タイトル: | 公開特許公報(A)_乳房炎の治療剤及び治療方法 |
出願番号: | 2006257433 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | A61K 38/16,A61K 31/545,A61P 29/00,A61P 15/00,A61P 43/00,A61P 31/04 |
小峯 健一 小峯 優美子 熊谷 勝男 JP 2008074787 公開特許公報(A) 20080403 2006257433 20060922 乳房炎の治療剤及び治療方法 株式会社ティーセル研究所 500541564 三好 秀和 100083806 岩▲崎▼ 幸邦 100100712 川又 澄雄 100100929 伊藤 正和 100095500 高橋 俊一 100101247 高松 俊雄 100098327 小峯 健一 小峯 優美子 熊谷 勝男 A61K 38/16 20060101AFI20080307BHJP A61K 31/545 20060101ALI20080307BHJP A61P 29/00 20060101ALI20080307BHJP A61P 15/00 20060101ALI20080307BHJP A61P 43/00 20060101ALI20080307BHJP A61P 31/04 20060101ALI20080307BHJP JPA61K37/14A61K31/545A61P29/00A61P15/00A61P43/00 111A61P31/04 8 OL 11 特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月25日 社団法人 日本獣医学会発行の「The Journal of Veterinary Medical Science(日本獣医学会会誌) 第68巻 第3号」に発表 4C084 4C086 4C084AA02 4C084AA19 4C084BA01 4C084BA08 4C084BA23 4C084BA38 4C084BA41 4C084CA17 4C084CA59 4C084MA02 4C084MA55 4C084NA05 4C084NA14 4C084ZA812 4C084ZB112 4C084ZB352 4C084ZC622 4C086AA01 4C086AA02 4C086CC15 4C086MA02 4C086MA04 4C086NA05 4C086NA14 4C086ZA81 4C086ZB11 4C086ZB35 4C086ZC62 ウシ乳房炎は、乳牛の傷病原因の上位に位置する疾患であることが従来から知られている(例えば、非特許文献1参照のこと。)。その経済的な損失は年間120億円とも言われており、酪農を営む上で重大な経営阻害要因である(非特許文献2参照のこと。)。乳房炎の原因はおもに乳腺内への細菌感染で、その原因菌は大腸菌、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌など多岐にわたる。これに対して様々な防除対策が施されているが、最終的には発症牛の淘汰、廃用および盲乳といった処置を施すことで対応しているのが現状である。また、その発症時期は、搾乳を人工的に停止し分娩に備える乾乳期と、分娩直後に多いことが知られている。 ウシ乳房炎の治療に用いる軟膏として、搾乳期用の軟膏は即効性を必要とすることから、原因菌に適合した抗生物質が乳槽内に早く分散するよう軟膏基材の粘度を低く調整する。また、乾乳期用の軟膏は長期間抗生物質の有効性を持続するため、分散が緩やかに起こるよう軟膏基材の粘度を高く調整する。 乳房炎の発症が多い乾乳期に利用する乾乳期用の軟膏は、搾乳停止後、乳頭口に乳蛋白質が乾燥固化して栓をした状態となるため、乾乳導入後ごく早期に乳房内に注入し、その後の再投与はなされない。そのため、持続性は高いが即効性に欠けるため実際には予防的に使用されている。ゆえに、急性の乾乳期乳房炎の治療では、即効性のある泌乳期用の軟膏が使用される場合もあるが、乾乳期における抗生物質軟膏による治療効果は概ね50%程度で、泌乳期に比べ乳房炎の臨床症状が激しい乾乳期においては、多くのウシが淘汰や廃用となっているのが現状である。 一方、ラクトフェリンは乳中の代表的な防御物質であり、その生理作用は多岐にわたる。代表的な生理作用には抗菌作用、つまり、微生物の発生・生育・増殖を抑制する作用があり、特に、ラクトフェリンの加水分解物中に含まれるペプチドのラクトフェリシンが強い抗菌作用を示すことが知られている(非特許文献3及び4参照のこと。)。この性質を利用して、ウシ乳房炎においてもラクトフェリンそのものやラクトフェリン加水分解物を単独で乳房内に注入し、ウシ乳房炎を治療することが知られている。しかしながら、実際には病原性の弱い一部の起因菌による乳房炎(非特許文献5参照のこと)及び臨床症状が明確に現れてない潜在性乳房炎(非特許文献6参照のこと)に対する効果しか得られていない。 