タイトル: | 公開特許公報(A)_自己不活性化レトロウイルスベクター |
出願番号: | 2006228267 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 7/00,A61K 35/76,A61K 48/00 |
クリストファー・バウム アクセル・シャンバッハ ジェンス・ボーネ JP 2007054069 公開特許公報(A) 20070308 2006228267 20060824 自己不活性化レトロウイルスベクター メディツィニシェ・ホフシューレ・ハノーバー 506286582 志賀 正武 100064908 渡邊 隆 100089037 村山 靖彦 100108453 実広 信哉 100110364 クリストファー・バウム アクセル・シャンバッハ ジェンス・ボーネ EP 05107785.7 20050824 EP 06113780.8 20060510 C12N 15/09 20060101AFI20070209BHJP C12N 7/00 20060101ALI20070209BHJP A61K 35/76 20060101ALI20070209BHJP A61K 48/00 20060101ALI20070209BHJP JPC12N15/00 AC12N7/00A61K35/76A61K48/00 15 OL 83 4B024 4B065 4C084 4C087 4B024AA01 4B024CA04 4B024CA05 4B024CA06 4B024CA11 4B024DA02 4B024EA02 4B024FA02 4B024FA06 4B024FA10 4B024GA11 4B024GA18 4B024GA19 4B024HA08 4B024HA09 4B024HA14 4B024HA17 4B065AA95Y 4B065AA97X 4B065AA97Y 4B065AB01 4B065AC20 4B065BA02 4B065CA44 4C084AA13 4C087AA01 4C087BC83 4C087CA12 本発明は、レトロウイルスベクター、特に自己不活性化(SIN)レンチウイルスベクター及びガンマ(γ)−レトロウイルスベクターに関し、これは、高力価のウイルス粒子を産生するのに適しており、哺乳動物細胞、器官、又は生物体への効率的な遺伝子導入のために、例えば遺伝子治療のために使用され得る。 より詳細には、本発明は、レトロウイルスベクター中に含まれることに適した、改変(modified)5'−プロモーターエレメント及び改変3'−SINエレメントを提供する。改変5'−プロモーターエレメントと改変3'−SINエレメントは、別々にレトロウイルスベクター中に含まれていてもよいが、互いに組み合わされていることが好ましく、この両方のエレメントの特定の利点とは、パッケージング細胞で得られるウイルス粒子の力価を増加させることである。3'−エレメントはまた、受容細胞における導入遺伝子の発現を増加させ、ここで、導入遺伝子は、本発明のSIN−エレメントの間に配置されている。 さらに、3'−エレメントは、組み込まれたレンチウイルスベクター又はガンマレトロウイルスベクターから、下流に位置する細胞遺伝子への転写の読み過ごしを防ぐ。 レトロウイルスは、遺伝子デリバリーツールとして広範に使用されている。レトロウイルスゲノムは、感染後に宿主細胞ゲノムへと挿入されるので、持続的な遺伝子デリバリービヒクルとして使用され得る。この鍵となる特徴は、設計されている異なるタイプの複製不能なレトロウイルスベクターの全てにおいて保持されている。これにより、細胞が生存している間は、レトロウイルスゲノムを保持することが可能となる(Baum et al., Blood 101, 2099−2114 (2003); Thomas et al., Nature Rev Genet 4, 346−358 (2003))。 感染により、レトロウイルスは、逆転写酵素と共にそのRNAを細胞の細胞質へと導入する。ついで、RNAテンプレートは、ウイルス由来の遺伝的命令を含む、直鎖状の2本鎖cDNAへと逆転写される。ウイルスDNAが宿主細胞ゲノムへと組み込まれることにより、持続的な感染が可能となる。レトロウイルス複製戦略は、そのウイルスが垂直的(プロウイルスを介して親細胞から娘細胞へと)かつ水平的(ビリオンを介して細胞から細胞へと)に広まるので、長期間に亘って感染が持続されるように設計されている。マウス白血病ウイルス(MLV)などの単純ガンマレトロウイルスは、感染細胞を死滅させない。レンチウイルス(例えば、HIV−1)は、複雑なレトロウイルスであって、標準的(gag−pol−env)なエレメントに加えて、調節エレメント及び構造エレメントを有し、その多くが細胞傷害特性を有している。レトロウイルス(例えば、ガンマレトロウイルス又はレンチウイルス)ベクターは、標的細胞集団において、毒性又は免疫原性のウイルス遺伝子断片(remnant)が導入又は発現されないように設計されている(Baum et al., 2003; Hildinger et al., Journal of Virology 73, 4083−4089 (1999); Thomas et al., 2003)。 いわゆるパッケージング細胞においてレトロウイルスベクターを産生するために、レトロウイルスのgag−polポリタンパク質をコードするもの、envタンパク質をコードするもの、新しく形成される粒子にパッケージされるべきベクターmRNAをコードするものの、少なくとも3種類の異なるプラスミドを共トランスフェクションする。レトロウイルスmRNAの粒子への取り込みは、感染細胞の細胞質中で起こり、これは、Gagと称されるレトロウイルス前駆体タンパク質のヌクレオカプシド領域と相互作用する、RNAの特異的パッケージングシグナル(Ψ)によって媒介され、その結果、粒子の自己集合をもたらす。MLV由来の単純ガンマレトロウイルスベクターの場合には、Ψは、ウイルスコード領域と重複しない(Hildinger et al., 1999)。細胞膜を貫いて出芽する際に、ウイルスにコードされたEnv糖タンパク質は、ウイルス粒子を取り囲む膜に組み込まれる。 パッケージング細胞においてΨ+mRNAを発現するために、ベクターRNAをコードするプラスミドは、R領域の第一塩基で転写を開始し、かつ高レベルのmRNAを産生する5'−プロモーターを備える必要がある。パッケージング細胞においてガンマレトロウイルスmRNAを産生するために一般的に使用されている5'−プロモーターは、MLV由来のU3領域、又はヒトサイトメガロウイルス(CMV)の最初期プロモーターのいずれかである。5'−プロモーター配列自身は、レトロウイルスmRNAの一部ではなく、それゆえ、レトロウイルスによって形質導入された標的細胞中に見られるプロウイルスDNAゲノム中に存在しない。 従来技術のガンマレトロウイルスベクターは、ウイルスのgag、pol、又はenv遺伝子の断片を含まない(Hildinger et al., 1999)。ウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)の転写後調節エレメント(PRE)は、これらのベクターにおいて、力価及び発現の増強に有用である(Schambach et al., Molecular Therapy 2, 435−445 (2000))。 LTRのU3領域中に野生型エンハンサー−プロモーター配列を含むガンマレトロウイルスベクターは、挿入突然変異によって、近傍の細胞対立遺伝子を上方制御するかもしれない。これにより、癌又は白血病がもたらされるかもしれず、レトロウイルス遺伝子導入技術の臨床用途において、用量を制限する副作用が示される(Baum et al., 2003; Hacein−Bey−Abina et al., Science 302, 415−419 (2003); Li et al., Science 296, 497 (2002); Modlich et al., Blood 105, 4235−4246 (2005))。 LTRのU3領域のエンハンサー−プロモーター配列を欠失させると、いわゆる自己不活性化(SIN)レトロウイルスベクターを産生することが可能となり、この場合、導入遺伝子産物の転写調節は、LTR間に位置する内部プロモーターに依存する(Yu et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 83, 3194−3198 (1986))。これらのベクターでは、挿入突然変異のリスクが低下している。しかし、それらの感染力価は、従来のベクターで得られる力価よりも顕著に低下(10倍を超える)している(Kraunus et al., Gene Therapy 11, 1568−1578 (2004); Werner et al., Gene Therapy 9, 992−1000 (2004); Yu et al., 1986)。これは、その臨床用途が非常に制限されることを意味する。ヒトの遺伝子治療のために非常に関心の高い多くの一次細胞は、そのベクター調製物が高力価を有する場合のみ(プロデューサー細胞の上清1mL当たりの形質導入ユニット数が106を超える場合のみ)、十分に形質導入され得る。