タイトル: | 公開特許公報(A)_唾液緩衝能の測定方法 |
出願番号: | 2006313700 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | G01N 33/50,G01N 33/84 |
宇梶 文緒 平田 広一郎 JP 2008128797 公開特許公報(A) 20080605 2006313700 20061121 唾液緩衝能の測定方法 株式会社トクヤマデンタル 391003576 宇梶 文緒 平田 広一郎 G01N 33/50 20060101AFI20080509BHJP G01N 33/84 20060101ALI20080509BHJP JPG01N33/50 GG01N33/84 3 OL 17 2G045 2G045BB02 2G045BB04 2G045BB05 2G045BB20 2G045CB07 2G045CB21 2G045DB03 2G045FA18 2G045FB03 2G045FB07 2G045FB11 2G045FB17 2G045GC12 本発明は唾液の緩衝能を測定し、齲蝕発生のリスクを診断する方法に関する。詳しくは、齲蝕原因菌数を測定するために、唾液を濾材で濾過することで生じる濾液により唾液緩衝能を測定する方法に関する。 近年、ヒトの口腔内の齲蝕発生のリスクを判定し、齲蝕を予防しようとする試みがなされている。齲蝕発生リスクの判定は、齲蝕発生に関与する因子(齲蝕リスク因子)を測定し、これらの結果を総合的に判断することで判定される。齲蝕リスク因子として、唾液中のミュータンスレンサ球菌、ラクトバチラス菌等の齲蝕原因菌数、唾液分泌量や唾液緩衝能といった唾液の性状、歯垢の付着量、食事回数やフッ化物の使用状況といった生活習慣等の各項目が調べられている(例えば非特許文献1参照)。 上記の各項目を調べる方法として、以下のような方法が開発されている。ミュータンスレンサ球菌数やラクトバチラス菌数の測定は、選択培地を使用した培養法により実施されており、例えばミュータンスレンサ球菌数の測定では、選択培地としてミチス・サリバリウス・バシトラシン固体培地等が使用されている。唾液分泌量の測定は、一定時間に分泌される唾液を計量カップ等に採取することで実施されている。唾液緩衝能の測定は、一定量の酸と一定量の唾液を混合後のpHを、pH指示薬の色調変化を調べる方法で実施されている。歯垢の付着量、食事回数やフッ化物の使用状況といった生活習慣等は、歯科医の視診や患者への問診等で実施されている。 一部の歯科医院では、上記の各検査項目を全て検査、点数化し、患者の口腔内の齲蝕リスク因子の総和を一定レベル以下に押さえ込む方法により齲蝕を予防する試みがなされており、一定の成果を挙げている(例えば非特許文献1参照)。 上記の各齲蝕リスク因子の中で、特にミュータンスレンサ球菌数と唾液分泌量、及び唾液緩衝能は齲蝕リスクと密接に関係していると言われている。食物中に含まれる炭水化物やその分解産物である糖は歯垢中に存在するミュータンスレンサ球菌によって速やかに代謝されて酸が作られ、その結果、歯垢中のpHが下がり、歯の表面からカルシウムイオン、リン酸イオンが歯垢や唾液中に溶出する(脱灰)。しかし、上記のように、ミュータンスレンサ球菌の作用により歯の脱灰がおこっても、唾液の洗浄作用や緩衝作用により歯垢中のpHが中性付近に戻ると、唾液や歯垢中のカルシウムイオン、リン酸イオンが再び歯面に沈着する(再石灰化)。齲蝕とは、脱灰、再石灰化のバランスが崩れエナメル質表層下の脱灰が進む現象である。上記の理由から、齲蝕発生のリスクの判定には、ミュータンスレンサ球菌数に加えて、唾液の分泌量と唾液緩衝能を測定することが重要である。 例えば、唾液中のミュータンスレンサ球菌数が多くても、唾液分泌量と唾液緩衝能が高い人と低い人では齲蝕発生のリスクが異なるし、唾液分泌量、または唾液緩衝能が低い場合でも、口腔内のミュータンスレンサ球菌数の多い人と少ない人では齲蝕発生のリスクは異なる。従って、齲蝕発生のリスクを判定するためには、口腔内のミュータンスレンサ球菌数と唾液分泌量、唾液緩衝能を同時に測定して、総合的に判定することが重要である。 口腔内のミュータンスレンサ球菌数、唾液分泌量、唾液緩衝能は日内変動することが知られている。唾液を採取する時間によって齲蝕リスク因子の測定結果が変動するので、採取時期の異なる唾液を使用して、ミュータンスレンサ球菌数と唾液緩衝能を測定し比較しても正確に口腔内の状況を判定できない。このような理由から、齲蝕原因菌数、唾液分泌量、唾液緩衝能を測定する際には、同一のサンプルを使用して同時に測定することが望ましいといえる。 唾液中の齲蝕原因菌の測定は、従来培養法によって実施されているが、結果が判明するまでに2日以上という比較的長時間を要するという欠点があったが、免疫学的測定方法が開発され検査時間が大幅に短縮された。免疫学的測定方法は微生物が有する特異的な抗原に対する抗体を利用して該微生物を高感度に検出するという方法である(非特許文献2、3)。培養法で齲蝕原因菌を測定する場合、0.01〜0.1mL程度の唾液が必要だが、免疫学的測定法を実施する場合、培養法より多量の唾液(0.3〜0.5mL程度)の唾液が必要である(例えば非特許文献3)。この理由は以下の通りである。免疫学的測定法では、通常、齲蝕原因菌の表面に存在する抗原に対する抗体を使用する。唾液中の齲蝕原因菌は歯垢で覆われているので、このままでは抗体が接触できず、抗原抗体反応がおこらない。