生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_植物の開花を遅延させるDNA発現カセット
出願番号:2006232039
年次:2008
IPC分類:C12N 15/09,A01H 5/00,A01H 1/00,C07K 19/00,A01C 1/00


特許情報キャッシュ

島本 功 黒谷 賢一 JP 2008054512 公開特許公報(A) 20080313 2006232039 20060829 植物の開花を遅延させるDNA発現カセット 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 504143441 田中 光雄 100081422 矢野 正樹 100106231 島本 功 黒谷 賢一 C12N 15/09 20060101AFI20080215BHJP A01H 5/00 20060101ALI20080215BHJP A01H 1/00 20060101ALI20080215BHJP C07K 19/00 20060101ALI20080215BHJP A01C 1/00 20060101ALI20080215BHJP JPC12N15/00 AA01H5/00 AA01H1/00 AC07K19/00A01C1/00 W 19 3 OL 22 2B030 2B051 4B024 4H045 2B030AA02 2B030AD20 2B030CA14 2B030CB02 2B051AA02 2B051AB01 2B051BA04 2B051BB20 4B024AA08 4B024BA80 4B024CA04 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024DA01 4B024EA04 4B024FA02 4B024FA06 4B024FA07 4B024FA10 4B024GA11 4B024HA01 4H045AA10 4H045AA20 4H045AA30 4H045BA10 4H045BA41 4H045CA30 4H045EA50 4H045FA74 本発明は、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる遺伝子、該遺伝子で形質転換した植物および該遺伝子を用いて短日植物の開花時期を人為的に遅延させる方法に関する。 開花は、繁殖に極めて深く関与するため、植物の生活環において重要な事象である。長日植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の分子遺伝学的解析の研究により、概日リズム、光同調および光周性に関連する多くの遺伝子が近年同定されている。そして、Myb−様の転写因子をコードする"LATE ELONGATED HYPOCOTYL(LHY)"および"CIRCADIAN CLOCK ASSOCIATED 1(CCA1)"を過剰発現させると遅い開花を生じることが(非特許文献1および2)、"EARLY FLOWERING 3(ELF3)"および"GIGANTEA(GI)"は機能不明の核タンパク質をコードしていることが判明している。前者における突然変異は早期の開花を生じるが、後者における突然変異は開花を遅延させる(非特許文献3−5)。これらの概日時計関連遺伝子の発現は相互に関連しているため、それらの遺伝子経路はほとんど同定されていない。"CONSTANS(CO)"の発現レベルは、GI、LHYおよびELF3の突然変異体において変化していることが記録されている。これらの概日時計遺伝子はCO発現レベルが夜中にピークに達することを誘導すると考えられ、CO発現の時期のシフトは光周性開花の引き金として作用し、長日条件下で開花へ移行させるための遺伝子である"FLOWERING LOCUS T(FT)"および"SUPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CONSTANS 1(SOC1)"の発現を誘導すると考えられている(非特許文献6−10)。COタンパク質はアミノ末端に向かうGATA転写因子のジンクフィンガーに類似するタンパク質の2の領域と、核内局在化およびカルボキシ末端付近におけるタンパク質−タンパク質相互作用に必要なCCT(CO、CO−様、TOC1)ドメインとを含んでいる。一方、FT転写の活性化は、概日リズムによって制御されるCO mRNAの合成量と長日条件下で光によって制御される転写後調節に依存することが提唱されている。 一方、短日植物であるイネ(Oryza sativa)の分子遺伝学的解析により、"PHOTOPERIOD SENSITIVITY 5(Se5)"、"Heading-date 1(Hd1)"、"Heading-date 3a(Hd3a)"およびOsGIのような、シロイヌナズナ遺伝子の幾つかのオーソログが光周性開花に関与していることが明らかにされている(非特許文献11−14)。その中で、Hd1およびHd3aは、イネ品種間の異なる開花時期に寄与している量的形質遺伝子座として単離されたものであり、各々、シロイヌナズナにおけるCOおよびFTの相同性タンパク質をコードし(非特許文献12および13)、Se5はフィトクロム発色団を生合成するヘムオキシゲナーゼであるHY1に類似するタンパク質をコードしていることが判明している。このSe5における突然変異は連続光および長日条件下ならびに短日条件下で顕著に早期の開花を引き起こし、光周性開花応答は示さない(非特許文献11)。シロイヌナズナGIのイネ・オーソログであるOsGIは、ディファレンシャル・ディスプレイ法によって、Se5突然変異体において発現が抑制された遺伝子として単離されたものである(非特許文献14)。これらの研究から、OsGIはシロイヌナズナに類似する様式を介してHd1の発現を仲介して開花を制御するが、Hd1はそれとは異にしてHd3aの発現を仲介していることが仮定される。顕著に早期の開花と共に存在するHd3aを過剰発現するトランスジェニック・イネ植物体は、Hd3aがシロイヌナズナにおけるFTとまさに同じくイネにおいて開花プロモーターとして作用することを示した(非特許文献13)。しかし、シロイヌナズナにおけるFTとは反対に、Hd3aのmRNAは短日条件下でのみ蓄積し、Hd3aとFTの発現は異なる様式で調節されることが示されていた(非特許文献15および16)。 このような状況の下、Hd1(Ehd1)遺伝子が単離され、これは植物の開花を促進する機能を有するタンパク質をコードすることが示されている(特許文献1)。そして、特許文献1に記載された発明では、Hd1遺伝子は、それ自体で植物の開花の促進に寄与し、そのアンチセンスmRNA等を用いてHd1遺伝子の機能を低下させた場合には、開花時期を遅延することができると記載されている。特開2003−339382公報Wang, Z. Y. and Tobin, E. M. (1998) Cell 93, 1207-17.Green, R. M. and Tobin, E. M. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 4176-9.Fowler, S., Lee, K., Onouchi, H., Samach, A., Richardson, K., Morris, B., Coupland G., and Putterill J. (1999) EMBO J. 18, 4679-88.Huq, E., Tepperman, J. M., and Quail, P. H. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 9789-94.Hicks, K. A., Albertson, T. M., and Wagner, D. R. (2001) Plant Cell 13, 1281-92.Kardailsky, I., Shukla, V. K., Ahn, J. H., Dagenais, N., Christensen, S. K., Nguyen, J. T., Chory, J., Harrison, M. J., and Weigel, D. (1999) Science 286, 1962-5.Kobayashi, Y., Kaya, H., Goto, K., Iwabuchi, M., and Araki, T. (1999) Science 286, 1960-2.Ledger, S., Strayer, C., Ashton, F., Kay, S. A., and Putterill, J. (2001) Plant J. 26, 15-22.Suarez-Lopez, P., Wheatley, K., Robson, F., Onouchi, H., Valverde, F., and Coupland, G. (2001) Nature 410, 1116-20.Araki, T. (2001) Curr. Opin. Plant Biol. 4, 63-8.Izawa, T., Oikawa, T., Tokutomi, S., Okuno, K., and Shimamoto, K. 