ベクター調製物の力価を増加させることにより、ベクター製造コストも減少する。ベクター調製物のプラスミド汚染は、安全性に関する潜在的制限を意味することから、力価の増加は、パッケージング細胞へとトランスフェクトされるプラスミド量を増加させることなく達成されるべきである。 従来技術のSINベクターに存在するU3配列の欠失は、レトロウイルスの転写終結及びポリアデニル化を妨げる(Furger et al., Journal of Virology 75, 11735−11746 (2001))。これは、低力価の一因となり得、また標的細胞における導入遺伝子の発現を減少させ得る。不十分な転写終結はまた、下流に位置する細胞遺伝子への、mRNAの挿入による読み過ごし及びスプライシングに対するリスクも増加させる(Kustikova et al., Science 308, 1171−1174 (2005); Li et al., 2002)。 Dullら(Journal of Virology 72 (11), 8463−8471 (1998))は、核酸導入に使用されるレンチウイルスベクターに必要とされる最小限の構成エレメントを分析している。ウイルス粒子の産生のために、複製及びパッケージングに必須の遺伝子を、少なくとも2つの別々のベクター上に分離する。HIV複製に欠かせないtat遺伝子をレンチウイルスベクターから欠失させることができ、結果としてtatを欠失したベクター粒子が得られ、これは、形質導入活性が10〜20倍減少していたことをDullらは示している。活性レベルは、tat遺伝子産物を有さないベクターを製造する際に、導入構築物の5'−LTRのHIV配列を強力な構成的プロモーターに置き換えることによって改良され得た。 誘導プロモーターはまた、高力価のレンチウイルスベクターをもたらすことが示されているが(Xu et al., Mol. Ther. 97−104 (2001))、ガンマウイルスベクターに対するその有用性は依然として不明である。 Zaissら(Journal of Virology, 7209−7219 (2002))は、組み込み部位の下流配列の活性化に関して、核酸配列を哺乳動物細胞へとデリバリーするために使用されるレンチウイルスベクターの3'ポリAシグナルの重要性を分析している。さらに、MLV及びHIV−1のSINベクターは、しばしば3'RNA読み過ごしを起こすことが発見され、遺伝子活性化に対するウイルス性のポリAシグナルの重要性が強められた。さらに、ポリAシグナルの変更は、ベクターの力価に影響を及ぼすことが発見され、強力なポリAシグナルの付加は、MLVを使用する際にベクター効率を増加させることが示唆された。さらに、一過性のトランスフェクションのために、レポーター遺伝子転写は、より強力なポリAシグナルによって増加されることも発見された。しかし、Zaissらは、3'−LTRの3'にポリAシグナルを挿入したために、改良されたポリアデニル化を有する機能的レトロウイルスベクターを報告しなかった。 さらに、HIV上流エンハンサー(HIV−USE)エレメント(USEエレメントの5'領域に数個のヌクレオチド欠損があることを除けば、野生型である)の効果が、HIV−SINベクターのベクター力価の増加を導くものとして、Zaissらによって言及されている。 Valsamakisら(Molecular and Cellular Biology, 3699−3705 (1992))は、5'−キャップエレメントとHIV−ポリアデニル化シグナルとの距離について、少なくとも250個のヌクレオチドによる間隔を必要とする以前の開示に代わって、その距離が、少なくとも140個のヌクレオチドまで減少され得ることを示している。しかし、ポリアデニル化シグナルの上流56〜93番目のヌクレオチドの間に配置される配列は、in vivoにおける効率的なポリアデニル化、並びにin vitroにおける効率的な分裂及びポリアデニル化に必要であった。ポリアデニル化シグナルの上流56〜93番目の塩基の間にある領域は、例えば組織特異的ポリアデニル化などの、ポリアデニル化効率の調節に関与し得るUSEエレメントとして特徴付けられる。Baum et al., Blood 101, 2099−2114 (2003)Thomas et al., Nature Rev Genet 4, 346−358 (2003)Furger et al., Journal of Virology 75, 11735−11746 (2001) [発明の目的] 既知のレトロウイルスベクターの欠失は、野生型LTR配列を使用した場合には、複製可能なレトロウイルス(RCR)形成のより高いリスク、野生型LTRによる挿入突然変異誘起の傾向(これにより、近傍配列が上方制御される可能性があり、Baumらによって示されているとおりレシピエントに白血病をもたらすことさえあり得る[Blood, 101, No. 6, pages 2099−2114 (2003)])、及び野生型LTRの代わりにSIN配列を用いた場合には低感染力価をともなう。従って、本発明の目的は、レトロウイルスベクターに適した配列エレメントを提供することであって、これは、高感染力価でこのようなベクターを含むウイルス粒子の産生を可能にすると同時に、ベクター中に含まれる導入遺伝子の活性を高めることを可能にするものである。さらに、本発明の目的は、このような配列エレメントを含む改良されたベクターを提供することであって、これは、高力価のウイルス粒子の産生、並びに標的細胞の効率的なトランスフェクション及び導入遺伝子の良好な活性を可能にするものであり、その一方で、不十分な転写終結のリスクを非常に減少しているものである。さらに、本発明の目的は、前記配列エレメントを含むベクターを用いて、哺乳動物細胞、器官及び生物体に形質導入する方法を提供することであり、かつ得られた哺乳動物細胞、器官及び生物体を提供することである。 [発明の要旨] 一般的に、本発明は、レトロウイルスベクター、特にレンチウイルスベクター及びガンマレトロウイルスベクターに関し、これは高力価のウイルス粒子を産生することに適しており、哺乳動物細胞、器官、又は生物体への効率的な遺伝子導入のために、例えば遺伝子治療のために使用され得る。より詳細には、本発明は、レトロウイルスベクターに含まれることに適した、ガンマレトロウイルスベクタープラスミドの5'−LTRのU3領域の改変5'−プロモーターエレメント、及びガンマレトロウイルスベクタープラスミド又はレンチウイルスベクタープラスミドの3'−LTRのU3領域の改変3'−SINエレメントを提供する。改変5'−プロモーターエレメント及び改変3'−SINエレメントは、独立して、ガンマレトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクターに含まれ得るが、互いに組み合わされて含まれることが好ましく、この両方のエレメントの特定の利点とは、パッケージング細胞におけるウイルス粒子の力価をともに増加させ、かつ受容細胞における導入遺伝子の発現を増加させることであり、ここで、導入遺伝子は本発明の改変LTRの間に配置されている。 従って、本発明は、トランスフェクトされたパッケージング細胞におけるレトロウイルスベクターの潜在的内部プロモーターを支配する、5'−プロモーターエレメントを含むレトロウイルスベクターを提供することにより、上述の目的を達成する。このプロモーターは、5'−LTRのU3エレメントを置き換えるものであり、ウイルス粒子へのパッケージングに適した、例えば、レトロウイルスパッケージングシグナルΨなどを含む全長mRNAの転写を促進する。 一般的に、本発明は、改良されたレトロウイルスベクター、好ましくは、MLV由来のガンマレトロウイルスベクター、及びHIV由来のレンチウイルスベクターに関する。従来技術の一般的なベクターは、野生型LTRの代わりにSINエレメントを使用しており、好ましくは、ウイルスのgag、pol、又はenv遺伝子由来の配列を含まない。しかし、ウッドチャック肝炎ウイルスの転写後調節エレメント(WPRE)は、感染ウイルス粒子の力価、及び形質導入された標的細胞における導入遺伝子の発現レベルを増強することから、本発明のベクターの潜在的な構成エレメントである。しかし、WPREの存在は、パッケージング細胞において高ウイルス力価を得るため、又は標的細胞における発現のために、本発明のベクターに必須なわけではない。 今日まで、SIN−エレメントは、LTRのU3領域の強力なエンハンサー−プロモーターエレメントを欠失させることにより改良されたバイオセーフティーを有している。標的細胞内での逆転写の間に、3'−LTRのU3領域の欠失が、5'−LTRの対応するセクションへと移され、この移された欠失により、LTRプロモーターの転写活性が十分に不活性化される。結果として、形質導入された細胞において、全長ベクターRNAの転写が排除され、同時に、LTRのエンハンサー−プロモーター活性又は読み過ごしによる、近傍の細胞遺伝子配列の意図的でない活性化の可能性を減少させる。