抗原抗体反応をおこすためには、何らかの前処理を行い、歯垢を除去して抗原を露出させるか、または菌体より抗原を抽出する必要がある。しかし、前処理を行っても、歯垢が完全に除去できない、全ての抗原を抽出することができない、前処理により一部の抗原が破壊される、等の理由により、齲蝕原因菌に存在する全ての抗原が測定可能な状態になるわけではないので、培養法に比べて多量の唾液が必要になる。 唾液緩衝能は、唾液に一定量の酸を添加し、pHを測定することで測定できる。pH指示薬の呈色を目視で確認し、予め作製された各pH値での標準比色表と比較する方法は、特に機器を必要とせず測定できるため、簡便性、迅速性の点から特に好ましい実施形態の一つであると言える。例えば、山田らは、pH指示薬と酸性緩衝剤を吸収性担体に保持させ、該担体に唾液をたらし色調を目視で確認する方法、いわゆる試験紙法、を提案している(特許文献1)。この方法は、0.005〜0.03mL程度のごく少量の唾液で唾液緩衝能が測定できるが、唾液が担体に染み込み試薬と混合されて初めて緩衝能の測定が可能になるため、粘度の高い唾液では担体への唾液の浸透が不均一になりやすいので、pH指示薬の呈色がまだらになり唾液緩衝能の判定が困難になる場合があるという欠点を持つ。一般的に、唾液分泌量の少ない被検者から採取した唾液は粘度が高いことが知られており、このような場合、上記理由により試験紙法による唾液緩衝能の測定は困難な場合が多いが、このような試験紙法において、測定に供する唾液について、濾過処理により唾液中の不純物やムチン等の粘性物質を取り除いて供することが知られている(特許文献2)。しかしながら、この従来例において具体的に使用されている濾材はグラスファイバーフィルターAP15(ミリポア社製)であり、その孔径はカタログ値で0.2〜0.6μmの微小のものである。しかして、このように孔径が小さい場合、後述の実施例で示されるように、唾液中の不溶物により濾材が目詰まりを起こしやすく、少量の唾液しか濾過できない。唾液緩衝能のみを測定する場合には特に問題なく使用できるが、同一の唾液からミュータンスレンサ球菌数を測定する場合には、測定に必要な量の唾液が濾過できないためミュータンスレンサ球菌数が正確に測定できないという問題がある。さらに、岡崎らは、予め試薬(乳酸、pH指示薬)の乾燥粉末を入れたテストチューブに唾液を加え、蓋をして振盪して試薬を溶解し、pH指示薬の色調を目視で判定するという方法、いわゆる判定チューブ法、を提案している(非特許文献4)。この方法では試薬を担体に染み込ませる必要がないため、粘度の高い唾液であっても比較的容易に唾液緩衝能の測定が可能であるが、0.5〜2mL程度の唾液が測定に必要である。 被験者が高齢者である場合、または幼児の場合、唾液の分泌量が少ない、唾液をうまく吐き出せない等の理由により、0.5mL以下の唾液しか採取できない場合があり、齲蝕原因菌と唾液緩衝能の両方が測定できないという問題があった。クリニカル カリオロジー、 熊谷崇著、 医歯薬出版株式会社 1996年日本生化学会編集,新生化学実験講座12 分子免疫学III 抗原・抗体・捕体,東京化学同人,1992年ヘルスケア歯科診療室発 予防歯科のすぐれモノ17+α、株式会社デンタルダイアモンド社、2006年岡崎好秀 他,小児歯科学雑誌,38巻615−621頁,2000年特許第1574981号公報特開2002−323493号公報 本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、齲蝕原因菌と唾液緩衝能とを測定し、これら両方の測定値から齲蝕発生リスクを判定する際において、少ない唾液量で唾液緩衝能までを、迅速且つ正確に測定できる方法を提供することを目的とする。 本発明者等は上記課題を解決するために、鋭意検討してきた。その結果、孔径0.8〜2μmの濾材により唾液を濾過することにより、齲蝕原因菌を含む不溶物を除去した濾液によっても唾液緩衝能が正確に測定可能であり、しかも、この方法によれば、該唾液の粘性が低下し、試験紙法においても吸収性担体への該唾液濾液の浸透の均一性が向上するため、pHの判定が容易になり好ましいことを見出した。そして、さらに検討を進め、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明は、唾液を孔径0.8〜2μmの濾材で濾過し該濾材上に保持される成分より齲蝕原因菌数を測定する際に生じる唾液の濾液を用いて、該唾液の緩衝能を測定することを特徴とする唾液緩衝能の測定方法である。 本発明の測定方法によれば、唾液を濾過し、該濾材上に保持される齲蝕原因菌数と濾液の緩衝能とを測定することにより、齲蝕発生リスクを効率的に評価することができる。被験者から採取した唾液は、常法により採取した場合(被験者にガム等の咀嚼物を5分間噛ませ分泌してきた唾液を集める)0.3mL〜20mL程度であり、この採取したものを本発明の方法に適用すればよい。齲蝕原因菌数と唾液緩衝能の両方の測定に供することができるため、本発明の方法は、唾液量が少ない場合、例えば、0.3mL〜0.5mLであっても、十分に両方の測定が実施可能であり好適である。 また、本発明において、濾材により濾過した唾液は、不溶物含量および粘度が共に低下するため、濾過前の唾液に比べて、唾液緩衝能の測定が容易に実施できる。被験者の中には、ガム等の咀嚼物を5分間被験者に噛ませながら採取した刺激唾液量が上記0.3mL〜0.5mLしかない者も珍しくないため、このような被験者の齲蝕発生リスクを評価する場合に、本発明の上記効果は顕著に発揮される。 