タイトル: | 公開特許公報(A)_医療用培養細胞の調製方法 |
出願番号: | 2006325957 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 5/06 |
石橋 賢一 垣立 浩 宮本 直子 大風 元 JP 2008136420 公開特許公報(A) 20080619 2006325957 20061201 医療用培養細胞の調製方法 テルモ株式会社 000109543 石橋 賢一 垣立 浩 宮本 直子 大風 元 C12N 5/06 20060101AFI20080523BHJP JPC12N5/00 E 6 2 OL 7 4B065 4B065AA90X 4B065BB25 4B065BD12 4B065BD50 本発明は疾病、傷病の治療に用いられる培養細胞から生体への移植を行う際に、取り除かれるべき夾雑物の除去方法に関する。 狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患では、心筋組織に十分な酸素が行き渡らなくなり、この状態が長時間続くと心筋組織が壊死してしまう。成人の心筋細胞は自己複製能に乏しいため、心筋組織は一度壊死すると再生することはなく、心不全に陥ってしまう。心不全の治療方法としては、左心補助人工心臓を装着するか、最終的には心臓移植を受けるという方法しかないのが現状である。このような中で新たな治療方法として研究が進められているのが、心筋組織への細胞移植である。心筋組織へ細胞が移植されると、心機能の低下が防止される。 細胞移植に利用される細胞としては、これまでに、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、ES細胞、骨髄由来の細胞等が報告されている。例えば、特許文献1には、動物の心筋組織中への骨格筋芽細胞又は心筋細胞の導入による、動物における安定な心筋細胞性移植体の形成において使用するための、生存可能な骨格筋芽細胞又は生存可能な心筋細胞を含む細胞組成物について記載されている。 骨格筋芽細胞の移植により心機能の低下が防止されるメカニズムについてはまだ明らかではないが、概要としては、移植された骨格筋芽細胞が心筋内で筋線維を形成し、その弾力性により周囲の正常な心筋の動きを機械的に助けて心機能の更なる低下を防ぐこと、または移植された骨格筋芽細胞がVEGF(血管内皮増殖因子)などのサイトカインを分泌し、その効果によるものなどが考えられている。 この骨格筋芽細胞は骨格筋に含まれ、骨格筋からの分離後に培養を行うことで細胞数を確保し、心筋組織の壊死部分に移植される。特許第3647866号公報 ところで、骨格筋から得られた骨格筋芽細胞を培養すると、培養に用いられる培地には一般にウシ胎仔由来血清成分が含まれており、ウシ胎仔由来血清成分にはヒト感染性のウイルスなどが含まれているおそれがあるので、そのまま移植に利用することはできない。すなわち、移植用骨格筋芽細胞の製造工程由来夾雑物として最終製品への残存が危惧されるものとして、細胞培養工程で用いた培地の成分であるウシ胎仔由来血清成分がある。ウシ胎仔由来血清成分は、ヒト感染性のウイルス混入のリスクの低減のために、最終製品から最も除去する必要がある原材料である。 従来、治療に用いられる細胞を製造する場合、最終工程である容器への充填工程の前に、ウシ胎仔由来血清成分を除去するための洗浄が行われていた。製造途中では、凍結保存され、その細胞を融解して、最終製品とするため、融解した細胞は不安定な状態であり、そのような細胞に対して洗浄を何度もおこなうと、破裂しやすく、十分な細胞数を確保できないことがあった。また、回収細胞数を確保するために洗浄回数を減らすと、ウシ胎仔由来血清成分が残存するおそれがあった。 