3'のU3領域のおよそ400塩基対部分の欠失は、感染細胞のプロウイルスLTRの転写不活性化をもたらし、バイオセーフティーを増加させるが、感染力価を少なくとも10倍減少させる。 好ましくは、そのU3領域に新規なプロモーターエレメントを含む5'−LTRを含む本発明のベクターは、3'−LTRの、好ましくはまたSIN構造物の、U3領域へと挿入される上流エンハンサーエレメント(USEエレメント)と組み合わされる。 新規なプロモーターエレメントは、導入遺伝子を含む全長mRNAの効率的な発現に役立ち、3'−LTRのU3領域にUSEエレメントを含む好ましい実施態様では、ウイルス力価のさらなる増強が導かれるとともに、形質導入された細胞においてより高い導入遺伝子の発現も導かれ、かつLTRのSIN特性に従って、転写の読み過ごし阻止による、挿入突然変異リスクのさらなる低下が導かれる。 一般的に、プロウイルスSINベクタープラスミドで使用される新規な5'−プロモーターエレメントは、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターから誘導でき、好ましくはRSVプロモーターの上流に挿入されるシミアンウイルス40(SV40)の追加のエンハンサー配列を含む。レトロウイルスパッケージング細胞をトランスフェクトする際に、SINベクターのゲノム全長RNAの合成が、新規なプロモーターエレメント、すなわちRSVプロモーター(PRSV)によって促進され、これはSV40由来のエンハンサー配列をさらに含むものである。パッケージング細胞中で発現しているレトロウイルスRNAの第一ヌクレオチドの上流に新規なプロモーターエレメントは位置するために、新規なプロモーターエレメントは、標的細胞へと組み込まれる導入遺伝子を含む配列の一部とはならないだろう。 別法として、ラウス肉腫ウイルスプロモーターを、プロモーター(Ptet)の上流に挿入される、テトラサイクリン誘導プロモーターに置き換えることができる。PRSV及びPtetによって表される実施態様は、本発明のプロモーターと呼ぶ。 5'−LTRに含まれる新規なプロモーターエレメントと好ましくは組み合わされる、本発明のベクターの3'−LTRに含まれるUSEエレメントは、好ましくは、SV40の上流終結シグナルエンハンサーの人工的な直接反復エレメントからなり(2SV−USE)、プロウイルスプラスミドの3'−LTRのU3領域へと導入される。このUSEエレメントは、レトロウイルスRNAのU3領域の一部となるため、逆転写により5'−LTRへと複製される。従って、標的細胞へ導入遺伝子と共に組み込まれる場合には、両方のLTRにこのUSEエレメントが存在するだろう。 3'−LTRのU3領域内に位置する本発明のUSEエレメントは、本発明のベクターに存在することが好ましいとはいえ、その機能は、新規なプロモーターエレメント、例えば、RSVプロモーターとは独立しており、逆もまた同様である。 本発明のベクター、すなわち、5'−LTRのU3領域内に新規なプロモーターエレメントを含み、及び/又は3'−LTRのU3領域内にUSEエレメントを含むベクターは、標的細胞のゲノムに組み込まれることが意図される導入遺伝子を、独立してさらに含むことができ、これは、導入遺伝子と機能的に連結された内部プロモーター及び/又はIRESエレメントを含んでいる。 標的細胞のレトロウイルス形質導入時に、5'−SIN−LTR及び3'−SIN−LTRはともに、ポリアデニル化シグナルを受け取り、好ましくはさらに人工的に産生された2SVエレメントも受け取る。結果として、ポリアデニル化シグナルの存在により、近傍の細胞核酸配列との融合転写物が産生される可能性が減少し、同時に、導入遺伝子の発現が増強されることが期待される。融合転写物に関して、内部プロモーターからの読み過ごし、すなわち、導入遺伝子発現カセットから標的細胞内の下流配列への読み過ごしは、最小限に抑えられ、かつ5'−領域へと複製されたポリAシグナルにより、上流の標的細胞配列から組み込まれたウイルス配列への読み過ごしも、ともに最小限に抑えられる。従って、導入遺伝子発現を増強させることに加えて、本発明のポリAシグナルは、組み込まれた人工配列のバイオセーフティーを増加させる。 本発明のベクターを含むウイルス粒子をターゲティングするために、ウイルス粒子は、広範な細胞のトランスフェクションに適した、特異的表面タンパク質、例えば、水疱性口内炎ウイルスの糖タンパク質g(VSV−G)とともに提供されてもよい。 さらなる実施態様では、新規なプロモーターエレメント及び/又はUSEエレメントは、U3領域内に活性エンハンサー−プロモーター配列を含むLTR駆動のレトロウイルスベクターに含まれる。この場合もやはり、このようなベクターには、標的細胞へと組み込まれる内部プロモーター及び/又はIRESエレメントと機能的に連結された、様々な導入遺伝子が含まれていてもよい。 さらなる実施態様では、新規なプロモーターエレメント及び/又はUSEエレメントは、エピソームDNAのトランスファー効率を改良するために、レトロウイルスベクター内に含まれる。このようなエピソーム内に含まれる配列は、内部プロモーター及び/又はIRESエレメントと任意選択で機能的に連結されていてもよい、様々なタンパク質をコードできる。 5'−プロモーターエレメント及び3'−SINエレメントに加えて、本発明のベクターは、レトロウイルスのライフサイクルを全うするために必要とされる全ての追加の配列エレメント、例えば、プライマー結合部位(PBS)、二量体化シグナル及びパッケージングシグナル(Ψエレメント)、並びにSIN−LTR間に配置される、哺乳動物細胞へのデリバリーが意図される導入遺伝子などを含む。 さらなる実施態様では、新規なプロモーターエレメント及び/又はUSEエレメントは、効率的な偽形質導入に適したウイルスベクターに含まれる。偽形質導入粒子に含まれるmRNAは、様々なタンパク質をコードしていてもよく、それらの遺伝子は、IRESエレメント又はタンパク質分解的切断モチーフと機能的に連結されている。 [発明の詳細な説明] 本発明では、レトロウイルスベクター、特に例えばMLV由来などのガンマレトロウイルスベクターが構築され得、及び泡沫状ウイルス(FV)由来のもの、又は例えばHIV由来などのレンチウイルスベクターが構築され得る。5'−プロモーターエレメント及び/又は3'−SINエレメント(それぞれ、本発明のよるもの)の組み込みにより、自己不活性化(SIN)LTRを依然として用いながら、許容細胞において高力価(1mL当たり最大で約5×107)のウイルス粒子を産生できるベクターが得られる。 さらに、本発明の特有の利点とは、SV40由来の人工的に複製されたポリアデニル化エンハンサーシグナルの組み込みによる3'−SIN−LTRの改変により、高力価のレトロウイルス粒子を得ることが可能となり、かつ形質導入された標的細胞における高効率の導入遺伝子発現が可能となり、これは、従来のベクターでは、通常、3'−LTRの上流に位置している、ウッドチャック肝炎ウイルス由来の転写後調節エレメント(PRE)(WPRE)とは独立したものである。 本発明のベクターは、レトロウイルス遺伝子を体細胞の幹細胞、特に造血幹細胞、好ましくは例えばヒト由来などの哺乳動物細胞へと導入するために使用されることが好ましい。本発明のベクターを遺伝子治療のために使用する場合には、それらは、ゲノムへの挿入部位での所望しない遺伝子活性化を最小限に抑えるという利点を提供する。 ガンマレトロウイルスベクターを含む感染ウイルス粒子の力価を増加させるための第一の構成エレメントとして、その5'−プロモーターは、高い転写伸長速度を有するプロモーターエレメントのために、従来技術では骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)のプロモーターに由来する内在性プロモーター活性を交換することにより改変される。 現在、力価の増加は、5'−LTRの元のPMPSVを置き換えたプロモーターエレメントによってのみ決まることが観察結果から結論づけられており、これはプロモーターエレメントの転写開始活性というよりも、むしろ力価の増加に関与するプロモーターエレメントの転写伸長速度であり得る。力価の増加を導く、5'−LTRへと組み込まれたプロモーターエレメントのこの効果は、レポーター遺伝子又は導入遺伝子の調節を行っている、試験した全ての各々の内部プロモーターで観察され得る。5'−プロモーターは、その高い転写伸長速度に加えて、Rエレメントのヌクレオチド+1、すなわち、5'−プロモーターの下流で開始される転写を増加させる、RNAポリメラーゼ開始複合体を補充する強い能力があり、それゆえ、許容細胞においてさらに高い力価のウイルス粒子を産生すると想定される。高い転写伸長速度を達成するという5'−プロモーターの増強された効果は、一方では、5'−LTR中に配置された様々なプロモーターと比較することで決定され得、又は他方、ウイルス環境へと組み込まれた導入遺伝子又はレポーター遺伝子の発現カセットと結びつけられた内部プロモーターの効果と比較して決定され得る。従って、本発明のガンマレトロウイルス構築物の5'−LTR中への配置に適したプロモーターを同定する1つの可能性は、レポーター遺伝子と結びつけられた5'−プロモーター及び内部プロモーターの相対的転写活性、及び任意選択で相対的翻訳活性を決定することである。