そしてこの効果は、前記試験紙法にて唾液緩衝能を測定するときに、より顕著に発揮させることができる。すなわち、上記濾過により唾液の粘性は低下し、測定の操作性が改善される。特に、唾液の粘度が高い場合には、上記濾過することにより粘性が低下した濾液は試験紙への浸透性が大きく向上し、pH指示薬の呈色を均一にさせることができるようになる。 本発明の唾液緩衝能の測定方法では、唾液を濾過することで齲蝕原因菌を含む不溶物と濾液に分離し、該濾液を使用して唾液緩衝能を測定する。 本発明では、安静時唾液、刺激唾液の両方を使用することができるが、検体採取の再現性、容易さ等の理由から、刺激唾液を使用することが好ましい。刺激唾液は、例えば、ガム、パラフィンペレット等の咀嚼物を一定時間被験者に噛ませながら唾液を吐き出させることで採取することができる。 本発明の方法に供する唾液は、粘度の高いものであるのが、唾液緩衝能の測定において、改善効果が顕著に発揮されるため好ましい。一般的に唾液の粘度と濾過に要する時間は比例関係にある。後述する本発明の実施例に従って唾液を濾過する場合、具体的には、孔径が1μmのガラス繊維濾紙(例えば、アドバンテック東洋社のGA−100)をセットし作製した、図1の構造の濾過装置(濾過面の面積0.95cm2)に唾液を0.3mL添加し、2.5mLシリンジ(例えばテルモ社製)のプランジャーを外した状態で濾過装置に装着した後に、シリンジ外筒にプランジャーを挿入し下まで押し下げた状態で保持することにより加圧することで濾過を行った場合に、添加した唾液全量の濾過に要する時間が20秒以上となるような場合(唾液分泌量が比較的多く粘度の低い唾液の場合は、濾過に要する時間は数秒〜10秒程度である)、粘度の高い唾液といえる。本発明では、濾過に供する、被験者から採取した唾液の粘度が上述のように濾過に要する時間が20秒以上、より好ましくは25〜60秒である場合にも、良好な測定が実施できる。 本発明において齲蝕原因菌とは、齲蝕発生、または進展に深く関わっている口腔内に存在する微生物を指す。具体例として、ミュータンスレンサ球菌、ラクトバチラス菌を挙げることができるが、齲蝕の発生との関連性が特に高いといわれている、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・ソブリヌス(Streptococcus sobrinus)を測定することが特に好ましい。 齲蝕原因菌の測定は、例えば、齲蝕原因菌より抗原を抽出し、該抽出抗原を免疫学的測定法により測定することで、迅速かつ正確に測定することができる。例えば、唾液を濾過することで齲蝕原因菌を濾材上に濃縮し、抗原を抽出することで、高感度な免疫学的測定が可能になる。抽出法としては公知の方法が何ら制限なく使用できるが、好適な例として、亜硝酸抽出法を示すことができる。亜硝酸抽出法は、公知の方法(例えば特開2003−215126号公報記載の方法)により実施することができる。以下、亜硝酸抽出法について説明する。亜硝酸抽出法は亜硝酸塩水溶液と酸水溶液を濾材に滴下し、亜硝酸を形成させ、生じた亜硝酸水溶液中に糖鎖抗原を抽出するという方法である。亜硝酸塩水溶液としては、例えば、0.5〜8Mの亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等が、酸水溶液としては、0.5〜4Mの酢酸、硝酸、塩酸、クエン酸等が使用できる。上記のような亜硝酸塩水溶液と酸水溶液を例えば、0.005〜0.05mLずつ濾材に添加し、15〜50℃で1〜10分放置することで濾材上で反応を行わせる。反応後の抽出液は、唾液の濾過と同様の方法により加圧することで回収すれば良い。反応液は強酸性であるので例えば1〜3M水酸化ナトリウム、0.5〜2Mトリス、0.5〜1M炭酸水素ナトリウム等の塩基性水溶液を添加し抽出液のpHを7.0〜8.5に調整するのが好ましい。塩基水溶液は抗原抽出液を濾材から回収した後に添加しても良いし、抽出液を回収する前に濾材に添加した後に抽出液を回収しても良いが、免疫学的測定法での感度の観点から、回収前に濾材に添加することがより好適である。または、亜硝酸塩水溶液と酸水溶液を予め混合して、亜硝酸水溶液(0.2〜4M 亜硝酸ナトリウム、0.5〜4M 酢酸)を調製し、該亜硝酸水溶液で濾過膜を濾過することで亜硝酸抽出を実施することもできる。この場合は、亜硝酸ナトリウム水溶液と酢酸水溶液を混合し調製した亜硝酸水溶液を0.2〜0.5mL添加して濾過し、5〜50℃で1〜10分放置することで亜硝酸抽出を行い、反応後の中和は0.5〜1.0Mトリスを100〜800μL濾過膜に添加し、加圧濾過することで糖鎖抗原抽出液を回収する。 本発明の唾液緩衝能の測定法で使用する濾材としては、上記抽出操作において安定な、膜状、層状の濾材が制限なく使用することができる。このような濾材を例示すると、メンブランフィルター等のスクリーンフィルターや、濾紙、ガラス繊維濾紙等のデプスフィルターが挙げられる。 本発明での濾材の孔径とは、スクリーンフィルターの場合は、日本工業規格(JIS K 3832)記載の液体で濡れたメンブランフィルターの孔を通って空気が押し出されるときの圧力より算出される数値(バブルポイント法)であり、デプスフィルターの場合は、日本工業規格(JIS P 3801)記載の硫酸バリウム等を自然濾過したときの漏洩粒子径により求めた数値である。一般的には、濾材がメンブランフィルターの等のスクリーンフィルターである場合は、市販濾材カタログに表示されている孔径が上記方法で求めた本発明の孔径に相当し、濾材がガラス繊維濾紙や濾紙のようなデプスフィルターの場合は、市販濾材カタログに表示されている保留粒子径、粒子保持能が本発明の孔径に相当する。 