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(2004) Plant Physiol. 135(2), 677-84. しかしながら、本発明者らが、単離したHd1遺伝子を単独で導入したトランスジェニック植物体を作製して検討したところ、野生型(非トランスジェニック)植物体と比較して、Hd1遺伝子のmRNAの発現レベルやタンパク質への翻訳レベルで多少の変化が認められるものの、開花時期は促進も遅延もしないことが明らかになった。したがって、Hd1遺伝子に関連する改変により開花時期が変化した植物体を得る手段が求められていた。 本発明者らは、開花時期が変化した植物体を得るべく鋭意検討した結果、驚くべきことには、Hd1遺伝子にある種のペプチドをコードするヌクレオチド配列を融合して短日植物に導入するとその短日植物の開花時期が短日条件下で遅延することを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、[1](1)(a)配列表の配列番号:1のアミノ酸配列からなるタンパク質または(b)アミノ酸配列(a)において1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる作用を有するタンパク質をコードするDNA;および (2)1個以上のアミノ酸からなるペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAを含む、短日条件下で短日植物の開花を遅延させるためのDNA発現カセット;[2](1)のDNAが、配列番号:2の塩基配列を有するDNA、配列番号:2の塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるDNAに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる作用を有するタンパク質をコードするDNA、または、配列番号:2の塩基配列を有するDNAに対して85%以上の相同性を有し、かつ、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる作用を有するタンパク質をコードするDNAである[1]記載のDNA発現カセット;[3](2)のDNAがタンデム・アフィニティー・プリフィケーション(tandem affinity purification、TAP)タグをコードするDNAである[1]または[2]記載のDNA発現カセット;[4](2)のDNAが配列番号:3の塩基配列を有する[3]記載のDNA発現カセット;[5]配列番号:4または5で示される塩基配列を有する[4]記載のDNA発現カセット;[6]短日植物がイネ、キク、アサガオ、コスモス、ダイズ、オナモミ、ポインセチア、トウモロコシおよびオオムギよりなる群から選択される[1]ないし[5]のいずれか1に記載のDNA発現カセット;[7](1)のDNAのmRNAへの転写および/またはタンパク質への翻訳を抑制することなく、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる[1]ないし[6]のいずれか1に記載のDNA発現カセット;[8]長日条件下で短日植物の開花を遅延させることなく、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる[1]ないし[7]のいずれか1に記載のDNA発現カセット;[9][1]ないし[8]のいずれか1に記載のDNA発現カセットを含むベクター;[10]さらに、作動可能なプロモーター、ターミネーター、エンハンサーおよび/または薬剤耐性マーカー遺伝子を含む[9]記載のベクター;[11]プロモーターが、トウモロコシ・ユビキチンプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス 35Sプロモーター、アグロバクテリウムTiプラスミド由来ノパリンシンターゼプロモーターおよびアクチンプロモーターよりなる群から選択される[10]記載のベクター;[12]ターミネーターが、ノパリンシンターゼターミネーター、オクトピンシンターゼターミネーター、カリフラワーモザイクウイルス 35SターミネーターおよびタバコPR1a遺伝子のターミネーターよりなる群から選択される[10]または[11]記載のベクター;[13][9]ないし[12]のいずれか1に記載のベクターで形質転換した植物;[14]植物がイネ、キク、アサガオ、コスモス、ダイズ、オナモミ、ポインセチア、トウモロコシおよびオオムギよりなる群から選択される[13]記載の植物;[15]植物細胞、プロトプラスト、植物カルス、植物器官、植物組織または植物体である[13]または[14]記載の植物;[16][13]ないし[15]のいずれか1に記載の植物により産生されるHd1−TAP融合タンパク質;[17][13]ないし[15]のいずれか1に記載の植物から得られる種子;[18][9]ないし[12]のいずれか1に記載のベクターで短日植物の細胞を形質転換し、該形質転換細胞から植物体を再生させることを含む、短日条件下で開花が遅延する短日植物の作製方法;[19][9]ないし[12]のいずれか1に記載のベクターで短日植物の細胞を形質転換し、該形質転換細胞を短日条件下で再生および栽培することを特徴とする短日植物の開花を遅延させる方法を提供する。 本願の特許請求の範囲および明細書中で単に「植物」という場合は、植物の細胞、プロトプラストないしカルス、植物器官(例えば、根、茎、葉、花弁、胚、胚乳、子房、茎頂、葯、花粉、種子、実など)、植物組織(表皮、師部、柔組織、木部、維管束など)および植物体などの植物がとり得るすべての形態を含むことを意味する。 本願の特許請求の範囲および明細書中で「1ないし数個のアミノ酸」という場合は、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜13個、さらに好ましくは1〜10個、よりさらに好ましくは1〜7個、なおよりさらに好ましくは1〜5個のアミノ酸を意味する。 本願の特許請求の範囲および明細書中で用いる「短日条件」とは、1日当たりの日照時間または恒温チャンバー等で栽培する場合には1日当たりの照明時間が約12時間以下であることを意味する。 恒温チャンバー等で人工栽培する際は、一般に照明時の温度は約30℃、非照明時の温度は約25℃である。また、照明の強度は約100〜500μmol m−2s−1(波長400−750nm)、好ましくは約120〜400μmol m−2s−1(波長400−750nm)であり、さらに好ましくは約150〜370μmol m−2s−1(波長400−750nm)であり、よりさらに好ましくは約250〜350μmol m−2s−1(波長400−750nm)である。 また、本願の特許請求の範囲および明細書中で用いる「長日条件」とは、日照時間または照明時間が約12時間を超える以外は上記と同じ条件を意味する。 本願の特許請求の範囲および明細書中で用いる「開花を(が)遅延させる(する)」とは、同一の短日条件下において栽培した非トランスジェニック対照植物体(野生株)に対して、通常約7日以上、好ましくは約10日以上、さらに好ましくは約14日以上、最も好ましくは約20日以上、トランスジェニック植物体の開花を(が)遅れさせる(遅れる)ことを意味する。一方、「開花を(が)遅延させる(する)ことなく」とは、同一の短日条件下において栽培した非トランスジェニック対照植物体(野生株)と実質的に同じ開花時期となることを意味し、ここに「実質的に同じ開花時期」とは同じ品種の個体間における開花時期の変動誤差の範囲内にあることを意味する。 本願の特許請求の範囲および明細書中で用いる「ストリンジェントな条件」とは、ある塩基配列に対して高い相同性を有する他の核酸配列が特異的にハイブリダイズすることができる条件を意味し、このような条件下であれば特に限定されるものではないが、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubelら編、John Wiley & Sons, Inc. (1995), セクション2、4および6に見出すことができる。さらなるストリンジェントな条件は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Sambrookら、Cold Spring Harbor Press (1989), 第7、9および11章に記載されている。 本発明において好ましいストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、約42℃にて約4×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中のハイブリダイゼーション(または約42℃にて約4×SSCおよび約50%ホルムアミド中のハイブリダイゼーション)につづく、約42℃にて約2×SSC中の1回以上の洗浄が挙げられる。 