また、ラクトフェリンは、大腸菌のリポポリサッカライド(LPS)に結合すると抗炎症作用を示すことが知られている。しかしながら、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌等はLPSを有しないため、これらを起因菌とする急性乳房炎では抗炎症作用を示さないと考えられていた。中本 「平成12年度家畜共済事業の実績概要」 家畜診療 2002年5月49巻5号p.335-340江口 「牛乳房炎ワクチンの現状」 家畜診療2000年1月47巻1号p.15-23Bellamy等 “Identification of the bactericidal domain of lactoferrin” Biochimica et Biophysica Acta. 1992年 1121 p.130-136Tanida等 ”Lactoferrin Peptide Increases the Survival of Candida albicans-Inoculated Mice by Upregulating Neutrophil and Macrophage Functions, Especially in Combination with Amphotericin B and Granulocyte-Macrophage Colony-Stimulating Factor” Infection and Immunity 2001年6月Vol. 69 No.6 p.3883-3890Kai等 “Effects of Bovine Lactoferrin by the Intramammary Infusion in Cows with Staphylococcal Mastitis during the Early Non-Lactating Period” J. Vet. Med. Sci. 2002年64(10) p.873-878Kawai等 “Effect of Infusing Lactoferrin Hydrolysate into Bovine Mammary Glands with Subclinical Mastits” Veterinary Research Communications 2003年27 P.539-548 本発明の一の目的は、優れた治療効果を達成する乳房炎の治療剤を提供することである。また、本発明の他の目的は、牛の淘汰、廃用、盲乳を低減することである。 本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ラクトフェリンと抗生物質とを組み合わせて投与することにより、顕著に優れた乳房炎の治療効果が得られることを見いだした。 すなわち、本発明の一実施態様は、ラクトフェリン及び抗生物質を組み合わせた乳房炎の治療剤に関する。また、本発明の一実施態様は、乾乳期のウシ乳房にラクトフェリン及び抗生物質を組み合わせて投与する乳房炎の治療方法に関する。さらに、本発明の一実施態様は、乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンと抗生物質の併用療法によるNFκB活性抑制効果を介した炎症性サイトカインの産生抑制方法に関する。さらに、本発明の一実施態様は、乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンと抗生物質の併用療法による炎症メディエーター、炎症性ラクトフェリン分子の産生抑制方法に関する。さらに、本発明の一実施態様は、乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンの注入による抗生物質の除菌作用の増強方法に関する。さらに、本発明の一実施態様は、乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンと抗生物質の併用療法による乳房の臨床症状緩和方法に関する。さらに、本発明の一実施態様は、乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンと抗生物質の併用療法による分娩後の乳房炎発症予防方法に関する。さらに、本発明の一実施態様は、乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンと抗生物質の併用療法による分娩後の正常乳汁分泌誘導方法に関する。 本発明の一の実施態様によると、顕著に優れた乳房炎の治療効果を達成することが可能である。また、本発明の他の実施態様によると、牛の淘汰、廃用、盲乳の低減することが可能である。さらに、本発明の一実施態様によると、乳房炎の臨床症状を改善することが可能である。さらに、本発明の一実施態様によると、乾乳期の黄色ブドウ球菌を起因菌とする臨床型乳房炎を治療することが可能である。 