濾材の孔径は齲蝕原因菌が通過できない孔径であることが必要である。本発明の好適な測定対象であるストレプトコッカス・ミュータンスやストレプトコッカス・ソブリヌスは、菌体自身の大きさは0.5〜0.9μmの範囲にある。従って、これらの細菌を濾材上に保持するためには、上記菌体のサイズより十分に小さな孔径、具体的には、0.22μm〜0.45μmの孔径を有する濾材が使用されるのが常法である。本発明においても、唾液の濾過は、上記小孔径を有する濾材を用いて行えば、ストレプトコッカス・ミュータンスやストレプトコッカス・ソブリヌスを良好に補足することができるが、このように小孔径であると、唾液の濾過速度が遅くなり、また、唾液には通常他の不溶物が含まれているので、目詰まりも生じやすくなる。そして、このように濾材に目詰まりが生じた場合、上記工程に続く濾材上に保持される上記細菌からの抗原の抽出工程においても、抽出効率がやや低下する。 このような背景から、本発明では、濾材として0.8〜2μm、更に好適には0.8〜1.6μmの孔径のものを用いる。上記孔径は、濾材上に保持する前記ストレプトコッカス・ミュータンスやストレプトコッカス・ソブリヌスの大きさよりも大抵において若干上回るものになるが、これら齲蝕関連菌の場合においては、この程度に孔径が大きい濾材であってもほとんど流下させることなく補足できる。したがって、濾過速度も大幅に向上する。さらに、同じ面積の濾過膜を用いて、唾液を濾過する場合、孔径0.45μmの濾過膜と比べての孔径0.8〜2μmの濾過膜では約10倍量の唾液が濾過できることから分かるように、他の不溶物による目詰まりも極めて生じ難い。 目詰まりが生じにくいということは、齲蝕原因菌を高感度に測定するためには重要である。例えば、前記の亜硝酸抽出法により抗原を抽出する場合、濾材の濾過面の面積に比例して、亜硝酸抽出時に添加する試薬量も増加し、濾材より回収される糖鎖抗原抽出液量が増加する。免疫学的測定法で使用できる液量は限られているので(一般的に0.15mL以下)、たとえ大量の唾液を濾過できたとしても、濾過面の面積が大きく、糖鎖抗原抽出液量が増えてしまった場合、その一部しか免疫学的測定法で分析できないので、高感度な測定が不可能になる。高感度な測定を実現するためには、濾過する唾液量と濾材の濾過面の面積の関係を好適な範囲にする必要がある。上述したように、濾材の面積あたりの濾過可能な唾液量は濾材の孔径に比例するので(孔径が小さいと濾過可能な唾液量が低下する)、適切な孔径の濾材、例えば0.8〜2μmの濾材を使用する必要がある。 唾液の濾過は、例えば図1のような構造の濾過装置により実施できる。濾過装置本体及び蓋は柔軟な物質、例えばポリプロピレン等のプラスチックにより構成されることが好ましい。濾過装置本体の底面に濾材をセットし、唾液を注入した後に蓋を閉めて加圧することで濾過を行うが、濾材は接着剤により底面に保持されていても良いし、または特に接着をせずに摩擦力によってのみ底面に保持されていても良い。 本発明では上述のようにして調製した抗原抽出液に対して、通常は、免疫学的測定方法により定量することで、齲蝕原因菌数を測定する。免疫学的測定法の具体的手法は、免疫凝集法、光学免疫測定方法、標識免疫測定方法、およびこれらの組合わせ等の従来公知の方法が制限無く採用出来る。 以下、これら免疫学的測定方法について説明する。[免疫凝集法] 該方法は、抗原抗体反応に基づく不溶性担体の凝集反応を利用して、糖鎖抗原抽出液中の抗原を検出、定量する方法である。半定量的方法としてはラテックス凝集法、マイクロタイター法等が、定量的測定方法としてはラテックス定量法等がある。 例えば、ラテックス凝集法を利用して糖鎖抗原抽出液中の抗原量を免疫学的に測定する場合には、ラテックスビーズに微生物の糖鎖抗原と結合する抗体(以下単に抗体ともいう)を固定化した抗体感作粒子からなる測定試薬を作製後、該測定試薬と糖鎖抗原抽出液を混合し、抗原抗体反応後における感作粒子の凝集の度合を、目視、或いは光学的測定方法等により検出することで測定することが出来る。 [光学免疫測定方法] 該方法は、抗体と糖鎖抗原抽出液とを接触させて抗原抗体反応を行った場合に、抗原抗体反応の結果生じる凝集物の濁度の変化を検出する方法、又は抗体を固定化した薄層(以下、抗体層ともいう。)に糖鎖抗原抽出液を接触させ、抗原抗体反応の結果生じる抗体層の屈折率の変化を透過光や表面プラズモン波等の変化として検出する方法等、抗原抗体反応の有無を光学的に検出する方法のことである。 [標識免疫測定方法] 該方法は、抗体に放射性物質、酵素、各種色素類、コロイド類、各種粒子等の各種標識物質を結合させて得た標識抗体を含む測定試薬と、糖鎖抗原抽出液とを接触させて抗原抗体反応を行った後に、糖鎖抗原抽出液中の抗原に結合した標識物質の量、すなわち標識物質に由来する放射活性、酵素活性、蛍光強度、着色等を測定することによって、糖鎖抗原抽出液中の抗原を検出、定量する方法である。 該方法では、例えば抗体を固定化した不溶性担体(粒子、メンブレン、イムノプレート等)からなる測定試薬と糖鎖抗原抽出液とを接触させて抗原抗体反応を行った後に、抗体を標識物質で標識した標識抗体を含む別の測定試薬を接触させて更に抗原抗体反応を行った後に、標識物質の量を測定することによって、又は糖鎖抗原抽出液と標識物質で標識した糖鎖抗原とを混合し、抗体を固定化した不溶性担体からなる測定試薬に接触させて抗原抗体反応を行った後に、抗体に結合した標識物質の量を測定することによって糖鎖抗原抽出液中の抗原を検出、定量することができる。 