本発明の高い転写伸長速度を有するプロモーターを同定するという目的のために、それぞれ5'−プロモーター及び内部プロモーターのいずれかと結びつけられた、別々に識別可能な蛍光のレポータータンパク質発現を用いた、デュアルレポーター遺伝子アッセイを実施する。 デュアルレポーター遺伝子アッセイを用いて、例えば、区別可能な翻訳産物を産生するレポーター遺伝子を用いて、5'−LTR中に配置されている5'−プロモーターの活性及び内部プロモーターの活性の評価を、絶対値及び相対値で、単純な方法により得ることができる。このアッセイにおいて、5'−プロモーター及び内部プロモーターの転写産物及び/又は翻訳産物の相対活性は、それぞれ、これらのプロモーターの相対活性を示し、これは、導入遺伝子発現カセットの転写物との関連で、パッケージングに適した全長ウイルスRNAの合成を促進するための転写活性の尺度として役立つ。従って、試験するプロモーターの組み合わせによって、高力価のウイルス粒子を産生するための5'−プロモーターの適合性をおよそ予測することが可能となる。 デュアルレポーター遺伝子アッセイは、得られたウイルス構築物から合成される完全なウイルスRNA量を見積もるのに好ましい方法であって、それゆえ、パッケージング細胞におけるウイルス粒子の力価が予測される。しかし、特定の5'−プロモーターを含むウイルス構築物から合成される完全なウイルスRNAの量を、例えばノーザンブロット法によって内部プロモーターとともに測定することも可能であり、この場合、ウイルス配列の全長RNA転写物は、内部プロモーターによって調節される、より短いRNA転写物とは容易に区別可能である。 高い転写伸長速度を有する本発明のウイルス構築物の5'−プロモーターは、ノーザンブロット法により同定可能であり、好ましくは、高レベルの活性による前記デュアルレポーター遺伝子アッセイで同定可能であり、これはすなわち、ノーザンブロット法の場合には転写活性により、デュアルレポーター遺伝子アッセイの場合には発現により同定され得る。本発明では、内部プロモーター活性に対する5'−プロモーター活性の割合が、少なくとも1.5、好ましくは少なくとも2、より好ましくは5〜10以上であることが好ましい。 デュアルレポーター遺伝子アッセイでは、別々の構造遺伝子を使用し、その翻訳産物は、それに続く測定、好ましくは分光光度法、又は例えば蛍光活性化細胞分類(FACS)などの蛍光測定により区別可能である。デュアルレポーター遺伝子アッセイは、レポーター遺伝子の遺伝子活性測定に基づき、第一のレポーター遺伝子は5'−(LTR)−プロモーター調節下にあり、第二のレポーター遺伝子は内部プロモーターの調節下にあり、これらはともにウイルス配列に組み込まれている。好ましくは、第一のレポーター遺伝子は、全長ウイルスRNAを含むウイルス粒子を産生するために必要なウイルス配列の機能的エレメントの下流に配置されており、例えば、5'−プロモーター、R−エレメント、U5−エレメント、任意のスプライスドナー部位、及びΨ部位の下流に配置されているが、内部プロモーターよりは上流に配置されている。従って、第一のレポーター遺伝子の活性は、5'−プロモーターの調節下における効率的な転写を意味し、その転写は、上流配列、すなわち、5'−ウイルス配列エレメントの先立つ転写の証拠と考えられる。5'−プロモーターが内部プロモーターを、例えばポリメラーゼ読み過ごしによって、抑制するかどうかを試験するためのデュアルレポーター遺伝子アッセイの選択肢として、3'のポリアデニル化部位の直前にこの第一のレポーター遺伝子を配置できる。 第二のレポーター遺伝子は、内部プロモーターとともに発現カセットを形成し、これは、第一のレポーター遺伝子の下流であって、かつPREなどのさらなる任意のウイルス機能的エレメントの上流及び3'−LTRの上流に配置される。 許容細胞、例えば、E. coliシャトルプラスミドなどのプラスミドに含まれるデュアルレポーター遺伝子構築物を有するパッケージング細胞などのトランスフェクションにより、第一に、ウイルス粒子へのパッケージングに最終的に適する全長RNA転写物を合成する5'−プロモーターの調節下で、RNA合成が導かれ、第二に、内部プロモーターの調節下でRNA転写物が合成される。現在、内部プロモーターから開始される転写物は、ウイルス粒子へのパッケージングに適した全長RNA転写物の産生を弱めると推定されている。しかし、内部プロモーターの調節下における導入遺伝子の転写は、導入遺伝子発現のための標的細胞への最終的な形質導入後に所望される。 高い転写活性、例えば、高い転写伸長速度は、ガンマレトロウイルスベクターからの高力価のウイルス粒子産生のための重要な因子であることが発見されており、これは、tat非依存性のレンチウイルスベクターの初期産生とは対照的であり、この発見された事実は、5'−プロモーターの重要な特性である基底のプロモーター強度だけでなく、伸長可能なRNAポリメラーゼII複合体を補充する効率も暗示する。従って、パッケージングに適した、全長レトロウイルスRNAの合成における5'−プロモーターの影響は、下記の図6から導かれることもでき、ここで、従来の5'−プロモーター(PMPSV)に置き換えて本発明の5'−プロモーター(SRS)を含む改変5'−LTRは、ウイルス粒子力価の増加を導く。 従って、本明細書において、転写伸長速度という用語はまた、ウイルス粒子の力価を増加させる5'−プロモーターエレメントの特性を意味することが意図され、これは、転写を誘導するプロモーター強度と関連する必要がないことが発見されている特性である。 一般的に、RSV−及びテトラサイクリン−誘導プロモーターはともに、少なくともガンマレトロウイルスベクターにおいて、またさらに例えばHIVなどのレンチウイルスに基づくベクターを使用した場合にも、高いSINベクターの力価を導くことが発見されている。第三世代の構築物を含むレンチウイルスベクターに特に関連して、両方のプロモーターは、ウイルス粒子のtat非依存性の産生に適したベクターを産生することが以前に発見された(Dull et al., J. Virology 8463−8471 (1998), Xu et al., Mol. Ther. 97−104 (2001))。ガンマレトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクターの両方に対して、本発明のプロモーターは、伸長可能なRNAポリメラーゼII複合体を補充することにより、許容細胞において高ウイルス粒子力価の産生を導くと推定される。この伸長可能なRNAポリメラーゼII複合体は、tat依存性のHIV LTRに対応すると推定され、さらに、それは内部プロモーターを封じるための重要な因子である、単なる基底のプロモーター強度ではないことも示されている。従って、ゲノムレトロウイルスRNA発現を促進する強力なプロモーターとして一般的に考えられているCMVプロモーターをたとえ用いたとしても、より高いウイルス力価は産生されなかった。 好ましい実施態様として、本発明の5'−プロモーターは、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(PRSV)を含み、好ましくは、SV40由来のPRSVエンハンサーエレメントとともに機能的に配置されており、加えて3'−SIN−LTRは、U3領域の欠失の代わりにSV40由来のUSEエレメントを含んでいる。この配列の組み合わせは、配列番号1に含まれる。全部で5124塩基対を含む配列番号1において、PRSVは、447〜675番目の塩基に位置し、5'−SINの反復エレメント(R)及びU5領域は、676〜820番目の塩基に含まれ、プライマー結合部位(PBS)は、821〜837番目の塩基に位置し、スプライスドナー部位(SD)は、882〜883番目の塩基に位置し、1314〜1714番目の塩基は、脾臓フォーカス形成ウイルスプロモーター(PSF)を含み、これは内部プロモーターとしてレポーター遺伝子と機能的に結びつけられており、レポーター遺伝子として本明細書で例証される緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子は、1776〜2495番目の塩基に位置する。3'−SIN−LTRは、2578〜2872番目の塩基に位置し、ここで、第一のUSEエレメント(SV40から得られたもの)は2612〜2655番目の塩基に位置し、第二のUSEエレメント(SV40 USEエレメントの複製物)は2662〜2705番目の塩基に位置し、この両方のエレメントにより、配列番号1の2612〜2705番目の塩基に位置する、SV40の人工的に複製されたUSEエレメントを含む好ましいUSEエレメント(2SV)が実現される。 別の実施態様として、構築物の5'−プロモーターとしてテトラサイクリンプロモーターを含むレトロウイルスベクターを配列番号2に示し、概略図を図11に示す。 配列番号2は、R及びU5領域(763〜907番目の塩基に位置する)の5'側にテトラサイクリン誘導プロモーター(Tet、447〜762番目の塩基に位置する)を含み、それに続いて、3'側にマルチクローニングサイトを含む。