリボソームRNA内部コントロールを示す。トリヘプタン酸グリセリルを与えたマウス由来の胃抽出物のHPLCプロフィールを示す。トリヘプタン酸グリセリルで処置したマウスの胃抽出物をHPLCにより分画した(上方パネル)。各画分(胃組織0.2mg当量)におけるグレリン濃度をC-RIA(中央パネル)およびN-RIA (下方パネル)によりモニターした。棒グラフで表すように、グレリン免疫反応性は、C-RIAにより3つの主なピーク(中央パネル、ピークa、bおよびc)に分離し、N-RIAにより2つの主なピーク(ピークdおよびe)に分離した。ピークbおよびdはトリヘプタン酸グリセリルの摂取後にのみ観察された。n-ヘプタノイルグレリンの最終精製を示す。トリヘプタン酸グリセリルを摂取したマウスの胃からグレリンペプチドを精製した。抗ラットグレリンイムノアフィニティカラムから溶出したサンプルをHPLCに供した。ピークaはトリヘプタン酸グリセリルで処置したマウス由来のサンプルにおいてのみ観察された。HPLCの保持時間およびMALDI-TOF-MS分析に基づくと、ピークbはn-オクタノイルグレリンに対応していた。矢印はそれぞれ、n-ヘキサノイル(I)、n-オクタノイル(II)およびn-デカノイル(III)グレリンの溶出位置を表す。Aは図7のピークaから精製したグレリン様ペプチドのマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析の結果を示す。質量は、3131.0〜3477.0 (m/z)の範囲に及ぶ。陽イオンモード(平均[M+H]+:3301.9)で得た平均100質量スペクトルから、ピークaペプチドの分子量は3300.9であると計算した。B.n-ヘプタノイル(C7:0)グレリンの構造。n-ヘプタノイルグレリンの分子量計算値は3300.86である。トリヘプタン酸グリセリル混合飼料を与えたマウス由来の血漿グレリンペプチドの分子形態を示す。標準飼料を与えたコントロールマウス(A)およびトリヘプタン酸グリセリル処置マウス(B)の血漿サンプルをHPLCにより分画し、C-RIAによりグレリン免疫反応性を測定した。矢印は脱アシル型グレリン(I)およびn-オクタノイルグレリン(II)の溶出位置を表す。血漿グレリンの免疫反応性は棒グラフで表した。図中、ピークbおよびeは脱オクタノイルグレリンに対応し、ピークcおよびgはn-オクタノイルグレリンに対応する。新たに現れたピークfはトリペプタン酸グリセリル処置の後にマウス胃で観察されたn−ヘプタノイルグレリンと同一の保持時間を示した。GHS-R-発現細胞でのn-オクタノイルグレリン(黒丸)、n-ヘプタノイルグレリン(白丸)およびn-ヘキサノイルグレリン(黒三角)により誘導される蛍光のタイムコースを示す。ペプチド(1×10-8M)は矢印により示される時点で加えた。中鎖脂肪酸トリグリセリド摂取による利き手(右手)の握力の変化を示す図である。中鎖脂肪酸トリグリセリド摂取による、顔(右頬)の皮膚の水分含量の変化を示す図である。中鎖脂肪酸トリグリセリド摂取による、顔(左頬)の皮膚の水分含量の変化を示す図である。中鎖脂肪酸トリグリセリド摂取による、顔(右頬)の皮膚の水分蒸散量の変化を示す図である。中鎖脂肪酸トリグリセリド摂取による、顔(左頬)の皮膚の水分蒸散量の変化を示す図である。中鎖脂肪酸トリグリセリド摂取による、左内腕の皮膚の水分蒸散量の変化を示す図である。 本明細書中で用いる用語を以下に説明する。 「グレリン」とは、内因性成長ホルモン分泌促進因子(GHS)の受容体(GHS-R)と結合し細胞内のカルシウムイオン濃度上昇活性および成長ホルモンの分泌刺激活性を示す約30アミノ酸残基のペプチドホルモンである。グレリンは、脊椎動物に広範囲に分布しており、ほ乳類、鳥類、魚類、両生類などで同定されている。従って、本発明は、任意の起源に由来するグレリンを包含する。 好ましいグレリンの起源はヒトの他、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、ラット、マウス、イヌ、ニワトリ、ウナギ、ニジマス、食用カエル等の、家畜、家禽、ペット魚類等である。これらを起源とする数種のグレリンは、既に単離され、そのアミノ酸配列が既知である。例えば、特開2004−2378号公報参照。 本明細書中、「(アシル)修飾型グレリン」とは、グレリン分子の3位アミノ酸残基(例、セリン)がアシル基で修飾されたペプチドを意味し、単に「アシルグレリン」とも称する。「アシル化」は、3位アミノ酸の側鎖水酸基をアシル基、好ましくは脂肪酸残基で置換することを意味する。また、「非修飾型グレリン」とは3位アミノ酸がアシル化されていないペプチドを意味し、単に「脱アシルグレリン」とも称する。また、既述したように、グレリンの生理学的な活性を表す修飾型グレリンを「活性型グレリン」とも称する。 グレリンの生理学的機能の「レギュレーター」とは、グレリンをリガンドとするRHS-Rを発現している生体に投与したとき、グレリンの生理学的機能を強める、あるいは弱める物質を意味する。グレリンの生理学的機能を強める物質としては、グレリンの3位アミノ酸をアシル化したときグレリンが生理学的に活性となるアシル基を有する、活性化作用を有する脂肪酸が例示できる。一方、グレリンの生理学的活性を弱める物質としては、グレリンの生理学的活性になんら影響しないか、むしろ低下させるであって、上記活性化作用を有する脂肪酸と競合してグレリンの3位アミノ酸をアシル化する脂肪酸が例示できる。 後述の実施例に記載のごとく、マウスの場合、中鎖脂肪酸(MCFA)または中鎖トリアシルグリセロール(「中鎖トリグリセリド」ともいう)(MCT)のいずれかの摂取は、総グレリン(アシルグレリンと脱アシルグレリン)濃度を変化させずにアシル修飾型グレリンの産生を増大した。マウスにMCFAまたはMCTのいずれかを与えた場合、非修飾(初期)型グレリン分子に結合したアシル基の炭素鎖長は摂取したMCFAまたはMCTの炭素鎖長に対応していた。対照的に、n-ブチリル基またはn-パルミトイル基により修飾されたグレリンペプチドは、対応する短鎖脂肪酸(SCFA)または長鎖脂肪酸(LCFA)の摂取後には検出されなかった。さらに、n-ヘプタン酸またはトリヘプタン酸グリセリル摂取後のマウスの胃でn-ヘプタノイルグレリン(非天然形態のグレリン)が製造されていた。これらの知見は、グレリンのアシル化に利用される脂肪酸は炭素鎖が一定であること、摂取した脂肪酸がグレリンのアシル修飾に直接利用されること、そしてグレリンのアシル修飾を触媒すると推定される酵素が、そのような特定の脂肪酸により親和性である可能性を示している。ヒトグレリンやマウスグレリンのように、中鎖脂肪酸によって優先的にアシル化される場合、そのような酵素は、SCFAまたはLCFAよりもMCFAに、より親和性である。 中鎖脂肪酸によりグレリンがアシル化されるマウスの場合、中鎖脂肪酸(n-ヘキサン酸、n-オクタン酸およびn-デカン酸)または中鎖トリグリセリド(トリヘキサン酸グリセリル、トリオクタン酸グリセリルおよびトリデカン酸グリセリル)の摂取は、対応する長さの炭素鎖を有するアシル基により修飾されたグレリン(すなわち、n-ヘキサノイルグレリン、n-オクタノイルグレリンおよびn-デカノイルグレリン)の胃中濃度を上昇させた。また、トリヘプタン酸グリセリル(哺乳動物細胞によっては合成できない)の摂取は、n-ヘプタノイル修飾を有する非天然形態のグレリンの産生をもたらした。しかし、脂肪酸の摂取によるグレリンの総生産(アシル修飾型および脱アシル型のグレリン)は有意には上昇しなかった。これらの知見は、摂取した中鎖脂肪酸および中鎖トリグリセリドがグレリンのアシル修飾のための直接の脂質源であることを示している。 このように、摂取した脂肪酸およびトリグリセリドは、グレリンのアシル修飾における脂質源として利用されてアシル修飾型グレリンの濃度に影響を及ぼすことから、グレリンの生理学的機能のレギュレーターとして機能することになる。より詳細には、グレリンの3位アミノ酸に結合してグレリンの生理学的機能を高める脂肪酸は「正のレギュレーター」である。一方、グレリンの生理学的機能に影響しないか、阻害する脂肪酸は「負のレギュレーター」である。 以下、主として、3位アミノ酸がセリンであるグレリンを例に挙げて本発明を説明するが、3位アミノ酸がスレオニンであるグレリン同族体についても、本発明を適用し、同様の効果を得ることができることは、当業者ならば容易に理解しうることである。(1)グレリンの生理学的機能のレギュレーター 上記定義に従い、「グレリンの生理学的機能のレギュレーター」として、グレリン分子の3位アミノ酸(例、Ser(3))のヒドロキシル基とエステルを形成しうる脂肪酸部分を有することにより、グレリンの少なくとも1つの機能を調節する物質を挙げることができる。 本発明のレギュレーターの活性成分として使用できる脂肪酸には、炭素数2〜35の飽和または不飽和脂肪酸が含まれる。具体例として、炭素数が偶数のブタン酸(C4)、ヘキサン酸(C6)、オクタン酸(C8)、デカン酸(C10)、ドデカン酸(C12)、テトラデカン酸(C14)、ヘキサデカン酸(C16)、オクタデカン酸(C18)、炭素数が奇数のペンタン酸(C5)、ヘプタン酸(C7)、ノナン酸(C9)、ペンタデカン酸(C15)、ヘプタデカン酸(C17)、それらのモノエンまたはポリエン脂肪酸等が挙げられる。より好ましくは炭素数4〜18、さらに好ましくは炭素数6〜16の脂肪酸、最も好ましくは炭素数6〜12の脂肪酸が挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明のレギュレーターとしては、上記の脂肪酸を一種単独で、または複数種を混合して用いることができる。 