標識物質としては、放射性物質として放射性ヨード、放射性炭素等が、酵素としてペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ガラクトシダーゼ等が、各種色素類として、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミン等の蛍光色素類が、コロイドとして金コロイド、炭素コロイド等が、各種粒子としては着色ラテックス粒子等が使用出来る。なお、酵素標識を行う場合は、チオール基とマレイミド基、アミノ基とアルデヒド基等の共有結合により直接標識する、或いはビオチン−アビジン複合体を介し標識する等の方法が使用可能である。また、標識酵素としてアルカリホスファターゼ及びパーオキシダーゼを使用し、さらに前者の酵素の場合にはジオキセタン誘導体等の化学発光物質を、また後者の酵素の場合にはルミノール誘導体等の化学発光物質を酵素の基質として使用した場合には、該基質の発光を検出することも出来る。 これら各種標識免疫測定方法における操作、手順等は一般に採用されているそれらと特に異ならず、公知の非競合法や競合法、サンドイッチ法等に準じることが出来る。また、抗体と共に、上記の各標識物質で標識した二次抗体、プロテインA等の抗体に結合可能な物質を使用して糖鎖抗原の検出・定量に用いることもできる。 該標識免疫測定方法では、用いる標識に応じて従来使用されている方法が特に限定無く使用できるが、中でも放射性物質を標識として使用する放射免疫測定方法、酵素を標識として使用する酵素免疫測定方法、色素、特に蛍光色素を標識として利用する蛍光免疫測定方法、酵素の基質としての化学発光物質を標識として利用する化学発光免疫測定方法等は定量性が高いので、高精度の定量測定を行なう場合にはこれら測定方法を採用するのが好適である。また、コロイドまたは各種粒子を標識として使用するフロースルー免疫測定方法、免疫クロマト法、並びにラテックス凝集法は、操作が簡便であるという特徴がある。 本発明では、唾液を濾材で濾過して調製した濾液を使用して唾液緩衝能を測定する。このように唾液を濾過した濾液について、その緩衝能を測定しても、測定結果は、唾液を直接測定に供する場合と実質的に等しい結果が得られる。 唾液緩衝能の測定は前記のように調製した唾液の濾液と検査試薬とを接触させ、pHを目視等により判定することによって実施される。濾液の緩衝能の測定は、唾液に一定量の酸を添加し、これにpH指示薬を直接滴下してその呈色の状態でpHを確認して実施しても良いが、前記したように唾液の濾液は粘度が低下しているため、pH指示薬を含む検査試薬を担持させた吸収性担体に、該濾液を接触させてpHを測定する方法により実施するのが好ましい。すなわち、これら試験紙法に代表される方法は、特に、粘度の高い唾液を供する場合等にあっては、該担体に吸収し難くなり発色にバラツキが生じるが、上記濾液を用いた場合、この問題が緩和され、正確な判断が行えるようになる。 本発明でpH指示薬とは、酸塩基反応によりプロトン付加・脱離して変色する試薬を指し、公知のものが何ら制限なく使用できる。このようなpH指示薬の具体例として、新実験化学講座9 分析化学II(1977年発行 丸善株式会社 日本化学会編集)181ページの表(中和滴定用指示薬)記載の指示薬(クロロフェノールレッド、ブロモクレゾールパープル、クロロフェノールレッド等)を例示できる。 ここで、pH指示薬を含む検査試薬としては、通常、上記pH指示薬の他、乳酸、塩酸、クエン酸、酒石酸等の酸により構成されている。また、必要に応じて、唾液の試験紙への浸透を促進するために、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系等)等の湿潤剤を上記検査試薬成分に含ませることもできる。これらの検査試薬が担持された紙等の吸収性担体と濾液との接触方法は、試薬形態に適した方法で実施することができる。例えば、検査試薬が酸、pH指示薬等が短冊状の吸収性担体に乾燥状態で保持されたストリップである場合には、判定部が十分湿潤する量の唾液(0.005〜0.03mL程度)の濾液を滴下することで実施できる。この他、濾液の緩衝能の測定は、容器に濾液を入れ、ストリップの判定部を容器中の濾液中に挿入することで接触させても良い。 pHの測定は、検査試薬と唾液の濾液を接触させた後の色調を目視で確認することで実施される。予め各pHでの色調を調べて比色表を作成し、この比色表と比較することでpHを判定し、唾液緩衝能を判定すれば良い。例えば、酒石酸とクロロフェノールレッドにより検査試薬を調製した場合、該検査薬と唾液の混合液は、pHに依存して以下の表に示したような色調を呈す。唾液緩衝能が高いほど、上記混合液のpHも高くなるため。従って、その色調に応じて表1に示したように判定することができる。 以上により、齲蝕原因菌数と唾液緩衝能が効率的に測定される。本発明において測定される齲蝕原因菌数と唾液緩衝能を考慮しての齲蝕発生リスクの評価は次のようにして行われる。すなわち、齲蝕は単一の原因で発症するわけではなく、齲蝕発生を促進する複数の因子(齲蝕リスク因子)が齲蝕発生に適した状態になったときに発生することが知られている。従って、なるべく多くの齲蝕リスク因子を測定し、これらの結果から齲蝕発生のリスクを総合的に判定れば、判定の確度を上げることになる。