本発明の乳房炎治療方法は、ラクトフェリン及び乾乳期用もしくは泌乳期用の抗生物質を併用して乳牛に投与する工程を備える。 牛の乳房炎は、潜在性乳房炎と臨床型乳房炎に分類することができる。潜在性乳房炎とは、公知の乳房炎判定テスト、例えば、体細胞数(SCC)、カリフォルニア・マスタイティス・テスト変法(CMT変法)または目視による乳汁中ブツの観察等により乳房炎と判断されるが、臨床症状が現れていない場合をいう。また、臨床型乳房炎とは、上記の乳房炎判定テストの結果に関わらず、乳房の腫脹、硬結、萎縮等の臨床症状や、発熱、起立不能などの全身症状が発症している場合をいう。臨床型乳房炎の方が、より直りにくい場合が多い。 臨床型乳房炎の治療は、起因菌の除菌と臨床症状の緩和にある。ここで、除菌とは微生物の発生・生育・増殖を抑制する作用をいう。通常は、起因菌の除菌は抗生物質のみにより行われるが、組織内に炎症が起こると、上皮組織の障害により組織内への起因菌の進入を容易にし、抗生物質の効果を阻害する。そこで、抗生物質の除菌効果を阻害する炎症を、迅速に改善する必要がある。本発明者らの研究によると、抗生物質とラクトフェリンを併用することにより、LPSを有しない起因菌に対してもラクトフェリンが抗炎症作用を発揮することを見いだした。乳房炎の治療において、乳汁、血液などの体液中の含まれる生体内物質であるラクトフェリンは体に害がなく最適な物質である。 ラクトフェリンは、本明細書においては、ラクトフェリン、その関連ペプチド及びその塩を含む。ラクトフェリンの関連ペプチドとしては、例えば、ラクトフェリシンが挙げられる。ラクトフェリンの塩としては、例えば、ラクトフェリンのナトリウム塩が挙げられる。ラクトフェリンは、牛の乳汁由来のものが好ましい。 抗生物質としては、乳房炎の起因菌の抗菌スペクトルに合致する抗生物質を用いる。例えば、起因菌がブドウ球菌、連鎖球菌の場合にはエリスロマイシンが挙げられる。 ラクトフェリンと抗生物質は同一の薬剤として同時に投与してもよい。また、別々の薬剤として同時又は異なる時に投与してもよく、言い換えれば、組み合わせて投与、すなわち、併用してもよい。 剤型としては、錠剤、顆粒、粉末、軟膏、液剤が挙げられる。これらは従来公知の技術を用いて製造することが出来る。好ましくは、軟膏又は液体である。軟膏及び液体であると、患部に直接注入、即ち、カニューラを用いて乳頭から乳腺内に薬剤を注入でき、治癒効果が高い。 軟膏とする場合には軟膏基剤を用いる。軟膏基材としては親油性軟膏基材及び親水性軟膏基材が挙げられる。親油性軟膏基材としては、例えば、白色ワセリン、黄色ワセリン、流動パラフィン、オリーブ油、ラッカセイ油、ダイズ油が挙げられる。親水性軟膏基材としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸アルミニウム、グリセリン、カルボキシルメチルセルロースが挙げられる。 液剤とする場合には溶媒を用いる。溶媒としては、上述の基材の他に、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。 治療剤には、その他、緩衝液、等張化剤、安定化剤、防腐剤等を必要に応じて加えることができる。 ラクトフェリンの投与量は、1回に1分房当たりラクトフェリンが100〜200mgとなるように投与するのが好ましく、乳牛の状態により適宜変更する。投与する際のラクトフェリン濃度としては、乳汁中において100〜2,000μg/mlとなるのが好ましい。 抗生物質の投与量は、抗生物質ごと指定されている有効治療量とする。例えば、エリスロマイシンの場合には300mgを一分房あたり一日に投与する。 投与時期は、ラクトフェリンと抗生物質を同時に投与する場合は、抗生物質ごとに指定されている用法および用量に従って同時に投与する。また、別々に投与する場合には、抗生物質ごとに指定されている用法および用量に従って抗生物質を投与し、抗生物質投与後4日以内にラクトフェリンを投与するのが好ましい。 投与方法は、特に限定するものではなく、経口、注射、カニューラによる注入等が挙げられるが、カニューラを用いて乳頭から乳腺内に薬剤を直接注入するのが好ましい。 以下、試験例を用いてより具体的に説明する。 乾乳期導入後(すなわち、搾乳を人工的に停止した後)7〜14日の間に黄色ブドウ球菌を起因菌とする臨床型乳房炎を発症した分房について、抗生物質及びラクトフェリンを投与し、以下の項目(1)〜(3)について経時的に観察した。これと比較するために、抗生物質のみを投与またはラクトフェリンのみを投与し、同様に観察した。投与は、カニューラを用いて乳頭から乳腺内に軟膏として直接注入した。(1) 臨床症状 抗生物質及びラクトフェリンまたはいずれか一方の投与前、治療開始後3日目及び7日目に分房を触診及び目視して調べた。(2)起因菌数 起因菌としてブドウ球菌の測定を行った。