レギュレーターが、グレリンの生理学的機能を高める(上昇させる)「正のレギュレーター」である場合、使用できる脂肪酸は、対象動物により異なるが、通常、炭素数が4〜12、好ましくは6〜12、より好ましくは8〜10のものである。 なお、「正のレギュレーター」は、上記の「活性型グレリン」濃度上昇作用を有することから、「活性型グレリン形成促進剤」と、ほぼ同意義である。 レギュレーターが、グレリンの生理学的機能を抑制する「負のレギュレーター」である場合、使用できる脂肪酸は、対象動物により異なるが、通常、上記のポジティブレギュレーターとして例示した脂肪酸以外のものである。 上記の例示は決定的なものではなく、好適な範囲は対象動物により異なることが明らかであり、上記のものよりも長い、または短い炭素鎖を有する脂肪酸により、グレリンの生理学的活性を有する、または有さない修飾型グレリンを生じ得る。そのような脂肪酸またはその誘導体も本発明の範囲に包含される。 ヒトを対象とした場合、グレリンの生理学的機能の一つである成長ホルモン分泌促進作用について、3位アミノ酸残基がオクタン酸(炭素数(C)8)で修飾されたグレリンおよび/またはデカン酸(炭素数(C)10)で修飾されたグレリンは成長ホルモン分泌を活性化させる作用がある、すなわち正のレギュレーター(活性型グレリン)として作用するが、3位アミノ酸残基がヘキサン酸(炭素数(C)6)で修飾されたグレリンは成長ホルモン分泌に影響を与えない、すなわち負のレギュレーターであることが知られている。 この場合、本発明の活性型グレリン形成促進剤として、炭素数が8〜10の脂肪酸を好適に用いることができる。中でも炭素数が8のオクタン酸は、炭素数が10のデカン酸に比べて3位のアミノ酸の水酸基とエステルを形成しやすい性質を有することから、効率的な活性型グレリン形成促進剤として用いることができる。 なお、上記は、グレリンの生理学的作用の一つである成長ホルモン分泌促進作用についてヒトを対象として好適な活性型グレリン形成促進剤について説明したが、活性型グレリンは、対象動物やグレリンの生理学的作用により異なることは明らかであり、上記のものよりも長い、または短い炭素鎖を有する脂肪酸が活性型グレリン形成促進剤となり得る。そのような脂肪酸またはその誘導体も本発明の範囲に包含される。 レギュレーターの活性成分である「脂肪酸の誘導体」の例としては、上記脂肪酸を遊離するか、または生体内でグレリン分子の3位アミノ酸の水酸基とエステルを形成し得る任意の形態の、上記脂肪酸の誘導体が挙げられる。そのような誘導体は、また、溶解性、消化管からの吸収性、味や臭いの改善を目的として適宜塩やエステルの形に変換してもよい。そのような誘導体の製造方法は医薬、食品、飼料等に関する製造業の分野で周知であり、当業者ならば、目的に応じて適当な誘導体を製造することができる。 「脂肪酸の誘導体」の好ましい例は、通常、類似の目的のために用いられるモノ−またはポリ−アルコールとのエステルである。特に、グリセリンは好ましいアルコールである。グリセリドの場合、モノ−、ジ−またはトリ−グリセリドまたはその混合物であってもよく、特に制限はないが、食品として認可されているトリグリセリドを好適に用いることができる。 本発明のレギュレーターの活性成分としての脂肪酸またはその誘導体は、有機化学の分野の当業者に公知の方法に従って製造することができるか、または市販の供給源から入手することができる。(2)グレリンの生理学的機能 本発明のレギュレーターにより制御しうるグレリンの生理学的機能には、アシルグレリンの全生理学的機能が含まれ、例えば、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇作用、成長ホルモン分泌促進作用、摂食促進作用、脂肪蓄積に関連した調節作用、心機能改善作用または胃酸分泌刺激作用が挙げられる。特に成長ホルモンの放出、食欲の刺激、肥満の誘発、心機能の改善、胃酸分泌などに深く関与しているが、これらに限定されない。本発明の正のレギュレーターはグレリンの生理学的機能を高めることから、グレリンまたはその類似体と同様の効果を表す。即ち、正のレギュレーターは成長ホルモンの分泌促進、食欲の刺激、肥満の誘導、心機能の改善、胃酸の分泌刺激等の効果を示しうる。(3)グレリンの生理学的機能のレギュレーターの利用1(医薬組成物) 本発明のレギュレーターは、ほ乳類、鳥類、魚類、両生類など、例えば、ヒト、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、ラット、マウス、イヌ、ニワトリ、ウナギ、ニジマス、カエル等に対し、上記の効果を発現する医薬として使用することができる。 具体的には、摂食障害治療薬、成長ホルモン分泌促進薬、心疾患治療薬、胃機能性疾患治療剤、腸管粘膜保護剤もしくは経静脈栄養時の小腸粘膜障害予防剤、骨粗鬆症治療剤、慢性疾患による悪液質の減少剤、肺機能不全治療剤等として有用である。特に、ヒトにおける骨粗鬆症、食欲不振、心疾患、リウマチおよび炎症性腸疾患の予防または治療、および外科手術後の回復を促進するのに有用である。 本発明の脂肪酸またはその誘導体は、それ自体が本発明のグレリンの生理学的機能のレギュレーターとして機能するのでそのままで用いることができるが、取り扱いまたは適用の簡便さのため、脂肪酸またはその誘導体を適切な形態(当該分野で公知の方法に従う液体および固体形態を含む)で処方することが好ましい。例としては、水性または非水性媒体(希釈剤)中の液剤および懸濁剤、生理学的に許容可能または製薬上許容可能なキャリアを有する散剤、顆粒剤または錠剤が挙げられる。そのような医薬組成物は、例えば上記「グレリンの生理学的機能」の項に記載の様々な動物種におけるグレリンの機能を昂進または抑制することができ、同項に記載の治療効果を挙げることができる。 本発明のグレリンの生理学的機能のレギュレーターを医薬組成物中に処方する場合、当業者既知の賦形剤、溶媒、担体、保存剤等を使用し、自体既知の方法で製剤化される。 本発明の医薬組成物は、医学または獣医学の分野で既知の方法により、経口または非経口経路(例えば、皮内、皮下、静脈内注射、点滴など)で投与することができる 本発明のレギュレーターの投与量は、種々の因子(選択した脂肪酸またはその誘導体、投与経路、および処置する障害、年齢、体重、状態などを含む処置する被検体)に応じて変化し、通常は医師により決定される。脂肪酸に基づいて、0.0001mg-1000 mgの間、好ましくは0.001mg-100 mgの間、より好ましくは0.01mg-10mgであるが、このような範囲は限定的なものではない。また、対象がヒト以外の動物である場合は、投与量は対象に応じて獣医師等により適宜決定される。(4)グレリンの生理学的機能のレギュレーターの利用2(機能性食品) 本発明のレギュレーターは、副作用の恐れがないので機能性食品として、日常的に食欲の増進または抑制、肥満の解消、栄養不良の改善などのために用いることができる。特に、体重のコントロールなどを通じて哺乳動物の健康状態をコントロールするため、さらには動物の成長促進、食肉中の脂身の低減等のためにも使用できる。このように、本発明のレギュレーターは畜産、養鶏、魚類の養殖等においても有用である。 本明細書中、「機能性食品」という語句は広義で用いられており、医薬品として定義されているものを除いてヒトを含む動物が何らかの生理学的機能を期待して食することができる食品を指す。具体的には、サプリメントのような製剤の形態で、本発明のグレリン生理学的機能のレギュレーターである本発明の脂肪酸またはその誘導体を有効成分とする食品、ならびに一般の食品に本発明のグレリン生理学的機能のレギュレーターである脂肪酸またはその誘導体を1成分として配合して、その食品に生体のグレリンの生理学的機能のレギュレーター作用を付加してなる食品を挙げることができる。このような機能性食品としては、例えば、特定保健用食品(health promoting food)や条件付き特定保健機能用食品、栄養補助剤(food supplement)、栄養補助食品(dietary supplement)の他、生体内のグレリンの生理学的機能を調節する(活性型グレリンの形成を促進する)、または生理学的機能に関連する障害を予防ないし抑制するために用いられる旨の表示を付してなる食品が例示できる。) 本発明の脂肪酸またはその誘導体は、それ自体が本発明のグレリン生理学的機能のレギュレーターとして機能するのでそのままで機能性食品として用いることができるが、取り扱いまたは適用の簡便さのため、脂肪酸またはその誘導体を適切な形態(当該分野で公知の方法に従う液体および固体形態を含む)で処方することが好ましい。例としては、水性または非水性媒体(希釈剤)中の液剤および懸濁剤、生理学的に許容可能または製薬上許容可能なキャリアを有する散剤、顆粒剤または錠剤が挙げられる。 また、上記の本発明の脂肪酸またはその誘導体を1成分として配合した機能性食品の対象は何ら制限されないが、具体的には、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓等の冷菓類;乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料(果汁入りを含む)、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、スポーツ飲料、粉末飲料等の飲料類;リキュールなどのアルコール飲料;コーヒー飲料、紅茶飲料等の茶飲料類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類;セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソースなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコン等の水産練り製品;チーズ等の酪農製品類;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種総菜及び麩、田麩等の種々の加工食品を挙げることができる。 