齲蝕リスク因子として、唾液中の齲蝕原因菌数、唾液分泌量や唾液緩衝能といった唾液の性状、歯垢の付着量、食事回数やフッ化物の使用状況といった生活習慣等が知られており、これらの齲蝕リスク因子を同時に測定し、総合的に判断することにより、個々の齲蝕リスク因子の測定結果だけから判定するより、はるかに正確に被験者の齲蝕発生のリスクを判定することができる。これらの齲蝕リスク因子中、歯垢の付着量、食事回数やフッ化物の使用状況は従来歯科で行われてきた検査(視診、問診等)により把握することができるが、齲蝕原因菌数、唾液分泌量、唾液緩衝能は従来歯科で行われてきた検査では測定できない。刺激唾液を採取し唾液分泌量を測定し、次いで、例えば、本発明の方法に従って齲蝕原因菌数と唾液緩衝能を測定する必要がある。本発明の唾液緩衝能の測定方法によれば、従来、齲蝕原因菌数と唾液緩衝能を同時に測定することが困難であった唾液分泌量の少ない被検者であっても、両方を同時に測定することが可能である。 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。 製造例1[ストレプトコッカス・ミュータンスに対する精製ポリクローナル抗体の作製] (1)[菌体試料懸濁液の調製] ブレインハートインフュージョン(以下「BHI」と略すこともある)(DIFCO社)3.7gを100mLの純水に溶解後、オートクレーブ処理し、BHI液体培地を調製した。BHI液体培地2mL中でIngbritt(ストレプトコッカス・ミュータンス、血清型c)を37℃、5時間、嫌気条件下(N2:H2:CO2=80:10:10)で培養した後、培養液を4000g、5分遠心処理し、上清の培地成分を除去し菌体沈殿を回収した。 次いで、沈殿物を5mLのリン酸生理食塩緩衝液(pH7.4)(以下PBSと略すこともある)に懸濁し、同様の遠心分離をする操作を3回行い、沈殿物を洗浄した。その後得られた菌体沈殿をPBSに懸濁し、A600=1.0に調整しIngbritt菌体試料懸濁液とした。なお、該菌体試料懸濁液を超音波処理後、適宜希釈した後にBHI培地プレート上に添加し、生じたコロニー数を計数し菌体試料懸濁液の希釈倍率を乗じることで該菌体試料懸濁液の菌体濃度を求めたところ、約1×109個/mLであった。 (2)〔ストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗血清の作製〕 免疫は以下のように実施した。即ち、第1週は0.5mLのIngbritt菌体試料懸濁液を、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第2週は1.0mLの該菌体試料懸濁液を、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第3週は2.0mLの該菌体試料懸濁液を、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第4週は第3週と同様に免疫した。力価の上昇をスライドグラスを利用した菌体の凝集反応の程度により確認後、最終免疫より1週間後に、定法に従い採血しストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗血清を得た。 (3)〔ストレプトコッカス・ミュータンスに対するポリクローナル抗体の精製〕 オートクレーブ処理したBHI液体培地1L中でIngbrittを37℃、12時間、嫌気条件下で培養した。培養液を4000g、5分遠心処理し、上清の培地成分を除去し菌体沈殿を回収した。次いで、沈殿物を100mLのPBSに懸濁させて、同様の遠心分離をする操作を3回行い、沈殿物を洗浄した。 Ingbritt菌体を洗浄した後、0.1M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁しA600=15に調整した。ここにプロナーゼ(和光純薬社)を5mg/mLとなるように添加し、37℃で1時間保温した。反応終了後、遠心分離し菌体沈殿を回収した。次いで、沈殿物を20mLのPBSに懸濁して、同様の遠心分離をする操作を3回行い、沈殿物を洗浄した。次いで20mLの0.1M グリシン塩酸緩衝液(pH2.0)で3回洗浄し、更に20mLのPBSで3回洗浄し、プロテアーゼ処理菌体懸濁液(A600=12.5)を調製した。 次いで、該プロテアーゼ処理菌体懸濁液と(2)で調製した抗血清0.5mLとを混合し、4℃、60分反応させた。混合液を4000g、5分遠心分離し、菌体を回収した。この菌体を10mLのPBSに懸濁し、同様の遠心分離をする操作を3回行い洗浄した。 次いで、0.5mLの0.1M グリシン塩酸緩衝液(pH2.0)に菌体を懸濁し、吸着した抗体を溶出し、遠心分離により上清を回収し、1Mトリス−塩酸(pH9.0)を添加しpH7.4に調整した。同様の溶出操作を4回行い、各画分のタンパク質量を280nmの吸光度により測定した。 次いで、あらかじめPBSで平衡化した1mLのプロテインA−セファロース(アマシャムファルマシアバイオテク社)を充填したカラムに上記溶出液を添加し、5mL洗浄後、5mLの0.1Mグリシン−塩酸緩衝液(pH3.0)にて溶出し、直ちに1Mトリス−塩酸(pH9.0)を添加しpH7.4に調整した。IgGの溶出画分は、A280を測定することで確認した。IgG画分を回収し、0.01Mリン酸緩衝液に対して透析を行った(4℃、3日)。 以上により、抗血清(0.5mL)をプロテアーゼ処理菌体により精製したポリクローナル抗体を約1mg得た。