測定方法は、抗生物質及びLfまたはいずれか一方の投与直前から治療開始後7日目に乳腺から採取した乳汁を、それぞれ減菌生理的食塩水により、10、100、1000倍に希釈し、これを寒天培地(No.110培地)に平板塗抹法により塗布し、37℃で48時間培養後、寒天培地上に形成された集落数からブドウ球菌数をカウントした。(3)分娩後の乳汁分泌状態 具体的には、体細胞数(SCC)と、カリフォルニア・マスタイティス・テスト変法(CMT変法)と、ブツの有無により乳汁分泌状態を調べた。 SCC数については、ヨウ化プロピディウムにより乳汁中の細胞の核酸を染色し、フローサイトメーターにより測定した。体細胞は白血球と上皮細胞からなり、体細胞のほとんどを占める白血球は炎症に対する反応として乳汁中に現れるものである。従って、SCC数が低ければ正常乳汁であり、多ければ異常乳汁である。 CMT変法については、乳汁にCMT試薬を加えてゲル化反応の有無と色調の変化を検査した。乳汁と試薬との混合物が水様のままであれば細胞数少ない正常乳汁であり、ゲル状又は凝集した状態であれば細胞数の多い異常乳汁である。また、乳汁と試薬との混合物に色調の変化がなければ正常乳汁であるが、わずかでも緑色に変化していれば血液などの体液成分が混入している異常乳である。 ブツの有無については、目視により乳汁中に凝固した小さな固まりが見えなければ正常乳汁であり、固まりが1つでも見えれば細胞数の多い異常乳汁である。(試験例1) 黄色ブドウ球菌を起因菌とする乾乳期臨床型乳房炎25分房のうち、9分房についてはラクトフェリン及び抗生物質を併用投与した(以下、併用療法とする。)。抗生物質としては泌乳期用抗生物質(セファゾリンナトリウム)を用いた。ラクトフェリンの投与量は一分房あたり200mg、抗生物質の投与量は150mgである。また、10分房については、ラクトフェリンを1分房あたり200mgとなるよう単独投与した(以下、ラクトフェリン療法とする。)。さらに、6分房については、上記の抗生物質を一分房あたり150mgとなるよう単独投与した(以下、抗生物質療法とする。)。 また、併用療法では、抗生物質の投与と同時にラクトフェリンを投与するか、もしくは、抗生物質投与後3日目にラクトフェリンを投与した。 なお、ラクトフェリン及び/又は抗生物質の投与日を治療開始日(0日)とするが、抗生物質投与後3日目にラクトフェリンを投与する場合には、ラクトフェリンの投与日を治療開始日(0日)とする。(1)臨床症状 治療開始後3日目に、併用療法分房の44.4%から腫脹、硬結及び発熱等の臨床症状が消失した。これに対し、抗生物質療法分房及びラクトフェリン療法分房からは臨床症状の消失は見られなかった。治療開始後7日目に、併用療法分房の8割から臨床症状が消失した。これに対し、抗生物質療法分房及びラクトフェリン療法分房では約半分の分房に治療効果が認められた。表1に臨床症状の消失割合を示す。つまり、本発明によると、臨床症状を緩和する顕著な作用効果を奏する。 また、抗生物質とラクトフェリンとを同時に投与した場合でも、抗生物質投与後3日目にラクトフェリンを投与した場合でも同様の効果を示した。(2)起因菌数 治療開始後7日目に、併用療法分房の全9分房から得られた乳汁については、黄色ブドウ球菌数が大きく低減した。これに対し、抗生物質療法分房及びラクトフェリン療法分房から得られた乳汁については、約半分の乳汁において菌数が低下したが、残り半分の乳汁は菌数の変化がないか菌数が増加した。図1に黄色ブドウ球菌数の変化を示す。つまり、抗生物質単独療法では除菌効果が認められたのは約半分だったが、抗生物質とラクトフェリンとの併用療法では全分房に顕著な除菌効果が認められた。つまり、本発明によると、ラクトフェリンにより抗生物質の除菌効果が増強した。(3)分娩後の乳汁分泌状態 乾乳期の臨床型乳房炎の治療により、分娩後に出荷可能な正常乳汁を分泌できるか知るために分娩後の乳汁分泌状態をそれぞれ調べた。 SCC数について、併用療法分房から得られた乳汁では、分娩後7日目の体細胞数は44±14万個/mlであり、出荷可能な数値であった。一方、抗生物質療法分房及びラクトフェリン療法分房から得られた乳汁は、出荷できる程度ではあるが併用療法分房の5倍以上高かった。特に、抗生物質療法分房では、治療開始前と比較してSCC数がむしろ増加した。各乳汁中のSCC数を表2に示す。つまり、本発明によると、分娩後の正常乳汁の分泌を誘導する優れた作用効果を奏する。 CMT変法及びブツの有無については、分娩後7日目において、併用療法分房から得られる乳汁の77.8%はCMT変法及びブツの有無から判断して正常であった。これに対して、抗生物質療法分房から得られる乳汁では正常乳汁は20%、ラクトフェリン療法分房から得られる乳汁では33.3%であった。表3にCMT変法及びブツの有無から判断した正常乳汁の割合を示す。つまり、本発明によると、分娩後の正常乳汁の分泌を誘導する優れた作用効果を奏する。 従来は、臨床型乳房炎は、乳房炎の起因菌、例えば、黄色ブドウ球菌が形成するバイオフィルムなどにより、抗生物質の作用から免れ、難治性となり易かったが、抗生物質とラクトフェリンを併用すると高い治療効果が得られる。