3'LTR(3296〜3485番目の塩基に位置する)はまた、SIN構造も有し、PRE、すなわちWPRE(2621〜3223番目の塩基に位置する)の3'側に配置されている。レポーター遺伝子であるeGFP(GFP、1863〜2582番目の塩基に位置する、アミノ酸配列を配列番号3に示す)は、WPREの5'側に配置され、eGFPの5'側に配置されているSFFV(脾臓フォーカス形成ウイルス)プロモーター(1401〜1801番目の塩基に位置する)の調節下にあり、これは、SFFVのU3領域の内部プロモーターである。 本発明は、図を参照してより詳細に記載されるだろう。図において、ベクター構築物は、概略的に表され、ここで、E. coliなどの宿主細菌における複製、保持、及び選択マーカーに必要とされる配列は、ウイルス配列及び挿入物を含む結合線により表され、ウイルス配列及び挿入物は、ボックス及び直線で表される。例証されるベクターの記号表示は、5'から3'へと、機能的エレメント、すなわち、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化、及びさらなるエレメントのそれぞれの配置から組み立てられている。これらのベクターの記号表示において、グラフ表示で表される、同一プロモーターなどの同一エレメント、又はレポーター遺伝子もしくは導入遺伝子などの同一構造遺伝子は、省略され得る。プロモーター配列に対し、ベクター記号表示は、プロモーターの由来のみを含み、その一方、グラフィカルスキームは、「P」によりプロモーターを表す。例えば、従来技術の5'−SIN−LTR由来のプロモーター、すなわちMPSV由来のプロモーターは、PMPSVとして表され、ベクター中では単にSINとして指定される。同様に、USEエレメントもまた、その由来のみ表される。 [実施例] [実施例1:5'−SIN−LTRの潜在的内部プロモーターを支配する5'−プロモーターの同定] 許容パッケージング細胞において高力価で産生されることに適したガンマレトロウイルスベクターの力価を増強するための方法を調べる場合に、従来技術の5'−SIN−LTRに存在する骨髄増殖性肉腫ウイルス由来の元のプロモーターエレメント(PMPSV)(ベクター記号表示ではSINと称される)を、様々なプロモーターエレメントに置き換えた。 前記ベクターの概略図を図1Aに示す。ここでは、MPSVプロモーターエレメント(PMPSV)をサイトメガロウイルス由来のプロモーター(PCMV)に置き換え、結果としてSCSと称す新規な5'−プロモーターを得た。MPSVプロモーターをラウス肉腫ウイルス由来のプロモーターエレメント(PRSV)に置き換えた場合には、結果としてSRSと称す5'−プロモーターが得られ、さらにシミアンウイルス40(enh)から得られるエンハンサー配列をPRSVに付加し構築することにより、SERS(enhPRSV)と称す5'−プロモーターを得た。元のPMPSV含有SINエレメントのこれらの誘導体はそれぞれ、本発明の5'−プロモーター、改変していない反復エレメント(R)及び改変していないU5領域を含んでおり、それに続いて任意のスプライスドナー部位、及びΨ領域を含んでいる。 レポーター遺伝子に対する発現カセットは、サイトメガロウイルス由来の内部プロモーター(IP)(PCMV)の調節下で、あるいはそれぞれホスホグリセリン酸キナーゼ由来のプロモーター(PPGK)又は脾臓フォーカス形成ウイルス由来のプロモーター(PSF)の調節下で、eGFPをコードする。それぞれの構築物において、レポーター遺伝子発現カセットの後ろには、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)及びSIN構造の3'−LTRが続き、SIN構造の3'−LTRはデルタ(Δ)によって表され、残りのU3配列、Rエレメント及びU5領域を含んでいる。図1B及び図1Cにおいて、ベクター記号表示のSIN及びSRSは、5'−プロモーターを意味し、CMV、PGK及びSFは内部プロモーターを意味する。 レポーター遺伝子に結びつけられた内部プロモーターとともに5'−U3エレメントに存在するプロモーターエレメントを置換した、図1Aのベクター構築物からウイルス粒子を産生する場合、ラウス肉腫ウイルス由来の本発明のプロモーター(PRSV)、及びSV40由来のエンハンサーエレメントと組み合わせたRSV由来のプロモーター(enhPRSV)では、PMPSVを含む比較構築物を越える非常に改良された力価がもたらされることが観察され、enhPRSVではなおさら改良された力価がもたらされることが観察され得る。さらに、力価のこの増加は、レポーター遺伝子と結合する内部プロモーターには依存しない。 興味深いことに、力価を増加させたのは、CMV由来のプロモーター(PCMV)ではなく、これは、得られる力価をむしろ減少させており、PCMVと比較して弱い強度であると昔から考えられていた、RSV由来のプロモーター(PRSV)及び増強されたPRSV(enhPRSV)が改良された力価をもたらしている。 図1Bから導かれ得る結果は、図1Cに示したノーザンブロット法により確認され、本発明の5'−プロモーター、すなわちSRS及びSERSが、ゲノムベクターRNA(「genomic」で表される)の最も高い合成を導くことが明らかとなっている。比較目的のために、グリセルアルデヒドリン酸デヒトロゲナーゼ(GAPDH)を内部の標準物質として同定し、差込図で示した。 [実施例2:改変3'−SIN−LTRによる力価の改良] レトロウイルスベクターの力価をさらに改良するために、3'−SIN−LTRを、転写終結及びポリアデニル化を促進する上流シグナルエンハンサー(USE)エレメントを含むようにU3領域で改変した。本発明のこの側面の出発点として、従来技術の5'−LTR(PMPSV)を含むウイルス構築物を、U3領域内に広範囲の欠失を含む従来技術の3'−SIN−LTRと組み合わせて使用した。この欠失により、レトロウイルスの転写終結及びポリアデニル化が妨げられることが知られており、その結果、力価の減少及び標的細胞における導入遺伝子発現の減少がもたらされる。さらに、不十分な終結は、挿入部位下流の配列の活性化、すなわち、下流に位置する細胞遺伝子への読み過ごし及び/又はスプライシングによる活性化のリスクを増加させる。 本発明のベクターのために、HIV−1(HIV)、SV40(SV)、トロンビン遺伝子(thr)に由来するか、又は新規な人工的複製SV40エレメント(2SV)により実現される、ポリアデニル化を促進することが期待されるUSEエレメントを、3'−LTRの欠失へと組み込んだ。加えて、上述のUSEエレメントとUSEエレメントのすぐ上流に配置される人工的ステムループ配列(ASL)との組み合わせ物を作った。構築物の概略図を図2Aに示す。 さらに、eGFPをコードするレポーター遺伝子と機能的に結びつけられた内部プロモーターとして、CMVプロモーター(PCMV)、ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(PPGK)及びPSFを入れ替えた。 許容細胞において図2Aの構築物により得られる力価を図2Bに示す;図2Cには、レトロウイルスベクターで形質導入されたSC1標的細胞における、レポーター遺伝子の平均蛍光強度(MFI)及び力価を示す。図2B及び図2Cにおいて、ベクター記号表示SINは5'−プロモーターを意味し;ベクター記号表示CMV、PGK及びSFは内部プロモーターを意味し、かつHIV、SV、2SV及びThrはUSEエレメントを意味する。図2B及び図2Cで示される結果により、最も高い力価及び最良の導入遺伝子発現は、人工的ステムループ配列を伴わない複製されたSV40 USEエレメント(2SV)で達成され得ることが実証され、さらにこのUSEエレメントは、レポーター遺伝子に対して試験された内部プロモーターとは独立して力価及び導入遺伝子発現を増強することが実証されている。 この実施例により、許容細胞における力価及び標的細胞における導入遺伝子の発現の両方が、3'−SIN−LTRの3'U3領域の欠失部位へのUSEエレメントの挿入により増強され得ることが示される。それぞれに関する最良の活性は、SV40から誘導可能な人工的複製USEエレメント(2SVと称す)で発見された。標的細胞における発現は、全てのベクターに対して同一の感染の多重度を用いた実験条件下で実施されたことに留意されたい。 3'−SIN−LTRの改変は、結果として、広範囲の許容細胞における高ウイルス力価の産生、すわなち、細胞タイプとは本質的に独立している高力価の産生をもたらすという利点を有する。 [実施例3:導入遺伝子発現を調節するプロモーター及びPREの影響] 好ましいUSEエレメント、すなわち2SVの効果が、ベクターに含まれる導入遺伝子の発現を調節する内部プロモーターにより影響されるかどうか、又はPREエレメントにより影響されるかどうかを調べるために、MPSVプロモーターを有するU3領域を含む通常の5'−LTRを有するが、3'U3領域の欠失の代わりにUSEエレメント2SVを含む3'−SIN−LTRを有するガンマレトロウイルスベクターの改変物を、レポーター遺伝子であるeGFPを調節する内部プロモーターの改変のために使用した。