製造例2[免疫クロマトデバイスの製造] コロイド粒径が40nmの市販金コロイド溶液(EY Laboratory)10mLに100mMK2CO3を88μL添加し、pHを9.0に調製後、0.22μmフィルター処理した。金コロイド溶液の520nmの吸光度を測定したところ、A520=1.0であった。 次いで、1mg/mLに調整した製造例1で調製した抗体の2mMホウ酸緩衝溶液(pH9.0)64μLを、上記金コロイド溶液に撹拌しながら添加し、室温下5分放置した。次いで、10%スキムミルク−2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)を1.1mL撹拌しながら添加し(スキムミルク終濃度1%)、室温下30分放置した。次いで、反応溶液を10℃、10000g、30分遠心処理し、上清を除去後、2mLの2mMPBS(pH7.4)を添加し、下層の金コロイド画分を再懸濁した。該再懸濁した画分の520nmの吸光度を測定したところ、A520=4.9であった。得られた金コロイド画分(以下、「金コロイド標識抗体」と表記することもある)は、4℃にて保存した。 ニトロセルロースメンブレン(MILLIPORE社、Hi−Flow Plus Membrane、HF180、25mm×6mm)からなる展開メンブレン上の検出ラインおよびコントロール判定ライン上に、それぞれ1mg/mLの製造例1で調製した抗体および抗ウサギIgG(H+L)ポリクローナル抗体(ICNファーマシューティカルズ社)1μLをスポットし、インキュベーター内で37℃、60分乾燥し抗体を固定化した。該抗体固定化メンブレンを1%スキムミルク−0.1%TritonX100水溶液中で室温下、5分振とうした。次いで、該メンブレンを10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中で室温下、10分振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。 また、コンジュゲートパッド(MILLIPORE社、7.5mm×6mm)を0.5%PVA−0.5%ショ糖水溶液中で1分間振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。該コンジュゲートパッドにA520=1.0に調整した金コロイド標識抗体を25μL添加し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。更に、サンプルパッド(MILLIPORE社、17mm×6mm)を1%Tween20−PBS水溶液中で1分間振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。尚、吸収パッド(MILLIPORE社、20mm×6mm)は未処理のまま用いた。 このように調製した、図2に示すような免疫クロマト法ストリップの各構成部分をプラスチックの支持台上に配置し、図3に示すような免疫クロマト法ストリップを組み立てた。参考例1[唾液と濾液による唾液緩衝能の測定] 5人の被験者(A,B,C,D,E)にパラフィンペレットを5分間噛ませ、唾液を採取した。唾液分泌量を表2に示した。 一方、SCカートリッジ(マルエム社)に、孔径(日本工業規格(JIS P 3801)記載の硫酸バリウム等を自然濾過したときの漏洩粒子径により求めた数値)が1.0μmのガラス繊維濾紙「GA−100」(アドバンテック東洋社製)をセットし(濾過面の面積0.95cm2)、図1の構造の濾過装置を作製した。この濾過装置に、上記5人の被検者から採取した唾液をそれぞれ0.7mLずつを添加し、蓋を閉めシリンジにより加圧して濾過した。 唾液と濾液の緩衝能を判定チューブ法試薬であるオーラルテスターバッファ(トクヤマデンタル)により唾液緩衝能を測定した。測定法はキットの取り扱い説明書に従い、唾液または濾液を0.5mL判定チューブに添加し、判定チューブ中の試薬と良く混合して緩衝能を判定した。判定は3人の判定者(ア、イ、ウ)により実施し、黄色が低緩衝能、橙が中緩衝能、赤紫が高緩衝能と判定した。結果を表2に示した。 唾液の粘度の影響を受けにくい判定チューブ法で測定した唾液と濾液の緩衝能は同じ結果であった。このことから、濾液を使用しても唾液と同様に緩衝能が測定できることが明らかとなった。実施例1(1)唾液の採取と培養法によるミューストレプトコッカス・ミュータンス菌数の測定 前記参考例1の被験者Aと、他の4人の被験者(F,G,H,I,J)にパラフィンペレットを5分間噛ませ、唾液を採取した。それぞれの被験者の唾液分泌量を表3に示した。 採取した唾液を適宜希釈して0.05mLをMSB固体培地上に添加し、37℃、嫌気条件下、48時間培養した。MSB固体培地上に生じるコロニー数を計数し、唾液の希釈率から、ミュータンスレンサ球菌濃度を個/mLとして算出し、表4に示した。MSB培地上のストレプトコッカス・ミュータンスの識別は、コロニーの形態学的分類、および形態学的に識別不可能なコロニーに関しては、該コロニーを純粋培養後、ミュータンスレンサ球菌の血清型特異的な抗体を利用した免疫学的測定方法および、糖発酵試験等の生化学的方法によりストレプトコッカス・ミュータンスの同定を行った。(2)唾液の濾過と糖鎖抗原抽出液の調製 唾液A,F,G,H,I,Jの0.3mLを参考例1と同様にGA−100で濾過し、濾液を採取した。0.3mLの唾液全量が濾過できた。唾液の濾過に要した時間を表3に示した。 