(試験例2) 次いで、このラクトフェリンによる治療効果がどのような作用によるものか、乳腺上皮細胞株(BMEC)(Sakamoto, K., et al. 2005. J. Dairy Res. 72:264-270.)を用い検討した。 はじめに、乳房炎乳汁中に出現し催炎作用を示す小分子化したラクトフェリン分子(炎症性ラクトフェリン;Komine, K., et al. 2005. J. Vet. Med. Sci. 67:667-677.)と正常なラクトフェリンとを、BMECを用い刺激培養を行った。そして、炎症性のサイトカインである腫瘍壊死因子(TNFα)とインターロイキン(IL−6)、及び炎症時に組織内に浸潤し周辺組織の傷害に働く白血球の遊走化因子であるケモカインのIL-8とMonocyte Chemotactic Protein (MCP-1)の乳汁細胞でのmRNAの発現能をRT-PCR法で測定した。 正常なラクトフェリン培地(Lf)では、未刺激の群(培地)に比べ、IL-6、TNFα及びMCP-1でmRNAの発現が増加しているが、有意な差は認められなかった。また、IL-8の発現にはほとんど変化は認められなかった。 炎症性ラクトフェリン刺激培地(炎症性Lf)では、サイトカイン及びケモカインのいずれについても、未刺激の群(培地)及び正常なラクトフェリン刺激培地(Lf)と比較して有意に(P<0.01)高いmRNA発現が確認された。 炎症性ラクトフェリンと正常なラクトフェリンとの混合刺激培地では、炎症性ラクトフェリン単独による刺激培養のmRNA発現量に比べ有意に低く(P<0.01)、正常なラクトフェリン単独の刺激培養の同程度まで低下していた。図2にmRNA発現量を示す。 以上の結果から、ラクトフェリンには、炎症性ラクトフェリンによる炎症作用に対して炎症抑制作用があることが分かった。 さらに、この抗炎症作用の具体的作用機構について検討を行なうため、炎症性サイトカイン、ケモカイン、スーパーオキサイドなどの各種炎症メディエーターの産生誘導にかかわる、細胞内の転写因子であるNuclear Factor-κB(NFκB)について、正常なラクトフェリンおよび炎症性ラクトフェリンによるBMECの刺激培養後に、細胞内のNFκBp65の活性をELISA法により測定した。 その結果、正常なラクトフェリンによる刺激に比べ、炎症性ラクトフェリンでは、約5倍高いNFκBの活性の上昇が確認された。一方、正常なラクトフェリンと炎症性ラクトフェリンの混合刺激培養では、炎症性ラクトフェリンの単独刺激に比べ、半分以下の活性にまで抑制されていた。図3参照のこと。 すなわち、ラクトフェリンには、炎症性ラクトフェリンによる炎症反応を抑制する作用が明らかとなった。そして、この抗炎症作用は従来の報告にあるラクトフェリンとLPSの結合による抗炎症作用とは異なる機構により誘導されていることが強く示唆された。 本発明によると、NFκB活性抑制効果を介した炎症性サイトカインの産生を抑制する優れた効果を奏する。また、本発明によると、炎症メディエーター及び炎症性ラクトフェリン分子の産生抑制する優れた効果を奏する。ブドウ球菌数の変化を示すグラフである。ラクトフェリンによる炎症性サイトカインならびにケモカインの産生抑制効果を示すグラフである。ラクトフェリンによる細胞内転写因子NFκBの活性抑制効果を示すグラフである。 ラクトフェリン及び抗生物質を組み合わせた乳房炎の治療剤。 乾乳期のウシ乳房にラクトフェリン及び抗生物質を組み合わせて投与する乳房炎の治療方法。 乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンと抗生物質の併用療法によるNFκB活性抑制効果を介した炎症性サイトカインの産生抑制方法。 乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンと抗生物質の併用療法による炎症メディエーター及び炎症性ラクトフェリン分子の産生抑制方法。 乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンの注入による抗生物質の除菌作用の増強方法。 乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンと抗生物質の併用療法による乳房の臨床症状緩和方法。 乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンと抗生物質の併用療法による分娩後の乳房炎発症予防方法。 乾乳期臨床型乳房炎乳腺内へのラクトフェリンと抗生物質の併用療法による分娩後の正常乳汁分泌誘導方法。 【課題】優れた治療効果を達成する乳房炎の治療剤を提供し、牛の淘汰、廃用、盲乳を低減することを目的とする。【解決手段】乾乳期のウシ乳房に、ラクトフェリン及び抗生物質を投与する乳房炎の治療剤を提供する。【選択図】なし