また、本発明において好ましいよりストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、約65℃にて4×SSC中のハイブリダイゼーション(または約65℃にて約4×SSCおよび約50%ホルムアミド中のハイブリダイゼーション)につづく、約65℃にて約2×SSC中の1回以上の洗浄が挙げられる。 また、本発明において好ましいよりさらにストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、約42℃にて約0.5〜2×SSC中のハイブリダイゼーション(または約42℃にて約0.5〜2×SSCおよび約50%ホルムアミド中のハイブリダイゼーション)につづく、約42℃にて約0.5〜2×SSC中の1回以上の洗浄が挙げられる。 また、本発明において好ましい最もストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、約65℃にて約0.5〜2×SSC中のハイブリダイゼーション(または約65℃にて約0.5〜2×SSCおよび約50%ホルムアミド中のハイブリダイゼーション)につづく、約65℃にて約0.5〜2×SSC中の1回以上の洗浄が挙げられる。 さらなる試薬をハイブリダイゼーションおよび/または洗浄緩衝液に添加してメンブレン、例えばニトロセルロースまたはナイロン・メンブレンに対する核酸分子の非特異的なハイブリダイゼーションを減少させることができることも当該技術分野において周知であり、これには例えばブロッキング剤(例えば、牛血清アルブミン(BSA)またはサケもしくはニシンのキャリアーDNA)、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))、キレート剤(例えば、EDTA)、Ficoll(登録商標)、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。 本発明によれば、短日条件下で開花時期が遅延し、開花時期以外の形質においては野生株と実質的に同等の形質を有する植物を安定して得ることができる。植物の開花時期を遅延させることができれば、地域間における日照時間差の影響を調整できるため植物の栽培地域の融通性を広げることができ、また、長期間にわたって開花段階の状態の植物を供給することができる。さらに、開花によって成長が停止する植物種においては、開花時期を遅延させることによってより高い成長段階の植物体を得ることができる。 なお、前述の特許文献1には、本発明のHd1遺伝子に相当するEhd1(Hd1)遺伝子が植物(イネ)の開花(出穂)を促進すると記載されており、その遺伝子の発現をmRNAへの転写段階またはタンパク質への翻訳段階で抑制する公知の技術によって植物の開花時期を遅延させることができると記載されている。 これに対し、本発明は、Hd1タンパク質を他のペプチドとの融合タンパクとして発現させることにより、短日条件下で短日植物の開花が遅延することを見出し、他の形質においては野生株と実質的に同等の形質を有しつつ、かかる効果を奏する植物を得たものである。 本発明におけるHd1タンパク質をコードするDNAは、好ましくは配列番号:1のアミノ酸配列からなるタンパク質、またはそのアミノ酸配列において1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる作用を有するタンパク質をコードするDNAである。また、より好ましくは、配列番号:2の塩基配列を有するDNA、または配列番号:2の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するDNAに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる作用を有するタンパク質をコードするDNAである。ここで、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは前述の定義と同じである。 また、Hd1タンパク質をコードするDNAには、配列番号:2の塩基配列を有するDNAに対して、少なくとも85%以上、好ましくは87%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、よりさらに好ましくは95%以上、なおよりさらに好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAも含まれる。 本発明のHd1タンパク質をコードするDNAの起源植物としては、例えば、イネ(Oryza sativa)、キク(Dendranthema morifolium)、アサガオ(Ipomoea nil)、コスモス(Cosmos bipinnatus)、ダイズ(Glycine max)、オナモミ(Xanthium strumarium)、ポインセチア(Euphorbia pulcherrima)、トウモロコシ(Zea mays)、オオムギ(Hordeum vulgare)などが挙げられる。 Hd1タンパク質をコードするDNAは、上述のHd1遺伝子を有する植物のゲノムから当該技術分野で周知慣用されている技術を用いて得ることができる。ここで、かかる周知慣用技術としては、例えばRT−PCR、ゲノミックPCR、またはHd1ホモログをプローブとしたcDNAライブラリーもしくはゲノミックライブラリーのスクリーニングなどが挙げられる。 例えば、一般的にHd1遺伝子を有する植物、例えばイネ品種農林8号の生体細胞からtotal RNAを抽出し、逆転写によって調製したcDNAを鋳型とし、植物固有のHd1遺伝子に対応するプライマーを用いたPCR法により増幅する方法が挙げられる。この際用いるプライマーとしては、例えば以下のプライマーを挙げることができる。Fwプライマー:5'-CACCGGGATT GGATCCATG-3'(配列番号:6)(pENTR用のCACC配列を付加している)Rvプライマー:5'-GAACCATGGA ACAGTACCA-3'(配列番号:7)(C末端のTAP付加用に終止コドンを削除している) 本発明における1個以上のアミノ酸からなるペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAは、Hd1タンパク質との融合タンパク質として植物内で発現させた場合に、実質的に短日条件下にて開花を遅延させる以外の影響を及ぼさず、形態的に安定した形質転換植物体が得られるものであれば限定されるものではないが、好ましくは鎖長として1〜約1000残基、より好ましくは約50〜500残基、さらに好ましくは約100〜300残基のペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAが好ましく、例えば、種々のフラグメントを含むタンデム・アフィニティー・ピュリフィケーション・タグ(tandem affinity purification tag、以下「TAPタグ」という)、Flag tag、Histidine tag、GST tagまたはそれらの断片などをコードするDNAが挙げられる。これらのペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAは、天然に存在するものであっても、その一部分を遺伝子工学的技術により改変したものであっても、あるいは全体を人工的に作製したものであってもよい。 とりわけ、5’側より、カルモジュリン結合ペプチド、TEVプロテアーゼ切断部位および黄色ブドウ球菌のプロテインAのIgG結合ドメインからなるTAPタグをコードするDNAなどが好ましい(配列番号:3)(Invitrogen社および島根大学総合科学研究支援センター遺伝子機能解析分野 中川強博士の共同開発、中川博士より分与いただいた)。これらのDNAは、当該技術分野における周知慣用技術を用いて調製することができる。 本発明のDNA発現カセットは、上述のHd1タンパク質をコードするDNAおよび1個以上のアミノ酸からなるペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAを作動可能に連結することにより作製することができ、本発明のDNA発現カセットにおけるHd1タンパク質をコードするDNAおよびペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAの位置は、両方が融合タンパク質として発現されて本発明の効果が奏される限り特に限定されず、5’側よりHd1タンパク質をコードするDNAおよびペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAがこの順序で作動可能に連結されていても、5’側よりペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAおよびHd1タンパク質をコードするDNAがこの順序で作動可能に連結されていてもよい。