機能性食品中の本発明のレギュレーターの含量は、上記医薬組成物の項に記載した投与量を参照し、製品の種類、形態、摂取する対象(種、年齢層)等の因子を考慮して当業者が適宜決定することができる。 本発明の「正のレギュレーター」、具体的に「活性型グレリン形成促進剤」は、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇作用や成長ホルモン分泌促進作用を有する機能性食品として、極めて有用である。このような機能性食品は、成長ホルモン分泌促進作用を介する作用、例えば、筋肉・骨格の増強、脂肪の減少、皮膚の若返り、疲労回復などの生理効果を効率よく発揮することができ、副作用の心配もない。 活性型グレリン形成促進剤は、上記したように、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸またはその誘導体からなる。特に対象がヒトである場合、炭素数8〜10の中鎖脂肪酸またはその誘導体、最も好ましくは8の中鎖脂肪酸またはその誘導体を含む。(5)グレリンの生理学的機能のレギュレーターの利用3(予防または治療方法) 本発明のレギュレーターを用いてグレリンの生理学的機能に関連する障害を予防または治療する方法は、レギュレーターそのもの、あるいはそれを含有する医薬組成物または機能性食品をヒトまたはヒト以外の動物に与えることにより、当分野で公知の方法に従って実施することができる。実施例 以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。略語GH:成長ホルモンGHS:成長ホルモン分泌促進物質GHS-R:成長ホルモン分泌促進物質受容体Ir:免疫反応性RIA:ラジオイムノアッセイCHO:チャイニーズハムスター卵巣[Ca2+]i:細胞内カルシウム濃度AcOH:酢酸HPLC:高速エキタイクロマトグラフィーRP:逆相MALDI-TOF-MS:マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析N-RIA:n-オクタノイルグレリンのN-末端フラグメント[1-11]のラジオイムノアッセイC-RIA:グレリンのC-末端フラグメント[13-28]のラジオイムノアッセイMCFA:中鎖脂肪酸MCT:中鎖トリグリセリドLCFA:長鎖脂肪酸LCT:長鎖トリグリセリドSCT:単鎖トリグリセリド実施例1(1)材料および方法1)グレリンのラジオイムノアッセイ グレリンに特異的なRIAは文献記載の方法に従って行った(文献2)。ラットグレリンのN末端(Ser3でのO-n-オクタノイル化を有するGly1-Lys11)フラグメントおよびC末端(Gln13-Arg28)フラグメントに対する2種類のポリクローナル抗体をウサギ中で惹起させた。RIAインキュベーション混合物は、標準グレリンまたは未知のサンプル100μlと、0.5%正常ウサギ血清を含むRIA緩衝液(50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.5%Triton-X100、80mM 塩化ナトリウム(NaCl)、25mM エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム(EDTA-2Na)および0.05% アジ化ナトリウム(NaN3))で希釈した抗血清200μlとから構成した。抗ラットグレリン[1-11]抗血清および抗ウサギグレリン[13-28]抗血清は、それぞれ、最終希釈倍率1/3,000,000および1/20,000で用いた。4℃で12時間インキュベーションした後、125I-標識したリガンド100μl(20,000 cpm)を加えてさらに36時間インキュベーションした。次いで、抗ウサギヤギ抗体を100μl加えた。4℃で24時間インキュベーションした後、3,000rpmで30分間遠心分離することにより遊離トレーサーおよび結合型トレーサーを分離した。ペレットの放射活性をガンマカウンター(ARC-600, Aloka, Tokyo)で定量した。アッセイは全て4℃で2連で行った。 両方のタイプの抗血清は、ヒト、マウスおよびラットグレリンと完全な交差反応性を示した。グレリンのSer3 n-オクタノイル化部位を特異的に認識する抗ラットグレリン[1-11]抗血清は脱アシル型グレリンを認識しなかった。N-RIAのn-デカノイルグレリンおよびn-ヘキサノイルグレリンに対する交差反応性は、それぞれ、20%および0.3%である。抗ラットグレリン[13-28]抗血清は、グレリンペプチドの脱アシル型および全アシル型の両方を等しく認識した。以下の項では、ラットグレリンのN末端フラグメント[1-11]に対する抗血清を用いるRIAシステムをN-RIAと称し、他方、C末端フラグメント[13-28]に対する抗血清を用いるRIAシステムをC-RIAと称する。2)グレリンのカルシウム動員アッセイ アッセイ前に、ラットGHS-R(グレリンレセプター)を安定に発現するCHO-GHSR62細胞(1)を4×104細胞/ウェルで平底96ウェルプレート(黒色) (Corning Costar Corporation, Cambridge, MA)に12〜15時間、プレーティングした。次いで、細胞を、1%ウシ胎仔血清(FCS)を補充したアッセイ緩衝液(ハンクスの平衡塩類溶液 (HBSS)、10mM HEPES、2.5mMプロベネシッド)に溶解した4μM Fluo-4-AM蛍光指示色素 (Molecular Probes, Inc., Eugene, OR)と共に1時間プレインキュベートした。アッセイ緩衝液で4回洗浄した後、0.01%ウシ血清アルブミンを有する塩基性緩衝液100μlに溶解した各サンプルを、調製した細胞に加えた。FLEXステーション(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて細胞内カルシウム濃度の変化を測定した。3)グレリンアッセイのための胃サンプルの調製 マウスおよびラットのいずれかから回収した胃をリン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)で2回洗浄した。各サンプルの湿重量を測定した後、全胃組織を細かく刻み、内因性プロテアーゼを不活化するために10倍容量の水中で5分間煮沸した。氷上で冷却した後、煮沸したサンプルを1M 酢酸-20mM 塩酸(HCl)に調節した。ペプチドをポリトロンミキサー (PT 6100, Kinematica AG., Littan-Luzern, Switzerland)を用いるホモジネーションの後、抽出した。15,000rpm(12,000×g)で15分間遠心分離した後、単離した抽出物の上清を凍結乾燥し、-80℃で保存した。凍結乾燥サンプルは、グレリンRIAまたはカルシウム動員アッセイに先立って、それぞれ、RIA緩衝液またはカルシウム動員アッセイ緩衝液に再溶解した。4)グレリンアッセイ用血漿サンプルの調製 血漿サンプルを、既述した通りに調製した(文献2)。全血サンプルを直ちにEDTA-2Na (1 mg/ml)およびアプロチニン(1,000 カリクレイン不活化剤単位(inactivator unit)/ml)を含む冷ポリプロピレンチューブに移し、4℃で遠心分離した。血漿の分離直後に、塩化水素をサンプルに終濃度0.1Nで加え、次いで等量の生理食塩水で希釈した。サンプルを0.1%トリフルオロ酢酸 (TFA)および0.9%塩化ナトリウム(NaCl)で予め平衡化したSep-Pak C18カートリッジ(Waters, Milford, MA)に充填した。カートリッジを0.9%塩化ナトリウム(NaCl)および5%アセトニトリル (CH3CN)/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)で洗浄し、次いで60% CH3CN/0.1%TFAで溶離した。次いで、溶出液を凍結乾燥し、残留物質を1M 酢酸(AcOH)に再溶解し、1M 酢酸(AcOH)で予め平衡化したSP-Sephadex C-25 カラム(H+-形態, Pharmacia, Uppsala, Sweden)に吸着させた。1M AcOH、2Mピリジンおよび2Mピリジン-AcOH (pH 5.0)を用いて連続的に溶離することにより、3つの画分、SP-I、SP-IIおよびSP-IIIを得た。SP-III画分をエバポレートし、1M AcOHに再溶解し、C18 RP-HPLC (Symmetry 300, 3.9×150mm, Waters)により分離した(10〜60% CH3CN/0.1%TFAの線形勾配、流速1.0 ml/分、40分間)。500μリットルずつ分画した。各画分中のグレリンペプチド含量を、上記のグレリンC-RIAにより測定した。5)遊離脂肪酸またはトリアシルグリセロール(中鎖トリグリセリド)摂取後のグレリンの濃度およびアシル修飾 体重20〜25gの雄性C57BL/6Jマウス(10〜12週齢)を、制御した温度(21〜23℃)および光条件(light on 0700-1900)の下で、自由に餌および水を摂取させて飼育した。中鎖脂肪酸(MCFAs)、すなわち、n-ヘキサン酸、n-オクタン酸およびn-ラウリン酸(Sigma-Aldrich Japan Co. Ltd., Tokyo)を5mg/mlで水に溶解した。n-パルミチン酸(一般的な長鎖脂肪酸(LCFA) (Sigma-Aldrich Japan Co. Ltd., Tokyo))を標準的な実験用飼料(CLEA Rodent Diet CE-2, CLEA Japan, Osaka)に濃度1% (w/w)で混合して食餌中に含まれるこの脂質と他の中鎖脂肪酸の総取込量を平衡化した。