従って、本発明は骨格筋芽細胞等、ヒト及び動物の疾病、傷病の治療に用いる細胞を生体へ移植する際に、製造工程由来の夾雑物が残存しない最終製品を得るための夾雑物の除去方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、ヒト及び動物の疾病、傷病の治療に用いる培養細胞から、ウシ胎仔由来血清の製造工程由来夾雑物を除去するにあたって、この手段として行う洗浄工程を凍結保存の前に設け、以降ウシ胎仔由来血清を含まない原材料、培地、凍結保存液、細胞懸濁液などのみを用いる培養細胞の調製方法を見出し、本発明を完成させた。 本発明者らの検討によれば、従来の凍結保存後の融解した細胞を洗浄するのではなく、凍結保存前に細胞を洗浄することで、細胞を安定なまま、十分な洗浄がおこなえることが判明した。洗浄法は、細胞にヒトアルブミンを含むHanks'平衡塩液を加え混和し、細胞を浮遊させた状態で攪拌洗浄を行い、遠心処理によりウシ胎仔血清由来成分を含む上清を廃棄することにより行った。洗浄液にヒトアルブミンを添加する目的は、浮遊した細胞の凝集を回避する懸濁化剤の役割を意図したものであり、ヒトアルブミンを含有することにより細胞洗浄を効果的に行うことにある。洗浄液に添加するヒトアルブミンは、含有する濃度が0.1%未満であると、細胞凝集の回避が十分に行えない可能性があり、反対に含有する濃度が5.0%を超える場合においては、ヒトアルブミンが膠質浸透圧の調節機能を有することから、細胞に対して高張となり細胞内の水分が細胞外に移動することによる細胞機能への障害が懸念されるため好ましくなかった。従って、洗浄液に添加するヒトアルブミン濃度を0.1〜5.0%とした。なお、ヒトアルブミンを含有する洗浄液として利用可能な処方には、本発明で示したHanks'平衡塩液の他、生理食塩液、リンゲル液など体液の浸透圧と等しい等張液があげられる。 洗浄以降においては、原材料、培地、凍結保存溶液、細胞懸濁液などとして、ウシ胎仔由来血清成分を含まないもののみを用いることが望ましく、例えば10%DMSO等を含有するMCDB培地からなる凍結保存液、0.5%ヒトアルブミン等を含有する総合電解質液からなる細胞懸濁液を用いることが望ましい。 本発明において凍結保存前に行われる洗浄とは、従来から培地の置換目的で行なわれている凍結保存液を用いた1〜2回程度のすすぎによる洗浄操作とは異なり、洗浄液に置換懸濁し、この細胞に混和撹拌操作を加えることにより洗浄を行うものをいう。この混和撹拌操作は、ピペッティングなどにより細胞に対して比較的強い力が加えられるものである。そして通常、次いで、前述した細胞を洗浄液から凍結保存液に置換のためのすすぎ洗浄を行なう。なお、撹拌操作は、1回の洗浄あたり5回程度のピペッティングによる撹拌であることがウシ胎仔由来血清成分の効率的な除去と細胞の損傷防止の観点から望ましい。また洗浄回数は、洗浄液を交換して、2回以上行うことがウシ胎仔由来血清成分の除去に有効であるが、一方、10回を超えて洗浄しても、洗浄効果は上がらず、むしろ細胞へのストレスが大きくなることが懸念されるため、10回以下とすることが好ましい。特に、3回以上8回以下とすることが好ましい。 なお、本発明において、凍結保存後の融解した細胞に対しては、凍結保存液の置換目的で、2回程度の洗浄をおこなうことを妨げない。本発明は、この洗浄後の製造工程においてウシ胎仔由来血清成分を含まない原材料を用いることにより、調製された培養細胞を処理して得られる最終製品中に残るウシ胎仔由来血清成分を除去することを可能とした。 従って、本発明は以下の(1)〜(6)に示されるものである。(1) ウシ胎仔由来血清を含有する培地で培養後凍結保存を行い、用時融解して使用に供する培養細胞を調製するにあたり、凍結保存の前にヒトアルブミンを含む洗浄液で培養細胞を洗浄することにより、前記ウシ胎仔由来血清を除去することを特徴とした培養細胞の調製方法。(2) 前記洗浄液は、ヒトアルブミンを含むHanks'平衡塩液など体液の浸透圧と等しい等張液を用いた上記(1)に記載の培養細胞の調製方法。