また、Hd1タンパク質をコードするDNAおよびペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAの間、または両方もしくは一方の端部にはリンカーが含まれていてもよい。好ましくは、5'側よりHd1タンパク質をコードするDNAおよびペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAがこの順序で作動可能に連結されたDNA発現カセットである。 本発明のベクターは、上述の本発明のDNA発現カセットを適当なベクターに挿入することによって作製できる。この挿入用の適当なベクターとしては、本発明のDNA発現カセットを目的とする植物に導入することができ、かつ、その植物内で作動可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、pBI、pTRA、pUCシリーズなどのプラスミドベクター、タバコモザイクウイルス等の植物ウイルスベクターなどが挙げられる。 このベクターには、上述したDNA発現カセットのほか、そのDNA発現カセットの5'側、内部または3'側に、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、薬剤耐性マーカー遺伝子などの植物内で目的の遺伝子を有効に発現させるため、または遺伝子組換え操作を簡便に行うための種々の因子を含ませることができる。 プロモーターとしては、本発明のDNA発現カセットの転写を開始するものであれば限定されるものではないが、例えば、トウモロコシ・ユビキチンプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス 35Sプロモーター、アグロバクテリウムTiプラスミド由来ノパリンシンターゼプロモーター、イネ由来アクチンプロモーターなどが挙げられる。 また、ターミネーターとしては、本発明のDNA発現カセットの転写効率を向上し得るものであれば限定されるものではないが、例えば、ノパリンシンターゼターミネーター、オクトピンシンターゼターミネーター、カリフラワーモザイクウイルス 35Sターミネーター、タバコPR1a遺伝子のターミネーターなどが挙げられる。 また、エンハンサーとしては、上述のプロモーターからの転写効率を高め得るものであれば限定されるものではないが、例えば、カリフラワーモザイクウイルス 35Sプロモーター内の5'側の配列を含むエンハンサー領域などが挙げられる。 薬剤耐性マーカー遺伝子としては、組換えベクターが導入された植物の選抜を容易にし得るものであれば限定されるものではないが、例えば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII遺伝子(カナマイシン耐性を付与)、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(ハイグロマイシン耐性を付与)、bar遺伝子(ビアラホス耐性)、brs遺伝子(ブラストサイジンS耐性を付与)、変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子(除草剤ビスピリバック耐性を付与)などが挙げられる。 本発明のベクターを導入して、短日条件下で開花時期を遅延させる短日植物としては、イネ(Oryza sativa)、キク(Dendranthema morifolium)、アサガオ(Ipomoea nil)、コスモス(Cosmos bipinnatus)、ダイズ(Glycine max)、オナモミ(Xanthium strumarium)、ポインセチア(Euphorbia pulcherrima)、トウモロコシ(Zea mays)、オオムギ(Hordeum vulgare)などが挙げられ、これらの植物の細胞、プロトプラスト、カルス、植物器官、植物組織に本発明のベクターを導入することができる。細胞、プロトプラスト、カルスにベクターを導入する場合は、それから分化・再生させてトランスジェニック植物体を作製することができ、植物体の開花時期を遅延させることができる。一般的に、植物の細胞、プロトプラスト、カルスにベクターを導入する方法としては、アグロバクテリウムのTiプラスミド法、ウイルスベクター法、PEG−リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられ、植物細胞、カルス、植物器官または植物組織にベクターを導入する方法としては、パーティクルガン法、イン・プランタ法などが挙げられる。 本発明のベクターは、好ましくは植物細胞ないしカルスに導入し、導入細胞ないしカルスは当該技術分野における周知慣用技術に従って分化・再生させることができ、分化・再生したトランスジェニック植物体は発芽から開花までの期間にわたり短日条件下で生育することによりその開花を遅延させることができ、本発明はかかるトランスジェニック植物体の作製方法および短日植物の開花を遅延させる方法も提供する。 また、本発明のDNA発現カセットが生殖細胞に導入された場合には、かかるトランスジェニック植物体から得られる種子も同様の形質を有する植物体に生育する。したがって、本発明はかかるトランスジェニック植物体から得られる種子も提供する。 ベクターを導入したカルスやそれから再生したトランスジェニック植物体またはトランスジェニック植物体から得られた種子などの植物においてHd1−ポリペプチド融合タンパク質をコードするDNAがmRNAに転写され、またはタンパク質に翻訳されているかは、RT−PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウェスタンブロッティング法などの当該技術分野における周知慣用技術により調べることができる。 例えば、ウェスタンブロッティング法によれば、一定の段階まで成長した形質転換植物体の葉身などの器官から、Liuら, Plant Cell, 13, 1293-304 (2001)に記載されている方法などによって核抽出物を得る。その核抽出物を緩衝液に懸濁し、そこからStrataclean(登録商標)樹脂などを用いてDNAを沈澱させ、それをポリアクリルアミドゲル電気泳動にかける。泳動後、抗−Hd1タンパク質抗体または抗−TAP抗体(Open Biosystems社製)および西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗−ウサギIgG抗体などを用いて融合タンパク質バンドを視覚化する。例えば、ECL plus検出キット(Amersham社製)によって発光させて、Hd1−TAP融合タンパク質の産生を検出することができる。 本発明は、これらトランスジェニック植物によって産生されるHd1−TAP融合タンパク質も提供する。 以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、これは説明することを意図するものであって、いかなる場合においても本発明がそれに限定されることを意図するものではない。 シロイヌナズナおよびイネにおける開花の光周期制御の分子メカニズムが極めて一致することが以前に示されている。しかし、このように分子メカニズムが類似するにもかかわらず、どのようにして光周期に対する反対の応答が起きるのかはいまだ明らかにされていない。以前の実験では、Hd3a遺伝子の光周期依存的な調整はHd1遺伝子によって仲介されており、2つの植物でのHd1の機能は相反するということが提唱された;すなわち、シロイヌナズナにおいては長日条件下でCOがFTの発現を誘導し、一方イネにおいては短日条件下においてHd1がHd3aの発現を促進し、長日条件下ではHd1がHd3aの発現を抑制することが提唱された。 イネにおける光周期開花におけるHd1の役割をさらに理解するために、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターまたはトウモロコシ・ユビキチンプロモーター下流でHd1タンパク質のC末端側またはN末端側にTAPタグが融合して発現するトランスジェニック・イネ植物体(U1C、S1CおよびS1N)、ならびに、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター下流でHd1タンパク質を単独で発現するトランスジェニック・イネ植物体(S1)を作製した。イネ植物体からのHd1遺伝子のクローニング イネ品種農林8号からHd1タンパク質をコードするDNAの調製は、以下のようにGTC法によってtotal mRNAを取得した後、cDNAからプライマーを用いたPCR増幅によって行った。 30−40日齢のイネ農林8号の葉身約100mgを2ml容量のチューブに入れ、液体窒素で凍結した。凍結した試料にステンレスビーズを入れ、マルチビーズショッカーを用いて試料を破砕した。