中鎖および長鎖トリグリセリド(MCTおよびLCT)であるトリヘキサン酸グリセリル、トリオクタン酸グリセリル、トリデカン酸グリセリルおよびトリパルミチン酸グリセリル (Wako Pure Chemical, Osaka, Japan)を標準実験用飼料に濃度5%(w/w)で混合した。遊離脂肪酸またはトリアシルグリセリドを含有する食品を摂取した後、一定の時点(0〜14日)で処置マウスから全胃組織を回収した。これらのマウスからの新しい組織サンプルをさいの目に切り、10倍体積の水中で5分間煮沸した。次いで、冷却後、組織含有溶液を1M酢酸に調節した後、Polytron ミキサーでホモジナイズした。15,000rpmで15分間遠心分離した後、得られた上清を凍結乾燥した。凍結乾燥物質をRIA緩衝液に溶解し、グレリンC-RIAおよびN-RIAにかけた。種々のアシル基により修飾されたグレリンペプチドの形態を解明するために、抽出した胃ペプチドをSep-Pak Plus C18カートリッジ(Waters, Milford, MA)を用いて回収し、C18 RP-HPLC (Symmetry 300, 3.9×150 mm, Waters)に供した(10〜60% CH3CN/0.1% TFAの線形勾配、流速1.0ml/分、40分間)。500μlずつ分画した。各画分中のグレリンペプチド含量を、上記のようにグレリンC-RIAおよびN-RIAにより測定した。抽出の間、グレリンの分解は観察されなかった。6)ノザンブロット分析 TRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad CA, USA)を用いて、酸グアニジンチオシアネート−フェノールクロロホルム抽出法(文献24)により雄性C57BL/6Jマウス(12週齢)の胃から全RNAを抽出した。全RNA2μgをホルムアルデヒド含有1%アガロースゲルで電気泳動し、次いでZeta-Probeブロッティングメンブレン(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)に移した。メンブレンを50%ホルムアミド、5×SSPE、5×デンハート溶液、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および変性サケ精子100μg/mlを含有するハイブリダイゼーション緩衝液中で32P標識ラットグレリンcDNAプローブを用いてハイブリダイズさせた。37℃で一晩ハイブリダイゼーションした後、メンブレンを洗浄し、BioMax-MSフィルム(Eastman Kodak, Rochester, NY)に12時間、-80℃で暴露させた。グレリンmRNAレベルを、バイオイメージングアナライザー(Bioimaging analyzer)BAS 2000 (Fujix, Tokyo,Japan)を用いて定量した。7)n-ヘプタノイルグレリンの精製 n-ヘプタノイルグレリンを、既述の抗ラットグレリン[1-11]IgGイムノアフィニティークロマトグラフィーによるグレリン精製(文献22)と同じ方法を用いて精製した。精製の間、FLEXステーション(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて、ラットGHS-R(グレリンレセプター) (CHO-GHSR62)を安定に発現する細胞株内の細胞内カルシウム濃度における変化を測定することによりグレリン活性をアッセイした。また、グレリンC-RIAシステムを用いてサンプル中のグレリン免疫反応性をモニターした。 体重20〜25gの雄性C57BL/6Jマウスを、制御温度下(21〜23℃)および光条件下(light on 0700-1900)で、自由に餌および水を摂取させて飼育した。トリヘプタン酸グリセリル(Fluka Chemie GmbH, Buchs, Switzerland)を標準実験用飼料に5%(w/w)の濃度で混合した。マウスにトリヘプタン酸グリセリル含有飼料を与えた4日後、マウスから胃(合計1,000 mg)を回収した(n=7)。トリヘプタン酸グリセリル含有飼料の総消費はおよそ13.5 g/マウスであり、各マウスが摂取したトリヘプタン酸グリセリルは合計675mgになる。胃を細かく刻み、内因性のプロテアーゼを不活性化するために5倍体積の水の中で5分間煮沸した。次いで、胃組織溶液を1M酢酸(AcOH)-20 mM HClに調節し、Polytronミキサーでホモジナイズした。20,000rpmで30分間遠心分離した後に得た、これらの抽出物の上清を、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)で予め平衡化したSep-Pak C18エンバイロメンタル環境カートリッジ(Waters, Milford, MA)のカートリッジに充填した。10%アセトニトリル(CH3CN)/0.1%TFAで洗浄した後、ペプチド画分を60% CH3CN /0.1% TFAで溶離した。溶出液をエバポレートし、凍結乾燥した。残留物質を1M AcOHに再溶解し、1M AcOHで予め平衡化したSP-Sephadex C-25カラム(H+形態、Pharmacia, Uppsala, Sweden)に吸着させた。1M AcOH、2Mピリジンおよび2Mピリジン-AcOH (pH 5.0)での連続溶離により、3つの画分、SP-I、SP-IIおよびSP-IIIを得た。凍結乾燥したSP-III画分をSephadex G-50ファインゲル(fine gel)-ろ過カラム (1.9×145cm) (Pharmacia, Uppsala, Sweden)にかけた後、5 mLづつ分画した。各画分の一部をCHO-GHSR62細胞を用いるグレリンカルシウム-動員アッセイにかけた。Sep-Pak C18ライトカートリッジを用いて回収した、単離した活性画分(47〜51番)の半分を凍結乾燥し、100 mMリン酸緩衝液(1.0 ml、pH 7.4)に溶解し、抗ラットグレリン[1-11] IgG免疫親和性クロマトグラフィーに供した。吸着した物質を 10%CH3CN /0.1%TFA(500μl)で溶離した。溶出液をエバポレートし、次いでRP-HPLC (Symmetry 300, 3.9×150 mm, Waters, Milford, MA)により分離した。n-ヘプタノイル修飾型グレリンを、保持時間18.4分で精製し、質量分析法により分子量を決定した。精製ペプチドのアミノ酸配列をタンパク質配列決定機(494, Applied Biosystems, Foster City, CA)で解析した。8)n-ヘプタノイルグレリンの質量分光分析 Voyager DE-Pro分光機(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)を行った(文献25)。質量スペクトルは加速電圧20 kVで反射モードで記録した。60%アセトニトリル(CH3CN)および0.1%トリフルオロ酢酸 (TFA)中の飽和α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸を作業マトリックス溶液として用いた。最終精製サンプル約1pmolをマトリックス溶液と混合し、サンプルプローブ上に載せ、風乾した後、分析した。全質量スペクトルを、平均100スペクトルの陽イオンモードで得た。(2)実験および結果1)n-オクタノイルグレリンの胃含量に対する遊離脂肪酸摂取の影響 グレリンのアシル修飾型に対する遊離脂肪酸摂取の影響を試験するために、n-ヘキサン酸(C6)、n-オクタン酸(C8)、n-ラウリン酸(C12)またはn-パルミチン酸(C16)と水を与えたマウスおよび標準的な餌と水を与えた正常コントロールマウス(コントロール)の胃から胃ペプチドを抽出した。摂取後、アシル修飾型グレリンおよび総(アシル修飾型および脱アシル型)グレリンの濃度を測定した。アシル修飾型グレリンはN-RIAにより測定し、総グレリンはC-RIAにより測定した。結果を図1に示す。 AはグレリンN-RIA (n=8)により測定したアシル修飾型グレリン濃度を表す。N-RIAはアシル修飾型グレリンに非常に特異的であり、アシル化グレリンの主な形態はn-オクタノイルグレリンなので、N-RIAにより測定したアシル修飾型グレリン濃度は主にn-オクタノイルグレリン集団を反映している。BはグレリンC-RIA (n=8)により測定した総グレリン濃度を表す。総グレリン濃度は、アシル型および脱アシル型の両グレリンを含む。Cはアシル修飾型グレリン/総グレリンの比を表す。データは、胃抽出物におけるグレリン濃度の平均値±S.D.を表す(湿重量1mgから)。統計学的有意差はアスタリスクで示した。*, p<0.01; **, p<0.001 対コントロール。 図1から、n-デカノイルグレリンおよびn-ヘキサノイルグレリンの胃含量はn-オクタノイルグレリンと比較して低く、n-デカノイル修飾型グレリンおよびn-ヘキサノイル修飾型グレリンに対するN-RIAの交差反応性は、それぞれ、20%および0.3%であることが分かる。これは、N-RIAにより測定したアシル修飾型グレリンの濃度が主にn-オクタノイルグレリンを反映していることを意味する。実験期間の間(0〜14日)、脂肪酸摂取群およびコントロール群の間で、マウス体重または合計食餌消費量のいずれにも顕著な差異は観察されなかった。 マウスにn-ヘキサン酸、n-オクタン酸、n-ラウリン酸またはn-パルミチン酸を14日間与えた後、アシル修飾型グレリンおよび総グレリンの胃濃度を通常の餌および水を与えたコントロールマウスにおける濃度と比較した。アシル修飾型グレリンの胃濃度は、n-オクタン酸を与えたマウスにおいて顕著に上昇した(図1A)。