(3) 前記洗浄液中のヒトアルブミン濃度は、0.1〜5.0%である上記(1)、(2)に記載の培養細胞の調製方法。(4) 前記洗浄において、繰り返し2回以上行うことを特徴とした培養細胞の調製方法。(5) 前記洗浄以降においては、ウシ胎仔由来血清を含まない原材料、培地、凍結保存液、細胞懸濁液などのみを用いる上記(1)〜(4)に記載の培養細胞の調製方法。(6) 前記培養細胞は、疾病、傷病の治療に用いるものである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の培養細胞の調製方法。 本発明の培養細胞調製法によれば、細胞を安定なまま、且つウシ胎仔血清由来成分であるウシ血清アルブミン(BSA)を効果的に除去可能であることが確認され、安全でしかも洗浄によるダメージも極めて少ない培養細胞を調製することができる。また、「生物学的製剤基準」(平成16年3月30日付 厚生労働省告示第155号)医薬品各条に記載される医薬品のうち、培養液に細胞増殖因子として異種血清又はその分画を用いた製法を適用する医薬品に対する基準「最終バルク中の血清アルブミン含量が1用量あたり50ng未満となるよう、途中の操作を加えなければならない」に照らし合わせたとき、洗浄操作を凍結保存前とすることで、細胞を安定なまま、且つウシ胎仔血清由来成分であるウシ血清アルブミン(BSA)を検出限界以下(1ng/mL以下)まで除去可能であることが確認され、安全でしかも洗浄によるダメージも極めて少ない培養細胞を調製することができることが明らかとなった。1.従来の洗浄方法による細胞洗浄効果の確認 20%ウシ胎仔血清を含む培養培地で培養を行ない、凍結保存したヒト骨格筋芽細胞3検体を用いて以下の確認を行った。概要を図1に示す。液体窒素中から取り出したヒト骨格筋芽細胞を37℃で急速融解した。融解した細胞1.2×108個あたり、0.5%ヒトアルブミンを含むHanks'平衡塩液120mLを加え混和した後、ピペッティング操作により細胞を十分に拡散させた。240×gで7分間遠心し、ウシ胎仔由来血清成分を含む上清を0.5mL採取した後に残った上清を除去する操作を4回繰り返し行った。採取した各上清について、ウシ胎仔由来血清成分残留の指標としてウシ血清アルブミン(以下、BSA:Bovine Serum Albumin)濃度を測定した。BSA濃度の測定は、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)法とし、測定キットにはBovine Serum Albumin Assay(Cygnus Technologies, Inc.製)を用いた。このキットでの測定方法は以下の通り。各上清からそれぞれ50μLを検体としてサンプリングし、抗BSA抗体を固定したウェルに入れ、さらにHRP(Horse Radish Peroxidase)標識抗BSA抗体を100μL入れ1時間反応させた。洗浄後、TMB(Tetramethyl Benzidine)100μLを加えて発色させ、30分後に発色停止液(0.5N硫酸)100μLを加えた後、450/630nmの吸光度を測定し、検量線より各検体のBSA濃度を算出した。この濃度に上清液量を積算することでBSA量を算出した。 いずれの検体においても、洗浄回数を重ねることでBSA量が減少したが、検出されなくなることはなく、さらに低減させるためには洗浄を繰り返す必要が示された。しかも、凍結融解後の細胞への遠心洗浄を繰り返すと、表2に示すように細胞数の減少が認められた。 この遠心洗浄による細胞数減少の原因は明らかでないが、凍結融解直後の細胞は、遠心洗浄の物理的ストレスへの耐性が弱い可能性が考えられた。このため、凍結操作前に細胞の洗浄を行うことで細胞へのダメージを軽減し、且つ洗浄効果が得られる方法について検討を行った。2.