それに600μlの抽出緩衝液(4.2Mのグアニジンチオシアネート、0.5%のN−サルコシン酸ナトリウム、25mMのクエン酸ナトリウム、0.1%のAntifoam A Emulsion(登録商標)(Sigma-Aldrich社製)、1滴のβ−メルカプトエタノール)を加えて混和し、12000rpm、室温にて5分間遠心した。上清を新しいチューブに移し、3Mの酢酸ナトリウム60μlを加えて混和した。さらに、600μlのフェノール/クロロホルム(1:1)を加えてボルテックス攪拌した後、15000rpm、室温にて5分間遠心した。生じた水層を新しいチューブに移した。この遠心分離により生じた水層を分離する作業を3回繰り返して得た水層に2.5倍量の99.9%エタノールを加え、転倒混和した。さらに15000rpm、4℃にて20分間遠心分離し、得られた沈澱に400μlの滅菌水を加えて溶解し、沈澱の溶解後に10Mの塩化リチウム10μlを加え、転倒混和した。溶液は氷中に30分間以上静置した後に15000rpm、4℃にて20分間遠心分離した。得られた沈澱を70%エタノールでリンスした後、乾燥させた。沈澱に50μlの滅菌水を加えて溶解し、農林8号のtotal mRNAを調製した。 つぎに、1μgのtotal mRNAを、SuperscriptII(登録商標)キット(Invitrogen社製)を用いて1本鎖cDNAに逆転写した。1μgのこのcDNAを鋳型とし、以下のプライマーを用いてHd1タンパク質をコードするDNAの増幅を行った。Fwプライマー:5'-CACCGGGATT GGATCCATG-3'(配列番号:6)(pENTR用のCACC配列を付加している)Rvプライマー:5'-GAACCATGGA ACAGTACCA-3'(配列番号:7)(C末端のTAP付加用に終止コドンを削除している) PCR反応は94℃にて30秒間、55℃にて30秒間、ついで72℃にて1分間の工程を30サイクルし、その後に72℃にて2分間伸長反応を行った。 このようにして得られたPCR産物を、アガロースゲル電気泳動に付して目的のDNAが増幅されていることを確認した。植物形質転換用ベクターの構築 植物の形質転換用ベクターの構築にはベクターの構築にはバイナリーベクター法およびGateway(登録商標)法を利用し、p2K−1+ベクター、pGWB29ベクター、pGWNTベクター(Gateway(登録商標)にHd1遺伝子とTAP遺伝子を組み込んで作製した。p2K−Hd1:TAP(U1C)ベクター p2K−1+ベクターは、pBIN19バイナリーベクターに、トウモロコシのユビキチン遺伝子の第1イントロンを含む約2kbのプロモーター領域を含む領域、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター下に制御されたハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT)とノパリンシンターゼ遺伝子のターミネーターを含む領域ならびにマルチクローニングサイト(BamHI、SmaI、KpnI、SpeIおよびSacI)を挿入したバイナリーベクターである。 p2K−Hd1:TAP(U1C)ベクターの構築のために、以下のプライマーを用いて、前記のようにして得たHd1 cDNAの5'側半分および3'側半分、ならびにTAP領域をメガプライマー法(Ke S-HおよびMadison, E.L., Nucleic Acids Research, vol. 16, 3371-3372 (1997))によって各々増幅した。TAP領域の増幅は、pBS1479を鋳型として用いた。Hd1 5'側増幅用プライマーFwプライマー:5'-CACCGGGATT GGATCCATG-3'(配列番号:6)Rvプライマー:5'-AAGAGTCCAC CTCCTCGTCC-3'(配列番号:8)Hd1 3'側増幅用プライマーFwプライマー:5'-GTGGTACCTT CACAGATC-3'(配列番号:9)Rvプライマー:5'-TCCATCTTCT CTTTTCCATG AACCATGGAA CAGTACCA-3'(配列番号:10)TAP領域増幅用プライマーFwプライマー:5'-TGGAAAAGAG AAGATGGA-3'(配列番号:11)Rvプライマー:5'-GCTCTAGAAC TAGTCGAT-3'(配列番号:12) 増幅した各断片を鋳型として1つの連結した断片を作製した。この断片をp2K−1+ベクターのKpnIサイトとSalIサイトの間に挿入し(ノパリンシンターゼ遺伝子のターミネーターは除去)、植物形質転換用のバイナリーベクターp2K−Hd1:TAP(U1C)を作製した。pGWB29−Hd1(S1C)およびpGWNT−Hd1(S1N)ベクター pGWB29ベクターは遺伝子を挿入すべき部位のC−末端(または、下流もしくは3'−末端)側にTAP領域を含むベクターである。また、pGWNTベクターはpBS1761由来のTAP領域をpGWB2ベクターの遺伝子を挿入すべき部位のN−末端(または、上流もしくは5'−末端)側に組み込んで作製したベクターである。 pGWB29−Hd1(S1C)およびpGWNT−Hd1(S1N)ベクターは、Gateway(登録商標)pENTR/D−TOPOクローニングキット(Invitrogen社製)を用いて構築した。エントリークローンであるpENTR−Hd1を作製するために、以下のプライマーFwプライマー:5'-CACCGGGATT GGATCCATG-3'(配列番号:6)Rvプライマー:5'-GAACCATGGA ACAGTACCA-3'(配列番号:7)およびPlatinum pfxポリメラーゼ(Invitrogen社製)を用いたPCRによって、Hd1遺伝子を増幅した。得られたPCR産物をpENTR/D−TOPO entry cloning vectorに組み込み(pENTR−Hd1)、配列を確認した。かかるPCRおよびTOPOベクターへのクローニングは、製造業者の指示に従って行った。すでにTAP領域が組み込まれているpGWB29ベクターにpENTR−Hd1をLR反応(Gateway LR clonase Enzyme Mix(Invitrogen社製))させてHd1遺伝子を組み込み、pGWB29−Hd1(S1C)を作製した。 また、pGWNTベクターは以下のように作製した。TAP領域は、pBS1761を鋳型とし、以下のプライマーFwプライマー:5'-TCTAGACCAT GGATGAAGCC GTGGAC-3'(配列番号:13)Rvプライマー:5'-ACTAGTATAA GCTTATCGTC ATCATC-3'(配列番号:14)を用いて増幅した。増幅したTAP領域をpGWB2ベクターに組み込んで、遺伝子を挿入すべき部位のN−末端側にTAP領域を含むバイナリーベクターpGWNTを作製した。 pGWB29およびpGWNTへのHd1遺伝子の組み込みは、Gatewayシステムを用いて行った。詳細には、先に作製したpENTR−Hd1からattLタグ付きのHd1を切り出し、ベクターpGWB29のすでに組み込まれているTAP領域のN−末端側、および、ベクターpGWNTに組み込んだTAP領域のC−末端側に組み込んで、各々、バイナリーベクターpGWB29−Hd1およびpGWNT−Hd1を作製した。pGWB2−Hd1(S1)ベクター pENTR−Hd1のHd1をLR反応(Gateway LR clonase Enzyme Mix (Invitrogen社製)によってpGWB2ベクターに組み込んで、pGWB2−Hd1ベクターを作製した。形質転換用Agrobacterium菌株の調製 バイナリーベクターを含むプラスミドをAgrobacterium tumefaciens EHA101菌株のコンピテントセルに加え、エレクトロポレーション法によって形質転換した。形質転換菌株は、AB培地(1L当たり、グルコース(和光純薬工業(株)製)5g、アガロース(和光純薬工業(株)製)12g、ABバッファー(1L当たり、K2HPO4 60g、NaH2PO4・12H2O 26g(すべて和光純薬工業(株)製))50ml、AB salt(NH4Cl 20g、MgSO4・7H2O 6g、KCl 3g、CaCl2・2H2O 264mg、FeSO4・7H2O 50mg(すべて和光純薬工業(株)製))50ml、ハイグロマイシン50mg、カナマイシン50mg)上、暗黒下、25℃にて2日間生育させて選抜した。その結果、1つの陽性クローンを得、それをYT培地(1L当たり、トリプトン16g(ナカライテスク(株)製)、乾燥酵母エキス(ナカライテスク(株)製)10g、塩化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)5g)中で培養した。そのクローンが形質転換用のバイナリーベクターを保持しているかをPCR法によって確認し、確認されたクローンは2×YT培地中、暗黒下、25℃にて生育させた。得られた培養液からグリセロールストック(培養液:グリセロール=1:1)を調製し、使用するまで−80℃にて保存した。使用時には、−80℃で保存していたグリセロールストックから滅菌したつまようじでAB培地に塗布し、そのAB培地を暗黒下、22℃にて3日間培養して増殖した菌株を使用した。