胃中のアシル修飾型グレリンの平均濃度は、それぞれ、通常の飼料を与えたコントロールラットでは1,795 fmol/湿重量1mgであり(n=8)、n-オクタン酸含有飼料を与えたマウスでは2,455fmol/湿重量1mgであった (n=8)。C-RIAにより測定した総グレリン濃度には顕著な差異は観察されなかった (図1B)。すなわち、n-オクタノイルグレリン/総グレリンの比は、n-オクタン酸を与えたマウスで上昇した(図1C)。n-ヘキサン酸、n-デカン酸またはn-パルミチン酸を与えたマウスの胃におけるアシル修飾型グレリンまたは総グレリンのいずれの含量についても、顕著な変化は検出されなかった。このように、外来性の補充n-オクタン酸は、総(アシル修飾型および脱アシル型)グレリンペプチドを上昇させることなくn-オクタノイルグレリンの胃濃度を上昇させた。これらの結果は、摂取したn-オクタン酸がグレリンのアシル修飾を刺激したことを示唆している。2)アシル修飾型グレリンの胃含量に対する中〜長鎖トリアシルグリセロール(トリグリセリド)摂取の影響 経口摂取したトリアシルグリセロールは、管腔内で加水分解され、胃腸粘膜を介して遊離脂肪酸またはモノグリセリドとして吸収される。従って、摂取したトリアシルグリセロールは遊離脂肪酸原として機能しうる(文献26)。摂取したトリアシルグリセロールがグレリンのアシル修飾に用いられるか否かを試験するために、マウスに5%(w/w)のトリヘキサン酸グリセリル(C6)、トリオクタン酸グリセリル(C8)、トリデカン酸グリセリル(C10)またはトリパルミチン酸グリセリル(C16)と混合した餌を与えた。2週間後、胃ペプチドを抽出した。マウスの胃と標準的な実験用飼料(コントロール)を与えたマウスの胃におけるグレリン濃度(n=8)を示す。アシル修飾型グレリンおよび総グレリンの含量は、N-およびC-RIAにより測定した。結果を図2に示す。 AはグレリンN-RIAにより測定したアシル修飾型グレリン濃度を表す。BはグレリンC-RIAにより測定した総グレリン濃度を表す。データは胃抽出物におけるグレリン濃度の平均値±S.D.を表す(湿重量1mg)(n=5)。Cはアシル修飾型グレリン/総グレリン濃度の比を表す。データは計算した比の平均値±S.D.を表す(n=5)。統計学的有意差はアスタリスクにより示した。*, p<0.05; **, p<0.01 対コントロール。 図2は、トリオクタン酸グリセリル摂取が胃組織内のアシル-修飾型グレリンの産生を刺激することを示している(図2A)。対照的に、トリヘキサン酸グリセリルの摂取は、アシル修飾型グレリンの産生をわずかに抑制した。しかしながら、トリヘキサン酸グリセリルを与えたマウスは、n-ヘキサノイルグレリンの濃度の上昇を示した(図2A、表1)。トリデカン酸グリセリルおよびトリパルミチン酸グリセリルの摂取は、アシル修飾型グレリンの産生に影響を及ぼさなかった (図2A)。さらに、グレリン (脱アシル型グレリンおよびアシル修飾型グレリン)の総胃濃度における顕著な変化は、独立した5つのマウス群では観察できなかった(図2B)。アシル修飾型グレリン/総グレリンのモル比はトリヘキサン酸グリセリル処置マウスで顕著に減少し、トリデカン酸グリセリル処置マウスで増加した(図2C)。実験期間の間(0〜2週)、トリアシルグリセロール投与群およびコントロール群の間では体重または総食餌消費量に顕著な差異は観察されなかった。3)トリアシルグリセロール摂取後のグレリンペプチドの分子形態 トリアシルグリセロール(トリアシルグリセリン)の摂取後、グレリンペプチドがどのような分子形態で存在するかを明らかにするために、トリヘキサン酸グリセリル(C6:0-MCT)、トリオクタン酸グリセリル(C8:0-MCT)、トリデカン酸グリセリル(C10:0-MCT)を含有する飼料または標準実験用飼料(コントロール)を与えたマウスの胃抽出物をHPLCにより分画し、C-RIAによりグレリン免疫反応性を測定した。この分析により、トリヘキサン酸グリセリル、トリオクタン酸グリセリルおよびトリデカン酸グリセリルを摂取したマウスからの胃抽出物中のグレリンの分子形態が明らかになった(図3)。合成アシル修飾型グレリンペプチドについて観察された保持時間に基づくと、ピークa、d、hおよびkは脱アシル型グレリンに対応し、ピークb、f、iおよびlはn-オクタノイル(C8:0) グレリンに対応し、ピークc、g、jおよびmはn-デセノイル(decenoyl) (C10:1)グレリンに対応する。 トリオクタン酸グリセリルの摂取は、n-オクタノイルグレリンの産生を刺激した(図3のピークi)。n-オクタノイル/総グレリンのモル比は処置マウスでの60%を超える(表1)。この高いn-オクタノイルグレリン比は、通常の餌と水を与えたマウスでは観察されなかった(表1)。n-オクタノイルグレリンの胃含量は、n-オクタン酸摂取後にも上昇し、トリオクタン酸グリセリルおよびn-オクタン酸は両方ともn-オクタノイルグレリンの産生を刺激することが分った。 n-ヘキサノイルグレリンは、通常の餌を与えたマウスの胃では極めて低濃度しか検出されなかった。しかし、マウスにトリヘキサン酸グリセリルを与えた場合、n-ヘキサノイルグレリンの胃濃度は劇的に上昇した(ピークe)。これらのマウスでは、コントロールマウスにおける測定値(図3のピークbおよび表1)と比較して、n-オクタノイルグレリン濃度の顕著な減少も検出された (図3のピークfおよび表1)。n-ヘキサノイルグレリンの量はn-ヘキサン酸摂取後にも上昇した (データは示さず)。 また、マウスにトリデカン酸グリセリルを与えた場合、n-デカノイルグレリンの胃濃度は上昇した (ピークn)。 さらに、合成n-ブタノイル(C4:0)グレリン、n-ドデカノイル(C12:0)グレリンおよびn-パルミトイル(C16:0)グレリンと同じ保持時間で溶離するグレリンピークは、トリ酪酸グリセリル、トリラウリン酸グリセリルまたはトリパルミチン酸グリセリルを与えたマウスの胃抽出物では観察されなかった。これらのデータは、トリ酪酸グリセリルまたはトリパルミチン酸グリセリルはいずれもマウスにおいてグレリンに変換されなかったことを示している。表1:中鎖(C6:0〜C10:0)トリグリセリド摂取後のマウス胃における脱アシル型グレリンペプチドおよびアシル修飾型グレリンペプチドの濃度(fmol/mL) 雄性C57BL/6Jマウスに、5%(w/w) トリヘキサン酸グリセリル(C6:0-MCT)、トリオクタン酸グリセリル(C8:0-MCT)またはトリデカン酸グリセリル (C10:0-MCT)を混合した餌を14日間与えた。胃サンプル(湿重量0.2mg)由来の脱アシル型グレリン、n-ヘキサノイルグレリン(C6:0-グレリン)、n-オクタノイルグレリン(C8:0-グレリン)、n-デセノイルグレリン(C10:1-グレリン)およびn-デカノイルグレリン(C10:0-グレリン)の濃度は、HPLC分画後にグレリンC-RIAにより測定した。データは、4連サンプルの平均値±S.D.を表す。 a):p<0.001、b):p<0.05およびc):p<0.01対コントロール。(*:精製後、同じ画分にn-デセノイルグレリンとは別の少なくとも2つの未確認のグレリン分子が観察された。)4)トリオクタン酸グリセリル摂取後のアシル修飾型グレリン産生の時間経過(タイムコース) トリオクタン酸グリセリル摂取後のn-オクタノイルグレリン産生の時間依存性の変化を調べるために、12時間絶食させたマウスにトリオクタン酸グリセリル含有飼料(5%、w/w)を与えた。次いで、一定時間後のアシル修飾型グレリンおよび総グレリンの胃濃度を測定した。結果を図4に示す。 AはグレリンN-RIAにより測定したアシル修飾型グレリン含量、BはグレリンC-RIAにより測定した総グレリン含量を表す。絶食12時間後、トリオクタン酸グリセリル(5%w/w)含有飼料をマウスに与えた。矢印は開始時点(0時間)を示している。胃サンプルを、記載した時点で標準実験用飼料を与えたコントロールマウス(黒丸)およびトリオクタン酸グリセリルを与えたマウス(白丸)から単離した。各点は平均値±S.D.で示している(n=8)。統計学的有意差はアスタリスクで示した。*、p<0.05; **、p<0.01および***、p<0.001対コントロール。 図から明らかに、トリオクタン酸グリセリル摂取3時間後にアシル修飾型グレリンの胃含量が上昇していた。トリオクタン酸グリセリルを連続的に与えると、マウス胃のn-オクタノイルグレリン濃度は上昇した。濃度は徐々に上昇して摂取開始24時間後に最大レベルとなった。摂取14日後のアシル修飾型グレリンの胃濃度は、通常の餌を与えたマウスよりも顕著に高いままであった(図4A)。対照的に、これらの条件下では、C-RIAにより測定した総グレリンの胃含量に顕著な変化は観察されなかった(図4B)。5)トリオクタン酸グリセリル摂取後のグレリンmRNA発現 MCTの摂取がグレリンmRNAの発現に影響を与えるか否かを調べるために、トリオクタン酸グリセリル含有飼料の摂取の4日後にノザンブロット分析によりマウス胃mRNAを定量した。結果を図5に示す。 各レーンは全RNAを2μg含む。下方のパネルは28Sおよび18SリボソームRNA内部コントロールを示す。 図5は、トリオクタン酸グリセリル摂取後、胃グレリンmRNAの発現レベルが変化しないことを示している。また、トリオクタン酸グリセリルは総グレリン濃度を変化させることなくn-オクタノイルグレリンの胃含量を上昇させたことから、トリオクタン酸グリセリルの摂取は、グレリンペプチド合成におけるオクタノイル修飾工程のみを刺激したことになる。6)トリヘプタン酸グリセリル摂取後のグレリンペプチドの分子形態 摂取した遊離脂肪酸がグレリンのアシル修飾に直接使用される可能性を調べるために、マウスに、天然の食餌源には存在せず、哺乳動物体内でも合成されない中鎖トリグリセリド(MCT)を与えた。