次いで、0.5mLの0.1M NaOH溶液を濾過装置に添加し濾過し、さらに0.5mLのPBSを濾過装置に添加し濾過することで、濾過膜上の微生物と濾過膜の洗浄を行った。1M 亜硝酸ナトリウム溶液と2M 酢酸溶液を1:1で混合し、亜硝酸水溶液を調製し、該亜硝酸水溶液0.3mLを濾過装置に添加し濾過した。2分間室温で放置した後、0.09mLの0.05% Tween20を含む1M トリス(pH未調製)を添加し、濾過装置をシリンジで加圧することで糖鎖抗原抽出液を回収した。(3)免疫クロマトデバイスによる糖鎖抗原抽出液の測定 製造例2で製造した免疫クロマトデバイスのサンプルパッド上に、糖鎖抗原抽出液0.1mLを添加し、10分後にスポットの有無を判定した。判定は、検出用抗体スポット上に捕捉された金コロイドの程度を4段階(+++:強い陽性、++:陽性、+:弱い陽性、−:陰性)に目視で識別した。結果を表4に示した。 表4に示したように、培養法により得られたストレプトコッカス・ミュータンスの濃度と相関するスポット発色強度が得られた。(4)濾液による唾液緩衝能の測定 (2)で採取した濾液を使用して、試験紙法試薬であるDentobuff Strip(オーラルケア)により唾液緩衝能を測定した。測定法はキットの取り扱い説明書に従い、試験紙の濾液を1滴滴下し、5分後の呈色を観察した。判定は黄色が低緩衝能、緑が中緩衝能、青が高緩衝能と判定した。判定は3人の判定者(ア、イ、ウ)により実施した。結果を表5に示した。 濾液を使用すると唾液の粘度が低下するので、試験紙へ濾液が均一に浸透した。3人の判定者で同じ結果となり容易に判定できた。比較例1[孔径の小さい濾材を使用した場合におけるストレプトコッカス・ミュータンス菌数の測定] 濾材として、孔径が0.6μmのガラス繊維濾紙「GA−55」(アドバンテック東洋社製)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて唾液を濾過した。次いで実施例1と同様に免疫クロマトデバイスにより菌数を測定した。結果を表6に示した。唾液は実施例1で使用したA,F,G,H,Iを用いた。Jは残量が少ないため濾過できなかった。 GA−55を用いた場合、0.15mLの唾液しか濾過できないためにGA−100の場合に比べてスポット発色が弱く、5×105個/mL以上の菌数でないと陽性にならなかった。GA−55を用いた場合、感度が不足していた。比較例2[唾液を直接用いての唾液緩衝能の測定] 唾液を濾過することなく用いて実施例1(4)と同様の方法にて唾液緩衝能を測定した。結果を表7に示した。この場合、粘性が高く濾過に時間がかかる唾液である被験者G,H,I,Jからの唾液において、唾液が試験紙に均一に浸透しないので、発色がまだらになり判定し難い発色状態になった。その結果、判定者により結果が異なるものになった。実施例2,比較例3 粘度の高い唾液である被験者Gより、実施例1(1)と同様の方法により唾液を採取した(唾液量2mL)。この唾液を用い、濾過装置として表8に示したガラス繊維濾紙、濾紙を用いた図1の構造のものを用いる以外は、実施例1(2)と同様にして0.3mLの唾液の濾過、糖鎖抗原の抽出を行い、実施例1(3)と同様に糖鎖抗原抽出液を用いた免疫クロマト法によるストレプトコッカス・ミュータンスの菌数の測定を実施した。濾材の孔径が本発明の範囲である実験No.1〜4では実施例1と同様の結果であったが、濾材の孔径が本発明の範囲を越える実験No.5では、ミュータンス菌が濾材上に十分に保持されないためにスポットが検出されなかった。 次いで、各濾液について、実施例1(4)と同様にして緩衝能の測定を行い結果を表9に示した。濾材の孔径が本発明の範囲である実験N0.1〜4では、いずれも3人の判定者で同じ結果となり容易に判定できた。他方、濾材の孔径が本発明の範囲を超える実験No.5の場合、唾液の粘性が十分に低下していなかったことから、試験紙の発色がややまだらになり、3人の判定者の結果がばらついた。本図は、本発明の抗原の抽出方法で使用する濾過装置の該略図である。本図は、本発明の免疫クロマト法で使用するストリップの各部材の概略図である。本図は、本発明の免疫クロマト法で使用するストリップの側面図である。符号の説明 1・・・排液口 2・・・濾材 3・・・容器本体 4・・・シリンジ差込口 5・・・蓋部 6・・・濾過装置 7・・・ストリップ 8・・・サンプルパッド 9・・・コンジュゲートパッド10・・・展開メンブレン11・・・吸収パッド12・・・検出ライン13・・・コントロール判定ライン 唾液を孔径0.8〜2μmの濾材で濾過し該濾材上に保持される成分より齲蝕原因菌数を測定する際に生じる唾液の濾液を用いて、該唾液の緩衝能を測定することを特徴とする唾液緩衝能の測定方法。 濾液緩衝能の測定を、pH指示薬を含む検査試薬を担持させた吸収性担体に、該濾液を接触させてpHを測定することにより実施する請求項1記載の唾液緩衝能の測定方法。 濾過に供する、被験者から採取した唾液量が0.3〜0.5mL である請求項1または請求項2記載の唾液緩衝能の測定方法。 【課題】 唾液分泌量の少ない被験者の場合であっても、唾液緩衝能を迅速正確に測定できる方法を提供する。 【解決手段】 唾液を孔径0.8〜2μmの濾材によって濾材上に保持される成分と濾液に分離し、該濾材上の成分を利用して齲蝕原因菌数を測定し、さらに濾液をpH指示薬を含む検査試薬を担持させた吸収性担体に接触させてpHを測定して唾液緩衝能を測定することにより、唾液分泌量の少ない被験者であっても迅速かつ正確に唾液緩衝能を測定することができる。【選択図】 なし