カルスの誘導 以下の実験において、植物としては日本品種「農林8号」を用い、トランスジェニック植物は、24時間の温度サイクル(明所下、30℃にて12時間;暗所下、25℃にて12時間)に設定した人工天候チャンバー内で生育させた。 籾を除去したイネ種子をプラスチックシャーレに入れ、70%エタノールで1分間洗浄し、ついで20%次亜塩素酸ナトリウム水溶液で1時間洗浄した。さらに、クリーンベンチ内に移して滅菌水で5回洗浄した種子をMS4D培地(1L当たり、MS培地用混合塩類4.6g(和光純薬工業(株)製)、スクロース20g(最終濃度2%)、KMビタミン10ml(Sigma-Aldrich Corp.社製、K3129)、2,4−D溶液(20mg/ml)100μl、アガロース8gを含む、pH5.6−5.8に調整)に置床し、明所下、30℃にて3〜4週間培養してカルスを誘導した。カルスへのAgrobacterium菌株の感染 誘導したカルスのみを、新たなMS4D培地に移し、明所下、30℃にて3日間培養した。一方、アグロバクテリウム菌株はMSLA培地(1L当たり、MS培地用混合塩類4.6g(和光純薬工業(株)製)、スクロース20g(最終濃度2%)、KMビタミン10ml(Sigma-Aldrich Corp.社製、K3129)、2,4−D溶液(20mg/ml)100μl、アセトシリンゴン溶液(40mg/ml)1mlを含む、pH5.6−5.8に調整)に懸濁し、OD600で0.01程度の濃度に調整したものを用いた。カルスの入ったプラスチックシャーレにアグロバクテリウム菌株懸濁液を注ぎ、3〜5分間静置して感染させた。その後、カルスに付着した余分な液体をペーパータオルで吸い取り、MS4DA培地(1L当たり、MS培地用混合塩類4.6g(和光純薬工業(株)製)、スクロース20g(最終濃度2%)、KMビタミン10ml(Sigma-Aldrich Corp.社製、K3129)、2,4−D溶液(20mg/ml)100μl、アガロース8g、アセトシリンゴン溶液(40mg/ml)1mlを含む、pH5.6−5.8に調整)に移し、暗所下、22℃にて3日間培養した。形質転換カルスの選抜 培養したアグロバクテリウム処理カルスは、20〜30mlの滅菌水で2〜3回洗浄した。最後の洗浄はカルベニシリンを500mg/mlの濃度で滅菌水に加えて行い、カルスに付着しているアグロバクテリウムを除菌した。洗浄したカルスをMS4DH50培地(1L当たり、MS培地用混合塩類4.6g(和光純薬工業(株)製)、スクロース20g(最終濃度2%)、KMビタミン10ml(Sigma-Aldrich Corp.社製、K3129)、2,4−D溶液(20mg/ml)100μl、アガロース8g、カルベニシリン500mg、ハイグロマイシン50mgを含む、pH5.6−5.8に調整)に置床し、明所下、30℃にて2週間培養した(一次選抜)。一次選抜で増殖してきたカルス(ハイグロマイシン耐性カルス)をMS4DH100培地(1L当たり、MS培地用混合塩類4.6g(和光純薬工業(株)製)、スクロース20g(最終濃度2%)、KMビタミン10ml(Sigma-Aldrich Corp.社製、K3129)、2,4−D溶液(20mg/ml)100μl、アガロース8g、カルベニシリン500mg、ハイグロマイシン100mgを含む、pH5.6−5.8に調整)に移し、明所下、30℃にて2週間培養した(二次選抜)。さらに、二次選抜で増殖してきたカルスをR2RH50培地(1L当たり、R2マクロ溶液(1L当たり、KNO3 80g、(NH4)2SO4 6.7g、MgSO4・7H2O 5.0g、CaCl2・2H2O 3.0g、NaH2PO4・2H2O 5.46g(すべて和光純薬工業(株)製))50ml、R2ミクロ溶液(100mL中、MnSO4・4H2O 160mg、ZnSO4・7H2O 220mg、CuSO4・5H2O 12.5mg、H3BO3 600mg、NaMoO4・2H2O 12.5mg(すべて和光純薬工業(株)製))1ml、FeEDTA(100mL中、Na2EDTA 375mg、FeSO4・7H2O 275mg(すべて和光純薬工業(株)製))2ml、MSビタミン1ml(Sigma-Aldrich Corp.社製)、スクロース30g(和光純薬工業(株)製)、ソルビトール30g(和光純薬工業(株)製)、アガロース10g(和光純薬工業(株)製)、ハイグロマイシン50mgを含む、pH5.6−5.8に調整)に移し、明所下、30℃にて2週間培養して(三次選抜)、形質転換カルスを選抜した。形質転換カルスからの植物体の再生および馴化 三次選抜で増殖してきたカルスをR2R培地(1L当たり、R2Rマクロ溶液50ml、R2Rミクロ溶液1ml、FeEDTA 2ml、MSビタミン1ml(Sigma-Aldrich Corp.社製)、スクロース30g(和光純薬工業(株)製)、ソルビトール30g、アガロース10g(和光純薬工業(株)製)を含む、pH5.6−5.8に調整)に移し、明所下、30℃にて培養し、2週間毎に新しい培地に移し替えた。再生個体が生長したら、R2R培地の入ったマジェンダボックスに移し、発根させた。再生個体は滅菌した育苗培土の入ったマジェンダボックスに移して発根させた。再生個体は滅菌した育苗培地の入ったマジェンダボックスに移植し、ビニールなどで覆って湿度を保ちながら温室で生育させ、4種類の形質転換イネ植物体(30系統のU1C(トウモロコシ・ユビキチンプロモーター−Hd1−TAP)、7系統のS1C(CaMV 35Sプロモーター−Hd1−TAP)、14系統のS1N(CaMV 35Sプロモーター−TAP−Hd1)および3系統のS1(CaMV 35Sプロモーター−Hd1))を得た。 シロイヌナズナにおいては、光によるCOの転写後活性化が開花の光周期活性化に対する重要な事象であることが示唆されている。以前の実験では、35S::CO植物におけるCOタンパク質レベルが光周期に強く依存することが示唆された;すなわち、COタンパク質レベルは長日条件下では一日の終わりにピークを有して昼間は変動するのに対して、短日条件下ではCOタンパク質の発現量は長日条件下よりも低い。そこで、本発明者らは、トランスジェニック・イネ植物体において、Hd1遺伝子のmRNAおよびタンパク質の発現レベルが光周期と相関を有するかについて調べた。トランスジェニック・イネ植物体におけるHd1−TAP遺伝子の発現 得られたトランスジェニック・イネ植物体における導入DNAカセットのmRNAへの転写をRT−PCR法によって検討した。RT−PCR法では、第1鎖のcDNAを鋳型として用い、増幅は94℃にて30秒、55℃にて30秒、72℃にて1分間のサイクルを30回繰り返し、その後に72℃にて7分間の伸長反応を行った。使用したプライマーは以下のとおりである。Hd1:TAP(U1C)増幅用プライマーFwプライマー:5'-GTGGTACCTT CACAGATC-3'(配列番号:9)Rvプライマー:5'-TCAGGTTGAC TTCCCCGCGG AAT-3'(配列番号:15)Hd1:GW(S1CおよびS1N)増幅用プライマーFwプライマー:5'-GTGGTACCTT CACAGATC-3'(配列番号:9)Rvプライマー:5'-CTGTTATCAA CCACTTTGTA CAAGAA-3'(配列番号:16)Hd1(S1)増幅用プライマーFwプライマー:5'-GTTTGCAGAG AAGGAAGGGA GCGAGTG-3'(配列番号:17)Rvプライマー:5'-CTGTTATCAA CCACTTTGTA CAAGAA-3'(配列番号:16)ユビキチン増幅用プライマーFwプライマー:5'-CACAAGAAGG TGAAGCTCGC-3'(配列番号:18)Rvプライマー:5'-GCCTTCTGGT TGTAGACGTA GG-3'(配列番号:19) その結果、26系統のトランスジェニック・イネ植物体U1CにおいてHd1:TAPカセットのmRNAの発現が検出され(図1A)、7系統のS1Cおよび14系統のS1Nにおいて、各々、Hd1:TAPカセット(図1B)およびTAP:Hd1カセット(図1C)のmRNAの発現が検出された。したがって、導入した再生植物体(いずれもT0)において本発明のDNA発現カセットが正常に発現していることがmRNAへの転写レベルで確認された。 また、後記するように、3系統のトランスジェニック・イネ植物体S1については、T1およびT2植物体でのHd1遺伝子のmRNA発現量を測定した。トランスジェニック・イネ植物体におけるHd1−TAP融合タンパク質の発現 次に、タンパク質のレベルを調べるための抗体として抗−TAPペプチド抗体を用いて、各トランスジェニック植物体におけるHd1−TAP融合タンパク質を検出した。トランスジェニック・イネ植物体U1Cの核抽出物におけるHd1−TAP融合タンパク質の発現量を長日条件下および短日条件下で栽培した植物体について各々試験した。 40−50日齢のトランスジェニック・イネ植物体の葉身から、Liu, X.L.ら, Plant Cell, Vol.13, 1293-1304 (2001)に記載されている方法に従って核抽出物を得た。