トリヘプタン酸グリセリルの加水分解型であるn-ヘプタン酸(C7:0)が天然では哺乳動物体内に存在しないことから、非天然の遊離脂肪酸原としてトリヘプタン酸グリセリルを選択した。なお、n-ヘプタノイルグレリンは天然グレリンからHPLCにより簡単に分離されると思われる。結果を図6に示す。 トリヘプタン酸グリセリルで処置したマウスの胃抽出物をHPLCにより分画した(上方パネル)。各画分(胃組織0.2mg当量)におけるグレリン濃度をC-RIA(中央パネル)およびN-RIA (下方パネル)によりモニターした。棒グラフで表すように、グレリン免疫反応性は、C-RIAにより3つの主なピーク(中央パネル、ピークa、bおよびc)に分離し、N-RIAにより2つの主なピーク(ピークdおよびe)に分離した。ピークbおよびdはトリヘプタン酸グリセリルの摂取後にのみ観察された。 検出された幾つかの免疫反応性ピーク中、単離されたグレリンペプチドの保持時間に相当するピークaおよびピークcは、それぞれ、脱アシル型グレリンおよびn-オクタノイルグレリンに対応していた(図6)。ピークbのグレリン免疫反応性はトリヘプタン酸グリセリルを与えたマウスでのみ観察され、試験した他の遊離脂肪酸またはトリグリセリド(n-ヘキサン酸、n-オクタン酸、n-ラウリン酸、n-パルミチン酸または対応するトリグリセリド形)のいずれを与えたマウスでも観察されなかった。ピークbの保持時間は、n-ヘキサノイルグレリンとn-オクタノイルグレリンの間であった。 グレリンN-RIAにより測定したHPLC画分は、ピークdおよびeで見いだされた2つのアシル修飾型グレリンの免疫反応性を示した。HPLCにおける合成n-オクタノイルグレリンの保持時間に基づき、ピークeはn-オクタノイルグレリンに対応していた。ピークdの保持時間は、上記のC-RIA分析におけるピークbの保持時間と同一であった。N-RIAにより測定したピークdの濃度 (74.9 fmol/チューブ)は、C-RIAにより測定したピークbから推測される濃度(466.3fmol/チューブ)よりも低い。これらのデータは、ピークd(およびピークb)の免疫反応性グレリンが恐らくn-オクタノイル基で修飾されていないことを示している。上記の知見に基づくと、免疫反応性のピークbおよびdは、おそらくn-ヘプタノイルグレリンである。同じグレリン免疫反応性のピーク(ピークbおよびd)を、n-ヘプタン酸を与えたマウスの胃抽出物からも検出した(データは示さず)。7)n−ヘプタノイルグレリンの精製 摂取したトリヘプタン酸グリセリルがグレリンのn-ヘプタノイル修飾に直接用いられるか否かを確認するために、トリヘプタン酸グリセリル含有飼料を4日間与えたマウスの胃組織からアシル修飾型グレリンを精製した。抗ラットグレリンイムノアフィニティカラムから溶出したサンプルをHPLCに供した。結果を図7に示す。 ピークaはトリヘプタン酸グリセリルで処置したマウス由来のサンプルにおいてのみ観察された。HPLCの保持時間およびMALDI-TOF-MS分析に基づくと、ピークbはn-オクタノイルグレリンに対応していた。矢印はそれぞれ、n-ヘキサノイル(I)、n-オクタノイル(II)およびn-デカノイル(III)グレリンの溶出位置を表す。 処置マウスの胃由来のグレリンペプチドの最終精製により、図7のピークbをHPLCにおける保持時間から、n-オクタノイルグレリンと同定した。保持時間18.4分で溶離する他のピーク(図7のピークa)は、トリヘプタン酸グリセリル摂取後にのみ観察された。このピークは、n-ヘキサノイルグレリンとn-オクタノイルグレリンの間の保持時間で溶出した。このピークaのペプチドを精製し、アミノ酸配列決定分析および質量分析にかけた。 HPLCのピークa (図7)から得た精製ペプチドは28アミノ酸からなり、マウスグレリンのアミノ酸配列と同一であった。図7のピークaから精製したグレリン様ペプチドのマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析に供した。結果を図8Aに示す。 結果は、質量が、3131.0〜3477.0 (m/z)の範囲に及ぶことを示している。陽イオンモード(平均[M+H]+:3301.9)で得た平均100質量スペクトルから、ピークaペプチドの分子量は3300.9であると計算した。B.n-ヘプタノイル(C7:0)グレリンの構造。n-ヘプタノイルグレリンの分子量計算値は3300.86である。 Bはn-ヘプタノイル(C7:0)グレリンの構造を示す。MALDI-TOF-MSのm/z値から計算したペプチドの推定分子量は3300.9であった。Ser3残基でのグレリンのn-ヘプタノイル基における修飾は、理論上約3300.86の分子量を生じる(図8B)。これは、MALDI-TOF-MSで測定した分子量とほぼ同じである。従って、ピークaにおける精製ペプチドはn-ヘプタノイルグレリンであると結論された。最終精製工程では、さらなるピークは観察されなかったが、これは摂取したトリヘプタン酸グリセリルから加水分解されたn-ヘプタノイル基がグレリンのSer3残基に直接転移され得ることを示している。8)トリヘプタン酸グリセリル摂取後の循環グレリンペプチドの分子形態 トリヘプタン酸グリセリル摂取後にマウスの胃で合成された非天然型n-ヘプタノイルグレリンが循環中に分泌されているか否かを試験するために、トリヘプタン酸グリセリル含有飼料を4日間与えたマウスの血漿由来のアシル修飾型グレリンの分子形態を決定した 。即ち、標準飼料を与えたコントロールマウス(A)およびトリヘプタン酸グリセリル処置マウス(B)から回収した血漿サンプルをHPLCにより分画し、C-RIAによりグレリン免疫反応性を測定した。結果を図9に示す。 矢印は脱アシル型グレリン(I)およびn-オクタノイルグレリン(II)の溶出位置を表す。血漿グレリンの免疫反応性は棒グラフで表した。 コントロールマウスにおける血漿グレリン免疫反応性は2つの主ピーク(図9Aにおけるピークaおよびb)と1つの小さいピーク(図9Aのピークc)に分離した。トリヘプタン酸グリセリル処置マウスにおける血漿グレリン免疫反応性は2つの主ピーク(図9Bにおけるピークdおよびe)と2つの小さいピーク(図9Bのピークfおよびg)に分離した。 図中、ピークbおよびeは脱オクタノイルグレリンに対応し、ピークcおよびgはn-オクタノイルグレリンに対応する。新たに現れたピークfはトリペプタン酸グリセリル処置の後にマウス胃で観察されたn−ヘプタノイルグレリンと同一の保持時間を示した。 ピークaおよびdは、プロテアーゼ消化により生じたグレリンペプチドのC末端部分であると考えられるが、正確な分子形態は未だ決定されていない。 18.0〜18.5分に溶出するピークfは、トリヘプタン酸グリセリル処置マウス由来のサンプルにおいてのみ観察された。この分析により、トリヘプタン酸グリセリルを与えたマウスの胃から精製したn-ヘプタノイルグレリンの保持時間と同じ保持時間を有する血漿グレリン分子が存在することが明らかになった(図9Bにおけるピークf)。これらの結果は、n-ヘプタノイルグレリンは、トリヘプタン酸グリセリル摂取によりインビボで人工的に製造された非天然形グレリンであるが、確かに循環中に放出されることを示している。9)n-ヘプタノイルグレリンの活性 グレリンカルシウム動員アッセイを用いて、n-ヘプタノイルグレリンのGHS-R (グレリンレセプター)活性を刺激する活性を試験した。 GHS-R-発現細胞でのn-オクタノイルグレリン(黒丸)、n-ヘプタノイルグレリン(白丸)およびn-ヘキサノイルグレリン(黒三角)により誘導される蛍光のタイムコースを示す。ペプチド(1×10-8M)は矢印により示される時点で加えた。結果を図10に示す。 n-ヘプタノイルグレリンは、GHS-R-発現細胞における[Ca2+]iの上昇を誘発し、これらの[Ca2+]i変化のタイムコースは、n-オクタノイルグレリンにより誘発される変化と類似していた(図10)。反応曲線の曲線下面積(AUC)から計算されるn-ヘプタノイルグレリンのGHS-Rに対するアゴニスト活性は、およそn-オクタノイルグレリンの約60%であるが、値はn-ヘキサノイルグレリンの値より3倍高い(図10)。従って、n-ヘプタノイルグレリンはGHS-R刺激活性を有する。(3)アシル化のメカニズム 実験の結果、摂取した中鎖脂肪酸(MCFA)および中鎖トリアシルグリセリド(MCT)が、総グレリンmRNA発現および総ペプチド濃度を上昇させることなくグレリンのアシル修飾を刺激することが明らかになった。これは、外来性MCFAおよびMCTが、グレリンのアシル修飾に直接用いられることを示している。また、合成n-ヘプタン酸の摂取により、生体内で非天然のn-ヘプタノイルグレリンが産生された。この結果は、吸収されたMCFAがグレリンのアシル化修飾における脂肪酸の直接的な供給原として働きうることを裏付けるものである。 本発明はまたグレリンのアシル修飾の分子メカニズムおよび該修飾を担う酵素の同定への道を拓くものである。実験結果はマウス内で機能するグレリンser O-アシルトランスフェラーゼは、n-ヘキサノイル、n-ヘプタノイル、n-オクタノイルおよびn-デカノイルのグレリンのアシル修飾を触媒しうることを示唆している。この種の酵素は、トリパルミチン酸グリセリル、長鎖トリアシルグリセリド(LCT)およびトリ酪酸グリセリル、短鎖トリアシルグリセリド (SCT)摂取後にはグレリンのアシル修飾を触媒しなかった。これは、マウスにおけるグレリンのアシル修飾を触媒する酵素が、グレリンのアシル修飾においてMCT(MCFA)に対して親和性を有する中鎖(C6:0〜C10:0)アシルトランスフェラーゼでありうることを示すものである。 