さらなる改変では、3'−SIN−LTRの上流にPREエレメントを配置した。このベクターを概略的に図3Aに示す。 図3Bにおいて、ベクター記号表示SINは、5'−プロモーターを意味し;ベクター記号表示CMV、PGK及びSFは内部プロモーターを意味する。2SV及びPREは、それぞれ、USEエレメント及びウッドチャック肝炎ウイルスの転写後調節エレメントを意味する。許容細胞で得られる力価及びレトロウイルスで形質導入されたSC1標的細胞で得られるMFIを図3Bに示す。図3Bには、ウイルス粒子の力価、及び導入遺伝子の発現の両方をUSEエレメントである2SVが増加させ、これはレポーター遺伝子を調節する内部プロモーターから本質的に独立しており、PREエレメントからも独立しているものであることが示されている。 [比較実施例1:レンチウイルスベクター] U3領域の欠失に代えて好ましいUSEエレメント(2SV)を含む3'−SIN−LTRがまた、HIV−1由来の従来技術のレンチウイルスベクターの力価及び発現を上昇させることができるかどうかを検証するために、その3'−SIN−LTRを本発明のエレメントと置き換えた。レポーター遺伝子(eGFP)を、内部プロモーターであるCMV、PGK、又はSFの調節下に置いた。これらの比較となるレンチウイルスベクターを図4Aに概略的に示す。 図4Bにおいて、ベクター記号表示は、全ての構築物に含まれる5'−プロモーターであるPRSVを表す。ベクター記号表示PPTは、同様に含まれるPPTエレメントを意味するのに対し、ベクター記号表示CMV、PGK及びSFは内部プロモーターを意味し、2SV及びRREは、それぞれ、USEエレメント及びRev応答エレメントを意味し、PREはWPREエレメントを意味する。Xは、レンチウイルスベクターをpUC19骨格(backbone)へとクローニングすることにより得られる3'LTRの下流に位置するプラスミド配列の改変を意味し、ここで、pUC19骨格は、その自身のポリアデニル化シグナルを欠いている。3'U3領域に配置されるUSEは、レンチウイルスの3'LTRのR領域に位置するポリアデニル化シグナルと良好に相互作用する。 許容細胞で得られる力価及びレトロウイルスで形質導入されたSC1標的細胞のMFI、すなわち導入遺伝子発現を図4Bに示す。図4Bで示されるこれらの結果から、力価及び導入遺伝子発現はともに、レンチウイルスベクターの3'−SIN−LTRの好ましいUSEエレメントである2SVの存在により増加されることが示される。これを達成するために、3'LTRの3'に位置するレンチウイルスベクタープラスミドのエレメントは、それがUSEエレメントの導入を妨げたことから、除去されなければならなかった。この結果はまた、USEエレメントがWPREとは独立して、効果的であることも示している。 [実施例4:本発明の改変5'−プロモーターと改変3'−SIN−LTRとの組み合わせ] U3領域の欠失の代わりに2SV USEエレメントを含む本発明の3'−SIN−LTRとの組み合わせによる、本発明の高い転写伸長速度のプロモーターを有する5'−プロモーターの相乗効果の可能性を検証するために、ガンマレトロウイルスベクターを、比較用と本発明用に構築した。 概略的に、そのベクターを図5に示す。ここで、SINは、比較目的で従来技術の骨髄増殖性肉腫ウイルス由来のプロモーターエレメント(PMPSV)を含む、5'U3領域のクローニング部位を表す。本発明のベクターでは、PMPSVをラウス肉腫ウイルスプロモーター(PRSV)に置き換えた。図5B及び図5Cにおいて、ベクター記号表示SIN及びSRSは、それぞれ、5'−プロモーターであるPMPSV及びPRSVを意味し、その一方で、SFは内部プロモーターとしてのPSFを意味する。PRE及び2SVは、それぞれ、PRE及びUSEエレメントの存在を意味する。 より詳細な機能分析のために、PREエレメントを、レポーター遺伝子発現カセット(eGFP遺伝子を調節するSF)と3'−SIN−LTRとの間に導入してよい。さらに、U3領域の欠失を有する3'−SIN−LTRを、本発明のUSEエレメントを備える3'−SIN−LTRに置き換えてよく、これは、従来のベクターで見られるU3領域の欠失の代わりに配置された好ましいUSEエレメントである2SVにより表される。 図5Aのベクターで得られた感染力価に関する結果を図5Bに示す。図5Bには、レトロウイルスで形質導入されたSC1標的細胞において、MFIとして測定された導入遺伝子発現も含まれる。図5Bに示されているとおり、力価及び発現レベルはともに、同時に存在する本発明の5'−プロモーター及び3'−SIN−LTRの両方により、本発明のそれぞれのエレメントから得られる値よりもより高い値で、それぞれ相乗的に増強される。 [実施例5:ノーザンブロット法及びデュアルレポーター遺伝子アッセイによる5'−プロモーター及び内部プロモーターの活性の決定] 5'−プロモーター調節下及び内部プロモーター調節下のそれぞれの転写活性速度を決定するためのガンマレトロウイルス構築物であって、プラスミドのガンマレトロウイルス領域のみを示した図6Aで表されるとおり、レポーター遺伝子配列を様々なガンマレトロウイルスベクターへと組み込んでおり、図6Aはすなわち、I)MPSVプロモーターを含む比較となる従来技術のガンマレトロウイルスベクター(SIN. Red)、II)その5'−LTRにRSVプロモーターを含む、SRS. Redと称す本発明のベクター、III)第一のレポーター遺伝子の3'側にポリアデニル化シグナル(pA)を含む、SRS. Red. pAと称す本発明のベクター、である。 これらのベクターにおいて、第一のレポーター遺伝子は、dsRed Express蛍光タンパク質に対するcDNAであって(Bevis et al., Nature Biotechnology 20, 83−87 (2002))、内部プロモーターのすぐ上流に配置されており、この内部プロモーターは、第二のレポーター遺伝子として働くeGFP(増強された緑色蛍光タンパク質)に対する遺伝子を調節する。 図6Aから図6Dにおいて、ベクター記号表示SIN及びSRSは、それぞれ、5'−プロモーターであるPMPSV及びPRSVを意味し、その一方、SFは内部プロモーターとしてのPSFを意味する。測定される全ての構築物で導入遺伝子に相当する第二のレポーター遺伝子は、ベクター記号表示中に示されていない。ベクター記号表示において、CMV及びSFは、それぞれ、内部プロモーターであるPCMV及びPSFを意味し、その一方、pAは、第一のレポーター遺伝子であるdsRed Expressへのポリアデニル化シグナルの存在を意味する。 区別可能な蛍光レポーター遺伝子、例えば、eGFP及びdsRed Expressなどを用いたデュアルレポーター遺伝子アッセイのために、2μgのトランスファーベクター、10μgのM57−DAW(MLV gag−polをコードする)、2μgのエコトロピックMLV envを、リン酸カルシウム法を用いてPhoenix−gp細胞へとトランスフェクトした。感染後三日目に、パッケージング細胞をFACSにより分析した。FL−1(eGFP)及びFL−2(dsRed Express)の補正(compensation)を、単色蛍光構築物(monofluorescent construct)を用いて実施した。 マーカーゲート(marker gate)をeGFPに対する平均蛍光強度にセットし、deRed Expressのポジティブ細胞をそれに従って計測した。 5'−プロモーター及び内部プロモーターのそれぞれから誘導されるそれぞれの翻訳活性を、トランスフェクトされたPhoenix−gp細胞で分析した。dsRed Expressの発現によりもたらされる緑色蛍光及びeGFPの発現によりもたらされる緑色蛍光の両方を測定するFACS分析から得られた結果を図6Bに示す。ここで、グラフ図は、示される構築物における緑色蛍光シグナルに対する赤色蛍光シグナルの割合を示す。 FACSの結果により、その5'−LTRに通常のMPSVプロモーターを有するSINベクターの緑色蛍光(第二のレポーター遺伝子発現)対赤色蛍光(第一のレポーター遺伝子発現)の割合(Xに対するYの平均蛍光強度指数として示されている)は、好ましくないことが示される(図6B、左側のパネル)。対照的に、増加した翻訳伸長効率を有するプロモーターの例であるRSVプロモーターを導入した本発明の改変5'−LTRは、この割合を約6倍増加させた。ドットプロット分析により、RSVプロモーターの効果が、発現レベルとはまさに独立していることが明らかとなった(図6B、右側のパネル)。 第一のレポーター遺伝子の下流にポリアデニル化シグナル(この場合、ウシ成長ホルモン由来のもの)を含むベクター構築物は、第二のレポーター遺伝子発現対第一のレポーター遺伝子発現の平均蛍光強度割合をさらに増加させ(図6B、中心のパネル)、これはまた、力価の大幅な減少に反映される(図6C)。 図6Bにおいて、中央のパネルの右側の円は、ポリアデニル化シグナルの挿入後に緑色蛍光を強める細胞に印をつけたものである。下方のドットプロットの右側に、この特定の実験のトランスフェクション効率を示す。 