5gの葉から得た核抽出物を25mMのTris−HCl緩衝液(pH8.0)、2.5mMのジチオトレイトール、0.025%のCHAPS、15%のスクロース、25%(w/v)のグリセロールおよび0.5×COMPLETE(登録商標)プロテアーゼインヒビター・カクテル(Roche社製)からなる2mlの溶液に懸濁した。この溶液に、5mMのNaClを最終濃度0.4Mになるよう加えた。ついで、Strataclean(登録商標)樹脂(Stratagene社製)を用いて200μgの抽出物を得、それを12.5%のポリアクリルアミドゲル電気泳動に付した。泳動ゲルに、抗−TAP抗体(Open Biosystems社製)を一次抗体、西洋ワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートした抗ウサギ−抗IgG抗体(Amersham社製)を二次抗体として順次反応させ、ECL plus detection kit(Amersham社製)を用いて発光させ、ウェスタンブロット解析を行った。 その結果、まず、長日条件下で栽培した植物体では、Hd1−TAP融合タンパク質が独立した系統において一日の終わり(ZT(Zeitgeber Time) 14hr)に存在した。恒常的に高い発現を与えるユビキチン・プロモーターのためにHd1:TAP mRNA発現レベルは高いが、Hd1−TAP融合タンパク質の発現量は非常に低く、ウェスタンブロットの検出限界付近のレベルであった(図2A)。つぎに、Hd1−TAP融合タンパク質は、長日条件および短日条件下で、ZT 10hrでも検出された。短日条件下におけるHd1−TAP融合タンパク質の発現レベルは低く、長日条件下における発現と同等であった(図2B)。したがって、導入した再生植物体において本発明のDNA発現カセットが正常に発現していることが融合タンパク質への翻訳レベルでも確認された。トランスジェニック・イネ植物体におけるHd1遺伝子の過剰発現 特開2003−339382(特許文献1)においては、Hd1遺伝子単独の過剰発現がイネの開花を促進することが示されている。そこで、本発明者らは、3系統のHd1遺伝子組換えイネ植物体(S1−5、−28および−32株)を作製し、Hd1遺伝子のmRNA量および開花日数を測定した。mRNA量の測定はreal-time PCR法によって測定し、恒常的に発現しているユビキチンmRNAの量でHd1 mRNA量を除することで個体間の変動を標準化した。real-time PCRに用いた各々のプライマーは以下のとおりである。Hd1増幅用プライマーFwプライマー:5'-TCAGCAACAG CATATCTTTC TCATCA-3'(配列番号:20)Rvプライマー:5'-TCTGGAATTT GGCATATCTA TCACC-3'(配列番号:21)ユビキチン増幅用プライマーFwプライマー:5'-AACCAGCTGA GGCCCAAGA-3'(配列番号:22)Rvプライマー:5'-ACGATTGATTTAACCAGTCCATGA-3'(配列番号:23)その結果、mRNA量はT1植物体において野生型(非トランスジェニック)植物体と同量、あるいは野生型植物体より上昇するものも見られたが(図5A)、T2植物体においては野生型植物体よりも低下することが示された(図5B)。また、短日条件下におけるT2植物体の開花時期を測定したところ、いずれも野生型植物体と有意な差はなく、開花は遅延も促進もされないことが示された(図6)。すなわち、本実験では、Hd1遺伝子を単独で過剰発現させることを試みたが、実際に過剰発現する個体は得られず、Hd1遺伝子単独の強制的な発現によっては短日条件下での開花時期の遅延が起こらないことが確認された。短日条件下で開花の遅延を引き起こすトランスジェニック植物体 以前の研究では、Hd1およびHd2の機能的な対立遺伝子をKasalathの非機能対立遺伝子で置換した日本型イネ栽培品種「日本晴」の準同質遺伝子系統において、Hd1の機能喪失が短日条件下では開花の遅延を引き起こし、長日条件下では開花の促進を引き起こすことが示されている。本発明者らは、開花時期表現型について、Hd1のmRNAの発現レベルが恒常的に高いU1C、S1CおよびS1Nトランスジェニック・イネ植物体を試験した。短日条件下において、これらのトランスジェニック・イネ植物体は野生型または野生型T1segregantのいずれよりも遅く開花し(図3A)、これらの間の差が統計学的に有意であることをスチュデントt検定によって確認した。しかしながら、長日条件下では、それらは野生型と同様に開花した(図3B)。長日条件下では、トランスジェニック植物体と野生型植物体との間に開花時期の統計学的な差は存在しなかった。形態的には、U1C、S1CおよびS1Nトランスジェニック植物体が野生型植物体よりも丈においてより高い場合があった。しかしながら、これらすべてのトランスジェニック・イネ植物体は、穂長以外は形態的な異常を示さなかった(図4)。これは、植物体の穂長が開花により終止するところ、開花が遅延したためその期間の成長分だけ穂長が高くなったものであり、野生型植物体とU1C、S1CおよびS1Nトランスジェニック植物体との間には実質的に開花時期の遅延以外に異なる形質は認められなかった。一方、S1トランスジェニック・イネ植物体においてこのような遅延は認められなかった(図3A)。したがって、本発明のDNA発現カセットで形質転換したトランスジェニック植物体は、野生型(非トランスジェニック)植物体と比較した場合に、短日条件下で開花時期が遅延すること、長日条件下では遅延しないこと、開花時期以外の形質において差異がないことが確認された。また、Hd1遺伝子を単独で過剰発現させても、開花時期に影響を与えないことが確認された。 本発明は植物バイオテクノロジーの分野に属し、短日植物の開花時期の調整に関する。本発明によれば、短日条件下で開花時期が遅延し、開花時期以外では野生株と実質的に同等の形質を有する植物を安定して得ることができ、植物の開花時期を人為的に遅延させることにより、植物の栽培地域の融通性、長期間にわたる開花段階の植物の供給、高い成長段階の植物体を得ることができる。図1はトランスジェニック・イネ植物体におけるHd1:TAPを含むDNA発現カセットのmRNA発現を示す図である。ユビキチン1プロモーター下に連結したHd1:TAPを含むベクターを導入したイネ植物体(U1C)のmRNA(A);カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター下に連結したHd1:TAPを含むベクターを導入したイネ植物体(S1C)のmRNA(B);カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター下に連結したTAP:Hd1を含むベクターを導入したイネ植物体(S1N)のmRNA(C)をRT−PCRによって分析した。(A)−(C)において、RNAはZT 6hrに30日齢のT0植物体から抽出した。ここに「ZT」とはZeitgeber Timeを示し、図中の「WT」は野生株植物体を示す。(D)はU1C、S1CおよびS1N構築物の模式図を示す。図中の矢印はRT−PCRのプライマー設計部位を示す。図2はトランスジェニック・イネ植物体におけるHd1−TAP融合タンパク質の発現量を示す。長日条件下で生育させた野生型およびU1C植物体からZT 14hrに採取した核抽出物中のHd1−TAP融合タンパク質(A)または短日条件および長日条件下で生育させ、ZT 10hrに採取したHd1−TAP融合タンパク質(B)をウェスタンブロッティングによって分析した。矢印はHd1−TAP融合タンパク質を示す。アスタリスクはロード対照としての非特異的なシグナルを示す。長日条件および短日条件の明/暗条件を示す。図3はHd1−TAP融合タンパク質を発現するトランスジェニック・イネ植物体の開花時期を示す。試験した分離T1世代を横軸に示し、短日条件下(A)および長日条件下(B)で栽培した植物体の出穂(開花)までの日数を縦軸に示す。データは平均値±SE(n=2−5)を示す。アッセイした系統はWT(野生株)、無−transgene対照(NC)およびトランスジェニック植物体(U1C、SC1およびS1N)である。図4は短日条件下で生育させた野生株植物体(左)およびU1Cトランスジェニック植物体(右)の表現型を示す図面代用写真である。U1C植物体の世代はT1である。図5はトランスジェニック・イネ植物体におけるHd1を単独で含むDNA発現カセットのmRNA発現を示す図である。mRNA発現量は、T1植物体において野生型(非トランスジェニック)植物体と同量、あるいは野生型植物体より上昇するものも見られたが(A)、T2植物体においては野生型植物体よりも低下することが示された(B)。図6はHd1タンパク質を単独で発現するトランスジェニック・イネ植物体の開花時期を示す。短日条件下におけるT2植物体の開花時期を測定したところ、いずれも野生型植物体と有意な差はなく、開花は遅延も促進もされないことが示された。