大多数のアシルトランスフェラーゼは、アシル-CoAをアシル修飾の脂質源として使用するので(文献27, 文献28)、本発明は、外来性の、または代謝的に産生されたMCFAのうちの一部が中鎖アシル-CoAへと変換され、グレリンのアシル修飾に用いられる可能性を示唆している。実施例2:ヒトにおける試験(1)中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)投与の、ヒト修飾型グレリン濃度への影響1)材料および方法 経腸栄養剤として、ラコール(大塚製薬株式会社)を用いた。ラコール中のトリカプリリン含有量1500mg/200mlである(トリカプリリンは、グリセリンとオクタン酸(炭素数(C)8)からなる中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)である)。 ラコールを、低体重児(BMI 10)に対して、1日当たり900ml(トリカプリリンとして6.75g)を18日間投与し、投与前および投与18日目に血中の修飾型グレリン(アシルグレリン)含量を測定した。血中の修飾型グレリン含量は、実施例1と同様に、グレリンC−RIAおよびN−RIAにより測定した。2)結果 血中の修飾型グレリン(アシルグレリン)含量(fmol/mL)の測定結果を表2に示す。表2より明らかなように、低体重児に対して、MCT6.75gを含む経腸栄養剤を、18日間投与することにより、血中の修飾型グレリン含量が上昇した。 活性型の修飾型グレリンの生理学的機能の一つに成長ホルモンの放出がある。成長ホルモンは細胞の増殖・分裂、生体の成長、組織の新陳代謝などに深く関わっている。MCTの投与により低体重児の成長を促す効果があることが示唆された。(2)中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)含有食用油脂の摂取による筋力への影響1)材料および方法 食用油脂として、アクターM−2(理研ビタミン株式会社)を用いた。アクターM−2中の中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)(オクタン酸(炭素数(C)8))含有量は99.99%である。 5名の健康な成人男女に、「アクターM−2」を1回5gずつ、朝食時と夕食時の1日2回(計10g)摂取させ、摂取前、摂取7日目、14日目に、筋力を評価した。筋力は、握力計(株式会社タニタ)を用いて、利き手の握力を測定した。測定は約1分の間隔をおいて2回実施し、その平均値を個別の値とした。2)結果(N=5、平均±標準偏差) 結果を図11に示す。図11より明らかなように、特段の運動トレーニングを負荷することなく、オクタン酸高含有のMCTを含む食用油脂を摂取することにより、握力(筋力)が増加した。(3)中鎖脂肪酸トリグリセリド含有食用油脂の摂取による皮膚への影響1)材料および方法 食用油脂として、アクターM−2(理研ビタミン株式会社)を用いた。アクターM−2中の中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)(オクタン酸(炭素数(C)8))含有量は99.99%である。 5名の健康な成人男女に、「アクターM−2」を1回5gずつ、朝食時と夕食時の1日2回(計10g)摂取させ、摂取前、摂取7日目、14日目に、顔の皮膚(右頬、左頬)および内腕の皮膚について、皮膚バリア機能評価した。皮膚バリア機能は、21℃60%RH環境下にて、水分含量と水分蒸散量を測定して評価した。水分含量は、Corneometer CM825(Courage+Khazaka Electronic Gmbh社)により、水分蒸散量は、Tewameter TM210(Courage+Khazaka Electronic Gmbh社)により測定した。測定は、顔の皮膚は近接した5箇所にて実施し、その平均値を個別の値とし、内腕の皮膚は、左上腕部内側の近接した2箇所にて実施し、その平均値を個別の値とした。2)結果(N=5、平均±標準偏差) 顔の皮膚の測定結果を、図12〜15に、内腕の皮膚の測定結果を図16に示す。オクタン酸高含有のMCTを含む食用油脂を摂取することにより、水分蒸散量は低下し、皮膚水分含量は上昇した。これは、皮膚のバリア機能が向上し、水分の蒸散を抑えて必要な水分を保持していることを示唆している。文献リスト1. Kojima M, Hosoda H, Date Y, Nakazato M, Matsuo H, Kangawa K. Ghrelin is a growth-hormone-releasing acylated peptide from stomach. Nature 1999;402(6762):656-60.2. Hosoda H, Kojima M, Matsuo H, Kangawa K. Ghrelin and des-acyl ghrelin: two major forms of rat ghrelin peptide in gastrointestinal tissue. Biochem Biophys Res Commun 2000;279(3):909-13.3. Date Y, Kojima M, Hosoda H, Sawaguchi A, Mondal MS, Suganuma T, Matsukura S, Kangawa K, Nakazato M. Ghrelin, a novel growth hormone-releasing acylated peptide, is synthesized in a distinct endocrine cell type in the gastrointestinal tracts of rats and humans. Endocrinology 2000;141(11):4255-61.4. Date Y, Nakazato M, Hashiguchi S, Dezaki K, Mondal MS, Hosoda H, Kojima M, Kangawa K, Arima T, Matsuo H, Yada T, Matsukura S. Ghrelin is present in pancreatic alpha-cells of humans and rats and stimulates insulin secretion. Diabetes 2002;51(1):124-9.5. Mori K, Yoshimoto A, Takaya K, Hosoda K, Ariyasu H, Yahata K, Mukoyama M, Sugawara A, Hosoda H, Kojima M, Kangawa K, Nakao K. Kidney produces a novel acylated peptide, ghrelin. FEBS Lett 2000;486(3):213-6.6. Galas L, Chartrel N, Kojima M, Kangawa K, Vaudry H. Immunohistochemical localization and biochemical characterization of ghrelin in the brain and stomach of the frog Rana esculenta. J Comp Neurol 2002;450(1):34-44.7. Gnanapavan S, Kola B, Bustin SA, Morris DG, McGee P, Fairclough P, Bhattacharya S, Carpenter R, Grossman AB, Korbonits M. The tissue distribution of the mRNA of ghrelin and subtypes of its receptor, GHS-R, in humans. J Clin Endocrinol Metab 2002;87(6):2988.8. Arvat E, Di Vito L, Broglio F, Papotti M, Muccioli G, Dieguez C, Casanueva FF, Deghenghi R, Camanni F, Ghigo E. Preliminary evidence that Ghrelin, the natural GH secretagogue (GHS)-receptor ligand, strongly stimulates GH secretion in humans. J Endocrinol Invest 2000;23(8):493-5.9. Peino R, Baldelli R, Rodriguez-Garcia J, Rodriguez-Segade S, Kojima M, Kangawa K, Arvat E, Ghigo E, Dieguez C, Casanueva FF. Ghrelin-induced growth hormone secretion in humans. Eur J Endocrinol 2000;143(6):R11-4.10. Takaya K, Ariyasu H, Kanamoto N, Iwakura H, Yoshimoto A, Harada M, Mori K, Komatsu Y, Usui T, Shimatsu A, Ogawa Y, Hosoda K, Akamizu T, Kojima M, Kangawa K, Nakao K. Ghrelin strongly stimulates growth hormone release in humans. J Clin Endocrinol Metab 2000;85(12):4908-11.11. Nakazato M, Murakami N, Date Y, Kojima M, Matsuo H, Kangawa