5'−プロモーターからの全長レトロウイルスRNAの合成は、高力価のウイルス粒子を得るために必須であるという仮説が裏付けられたことから(図6C)、5'−LTRに対して適したプロモーターエレメントを決定するため、かつガンマレトロウイルスベクター構築物に対して適した5'−プロモーターと内部プロモーターとの組み合わせを決定するためのデュアルレポーター遺伝子アッセイの適用性が支持される。 ノーザンブロット法のために、トータルRNAを準備し、当技術分野で公知のとおりにノーザンブロット分析を実施した。一般的に、トランスフェクトされた細胞から10μgのRNAを単離し、変性ホルムアルデヒドゲルで5時間、0.6V/cm2で分離した。それに続いて、RNAをメンブレン(0.45μm Biodyne−B, Pall Corporation, Pensacola, USA)へとキャピラリートランスファーにより移し、80℃で2時間加熱することにより固定した。ハイブリダイゼーションは、標準的な手順で行った。プローブに関しては、ベクター構築物中に存在するPREフラグメントに対応する100ngのプローブを、ハイブリダイゼーション溶液1mL当たり少なくとも106cpmの活性に放射性同位体標識し、スピンカラムで標識されなかったヌクレオチドを分離した。ハイブリダイゼーション後、フィルターを洗浄し、X線フィルムに暴露して、ホスフォイメージングにより定量化する。 図6Dに示されるノーザンブロット分析は、デュアルレポーター遺伝子アッセイを支持し、ここで、全長ウイルスRNAの転写、すなわち、5'−プロモーターの調節下における転写の最も高い相対的(及び絶対的)レベルが、本発明のガンマレトロウイルス構築物、すなわち、SRS 11. Red. CMV及びSRS 11. Red. SFで見られた。この実験で得られる力価の測定値を図6Cに示す。これは、本発明のガンマレトロウイルス構築物において最も高い力価を示している。 図6Cと図6Dの間の記号表示は、ベクター構築物を特定するためにこれらの図の両方に適用される。 さらに、これらの結果から、第一のレポーター遺伝子発現カセットを含まないという点でのみ異なる同様のガンマレトロウイルス構築物に対して、第一のレポーター遺伝子を挿入することにより、5'−LTRにRSVプロモーターを有する本発明の構築物から得られる力価がさらに増加されることが示される。この力価の増加は、現在、スペーサー効果として解明されており、これはすなわち、発現カセットの転写を促進する、5'−LTRと内部プロモーターとの間のヌクレオチド数を増加させることによりレトロウイルス粒子の力価を増加させるものである。 [実施例6:初代造血細胞へのレトロウイルスの形質導入] 本発明のガンマレトロウイルスベクターを用いた形質導入によって遺伝子組み換えされる標的細胞の例として、比較目的での5'−プロモーターとしてMPSVプロモーター(PMPSV)を含むガンマレトロウイルスベクター(ベクターではSINと示す)と、本発明の5'−プロモーターとしてRSVプロモーター(PRSV)を含むガンマレトロウイルスベクター(ベクターではSRSと示す)とを用いて、マウス初代造血細胞に形質導入した。ウイルス配列エレメントを概略的に図7Aに示す。ここで、PSFは、導入遺伝子発現を促進する内部プロモーターとして働く、脾臓フォーカス形成ウイルスプロモーターを表す。 さらに、ウッドチャック肝炎ウイルス由来のPREエレメントの上流に配置されるMGMT遺伝子及びeGFP遺伝子のそれぞれと機能的に結びつけられた、脾臓フォーカス形成プロモーターを含む導入遺伝子発現カセットを、パッケージング細胞で得られるウイルス粒子力価について比較し、形質導入された標的細胞における導入遺伝子発現についても比較した。 図7B及び図7Cにおいて、ベクター記号表示SIN及びSRSは、それぞれ、5'−プロモーターであるPMPSV及びPRSVを意味し、その一方で、SFは内部プロモーターとしてのPSFを意味する。レポーター遺伝子であるeGFP及びMGMTは、導入遺伝子として含まれる構造遺伝子を意味する。 レトロウイルスベクター構築物を発現しているSC1パッケージング細胞において、ウイルス力価を測定した。SIN. SFと称す通常のベクターで得られる力価に対して(得られる力価を1とする、5'−プロモーターがPMPSVであって内部プロモーターがPSFである)、得られる力価を図7Bに示す。図7Bでは、本発明のベクター構築物で得られる力価の強力な増加が実証され、これは導入遺伝子とは本質的に独立していた。 図7Aのベクターで形質導入し、その4日後の、形質導入されたマウス初代造血細胞における導入遺伝子発現の結果を図7Cに示す。形質導入のために、SRS. SF. eGFP上清に対しては、MOI=5を用い(パネル上部)、系統デプリーション(lineage−depleted)骨髄細胞におけるSRS. SF. eGFP形質導入に対しては、MOI=2を用いた(パネル下部)。 [実施例7:テトラサイクリン誘導プロモーターを用いることによるベクター力価の増加] 実施例1で用いたラウス肉腫ウイルスから得られるプロモーター(PRSV)に代わるプロモーターとして、テトラサイクリン誘導プロモーターを、5'−LTRのU3領域に導入した。両方のベクター構築物を、図9Aに概略的に示す。図9Aには、I(PSFを用いた図1のSRS構築物に対応する)としてPRSV(RSV)及びPtet(TRE)を用いた構築物を示す。レポーター遺伝子としてeGFPを、その自身のSFプロモーターの下流であって、WPREの上流に配置した。 全長ベクターRNAの合成を促進するための、5'−LTRへ導入されるテトラサイクリン誘導プロモーターをクローニングするために、プロモーターフラグメントを、プライマー5'Tet11af1(配列番号4:5'−GCTACTTAAGCTTCTTTCACTTTTCTCTGTCA−3')及び3'Rkpn(配列番号5:5'−GAGAACACGGGTACCCGGGC−3')を用いたPCRによりプラスミドptES1−1(g)p(Dr. Rainer Low, EUFETS AG, Idar−Oberstein, Germanyから入手可能)からクローニングした。テトラサイクリン誘導プロモーターは、4C特異性を有するtetオペレーター六量体からなり、モロニー白血病ウイルス(MMLV)最小プロモーターと融合している。315bpの得られたPCRフラグメントを、pSRS11. SF構築物の5'−LTRのAflII及びKpnI部位へとクローニングし、これをI下(under I)の図9Aに示す。全てのPCRフラグメントをDNAシークエンシングにより確認した。 テトラサイクリン誘導ベクターのベクター調製のために、5μgの発現プラスミドを、4C DNA結合特異性を有する標準の(authentic)転写活性因子とともに、許容細胞としての5×106のPhoenix−gp又は293 T細胞へと共トランスフェクションした。 力価を図9Bに示す。図9Bでは、転写活性因子プラスミド(TA、5μg)でトランスフェクションが実施される場合には、上清1mL当たり約2×107形質導入ユニットのウイルス粒子力価が許容細胞で得られるが、その一方で、転写活性因子(TA)を用いずにトランスフェクションが実施された場合には、力価の顕著な低下が見られた。ラウス肉腫ウイルスプロモーター(SERS11. SF)を含む構築物では、さらに高い力価がもたらされた。 図9Cに、パッケージング細胞系(Phoenix−gp)の対応するノーザンブロット分析を示す。興味深いことに、内部の転写物量(「internal」で表される)もまた、構築物を含むテトラサイクリンプロモーターに対して増加され、これは5'末端と内部プロモーターの相互作用として解釈され得る。しかし、RSVプロモーター及びSV40エンハンサーを含む構築物は、より高い濃度のゲノムRNAをさらに産生したが(図9C、レーン4)、このRNA濃度の増加は、より高い力価をもたらさなかった。現在、飽和プラスミド量を用いた実験から推論されるとおり、制限因子がGag/Pol又はEnvの利用可能な供給源であると推測される。 要約すれば、本結果により、テトラサイクリン誘導プロモーターが、高力価のガンマレトロウイルスSINベクターの産生に有用であることが示される。 [実施例8:USE−改変3'−SIN−LTR4による転写読み過ごしの防止] 3'−SIN−LTRに位置するポリアデニル化及び終結モチーフを越えた、レトロウイルスプロモーターから標的細胞ゲノムの下流遺伝子への、起こりうる転写読み過ごしをモニターするために、レポータープラスミドを作製した。このレポータープラスミドは、レトロウイルスベクター構成エレメントに加えて、以下の発現カセットを含む:3'−LTRの下流に脳心筋炎ウイルス由来の内部リボソーム侵入部位(IRES)、その下流に蛍光マーカー遺伝子(deRed)及びSV40由来のポリアデニル化(pA)モチーフ。たとえ別のオープンリーディングフレームが、3'−SIN−LTRを超える読み過ごしによって産生され得る、起こり得る融合転写物の上流に位置するとしても、IRESにより、deRed mRNAの翻訳が確実なものとなる。