新しい洗浄方法による細胞洗浄効果の確認20%ウシ胎仔血清を含む培養培地で培養を行ったヒト骨格筋芽細胞3検体を用い以下の確認を行った。概要を図2に示す。 500cm2の組織培養フラスコから培養培地を除去した後、Hanks'平衡塩液50mLでリンスし、細胞解離剤(trypsin様蛋白質分解酵素)50mLを加え37℃でインキュベートした。この操作で剥離した細胞を遠沈管に移し遠心後、上清を除去した。一般には、ここで回収した細胞を凍結保存する際、残存する細胞解離剤を凍結保存液に置換する目的で、同液による細胞のリンスを行う。本発明では、この10%DMSOを含有するMCDB培地等からなる凍結保存液による細胞リンスの操作に入る前に、ウシ胎仔由来血清成分を除去する目的で、得られた細胞1×107個あたり、0.5%ヒトアルブミンを含むHanks'平衡塩液10mLを加え混和させ、ピペッティング操作により細胞を十分に拡散させた後、240×gで7分間遠心し、ウシ胎仔由来血清成分を含む上清から0.5mL採取した後に残った上清を除去する操作を6回繰り返し行った。採取した各上清について、1の方法と同様にBSA量を算出した。 従来の洗浄方法に比べ、新しい洗浄方法では、洗浄操作の前に行うHanks'平衡塩液によるリンスと細胞解離剤による洗浄効果が加わるため、表3に示すように1回目洗浄の段階でBSA量はすでに少なく、さらに洗浄回数を増すことでウシ胎仔血清由来の残留物が低減されていることが確認された。また表4に示すように、洗浄前後における細胞数に変化は認められなかった。 以上、ウシ胎仔血清由来成分の残留量を低減させるためには、洗浄回数を増やすことが必要であったが、従来の洗浄方法である凍結融解直後の細胞では、遠心洗浄の繰り返しにより細胞数が減少する結果であった。そこで新しい洗浄方法として、細胞の洗浄を凍結保存前に行った結果、洗浄回数を増やしても細胞数が確保され、且つウシ胎仔由来血清成分の残留量を検出不可能となるまで低減させることが可能であった。従来の洗浄方法による洗浄操作のフロー図新しい洗浄方法による洗浄操作のフロー図ウシ胎仔由来血清を含有する培地で培養後凍結保存を行い、用時融解して使用に供する培養細胞を調製するにあたり、凍結保存の前にヒトアルブミンを含む洗浄液で培養細胞を洗浄することにより、前記ウシ胎仔由来血清を除去することを特徴とした培養細胞の調製方法。前記洗浄液は、ヒトアルブミンを含むHanks'平衡塩液など体液の浸透圧と等しい等張液を用いた請求項1に記載の培養細胞の調製方法。前記洗浄液中のヒトアルブミン濃度は、0.1〜5.0%である請求項1または2に記載の培養細胞の調製方法。前記洗浄において、繰り返し2回以上行うことを特徴とした培養細胞の調製方法。前記洗浄以降においては、ウシ胎仔由来血清を含まない原材料、培地、凍結保存溶液、細胞懸濁液などのみを用いる請求項1〜4に記載の培養細胞の調製方法。前記培養細胞は、疾病、傷病の治療に用いるものである請求項1〜5のいずれかに記載の培養細胞の調製方法。 【課題】骨格筋芽細胞等、ヒト及び動物の疾病、傷病の治療に用いる細胞を生体へ移植する際に、製造工程由来の夾雑物が残存しない最終製品を得るための夾雑物の除去方法。【解決手段】 ウシ胎仔由来血清を含有する培地で培養後凍結保存を行い用時融解して使用に供する培養細胞を調製するにあたり、凍結保存の前にヒトアルブミンを含む洗浄液で培養細胞を洗浄する事により、前記ウシ胎仔由来血清を除去する培養細胞の調製方法。前記洗浄液はHanks’平衡塩液など体液の浸透圧と等しい等張液を用いる事が望ましい。また、前記洗浄液中のヒトアルブミン濃度は、0.1〜5.0%である事が望ましい。また、前記洗浄において、繰り返し2回以上行う事が望ましい。また、前記洗浄以降においては、ウシ胎仔由来血清を含まない原材料、培地、凍結保存溶液、細胞懸濁液などのみを用いる事が望ましい。また、前記培養細胞は、疾病、傷病の治療に用いるものである事が望ましい。【選択図】 図2