SEQ ID NO: 1Amino acid sequence of Hd1 protein.SEQ ID NO: 2Polynucleotide sequence of Hd1 gene.SEQ ID NO: 3Polynucleotide sequence encoding tandem affinity tag (TAP).SEQ ID NO: 4Polynucleotide sequence of DNA expressing cassette (5'-Hd1-TAP-3').SEQ ID NO: 5Polynucleotide sequence of DNA expressing cassette (5'-TAP-Hd1-3').SEQ ID NO: 6Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of Hd1 gene.SEQ ID NO: 7Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of Hd1 gene.SEQ ID NO: 8Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of 5'-region of Hd1 gene.SEQ ID NO: 9Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of 3'-region of Hd1 gene.SEQ ID NO: 10Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of 3'-region of Hd1 gene.SEQ ID NO: 11Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide encoding TAP.SEQ ID NO: 12Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide encoding TAP.SEQ ID NO: 13Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide encoding TAP.SEQ ID NO: 14Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide encoding TAP.SEQ ID NO: 15Reverse primer for PCR-amplifying DNA expressing cassette (5'-Hd1-TAP-3').SEQ ID NO: 16Reverse primer for PCR-amplifying DNA expressing cassette (5'-Hd1-TAP-3' or 5'-TAP-Hd1-3').SEQ ID NO: 17Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of Hd1 gene.SEQ ID NO: 18Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of ubiquitin gene.SEQ ID NO: 19Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of ubiquitin gene.SEQ ID NO: 20Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of Hd1 gene.SEQ ID NO: 21Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of Hd1 gene.SEQ ID NO: 22Forward primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of ubiquitin gene.SEQ ID NO: 23Reverse primer for PCR-amplifying polynucleotide sequence of ubiquitin gene.(1)(a)配列表の配列番号:1のアミノ酸配列からなるタンパク質または(b)アミノ酸配列(a)において1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる作用を有するタンパク質をコードするDNA;および (2)1個以上のアミノ酸からなるペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAを含む、短日条件下で短日植物の開花を遅延させるためのDNA発現カセット。(1)のDNAが、配列番号:2の塩基配列を有するDNA、配列番号:2の塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるDNAに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる作用を有するタンパク質をコードするDNA、または、配列番号:2の塩基配列を有するDNAに対して85%以上の相同性を有し、かつ、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる作用を有するタンパク質をコードするDNAである請求項1記載のDNA発現カセット。(2)のDNAがタンデム・アフィニティー・プリフィケーション(tandem affinity purification、TAP)タグをコードするDNAである請求項1または2記載のDNA発現カセット。(2)のDNAが配列番号:3の塩基配列を有する請求項3記載のDNA発現カセット。配列番号:4または5で示される塩基配列を有する請求項4記載のDNA発現カセット。短日植物がイネ、キク、アサガオ、コスモス、ダイズ、オナモミ、ポインセチア、トウモロコシおよびオオムギよりなる群から選択される請求項1ないし5のいずれか1項に記載のDNA発現カセット。(1)のDNAのmRNAへの転写および/またはタンパク質への翻訳を抑制することなく、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる請求項1ないし6のいずれか1項に記載のDNA発現カセット。長日条件下で短日植物の開花を遅延させることなく、短日条件下で短日植物の開花を遅延させる請求項1ないし7のいずれか1項に記載のDNA発現カセット。請求項1ないし8のいずれか1項に記載のDNA発現カセットを含むベクター。さらに、作動可能なプロモーター、ターミネーター、エンハンサーおよび/または薬剤耐性マーカー遺伝子を含む請求項9記載のベクター。プロモーターが、トウモロコシ・ユビキチンプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス 35Sプロモーター、アグロバクテリウムTiプラスミド由来ノパリンシンターゼプロモーターおよびアクチンプロモーターよりなる群から選択される請求項10記載のベクター。ターミネーターが、ノパリンシンターゼターミネーター、オクトピンシンターゼターミネーター、カリフラワーモザイクウイルス 35SターミネーターおよびタバコPR1a遺伝子のターミネーターよりなる群から選択される請求項10または11記載のベクター。請求項9ないし12のいずれか1項に記載のベクターで形質転換した植物。植物がイネ、キク、アサガオ、コスモス、ダイズ、オナモミ、ポインセチア、トウモロコシおよびオオムギよりなる群から選択される請求項13記載の植物。植物細胞、プロトプラスト、植物カルス、植物器官、植物組織または植物体である請求項13または14記載の植物。請求項13ないし15のいずれか1項に記載の植物により産生されるHd1−TAP融合タンパク質。請求項13ないし15のいずれか1項に記載の植物から得られる種子。請求項9ないし12のいずれか1項に記載のベクターで短日植物の細胞を形質転換し、該形質転換細胞から植物体を再生させることを含む、短日条件下で開花が遅延する短日植物の作製方法。請求項9ないし12のいずれか1項に記載のベクターで短日植物の細胞を形質転換し、該形質転換細胞を短日条件下で再生および栽培することを特徴とする短日植物の開花を遅延させる方法。 【課題】短日条件下で開花時期が遅延し、開花時期以外の形質においては野生株と実質的に同等の形質を有する短日植物を安定して得ること。【解決手段】(1)(a)特定なアミノ酸配列または(b)アミノ酸配列(a)において1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるHd1タンパク質をコードするDNA;および(2)ポリペプチドをコードするDNAを含む、短日条件下で短日植物の開花を遅延させるためのDNA発現カセット。【選択図】図3配列表


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