SV40由来のUSEエレメント(SV)、又はその複製形態(2SV、図10では2×SVと示す)を、3'−LTRのΔU3領域へ導入した。いくつかの構築物において、WPRE配列を、USEとともに、又はUSEを伴わずに、ΔU3領域の上流に導入した。本発明のレトロウイルス構築物、及びそれに続いて、自身のIRES配列を有する下流のレポーター遺伝子を概略的に図10Aに示す。 293 T細胞を、等量のレポータープラスミドでトランスフェクションし、その2日後に、細胞をフローサイトメトリーにより分析した。 トランスフェクション効率を、レトロウイルスベクターの内部CMVプロモーターの調節下で発現するインターロイキン−2受容体ガンマ鎖(IL−2)に対するモノクローナル抗体(anti−CD132−APC)を用いて測定した。 図10Bにおいて、ドットプロットは、CD132−APCラベリングにより測定されたとおりの、X軸上のトランスフェクション効率に対するY軸上のdeRedタンパク質(DsRed)の蛍光として描かれる。 これらの結果により、USE加えることなくトランスフェクトされた細胞の約10%が、転写の読み過ごしを意味するdeRedを発現する(下部右欄の39%と比較して上部右欄では4%)ことが実証される。SV又は2SV−USEを加えると、deRed発現の効果的な阻害が十分となる。 しかし、WPRE(+pre)単独では、転写の読み過ごしを抑制しないが(全体の2%で、23%のトランスフェクトされた細胞の8.6%)、WPREは、その終結エンハンサー機能を弱めることなく2SVと結合可能である。これらの結果は、トータルの細胞RNAのノーザンブロット分析により裏づけられた(データは示していない)。図1Aには、ガンマレトロウイルス構築物の構成を概略的に示す。図1Bには、図1Aの構築物を用いたパッケージング細胞で得られる感染力価を示す。図1Cには、図1Aの構築物を用いたパッケージング細胞でのノーザンブロット分析を示す。図2Aには、3'の改変の影響を評価するために使用されるガンマレトロウイルスベクターを概略的に示す。図2Bには、図2Aのベクター構築物で得られる感染力価を示す。図2Cには、図2Aのベクター構築物で得られる力価、及びレポーター遺伝子産物であるeGFPを発現している形質導入された標的細胞の平均蛍光強度(MFI)を示す。図3Aには、比較のために、様々な内部プロモーターを用いたガンマレトロウイルスSINベクターを概略的に示す。図3Bには、ベクター力価及び図3Aのベクターで形質導入された標的細胞のMFIを示す。図4Aには、比較のために、本発明の5'−プロモーター及び本発明の3'−SIN−LTRを含むレンチウイルスベクター構築物を概略的に示す。図4Bには、力価及び図4Aの比較ベクターで得られるMFIを示す。図5Aには、5'及び3'−LTRの両方を改変した、本発明のガンマレトロウイルスベクターを概略的に示す。図5Bには、図5Aの構築物から得られうる感染力価及び図5Aのベクターで形質導入されたSC1細胞(マウス線維芽細胞)のMFIをそれぞれ示す。図6Aには、デュアルレポーター遺伝子アッセイのための、比較(I)のためのガンマレトロウイルスベクター及び本発明(II、III)のガンマレトロウイルスベクターを示す。図6Bには、デュアルレポーター遺伝子アッセイにおける、図6Aの構築物由来のレポーター遺伝子の相対的発現のFACS結果を示す。図6Cには、図6Aの構築物から得られる力価を示す。図6Dには、図6Aの構築物でトランスフェクトされたパッケージング細胞のノーザンブロット分析を示す。図7Aには、比較のためのガンマレトロウイルスベクター(SIN)及び本発明のガンマレトロウイルスベクター(SRS)を概略的に示す。図7Bには、図7Aのベクターで得られる相対力価を示す。図7Cには、図7Aのウイルス構築物を含むウイルス粒子で形質導入された標的細胞のFACS結果を示す。図8には、配列番号1を有するベクターの概略図を示す。図9Aには、テトラサイクリン誘導プロモーターを含む、本発明のガンマレトロウイルスベクターを概略的に示す。図9Bには、図9Aのベクターで得られる相対力価を示す。図9Cには、図9Aのベクターを含むパッケージング細胞のノーザンブロット結果を示す。図10Aには、レポーター遺伝子としてIRES−DsRedカセットで表される、レトロウイルス配列から標的細胞の下流遺伝子への転写の読み過ごしをモニターするのに適したベクターを概略的に示す。図10Bには、図10Aの構築物でトランスフェクトされた細胞における、トランスフェクション効率(X軸)に対するレポーター遺伝子蛍光(Y軸)のグラフを示す。図11には、本発明の核酸構築物を含むベクタープラスミドの概略図を示す。 3'−SIN−LTRのU3領域又はU3領域の欠失が、ポリアデニル化エンハンサーエレメントで置換されていることを特徴とする、5'−LTR及び3'−SIN−LTRを有するレトロウイルスベクター。 前記ポリアデニル化エンハンサーエレメントが、シミアンウイルス40から誘導可能である(SV)ことを特徴とする、請求項1記載のベクター。 前記ポリアデニル化エンハンサーエレメントが、シミアンウイルス40から得られるポリアデニル化エンハンサーエレメントの人工的に作製された直接反復により形成される(2SV)ことを特徴とする、請求項1又は2記載のレトロウイルスベクター。 5'−LTRのU3領域が、高い転写伸長速度を有するプロモーターエレメントを含んでいることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項記載のレトロウイルスベクター。 前記の高い転写伸長速度を有するプロモーターエレメントが、ラウス肉腫ウイルスから得られるプロモーター(PRSV)、又はテトラサイクリン誘導プロモーターであることを特徴とする、請求項4記載のレトロウイルスベクター。 前記の高い転写伸長速度を有するプロモーターエレメントが、プロモーターエンハンサーエレメント(enh)を5'側上流に有することを特徴とする、請求項4又は5記載のレトロウイルスベクター。 前記プロモーターエンハンサーエレメントが、シミアンウイルス40から誘導可能であることを特徴とする、請求項4乃至6のいずれか一項記載のレトロウイルスベクター。 前記ベクターが、ガンマレトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクターであることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項記載のレトロウイルスベクター。 前記の高い転写伸長速度を有するプロモーターエレメントが、配列番号1の−203〜−1番目のヌクレオチドにより定義される配列に相当するか又はハイブリダイズし、かつ前記ポリアデニル化エンハンサーエレメントが、配列番号1の2612〜2655番目のヌクレオチド又は配列番号1の2612〜2705番目のヌクレオチドにより定義される配列に相当するか又はハイブリダイズすることを特徴とする、請求項4乃至8のいずれか一項記載のレトロウイルスベクター。 前記の高い転写伸長速度を有するプロモーターエレメントが、配列番号2の447〜762番目のヌクレオチドにより定義される配列に相当するか又はハイブリダイズすることを特徴とする、請求項4乃至9のいずれか一項記載のレトロウイルスベクター。 5'−SIN−LTRが、配列番号1の447〜830番目のヌクレオチドにより定義される配列に相当するか又はハイブリダイズし、かつ3'−SIN−LTRが、配列番号1の2578〜2872番目のヌクレオチドにより定義される配列に相当するか又はハイブリダイズすることを特徴とする、請求項4乃至10のいずれか一項記載のレトロウイルスベクター。 ハイブリダイゼーションが、非ストリンジェント条件下、又はストリンジェント条件下にある、請求項9乃至11のいずれか一項記載のレトロウイルスベクター。 請求項1乃至12のいずれか一項記載のベクターを含むことを特徴とする、ウイルス粒子。 遺伝子治療用の医薬組成物を製造するための、請求項13記載のウイルス粒子の使用。 in vivo又はin vitroで、哺乳動物細胞、好ましくは造血幹細胞又はリンパ球に形質導入するために、遺伝子治療が用いられることを特徴とする、請求項14記載の使用。 【課題】本発明は、レトロウイルスベクター、特に自己不活性化(SIN)ガンマレトロウイルス又はレンチウイルスベクターに関し、これは、高力価のウイルス粒子を産生するのに適しており、哺乳動物細胞、器官、又は生物体への効率的な遺伝子導入のために、例えば遺伝子治療のために使用され得る。【解決手段】より詳細には、本発明は、レトロウイルスベクター中に含まれることに適した、ベクタープラスミドの5'−LTRのU3領域における改変5'−プロモーターエレメント、及びベクタープラスミドの3'−LTRのU3領域における改変3'−SINエレメントを提供する。改変5'−プロモーターエレメントと改変3'−SINエレメントは、互いに組み合わされてレトロウイルスベクターに含まれることが好ましく、この両方のエレメントの特定の利点とは、ウイルス粒子の力価をともに増加させ、かつ受容細胞における導入遺伝子の発現を増加させることであり、ここで、導入遺伝子は、本発明の改変LTRの間に配置されている。【選択図】なし配列表