K, Matsukura S. A role for ghrelin in the central regulation of feeding. Nature 2001;409(6817):194-8.12. Shintani M, Ogawa Y, Ebihara K, Aizawa-Abe M, Miyanaga F, Takaya K, Hayashi T, Inoue G, Hosoda K, Kojima M, Kangawa K, Nakao K. Ghrelin, an endogenous growth hormone secretagogue, is a novel orexigenic peptide that antagonizes leptin action through the activation of hypothalamic neuropeptide Y/Y1 receptor pathway. Diabetes 2001;50(2):227-32.13. Tschop M, Smiley DL, Heiman ML. Ghrelin induces adiposity in rodents. Nature 2000;407(6806):908-13.14. Wren AM, Small CJ, Abbott CR, Dhillo WS, Seal LJ, Cohen MA, Batterham RL, Taheri S, Stanley SA, Ghatei MA, Bloom SR. Ghrelin causes hyperphagia and obesity in rats. Diabetes 2001;50(11):2540-7.15. Nagaya N, Uematsu M, Kojima M, Ikeda Y, Yoshihara F, Shimizu W, Hosoda H, Hirota Y, Ishida H, Mori H, Kangawa K. Chronic administration of ghrelin improves left ventricular dysfunction and attenuates development of cardiac cachexia in rats with heart failure. Circulation 2001;104(12):1430-5.16. Nagaya N, Kangawa K. Ghrelin improves left ventricular dysfunction and cardiac cachexia in heart failure. Curr Opin Pharmacol 2003;3(2):146-51.17. Enomoto M, Nagaya N, Uematsu M, Okumura H, Nakagawa E, Ono F, Hosoda H, Oya H, Kojima M, Kanmatsuse K, Kangawa K. Cardiovascular and hormonal effects of subcutaneous administration of ghrelin, a novel growth hormone-releasing peptide, in healthy humans. Clin Sci (Lond) 2003;105(4):431-5.18. Masuda Y, Tanaka T, Inomata N, Ohnuma N, Tanaka S, Itoh Z, Hosoda H, Kojima M, Kangawa K. Ghrelin stimulates gastric acid secretion and motility in rats. Biochem Biophys Res Commun 2000;276(3):905-8.19. Hosoda H, Kojima M, Matsuo H, Kangawa K. Purification and characterization of rat des-Gln14-Ghrelin, a second endogenous ligand for the growth hormone secretagogue receptor. J Biol Chem 2000;275(29):21995-2000.20. Hosoda H, Kojima M, Mizushima T, Shimizu S, Kangawa K. Structural divergence of human ghrelin. Identification of multiple ghrelin-derived molecules produced by post-translational processing. J Biol Chem 2003;278(1):64-70.21. Kaiya H, Kojima M, Hosoda H, Koda A, Yamamoto K, Kitajima Y, Matsumoto M, Minamitake Y, Kikuyama S, Kangawa K. Bullfrog ghrelin is modified by n-octanoic acid at its third threonine residue. J Biol Chem 2001;276(44):40441-8.22. Kaiya H, Van Der Geyten S, Kojima M, Hosoda H, Kitajima Y, Matsumoto M, Geelissen S, Darras VM, Kangawa K. Chicken ghrelin: purification, cDNA cloning, and biological activity. Endocrinology 2002;143(9):3454-63.23. Matsumoto M, Hosoda H, Kitajima Y, Morozumi N, Minamitake Y, Tanaka S, Matsuo H, Kojima M, Hayashi Y, Kangawa K. Structure-activity relationship of ghrelin: pharmacological study of ghrelin peptides. Biochem Biophys Res Commun 2001;287(1):142-6.24. Chomczynski P, Sacchi N. Single-step method of RNA isolation by acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction. Anal Biochem 1987;162(1):156-9.25. Hillenkamp F, Karas M. Mass spectrometry of peptides and proteins by matrix-assisted ultraviolet laser desorption/ionization. Methods Enzymol 1990;193:280-95.26. Greenberger NJ, Skillman TG. Medium-chain triglycerides. N Engl J Med 1969;280(19):1045-58.27. Coleman RA, Lewin TM, Muoio DM. Physiological and nutritional regulation of enzymes of triacylglycerol synthesis. Annu Rev Nutr 2000;20:77-103.28. Eaton S, Bartlett K, Pourfarzam M. Mammalian mitochondrial beta-oxidation. Biochem J 1996;320 ( Pt 2):345-57. カプリル酸、ペラルゴン酸およびカプリン酸からなる群から少なくとも1つ選択される脂肪酸、その塩またはそのトリグリセリドを有効成分として含み、カプロン酸、その塩またはそのトリグリセリドを含まない、活性型グレリン形成促進剤であって、該活性型グレリン形成促進剤は食品ではなく、散剤、錠剤、顆粒剤、液剤またはカプセル剤である、活性型グレリン形成促進剤。 該脂肪酸のトリグリセリドが、カプリル酸、ペラルゴン酸およびカプリン酸からなる群より選択される少なくとも1つの脂肪酸で構成され、カプリル酸、ペラルゴン酸およびカプリン酸のいずれでもない脂肪酸を含まない、請求項1に記載の剤。 カプリル酸、ペラルゴン酸およびカプリン酸からなる群より選択される少なくとも1つの脂肪酸の含量、または該脂肪酸の塩またはそのトリグリセリドに含まれる脂肪酸の含量が、0.0001mg〜1000mgである、請求項1〜2のいずれかに記載の剤。 さらに、賦形剤、溶媒、担体および/または保存剤を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の剤。 賦形剤、溶媒、担体および/または保存剤にカプリル酸、ペラルゴン酸およびカプリン酸からなる群から少なくとも1つ選択される脂肪酸、その塩またはそのトリグリセリドを配合すること、および該配合物を製剤化することを含む、活性型グレリン形成促進剤(食品を除く)の製造方法であって、カプロン酸、その塩またはそのトリグリセリドを配合しないことを含む、方法。 カプリル酸、ペラルゴン酸およびカプリン酸からなる群から少なくとも1つ選択される脂肪酸、その塩またはそのトリグリセリドを有効成分として含み、カプロン酸、その塩またはそのトリグリセリドを含まない組成物を摂取することを特徴とする非治療的な活性型グレリン形成促進方法。